説明

電力用直流同軸ケーブルの接続部

【課題】接続部帰路内部半導電層と帰路補強絶縁層の界面に空隙が生じるおそれのない、帰路絶縁性能が良好な電力用直流同軸ケーブルの接続部を提供する。
【解決手段】ケーブル主導体1、1の接続部21の外側に、ケーブル主絶縁層3、3間に跨る当該ケーブル主絶縁層より外径が大きい主補強絶縁層23を有し、その外側に、ケーブル主外部半導電層4、4間に跨る接続部主外部半導電層24と、ケーブルの帰路導体素線5a、5aの接続部25を含む接続部帰路導体層と、ケーブル帰路内部半導電層6,6間に跨る接続部帰路内部半導電層26とを有する電力用直流同軸ケーブルの接続部において、前記接続部帰路内部半導電層26の内側の、帰路導体素線5aの間に形成される空隙に充填材32を充填した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中心の主導体と同軸状に帰路導体を有する電力用直流同軸ケーブル同士の接続部に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電力用直流同軸ケーブルは一般に図4に示すような構造となっている。すなわち、中心に主導体1を有し、その外側に主内部半導電層2、主絶縁層3、主外部半導電層4を介して帰路導体(中性線導体、外部導体ともいう)5を設け、その外側に帰路内部半導電層6、帰路絶縁層7、帰路外部半導電層8を介して鉛被9を設け、その外側にポリエチレン等からなる防食層10を設けた構造となっている(特許文献1参照)。なお、電力用直流同軸ケーブルを海底ケーブルとして使用する場合には、防食層10の外側に、さらに座床、鉄線鎧装、サービング層が設けられる。
【0003】
帰路導体5は、多数の帰路導体素線5a(通常は銅線)を一方向撚り又はSZ撚りすることにより形成される。主絶縁層3は架橋ポリエチレンにより形成され、帰路絶縁層7は非架橋のポリエチレンにより形成される。主内部半導電層2及び主外部半導電層4は通常、主絶縁層3との同時押出等により形成され、帰路内部半導電層6及び帰路外部半導電層8は半導電性テープ巻き等により形成される。
【0004】
図5に従来の電力用直流同軸ケーブル接続部を示す(特許文献2、3参照)。接続すべき直流同軸ケーブル20A、20Bは、図4のような構造であるので、図4と同一部分には同一符号を付してある。両ケーブル20A、20Bの端部は主導体1及び帰路導体素線5aが露出するように段剥ぎされている。両ケーブル20A、20Bの主導体1、1は突き合わせ溶接(又は圧縮接続スリーブ)により接続されている。21は溶接による主導体接続部である。両ケーブルの主内部半導電層と、それらの端部に跨るように形成される接続部主内部半導電層は図示を省略してある。また、23は両ケーブルの主絶縁層3、3の端部に跨るように形成された主補強絶縁層、24は両ケーブルの主外部半導電層4、4の端部に跨るように形成された接続部主外部半導電層である。
【0005】
主補強絶縁層23は図示のようにケーブルの主絶縁層3よりも厚く形成され、外径が大きくなる。これに伴い接続部主外部半導電層24もケーブルの主外部半導電層4より外径が大きくなる。31は主補強絶縁層23の両端側(片端側でも可)の接続部主外部半導電層24上に設けられた緩衝層である。緩衝層31の外径は、接続部主外部半導電層24の外径増大部の外径とほぼ同じである。両ケーブルの帰路導体素線5aは、この緩衝層31上で、突き合わせ溶接により接続されている。25は帰路導体素線5aの溶接接続部である。緩衝層31は、帰路導体素線5aを溶接接続する際の外傷防止及び熱的損傷防止のために設けられる。
【0006】
また、26は両ケーブルの帰路内部半導電層6、6の端部に跨るように形成された接続部帰路内部半導電層、27は両ケーブルの帰路絶縁層7、7の端部に跨るように形成された帰路補強絶縁層である。なお、両ケーブルの帰路外部半導電層間に跨る接続部帰路外部半導電層、鉛被9、9間に跨る鉛管、防食層10、10間に跨る防食スリーブは図示を省略してある。
【0007】
なお、特許文献4には、導体、内部半導電層、絶縁層及び外部半導電層からなるケーブルコア上にしゃへい用軟銅線を間隔をあけてスパイラル状に巻きつけ、該スパイラル軟銅線を埋めるように半導電性プラスチック層を設けた架橋ポリエチレン絶縁電力ケーブルが記載されている。
【0008】
【特許文献1】特開平11−120836号公報
【特許文献2】特開2007−325440号公報
【特許文献3】特開2007−325441号公報
【特許文献4】実開昭59−90117号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
主補強絶縁層23は、ケーブル主絶縁層3より外径が大きくなるため、その外側に一方向撚り又はSZ撚りで巻き付けられて溶接接続される帰路導体素線5aは、図5(B)に示すように素線間隔が広がることになる。
【0010】
また、帰路導体素線を接続する場合には、1本ずつ突き合わせ溶接してもよいが、帰路導体素線を複数本ずつの素線束にして、素線束同士を突き合わせ溶接した方が溶接回数を少なくできる(特許文献2)。図5(B)は帰路導体素線5aを2本ずつの素線束にした場合を示す。しかし、素線束同士を溶接接続すると、1本ずつ溶接した場合よりも素線間隔(素線束間の間隔)が広がることになる。
【0011】
また、帰路導体素線の本数が異なる直流同軸ケーブルを接続する場合には、帰路導体素線の本数が少ないケーブル側で、帰路導体素線の間隔又は素線束の間隔が顕著に広がることになる。
【0012】
このように、接続部における帰路導体素線の間隔又は素線束の間隔が広がると、図5(B)に示すように、その上に形成される接続部帰路内部半導電層26(半導電性テープ巻き層)が帰路導体素線5aの間の空隙S1に落ち込みやすくなる。そうすると、接続部帰路内部半導電層26とその上に形成される帰路補強絶縁層27との界面に空隙S2が生じやすくなり、空隙S2が発生すると、そこに電界が集中して放電が発生しやすくなるため、帰路絶縁性能を低下させるおそれがある。
【0013】
また、直流同軸ケーブルの高電圧化と大容量化(送電容量の増大)に伴い、帰路電流量が増大するため、帰路導体断面積を大きくする必要があるが、そのために帰路導体素線を太くすると、帰路導体外周面の凹凸が大きくなる。そうすると、帰路導体外周面の凹凸にも接続部帰路内部半導電層がさらに落ち込みやすくなり、接続部帰路内部半導電層の落ち込みが発生すると、接続部帰路内部半導電層と帰路補強絶縁層の界面により大きな空隙が生じ、その空隙に電界が集中して放電が発生しやすくなるため、帰路絶縁性能をより低下させるおそれがある。
【0014】
また、直流同軸ケーブルの接続部においては、図6に示すように、ケーブル帰路絶縁層7の端部は、その上に形成される帰路補強絶縁層27との界面距離を長くすると共に、界面の密着性を良好に保つために、テーパー状に削る処理(ペンシリング処理)がなされている。帰路補強絶縁層27を絶縁テープ巻きにより形成するTJ方式(自己融着性のあるEPRテープ等の絶縁ゴムテープが使われる場合が多い)では、ケーブル帰路絶縁層7と帰路補強絶縁層27とが融着しているわけではなく、ケーブル帰路絶縁層7のテーパー処理部は、先端に行くほど厚さが薄くなり、機械的強度が弱くなっている。このため、高温の状態でケーブルの各構成部材の熱膨張・収縮が起こると、剛性の大きい帰路導体素線5aに対して、剛性の小さい帰路絶縁層7のテーパー処理部の先端部は、帰路導体素線5a間の空隙S3への落ち込みが生じる。その結果、ケーブル帰路絶縁層7のテーパー処理部の先端部は、図6(B)のように、帰路導体素線5aのケーブル周方向への配列によって生じる凹凸に沿って波打つ現象が発生する。このようなケーブル帰路絶縁層7のテーパー処理部先端部の波打ち現象は、帰路導体素線5aが太くなるほど、また帰路導体素線5a間の空隙が大きくなるほど顕著に現れ、その上に形成された帰路補強絶縁層27との界面に剥離S4を生じさせ、帰路絶縁性能を低下させるおそれがある。
【0015】
また、直流同軸ケーブルの接続部での帰路補強絶縁層27の形成方法として、上記のTJ方式の他に、絶縁テープを巻き上げた後に加熱モールドするTMJ方式があるが、この方式の場合もケーブル帰路絶縁層の端部はテーパー処理が施され、その上に絶縁テープ巻き層を設けた状態で加熱モールドがなされる。TJ方式と異なる点は、ケーブル帰路絶縁層と帰路補強絶縁層とが加熱モールドにより熱融着され、一体化されるため、ケーブル帰路絶縁層のテーパー処理部先端部は熱膨張・収縮に対する機械的弱点とはならないことである。しかし、加熱モールド中にはケーブル帰路絶縁層のテーパー処理部先端部は機械的な弱点部となり、帰路導体素線5aのケーブル周方向への配列によって生じる凹凸に沿って波打つ現象が発生し、TJ方式と同様に帰路絶縁性能を低下させるおそれがある。
【0016】
なお、特許文献4には、間隔をあけてスパイラル状に巻きつけた軟銅線を半導電性プラスチック層中に埋めることが開示されているが、この半導電性プラスチック層は軟銅線の偏位を防止するためのものであり、上記のような接続部帰路内部半導電層の落ち込みの問題とは無関係である。
【0017】
以上のような問題点に鑑み、本発明の第一の目的は、接続部帰路内部半導電層と帰路補強絶縁層の界面に空隙が生じるおそれのない、帰路絶縁性能が良好な電力用直流同軸ケーブルの接続部を提供することにある。
【0018】
その上で本発明の第二の目的は、ケーブル帰路絶縁層のテーパー処理部先端部と帰路補強絶縁層との界面に剥離が生じるおそれのない、帰路絶縁性能が良好な電力用直流同軸ケーブルの接続部を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記第一の目的を達成するため本発明は、ケーブル主導体接続部の外側に、ケーブル主絶縁層間に跨る当該ケーブル主絶縁層より外径が大きい主補強絶縁層を有し、その外側に、ケーブル主外部半導電層間に跨る接続部主外部半導電層と、ケーブルの帰路導体素線の接続部を含む接続部帰路導体と、ケーブル帰路内部半導電層間に跨る接続部帰路内部半導電層とを有する電力用直流同軸ケーブルの接続部において、前記接続部帰路内部半導電層の内側の、帰路導体素線間に形成される空隙に充填材を充填したことを特徴とするものである。
【0020】
また、上記第二の目的を達成するため本発明は、上記の電力用直流同軸ケーブルの接続部において、ケーブル帰路絶縁層のテーパー処理部先端部の内側の、ケーブル主外部半導電層とケーブル帰路内部半導電層の間の帰路導体素線間に存在する空隙にも充填材を充填したことを特徴とするものである。
【0021】
本発明において、ケーブル帰路絶縁層のテーパー処理部先端部の内側に充填される充填材は、ケーブル帰路絶縁層のテーパー処理部の先端から少なくともケーブル帰路絶縁層の厚さが3mmとなるまでの範囲に充填されることが好ましい。
【0022】
また、本発明に使用する充填材は、ゴムのような弾性を有しているもの(例えばシリコーンゴム)であることが好ましい。
【0023】
また、本発明に使用する充填材は、導電性又は半導電性を有しているもの(例えば導電性コンパウンド又は半導電性コンパウンド等)であることが好ましい。
【0024】
また、本発明に使用する充填材は、ケーブル接続作業時及びケーブル使用時の温度範囲で流動性のないクリーム状(例えばシリコーングリース等)であることが好ましい。
【0025】
また、本発明に使用する充填材は、前記接続部帰路内部半導電層の内側の、帰路導体素線間にできる空隙の熱抵抗よりも熱抵抗が小さい材料からなるものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、接続部主外部半導電層と接続部帰路内部半導電層の間の、帰路導体素線間に形成される空隙に充填材を充填したので、帰路導体素線間の空隙に接続部帰路内部半導電層が落ち込むおそれがなくなる。このため、接続部帰路内部半導電層と帰路補強絶縁層の界面に空隙が生じなくなるので、ケーブル接続部での良好な帰路絶縁性能を得ることができる。
【0027】
また、ケーブル帰路絶縁層のテーパー処理部先端部の内側の、ケーブル主外部半導電層とケーブル帰路内部半導電層の間の、帰路導体素線間に形成される空隙にも充填材を充填すれば、当該空隙にケーブル帰路内部半導電層が落ち込むおそれがなくなるので、ケーブル帰路絶縁層のテーパー処理部先端部の波打ち現象を抑制できる。このため、ケーブル帰路絶縁層のテーパー処理部先端部で、ケーブル帰路絶縁層と帰路補強絶縁層の剥離が発生するおそれがなくなり、さらに良好な帰路絶縁性能を得ることができる。
【0028】
また、充填材として、ゴムのような弾性を有する材料を使用すると、曲げやケーブルコアの熱膨張・収縮に対する機械的特性の低下を防止することができる。
【0029】
また、充填材として、導電性又は半導電性を有する材料を使用すると、接続部に位置する帰路導体は全周にわたって導電性又は半導電性材料で覆われるため、電界遮蔽効果を高めることができる。さらに、導電性の充填材は電流路となるため、帰路導体素線毎の電流分布が均一化されると共に、接続部での帰路電流路の電気抵抗が低下するので、帰路電流による発熱を抑制でき、温度上昇を抑えることができる。
【0030】
また、充填材として、接続部の帰路導体素線間に形成される空隙よりも熱抵抗の小さい材料を使用すれば、帰路導体素線間の熱抵抗を低減することができ、接続部の温度上昇を抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
<実施形態1> 図1は本発明に係る電力用直流同軸ケーブル接続部の一実施形態を示す。図1において、先に説明した図5と同一部分には、同一符号を付してある。この実施形態は、主導体1が断面積1000mm、帰路導体5が総断面積660mm(帰路導体素線φ5.0mm×38本一方向撚り)の、同一構造の直流同軸ケーブル20A、20Bを接続する場合である。
【0032】
両ケーブルの主導体1、1は突き合わせ溶接で接続され(21が溶接接続部)、主絶縁層3、3は絶縁テープ巻き後に加熱モールド処理で形成された主補強絶縁層23で接続され、その上にケーブル主外部半導電層4、4に跨るように接続部主外部半導電層24が設けられている。接続部主外部半導電層24は、主補強絶縁層23と同時に形成された半導電層と、その上に設けられた半導電性クッションテープ巻き層とから構成されている。さらに、帰路導体素線5aの溶接領域を含む範囲に、帰路導体素線接続作業時の外傷防止及び熱的損傷防止のために緩衝層31が半導電性クッションテープ巻きにて設けられている。
【0033】
両ケーブル20A、20Bの帰路導体素線5aは、前記緩衝層31上で帰路導体素線束毎に突き合わせ溶接されている。例えば、両ケーブルの帰路導体素線束の組合せを3本束12組、2本束1組とした場合、帰路導体素線束の溶接接続部25は合計13箇所で済むことになる。
【0034】
帰路導体素線5a、5aを接続した後、接続部の帰路導体5上に接続部帰路内部半導電層26を設ける前に、接続部帰路内部半導電層26を設ける領域における帰路導体素線5a、5a間の空隙(素線束間の空隙を含む)に、充填材32として一液型の常温硬化性シリコーンゴムを充填する。充填に際しては、帰路導体5上に充填材32を盛り付けて、ヘラ等を用いて空隙をしっかりと埋めていくと共に、半導電性テープ巻きにより接続部帰路内部半導電層26を形成した時に当該接続部帰路内部半導電層26の内側の帰路導体素線5a、5a間の空隙が充填材32で満たされる適度な量の充填材32を盛り付け、ヘラ等を用いて整形、調整する。その後、半導電性テープを巻くことにより接続部帰路内部半導電層26を形成し、その接続部帰路内部半導電層26の内側の帰路導体素線5a間の空隙を充填材32で満たす。
【0035】
充填材32を接続部の帰路導体素線5a間全体に充填し、この充填材32の表面を、帰路導体素線5aを含めて全体が凹凸の少ない円周面を形成するように均し、その後、充填材32が硬化してから半導電性テープを巻いて接続部帰路内部半導電層26を形成することができるが、充填材32が硬化する前に半導電性テープを巻いて接続部帰路内部半導電層26を形成することもできる。充填材32が硬化する前に半導電性テープを巻く場合は、例えば、帰路導体素線5aが露出している部分の一方の側から、充填材を帰路導体素線間に押し込みつつ順次半導電性テープを一層重ね巻きしていくと、充填材32の表面を均す作業を簡素化できるので、接続作業の効率化を図ることができる。
【0036】
上記の例では、帰路導体素線間の空隙に充填材32として絶縁性のシリコーンゴムを充填したが、シリコーングリース等を充填してもよい。また、導電性又は半導電性のシリコーンゴム(例えばシリコーンゴムに導電性のカーボンブラックや金属酸化物系粉末、金属粉末を配合した導電性又は半導電性シリコーンゴムが市販されている)を充填すれば、帰路導体5と接続部帰路内部半導電層26との良好な電気的接触を得ることができる。さらにこの場合は、直流同軸ケーブル接続部に位置する帰路導体の電界遮蔽効果を高めることもできる。
【0037】
接続部帰路内部半導電層26を形成した後、その外側に帰路補強絶縁層27を形成する。この実施形態では、帰路補強絶縁層27は次のようにして形成した。すなわち、直流同軸ケーブル20A又は20Bの外側に予め挿通しておいた内部半導電層付き熱収縮絶縁チューブ27aを、接続部帰路内部半導電層26上に引き戻して熱収縮させたあと、チューブ27aのケーブル側端部と、鉛筆削り状にテーパー処理されているケーブル帰路絶縁層7端部との間のV字状凹部及びチューブ27a、27a同士の間のV字状凹部を埋めるようにテープ巻きモールドすることにより、帰路補強絶縁層27を形成した。33は内部半導電層付き熱収縮絶縁チューブ27aの内部半導電層、34は前記V字状凹部を埋めるテープ巻きモールド部である。
【0038】
このようにして帰路補強絶縁層27を形成する場合、直流同軸ケーブル20A、20Bの帰路導体素線径は双方とも5mmと太いため、帰路導体5の外周面の凹凸が大きく、かつケーブル接続部での帰路導体素線間隔及び帰路導体素線束溶接部25近傍での素線束間の間隔が広がるため、帰路導体上に設けられる接続部帰路内部半導電層の落ち込みしろが大きく、接続部帰路内部半導電層26の上に設けられるチューブ27a端部とケーブル帰路絶縁層7との間及びチューブ27a、27aの端部間を接続するテープ巻きモールド部34を形成する加熱モールド時に接続部帰路内部半導電層26の落ち込みが発生するおそれがあるが、前記のように接続部帰路内部半導電層26の内側の帰路導体素線5a間の空隙に充填材32が充填されているため、接続部帰路内部半導電層26の落ち込みが発生することなく、安定かつ信頼性のあるテープ巻きモールド部34を形成することができる。
【0039】
なお、接続部帰路内部半導電層26の内側の空隙に充填する充填材32として、空隙の熱抵抗よりも小さい熱抵抗を有する充填材を使用することにより、直流同軸ケーブルの接続部における温度上昇を低下させることができる。この実施形態で使用したシリコーンゴムなどの充填材の多くは、空気よりも熱抵抗が小さいため、副次的に熱抵抗を低減させる効果があるが、より小さい熱抵抗の充填材を選択することにより、温度上昇の低減効果を高めることができる。
【0040】
<実施形態2> 図2は本発明に係る電力用直流同軸ケーブル接続部の他の実施形態を示す。図2において、先に説明した図5と同一部分には、同一符号を付してある。この実施形態は、主導体1の断面積が1000mm、帰路導体5の総断面積が660mm(帰路導体素線φ5.0mm×38本一方向撚り)の直流同軸ケーブル20Aと、主導体1の断面積が1600mm、帰路導体5の総断面積が865mm(帰路導体素線φ5.0mm×47本一方向撚り)の直流同軸ケーブル20Bを接続する場合である。
両ケーブルの主導体1、1は異径導体接続用スリーブ35を用いて圧縮接続され、主絶縁層3、3は絶縁テープ巻き後に加熱モールド処理で形成された主補強絶縁層23で接続され、その上にケーブル主外部半導電層4、4に跨るように接続部主外部半導電層24が設けられている。接続部主外部半導電層24は、主補強絶縁層23と同時に形成された半導電層と、その上に設けられた半導電性クッションテープ巻き層とから構成される。さらに、帰路導体素線5aの溶接領域を含む範囲に、帰路導体素線接続作業時の外傷防止及び熱的損傷防止のために緩衝層31が半導電性クッションテープ巻きにて設けられている。
【0041】
直流同軸ケーブル20Aと20Bの帰路導体素線束の溶接接続部25は、各帰路導体素線に通電した時にケーブル接続部での発熱を低減させるために、帰路導体の総断面積が小さい直流同軸ケーブル20A側のケーブルコア上に設けられた緩衝層31上に位置させてある。両ケーブル20A、20Bの帰路導体素線5aは、上記緩衝層31上で帰路導体素線束毎に突き合わせ溶接されている。例えば、両ケーブルの帰路導体素線束の組合せを2本束と3本束とした場合、2本束と3本束の溶接接続部が9箇所、3本束同士の溶接接続部が6箇所、2本束同士の溶接接続部が1箇所とすることができ、帰路導体素線束の溶接接続部25は合計16箇所で済むことになる。
【0042】
帰路導体素線5a、5aを接続した後、実施形態1と同様、接続部の帰路導体5上に接続部帰路内部半導電層26を設ける前に、接続部帰路内部半導電層26を設ける領域における帰路導体素線5a、5a間の空隙(素線束間の空隙を含む)に、充填材32として一液型の常温硬化性シリコーンゴムを充填する。充填に際しては、帰路導体5上に充填材32を盛り付けて、ヘラ等を用いて空隙をしっかりと埋めていくと共に、半導電性テープ巻きにより接続部帰路内部半導電層26を形成した時に当該接続部帰路内部半導電層26の内側の帰路導体素線5a、5a間の空隙が充填材32で満たされる適度な量の充填材32を盛り付け、ヘラ等を用いて整形、調整する。その後、半導電性テープを巻くことにより接続部帰路内部半導電層26を形成し、その接続部帰路内部半導電層26の内側の帰路導体素線5a間の空隙を充填材32で満たす。
【0043】
充填材32を接続部の帰路導体素線5a間全体に充填し、この充填材32の表面を、帰路導体素線5aを含めて全体が凹凸の少ない円周面を形成するように均し、その後、充填材32が硬化してから半導電性テープを巻いて接続部帰路内部半導電層26を形成することができるが、充填材32が硬化する前に半導電性テープを巻いて接続部帰路内部半導電層26を形成することもできる。充填材32が硬化する前に半導電性テープを巻く場合は、例えば、帰路導体素線5aが露出している部分の一方の側から、充填材を帰路導体素線間に押し込みつつ順次半導電性テープを重ね巻きしていくと、充填材32の表面を均す作業を簡素化できるので、接続作業の効率化を図ることができる。
【0044】
上記の例では、帰路導体素線間の空隙に充填材32として絶縁性のシリコーンゴムを充填したが、シリコーングリース等を充填してもよい。また、導電性又は半導電性のシリコーンゴム(例えばシリコーンゴムに導電性のカーボンブラックや金属酸化物系粉末、金属粉末を配合した導電性又は半導電性シリコーンゴムが市販されている)を充填すれば、帰路導体5と接続部帰路内部半導電層26との良好な電気的接触を得ることができる。さらにこの場合は、直流同軸ケーブル接続部に位置する帰路導体の電界遮蔽効果を高めることもできる。
【0045】
接続部帰路内部半導電層26を形成した後、その外側に、両ケーブルの帰路絶縁層7、7間に跨るように自己融着性のあるEPR絶縁テープを巻いて帰路補強絶縁層27を形成する。
【0046】
このようにして帰路補強絶縁層27を形成する場合、直流同軸ケーブル20A、20Bの帰路導体素線径は双方とも5mmと太いため、帰路導体5の帰路導体素線5aの並びによる外周面の凹凸が大きく、かつケーブル接続部での帰路導体素線間隔及び帰路導体素線束溶接部25近傍での素線束間の間隔が広がるため(特に帰路導体素線本数の少ない直流同軸ケーブル20A側で間隔は一層広がる)、帰路導体上に設けられる接続部帰路内部半導電層の落ち込みしろが大きく、接続部帰路内部半導電層と、その上にEPR絶縁テープ巻きにより形成される帰路補強絶縁層との界面において、接続部帰路内部半導電層26の落ち込みにより空隙が発生するおそれがあるが、前記のように接続部帰路内部半導電層26の内側の帰路導体素線5a間の空隙に充填材32が充填されているため、接続部帰路内部半導電層26の落ち込みが発生することなく、安定かつ信頼性のある帰路補強絶縁層27を形成することができる。
【0047】
なお、接続部帰路内部半導電層26の内側の空隙に充填する充填材32として、空隙の熱抵抗よりも小さい熱抵抗を有する充填材を使用することにより、直流同軸ケーブルの接続部における温度上昇を低下させることができる。この実施形態で使用したシリコーンゴムなどの充填材の多くは、空気よりも熱抵抗が小さいため、副次的に熱抵抗を低減させる効果があるが、より小さい熱抵抗の充填材を選択することにより、温度上昇の低減効果を高めることができる。
【0048】
また、直流同軸ケーブル20Aと20Bの接続部における帰路導体5の下の接続部主外部半導電層24(緩衝層31を含む)に使用する半導電性クッションテープと、帰路導体5の上の接続部帰路内部半導電層26に使用する半導電性クッションテープとしては、水に対して膨潤性のある半導電性テープ、半導電性クッションテープ、あるいは自己融着性のある半導電性テープ、半導電性クッションテープを使用することができる。さらには、空隙に充填する充填材32として、水に対して膨潤性のある充填材を使用することもできる。このように水膨潤性のある材料を用いると、優れた走水防止効果が得られる。
【0049】
<実施形態3> 図3は本発明に係る電力用直流同軸ケーブル接続部のさらに他の実施形態を示す。図3(A)は図2(A)のケーブル帰路絶縁層7の端部のテーパー処理部付近を拡大して示したものである。直流同軸ケーブル20B側を示したが、直流同軸ケーブル20A側も同様である。図2に示した実施形態2では、接続部帰路内部半導電層26の内側の帰路導体素線5a間の空隙に充填材32を充填したが、この実施形態は、さらにケーブル帰路絶縁層7のテーパー処理部先端部の内側の、ケーブル主外部半導電層4とケーブル帰路内部半導電層6の間の帰路導体素線5a間に存在する空隙にも充填材32aを充填したものである。
【0050】
詳述すると、実施形態2で両ケーブルの帰路導体素線5aを溶接接続した後、接続部の帰路導体5上に接続部帰路内部半導電層26を設ける前に、ケーブル帰路絶縁層7のテーパー処理部先端部の内側の、ケーブル主外部半導電層4とケーブル帰路内部半導電層6の間の帰路導体素線5a間に存在する空隙に、充填材32aとして一液型の常温硬化性シリコーンゴムを充填する。充填方法としては、ケーブル帰路絶縁層7のテーパー処理部の先端付近に露出している帰路導体素線5aの間の空隙から、注射器などの先の細い注入器具を用いて充填材を押し出して注入する。このときの充填材32aの充填範囲は、ケーブル帰路絶縁層のテーパー処理部の先端から少なくともケーブル帰路絶縁層の厚さが3mmとなるまでの範囲とすることが好ましく、その充填範囲は充填材の注入量で管理することができる。
【0051】
その後、実施形態2と同様にして、接続部の帰路導体素線5a間の空隙に充填材32を充填し、その上に接続部帰路内部半導電層26を形成する。その後、両ケーブルの帰路絶縁層7、7間に跨るように自己融着性のあるEPR絶縁テープを巻いて帰路補強絶縁層27を形成する。このとき、両ケーブルの帰路導体素線径は双方とも5mmと太いため、帰路導体5の外周面の凹凸が大きく、接続部の帰路導体5上に設けられる接続部帰路内部半導電層26及びケーブル帰路絶縁層7のテーパー処理部先端部とその内側に位置するケーブル帰路内部半導電層6の落ち込みしろが大きいが、前記のように接続部帰路内部半導電層26の内側の帰路導体素線5a間の空隙には充填材32が充填され、かつケーブル帰路絶縁層7のテーパー処理部先端部の内側の、ケーブル主外部半導電層4とケーブル帰路内部半導電層6の間の帰路導体素線5a間に存在する空隙にも充填材32aが充填されているため、ケーブルの熱膨張・収縮があっても、接続部帰路内部半導電層26及びケーブル帰路絶縁層7のテーパー処理部先端部とその内側のケーブル帰路内部半導電層6が落ち込むのを防止でき、帰路補強絶縁層27の下面に空隙が生じるのを防止でき、より安定かつ信頼性のある帰路補強絶縁層27を形成することができる。
【0052】
ところで、充填材32aの充填範囲を、ケーブル帰路絶縁層のテーパー処理部の先端から少なくともケーブル帰路絶縁層の厚さが3mmとなるまでの範囲とする理由は次のとおりである。直流同軸ケーブルの主導体及び帰路導体の最高許容温度はそれぞれ90℃、75℃である。基底温度が20℃の場合、直流同軸ケーブルの運転時に想定される温度変化は、主導体で最大70℃、帰路導体で最大55℃である。この使用温度範囲及び温度変化に対する熱膨張・収縮に対して、ケーブル帰路絶縁層のテーパー処理部先端部が帰路導体素線間の空隙へ落ち込みが生じる範囲は、テーパー処理部の先端からケーブル帰路絶縁層の厚さが2〜3mmの範囲である。したがって、ケーブル帰路絶縁層のテーパー処理部の先端から少なくともケーブル帰路絶縁層の厚さが3mmとなるまでの範囲において、ケーブル主外部半導電層4とケーブル帰路内部半導電層6の間の帰路導体素線5a間に存在する空隙に充填材32aを充填することが落ち込み防止に対して効果がある。
【0053】
また、充填材32、32aとしては、ケーブル使用温度範囲あるいは加熱モールド時の温度範囲で流動性のないクリーム状の充填材や、充填後に硬化性のあるクリーム状の充填材を使用することが好ましい。後者の場合、充填時にはクリーム状で、硬化後にはゴムのような弾性のある充填材を用いることが好ましい。これは、帰路導体素線間の空隙に充填材を充填する際の利便性を考えると、流動性がないクリーム状の充填材であることが好ましいためである。具体的には、流動性のないクリーム状の充填材は、帰路導体上に充填材を盛り付けてヘラ等を用いて空隙をしっかり埋め、さらには帰路内部半導電性テープを巻いた時に、帰路導体素線と帰路内部半導電性テープとの間の空隙が充填材で満たされる適度な量の充填材を盛り付けてヘラ等を用いて整形、調整ができるためである。また、ケーブル帰路絶縁層7のテーパー処理部先端部の内側の、帰路導体素線5a間の空隙に充填材32aを充填する際には、帰路絶縁層7のテーパー処理部の先端付近に露出している帰路導体素線5aの表面の凹凸とケーブル帰路内部半導電層6との間に存在する空隙から、注射器などの先の細い注入器具を用いて充填材を押し出して注入することができるためである。一方、ケーブル使用時あるいは加熱モールド時において充填材に流動性がある場合には、接続部帰路内部半導電層26の落ち込み及びケーブル帰路絶縁層7の先端部の落ち込みを防止する効果が薄れるため、ケーブル使用時あるいは加熱モールド時の温度範囲に対して、流動性のない充填材を使用することが重要である。また、硬化性のあるクリーム状の充填材を使用する際には、ケーブルの熱膨張・収縮や曲げに対する機械的特性を考慮すると、硬化後にゴムのような弾性のある充填材を使用することが重要である。
【0054】
なお、この実施形態では、帰路補強絶縁層27を自己融着性のあるEPR絶縁テープ巻きにより形成する場合を説明したが、帰路補強絶縁層27を、実施形態1のように内部半導電層付き熱収縮絶縁チューブを用いて形成する場合にも、ケーブル帰路絶縁層7のテーパー処理部先端部の内側の、ケーブル主外部半導電層4とケーブル帰路内部半導電層6の間の帰路導体素線5a間に存在する空隙に充填材32aを充填すれば、ケーブル帰路絶縁層7のテーパー処理部先端部とその内側のケーブル帰路内部半導電層6の落ち込みを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明に係る電力用直流同軸ケーブル接続部の一実施形態を示す、(A)は縦断面図、(B)は(A)のB−B線拡大断面図。
【図2】本発明に係る電力用直流同軸ケーブル接続部の他の実施形態を示す、(A)は縦断面図、(B)は(A)のB−B線拡大断面図。
【図3】本発明に係る電力用直流同軸ケーブル接続部のさらに他の実施形態を示す、(A)は要部の縦断面図、(B)は(A)のB−B線断面図。
【図4】電力用直流同軸ケーブルの一例を示す横断面図。
【図5】従来の電力用直流同軸ケーブル接続部の一例を示す、(A)は縦断面図、(B)は(A)のB−B線拡大断面図。
【図6】図5の電力用直流同軸ケーブル接続部の問題点を示す、(A)は要部の縦断面図、(B)は(A)のB−B線断面図。
【符号の説明】
【0056】
1:主導体
2:主内部半導電層
3:主絶縁層
4:主外部半導電層
5:帰路導体
5a:帰路導体素線
6:帰路内部半導電層
7:帰路絶縁層
8:帰路外部半導電層
9:鉛被
10:防食層
20A、20B:電力用直流同軸ケーブル
21:主導体接続部
23:主補強絶縁層
24:接続部主外部半導電層
25:帰路導体素線接続部
26:接続部帰路内部半導電層
27:接続部帰路補強絶縁層
31:緩衝層
32、32a:充填材
33:内部半導電層付き熱収縮絶縁チューブの内部半導電層
34:テープ巻きモールド部
35:異径導体接続用スリーブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーブル主導体接続部の外側に、ケーブル主絶縁層間に跨る当該ケーブル主絶縁層より外径が大きい主補強絶縁層を有し、その外側に、ケーブル主外部半導電層間に跨る接続部主外部半導電層と、ケーブルの帰路導体素線の接続部を含む接続部帰路導体層と、ケーブル帰路内部半導電層間に跨る接続部帰路内部半導電層とを有する電力用直流同軸ケーブルの接続部において、前記接続部帰路内部半導電層の内側の、帰路導体素線間に形成される空隙に充填材を充填したことを特徴とする電力用直流同軸ケーブルの接続部。
【請求項2】
ケーブル帰路絶縁層のテーパー処理部先端部の内側の、ケーブル主外部半導電層とケーブル帰路内部半導電層の間の帰路導体素線間に存在する空隙にも充填材を充填したことを特徴とする請求項1記載の電力用直流同軸ケーブルの接続部。
【請求項3】
前記充填材は、弾性を有していることを特徴とする請求項1又は2に記載の電力用直流同軸ケーブルの接続部。
【請求項4】
前記充填材は、導電性又は半導電性を有していることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の電力用直流同軸ケーブルの接続部。
【請求項5】
前記充填材は、前記接続部帰路内部半導電層の内側の、帰路導体素線間にできる空隙の熱抵抗よりも熱抵抗が小さい材料からなることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の電力用直流同軸ケーブルの接続部。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−41765(P2010−41765A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−199099(P2008−199099)
【出願日】平成20年8月1日(2008.8.1)
【出願人】(502308387)株式会社ビスキャス (205)
【出願人】(000217686)電源開発株式会社 (207)
【Fターム(参考)】