説明

電動ドアミラー装置

【課題】 ケースとベースとの間の摩擦を軽減できて、しかも、ギヤ等の回転に伴う作動音を低減できる電動ドアミラー装置を得る。
【解決手段】 クラッチばね94は、ベースに立設されたシャフト16とリング部86との間に配置されてシャフト16とウォームホイール84との双方に係合され、弾性力でウォームホイール84をシャフト16に連結させる。クラッチばね94による弾性力の付与方向はシャフト16の軸直交方向とされ、クラッチばね94はウォームホイール84をケースの底壁に押し付けない。従って、ケースの底壁はクラッチばね94によってベースに押し付けられることはなく、ケースとベースとの間の摩擦を軽減できる。また、クラッチばね94の付勢力にばらつきが生じても、上底壁88がシャフト16に当接してウォームホイール84の軸位置がシャフト16に合わせられ、ウォームホイール84の回転が安定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のドアパネルの近傍に設けられる電動ドアミラー装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両のドアパネルの近傍に設けられるドアミラーは、車両の後方を確認するためにミラーの反射面が略車両後方に向けられているが、駐車時等にミラーの反射面が略車幅方向室内側を向くようにドアミラーのバイザを回動させて折り畳めるようになっている。
【0003】
また、このようなドアミラー装置には、モータの駆動力でバイザを回動させる所謂「電動ドアミラー装置」があり、その一例が下記特許文献1に開示されている。
【0004】
この種の電動ドアミラー装置は、ドアパネルの近傍にベースが設けられており、このベース上にモータアクチュエータが設けられている。モータアクチュエータはケースを備えており、ベースに立設されたシャフトがケース内に入り込んでいる。
【0005】
また、ケースの内部にはモータが固定されており、モータの駆動力はケース内の減速ギヤ列を介してシャフトに対して同軸的に設けられた最終ギヤに伝えられる。最終ギヤはシャフトの軸方向に沿った所定位置ではシャフトに対して相対回転不能に設けられており、減速ギヤ列を介してモータの駆動力が最終ギヤに伝わると、減速ギヤ列のうち、最終ギヤに噛み合うギヤが最終ギヤからの反力を受けて最終ギヤの周囲を回動する。これにより、減速ギヤ列全体とモータ、ひいてはケースがシャフト周りに回動する。
【0006】
ケースにはブラケットが固定されており、このブラケットにミラーやバイザが取り付けられる。したがって、上記のようにモータが作動することでケースがシャフト周りに回動すると、ミラーやバイザが回動する。
【0007】
一方、上記の最終ギヤは、過剰な回転力が作用した際にシャフトとの連結が解除されてシャフト周りに回転できるようになっており、これにより、ケースやモータ、減速ギヤ列、最終ギヤ等の破損を防止している。
【0008】
このような最終ギヤとシャフトとの連結部分の構造に関して特許文献1に開示された電動ドアミラー装置では、シャフトに対して回転可能に軸支された最終ギヤよりもシャフトの先端側には、プレートクラッチがシャフトに対して相対回転不能で且つシャフトの軸方向にはスライド可能に取り付けられている。プレートクラッチの最終ギヤ側の面には凹部が形成されており、最終ギヤに形成された凸部が嵌合している。
【0009】
このため、基本的に最終ギヤはプレートクラッチに対するシャフト周りの相対回転が不能で、上記のようにプレートクラッチがシャフトに対して相対回転不能であることから最終ギヤはシャフトに対して相対回転不能とされている。
【0010】
但し、シャフト周りの回転力により最終ギヤの凸部がクラッチプレートの凹部の内壁を押圧してクラッチプレートを押し上げ、凸部と凹部との嵌合が解消されるとクラッチプレートを介した最終ギヤとシャフトとの機械的な連結が解除され、最終ギヤはシャフト周りに回転できる。
【0011】
また、プレートクラッチはシャフトの軸方向に沿って最終ギヤとは反対側からコイルばねが設けられており、コイルばねはその付勢力でシャフトの軸方向に沿って最終ギヤにプレートクラッチを押し付けている。したがって、シャフト周りの回転力により最終ギヤの凸部がクラッチプレートの凹部の内壁を押し上げる力が、コイルばねの付勢力を上回った場合にクラッチプレートを介した最終ギヤとシャフトとの機械的な連結が解除される。
【特許文献1】特開2002−274267号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ところで、上記のコイルばねはクラッチプレートを最終ギヤに押し付けているため、当然、最終ギヤにはクラッチプレートを介してコイルばねの付勢力が作用し、最終ギヤを収容しているケースの内底に最終ギヤが押し付けられる。さらに、このようにして最終ギヤに押圧されたケースは、外底がベースに押し付けられる。
【0013】
ベースに設けられたシャフトに回転可能にケースが設けられていることから、ケースの外底とベースとの間には摩擦が生じ、上記のモータは、当然のことながらこの摩擦に抗するトルクを有していなくてはならない。
【0014】
しかしながら、上記のようにコイルばねの付勢力に基づいて最終ギヤがケースをベースに押し付けることでケースの外底とベースとの間の摩擦も大きくなるため、モータの小型化が難しかった。
【0015】
本発明は、上記事実を考慮して、ケースとベースとの間の摩擦を軽減できて、しかも、ギヤ等の回転に伴う作動音を低減できる電動ドアミラー装置を得ることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0016】
請求項1に記載の発明に係る電動ドアミラー装置は、車体に固定されると共に支持軸が立設されたベースと、前記支持軸周りに回動可能に前記ベース上に設けられると共に、ミラーが直接又は間接的に支持されたケースと、前記ケースの内部で前記ケースに固定される駆動手段と、前記ケースの内側で前記支持軸に回転自在に軸支されると共に、前記駆動手段の駆動力が前記支持軸周りの回転力として付与されるギヤと、前記ギヤに一体に設けられ、前記支持軸に当接することで前記ギヤの軸心位置を前記支持軸に合わせるフランジ部と、前記支持軸の軸方向に対して交差する方向に沿った付勢力で前記支持軸と前記ギヤとの双方に係合し、前記支持軸に対して前記ギヤを回転不能に連結すると共に、前記付勢力に抗する回転力が前記ギヤに付与されることで、前記支持軸及び前記ギヤの少なくとも何れか一方との係合が解除され、前記ギヤと前記支持軸との連結を解除するクラッチと、を備えている。
【0017】
請求項1に記載の発明に係る電動ドアミラー装置では、ケース内に設けられた駆動手段が駆動すると、その駆動力はケース内のギヤに対して支持軸周りの回転力として伝えられる。
【0018】
但し、ギヤはクラッチによって支持軸に連結されており、支持軸周りの回転が不能になっているため、ギヤに対して回転力を付与してもギヤが回転することはなく、ギヤに付与した回転力の反力で駆動手段がギヤ周り、すなわち、支持軸周りに回転する。
【0019】
さらに、駆動手段はケースに固定されており、このケースは支持軸周りに回転可能にベース上に設けられているため、上記のように駆動手段が支持軸周りに回転すると、ケースが支持軸周りに回転し、ひいては、ケースに直接又は間接的に支持されたミラーが支持軸周りに回転する。
【0020】
これにより、例えば、ミラーの鏡面が車両室内側を向く折り畳み状態からミラーの鏡面が略車両後方側を向く展開状態にしたり、また、展開状態から折り畳み状態にすることができる。
【0021】
一方で、駆動手段が駆動していない状態でケースに支持軸周りの回転力が付与されると、ギヤに対してもこの回転力が付与される。しかしながら、基本的には上記のようにギヤは支持軸周りの回転が不能である。したがって、基本的にはケースが回転することはない。
【0022】
但し、ギヤはクラッチが付勢力でギヤと支持軸との双方に係合していることでクラッチを介して支持軸に連結されているため、この付勢力に抗する大きさの回転力がギヤに付与されると、クラッチは支持軸及びギヤの少なくとも何れか一方との係合が解除され、クラッチを介したギヤと支持軸との連結が解除される。
【0023】
このように、クラッチを介したギヤと支持軸との連結が解除されることによって回転力が付与されたケースは、ギヤを伴い支持軸周りに回転する。
【0024】
これにより、上記のような回転力がケースに作用した場合であっても、ケースや駆動手段、更にはギヤの破損等を防止できる。
【0025】
ここで、本発明に係る電動ドアミラー装置では、ギヤと支持軸とを連結するためのクラッチの付勢力の向きが支持軸の軸方向に対して交差している。このため、クラッチの付勢力のうち支持軸の軸方向に沿った成分は付勢力全体よりも小さくなる。
【0026】
このため、仮に、クラッチの付勢力のうち、支持軸の軸方向に沿った成分がギヤをケースに押し付け、更に、ケースをベースに押し付けるように作用したとしても、ケースがベースを押圧する押圧力はクラッチの付勢力全体に比べて小さくなる。これにより、ケースとベースとの間に生じる摩擦力を小さくできる。
【0027】
このように、本発明に係る電動ドアミラー装置は、ケースとベースとの間の摩擦を極めて効果的に軽減できる。このため、駆動手段の低トルク化が可能となり、低トルク化により、ギヤの歯当りエネルギーが小さくなることにより作動音を低減できる。
【0028】
また、駆動手段の駆動力は、上記のようなケースとベースとの間の摩擦に十分に抗する大きさでないと、ケースを回転させることができない。したがって、上記のようにケースとベースとの間に生じる摩擦を小さくできることで、駆動手段を小型化でき、ひいては、駆動手段が取り付けられるケースを小型化できる。
【0029】
またさらに、本発明に係る電動ドアミラー装置は、駆動手段を小型化できるため、駆動手段を低コスト化でき、ひいては、装置全体を低コスト化できる。
【0030】
またさらに、本発明に係る電動ドアミラー装置では、フランジ部がギヤに一体に設けられている。このフランジ部は支持軸に当接することで軸心位置を支持軸に合わせるため、仮にクラッチの付勢力のうち支持軸の軸直交方向に沿った成分にばらつきが生じてギヤと支持軸との軸位置がずれそうになっても(同軸度が悪化しそうになっても)、支持軸に対するギヤの軸間距離が変動しない。これにより、ギヤ、ひいては、駆動手段並びにケース、さらには、ミラーが支持軸周りに安定して回転できる。またこのため、本発明に係る電動ドアミラー装置は、ギヤ、ひいては、駆動手段並びにケース、さらには、ミラーの回転に伴う作動音を低減できる。
【発明の効果】
【0031】
以上説明したように、本発明では、ケースとベースとの間の摩擦を極めて効果的に軽減できるうえ、ギヤ等の回転に伴う作動音を低減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
<本実施の形態の構成>
図7には、本発明の一実施の形態に係る車両用ミラー装置としての電動ドアミラー装置10が分解斜視図にて示されている。
【0033】
本実施の形態の要部の説明に先立ち、先ず、本電動ドアミラー装置10の全体的な概略構成について説明する。
【0034】
(本電動ドアミラー装置10の全体的な概略構成)
図7に示されるように、本電動ドアミラー装置10はスタンド12を備えている。このスタンド12は、所定の大きさ以上の剛性を有する金属材料等により、車両(図示省略)の略上下方向に沿って厚さ方向とされた略板状に形成されており、車両の運転席若しくは助手席に対応したドアパネルの前端側側方に配置される。
【0035】
スタンド12の車幅方向略室内側にはステー14が一体的に形成されている。ステー14はスタンド12と同じ材料によって略車幅方向に沿って厚さ方向の板状に形成されており、ドアパネルへ一体的に連結され、これによってスタンド12が車両へ固定される。
【0036】
また、スタンド12の上面上には、支持軸としての円筒状のシャフト16が立設されている。シャフト16は装置本体を構成する略箱状のモータケース18の底壁20(図6参照)を貫通した状態でモータケース18を自らの軸周りに回動自在に軸支している。
【0037】
さらに、図6及び図7に示されるように、モータケース18の外周一部からは板状の支持片22が延出されている。支持片22の板厚方向一方の側には支持片22と厚さ方向が同じ板状のブラケット24が配置されており、ボルト等の締結手段によって支持片22とブラケット24とが一体的に固定されている。
【0038】
ブラケット24の厚さ方向一方の側には、図7に示される角度調整アクチュエータ26のハウジング28が取り付けられている。ハウジング28の内部には1乃至複数のモータ並びに各モータに対応して設けられた1乃至複数の減速ギヤが収容されている。
【0039】
また、ブラケット24の厚さ方向一方の側には、バイザ30を構成するバイザリム32が配置されている。バイザリム32はブラケット24の厚さ方向一方と略同方向へ向けて開口した浅底の略箱形状若しくは略椀形状に形成されており、その内側にはバイザリム32の略開口方向側が反射方向とされた板状のミラー本体34が収容されている。
【0040】
ミラー本体34はバイザリム32の底壁部36に形成された孔38を貫通したハウジング28の支持シャフト(図示省略)に保持されており、ハウジング28のモータの駆動力がハウジング28の減速ギヤを介して支持シャフトへ伝えられることで、略車幅方向及び略車両上下方向を軸方向としてこれらの軸周りにミラー本体34が回動し、ミラー本体34の反射角度を適宜に変更できるようになっている。
【0041】
一方、本電動ドアミラー装置10はバイザリム32と共にバイザ30を構成するバイザカバー40を備えている。このバイザカバー40はバイザリム32よりも深底の略箱形状若しくは略椀形状とされている。
【0042】
バイザカバー40の内側にはバイザリム32が嵌合し、更に、バイザカバー40の底壁部42から立設された複数の連結リブ44がブラケット24に形成された連結孔46に嵌合することでバイザリム32及びブラケット24へ機械的に連結されて一体となり、バイザカバー40はその内側にモータケース18、ブラケット24、角度調整アクチュエータ26、バイザリム32、及びミラー本体34を収容する。
【0043】
このように、これらのブラケット24、角度調整アクチュエータ26、バイザリム32、ミラー本体34、及びバイザカバー40は、上記のようにモータケース18へ機械的に連結されているため、モータケース18がシャフト16周りに回動することでブラケット24、角度調整アクチュエータ26、バイザリム32、ミラー本体34、及びバイザカバー40が共に回動する。
【0044】
(本電動ドアミラー装置10の要部の構成)
次に、電動ドアミラー装置10の要部の構成について説明する。
【0045】
図6には、本電動ドアミラー装置10の要部の構成が縦断面図によって示されている。上述したように、本電動ドアミラー装置10にあっては、モータケース18が略箱形状に形成されているが、より詳細には図6に示されるように、モータケース18は上端が開口した略箱形状である。
【0046】
また、モータケース18の内側には内径寸法がシャフト16の外径寸法に略等しい(厳密にはシャフト16を嵌挿可能な程度に極僅かに大きい)円筒状の支持筒52が設けられている。支持筒52は底壁20に形成されたシャフト16が貫通する円孔54に対して略同軸的に底壁20から立設されており、円孔54を貫通したシャフト16が支持筒52に嵌挿されることで、支持筒52、ひいてはモータケース18が回転自在に軸支される。
【0047】
さらに、モータケース18の内側で且つ底壁20よりもモータケース18の開口端側には、モータベース56が配置されている。このモータベース56は略平板状のベース板58を備えている。
【0048】
ベース板58はシャフト16の周壁部60の周方向に沿って連続若しくは断続的に周壁部60に形成された嵌合台62上に載置されている。また、ベース板58の外周形状は周壁部60の内周形状に対応しており、ベース板58は周壁部60に嵌合していると共にねじ等の締結手段(図示省略)によりベース板58とモータケース18とが一体的に結合されている。
【0049】
ベース板58上にはモータ保持筒66が形成されている。このモータ保持筒66は内周形状が駆動手段としてのモータ68の外周形状に対応した略小判形状とされており、モータ68はその回転軸70が下方を向くようにモータ保持筒66内に収容され、これによりモータ68がモータ保持筒66に保持される。
【0050】
また、モータ68がモータ保持筒66に収容された状態での回転軸70に対応してベース板58には円孔72が形成されており、回転軸70は円孔72を貫通してベース板58を介してモータ保持筒66とは反対側へ突出し、更に、底壁20に形成された軸受孔74に軸支されている。さらに、ベース板58を介してモータ保持筒66とは反対側では回転軸70に減速ギヤとしてのウオームギヤ76が同軸的且つ一体的に固定されている。
【0051】
ウオームギヤ76の側方には減速ギヤとしてのウオームホイール78が配置されウオームギヤ76に噛み合っている。ウオームホイール78の軸芯には連結シャフト80が嵌挿されている。連結シャフト80には更に減速ギヤとしてのウオームギヤ82が同軸的且つ一体的に嵌め込まれており、連結シャフト80を介して回転軸70とは反対側のウオームギヤ82の側方に設けられた回転体としてのウオームホイール84へ噛み合っている。
【0052】
図1及び図6に示されるように、このウオームホイール84に対応してモータケース18にはギヤ載置部85が形成されている。ギヤ載置部85はシャフト16に対して同軸のリング状に形成されており、その上面にウオームホイール84が載置されている。
【0053】
また、図1に示されるように、ウオームホイール84はリング部86を備えている。リング部86は内径寸法がシャフト16の外径寸法よりも十分に大きなリング状に形成されており、その外周部にウオームギヤ82の外歯が噛合可能な外歯が形成されている。リング部86は、シャフト16に対して同軸的に設けられており、底壁20とは反対側の軸方向端部にはフランジ部としての上底壁88が形成されている。
【0054】
上底壁88には円孔90がリング部86に対して同軸的に形成されている。円孔90の内径寸法はシャフト16の外径寸法に略等しく円孔90を貫通したシャフト16により、ウオームホイール84はシャフト16周りに回転自在に軸支されている。
【0055】
このように上底壁88はウォームホイール84に一体に設けられており、この上底壁88が、円孔90を貫通したシャフト16に当接することでリング部86、すなわちウォームホイール84の軸心位置をシャフト16に合わせる。
【0056】
また、リング部86の内周部のうち、リング部86の軸方向に沿った中間部よりも上底壁88側はクラッチ装着部92とされている。クラッチ装着部92とシャフト16の外周部との間には、各々がクラッチとしての複数のクラッチばね94が設けられている。
【0057】
これらのクラッチばね94は、細幅板状の金属板材を、その幅方向(シャフト16への装着状態ではシャフト16の軸方向)を軸方向とする軸周りに湾曲又は屈曲させることで予め定められた形状に成形された金属板ばねとされている。詳細には、クラッチばね94はシャフト側係合部96を備えている。シャフト側係合部96は、シャフト16の軸方向に対して平行な軸周りに略半円形状に湾曲しており、その開口方向はシャフト16とは反対方向を向いている。
【0058】
シャフト側係合部96の両端からは弾性部98が連続して形成されている。各弾性部98はシャフト側係合部96からの延出方向を長手方向とする略直方体形状に形成されており、その幅方向を軸方向とする軸周りに弾性変形して湾曲することができる。
【0059】
各弾性部98のシャフト側係合部96とは反対側の端部からは連続してギヤ側係合部100が形成されている。ギヤ側係合部100はシャフト16の軸方向に対して平行な軸周りに略半円形状に湾曲しており、その開口方向はシャフト16の側へ向いている。
【0060】
以上の構成のクラッチばね94に対応してモータケース18にはクラッチ載置部101が形成されている。クラッチ載置部101はシャフト16に対して同軸のリング状で、ギヤ載置部85から連続して形成されている。クラッチ載置部101の外径寸法はリング部86の内径寸法よりも十分に小さく、仮に、クラッチ載置部101がリング部86の内側に同軸的に入り込んでも、クラッチ載置部101の外縁がリング部86の外周部に干渉しない構成となっている。
【0061】
一方、シャフト16の外周部には上記のシャフト側係合部96に対応して係合凹部102が形成されており、シャフト側係合部96が入り込む。これに対して、クラッチ装着部92にはギヤ側係合部100に対応して一対の係合凹部104が複数組形成されている。互いに対を成す係合凹部104の一方にはクラッチばね94の一方のギヤ側係合部100が入り込み、他方の係合凹部104には他方のギヤ側係合部100が入り込む。
【0062】
ここで、図2の(A)及び(B)に示されるように、クラッチばね94に外力が作用していない自然状態においては、係合凹部102の最深部を中心として互いに対を成す係合凹部104の一方に対して他方が成す角度θ1が、シャフト側係合部96の先端を中心とした一方のギヤ側係合部100に対して他方のギヤ側係合部100が成す角度θ2よりも大きくなるように係合凹部104が形成されている。
【0063】
このため、係合凹部102にシャフト側係合部96が嵌り込んだ状態で、互いに対を成す係合凹部104の各々にギヤ側係合部100が入り込むと、クラッチばね94が上記のθ2が大きくなるように弾性部98が弾性変形する。
【0064】
さらに、図1及び図3に示されるように、本実施の形態では、クラッチばね94が、クラッチ載置部101上でシャフト16の軸心を中心として対称的に設けられており、全てのクラッチばね94のシャフト側係合部96及びギヤ側係合部100が、係合凹部102、104に嵌り込んだ状態では、シャフト16の軸心を中心として全ての弾性部98が略等しい大きさの弾性力(付勢力)で係合凹部104の内周部をウオームホイール84の半径方向外方側へ押圧する。
【0065】
これにより、シャフト16周りの回転力がウオームホイール84に作用しても、係合凹部104に嵌り込んだギヤ側係合部100が係合凹部104の内周部に干渉し、ウオームホイール84の回転が規制される。このため、基本的には、上記のクラッチばね94によってシャフト16とウオームホイール84とが略一体的に連結される。
【0066】
一方、図6に示されるように、上記のウオームホイール84を介して底壁20とは反対側には圧縮コイルスプリング108が設けられており、更に、圧縮コイルスプリング108を介してウオームホイール84とは反対側には係止リング110がシャフト16に固定されている。圧縮コイルスプリング108は一端が係止リング110に当接していると共に他端がウオームホイール84に当接して、ウオームホイール84を底壁20側へ付勢している。
【0067】
但し、従来のドアミラー装置に適用されていたクラッチ用のスプリングとは異なり、付勢力が十分に小さい。この圧縮コイルスプリング108は、その付勢力でウオームホイール84がシャフト16の軸方向にがたつくことを防止するために設けられている。
【0068】
したがって、この圧縮コイルスプリング108は、ウオームホイール84のがたつきを防止する「規制手段」として把握できる構成であり、この意味でも従来のクラッチ用のスプリングとは構成が異なる。
【0069】
さらに言えば、シャフトの軸方向に沿ったウオームホイール84のがたつきを防止するための構成は、上記のような圧縮コイルスプリング108に限定されるものではないし、また、構造上、ウオームホイール84ががたつかない場合や、ウオームホイール84のがたつきが極めて小さくなる構成の場合には、圧縮コイルスプリング108等の規制手段を設けなくても構わない。
【0070】
<本実施の形態の作用並びに効果>
(電動ドアミラー装置10の基本的な動作)
上記構成の電動ドアミラー装置10では、車両に搭載されたバッテリーの電力がモータ68に供給されて、回転軸70が回転を開始すると、回転軸70の回転がウオームギヤ76、ウオームホイール78、連結シャフト80、ウオームギヤ82を介して減速されつつウオームホイール84に伝えられる。
【0071】
上述したように、ウオームホイール84はシャフト16に対して相対回転可能に設けられているが、クラッチばね94のシャフト側係合部96が係合凹部102に嵌合し、ギヤ側係合部100が係合凹部104に嵌合していることで、ウオームホイール84はシャフト16に対して一体的に連結され、シャフト16に対するウオームホイール84の相対回転が不能になっている。
【0072】
このため、図3に示される状態でモータ68の回転力を減速してウオームホイール84に付与しても、ウオームホイール84を回転させることができず、図4に示されるように、ウオームギヤ82はウオームホイール84に付与した回転力に応じた反力でシャフト16周りに回動する。
【0073】
また、モータ68はモータ保持筒66に保持されることでモータベース56と基本的に一体である。また、モータベース56はモータケース18へ一体的に結合されている。このため、モータ68がシャフト16周りに回動すると、モータケース18がシャフト16周りに回動し、更に、モータケース18の支持片22へ連結されたブラケット24が回動し、これにより、角度調整アクチュエータ26、ミラー本体34、及びバイザ30が一体に回動する。
【0074】
このように、角度調整アクチュエータ26、ミラー本体34、及びバイザ30が回動することで、ミラー本体34の反射面が略車幅方向室内側へ向いた格納(折畳)状態から略車両後方側へ向いた展開(使用)状態及びこの展開状態から格納状態に変更できる。
【0075】
(動作面での特徴的な作用、効果)
一方、上記の展開状態で略車両前方側からの外力がバイザ30に付与されると、バイザ30は略車両後方側へ押される。また、このような押圧力がバイザ30に付与されることでウオームギヤ82は、バイザ30が展開位置から格納位置へ移動する際の回動方向へウオームホイール84周りに回動しようとする。
【0076】
但し、この状態ではモータ68が駆動しておらず、したがって、ウオームギヤ82自体が自らの軸心周りに回転していないため、ウオームギヤ82は自らの歯でウオームホイール84の歯をシャフト16周りの回動方向へ押圧する。このウオームホイール84の歯に付与された押圧力(回転力)がクラッチばね94の弾性力を上回ると、図5に示されるように、弾性部98が弾性変形して係合凹部104からギヤ側係合部100が抜け出る。
【0077】
これにより、クラッチばね94を介したウオームホイール84とシャフト16との機械的連結が解消され、ウオームギヤ82からの押圧力でウオームホイール84がシャフト16周りに回動する。ウオームホイール84が回動することで、ウオームギヤ82、ひいては、バイザ30がシャフト16周りに回動する。
【0078】
このように、所定の大きさ以上の上記の外力がバイザ30に付与された際には、クラッチばね94によるウオームホイール84とシャフト16との機械的連結が解消されて格納位置へ向けてバイザ30がシャフト16周りに回動する。このため、上記の外力がバイザ30に付与されることによるウオームギヤ82やウオームホイール84の破壊等を効果的に防止できる。
【0079】
ところで、本実施の形態では、上記のように、クラッチばね94によってウオームホイール84とシャフト16とが連結される構成である。ここで、クラッチばね94によるウオームホイール84とシャフト16との連結が解消される際のクラッチばね94の弾性変形は、弾性部98の幅方向、すなわち、シャフト16の軸方向とする軸周り方向である。
【0080】
すなわち、本実施の形態においてクラッチばね94の弾性がシャフト16の軸方向に沿っていない。このため、クラッチばね94がウオームホイール84をモータケース18の底壁20に押し付けることはなく(ひいては、ウォームホイール84を介して底壁20をスタンド12に押し付けることはなく)、クラッチばね94の付勢力がウオームホイール84と底壁20との間の摩擦(ひいては、底壁20とスタンド12との間の摩擦)を大きくすることがない。
【0081】
この点に関して従来の電動ドアミラー装置のモータアクチュエータに比べると、本実施の形態ではウオームホイール84と底壁20との間の摩擦を極めて効果的に小さく(軽減)できる。このウオームホイール84と底壁20との間の摩擦は、モータケース18の回転を妨げるように作用するため、ウオームホイール84と底壁20との間の摩擦を上記のように極めて効果的に小さくできることでモータ68の駆動力(トルク)を小さくでき、低トルク化により、ウォームギヤ76、ウォームホイール78、ウォームギヤ82、及びウォームホイール84の歯当りエネルギーが小さくなることにより作動音を低減できる。
【0082】
また、本実施の形態に係る電動ドアミラー装置10では、上記のようにウォームホイール84と底壁20との間の摩擦を極めて効果的に小さくできるので、モータ68を小型化でき、ひいては、モータケース18を小型化できる。
【0083】
またさらに、本実施の形態に係る電動ドアミラー装置10は、モータ68を小型化できるため、モータ68を低コスト化でき、ひいては、装置全体を低コスト化できる。
【0084】
またさらに、本実施の形態に係る電動ドアミラー装置10では、上底壁88がウォームホイール84に一体に設けられており、この上底壁88は、円孔90を貫通したシャフト16に当接することで軸心位置をシャフト16に合わせる。このため、仮にシャフト16の軸直交方向に沿ったクラッチばね94の弾性力にばらつきが生じてウォームホイール84(さらに言えばウォームホイール84のリング部86)とシャフト16との軸位置がずれそうになっても(同軸度が悪化しそうになっても)、シャフト16に対するウォームホイール84の軸間距離が変動しない。これにより、ウォームホイール84、ひいては、モータ68並びにモータケース18、さらには、ミラー本体34及びバイザ30が支持軸周りに安定して回転できる。またこのため、本実施の形態に係る電動ドアミラー装置10は、ウォームホイール84、ひいては、モータ68並びにモータケース18、さらには、ミラー本体34及びバイザ30の回転に伴う作動音を低減できる。
【0085】
なお、本実施の形態に係る電動ドアミラー装置10では、クラッチばね94による弾性力の付与方向がシャフト16の軸直交方向であるとしたが、本発明はこれに限らない。本発明は、クラッチばね94による弾性力の付与方向がシャフト16の軸方向とは交差する方向であればよく、この場合には、クラッチばね94の弾性がシャフト16の軸方向に沿わないため、クラッチばね94による弾性力のうちシャフト16の軸方向に沿った成分は弾性力全体よりも小さくなる。
【0086】
このため、仮に、クラッチばね94の弾性力のうち、シャフト16の軸方向に沿った成分がウォームホイール84をモータケース18の底壁20に押し付け、更に、モータケース18の底壁20をスタンド12に押し付けるように作用したとしても、モータケース18の底壁20がスタンド12を押圧する押圧力は弾性力全体に比べて小さくなる。これにより、ウォームホイール84とモータケース18の底壁20との間に生じる摩擦力を小さくできる。
【0087】
したがって、クラッチばね94による弾性力の付与方向が、必ずしもシャフト16の軸直交方向でなくても、シャフト16の軸方向とは交差する方向でありさえすれば、ウォームホイール84と底壁20との間の摩擦を小さくできることでモータ68の駆動力を小さくでき、この結果、モータ68の小型化が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】本発明の一実施の形態に係る電動ドアミラー装置(本発明の一実施の形態に係るギヤ連結構造を適用した電動ドアミラー装置)の要部の構成を示す分解斜視図である。
【図2】ギヤ、支持軸、及びクラッチの各部位の寸法関係や位置関係を示す平面図である。
【図3】ギヤ、支持軸、及びクラッチの平面断面図である。
【図4】クラッチによりギヤと支持軸とが連結された状態でギヤに噛み合うウオームギヤが回動した状態を示す平面断面図である。
【図5】クラッチによるギヤと支持軸との連結が解消された状態でギヤが回動した状態を示す図4に対応した平面断面図である。
【図6】本発明の一実施の形態に係る電動ドアミラー装置(本発明の一実施の形態に係るギヤ連結構造を適用した電動ドアミラー装置)の要部の構成を示す断面図である。
【図7】本発明の一実施の形態に係る電動ドアミラー装置(本発明の一実施の形態に係るギヤ連結構造を適用した電動ドアミラー装置)の全体構成を示す概略的な分解斜視図である。
【符号の説明】
【0089】
10 電動ドアミラー装置
12 スタンド(ベース)
16 シャフト(支持軸)
18 モータケース(ケース)
68 モータ(駆動手段)
84 ウオームホイール(ギヤ)
88 上底壁(フランジ部)
94 クラッチばね(クラッチ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体に固定されると共に支持軸が立設されたベースと、
前記支持軸周りに回動可能に前記ベース上に設けられると共に、ミラーが直接又は間接的に支持されたケースと、
前記ケースの内部で前記ケースに固定される駆動手段と、
前記ケースの内側で前記支持軸に回転自在に軸支されると共に、前記駆動手段の駆動力が前記支持軸周りの回転力として付与されるギヤと、
前記ギヤに一体に設けられ、前記支持軸に当接することで前記ギヤの軸心位置を前記支持軸に合わせるフランジ部と、
前記支持軸の軸方向に対して交差する方向に沿った付勢力で前記支持軸と前記ギヤとの双方に係合し、前記支持軸に対して前記ギヤを回転不能に連結すると共に、前記付勢力に抗する回転力が前記ギヤに付与されることで、前記支持軸及び前記ギヤの少なくとも何れか一方との係合が解除され、前記ギヤと前記支持軸との連結を解除するクラッチと、
を備えた電動ドアミラー装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate