説明

電動パワーステアリング装置

【課題】デフレクタの出入口を転動ボールが出入りすることによって発生する異音を低減できるようにした電動パワーステアリング装置を提供する。
【解決手段】ハウジング11およびモータシャフト41の何れか一方と第1および第2のころがり軸受43、44との各間に、第1および第2の制振合金51、52をそれぞれ設けた。第1の制振合金51は、ハウジング(モータシャフト)と第1のころがり軸受との間に介在される円筒部53a、54aと、第1のころがり軸受の両端部とハウジング(モータシャフト)との間に介在されるフランジ部53b、54bとからなり、第2の制振合金52は、ハウジング(モータシャフト)と第2のころがり軸受との間に介在される円筒部52aを有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デフレクタ式ボールねじ装置を備えた電動パワーステアリング装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、電動パワーステアリング装置は、ステアリングシャフトの回転によって軸方向移動されるラック軸と、ステアリングシャフトに発生する操舵トルクに基づいてモータシャフトを回転駆動する電動モータと、モータシャフトの回転運動をラック軸の軸方向運動に変換するボールねじ装置とを備えている。
【0003】
ところで、ラック軸と同軸的に電動モータを配設したラック同軸型電動パワーステアリング装置においては、例えば、特許文献1に記載されているように、ラック軸にボールねじ軸を一体に設け、このボールねじ軸に電動モータによって回転されるモータシャフトに固定したボールナットを転動ボールを介して螺合している。
【0004】
かかる特許文献1に記載の電動パワーステアリング装置においては、操舵輪からの衝撃荷重による外部入力が、操舵輪からラック軸を介してモータシャフトの軸方向に伝えられるため、モータシャフトを回転可能に支持する軸受を、ハウジングの内周に螺合される環状の制振合金ナットによって軸方向に締め込んで固定することにより、軸方向の衝撃荷重を吸収できるようになっている。
【特許文献1】特開2007−137251号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この種のボールねじ装置を備えた電動パワーステアリング装置においては、モータシャフトに固定したボールナットに、転動ボールを循環するための複数のデフレクタが装着されているため、このデフレクタの出入口を転動ボールが出入りする際にボールねじ装置に振動が惹起される。そして、この振動がボールねじ装置を装着したモータシャフト、およびモータシャフトを軸承するころがり軸受を介してハウジングに伝達されるようになるため、振動によって発生した異音(摩擦音)が電動パワーステアリング装置の外部に洩れる問題があった。
【0006】
しかしながら、上記した特許文献1に記載された制振合金の構成では、デフレクタの出入口を転動ボールが出入りする際のボールねじ装置の振動に起因する異音の発生を低減することができず、その対策が求められていた。
【0007】
本発明は、上記した従来の問題を解消するためになされたもので、デフレクタの出入口を転動ボールが出入りすることによって発生する異音を低減できるようにした電動パワーステアリング装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するため、請求項1に係る発明の特徴は、ハウジングと、該ハウジングに軸方向移動可能に貫挿されラックピニオン機構を介して入力軸に連結されるラック軸と、該ラック軸と同軸的に前記ハウジング内に配置された電動モータと、該電動モータによって回転されるモータシャフトと、該モータシャフトの両端部を前記ハウジングに回転可能に軸承する第1および第2のころがり軸受と、前記モータシャフトの回転を前記ラック軸の軸方向運動に変換するボールねじ装置とを備えた電動パワーステアリング装置において、前記ハウジングおよび前記モータシャフトの何れか一方と前記第1および第2のころがり軸受との各間に、第1および第2の制振合金をそれぞれ設け、該第1の制振合金は、前記ハウジングの内周および前記モータシャフトの外周の何れか一方と前記第1のころがり軸受の外周および内周の何れか一方との間に介在される円筒部と、前記第1のころがり軸受の両端部と前記ハウジングおよび前記モータシャフトの何れか一方との間に介在されるフランジ部とからなり、前記第2の制振合金は、前記ハウジングの内周および前記モータシャフトの外周の何れか一方と前記第2のころがり軸受の外周および内周の何れか一方との間に介在される円筒部を有していることである。
【0009】
請求項2に係る発明の特徴は、請求項1において、前記第1の制振合金は、前記第1のころがり軸受の外輪の外周面と前記ハウジングとの間および前記第1のころがり軸受の外輪の軸方向端面と前記ハウジングとの間にそれぞれ挟持される断面L字形をなす2つの制振リングによって構成されていることである。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に係る発明によれば、ハウジングおよびモータシャフトの何れか一方と第1および第2のころがり軸受との各間に、第1および第2の制振合金をそれぞれ設け、第1の制振合金は、ハウジングの内周およびモータシャフトの外周の何れか一方と第1のころがり軸受の外周および内周の何れか一方との間に介在される円筒部と、第1のころがり軸受の両端部とハウジングおよびモータシャフトの何れか一方との間に介在されるフランジ部とからなり、第2の制振合金は、ハウジングの内周およびモータシャフトの外周の何れか一方と第2のころがり軸受の外周および内周の何れか一方との間に介在される円筒部を有しているので、第1および第2の制振合金による制振作用によって、ボールねじ装置の転動ボールがデフレクタを通過する際に発生する異音を低減できるようになる。しかも、異音を制振合金によって低減するようにしたので、モータシャフトに対するボールねじ装置の支持剛性を低下させることがない。
【0011】
請求項2に係る発明によれば、第1の制振合金は、第1のころがり軸受の外輪の外周面とハウジングとの間および第1のころがり軸受の外輪の軸方向端面とハウジングとの間にそれぞれ挟持される断面L字形をなす2つの制振リングによって構成されているので、略共通な2つの制振リングを用いてモータシャフトをハウジングに対して回転方向および軸方向に移動を規制して回転可能に支持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1は、本実施の形態のデフレクタ式ボールねじ装置を備えた電動パワーステアリング装置10の全体を示すもので、当該電動パワーステアリング装置10は、車両の左右方向に延在して配設されたハウジング11を備え、ハウジング11には、図略のステアリングホイールによって回転されるピニオン軸12と、ピニオン軸12に噛合うラック歯13aを形成したラック軸13と、ラック軸13と同軸的に配設した電動モータ14と、電動モータ14の回転運動をラック軸13の軸方向運動に変換するボールねじ装置15等が備えられている。
【0013】
ハウジング11は、円筒状のモータハウジング16と、モータハウジング16の両端に同軸上に嵌合された中空状のラックハウジング17、18からなり、ラックハウジング17、18に形成された取付部17a、18aを介して図略の車体ボディに支持されるようになっている。
【0014】
ハウジング11には、ラック軸13が軸方向に摺動可能に貫挿され、ラック軸13の両端は、タイロッドを介して左右の操向車輪に連結され、ラック軸13の軸動によって操向車輪が左右方向に操向されるようになっている。
【0015】
ラック軸13の一端にはボールねじ装置15を構成するボールねじ軸20が設けられている。ボールねじ装置15は、図2に示すように、外周面にボール転動溝20aを螺旋状に形成したボールねじ軸20と、内周面にボール転動溝21aを螺旋状に形成したボールナット21と、ボールねじ軸20のボール転動溝20aとボールナット21のボール転動溝21aとの間で形成されるボール軌道内を転動する複数の転動ボール24と、隣接する2つのボール転動溝20a、21a間で転動ボール24をリターンする複数のデフレクタ25とによって構成されている。ボールナット21は後述する電動モータ14のロータを構成するモータシャフト41内に装着され、締付けナット26によるねじ締めによってモータシャフト41に固定されるようになっている。これにより、モータシャフト41によるボールナット21の正逆回転によって、ボールねじ軸20とともにラック軸13が軸方向に往復動されるようになる。
【0016】
上記したボールねじ軸20、ボールナット21、転動ボール24およびデフレクタ25等によって、モータシャフト41の回転をラック軸13の軸方向運動に変換するボールねじ装置15を構成している。
【0017】
電動モータ14は、ボールねじ装置15を介してボールねじ軸20(ラック軸13)に軸方向のアシスト力を付与するもので、中空状のロータからなるモータシャフト41とステータ42とから構成されている。モータシャフト41はハウジング11(モータハウジング16およびラックハウジング17)に第1および第2のころがり軸受43,44を介して回転可能に軸承され、このモータシャフト41の中空穴内にボールねじ軸20が同軸的に貫挿されている。モータシャフト41の外周には平板状の永久磁石45が複数接着され、この永久磁石45に対向するようにステータ42がモータハウジング16の内周に装着されている。ステータ42は複数のコイル46を備え、コイル46への通電によって発生する磁束を永久磁石45に作用させることにより、モータシャフト41が回転されるようになっている。
【0018】
ハウジング11(ラックハウジング17)に対してモータシャフト41の一端部を回転可能に軸承する上記した第1のころがり軸受43の外輪の外周と、ハウジング11の内周との間には、マグネシウム合金、フェライト系ステンレス鋼等からなる第1の制振合金51が介在されている。第1のころがり軸受43の内輪は締付ナット55によって、モータシャフト41の一端外周に一体的に固定されている。
【0019】
第1の制振合金51は、図3に詳細に図示するように、第1のころがり軸受43の外輪とラックハウジング17の内周との間に嵌装される円筒部53a、54aと、これら円筒部53a、54aの各一端に一体的に接続されたフランジ部53b、54bとからなる断面L字状の同一形状からなる2つの制振リング53、54からなっている。一方の制振リング53のフランジ部53bは、ラックハウジング17の段部17bと第1のころがり軸受43の外輪の一端面(図3の左側面)との間に介在され、円筒部53aがしまりばめによってラックハウジング17の内周面と第1のころがり軸受43の外輪の外周面との間に隙間なく嵌装されている。また、他方の制振リング54のフランジ部54bがラックハウジング17の内周に形成したねじ穴に螺合する締付ナット57の端面と第1のころがり軸受43の外輪の他端面(図3の右側面)との間に介在され、円筒部54aは、前記円筒部53aと軸方向に僅かな隙間を有して、ラックハウジング17の内周面と第1のころがり軸受43の外輪の外周面との間にしまりばめによって隙間なく嵌装されている。
【0020】
このように、共通な2つの制振リング53、54を第1のころがり軸受43を両側から包み込むように対称に配置し、第1のころがり軸受43の外輪をラックハウジング17に螺合する締付ナット57により締付けることにより、モータシャフト41の一端はラックハウジング17に対して軸方向移動を規制され、回転のみ可能に支持される。
【0021】
一方、モータシャフト41の他端部をハウジング11(モータハウジング16)に対して回転可能に軸承する上記した第2のころがり軸受44の外輪の外周面と、モータハウジング16の内周面との間には、図4に詳細に図示するように、マグネシウム合金、フェライト系ステンレス鋼等からなる円筒部52aを有する第2の制振合金52が介在されている。第2の制振合金57の円筒部52aはモータハウジング16の内周面に嵌合圧入され、この第2の制振合金52の内周面に、モータシャフト41の他端部外周に内輪を嵌合圧入された第2のころがり軸受44の外輪が、すきまばめによって軸方向移動可能に嵌合されている。
【0022】
このような、モータシャフト41の両端部に配置された第1および第2のころがり軸受43、44とハウジング11との間に、しまりばめとすきまばめによって第1および第2の制振合金51、52を装着することにより、モータシャフト41とモータハウジング16との熱膨張差を許容できるようになる。なお、モータシャフト41とモータハウジング16との熱膨張にほとんど差がない場合には、第2のころがり軸受44の外輪とモータハウジング16の内周との間に介在される第2の制振合金52も、しまりばめによって第2のころがり軸受44とモータハウジング16との間に隙間なく嵌合させるようにしてもよい。
【0023】
次に、上記のように構成された電動パワーステアリング装置10の動作について説明する。図略のステアリングホイールを操舵すると、操舵トルクが図略の入力軸に伝達され、ピニオン軸12とラック歯13aとによるラックピニオン機構を介してラック軸13が軸方向に移動される。
【0024】
入力軸に与えられた操舵トルクは図略のトルクセンサにより検出され、また、図略の回転角検出センサによって電動モータ14のモータシャフト41の回転位置等が検出される。これら操舵トルクおよびモータシャフト41の回転位置等に基づいて電動モータ14が制御され、アシスト力が発生される。電動モータ14の回転によるアシスト力は、ボールねじ装置15によってラック軸13の軸方向移動に変換され、運転者によるステアリングホイールの操舵力が軽減される。
【0025】
ところで、本実施の形態においては、モータシャフト41がハウジング11に、第1および第2のころがり軸受43、44ならびに第1および第2の制振合金51、52を介して回転可能に支持されているので、ボールねじ装置15において、転動ボール24がデフレクタ25を通過する、すなわち、デフレクタ25の出入口を出入りする際の振動が、第1および第2の制振合金51、52による制振作用によって吸収される。従って、転動ボール24がデフレクタ25を出入りする際に発生する異音(摩擦音)が電動パワーステアリング装置10のハウジング11に伝達されにくくなり、ハウジング11の外部に洩れる異音を低減できるようになるので、車両の静粛性を高めることができるようになる。
【0026】
しかも、転動ボール24がデフレクタ25を出入りする際に発生する異音を、制振合金51、52によって低減するようにしたので、合成樹脂やゴム等に比べて、モータシャフト41に対するボールねじ装置15の支持剛性の低下を防止できるようになる。
【0027】
さらに、第1の制振合金51を、第1のころがり軸受43の外輪の外周面とハウジング11との間および第1のころがり軸受43の外輪の軸方向端面とハウジング11との間にそれぞれ挟持される断面L字形をなす2つの制振リング53、54によって構成することにより、共通な2つの制振リング53、54を用いてモータシャフト41をハウジング11に対して回転方向および軸方向に移動を規制して回転可能に支持できるようになる。
【0028】
上記した実施の形態においては、第1および第2の制振合金51、52を、ハウジング11と第1および第2のころがり軸受43、44の外輪との各間に介在させたが、制振合金51、52を、モータシャフト41と第1および第2のころがり軸受43、44の内輪との各間に介在させても、同様な作用効果が得られるものである。
【0029】
また、上記した実施の形態においては、ハウジング11と第1のころがり軸受43との間に介在される第1の制振合金51を、円筒部53a、54aとフランジ部53b、54bとからなる断面L字形の共通な2つの制振リング53、54にて構成し、これら2つの制振リング53、54を第1のころがり軸受43を両側から包み込むように対称に配置した例について述べたが、本発明は、実施の形態で述べたものに限定されるものではなく、例えば、各制振リング53、54の円筒部53a、54aとフランジ部53b、54bを別体で構成することもでき、あるいはまた、制振リング53、54の一方を、円筒部の軸方向長さを長くした断面L字形とし、他方を、フランジ部のみとしてもよい。
【0030】
斯様に、本発明は上記した実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した本発明の主旨を逸脱しない範囲内で種々の形態を採り得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の実施の形態を示す電動パワーステアリング装置の全体断面図である。
【図2】図1の2−2線に沿って切断したデフレクタ式ボールねじ装置を示す断面図である。
【図3】図1の第1のころがり軸受部分の詳細を示す拡大図である。
【図4】図1の第2のころがり軸受部分の詳細を示す拡大図である。
【符号の説明】
【0032】
10…電動式パワーステアリング装置、11…ハウジング、13…ラック軸、14…電動モータ、15…ボールねじ装置、20…ボールねじ軸、21a…ボール転動溝、21…ボールナット、21a…ボール転動溝、24…転動ボール、25…デフレクタ、26…締付けナット、43…第1のころがり軸受、44…第2のころがり軸受、51…第1の制振合金、52…第2の制振合金、53、54…制振リング、53a、54a…円筒部、53b、54b…フランジ部、55、57…締付ナット。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングと、該ハウジングに軸方向移動可能に貫挿されラックピニオン機構を介して入力軸に連結されるラック軸と、該ラック軸と同軸的に前記ハウジング内に配置された電動モータと、該電動モータによって回転されるモータシャフトと、該モータシャフトの両端部を前記ハウジングに回転可能に軸承する第1および第2のころがり軸受と、前記モータシャフトの回転を前記ラック軸の軸方向運動に変換するボールねじ装置とを備えた電動パワーステアリング装置において、
前記ハウジングおよび前記モータシャフトの何れか一方と前記第1および第2のころがり軸受との各間に、第1および第2の制振合金をそれぞれ設け、該第1の制振合金は、前記ハウジングの内周および前記モータシャフトの外周の何れか一方と前記第1のころがり軸受の外周および内周の何れか一方との間に介在される円筒部と、前記第1のころがり軸受の両端部と前記ハウジングおよび前記モータシャフトの何れか一方との間に介在されるフランジ部とからなり、前記第2の制振合金は、前記ハウジングの内周および前記モータシャフトの外周の何れか一方と前記第2のころがり軸受の外周および内周の何れか一方との間に介在される円筒部を有していることを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項2】
請求項1において、前記第1の制振合金は、前記第1のころがり軸受の外輪の外周面と前記ハウジングとの間および前記第1のころがり軸受の外輪の軸方向端面と前記ハウジングとの間にそれぞれ挟持される断面L字形をなす2つの制振リングによって構成されていることを特徴とする電動パワーステアリング装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−73412(P2009−73412A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−245954(P2007−245954)
【出願日】平成19年9月21日(2007.9.21)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】