電動パーキングブレーキシステム
【課題】シフト変化に応じてパーキングブレーキが解除される電動パーキングブレーキシステムにおいて、イニシャルチェック終了前にシフト操作が行われても、パーキングブレーキを解除可能とする。
【解決手段】第1位置(パーキング位置)については、イニシャルチェック終了前(時点T7)において、暫定的に確認されるとともに本確認され、第2位置について、イニシャルチェック終了前(時点T8)に暫定的に確認されても、イニシャルチェック終了後(時点T4)に、本確認されて、第1位置から第2位置への変化が確認される。その結果、その変化の確認に応じてリリース指令が出力されれば、電動モータを作動させて、パーキングブレーキを解除することが可能となる。
【解決手段】第1位置(パーキング位置)については、イニシャルチェック終了前(時点T7)において、暫定的に確認されるとともに本確認され、第2位置について、イニシャルチェック終了前(時点T8)に暫定的に確認されても、イニシャルチェック終了後(時点T4)に、本確認されて、第1位置から第2位置への変化が確認される。その結果、その変化の確認に応じてリリース指令が出力されれば、電動モータを作動させて、パーキングブレーキを解除することが可能となる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動パーキングブレーキシステムにおいて、シフト操作に伴うブレーキの自動解除に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、電動パーキングブレーキシステムにおいて、シフト位置がニュートラル位置あるいはパーキング位置にある状態が予め定められた設定時間以上継続した場合には、パーキングブレーキが自動で作動させられ、ドライブ位置、リバース位置にある状態が設定時間以上継続した場合には、パーキングブレーキが自動で解除されることが記載されている。特許文献2には、シフト位置が、ドライブ位置以外からドライブ位置に切り換えられた場合、リバース位置以外からリバース位置に切り換えられた場合に、パーキングブレーキが自動で解除されることが記載されている。
【特許文献1】特開平7−144623号公報
【特許文献2】特開2003−327101号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の課題は、電動モータの作動が禁止されている間にシフト操作が行われた場合であっても、ブレーキを自動で解除可能とすることである。
【課題を解決するための手段および効果】
【0004】
本願請求項1の発明に係る電動パーキングブレーキシステムは、(I)(a)摩擦面を有して車輪と共に回転する回転体と、非回転体に相対移動可能に取り付けられた摩擦材と、その摩擦材を前記回転体の摩擦面に押し付ける押付機構とを含むブレーキと、(b)電動モータと、(c)その電動モータの回転軸の回転を出力部材の直線移動に変換する運動変換装置と、(d)一端部において、前記運動変換装置の出力部材に連結されるとともに、他端部において、前記押付機構に連結された連結部と、(e)前記電動モータに電流が供給されない状態で、前記ブレーキにおける前記摩擦材の前記摩擦面への押付力を保持する保持機構とを含む電動パーキングブレーキ機構と、(II)シフト操作部材の位置の変化に応じて、前記電動モータを作動させて、前記ブレーキを解除するブレーキ解除装置とを含む電動パーキングブレーキシステムにおいて、前記ブレーキ解除装置が、前記電動モータの作動が禁止されている間に、前記シフト操作部材の位置であるシフト位置が変化させられた場合に、その電動モータの作動が許可された以降に、前記変化を確認して、前記ブレーキを解除する許可以降ブレーキ解除部を含むものとされる。
電動パーキングブレーキ機構において、電動モータが作動させられると、電動モータの回転軸の回転が出力部材の直線運動に変換されて、連結部が引っ張られる。ブレーキにおいて、押付機構により摩擦材が摩擦面に押し付けられて、ブレーキが作動させられる。ブレーキにおける押付力は、電動モータに電流が供給されなくても保持機構により保持される。
本電動パーキングブレーキシステムにおいて、シフト位置の変化に応じてブレーキが電動モータの作動により解除される。例えば、請求項5に記載のように、シフト操作部材が、ニュートラル位置、パーキング位置等の停止を指示する位置から、ドライブ位置、リバース位置等走行を指示する位置に切り換えられることによって、シフト位置が変化させられた場合には、運転者の発進意図があるとされて、電動モータの作動により、自動でブレーキが解除されるのである。
また、電動モータの作動が禁止されている間にシフト位置が変化させられた場合には、その変化が電動モータの作動が許可された以降に確認される。そして、シフト位置の変化の確認に応じて、電動モータが作動させられる。その結果、シフト操作が電動モータの作動が禁止されている間に行われても、ブレーキを解除することが可能となる。シフト位置の変化は、電動モータの作動が許可されると同時に確認されるようにしても、作動が許可された後に確認されるようにしてもよい。
シフト位置の「変化の確認」は、変化が検出されるとともに確認される場合と、検出された後に確認される場合とがある。例えば、電動モータの作動の許可以降に、シフト位置の変化が検出された場合には、変化の検出とともに変化が確認される。また、電動モータの作動が許可される前に、シフト位置の変化が検出された場合には、許可以降に確認されることになる。
また、シフト位置が、第1シフト位置から第2シフト位置に切り換えられた場合において、第2シフト位置が確認されるとともにシフト位置の変化が確認される場合と、第2シフト位置が確認された後にシフト位置の変化が確認される場合とがある。例えば、第2シフト位置が、電動モータの作動が許可された以降に確認される場合には、第2シフト位置の確認とともに変化が確認されることになる。第2シフト位置が電動モータの作動の許可前に確認された場合には、電動モータの作動の許可前に変化が検出されるが、変化の確認は、電動モータの作動の許可以降になる。
請求項2に記載の電動パーキングブレーキシステムにおいて、前記電動モータの作動が、少なくとも、車両のイグニッションスイッチのOFF状態からON状態への切換時からイニシャルチェックの終了時までの期間を含む間禁止され、前記許可以降ブレーキ解除部が、前記シフト位置を、前記電動モータの作動が禁止されている間に確認する禁止中シフト位置確認部を含む。
電動モータの作動は、少なくとも、イグニッションスイッチがOFF状態からON状態に切り換えられてから、イニシャルチェックが終了するまでの期間を含む間、禁止される。イニシャルチェックにおいて、異常であると検出された場合には、イニシャルチェックの終了後においても禁止されるが、正常であると検出された場合には、イニシャルチェック終了後に許可される。したがって、電動モータの作動は、システムが正常である場合にはイニシャルチェックが終了するまで禁止され、異常である場合にはその後も禁止された状態が継続することになる。
本電動パーキングブレーキシステムにおいては、電動モータの作動が禁止されている間においてもシフト位置の確認が行われる。厳密にいえば、禁止中であって、かつ、コンピュータの作動が許可された後において、確認が行われることになる。そのため、運転者がイニシャルチェックの終了前にシフト操作部材の操作を行っても、その場合の位置を確認することができる。禁止中シフト位置確認部は、第1シフト位置を確認するが第2シフト位置は確認しないものであっても、第1シフト位置と第2シフト位置との両方を確認するものであってもよい。
請求項3に記載の電動パーキングブレーキシステムには、前記シフト操作部材の位置を検出するシフト位置センサが含まれ、前記許可以降ブレーキ解除部が、そのシフト位置センサによって検出された位置が、予め定められた設定時間以上同じである場合に、その位置を第1のシフト位置として確認し、前記シフト位置センサによって検出された、その第1のシフト位置とは異なるシフト位置が、予め定められた設定時間以上同じであり、かつ、前記電動モータの作動が許可された以降に、その位置を第2のシフト位置として確認して、前記シフト位置の変化を確認する遅延位置確認部を含む。
本電動パーキングブレーキシステムにおいては、第2のシフト位置が確認されるとシフト位置の変化が確認される。また、第1のシフト位置は、シフト位置センサによって、予め定められた設定時間以上同じ位置が検出された場合に確認されるのであり、電動モータの作動が許可されていなくても、すなわち、作動が許可されていても許可されていなくても確認される。
請求項4に記載の電動パーキングブレーキシステムには、(a)前記シフト操作部材の位置を検出するシフト位置センサと、(b)そのシフト位置センサによって検出されたシフト位置が、予め定められた設定時間以上同じである場合に、そのシフト位置を確認するシフト位置確認部とが含まれ、前記許可以降ブレーキ解除部が、前記電動モータの作動が禁止されている間に、前記シフト位置確認部によって、第1のシフト位置と、その第1のシフト位置とは異なる第2のシフト位置との両方が確認された場合に、前記電動モータの作動が許可された以降に、前記シフト位置の変化を確認する遅延変化確認部を含む。
電動モータの作動が禁止されている間に、第1シフト位置と第2シフト位置とが確認されて、変化が検出された場合には、電動モータの作動が許可された以降に、変化が確認される。電動モータの作動が禁止されている間に検出された変化は、電動モータの作動が許可されるまで記憶されていると考えることができる。
請求項5に記載の電動パーキングブレーキシステムにおいて、前記許可以降ブレーキ解除部が、前記シフト位置が停止を表す位置から走行を表す位置に切り換えられた場合に、前記ブレーキを解除するシフト操作対応解除部を含む。
例えば、パーキング位置あるいはニュートラル位置からドライブ位置あるいはリバース位置へ切り換えられた場合にブレーキが解除されるようにしたり、パーキング位置からドライブ位置あるいはリバース位置へ切り換えられた場合に解除されるようにして、ニュートラル位置からドライブ位置あるいはリバース位置へ切り換えられた場合には解除されないようにしたりすることができる。
【実施例】
【0005】
本発明の一実施例である電動パーキングブレーキシステムを図面に基づいて詳細に説明する。
図1において、符号10は電動モータを示し、符号12はクラッチ付き運動変換機構を示す。クラッチ付き運動変換機構12は、電動モータ10の出力軸の回転を出力部材の直線運動に変換するとともに、出力部材に加えられる力によって電動モータ10が回転させられることを防止する。また、符号14,16は左右後輪を示し、符号18,20は車両の車輪14,16にそれぞれ設けられたパーキングブレーキを示す。パーキングブレーキ18,20とクラッチ付き運動変換機構12とは、それぞれ、ケーブル22,24によって連結されている。ケーブル22,24が、電動モータ10の作動により引っ張られると、パーキングブレーキ18,20が作用する状態とされる。本実施例においては、電動モータ10,クラッチ付き運動変換機構12,ケーブル22,24、パーキングブレーキ18,20等により電動パーキングブレーキ機構30が構成されている。
【0006】
クラッチ付き運動変換機構12は、図2に示すように、ギヤ列40,クラッチ42,ねじ機構44等を含む。
ギヤ列40は、複数のギヤ46,48,50から成る。ギヤ46には、電動モータ10の出力軸52が噛合され、ギヤ46の回転が、ギヤ48を経てギヤ50に伝達される。ギヤ50の電動モータ10とは反対側の端面には、軸線方向と平行に突出する駆動伝達部54が設けられている。また、出力軸52はギヤとしての機能を有する。
クラッチ42は、一方向クラッチであり、図3に示すように、ハウジング60と、そのハウジング60の内周側に設けられたコイルスプリング62と、クラッチ42の出力軸64と一体的に回転可能なロータ66とを含む。コイルスプリング62は、巻径が弾性的に僅かに収縮させられた状態でハウジング60に嵌合されており、それの外周面がハウジング60の内周面に密着し、素線の端部68,70が、それぞれ、内周側に向かって突出させられた状態で設けられている。また、ギヤ50の駆動伝達部54が2つの端部68,70で挟まれた2つの空間の一方に位置し、ロータ66が他方に位置する。
【0007】
電動モータ10の回転に伴ってギヤ50が回転すると、駆動伝達部54が端部68,70のいずれか一方に当接し、コイルスプリング62が巻き締められてハウジング60の内周面とスプリング62の外周面との間の摩擦力が小さくなる。それによって、コイルスプリング62,ロータ66が回転可能となり、出力軸64を回転させる。出力軸64はギヤ50と一体的に回転させられるのであり、クラッチ42によって、電動モータ10の回転が出力軸64に伝達されることになる。
電動モータ10に電流が供給されない状態において、出力軸64にトルクが加わると、ロータ66が端部68,70のいずれか一方に当接し、それによって、コイルスプリング62が拡径させられる。コイルスプリング62の外周面とハウジング60の内周面との間の摩擦力が大きくなり、コイルスプリング62の回転は阻止される。クラッチ42によって、出力軸64のトルクのギヤ50への伝達が阻止され、電動モータ10に電流が供給されない状態において、出力軸64に加えられるトルクによって電動モータ10が回転させられることはないのである。
【0008】
ねじ機構44は、ハウジング80と、軸線Lと平行な方向に延びた雄ねじ部材82と、雄ねじ部材82に螺合させられた図示しないナットと、ナットに軸線Mの回りに回動可能に取り付けられたイコライザ84とを含む。雄ねじ部材82は、一対のラジアルベアリング85(他方は図示は省略する)、ニードルスラストベアリング86を介して、ハウジング80に相対回転可能に支持される。イコライザ84の両アームには、それぞれ、ケーブル22,24のインナケーブル87が連結されている。イコライザ84の本体には係合突部88が設けられ、図示は省略するが、ハウジング80に、軸線Lと平行な方向に設けられたガイド部に係合させられる。その結果、イコライザ84は、ハウジング80に、軸線Lを中心とした相対回転不能、軸線Lと平行な方向に相対移動可能、かつ、係合突部88の回り(軸線Mの回り)に相対回動可能となっている。
【0009】
イコライザ84は、図2に実線で示す位置と二点鎖線で示す位置との間で、ハウジング80に対して相対移動可能とされており、イコライザ84の相対移動に伴ってケーブル22,24のインナケーブル87が引っ張られたり、緩められたりする。また、イコライザ84は、2つのケーブル22,24のインナケーブル87に加えられる張力(以下、単にケーブル22,24の張力という)が同じになるように、係合突部88の回り(軸線Mの回り)に回動させられる。
なお、ハウジング80の内部には、ケーブル24の張力を検出する張力センサ90が設けられている。イコライザ84により、ケーブル22,24に加えられる張力は同じ大きさとされるため、張力センサ90によって検出されたケーブル24に加えられた張力は、ケーブル22に加えられた張力でもある。
また、符号92は異常時解除装置を示す。異常時解除装置92は、電動モータ10の異常時等に、パーキングブレーキ18,20を解除するための装置である。ケーブル93をギヤ95の内部に押し込み、手動で、図示しないグリップ部を回転させると、ギヤ95が回転させられる。そのギヤ95の回転がギヤ46、48を介してギヤ50に伝達され、ギヤ50の回転により、イコライザ84がケーブル22,24を緩める向きに移動させられる。それによって、パーキングブレーキ18,20が解除される。
【0010】
パーキングブレーキ18,20は、図4,5に示すように、本実施例においては、デュオサーボ型のドラムブレーキである。したがって、以下、必要に応じて、パーキングブレーキ18,20をドラムブレーキと称することがある。また、図4において、符号97はブレーキディスクを示し、符号98はキャリパを示し、これらブレーキディスク97とキャリパ98とは、共同してサービスブレーキとしてのディスクブレーキ99を構成する。パーキングブレーキ18,20としてのドラムブレーキは、ブレーキディスク97の内周側に設けられているのであり、本実施例においては、ドラムインディスクブレーキとなっている。ドラムブレーキ18,20は、それそれ、構造が同じものであるため、ドラムブレーキ18について説明し、ドラムブレーキ20についての説明を省略する。
【0011】
ドラムブレーキ18は、図示しない車体に取り付けられた非回転部材としてのバッキングプレート100と、内周面に摩擦面102を備えて車輪14と共に回転するドラム104とを備えている。バッキングプレート100の一直径方向に隔たった2箇所には、それぞれアンカ部材106と中継リンクとしてのアジャスタ108とが設けられている。アンカ部材106はバッキングプレート100に固定されており、アジャスタ108はフローティング式とされている。それらアンカ部材106とアジャスタ108との間には、各々円弧状を成す一対のブレーキシュー110a,110bがドラム104の内周面に対面するように取り付けられている。一対のブレーキシュー110a,110bは、シューホールドダウン装置112a,112bによってバッキングプレート100にそれの面に沿って移動可能に取り付けられている。なお、バッキングプレート100の中央に設けられた貫通穴は、図示しないアクスルシャフトの貫通を許容するためのものである。
【0012】
一対のブレーキシュー110a,110bは、一端部同士がアジャスタ108により作動的に連結される一方、各他端部がアンカ部材106と当接して回動可能に支持されるようになっている。一対のブレーキシュー110a,110bの一端部同士は、アジャスタスプリング114によりアジャスタ108に当接する向きに付勢されており、各他端部はリターンスプリング115によりアンカ部材106に向かって付勢されている。各ブレーキシュー110a,110bの外周面に摩擦材としてのブレーキライニング116a,116bが保持され、それら一対のブレーキライニング116a,116bがドラム104の摩擦面102に接触させられることにより、それらブレーキライニング116a,116bとドラム104との間に摩擦力が発生する。アジャスタ108は、一対のブレーキシュー110a,110bの摩耗に応じて一対のブレーキライニング116a,116bとドラム104との隙間を調整するために操作される。
【0013】
図5に押付機構120を示す。押付機構120は、ブレーキレバー122と、ストラット124とを含み、アンカ部材106をバッキングプレート100に固定するボルト138、140の頭部に相対移動可能に支持されている。ブレーキレバー122,ストラット124は、それぞれ、板状部材であり、ストラット124を構成する2枚の板材の間にブレーキレバー122が挟まれた状態で、ブレーキレバー122とストラット124とがそれらの一端部において連結軸126の回りに相対回動可能に連結されている。ブレーキレバー122において、連結軸126からバッキングプレート100側に隔たった部分に設けられた係合部128にブレーキシュー110aが係合させられ、連結軸126からバッキングプレート100に平行な方向において隔たった端部に設けられた係合部130にケーブル22のインナケーブル87が連結されている。インナケーブル87は、バッキングプレート100に設けられた貫通孔132に一端が固定されたアウタチューブ134に案内されて、バッキングプレート100のブレーキシュー110等が配設された側とは反対側に伸び出させられている。
また、ストラット124において、連結軸126とは反対側の端部に設けられた係合部135にブレーキシュー110bが係合させられている。
なお、係合部130は、図示する状態においては、貫通穴132の(ケーブル22のバッキングプレート100への固定端の)中心線Nより、後退回転方向側に位置する。また、後述するように、押付機構120が円周方向に相対移動させられると、それに伴って係合部130も相対移動させられるが、設計上、中心線Nより前進回転方向側の位置まで相対移動させられることがないようにされている。
【0014】
押付機構120は、被支持部136,137においてボルト138、140の頭部に支持されており、インナケーブル87が引っ張られると、ブレーキレバー122が被支持部136とボルト138の頭部との接触点まわりに回動し、その結果、連結軸126およびストラット124が図5において右方へ移動させられ、ストラット124がブレーキシュー110bを右方へ押す。その際、ブレーキシュー110bからの反力がストラット124,連結126およびブレーキレバー122を介してブレーキシュー110aに伝達され、ブレーキシュー110aが図5において左方へ押される。ブレーキシュー110a,110bには、それぞれ、同じ大きさの拡開力が加えられて、拡開させられるのであり、その結果、ブレーキライニング116a,116bがドラム104の内周面102に互いに同じ大きさの力で押し付けられる。なお、ケーブル22に加えられた引張力は、ブレーキレバー122のレバー比に応じて倍力され、その倍力された力から、被支持部136,137とボルト138,140の頭部との間の摩擦力に応じた力を差し引いた大きさの拡開力として、ブレーキシュー110a,110bに加えられる。
【0015】
ドラム104にトルクが加えられている状態で、ドラムブレーキ18が作動させられると、ドラム104からブレーキシュー110a,110bに円周方向の力が加えられ、ブレーキシュー110a,110bの一方がアンカ部材106に当接させられ、いわゆるデュオサーボ効果が生じる。前進回転方向(車両が前進する場合の車輪の回転方向)Pのトルクが加えられると、自己サーボ効果によりブレーキシュー110aが拡開力のみによる場合より大きな力でドラム104に押し付けられる(接触面圧が増大させられる)。この自己サーボ効果による円周方向の力が拡開力と共に、アジャスタ108によってブレーキシュー110bに伝達され、ブレーキシュー110bはブレーキシュー110aよりも更に強くドラム104に押し付けられる。ブレーキシュー110bがアンカ部材106に当接させられ、制動トルクが発生させられる。後退回転方向(車両が後退する場合の車輪の回転方向)Qのトルクが加えられた場合には、逆に、ブレーキシュー110aがブレーキシュー110bよりも強くドラム104に押し付けられる。この場合のブレーキシュー110a,110bのドラム104への押付力は、ケーブル22の張力の大きさに応じた大きさとなるのであり、これら張力と制動可能トルクとの間には、図6に示す曲線で表される関係がある。車両が停止状態にあり、かつ、ブレーキライニング116a,116bとドラム内周面102との間の摩擦係数が一定である場合には、制動可能トルク、摩擦力、押付力、拡開力の間には一定の関係が成立し、拡開力が大きくなれば、押付力、摩擦力、制動可能トルクも大きくなる関係にある。したがって、例えば、張力と拡開力との関係に基づけば、張力と押付力との関係、張力と摩擦力との関係、張力と制動可能トルクとの関係を取得することが可能となる。
【0016】
電動モータ10は、図1に示すように、電動パーキングブレーキECU200の指令に基づいて制御される。電動パーキングブレーキECU200は、コンピュータを主体とするものであり、入出力部202,実行部204,記憶部206等を含む。入出力部202には、パーキングブレーキスイッチ(以下、単に、パーキングスイッチと略称する)210,張力センサ90(図2参照),電流検出部211等が接続されるとともに、駆動回路212を介して電動モータ10が接続される。電動モータ10が電動パーキングブレーキのアクチュエータである。
電動パーキングブレーキECU200は、CAN214を介して、車両に設けられた他のコンピュータ、例えば、スリップ制御ECU(VSCECU)220,エンジン・トランスミッションECU(ETCECU)222、イグニッションスイッチ225等に接続される。また、スリップ制御ECU220には前後加速度センサ226、車輪速センサ227が接続され、エンジン・トランスミッションECU222にはシフト位置センサ228が接続されており、前後加速度、シフト位置、車輪速(あるいは車速)等の情報がスリップ制御ECU220,エンジン・トランスミッションECU222,CAN214を介して、電動パーキングブレーキECU200に供給される。
【0017】
パーキングスイッチ210は、パーキングブレーキ18,20の作動(以下、パーキングブレーキ18,20の作動をロックと称することがある)を指示する場合、解除(以下、パーキングブレーキ18,20の解除をケーブル22,24のリリースあるいは単にリリースと称することがある)を指示する場合に、操作されるスイッチであり、例えば、ロック側操作部とリリース側操作部とを有するものとすることができる。ロック側操作部が操作された場合(以下、ロック指示操作が行われた場合と略称する)にはロック要求があるとされ、リリース側操作部が操作された場合(以下、リリース指示操作が行われた場合と略称する)にはリリース要求があるとされる。
張力センサ90は、前述のように、ケーブル22,24の張力を検出するものであり、図2に示すように運動変換機構12のハウジング80の内部に設けられる。
電流検出部211は、電動モータ10に実際に流れる電流値を検出するものである。電動モータ10に流れる電流値に基づけば、電動モータ10の作動状態がわかる。
シフト位置センサ228は、シフト操作部材230の位置を検出するものである。
前後加速度センサ226は、車両の前後方向の加速度を検出するものであるが、本実施例においては、前後加速度に基づいて車両の傾斜角度が取得される。
【0018】
電動パーキングブレーキシステムにおいて、パーキングブレーキ18,20がパーキングスイッチ210の操作に応じて作動させられる場合と、シフト操作部材230の操作に応じて作動させられる場合とがある。
パーキングスイッチ210のロック指示操作が行われると、電動モータ10が正方向に回転させられ、ケーブル22,24が引っ張られる。パーキングブレーキ18,20において、ブレーキシュー110a,110bが拡開させられ、ドラム104の内周面102に押し付けられて、パーキングブレーキ18,20が作動させられる。目標張力が、傾斜角度、シフト位置等に基づいて決定され、張力センサ90によって検出された実際の張力が目標張力に近づくように、電動モータ10が制御される。
リリース指示操作が行われると、電動モータ10が逆方向に回転させられ、ケーブル22,24が緩められる。パーキングブレーキ18,20において、ブレーキシュー110a,110bがリターンスプリング115により縮径させられ、パーキングブレーキ18,20が解除される。
また、シフト操作部材230の操作により、シフト位置が停止を表す位置(パーキング位置Pあるいはニュートラル位置N)から走行を表す位置(ドライブ位置Dあるいはリバース位置R)に切り換えられると、作用状態にあったパーキングブレーキ18,20が解除される。シフト操作部材230の車両の停止を表す位置から走行を表す位置への切換え操作は、運転者の発進意図に応じた操作であると考えられるため、パーキングスイッチ210のリリース指示操作が行われなくても、パーキングブレーキ18,20が自動で解除されるようにしたのである。
【0019】
通常、イグニッションスイッチ225がOFF状態からON状態に切り換えられると、イニシャルチェックが行われる。本実施例においては、図11,12のタイムチャートが示すように、時点T1においてイグニッションスイッチ225がON状態に切り換えられると、設定時間経過後の時点T2において電動パーキングブレーキECU200がON状態とされ(作動可能な電圧となり)、さらに、設定時間が経過した後の時点T3から、イニシャルチェックが開始される。
イニシャルチェックは、図7のフローチャートで表されるイニシャルチェックプログラムの実行に従って行われる。ステップ101(以下、S101と略称する。他のステップについても同様とする)において、電動パーキングブレーキシステムの状態が検出される。例えば、CAN214を介して情報が正常に受信されるか否か、電動モータ10が正常であるか否か、張力センサ90、パーキングスイッチ210等が正常であるか否か、断線箇所が有るか否か等が検出される。そして、S102において、システムが正常であるか否かが判定される。正常である場合には、S102の判定がYESとなり、S103において、電動パーキングブレーキシステムの作動が許可されるのであり、電動モータ10の作動が許可される。異常であり、作動させることが望ましくない場合には、S102の判定がNOとなり、S104において、電動パーキングブレーキシステムの作動が禁止されるのであり、電動モータ10の作動が禁止される。
イニシャルチェックに要する時間は、ΔTche(T4−T3)であり、時点T3に開始され、時点T4に終了する。したがって、システムが正常である場合には、時点T4以降は、電動モータ10の作動が許可されることになる。以下、システムが正常であり、イニシャルチェックの終了以降に、電動モータ10の作動が許可される場合について説明する。
【0020】
従来、イニシャルチェック中には、シフト位置の確認が行われていなかったが、本実施例においては、シフト位置の確認が行われる。厳密にいえば、図11,12のタイムチャートに示すように、イニシャルチェックが開始される時点T3より前の、電動パーキングブレーキECU200がON状態とされてから(時点T2から)設定時間が経過した時点T5からシフト位置の確認が開始される。シフト操作が、イグニッションスイッチ225がON状態に切り換えられた後の早い時期に行われた場合に、そのシフト位置の変化を検出するためには、シフト位置をできる限り早期に確認する必要があるからである。
シフト位置は、シフト位置センサ228によって検出され、シフト位置を表す情報が、CAN214を介して予め定められた設定時間(以下、受信時間と称する)毎に通信によって供給される。電動パーキングブレーキECU200において、予め定められた受信時間(受信間隔)毎に、シフト位置を表す情報が受信されるのであり、その受信された情報からシフト位置が読み込まれる。そして、同じ位置を表す情報が、受信時間に対して充分に長い設定時間(位置確認時間)の間受信された場合に、そのシフト位置であると暫定的に確認される。換言すれば、予め定められた位置確認時間に対応する位置確認回数(位置確認時間/受信時間)以上、同じシフト位置を表す情報が受信された場合に、そのシフト位置であると暫定的に確認されるのである。
【0021】
図8のフローチャートで表されるシフト位置確認ルーチンは、CAN214を介して情報が受信される毎に実行される。S1において、CAN214を経て受信された情報からシフト位置が読み込まれ、S2において、前回読み込んだシフト位置と同じであるか否かが判定される。同じである場合には、S3において、同じ情報が継続して検出される時間が設定時間(位置決定時間)以上になったか否かが判定される。位置確認時間の間、同じ情報が受信された場合には、S4において、そのシフト位置であると暫定的に確認される。位置確認時間の計測は最初にS2の判定がYESとなった時点から開始され、前回と異なるシフト位置が検出され、S2の判定がNOとなった場合にリセットされる。
【0022】
シフト操作部材230の操作により、第1シフト位置(以下、第1位置と略称する)から第2シフト位置(以下、第2位置と略称する)に切り換えられた場合、すなわち、シフト位置が、第1位置から第2位置に変化させられた場合において、その暫定的に確認されたシフト位置が第1位置である場合には、電動モータ10の作動が許可されているか否かに関係なく、本確認(特許請求の範囲に記載の確認に対応する)される。それに対して、第2位置である場合には、電動モータ10の作動が許可されている場合には、暫定的に確認されるとともに本確認されるが、暫定的に確認された時点において電動モータ10の作動が許可されていない場合には、許可以降に本確認(特許請求の範囲の確認に対応する)される。また、本実施例においては、第1位置が本確認され、かつ、第2位置が本確認されると、シフト位置の変化が確認される。そして、シフト変化確認フラグがセットされる。
【0023】
シフト位置の変化が確認されると、シフト位置の変化が、停止を指示する位置(パーキング位置あるいはニュートラル位置)から走行を指示する位置(ドライブ位置あるいはリバース位置)への変化であるか否かが判定される。シフト操作部材230の操作により、停止を指示する位置から走行を指示する位置へ切り換えられた場合には、パーキングブレーキ18,20が解除される。このシフト位置の変化に伴うパーキングブレーキ18,20の解除をシフト連動リリース制御と称する。
【0024】
図9にシフト変化確認ルーチンを表すフローチャートを示す。シフト変化確認ルーチンは予め定められた設定時間毎に実行される。
S11において、第1位置が本確認済みであるか否かが判定される。本確認されていない場合には、S12において、第1位置が暫定的に確認されたか否かが判定される。図7のフローチャートで表されるシフト位置確認ルーチンの実行によって、シフト位置が暫定的に確認されたか否かが判定されるのである。例えば、シフト位置確認ルーチンの実行後位置確定時間が経過する前である場合等暫定的なシフト位置の確認がされていない場合には、S12の判定がNOとなる。その場合には、S11,12が繰り返し実行され、シフト位置が暫定的に確認されると、S13において、その位置が読み込まれ、第1位置として本確認される(P1)。この場合には、暫定的に確認されるとともに本確認される。
【0025】
次に、S14において、電動モータ10の作動が許可されているか否かが判定される。例えば、イニシャルチェックが終了していない場合等、電動モータ10の作動が許可されていない場合には、S14の判定がNOとなる。電動モータ10の作動が許可されるまで、S11,14が繰り返し実行されることになる。この場合には、第1位置は本確認されているので、S12,13が実行されることはない。
イニシャルチェックが終了して、電動モータ10の作動が許可されると、S14の判定がYESとなり、S15において、シフト位置確認ルーチンの実行によって暫定的に確認されたシフト位置P2が読み込まれ、S16において、第1位置P1と今回読み込まれたシフト位置P2とが同じであるか否かが判定される。同じである場合(P1=P2)には、S16の判定がNOとなる。シフト位置が変更されていないとされ、第2位置が本確認されることがない。それに対して、シフト位置P2が第1位置P1と異なる場合には(P1≠P2)、S16の判定がYESとなり、S17において、第2位置P2が本確認されるとともに、シフト位置の変化が確認され、S18において、シフト変化確認フラグがセットされる。
このように、電動モータ10の作動許可前に、第2位置が暫定的に確認された場合には、電動モータ10の作動が許可されるのを待って、本確認されることになるが、電動モータ10の作動許可以降に、第2位置が暫定的に確認された場合には、暫定的に確認されるとともに本確認されることになる。そして、第1位置P1と、第2位置P2(第1位置とは異なる位置)との両方が本確認されると、シフト位置の変化が確認されることになる。
【0026】
図10に電動モータ制御プログラムを表すフローチャートを示す。電動モータ制御プログラムは予め定められた設定時間毎に実行される。
S31、32において、車両が停止中であるか否か、パーキングブレーキ18,20が作用中であるか否かが判定される。CAN214を介して供給される車輪速を表す情報、あるいは、車速を表す情報に基づき、車両が停止状態にあるとみなし得る設定速度以下である場合に、停止中であるとされる。
停止中でない場合、あるいは、パーキングブレーキ18,20が作用中でない場合には、S33以降が実行されることはない。
車両が停止状態にあり、かつ、パーキングブレーキ18,20が作用中である場合には、S33において、シフト変化確認フラグおよび第1位置P1、第2位置P2が読み込まれ、シフト変化確認フラグがセット状態にあるか否かが判定される。セット状態にある場合には、S34、35において、第1位置P1がパーキング位置、ニュートラル位置のいずれか(停止を表す位置)であるか否か、第2位置P2がドライブ位置、リバース位置のいずれか(走行を表す位置)であるか否かが判定される。すなわち、シフト位置の変化が、停止を指示する位置から走行を指示する位置への変化であるか否かが判定されるのである。パーキング位置、ニュートラル位置のいずれか一方からドライブ位置、リバース位置のいずれか一方に切り換えられた場合には、S36において、パーキングブレーキ18,20の解除指令(ケーブル22,24のリリース指令)が出力される。
このように、本実施例においては、第2位置P2が電動モータ10の作動許可以降に本確認されるとともにシフト位置の変化が確認されて、リリース指令が出力される。そのため、シフト切換え操作が電動モータ10の作動許可前に行われて、第2位置P2が作動許可前に暫定的に確認されても、第2位置P2の本確認が作動許可以降に行われ、変化の確認が行われるため、変化の確認に応じて電動モータ10を確実に作動させることが可能となり、シフト連動リリース制御を確実に行わせることが可能となる。また、電動モータ10の作動許可前であっても、第1位置が本確認されるため、イグニッションスイッチ225がOFF状態からON状態に切り換えられた後の早い時期に、運転者によってシフト操作部材230の操作が行われても、第1位置の本確認を行うことが可能となる。その結果、シフト操作部材230の操作に伴うシフト位置の変化をより確実に検出することが可能となる。
【0027】
リリース制御が行われると、パーキングブレーキ18,20が作用状態でなくなるため、S32の判定がNOとなる。また、車両が発進した場合には、停止中でなくなるため、S31の判定がNOとなるのであり、S33以降が実行されることがない。
さらに、S34、35のいずれか一方の判定がNOである場合には、リリース指令が出力されることはない。例えば、イグニッションスイッチ225がOFF状態からON状態に切り換えられてから、シフト操作部材230の操作により、パーキング位置からニュートラル位置に切り換えられた場合には、S35の判定がNOとなる。運転者に発進意図があるとはいえないため、リリース制御が行われないのである。その後、ニュートラル位置からドライブ位置あるいはリバース位置への切換え操作が行われることが多いため、シフト変化確認プログラムにおいて、S11〜13において、第1位置がニュートラル位置として本確認され、その後、S11,14〜16が繰り返し実行されるうちに、ドライブ位置あるいはリバース位置に切り換えられると、S16の判定がYESとなり、S17において、第2位置(ドライブ位置あるいはリバース位置)が本確認されるとともにシフト変化が確認され、S18において、シフト変化確認フラグがセットされる。電動モータ制御プログラムにおいて、S31,32,33の判定がYESとなるが、ニュートラル位置からドライブ位置あるいはリバース位置へ切り換えられた場合には、S34,35の判定がYESとなり、S36において、リリース指令が出力されることになる。
なお、シフト変化確認フラグは、シフト変化確認ルーチンにおいて、予め定められた設定時間の間だけセットされ、その後にリセットされるようにすることができる。シフト変化確認フラグがリセットされると、第1位置P1、第2位置P2を表す情報もクリアされる。
【0028】
本実施例に係る電動パーキングブレーキシステムにおける作動を、従来のシステムにおける作動と比較しつつ、図11,12のタイムチャートに従って説明する。
従来の電動パーキングブレーキシステムにおいて、イグニッションスイッチ225がOFF状態からON状態に切り換えられてからイニシャルチェックが終了するまでの間(時点T1〜時点T4)、シフト位置の確認が行われていなかった。その場合のシフト位置の本確認が行われる状態を、図11,12のパターンA1〜 E1(確認シフト1)に示す。なお、従来の電動パーキングブレーキシステムにおいては、暫定的な確認と本確認とは同じことであり、第1位置についても第2位置についても暫定的に確認されるとともに本確認される。
パターンA(CANシフト)が示すように、シフト操作部材230の切換え操作が、イニシャルチェック終了後のパーキング位置が本確認された時点(T6)以降(換言すれば、イニシャルチェック終了時から位置確認時間の経過後)に行われた場合には、シフト位置の変化を確認することができるため、それに応じてパーキングブレーキ18,20を解除することができる。しかし、パターンB(CANシフト)が示すように、切換え操作が、イニシャルチェック終了後であっても、パーキング位置の本確認がされる前(時点T6前)に行われた場合には、シフト位置の変化を確認することができず、パーキングブレーキ18,20を解除することができなかった。まして、パターンC〜Eに示すように、切換え操作がイニシャルチェック終了前に行われた場合には、シフト位置の変化を確認することができず、シフト連動リリース制御を行うことができなかった。
【0029】
次に、イニシャルチェックが終了する前であっても、シフト位置の確認が行われるようにした場合に、本確認が行われる状態を、図11、12のパターンA2〜E2(確認シフト2)に示す。この場合においても暫定的確認と本確認とは同じことであり、第1位置についても第2位置についても暫定的に確認されるとともに本確認される。
パターンA2〜E2が示すように、シフト位置確認ルーチンの開始時(時点T5)から位置確認時間が経過した時点T7の早い段階で、第1位置(パーキング位置)を本確認することが可能となる。その結果、パーキング位置からドライブ位置への切換え操作が、パターンBが示すように、イニシャルチェックの終了後の時点T6以前に行われても、パターンC,Dに示すように、イニシャルチェック終了前に行われても、イニシャルチェック後に、第2位置(ドライブ位置)が本確認されれば、それに応じて、パーキングブレーキ18,20を解除することが可能となる。
しかし、パターンE2が示すように、さらに早い時期(本確認がイニシャルチェック終了時に行われ得る時点T9前)において、運転者によってシフト操作部材230の切換え操作が行われ、イニシャルチェック終了前に第2位置(ドライブ位置)が本確認された場合には、電動モータ10の作動が禁止された状態にあるため、リリース指令が出力されても、パーキングブレーキ18,20を解除することができなかった。
それに対して、パターンE3(確認シフト3)が示すように、イニシャルチェック終了前の時点T8において第2位置が暫定的に確認されても、許可以降の時点T4において本確認されて、シフト変化が確認されるようにすれば、その変化の確認に伴ってリリース指令が出力され、パーキングブレーキ18,20が解除される。このように、イグニッションスイッチ225のOFF状態からON状態への切換え後の早い時期に、シフト操作が行われても、確実に、シフト連動リリーフ制御が行われるようにすることができる。
【0030】
以上のように、本実施例においては、電動パーキングブレーキECU200のうち図10のフローチャートで表される電動モータ制御プログラムを記憶する部分、実行する部分等、図9のフローチャートで表されるシフト変化確認ルーチンを記憶する部分、実行する部分等、図8のフローチャートで表されるシフト位置確認ルーチンを記憶する部分、実行する部分等により、ブレーキ解除装置が構成される。ブレーキ解除装置は、シフト操作対応解除部、許可以降ブレーキ解除部でもある。許可以降ブレーキ解除部のうちのシフト位置確認ルーチンを記憶する部分、実行する部分、シフト変化確認ルーチンのS11〜S13を記憶する部分、実行する部分等により禁止中シフト位置確認部が構成され、禁止中シフト位置確認部およびシフト変化確認ルーチンのS14〜17を記憶する部分、実行する部分等により遅延位置確認部が構成される。また、図8のフローチャートで表されるシフト位置確認ルーチンを記憶する部分、実行する部分等によりシフト位置確認部が構成される。
【0031】
なお、シフト連動リリース制御は、停止信号等で車両が走行後停止した場合に、パーキングブレーキ18,20が作動させられた場合に適用することもできる。この場合には、電動モータ10の作動は許可されているため、シフト変化確認ルーチンにおいて、S14の判定がNOとなることはない。S11〜13において、第1位置が本確認されるが、第2位置が第1位置と異なる場合には、S17において、第2位置が本確認されるとともにシフト変化が確認され、S18において、シフト変化確認フラグがセットされる。電動モータ制御プログラムにおいて、車両が停止中にあって、パーキングブレーキ18,20が作用状態にある場合には、S31,32の判定がYESとなる。シフト変化確認フラグはセットされているため、S34,35において、シフト位置の変化が、停止を指示する位置から走行を指示する位置への変化であるか否かが判定される。S34,35の判定がYESである場合には、リリース指令が出力される。運転者は、パーキングスイッチ210のリリース指示操作を行わなくても、シフト操作に連動して、パーキングブレーキ18,20が自動で解除されることになる。
【0032】
それに対して、停止中に、エンジンが自動で停止・始動可能な車両においては、エンジンの始動後に、シフト操作部材230が、停止を表す位置から走行を表す位置へ操作されると、パーキングブレーキ18,20が自動で解除されることがある。
エンジンが自動で停止・始動可能な車両においては、補助電源を設けたり、コンバータ(昇圧器)を設けたりして、エンジンが停止状態にあっても、ETCECU222,PKBECU200等の電圧が低下して作動不能になったり、電動モータ10等のアクチュエータの電源電圧が低下して作動不能になったりしないようにされているのが普通である。
しかし、これら補助電源やコンバータ等が設けられない車両においては、エンジン停止中やエンジン始動直後において、電動パーキングブレーキECU200の作動が禁止されたり、電動モータ10の作動が禁止されたりすることがあり、上記実施例において、イグニッションスイッチ225がOFF状態からON状態に切り換えられた場合と同様の状態となる場合がある。その場合には、電動パーキングブレーキECU200の作動が可能となった時点(時点T2に対応する時点)から設定時間経過後(時点T5に対応する時点)から、シフト位置の暫定的な確認が開始され、電動モータ10の作動の許可以降(電源電圧が回復した以降)に、第2位置の本確認が行われるとともにシフト位置の変化が確認されて、電動モータ10のリリース制御指令が出力されるようにすることは有効である。運転者によって、シフト操作部材230の操作が電動モータ10の作動が許可される前に行われても、パーキングブレーキ18,20を自動で解除することが可能となる。
【0033】
なお、エンジンが自動で停止・始動可能な車両において、エンジン停止中であって、エンジン始動前はブレーキが解除されないようにされている場合には、エンジン始動時までは、電動モータ10の作動が禁止された状態にあると考えることもできる。この場合には、制御において、電動モータ10の作動が禁止されることになる。
【0034】
また、上記実施例においては、第2位置の本確認が電動モータ10の作動許可以降に行われることにより、電動モータ10の作動許可以降に、シフト位置の変化が確認されるようにされていたが、作動許可前に第1位置、第2位置が本確認され、シフト位置の変化が、作動許可以降に確認されるようにすることもできる。
図13のフローチャートで表すシフト位置検出プログラムの実行において、電動モータ10の作動が許可されているか否かとは関係なく、第1位置、第2位置が本確認されて、シフト位置の変化が検出される。図9のフローチャートで表されるシフト位置確認プログラムと比較すると、S14のステップがなく、S17′において、第2位置が本確認されて、シフト位置の変化が検出され、S18′においてシフト位置検出フラグがセットされる点が異なるが他の点については同じである。
図14のフローチャートで表す電動モータ制御プログラムの実行において、シフト変化検出フラグがセットされている場合には、電動モータ10の作動の許可以降に、変化が確認されて、リリース指令が出力される。S51,52において、停止中であるか否か、パーキングブレーキ18,20が作用中であるか否かが判定される。両方の判定がYESである場合には、S53において、シフト変化検出フラグがセット状態にあるか否かが判定され、S54において、第1位置、第2位置が読み込まれて記憶される。S55において、電動モータ10の作動が許可されたか否かが判定される。許可前である場合には、許可されるのが待たれる。許可されると、S56において、シフト位置の変化が確認されて、S57、58において、第1位置P1が停止を表す位置であるか否か、第2位置P2が走行を表す位置であるか否かが判定される。S57,58における判定がいずれもYESである場合には、S59において、リリース指令が出力され、S60において、S54において記憶された第1位置P1、第2位置P2を表す情報がクリアされる。
このように、本実施例においては、電動モータ10の作動が許可されているか否かとは関係なく、第1位置、第2位置が本確認されるが、シフト位置の変化が、電動モータ10の作動の許可以降に確認されることになる。そのため、上記実施例における場合と同様に、電動モータ10の作動の許可前にシフト操作が行われても、許可以降に変化が確認されるため、パーキングブレーキ18,20を解除することが可能となる。
また、S57,58のいずれか一方における判定がNOである場合には、リリース指令は出力されないが、S60において、記憶された第1位置P1,第2位置P2を表す情報がクリアされる。
以上のように、本実施例においては、電動パーキングブレーキECU200の図8のフローチャートで表されるシフト位置確認ルーチン、図13のフローチャートで表されるシフト変化検出ルーチンのS11〜17′を記憶する部分、実行する部分等により、シフト位置確認部が構成され、図14のフローチャートで表される電動モータ制御プログラムのS54〜56を記憶する部分、実行する部分等により遅延変化確認部が構成される。
【0035】
また、シフト位置センサ228に加えて、オートマチックトランスミッションの状態(例えば、複数のソレノイドバルブのソレノイドへの電流の供給状態等:シフト位置に対応)に基づいてシフト位置を検出する手段を設けることもできる。車両の停止状態においては、シフト操作部材230の位置とトランスミッションにおける状態とは、原則として、対応するのが普通である。しかし、トランスミッションにおけるソレノイド等の制御は、シフト位置センサ228による検出結果に基づいて行われるため、トランスミッションの状態は、シフト位置センサ228によるシフト位置の変化の検出に遅れて変化させられることになる。そのため、パーキングブレーキ18,20の解除指令が、トランスミッションの状態が実際に変化された後に、出力されるようにすることは妥当なことである。本実施例においては、シフト操作部材230の位置の変化が検出され、かつ、トランスミッションの状態が実際に変化したことが検出された後に、パーキングブレーキ18,20が解除されることになる。
【0036】
さらに、上記実施例においては、パーキング位置あるいはニュートラル位置からドライブ位置あるいはリバース位置に切り換えられた場合に、ブレーキが解除されるようにされていたが、パーキング位置からドライブ位置あるいはリバース位置に切り換えられた場合に、ブレーキが解除されるようにすることができる。
また、電動パーキングブレーキ機構の構造は、上記実施例におけるそれに限らない。例えば、運動変換機構12は、電動モータ10の出力軸に設けられたギヤに、ケーブル22,24の共通部分(イコライザが設けられた位置よりパーキングブレーキとは反対側の部分)を直接巻き付けた構造を成したものとすることもできる。ケーブルの共通部分は、ギヤの接線方向に延び、電動モータ10の回転により直線的に移動させられる(引っ張られたり、緩められたりする)ことになる。運動変換機構は、さらに、複数のギヤを含むものとすることができ、ウォーム、ウォームホイールを含むものとすることができる。その場合には、クラッチは不要となる。
また、パーキングブレーキは、ユニサーボ型のドラムブレーキとしたり、ディスクブレーキとしたりすることもできる。さらに、電動モータ10は超音波モータとすることもでき、その場合には、クラッチは不可欠ではない。
その他、本発明は、前述に記載の態様の他、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した態様で実施することができる。
【特許請求可能な発明】
【0037】
本明細書の記載の発明のうち、以下の発明は、特許請求の範囲に記載の発明とは別に、特許請求可能である。
(a)摩擦面を有して車輪と共に回転する回転体と、非回転体に相対移動可能に取り付けられた摩擦材と、その摩擦材を前記回転体の摩擦面に押し付ける押付機構とを含むブレーキと、(b)電動モータと、(c)その電動モータの回転軸の回転を出力部材の直線移動に変換する運動変換装置と、(d)一端部において、前記運動変換装置の出力部材に連結されるとともに、他端部において、前記押付機構に連結された連結部と、(e)前記電動モータに電流が供給されない状態で、前記ブレーキにおける前記摩擦材の前記摩擦面への押付力を保持する保持機構とを含む電動パーキングブレーキ機構と、
シフト操作部材の位置の変化に応じて、前記電動モータを作動させて、前記ブレーキを解除するブレーキ解除装置と
を含む電動パーキングブレーキシステムにおいて、
前記ブレーキ解除装置が、車両のイグニッションスイッチのOFF状態からON状態への切換時からイニシャルチェックの終了時までの間に、前記シフト操作部材の位置であるシフト位置を確認する禁止中シフト位置確認部を含むことを特徴とする電動パーキングブレーキシステム。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の一実施例である電動パーキングブレーキシステム全体を示す図である。
【図2】上記電動パーキングブレーキシステムに含まれる電動モータおよび運動変換機構を表す一部断面図である。
【図3】上記運動変換機構のAA断面図(クラッチの断面図)である。
【図4】上記電動パーキングブレーキシステムに含まれるドラムブレーキの正面図である。
【図5】上記ドラムブレーキの押付機構の正面図である。
【図6】上記電動パーキングブレーキシステムにおける張力と制動可能トルクとの関係を示す図である。
【図7】上記電動パーキングブレーキシステムに含まれる電動パーキングブレーキECU200の記憶部に記憶されたイニシャルチェックプログラムを表すフローチャートである。
【図8】上記電動パーキングブレーキECU200の記憶部に記憶されたシフト位置確認ルーチンを表すフローチャートである。
【図9】上記電動パーキングブレーキECU200の記憶部に記憶されたシフト変化確認ルーチンを表すフローチャートである。
【図10】上記電動パーキングブレーキECU200の記憶部に記憶された電動モータ制御プログラムを表すフローチャートである。
【図11】上記電動パーキングブレーキシステムにおける作動を従来のシステムと比較して示す図である。
【図12】上記電動パーキングブレーキシステムにおける別の作動を従来のシステムと比較して示す図である。
【図13】上記電動パーキングブレーキECU200の記憶部に記憶された別のシフト変化検出ルーチンを表すフローチャートである。
【図14】上記電動パーキングブレーキECU200の記憶部に記憶された別の電動モータ制御プログラムを表すフローチャートである。
【符号の説明】
【0039】
10:電動モータ 12:クラッチ付き運動変換機構 18,20:パーキングブレーキ 22,24:ケーブル 30:電動パーキングブレーキ機構 200:電動パーキングブレーキECU 228:シフト位置センサ 230:シフト操作部材
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動パーキングブレーキシステムにおいて、シフト操作に伴うブレーキの自動解除に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、電動パーキングブレーキシステムにおいて、シフト位置がニュートラル位置あるいはパーキング位置にある状態が予め定められた設定時間以上継続した場合には、パーキングブレーキが自動で作動させられ、ドライブ位置、リバース位置にある状態が設定時間以上継続した場合には、パーキングブレーキが自動で解除されることが記載されている。特許文献2には、シフト位置が、ドライブ位置以外からドライブ位置に切り換えられた場合、リバース位置以外からリバース位置に切り換えられた場合に、パーキングブレーキが自動で解除されることが記載されている。
【特許文献1】特開平7−144623号公報
【特許文献2】特開2003−327101号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の課題は、電動モータの作動が禁止されている間にシフト操作が行われた場合であっても、ブレーキを自動で解除可能とすることである。
【課題を解決するための手段および効果】
【0004】
本願請求項1の発明に係る電動パーキングブレーキシステムは、(I)(a)摩擦面を有して車輪と共に回転する回転体と、非回転体に相対移動可能に取り付けられた摩擦材と、その摩擦材を前記回転体の摩擦面に押し付ける押付機構とを含むブレーキと、(b)電動モータと、(c)その電動モータの回転軸の回転を出力部材の直線移動に変換する運動変換装置と、(d)一端部において、前記運動変換装置の出力部材に連結されるとともに、他端部において、前記押付機構に連結された連結部と、(e)前記電動モータに電流が供給されない状態で、前記ブレーキにおける前記摩擦材の前記摩擦面への押付力を保持する保持機構とを含む電動パーキングブレーキ機構と、(II)シフト操作部材の位置の変化に応じて、前記電動モータを作動させて、前記ブレーキを解除するブレーキ解除装置とを含む電動パーキングブレーキシステムにおいて、前記ブレーキ解除装置が、前記電動モータの作動が禁止されている間に、前記シフト操作部材の位置であるシフト位置が変化させられた場合に、その電動モータの作動が許可された以降に、前記変化を確認して、前記ブレーキを解除する許可以降ブレーキ解除部を含むものとされる。
電動パーキングブレーキ機構において、電動モータが作動させられると、電動モータの回転軸の回転が出力部材の直線運動に変換されて、連結部が引っ張られる。ブレーキにおいて、押付機構により摩擦材が摩擦面に押し付けられて、ブレーキが作動させられる。ブレーキにおける押付力は、電動モータに電流が供給されなくても保持機構により保持される。
本電動パーキングブレーキシステムにおいて、シフト位置の変化に応じてブレーキが電動モータの作動により解除される。例えば、請求項5に記載のように、シフト操作部材が、ニュートラル位置、パーキング位置等の停止を指示する位置から、ドライブ位置、リバース位置等走行を指示する位置に切り換えられることによって、シフト位置が変化させられた場合には、運転者の発進意図があるとされて、電動モータの作動により、自動でブレーキが解除されるのである。
また、電動モータの作動が禁止されている間にシフト位置が変化させられた場合には、その変化が電動モータの作動が許可された以降に確認される。そして、シフト位置の変化の確認に応じて、電動モータが作動させられる。その結果、シフト操作が電動モータの作動が禁止されている間に行われても、ブレーキを解除することが可能となる。シフト位置の変化は、電動モータの作動が許可されると同時に確認されるようにしても、作動が許可された後に確認されるようにしてもよい。
シフト位置の「変化の確認」は、変化が検出されるとともに確認される場合と、検出された後に確認される場合とがある。例えば、電動モータの作動の許可以降に、シフト位置の変化が検出された場合には、変化の検出とともに変化が確認される。また、電動モータの作動が許可される前に、シフト位置の変化が検出された場合には、許可以降に確認されることになる。
また、シフト位置が、第1シフト位置から第2シフト位置に切り換えられた場合において、第2シフト位置が確認されるとともにシフト位置の変化が確認される場合と、第2シフト位置が確認された後にシフト位置の変化が確認される場合とがある。例えば、第2シフト位置が、電動モータの作動が許可された以降に確認される場合には、第2シフト位置の確認とともに変化が確認されることになる。第2シフト位置が電動モータの作動の許可前に確認された場合には、電動モータの作動の許可前に変化が検出されるが、変化の確認は、電動モータの作動の許可以降になる。
請求項2に記載の電動パーキングブレーキシステムにおいて、前記電動モータの作動が、少なくとも、車両のイグニッションスイッチのOFF状態からON状態への切換時からイニシャルチェックの終了時までの期間を含む間禁止され、前記許可以降ブレーキ解除部が、前記シフト位置を、前記電動モータの作動が禁止されている間に確認する禁止中シフト位置確認部を含む。
電動モータの作動は、少なくとも、イグニッションスイッチがOFF状態からON状態に切り換えられてから、イニシャルチェックが終了するまでの期間を含む間、禁止される。イニシャルチェックにおいて、異常であると検出された場合には、イニシャルチェックの終了後においても禁止されるが、正常であると検出された場合には、イニシャルチェック終了後に許可される。したがって、電動モータの作動は、システムが正常である場合にはイニシャルチェックが終了するまで禁止され、異常である場合にはその後も禁止された状態が継続することになる。
本電動パーキングブレーキシステムにおいては、電動モータの作動が禁止されている間においてもシフト位置の確認が行われる。厳密にいえば、禁止中であって、かつ、コンピュータの作動が許可された後において、確認が行われることになる。そのため、運転者がイニシャルチェックの終了前にシフト操作部材の操作を行っても、その場合の位置を確認することができる。禁止中シフト位置確認部は、第1シフト位置を確認するが第2シフト位置は確認しないものであっても、第1シフト位置と第2シフト位置との両方を確認するものであってもよい。
請求項3に記載の電動パーキングブレーキシステムには、前記シフト操作部材の位置を検出するシフト位置センサが含まれ、前記許可以降ブレーキ解除部が、そのシフト位置センサによって検出された位置が、予め定められた設定時間以上同じである場合に、その位置を第1のシフト位置として確認し、前記シフト位置センサによって検出された、その第1のシフト位置とは異なるシフト位置が、予め定められた設定時間以上同じであり、かつ、前記電動モータの作動が許可された以降に、その位置を第2のシフト位置として確認して、前記シフト位置の変化を確認する遅延位置確認部を含む。
本電動パーキングブレーキシステムにおいては、第2のシフト位置が確認されるとシフト位置の変化が確認される。また、第1のシフト位置は、シフト位置センサによって、予め定められた設定時間以上同じ位置が検出された場合に確認されるのであり、電動モータの作動が許可されていなくても、すなわち、作動が許可されていても許可されていなくても確認される。
請求項4に記載の電動パーキングブレーキシステムには、(a)前記シフト操作部材の位置を検出するシフト位置センサと、(b)そのシフト位置センサによって検出されたシフト位置が、予め定められた設定時間以上同じである場合に、そのシフト位置を確認するシフト位置確認部とが含まれ、前記許可以降ブレーキ解除部が、前記電動モータの作動が禁止されている間に、前記シフト位置確認部によって、第1のシフト位置と、その第1のシフト位置とは異なる第2のシフト位置との両方が確認された場合に、前記電動モータの作動が許可された以降に、前記シフト位置の変化を確認する遅延変化確認部を含む。
電動モータの作動が禁止されている間に、第1シフト位置と第2シフト位置とが確認されて、変化が検出された場合には、電動モータの作動が許可された以降に、変化が確認される。電動モータの作動が禁止されている間に検出された変化は、電動モータの作動が許可されるまで記憶されていると考えることができる。
請求項5に記載の電動パーキングブレーキシステムにおいて、前記許可以降ブレーキ解除部が、前記シフト位置が停止を表す位置から走行を表す位置に切り換えられた場合に、前記ブレーキを解除するシフト操作対応解除部を含む。
例えば、パーキング位置あるいはニュートラル位置からドライブ位置あるいはリバース位置へ切り換えられた場合にブレーキが解除されるようにしたり、パーキング位置からドライブ位置あるいはリバース位置へ切り換えられた場合に解除されるようにして、ニュートラル位置からドライブ位置あるいはリバース位置へ切り換えられた場合には解除されないようにしたりすることができる。
【実施例】
【0005】
本発明の一実施例である電動パーキングブレーキシステムを図面に基づいて詳細に説明する。
図1において、符号10は電動モータを示し、符号12はクラッチ付き運動変換機構を示す。クラッチ付き運動変換機構12は、電動モータ10の出力軸の回転を出力部材の直線運動に変換するとともに、出力部材に加えられる力によって電動モータ10が回転させられることを防止する。また、符号14,16は左右後輪を示し、符号18,20は車両の車輪14,16にそれぞれ設けられたパーキングブレーキを示す。パーキングブレーキ18,20とクラッチ付き運動変換機構12とは、それぞれ、ケーブル22,24によって連結されている。ケーブル22,24が、電動モータ10の作動により引っ張られると、パーキングブレーキ18,20が作用する状態とされる。本実施例においては、電動モータ10,クラッチ付き運動変換機構12,ケーブル22,24、パーキングブレーキ18,20等により電動パーキングブレーキ機構30が構成されている。
【0006】
クラッチ付き運動変換機構12は、図2に示すように、ギヤ列40,クラッチ42,ねじ機構44等を含む。
ギヤ列40は、複数のギヤ46,48,50から成る。ギヤ46には、電動モータ10の出力軸52が噛合され、ギヤ46の回転が、ギヤ48を経てギヤ50に伝達される。ギヤ50の電動モータ10とは反対側の端面には、軸線方向と平行に突出する駆動伝達部54が設けられている。また、出力軸52はギヤとしての機能を有する。
クラッチ42は、一方向クラッチであり、図3に示すように、ハウジング60と、そのハウジング60の内周側に設けられたコイルスプリング62と、クラッチ42の出力軸64と一体的に回転可能なロータ66とを含む。コイルスプリング62は、巻径が弾性的に僅かに収縮させられた状態でハウジング60に嵌合されており、それの外周面がハウジング60の内周面に密着し、素線の端部68,70が、それぞれ、内周側に向かって突出させられた状態で設けられている。また、ギヤ50の駆動伝達部54が2つの端部68,70で挟まれた2つの空間の一方に位置し、ロータ66が他方に位置する。
【0007】
電動モータ10の回転に伴ってギヤ50が回転すると、駆動伝達部54が端部68,70のいずれか一方に当接し、コイルスプリング62が巻き締められてハウジング60の内周面とスプリング62の外周面との間の摩擦力が小さくなる。それによって、コイルスプリング62,ロータ66が回転可能となり、出力軸64を回転させる。出力軸64はギヤ50と一体的に回転させられるのであり、クラッチ42によって、電動モータ10の回転が出力軸64に伝達されることになる。
電動モータ10に電流が供給されない状態において、出力軸64にトルクが加わると、ロータ66が端部68,70のいずれか一方に当接し、それによって、コイルスプリング62が拡径させられる。コイルスプリング62の外周面とハウジング60の内周面との間の摩擦力が大きくなり、コイルスプリング62の回転は阻止される。クラッチ42によって、出力軸64のトルクのギヤ50への伝達が阻止され、電動モータ10に電流が供給されない状態において、出力軸64に加えられるトルクによって電動モータ10が回転させられることはないのである。
【0008】
ねじ機構44は、ハウジング80と、軸線Lと平行な方向に延びた雄ねじ部材82と、雄ねじ部材82に螺合させられた図示しないナットと、ナットに軸線Mの回りに回動可能に取り付けられたイコライザ84とを含む。雄ねじ部材82は、一対のラジアルベアリング85(他方は図示は省略する)、ニードルスラストベアリング86を介して、ハウジング80に相対回転可能に支持される。イコライザ84の両アームには、それぞれ、ケーブル22,24のインナケーブル87が連結されている。イコライザ84の本体には係合突部88が設けられ、図示は省略するが、ハウジング80に、軸線Lと平行な方向に設けられたガイド部に係合させられる。その結果、イコライザ84は、ハウジング80に、軸線Lを中心とした相対回転不能、軸線Lと平行な方向に相対移動可能、かつ、係合突部88の回り(軸線Mの回り)に相対回動可能となっている。
【0009】
イコライザ84は、図2に実線で示す位置と二点鎖線で示す位置との間で、ハウジング80に対して相対移動可能とされており、イコライザ84の相対移動に伴ってケーブル22,24のインナケーブル87が引っ張られたり、緩められたりする。また、イコライザ84は、2つのケーブル22,24のインナケーブル87に加えられる張力(以下、単にケーブル22,24の張力という)が同じになるように、係合突部88の回り(軸線Mの回り)に回動させられる。
なお、ハウジング80の内部には、ケーブル24の張力を検出する張力センサ90が設けられている。イコライザ84により、ケーブル22,24に加えられる張力は同じ大きさとされるため、張力センサ90によって検出されたケーブル24に加えられた張力は、ケーブル22に加えられた張力でもある。
また、符号92は異常時解除装置を示す。異常時解除装置92は、電動モータ10の異常時等に、パーキングブレーキ18,20を解除するための装置である。ケーブル93をギヤ95の内部に押し込み、手動で、図示しないグリップ部を回転させると、ギヤ95が回転させられる。そのギヤ95の回転がギヤ46、48を介してギヤ50に伝達され、ギヤ50の回転により、イコライザ84がケーブル22,24を緩める向きに移動させられる。それによって、パーキングブレーキ18,20が解除される。
【0010】
パーキングブレーキ18,20は、図4,5に示すように、本実施例においては、デュオサーボ型のドラムブレーキである。したがって、以下、必要に応じて、パーキングブレーキ18,20をドラムブレーキと称することがある。また、図4において、符号97はブレーキディスクを示し、符号98はキャリパを示し、これらブレーキディスク97とキャリパ98とは、共同してサービスブレーキとしてのディスクブレーキ99を構成する。パーキングブレーキ18,20としてのドラムブレーキは、ブレーキディスク97の内周側に設けられているのであり、本実施例においては、ドラムインディスクブレーキとなっている。ドラムブレーキ18,20は、それそれ、構造が同じものであるため、ドラムブレーキ18について説明し、ドラムブレーキ20についての説明を省略する。
【0011】
ドラムブレーキ18は、図示しない車体に取り付けられた非回転部材としてのバッキングプレート100と、内周面に摩擦面102を備えて車輪14と共に回転するドラム104とを備えている。バッキングプレート100の一直径方向に隔たった2箇所には、それぞれアンカ部材106と中継リンクとしてのアジャスタ108とが設けられている。アンカ部材106はバッキングプレート100に固定されており、アジャスタ108はフローティング式とされている。それらアンカ部材106とアジャスタ108との間には、各々円弧状を成す一対のブレーキシュー110a,110bがドラム104の内周面に対面するように取り付けられている。一対のブレーキシュー110a,110bは、シューホールドダウン装置112a,112bによってバッキングプレート100にそれの面に沿って移動可能に取り付けられている。なお、バッキングプレート100の中央に設けられた貫通穴は、図示しないアクスルシャフトの貫通を許容するためのものである。
【0012】
一対のブレーキシュー110a,110bは、一端部同士がアジャスタ108により作動的に連結される一方、各他端部がアンカ部材106と当接して回動可能に支持されるようになっている。一対のブレーキシュー110a,110bの一端部同士は、アジャスタスプリング114によりアジャスタ108に当接する向きに付勢されており、各他端部はリターンスプリング115によりアンカ部材106に向かって付勢されている。各ブレーキシュー110a,110bの外周面に摩擦材としてのブレーキライニング116a,116bが保持され、それら一対のブレーキライニング116a,116bがドラム104の摩擦面102に接触させられることにより、それらブレーキライニング116a,116bとドラム104との間に摩擦力が発生する。アジャスタ108は、一対のブレーキシュー110a,110bの摩耗に応じて一対のブレーキライニング116a,116bとドラム104との隙間を調整するために操作される。
【0013】
図5に押付機構120を示す。押付機構120は、ブレーキレバー122と、ストラット124とを含み、アンカ部材106をバッキングプレート100に固定するボルト138、140の頭部に相対移動可能に支持されている。ブレーキレバー122,ストラット124は、それぞれ、板状部材であり、ストラット124を構成する2枚の板材の間にブレーキレバー122が挟まれた状態で、ブレーキレバー122とストラット124とがそれらの一端部において連結軸126の回りに相対回動可能に連結されている。ブレーキレバー122において、連結軸126からバッキングプレート100側に隔たった部分に設けられた係合部128にブレーキシュー110aが係合させられ、連結軸126からバッキングプレート100に平行な方向において隔たった端部に設けられた係合部130にケーブル22のインナケーブル87が連結されている。インナケーブル87は、バッキングプレート100に設けられた貫通孔132に一端が固定されたアウタチューブ134に案内されて、バッキングプレート100のブレーキシュー110等が配設された側とは反対側に伸び出させられている。
また、ストラット124において、連結軸126とは反対側の端部に設けられた係合部135にブレーキシュー110bが係合させられている。
なお、係合部130は、図示する状態においては、貫通穴132の(ケーブル22のバッキングプレート100への固定端の)中心線Nより、後退回転方向側に位置する。また、後述するように、押付機構120が円周方向に相対移動させられると、それに伴って係合部130も相対移動させられるが、設計上、中心線Nより前進回転方向側の位置まで相対移動させられることがないようにされている。
【0014】
押付機構120は、被支持部136,137においてボルト138、140の頭部に支持されており、インナケーブル87が引っ張られると、ブレーキレバー122が被支持部136とボルト138の頭部との接触点まわりに回動し、その結果、連結軸126およびストラット124が図5において右方へ移動させられ、ストラット124がブレーキシュー110bを右方へ押す。その際、ブレーキシュー110bからの反力がストラット124,連結126およびブレーキレバー122を介してブレーキシュー110aに伝達され、ブレーキシュー110aが図5において左方へ押される。ブレーキシュー110a,110bには、それぞれ、同じ大きさの拡開力が加えられて、拡開させられるのであり、その結果、ブレーキライニング116a,116bがドラム104の内周面102に互いに同じ大きさの力で押し付けられる。なお、ケーブル22に加えられた引張力は、ブレーキレバー122のレバー比に応じて倍力され、その倍力された力から、被支持部136,137とボルト138,140の頭部との間の摩擦力に応じた力を差し引いた大きさの拡開力として、ブレーキシュー110a,110bに加えられる。
【0015】
ドラム104にトルクが加えられている状態で、ドラムブレーキ18が作動させられると、ドラム104からブレーキシュー110a,110bに円周方向の力が加えられ、ブレーキシュー110a,110bの一方がアンカ部材106に当接させられ、いわゆるデュオサーボ効果が生じる。前進回転方向(車両が前進する場合の車輪の回転方向)Pのトルクが加えられると、自己サーボ効果によりブレーキシュー110aが拡開力のみによる場合より大きな力でドラム104に押し付けられる(接触面圧が増大させられる)。この自己サーボ効果による円周方向の力が拡開力と共に、アジャスタ108によってブレーキシュー110bに伝達され、ブレーキシュー110bはブレーキシュー110aよりも更に強くドラム104に押し付けられる。ブレーキシュー110bがアンカ部材106に当接させられ、制動トルクが発生させられる。後退回転方向(車両が後退する場合の車輪の回転方向)Qのトルクが加えられた場合には、逆に、ブレーキシュー110aがブレーキシュー110bよりも強くドラム104に押し付けられる。この場合のブレーキシュー110a,110bのドラム104への押付力は、ケーブル22の張力の大きさに応じた大きさとなるのであり、これら張力と制動可能トルクとの間には、図6に示す曲線で表される関係がある。車両が停止状態にあり、かつ、ブレーキライニング116a,116bとドラム内周面102との間の摩擦係数が一定である場合には、制動可能トルク、摩擦力、押付力、拡開力の間には一定の関係が成立し、拡開力が大きくなれば、押付力、摩擦力、制動可能トルクも大きくなる関係にある。したがって、例えば、張力と拡開力との関係に基づけば、張力と押付力との関係、張力と摩擦力との関係、張力と制動可能トルクとの関係を取得することが可能となる。
【0016】
電動モータ10は、図1に示すように、電動パーキングブレーキECU200の指令に基づいて制御される。電動パーキングブレーキECU200は、コンピュータを主体とするものであり、入出力部202,実行部204,記憶部206等を含む。入出力部202には、パーキングブレーキスイッチ(以下、単に、パーキングスイッチと略称する)210,張力センサ90(図2参照),電流検出部211等が接続されるとともに、駆動回路212を介して電動モータ10が接続される。電動モータ10が電動パーキングブレーキのアクチュエータである。
電動パーキングブレーキECU200は、CAN214を介して、車両に設けられた他のコンピュータ、例えば、スリップ制御ECU(VSCECU)220,エンジン・トランスミッションECU(ETCECU)222、イグニッションスイッチ225等に接続される。また、スリップ制御ECU220には前後加速度センサ226、車輪速センサ227が接続され、エンジン・トランスミッションECU222にはシフト位置センサ228が接続されており、前後加速度、シフト位置、車輪速(あるいは車速)等の情報がスリップ制御ECU220,エンジン・トランスミッションECU222,CAN214を介して、電動パーキングブレーキECU200に供給される。
【0017】
パーキングスイッチ210は、パーキングブレーキ18,20の作動(以下、パーキングブレーキ18,20の作動をロックと称することがある)を指示する場合、解除(以下、パーキングブレーキ18,20の解除をケーブル22,24のリリースあるいは単にリリースと称することがある)を指示する場合に、操作されるスイッチであり、例えば、ロック側操作部とリリース側操作部とを有するものとすることができる。ロック側操作部が操作された場合(以下、ロック指示操作が行われた場合と略称する)にはロック要求があるとされ、リリース側操作部が操作された場合(以下、リリース指示操作が行われた場合と略称する)にはリリース要求があるとされる。
張力センサ90は、前述のように、ケーブル22,24の張力を検出するものであり、図2に示すように運動変換機構12のハウジング80の内部に設けられる。
電流検出部211は、電動モータ10に実際に流れる電流値を検出するものである。電動モータ10に流れる電流値に基づけば、電動モータ10の作動状態がわかる。
シフト位置センサ228は、シフト操作部材230の位置を検出するものである。
前後加速度センサ226は、車両の前後方向の加速度を検出するものであるが、本実施例においては、前後加速度に基づいて車両の傾斜角度が取得される。
【0018】
電動パーキングブレーキシステムにおいて、パーキングブレーキ18,20がパーキングスイッチ210の操作に応じて作動させられる場合と、シフト操作部材230の操作に応じて作動させられる場合とがある。
パーキングスイッチ210のロック指示操作が行われると、電動モータ10が正方向に回転させられ、ケーブル22,24が引っ張られる。パーキングブレーキ18,20において、ブレーキシュー110a,110bが拡開させられ、ドラム104の内周面102に押し付けられて、パーキングブレーキ18,20が作動させられる。目標張力が、傾斜角度、シフト位置等に基づいて決定され、張力センサ90によって検出された実際の張力が目標張力に近づくように、電動モータ10が制御される。
リリース指示操作が行われると、電動モータ10が逆方向に回転させられ、ケーブル22,24が緩められる。パーキングブレーキ18,20において、ブレーキシュー110a,110bがリターンスプリング115により縮径させられ、パーキングブレーキ18,20が解除される。
また、シフト操作部材230の操作により、シフト位置が停止を表す位置(パーキング位置Pあるいはニュートラル位置N)から走行を表す位置(ドライブ位置Dあるいはリバース位置R)に切り換えられると、作用状態にあったパーキングブレーキ18,20が解除される。シフト操作部材230の車両の停止を表す位置から走行を表す位置への切換え操作は、運転者の発進意図に応じた操作であると考えられるため、パーキングスイッチ210のリリース指示操作が行われなくても、パーキングブレーキ18,20が自動で解除されるようにしたのである。
【0019】
通常、イグニッションスイッチ225がOFF状態からON状態に切り換えられると、イニシャルチェックが行われる。本実施例においては、図11,12のタイムチャートが示すように、時点T1においてイグニッションスイッチ225がON状態に切り換えられると、設定時間経過後の時点T2において電動パーキングブレーキECU200がON状態とされ(作動可能な電圧となり)、さらに、設定時間が経過した後の時点T3から、イニシャルチェックが開始される。
イニシャルチェックは、図7のフローチャートで表されるイニシャルチェックプログラムの実行に従って行われる。ステップ101(以下、S101と略称する。他のステップについても同様とする)において、電動パーキングブレーキシステムの状態が検出される。例えば、CAN214を介して情報が正常に受信されるか否か、電動モータ10が正常であるか否か、張力センサ90、パーキングスイッチ210等が正常であるか否か、断線箇所が有るか否か等が検出される。そして、S102において、システムが正常であるか否かが判定される。正常である場合には、S102の判定がYESとなり、S103において、電動パーキングブレーキシステムの作動が許可されるのであり、電動モータ10の作動が許可される。異常であり、作動させることが望ましくない場合には、S102の判定がNOとなり、S104において、電動パーキングブレーキシステムの作動が禁止されるのであり、電動モータ10の作動が禁止される。
イニシャルチェックに要する時間は、ΔTche(T4−T3)であり、時点T3に開始され、時点T4に終了する。したがって、システムが正常である場合には、時点T4以降は、電動モータ10の作動が許可されることになる。以下、システムが正常であり、イニシャルチェックの終了以降に、電動モータ10の作動が許可される場合について説明する。
【0020】
従来、イニシャルチェック中には、シフト位置の確認が行われていなかったが、本実施例においては、シフト位置の確認が行われる。厳密にいえば、図11,12のタイムチャートに示すように、イニシャルチェックが開始される時点T3より前の、電動パーキングブレーキECU200がON状態とされてから(時点T2から)設定時間が経過した時点T5からシフト位置の確認が開始される。シフト操作が、イグニッションスイッチ225がON状態に切り換えられた後の早い時期に行われた場合に、そのシフト位置の変化を検出するためには、シフト位置をできる限り早期に確認する必要があるからである。
シフト位置は、シフト位置センサ228によって検出され、シフト位置を表す情報が、CAN214を介して予め定められた設定時間(以下、受信時間と称する)毎に通信によって供給される。電動パーキングブレーキECU200において、予め定められた受信時間(受信間隔)毎に、シフト位置を表す情報が受信されるのであり、その受信された情報からシフト位置が読み込まれる。そして、同じ位置を表す情報が、受信時間に対して充分に長い設定時間(位置確認時間)の間受信された場合に、そのシフト位置であると暫定的に確認される。換言すれば、予め定められた位置確認時間に対応する位置確認回数(位置確認時間/受信時間)以上、同じシフト位置を表す情報が受信された場合に、そのシフト位置であると暫定的に確認されるのである。
【0021】
図8のフローチャートで表されるシフト位置確認ルーチンは、CAN214を介して情報が受信される毎に実行される。S1において、CAN214を経て受信された情報からシフト位置が読み込まれ、S2において、前回読み込んだシフト位置と同じであるか否かが判定される。同じである場合には、S3において、同じ情報が継続して検出される時間が設定時間(位置決定時間)以上になったか否かが判定される。位置確認時間の間、同じ情報が受信された場合には、S4において、そのシフト位置であると暫定的に確認される。位置確認時間の計測は最初にS2の判定がYESとなった時点から開始され、前回と異なるシフト位置が検出され、S2の判定がNOとなった場合にリセットされる。
【0022】
シフト操作部材230の操作により、第1シフト位置(以下、第1位置と略称する)から第2シフト位置(以下、第2位置と略称する)に切り換えられた場合、すなわち、シフト位置が、第1位置から第2位置に変化させられた場合において、その暫定的に確認されたシフト位置が第1位置である場合には、電動モータ10の作動が許可されているか否かに関係なく、本確認(特許請求の範囲に記載の確認に対応する)される。それに対して、第2位置である場合には、電動モータ10の作動が許可されている場合には、暫定的に確認されるとともに本確認されるが、暫定的に確認された時点において電動モータ10の作動が許可されていない場合には、許可以降に本確認(特許請求の範囲の確認に対応する)される。また、本実施例においては、第1位置が本確認され、かつ、第2位置が本確認されると、シフト位置の変化が確認される。そして、シフト変化確認フラグがセットされる。
【0023】
シフト位置の変化が確認されると、シフト位置の変化が、停止を指示する位置(パーキング位置あるいはニュートラル位置)から走行を指示する位置(ドライブ位置あるいはリバース位置)への変化であるか否かが判定される。シフト操作部材230の操作により、停止を指示する位置から走行を指示する位置へ切り換えられた場合には、パーキングブレーキ18,20が解除される。このシフト位置の変化に伴うパーキングブレーキ18,20の解除をシフト連動リリース制御と称する。
【0024】
図9にシフト変化確認ルーチンを表すフローチャートを示す。シフト変化確認ルーチンは予め定められた設定時間毎に実行される。
S11において、第1位置が本確認済みであるか否かが判定される。本確認されていない場合には、S12において、第1位置が暫定的に確認されたか否かが判定される。図7のフローチャートで表されるシフト位置確認ルーチンの実行によって、シフト位置が暫定的に確認されたか否かが判定されるのである。例えば、シフト位置確認ルーチンの実行後位置確定時間が経過する前である場合等暫定的なシフト位置の確認がされていない場合には、S12の判定がNOとなる。その場合には、S11,12が繰り返し実行され、シフト位置が暫定的に確認されると、S13において、その位置が読み込まれ、第1位置として本確認される(P1)。この場合には、暫定的に確認されるとともに本確認される。
【0025】
次に、S14において、電動モータ10の作動が許可されているか否かが判定される。例えば、イニシャルチェックが終了していない場合等、電動モータ10の作動が許可されていない場合には、S14の判定がNOとなる。電動モータ10の作動が許可されるまで、S11,14が繰り返し実行されることになる。この場合には、第1位置は本確認されているので、S12,13が実行されることはない。
イニシャルチェックが終了して、電動モータ10の作動が許可されると、S14の判定がYESとなり、S15において、シフト位置確認ルーチンの実行によって暫定的に確認されたシフト位置P2が読み込まれ、S16において、第1位置P1と今回読み込まれたシフト位置P2とが同じであるか否かが判定される。同じである場合(P1=P2)には、S16の判定がNOとなる。シフト位置が変更されていないとされ、第2位置が本確認されることがない。それに対して、シフト位置P2が第1位置P1と異なる場合には(P1≠P2)、S16の判定がYESとなり、S17において、第2位置P2が本確認されるとともに、シフト位置の変化が確認され、S18において、シフト変化確認フラグがセットされる。
このように、電動モータ10の作動許可前に、第2位置が暫定的に確認された場合には、電動モータ10の作動が許可されるのを待って、本確認されることになるが、電動モータ10の作動許可以降に、第2位置が暫定的に確認された場合には、暫定的に確認されるとともに本確認されることになる。そして、第1位置P1と、第2位置P2(第1位置とは異なる位置)との両方が本確認されると、シフト位置の変化が確認されることになる。
【0026】
図10に電動モータ制御プログラムを表すフローチャートを示す。電動モータ制御プログラムは予め定められた設定時間毎に実行される。
S31、32において、車両が停止中であるか否か、パーキングブレーキ18,20が作用中であるか否かが判定される。CAN214を介して供給される車輪速を表す情報、あるいは、車速を表す情報に基づき、車両が停止状態にあるとみなし得る設定速度以下である場合に、停止中であるとされる。
停止中でない場合、あるいは、パーキングブレーキ18,20が作用中でない場合には、S33以降が実行されることはない。
車両が停止状態にあり、かつ、パーキングブレーキ18,20が作用中である場合には、S33において、シフト変化確認フラグおよび第1位置P1、第2位置P2が読み込まれ、シフト変化確認フラグがセット状態にあるか否かが判定される。セット状態にある場合には、S34、35において、第1位置P1がパーキング位置、ニュートラル位置のいずれか(停止を表す位置)であるか否か、第2位置P2がドライブ位置、リバース位置のいずれか(走行を表す位置)であるか否かが判定される。すなわち、シフト位置の変化が、停止を指示する位置から走行を指示する位置への変化であるか否かが判定されるのである。パーキング位置、ニュートラル位置のいずれか一方からドライブ位置、リバース位置のいずれか一方に切り換えられた場合には、S36において、パーキングブレーキ18,20の解除指令(ケーブル22,24のリリース指令)が出力される。
このように、本実施例においては、第2位置P2が電動モータ10の作動許可以降に本確認されるとともにシフト位置の変化が確認されて、リリース指令が出力される。そのため、シフト切換え操作が電動モータ10の作動許可前に行われて、第2位置P2が作動許可前に暫定的に確認されても、第2位置P2の本確認が作動許可以降に行われ、変化の確認が行われるため、変化の確認に応じて電動モータ10を確実に作動させることが可能となり、シフト連動リリース制御を確実に行わせることが可能となる。また、電動モータ10の作動許可前であっても、第1位置が本確認されるため、イグニッションスイッチ225がOFF状態からON状態に切り換えられた後の早い時期に、運転者によってシフト操作部材230の操作が行われても、第1位置の本確認を行うことが可能となる。その結果、シフト操作部材230の操作に伴うシフト位置の変化をより確実に検出することが可能となる。
【0027】
リリース制御が行われると、パーキングブレーキ18,20が作用状態でなくなるため、S32の判定がNOとなる。また、車両が発進した場合には、停止中でなくなるため、S31の判定がNOとなるのであり、S33以降が実行されることがない。
さらに、S34、35のいずれか一方の判定がNOである場合には、リリース指令が出力されることはない。例えば、イグニッションスイッチ225がOFF状態からON状態に切り換えられてから、シフト操作部材230の操作により、パーキング位置からニュートラル位置に切り換えられた場合には、S35の判定がNOとなる。運転者に発進意図があるとはいえないため、リリース制御が行われないのである。その後、ニュートラル位置からドライブ位置あるいはリバース位置への切換え操作が行われることが多いため、シフト変化確認プログラムにおいて、S11〜13において、第1位置がニュートラル位置として本確認され、その後、S11,14〜16が繰り返し実行されるうちに、ドライブ位置あるいはリバース位置に切り換えられると、S16の判定がYESとなり、S17において、第2位置(ドライブ位置あるいはリバース位置)が本確認されるとともにシフト変化が確認され、S18において、シフト変化確認フラグがセットされる。電動モータ制御プログラムにおいて、S31,32,33の判定がYESとなるが、ニュートラル位置からドライブ位置あるいはリバース位置へ切り換えられた場合には、S34,35の判定がYESとなり、S36において、リリース指令が出力されることになる。
なお、シフト変化確認フラグは、シフト変化確認ルーチンにおいて、予め定められた設定時間の間だけセットされ、その後にリセットされるようにすることができる。シフト変化確認フラグがリセットされると、第1位置P1、第2位置P2を表す情報もクリアされる。
【0028】
本実施例に係る電動パーキングブレーキシステムにおける作動を、従来のシステムにおける作動と比較しつつ、図11,12のタイムチャートに従って説明する。
従来の電動パーキングブレーキシステムにおいて、イグニッションスイッチ225がOFF状態からON状態に切り換えられてからイニシャルチェックが終了するまでの間(時点T1〜時点T4)、シフト位置の確認が行われていなかった。その場合のシフト位置の本確認が行われる状態を、図11,12のパターンA1〜 E1(確認シフト1)に示す。なお、従来の電動パーキングブレーキシステムにおいては、暫定的な確認と本確認とは同じことであり、第1位置についても第2位置についても暫定的に確認されるとともに本確認される。
パターンA(CANシフト)が示すように、シフト操作部材230の切換え操作が、イニシャルチェック終了後のパーキング位置が本確認された時点(T6)以降(換言すれば、イニシャルチェック終了時から位置確認時間の経過後)に行われた場合には、シフト位置の変化を確認することができるため、それに応じてパーキングブレーキ18,20を解除することができる。しかし、パターンB(CANシフト)が示すように、切換え操作が、イニシャルチェック終了後であっても、パーキング位置の本確認がされる前(時点T6前)に行われた場合には、シフト位置の変化を確認することができず、パーキングブレーキ18,20を解除することができなかった。まして、パターンC〜Eに示すように、切換え操作がイニシャルチェック終了前に行われた場合には、シフト位置の変化を確認することができず、シフト連動リリース制御を行うことができなかった。
【0029】
次に、イニシャルチェックが終了する前であっても、シフト位置の確認が行われるようにした場合に、本確認が行われる状態を、図11、12のパターンA2〜E2(確認シフト2)に示す。この場合においても暫定的確認と本確認とは同じことであり、第1位置についても第2位置についても暫定的に確認されるとともに本確認される。
パターンA2〜E2が示すように、シフト位置確認ルーチンの開始時(時点T5)から位置確認時間が経過した時点T7の早い段階で、第1位置(パーキング位置)を本確認することが可能となる。その結果、パーキング位置からドライブ位置への切換え操作が、パターンBが示すように、イニシャルチェックの終了後の時点T6以前に行われても、パターンC,Dに示すように、イニシャルチェック終了前に行われても、イニシャルチェック後に、第2位置(ドライブ位置)が本確認されれば、それに応じて、パーキングブレーキ18,20を解除することが可能となる。
しかし、パターンE2が示すように、さらに早い時期(本確認がイニシャルチェック終了時に行われ得る時点T9前)において、運転者によってシフト操作部材230の切換え操作が行われ、イニシャルチェック終了前に第2位置(ドライブ位置)が本確認された場合には、電動モータ10の作動が禁止された状態にあるため、リリース指令が出力されても、パーキングブレーキ18,20を解除することができなかった。
それに対して、パターンE3(確認シフト3)が示すように、イニシャルチェック終了前の時点T8において第2位置が暫定的に確認されても、許可以降の時点T4において本確認されて、シフト変化が確認されるようにすれば、その変化の確認に伴ってリリース指令が出力され、パーキングブレーキ18,20が解除される。このように、イグニッションスイッチ225のOFF状態からON状態への切換え後の早い時期に、シフト操作が行われても、確実に、シフト連動リリーフ制御が行われるようにすることができる。
【0030】
以上のように、本実施例においては、電動パーキングブレーキECU200のうち図10のフローチャートで表される電動モータ制御プログラムを記憶する部分、実行する部分等、図9のフローチャートで表されるシフト変化確認ルーチンを記憶する部分、実行する部分等、図8のフローチャートで表されるシフト位置確認ルーチンを記憶する部分、実行する部分等により、ブレーキ解除装置が構成される。ブレーキ解除装置は、シフト操作対応解除部、許可以降ブレーキ解除部でもある。許可以降ブレーキ解除部のうちのシフト位置確認ルーチンを記憶する部分、実行する部分、シフト変化確認ルーチンのS11〜S13を記憶する部分、実行する部分等により禁止中シフト位置確認部が構成され、禁止中シフト位置確認部およびシフト変化確認ルーチンのS14〜17を記憶する部分、実行する部分等により遅延位置確認部が構成される。また、図8のフローチャートで表されるシフト位置確認ルーチンを記憶する部分、実行する部分等によりシフト位置確認部が構成される。
【0031】
なお、シフト連動リリース制御は、停止信号等で車両が走行後停止した場合に、パーキングブレーキ18,20が作動させられた場合に適用することもできる。この場合には、電動モータ10の作動は許可されているため、シフト変化確認ルーチンにおいて、S14の判定がNOとなることはない。S11〜13において、第1位置が本確認されるが、第2位置が第1位置と異なる場合には、S17において、第2位置が本確認されるとともにシフト変化が確認され、S18において、シフト変化確認フラグがセットされる。電動モータ制御プログラムにおいて、車両が停止中にあって、パーキングブレーキ18,20が作用状態にある場合には、S31,32の判定がYESとなる。シフト変化確認フラグはセットされているため、S34,35において、シフト位置の変化が、停止を指示する位置から走行を指示する位置への変化であるか否かが判定される。S34,35の判定がYESである場合には、リリース指令が出力される。運転者は、パーキングスイッチ210のリリース指示操作を行わなくても、シフト操作に連動して、パーキングブレーキ18,20が自動で解除されることになる。
【0032】
それに対して、停止中に、エンジンが自動で停止・始動可能な車両においては、エンジンの始動後に、シフト操作部材230が、停止を表す位置から走行を表す位置へ操作されると、パーキングブレーキ18,20が自動で解除されることがある。
エンジンが自動で停止・始動可能な車両においては、補助電源を設けたり、コンバータ(昇圧器)を設けたりして、エンジンが停止状態にあっても、ETCECU222,PKBECU200等の電圧が低下して作動不能になったり、電動モータ10等のアクチュエータの電源電圧が低下して作動不能になったりしないようにされているのが普通である。
しかし、これら補助電源やコンバータ等が設けられない車両においては、エンジン停止中やエンジン始動直後において、電動パーキングブレーキECU200の作動が禁止されたり、電動モータ10の作動が禁止されたりすることがあり、上記実施例において、イグニッションスイッチ225がOFF状態からON状態に切り換えられた場合と同様の状態となる場合がある。その場合には、電動パーキングブレーキECU200の作動が可能となった時点(時点T2に対応する時点)から設定時間経過後(時点T5に対応する時点)から、シフト位置の暫定的な確認が開始され、電動モータ10の作動の許可以降(電源電圧が回復した以降)に、第2位置の本確認が行われるとともにシフト位置の変化が確認されて、電動モータ10のリリース制御指令が出力されるようにすることは有効である。運転者によって、シフト操作部材230の操作が電動モータ10の作動が許可される前に行われても、パーキングブレーキ18,20を自動で解除することが可能となる。
【0033】
なお、エンジンが自動で停止・始動可能な車両において、エンジン停止中であって、エンジン始動前はブレーキが解除されないようにされている場合には、エンジン始動時までは、電動モータ10の作動が禁止された状態にあると考えることもできる。この場合には、制御において、電動モータ10の作動が禁止されることになる。
【0034】
また、上記実施例においては、第2位置の本確認が電動モータ10の作動許可以降に行われることにより、電動モータ10の作動許可以降に、シフト位置の変化が確認されるようにされていたが、作動許可前に第1位置、第2位置が本確認され、シフト位置の変化が、作動許可以降に確認されるようにすることもできる。
図13のフローチャートで表すシフト位置検出プログラムの実行において、電動モータ10の作動が許可されているか否かとは関係なく、第1位置、第2位置が本確認されて、シフト位置の変化が検出される。図9のフローチャートで表されるシフト位置確認プログラムと比較すると、S14のステップがなく、S17′において、第2位置が本確認されて、シフト位置の変化が検出され、S18′においてシフト位置検出フラグがセットされる点が異なるが他の点については同じである。
図14のフローチャートで表す電動モータ制御プログラムの実行において、シフト変化検出フラグがセットされている場合には、電動モータ10の作動の許可以降に、変化が確認されて、リリース指令が出力される。S51,52において、停止中であるか否か、パーキングブレーキ18,20が作用中であるか否かが判定される。両方の判定がYESである場合には、S53において、シフト変化検出フラグがセット状態にあるか否かが判定され、S54において、第1位置、第2位置が読み込まれて記憶される。S55において、電動モータ10の作動が許可されたか否かが判定される。許可前である場合には、許可されるのが待たれる。許可されると、S56において、シフト位置の変化が確認されて、S57、58において、第1位置P1が停止を表す位置であるか否か、第2位置P2が走行を表す位置であるか否かが判定される。S57,58における判定がいずれもYESである場合には、S59において、リリース指令が出力され、S60において、S54において記憶された第1位置P1、第2位置P2を表す情報がクリアされる。
このように、本実施例においては、電動モータ10の作動が許可されているか否かとは関係なく、第1位置、第2位置が本確認されるが、シフト位置の変化が、電動モータ10の作動の許可以降に確認されることになる。そのため、上記実施例における場合と同様に、電動モータ10の作動の許可前にシフト操作が行われても、許可以降に変化が確認されるため、パーキングブレーキ18,20を解除することが可能となる。
また、S57,58のいずれか一方における判定がNOである場合には、リリース指令は出力されないが、S60において、記憶された第1位置P1,第2位置P2を表す情報がクリアされる。
以上のように、本実施例においては、電動パーキングブレーキECU200の図8のフローチャートで表されるシフト位置確認ルーチン、図13のフローチャートで表されるシフト変化検出ルーチンのS11〜17′を記憶する部分、実行する部分等により、シフト位置確認部が構成され、図14のフローチャートで表される電動モータ制御プログラムのS54〜56を記憶する部分、実行する部分等により遅延変化確認部が構成される。
【0035】
また、シフト位置センサ228に加えて、オートマチックトランスミッションの状態(例えば、複数のソレノイドバルブのソレノイドへの電流の供給状態等:シフト位置に対応)に基づいてシフト位置を検出する手段を設けることもできる。車両の停止状態においては、シフト操作部材230の位置とトランスミッションにおける状態とは、原則として、対応するのが普通である。しかし、トランスミッションにおけるソレノイド等の制御は、シフト位置センサ228による検出結果に基づいて行われるため、トランスミッションの状態は、シフト位置センサ228によるシフト位置の変化の検出に遅れて変化させられることになる。そのため、パーキングブレーキ18,20の解除指令が、トランスミッションの状態が実際に変化された後に、出力されるようにすることは妥当なことである。本実施例においては、シフト操作部材230の位置の変化が検出され、かつ、トランスミッションの状態が実際に変化したことが検出された後に、パーキングブレーキ18,20が解除されることになる。
【0036】
さらに、上記実施例においては、パーキング位置あるいはニュートラル位置からドライブ位置あるいはリバース位置に切り換えられた場合に、ブレーキが解除されるようにされていたが、パーキング位置からドライブ位置あるいはリバース位置に切り換えられた場合に、ブレーキが解除されるようにすることができる。
また、電動パーキングブレーキ機構の構造は、上記実施例におけるそれに限らない。例えば、運動変換機構12は、電動モータ10の出力軸に設けられたギヤに、ケーブル22,24の共通部分(イコライザが設けられた位置よりパーキングブレーキとは反対側の部分)を直接巻き付けた構造を成したものとすることもできる。ケーブルの共通部分は、ギヤの接線方向に延び、電動モータ10の回転により直線的に移動させられる(引っ張られたり、緩められたりする)ことになる。運動変換機構は、さらに、複数のギヤを含むものとすることができ、ウォーム、ウォームホイールを含むものとすることができる。その場合には、クラッチは不要となる。
また、パーキングブレーキは、ユニサーボ型のドラムブレーキとしたり、ディスクブレーキとしたりすることもできる。さらに、電動モータ10は超音波モータとすることもでき、その場合には、クラッチは不可欠ではない。
その他、本発明は、前述に記載の態様の他、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した態様で実施することができる。
【特許請求可能な発明】
【0037】
本明細書の記載の発明のうち、以下の発明は、特許請求の範囲に記載の発明とは別に、特許請求可能である。
(a)摩擦面を有して車輪と共に回転する回転体と、非回転体に相対移動可能に取り付けられた摩擦材と、その摩擦材を前記回転体の摩擦面に押し付ける押付機構とを含むブレーキと、(b)電動モータと、(c)その電動モータの回転軸の回転を出力部材の直線移動に変換する運動変換装置と、(d)一端部において、前記運動変換装置の出力部材に連結されるとともに、他端部において、前記押付機構に連結された連結部と、(e)前記電動モータに電流が供給されない状態で、前記ブレーキにおける前記摩擦材の前記摩擦面への押付力を保持する保持機構とを含む電動パーキングブレーキ機構と、
シフト操作部材の位置の変化に応じて、前記電動モータを作動させて、前記ブレーキを解除するブレーキ解除装置と
を含む電動パーキングブレーキシステムにおいて、
前記ブレーキ解除装置が、車両のイグニッションスイッチのOFF状態からON状態への切換時からイニシャルチェックの終了時までの間に、前記シフト操作部材の位置であるシフト位置を確認する禁止中シフト位置確認部を含むことを特徴とする電動パーキングブレーキシステム。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の一実施例である電動パーキングブレーキシステム全体を示す図である。
【図2】上記電動パーキングブレーキシステムに含まれる電動モータおよび運動変換機構を表す一部断面図である。
【図3】上記運動変換機構のAA断面図(クラッチの断面図)である。
【図4】上記電動パーキングブレーキシステムに含まれるドラムブレーキの正面図である。
【図5】上記ドラムブレーキの押付機構の正面図である。
【図6】上記電動パーキングブレーキシステムにおける張力と制動可能トルクとの関係を示す図である。
【図7】上記電動パーキングブレーキシステムに含まれる電動パーキングブレーキECU200の記憶部に記憶されたイニシャルチェックプログラムを表すフローチャートである。
【図8】上記電動パーキングブレーキECU200の記憶部に記憶されたシフト位置確認ルーチンを表すフローチャートである。
【図9】上記電動パーキングブレーキECU200の記憶部に記憶されたシフト変化確認ルーチンを表すフローチャートである。
【図10】上記電動パーキングブレーキECU200の記憶部に記憶された電動モータ制御プログラムを表すフローチャートである。
【図11】上記電動パーキングブレーキシステムにおける作動を従来のシステムと比較して示す図である。
【図12】上記電動パーキングブレーキシステムにおける別の作動を従来のシステムと比較して示す図である。
【図13】上記電動パーキングブレーキECU200の記憶部に記憶された別のシフト変化検出ルーチンを表すフローチャートである。
【図14】上記電動パーキングブレーキECU200の記憶部に記憶された別の電動モータ制御プログラムを表すフローチャートである。
【符号の説明】
【0039】
10:電動モータ 12:クラッチ付き運動変換機構 18,20:パーキングブレーキ 22,24:ケーブル 30:電動パーキングブレーキ機構 200:電動パーキングブレーキECU 228:シフト位置センサ 230:シフト操作部材
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)摩擦面を有して車輪と共に回転する回転体と、非回転体に相対移動可能に取り付けられた摩擦材と、その摩擦材を前記回転体の摩擦面に押し付ける押付機構とを含むブレーキと、(b)電動モータと、(c)その電動モータの回転軸の回転を出力部材の直線移動に変換する運動変換装置と、(d)一端部において、前記運動変換装置の出力部材に連結されるとともに、他端部において、前記押付機構に連結された連結部と、(e)前記電動モータに電流が供給されない状態で、前記ブレーキにおける前記摩擦材の前記摩擦面への押付力を保持する保持機構とを含む電動パーキングブレーキ機構と、
シフト操作部材の位置の変化に応じて、前記電動モータを作動させて、前記ブレーキを解除するブレーキ解除装置と
を含む電動パーキングブレーキシステムにおいて、
前記ブレーキ解除装置が、前記電動モータの作動が禁止されている間に、前記シフト操作部材の位置であるシフト位置が変化させられた場合に、その電動モータの作動が許可された以降に、前記変化を確認して、前記ブレーキを解除する許可以降ブレーキ解除部を含むことを特徴とする電動パーキングブレーキシステム。
【請求項2】
前記電動モータの作動が、少なくとも、車両のイグニッションスイッチのOFF状態からON状態への切換時からイニシャルチェックの終了時までの期間を含む間禁止され、前記許可以降ブレーキ解除部が、前記シフト位置を、前記電動モータの作動が禁止されている間に確認する禁止中シフト位置確認部を含む請求項1に記載の電動パーキングブレーキシステム。
【請求項3】
当該電動パーキングブレーキシステムが、前記シフト操作部材の位置を検出するシフト位置センサを含み、前記許可以降ブレーキ解除部が、そのシフト位置センサによって検出された位置が、予め定められた設定時間以上同じである場合に、その位置を第1のシフト位置として確認し、前記シフト位置センサによって検出された、その第1のシフト位置とは異なるシフト位置が、予め定められた設定時間以上同じであり、かつ、前記電動モータの作動が許可された以降に、その位置を第2のシフト位置として確認して、前記シフト位置の変化を確認する遅延位置確認部を含む請求項1または2に記載の電動パーキングブレーキシステム。
【請求項4】
当該電動パーキングブレーキシステムが、(a)前記シフト操作部材の位置を検出するシフト位置センサと、(b)そのシフト位置センサによって検出されたシフト位置が、予め定められた設定時間以上同じである場合に、そのシフト位置を確認するシフト位置確認部とを含み、前記許可以降ブレーキ解除部が、前記電動モータの作動が禁止されている間において、前記シフト位置確認部によって、第1のシフト位置と、その第1のシフト位置とは異なる第2のシフト位置との両方が確認された場合に、前記電動モータの作動が許可された以降に、前記シフト位置の変化を確認する遅延変化確認部を含む請求項1または2に記載の電動パーキングブレーキシステム。
【請求項5】
前記許可以降ブレーキ解除部が、前記シフト位置が停止を表す位置から走行を表す位置に切り換えられた場合に、前記ブレーキを解除するシフト操作対応解除部を含む請求項1ないし4のいずれか1つに記載の電動パーキングブレーキシステム。
【請求項1】
(a)摩擦面を有して車輪と共に回転する回転体と、非回転体に相対移動可能に取り付けられた摩擦材と、その摩擦材を前記回転体の摩擦面に押し付ける押付機構とを含むブレーキと、(b)電動モータと、(c)その電動モータの回転軸の回転を出力部材の直線移動に変換する運動変換装置と、(d)一端部において、前記運動変換装置の出力部材に連結されるとともに、他端部において、前記押付機構に連結された連結部と、(e)前記電動モータに電流が供給されない状態で、前記ブレーキにおける前記摩擦材の前記摩擦面への押付力を保持する保持機構とを含む電動パーキングブレーキ機構と、
シフト操作部材の位置の変化に応じて、前記電動モータを作動させて、前記ブレーキを解除するブレーキ解除装置と
を含む電動パーキングブレーキシステムにおいて、
前記ブレーキ解除装置が、前記電動モータの作動が禁止されている間に、前記シフト操作部材の位置であるシフト位置が変化させられた場合に、その電動モータの作動が許可された以降に、前記変化を確認して、前記ブレーキを解除する許可以降ブレーキ解除部を含むことを特徴とする電動パーキングブレーキシステム。
【請求項2】
前記電動モータの作動が、少なくとも、車両のイグニッションスイッチのOFF状態からON状態への切換時からイニシャルチェックの終了時までの期間を含む間禁止され、前記許可以降ブレーキ解除部が、前記シフト位置を、前記電動モータの作動が禁止されている間に確認する禁止中シフト位置確認部を含む請求項1に記載の電動パーキングブレーキシステム。
【請求項3】
当該電動パーキングブレーキシステムが、前記シフト操作部材の位置を検出するシフト位置センサを含み、前記許可以降ブレーキ解除部が、そのシフト位置センサによって検出された位置が、予め定められた設定時間以上同じである場合に、その位置を第1のシフト位置として確認し、前記シフト位置センサによって検出された、その第1のシフト位置とは異なるシフト位置が、予め定められた設定時間以上同じであり、かつ、前記電動モータの作動が許可された以降に、その位置を第2のシフト位置として確認して、前記シフト位置の変化を確認する遅延位置確認部を含む請求項1または2に記載の電動パーキングブレーキシステム。
【請求項4】
当該電動パーキングブレーキシステムが、(a)前記シフト操作部材の位置を検出するシフト位置センサと、(b)そのシフト位置センサによって検出されたシフト位置が、予め定められた設定時間以上同じである場合に、そのシフト位置を確認するシフト位置確認部とを含み、前記許可以降ブレーキ解除部が、前記電動モータの作動が禁止されている間において、前記シフト位置確認部によって、第1のシフト位置と、その第1のシフト位置とは異なる第2のシフト位置との両方が確認された場合に、前記電動モータの作動が許可された以降に、前記シフト位置の変化を確認する遅延変化確認部を含む請求項1または2に記載の電動パーキングブレーキシステム。
【請求項5】
前記許可以降ブレーキ解除部が、前記シフト位置が停止を表す位置から走行を表す位置に切り換えられた場合に、前記ブレーキを解除するシフト操作対応解除部を含む請求項1ないし4のいずれか1つに記載の電動パーキングブレーキシステム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
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【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2008−68842(P2008−68842A)
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−251804(P2006−251804)
【出願日】平成18年9月15日(2006.9.15)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年9月15日(2006.9.15)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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