説明

電動ピストンポンプ

【課題】 軽量・コンパクトで発熱も少なく、高効率な電動ピストンポンプを提供する。
【解決手段】 シリンダ3内に配置されたピストン2に、磁力線の向きがその長手方向に一定の間隔で交互に逆向きとなるように磁化された部位を有するシャフト1の一端を接続するとともに、このシャフト1の外周に略沿って導線5bが巻回されたコイル5を、シャフト1の周囲に長手方向に複数個並べて配置する。また、これらのコイル5に所定パターンの電流を流してシャフト1を往復動作させることにより、従来の電動ピストンポンプのような偏心機構を用いることなく、このシャフト1に繋がるピストン2を、直接往復動させることができる。この電動ピストンポンプは、シャフト1の往復動作を非接触で支持するため、シャフト1の駆動部位に潤滑手段を講じる必要がなく、摩擦によるポンプ効率の低下や、この駆動部からの発熱がほとんどない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軽量コンパクトで、耐久性に優れる電動ピストンポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車載用や種々の用途に使用される電動ピストンポンプは、回転モータを駆動源としており、その軸の回転運動をギアやカム等を用いた偏心機構により直線運動に変換して駆動されている(例えば、特許文献1〜3等を参照。)。
【0003】
ところで、近年の自動車は、環境への負荷の少ない電気自動車や、排出ガスの少ないいわゆるハイブリッドカーに代表されるように、エンジンルーム内のスペースが減少の一途を辿っている。そのため、油圧ポンプ等のエンジン補機類は、省スペースでコンパクトなこと、あるいはエンジンルーム以外の必要とされる場所の近傍に取り付け可能なこと、が求められてきている。
【0004】
また、これら自動車に搭載される補機類は、高温環境化での長期間の使用に耐えられる耐久性は勿論のこと、車体重量の軽減および燃費向上のための軽量化と、益々負担の増加してきている車載バッテリの負荷を軽減するための高効率化が同時に求められている。
【0005】
【特許文献1】特開平4−342648号公報
【特許文献2】特開平9−236077号公報
【特許文献3】特開2000−283020号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、自動車に搭載され、変速機にオイルを供給するためのポンプとして、回転モータを駆動源とする従来の電動ピストンポンプを用いた場合、回転運動を直線運動に変換するための偏心機構部が必須であり、軸受やオイルシールも必要であることから、部品点数が多く構造が複雑となってしまい、軽量化や省スペース化が難しい。
【0007】
また、従来の電動ピストンポンプは、駆動部の各部位での摩擦抵抗が大きく、部品の摩耗や発熱を抑えるための潤滑手段を講じる必要があるばかりでなく、この摩擦に起因するポンプ効率の低下や短寿命が懸念される。
【0008】
本発明は、上記する課題に対処するためになされたものであり、軽量・コンパクトで発熱も少なく、高効率な電動ピストンポンプを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、シリンダ内に配置されたピストンの往復動によって流体を吸入・吐出する電動ピストンポンプであって、前記ピストンには、磁力線の向きがその長手方向に一定の間隔で交互に逆向きとなるように磁化された部位を有するシャフトの一端が接続され、このシャフトの周囲には、該シャフトの外周に略沿って巻回されたコイルが長手方向に複数個並べて配置されているとともに、前記ピストンは、これら複数個のコイルに所定パターンの電流を流すことによって生じる前記シャフトの往復動作により駆動されることを特徴とする。
【0010】
本発明は、電動ピストンポンプのピストンを、リニアモータを用いて非接触で直接駆動することによって、所期の目的を達成しようとするものである。
【0011】
すなわち、請求項1に記載の発明によれば、電動ピストンポンプのピストンに、磁化された部位を有するシャフトの一端を接続し、シャフトの周囲の長手方向にコイルを複数個並べて配置することにより、このシャフトを長手方向(軸方向)に移動させるリニアモータを構成することができる。また、これら複数個のコイルに所定パターンの電流を流して前記シャフトを往復動作させることにより、従来の電動ピストンポンプのような偏心機構を用いることなく、このシャフトに繋がるピストンを、直接往復動させることが可能になる。
【0012】
しかも、この電動ピストンポンプは、シャフトの往復動作を非接触で支持するため、駆動部位に潤滑手段を講じる必要がなく、構造を簡略化できるとともに、摩擦によるポンプ効率の低下や、この部位からの発熱もほとんどない。従って、本発明の電動ピストンポンプは、軽量かつコンパクトで、高効率な電動ピストンポンプとすることができる。
【0013】
次に、請求項2に記載の発明は、前記シャフトの他端側に、前記シリンダと同軸上で対向する第2のシリンダおよびピストンが配設され、前記複数個のコイルが、これらのシリンダの間に配置されていることを特徴とする。
【0014】
この発明は、ポンプで消費される電力を無駄なく利用するための手段であり、前記シャフトの他端側に、前記シリンダと同軸上で対向する第2のシリンダおよびピストンを配設することによって、このシャフトの1回の往復動作により2つのポンプが交互に吸入・吐出を繰り返し、これらのピストンポンプを効率良く駆動することができる。
【0015】
また、このシャフトを駆動するためのコイルは、これらのシリンダの間に同軸状に配置すれば良く、従来の偏心機構を用いる対向型の電動ピストンポンプに比べ、全体をコンパクトに構成することが可能である。
【0016】
ここで、前記2つのピストンおよびシャフトに、これらを軸方向に貫通する連通孔を設け、これらの軸方向移動により一方のシリンダ内で圧縮された流体が、前記連通孔を通って他方のシリンダ内に移る構成としても良い。(請求項3)
【0017】
従来の電動ピストンポンプにおいては、それぞれのシリンダの周面に、流体の吸入口および吐出口のうちの少なくとも一方が設けられていたが、この構成を採用することにより、吸入口および吐出口をこれらシリンダの両端面にそれぞれ備える一つのポンプとして機能させることができるようになる。また、この電動ピストンポンプは、流体の吸入口および吐出口をシリンダと同軸上に配置できることから、これらシリンダから径方向に突出する部品がなく、ポンプ全体をコンパクトな筒状に形成することが可能になる。従って、本発明の電動ピストンポンプは、種々の位置への取り付けの自由度が向上するとともに、油圧等の配管の途中にインラインで組み込むことも容易となる。
【発明の効果】
【0018】
以上のように、本発明によれば、従来の電動ピストンポンプのような偏心機構を用いることなく、非接触で支持した状態でピストンを往復動させることが可能になる。従って、本発明の電動ピストンポンプは、駆動部位に潤滑手段を講じる必要がなく、軽量かつコンパクトに構成できるとともに、摩擦によるポンプ効率の低下や発熱のない長寿命な電動ピストンポンプとすることできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、図面を参照しつつこの発明を実施するための形態について説明する。
図1は、本発明の第1実施形態における電動ピストンポンプの構造を示す軸方向断面図である。
【0020】
この第1実施形態における電動ピストンポンプは、シリンダ3内に配置されたピストン2の往復により流体を吸入・吐出するポンプ部と、このピストン2を往復動させる駆動部とから構成されている。
【0021】
ポンプ部のシリンダ3は、一方の端部が開口した筒状であり、他方の閉じた端部には、流体を吐出する吐出口8bが設けられているとともに、その周面には、流体を吸入する吸入口8aが形成されている。また、このシリンダ3の内側には、ピストン2と摺接して流体の漏れを防止するOリング6と、ピストン2とモータケース4の接触を防止するコイルばね7が配設されている。なお、これら吸入口8aおよび吐出口8bの近傍には、図示しない逆止弁(吸入弁および吐出弁)がそれぞれ配置されており、流体の逆流を防ぐ構造となっている。
【0022】
また、このピストンポンプの駆動部は、ピストン2に一端が接続されたシャフト1と、このシャフト1の周囲に配置された複数のコイル5と、これらコイル5を収納するモータケース4とを主体として構成されており、前記シャフト1の他端側には、円板状のプレート9と、このプレート9とモータケース4の接触を防止するコイルばね7が配設されている。
【0023】
コイル5は、シャフト1の外径より若干大きな内径を有する樹脂製のリング状ホルダ5aに、導線5bを周方向に巻回して形成されており、コアとなる鉄心等は用いられていない。そのため、従来の回転モータにおけるステータに比べて、非常に軽量な構造である。なお、これらのコイル5は、三相電源に対応するように、3つのコイルを1組として構成されており、この例においては2組6個のコイルが、軸方向(シャフト1の長手方向)に並んだ状態で、モータケース4内に収納されている。
【0024】
また、ピストン2を駆動するシャフト1は、軸方向両端部を除く中央部が、図1のように、磁力線の向きがその長手方向にコイル5の幅と同じ間隔で交互に逆向きとなるように磁化されている。
【0025】
以上の構成の電動ピストンポンプにおいて、これらのコイル5に所定パターンの電流を流して制御した場合、このピストンポンプの駆動部を、シャフト1を左右に往復動作させるリニアモータとして機能させることができる。
【0026】
また、この電動ピストンポンプは、従来の電動ピストンポンプのような偏心機構を用いず、シャフト1の往復動作を非接触で支持するため、駆動部位に潤滑手段を講じる必要がなく、構造を簡略化できるとともに、摩擦によるポンプ効率の低下や、この駆動部からの発熱および騒音の発生もほとんどない。従って、本実施形態における電動ピストンポンプは、軽量かつコンパクトで、高効率な電動ピストンポンプとすることができる。
【0027】
なお、本実施形態における電動ピストンポンプは、従来のピストンポンプのような偏心機構を用いないことから、制御手段からの指令に対する応答性(レスポンス)が良好で、シャフト1のストローク量や、時間当たりのストローク回数を変更することにより、その吐出量を容易にコントロールできるというメリットもある。
【0028】
次に、本発明の第2実施形態について説明する。
図2は、本発明の第2実施形態における電動ピストンポンプの構造を示す軸方向断面図である。なお、第1実施形態と同様の機能を有する構成部材には、同じ符号を付記して詳細な説明を省略する。
【0029】
本実施形態における電動ピストンポンプは、第1実施形態におけるシャフト1のプレート(9)側に、前記シリンダ(3A)およびピストン(2A)と同軸上で対向する第2のシリンダ3Bおよびピストン2Aを配設して、対向型ピストンポンプとしたものである。
【0030】
また、このシャフト1を駆動するためのコイル5は、これらのシリンダ3A,3B間に配置されており、従来の偏心機構を用いる対向ピストンポンプに比べ、全体がコンパクトに構成されている。
【0031】
この構造により、対向型の電動ピストンポンプにおいても、第1実施形態と同様、駆動部からの発熱がなく、小型・軽量な電動ピストンポンプとすることができる。また、本実施形態における電動ピストンポンプは、シャフト1の1回の往復動作により2つのポンプが交互に吸入・吐出を繰り返し、これらのピストンポンプが効率良く駆動される。
【0032】
次に、本発明の第3実施形態について説明する。
図3は、本発明の第3実施形態における電動ピストンポンプの構造を示す軸方向断面図である。なお、第1および第2実施形態と同様の機能を有する構成部材には、同じ符号を付記する。
【0033】
本実施形態における電動ピストンポンプが第2実施形態と異なる点は、2つのピストン12A,12bおよびシャフト11に、これらを軸方向に貫通する連通孔Pが形成されている点である。また、シリンダ13A,13Bの周面には開口(吸入口8b)が設けられておらず、シリンダ13Bの端部に吸入口18aが、シリンダ13Aの端部に排出口18bが設けられている。なお、これら吸入口18aおよび吐出口18bの近傍には、第1および第2実施形態と同様、図示しない逆止弁(吸入弁および吐出弁)がそれぞれ配置されており、流体の逆流が防止されている。
【0034】
以上のような構成によって、この電動ピストンポンプは、これらシリンダ13A,13Bから径方向に突出する部品がなく、ポンプ全体をコンパクトな筒状に形成することが可能になる。
【0035】
また、これらのコイル5に所定パターンの電流を流し、シャフト1を左右に往復動作させた場合、吸入口18aからシリンダ13B内に流入した流体は、シリンダ13B内で圧縮され、連通孔Pを通ってシリンダ13A内に移動する。また、シリンダ13A内で圧縮された流体は、排出口18bから排出されることとなる。
【0036】
従って、本実施形態における電動ピストンポンプは、上記のポンプ形状と相俟って、種々の位置への取り付けが容易になるとともに、自動車の油圧配管等の途中にインラインで組み込むこともできるようになる。
【0037】
なお、以上3つの実施形態においては、ピストンとシャフトを別部材として構成した例を示したが、これらは単一の部材(ピストンロッド等)として構成しても良い。また、このシャフトを磁化する方法も特に限定されるものではなく、例えば、磁化の方向がシャフト長手方向で、かつ、コイルと同じ幅を有するリング状磁石を、このシャフトの外周面に、磁力線の向きが交互に逆向きとなるように並べて配置しても良い。
【0038】
また、ポンプ部の構成も、これらの実施形態での例に限定されるものではなく、シリンダの形状、吸入口および排出口の形状・配置や、ピストン周りをシールする方法等は、任意の形に変形することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の第1実施形態における電動ピストンポンプの構造を示す軸方向断面図である。
【図2】本発明の第2実施形態における電動ピストンポンプの構造を示す軸方向断面図である。
【図3】本発明の第3実施形態における電動ピストンポンプの構造を示す軸方向断面図である。
【符号の説明】
【0040】
1 シャフト
2,2A,2B ピストン
3,3A,3B シリンダ
4 モータケース
5 コイル
6 Oリング
7 コイルばね
8a 吸入口
8b 排出口
9 プレート
11 シャフト
12A,12B ピストン
13A,13B シリンダ
18a 吸入口
18b 排出口
P 連通孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダ内に配置されたピストンの往復動によって流体を吸入・吐出する電動ピストンポンプであって、
前記ピストンには、磁力線の向きがその長手方向に一定の間隔で交互に逆向きとなるように磁化された部位を有するシャフトの一端が接続され、このシャフトの周囲には、該シャフトの外周に略沿って巻回されたコイルが長手方向に複数個並べて配置されているとともに、前記ピストンは、これら複数個のコイルに所定パターンの電流を流すことによって生じる前記シャフトの往復動作により駆動されることを特徴とする電動ピストンポンプ。
【請求項2】
前記シャフトの他端側に、前記シリンダと同軸上で対向する第2のシリンダおよびピストンが配設され、前記複数個のコイルが、これらのシリンダの間に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の電動ピストンポンプ。
【請求項3】
前記2つのピストンおよびシャフトに、これらを軸方向に貫通する連通孔が設けられているとともに、これらの軸方向移動により一方のシリンダ内で圧縮された流体が、前記連通孔を通って他方のシリンダ内に移ることを特徴とする請求項2に記載の電動ピストンポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−97471(P2006−97471A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−280900(P2004−280900)
【出願日】平成16年9月28日(2004.9.28)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】