電動倍力装置
【課題】電動倍力装置において、ブレーキペダルの操作に対する反力の急激な変化を抑制して、ブレーキペダルの操作フィーリングを改善する。
【解決手段】入力ロッド7の移動量に基づき、マスタ圧制御装置3により電動モータ20を制御し、ボール−ネジ機構25を介してプライマリピストン40を推進してマスタシリンダ9でブレーキ液圧を発生させる。マスタシリンダ9のブレーキ液圧を入力ピストン16により入力ロッド7を介してブレーキペダル100にフィードバックする。入力ロッド7の移動量が所定の閾値に達したとき、入力ロッド7の移動量に対するプライマリピストン40の移動量の割合を小さくする。これにより、電動モータ20が全負荷状態に達してプライマリピストン40が停止した後、運転者の踏力により入力ピストン16のみが前進する際の踏力の変動を軽減して、ブレーキペダル100の操作フィーリングを改善する。
【解決手段】入力ロッド7の移動量に基づき、マスタ圧制御装置3により電動モータ20を制御し、ボール−ネジ機構25を介してプライマリピストン40を推進してマスタシリンダ9でブレーキ液圧を発生させる。マスタシリンダ9のブレーキ液圧を入力ピストン16により入力ロッド7を介してブレーキペダル100にフィードバックする。入力ロッド7の移動量が所定の閾値に達したとき、入力ロッド7の移動量に対するプライマリピストン40の移動量の割合を小さくする。これにより、電動モータ20が全負荷状態に達してプライマリピストン40が停止した後、運転者の踏力により入力ピストン16のみが前進する際の踏力の変動を軽減して、ブレーキペダル100の操作フィーリングを改善する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車両のブレーキ装置に組込まれる倍力装置において、倍力源として電動アクチュエータを用いた電動倍力装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電動倍力装置として、例えば特許文献1に記載されたものがある。この電動倍力装置は、ブレーキペダルに連結された入力ロッドと、入力ロッドに相対移動可能に外装されたブースタピストンと、ブースタピストンを駆動する電動モータと、入力ロッドの移動に応じて電動モータの作動を制御するコントローラとを備え、入力ロッド及びブースタピストンによってマスタシリンダのピストンを推進し、電動モータの駆動力を付与することにより、ブレーキペダルの操作に対して、所望の倍力比を得るようにしている。このとき、入力ロッドとブースタピストンとの相対変位を調整することにより、ブレーキペダルの操作量に対するブースタ出力を変化させることができ、倍力制御、ブレーキアシスト制御、回生協調制御等の種々のブレーキ制御を実行することができる。また、電動モータの故障等のフェイル時には、入力ロッドがマスタシリンダのピストンに当接することにより、ブレーキペダルによってマスタシリンダのピストンを直接押圧することで制動機能を維持することができるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−162482号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の電動倍力装置では、次のような問題がある。停車中に運転者が強くブレーキペダルを踏込んだ場合を想定する。運転者がブレーキペダルを踏込むと、入力ロッドの前進により、電動モータがブースタピストンを推進して、ブレーキペダルの操作量に応じて一定の倍力比でマスタシリンダの液圧が上昇する。そして、電動モータの出力がその最大出力に達し、ブースタピストンの推力とマスタシリンダ内の液圧による反力が釣合うとブースタピストンが停止し、それ以上前進できなくなる(全負荷状態)。その後、更にブレーキペダルを踏込むと、入力ロッドのみが前進するため、ブースタピストンの停止によりブレーキ液圧の昇圧速度が全負荷状態前よりも急激に低下することになる。このため、ブレーキペダルの反力が急激に低下することになる。その後、更にブレーキペダルを踏み込むと、上記したフェイル時と同様に入力ロッドが停止中のブースタピストンに当接し、マスタシリンダ内の液圧による全ての反力が入力ロッドを介してブレーキペダルに作用することになり、運転者は、ブレーキペダルが突然、固定されたような違和感を感じることになる。
【0005】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、ブレーキペダルの操作に対する反力の急激な変化を抑制して、ブレーキペダルの操作フィーリングを向上させるようにした電動倍力装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明は、ブレーキペダルの操作により進退移動する入力部材と、該入力部材に対して相対移動可能に設けられ、前進によってマスタシリンダ内にブレーキ液圧を発生させ、前記入力部材の前進により該入力部材が当接する倍力部材と、前記倍力部材を駆動する電動アクチュエータと、前記入力部材の移動に基づき前記電動アクチュエータの作動を制御する制御手段とを備え、前記入力部材の移動量に対する前記倍力部材の移動量を変化させて前記マスタシリンダ内にブレーキ液圧を発生させることが可能な電動倍力装置において、
前記制御手段は、前記入力部材の前進により、前記電動アクチュエータの出力が増大して最大出力を発生する第1全負荷状態となる前に、前記入力部材の移動量に対する前記倍力部材の移動量の割合を小さく切換える切換制御を実行することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る電動倍力装置によれば、ブレーキペダルの操作に対する反力の急激な変化を抑制して、ブレーキペダルの操作フィーリングを向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の一実施形態に係る電動倍力装置が組込まれた自動車のブレーキ制御装置を示す概略図である。
【図2】図1に示すブレーキ制御装置のマスタ圧制御装置の概略構成を示す回路図である。
【図3】図1に示すブレーキ制御装置のマスタ圧制御装置による切換制御の処理構成を示すブロック図である。
【図4】図1に示すブレーキ制御装置のマスタ圧制御装置により、本発明の実施形態に係る切換制御を実行するためのフローチャートである。
【図5】図1に示すブレーキ制御装置のマスタ圧制御装置により、本発明の第1実施形態に係る切換制御を実行するためのフローチャートである。
【図6】本発明の第1実施形態に係る切換制御によるブレーキペダルの移動量とブレーキペダル踏力との関係を示すグラフ図である。
【図7】図1に示すブレーキ制御装置のマスタ圧制御装置により、本発明の第2実施形態に係る切換制御を実行するためのフローチャートである。
【図8】本発明の第2実施形態に係る切換制御によるブレーキペダルの移動量とブレーキペダル踏力との関係を示すグラフ図である。
【図9】図1に示すブレーキ制御装置のマスタ圧制御装置により、本発明の第3実施形態に係る切換制御を実行するためのフローチャートである。
【図10】図1に示すブレーキ制御装置のマスタ圧制御装置により、本発明の第4実施形態に係る切換制御を実行するためのフローチャートである。
【図11】本発明の第4実施形態に係る切換制御によるブレーキペダルの移動量とブレーキペダル踏力との関係を示すグラフ図である。
【図12】図1に示すブレーキ制御装置のマスタ圧制御装置により、本発明の第5実施形態に係る切換制御を実行するためのフローチャートである。
【図13】本発明の第5実施形態に係る切換制御によるブレーキペダルの移動量とブレーキペダル踏力との関係を示すグラフ図である。
【図14】本発明の第5実施形態に係る切換制御によるブレーキペダルの移動量と、入力ロッドとプライマリピストンとの相対変位量のとの関係を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
本実施形態のブレーキ制御装置の全体構成を図1に示す。図1において、矢印付きの破線は、信号線であり、矢印の向きによって信号の方向を表している。
【0010】
図1に示すように、本実施形態に係るブレーキ制御装置1は、自動車の制動装置に適用して、左前輪FL、右後輪RR、右前輪FR、左後輪RLの4輪の制動力を制御するためのものである。ブレーキ制御装置1は、マスタシリンダ9と、マスタシリンダ9に接続されたリザーバタンク10と、マスタシリンダ9が発生するブレーキ液圧であるマスタ圧を制御する電動倍力装置を構成するマスタ圧制御機構4と、マスタ圧制御機構4を電気的に制御するための制御手段であるマスタ圧制御装置3と、各車輪FL、RR、FR、RLの液圧ブレーキ11a〜dにブレーキ液圧を供給するホイール圧制御機構6と、ホイール圧制御機構6を電気的に制御するためのホイール圧制御装置5とを備えている。なお、図中、FLは左前輪、FRは右前輪、RLは左後輪、RRは右後輪のそれぞれの車輪を示している。
【0011】
液圧ブレーキ装置11a〜11dは、図示しないシリンダ、ピストン及びブレーキパッド等から構成されており、ホイール圧制御機構6から供給されたブレーキ液圧によってピストンが推進され、ピストンに連結されたブレーキパッドがディスクロータ101a〜101dに押圧され、摩擦制動力を発生する。ディスクロータ101a〜101dは、車輪と一体に回転するようになっており、ディスクロータ101a〜101dに作用するブレーキトルクは、車輪と路面との間に作用するブレーキ力となる。
【0012】
マスタシリンダ9は、プライマリピストン40によって加圧されるプライマリ液室42と、セカンダリピストン41によって加圧されるセカンダリ液室43の二つの加圧室を有するタンデム式のものであり、プライマリピストン40の推進により、セカンダリピストン41が推進され、プライマリ及びセカンダリ液室42、43で加圧されたブレーキ液が、プライマリ配管102a及びセカンダリ配管102bを経由し、ホイール圧制御機構6を介して、各車輪FL、RR、FR、RLの液圧ブレーキ11a〜11dに供給されるように構成されている。
【0013】
リザーバタンク10は、リザーバポートを介してプライマリ液室42及びセカンダリ液室43に接続されている。リザーバポートは、プライマリピストン40及びセカンダリピストン41が後退位置にあるとき開いて、プライマリ液室42及びセカンダリ液室43をリザーバタンク10に連通して適宜ブレーキ液を補充し、プライマリピストン40及びセカンダリピストン41が前進すると閉じて、プライマリ液室42及びセカンダリ液室43の加圧を可能にする。
【0014】
このように、マスタシリンダ9は、プライマリピストン40及びセカンダリピストン41の2つのピストンによってプライマリ配管102a及びセカンダリ配管102bから2系統の液圧回路にブレーキ液を供給することが可能となっている。このことにより、万一、一方の液圧回路が失陥した場合でも、他方の液圧回路によって液圧を供給することでき、制動力を確保することができる。
【0015】
マスタ圧制御機構4は、プライマリピストン40の中心部に、入力ピストン16が摺動可能かつ液密的に貫通され、入力ピストン16の先端部がプライマリ室43内に挿入されるように構成されている。入力ピストン16の後端部には、入力ロッド7が連結され、入力ロッド7は、マスタ圧制御機構4の後端部から外部へ延ばされ、その先端部にブレーキペダル100が連結されている。入力ピストン16は、入力ロッド7と共に入力部材を構成している。プライマリピストン40と入力ピストン16との間には、一対の中立バネ19A、19Bが介装され、プライマリピストン40と入力ピストン16とは、中立バネ19A、19Bのバネ力によって中立位置に弾性的に保持され、これらの軸方向の相対変位に対して中立バネ19A、19Bのバネ力が作用するようになっている。
【0016】
マスタ圧制御機構4は、倍力部材を構成するプライマリピストン40を駆動する電動アクチュエータである電動モータ20と、プライマリピストン40と電動モータ20との間に介装された回転−直動変換機構であるボール−ネジ機構25及び減速機構であるベルト減速機構21とを備えている。電動モータ20は、その回転位置を検出する回転位置センサ205を備え、マスタ圧制御装置3からの指令によって作動して、所望の回転位置が得られるようになっている。電動モータ20は、例えば公知のDCモータ、DCブラシレスモータ、ACモータ等とすることができるが、制御性、静粛性、耐久性等の観点から本実施形態では三相DCブラシレスモータを採用している。また、回転位置センサ205の信号に基づき、ボール−ネジ機構25の推進量、即ち、プライマリピストン40の変位量を算出することができる。
【0017】
ボール−ネジ機構25は、入力ロッド7が挿入された中空の直動部材であるネジ軸27と、ネジ軸27が挿入される円筒状の回転部材であるナット部材26と、これらの間に形成されたネジ溝に装填された複数のボール30(鋼球)とを備え、ナット部材26の前端部が可動部材28を介してプライマリピストン40の後端部に当接し、ナット部材26が軸受31によって回転可能に支持されている。そして、マスタ圧制御機構4は、電動モータ20によってベルト減速機構21を介してナット部材26を回転させることにより、ネジ溝内をボール30が転動し、ネジ軸27が直線運動して、可動部材28を介してプライマリピストン40を押圧するようになっている。ネジ軸27は、戻しバネ29によって後退位置側に付勢されている。
【0018】
なお、回転−直動変換機構は、電動モータ20(すなわちベルト減速機構21)の回転運動を直線運動に変換してプライマリピストン40に伝達するものであれば、ラックアンドピニオン機構等の他の機構を用いることができるが、本実施形態では、遊びの少なさ、効率、耐久性等の観点から、ボール−ネジ機構25を採用している。ボール−ネジ機構25は、バックドライバビリティを有しており、ネジ軸27の直線運動によってナット部材26を回転させることができる。また、ネジ軸27は、プライマリピストン40に後方から当接し、プライマリピストン40がネジ軸27から離れて単独で前進できるようになっている。これにより、ブレーキ作動中、すなわち、マスタシリンダ9でブレーキ液圧が発生している状態で、万一、電動モータ20が断線等によって作動不能になった場合、ネジ軸27が戻しバネ29のバネ力によって後退位置に戻されるので、マスタシリンダ9の液圧を解除することができ、ブレーキの引き摺りを防止することができる。また、電動モータ20が作動不能の場合、プライマリピストン40は、ネジ軸27から離間して単独で移動できるので、ブレーキペダル100によって入力ロッド7を介して入力ロッド16を前進させ、更に、プライマリピストン40に当接させて、プライマリピストン40を直接操作することにより、液圧を発生させることができ、制動機能を維持することができる。
【0019】
ベルト減速機構21は、電動モータ20の出力軸に取付けられた駆動プーリ22と、ボール−ネジ機構25のナット部材26の外周部に取付けられた従動プーリ32と、これらの間に巻装されたベルト24とを含み、電動モータ20の出力軸の回転を所定の減速比で減速してボール−ネジ機構21に伝達するものである。ベルト減速機構21に、歯車減速機構等の他の減速機構を組み合わせてもよい。ベルト減速機構21の代りに、公知の歯車減速機構、チェーン減速機構、差動減速機構等を用いることができるが、また、電動モータ20によって充分大きなトルクが得られる場合には、減速機構を省略して、電動モータ20によってボール−ネジ機構25を直接駆動するようにしてもよい。これにより、減速機構の介在に起因して発生する、信頼性、静粛性、搭載性等に係る諸問題を回避することができる。
【0020】
入力ロッド7には、ブレーキ操作量検出装置8が連結されている。ブレーキ操作量検出装置8は、少なくとも入力ロッド7の位置又は変位量(ストローク)を検出できるものである。なお、ブレーキ操作量検出装置8は、入力ロッド7の変位センサを含む複数の位置センサと、運転者によるブレーキペダル100の踏力を検出する力センサとを含むものであってもよい。また、変位センサでブレーキ操作量を検出する物理量として、入力ロッド7の変位量、ブレーキペダル100のストローク量、ブレーキペダル100の移動角度、ブレーキペダル100の踏力、もしくは、前記複数のセンサ情報を組み合わせて検出してもよい。ブレーキ操作量検出装置8としては、ブレーキペダル100の踏力を検出する踏力センサを複数個組み合わせた構成や、変位センサと踏力センサを組み合わせた構成であってもよい。これにより、一つのセンサからの信号が途絶えた場合にも、残りのセンサによって運転者のブレーキ要求が検出、認知されるため、フェイルセーフが確保される。
【0021】
ブレーキ操作量検出装置8のうち、少なくとも1つのセンサは、ホイール圧制御装置5により、電源供給及び信号入力処理が行われ、残りのセンサは、マスタ圧制御装置3により、電源供給及び信号入力処理が行われる。これにより、マスタ圧制御装置3とホイール圧制御装置5のどちらかにCPU故障、あるいは、電源故障が発生した場合にも、残りのセンサと制御装置により、運転者のブレーキ要求が検出、認識されるため、フェイルセーフが確保される。なお、図1では、ブレーキ操作量検出装置8は、1つのみ示されているが、マスタ圧制御装置3に接続されるものと、ホイール圧制御装置に接続されるものとをそれぞれ設けるようにしてもよい。
【0022】
次に、マスタ圧制御ユニット4によるマスタ圧制御機構3の制御について説明する。
ブレーキ操作量検出装置8によって検出したブレーキペダル100の操作量(変位量、踏力等)に基づき、電動モータ20を作動させてプライマリピストン40の位置を制御して液圧を発生させる。このとき、入力ピストン16に作用する液圧による反力が入力ロッド7を介してブレーキペダル19にフィードバックされる。そして、プライマリピストン40と入力ピストン16との受圧面積比及び相対変位によって、ブレーキペダル100の操作量と発生液圧との比である倍力比を調整することができる。このとき、マスタ圧に応じた力が入力ロッド7を介してブレーキペダル100に作用し、ブレーキペダル反力として運転者に伝達されるので、別途、ブレーキペダル反力を生成する装置が不要となり、ブレーキ制御装置1の小型・軽量化を図ることができ、車両への搭載性が向上する。
【0023】
例えば、入力ピストン16の変位に対して、プライマリピストン40を追従させ、これらの相対変位が0になるように相対変位制御することにより、入力ピストン16とプライマリピストン40との受圧面積比によって決まる一定の倍力比を得ることができる。また、入力ピストン16の変位に対して、比例ゲインを乗じて、入力ピストン16とプライマリピストン40との相対変位を変化させることにより、倍力比を変化させることができる。すなわち、入力ピストン16の移動量に対してプライマリピストン40の移動量を変化させて、ブレーキペダル100の操作量に対するブースタ出力を変化させることができる。
【0024】
これにより、ブレーキペダル100の操作量、操作速度(操作量の変化率)等から緊急ブレーキの必要性を検知し、プライマリピストン40の移動量を増大させて迅速に必要な制動力(液圧)を得る、いわゆるブレーキアシスト制御を実行することができる。さらに、回生制動システム(図示せず)からの信号に基づき、回生制動時に、回生制動分を差引いた液圧を発生させるようにプライマリピストン40の移動量を調整して、回生制動分と液圧による制動力との合計で所望の制動力が得られるようにする回生協調制御を実行することができる。また、ブレーキペダル100の操作(入力ピストン16の変位量等)にかかわらず、電動モータ20を作動させてプライマリピストン40を移動させることにより、制動力を発生させる自動ブレーキ制御を実行することも可能である。これにより、各種センサ手段によって検出した車両状態に基づき、自動的に制動力を調整し、適宜、エンジン制御、ステアリング制御等の他の車両制御と組合わせることにより、マスタ圧制御ユニット4を用いて車両追従制御、車線逸脱回避制御、障害物回避制御等の車両の運転制御を実行することもできる。
【0025】
次に、入力ロッド7の推力の増幅について説明する。
運転者のブレーキ操作による入力ロッド7を介した入力ピストン16の変位量に応じてプライマリピストン40を変位させることにより、入力ロッド7の推力に応じてプライマリピストン40の推力が付与されるため、入力ロッド7の推力が増幅される形でプライマリ液室42が加圧される。その増幅比(以下「倍力比」という)は、入力ロッド7とプライマリピストン40との相対変位及び入力ピストン16とプライマリピストン40の断面積の比等によって任意に設定することができる。
【0026】
特に、入力ロッド7の変位量と同量だけプライマリピストン40を変位させる場合(入力ロッド7とプライマリピストン40との相対変位を0とした場合)、入力ピストン16の断面積を「AI」とし、プライマリピストン40の断面積を「AA」とすると、倍力比は、(AI+AA)/AIとして一意に定まる。すなわち、必要な倍力比に基づいて、AIとAAを設定し、その変位量が入力ピストン16の変位量に等しくなるようにプライマリピストン40を制御することで、常に一定の倍力比を得ることができる。なお、プライマリピストン40の変位量は、回転位置センサ205の出力信号に基づいて算出することができる。
【0027】
次に、出力可変機能を実行する際の処理について説明する。出力可変制御処理は、入力ピストン16の変位量に比例ゲイン(K1)を乗じた量だけプライマリピストン40を変位させる制御処理である。なお、比例ゲイン(K1)は、制御性の点からは1であること(K1=1)が望ましいが、緊急ブレーキ等により運転者のブレーキ操作量を超える大きなブレーキ力が必要な場合等において、一時的に1を超える値(K1>1)に変更してもよい。これにより、入力ピストン16とプライマリピストン40との相対変位に対して中立バネ19A、19Bのバネ力が作用して入力ピストン16に作用する反力を調整し、同量のブレーキ操作量でも、マスタ圧を通常時(K1=1の場合)に比べて引き上げることができ、より大きなブレーキ力を発生させることができる。ここで、緊急ブレーキの判定は、例えば、ブレーキ操作量検出装置8の信号の時間変化率が所定値を上回るか否かで判定することができる。
【0028】
以上述べたとおり、出力可変制御処理によれば、運転者のブレーキ要求に従う入力ロッド7の変位量に応じてマスタ圧が増減圧されるため、運転者の要求通りのブレーキ力を発生させることができる。また、比例ゲイン(K1)を1未満の値(K1<1)にすることで、いわゆるハイブリッド車または電気自動車において、液圧ブレーキを回生ブレーキ力分だけ減圧する回生協調ブレーキ制御に適用することも可能である。
【0029】
次に、自動ブレーキ機能を実施する際の処理について説明する。
自動ブレーキ制御処理は、マスタシリンダ9の作動圧を自動ブレーキの要求液圧(以下、自動ブレーキ要求液圧と称す)に調節すべく、プライマリピストン40を前進及び後退させる処理である。この場合のプライマリピストン40の制御方法としては、テーブルとして事前に取得したプライマリピストン40の変位量とマスタ圧との関係に基づいて、自動ブレーキ要求液圧を実現するプライマリピストン40の変位量を抽出し、これを目標値とする方法、マスタ圧センサ56、57で検出されたマスタ圧をフィードバックする方法等があるが、いずれの方法を採っても構わない。なお、自動ブレーキ要求液圧は外部ユニットから受信することが可能であり、例えば、車両追従制御、車線逸脱回避制御、障害物回避制御等でのブレーキ制御に適用可能である。
【0030】
次に、ホイール圧制御機構6の構成と作動について説明する。
ホイール圧制御機構6は、マスタシリンダ9で加圧されたブレーキ液の各液圧ブレーキ装置11a〜11dへの供給を制御するゲートOUT弁50a、50b、マスタシリンダ9で加圧されたブレーキ液のポンプ54a、54bへの供給を制御するゲートIN弁51a、51b、マスタシリンダ9又はポンプ54a、54bから各液圧ブレーキ装置11a〜11dへのブレーキ液の供給を制御するIN弁52a〜52d、液圧ブレーキ装置11a〜11dを減圧制御するOUT弁53a〜53d、マスタシリンダ9で発生したブレーキ液圧を昇圧するポンプ54a、54b、ポンプ54a、54bを駆動する電動モータ20、マスタ圧を検出するマスタ圧センサ56を有する。なお、ホイール圧制御機構6としては、アンチロックブレーキ制御用の液圧制御ユニット、車両挙動安定化制御用の液圧制御ユニット等を用いることができる。
【0031】
ホイール圧制御機構6は、プライマリ液室42からブレーキ液の供給を受け、車輪FLと車輪RRのブレーキ力を制御する第1のブレーキ系統と、セカンダリ液室43からブレーキ液の供給を受け、車輪FRと車輪RLのブレーキ力を制御する第2のブレーキ系統の二つの系統から構成されている。このような構成を採ることにより、一方のブレーキ系統が失陥した場合にも、正常な他方のブレーキ系統によって対角2輪分のブレーキ力を確保できるので、車両の挙動が安定に保たれる。
【0032】
ゲートOUT弁50a、50bは、マスタシリンダ9とIN弁52a〜52dとの間に設けられ、マスタシリンダで加圧されたブレーキ液を液圧ブレーキ装置11a〜11dに供給する際に開弁される。ゲートIN弁51a、51bは、マスタシリンダ9とポンプ54a、54bとの間に設けられ、マスタシリンダで加圧されたブレーキ液をポンプ54a、54bで昇圧して液圧ブレーキ装置11a〜11dに供給する際に開弁される。
【0033】
IN弁52a〜52dは、液圧ブレーキ装置11a〜11dの上流に設けられ、マスタシリンダ9又はポンプ54a、54bで加圧されたブレーキ液を液圧ブレーキ装置11a〜11dに供給する際に開弁される。OUT弁53a〜53dは、液圧ブレーキ装置11a〜11dの下流に備えられ、ホイール圧を減圧する際に開弁される。なお、ゲートOUT弁、ゲートIN弁、IN弁、OUT弁は、いずれもソレノイド(図示省略)への通電によって弁の開閉が行われる電磁式であり、ホイール圧制御装置5が行う電流制御によって各弁の開閉量を独立に調節できるものである。
【0034】
ゲートOUT弁50a、50bとIN弁52a〜52dが常開弁、ゲートIN弁51a、51bとOUT弁53a〜53dが常閉弁である。このような構成を採ることにより、故障時にこれらの弁への電力供給が停止した場合にも、ゲートIN弁とOUT弁が閉じ、ゲートOUT弁とIN弁が開いて、マスタシリンダ9で加圧されたブレーキ液が全ての液圧ブレーキ装置11a〜11dに到達するので、運転者の要求通りのブレーキ力を発生させることができる。
【0035】
ポンプ54a、54bは、例えば車両挙動安定化制御、自動ブレーキ制御等を行うために、マスタシリンダ9の作動圧を超える圧力が必要な場合に、マスタ圧を昇圧して液圧ブレーキ装置11a〜11dに供給する。ポンプ54a、54bとしては、プランジャポンプ、トロコイドポンプ、ギヤポンプ等の使用が可能であるが、静粛性の点においては、ギヤポンプが望ましい。
【0036】
電動モータ20は、ホイール圧制御装置5の制御指令に基づいて供給される電力により動作してモータに連結されたポンプ54a、54bを駆動する。モータとしては、DCモータ、DCブラシレスモータ、ACモータ等の使用が可能であるが、制御性、静粛性、耐久性の点においては、DCブラシレスモータが望ましい。
【0037】
マスタ圧センサ56は、セカンダリ側のマスタ配管102bの下流に設けられており、マスタ圧を検出する圧力センサである。マスタ圧センサ56の個数及び設置位置については、制御性、フェイルセーフ等を考慮して任意に決定することができる。
【0038】
そして、ホイール圧制御装置5によって上述のホイール圧制御機構6の作動を制御し、各車輪FL、RR、FR、RLの液圧ブレーキ11a〜11dに供給するブレーキ液圧を制御することにより、各種ブレーキ制御を実行する。例えば、制動時に接地荷重等に応じて各車輪に適切に制動力を配分する制動力配分制御、制動時に各車輪の制動力を自動的に調整して車輪のロックを防止するアンチロックブレーキ制御、走行中の車輪の横滑りを検知して各車輪に適宜自動的に制動力を付与することにより、アンダーステア及びオーバーステアを抑制して車両の挙動を安定させる車両安定性制御、坂道(特に上り坂)において制動状態を保持して発進を補助する坂道発進補助(HSA)制御、発進時等において車輪の空転を防止するトラクション制御、先行車両に対して一定の車間を保持する車両追従制御、走行車線を保持する車線逸脱回避制御、障害物との衝突を回避する障害物回避制御等を実行することができる。
【0039】
また、ホイール圧制御機構6は、マスタ圧制御装置3の故障の際には、マスタ圧センサ56で検知したブレーキ液圧により、運転者のブレーキ操作量を検出し、この検出値に応じたホイール圧を発生させるようにポンプ54a、54b等を制御することにより、ブレーキ制御装置1の制動機能をすることができる。
【0040】
なお、マスタ圧制御装置3とホイール圧制御装置5とは双方向の通信を行っており、制御指令、車両状態量(ヨーレート、前後加速度、横加速度、ハンドル舵角、車輪速、車体速等、故障情報、作動状態等)を共有している。
【0041】
次に、図2を参照して、マスタ圧制御装置3の回路構成の一例について説明する。
図2において、マスタ圧制御装置3の電気回路は、太線枠201で示され、マスタ圧制御機構4の電気回路は点線枠202で示されている。又、太線枠203は、ホイール圧制御装置5を示している。
【0042】
マスタ圧制御装置3の電気回路201は、車両内の電源ラインからECU電源リレー214を介して供給される電源が5V電源回路(1)215と5V電源回路(2)216に入力されるようになっている。
【0043】
ECU電源リレー214は、起動信号(W/U)と、CAN通信I/F218でCAN受信により生成する起動信号のいずれか一つにより、オンする構成となっている。上記起動信号は、ドアスイッチ信号、ブレーキスイッチ、イグニッションスイッチ信号等を使用することができる。これらのスイッチを複数使用する場合は、マスタ圧制御装置3に全て取り込み、複数信号のいずれか一つのスイッチがオンした時に、起動信号がECU電源リレー214をオンする側に作動する回路構成としてもよい。
【0044】
5V電源回路(1)215によって得られる安定した電源(VCC1)は、中央制御回路211(以下、CPU211という)に供給されるようになっている。また、5V電源回路(2)214によって得られる安定した電源(VCC2)は監視用制御回路219に供給されるようになっている。
【0045】
フェイルセーフリレー回路213は、車両内の電源ラインから後述の三相モータ駆動回路222に供給する電源を遮断できるようになっており、CPU211と監視用制御回路219によって、三相モータ駆動回路222への電源の供給と遮断を制御できるようになっている。
【0046】
フェイルセーフリレー回路213を介して供給される電源はフィルタ回路212を介することによってノイズが除去され、三相モータ駆動回路222に供給されるようになっている。
【0047】
CPU211には、CAN通信I/F回路218を介してマスタ圧制御装置3以外からの車両情報と自動ブレーキ要求液圧等の制御信号が入力されるようになっている。また、マスタ圧制御機構4側に配置された回転角検出センサ205、モータ温度センサ206、変位センサ207、208(図1のブレーキ操作量検出装置8に対応)、及び、マスタ圧センサ209(図1のマスタ圧センサ56、57に対応)からの出力が、それぞれ、回転角検出センサI/F回路225、モータ温度センサI/F回路226、変位センサI/F回路227、228、及び、マスタ圧センサI/F回路229を介して入力されるようになっている。
【0048】
なお、図2の例では、変位センサ207、208(図1のブレーキ操作量検出装置8に対応)は、2個の変位センサを備えた構成としているが、少なくとも1つ以上備えた構成であればよい。ここで用いるセンサは、踏力センサ又はマスタ圧センサとしてもよいし、異なるセンサを少なくとも2つ以上組み合わせた構成としてもよい。
【0049】
このようにして、現時点におけるマスタ圧制御機構4の状況等に関する情報を入力し、マスタ圧制御機構4を制御するとともに、故障状態を検知する。
【0050】
CPU211は、外部装置からの制御信号、及び各センサの検出値に基づいて、三相モータ駆動回路222に適切な信号を出力し、電動モータ20を制御するようになっている。この場合、三相モータ駆動回路222の三相出力の各相には、相電流モニタ回路223及び相電圧モニタ回路224が具備されており、これら相電流モニタ回路223及び相電圧モニタ回路224によって、それぞれ相電流及び相電圧を監視し、それらの出力はCPU211を介して三相モータ駆動回路222を適切に動作させるようにしている。三相モータ駆動回路222は、マスタ圧制御機構4内のモータ204(図1の電動モータ20に対応)に接続されてCPU211による制御に応じた駆動がなされるようになっている。更に、各モニタ値が正常範囲外となった場合、制御指令通りに制御できていない場合等に故障と判断するようになっている。
【0051】
電気回路201には、CPU211との間で信号の送受がなされる、例えば故障情報等が格納されたEEPROMからなる記憶回路230が備えられ、CPU211は、検出した故障情報と、マスタ圧制御機構4の制御で用いる学習値(例えば制御ゲイン、各種センサのオフセット値等)等を記憶回路230に記憶させることができる。また、電気回路201には、CPU211との間で信号の送受がなされる監視用制御回路219が備えられており、監視用制御回路219はCPU211の故障、及びVCC1電圧等を監視している。そして、CPU211、及びVCC1電圧等の異常を検出した場合は、速やかにフェイルセーフリレー回路213を動作させ、三相モータ駆動回路222への電源供給を遮断する。監視用制御回路219及びVCC2電圧の監視は、CPU211で行っている。
【0052】
次に、マスタ圧制御装置3によるマスタ圧制御機構4の切換制御について図3乃至図14を参照して説明する。
【0053】
マスタ圧制御装置3によるマスタ圧制御機構4の切換制御を実行するための処理を図3に示す。図3に示すように、マスタ圧制御装置3は、制御入力I1及び制御切換入力I2に基づき、目標とするプライマリピストン40の移動量を決定する制御切換手段300と、制御切換手段300の出力信号に基づき、電動モータ20に駆動電流を供給するモータ駆動手段301とを備えている。
【0054】
制御切換手段300に入力される制御入力I1は、本実施形態においては、ブレーキペダル100に連結された入力ロッド7の変位量(移動量)を用いている。なお、入力ロッド7の変位量の他、運転者のブレーキペダル100の踏力、あるいは、図示しない推定手段により、入力ロッド7の位置、プライマリピストン40の位置、マスタシリンダ9内の液圧、中立19A、19Bのバネ力等から計算により求めた推定踏力を用いることができる。このとき、これらのうち、いずれか1つを制御入力I1としてもよいし、複数個を組み合わせて制御入力I1としてもよい。この制御入力I1は、目標となるプライマリピストン40の変位量(移動量)を求めるために用いられ、プライマリピストン40の変位量は、制御入力I1との関係を予め設定したテーブルから求めてもよいし、制御入力I1に基づき、所定の演算により求めてもよい。
【0055】
また、制御切換手段300は、制御切換入力I2に基づき、入力ロッド7の移動量に対するプライマリピストン40の移動量の割合を変化させる。制御切換入力I2は、入力ロッド7の位置、プライマリピストン40の位置、マスタシリンダ9内の液圧、電動モータ20に流れる電流、又は、前述の推定踏力とすることができる。このとき、これらのうち1つを制御切換入力I2としてもよいし、複数個を組み合わせて制御切換入力I2としてもよい。
【0056】
モータ駆動手段301は、制御切換手段300が決定したプライマリピストン40の目標移動量(目標位置)に基づき、電動モータ20に駆動電流を供給して、プライマリピストン40の移動量が目標移動量となるように電動モータ20を駆動する。これにより、電動モータ20がプライマリピストン40を目標移動量まで移動させ、マスタシリンダ9で所望のブレーキ液圧を発生させる。
【0057】
本実施形態においては、制御入力I1及び制御切換入力I2に基づいて、制御入力I1に対するプライマリピストン40の移動量の割合をブレーキペダルの途中から小さくすることで、ブレーキペダルの操作ストロークにおける電動モータ20の出力が最大となる全負荷点の位置をずらすとともに、該全負荷点となってから入力ピストンがプライマリピストン40に当接する当接点に至るまでの操作ストロークをなくすか、若しくは、短縮することを実現しようとしている。このような構成により、ブレーキペダル100の踏力の変動を小さくして、ブレーキペダル100の操作フィーリングを改善することが可能となる。以下に、制御切換手段300により、制御入力I1に対するプライマリピストン40の移動量の割合を変化させる具体的な処理について図4を参照して説明する。
【0058】
まず、ステップS131で、車両が停止中か否かの判定を行う。ここで、車両が停車中か否かは、例えば、図示しない車速センサから取込んだ車速情報により、車両の他のユニットが取込んだ車両停止情報をCAN通信によってCAN通信I/F218aを介して取込むことにより、あるいは、車両の他のユニットが停車と判定した結果をCAN通信にて取込むことにより、判定することができる。
【0059】
車両が停止中と判定された場合、ステップS132で、制御切換入力I2が第1、第2の割合の切換えのための所定の閾値以上であるか否かを判定する。ここで、制御切換入力I2は、後述する入力ロッド7の移動量(第1実施形態)、マスタシリンダ9内の液圧(第2実施形態)、ブレーキペダル100の踏力(マスタ圧制御装置3に取込んだ情報を用いて計算した推定踏力を含む)(第3実施形態)、電動モータ20に通電する電流値(第4実施形態)、又は、入力ロッド7とプライマリピストン40との相対変位量(第5実施形態)のいずれか1つ、あるいは、これらの複数の情報の組み合わせとすることができる。
【0060】
制御切換入力I2が閾値未満である場合、ステップS133で、制御入力I1となる入力ロッド7の移動量に対するプライマリピストン40の移動量の割合が所定の第1の割合となるようにプライマリピストン40の目標位置を決定する。制御切換入力I2が閾値以上である場合は、ステップS134で、入力ロッド7の移動量に対するプライマリピストン40の移動量の割合が、第1の割合よりも小さい第2の割合となるようにプライマリピストン40の目標位置を決定する。そして、ステップS135で、モータ駆動手段301により、プライマリピストン40が目標位置に移動するように、電動モータ20に駆動電流を供給する。また、S131で、車両が停止中と判定されなかった場合、ステップS133で、入力ロッド7の移動量に対するプライマリピストン40の移動量の割合が第1の割合となるようにプライマリピストン40の目標位置を決定する。
【0061】
このように、本実施形態では、制御入力I1に対するプライマリピストン40の移動量の割合を第1の割合から、これよりも小さい第2の割合に切換える切換制御を実行するようにしている。このような制御を行うことにより、電動モータ20の出力が最大となる全負荷点及び入力ピストンがプライマリピストン40に当接する当接点におけるブレーキペダル100の踏力の変動を小さくすることができる。したがって、ブレーキペダル100の操作フィーリングを改善することができる。
【0062】
次に、ステップS131において、車両が停止中と判定する条件について説明する。一般的に、車両走行中にブレーキペダル100を全負荷点以降まで踏込む状況は、急制動時以外にはあまり存在しない。一方、車両の停止中または停止直前においては、大きな車両の減速度を伴わないので、運転者は、ブレーキペダル100を強く踏込むことができ、ブレーキペダル100の操作フィーリングの変化を感じやすい。そこで、停車直前の倍力比を低下させずに制御したい場合は、車速がゼロ、又は、車速がゼロの状態が一定時間続いたとき、車両が停止中と判定するとよい。また、停車直前のペダルフィーリングを改善したい場合は、車速が一定速度以下であるとき、車両が停止中と判定するとよい。これにより、車両走行中には、ある程度倍力比を高めつつ、車両が停止中、あるいは、停止直前では、ブレーキペダル100の踏力を変動を小さくして、ブレーキペダル100の操作フィーリングを改善することができる。
【0063】
上述したステップS132における制御切換入力I2が第1、第2の割合の切換えのための所定の閾値以上であるか否かの判定について、その具体例を第1〜5実施形態として、以下で説明する。なお、上記実施形態においては、ステップS131で車両が停止中か否かを判定したが、必ずしも、これを判定する必要はなく、以下の第1〜5実施形態においては、車両が停止中か否かに係らず制御を行うようにしている。
【0064】
第1実施形態として、制御切換入力I2を入力ロッド7の移動量とし、入力ロッド7の移動量(ストローク)が閾値以上であるか否かに応じて、入力ロッド7の移動量とプライマリピストン40の移動量の割合を切換える切換制御を実行する場合の処理について図5及び図6を参照して説明する。
【0065】
図5を参照して、ステップS21で、入力ロッド7の移動量が閾値以上であるか否かを判定する。入力ロッド7の移動量が所定の閾値未満である場合は、ステップS22で入力ロッド7の移動量に対するプライマリピストン40の移動量の割合が所定の第1の割合となるようにプライマリピストン40の目標位置(移動量)を決定する。また、入力ロッド7の移動量が閾値以上である場合は、ステップS23で入力ロッド7の移動量に対するプライマリピストン40の移動量の割合が、第1の割合よりも小さい第2の割合となるようにプライマリピストン40の目標位置を決定する。そして、ステップS24で、モータ駆動手段301により、プライマリピストン40が目標位置に移動するように、電動モータ20に駆動電流を供給する。
【0066】
図5に示す制御を適用した場合のブレーキペダル100の移動量(ストローク;図中Sで示す)と、ブレーキペダル100の踏力(図中Fで示す)との関係を図6に示す。図6を参照して、運転者が、ブレーキペダル100を放している非制動位置S31(ストローク0)の状態から、ブレーキペダル100を踏込むと、入力ロッド7の移動量に対するプライマリピストン40の移動量の割合が第1の割合となるようにプライマリピストン40が移動する。このとき、中立バネ19A、19Bのバネ力に加えて、マスタシリンダ9内の液圧の上昇により、その反力がブレーキペダル100に作用することによりブレーキペダルの踏力が増大する。
【0067】
そして、入力ロッド7の移動量が所定の閾値である切換点S32に到達したとき、入力ロッド7の移動量に対するプライマリピストン40の移動量の割合が第1の割合から、これよりも小さい第2の割合に切り換わる。このとき、制御を切換える切換点S32は、第1の割合による制御において、電動モータ20によるプライマリピストン7の移動量が最大(電動モータ20の出力が最大)となる第1全負荷点S33よりも小さくなるように設定する。
【0068】
切換点S32から第2の割合による制御が実行されて、電動モータ20によるプライマリピストン40の移動量が最大(電動モータ20の出力が最大)となる第2全負荷点S34に至る。第2全負荷点S34に達した後は、プライマリピストン40は停止し、運転者のブレーキペダル踏力により入力ロッド7のみが前進する。このとき、ブレーキペダル100のストロークに対する反力の増大の割合が小さくなる。そして、入力ロッド7が当接点S35まで移動すると、入力ピストン16がプライマリピストン40に当接する。入力ロッド7の移動量が当接点S35に達した後は、運転者のブレーキペダル踏力によって入力ロッド7及び入力ピストン16と共にプライマリピストン40が推進されるため、ブレーキペダル100のストロークに対する踏力の増大の割合が大きくなる。なお、当接点S35は、マスタ圧制御機構4の各部の寸法、マスタシリンダ9の液圧回路の下流剛性、電動モータ20の最大出力等に依存する。ここで、第2全負荷点S34と当接点S35とを一致させることにより、踏力の傾きが緩やかになる第2全負荷点S33から当接点S35までの区間がなくなるので、ブレーキペダル100の移動量に対する踏力の変動が緩和されてブレーキペダル100の操作フィーリングが改善される。なお、マスタシリンダ9の液圧回路の下流剛性とは、液圧ブレーキ11a〜dの必要液量、必要液圧のことを指しており、液圧ブレーキ11a〜dは、使用状況によって目標減速度に対する必要液量、必要液圧が変化するようになっている。具体的には、液圧ブレーキ11a〜dに設けられている摩擦パッドが温度や磨耗度合いによってその硬さが変わる。例えば、摩擦パッドの温度が上がって軟らかくなった場合には、下流剛性が低くなる傾向にあり、摩擦パッドの磨耗が進んで硬くなった場合には、下流剛性が高くなる傾向にある。
【0069】
このように、入力ロッド7の移動量に対するプライマリピストン40の移動量の割合を第1の割合から、第1の割合よりも小さい第2の割合に切換える切換制御を実行することにより、電動モータ20の出力が最大となる全負荷点及び入力ピストンがプライマリピストン40に当接する当接点におけるブレーキペダル100の踏力の変動を小さくして、ブレーキペダル100の操作フィーリングを改善することができる。
【0070】
次に、切換点S32及び第2全負荷点S34の設定方法について、その具体例を第1〜3の設定方法として説明する。なお、この設定方法は、以下の第1〜3の設定方法に限られるものではなく、他の設定方法を取りえるものである。第1の設定方法では、切換点S32と全負荷点S32との間の傾きα1に基づいて設定する。切換点S32は、上述のように第1全負荷点S33よりも小さくなるように設定するが、使用頻度の高いブレーキ踏力の小さい領域では、倍力比が大きくなる第1の割合による制御を行えるように切換点S32を決定するとよい。こうすることで、低踏力側では、充分な倍力比を維持しつつ、ブレーキペダル100を更に踏み込んだときの操作フィーリングを改善することができる。また、傾きα1を緩やかにすると(第2の割合を小さくすると)、切換点S32におけるペダル踏力の変化が急激になるため、非制動位置S31から第2全負荷点S34までのブレーキペダル100の移動量に対する踏力の変化が滑らかになるように傾きα1を決定するとよい。
【0071】
第2の設定方法では、第2全負荷点S34の位置及び切換点S32と全負荷点S34との間の傾きα1に基づいて設定する。第2全負荷点S34が当接点S35よりも大きい場合、電動モータ20が最大出力に達する前に入力ピストン16がプライマリピストン40に当接することになり、電動モータ20の出力に対して充分な倍力比が得られず、効率が悪いので、第2全負荷点S34は、当接点S35と一致させることが望ましい。ここで、当接点S35は、マスタシリンダ9の液圧回路の下流剛性によって変化するため、第2全負荷点S34は、この下流剛性を考慮して必ず当接点S35よりも小さくなるように設定する。また、第2全負荷点S34は、マスタ圧制御装置3の入力信号に基づいて決定することができるが、入力信号の最大誤差を考慮して、必ず当接点S35より小さくなるように設定するとよい。傾きα1を緩やかにすると(第2の割合を小さくすると)、切換点S32におけるペダル踏力の変化が急激になるため、非制動位置S31から第2全負荷点S34までのブレーキペダル100の移動量に対する踏力の変化が滑らかになるように傾きα1を決定するとよい。第2全負荷点S34を通り、傾きα1を有する線分と、非制動位置S31から第1全負荷点S33の間の線分との交点が切換点S32となる。上述の第1の設定方法では、第2全負荷点S34から当接点S35が離れてしまうことがあるため、非制動位置S31から当接点S35までの傾きの変化を滑らかにしたい場合は、第2の設定方法を用いるとよい。
【0072】
また、第3の設定方法では、切換点S32及び第2全負荷点S34を設定する。この場合も、第2全負荷点S34は、必ず当接点S35よりも小さくなるようにする。これにより、低踏力域では、充分な倍力比を維持しつつ、全域にわたって必要な制動力を得ることができる。
【0073】
次に、第2実施形態として、制御切換入力I2をマスタシリンダ9内のブレーキ液圧とし、マスタシリンダ9内のブレーキ液圧が閾値以上であるか否かに応じて、入力ロッド7の移動量に対するプライマリピストン40の移動量の割合を切換える場合の処理について図7及び図8を参照して説明する。
【0074】
図7を参照して、ステップS41で、マスタシリンダ9内のブレーキ液圧が閾値以上であるか否か判定する。マスタシリンダ9内のブレーキ液圧が閾値未満である場合は、ステップS42で入力ロッド7の移動量に対するプライマリピストン40の移動量の割合が第1の割合となるようにプライマリピストン40の目標位置を決定する。また、マスタシリンダ9内のブレーキ液圧が閾値以上である場合は、ステップS43で入力ロッド7の移動量に対するプライマリピストン40の移動量の割合が、第1の割合よりも小さい第2の割合となるように、プライマリピストン40の目標位置を決定する。そして、ステップS24で、モータ駆動手段301により、プライマリピストン40が目標位置に移動するように、電動モータ20に駆動電流を供給する。
【0075】
図7に示す切換制御を適用した場合のブレーキペダル100の移動量(ストローク;図中Sで示す)と、ブレーキペダル100の踏力(図中Fで示す)及びマスタシリンダ9内のブレーキ液圧(図中Pで示す)との関係を図8に示す。ここで、マスタシリンダ9内のブレーキ液圧は、運転者によるブレーキペダル100の踏力にほぼ比例するので、ブレーキペダル100の移動量とブレーキ液圧との関係は、ブレーキペダル100の移動量と運転者によるブレーキペダル100の踏力との関係にほぼ一致することになる。なお、図8において、曲線S52a〜S55aは、曲線S52b〜S55bに比してマスタシリンダ9の液圧回路の下流剛性が高い場合の推移を表している。
【0076】
非制動位置S51(ストローク0)から、ブレーキペダル100を踏込むと、入力ロッド7の移動量に対するプライマリピストン40の移動量の割合が第1の割合となるようにプライマリピストン40が移動する。そして、マスタシリンダ9内の液圧が閾値S57に達したとき(切換点S52a、S52b)、入力ロッド7の移動量に対するプライマリピストン40の移動量の割合が第1の割合から第2の割合となるように制御を切換える。ここで、制御を切換えるマスタシリンダ9内の液圧の閾値S57は、第1の割合による制御において電動モータ20によるプライマリピストン7の移動量が最大(電動モータ20の出力が最大)となる全負荷点S53a、S53bよりも小さくなるように設定する。これにより、マスタシリンダ9内のブレーキ液圧が閾値S57を通過する前後におけるブレーキペダル100の移動量に対する踏力の傾きの変化量は、制御の切換えを行わない場合において(図7中の破線参照)、全負荷点S53a、S53bを通過する前後におけるブレーキペダル100の移動量に対する踏力の傾きの変化量よりも小さくなるので、全負荷点S53a、S53bにおいてブレーキペダル100の踏力が急激に低下するという違和感を軽減することができる。
【0077】
切換点S52a、S52bで第1の割合から第2の割合に制御を切換えた後は、第2の割合よる制御が実行され、電動モータ20によるプライマリピストン40の移動量が最大(電動モータ20の出力が最大)となる第2全負荷点S54a、S54bに至る。第2全負荷点S54a、S54bに達した後は、プライマリピストン40は停止し、運転者のブレーキペダル踏力により入力ロッド7のみが前進する。そして、入力ロッド7が当接点S55a、S55bまで移動すると、入力ピストン16がプライマリピストン40に当接する。その後は、運転者のブレーキペダル踏力により、入力ロッド7及び入力ピストン16と共にプライマリピストン40が推進され、ブレーキペダル100のストロークに対する踏力の上昇が増大する。
【0078】
このとき、ブレーキペダル100のストロークに対する踏力は、切換点S52a、S52b及び第2全負荷点S54a、S54bを経て当接点S55a、S55bに至ることにより、第1全負荷点S53a、S53bを経て当接点S55a、S55bに至る場合に比して、ストロークに対する踏力の変動が小さくなるので、ブレーキペダル100の操作フィーリングを改善することができる。
【0079】
第1の割合から第2の割合への切換点S52a、S52bをブレーキ液圧の閾値S57によって定めることにより、マスタシリンダ9の液圧回路の下流剛性が変化した場合においても、ブレーキ液圧が閾値S57に達するまでは、大きな倍力比が得られる第1の割合による制御を実行するので、使用頻度の高い低踏力域では、充分大きな倍力比を得ることができ、高踏力域では、ブレーキペダル100を踏込んだときの操作フィーリングを改善することができる。
【0080】
次に、第2全負荷点S54a、S54bの設定方法について、その具体例を第1、2の設定方法として説明する。なお、この設定方法は、以下の第1、2の設定方法に限られるものではなく、他の設定方法を取りえるものである。また、曲線S52a〜S55aについて説明するが、曲線S52b〜S55bについても同様の方法を適用することができる。第1の設定方法では、先ず切換点S52aと第2全負荷点S54aとの間の曲線の傾きα2を決定し、これに基づいて設定する。傾きα2を緩やかにすると切換点S52aにおけるブレーキペダル踏力の変化が急激になるため、非制動位置S51から第2全負荷点S54aまでの傾きが滑らかになるようにα2を決定する。
【0081】
第2の設定方法では、第2全負荷点S54aを入力ロッド7の移動量(ストローク)に基づいて設定する。この場合、第2全負荷点S54aと、入力ピストン16がプライマリピストン40に当接する当接点S55aとの液圧差を小さくするとよい。第2全負荷点S54aは、マスタシリンダ9内の液圧に基づいて設定してもよいが、マスタ圧センサ56、57の検出値に誤差がある場合、第2全負荷点S54aの位置もずれてしまうため、誤差を生じ難い入力ロッド7の移動量に基づいて設定してもよい。また、当接点S55aは、マスタシリンダ9の液圧回路の下流剛性によって変化するため、第2全負荷点S54aは、必ず当接点S55aよりも小さくなるように設定する。
【0082】
次に、第3実施形態として、制御切換入力I2を運転者によるブレーキペダル100の踏力とし、踏力が所定の閾値以上であるか否かに応じて、入力ロッド7の移動量に対するプライマリピストン40の移動量の割合を切換える場合の処理について、図9を参照して説明する。
【0083】
図9を参照して、ステップS61で、運転者によるブレーキペダル100の踏力が閾値以上であるか否かを判定する。踏力が閾値未満である場合は、ステップS62で入力ロッド7の移動量に対するプライマリピストン40の移動量の割合が第1の割合となるようにプライマリピストン40の目標位置を決定する。踏力が閾値以上である場合は、ステップS63で入力ロッド7の移動量に対するプライマリピストン40の移動量の割合が、第1の割合よりも小さい第2の割合となるようにプライマリピストン40の目標位置を決定する。このとき、判定に用いる踏力は、ブレーキペダル100に取り付けられた踏力センサを用いて取得してもよく、あるいは、図示しない推定手段により、入力ロッド7の位置、プライマリピストン40の位置、マスタシリンダ9内の液圧、中立バネ19A、19Bのバネ力等から計算により求めた推定踏力を用いてもよい。そして、ステップS64でモータ駆動手段301により、プライマリピストン40が目標位置に移動するように、電動モータ20に駆動電流を供給する。
【0084】
図9に示す制御を適用した場合のブレーキペダル100の移動量(ストローク)と踏力との関係は、図8において、ブレーキ液圧の閾値S57を踏力の閾値に置換えたものと同様になる。
【0085】
次に、第4実施形態として、制御切換入力I2を電動モータ20に流れる電流値とし、この電流値が所定の閾値以上であるか否かに応じて、入力ロッド7の移動量に対するプライマリピストン40の移動量の割合を切換える場合の処理について、図10及び図11を参照して説明する。
【0086】
図10を参照して、ステップS71で、電動モータ20に流れる電流値が閾値以上である否かを判定する。電流値が閾値未満である場合は、ステップS72で入力ロッド7の移動量に対するプライマリピストン40の移動量の割合が第1の割合となるようにプライマリピストン40の目標位置を決定する。電流値が閾値以上である場合は、ステップS73で入力ロッド7の移動量に対するプライマリピストン40の移動量の割合が、第1の割合よりも小さい第2の割合となるようにプライマリピストン40の目標位置を決定する。そして、ステップS64でモータ駆動手段301により、プライマリピストン40が目標位置に移動するように、電動モータ20に駆動電流を供給する。
【0087】
図10に示す制御を適用した場合のブレーキペダル100の移動量(ストローク;図中Sで示す)と踏力との関係を図11に示す。この場合、電動モータ20に流れる電流値(図中Iで示す)、電動モータ20のトルク及びマスタシリンダ9内のブレーキ液圧と、ブレーキペダル100の踏力(図中Iで示す)とは、ほぼ比例関係にあるので、図11の曲線S81〜S85で示される特性は、図8に示される特性とほほ一致する。ここで、第1の割合から第2の割合に変更するための電流の閾値S87は、第1の割合による制御において、電動モータ20によるプライマリピストン7の移動量が最大(電動モータ20の出力が最大)となる第1全負荷点S83の電流値よりも小さくなるように設定する。
【0088】
これにより、電動モータ20を流れる電流値が閾値S87及び第2全負荷点S84を通過する前後におけるブレーキペダル100の移動量に対する踏力の傾きの変化量は、第1の割合による制御において全負荷点S83を通過する前後における踏力の傾きの変化量(図8中の破線参照)よりも小さくなるので、全負荷点においてブレーキペダル100の踏力が急に低下することによる運転者の違和感を軽減することができる。
【0089】
次に、電動モータ20のコイルの過熱の防止等の目的で電動モータ20に通電する最大電流が制限されている場合について、曲線S81〜S85aを参照して説明する。この場合、入力ロッド7の移動量とプライマリピストン40の移動量の割合を第1の割合から第2の割合へ変化させる電流の閾値を、閾値S87よりも小さい閾値S87aに変更することにより、S81〜S82a〜S85aの区間でのブレーキペダル100の踏力の傾きの変化が小さくなり、運転者の違和感を軽減することができる。
【0090】
次に、第5実施形態として、制御切換入力I2を入力ロッド7とプライマリピストン40との相対変位量とし、この相対変位量が所定の閾値以上であるか否かに応じて、入力ロッド7の移動量に対するプライマリピストン40の移動量の割合を切換える場合の処理について、図12乃至図14を参照して説明する。
【0091】
図12を参照して、ステップS91で、入力ロッド7とプライマリピストン40との相対変位量が閾値以上であるか否かを判定する。相対変位量が閾値未満である場合、ステップS92で、入力ロッド7の移動量に対するプライマリピストン40の移動量の割合がこれらの相対変位を増大させる第1の割合となるようにプライマリピストン40の目標位置を決定する。相対変位量が閾値以上である場合、ステップS93で、入力ロッド7の移動量に対するプライマリピストン40の移動量の割合が第1の割合よりも小さく、相対変位量を減少させる第2の割合となるようにプライマリピストン40の目標位置を決定する。そして、ステップS94でモータ駆動手段301により、プライマリピストン40が目標位置に移動するように、電動モータ20に駆動電流を供給する。
【0092】
図12に示す制御を適用した場合のブレーキペダル100の移動量(ストローク;図中Sで示す)と、ブレーキペダル100の踏力(図中Fで示す)との関係を図13に示す。図13中の曲線S101a〜S105aを参照して、運転者が、ブレーキペダル100を放している非制動位置S101a(ストローク0)の状態から、ブレーキペダル100を踏込むと、入力ロッド7の移動量に対するプライマリピストン40の移動量の割合が第1の割合となるようにプライマリピストン40が移動し、入力ロッド7の移動量に応じて、入力ロッド7とプライマリピストン40との相対変位量が増大する。このとき、中立バネ19A、19Bのバネ力に加えて、マスタシリンダ9内の液圧の上昇により、その反力がブレーキペダル100に作用することによりブレーキペダルの踏力が増大する。
【0093】
そして、入力ロッド7とプライマリピストン40との相対変位量が閾値となる切換点S102aに到達したとき、入力ロッド7の移動量に対するプライマリピストン40の移動量の割合が第1の割合から、これよりも小さい第2の割合に切り換わる。このとき、制御を切換える切換点S102aは、第1の割合による制御において、電動モータ20によるプライマリピストン7の移動量が最大(電動モータ20の出力が最大)となる第1全負荷点S103aよりも小さくなるように設定する。
【0094】
切換点S102aから第2の割合による制御が実行されて、電動モータ20によるプライマリピストン40の移動量が最大(電動モータ20の出力が最大)となる第2全負荷点S104aに至る。第2全負荷点S104aに達した後は、プライマリピストン40は停止し、運転者のブレーキペダル踏力により入力ロッド7のみが前進する。このとき、ブレーキペダル100のストロークに対する踏力の増大の割合が小さくなる。そして、入力ロッド7が当接点S105aまで移動すると、入力ピストン16がプライマリピストン40に当接する。入力ロッド7の移動量が当接点S105aに達した後は、運転者のブレーキペダル踏力によって入力ロッド7及び入力ピストン16と共にプライマリピストン40が推進されるため、ブレーキペダル100のストロークに対する踏力の増大の割合が大きくなる。
【0095】
このように、入力ロッド7の移動量に対するプライマリピストン40の移動量の割合を第1の割合から、これよりも小さい第2の割合に切換えることにより、電動モータ20の出力が最大となる全負荷点及び入力ピストン16がプライマリピストン40に当接する当接点におけるブレーキペダル100の踏力の変動を小さくして、ブレーキペダル100の操作フィーリングを改善することができる。
【0096】
ここで、入力ロッド7の移動量に対するプライマリピストン40の移動量の第1の割合は、マスタ圧制御装置3により適宜変更することができる。図13中の曲線S101a〜S115aは、上述の曲線S101a〜S105aに対して、第1の割合を小さくした場合の入力ロッド7の移動量とブレーキペダル100の踏力との関係を示している。
【0097】
また、図14は、ブレーキペダル100(すなわち、入力ロッド7)の移動量(図中Sで示す)と、入力ロッド7とプライマリピストン40との相対変位量(図中ΔXで示す)との関係を表しており、図13のS101a〜S105aの特性は、図14のS101b〜S105bの特性に対応し、図13のS101a〜S115aの特性は、図14のS101b〜S115bの特性に対応する。図14を参照して、例えば、第1の割合による制御が、入力ロッド7の移動量に対してプライマリピストン40の移動量が大きくなる曲線S101b〜S105b(全負荷点S103bで相対変位最大)で表される特性を有している場合(進み制御)、全負荷点S103bの相対変位量よりも小さい相対変位量の閾値S120を設定する。これにより、相対変位量が閾値S120に達したとき、第1の割合よりも小さく、相対変位量を減少させる第2の割合による制御に切換えることにより、電動モータ20が最大出力となる第2全負荷点S104a(図13参照)及び入力ピストン16がプライマリピストン40に当接する当接点S105a(図13参照)におけるブレーキペダル100の踏力の変動を小さくして、ブレーキペダル100の操作フィーリングを改善することができる。
【0098】
また、第1の割合による制御が、入力ロッド7に移動量に対してプライマリピストン40の移動量が小さくなる曲線S101b〜S115b(全負荷点S113b)で表される特性を有している場合(遅れ制御)、全負荷点S113bの相対変位量よりも絶対値が小さい相対変位量の閾値S121を設定する。これにより、相対変位量が閾値S121に達したとき、第1の割合よりも小さく、相対変位量を減少させる(プライマリピストン40の入力ロッド7に対する遅れを増大させる)第2の割合による制御に切換えることにより、電動モータ20が最大出力となる第2全負荷点S114a(図13参照)及び入力ピストン16がプライマリピストン40に当接する当接点S115a(図13参照)におけるブレーキペダル100の踏力の変動を小さくして、ブレーキペダル100の操作フィーリングを改善することができる。
【0099】
このように、閾値S120、121は、第1の割合に応じて、非制動位置S101bから全負荷点S103bの間、非制動位置S101bから全負荷点S113bの間に適宜設定することにより、第1の割合から第2の割合への切換えを実行することができる。
【0100】
上記実施形態においては、ブレーキペダルの操作により進退移動する入力部材と、該入力部材に対して相対移動可能に設けられ、前進によってマスタシリンダ内にブレーキ液圧を発生させ、前記入力部材の前進により該入力部材が当接する倍力部材と、前記倍力部材を駆動する電動アクチュエータと、前記入力部材の移動に基づき前記電動アクチュエータの作動を制御する制御手段とを備え、前記入力部材の移動量に対する前記倍力部材の移動量を変化させて前記マスタシリンダ内にブレーキ液圧を発生させることが可能な電動倍力装置において、前記制御手段は、前記入力部材の前進により、前記電動アクチュエータの出力が増大して最大出力を発生する第1全負荷状態となる前に、前記入力部材の移動量に対する前記倍力部材の移動量の割合を小さく切換える切換制御を実行するようになっている。
このような構成により、ブレーキペダルの操作に対する反力の急激な変化を抑制して、ブレーキペダルの操作フィーリングを向上させることができる。
【0101】
上記実施形態においては、前記制御手段は、前記切換制御を実行した後、前記入力部材の前進により、前記電動アクチュエータの出力が増大して最大出力を発生する第2全負荷状態となった後、前記入力部材が前記倍力部材に当接するように前記電動アクチュエータの作動を制御するようになっている。
【0102】
上記第1実施形態においては、前記制御手段は、前記入力部材の移動量が所定の閾値に達したとき、前記切換制御を実行するようになっている。
【0103】
上記第2実施形態においては、前記制御手段は、前記マスタシリンダ内のブレーキ液圧が所定の閾値に達したとき、前記切換制御を実行するようになっている。
【0104】
上記第5実施形態においては、前記制御手段は、前記入力部材と前記倍力部材との相対変位量が所定の閾値に達したときに、前記切換制御実行するようになっている。
【0105】
上記第3実施形態においては、前記制御手段は、前記ブレーキペダルの踏力が所定の閾値に達したとき、前記切換制御を実行するようになっている。
【0106】
上記第4実施形態においては、前記制御手段は、前記電動アクチュエータに流れる電流値が所定の閾値に達したとき、前記切換制御を実行するようになっている。
【0107】
上記実施形態においては、前記制御手段は、前記切換制御の実行前には、前記入力部材の移動量に対して前記倍力部材の移動量が大きくなるように前記電動アクチュエータの作動を制御し、前記切換制御の実行後には、前記入力部材の移動量に対して前記倍力部材の移動量が小さくなるように前記電動アクチュエータの作動を制御するようになっている。
【0108】
上記実施形態においては、前記制御手段は、車両が停止中に前記ブレーキペダルが操作された場合にのみ、前記切換制御を実行するようになっている。
【0109】
このような構成により、車両走行中には、ある程度倍力比を高めつつ、車両が停止中、あるいは、停止直前では、ブレーキペダル100の踏力の変動を小さくして、ブレーキペダル100の操作フィーリングを改善することができる。
【符号の説明】
【0110】
3…マスタ圧制御装置(制御手段)、4…マスタ圧制御機構(電動倍力装置)、7…入力ロッド(入力部材)、9…マスタシリンダ、16…入力ピストン(入力部材)、20…電動モータ(電動アクチュエータ)、40…プライマリピストン(倍力部材)、100…ブレーキペダル
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車両のブレーキ装置に組込まれる倍力装置において、倍力源として電動アクチュエータを用いた電動倍力装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電動倍力装置として、例えば特許文献1に記載されたものがある。この電動倍力装置は、ブレーキペダルに連結された入力ロッドと、入力ロッドに相対移動可能に外装されたブースタピストンと、ブースタピストンを駆動する電動モータと、入力ロッドの移動に応じて電動モータの作動を制御するコントローラとを備え、入力ロッド及びブースタピストンによってマスタシリンダのピストンを推進し、電動モータの駆動力を付与することにより、ブレーキペダルの操作に対して、所望の倍力比を得るようにしている。このとき、入力ロッドとブースタピストンとの相対変位を調整することにより、ブレーキペダルの操作量に対するブースタ出力を変化させることができ、倍力制御、ブレーキアシスト制御、回生協調制御等の種々のブレーキ制御を実行することができる。また、電動モータの故障等のフェイル時には、入力ロッドがマスタシリンダのピストンに当接することにより、ブレーキペダルによってマスタシリンダのピストンを直接押圧することで制動機能を維持することができるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−162482号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の電動倍力装置では、次のような問題がある。停車中に運転者が強くブレーキペダルを踏込んだ場合を想定する。運転者がブレーキペダルを踏込むと、入力ロッドの前進により、電動モータがブースタピストンを推進して、ブレーキペダルの操作量に応じて一定の倍力比でマスタシリンダの液圧が上昇する。そして、電動モータの出力がその最大出力に達し、ブースタピストンの推力とマスタシリンダ内の液圧による反力が釣合うとブースタピストンが停止し、それ以上前進できなくなる(全負荷状態)。その後、更にブレーキペダルを踏込むと、入力ロッドのみが前進するため、ブースタピストンの停止によりブレーキ液圧の昇圧速度が全負荷状態前よりも急激に低下することになる。このため、ブレーキペダルの反力が急激に低下することになる。その後、更にブレーキペダルを踏み込むと、上記したフェイル時と同様に入力ロッドが停止中のブースタピストンに当接し、マスタシリンダ内の液圧による全ての反力が入力ロッドを介してブレーキペダルに作用することになり、運転者は、ブレーキペダルが突然、固定されたような違和感を感じることになる。
【0005】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、ブレーキペダルの操作に対する反力の急激な変化を抑制して、ブレーキペダルの操作フィーリングを向上させるようにした電動倍力装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明は、ブレーキペダルの操作により進退移動する入力部材と、該入力部材に対して相対移動可能に設けられ、前進によってマスタシリンダ内にブレーキ液圧を発生させ、前記入力部材の前進により該入力部材が当接する倍力部材と、前記倍力部材を駆動する電動アクチュエータと、前記入力部材の移動に基づき前記電動アクチュエータの作動を制御する制御手段とを備え、前記入力部材の移動量に対する前記倍力部材の移動量を変化させて前記マスタシリンダ内にブレーキ液圧を発生させることが可能な電動倍力装置において、
前記制御手段は、前記入力部材の前進により、前記電動アクチュエータの出力が増大して最大出力を発生する第1全負荷状態となる前に、前記入力部材の移動量に対する前記倍力部材の移動量の割合を小さく切換える切換制御を実行することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る電動倍力装置によれば、ブレーキペダルの操作に対する反力の急激な変化を抑制して、ブレーキペダルの操作フィーリングを向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の一実施形態に係る電動倍力装置が組込まれた自動車のブレーキ制御装置を示す概略図である。
【図2】図1に示すブレーキ制御装置のマスタ圧制御装置の概略構成を示す回路図である。
【図3】図1に示すブレーキ制御装置のマスタ圧制御装置による切換制御の処理構成を示すブロック図である。
【図4】図1に示すブレーキ制御装置のマスタ圧制御装置により、本発明の実施形態に係る切換制御を実行するためのフローチャートである。
【図5】図1に示すブレーキ制御装置のマスタ圧制御装置により、本発明の第1実施形態に係る切換制御を実行するためのフローチャートである。
【図6】本発明の第1実施形態に係る切換制御によるブレーキペダルの移動量とブレーキペダル踏力との関係を示すグラフ図である。
【図7】図1に示すブレーキ制御装置のマスタ圧制御装置により、本発明の第2実施形態に係る切換制御を実行するためのフローチャートである。
【図8】本発明の第2実施形態に係る切換制御によるブレーキペダルの移動量とブレーキペダル踏力との関係を示すグラフ図である。
【図9】図1に示すブレーキ制御装置のマスタ圧制御装置により、本発明の第3実施形態に係る切換制御を実行するためのフローチャートである。
【図10】図1に示すブレーキ制御装置のマスタ圧制御装置により、本発明の第4実施形態に係る切換制御を実行するためのフローチャートである。
【図11】本発明の第4実施形態に係る切換制御によるブレーキペダルの移動量とブレーキペダル踏力との関係を示すグラフ図である。
【図12】図1に示すブレーキ制御装置のマスタ圧制御装置により、本発明の第5実施形態に係る切換制御を実行するためのフローチャートである。
【図13】本発明の第5実施形態に係る切換制御によるブレーキペダルの移動量とブレーキペダル踏力との関係を示すグラフ図である。
【図14】本発明の第5実施形態に係る切換制御によるブレーキペダルの移動量と、入力ロッドとプライマリピストンとの相対変位量のとの関係を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
本実施形態のブレーキ制御装置の全体構成を図1に示す。図1において、矢印付きの破線は、信号線であり、矢印の向きによって信号の方向を表している。
【0010】
図1に示すように、本実施形態に係るブレーキ制御装置1は、自動車の制動装置に適用して、左前輪FL、右後輪RR、右前輪FR、左後輪RLの4輪の制動力を制御するためのものである。ブレーキ制御装置1は、マスタシリンダ9と、マスタシリンダ9に接続されたリザーバタンク10と、マスタシリンダ9が発生するブレーキ液圧であるマスタ圧を制御する電動倍力装置を構成するマスタ圧制御機構4と、マスタ圧制御機構4を電気的に制御するための制御手段であるマスタ圧制御装置3と、各車輪FL、RR、FR、RLの液圧ブレーキ11a〜dにブレーキ液圧を供給するホイール圧制御機構6と、ホイール圧制御機構6を電気的に制御するためのホイール圧制御装置5とを備えている。なお、図中、FLは左前輪、FRは右前輪、RLは左後輪、RRは右後輪のそれぞれの車輪を示している。
【0011】
液圧ブレーキ装置11a〜11dは、図示しないシリンダ、ピストン及びブレーキパッド等から構成されており、ホイール圧制御機構6から供給されたブレーキ液圧によってピストンが推進され、ピストンに連結されたブレーキパッドがディスクロータ101a〜101dに押圧され、摩擦制動力を発生する。ディスクロータ101a〜101dは、車輪と一体に回転するようになっており、ディスクロータ101a〜101dに作用するブレーキトルクは、車輪と路面との間に作用するブレーキ力となる。
【0012】
マスタシリンダ9は、プライマリピストン40によって加圧されるプライマリ液室42と、セカンダリピストン41によって加圧されるセカンダリ液室43の二つの加圧室を有するタンデム式のものであり、プライマリピストン40の推進により、セカンダリピストン41が推進され、プライマリ及びセカンダリ液室42、43で加圧されたブレーキ液が、プライマリ配管102a及びセカンダリ配管102bを経由し、ホイール圧制御機構6を介して、各車輪FL、RR、FR、RLの液圧ブレーキ11a〜11dに供給されるように構成されている。
【0013】
リザーバタンク10は、リザーバポートを介してプライマリ液室42及びセカンダリ液室43に接続されている。リザーバポートは、プライマリピストン40及びセカンダリピストン41が後退位置にあるとき開いて、プライマリ液室42及びセカンダリ液室43をリザーバタンク10に連通して適宜ブレーキ液を補充し、プライマリピストン40及びセカンダリピストン41が前進すると閉じて、プライマリ液室42及びセカンダリ液室43の加圧を可能にする。
【0014】
このように、マスタシリンダ9は、プライマリピストン40及びセカンダリピストン41の2つのピストンによってプライマリ配管102a及びセカンダリ配管102bから2系統の液圧回路にブレーキ液を供給することが可能となっている。このことにより、万一、一方の液圧回路が失陥した場合でも、他方の液圧回路によって液圧を供給することでき、制動力を確保することができる。
【0015】
マスタ圧制御機構4は、プライマリピストン40の中心部に、入力ピストン16が摺動可能かつ液密的に貫通され、入力ピストン16の先端部がプライマリ室43内に挿入されるように構成されている。入力ピストン16の後端部には、入力ロッド7が連結され、入力ロッド7は、マスタ圧制御機構4の後端部から外部へ延ばされ、その先端部にブレーキペダル100が連結されている。入力ピストン16は、入力ロッド7と共に入力部材を構成している。プライマリピストン40と入力ピストン16との間には、一対の中立バネ19A、19Bが介装され、プライマリピストン40と入力ピストン16とは、中立バネ19A、19Bのバネ力によって中立位置に弾性的に保持され、これらの軸方向の相対変位に対して中立バネ19A、19Bのバネ力が作用するようになっている。
【0016】
マスタ圧制御機構4は、倍力部材を構成するプライマリピストン40を駆動する電動アクチュエータである電動モータ20と、プライマリピストン40と電動モータ20との間に介装された回転−直動変換機構であるボール−ネジ機構25及び減速機構であるベルト減速機構21とを備えている。電動モータ20は、その回転位置を検出する回転位置センサ205を備え、マスタ圧制御装置3からの指令によって作動して、所望の回転位置が得られるようになっている。電動モータ20は、例えば公知のDCモータ、DCブラシレスモータ、ACモータ等とすることができるが、制御性、静粛性、耐久性等の観点から本実施形態では三相DCブラシレスモータを採用している。また、回転位置センサ205の信号に基づき、ボール−ネジ機構25の推進量、即ち、プライマリピストン40の変位量を算出することができる。
【0017】
ボール−ネジ機構25は、入力ロッド7が挿入された中空の直動部材であるネジ軸27と、ネジ軸27が挿入される円筒状の回転部材であるナット部材26と、これらの間に形成されたネジ溝に装填された複数のボール30(鋼球)とを備え、ナット部材26の前端部が可動部材28を介してプライマリピストン40の後端部に当接し、ナット部材26が軸受31によって回転可能に支持されている。そして、マスタ圧制御機構4は、電動モータ20によってベルト減速機構21を介してナット部材26を回転させることにより、ネジ溝内をボール30が転動し、ネジ軸27が直線運動して、可動部材28を介してプライマリピストン40を押圧するようになっている。ネジ軸27は、戻しバネ29によって後退位置側に付勢されている。
【0018】
なお、回転−直動変換機構は、電動モータ20(すなわちベルト減速機構21)の回転運動を直線運動に変換してプライマリピストン40に伝達するものであれば、ラックアンドピニオン機構等の他の機構を用いることができるが、本実施形態では、遊びの少なさ、効率、耐久性等の観点から、ボール−ネジ機構25を採用している。ボール−ネジ機構25は、バックドライバビリティを有しており、ネジ軸27の直線運動によってナット部材26を回転させることができる。また、ネジ軸27は、プライマリピストン40に後方から当接し、プライマリピストン40がネジ軸27から離れて単独で前進できるようになっている。これにより、ブレーキ作動中、すなわち、マスタシリンダ9でブレーキ液圧が発生している状態で、万一、電動モータ20が断線等によって作動不能になった場合、ネジ軸27が戻しバネ29のバネ力によって後退位置に戻されるので、マスタシリンダ9の液圧を解除することができ、ブレーキの引き摺りを防止することができる。また、電動モータ20が作動不能の場合、プライマリピストン40は、ネジ軸27から離間して単独で移動できるので、ブレーキペダル100によって入力ロッド7を介して入力ロッド16を前進させ、更に、プライマリピストン40に当接させて、プライマリピストン40を直接操作することにより、液圧を発生させることができ、制動機能を維持することができる。
【0019】
ベルト減速機構21は、電動モータ20の出力軸に取付けられた駆動プーリ22と、ボール−ネジ機構25のナット部材26の外周部に取付けられた従動プーリ32と、これらの間に巻装されたベルト24とを含み、電動モータ20の出力軸の回転を所定の減速比で減速してボール−ネジ機構21に伝達するものである。ベルト減速機構21に、歯車減速機構等の他の減速機構を組み合わせてもよい。ベルト減速機構21の代りに、公知の歯車減速機構、チェーン減速機構、差動減速機構等を用いることができるが、また、電動モータ20によって充分大きなトルクが得られる場合には、減速機構を省略して、電動モータ20によってボール−ネジ機構25を直接駆動するようにしてもよい。これにより、減速機構の介在に起因して発生する、信頼性、静粛性、搭載性等に係る諸問題を回避することができる。
【0020】
入力ロッド7には、ブレーキ操作量検出装置8が連結されている。ブレーキ操作量検出装置8は、少なくとも入力ロッド7の位置又は変位量(ストローク)を検出できるものである。なお、ブレーキ操作量検出装置8は、入力ロッド7の変位センサを含む複数の位置センサと、運転者によるブレーキペダル100の踏力を検出する力センサとを含むものであってもよい。また、変位センサでブレーキ操作量を検出する物理量として、入力ロッド7の変位量、ブレーキペダル100のストローク量、ブレーキペダル100の移動角度、ブレーキペダル100の踏力、もしくは、前記複数のセンサ情報を組み合わせて検出してもよい。ブレーキ操作量検出装置8としては、ブレーキペダル100の踏力を検出する踏力センサを複数個組み合わせた構成や、変位センサと踏力センサを組み合わせた構成であってもよい。これにより、一つのセンサからの信号が途絶えた場合にも、残りのセンサによって運転者のブレーキ要求が検出、認知されるため、フェイルセーフが確保される。
【0021】
ブレーキ操作量検出装置8のうち、少なくとも1つのセンサは、ホイール圧制御装置5により、電源供給及び信号入力処理が行われ、残りのセンサは、マスタ圧制御装置3により、電源供給及び信号入力処理が行われる。これにより、マスタ圧制御装置3とホイール圧制御装置5のどちらかにCPU故障、あるいは、電源故障が発生した場合にも、残りのセンサと制御装置により、運転者のブレーキ要求が検出、認識されるため、フェイルセーフが確保される。なお、図1では、ブレーキ操作量検出装置8は、1つのみ示されているが、マスタ圧制御装置3に接続されるものと、ホイール圧制御装置に接続されるものとをそれぞれ設けるようにしてもよい。
【0022】
次に、マスタ圧制御ユニット4によるマスタ圧制御機構3の制御について説明する。
ブレーキ操作量検出装置8によって検出したブレーキペダル100の操作量(変位量、踏力等)に基づき、電動モータ20を作動させてプライマリピストン40の位置を制御して液圧を発生させる。このとき、入力ピストン16に作用する液圧による反力が入力ロッド7を介してブレーキペダル19にフィードバックされる。そして、プライマリピストン40と入力ピストン16との受圧面積比及び相対変位によって、ブレーキペダル100の操作量と発生液圧との比である倍力比を調整することができる。このとき、マスタ圧に応じた力が入力ロッド7を介してブレーキペダル100に作用し、ブレーキペダル反力として運転者に伝達されるので、別途、ブレーキペダル反力を生成する装置が不要となり、ブレーキ制御装置1の小型・軽量化を図ることができ、車両への搭載性が向上する。
【0023】
例えば、入力ピストン16の変位に対して、プライマリピストン40を追従させ、これらの相対変位が0になるように相対変位制御することにより、入力ピストン16とプライマリピストン40との受圧面積比によって決まる一定の倍力比を得ることができる。また、入力ピストン16の変位に対して、比例ゲインを乗じて、入力ピストン16とプライマリピストン40との相対変位を変化させることにより、倍力比を変化させることができる。すなわち、入力ピストン16の移動量に対してプライマリピストン40の移動量を変化させて、ブレーキペダル100の操作量に対するブースタ出力を変化させることができる。
【0024】
これにより、ブレーキペダル100の操作量、操作速度(操作量の変化率)等から緊急ブレーキの必要性を検知し、プライマリピストン40の移動量を増大させて迅速に必要な制動力(液圧)を得る、いわゆるブレーキアシスト制御を実行することができる。さらに、回生制動システム(図示せず)からの信号に基づき、回生制動時に、回生制動分を差引いた液圧を発生させるようにプライマリピストン40の移動量を調整して、回生制動分と液圧による制動力との合計で所望の制動力が得られるようにする回生協調制御を実行することができる。また、ブレーキペダル100の操作(入力ピストン16の変位量等)にかかわらず、電動モータ20を作動させてプライマリピストン40を移動させることにより、制動力を発生させる自動ブレーキ制御を実行することも可能である。これにより、各種センサ手段によって検出した車両状態に基づき、自動的に制動力を調整し、適宜、エンジン制御、ステアリング制御等の他の車両制御と組合わせることにより、マスタ圧制御ユニット4を用いて車両追従制御、車線逸脱回避制御、障害物回避制御等の車両の運転制御を実行することもできる。
【0025】
次に、入力ロッド7の推力の増幅について説明する。
運転者のブレーキ操作による入力ロッド7を介した入力ピストン16の変位量に応じてプライマリピストン40を変位させることにより、入力ロッド7の推力に応じてプライマリピストン40の推力が付与されるため、入力ロッド7の推力が増幅される形でプライマリ液室42が加圧される。その増幅比(以下「倍力比」という)は、入力ロッド7とプライマリピストン40との相対変位及び入力ピストン16とプライマリピストン40の断面積の比等によって任意に設定することができる。
【0026】
特に、入力ロッド7の変位量と同量だけプライマリピストン40を変位させる場合(入力ロッド7とプライマリピストン40との相対変位を0とした場合)、入力ピストン16の断面積を「AI」とし、プライマリピストン40の断面積を「AA」とすると、倍力比は、(AI+AA)/AIとして一意に定まる。すなわち、必要な倍力比に基づいて、AIとAAを設定し、その変位量が入力ピストン16の変位量に等しくなるようにプライマリピストン40を制御することで、常に一定の倍力比を得ることができる。なお、プライマリピストン40の変位量は、回転位置センサ205の出力信号に基づいて算出することができる。
【0027】
次に、出力可変機能を実行する際の処理について説明する。出力可変制御処理は、入力ピストン16の変位量に比例ゲイン(K1)を乗じた量だけプライマリピストン40を変位させる制御処理である。なお、比例ゲイン(K1)は、制御性の点からは1であること(K1=1)が望ましいが、緊急ブレーキ等により運転者のブレーキ操作量を超える大きなブレーキ力が必要な場合等において、一時的に1を超える値(K1>1)に変更してもよい。これにより、入力ピストン16とプライマリピストン40との相対変位に対して中立バネ19A、19Bのバネ力が作用して入力ピストン16に作用する反力を調整し、同量のブレーキ操作量でも、マスタ圧を通常時(K1=1の場合)に比べて引き上げることができ、より大きなブレーキ力を発生させることができる。ここで、緊急ブレーキの判定は、例えば、ブレーキ操作量検出装置8の信号の時間変化率が所定値を上回るか否かで判定することができる。
【0028】
以上述べたとおり、出力可変制御処理によれば、運転者のブレーキ要求に従う入力ロッド7の変位量に応じてマスタ圧が増減圧されるため、運転者の要求通りのブレーキ力を発生させることができる。また、比例ゲイン(K1)を1未満の値(K1<1)にすることで、いわゆるハイブリッド車または電気自動車において、液圧ブレーキを回生ブレーキ力分だけ減圧する回生協調ブレーキ制御に適用することも可能である。
【0029】
次に、自動ブレーキ機能を実施する際の処理について説明する。
自動ブレーキ制御処理は、マスタシリンダ9の作動圧を自動ブレーキの要求液圧(以下、自動ブレーキ要求液圧と称す)に調節すべく、プライマリピストン40を前進及び後退させる処理である。この場合のプライマリピストン40の制御方法としては、テーブルとして事前に取得したプライマリピストン40の変位量とマスタ圧との関係に基づいて、自動ブレーキ要求液圧を実現するプライマリピストン40の変位量を抽出し、これを目標値とする方法、マスタ圧センサ56、57で検出されたマスタ圧をフィードバックする方法等があるが、いずれの方法を採っても構わない。なお、自動ブレーキ要求液圧は外部ユニットから受信することが可能であり、例えば、車両追従制御、車線逸脱回避制御、障害物回避制御等でのブレーキ制御に適用可能である。
【0030】
次に、ホイール圧制御機構6の構成と作動について説明する。
ホイール圧制御機構6は、マスタシリンダ9で加圧されたブレーキ液の各液圧ブレーキ装置11a〜11dへの供給を制御するゲートOUT弁50a、50b、マスタシリンダ9で加圧されたブレーキ液のポンプ54a、54bへの供給を制御するゲートIN弁51a、51b、マスタシリンダ9又はポンプ54a、54bから各液圧ブレーキ装置11a〜11dへのブレーキ液の供給を制御するIN弁52a〜52d、液圧ブレーキ装置11a〜11dを減圧制御するOUT弁53a〜53d、マスタシリンダ9で発生したブレーキ液圧を昇圧するポンプ54a、54b、ポンプ54a、54bを駆動する電動モータ20、マスタ圧を検出するマスタ圧センサ56を有する。なお、ホイール圧制御機構6としては、アンチロックブレーキ制御用の液圧制御ユニット、車両挙動安定化制御用の液圧制御ユニット等を用いることができる。
【0031】
ホイール圧制御機構6は、プライマリ液室42からブレーキ液の供給を受け、車輪FLと車輪RRのブレーキ力を制御する第1のブレーキ系統と、セカンダリ液室43からブレーキ液の供給を受け、車輪FRと車輪RLのブレーキ力を制御する第2のブレーキ系統の二つの系統から構成されている。このような構成を採ることにより、一方のブレーキ系統が失陥した場合にも、正常な他方のブレーキ系統によって対角2輪分のブレーキ力を確保できるので、車両の挙動が安定に保たれる。
【0032】
ゲートOUT弁50a、50bは、マスタシリンダ9とIN弁52a〜52dとの間に設けられ、マスタシリンダで加圧されたブレーキ液を液圧ブレーキ装置11a〜11dに供給する際に開弁される。ゲートIN弁51a、51bは、マスタシリンダ9とポンプ54a、54bとの間に設けられ、マスタシリンダで加圧されたブレーキ液をポンプ54a、54bで昇圧して液圧ブレーキ装置11a〜11dに供給する際に開弁される。
【0033】
IN弁52a〜52dは、液圧ブレーキ装置11a〜11dの上流に設けられ、マスタシリンダ9又はポンプ54a、54bで加圧されたブレーキ液を液圧ブレーキ装置11a〜11dに供給する際に開弁される。OUT弁53a〜53dは、液圧ブレーキ装置11a〜11dの下流に備えられ、ホイール圧を減圧する際に開弁される。なお、ゲートOUT弁、ゲートIN弁、IN弁、OUT弁は、いずれもソレノイド(図示省略)への通電によって弁の開閉が行われる電磁式であり、ホイール圧制御装置5が行う電流制御によって各弁の開閉量を独立に調節できるものである。
【0034】
ゲートOUT弁50a、50bとIN弁52a〜52dが常開弁、ゲートIN弁51a、51bとOUT弁53a〜53dが常閉弁である。このような構成を採ることにより、故障時にこれらの弁への電力供給が停止した場合にも、ゲートIN弁とOUT弁が閉じ、ゲートOUT弁とIN弁が開いて、マスタシリンダ9で加圧されたブレーキ液が全ての液圧ブレーキ装置11a〜11dに到達するので、運転者の要求通りのブレーキ力を発生させることができる。
【0035】
ポンプ54a、54bは、例えば車両挙動安定化制御、自動ブレーキ制御等を行うために、マスタシリンダ9の作動圧を超える圧力が必要な場合に、マスタ圧を昇圧して液圧ブレーキ装置11a〜11dに供給する。ポンプ54a、54bとしては、プランジャポンプ、トロコイドポンプ、ギヤポンプ等の使用が可能であるが、静粛性の点においては、ギヤポンプが望ましい。
【0036】
電動モータ20は、ホイール圧制御装置5の制御指令に基づいて供給される電力により動作してモータに連結されたポンプ54a、54bを駆動する。モータとしては、DCモータ、DCブラシレスモータ、ACモータ等の使用が可能であるが、制御性、静粛性、耐久性の点においては、DCブラシレスモータが望ましい。
【0037】
マスタ圧センサ56は、セカンダリ側のマスタ配管102bの下流に設けられており、マスタ圧を検出する圧力センサである。マスタ圧センサ56の個数及び設置位置については、制御性、フェイルセーフ等を考慮して任意に決定することができる。
【0038】
そして、ホイール圧制御装置5によって上述のホイール圧制御機構6の作動を制御し、各車輪FL、RR、FR、RLの液圧ブレーキ11a〜11dに供給するブレーキ液圧を制御することにより、各種ブレーキ制御を実行する。例えば、制動時に接地荷重等に応じて各車輪に適切に制動力を配分する制動力配分制御、制動時に各車輪の制動力を自動的に調整して車輪のロックを防止するアンチロックブレーキ制御、走行中の車輪の横滑りを検知して各車輪に適宜自動的に制動力を付与することにより、アンダーステア及びオーバーステアを抑制して車両の挙動を安定させる車両安定性制御、坂道(特に上り坂)において制動状態を保持して発進を補助する坂道発進補助(HSA)制御、発進時等において車輪の空転を防止するトラクション制御、先行車両に対して一定の車間を保持する車両追従制御、走行車線を保持する車線逸脱回避制御、障害物との衝突を回避する障害物回避制御等を実行することができる。
【0039】
また、ホイール圧制御機構6は、マスタ圧制御装置3の故障の際には、マスタ圧センサ56で検知したブレーキ液圧により、運転者のブレーキ操作量を検出し、この検出値に応じたホイール圧を発生させるようにポンプ54a、54b等を制御することにより、ブレーキ制御装置1の制動機能をすることができる。
【0040】
なお、マスタ圧制御装置3とホイール圧制御装置5とは双方向の通信を行っており、制御指令、車両状態量(ヨーレート、前後加速度、横加速度、ハンドル舵角、車輪速、車体速等、故障情報、作動状態等)を共有している。
【0041】
次に、図2を参照して、マスタ圧制御装置3の回路構成の一例について説明する。
図2において、マスタ圧制御装置3の電気回路は、太線枠201で示され、マスタ圧制御機構4の電気回路は点線枠202で示されている。又、太線枠203は、ホイール圧制御装置5を示している。
【0042】
マスタ圧制御装置3の電気回路201は、車両内の電源ラインからECU電源リレー214を介して供給される電源が5V電源回路(1)215と5V電源回路(2)216に入力されるようになっている。
【0043】
ECU電源リレー214は、起動信号(W/U)と、CAN通信I/F218でCAN受信により生成する起動信号のいずれか一つにより、オンする構成となっている。上記起動信号は、ドアスイッチ信号、ブレーキスイッチ、イグニッションスイッチ信号等を使用することができる。これらのスイッチを複数使用する場合は、マスタ圧制御装置3に全て取り込み、複数信号のいずれか一つのスイッチがオンした時に、起動信号がECU電源リレー214をオンする側に作動する回路構成としてもよい。
【0044】
5V電源回路(1)215によって得られる安定した電源(VCC1)は、中央制御回路211(以下、CPU211という)に供給されるようになっている。また、5V電源回路(2)214によって得られる安定した電源(VCC2)は監視用制御回路219に供給されるようになっている。
【0045】
フェイルセーフリレー回路213は、車両内の電源ラインから後述の三相モータ駆動回路222に供給する電源を遮断できるようになっており、CPU211と監視用制御回路219によって、三相モータ駆動回路222への電源の供給と遮断を制御できるようになっている。
【0046】
フェイルセーフリレー回路213を介して供給される電源はフィルタ回路212を介することによってノイズが除去され、三相モータ駆動回路222に供給されるようになっている。
【0047】
CPU211には、CAN通信I/F回路218を介してマスタ圧制御装置3以外からの車両情報と自動ブレーキ要求液圧等の制御信号が入力されるようになっている。また、マスタ圧制御機構4側に配置された回転角検出センサ205、モータ温度センサ206、変位センサ207、208(図1のブレーキ操作量検出装置8に対応)、及び、マスタ圧センサ209(図1のマスタ圧センサ56、57に対応)からの出力が、それぞれ、回転角検出センサI/F回路225、モータ温度センサI/F回路226、変位センサI/F回路227、228、及び、マスタ圧センサI/F回路229を介して入力されるようになっている。
【0048】
なお、図2の例では、変位センサ207、208(図1のブレーキ操作量検出装置8に対応)は、2個の変位センサを備えた構成としているが、少なくとも1つ以上備えた構成であればよい。ここで用いるセンサは、踏力センサ又はマスタ圧センサとしてもよいし、異なるセンサを少なくとも2つ以上組み合わせた構成としてもよい。
【0049】
このようにして、現時点におけるマスタ圧制御機構4の状況等に関する情報を入力し、マスタ圧制御機構4を制御するとともに、故障状態を検知する。
【0050】
CPU211は、外部装置からの制御信号、及び各センサの検出値に基づいて、三相モータ駆動回路222に適切な信号を出力し、電動モータ20を制御するようになっている。この場合、三相モータ駆動回路222の三相出力の各相には、相電流モニタ回路223及び相電圧モニタ回路224が具備されており、これら相電流モニタ回路223及び相電圧モニタ回路224によって、それぞれ相電流及び相電圧を監視し、それらの出力はCPU211を介して三相モータ駆動回路222を適切に動作させるようにしている。三相モータ駆動回路222は、マスタ圧制御機構4内のモータ204(図1の電動モータ20に対応)に接続されてCPU211による制御に応じた駆動がなされるようになっている。更に、各モニタ値が正常範囲外となった場合、制御指令通りに制御できていない場合等に故障と判断するようになっている。
【0051】
電気回路201には、CPU211との間で信号の送受がなされる、例えば故障情報等が格納されたEEPROMからなる記憶回路230が備えられ、CPU211は、検出した故障情報と、マスタ圧制御機構4の制御で用いる学習値(例えば制御ゲイン、各種センサのオフセット値等)等を記憶回路230に記憶させることができる。また、電気回路201には、CPU211との間で信号の送受がなされる監視用制御回路219が備えられており、監視用制御回路219はCPU211の故障、及びVCC1電圧等を監視している。そして、CPU211、及びVCC1電圧等の異常を検出した場合は、速やかにフェイルセーフリレー回路213を動作させ、三相モータ駆動回路222への電源供給を遮断する。監視用制御回路219及びVCC2電圧の監視は、CPU211で行っている。
【0052】
次に、マスタ圧制御装置3によるマスタ圧制御機構4の切換制御について図3乃至図14を参照して説明する。
【0053】
マスタ圧制御装置3によるマスタ圧制御機構4の切換制御を実行するための処理を図3に示す。図3に示すように、マスタ圧制御装置3は、制御入力I1及び制御切換入力I2に基づき、目標とするプライマリピストン40の移動量を決定する制御切換手段300と、制御切換手段300の出力信号に基づき、電動モータ20に駆動電流を供給するモータ駆動手段301とを備えている。
【0054】
制御切換手段300に入力される制御入力I1は、本実施形態においては、ブレーキペダル100に連結された入力ロッド7の変位量(移動量)を用いている。なお、入力ロッド7の変位量の他、運転者のブレーキペダル100の踏力、あるいは、図示しない推定手段により、入力ロッド7の位置、プライマリピストン40の位置、マスタシリンダ9内の液圧、中立19A、19Bのバネ力等から計算により求めた推定踏力を用いることができる。このとき、これらのうち、いずれか1つを制御入力I1としてもよいし、複数個を組み合わせて制御入力I1としてもよい。この制御入力I1は、目標となるプライマリピストン40の変位量(移動量)を求めるために用いられ、プライマリピストン40の変位量は、制御入力I1との関係を予め設定したテーブルから求めてもよいし、制御入力I1に基づき、所定の演算により求めてもよい。
【0055】
また、制御切換手段300は、制御切換入力I2に基づき、入力ロッド7の移動量に対するプライマリピストン40の移動量の割合を変化させる。制御切換入力I2は、入力ロッド7の位置、プライマリピストン40の位置、マスタシリンダ9内の液圧、電動モータ20に流れる電流、又は、前述の推定踏力とすることができる。このとき、これらのうち1つを制御切換入力I2としてもよいし、複数個を組み合わせて制御切換入力I2としてもよい。
【0056】
モータ駆動手段301は、制御切換手段300が決定したプライマリピストン40の目標移動量(目標位置)に基づき、電動モータ20に駆動電流を供給して、プライマリピストン40の移動量が目標移動量となるように電動モータ20を駆動する。これにより、電動モータ20がプライマリピストン40を目標移動量まで移動させ、マスタシリンダ9で所望のブレーキ液圧を発生させる。
【0057】
本実施形態においては、制御入力I1及び制御切換入力I2に基づいて、制御入力I1に対するプライマリピストン40の移動量の割合をブレーキペダルの途中から小さくすることで、ブレーキペダルの操作ストロークにおける電動モータ20の出力が最大となる全負荷点の位置をずらすとともに、該全負荷点となってから入力ピストンがプライマリピストン40に当接する当接点に至るまでの操作ストロークをなくすか、若しくは、短縮することを実現しようとしている。このような構成により、ブレーキペダル100の踏力の変動を小さくして、ブレーキペダル100の操作フィーリングを改善することが可能となる。以下に、制御切換手段300により、制御入力I1に対するプライマリピストン40の移動量の割合を変化させる具体的な処理について図4を参照して説明する。
【0058】
まず、ステップS131で、車両が停止中か否かの判定を行う。ここで、車両が停車中か否かは、例えば、図示しない車速センサから取込んだ車速情報により、車両の他のユニットが取込んだ車両停止情報をCAN通信によってCAN通信I/F218aを介して取込むことにより、あるいは、車両の他のユニットが停車と判定した結果をCAN通信にて取込むことにより、判定することができる。
【0059】
車両が停止中と判定された場合、ステップS132で、制御切換入力I2が第1、第2の割合の切換えのための所定の閾値以上であるか否かを判定する。ここで、制御切換入力I2は、後述する入力ロッド7の移動量(第1実施形態)、マスタシリンダ9内の液圧(第2実施形態)、ブレーキペダル100の踏力(マスタ圧制御装置3に取込んだ情報を用いて計算した推定踏力を含む)(第3実施形態)、電動モータ20に通電する電流値(第4実施形態)、又は、入力ロッド7とプライマリピストン40との相対変位量(第5実施形態)のいずれか1つ、あるいは、これらの複数の情報の組み合わせとすることができる。
【0060】
制御切換入力I2が閾値未満である場合、ステップS133で、制御入力I1となる入力ロッド7の移動量に対するプライマリピストン40の移動量の割合が所定の第1の割合となるようにプライマリピストン40の目標位置を決定する。制御切換入力I2が閾値以上である場合は、ステップS134で、入力ロッド7の移動量に対するプライマリピストン40の移動量の割合が、第1の割合よりも小さい第2の割合となるようにプライマリピストン40の目標位置を決定する。そして、ステップS135で、モータ駆動手段301により、プライマリピストン40が目標位置に移動するように、電動モータ20に駆動電流を供給する。また、S131で、車両が停止中と判定されなかった場合、ステップS133で、入力ロッド7の移動量に対するプライマリピストン40の移動量の割合が第1の割合となるようにプライマリピストン40の目標位置を決定する。
【0061】
このように、本実施形態では、制御入力I1に対するプライマリピストン40の移動量の割合を第1の割合から、これよりも小さい第2の割合に切換える切換制御を実行するようにしている。このような制御を行うことにより、電動モータ20の出力が最大となる全負荷点及び入力ピストンがプライマリピストン40に当接する当接点におけるブレーキペダル100の踏力の変動を小さくすることができる。したがって、ブレーキペダル100の操作フィーリングを改善することができる。
【0062】
次に、ステップS131において、車両が停止中と判定する条件について説明する。一般的に、車両走行中にブレーキペダル100を全負荷点以降まで踏込む状況は、急制動時以外にはあまり存在しない。一方、車両の停止中または停止直前においては、大きな車両の減速度を伴わないので、運転者は、ブレーキペダル100を強く踏込むことができ、ブレーキペダル100の操作フィーリングの変化を感じやすい。そこで、停車直前の倍力比を低下させずに制御したい場合は、車速がゼロ、又は、車速がゼロの状態が一定時間続いたとき、車両が停止中と判定するとよい。また、停車直前のペダルフィーリングを改善したい場合は、車速が一定速度以下であるとき、車両が停止中と判定するとよい。これにより、車両走行中には、ある程度倍力比を高めつつ、車両が停止中、あるいは、停止直前では、ブレーキペダル100の踏力を変動を小さくして、ブレーキペダル100の操作フィーリングを改善することができる。
【0063】
上述したステップS132における制御切換入力I2が第1、第2の割合の切換えのための所定の閾値以上であるか否かの判定について、その具体例を第1〜5実施形態として、以下で説明する。なお、上記実施形態においては、ステップS131で車両が停止中か否かを判定したが、必ずしも、これを判定する必要はなく、以下の第1〜5実施形態においては、車両が停止中か否かに係らず制御を行うようにしている。
【0064】
第1実施形態として、制御切換入力I2を入力ロッド7の移動量とし、入力ロッド7の移動量(ストローク)が閾値以上であるか否かに応じて、入力ロッド7の移動量とプライマリピストン40の移動量の割合を切換える切換制御を実行する場合の処理について図5及び図6を参照して説明する。
【0065】
図5を参照して、ステップS21で、入力ロッド7の移動量が閾値以上であるか否かを判定する。入力ロッド7の移動量が所定の閾値未満である場合は、ステップS22で入力ロッド7の移動量に対するプライマリピストン40の移動量の割合が所定の第1の割合となるようにプライマリピストン40の目標位置(移動量)を決定する。また、入力ロッド7の移動量が閾値以上である場合は、ステップS23で入力ロッド7の移動量に対するプライマリピストン40の移動量の割合が、第1の割合よりも小さい第2の割合となるようにプライマリピストン40の目標位置を決定する。そして、ステップS24で、モータ駆動手段301により、プライマリピストン40が目標位置に移動するように、電動モータ20に駆動電流を供給する。
【0066】
図5に示す制御を適用した場合のブレーキペダル100の移動量(ストローク;図中Sで示す)と、ブレーキペダル100の踏力(図中Fで示す)との関係を図6に示す。図6を参照して、運転者が、ブレーキペダル100を放している非制動位置S31(ストローク0)の状態から、ブレーキペダル100を踏込むと、入力ロッド7の移動量に対するプライマリピストン40の移動量の割合が第1の割合となるようにプライマリピストン40が移動する。このとき、中立バネ19A、19Bのバネ力に加えて、マスタシリンダ9内の液圧の上昇により、その反力がブレーキペダル100に作用することによりブレーキペダルの踏力が増大する。
【0067】
そして、入力ロッド7の移動量が所定の閾値である切換点S32に到達したとき、入力ロッド7の移動量に対するプライマリピストン40の移動量の割合が第1の割合から、これよりも小さい第2の割合に切り換わる。このとき、制御を切換える切換点S32は、第1の割合による制御において、電動モータ20によるプライマリピストン7の移動量が最大(電動モータ20の出力が最大)となる第1全負荷点S33よりも小さくなるように設定する。
【0068】
切換点S32から第2の割合による制御が実行されて、電動モータ20によるプライマリピストン40の移動量が最大(電動モータ20の出力が最大)となる第2全負荷点S34に至る。第2全負荷点S34に達した後は、プライマリピストン40は停止し、運転者のブレーキペダル踏力により入力ロッド7のみが前進する。このとき、ブレーキペダル100のストロークに対する反力の増大の割合が小さくなる。そして、入力ロッド7が当接点S35まで移動すると、入力ピストン16がプライマリピストン40に当接する。入力ロッド7の移動量が当接点S35に達した後は、運転者のブレーキペダル踏力によって入力ロッド7及び入力ピストン16と共にプライマリピストン40が推進されるため、ブレーキペダル100のストロークに対する踏力の増大の割合が大きくなる。なお、当接点S35は、マスタ圧制御機構4の各部の寸法、マスタシリンダ9の液圧回路の下流剛性、電動モータ20の最大出力等に依存する。ここで、第2全負荷点S34と当接点S35とを一致させることにより、踏力の傾きが緩やかになる第2全負荷点S33から当接点S35までの区間がなくなるので、ブレーキペダル100の移動量に対する踏力の変動が緩和されてブレーキペダル100の操作フィーリングが改善される。なお、マスタシリンダ9の液圧回路の下流剛性とは、液圧ブレーキ11a〜dの必要液量、必要液圧のことを指しており、液圧ブレーキ11a〜dは、使用状況によって目標減速度に対する必要液量、必要液圧が変化するようになっている。具体的には、液圧ブレーキ11a〜dに設けられている摩擦パッドが温度や磨耗度合いによってその硬さが変わる。例えば、摩擦パッドの温度が上がって軟らかくなった場合には、下流剛性が低くなる傾向にあり、摩擦パッドの磨耗が進んで硬くなった場合には、下流剛性が高くなる傾向にある。
【0069】
このように、入力ロッド7の移動量に対するプライマリピストン40の移動量の割合を第1の割合から、第1の割合よりも小さい第2の割合に切換える切換制御を実行することにより、電動モータ20の出力が最大となる全負荷点及び入力ピストンがプライマリピストン40に当接する当接点におけるブレーキペダル100の踏力の変動を小さくして、ブレーキペダル100の操作フィーリングを改善することができる。
【0070】
次に、切換点S32及び第2全負荷点S34の設定方法について、その具体例を第1〜3の設定方法として説明する。なお、この設定方法は、以下の第1〜3の設定方法に限られるものではなく、他の設定方法を取りえるものである。第1の設定方法では、切換点S32と全負荷点S32との間の傾きα1に基づいて設定する。切換点S32は、上述のように第1全負荷点S33よりも小さくなるように設定するが、使用頻度の高いブレーキ踏力の小さい領域では、倍力比が大きくなる第1の割合による制御を行えるように切換点S32を決定するとよい。こうすることで、低踏力側では、充分な倍力比を維持しつつ、ブレーキペダル100を更に踏み込んだときの操作フィーリングを改善することができる。また、傾きα1を緩やかにすると(第2の割合を小さくすると)、切換点S32におけるペダル踏力の変化が急激になるため、非制動位置S31から第2全負荷点S34までのブレーキペダル100の移動量に対する踏力の変化が滑らかになるように傾きα1を決定するとよい。
【0071】
第2の設定方法では、第2全負荷点S34の位置及び切換点S32と全負荷点S34との間の傾きα1に基づいて設定する。第2全負荷点S34が当接点S35よりも大きい場合、電動モータ20が最大出力に達する前に入力ピストン16がプライマリピストン40に当接することになり、電動モータ20の出力に対して充分な倍力比が得られず、効率が悪いので、第2全負荷点S34は、当接点S35と一致させることが望ましい。ここで、当接点S35は、マスタシリンダ9の液圧回路の下流剛性によって変化するため、第2全負荷点S34は、この下流剛性を考慮して必ず当接点S35よりも小さくなるように設定する。また、第2全負荷点S34は、マスタ圧制御装置3の入力信号に基づいて決定することができるが、入力信号の最大誤差を考慮して、必ず当接点S35より小さくなるように設定するとよい。傾きα1を緩やかにすると(第2の割合を小さくすると)、切換点S32におけるペダル踏力の変化が急激になるため、非制動位置S31から第2全負荷点S34までのブレーキペダル100の移動量に対する踏力の変化が滑らかになるように傾きα1を決定するとよい。第2全負荷点S34を通り、傾きα1を有する線分と、非制動位置S31から第1全負荷点S33の間の線分との交点が切換点S32となる。上述の第1の設定方法では、第2全負荷点S34から当接点S35が離れてしまうことがあるため、非制動位置S31から当接点S35までの傾きの変化を滑らかにしたい場合は、第2の設定方法を用いるとよい。
【0072】
また、第3の設定方法では、切換点S32及び第2全負荷点S34を設定する。この場合も、第2全負荷点S34は、必ず当接点S35よりも小さくなるようにする。これにより、低踏力域では、充分な倍力比を維持しつつ、全域にわたって必要な制動力を得ることができる。
【0073】
次に、第2実施形態として、制御切換入力I2をマスタシリンダ9内のブレーキ液圧とし、マスタシリンダ9内のブレーキ液圧が閾値以上であるか否かに応じて、入力ロッド7の移動量に対するプライマリピストン40の移動量の割合を切換える場合の処理について図7及び図8を参照して説明する。
【0074】
図7を参照して、ステップS41で、マスタシリンダ9内のブレーキ液圧が閾値以上であるか否か判定する。マスタシリンダ9内のブレーキ液圧が閾値未満である場合は、ステップS42で入力ロッド7の移動量に対するプライマリピストン40の移動量の割合が第1の割合となるようにプライマリピストン40の目標位置を決定する。また、マスタシリンダ9内のブレーキ液圧が閾値以上である場合は、ステップS43で入力ロッド7の移動量に対するプライマリピストン40の移動量の割合が、第1の割合よりも小さい第2の割合となるように、プライマリピストン40の目標位置を決定する。そして、ステップS24で、モータ駆動手段301により、プライマリピストン40が目標位置に移動するように、電動モータ20に駆動電流を供給する。
【0075】
図7に示す切換制御を適用した場合のブレーキペダル100の移動量(ストローク;図中Sで示す)と、ブレーキペダル100の踏力(図中Fで示す)及びマスタシリンダ9内のブレーキ液圧(図中Pで示す)との関係を図8に示す。ここで、マスタシリンダ9内のブレーキ液圧は、運転者によるブレーキペダル100の踏力にほぼ比例するので、ブレーキペダル100の移動量とブレーキ液圧との関係は、ブレーキペダル100の移動量と運転者によるブレーキペダル100の踏力との関係にほぼ一致することになる。なお、図8において、曲線S52a〜S55aは、曲線S52b〜S55bに比してマスタシリンダ9の液圧回路の下流剛性が高い場合の推移を表している。
【0076】
非制動位置S51(ストローク0)から、ブレーキペダル100を踏込むと、入力ロッド7の移動量に対するプライマリピストン40の移動量の割合が第1の割合となるようにプライマリピストン40が移動する。そして、マスタシリンダ9内の液圧が閾値S57に達したとき(切換点S52a、S52b)、入力ロッド7の移動量に対するプライマリピストン40の移動量の割合が第1の割合から第2の割合となるように制御を切換える。ここで、制御を切換えるマスタシリンダ9内の液圧の閾値S57は、第1の割合による制御において電動モータ20によるプライマリピストン7の移動量が最大(電動モータ20の出力が最大)となる全負荷点S53a、S53bよりも小さくなるように設定する。これにより、マスタシリンダ9内のブレーキ液圧が閾値S57を通過する前後におけるブレーキペダル100の移動量に対する踏力の傾きの変化量は、制御の切換えを行わない場合において(図7中の破線参照)、全負荷点S53a、S53bを通過する前後におけるブレーキペダル100の移動量に対する踏力の傾きの変化量よりも小さくなるので、全負荷点S53a、S53bにおいてブレーキペダル100の踏力が急激に低下するという違和感を軽減することができる。
【0077】
切換点S52a、S52bで第1の割合から第2の割合に制御を切換えた後は、第2の割合よる制御が実行され、電動モータ20によるプライマリピストン40の移動量が最大(電動モータ20の出力が最大)となる第2全負荷点S54a、S54bに至る。第2全負荷点S54a、S54bに達した後は、プライマリピストン40は停止し、運転者のブレーキペダル踏力により入力ロッド7のみが前進する。そして、入力ロッド7が当接点S55a、S55bまで移動すると、入力ピストン16がプライマリピストン40に当接する。その後は、運転者のブレーキペダル踏力により、入力ロッド7及び入力ピストン16と共にプライマリピストン40が推進され、ブレーキペダル100のストロークに対する踏力の上昇が増大する。
【0078】
このとき、ブレーキペダル100のストロークに対する踏力は、切換点S52a、S52b及び第2全負荷点S54a、S54bを経て当接点S55a、S55bに至ることにより、第1全負荷点S53a、S53bを経て当接点S55a、S55bに至る場合に比して、ストロークに対する踏力の変動が小さくなるので、ブレーキペダル100の操作フィーリングを改善することができる。
【0079】
第1の割合から第2の割合への切換点S52a、S52bをブレーキ液圧の閾値S57によって定めることにより、マスタシリンダ9の液圧回路の下流剛性が変化した場合においても、ブレーキ液圧が閾値S57に達するまでは、大きな倍力比が得られる第1の割合による制御を実行するので、使用頻度の高い低踏力域では、充分大きな倍力比を得ることができ、高踏力域では、ブレーキペダル100を踏込んだときの操作フィーリングを改善することができる。
【0080】
次に、第2全負荷点S54a、S54bの設定方法について、その具体例を第1、2の設定方法として説明する。なお、この設定方法は、以下の第1、2の設定方法に限られるものではなく、他の設定方法を取りえるものである。また、曲線S52a〜S55aについて説明するが、曲線S52b〜S55bについても同様の方法を適用することができる。第1の設定方法では、先ず切換点S52aと第2全負荷点S54aとの間の曲線の傾きα2を決定し、これに基づいて設定する。傾きα2を緩やかにすると切換点S52aにおけるブレーキペダル踏力の変化が急激になるため、非制動位置S51から第2全負荷点S54aまでの傾きが滑らかになるようにα2を決定する。
【0081】
第2の設定方法では、第2全負荷点S54aを入力ロッド7の移動量(ストローク)に基づいて設定する。この場合、第2全負荷点S54aと、入力ピストン16がプライマリピストン40に当接する当接点S55aとの液圧差を小さくするとよい。第2全負荷点S54aは、マスタシリンダ9内の液圧に基づいて設定してもよいが、マスタ圧センサ56、57の検出値に誤差がある場合、第2全負荷点S54aの位置もずれてしまうため、誤差を生じ難い入力ロッド7の移動量に基づいて設定してもよい。また、当接点S55aは、マスタシリンダ9の液圧回路の下流剛性によって変化するため、第2全負荷点S54aは、必ず当接点S55aよりも小さくなるように設定する。
【0082】
次に、第3実施形態として、制御切換入力I2を運転者によるブレーキペダル100の踏力とし、踏力が所定の閾値以上であるか否かに応じて、入力ロッド7の移動量に対するプライマリピストン40の移動量の割合を切換える場合の処理について、図9を参照して説明する。
【0083】
図9を参照して、ステップS61で、運転者によるブレーキペダル100の踏力が閾値以上であるか否かを判定する。踏力が閾値未満である場合は、ステップS62で入力ロッド7の移動量に対するプライマリピストン40の移動量の割合が第1の割合となるようにプライマリピストン40の目標位置を決定する。踏力が閾値以上である場合は、ステップS63で入力ロッド7の移動量に対するプライマリピストン40の移動量の割合が、第1の割合よりも小さい第2の割合となるようにプライマリピストン40の目標位置を決定する。このとき、判定に用いる踏力は、ブレーキペダル100に取り付けられた踏力センサを用いて取得してもよく、あるいは、図示しない推定手段により、入力ロッド7の位置、プライマリピストン40の位置、マスタシリンダ9内の液圧、中立バネ19A、19Bのバネ力等から計算により求めた推定踏力を用いてもよい。そして、ステップS64でモータ駆動手段301により、プライマリピストン40が目標位置に移動するように、電動モータ20に駆動電流を供給する。
【0084】
図9に示す制御を適用した場合のブレーキペダル100の移動量(ストローク)と踏力との関係は、図8において、ブレーキ液圧の閾値S57を踏力の閾値に置換えたものと同様になる。
【0085】
次に、第4実施形態として、制御切換入力I2を電動モータ20に流れる電流値とし、この電流値が所定の閾値以上であるか否かに応じて、入力ロッド7の移動量に対するプライマリピストン40の移動量の割合を切換える場合の処理について、図10及び図11を参照して説明する。
【0086】
図10を参照して、ステップS71で、電動モータ20に流れる電流値が閾値以上である否かを判定する。電流値が閾値未満である場合は、ステップS72で入力ロッド7の移動量に対するプライマリピストン40の移動量の割合が第1の割合となるようにプライマリピストン40の目標位置を決定する。電流値が閾値以上である場合は、ステップS73で入力ロッド7の移動量に対するプライマリピストン40の移動量の割合が、第1の割合よりも小さい第2の割合となるようにプライマリピストン40の目標位置を決定する。そして、ステップS64でモータ駆動手段301により、プライマリピストン40が目標位置に移動するように、電動モータ20に駆動電流を供給する。
【0087】
図10に示す制御を適用した場合のブレーキペダル100の移動量(ストローク;図中Sで示す)と踏力との関係を図11に示す。この場合、電動モータ20に流れる電流値(図中Iで示す)、電動モータ20のトルク及びマスタシリンダ9内のブレーキ液圧と、ブレーキペダル100の踏力(図中Iで示す)とは、ほぼ比例関係にあるので、図11の曲線S81〜S85で示される特性は、図8に示される特性とほほ一致する。ここで、第1の割合から第2の割合に変更するための電流の閾値S87は、第1の割合による制御において、電動モータ20によるプライマリピストン7の移動量が最大(電動モータ20の出力が最大)となる第1全負荷点S83の電流値よりも小さくなるように設定する。
【0088】
これにより、電動モータ20を流れる電流値が閾値S87及び第2全負荷点S84を通過する前後におけるブレーキペダル100の移動量に対する踏力の傾きの変化量は、第1の割合による制御において全負荷点S83を通過する前後における踏力の傾きの変化量(図8中の破線参照)よりも小さくなるので、全負荷点においてブレーキペダル100の踏力が急に低下することによる運転者の違和感を軽減することができる。
【0089】
次に、電動モータ20のコイルの過熱の防止等の目的で電動モータ20に通電する最大電流が制限されている場合について、曲線S81〜S85aを参照して説明する。この場合、入力ロッド7の移動量とプライマリピストン40の移動量の割合を第1の割合から第2の割合へ変化させる電流の閾値を、閾値S87よりも小さい閾値S87aに変更することにより、S81〜S82a〜S85aの区間でのブレーキペダル100の踏力の傾きの変化が小さくなり、運転者の違和感を軽減することができる。
【0090】
次に、第5実施形態として、制御切換入力I2を入力ロッド7とプライマリピストン40との相対変位量とし、この相対変位量が所定の閾値以上であるか否かに応じて、入力ロッド7の移動量に対するプライマリピストン40の移動量の割合を切換える場合の処理について、図12乃至図14を参照して説明する。
【0091】
図12を参照して、ステップS91で、入力ロッド7とプライマリピストン40との相対変位量が閾値以上であるか否かを判定する。相対変位量が閾値未満である場合、ステップS92で、入力ロッド7の移動量に対するプライマリピストン40の移動量の割合がこれらの相対変位を増大させる第1の割合となるようにプライマリピストン40の目標位置を決定する。相対変位量が閾値以上である場合、ステップS93で、入力ロッド7の移動量に対するプライマリピストン40の移動量の割合が第1の割合よりも小さく、相対変位量を減少させる第2の割合となるようにプライマリピストン40の目標位置を決定する。そして、ステップS94でモータ駆動手段301により、プライマリピストン40が目標位置に移動するように、電動モータ20に駆動電流を供給する。
【0092】
図12に示す制御を適用した場合のブレーキペダル100の移動量(ストローク;図中Sで示す)と、ブレーキペダル100の踏力(図中Fで示す)との関係を図13に示す。図13中の曲線S101a〜S105aを参照して、運転者が、ブレーキペダル100を放している非制動位置S101a(ストローク0)の状態から、ブレーキペダル100を踏込むと、入力ロッド7の移動量に対するプライマリピストン40の移動量の割合が第1の割合となるようにプライマリピストン40が移動し、入力ロッド7の移動量に応じて、入力ロッド7とプライマリピストン40との相対変位量が増大する。このとき、中立バネ19A、19Bのバネ力に加えて、マスタシリンダ9内の液圧の上昇により、その反力がブレーキペダル100に作用することによりブレーキペダルの踏力が増大する。
【0093】
そして、入力ロッド7とプライマリピストン40との相対変位量が閾値となる切換点S102aに到達したとき、入力ロッド7の移動量に対するプライマリピストン40の移動量の割合が第1の割合から、これよりも小さい第2の割合に切り換わる。このとき、制御を切換える切換点S102aは、第1の割合による制御において、電動モータ20によるプライマリピストン7の移動量が最大(電動モータ20の出力が最大)となる第1全負荷点S103aよりも小さくなるように設定する。
【0094】
切換点S102aから第2の割合による制御が実行されて、電動モータ20によるプライマリピストン40の移動量が最大(電動モータ20の出力が最大)となる第2全負荷点S104aに至る。第2全負荷点S104aに達した後は、プライマリピストン40は停止し、運転者のブレーキペダル踏力により入力ロッド7のみが前進する。このとき、ブレーキペダル100のストロークに対する踏力の増大の割合が小さくなる。そして、入力ロッド7が当接点S105aまで移動すると、入力ピストン16がプライマリピストン40に当接する。入力ロッド7の移動量が当接点S105aに達した後は、運転者のブレーキペダル踏力によって入力ロッド7及び入力ピストン16と共にプライマリピストン40が推進されるため、ブレーキペダル100のストロークに対する踏力の増大の割合が大きくなる。
【0095】
このように、入力ロッド7の移動量に対するプライマリピストン40の移動量の割合を第1の割合から、これよりも小さい第2の割合に切換えることにより、電動モータ20の出力が最大となる全負荷点及び入力ピストン16がプライマリピストン40に当接する当接点におけるブレーキペダル100の踏力の変動を小さくして、ブレーキペダル100の操作フィーリングを改善することができる。
【0096】
ここで、入力ロッド7の移動量に対するプライマリピストン40の移動量の第1の割合は、マスタ圧制御装置3により適宜変更することができる。図13中の曲線S101a〜S115aは、上述の曲線S101a〜S105aに対して、第1の割合を小さくした場合の入力ロッド7の移動量とブレーキペダル100の踏力との関係を示している。
【0097】
また、図14は、ブレーキペダル100(すなわち、入力ロッド7)の移動量(図中Sで示す)と、入力ロッド7とプライマリピストン40との相対変位量(図中ΔXで示す)との関係を表しており、図13のS101a〜S105aの特性は、図14のS101b〜S105bの特性に対応し、図13のS101a〜S115aの特性は、図14のS101b〜S115bの特性に対応する。図14を参照して、例えば、第1の割合による制御が、入力ロッド7の移動量に対してプライマリピストン40の移動量が大きくなる曲線S101b〜S105b(全負荷点S103bで相対変位最大)で表される特性を有している場合(進み制御)、全負荷点S103bの相対変位量よりも小さい相対変位量の閾値S120を設定する。これにより、相対変位量が閾値S120に達したとき、第1の割合よりも小さく、相対変位量を減少させる第2の割合による制御に切換えることにより、電動モータ20が最大出力となる第2全負荷点S104a(図13参照)及び入力ピストン16がプライマリピストン40に当接する当接点S105a(図13参照)におけるブレーキペダル100の踏力の変動を小さくして、ブレーキペダル100の操作フィーリングを改善することができる。
【0098】
また、第1の割合による制御が、入力ロッド7に移動量に対してプライマリピストン40の移動量が小さくなる曲線S101b〜S115b(全負荷点S113b)で表される特性を有している場合(遅れ制御)、全負荷点S113bの相対変位量よりも絶対値が小さい相対変位量の閾値S121を設定する。これにより、相対変位量が閾値S121に達したとき、第1の割合よりも小さく、相対変位量を減少させる(プライマリピストン40の入力ロッド7に対する遅れを増大させる)第2の割合による制御に切換えることにより、電動モータ20が最大出力となる第2全負荷点S114a(図13参照)及び入力ピストン16がプライマリピストン40に当接する当接点S115a(図13参照)におけるブレーキペダル100の踏力の変動を小さくして、ブレーキペダル100の操作フィーリングを改善することができる。
【0099】
このように、閾値S120、121は、第1の割合に応じて、非制動位置S101bから全負荷点S103bの間、非制動位置S101bから全負荷点S113bの間に適宜設定することにより、第1の割合から第2の割合への切換えを実行することができる。
【0100】
上記実施形態においては、ブレーキペダルの操作により進退移動する入力部材と、該入力部材に対して相対移動可能に設けられ、前進によってマスタシリンダ内にブレーキ液圧を発生させ、前記入力部材の前進により該入力部材が当接する倍力部材と、前記倍力部材を駆動する電動アクチュエータと、前記入力部材の移動に基づき前記電動アクチュエータの作動を制御する制御手段とを備え、前記入力部材の移動量に対する前記倍力部材の移動量を変化させて前記マスタシリンダ内にブレーキ液圧を発生させることが可能な電動倍力装置において、前記制御手段は、前記入力部材の前進により、前記電動アクチュエータの出力が増大して最大出力を発生する第1全負荷状態となる前に、前記入力部材の移動量に対する前記倍力部材の移動量の割合を小さく切換える切換制御を実行するようになっている。
このような構成により、ブレーキペダルの操作に対する反力の急激な変化を抑制して、ブレーキペダルの操作フィーリングを向上させることができる。
【0101】
上記実施形態においては、前記制御手段は、前記切換制御を実行した後、前記入力部材の前進により、前記電動アクチュエータの出力が増大して最大出力を発生する第2全負荷状態となった後、前記入力部材が前記倍力部材に当接するように前記電動アクチュエータの作動を制御するようになっている。
【0102】
上記第1実施形態においては、前記制御手段は、前記入力部材の移動量が所定の閾値に達したとき、前記切換制御を実行するようになっている。
【0103】
上記第2実施形態においては、前記制御手段は、前記マスタシリンダ内のブレーキ液圧が所定の閾値に達したとき、前記切換制御を実行するようになっている。
【0104】
上記第5実施形態においては、前記制御手段は、前記入力部材と前記倍力部材との相対変位量が所定の閾値に達したときに、前記切換制御実行するようになっている。
【0105】
上記第3実施形態においては、前記制御手段は、前記ブレーキペダルの踏力が所定の閾値に達したとき、前記切換制御を実行するようになっている。
【0106】
上記第4実施形態においては、前記制御手段は、前記電動アクチュエータに流れる電流値が所定の閾値に達したとき、前記切換制御を実行するようになっている。
【0107】
上記実施形態においては、前記制御手段は、前記切換制御の実行前には、前記入力部材の移動量に対して前記倍力部材の移動量が大きくなるように前記電動アクチュエータの作動を制御し、前記切換制御の実行後には、前記入力部材の移動量に対して前記倍力部材の移動量が小さくなるように前記電動アクチュエータの作動を制御するようになっている。
【0108】
上記実施形態においては、前記制御手段は、車両が停止中に前記ブレーキペダルが操作された場合にのみ、前記切換制御を実行するようになっている。
【0109】
このような構成により、車両走行中には、ある程度倍力比を高めつつ、車両が停止中、あるいは、停止直前では、ブレーキペダル100の踏力の変動を小さくして、ブレーキペダル100の操作フィーリングを改善することができる。
【符号の説明】
【0110】
3…マスタ圧制御装置(制御手段)、4…マスタ圧制御機構(電動倍力装置)、7…入力ロッド(入力部材)、9…マスタシリンダ、16…入力ピストン(入力部材)、20…電動モータ(電動アクチュエータ)、40…プライマリピストン(倍力部材)、100…ブレーキペダル
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーキペダルの操作により進退移動する入力部材と、該入力部材に対して相対移動可能に設けられ、前進によってマスタシリンダ内にブレーキ液圧を発生させ、前記入力部材の前進により該入力部材が当接する倍力部材と、前記倍力部材を駆動する電動アクチュエータと、前記入力部材の移動に基づき前記電動アクチュエータの作動を制御する制御手段とを備え、前記入力部材の移動量に対する前記倍力部材の移動量を変化させて前記マスタシリンダ内にブレーキ液圧を発生させることが可能な電動倍力装置において、
前記制御手段は、前記入力部材の前進により、前記電動アクチュエータの出力が増大して最大出力を発生する第1全負荷状態となる前に、前記入力部材の移動量に対する前記倍力部材の移動量の割合を小さく切換える切換制御を実行することを特徴とする電動倍力装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記切換制御を実行した後、前記入力部材の前進により、前記電動アクチュエータの出力が増大して最大出力を発生する第2全負荷状態となった後、前記入力部材が前記倍力部材に当接するように前記電動アクチュエータの作動を制御することを特徴とする請求項1に記載の電動倍力装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記入力部材の移動量が所定の閾値に達したとき、前記切換制御を実行することを特徴とする請求項1に記載の電動倍力装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記マスタシリンダ内のブレーキ液圧が所定の閾値に達したとき、前記切換制御を実行することを特徴とする請求項1に記載の電動倍力装置。
【請求項5】
前記制御手段は、前記入力部材と前記倍力部材との相対変位量が所定の閾値に達したときに、前記切換制御実行することを特徴とする請求項1に記載の電動倍力装置。
【請求項6】
前記制御手段は、前記ブレーキペダルの踏力が所定の閾値に達したとき、前記切換制御を実行することを特徴とする請求項1に記載の電動倍力装置。
【請求項7】
前記制御手段は、前記電動アクチュエータに流れる電流値が所定の閾値に達したとき、前記切換制御を実行することを特徴とする請求項1に記載の電動倍力装置。
【請求項8】
前記制御手段は、前記切換制御の実行前には、前記入力部材の移動量に対して前記倍力部材の移動量が大きくなるように前記電動アクチュエータの作動を制御し、前記切換制御の実行後には、前記入力部材の移動量に対して前記倍力部材の移動量が小さくなるように前記電動アクチュエータの作動を制御することを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の電動倍力装置。
【請求項9】
前記制御手段は、車両が停止中に前記ブレーキペダルが操作された場合にのみ、前記切換制御を実行することを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載の電動倍力装置。
【請求項1】
ブレーキペダルの操作により進退移動する入力部材と、該入力部材に対して相対移動可能に設けられ、前進によってマスタシリンダ内にブレーキ液圧を発生させ、前記入力部材の前進により該入力部材が当接する倍力部材と、前記倍力部材を駆動する電動アクチュエータと、前記入力部材の移動に基づき前記電動アクチュエータの作動を制御する制御手段とを備え、前記入力部材の移動量に対する前記倍力部材の移動量を変化させて前記マスタシリンダ内にブレーキ液圧を発生させることが可能な電動倍力装置において、
前記制御手段は、前記入力部材の前進により、前記電動アクチュエータの出力が増大して最大出力を発生する第1全負荷状態となる前に、前記入力部材の移動量に対する前記倍力部材の移動量の割合を小さく切換える切換制御を実行することを特徴とする電動倍力装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記切換制御を実行した後、前記入力部材の前進により、前記電動アクチュエータの出力が増大して最大出力を発生する第2全負荷状態となった後、前記入力部材が前記倍力部材に当接するように前記電動アクチュエータの作動を制御することを特徴とする請求項1に記載の電動倍力装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記入力部材の移動量が所定の閾値に達したとき、前記切換制御を実行することを特徴とする請求項1に記載の電動倍力装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記マスタシリンダ内のブレーキ液圧が所定の閾値に達したとき、前記切換制御を実行することを特徴とする請求項1に記載の電動倍力装置。
【請求項5】
前記制御手段は、前記入力部材と前記倍力部材との相対変位量が所定の閾値に達したときに、前記切換制御実行することを特徴とする請求項1に記載の電動倍力装置。
【請求項6】
前記制御手段は、前記ブレーキペダルの踏力が所定の閾値に達したとき、前記切換制御を実行することを特徴とする請求項1に記載の電動倍力装置。
【請求項7】
前記制御手段は、前記電動アクチュエータに流れる電流値が所定の閾値に達したとき、前記切換制御を実行することを特徴とする請求項1に記載の電動倍力装置。
【請求項8】
前記制御手段は、前記切換制御の実行前には、前記入力部材の移動量に対して前記倍力部材の移動量が大きくなるように前記電動アクチュエータの作動を制御し、前記切換制御の実行後には、前記入力部材の移動量に対して前記倍力部材の移動量が小さくなるように前記電動アクチュエータの作動を制御することを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の電動倍力装置。
【請求項9】
前記制御手段は、車両が停止中に前記ブレーキペダルが操作された場合にのみ、前記切換制御を実行することを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載の電動倍力装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
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【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2013−28273(P2013−28273A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−165549(P2011−165549)
【出願日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】
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