説明

電動圧縮機の制御装置、電動圧縮機の起動制御方法

【課題】高温時においても起動を円滑かつ確実に行うことのできる電動圧縮機の制御装置、電動圧縮機の起動制御方法を提供することを目的とする。
【解決手段】パワートランジスタの温度が高い状態においても、その温度に応じたモータの回転数や加速レートを設定して徐々に電動圧縮機を起動させる。また、起動開始後は、所定時間毎にパワートランジスタの温度を再チェックしてモータの回転数や加速レートを更新し、パワートランジスタの温度に応じてモータの回転数や加速レートを高めていくことで、迅速な起動を可能とする。起動にともなって電動圧縮機のハウジング内を冷媒が流動しはじめると、制御基板が冷却されてパワートランジスタの温度も低下するので、その効果は相乗的なものとなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気調和機を構成する電動圧縮機の制御装置、起動制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車用の空気調和機において、冷媒を圧縮するための圧縮機の駆動源に電動モータを用いた、いわゆる電動圧縮機が開発されている。
このような電動圧縮機は、まだまだ開発途上にあるのが現状であり、様々な解決すべき課題が存在している。特に起動時における課題は多く、起動を迅速かつ確実に行うために様々な提案がなされている(例えば特許文献1参照。)。
【0003】
【特許文献1】特開2007−151318号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電動圧縮機における起動時の課題の一つに、電動圧縮機の駆動制御板に設けられたパワートランジスタの温度特性に起因して、高温時にスムーズな起動が行えないというものがある。
パワートランジスタは、温度が高いほど通電可能な電流が小さくなるという温度特性を有しており、温度が高いときには電動圧縮機の作動を停止させる保護回路を有している。このため、電動圧縮機が高温状態にあるときにこれを起動させようとすると、パワートランジスタの保護回路が作動し、電動圧縮機の作動が停止され、起動が行えなくなってしまうのである。
このため、図7に示すように、パワートランジスタの保護回路が作動した場合には、一定時間、電動圧縮機を低回転で回転させ、一定時間が経過してパワートランジスタが十分に冷却されてから、手動で電動圧縮機の回転数を上昇させるような手法をとる必要があり、これでは起動に時間がかかる。
本発明は、このような技術的課題に基づいてなされたもので、高温時においても起動を円滑かつ確実に行うことのできる電動圧縮機の制御装置、電動圧縮機の起動制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
かかる目的のもとになされた本発明は、空気調和機を構成する圧縮機をモータで駆動する電動圧縮機の制御装置であって、モータを起動させて目標回転数まで上昇させるときに制御装置で実行される処理は、制御装置に備えられたパワートランジスタの温度を検出する処理と、予め定められた相関に基づき、検出されたパワートランジスタの温度に対応したモータの回転数またはモータの回転数を増加させるときの加速レートを決定する処理と、決定された回転数または加速レートでモータを駆動する処理と、を含むことを特徴とする。
このように、パワートランジスタの温度と、モータの回転数または加速レートと、の相関を予め定めておき、パワートランジスタの温度に応じてモータの回転数またはモータの回転数を増加させるときの加速レートを決定してモータを駆動することで、パワートランジスタの温度が高い時には低回転または小さな加速度でモータを徐々に駆動することができ、これによって従来では起動できなかったような場合でも、電動圧縮機の起動が可能となる。
【0006】
ここで、パワートランジスタの温度を検出する処理を、間隔を隔てて繰り返し実行し、新たに検出されたパワートランジスタの温度に応じてモータの回転数または加速レートを更新するのが好ましい。
温度検出を繰り返すことで、その時々のパワートランジスタの温度に応じてモータの回転数または加速レートを設定することができる。すなわち、モータの起動により電動圧縮機内で冷媒が流動することで、この冷媒によりパワートランジスタが冷却されるものである場合において、パワートランジスタが冷媒によって冷却されはじめれば、モータの回転数またはモータの回転数を増加させるときの加速レートを、より高いものに変更することができる。その結果、より迅速な起動が可能となる。
【0007】
本発明は、空気調和機を構成する圧縮機をモータで駆動する電動圧縮機の起動制御方法であって、モータを起動させて目標回転数まで上昇させるときに、制御装置に備えられたパワートランジスタの温度を検出するステップと、予め定められた相関に基づき、検出されたパワートランジスタの温度に対応したモータの回転数またはモータの回転数を増加させるときの加速レートを決定するステップと、決定された回転数または加速レートでモータを駆動するステップと、を含むことを特徴とする電動圧縮機の起動制御方法とすることもできる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、パワートランジスタの温度に応じてモータの回転数または加速レートを決定してモータを駆動することで、パワートランジスタの温度が高い時には低回転または小さな加速度でモータを徐々に駆動することができる。これによって従来では起動できなかったような、パワートランジスタの温度が高い状態においても、その温度に応じた回転数や加速レートを設定して徐々に電動圧縮機を起動させることが可能となる。
また、起動開始後は、パワートランジスタの温度の再チェックを繰り返し、モータの回転数または加速レートを順次更新していくので、パワートランジスタの温度に応じてモータの回転数または加速レートを高めていくことができ、迅速な起動が可能となる。さらに、起動にともなって電動圧縮機内を冷媒が流動しはじめると、パワートランジスタの温度も低下するので、その効果は相乗的なものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、添付図面に示す実施の形態に基づいてこの発明を詳細に説明する。
この図1に示すように、自動車用の空気調和機を構成する電動圧縮機10は、冷媒を圧縮する圧縮機本体11と、この圧縮機本体11を駆動するためのモータ12と、モータ12を回転させるための制御基板13と、を備える。
図2に示すように、制御基板13は、直流電源から供給される電圧を交流に変換するためのパワートランジスタ20と、パワートランジスタ20の動作を制御するためのマイコンからなる制御装置15およびゲート回路16とを備えている。制御装置15の制御によってゲート回路16が駆動され、その駆動信号がパワートランジスタ20に入力されると、パワートランジスタ20が動作する。これによって、直流電源から供給される電圧が3相交流となって電動圧縮機10のモータ12に印加され、モータ12を回転駆動させる。
【0010】
図1に示したように、制御装置15においては、電動圧縮機10の起動時における制御を担う起動制御部30が機能的に備えられている。起動制御部30における制御を行うため、制御基板13には、パワートランジスタ20の温度を検出する温度センサ40が設けられている。
【0011】
起動制御部30は、制御装置15が予め記憶されたプログラムに基づいた所定の処理を行うことで、電動圧縮機10において以下に示すような起動制御を機能的に実行する。
すなわち、図3に示すように、車両側の上位制御装置より、電動圧縮機10の起動指令が入力されると、起動制御部30は、電動圧縮機10の起動制御を開始する(ステップS101)。このとき、上位制御装置からの起動指令には、電動圧縮機10の要求回転数R1の指令が含まれる。
次いで、起動制御部30は、温度センサ40で検出されるパワートランジスタ20の温度をチェックする(ステップS102)。起動制御部30においては、図4(a)に例示したような、予め設定されたパワートランジスタ20の温度と、電動圧縮機10の制限回転数との相関データを参照する。そして、ステップS102でチェックしたパワートランジスタ20の検出温度に対応した電動圧縮機10の制限回転数R2を取得し、取得した制限回転数R2を、目標回転数R3として決定する(ステップS103)。ただしここで、目標回転数R3は、ステップS101で入力された起動指令に含まれる要求回転数R1を上限とする。すなわち、制限回転数R2が要求回転数R1を超える場合には、要求回転数R1を目標回転数R3とするのである。
【0012】
目標回転数R3が決定された後には、起動制御部30は、モータ12の回転数が目標回転数R3に到達するように、ゲート回路16を駆動してパワートランジスタ20を動作させ、3相交流をモータ12に印加してモータ12を回転駆動させ、その回転数を加速していく(ステップS104)。
【0013】
所定時間が経過したら、モータ12の回転数が要求回転数R1に達したか否かを判定し(ステップS105)、要求回転数R1に達していなければ、温度センサ40で検出されるパワートランジスタ20の温度をチェックする(ステップS106)。
そして、ステップS103と同様に、図3に例示したような、パワートランジスタ20の温度と、電動圧縮機10の制限回転数との相関データを参照し、パワートランジスタ20の検出温度に対応した電動圧縮機10の制限回転数R2を取得し、取得した制限回転数R2を、新たな目標回転数R3として更新する(ステップS107)。このときも、目標回転数R3は、ステップS101で入力された起動指令に含まれる要求回転数R1を上限とする。
【0014】
この後は、ステップS104、S105に戻り、モータ12の回転数が新たな目標回転数R3に到達するように、モータ12の回転を加速し、所定時間が経過したらモータ12の回転数が目標回転数R3に達したか否かを判定する。そして、モータ12の回転数が要求回転数R1に到達するまで、ステップS106、S107のパワートランジスタ20の温度のチェックと、目標回転数R3の更新を繰り返しながらモータ12の回転を加速して行く。
モータ12の回転数が要求回転数R1に到達した時点で、起動制御部30による起動運転を終了し、定常運転に移行する(ステップS108)。
【0015】
このようにして、図4(b)に示すように、パワートランジスタ20の温度が高い状態においても、その温度に応じた目標回転数R3を設定することで徐々に電動圧縮機10を起動させることが可能となる。また、起動開始後は、所定時間毎にパワートランジスタ20の温度を再チェックし、目標回転数R3を更新していくので、パワートランジスタ20の温度に応じて、目標回転数R3を高めていくことができ、要求回転数R1までの迅速な起動が可能となる。ここで、図1に示したように、起動にともなって電動圧縮機10のハウジング内を冷媒が流動しはじめると、制御基板13が冷却されてパワートランジスタ20の温度も低下するので、その効果は相乗的なものとなる。
【0016】
上記においては、パワートランジスタ20の温度に応じてモータ12の回転数を制御する手法を示したが、これに代えて、パワートランジスタ20の温度に応じてモータ12の回転加速レートを制御する手法を採用することもできる。以下、これについて説明する。
図5に示すように、車両側の上位制御装置より、電動圧縮機10の起動指令が入力されると、起動制御部30は、電動圧縮機10の起動制御を開始する(ステップS201)。このとき、上位制御装置からの起動指令には、電動圧縮機10の要求回転数R1の指令が含まれる。
次いで、起動制御部30は、温度センサ40で検出されるパワートランジスタ20の温度をチェックする(ステップS202)。起動制御部30においては、図6(a)に例示したような、予め設定されたパワートランジスタ20の温度と、モータ12の回転加速レートとの相関データを参照する。そして、ステップS202でチェックしたパワートランジスタ20の検出温度に対応した電動圧縮機10の加速レートを取得する(ステップS203)。
【0017】
次いで、起動制御部30は、モータ12の回転数を、ステップS203で取得した加速レートで上昇させていく(ステップS204)。
【0018】
所定時間が経過したら、モータ12の回転数が要求回転数R1に達したか否かを判定し(ステップS205)、要求回転数R1に達していなければ、温度センサ40で検出されるパワートランジスタ20の温度をチェックする(ステップS206)。そして、ステップS203と同様に、図3に例示したような、パワートランジスタ20の温度と、モータ12の回転加速レートとの相関データを参照し、パワートランジスタ20の検出温度に対応した電動圧縮機10の回転加速レートを取得し、取得した回転加速レートを、新たな回転加速レートとして更新する(ステップS207)。
【0019】
この後は、ステップS204、S205に戻り、更新された回転加速レートでモータ12の回転数を上昇させていき、所定時間が経過したらモータ12の回転数が要求回転数R1に達したか否かを判定する。そして、モータ12の回転数が要求回転数R1に到達するまで、ステップS206、S207のパワートランジスタ20の温度のチェックと、回転加速レートの更新を繰り返しながらモータ12を加速していく。
モータ12の回転数が要求回転数R1に到達した時点で、起動制御部30による起動運転を終了し、定常運転に移行する(ステップS208)。
【0020】
このようにして、図6(b)に示すように、パワートランジスタ20の温度が高い状態においても、その温度に応じた加速レートを設定して徐々に電動圧縮機10を起動させることが可能となる。また、起動開始後は、所定時間毎にパワートランジスタ20の温度を再チェックし、加速レートを更新していくので、パワートランジスタ20の温度に応じて、加速レートを高めていくことができ、迅速な起動が可能となる。ここで、起動にともなって電動圧縮機10のハウジング内を冷媒が流動しはじめると、制御基板13が冷却されてパワートランジスタ20の温度も低下するので、その効果は相乗的なものとなる。
【0021】
なお、上記実施の形態では、電動圧縮機10の構成については、本願発明の主旨を逸脱しない限り、いかなる構成としてもよい。モータ12と圧縮機本体11と一体化されたものに限るものでもないが、本発明は、起動にともなって電動圧縮機10のハウジング内を冷媒が流動しはじめると、制御基板13が冷媒によって冷却されるような構造の電動圧縮機に適用するのが特に有効である。
これ以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施の形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本実施の形態における電動圧縮機の概略構成を示す図である。
【図2】電動圧縮機の機能的な構成を示すブロック図である。
【図3】パワートランジスタの温度に応じてモータの回転数を制御する場合の処理の流れの例を示す図である。
【図4】(a)はパワートランジスタの温度とモータの制限回転数との関係を示す図、(b)は図3の手法でモータを起動させた場合のモータの回転数変化およびパワートランジスタの温度変化を示す図である。
【図5】パワートランジスタの温度に応じてモータの加速レートを制御する場合の処理の流れの例を示す図である。
【図6】(a)はパワートランジスタの温度とモータの加速レートとの関係を示す図、(b)は図5の手法でモータを起動させた場合のモータの回転数変化およびパワートランジスタの温度変化を示す図である。
【図7】従来の手法でモータを起動させた場合のモータの回転数変化およびパワートランジスタの温度変化を示す図である。
【符号の説明】
【0023】
10…電動圧縮機、11…圧縮機本体、12…モータ、13…制御基板、15…制御装置、20…パワートランジスタ、30…起動制御部、40…温度センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気調和機を構成する圧縮機をモータで駆動する電動圧縮機の制御装置であって、
前記モータを起動させて目標回転数まで上昇させるときに前記制御装置で実行される処理は、
前記制御装置に備えられたパワートランジスタの温度を検出する処理と、
予め定められた相関に基づき、検出された前記パワートランジスタの温度に対応した前記モータの回転数または前記モータの回転数を増加させるときの加速レートを決定する処理と、
決定された前記回転数または前記加速レートで前記モータを駆動する処理と、
を含むことを特徴とする電動圧縮機の制御装置。
【請求項2】
前記パワートランジスタの温度を検出する処理を、間隔を隔てて繰り返し実行し、新たに検出された前記パワートランジスタの温度に応じて前記モータの前記回転数または前記加速レートを更新することを特徴とする請求項1に記載の電動圧縮機の制御装置。
【請求項3】
前記パワートランジスタは、前記モータの起動により前記電動圧縮機内で冷媒が流動することで冷却されることを特徴とする請求項1または2に記載の電動圧縮機の制御装置。
【請求項4】
空気調和機を構成する圧縮機をモータで駆動する電動圧縮機の起動制御方法であって、
前記モータを起動させて目標回転数まで上昇させるときに、前記制御装置に備えられたパワートランジスタの温度を検出するステップと、
予め定められた相関に基づき、検出された前記パワートランジスタの温度に対応した前記モータの回転数または前記モータの回転数を増加させるときの加速レートを決定するステップと、
決定された前記回転数または前記加速レートで前記モータを駆動するステップと、
を含むことを特徴とする電動圧縮機の起動制御方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate