説明

電動圧縮機の配置構造

【課題】走行系通電部位からの漏電が発生するおそれのない車両の衝突時に、電動圧縮機の損傷を原因とする漏電を防止することができる電動圧縮機の配置構造を提供する。
【解決手段】走行用電動モータ16が車両内のモータルーム12に設置され、流体を圧縮する圧縮機構と、圧縮機構を駆動する圧縮機用電動モータが一体化された電動圧縮機25をモータルーム12に配置する電動圧縮機25の配置構造である。走行用電動モータ16の駆動電力を制御するPCU17が、走行用電動モータ16上に設けられ、電動圧縮機25がPCU17に設けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電気自動車やハイブリッド自動車に搭載される電動圧縮機の配置構造に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、内燃機関であるエンジンを走行駆動源とする自動車では、空調装置の一部を構成する圧縮機が車両に設けたエンジンルームに配置されている。
ベルト及びプーリー等の動力伝達手段を介してエンジンの動力により機械的に駆動される圧縮機の場合、圧縮機はエンジンに直に取り付けられることが多い。
一方、電動モータにより駆動される電動圧縮機が空調装置の一部としてハイブリッド自動車や電気自動車に搭載されている場合がある。
電動圧縮機は、流体を圧縮する圧縮機構と、圧縮機構を駆動する電動モータが一体化された圧縮機である。
【0003】
ハイブリッド自動車では、内燃機関としてのエンジン及び電動モータを走行駆動源とし、エンジン及び電動モータがモータルームに配置されている。
ハイブリッド自動車では、電動圧縮機をエンジンに直に固定した電動圧縮機の配置構造が採用されている場合がある。
この場合では、モータルームにおいてフレームやボディの一部を構成するサイドメンバに接近した位置に電動圧縮機が配置されている。
【0004】
さらに、電気自動車では、走行駆動源としての走行用電動モータがモータルームに配置されている。
電気自動車の場合、電動圧縮機を走行用電動モータの前部あるいは側部に固定した電動圧縮機の配置構造が採用されている場合がある。
この場合もモータルームにおいてフレームやサイドメンバに接近した位置に電動圧縮機が配置されている。
【0005】
一方、特許文献1には、流体を圧縮する圧縮機構と、圧縮機構を駆動する電動モータが一体化されたスクロール型の電動圧縮機が記載されている。
この電動圧縮機は、エンジンルーム内に設置された駆動源としてのエンジンに直に取り付けられている。
エンジンにはオルタネータが機械的に接続されており、電動圧縮機はオルタネータにより発電された電力の供給を受けて駆動される。
特許文献1には、電動圧縮機をエンジンルームの進行方向寄りに配置する電動圧縮機の配置構造が示されている。
この電動圧縮機は車両のフレームやサイドメンバに近い位置に配置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−339865号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の電動圧縮機の配置構造では、車両が地上の固定物や他車両と衝突した場合、車両のフレームやサイドメンバに近い位置に配置された電動圧縮機は、エンジンルーム内の中央付近に配置される機器と比較すると、衝突時に損傷する可能性が高い。
車両の衝突時には電動圧縮機の損傷を原因とする漏電が生じるおそれがある。
そこで、電動圧縮機の保護として、電動圧縮機のハウジングの強度高めたり、電動圧縮機を保護する保護材を設置したりすることも考えられるが、この種の対策は製作コスト上昇や、設置スペースの拡大、あるいは部品点数の増大を招く。
【0008】
因みに、ハイブリッド自動車や電気自動車では、車両が衝突すると、衝突の程度によっては、バッテリーから走行用電動モータへ供給される電力を遮断する電力供給遮断システムが搭載されている場合がある。
このシステムは、衝突の有無を検知する加速度センサが備えられている。
加速度センサが予め設定した所定値以上の検出値を検出すると、車載コンピュータは走行用電動モータあるいは走行用電動モータを制御する電力制御部といった走行系通電部位からの漏電が発生するおそれのある衝突が発生したと判断する。
そして、車載コンピュータはバッテリーから走行用電動モータへの電力供給を遮断する。
このような電力供給遮断システムを電動圧縮機に適用することも考えられるが、電動圧縮機専用の電力供給遮断システムを設けると製作コスト上昇を招く。
また、走行用電動モータと電動圧縮機とを併用する電力供給遮断システムとすると、走行系通電部位からの漏電が発生するおそれのない衝突であっても、走行用電動モータへの電力供給が遮断されてしまうという不都合が生じる。
【0009】
本発明の目的は、上記の問題点に鑑みてなされたもので、走行系通電部位からの漏電が発生するおそれのない車両の衝突時に、電動圧縮機の損傷を原因とする漏電を防止することができる電動圧縮機の配置構造の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、走行用電動モータが車両内のモータルームに走行駆動源の一つとして設置され、流体を圧縮する圧縮機構と、前記圧縮機構を駆動する圧縮機用電動モータが一体化された電動圧縮機を前記モータルームに配置する電動圧縮機の配置構造において、前記走行用電動モータの駆動電力を制御する電力制御部が、前記走行用電動モータ上に設けられ、前記電動圧縮機が前記電力制御部に設けられていることを特徴とする。
なお、電力制御部が走行用電動モータ上に設けられるとは、電力制御部が走行用電動モータの上部に直接設けられる場合と、走行用電動モータの上方の他部材に設けられる場合が含まれる。
【0011】
本発明では、電力制御部は電動圧縮機の電力と比較して大電力を扱う部位であり、電力制御部は、モータルームにおいて、従来の電動圧縮機が設置されていた位置よりも車両衝突時において損傷し難い位置に設定されている。
また、電力制御部は、電動圧縮機の電力と比較して大電力を扱う部位であることから、電力制御部の強度は、電動圧縮機の強度よりも大きく設定されている。
その結果、電力制御部に備えられる電動圧縮機は、走行系通電部位からの漏電が発生するおそれのない車両の衝突時において、従来と比較して損傷し難くなり、電動圧縮機の損傷を原因とする漏電を防止することができる。
【0012】
また、本発明では、上記の電動圧縮機の配置構造において、前記電力制御部は、電子部品を有する制御部本体と、前記制御部本体を覆う筐体とを備え、前記電動圧縮機が前記筐体の外壁部に設けられていてもよい。
【0013】
この場合、筐体の外壁部に電動圧縮機の取り付け部を設けるだけで電動圧縮機を筐体の外壁部に取り付けることができるため、筐体の外壁部と電動圧縮機との取り付け構造が簡素になる。
【0014】
また、本発明では、上記の電動圧縮機の配置構造において、前記電力制御部は、電子部品を有する制御部本体と、前記制御部本体を覆う筐体とを備え、前記電動圧縮機が前記筐体の内壁部に設けられていてもよい。
【0015】
この場合、電動圧縮機は制御部本体と同様に筐体により保護される。
電動圧縮機は、走行系通電部位からの漏電が発生するおそれのない車両の衝突時に筐体外に存在する部材の干渉を受けることはなく、筐体の外壁部に電動圧縮機を設ける場合と比較して、電動圧縮機の損傷をより確実に防止することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、走行系通電部位からの漏電が発生するおそれのない車両の衝突時に、電動圧縮機の損傷を原因とする漏電を防止することができる電動圧縮機の配置構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】第1の実施形態に係る電動圧縮機の配置構造を示す概略平面図である。
【図2】第1の実施形態に係る電動圧縮機の配置構造を示す概略側面図である。
【図3】第1の実施形態に係る電動圧縮機の縦断面図である。
【図4】第2の実施形態に係る電動圧縮機の配置構造を示す概略側面図である。
【図5】別例に係る電動圧縮機の配置構造を示す概略平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(第1の実施形態)
以下、第1の実施形態に電動圧縮機の配置構造について図面を参照して説明する。
本実施形態は、本発明に係る電動圧縮機の配置構造を適用したハイブリッド自動車について説明する。
図1に示すハイブリッド自動車10では、車両中央付近に客室11が設けられ、客室11の前方にモータルーム12が形成されている。
車両内のモータルーム12は、車両を構成するフレーム(図示せず)やボディの一部であるサイドメンバ(図示せず)により区画形成される空間部である。
【0019】
モータルーム12には、走行駆動源としてのエンジン14と、発電機としてのモータジェネレータ15と、別の走行駆動源としての走行用電動モータ16とを備えている。
エンジン14、モータジェネレータ15及び走行用電動モータ16は、一体化されたパワーユニット13として、モータルーム12において横置きにより設置されている。
【0020】
エンジン14は内燃機関によるガソリンエンジンであり、この実施形態では、モータルーム12において進行方向右側に配置されている。
エンジン14の駆動により得られた動力は動力伝達機構(図示せず)を介して車輪(図示せず)に伝達される。
【0021】
モータジェネレータ15はエンジン14と接続されており、モータジェネレータ15はエンジン14の駆動により駆動されて発電する。
モータジェネレータ15により得られた電力は二次電池であるバッテリー(図示せず)に蓄電されたり、走行用電動モータ16の駆動に用いられたり、あるいは他機器の駆動のために用いられる。
走行用電動モータ16は、この実施形態では、モータルーム12において進行方向左側に配置されている。
走行用電動モータ16は、バッテリーの電力やモータジェネレータ15に得られた電力により駆動される電動モータであり、走行用電動モータ16の回転力は、動力伝達機構(図示せず)を介して車輪へ伝達される。
【0022】
走行用電動モータ16上には、駆動電力を制御する電力制御部としてのパワー・コントロール・ユニット(以後「PCU」と表記する)17が備えられている。
PCU17は、半導体や基板等の電子部品から構成される制御部本体としてのPCU本体と、PCU本体を内蔵する筐体としてのPCUケース18を備えている。
PCU本体は、主に、バッテリーの直流電力から交流電力へ変換制御するインバータ19と、バッテリー電圧を昇圧させるバッテリー電圧昇圧回路20と、電力変換時における電圧変動を低減する電圧平滑用のコンデンサ(キャパシタ)21により構成されている。
インバータ19は、IGBT等の複数のスイッチング素子等から構成されている。
PCU本体は、走行用電動モータ16のステータ(図示せず)と接続される電力ケーブル(図示せず)と、バッテリーと接続される電力ケーブル(図示せず)と連結されている。
【0023】
PCUケース18は、アルミ系材料により形成された蓋付きの箱体であり、走行用電動モータ16の上部の後方寄りに位置するように、PCUケース18は、車両のフレーム及び走行用電動モータ16に対して固定されている。
モータルーム12におけるPCUケース18の設置位置は、車両前部が損傷する衝突時に、モータルーム12の前部右寄りの位置と比較して、PCU17が損傷する可能性が小さい位置に相当する。
なお、車両前部が損傷する衝突とは、フルラップ前面衝突、オフセット前面衝突のほか、車両前部に対する斜め方向からの衝突(「斜突」と称される場合もある)、車両前部に対する側面衝突を含む。
PCUケース18内に内蔵されているPCU本体は、PCUケース18により覆われているため外部から隔絶されて保護されている。
PCUケース18の強度は、車両の衝突試験に基づいて設定されている。
図1及び図2に示すように、PCUケース18の外壁部後面18Aには、電動圧縮機25が固定される取付座22が形成されており、取付座22には螺子孔(図示せず)が形成されている。
【0024】
モータルーム12には、パワーユニット13の他に、空調装置が配置されている。
空調装置は、電動圧縮機25と、凝縮器としてのコンデンサ26と、レシーバ27と、膨張弁及びエバポレータを備えたクーリングユニット28と、これらの機器25〜28を接続する配管(図示せず)とから構成されている。
電動圧縮機25により圧縮された高温高圧の冷媒は、吐出側の配管を通じてコンデンサ26を通り、レシーバ27へ送られる。
コンデンサ26及びレシーバ27において液化した冷媒(液冷媒)は、クーリングユニット28の膨張弁により膨張され、膨張された冷媒はエパボレータにおいて空調空気との熱交換を行う。
空調空気は冷媒との熱交換により熱を奪われ、熱交換後に飽和蒸気圧となった冷媒は吸入側の配管を通じて電動圧縮機25へ送られる。
電動圧縮機25は送られた冷媒を再び圧縮する。
このように、空調装置を構成する各機器25〜28と、各機器25〜28を接続する冷媒の配管により冷媒が循環する冷媒回路が構成される。
【0025】
この実施形態に係る電動圧縮機25は公知の電動圧縮機であり、具体的にはスクロール型の電動圧縮機である。
電動圧縮機25は、図3に示すように、流体としての冷媒を圧縮する圧縮機構36と、圧縮機構36を駆動する圧縮機用電動モータ45が一体化された圧縮機である。
電動圧縮機25のハウジング30はアルミ系金属材料により形成されている。
ハウジング30には、複数のボス部31、32、33が形成されている。
このボス部31にはボス孔31Aが形成され、ボス孔31Aには、電動圧縮機25の設置先への取り付けに用いる固定用のボルト(図示せず)が挿通される。
他のボス部32、33にも対応するボス孔32A、33Aが形成されている。
この実施形態では、PCUケース18の外壁部後面18Aの取付座22に電動圧縮機25が固定される。
【0026】
電動圧縮機25のハウジング30内には、圧縮機構36と、圧縮機用電動モータ45が備えられている。
ハウジング30の圧縮機用電動モータ45側には吸入口34が形成されており、吸入口34を低圧の冷媒が通過する。
ハウジング30の圧縮機構36側には吐出口35が形成されており、吐出口35を圧縮された高圧の冷媒が通過する。
圧縮機構36は、ハウジング30内に固定された固定スクロール37と、固定スクロール37に対して旋回する可動スクロール38を備えている。
固定スクロール37と可動スクロール38との間には圧縮室39が形成されている。
【0027】
ハウジング30内における圧縮機用電動モータ45と可動スクロール38との間には、軸支部材40が設けられている。
軸支部材40は、圧縮機構36の一部を構成し、回転軸47の一方の端部を軸支する。
回転軸47の他方の端部は、ハウジング30に軸支されている。
軸支部材40には圧縮室39と連通する吸入ポート41が形成されており、吸入口34からハウジング30内に取り込まれた冷媒は、吸入ポート41を通じて圧縮室39へ導入される。
【0028】
可動スクロール38は、圧縮機用電動モータ45の回転軸47に設けられた偏心軸48に軸受44を介して設けられている。
回転軸47の回転により可動スクロール38が旋回し、可動スクロール38の旋回により圧縮室39の容積が増減される。
圧縮室39の容積増大により冷媒が圧縮室39へ導入され、圧縮室39の容積減少により圧縮室39の冷媒は圧縮される。
固定スクロール37の中心に吐出ポート42が形成されており、吐出ポート42を開閉する吐出弁43が備えられている。
圧縮された冷媒ガスは、吐出ポート42を通じて吐出口35から冷媒回路へ吐出される。
【0029】
圧縮機用電動モータ45は、三相交流電力により駆動されるモータである。
圧縮機用電動モータ45は、ハウジング30内に固定されたステータ46と、回転軸47に備えられたロータ49を備えている。
圧縮機用電動モータ45は、ハウジング30に設けられた圧縮機用電動モータ制御部50による制御を受けて駆動される。
圧縮機用電動モータ制御部50は、ハウジング30と一体的に形成された制御部ケース51と、制御部ケース51内に設置されたインバータ52と、平滑用コンデンサ53を備えている。
【0030】
制御部ケース51は、インバータ52及び平滑用コンデンサ53を保護するケースであり、ハウジング30と同じアルミ系材料により形成されている。
インバータ52は、配線(図示せず)によりPCU17と接続されており、PCU18から電動圧縮機25の駆動に必要な電力の供給を受ける。
インバータ52は、PCU17から供給される直流電力を交流電力に変換する。
インバータ52は、ステータ46と接続されており、ステータ46への通電によりロータ49が回転される。
インバータ52は、複数のIGBT等のスイッチング素子により構成されている。
平滑用コンデンサ53は、電力変換時における電圧変動を低減するコンデンサであり電解コンデンサが用いられている。
【0031】
なお、この実施形態の車両には、車両の衝突時の加速度を検知する加速度センサ(図示せず)と、加速度センサの検出値が予め設定した所定値以上である場合に衝突が発生したと判断する車載コンピュータ(図示せず)とを備えている。
加速度センサの検出値が所定値以上の場合、走行用電動モータ16やPCU17といった走行系通電部位からの漏電のおそれがある衝突として、車載コンピュータはバッテリーから走行用電動モータ16への電力供給を遮断する。
【0032】
次に、この実施形態に係る電動圧縮機25の配置構造の作用について説明する。
この実施形態では、電動圧縮機25がPCUケース18の外壁部後面18Aに固定される電動圧縮機の配置構造が採用されている。
例えば、車両が地上設置物や他車に衝突すると、車両前部のモータルーム12付近が損傷する場合がある。
車両前部のモータルーム12付近が損傷する車両の衝突のうち、走行系通電部位からの漏電のおそれがある衝突の場合には、衝突時に加速度センサの検出値が所定値以上となり、車載コンピュータはバッテリーから走行用電動モータ16への電力供給を遮断する。
バッテリーと走行用電動モータ16からの電力供給が遮断されるとともに、電動圧縮機25への電力供給も遮断される。
この場合、走行用電動モータ16や電動圧縮機25の損傷による漏電は回避される。
【0033】
一方、走行系通電部位からの漏電のおそれのない衝突では、加速度センサの検出値は所定値未満である。
この場合、モータルーム12の衝突部分付近は損傷するものの、走行系通電部位の漏電に繋がる損傷は発生しない。
特に、バッテリーからの電力供給を受けるPCU17では、PCU本体がPCUケース18内に設置されており、PCU本体は衝突時において外部の部材と干渉するおそれはない。
また、PCUケース18は、モータルーム12において後方寄りでボディのサイドメンバから離れた位置に設置されているから、フレームの前部やサイドメンバがPCUケース18と干渉する可能性は低い。
【0034】
電動圧縮機25は、漏電のおそれのない走行用電動モータ16のPCUケース18の外壁部後面18Aに備えられている。
PCU17は、電動圧縮機25の電力と比較して大電力を扱う部位であることから、PCU17の強度は、電動圧縮機25の強度よりも大きく設定されている 。
また、電動圧縮機25は、PCUケース18と同様に、モータルーム12において後方寄りでボディのサイドメンバから離れた位置に設置されているから、衝突時にはフレームの前部やサイドメンバが衝突時の衝撃の一部を吸収する。
このため、PCUケース18に伝わる衝撃は軽減され、PCUケース18が他部材と干渉する可能性は低い。
その結果、走行系通電部位からの漏電のおそれのない衝突では、電動圧縮機25が損傷を受ける可能性は殆どなく、電動圧縮機25の損傷による漏電は回避される。
【0035】
この実施形態は以下の効果を奏する。
(1)PCU17は、モータルーム12において、従来の電動圧縮機が設置されていた位置よりも車両衝突時において損傷し難い位置に設定されている。また、PCU17は、電動圧縮機25の電力と比較して大電力を扱う部位であることから、PCU17の強度は、電動圧縮機25の強度よりも大きく設定されている。その結果、PCU17に備えられる電動圧縮機25は、走行系通電部位からの漏電のおそれのない車両衝突時において、従来と比較して損傷し難くなり、電動圧縮機25の損傷を原因とする漏電を防止することができる。
(2)電動圧縮機25が、PCU本体を保護するPCUケース18の外壁部後面18Aに設けられる。従って、PCUケース18の外壁部に取付座22を設けるだけで電動圧縮機25をPCUケース18の外壁部に設けることができ、筐体の外壁部後面18Aと電動圧縮機25との取り付け構造が簡素になる。
(3)電動圧縮機25が、PCU本体を保護するPCUケース18の外壁部後面18Aに設けられることにより、電動圧縮機25は、PCUケース18により保護されるPCU本体と同様に、PCUケース18の強度に応じて保護される。PCUケース18が損傷しない状態では、電動圧縮機25が損傷する可能性は少ない。
【0036】
(4)電動圧縮機25がPCUケース18の外壁部後面18Aに備えられているから、電動圧縮機25は、車両前部が損傷する衝突に対して損傷し難い。また、PCUケース18に取付座22及びボルト孔を形成するだけであるから、PCUケースの内部に電動圧縮機25を設ける場合と比較すると、PCUケースの形状を大幅に変更することなく、電動圧縮機25をPCUケース18に配置することができる。
(5)PCUケース18に電動圧縮機25が備えられる場合、電動圧縮機25がエンジン14に設置されている場合と比較して、電動圧縮機25はエンジン14の振動や熱の影響を受け難い。電動圧縮機25への振動対策や熱対策が軽減できるから、例えば、電動圧縮機25の軽量化や小型化も可能となる。また、電動圧縮機25とPCU17を接続する配線の短縮化を図ることができる。
(6)PCUケース18の外壁部後面18Aに電動圧縮機25が設けられる場合、電動圧縮機25に接続される冷媒配管の取り回しの自由度は高い。低温の冷媒が流れる配管をPCUケース18に接触させたり、電動圧縮機25のハウジング30をPCUケース18に直に接触させて取り付けたりすることにより、PCUケース18の冷却を促進することができる。
【0037】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態に係る電動圧縮機の配置構造について説明する。
第2の実施形態に係る電動圧縮機の配置構造では、電動圧縮機がPCUケースの内部に設置される。
従って、第2の実施形態と第1の実施形態との相違はPCUの相違だけであるから、共通する構成については、上記の実施形態の説明を援用してその説明を省略し、先の説明で用いた符号を共通して用いる。
【0038】
図4に示すように、PCU60は、半導体や基板等の電子部品から構成される制御部本体としてのPCU本体と、PCU本体を内蔵する筐体としてのPCUケース61を備えている。
PCU本体は、主に、バッテリーの直流電力から交流電力へ変換制御するインバータ62と、バッテリー電圧を昇圧させるバッテリー電圧昇圧回路63と、電圧平滑用のコンデンサ(キャパシタ)64により構成されている。
インバータ62は、IGBT等の複数のスイッチング素子等から構成されている。
PCU本体は、走行用電動モータ16のステータと接続される電力ケーブル(図示せず)と、バッテリーと接続される電力ケーブル(図示せず)と連結されている。
【0039】
PCUケース61は、アルミ系材料により形成された蓋付きの箱体であり、走行用電動モータ16の上部の後方寄りに位置するように、PCUケース61はフレーム及び走行用電動モータ16に固定されている。
この実施形態のPCUケース61はPCU本体の他に、電動圧縮機25を内蔵することができる容積を持つ内部空間を備えている。
PCUケース61の内壁部後面61Aには、PCU本体の取付座(図示せず)の他に、電動圧縮機25を設置するための取付座65が形成されている。
取付座65には螺子孔(図示せず)が形成されており、電動圧縮機25のボス部31〜33を挿通した固定用のボルトが螺子孔に螺入される。
電動圧縮機25は、固定用のボルトによりPCUケース61の内壁部後面61Aに固定される。
この実施形態では、PCUケース61の内壁部後面61Aに電動圧縮機25を設けるようにしたが、PCUケース61の内壁部であれば、前面、右面、左面、底面、天井面に設けてもよい。
なお、図示はしないが、PCUケース61には、吸入及び吐出のための冷媒用の配管を通す通孔が形成されている。
【0040】
この実施形態の電動圧縮機の配置構造によれば、電動圧縮機25がPCUケース61に内蔵されているから、電動圧縮機25の強度を向上させることなく、PCUケース61の強度を向上することで電動圧縮機25を保護することができる。
また、PCUケース61内にPCU本体と電動圧縮機25を内蔵させることで、インバータ62やコンデンサ64をPCUケース61により保護すれば、電動圧縮機25から制御部ケース51を省くことも可能となる。
【0041】
なお、上記の第1、第2の実施形態に係る電動圧縮機の配置構造は、本発明の一実施形態を示すものであり、本発明は、第1、第2の実施形態に限定されるものではなく、下記のように発明の趣旨の範囲内で種々の変更が可能である。
○ 上記の第1、第2の実施形態では、ハイブリッド自動車の例について説明したが、電気自動車に本発明を適用することも可能である。電気自動車の場合、図5に示すように、電気自動車70の客室71の前方に、モータルーム72に走行用電動モータ73が設置される。走行用電動モータ73には後方寄りに電力制御部としてのPCU74が設けられる。PCU74は、筐体としてのPCUケース75とPCUケース75内に設置されるPCU本体(インバータ、バッテリー電圧昇圧回路、平滑用コンデンサ等)を備える。PCUケース75の外壁部後面75Aに電動圧縮機25が設けられる。この場合、ハイブリッド自動車と同様に電動圧縮機25が従来よりも損傷し難くなる。なお、PCUケース75の外壁部に電動圧縮機25を設けるだけでなく、電動圧縮機25はPCUケース75内に設けてもよい。
○ 上記の第1、第2の実施形態では、走行用電動モータのコンデンサと電動圧縮機のコンデンサを夫々別に設けたが、コンデンサに係る回路を共通とし、コンデンサを共用化するようにしてもよい。この場合、コンデンサの設置スペースの低減や、配線の省略化・短縮化が可能となる。
○ 上記の第1、第2の実施形態では、電動圧縮機としてスクロール型の電動圧縮機について説明したが、電動圧縮機であれば圧縮機の種類や形式は限定されない。例えば、斜板式の電動圧縮機や、ベーン式の電動圧縮機でもよい。
○ 上記の第1の実施形態では、電動圧縮機をPCUケースの外壁部後面に設けるとしたが、モータジェネレータ側となる外壁部右面に電動圧縮機を設けるようにしてもよい。この場合も電動圧縮機をPCUケースの外壁部後面に設ける場合とほぼ同等の効果を得ることができる。電動圧縮機をPCUケースの外壁部に設ける場合、車両の衝突時に電動圧縮機が損傷し難い外壁部に設けることが好ましい。外壁部前面又は、車両のフレーム及びサイドメンバに近い側の外壁部側面以外の部分が、電動圧縮機が損傷し難い外壁部である。
【符号の説明】
【0042】
10 ハイブリッド自動車
12、70 モータルーム
13 パワーユニット
14 エンジン
15 モータジェネレータ
16、73 走行用電動モータ
17、60、74 PCU
18、61、75 PCUケース
18A、75A 外壁部後面
19 インバータ
20 バッテリー電圧昇圧回路
21 コンデンサ
25 電動圧縮機
31 ボス部
32 ボス部
33 ボス部
36 圧縮機構
45 圧縮機用電動モータ
61A 内壁部後面
62 インバータ
70 電気自動車

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行用電動モータが車両内のモータルームに走行駆動源の一つとして設置され、
流体を圧縮する圧縮機構と、前記圧縮機構を駆動する圧縮機用電動モータが一体化された電動圧縮機を前記モータルームに配置する電動圧縮機の配置構造において、
前記走行用電動モータの駆動電力を制御する電力制御部が、前記走行用電動モータ上に設けられ、
前記電動圧縮機が前記電力制御部に設けられていることを特徴とする電動圧縮機の配置構造。
【請求項2】
前記電力制御部は、電子部品を有する制御部本体と、前記制御部本体を覆う筐体とを備え、
前記電動圧縮機が前記筐体の外壁部に設けられていることを特徴とする請求項1記載の電動圧縮機の配置構造。
【請求項3】
前記電力制御部は、電子部品を有する制御部本体と、前記制御部本体を覆う筐体とを備え、
前記電動圧縮機が前記筐体の内壁部に設けられていることを特徴とする請求項1記載の電動圧縮機の配置構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−158991(P2010−158991A)
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−2775(P2009−2775)
【出願日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【Fターム(参考)】