説明

電動工具

【課題】 トルク伝達装置を有する電動工具において、耐久性の向上に資する技術を提供する。
【解決手段】 トルク伝達装置151を有する電動工具であって、トルク伝達装置151は、第1回転部材153と第2回転部材155の対向面の一方において回転軸方向に突出状に形成された突部171と、他方において回転軸方向に凹状に形成され、突部171を受容する凹部161と、突部171に形成された突部側係合面175aと、凹部161に形成された凹部側係合面165aと、を有し、突部側と凹部側の係合面175a,165aが互いに係合されることでトルクの伝達を行い、係合が解除されることでトルクの伝達を遮断する構成とされ、突部側と凹部側の係合面175a,165aは、第1及び第2の回転部材153,155の法線Pに対して所定の角度βだけ傾斜させて形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入力軸と出力軸との間でトルクの伝達及び遮断を行うトルク伝達装置、特に突部と凹部の噛み合い係合によりトルク伝達を行なう機械式のトルク伝達装置を有する電動工具に関する。
【背景技術】
【0002】
トルクの伝達中において、何らかの原因によって生じた過大トルクから機械を保護するトルクリミッタ(過負荷保護装置)として備えられるトルク伝達装置、特に突部と凹部の噛み合い係合によってトルク伝達を行なう機械式のトルク伝達装置は、例えば特開昭51−111550号公報(特許文献1)に記載されている。
上記公報に記載のトルク伝達装置は、同一軸線上に配置される駆動側クラッチ円板と被動側クラッチ円板の一方のクラッチ面(係合面)に設けた突部と、他方のクラッチ面に設けた凹部が互いに噛み合い係合することでトルクを伝達し、噛み合い係合を解除することでトルク伝達を遮断する構成である。そして、突部と凹部にトルク伝達面として形成される突部側係合面及び凹部側係合面は、回転軸方向においては所定の角度で傾斜するとともに、径方向においてはクラッチ円板の法線上を直線状に延びている。
【0003】
トルクリミッタの突部と凹部は、最大伝達力を規定するバネ力で互いに噛み合い係合しており、過大トルクが生じたときには、突部側係合面と凹部側係合面(回転軸方向の傾斜面)間に作用する軸方向の力で突部と凹部がバネ力に抗して軸方向に相対的にすべり動作し、噛み合い係合を解除する構成である。特に、トルクリミッタとして用いられる場合、係合面の噛み合い係合の解除動作が大きな負荷を受けつつ行われるため、摩耗し易いものであり、この点でなお改良の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭51−111550号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、かかる点に鑑み、トルク伝達装置を有する電動工具において、耐久性の向上に資する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を達成するため、本発明に係る電動工具の好ましい形態は、同軸上に対向して配置される第1回転部材と第2回転部材との間でトルクの伝達及び遮断を行うトルク伝達装置を有する。トルク伝達装置は、第1回転部材と第2回転部材の対向面の一方において回転軸方向に突出状に形成された突部と、他方において回転軸方向に凹状に形成され、突部を受容する凹部と、突部のトルク伝達方向側面に形成された突部側係合面と、凹部のトルク伝達方向側面に形成された凹部側係合面と、を有し、第1回転部材と第2回転部材との互いに接近する方向への相対移動により突部側と凹部側の係合面が互いに係合されることでトルクの伝達を行い、第1回転部材と第2回転部材との互いに離間する方向への相対移動により前記係合が解除されることでトルクの伝達を遮断する構成とされる。そして突部側と凹部側の係合面は、第1および第2の回転部材の法線に対して所定の角度だけ傾斜させて形成されている。なお、本発明における「係合面を傾斜させる」態様としては、突部が回転部材の回転軸側から外径側へと延びている構成において、係合面が、突部の延在方向の外径側、すなわち先端にいくほどトルク伝達方向前方に向かうように傾斜する態様、及びそれとは逆に先端にいくほどトルク伝達方向後方に向かうように傾斜する態様の、いずれも好適に包含する。
【0007】
本発明の好ましい形態によれば、突部側と凹部側の係合面が互いに係合することでトルク伝達を行い、前記係合が解除されることでトルク伝達を遮断する機械式のトルク伝達装置において、突部側と凹部側の係合面を、回転部材の法線に対して所定の角度だけ傾斜させた構成としている。換言すれば、突部の内径側端部と外径側端部とを結ぶ稜線(直線)を回転部材の法線に対して所定の角度だけ傾斜させた構成としている。このように構成したことにより、当該係合面が法線上を直線状に延在している従来に比して、突部側と凹部側の係合面相互の接触面積を増大することができる。このため、係合面の単位面圧を軽減し、耐久性を向上できる。
【0008】
本発明に係る電動工具の更なる形態によれば、凹部側をトルク伝達側とした場合、突部側と凹部側の係合面は、先端にいくほどトルク伝達方向前方に向かうように傾斜されている。ここで「先端」とは、外径側をいう。本発明によれば、回転部材の軸方向視において、突部及び凹部が、径方向の延在方向において先端側(外径側)にいくほど細くなる形状に形成されるため、型を用いて成形する場合の型抜きが容易となり、製作し易い。
【0009】
本発明に係る電動工具の更なる形態によれば、突部側の係合面は、回転部材に近接する側(基部側)の稜線または離間した側(頂面側)の稜線を基準とするリード面として形成されている。本発明によれば、突部側係合面と凹部側係合面が係合状態から係合を解除するまでの間、係合面同士の面接触状態を常時に維持することができる。
【0010】
本発明に係る電動工具の更なる形態によれば、トルク伝達装置は、第2回転部材に規定値を超えるトルクが作用したときに、第1回転部材から第2回転部材へのトルク伝達を遮断するトルクリミッタとして備えられている。トルクリミッタは、加工作業中に生ずる過大トルクから電動工具を保護する過負荷保護装置として備えられ、係合面の係合の解除動作は、大きな負荷を受けつつ行われる。従って、本発明によれば、このような過酷な状態で使用されるトルクリミッタに適用することによって、より有効性を向上できる。
【0011】
本発明に係る電動工具の更なる形態によれば、凹部を有する回転部材がトルクを伝達する駆動側部材として設定され、突部を有する回転部材がトルクを受ける被動側部材として設定されている。そして駆動側部材は外周にギアを一体に有する。本発明によれば、外周にギアを一体に備えた回転部材を駆動側部材として設定し、これに凹部を設ける構成のため、当該駆動側部材に突部を設ける構成と比べて、ギア部を製作する際に突部が邪魔にならず、作り易い。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、トルク伝達装置を有する電動工具において、トルク伝達装置の耐久性の向上に資する技術が提供されることとなった。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態に係るハンマドリルの全体構成を示す側断面図である。
【図2】ハンマドリルの要部拡大図である。
【図3】トルクリミッタの駆動側フランジを示す斜視図である。
【図4】トルクリミッタの駆動側フランジを示す平面図である。
【図5】図4のA−A線断面図である。
【図6】図4のB−B線断面図である。
【図7】トルクリミッタの被動側フランジを示す斜視図である。
【図8】トルクリミッタの被動側フランジを示す平面図である。
【図9】トルクリミッタの被動側フランジを示す底面図である。
【図10】図8のC−C線断面図である。
【図11】図8のD−D線断面図である。
【図12】駆動側フランジと被動側フランジ間のトルク伝達状態を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態につき、図1〜図12を参照しつつ詳細に説明する。本実施の形態は、電動工具の一例として電動式のハンマドリルを用いて説明する。本実施形態のハンマドリル101は、図1に示すように、概括的に見て、ハンマドリル101の外郭を形成する本体部103、当該本体部103のうちハンマドリル101の長軸方向に関する一端部(図1中左側)にツールホルダ137を介して着脱自在に取付けられた長尺状のハンマビット119と、本体部103の長軸方向の他端部(ハンマビット119の反対側)に連接された作業者が握るハンドグリップ109とを主体として構成される。本体部103は工具本体を構成する部材として備えられる。工具ビットとしてのハンマビット119は、ツールホルダ137に対し、その長軸方向(本体部103の長軸方向)への相対的な往復動が可能に、かつその周方向への相対的な回動が規制された状態で保持される部材として構成される。
【0015】
本体部103は、駆動モータ111を収容したモータハウジング105と、運動変換部113、動力伝達部117及び打撃要素115を収容したギアハウジング107とを主体として構成される。駆動モータ111は、ハンドグリップ109に配置された操作部材としてのトリガ109aを作業者が引き操作することによって通電駆動される。なお、本実施の形態では、説明の便宜上、ハンマビット119側を前あるいは工具前端側といい、ハンドグリップ109側を後あるいは工具後端側という。
【0016】
図2に運動変換部113、打撃要素115及び動力伝達部117が拡大断面図として示される。駆動モータ111の回転出力は、運動変換機構113によって直線運動に適宜変換された上で打撃要素115に伝達され、当該打撃要素115を介してハンマビット119の軸方向(図1における左右方向)への衝撃力を発生する。また駆動モータ111の回転出力は、動力伝達部117によって適宜減速された上でハンマビット119に回転力として伝達され、当該ハンマビット119が周方向に回転動作される。
【0017】
運動変換機構113は、ハンマビット119の長軸方向に延在する駆動モータ111のモータ出力軸112に設けられて鉛直面内にて回転駆動される駆動ギア121、当該駆動ギア121に噛み合い係合する被動ギア123、当該被動ギア123と中間軸125を介して一体回転する回転体127、回転体127の回転によってハンマビット119の軸方向に揺動される揺動リング129、揺動リング129の揺動によってシリンダ141内を直線状に往復移動する有底筒状の筒状ピストン130を主体として構成される。
【0018】
中間軸125はハンマビット119の軸方向に平行(水平)に配置され、当該中間軸125に取り付けられた回転体127の外周面が中間軸125の軸線に対し所定の傾斜角度で傾斜状に形成されている。揺動リング129は、回転体127の傾斜外周面に軸受126を介して相対回転可能に取り付けられ、当該回転体127の回転動作に伴ってハンマビット119の長軸方向に揺動される揺動部材として構成される。揺動リング129は、ハンマビット119の長軸方向と交差する方向の上方(放射方向)に一体に突設された揺動ロッド128を有し、当該揺動ロッド128が駆動子としての筒状ピストン130と筒状体124を介して相対回動自在に連結されている。上記の回転体127、揺動リング129、筒状ピストン130によって揺動機構が構成されている。
【0019】
動力伝達部117は、中間軸125の長軸方向他端部(前端部)に形成された第1伝達ギア131、当該第1伝達ギア131に噛み合い係合してハンマビット119の長軸線周りを回転される第2伝達ギア133、当該第2伝達ギア133とトルクリミッタ151を介して接続されるシリンダ141、及び当該シリンダ141と共にハンマビット119の長軸線周りを回転されるツールホルダ137を主体として構成される。シリンダ141及びツールホルダ137は互いに同心状に配置されるとともに、動力伝達部117の最終軸を構成する。トルクリミッタ151は、動力伝達部117の最終軸に作用するトルク値が予め設定された設定値を越えたときにトルク伝達を遮断する過負荷保護装置として備えられ、本発明における「トルク伝達装置」に対応する。トルクリミッタ151については後述する。
【0020】
打撃要素115は、筒状ピストン130のボア内壁に摺動自在に配置されたストライカ143と、ツールホルダ137に摺動自在に配置されるとともに、ストライカ143の運動エネルギをハンマビット119に伝達するインパクトボルト145とを主体として構成されている。
【0021】
上記のように構成されるハンマドリル101は、使用者によるトリガ109aの引き操作によって駆動モータ111が通電駆動され、中間軸125が回転駆動されると、揺動機構を主体に構成される運動変換機構113を介して筒状ピストン130がシリンダ141内を直線状に摺動動作され、それに伴う当該筒状ピストン130の空気室130a内の空気の圧力変化、すなわち空気バネの作用により、ストライカ143は筒状ピストン130内を直線運動する。ストライカ143は、インパクトボルト145に衝突することで、その運動エネルギをハンマビット119に伝達する。
【0022】
一方、中間軸125とともに第1伝達ギア131が回転されると、第1伝達ギア131に噛み合い係合される第2伝達ギア133及びトルクリミッタ151を介してシリンダ141が鉛直面内にて回転され、更にシリンダ141とともにツールホルダ137及び当該ツールホルダ137にて保持されるハンマビット119が一体状に回転される。かくして、ハンマビット119が軸方向のハンマ動作と周方向のドリル動作を行い、被加工材(コンクリート)に穴開け作業を遂行する。
【0023】
なお本実施の形態に係るハンマドリル101は、上述したハンマビット119にハンマ動作と周方向のドリル動作とを行わせる、ハンマドリルモードでの作業態様のほか、ハンマビット119にドリル動作のみを行わせるドリルモードでの作業態様に切り換えることが可能とされているが、このモードの切換機構については、本発明に直接関係しないため、その説明については省略する。
【0024】
次に動力伝達部117に組み込まれるトルクリミッタ151につき、図2〜図9を参照しつつ説明する。図2にはトルクリミッタ151の全体構成が示される。トルクリミッタ151は、シリンダ141の外側に同心状に配置されている。トルクリミッタ151は、軸方向において、互いに対向状に配置される駆動側フランジ153と被動側フランジ155、及び両フランジ153,155を互いに接近する方向に付勢する付勢バネ157(圧縮コイルスプリング)を主体として構成されている。駆動側フランジ153と被動側フランジ155は、本発明における「第1回転部材」と「第2回転部材」に対応する。駆動側フランジ153の外周には、第1伝達ギア131と噛み合い係合する第2伝達ギア133が形成されている。すなわち、本実施の形態に係る駆動側フランジ153は、外周に第2伝達ギア133を一体に備えたフランジ部材として構成されている。
【0025】
駆動側フランジ153は、シリンダ141の外側に遊嵌状に嵌合され、当該シリンダ141に対し相対回転が可能で、かつ軸方向に相対移動可能とされている。一方、駆動側フランジ153の前方においてシリンダ141の外側に嵌合された被動側フランジ155は、フランジ内面に形成された径方向に凹む複数の球面状凹部155aと、当該球面状凹部155aに対応してシリンダ141の外面に形成された複数の球面状凹部141aとの間に介在された複数のボール(鋼球)159によってシリンダ141と一体回転するように組み付けられている。なお、球面状凹部151a,141a及びボール159は、本実施の形態においては、周方向に等間隔(90度間隔)で各4個設けられる(被動側フランジ155の球面状凹部151aを示す図9参照)。
【0026】
駆動側フランジ153と被動側フランジ155は、互いに対向する軸方向端面に形成された対応する凹部161と突部171が互いに係合することで駆動側フランジ153から被動側フランジ155へとトルクを伝達し、当該係合が解除する(凹部161から突部171が抜け出る)ことでトルク伝達を遮断する。本実施の形態では、駆動側フランジ153の軸方向端面に凹部161が設けられ、被動側フランジ155の軸方向端面に突部171が設けられている。付勢バネ157は、駆動側フランジ153の後方において、シリンダ141の外側に配置されるとともに、当該シリンダ141に固定状に止着されたバネ受リング158と駆動側フランジ153との間に介在され、当該駆動側フランジ153を被動側フランジ155に近接する方向、すなわち凹部161と突部171が係合する方向に押圧付勢している。
【0027】
図3〜図6に駆動側フランジ153の構成が示され、図7〜図11に被動側フランジ155の構成が示される。本実施の形態は、凹部161と突部171の形状に関する。凹部161は、図3及び図4に示すように、駆動側フランジ153の被動側フランジ155との対向面である軸方向端面163(以下、フランジ端面という)に、周方向に等角度間隔α(120度間隔)で3個形成されている。同様に、突部171は、図7及び図8に示すように、被動側フランジ155の駆動側フランジ153との対向面である軸方向端面173(以下、フランジ端面という)に、周方向に等間隔α(120度間隔)で3個形成されている。
【0028】
各凹部161は、図5及び図6に示すように、駆動側フランジ153のフランジ端面163から回転軸方向に所定深さで凹むとともに、底部にいくほど周方向の幅が細くなっている。すなわち、フランジ周方向と交差する2つの側面165a、165bが、底部にいくほど互いに近づく(狭まる)傾斜面として設定されている。なお、凹部161は、図4に示すように、内径方向端部がフランジ内面に開放され、外径方向端部がフランジ外面に対し塞がれている。また凹部161の底面167は、図6に示すように、フランジ端面163と平行な平面として設定されている。
【0029】
各突部171は、図10及び図11に示すように、フランジ端面173から被動側フランジ155の回転軸方向に所定高さで突出するとともに、突出方向の頂部にいくほど周方向の幅が細くなっている。すなわち、フランジ周方向と交差する2つの側面175a、175bは、頂部にいくほど互いに近づく(狭まる)傾斜面として設定されている。なお、本実施の形態においては、突部171の頂面177は、図11に示すように、フランジ端面173に対し平行な平面として設定されている。従って、各突部171は、断面が台形状(本実施の形態では、底辺でない左右の2辺175a,175bの長さが等しい等脚台形)に形成されている。
【0030】
駆動側フランジ153から被動側フランジ155へのトルク伝達は、図12に示すように、例えば駆動側フランジ153が矢印方向(右側)に回転するとすれば、凹部161の一方(左側)の側面165aが突部171の一方(左側)の側面175aに対して係合する。以下の説明では、説明の便宜上、側面165a,165b,175a,175bをそれぞれ係合面という。凹部161の一方の係合面165aが本発明における「凹部側係合面」に対応し、突部171の一方の係合面175aが本発明における「突部側係合面」に対応する。
【0031】
また、凹部161は、図4に示すように、径方向の延在方向につき、径方向先端側(フランジ外面側)が細くなる(縮小する)ように形成されている。すなわち、凹部161の2つの係合面165a,165bは、駆動側フランジ153の法線Pに対し、当該駆動側フランジ153の回転中心から径方向先端(フランジ外面側)にいくほど互いに近づく(対向間隔が狭まる)方向に所定の角度βだけ傾斜させて形成されている。
【0032】
同様に、突部171は、図8に示すように、径方向の延在方向につき、径方向先端側(フランジ外面側)が細くなる(縮小する)ように形成されている。すなわち、突部171の2つの係合面175a,175bは、被動側フランジ155の法線Pに対し、当該被動側フランジ153の回転中心から径方向の先端(フランジ外面側)にいくほど互いに近づく(対向間隔が狭まる)方向に所定の角度βだけ傾斜させて形成されている。このため、トルク伝達時において、互いに係合する凹部161の一方の係合面165aと、突部171の一方の係合面175aは、それぞれ先端(フランジ外面側)にいくほどトルク伝達方向前方に向かうように傾斜された傾斜面とされる。なお、上記の角度βにつき、本実施の形態では30度に設定している。
【0033】
また、凹部161の2つの係合面165a,165bは、駆動側フランジ153のフランジ端面163に近接する側の稜線161aまたは離間した側の稜線161bを基準とするリード面として形成されている。同様に、突部171の2つの係合面175a,175bは、被動側フランジ155のフランジ端面173に近接する側の稜線171aまたは離間した側の稜線171bを基準とするリード面として形成されている。
【0034】
本実施の形態に係るハンマドリル101のトルクリミッタ151は、上記のように構成されている。従って、ハンマビット119による穴開け作業中において、動力伝達部117に付勢バネ157のバネ力で規定される設定値を超える過大なトルクが作用した場合、凹部161と突部171の互いに係合する係合面165a,175aに作用する軸方向成分の力により駆動側フランジ153が付勢バネ157のバネ力に抗して被動側フランジ155から離間する後方へと移動する。この移動により突部171が凹部161から抜け出し、当該突部171の頂面177が駆動側フランジ153のフランジ端面163に乗り上がる。これによりトルク伝達を遮断して、動力伝達部117及び駆動モータ111を過負荷から保護することができる。
【0035】
本実施の形態によれば、凹部161の係合面165a,165bと突部171の係合面175a,175bとを、被動側フランジ155及び駆動側フランジ153の法線Pに対して所定の角度βだけ傾斜させた傾斜面としている。このように構成したことにより、突部と凹部の係合面につき、法線P上を直線状に延在する傾斜面で形成している従来のものに比して、凹部161の係合面165aと突部171の係合面175a相互の接触面積を増大することが可能となる。本実施の形態においては、上記の傾斜角度βを30度に設定したことにより、約15%増大することができた。その結果、トルク伝達面としての係合面の単位面圧を軽減し、耐摩耗性を向上できる。
【0036】
また、本実施の形態によれば、凹部161及び突部171につき、周方向の幅が径方向の先端(フランジ外面側)にいくほど細くなるように形成している。このため、駆動側フランジ153及び被動側フランジ155を、型を用いて成形する場合の型抜きが容易となり、製作性が向上する。
【0037】
また、本実施の形態によれば、凹部161及び突部171の係合面165a,165b,175a,175bを、フランジ端面163,173に近接する側の稜線161a,171aまたは離間した側の稜線161b,171bを基準とするリード面として形成している。このため、凹部側の係合面165a,165bと突部側の係合面175a,175bが係合状態から係合を解除するまでの間、係合面同士の面接触状態を常時に維持することができる。
【0038】
また、本実施の形態によれば、第2伝達ギア133が一体に備えられた駆動側フランジ153に凹部161を設ける構成のため、当該駆動側フランジ153に突部171を設ける構成と比べて、ギア部を製作する際に突部が邪魔にならず、作り易い。
【0039】
なお、本実施の形態では、駆動側フランジ153に凹部161を設け、被動側フランジ155に突部171を設けたが、駆動側フランジ153に突部171を設け、被動側フランジ155に凹部161を設けてもよい。また本実施の形態では、凹部161及び突部171の形状につき、径方向先端にいくほど細くなる(縮小する)設定としたが、径方向先端にいくほど拡張するように設定してもよい。また、係合面の法線Pに対する傾斜角度βについては、30度に設定したが、これに限られない。また、凹部161及び突部171につき、回転中心から凹部161及び突部171の中心を通って延在する直線(法線)に関して線対称に形成したが、線対称である必要はない。
【0040】
また本実施の形態は、電動工具の一例として、ハンマドリル101を例にとって説明したが、これに限らず、先端工具が回転運動することによって所定の加工作業を行う電動工具であれば、適用可能である。
【0041】
なお、本発明の趣旨に鑑み、以下の態様を構成することができる。
(態様1)
「同軸上に対向して配置された第1回転部材と第2回転部材との間でトルクの伝達及び遮断を行うトルク伝達装置を有する電動工具であって、
前記トルク伝達装置は、
前記第1回転部材と第2回転部材の対向面の一方において回転軸方向に突出状に形成された突部と、他方において回転軸方向に凹状に形成され、前記突部を受容する凹部と、前記突部のトルク伝達方向側面に形成された突部側係合面と、前記凹部のトルク伝達方向側面に形成された凹部側係合面と、を有し、
前記第1回転部材と第2回転部材との互いに接近する方向への相対移動により前記突部側と凹部側の係合面が互いに係合されることでトルクの伝達を行い、前記第1回転部材と第2回転部材の互いに離間する方向への相対移動により前記係合が解除されることでトルクの伝達を遮断する構成とされ、
前記突部側と凹部側の係合面は、前記第1及び第2の回転部材の法線に対して所定の角度だけ傾斜させて形成されており、これにより前記係合面相互の接触面積の増大領域が設定され、前記係合面の単位面圧の低減領域が設定され、前記係合面の耐摩耗性が高められていることを特徴とする電動工具。」
【符号の説明】
【0042】
101 ハンマドリル(電動工具)
103 本体部
105 モータハウジング
107 ギアハウジング
109 ハンドグリップ
109a トリガ
111 駆動モータ
112 モータ出力軸
113 運動変換機構
115 打撃要素
117 動力伝達部
119 ハンマビット
121 駆動ギア
123 被動ギア
124 筒状体
125 中間軸
126 軸受
127 回転体
128 揺動ロッド
129 揺動リング
130 筒状ピストン
130a 空気室
131 第1伝達ギア
133 第2伝達ギア
137 ツールホルダ
141 シリンダ
141a 球面状凹部
143 ストライカ
145 インパクトボルト
151 トルクリミッタ
153 駆動側フランジ(第1回転部材)
155 被動側フランジ(第2回転部材)
155a 球面状凹部
157 付勢バネ
158 バネ受リング
159 ボール
161 凹部
161a,161b 稜線
163 フランジ端面
165a,165b 側面(係合面)
167 底面
171 突部
171a,171b 稜線
173 フランジ端面
175a,175b 側面(係合面)
177 頂面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
同軸上に対向して配置された第1回転部材と第2回転部材との間でトルクの伝達及び遮断を行うトルク伝達装置を有する電動工具であって、
前記トルク伝達装置は、
前記第1回転部材と第2回転部材の対向面の一方において回転軸方向に突出状に形成された突部と、他方において回転軸方向に凹状に形成され、前記突部を受容する凹部と、前記突部のトルク伝達方向側面に形成された突部側係合面と、前記凹部のトルク伝達方向側面に形成された凹部側係合面と、を有し、
前記第1回転部材と第2回転部材との互いに接近する方向への相対移動により前記突部側と凹部側の係合面が互いに係合されることでトルクの伝達を行い、前記第1回転部材と第2回転部材の互いに離間する方向への相対移動により前記係合が解除されることでトルクの伝達を遮断する構成とされ、
前記突部側と凹部側の係合面は、前記第1及び第2の回転部材の法線に対して所定の角度だけ傾斜させて形成したことを特徴とする電動工具。
【請求項2】
請求項1に記載の電動工具であって、
前記凹部側を駆動側とした場合、前記突部側と凹部側の係合面は、先端にいくほどトルク伝達方向前方に向かうように傾斜されていることを特徴とする電動工具。
【請求項3】
前記突部側の係合面は、前記回転部材に近接する側の稜線または離間した側の稜線を基準とするリード面として形成されていることを特徴とする電動工具。
【請求項4】
請求項1または2に記載の電動工具であって、
前記トルク伝達装置は、前記第2回転部材に規定値を超えるトルクが作用したときに前記第1回転部材から第2回転部材へのトルク伝達を遮断するトルクリミッタとして備えられていることを特徴とする電動工具。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1つに記載の電動工具であって、
前記凹部を有する回転部材がトルクを伝達する駆動側部材として設定され、前記突部を有する回転部材がトルクを受ける被動側部材として設定され、前記駆動側部材は外周にギアを一体に有することを特徴とする電動工具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−230203(P2011−230203A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−100362(P2010−100362)
【出願日】平成22年4月23日(2010.4.23)
【出願人】(000137292)株式会社マキタ (1,210)
【Fターム(参考)】