説明

電動巻上機の運転制御装置

【課題】一般の作業者でも初心者でも更に熟練者でも、上昇・下降の地切・着床に際して衝撃を与えることがない電動巻上機の運転制御装置を提供すること。
【解決手段】巻上下用電動機16、モータ駆動装置15、制御装置10を備え、吊荷の昇降を行う巻上機の運転制御装置において、負荷/無負荷センサー13と、エンコーダ14を備え、制御装置10は吊荷の上昇時、巻上下用電動機16を第1高速上昇速度で運転し、負荷/無負荷センサー13が吊荷の荷重を検出したら吊荷の地切前に該地切時に衝撃が発生しない第1低速上昇速度に減速させる機能と、下降時の減速位置を算出する減速位置算出機能と、吊荷の下降時、巻上下用電動機16を第1高速下降速度で運転し、減速位置となった時、吊荷の着床前に該着床時に衝撃が発生しない第1低速下降速度に減速させる機能を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動ホイストや電動チェーンブロック等の電気巻上機の運転制御装置に関し、特に多数の作業者が吊荷の上昇(巻上げ)・下降(巻き下げ)の地切(吊り荷が地上から離れること)・着床(吊り荷が着地すること)に際して衝撃を与えることがない電動巻上機の運転制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の電動巻上機の運転制御装置としては、特許文献1及び2に記載のものがある。特許文献1に記載の巻上げロープの弛みとり装置は、巻上位置を検出する位置検出器と、この巻上位置から巻上ロープの弛み量を演算するロープ弛み量演算回路と、この演算した巻上ロープ弛み量を記憶する記憶回路、任意に設定が可能な地切量設定回路と、記憶回路の記憶量と地切量設定回路の設定量とを加算する加算回路と、巻上指令から巻上ロープの巻取量を演算する巻取量演算回路と、加算回路の加算値の設定巻取量及び巻取量演算回路の巻取量を比較する比較回路と、この比較回路で設定量の巻取りが完了したかを判別する判別回路とから構成されている。
【0003】
巻上げロープの弛みとり装置を上記構成とすることにより、スプレッダがコンテナに着床してから、次に巻上運転を行う時、低速巻上から高速巻上に切替え時期を最適に行うことができる。
【0004】
また、特許文献2に記載の電気巻上機の運転制御装置は、電気巻上機のワイヤロープに関連して所定の負荷が加えられたとき切換動作する負荷−無負荷検出スイッチと、この負荷−無負荷検出スイッチが負荷切換位置にあるとき上記電気巻上機の駆動用電動機を低速で運転すると共に、上記負荷−無負荷検出スイッチが無負荷切換位置にあるとき上記電気巻上機の駆動用電動機を高速度で運転する制御回路とを備えた構成である。
【0005】
電気巻上機の運転制御装置を上記構成とすることにより、電気巻上機を運転するに当たり、負荷が有るか、無いかに応じて有る場合は巻上速度を遅くすると共に、無い場合巻上機速度を速くするよう自動的に切換えから、吊荷や機械等を損傷させるおそれがなく作業能率を高めることができる。
【特許文献1】特開昭63−97597号公報
【特許文献2】特開昭57−38294号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の巻上げロープの弛みとり装置は、着床時の位置を記憶しているので、同高さの搬送物にしか対応できないという問題がある。ここでは搬送物がコンテナである。また、着床時には速度切換えをしていないので、作業者の操作(インチング等)で衝撃緩和をしなければならないという問題もある。
【0007】
また、特許文献2に記載の電気巻上機の運転制御装置は、地切の瞬間は高速動作なので、作業者は操作で衝撃緩和をしなければならないという問題がある。また、負荷時速度が着床時に衝撃緩和される程低速ではない場合、着床時に作業者の操作で衝撃緩和をしなければならないという問題もある。
【0008】
本発明は上述の点に鑑みてなされたもので、一般の作業者でも初心者でも更に熟練者でも、上昇・下降の地切・着床に際して衝撃を与えることがない電動巻上機の運転制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため請求項1に記載の発明は、巻上下用電動機、電動機駆動装置、制御装置を備え、吊荷の昇降を行う巻上機の運転制御装置において、前記巻上機に前記吊荷の荷重が加わったか否かを検出する負荷/無負荷センサーを備え、前記制御装置は前記吊荷の上昇時、前記巻上下用電動機を第1高速上昇速度で運転し、前記負荷/無負荷センサーが前記吊荷の荷重を検出したら前記吊荷の地切前に該地切時に衝撃が発生しない第1低速上昇速度に減速させる機能を備えたことを特徴とする。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の電動巻上機の運転制御装置において、前記吊荷の位置を検出する位置センサーを備え、前記負荷/無負荷センサーが前記吊荷の荷重を検出した時の前記位置センサーが検出した位置検出値から所定の値をオフセットした値を下降時の減速位置として算出する減速位置算出機能と、前記吊荷の下降時、前記巻上下用電動機を第1高速下降速度で運転し、前記吊荷の位置が前記減速位置となった時、前記吊荷の着床前に該着床時に衝撃が発生しない第1低速下降速度に減速させる機能を備えたことを特徴とする。
【0011】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の電動巻上機の運転制御装置において、前記制御装置は、前記吊荷の地切後に前記巻上下用電動機を前記第1低速上昇度から所定の加速度で第2高速上昇速度まで加速する機能と、前記吊荷の着床後に前記第1低速下降速度から所定の加速度で第2高速下降速度まで加速する機能を備えたことを特徴とする。
【0012】
請求項4に記載の発明は、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の電動巻上機の運転制御装置において、前記制御装置は、記憶装置に複数の昇降動作パターンと該昇降動作パターンに対応する動作データを格納しており、作業者に応じて前記複数の昇降動作パターンから選択し、該選択した昇降動作パターンとその動作データに基づいて前記巻上下用電動機を運転する機能を備えたことを特徴とする。
【0013】
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の電動巻上機の運転制御装置において、前記複数の昇降動作パターンは前記巻上機の操作の熟練度に応じて備えた昇降動作パターンであり、
前記制御装置は、前記作業者の操作熟練度に応じて前記複数の昇降動作パターンから1つの昇降動作パターンとその動作データを選択する機能を備えたことを特徴とする。
【0014】
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の電動巻上機の運転制御装置において、前記作業者には自己の操作熟練度又は自己の使用する昇降動作パターンを表示する標識が装着されており、前記標識を読み出す読出手段を備え、前記制御装置は前記読出手段が読み出した前記標識の操作熟練度又は使用する昇降動作パターンで、前記記憶装置から昇降動作パターンと該昇降動作パターンに対応する動作データを読み出す機能を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に記載の発明によれば、制御装置は吊荷の上昇時、巻上下用電動機を第1高速上昇速度で運転し、負荷/無負荷センサーが前記吊荷の荷重を検出したら吊荷の地切前に衝撃が発生しない第1低速上昇速度に減速させる機能を備えているので、吊荷の地切時に作業者が何ら格別の操作をすることなく、吊荷や巻上機に衝撃を与えることなく、スムーズに吊荷の地切ができる。
【0016】
請求項2に記載の発明によれば、上昇時に下降時の減速位置として吊荷ごとに算出する減速位置算出機能と、吊荷の下降時、巻上下用電動機を第1高速下降速度で運転し、吊荷の位置が減速位置となった時、吊荷の着床前に該着床時に衝撃が発生しない第1低速下降速度に減速させる機能を備えているので、吊荷の着床時に作業者が何ら格別の操作をすることなく、吊荷に衝撃を与えることなく、スムーズに吊荷の着床ができる。
【0017】
請求項3に記載の発明によれば、制御装置は、吊荷の地切後に巻上下用電動機を第1低速上昇度から所定の加速度で第2高速上昇速度まで加速する機能と、吊荷の着床後に第1低速下降速度から所定の加速度で第2高速下降速度まで加速する機能を備えたので、吊荷の地切時や着床に衝撃を与えることなく、迅速に吊荷の昇降が可能となる。
【0018】
請求項4に記載の発明によれば、制御装置は、記憶装置に複数の昇降動作パターンと該昇降動作パターンに対応する動作データを格納しており、作業者に応じて複数の昇降動作パターンから選択し、該選択した昇降動作パターンとその動作データに基づいて巻上下用電動機を運転する機能を備えているので、作業者に適した昇降動作パターンで巻上機の運転が可能となる。
【0019】
請求項5に記載の発明によれば、制御装置は、作業者の操作熟練度に応じて複数の昇降動作パターンから1つの昇降動作パターンとその動作データを選択する機能を備えているので、作業者の操作熟練度に応じて適した昇降動作パターンで巻上機の運転が可能となる。
【0020】
請求項6に記載の発明によれば、制御装置は読出手段が読み出した作業者が装着している標識の操作熟練度又は使用する昇降動作パターンで、記憶装置から昇降動作パターンと該昇降動作パターンに対応する動作データを読み出す機能を備えているので、作業者が何ら格別の操作をすることなく、自己に適した昇降動作パターンで巻上機の運転が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本願発明の実施の形態例を図面に基づいて説明する。なお、本実施形態例では電動チェーンブロックの運転制御装置を説明するが、本願発明に係る運転制御装置が対象とする電動巻上機は電動チェーンブロックに限定されるものではなく、電動ホイスト等の他の電動巻上機でもよい。
【0022】
図1は本発明に係る電動チェーンブロックの運転制御装置の構成例を示すブロック図である。図示するように、本運転制御装置は、制御装置(シーケンサ)10を備え、該制御装置10によりモータ駆動装置15を制御して、電動チェーンブロックの巻上下用電動機16の巻上下方向制御及び巻上下速度制御をするようになっている。制御装置10にはIDタグリーダー11の読取信号、操作スイッチ12の操作信号、負荷無負荷を検出する負荷/無負荷センサー13の検出信号、巻上下用電動機16の回転数を検出するエンコーダ14の出力が入力されるようになっている。
【0023】
また、制御装置10には図示しない記憶装置が設けられており、該記憶装置には当該電動チェーンブロックを取り扱う作業者別の動作パターンを示す作業者別動作パターンテーブル18等のデータが記憶されている。該作業者別動作パターンテーブル18には、作業者が通常の作業者か、初心者、熟練者かで、基本動作パターンA、初心者用動作パターンB、初心者用動作パターンC、熟練者用動作パターンD等を用意している。また、後に詳述するように、作業者に予め動作パターンを設定したIDタグを装着しておき、該IDタグ17をIDタグリーダ11で読み出すことにより、作業者の動作パターンを判別し、作業者別動作パターンテーブル18に登録している当該動作パターンの動作データ(昇降速度、減速位置、減速度、加速位置、加速度等)を読み出し、該動作データで巻上下用電動機16を駆動制御するようになっている。
【0024】
図2は電動チェーンブロックと作業者mを示す図である。電動チェーンブロック20はチェーンブロック本体21、ロードチェーン22、下フック23等を備えている。チェーンブロック本体21は図示を省略するが巻上下用電動機16、該巻上下用電動機16の回転速度を減速する減速機構、ロードチェーン22を巻上巻下するためのロードシーブ、吊荷落下防止用ブレーキ等を備えている。下フック23は支持部材24に支持され、該支持部材24は棒状部材28を介してロードチェーン22の下端に取付けられている。該棒状部材28の外周にはグリップ25が所定のストロークで上下動できるように配置され、該グリップ25の上下動により、図示しない上昇下降用スイッチ(図1の操作スイッチ12の上昇(巻上げ)用スイッチ、下降用(巻下げ)用スイッチに相当)を動作し、ロードチェーン22が巻上・巻下げされるようになっている。26は棒状部材28とグリップ25の間にゴミ等が侵入するのを防止する蛇腹状の防塵カバーである。
【0025】
27はロードチェーン22の外周部に螺旋状に配置された信号ケーブルである。IDタグ17は例えば作業者mの手首等に装着されており、該IDタグ17を読み込むIDタグリーダ11は、例えば蛇腹状の防塵カバー26の内部等作業者mが装着するIDタグ17を確実に読み出すことができる所に配置されている。上記上昇下降用スイッチのON・OFF信号、IDカードリーダ11のIDタグを読み出す信号等は信号ケーブル27を通してチェーブロック本体21内に配置された制御装置10に送信されるようになっている。
【0026】
図3は、下フック23、支持部材24、負荷/無負荷センサー13等の構成を示す図で、図3(a)は負荷/無負荷センサー13がONした状態(空荷状態)を、図3(b)は負荷/無負荷センサー13がOFFした状態(実荷状態)を示す。支持部材24は有底の下筒状部材24−1と上筒状部材24−2とを備えている。該下筒状部材24−1と上筒状部材24−2は上筒部材24−2の下端部外周に形成されたネジ溝を下筒状部材24−1の上端部内周に形成されたネジ溝に螺合させることにより、一体的に結合されている。
【0027】
支持部材24の下筒状部材24−1の底部には下フック23のロッド部23aが貫通する穴24−1aが形成されている。該穴24−1aに下フック23のロッド部23aを挿入し、該ロッド部23aの上端部に鍔付ナット29を螺合させることにより、下フック23は下筒状部材24−1に摺動自在に取り付けられる。また、下フック23のロッド部23aの外周にはコイルバネ30が配置され、下フック23に荷重がかかっていない(空荷状態)とき図3(a)に示すようにコイルバネ30は伸び下フック23の鍔部23bが下筒状部材24−1の下面に当接し、下フック23に荷重がかかると(実荷状態になると)コイルバネ30は縮小し鍔付ナット29の下面が下筒状部材24−1の内部上面に当接する。即ち、下フック23は空荷状態と実荷状態で所定のストローク「l」で上下動するようになっている。
【0028】
支持部材24の上筒状部材24−2には負荷/無負荷センサー(リミットスイッチ)13がその感知レバー13aが内壁面より突出するように取り付けられている。下フック23に荷重がかかっていない空荷状態では、図3(a)に示すように、負荷/無負荷センサー13の感知レバー13aは鍔付ナット29に押圧されONとなり、荷重がかかると、鍔付ナット29は下方にストロークを開始し、感知レバー13aは解放され、負荷/無負荷センサー13はOFFとなり、更にストローク略「l」だけ巻上動作した後図3(b)に示す状態で吊荷の全荷重を吊り上げることになる。
【0029】
図4は図2において、作業者mが下フック23に荷に装着されているロープ等の吊下具を引っ掛け、該吊下具が弛んでいる状態から荷を上昇下降させる基本動作パターンを示す図で、図4(a)は上昇(巻上げ)時の基本動作パターンを、図4(b)は下降(巻下げ)時の基本動作パターンを示す。電動チェーンブロック20は、図4(a)に示すように地切前は無負荷状態、地切後は負荷状態にあり、図4(b)に示すように着床前は負荷状態、着床後は無負荷状態となる。
【0030】
上昇時、先ず作業者mがグリップ25を握り、該グリップ25を上動させることにより図示しない上昇用(巻上用)スイッチがONとなり、下フック23は所定の高速巻上速度(空荷高速巻上速度)V1で上昇を開始し、吊下具の弛みがなくなると下フック23に過重がかかり、負荷/無負荷センサー13がOFFになる。このOFFになった位置(時点t1)で減速度d1で地切時衝撃が発生しない程度の低速巻上速度(空荷低速巻上速度)V2まで減速させる。該空荷低速巻上速度V2に達したら所定時間(所定距離)T1の間この速度V2で上昇運転を継続させる。この間に地切が発生し荷の全重量が下フック23に加わる。時間T1が経過したら、加速度a1で高速巻上速度(実荷高速巻上速度)V3まで加速し、以後該実荷高速巻上速度V3で巻上げを行う。
【0031】
下降時、先ず作業者mがグリップ25を握り、該グリップ25を下動させることにより図示しない下降用(巻下用)スイッチがONとなり、下フック23は所定の高速巻下速度(実荷高速巻下速度)V4で下降を開始し、後に詳述する減速位置(時点t2)になったら、着床時衝撃が発生しない低速巻下速度(実荷低速巻下速度)V5まで減速度d2で減速する。該実荷低速巻下速度V5に達したら所定時間(所定距離)T2の間この速度V5で下降運転を継続する。この間に着床が発生し下フック23に吊荷の荷重がかからなくなる。時間T2が経過したら、加速度a2で高速巻下速度(空荷高速巻下速度)V6まで加速し、以後該空荷高速巻下速度V6で巻上げを行う。
【0032】
上記上昇(巻上げ)動作を図5に基いて説明する。上昇動作は、先ず作業者mがグリップ25を握り、該グリップ25を上動させる(操作上)と(ステップST1)、上昇用スイッチがONとなり、制御装置10からモータ駆動装置15に空荷高速巻上信号が出力され、巻上下用電動機16を空荷高速巻上速度V1で運転する(ステップST2)。これにより下フック23は所定の空荷高速巻上速度V1で上昇する。吊下具の弛みがなくなり、下フック23に荷の荷重が加わるとコイルバネ30は図3(a)の状態から収縮し、負荷/無負荷センサー13がONの状態からOFFの状態となるから、負荷/無負荷センサー13がOFFになったか否かを判断する(ステップST3)。
【0033】
負荷/無負荷センサー13がOFFとなったら、制御装置10からモータ駆動装置15に減速信号を出力し、巻上下用電動機16を減速度d1で空荷低速巻上速度V2まで減速し(ステップST4)、空荷低速巻上速度V2で運転する(ステップST5)。ここで負荷/無負荷センサー13がOFFとなった位置からコイルバネ30の収縮分(上記下フック23の上下ストローク「l」分)を巻上げた位置のエンコーダ14のカウントを地切位置として記憶装置に記憶する(ステップST6)。続いて下降(巻下げ)時の減速位置を算出する(ステップST7)。この下降時の減速位置の算出は、負荷/無負荷センサー13がOFFとなった時のエンコーダ14のカウント値から所定の値をオフセットした値を、巻下げ時の減速位置として算出し、この減速位置を記憶装置に記憶する。
【0034】
続いて巻上下用電動機16を実荷低速巻上速度V2で継続して運転し(ステップST8)、負荷/無負荷センサー13のOFFから、動作パターンで設定されたエンコーダ14のカウント分を上記実荷低速巻上速度V2で巻上げた後(時間T1が経過した後)、巻上下用電動機16を設定された実荷高速巻上速度V3まで加速度a1で加速し(ステップST9)、その後巻上下用電動機16をこの実荷高速巻上速度V3で運転する。
【0035】
次に上記吊り上げた荷を着床位置で下降させる動作(巻下げ動作)を図6に基づいて説明する。下降動作は、先ず作業者mがグリップ25を握り、該グリップ25を下動させる(操作下)と(ステップST21)、下降用スイッチがONとなり、制御装置10からモータ駆動装置15に実荷高速巻下信号が出力され、巻上下用電動機16を実荷高速巻下速度V4で運転する(ステップST22)。これにより下フック23は所定の実荷高速巻下速度V4で下降する。図5のステップST7で算出した減速位置のエンコーダ14のカウント値と現在位置のエンコーダ14のカウント値が一致するかを判断し(ステップST23)、一致したら減速度d2で実荷低速巻下速度V5まで減速させ(ステップST24)、実荷低速巻下速度V5に達したら該実荷低速巻下速度V5で巻下げを続ける(ステップST25)。
【0036】
続いて、負荷/無負荷センサー13はONとなったか否か(着床したか否か)を判断し(ステップST25)、負荷/無負荷センサー13がONであったら(ステップST26)、エンコーダ14にて一定量分巻下げるまで(時間T2が経過するまで)実荷低速巻下速度V5での低速巻下げを実行する(ステップST27)。続いて加速度a2で空荷高速巻下速度V6になるまで加速し(ステップST28)、空荷高速巻下速度V6とする(ステップST29)。
【0037】
上記のように上昇時には、空荷高速巻上速度V1で巻上げ、負荷/無負荷センサー13のOFFから空荷低速巻上速度V2で減速させ、地切した後加速度a1で実荷高速巻上速度V3で加速するので、地切時には衝撃が発生しない程度の低速である空荷低速巻上速度V2に自動的に減速されることになり、作業者の操作により衝撃緩和の処置をとることなく、スムーズな地切が可能となる。また、下降時には、実荷高速巻下速度V4で巻下げ、上昇時に算出した減速位置で実荷低速巻下速度V5まで減速させ、着床後空荷高速巻下速度V6まで加速度a2で加速するので、荷の高さに関係なく、着床時には衝撃が発生しない程度の低速である実荷低速巻下速度V5に自動的に減速されることになり、作業者が操作により衝撃緩和の処置をとることなく、スムーズな着床が可能となる。
【0038】
図4(a)、(b)に示す動作パターンは通常の作業者が電動チェーンブロックを操作する場合の基本動作パターンAであるが、この基本動作パターンAは作業者が初心者であるか、熟練者により、この動作パターンを変えるほうが良い場合がある。例えば、作業者が初心者である場合、上昇時は図7(a)に示すように、基本動作パターンAに対して動作パターンBのように、空荷高速巻上速度V1を遅く、減速度d1を小さく、空荷低速巻上速度V2の運転時間T1を長く、加速度a1を小さく、実荷高速巻上速度V3を遅く変え、下降時は図7(b)に示すように、基本動作パターンAに対して動作パターンBのように、実荷高速巻下速度V4を遅く、減速度d2を小さく、実荷低速巻下速度V5の運転時間T2を長く、加速度a2を小さく、空荷高速巻下速度V6を遅く変える。
【0039】
また、同じく作業者が初心者である場合、上昇時は図8(a)に示すように、基本動作パターンAに対して動作パターンCのように、空荷高速巻上速度V1を遅く、空荷低速巻上速度V2での運転前に一旦停止の時間を設けた運転時間T1を長く、加速度a1を小さく、実荷高速巻上速度V3を遅く変え、下降時は図8(b)に示すように、基本動作パターンAに対して動作パターンCのように、実荷高速巻下速度V4を遅く、実荷低速巻下速度V5の運転の前に一旦停止の時間を設けた運転時間T2を長く、加速度a2を小さく、空荷高速巻下速度V6を遅く変える。
【0040】
また、作業者が熟練者である場合の上昇時は図9(a)に示すように、基本動作パターンAに対して動作パターンDのように、空荷低速巻上速度V2を速くその運転時間T1を短くし、下降時は図9(b)に示すように、基本動作パターンAに対して動作パターンDのように実荷低速巻下速度V5を速くその運転時間T1を短くする。
【0041】
上記のように作業者が通常者か、初心者か、熟練者かにより、動作パターンが異なる場合、作業者mは自分の熟練度に応じた動作パターンンA、B、C、D・・・の何れかを設定されたIDタグ17を装着し、図1の制御装置10の記憶装置(図示せず)、動作パターンA、B、C、D・・・に対応してその空荷高速速度、実荷高速速度等の動作パターンデータを登録した作業者別動作パターンテーブル18を格納しておく。IDタグリーダ11で作業者mに装着されているIDタグ17から当該作業者の動作パターンがA、B、C、D・・・の何れかであるかを判別し、その判別信号を制御装置10に送信することにより、制御装置10は作業者別動作パターンテーブル18から当該作業者mの動作パターンとそれに対応した動作パターンデータを呼び出し、その動作パターンに基づいて巻上下用電動機16を駆動制御する。なお、この場合はIDタグ17を装着している作業者(使用認定者)しか本電動チェーンブロックを操作できない。
【0042】
図10は作業者認識動作の制御処理フローを示す図である。待機状態から、IDタグリーダ11で作業者mに装着されているIDタグ17を認識できるか否かを判断し(ステップST31)、認識できたら、当該作業者mの動作パターンが通常作業者の基本動作パターンAであるか、初心者の動作パターンBであるか、初心者の動作パターンCであるか、或いは熟練者の動作パターンDであるかを判別し(ステップST32)、続いて作業者別動作パターンテーブル18から当該動作パターンに対応した動作パターンデータを読み込むことにより、上記のような操作可能となる(ステップST34)。
【0043】
上記例では作業者に動作パターンがA、B、C、D・・・のいずれか1つの動作パターンを設定したIDダグ17を装着し、IDタグリーダ11でIDダグ17に設定している動作パターンを判別して制御装置10に送信するようにしているが、例えばIDダグ17には作業者の操作熟練度(例えば、通常者、初心者1、初心者2、熟練者)を設定し、IDタグリーダ11でこの操作熟練度を読み込み、制御装置10に送信することにより、制御装置10でその操作熟練度にあった動作パターンとその動作パターンデータを選択するようにしてもよい。
【0044】
また、図11に示すように、制御装置10の記憶装置に格納された作業者別動作パターンテーブル18には、作業者m1、m2、m3、m4、・・・に応じて動作パターンA、B、C、D、・・・を登録しておき、IDダグ17には作業者m1、m2、m3、m4、・・・を識別できる符号を設定しておき、IDタグリーダ11で作業者mを識別して制御装置10に送信し、制御装置で作業者別に登録している動作パターンで運転するようにしてもよい。また、動作パターンや操作熟練度や作業者を設定する手段は、IDタグ11に限らず、これらを設定できる標識であれば、例えば2次元バーコードのようなものでもよい。
【0045】
上記例ではグリップ25を上下動させることにより、上昇下降操作できる例を示したが、上昇・下降及び速度切換え用押釦スイッチを配置してもよく、或いはチェーンブロック本体21から吊り下げられたボックスに、上昇用押しボタンスイッチや巻下用押しボタンスイッチ等の複数の操作スイッチ備えた操作スイッチボックスを有する電動チェーンブロックでもよい。この場合、操作スイッチボックスに複数の動作パターンから作業者に合う動作パターンを選択するスイッチを設け、作業者が電動チェーンブロックの操作に際して、自己の操作熟練度にあった動作パターンを選択するようにしてもよい。但し、負荷/無負荷センサーは、下フック上部に取り付けるのが検知精度の点で最も好ましい。
【0046】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲、及び明細書、図面に記載された技術的思想の範囲内において種々の変形が可能である。例えば上記実施形態例では電動巻上機として電動チェーンブロックを例に説明したが、本発明に係る巻上機はドラムでワイヤーロープを巻き取り巻き戻す電動ホイスト等でもよいことは当然である。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明に係る電動チェーンブロックの運転制御装置の構成例を示すブロック図である。
【図2】本発明に係る電動チェーンブロックと作業者を示す図である。
【図3】本発明に係る電動チェーンブロックの下フックと負荷/無負荷センサ構成例を示す図である。
【図4】本発明に係る電動チェーンブロックの運転制御装置の基本動作パターンを示す図である。
【図5】本発明に係る電動チェーンブロックの運転制御装置の上昇動作の制御フローを示す図である。
【図6】本発明に係る電動チェーンブロックの運転制御装置の下降動作の制御フローを示す図である。
【図7】本発明に係る電動チェーンブロックの運転制御装置の基本動作パターンAと動作パターンBの比較例を示す図である。
【図8】本発明に係る電動チェーンブロックの運転制御装置の基本動作パターンAと動作パターンCの比較例を示す図である。
【図9】本発明に係る電動チェーンブロックの運転制御装置の基本動作パターンAと動作パターンDの比較例を示す図である。
【図10】本発明に係る電動チェーンブロックの運転制御装置の作業者認識動作の制御フローを示す図である。
【図11】本発明に係る電動チェーンブロックの運転制御装置の他の構成例を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0048】
10 制御装置
11 IDタグリーダー
12 操作スイッチ
13 負荷/無負荷センサー
14 エンコーダ
15 モータ駆動装置
16 巻上下用電動機
17 IDタグ
18 作業者別動作パターンテーブル
20 電動チェーンブロック
21 チェーンブロック本体
22 ロードチェーン
23 下フック
24 支持部材
25 グリップ
26 防塵カバー
27 信号ケーブル
28 棒状部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
巻上下用電動機、電動機駆動装置、制御装置を備え、吊荷の昇降を行う巻上機の運転制御装置において、
前記巻上機に前記吊荷の荷重が加わったか否かを検出する負荷/無負荷センサーを備え、
前記制御装置は前記吊荷の上昇時、前記巻上下用電動機を第1高速上昇速度で運転し、前記負荷/無負荷センサーが前記吊荷の荷重を検出したら前記吊荷の地切前に該地切時に衝撃が発生しない第1低速上昇速度に減速させる機能を備えたことを特徴とする電動巻上機の運転制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電動巻上機の運転制御装置において、
前記吊荷の位置を検出する位置センサーを備え、
前記負荷/無負荷センサーが前記吊荷の荷重を検出した時の前記位置センサーが検出した位置検出値から所定の値をオフセットした値を下降時の減速位置として算出する減速位置算出機能と、前記吊荷の下降時、前記巻上下用電動機を第1高速下降速度で運転し、前記吊荷の位置が前記減速位置となった時、前記吊荷の着床前に該着床時に衝撃が発生しない第1低速下降速度に減速させる機能を備えたことを特徴とする電動巻上機の運転制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載の電動巻上機の運転制御装置において、
前記制御装置は、前記吊荷の地切後に前記巻上下用電動機を前記第1低速上昇度から所定の加速度で第2高速上昇速度まで加速する機能と、前記吊荷の着床後に前記第1低速下降速度から所定の加速度で第2高速下降速度まで加速する機能を備えたことを特徴とする電動巻上機の運転制御装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の電動巻上機の運転制御装置において、
前記制御装置は、記憶装置に複数の昇降動作パターンと該昇降動作パターンに対応する動作データを格納しており、
作業者に応じて前記複数の昇降動作パターンから選択し、該選択した昇降動作パターンとその動作データに基づいて前記巻上下用電動機を運転する機能を備えたことを特徴とする電動巻上機の運転制御装置。
【請求項5】
請求項4に記載の電動巻上機の運転制御装置において、
前記複数の昇降動作パターンは前記巻上機の操作の熟練度に応じて備えた昇降動作パターンであり、
前記制御装置は、前記作業者の操作熟練度に応じて前記複数の昇降動作パターンから1つの昇降動作パターンとその動作データを選択する機能を備えたことを特徴とする電動巻上機の運転制御装置。
【請求項6】
請求項5に記載の電動巻上機の運転制御装置において、
前記作業者には自己の操作熟練度又は自己の使用する昇降動作パターンを表示する標識が装着されており、
前記標識を読み出す読出手段を備え、
前記制御装置は前記読出手段が読み出した前記標識の操作熟練度又は使用する昇降動作パターンで、前記記憶装置から昇降動作パターンと該昇降動作パターンに対応する動作データを読み出す機能を備えたことを特徴とする電動巻上機の運転制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2008−239258(P2008−239258A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−77848(P2007−77848)
【出願日】平成19年3月23日(2007.3.23)
【出願人】(000129367)株式会社キトー (101)
【Fターム(参考)】