説明

電動式パワーステアリング装置用の軸連結機構

【課題】長期の使用によっても一方の回転軸である例えば電動モータの出力回転軸に連結された回転軸と他方の回転軸である例えばステアリングホイールに連結されたステアリング軸との間に軸心周りの方向についてのガタが生じ難く、しかも、電動モータの反転時の衝撃及びブラシ振動のステアリングホイールへの伝達を低減でき、而して、耐久性に優れ操舵感覚を不快にさせない電動式パワーステアリング装置用の軸連結機構を提供すること。
【解決手段】電動式パワーステアリング装置用の軸連結機構1は、回転軸2に連結された連結基体3と、ステアリング軸4に連結された連結基体5と、両連結基体3及び5間に配されていると共に連結基体3のR方向の回転を連結基体5にR方向の回転として伝達する回転伝達部材6とを具備している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動式パワーステアリング装置における電動モータ等の回転源側の回転軸と自動車のステアリング軸等の作動側の回転軸との連結に適した軸連結機構に関する。
【背景技術】
【0002】
電動式パワーステアリング装置は、手動操作されるステアリングホイール(ハンドル)の回転に基づく回転力に電動モータの出力回転軸の回転に基づく回転力を付加してステアリングホイールの手動による操舵を容易に行い得るようにするものであって、斯かる電動式パワーステアリング装置においては、ステアリングホイール側のステアリング軸と電動モータの出力回転軸側の回転軸とを軸連結機構(カップリング)を介して連結している。軸連結機構を介してステアリング軸と回転軸とを連結する場合、電動モータの出力回転軸の反転時の衝撃及び電動モータのブラシ振動が軸連結機構及びステアリング軸を介してステアリングホイールに伝達されて運転者に不快な操舵感を生じさせる虞があり、これを回避するために軸連結機構に、例えば特許文献1に示されるように、ゴム等のスペーサを設けることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−177505号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、衝撃、振動の低減を重視してスペーサをより柔軟なものにすると、柔軟なスペーサはクリープ変形が生じ易いために、スペーサへの繰り返し荷重によるスペーサの永久的な変形で軸連結機構にガタが生じてこれによってもまた運転者の操舵感覚が不快なものとなる虞がある。
【0005】
一方、耐久性を重視してスペーサを硬質なものにすると、前記と逆にガタのない点で操舵感覚は良くなるが、上述の通りステアリングホイールに伝達された衝撃、振動で操舵感覚が不快なものとなる。
【0006】
本発明は、前記諸点に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、長期の使用によっても一方の回転軸である例えば電動モータの出力回転軸に連結された回転軸と他方の回転軸である例えばステアリングホイールに連結されたステアリング軸との間に軸心周りの方向についてのガタが生じ難く、しかも、電動モータの反転時の衝撃及びブラシ振動のステアリングホイールへの伝達を低減でき、而して、耐久性に優れ操舵感覚を不快にさせない電動式パワーステアリング装置用の軸連結機構を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一方の回転軸の回転を他方の回転軸に伝達するように二つの回転軸の間に配されて二つの回転軸を連結する本発明による軸連結機構は、一方の回転軸に連結される一方の連結基体と、他方の回転軸に連結される他方の連結基体と、一方及び他方の連結基体の間に配されていると共に一方の連結基体の軸心周りの方向の回転を他方の連結基体に伝達する回転伝達部材とを具備しており、一方及び他方の連結基体の夫々は、基部と、この基部から軸方向に一体的に突出した突部とを具備しており、回転伝達部材は、基部と、この基部の外周縁の内側に形成されていると共に一方の連結基体の突部が嵌合されている一方の嵌合凹部と、軸心周りの方向において一方の嵌合凹部に対して離間しており、基部の外周縁の内側に形成されていると共に他方の連結基体の突部が嵌合されている他方の嵌合凹部とを具備しており、回転伝達部材は軸心周りの方向において弾性変形可能である。
【0008】
本発明による軸連結機構によれば、特に、軸心周りの方向において弾性変形可能な回転伝達部材は、基部と、この基部の外周縁の内側に形成されていると共に一方の連結基体の突部が嵌合されている一方の嵌合凹部と、軸心周りの方向において一方の嵌合凹部に対して離間しており、基部の外周縁の内側に形成されていると共に他方の連結基体の突部が嵌合されている他方の嵌合凹部とを具備しているために、回転伝達部材の基部の一方及び他方の嵌合凹部間の部位における軸心周りの方向の圧縮変形が当該回転伝達部材の基部の外周縁によって抑制される結果、当該回転伝達部材の基部の一方及び他方の嵌合凹部間の部位の軸心周りの方向の繰り返しの大きな圧縮変形を防止でき、クリープによる回転伝達部材の永久的な変形を低減でき、而して、電動モータの反転時の衝撃及びブラシ振動のステアリングホイールへの伝達を低減できる上に、両回転軸間の軸心周りの方向についてのガタをなくし得て、操舵感覚を不快にさせないと共に耐久性に優れ特性の安定したものとし得る。
【0009】
本発明の軸連結機構では、回転伝達部材の基部は環状であり、一方及び他方の嵌合凹部の夫々は、回転伝達部材の基部の内周縁の外側に形成されていてもよい。
【0010】
本発明の軸連結機構では、回転伝達部材の基部は、軸方向において対向する一対の環状面を有しており、一方及び他方の嵌合凹部は、有底の凹所であってもよいが、これらと共に又はこれに代えて、一方の環状面から他方の環状面まで軸方向に伸びた貫通孔からなっていてもよい。
【0011】
本発明において、スペーサとして機能する回転伝達部材は、ウレタンゴム、ポリエステルエラストマー等のゴム弾性体から形成されているとよいが、その他の弾性体から形成されていてもよい。
【0012】
本発明の軸連結機構は、電動式パワーステアリング装置用のものであってもよく、この場合、一方の回転軸は、電動モータの出力回転軸に連結されるようになっており、他方の回転軸は、自動車のステアリング軸に連結されるようになっていてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、長期の使用によっても一方の回転軸である例えば電動モータの出力回転軸に連結された回転軸と他方の回転軸である例えばステアリングホイールに連結されたステアリング軸との間に軸心周りの方向についてのガタが生じ難く、しかも、電動モータの反転時の衝撃及びブラシ振動のステアリングホイールへの伝達を低減でき、而して、耐久性に優れ操舵感覚を不快にさせない電動式パワーステアリング装置用の軸連結機構を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、本発明の実施の形態の好ましい例の分解斜視図である。
【図2】図2は、図1に示す例の組み立てた正面図である。
【図3】図3は、図2に示すIII−III線矢視断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に本発明の実施の形態を、図に示す好ましい例に基づいて更に詳細に説明する。なお、本発明はこれら例に何等限定されないのである。
【0016】
図1から図3において、本例の電動式パワーステアリング装置用の軸連結機構1は、電動式パワーステアリング装置の電動モータ側の回転軸2に連結された連結基体3と、回転軸としてのステアリング軸4に連結された連結基体5と、両連結基体3及び5間に配されていると共に連結基体3の軸心周りの方向、すなわちR方向の回転を連結基体5にR方向の回転として伝達する回転伝達部材6とを具備している。
【0017】
剛性の連結基体3は、円環状の基部11と、基部11の一方の環状面12に当該環状面12から軸方向、即ちA方向に一体的に突出していると共に軸心周りの方向、即ちR方向に120°の等角度間隔で配された三個の直方体状の突部13と、基部11に設けられていると共に回転軸2が嵌着された貫通孔14とを具備している。
【0018】
突部13の夫々は、R方向において一対の剛性回転伝達面としての方形の側面21及び22を有しており、側面21及び22が交叉する突部13の角部とこの角部に対して対角に位置する突部13の角部とを結ぶ線は、基部11の中心を通るようになっている。
【0019】
連結基体3と同一に形成されている剛性の連結基体5は、基部11と同心に配された円環状の基部16と、基部16の一方の環状面17に当該環状面17からA方向に一体的に突出していると共にR方向に120°の等角度間隔で配された三個の直方体状の突部18と、基部16に設けられていると共にステアリング軸4が嵌着された貫通孔19とを具備している。
【0020】
突部18の夫々は、R方向において一対の剛性回転伝達面としての方形の側面23及び24を有しており、側面23及び24が交叉する突部の13の角部とこの角部に対して対角に位置する突部の角部とを結ぶ線は、基部16の中心を通るようになっている。
【0021】
連結基体3及び5よりも小さな剛性を有すると共に弾性変形可能であってウレタンゴム、ポリエステルエラストマー等のゴム弾性体から形成されている回転伝達部材6は、基部11及び16と同心に配された円環状の基部31と、基部31の円環状の外周縁32の内側であって基部31の円環状の内周縁33の外側において当該基部31に形成されていると共に連結基体3の突部13が夫々挿入されている一方の三個の嵌合凹部36と、R方向において嵌合凹部36の夫々に対して離間しており、基部31の外周縁32の内側であって内周縁33の外側において当該基部31に形成されていると共に連結基体5の突部18が夫々挿入されている他方の三個の嵌合凹部37とを具備している。
【0022】
基部11及び16と同心に配された基部31は、A方向において対向する一対の環状面34及び35を有しており、環状面34は環状面12に、環状面35は環状面17に夫々接触する。
【0023】
嵌合凹部36及び37の夫々は、本例では、環状面34から環状面35までA方向に伸びた貫通孔からなり、三個の嵌合凹部36は、R方向において120°の等角度間隔で夫々互いに離間して配されており、三個の嵌合凹部37は、R方向において120°の等角度間隔で夫々互いに離間して配されており、嵌合凹部36及び37は、R方向において60°の等角度間隔をもって夫々互いに隣り合って配されている。
【0024】
R方向において、三個の嵌合凹部36のうちの二つの嵌合凹部36間には三個の嵌合凹部37のうちの一つの嵌合凹部37が、三個の嵌合凹部37のうちの二つの嵌合凹部37間には三個の嵌合凹部36のうちの一つの嵌合凹部36が夫々配されており、嵌合凹部36及び37の夫々は、R方向において基部31の側面38及び39により規定されている。
【0025】
連結基体3の各突部13は、R方向のその各側面21及び22で、R方向において対面すると共に各嵌合凹部36を規定するR方向の側面38及び39に夫々接触しており、連結基体5の各突部18は、R方向のその各側面23及び24で、R方向において対面すると共に各嵌合凹部37を規定するR方向の側面38及び39に夫々接触している。
【0026】
以上の二つの回転軸である回転軸2及びステアリング軸4を相互に連結する軸連結機構1を具備した電動式パワーステアリング装置では、ステアリングホイールが運転者により手動操作されると、ステアリング軸4がR方向に回転されて、ステアリング軸4のR方向の回転は、図示しない歯車等の伝達機構を介してドラッグ・リンク等に往復動として伝達されて操向輪(車輪)に対する操舵力を与える。運転者によるステアリングホイールの手動操作において、ステアリングホイールに加えられるトルクを検出するトルク検出器からの検出信号により制御される電動モータが作動されると、回転軸2がR方向に回転されて、突部13による回転伝達部材6の基部31の主に嵌合凹部36及び37間の部位のR方向の圧縮変形を介して連結基体3のR方向の回転が連結基体5の突部18にR方向の回転として伝達されて、これによりステアリング軸4のR方向の回転力に対して回転軸2のR方向の回転力を付加して運転者によるステアリングホイールの手動操作を補助するようになっている。
【0027】
回転軸2に連結される連結基体3と、ステアリング軸4に連結される連結基体5と、連結基体3及び5間に配されていると共に連結基体3のR方向の回転を連結基体5に伝達する回転伝達部材6とを具備しており、連結基体3及び5の夫々が、基部11及び16と、基部11及び16からA方向に一体的に突出した突部13及び18とを具備しており、回転伝達部材6が、基部31と、基部31の外周縁32の内側に形成されていると共に連結基体3の突部13が嵌合されている嵌合凹部36と、R方向において嵌合凹部36に対して離間しており、基部31の外周縁32の内側に形成されていると共に連結基体5の突部18が嵌合されている嵌合凹部37とを具備しており、回転伝達部材6がR方向において弾性変形可能である本例の軸連結機構1によれば、回転伝達部材6の基部31の嵌合凹部36及び37間の部位におけるR方向の圧縮変形が当該回転伝達部材6の基部31の外周縁32によって抑制される結果、当該回転伝達部材6の基部31の嵌合凹部36及び37間の部位のR方向の繰り返しの大きな圧縮変形を防止でき、クリープによる回転伝達部材6の永久的な変形を低減でき、而して、電動モータの反転時の衝撃及びブラシ振動のステアリングホイールへの伝達を低減できる上に、回転軸2及びステアリング軸4間のR方向についてのガタをなくし得て、操舵感覚を不快にさせないと共に耐久性に優れ特性の安定したものとし得る。
【符号の説明】
【0028】
1 軸連結機構
2 回転軸
3、5 連結基体
4 ステアリング軸
6 回転伝達部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の回転軸の回転を他方の回転軸に伝達するように二つの回転軸の間に配されて二つの回転軸を連結する軸連結機構であって、一方の回転軸に連結される一方の連結基体と、他方の回転軸に連結される他方の連結基体と、一方及び他方の連結基体の間に配されていると共に一方の連結基体の軸心周りの方向の回転を他方の連結基体に伝達する回転伝達部材とを具備しており、一方及び他方の連結基体の夫々は、基部と、この基部から軸方向に一体的に突出した突部とを具備しており、回転伝達部材は、基部と、この基部の外周縁の内側に形成されていると共に一方の連結基体の突部が嵌合されている一方の嵌合凹部と、軸心周りの方向において一方の嵌合凹部に対して離間しており、基部の外周縁の内側に形成されていると共に他方の連結基体の突部が嵌合されている他方の嵌合凹部とを具備しており、回転伝達部材は軸心周りの方向において弾性変形可能である軸連結機構。
【請求項2】
回転伝達部材の基部は環状であり、一方及び他方の嵌合凹部の夫々は、回転伝達部材の基部の内周縁の外側に形成されている請求項1に記載の軸連結機構。
【請求項3】
回転伝達部材の基部は、軸方向において対向する一対の環状面を有しており、一方及び他方の嵌合凹部は、一方の環状面から他方の環状面まで軸方向に伸びた貫通孔からなる請求項1又は2に記載の軸連結機構。
【請求項4】
電動式パワーステアリング装置用の軸連結機構であって、一方の回転軸は、電動モータの出力回転軸に連結されるようになっており、他方の回転軸は、自動車のステアリング軸に連結されるようになっている請求項1から3のいずれか一項に記載の軸連結機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−104444(P2013−104444A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−246485(P2011−246485)
【出願日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【出願人】(000103644)オイレス工業株式会社 (384)
【Fターム(参考)】