説明

電動機、電動機制御装置及び電動パワーステアリング装置

【課題】製造コストを低減できる電動機、電動機制御装置及び電動パワーステアリング装置を提供する。
【解決手段】電動機は、ロータヨークと、ロータヨークの外側にギャップを有して環状に配置されるステータコアと、低保磁力部と低保磁力部よりも保磁力が高い高保磁力部とを含み、低保磁力部が高保磁力部よりもギャップ側となるようにロータヨークに埋め込まれるマグネットと、ステータコアを励磁し、かつ低保磁力部の磁束量を変化させるための磁界を発生させる励磁コイルと、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動機、電動機制御装置及び電動パワーステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、固定子巻線を設けた固定子と、回転子鉄心中に前記固定子巻線の電流で作る磁界により不可逆的に磁束密度が変化する程度の保磁力を有する低保磁力永久磁石と前記低保磁力永久磁石の2倍以上の保磁力を有する高保磁力永久磁石とを配置した回転子とを備えた永久磁石式回転電機が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−280195号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示された技術は、低保磁力永久磁石と高保磁力永久磁石とが必要になり、磁石の部品点数が多くなるため製造コストが高くなる。また、特許文献1に開示された技術は、電動パワーステアリング装置への適用の検討がなされていない。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、製造コストを低減できる電動機、電動機制御装置及び電動パワーステアリング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、電動機は、ロータヨークと、前記ロータヨークの外側にギャップを有して環状に配置されるステータコアと、低保磁力部と前記低保磁力部よりも保磁力が高い高保磁力部とを含み、前記低保磁力部が前記高保磁力部よりも前記ギャップ側となるように前記ロータヨークに埋め込まれるマグネットと、前記ステータコアを励磁し、かつ前記低保磁力部の磁束量を変化させるための磁界を発生させる励磁コイルと、を含むことを特徴とする。
【0007】
上記構成により、低保磁力部の磁束量を変化することができるため、マグネットが埋め込まれたロータヨークからステータコアへ鎖交する磁束量を可変することができる。これにより、励磁コイルに作用する磁束量を変化させたことで、励磁コイルに生じる誘起電圧を変化させることができる。誘起電圧の変化により、電動機は、誘起電圧と電源電圧との釣り合いで決定される最大回転数を変化させることができる。このため、電動機は、高回転領域と低回転領域とで低保磁力部の磁束量を変化させ、所望の回転数とトルクとを得ることができる。
【0008】
また、電動機は、低保磁力の磁石と高保磁力の磁石とを組み合わせてマグネットを構成する従来の電動機に比較して、低保磁力の磁石と高保磁力の磁石との間に生じる橋絡部分を減らすことができる。低保磁力部と高保磁力部とが一体としてロータヨークに埋め込まれることで、低保磁力部と高保磁力部との間に生じる橋絡部分からの磁石磁束の漏れを抑制し、マグネットの磁束を有効に利用することができる。
【0009】
また、電動機は、低保磁力の磁石と高保磁力の磁石とを組み合わせてマグネットを構成する従来の電動機に比較して、マグネットの部品点数を下げ、マグネットの加工費用及び管理コストを低減することができる。また、電動機のマグネットは、保磁力を高めることのできる希土類元素、例えばDy又はTbの使用量を低減することで、高価な元素の使用を抑制しマグネットの単価を低減することができる。その結果、電動機は、製造コストを低減することができる。
【0010】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、電動機制御装置は、ロータヨークと、前記ロータヨークの外側にギャップを有して環状に配置されるステータコアと、低保磁力部と前記低保磁力部よりも保磁力が高い高保磁力部とを含み、前記低保磁力部が前記高保磁力部よりも前記ギャップ側となるように前記ロータヨークに埋め込まれるマグネットと、前記ステータコアを励磁し、かつ前記低保磁力部の磁束量を変化させるための磁界を発生させる励磁コイルと、を含む電動機と、前記励磁コイルの通電を制御する制御手段と、を含むことを特徴とする。
【0011】
上記構成により、低保磁力部の磁束量を変化することができるため、マグネットが埋め込まれたロータヨークからステータコアへ鎖交する磁束量を可変することができる。これにより、励磁コイルに作用する磁束量を変化させたことで、励磁コイルに生じる誘起電圧を変化させることができる。誘起電圧の変化により、電動機は、誘起電圧と電源電圧との釣り合いで決定される最大回転数を変化させることができる。このため、電動機は、高回転領域と低回転領域とで低保磁力部の磁束量を変化させ、所望の回転数とトルクとを得ることができる。
【0012】
また、電動機は、低保磁力の磁石と高保磁力の磁石とを組み合わせてマグネットを構成する従来の電動機に比較して、低保磁力の磁石と高保磁力の磁石との間に生じる橋絡部分を減らすことができる。低保磁力部と高保磁力部とが一体としてロータヨークに埋め込まれることで、低保磁力部と高保磁力部との間に生じる橋絡部分からの磁石磁束の漏れを抑制し、マグネットの磁束を有効に利用することができる。
【0013】
また、電動機は、低保磁力の磁石と高保磁力の磁石とを組み合わせてマグネットを構成する従来の電動機に比較して、マグネットの部品点数を下げ、マグネットの加工費用及び管理コストを低減することができる。また、電動機のマグネットは、保磁力を高めることのできる希土類元素、例えばDy又はTbの使用量を低減することで、高価な元素の使用を抑制しマグネットの単価を低減することができる。その結果、電動機制御装置は、製造コストを低減することができる。
【0014】
本発明の望ましい態様として、前記制御手段は、前記ステータコアを励磁しない状態で前記ロータヨークが外力により回転する場合、前記低保磁力部の磁束量を低減させる減磁の制御を行うことが好ましい。
【0015】
上記構成により、電動機制御装置は、電動機が空回りした場合のロストルクの増加を抑制することができる。例えば、低保磁力部の磁束量を低減した状態では、マグネットが埋め込まれたロータヨークからステータコアへ鎖交する磁束量が小さくなる。このため、ステータコアで生じる磁区が向きを変えるときのヒステリシス損が緩和される。ヒステリシス損は、電動機が空回りした場合のロストルクの増加の要因となる。つまり、上記構成により、電動機制御装置は、励磁コイルに通電されていない状態で、ロータが回転させられる場合において、ロータの回転に対する摩擦力を小さくすることができる。
【0016】
本発明の望ましい態様として、前記制御手段は、低保磁力部の磁束量を低減させる減磁の制御を行っていないときに前記保磁力部が減磁している場合、前記低保磁力部の磁束量を増加させる着磁の制御を行うことが好ましい。
【0017】
上記構成により、電動機制御装置は、意図しない低保磁力部の減磁による磁束量の不足のおそれを抑制することができる。このため、電動機制御装置は、いわゆる低速回転領域でトルクが必要な場合の駆動の信頼性を高めることができる。
【0018】
本発明の望ましい態様として、前記制御手段は、定期的に、前記低保磁力部の磁束量を増加させることが好ましい。
【0019】
上記構成により、電動機制御装置は、意図しない低保磁力部の減磁による磁束量の不足のおそれを抑制することができる。このため、電動機制御装置は、いわゆる低速回転領域でトルクが必要な場合の駆動の信頼性を高めることができる。
【0020】
本発明の望ましい態様として、前記制御手段は、前記励磁コイルのショート時に、前記低保磁力部の磁束量を低減させることが好ましい。
【0021】
上記構成により、電動機制御装置は、励磁コイルのショートの影響を抑制した状態で、電動機の駆動を継続することができる。このため、励磁コイルのショートの影響を抑制するためのリレー回路が不要となり、電動機制御装置は、製造コストを低減することができる。また、リレー回路がある場合、電動機制御装置は、リレー回路の動作中無通電状態でも、ショートコイルに鎖交するマグネットの磁束量を低減することができる。このため、電動機制御装置は、電磁ブレーキトルクが低減し、外力によりモータを回転させることができる。
【0022】
本発明の望ましい態様として、前記制御手段は、前記励磁コイルの誘起電圧が電源電圧の上限に達しないように定められた前記電動機の回転数の閾値以上の場合、前記低保磁力部の磁束量を低減させることが好ましい。
【0023】
上記構成により、マグネットが埋め込まれたロータヨークからステータコアへ鎖交する磁束量を抑制し、励磁コイルに作用する磁束量が小さくなる。このため、励磁コイルに作用する磁束量が低下した分、誘起電圧の増加の余裕が生じる。永久磁石回転電動機では、ロータの回転数に比例して誘起電圧は増加する。そこで、電動機は、誘起電圧と電源電圧との釣り合いで決定される最大回転数を増加させることができる。その結果、電動機は、高回転領域において誘起電圧が電源電圧に達してしまうおそれを抑制し、ロータの可変速領域を拡大することができる。
【0024】
本発明の望ましい態様として、前記制御手段は、前記電動機を逆回転させる前に、前記低保磁力部の磁束量を低減させることが好ましい。
【0025】
電動機を逆回転させる場合、瞬時に誘起電圧(逆起電圧)がモータのドライブ回路に印加され、ドライブ回路に負荷を生じさせるおそれ又はロータに逆作動トルクを生じさせるおそれがある。上記構成により、励磁コイルに作用する磁束量が低下した分、誘起電圧を低減できるので、瞬時に誘起電圧(逆起電圧)がモータのドライブ回路に印加され、ドライブ回路に負荷を生じさせるおそれ又はロータに逆作動トルクを生じさせるおそれを抑制することができる。
【0026】
本発明の望ましい態様として、前記電動機は、補助操舵トルクを得る電動パワーステアリング用電動機であることが好ましい。
【0027】
上記構成により、操舵者が受ける操舵のフィーリングに影響を与えることを抑制することができる。
【0028】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、電動パワーステアリング装置は、補助操舵トルクを得る電動パワーステアリング用電動機と、電動パワーステアリング用電動機を制御する制御手段とを含み、前記電動パワーステアリング用電動機は、ロータヨークと、前記ロータヨークの外側にギャップを有して環状に配置されるステータコアと、低保磁力部と前記低保磁力部よりも保磁力が高い高保磁力部とを含み、前記低保磁力部が前記高保磁力部よりも前記ギャップ側となるように前記ロータヨークに埋め込まれるマグネットと、前記ステータコアを励磁し、かつ前記低保磁力部の磁束量を変化させるための磁界を発生させる励磁コイルと、を含むことを特徴とする。
【0029】
上記構成により、低保磁力部の磁束量を変化することができるため、マグネットが埋め込まれたロータヨークからステータコアへ鎖交する磁束量を可変することができる。これにより、励磁コイルに作用する磁束量を変化させたことで、励磁コイルに生じる誘起電圧を変化させることができる。誘起電圧の変化により、電動パワーステアリング用電動機は、誘起電圧と電源電圧との釣り合いで決定される最大回転数を変化させることができる。このため、電動パワーステアリング用電動機は、高回転領域と低回転領域とで低保磁力部の磁束量を変化させ、所望の回転数とトルクとを得ることができる。
【0030】
また、電動パワーステアリング用電動機は、低保磁力の磁石と高保磁力の磁石とを組み合わせてマグネットを構成する従来の電動機に比較して、低保磁力の磁石と高保磁力の磁石との間に生じる橋絡部分を減らすことができる。低保磁力部と高保磁力部とが一体としてロータヨークに埋め込まれることで、低保磁力部と高保磁力部との間に生じる橋絡部分からの磁石磁束の漏れを抑制し、マグネットの磁束を有効に利用することができる。
【0031】
また、電動パワーステアリング用電動機は、低保磁力の磁石と高保磁力の磁石とを組み合わせてマグネットを構成する従来の電動機に比較して、マグネットの部品点数を下げ、マグネットの加工費用及び管理コストを低減することができる。また、電動パワーステアリング用電動機のマグネットは、保磁力を高めることのできる希土類元素、例えばDy又はTbの使用量を低減することで、高価な元素の使用を抑制しマグネットの単価を低減することができる。その結果、電動パワーステアリング装置は、製造コストを低減することができる。
【0032】
本発明の望ましい態様として、前記制御手段は、前記補助操舵トルクが不要であってかつ前記ステータコアを励磁しない状態で前記ロータヨークが回転する場合、前記低保磁力部の磁束量を低減させる減磁の制御を行うことが好ましい。
【0033】
上記構成により、電動パワーステアリング装置は、電動パワーステアリング用電動機が空回りした場合のロストルクの増加を抑制することができる。例えば、低保磁力部の磁束量を低減した状態では、マグネットが埋め込まれたロータヨークからステータコアへ鎖交する磁束量が小さくなる。このため、ステータコアで生じる磁区が向きを変えるときのヒステリシス損が緩和される。ヒステリシス損は、電動パワーステアリング用電動機が空回りした場合のロストルクの増加の要因となる。つまり、上記構成により、電動パワーステアリング用電動機制御装置は、励磁コイルに通電されていない状態で、ロータが回転させられる場合において、ロータの回転に対する摩擦力を小さくすることができる。
【0034】
本発明の望ましい態様として、前記制御手段は、低保磁力部の磁束量を低減させる減磁の制御を行っていないときに前記保磁力部が減磁している場合、前記低保磁力部の磁束量を増加させる着磁の制御を行うことが好ましい。
【0035】
上記構成により、電動パワーステアリング装置は、意図しない低保磁力部の減磁による磁束量の不足のおそれを抑制することができる。このため、電動パワーステアリング装置は、いわゆる低速回転領域でトルクが必要な場合の駆動の信頼性を高めることができる。
【0036】
本発明の望ましい態様として、前記制御手段は、定期的に、前記低保磁力部の磁束量を増加させることが好ましい。
【0037】
上記構成により、電動パワーステアリング装置は、意図しない低保磁力部の減磁による磁束量の不足のおそれを抑制することができる。このため、電動パワーステアリング装置は、いわゆる低速回転領域でトルクが必要な場合の駆動の信頼性を高めることができる。
【0038】
本発明の望ましい態様として、前記制御手段は、前記励磁コイルのショート時に、前記低保磁力部の磁束量を低減させることが好ましい。
【0039】
上記構成により、電動パワーステアリング装置は、励磁コイルのショートの影響を抑制した状態で、電動機の駆動を継続することができる。このため、励磁コイルのショートの影響を抑制するためのリレー回路が不要となり、電動パワーステアリング装置は、製造コストを低減することができる。また、リレー回路がある場合、電動パワーステアリング装置は、リレー回路の動作中無通電状態でも、ショートコイルに鎖交するマグネットの磁束量を低減することができる。このため、電動パワーステアリング装置は、電磁ブレーキトルクが低減し、外力によりモータを回転させることができる。
【0040】
本発明の望ましい態様として、前記制御手段は、前記励磁コイルの誘起電圧が電源電圧の上限に達しないように定められた前記電動パワーステアリング用電動機の回転数の閾値以上の場合、前記低保磁力部の磁束量を低減させることが好ましい。
【0041】
上記構成により、マグネットが埋め込まれたロータヨークからステータコアへ鎖交する磁束量を抑制し、励磁コイルに作用する磁束量が小さくなる。このため、励磁コイルに作用する磁束量が低下した分、誘起電圧の増加の余裕が生じる。永久磁石回転電動機では、ロータの回転数に比例して誘起電圧は増加する。そこで、電動パワーステアリング用電動機は、誘起電圧と電源電圧との釣り合いで決定される最大回転数を増加させることができる。その結果、電動パワーステアリング用電動機は、高回転領域において誘起電圧が電源電圧に達してしまうおそれを抑制し、ロータの可変速領域を拡大することができる。
【0042】
本発明の望ましい態様として、前記制御手段は、前記電動機を逆回転させる前に、前記低保磁力部の磁束量を低減させることが好ましい。
【0043】
電動パワーステアリング用電動機の回転を逆回転とする場合、瞬時に誘起電圧(逆起電圧)がモータのドライブ回路に印加され、ドライブ回路に負荷を生じさせるおそれ又はロータに逆作動トルクを生じさせるおそれがある。上記構成により、励磁コイルに作用する磁束量が低下した分、誘起電圧を低減できるので、瞬時に誘起電圧(逆起電圧)がモータのドライブ回路に印加され、ドライブ回路に負荷を生じさせるおそれ又はロータに逆作動トルクを生じさせるおそれを抑制することができる。
【発明の効果】
【0044】
本発明は、製造コストを低減できる電動機、電動機制御装置及び電動パワーステアリング装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】図1は、実施形態1に係るブラシレスモータを備える電動パワーステアリング装置の構成図である。
【図2】図2は、実施形態1の電動パワーステアリング装置が備える減速装置の一例を説明する正面図である。
【図3】図3は、中心軸を含む仮想平面で実施形態1のモータの構成を切って模式的に示す断面図である。
【図4】図4は、実施形態1のモータの構成を中心軸に直交する仮想平面で切って模式的に示す断面図である。
【図5】図5は、実施形態1のロータを模式的に示す説明図である。
【図6】図6は、実施形態1のマグネットの製造方法を説明するフローチャートである。
【図7】図7は、実施形態1のブラシレスモータの制御ステップを説明するためのフローチャートである。
【図8】図8は、実施形態2のブラシレスモータの制御ステップを説明するためのフローチャートである。
【図9】図9は、実施形態2のブラシレスモータの回転数とトルクとの関係を示す説明図である。
【図10】図10は、実施形態3のブラシレスモータの制御ステップを説明するためのフローチャートである。
【図11】図11は、実施形態4のブラシレスモータの制御ステップを説明するためのフローチャートである。
【図12】図12は、実施形態5のブラシレスモータの制御ステップを説明するためのフローチャートである。
【図13】図13は、実施形態6のブラシレスモータの制御ステップを説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0046】
本発明を実施するための形態(実施形態)につき、図面を参照しつつ詳細に説明する。以下の実施形態に記載した内容により本発明が限定されるものではない。また、以下に記載した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のものが含まれる。さらに、以下に記載した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。
【0047】
(実施形態1)
図1は、実施形態1に係るブラシレスモータを備える電動パワーステアリング装置の構成図である。まず、図1を用いて、本実施形態のブラシレスモータを備える電動パワーステアリング装置の概要を説明する。
【0048】
電動パワーステアリング装置80は、操舵者から与えられる力が伝達する順に、ステアリングホイール81と、ステアリングシャフト82と、操舵力アシスト機構83と、ユニバーサルジョイント84と、ロアシャフト85と、ユニバーサルジョイント86と、ピニオンシャフト87と、ステアリングギヤ88と、タイロッド89とを備える。また、電動パワーステアリング装置80は、ECU(Electronic Control Unit)90と、トルクセンサ91aと、車速センサ91bとを備える。
【0049】
ステアリングシャフト82は、入力軸82aと、出力軸82bとを含む。入力軸82aは、一方の端部がステアリングホイール81に連結され、他方の端部がトルクセンサ91aを介して操舵力アシスト機構83に連結される。出力軸82bは、一方の端部が操舵力アシスト機構83に連結され、他方の端部がユニバーサルジョイント84に連結される。本実施形態では、入力軸82a及び出力軸82bは、鉄等の磁性材料から形成される。
【0050】
ロアシャフト85は、一方の端部がユニバーサルジョイント84に連結され、他方の端部がユニバーサルジョイント86に連結される。ピニオンシャフト87は、一方の端部がユニバーサルジョイント86に連結され、他方の端部がステアリングギヤ88に連結される。
【0051】
ステアリングギヤ88は、ピニオン88aと、ラック88bとを含む。ピニオン88aは、ピニオンシャフト87に連結される。ラック88bは、ピニオン88aに噛み合う。ステアリングギヤ88は、ラックアンドピニオン形式として構成される。ステアリングギヤ88は、ピニオン88aに伝達された回転運動をラック88bで直進運動に変換する。タイロッド89は、ラック88bに連結される。
【0052】
操舵力アシスト機構83は、減速装置92と、ブラシレスモータ10とを含む。減速装置92は、出力軸82bに連結される。ブラシレスモータ10は、減速装置92に連結され、かつ、補助操舵トルクを発生させる電動機である。なお、電動パワーステアリング装置80は、ステアリングシャフト82と、トルクセンサ91aと、減速装置92とによりステアリングコラムが構成されている。ブラシレスモータ10は、ステアリングコラムの出力軸82bに補助操舵トルクを与える。すなわち、本実施形態の電動パワーステアリング装置80は、コラムアシスト方式である。
【0053】
図2は、実施形態1の電動パワーステアリング装置が備える減速装置の一例を説明する正面図である。図2は、一部を断面として示してある。減速装置92はウォーム減速装置である。減速装置92は、減速装置ハウジング93と、ウォーム94と、玉軸受95aと、玉軸受95bと、ウォームホイール96と、ホルダ97とを備える。
【0054】
ウォーム94は、ブラシレスモータ10のシャフト21にスプライン、または弾性カップリングで結合する。ウォーム94は、玉軸受95aと、ホルダ97に保持された玉軸受95bとで回転自在に減速装置ハウジング93に保持されている。ウォームホイール96は、減速装置ハウジング93に回転自在に保持される。ウォーム94の一部に形成されたウォーム歯94aは、ウォームホイール96に形成されているウォームホイール歯96aに噛み合う。
【0055】
ブラシレスモータ10の回転力は、ウォーム94を介してウォームホイール96に伝達されて、ウォームホイール96を回転させる。減速装置92は、ウォーム94及びウォームホイール96によって、ブラシレスモータ10のトルクを増加する。そして、減速装置92は、図1に示すステアリングコラムの出力軸82bに補助操舵トルクを与える。
【0056】
図1に示すトルクセンサ91aは、ステアリングホイール81を介して入力軸82aに伝達された運転者の操舵力を操舵トルクとして検出する。車速センサ91bは、電動パワーステアリング装置80が搭載される車両の走行速度を検出する。ECU90は、ブラシレスモータ10と、トルクセンサ91aと、車速センサ91bと電気的に接続される。
【0057】
ECU90は、ブラシレスモータ10の動作を制御する。また、ECU90は、トルクセンサ91a及び車速センサ91bのそれぞれから信号を取得する。すなわち、ECU90は、トルクセンサ91aから操舵トルクTを取得し、かつ、車速センサ91bから車両の走行速度Vを取得する。ECU90は、イグニッションスイッチ98がオンの状態で、電源装置(例えば車載のバッテリ)99から電力が供給される。ECU90は、操舵トルクTと走行速度Vとに基づいてアシスト指令の補助操舵指令値を算出する。そして、ECU90は、その算出された補助操舵指令値に基づいてブラシレスモータ10へ供給する電力値Xを調節する。ECU90は、ブラシレスモータ10から誘起電圧の情報又は後述するレゾルバからロータの回転の情報を動作情報Yとして取得する。
【0058】
ステアリングホイール81に入力された操舵者(運転者)の操舵力は、入力軸82aを介して操舵力アシスト機構83の減速装置92に伝わる。この時に、ECU90は、入力軸82aに入力された操舵トルクTをトルクセンサ91aから取得し、かつ、走行速度Vを車速センサ91bから取得する。そして、ECU90は、ブラシレスモータ10の動作を制御する。ブラシレスモータ10が作り出した補助操舵トルクは、減速装置92に伝えられる。
【0059】
出力軸82bを介して出力された操舵トルク(補助操舵トルクを含む)は、ユニバーサルジョイント84を介してロアシャフト85に伝達され、さらにユニバーサルジョイント86を介してピニオンシャフト87に伝達される。ピニオンシャフト87に伝達された操舵力は、ステアリングギヤ88を介してタイロッド89に伝達され、操舵輪を転舵させる。次に、ブラシレスモータ10について説明する。
【0060】
図3は、中心軸を含む仮想平面で実施形態1のモータの構成を切って模式的に示す断面図である。図4は、実施形態1のモータの構成を中心軸に直交する仮想平面で切って模式的に示す断面図である。図3に示すように、ブラシレスモータ10は、ハウジング11と、軸受12と、軸受13と、レゾルバ14と、ロータ20と、ブラシレスモータ用ステータとしてのステータ30とを備える。
【0061】
ハウジング11は、筒状ハウジング11aと、フロントブラケット11bとを含む。フロントブラケット11bは、略円板状に形成されて筒状ハウジング11aの一方の開口端部を閉塞するように筒状ハウジング11aに取り付けられる。筒状ハウジング11aは、フロントブラケット11bとは反対側の端部に、この端部を閉塞するように底部11cが形成される。底部11cは、例えば、筒状ハウジング11aと一体に形成される。筒状ハウジング11aを形成する磁性材料としては、例えばSPCC(Steel Plate Cold Commercial)等の一般的な鋼材や、電磁軟鉄等が適用できる。また、フロントブラケット11bは、ブラシレスモータ10を所望の機器に取り付ける際のフランジの役割を果たしている。
【0062】
軸受12は、筒状ハウジング11aの内側であって、フロントブラケット11bの略中央部分に設けられる。軸受13は、筒状ハウジング11aの内側であって、底部11cの略中央部分に設けられる。軸受12は、筒状ハウジング11aの内側に配置されたロータ20の一部であるシャフト21の一端を回転可能に支持する。軸受13は、シャフト21の他端を回転可能に支持する。これにより、シャフト21は、中心軸Zrを中心に回転する。
【0063】
レゾルバ14は、シャフト21のフロントブラケット11b側に設けられる端子台15によって支持される。レゾルバ14は、ロータ20(シャフト21)の回転位置を検出する。レゾルバ14は、レゾルバロータ14aと、レゾルバステータ14bとを備える。レゾルバロータ14aは、シャフト21の円周面に圧入等で取り付けられる。レゾルバステータ14bは、レゾルバロータ14aに所定間隔の空隙を介して対向して配置される。
【0064】
ステータ30は、筒状ハウジング11aの内部にロータ20を包囲するように筒状に設けられる。ステータ30は、筒状ハウジング11aの内周面11dに例えば嵌合されて取り付けられる。ステータ30の中心軸は、ロータ20の中心軸Zrと一致する。ステータ30は、筒状のステータコア31と、励磁コイル37とを含む。ステータ30は、ステータコア31に励磁コイル37が巻きつけられる。
【0065】
図4に示すように、ステータコア31は、複数の分割コア32を含む。複数の分割コア32は、中心軸Zrを中心とした周方向(図3に示す筒状ハウジング11aの内周面11dに沿う方向)に等間隔で並んで配置される。以下、中心軸Zrを中心とした周方向を単に周方向という。ステータコア31は、複数の分割コア32が組み合わされて構成される。そして、ステータコア31が筒状ハウジング11a内に圧入されることで、ステータ30は、環状の状態で筒状ハウジング11aの内部に設けられる。なお、ステータコア31と筒状ハウジング11aとは、圧入の他に接着、焼き嵌め又は溶接等によって固定されてもよい。
【0066】
分割コア32は、略同形状に形成された複数のコア片が中心軸Zr方向に積層されて束ねられることで形成される。分割コア32は、電磁鋼板などの磁性材料で形成される。分割コア32は、バックヨーク33と、ティース34とを有する。バックヨーク33は、円弧状の部分を含む。バックヨーク33は、複数の分割コア32が組み合わされると、環状形状を形成する。ティース34は、バックヨーク33の内周面からロータ20に向かって延びる部分である。
【0067】
図4に示す励磁コイル37は、線状の電線である。励磁コイル37は、分割コア32のティース34の外周にインシュレータ37aを介して集中巻きされる。インシュレータ37aは、励磁コイル37と分割コア32とを絶縁するための部材であり、耐熱部材で形成される。このように構成されたステータコア31が図4に示すように複数組み合わされることにより、ステータ30は、ロータ20を包囲できる形状となる。そして、ステータコア31は、ロータヨーク22の外側に所定の間隔となるギャップLgを有して環状に配置される。
【0068】
ロータ20は、筒状ハウジング11aに対して中心軸Zrを中心に回転できるように、筒状ハウジング11aの内部に設けられる。ロータ20は、シャフト21と、ロータヨーク22と、マグネット23とを含む。シャフト21は、筒状に形成される。ロータヨーク22は、筒状に形成される。
【0069】
また、ロータヨーク22は、電磁鋼板が、接着、ボス、カシメなどの手段により積層されて製造される。ロータヨーク22は、順次金型の型内で積層され、金型から排出される。ロータヨーク22は、例えばその中空部分にシャフト21が圧入されてシャフト21に固定される。なお、シャフト21とロータヨーク22とは、一体で成型されてもよい。
【0070】
マグネット23は、ロータヨーク22の外周方向に沿って埋め込まれ、複数設けられている。マグネット23は、永久磁石であり、S極及びN極がロータヨーク22の周方向に交互に等間隔で配置される。これにより、図4に示すロータ20の極数は、ロータヨーク22の外周側にN極と、S極とがロータヨーク22の周方向に交互に配置された14極である。
【0071】
マグネット23は、ロータヨーク22のマグネット収容孔24に収容され、例えば、磁力により取り付けられる。本実施形態では、マグネット23は、分割形状(セグメント構造)である。図5は、実施形態1のロータを模式的に示す説明図である。
【0072】
図5に示すように、マグネット収容孔24は、ロータヨーク22に空けられた貫通孔である。マグネット収容孔24は、外周部に複数設けられて等間隔に配置されている。ロータヨーク22の外周側がN極に着磁されているマグネット23は、一対のセグメント磁石23Aとセグメント磁石23Bとを含む。一対のセグメント磁石23Aとセグメント磁石23Bとは、マグネット収容孔24に収容され、中心軸Zrからみてロータヨーク22の外周に広がるV字状に配列されている。
【0073】
また、ロータヨーク22の外周側がS極に着磁されているマグネット23は、一対のセグメント磁石23Cとセグメント磁石23Dとを含む。一対のセグメント磁石23Cとセグメント磁石23Dとは、マグネット収容孔24に収容され、中心軸Zrからみてロータヨーク22の外周に広がるV字状に配列されている。
【0074】
フラックスバリア25は、例えば、ロータヨーク22に設けられた貫通孔であり、S極とN極との磁束短絡を防止することができる。フラックスバリア25は、磁束の通過を抑制又は遮断できるものであればよく、空隙又は非磁性材料の絶縁材であればよい。
【0075】
ロータヨーク22にフラックスバリア25を備えることで、ロータヨーク22の外周方向に部分的な磁気抵抗の差が生じる。例えば、一対のセグメント磁石23Aとセグメント磁石23Bとの間は磁気的凹部となり、フラックスバリア25近傍は、ブリッジとよばれる磁気的凸部となる。
【0076】
同様に、一対のセグメント磁石23Cとセグメント磁石23Dとの間は磁気的凹部となり、フラックスバリア25近傍は、ブリッジとよばれる磁気的凸部となる。このため、ロータヨーク22の外周には、磁気的凹部と磁気的凸部とが交互に配置され、磁気的凹部がq軸と磁気的凸部がd軸とそれぞれ呼ばれている。
【0077】
セグメント磁石23A、セグメント磁石23B、セグメント磁石23C及びセグメント磁石23Dは、1つの磁性体の中に相対的に保磁力が異なる領域である低保磁力部26と高保磁力部27とを含む。図5に示すように、低保磁力部26は高保磁力部27よりもロータヨーク22のギャップLg側となるようにロータヨーク22に埋め込まれている。図6は、実施形態1のマグネットの製造方法を説明するフローチャートである。
【0078】
図6に示すように、製造装置は、セグメント磁石23A、セグメント磁石23B、セグメント磁石23C及びセグメント磁石23Dの全体を低保磁力部26に相当する保磁力を有する磁性体で低保磁力磁石を製造する(ステップS1)。例えば、磁性体は、Nd−Fe−B系磁石である。
【0079】
磁性体の保磁力は、励磁コイル37がロータ20を回転させるために発生する励磁磁界では減磁されない程度であることが好ましい。また、磁性体の保磁力は、励磁コイル37が上述した励磁磁界よりも大きな磁界である減磁磁界または着磁磁界を加えると、減磁または着磁可能な程度であることが好ましい。
【0080】
次に、製造装置は、ステップS1で製造した磁性体に対し、粒界拡散処理を行う(ステップS2)。例えば、製造装置は、Nd−Fe−B系磁石の磁性体の所定の表面に、希土類元素であるDy又はTbの少なくとも1種を拡散させる。そして、粒界拡散処理は、Nd−Fe−B系磁石の磁性体の粒界に、希土類元素であるDy又はTbの少なくとも1種を導入する。
【0081】
これにより、磁性体は、1つの磁性体内でDy又はTbの少なくとも1種が拡散している領域と、Dy又はTbの少なくとも1種が拡散していない領域とが形成される。Dy又はTbの少なくとも1種が拡散している領域では、Dy又はTbがNd−Fe−B系磁石の粒界内に拡散することにより、保磁力を向上することができる。その結果、セグメント磁石23A、セグメント磁石23B、セグメント磁石23C及びセグメント磁石23Dには、相対的に保磁力が異なる低保磁力部26と高保磁力部27とが形成される。
【0082】
このため、マグネット23は、低保磁力の磁石と高保磁力の磁石とを組み合わせたマグネットに比較して部品点数を下げ、加工費用及び管理コストを低減することができる。また、マグネット23は、低保磁力の磁石と高保磁力の磁石とを組み合わせたマグネットに比較して磁石の単位体積あたりの質量を向上させ、磁石の単価を低減することができる。その結果、本実施形態のブラシレスモータ10は、コストを低減することができる。
【0083】
また、本実施形態のブラシレスモータ10は、低保磁力の磁石と高保磁力の磁石とを組み合わせてマグネットを構成する従来の電動機に比較して、低保磁力の磁石と高保磁力の磁石との間に生じる橋絡部分を減らすことができる。低保磁力部26と高保磁力部27とが一体としてロータヨーク22に埋め込まれることで、低保磁力部26と高保磁力部27との間に生じる橋絡部分からの磁石磁束の漏れを抑制し、セグメント磁石23A、セグメント磁石23B、セグメント磁石23C及びセグメント磁石23Dの磁束を有効に利用することができる。
【0084】
高保磁力部27の保磁力は、励磁コイル37が低保磁力部26を減磁または着磁可能な程度の磁界を発生させても高保磁力部27の磁束量が変化しない程度に、高められることが好ましい。
【0085】
次に、製造装置は、ステップS2で粒界拡散処理した磁性体であるセグメント磁石23A、セグメント磁石23B、セグメント磁石23C及びセグメント磁石23Dに対し、低保磁力部26が高保磁力部27よりもロータヨーク22の外周側となるようにマグネット収容孔24に収容し、ロータヨーク22への配置を行う(ステップS3)。
【0086】
製造装置は、セグメント磁石23A、セグメント磁石23B、セグメント磁石23C及びセグメント磁石23Dは、着磁をした上で、マグネット収容孔24に収容してもよい。あるいは、製造装置は、未着磁の状態のセグメント磁石23A、セグメント磁石23B、セグメント磁石23C及びセグメント磁石23Dをマグネット収容孔24に収容したのち、着磁をしてもよい。
【0087】
以上説明したように、実施形態1のブラシレスモータ10は、永久磁石をロータヨーク22に埋め込む永久磁石回転電動機である。このブラシレスモータ10は、ロータヨーク22と、相対的に保磁力が異なる低保磁力部26と高保磁力部27とを含むマグネット23と、ロータヨーク22の外側にギャップLgを有して環状に配置されるステータコア31と、ステータコア31を励磁し、かつ低保磁力部26の磁束量を変化させるための磁界を発生させる励磁コイル37と、を含む。マグネット23は、低保磁力部26が高保磁力部27よりもロータヨーク22のギャップLg側となるようにロータヨーク22に埋め込まれる。
【0088】
上述したECU90は、ブラシレスモータ10を制御する制御手段となる。ECU90は、ドライブ回路を介して励磁コイル37を通電することができる。つまり、上述したブラシレスモータ10とECU90とにより、電動機制御装置が構成される。通電された励磁コイル37は、磁界を発生する。ECU90は、励磁コイル37に磁界を発生させステータコア31を励磁することができる。また、ECU90は、励磁コイル37にパルス波形状の通電を行い低保磁力部26の磁束量を減磁させる減磁磁界を発生させることができる。あるいは、ECU90は、励磁コイル37にパルス波形状の通電を行い低保磁力部26の磁束量を増加させる着磁磁界を発生させることができる。
【0089】
実施形態1のブラシレスモータ10は、低保磁力部26の磁束量を変化することができるため、マグネット23が埋め込まれたロータヨーク22からステータコア31へ鎖交する磁束量を可変することができる。これにより、励磁コイル37に作用する磁束量を変化させたことで、励磁コイル37に生じる誘起電圧を変化させることができる。誘起電圧の変化により、ブラシレスモータ10は、誘起電圧と電源電圧との釣り合いで決定される最大回転数を変化させることができる。このため、ブラシレスモータ10は、高回転領域と低回転領域とで低保磁力部の磁束量を変化させ、所望の回転数とトルクとを得ることができる。
【0090】
上述したブラシレスモータ10は、補助操舵トルクを得る電動パワーステアリング用電動機である。このため、ブラシレスモータ10は、操舵者が受ける操舵のフィーリングに影響を与えることを抑制する必要がある。例えば、電動パワーステアリング装置80が搭載される車両が直進する場合、上述したECU90は、操舵者から与えられる力に補助操舵力を加える必要がないとする場合がある。補助操舵トルクが不要であるため、ブラシレスモータ10は、励磁コイル37が通電されていない状態となる。
【0091】
この場合でも、ステアリングホイール81が直進状態に戻る方向の力(セルフアライニングトルク)が出力軸82bから操舵力アシスト機構83へ作用する。このため、ブラシレスモータ10は、電力が供給されていない状態で、ロータ20が回転する。電力が供給されていない状態でロータ20が回転すると、ロータ20は、回転を阻害される方向にステータ30からロストルクを受ける。このロストルクは、操舵者が受ける操舵のフィーリングに影響を与えるため、小さい方が好ましい。
【0092】
図7は、実施形態1のブラシレスモータの制御ステップを説明するためのフローチャートである。図7に示すように、ECU90は、アシスト指令が有る場合(ステップS11、Yes)、処理をステップS15へ進める。ECU90は、アシスト指令がない場合(ステップS11、No)、処理をステップS12へ進める。
【0093】
ECU90は、ステップS12において、上述した低保磁力部26の磁束量を減じるよう、励磁コイル37が減磁磁界を発生するようにブラシレスモータ10へ電力を供給する。これにより、ECU90は、減磁磁界の制御を行う減磁磁界制御ステップを実行する(ステップS12)。減磁磁界は、高保磁力部27の磁束量を減じず、低保磁力部26の磁束量を減じるような磁界であることが好ましい。
【0094】
図5に示すように一対のセグメント磁石23Aとセグメント磁石23Bと(セグメント磁石23Cとセグメント磁石23Dと)は、マグネット収容孔24に収容され、中心軸Zrからみてロータヨーク22の外周に広がるV字状に配列されている。励磁コイル37は、低保磁力部26の極性の逆向きに、低保磁力部26の保磁力を超えた減磁磁界を形成する。
【0095】
また、低保磁力部26が高保磁力部27よりもロータヨーク22の外周側となっている。このため、励磁コイル37は、減磁磁界を高保磁力部27よりも低保磁力部26により作用させることができる。その結果、減磁磁界を発生させるために、励磁コイル37へ供給される電力量を抑制することができる。
【0096】
次に、ECU90は、アシスト指令がない場合(ステップS13、No)、ブラシレスモータ10は、電力が供給されていない状態とし、アシスト指令の待機状態となる。そして、ステアリングホイール81が直進状態に戻る方向の力(セルフアライニングトルク)が出力軸82bから操舵力アシスト機構83へ作用する。
【0097】
例えば、図5に示す低保磁力部26の磁束量を減じると、セグメント磁石23A、セグメント磁石23B、セグメント磁石23C及びセグメント磁石23Dは、ステータコア31へ影響を与える磁束量を低減できる。そして、ロータヨーク22の閉磁路での磁束量が小さくなると、ロストルクの要因となるロータヨーク22のヒステリシス損を低減することができる。
【0098】
このため、ブラシレスモータ10は、電力が供給されていない状態で、ロータ20が回転しても、ロータ20が回転を阻害される方向にステータ30から受けるロストルクを低減することができる。その結果、操舵者が受ける操舵のフィーリングに与える影響を抑制することができる。
【0099】
また、図5に示す低保磁力部26の磁束量を減じると、フラックスバリア25近傍の磁束量を減じることができる。その結果、ロータヨーク22の外周に生じていた磁気的凸部と磁気的凹部との磁束量の差が抑制され、ロストルクのリップルを低減することができる。そして、電動パワーステアリング装置80は、操舵者が受ける操舵のフィーリングに与える影響を抑制することができる。
【0100】
次に、ECU90は、アシスト指令が有る場合(ステップS13、Yes)、処理をステップS14へ進める。ブラシレスモータ10は、低保磁力部26の磁束量が低減されている状態で、ブラシレスモータ10へ電力を供給すると、ロータ20の起動トルクが小さくなるおそれがある。
【0101】
ECU90は、ステップS12において、上述した低保磁力部26の磁束量を増加するよう、励磁コイル37が着磁磁界を発生するようにブラシレスモータ10へ電力を供給する。これにより、ECU90は、着磁磁界の制御を行う着磁磁界制御ステップを実行する(ステップS14)。
【0102】
図5に示すように一対のセグメント磁石23Aとセグメント磁石23Bと(セグメント磁石23Cとセグメント磁石23Dと)は、マグネット収容孔24に収容され、中心軸Zrからみてロータヨーク22のギャップLg側に広がるV字状に配列されている。励磁コイル37は、図5に示す低保磁力部26の極性の向きに、低保磁力部26の保磁力を超えた着磁磁界を形成する。
【0103】
また、低保磁力部26が高保磁力部27よりもロータヨーク22のギャップLg側となっている。このため、励磁コイル37は、着磁磁界を高保磁力部27よりも低保磁力部26により作用させることができる。その結果、着磁磁界を発生させるために、励磁コイル37へ供給される電力量を抑制することができる。
【0104】
次に、ECU90は、処理をステップS15へ進める。ECU90は、操舵トルクTと走行速度Vとに基づいてアシスト指令の補助操舵指令値を算出する。そして、ECU90は、その算出された補助操舵指令値に基づいてブラシレスモータ10へ供給する電力値を調節する。調節された電力が供給された励磁コイル37が励磁磁界を発生し、ECU90は、励磁磁界を制御する(ステップS15)。これにより、ブラシレスモータ10は、作り出した補助操舵トルクを減速装置92に伝える。
【0105】
以上説明したように、制御手段であるECU90は、ステータコア31を励磁しない状態でロータヨーク22が外力により回転する場合、低保磁力部26の磁束量を低減させる減磁の制御を行う減磁磁界制御ステップを実行する。
【0106】
例えば、低保磁力部26の磁束量を低減した状態では、マグネット23が埋め込まれたロータヨーク22からステータコア31へ鎖交する磁束量が小さくなる。このため、ステータコア31で生じる磁区が向きを変えるときのヒステリシス損が緩和される。ヒステリシス損は、ブラシレスモータ10が空回りした場合のロストルクの増加の要因となる。つまり、上記構成により、電動パワーステアリング装置80は、励磁コイル37に通電されていない状態で、ロータ20が回転させられる場合において、ロータ20の回転に対する摩擦力を小さくすることができる。その結果、実施形態1の電動パワーステアリング装置80は、ブラシレスモータ10が空回りした場合のロストルクの増加を抑制することができる。
【0107】
(実施形態2)
図8は、実施形態2のブラシレスモータの制御ステップを説明するためのフローチャートである。実施形態2のブラシレスモータ10は、ロータ20の回転数に応じて、ECU90が減磁磁界を制御する。なお、上述した実施形態で説明したものと同じ構成要素には同一の符号を付して重複する説明は省略する。
【0108】
図8に示すように、上述したECU90は、操舵トルクTと走行速度Vとに基づいてアシスト指令の補助操舵指令値を算出する。そして、ECU90は、その算出された補助操舵指令値に基づいてブラシレスモータ10へ供給する電力値を調節する。調節された電力が供給された励磁コイル37が励磁磁界を発生し、ECU90は、励磁磁界を制御する第1の励磁磁界制御ステップを実行する(ステップS21)。
【0109】
図9は、実施形態2のブラシレスモータの回転数とトルクとの関係を示す説明図である。図9では、横軸にロータ20の回転数、縦軸にロータ20のトルクをとり、低保磁力部26が磁化されているトルク回転数曲線Tn1と、低保磁力部26が減磁されているトルク回転数曲線Tn2と、が例示されている。例えば、トルク回転数曲線Tn1とトルク回転数曲線Tn2との交点の回転数を閾値Pとし、閾値Pより低回転の領域をMN、閾値P以上の高回転の領域をNFとする。
【0110】
上述したステップS21では、低保磁力部26が磁化されている状態である。このため、トルク回転数曲線Tn1に示すように回転数が上昇してくると、ロータ20の回転により励磁コイル37に生じる誘起電圧と電源電圧とが釣り合い回転数の上限に達してしまう。そこで、ECU90は、レゾルバ14からのロータ20の回転位置の検出情報に基づいて、回転数を演算し、ロータ20が図9に示す所定の閾値Pの回転数以上であるかどうかを監視する。
【0111】
ECU90は、ロータ20が図9に示す所定の閾値Pの回転数よりも低回転数で回転する場合(ステップS22、No)、処理をステップS21へ戻し、励磁磁界の制御を継続する。ECU90は、ロータ20が図9に示す所定の閾値Pの回転数以上の高回転数で回転する場合(ステップS22、Yes)、処理をステップS23へ進める。
【0112】
ECU90は、ステップS23において、上述した低保磁力部26の磁束量を減じるよう、励磁コイル37が減磁磁界を発生するようにブラシレスモータ10へ電力を供給する。これにより、ECU90は、減磁磁界の制御を行う減磁磁界制御ステップを実行する(ステップS23)。減磁磁界は、高保磁力部27の磁束量を減じず、低保磁力部26の磁束量を減じるような磁界であることが好ましい。
【0113】
次に、ECU90は、操舵トルクTと走行速度Vとに基づいてアシスト指令の補助操舵指令値を算出する。そして、ECU90は、その算出された補助操舵指令値に基づいてブラシレスモータ10へ供給する電力値を調節する。調節された電力が供給された励磁コイル37が励磁磁界を発生し、ECU90は、励磁磁界を制御する第2の励磁磁界制御ステップを実行する(ステップS24)。
【0114】
図9に示すように、低保磁力部26の磁束量を減じると、ロータ20は、トルク回転数曲線Tn2の挙動を示すようになる。このため、誘起電圧が電源電圧の上限に達してしまうおそれが抑制され、出力であるトルクが大幅に低下するおそれを低減することができる。次に、ECU90は、レゾルバ14からのロータ20の回転位置の検出情報に基づいて、回転数を演算し、ロータ20が図9に示す所定の閾値Pの回転数以上であるかどうかを監視する。
【0115】
ECU90は、ロータ20が図9に示す所定の閾値Pの回転数以上の高回転数で回転する場合(ステップS25、No)、処理をステップS23へ戻し、励磁磁界の制御を継続する。ECU90は、ロータ20が図9に示す所定の閾値Pの回転数よりも低回転数で回転する場合(ステップS25、Yes)、処理をステップS25へ進める。
【0116】
ECU90は、ステップS26において、上述した低保磁力部26の磁束量を増加するよう、励磁コイル37が着磁磁界を発生するようにブラシレスモータ10へ電力を供給する。これにより、ECU90は、着磁磁界の制御を行う着磁磁界制御ステップを実行する(ステップS26)。
【0117】
次に、ECU90は、処理をステップS27へ進める。ECU90は、操舵トルクTと走行速度Vとに基づいてアシスト指令の補助操舵指令値を算出する。そして、ECU90は、その算出された補助操舵指令値に基づいてブラシレスモータ10へ供給する電力値を調節する。調節された電力が供給された励磁コイル37が励磁磁界を発生し、ECU90は、励磁磁界を制御する第3の励磁磁界制御ステップを実行する(ステップS27)。図9に示すように、低保磁力部26の磁束量を増加すると、ロータ20は、トルク回転数曲線Tn1の挙動を示すようになる。これにより、ブラシレスモータ10は、作り出した補助操舵トルクを減速装置92に伝える。
【0118】
以上説明したように制御手段であるECU90は、励磁コイル37の誘起電圧が電源電圧の上限に達しないように定められたブラシレスモータ10の回転数の閾値P以上となる場合、低保磁力部26の磁束量を低減させる減磁の制御を行う減磁磁界制御ステップを実行する。
【0119】
上記構成により、マグネット23が埋め込まれたロータヨーク22からステータコア31へ鎖交する磁束量を抑制し、励磁コイル37に作用する磁束量が小さくなる。このため、励磁コイル37に作用する磁束量が低下した分、誘起電圧の増加の余裕が生じる。上述したブラシレスモータ10のような永久磁石回転電動機では、ロータ20の回転数に比例して誘起電圧は増加する。そこで、ブラシレスモータ10は、誘起電圧と電源電圧との釣り合いで決定される最大回転数を増加させることができる。その結果、実施形態2の電動パワーステアリング装置80は、高回転領域において誘起電圧が電源電圧に達してしまうおそれを抑制し、ロータの可変速領域を拡大することができる。
【0120】
(実施形態3)
図10は、実施形態3のブラシレスモータの制御ステップを説明するためのフローチャートである。実施形態3のブラシレスモータ10は、ロータ20の回転方向の変化に応じて、ECU90が減磁磁界を制御する。なお、上述した実施形態で説明したものと同じ構成要素には同一の符号を付して重複する説明は省略する。
【0121】
図10に示すように、上述したECU90は、操舵トルクTと走行速度Vとに基づいてアシスト指令の補助操舵指令値を算出する。そして、ECU90は、その算出された補助操舵指令値に基づいてブラシレスモータ10へ供給する電力値を調節する。調節された電力が供給された励磁コイル37が励磁磁界を発生し、ECU90は、順方向の励磁磁界を制御する(ステップS31)。
【0122】
また、ステアリングシャフト82の回転方向に応じて、ステアリングコラムの出力軸82bに補助する補助操舵トルクの方向を逆転させる必要がある場合がある。ECU90は、アシスト指令におけるロータ20の回転方向が順方向である、つまり逆方向ではない場合(ステップS32、No)、処理をステップS31へ戻し、順方向の励磁磁界の制御を継続する。ECU90は、アシスト指令におけるロータ20の回転方向が逆方向である場合(ステップS32、Yes)、処理をステップS33へ進める。
【0123】
ECU90は、ステップS33において、上述した低保磁力部26の磁束量を減じるよう、励磁コイル37が減磁磁界を発生するようにブラシレスモータ10へ電力を供給する。これにより、ECU90は、減磁磁界の制御を行う(ステップS33)。減磁磁界は、高保磁力部27の磁束量を減じず、低保磁力部26の磁束量を減じるような磁界であることが好ましい。
【0124】
低保磁力部26の磁束量を減じているため、セグメント磁石23A、セグメント磁石23B、セグメント磁石23C及びセグメント磁石23Dは、ステータコア31へ影響を与える磁束量を低減できる。そして、励磁コイル37に生じる逆起電圧が小さくなり、励磁コイル37がロータ20に与える電磁ブレーキのショックが低減する。その結果、操舵者が受ける操舵のフィーリングに与える影響を抑制することができる。次に、ECU90は、処理をステップS34に進める。
【0125】
ECU90は、ステップS34において、上述した低保磁力部26の磁束量を増加するよう、励磁コイル37が着磁磁界を発生するようにブラシレスモータ10へ電力を供給する。これにより、ECU90は、着磁磁界の制御を行う(ステップS34)。
【0126】
次に、ECU90は、操舵トルクTと走行速度Vとに基づいてアシスト指令の補助操舵指令値を算出する。そして、ECU90は、その算出された補助操舵指令値に基づいてブラシレスモータ10へ供給する電力値を調節する。調節された電力が供給された励磁コイル37が励磁磁界を発生し、ECU90は、逆方向の励磁磁界を制御する(ステップS35)。これにより、ブラシレスモータ10は、作り出した補助操舵トルクを減速装置92に伝える。実施形態3のブラシレスモータ10は、ロータ20の回転方向が順方向から逆方向へ変化する場合に応じて、ECU90が減磁磁界を制御する例について説明している。実施形態3のブラシレスモータ10は、ロータ20の回転方向が逆方向から順方向へ変化する場合に応じて、ECU90が減磁磁界を制御することもできる。
【0127】
上述したように制御手段であるECU90は、ブラシレスモータ10を逆回転させる前に、低保磁力部26の磁束量を低減させる減磁の制御を行う減磁磁界制御ステップを実行する。
【0128】
ブラシレスモータ10を逆回転させる場合、瞬時に誘起電圧(逆起電圧)がモータのドライブ回路に印加され、ドライブ回路に負荷を生じさせるおそれがある。上記構成により、励磁コイル37に作用する磁束量が低下した分、誘起電圧を低減できるので、誘起電圧(逆起電圧)が低下し、モータのドライブ回路に印加され、ドライブ回路に負荷を生じさせるおそれを低減する。
【0129】
また、ブラシレスモータ10を逆回転させる場合、ロータ20に逆作動トルクを生じさせるおそれがあるため、操舵者が受ける操舵のフィーリングに影響を与えるおそれもある。上記構成により、励磁コイル37に作用する磁束量が低下した分、誘起電圧を低減できるので、誘起電圧(逆起電圧)が低下し、ロータ20に逆作動トルクを低減する。その結果、操舵者が受ける操舵のフィーリングに影響を与えるおそれを抑制することができる。
【0130】
(実施形態4)
図11は、実施形態4のブラシレスモータの制御ステップを説明するためのフローチャートである。実施形態4のブラシレスモータ10は、定期的にECU90が着磁磁界を制御する。なお、上述した実施形態で説明したものと同じ構成要素には同一の符号を付して重複する説明は省略する。
【0131】
図11に示すように、上述したECU90は、操舵トルクTと走行速度Vとに基づいてアシスト指令の補助操舵指令値を算出する。そして、ECU90は、その算出された補助操舵指令値に基づいてブラシレスモータ10へ供給する電力値を調節する。調節された電力が供給された励磁コイル37が励磁磁界を発生し、ECU90は、励磁磁界を制御する(ステップS41)。
【0132】
ECU90は、ステップS41における経過時間を計測しており、経過時間が一定時間に達していない場合(ステップS42、No)、処理をステップS41へ戻し、励磁磁界の制御を継続する。ECU90は、経過時間が一定時間に達した場合(ステップS42、Yes)、処理をステップS43へ進める。
【0133】
ECU90は、ステップS43において、上述した低保磁力部26の磁束量を増加するよう、励磁コイル37が着磁磁界を発生するようにブラシレスモータ10へ電力を供給する。これにより、ECU90は、着磁磁界の制御を行う着磁磁界制御ステップを実行する(ステップS43)。これにより、相対的に保磁力の低い低保磁力部26の保磁力が意図しない減磁をするおそれを低減することができる。
【0134】
ECU90は、処理を終了しない場合(ステップS44、No)、処理をステップS41へ戻し、励磁磁界の制御を継続する。ECU90は、処理を終了する場合(ステップS44、Yes)、処理を終了する。
【0135】
上述したように、制御手段であるECU90は、定期的に、低保磁力部26の磁束量を増加させる着磁の制御を行う着磁磁界制御ステップを実行する。
【0136】
上記構成により、電動パワーステアリング装置80は、意図しない低保磁力部26の減磁による磁束量の不足のおそれを抑制することができる。このため、電動パワーステアリング装置80は、いわゆる低速回転領域でトルクが必要な場合の駆動の信頼性を高めることができる。
【0137】
(実施形態5)
図12は、実施形態5のブラシレスモータの制御ステップを説明するためのフローチャートである。実施形態5のブラシレスモータ10は、低保磁力部26の保磁力が意図しない減磁をする場合にECU90が着磁磁界を制御する。なお、上述した実施形態で説明したものと同じ構成要素には同一の符号を付して重複する説明は省略する。
【0138】
図12に示すように、上述したECU90は、操舵トルクTと走行速度Vとに基づいてアシスト指令の補助操舵指令値を算出する。そして、ECU90は、その算出された補助操舵指令値に基づいてブラシレスモータ10へ供給する電力値を調節する。調節された電力が供給された励磁コイル37が励磁磁界を発生し、ECU90は、励磁磁界を制御する(ステップS51)。
【0139】
ECU90は、励磁コイル37の誘起電圧を計測しており、所定の誘起電圧に達しており、低保磁力部26の保磁力が意図しない減磁をしていない場合(ステップS52、No)、処理をステップS51へ戻し、励磁磁界の制御を継続する。ECU90は、励磁コイル37の誘起電圧が所定の誘起電圧に達しておらず、低保磁力部26の保磁力が意図しない減磁をしている場合(ステップS52、Yes)、つまり、ECU90は、低保磁力部26の磁束量を低減させる減磁の制御を行っていないときに保磁力部26が減磁している場合、処理をステップS53へ進める。
【0140】
ECU90は、ステップS53において、上述した低保磁力部26の磁束量を増加するよう、励磁コイル37が着磁磁界を発生するようにブラシレスモータ10へ電力を供給する。これにより、ECU90は、着磁磁界の制御を行う着磁磁界制御ステップを実行する(ステップS53)。これにより、相対的に保磁力の低い低保磁力部26の保磁力が意図しない減磁をするおそれを低減することができる。
【0141】
ECU90は、処理を終了しない場合(ステップS54、No)、処理をステップS51へ戻し、励磁磁界の制御を継続する。ECU90は、処理を終了する場合(ステップS54、Yes)、処理を終了する。
【0142】
上述したように、制御手段であるECU90は、制御手段は、低保磁力部26が意図せず減磁していると判断する場合、低保磁力部26の磁束量を増加させる着磁の制御を行う着磁磁界制御ステップを実行する。
【0143】
上記構成により、電動パワーステアリング装置80は、意図しない低保磁力部26の減磁による磁束量の不足のおそれを抑制することができる。このため、電動パワーステアリング装置80は、いわゆる低速回転領域でトルクが必要な場合の駆動の信頼性を高めることができる。
【0144】
(実施形態6)
図13は、実施形態6のブラシレスモータの制御ステップを説明するためのフローチャートである。実施形態6のブラシレスモータ10は、励磁コイル37のショートが生じているおそれがある場合にECU90が減磁磁界を制御する。なお、上述した実施形態で説明したものと同じ構成要素には同一の符号を付して重複する説明は省略する。
【0145】
図13に示すように、上述したECU90は、操舵トルクTと走行速度Vとに基づいてアシスト指令の補助操舵指令値を算出する。そして、ECU90は、その算出された補助操舵指令値に基づいてブラシレスモータ10へ供給する電力値を調節する。調節された電力が供給された励磁コイル37が励磁磁界を発生し、ECU90は、励磁磁界を制御する第1の励磁磁界制御ステップを実行する(ステップS61)。
【0146】
ECU90は、励磁コイル37の抵抗値を計測しており、所定範囲の抵抗値であって、励磁コイル37のショートのおそれがない場合(ステップS62、No)、処理をステップS61へ戻し、励磁磁界の制御を継続する。ECU90は、励磁コイル37の抵抗値が所定範囲の抵抗値ではなく、励磁コイル37のショートのおそれがある場合(ステップS62、Yes)、処理をステップS63へ進める。
【0147】
ECU90は、ステップS33において、上述した低保磁力部26の磁束量を減じるよう、励磁コイル37が減磁磁界を発生するようにブラシレスモータ10へ電力を供給する。これにより、ECU90は、減磁磁界の制御を行う減磁磁界制御ステップを実行する(ステップS63)。減磁磁界は、高保磁力部27の磁束量を減じず、低保磁力部26の磁束量を減じるような磁界であることが好ましい。
【0148】
低保磁力部26の磁束量を減じているため、セグメント磁石23A、セグメント磁石23B、セグメント磁石23C及びセグメント磁石23Dは、ステータコア31へ影響を与える磁束量を低減できる。そして、励磁コイル37に生じる逆起電圧が小さくなり、励磁コイル37がロータ20に与える電磁ブレーキのショックが低減する。その結果、操舵者が受ける操舵のフィーリングに与える影響を抑制することができる。次に、ECU90は、処理をステップS64及びステップS65に進める。
【0149】
ECU90は、ステップS64において、操舵者へ表示又は警告音等で励磁コイル37のショートのおそれがあることを警告する。ECU90は、操舵トルクTと走行速度Vとに基づいてアシスト指令の補助操舵指令値を算出する。そして、ECU90は、その算出された補助操舵指令値に基づいてブラシレスモータ10へ供給する電力値を調節する。調節された電力が供給された励磁コイル37が励磁磁界を発生し、ECU90は、励磁磁界を制御する第2の励磁磁界制御ステップを実行する(ステップS65)。
【0150】
上述したように制御手段であるECU90は、励磁コイル37のショート時に、低保磁力部26の磁束量を低減させる減磁の制御を行う減磁磁界制御ステップを実行する。
【0151】
上記構成により、電動パワーステアリング装置80は、励磁コイル37のショートの影響を抑制した状態で、ブラシレスモータ10の駆動を継続することができる。このため、励磁コイル37のショートの影響を抑制するためのリレー回路が不要となり、電動パワーステアリング装置80は、製造コストを低減することができる。また、リレー回路がある場合、電動パワーステアリング装置80は、リレー回路の動作中無通電状態でも、ショートコイルに鎖交するマグネットの磁束量を低減することができる。このため、電動パワーステアリング装置80は、電磁ブレーキトルクが低減し、外力によりブラシレスモータ10を回転させることができる。
【0152】
以上のように、本実施形態の電動パワーステアリング装置の電動機制御装置は、コラムアシスト方式を例にして説明しているが、ピニオンアシスト方式及びラックアシスト方式についても適用することができる。
【符号の説明】
【0153】
10 ブラシレスモータ
11 ハウジング
11a 筒状ハウジング
11b フロントブラケット
11c 底部
11d 内周面
12、13 軸受
14 レゾルバ
14a レゾルバロータ
14b レゾルバステータ
15 端子台
20 ロータ
21 シャフト
22 ロータヨーク
23 マグネット
30 ステータ
31 ステータコア
32 分割コア
33 バックヨーク
34 ティース
37 励磁コイル
37a インシュレータ
80 電動パワーステアリング装置
81 ステアリングホイール
82 ステアリングシャフト
82a 入力軸
82b 出力軸
83 操舵力アシスト機構
84、86 ユニバーサルジョイント
85 ロアシャフト
87 ピニオンシャフト
88 ステアリングギヤ
88a ピニオン
88b ラック
89 タイロッド
90 ECU
91a トルクセンサ
91b 車速センサ
92 減速装置
93 減速装置ハウジング
94 ウォーム
94a ウォーム歯
95a、95b 玉軸受
96 ウォームホイール
96a ウォームホイール歯
97 ホルダ
98 イグニッションスイッチ
99 電源装置
Zr 中心軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロータヨークと、
前記ロータヨークの外側にギャップを有して環状に配置されるステータコアと、
低保磁力部と前記低保磁力部よりも保磁力が高い高保磁力部とを含み、前記低保磁力部が前記高保磁力部よりも前記ギャップ側となるように前記ロータヨークに埋め込まれるマグネットと、
前記ステータコアを励磁し、かつ前記低保磁力部の磁束量を変化させるための磁界を発生させる励磁コイルと、
を含むことを特徴とする電動機。
【請求項2】
ロータヨークと、前記ロータヨークの外側にギャップを有して環状に配置されるステータコアと、低保磁力部と前記低保磁力部よりも保磁力が高い高保磁力部とを含み、前記低保磁力部が前記高保磁力部よりも前記ギャップ側となるように前記ロータヨークに埋め込まれるマグネットと、前記ステータコアを励磁し、かつ前記低保磁力部の磁束量を変化させるための磁界を発生させる励磁コイルと、を含む電動機と、
前記励磁コイルの通電を制御する制御手段と、
を含むことを特徴とする電動機制御装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記ステータコアを励磁しない状態で前記ロータヨークが外力により回転する場合、前記低保磁力部の磁束量を低減させる減磁の制御を行う請求項2に記載の電動機制御装置。
【請求項4】
前記制御手段は、低保磁力部の磁束量を低減させる減磁の制御を行っていないときに前記保磁力部が減磁している場合、前記低保磁力部の磁束量を増加させる着磁の制御を行う請求項2または請求項3に記載の電動機制御装置。
【請求項5】
前記制御手段は、定期的に、前記低保磁力部の磁束量を増加させる請求項2から請求項4のいずれか1項に記載の電動機制御装置。
【請求項6】
前記制御手段は、前記励磁コイルのショート時に、前記低保磁力部の磁束量を低減させる請求項2から請求項5のいずれか1項に記載の電動機制御装置。
【請求項7】
前記制御手段は、前記励磁コイルの誘起電圧が電源電圧の上限に達しないように定められた前記電動機の回転数の閾値以上の場合、前記低保磁力部の磁束量を低減させる請求項2から請求項6のいずれか1項に記載の電動機制御装置。
【請求項8】
前記制御手段は、前記電動機を逆回転させる前に、前記低保磁力部の磁束量を低減させる請求項2から請求項7のいずれか1項に記載の電動機制御装置。
【請求項9】
前記電動機は、補助操舵トルクを得る電動パワーステアリング用電動機である請求項2から請求項8のいずれか1項に記載の電動機制御装置。
【請求項10】
補助操舵トルクを得る電動パワーステアリング用電動機と、電動パワーステアリング用電動機を制御する制御手段とを含み、
前記電動パワーステアリング用電動機は、ロータヨークと、前記ロータヨークの外側にギャップを有して環状に配置されるステータコアと、低保磁力部と前記低保磁力部よりも保磁力が高い高保磁力部とを含み、前記低保磁力部が前記高保磁力部よりも前記ギャップ側となるように前記ロータヨークに埋め込まれるマグネットと、前記ステータコアを励磁し、かつ前記低保磁力部の磁束量を変化させるための磁界を発生させる励磁コイルと、を含むことを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項11】
前記制御手段は、前記補助操舵トルクが不要であってかつ前記ステータコアを励磁しない状態で前記ロータヨークが回転する場合、前記低保磁力部の磁束量を低減させる減磁の制御を行う請求項10に記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項12】
前記制御手段は、低保磁力部の磁束量を低減させる減磁の制御を行っていないときに前記保磁力部が減磁している場合、前記低保磁力部の磁束量を増加させる着磁の制御を行う請求項10または請求項11に記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項13】
前記制御手段は、前記定期的に、前記低保磁力部の磁束量を増加させる請求項10から請求項12のいずれか1項に記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項14】
前記制御手段は、前記励磁コイルのショート時に、前記低保磁力部の磁束量を低減させる請求項10から請求項13のいずれか1項に記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項15】
前記制御手段は、前記励磁コイルの誘起電圧が電源電圧の上限に達しないように定められた前記電動パワーステアリング用電動機の回転数の閾値以上の場合、前記低保磁力部の磁束量を低減させる請求項10から請求項14のいずれか1項に記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項16】
前記制御手段は、前記電動機を逆回転させる前に、前記低保磁力部の磁束量を低減させる請求項10から請求項15のいずれか1項に記載の電動パワーステアリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2013−81311(P2013−81311A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−220331(P2011−220331)
【出願日】平成23年10月4日(2011.10.4)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】