説明

電動機の冷却媒体排出構造及び電動機

【課題】冷却媒体で電動機を冷却するにあたって、電動機の筐体内に滞留して排出されない冷却媒体を低減することを目的とすること。
【解決手段】電動機1は、筐体6の第1フランジ65に設けられて、冷却媒体を通過させる第1の排出口27と、第1フランジ65に設けられて、軸受7Bを通過した筐体6の内部の冷却媒体を通過させる第2の排出口30と、第1の排出口27及び第2の排出口30を通過した冷却媒体を筐体6の外部へ排出する排出通路32と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動機を油で冷却する電動機の冷却媒体排出構造及び電動機に関する。
【背景技術】
【0002】
電動機は様々な用途に用いられるが、ステーターが有するコイルのジュール発熱及びローターコアの渦電流損失及びヒステリシス損失等によって発熱する。電動機を冷却するため、例えば、油等の冷却媒体を用いて電動機を冷却する技術が記載されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−020337号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載された技術は、電動モータ(電動機)内から冷却液(冷却媒体)を排出する冷却液導出口を有しているが、この冷却液導出口は、電動機モータのモータハウジング(筐体)の側部に設けられているため、電動機の冷却中において、底部の冷却液を排出し切れないおそれがある。その結果、電動機の筐体内に冷却媒体が残留して、入れ替わらない冷却媒体が発生するおそれがある。本発明は、冷却媒体で電動機を冷却するにあたって、電動機の筐体内に滞留して排出されない冷却媒体を低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、筐体内にローターコアが取り付けられるシャフトが配置される電動機を冷却した冷却媒体を前記筐体から排出するにあたり、軸受を介して前記シャフトを支持し、かつ前記筐体の一方の端部に配置される端部側部材に設けられて、前記筐体内の冷却媒体を通過させる第1の排出口と、前記端部側部材に設けられ、かつ前記端部側部材に支持される軸受を通過した前記筐体内の冷却媒体を通過させる第2の排出口と、前記第1の排出口及び前記第2の排出口を通過した前記冷却媒体を前記筐体の外部へ排出する排出通路と、を含むことを特徴とする電動機の冷却媒体排出構造である。
【0006】
本発明の望ましい態様として、前記第1の排出口の開口面積は、前記第2の排出口の開口面積よりも大きいことが好ましい。
【0007】
本発明の望ましい態様として、前記第1の排出口は、前記筐体の内周面よりも内側に設けられることが好ましい。
【0008】
本発明の望ましい態様として、前記排出通路は、前記シャフトの径方向外側に向かって延在することが好ましい。
【0009】
本発明の望ましい態様として、前記第1の排出口は、前記シャフトの径方向と直交する方向における寸法よりも前記シャフトの径方向と平行な方向における寸法の方が大きいことが好ましい。
【0010】
本発明の望ましい態様として、前記端部側部材は、前記筐体の一方の端部に取り付けられる円板形状の部材であることが好ましい。
【0011】
本発明の望ましい態様として、前記排出通路は、前記冷却媒体から異物を取り除くフィルターを有することが好ましい。
【0012】
本発明の望ましい態様として、前記排出通路は、前記第1の排出口と前記第2の排出口とで共通であることが好ましい。
【0013】
本発明は、前記電動機の冷却媒体排出構造を備えることを特徴とする電動機である。
【0014】
本発明は、筐体内にローターコアが取り付けられるシャフトが配置される建設機械の上部旋回体を回転駆動する電動機であって、軸受を介して前記シャフトを支持し、かつ前記筐体の一方の端部に配置される端部側部材であって前記筐体の内周面よりも内側に設けられて、前記筐体内の冷却媒体を通過させる第1の排出口と、前記端部側部材に設けられ、かつ前記端部側部材に支持される軸受を通過した前記筐体内の冷却媒体を通過させる第2の排出口と、前記シャフトの径方向外側に向かって延在して、前記第1の排出口及び前記第2の排出口を通過した前記冷却媒体を前記筐体の外部へ排出する排出通路と、を含み、前記第1の排出口は、開口面積が前記第2の排出口の開口面積よりも大きく、前記シャフトの径方向と直交する方向における寸法よりも前記シャフトの径方向と平行な方向における寸法の方が大きいことを特徴とする電動機である。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、冷却媒体で電動機を冷却するにあたって、電動機の筐体内に滞留して排出されない冷却媒体を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、旋回用の電動機に本実施形態に係る電動機を用いたハイブリッド油圧ショベルを示す平面図である。
【図2】図2は、本実施形態に係る電動機の冷却構造を示す模式図である。
【図3】図3は、本実施形態に係る電動機を示す正面図である。
【図4】図4は、本実施形態に係る電動機の平面図である。
【図5】図5は、図4のV−V矢視図である。
【図6】図6は、図3のVI−VI矢視図である。
【図7】図7は、図5のA−A矢視図である。
【図8】図8は、図5のB−B矢視図である。
【図9】図9は、図5のC−C矢視図である。
【図10】図10は、電動機が水平面に対して傾斜した状態における冷却媒体の液面の状態を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明を実施するための形態(実施形態)につき、図面を参照しつつ詳細に説明する。以下の実施形態に記載した内容により本発明が限定されるものではない。また、以下に記載した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のものが含まれる。さらに、以下に記載した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。
【0018】
<ハイブリッド油圧ショベル>
図1は、旋回用の電動機に本実施形態に係る電動機を用いたハイブリッド油圧ショベルを示す平面図である。ハイブリッド油圧ショベル10は、下部走行体をなす左右一対の履帯11と、上部旋回体12と、下部走行体と上部旋回体12とを連結するスイングサークル13と、旋回モータとして機能する電動機1と、スイングピニオン1Aと、ブーム14、アーム15及びバケット16を含むとともに上部旋回体12に取り付けられた作業機17とを有する。
【0019】
左右一対の履帯11は、右走行油圧モータと左走行油圧モータとにより駆動されて、ハイブリッド油圧ショベル10を走行させる。上部旋回体12は、旋回モータとして機能する電動機1により旋回する。上部旋回体12にはスイングサークル13のアウターレースが固定されており、下部走行体にはスイングサークル13のインナーレースが固定されている。このような構造によって、スイングサークル13は上部旋回体12と下部走行体とを連結する。電動機1は、縦置き、すなわち、ハイブリッド油圧ショベル10を水平面に設置した場合において、電動機1の入出力シャフトが重力の作用する方向に向かうように設置される。電動機1の入出力シャフトは、減速機構を備えたスイングマシナリを介してスイングピニオン1Aと連結している。スイングピニオン1Aは、スイングサークル13のインナーレースに取り付けられた内歯に噛み合っている。電動機1の駆動力は、前記スイングマシナリを介してスイングピニオン1Aに伝達されて、上部旋回体12を旋回させる。ブーム14、アーム15及びバケット16は、図示しない油圧ポンプから圧送される作動油によって、コントロールバルブを介して各々ブーム14用、アーム15用、バケット16用の油圧シリンダによって駆動されて、掘削等の作業を実行する。
【0020】
このハイブリッド油圧ショベル10は、内燃機関で発電機及び油圧ポンプを駆動するとともに、発電機の電力で図示しないインバータを介して電動機1を駆動して、上部旋回体12を旋回させる。さらに、ハイブリッド油圧ショベル10は、電動機1を発電機として用いて、上部旋回体12を停止させる際に必要な制動力を発生させるとともに、前記制動力によって電動機1が発電した電力を、キャパシタ又は二次電池等の蓄電装置に蓄える。このように、ハイブリッド油圧ショベル10は、いわゆるハイブリッド方式の建設車両である。本実施形態においては、電動機1を建設車両の一種であるハイブリッド油圧ショベル10の旋回モータとして用いた例を説明するが、電動機1の適用対象はこれに限定されるものではない。なお、ハイブリッド油圧ショベル10は、内燃機関を有さない方式、すなわち、蓄電装置の電力で駆動される方式であってもよい。次に、本実施形態に係る電動機を説明する。
【0021】
<電動機の冷却構造>
図2は、本実施形態に係る電動機の冷却構造を示す模式図である。電動機1は、例えば、油等の冷却媒体によって冷却されるとともに、前記冷却媒体で軸受7Bを潤滑する。電動機1の冷却構造2は、ポンプ21と、ポンプ用電動機5と、通路22と、軸受用通路23と、ローター用通路28と、油溜まり部39と、排出通路32と、フィルター24と、リリーフ通路25と、リリーフ弁26と、フィルター38とを含む。フィルター38とポンプ21との間には、冷却媒体を冷却する冷却器を設けてもよい。ポンプ21と、ポンプ用電動機5とは、ポンプ用電動機5の入出力軸5Aによって連結されている。ポンプ21の駆動手段は、ポンプ用電動機5以外であってもよく、例えば、図1に示すハイブリッド油圧ショベル10の動力発生源である内燃機関であってもよい。本実施形態において、フィルター24とフィルター38とは電動機1に内蔵されている。
【0022】
電動機1を冷却する場合、ポンプ用電動機5がポンプ21を駆動する。すると、ポンプ21は、排出通路32から冷却媒体を吸引し、通路22に吐出する。冷却媒体は、フィルター24を通過する過程で異物等が取り除かれて、軸受用通路23及びローター用通路28へ流入する。軸受用通路23へ流入した冷却用媒体は、軸受7Bを冷却及び潤滑した後、排出通路32に集められる。ローター用通路28へ流入した冷却媒体は、電動機1のローターコア及びコイルを冷却した後、排出通路32に集められる。排出通路32へ集められた冷却媒体は、フィルター38で異物が取り除かれて、再びポンプ21に吸引され、通路22へ吐出される。
【0023】
通路22は、ポンプ21の吐出口に接続されており、電動機1内でフィルター24の入口側とリリーフ通路25とに分岐する。フィルター24の出口側に設けられた冷却媒体を通過させる通路は、軸受用通路23と、ローター用通路28とに分岐する。軸受用通路23は、軸受7Bに冷却媒体を供給して、これを冷却及び潤滑する。ローター用通路28は、電動機1のローターに冷却媒体を供給し、これを冷却する。なお、冷却構造2は、軸受用通路23を必ずしも有する必要はない。軸受7B及びローター用通路28を冷却等した冷却媒体は、油溜まり部39に集められる。排出通路32は、油溜まり部38とフィルター39とを接続する。油溜まり部39に集められた冷却媒体は、排出通路32内のフィルター38を通過する。フィルター38とポンプ21の入口側とは、冷却媒体を通過させる通路で接続されており、フィルター38を通過した冷却媒体がポンプ21に吸引される。通路22から分岐したリリーフ通路25は、リリーフ弁26の入口に接続される。リリーフ弁26の出口側は、フィルター24の出口側と接続される。
【0024】
例えば、フィルター24が目詰まりして、冷却媒体がフィルター24へ流れにくくなると、通路22及びリリーフ通路25の圧力が上昇する。リリーフ通路25内における冷却媒体の圧力がリリーフ弁26の開弁圧力を超えると、リリーフ弁26が開く。そして、リリーフ弁26は、フィルター24をバイパスして冷却媒体を軸受用通路23及びローター用通路28に流す。このようにして、冷却構造2は、フィルター24が目詰まり等した場合でも、リリーフ弁26が冷却媒体を軸受用通路23及びローター用通路28に流して、軸受7Bの冷却及び潤滑並びにローターコア等の冷却を維持することができる。次に、電動機1の構造を説明する。
【0025】
<電動機>
図3は、本実施形態に係る電動機を示す正面図である。図4は、本実施形態に係る電動機の平面図である。図5は、図4のV−V矢視図である。図6は、図3のVI−VI矢視図である。図3に示すように、電動機1は、筒型形状の筐体6の内部に入出力軸としてのシャフト8と、シャフト8に取り付けられたローターコア82と、ローターコア82の外周部に配置されたステーター9とを有する。すなわち、電動機1は、筒型形状の筐体6内にローターコア82が取り付けられるシャフト8が配置される構造である。シャフト8は、両側に軸受7A、7Bが取り付けられており、軸受7A、7Bを介して筐体6に回転可能に支持される。
【0026】
筐体6は、筒型形状の部材である側部66と、側部66の一方の端部(シャフト8の入出力側における端部)に取り付けられる端部側部材としての第1フランジ65と、側部66の他方の端部に取り付けられる円板形状の第2フランジ61と、を有する。側部66と、第1フランジ65と、第2フランジ61とで囲まれる空間が、筐体6の内部になる。第1フランジ65は、電動機1が使用される状態において、下方(重力の作用する方向側であり、図3、図5においては矢印Gで示す方向側)に配置される。例えば、電動機1が図1に示すハイブリッド油圧ショベル10に搭載される場合、ハイブリッド油圧ショベル10が水平面に接地している状態を電動機1が使用される状態であるとして、その状態において下方となる位置に第1フランジ65が配置される。
【0027】
側部66は、内周面が円筒形状の部材である。側部66には、電動機1を冷却する水を、後述するウォータージャケットに導入するための冷却水導入口613と、前記ウォータージャケットから前記冷却水を排出するための冷却水排出口614とを有する。前記ウォータージャケットには、水以外の冷却媒体、例えば、油等を導入して電動機1を冷却してもよい。
【0028】
第1フランジ65は、円板形状の部材である。第1第1フランジ65は、電動機1の運転中において、筐体6の内部から冷却媒体を排出して、図2に示すポンプ21へ導くための冷却媒体排出口651を有している。また、第1フランジ65は、電動機1を保守・点検する際に、筐体6内の冷却媒体を抜き取るためのドレーン口652を有している。端部側部材としての第1フランジ65は、筐体6の一方の端部に配置されて、シャフト8が貫通している。第1フランジ65から貫通したシャフト8に、動力伝達用のジョイント又は減速機の入力シャフト等が取り付けられる。本実施形態において、第1フランジ65は側部66と別部材であるが、第1フランジ65と側部66とを同一の部材として製造してもよい。
【0029】
第2フランジ61は、電動機1が使用される状態において、上方、すなわち、重力が作用する方向とは反対側に配置される。第2フランジ61は、凸部62と、冷却媒体分配部63と、冷却媒体入口631とを有する。冷却媒体入口631は、図1に示すポンプ21から吐出された冷却媒体を筐体6の内部に導入するためのものである。冷却媒体入口631は、冷却媒体分配部63に接続されている。次に、電動機1の内部構造について説明する。
【0030】
<電動機の内部構造>
図5に示すように、シャフト8に取り付けられた軸受7Aは第1フランジ65に取り付けられ、軸受7Bは第2フランジ61に取り付けられる。軸受7Aは、第1フランジ65側、すなわち、電動機1のシャフト8の入出力側に配置される。シャフト8は、両側に設けられた2つの軸受7A、7Bによって筐体6に回転可能に支持されて、回転中心軸Zrを中心として回転する。回転中心軸Zrは、シャフト8の中心軸である。
【0031】
シャフト8の外周部に取り付けられるローターコア82は、複数の鋼板(電磁鋼板)を積層した構造体である。ローターコア82は、前記鋼板が積層された方向(積層方向)の両側から、バランスプレート83、84によって挟持される。バランスプレート83、84は、ローターコア82を構成する複数の鋼板が分離しないように、シャフト8に取り付けられて、前記複数の鋼板に圧縮力を与えている。第1フランジ65側のバランスプレート84は、第1フランジ65側、すなわち、電動機1のシャフト8の入出力側に配置される。ローターコア82の外周部には、ステーター9が配置される。ステーター9は、筐体6の側部66の内周部に取り付けられる。ステーター9は、ステーターコア91にコイル92が巻き付けられた構造体である。コイル92のステーターコア91から突出した部分が、コイルエンドである。ステーターコア91は、複数の鋼板(電磁鋼板)を積層した構造体である。
【0032】
シャフト8は、中心軸に沿って延在する軸方向通路811と、軸方向通路811からシャフト8の径方向外側に向かって延在してシャフト8の表面に開口する複数の径方向通路812とを有する。軸方向通路811と径方向通路812とが、シャフト内冷却媒体通路813となる。バランスプレート84は、ローターコア82と接する側に凹部841を有する。ローターコア82は、複数の鋼板の積層方向、すなわちシャフト8の中心軸方向に向かってローターコア82を貫通するローターコア貫通孔821を有する。また、ローターコア82は、図示しない複数の永久磁石を有する。第2フランジ61側のバランスプレート83は、シャフト8の中心軸方向に向かうバランスプレート貫通孔831を有する。シャフト内冷却媒体通路813、凹部841、ローターコア貫通孔821及びバランスプレート貫通孔831は、それぞれ連通して冷却媒体が通過する通路となる。これらは、回転体であるシャフト8及びローターコア82に設けられて、冷却媒体を通過させる、回転体側冷却媒体通路となる。
【0033】
第2フランジ61の凸部62は、貫通孔621を有している。貫通孔621は、静止系から回転系であるシャフト8に冷却媒体を供給するための連結部材64を有している。連結部材64は、内部を貫通する冷却媒体導入通路641を有している。冷却媒体導入通路641は、シャフト8の軸方向通路811の開口部と対向しており、軸方向通路811に冷却媒体を導入する。凸部62は、軸受7Bに冷却媒体を供給する軸受側通路623を有する。軸受7Bは、軸受側通路623から冷却媒体が供給される。
【0034】
図6に示すように、凸部62に取り付けられる冷却媒体分配部63は、冷却媒体入口631からの冷却媒体を配分する第1冷却媒体分配通路633と、第2冷却媒体分配通路635と、第3冷却媒体分配通路636と、第4冷却媒体分配通路637とを有する。また、冷却媒体分配部63は、フィルター24を格納するフィルター格納部634と、リリーフ通路25と、リリーフ弁26とを有する。冷却媒体入口631は、第1冷却媒体分配通路633を介してフィルター格納部634とつながっている。
【0035】
第2冷却媒体分配通路635は、フィルター格納部634とつながっており、フィルター24を通過した冷却媒体の一部を連結部材64の冷却媒体導入通路641へ導入する。第2冷却媒体分配通路635と冷却媒体導入通路641とが、図2、図5に示すローター用通路28に相当する。第3冷却媒体分配通路636は、フィルター格納部634とつながっており、フィルター24を通過し、冷却媒体導入通路641へ導入された冷却媒体の残りを、第4冷却媒体分配通路637に導入する。第3冷却媒体分配通路636と、第4冷却媒体分配通路637と、軸受側通路623とが、図2、図5に示す軸受用通路23に相当する。
【0036】
リリーフ通路25は、冷却媒体入口631とリリーフ弁26とを接続している。リリーフ弁26は、フィルター24をバイパスするように、リリーフ通路25と第2冷却媒体分配通路635及び第3冷却媒体分配通路636との間に介在する。リリーフ通路25内の冷却媒体の圧力がリリーフ弁26の開弁圧力を超えるとリリーフ弁26が開き、冷却媒体入口631からの冷却媒体を、フィルター24をバイパスして第2冷却媒体分配通路635及び第3冷却媒体分配通路636に流す。リリーフ弁26の開弁圧力は、例えば、フィルター24が目詰まりして交換が必要になったときにおけるリリーフ通路25内の圧力に設定することができる。このようにすれば、フィルター24が目詰まりして交換が必要になったときであっても、確実に軸受7B及びローターコア82等に冷却媒体を供給することができる。また、リリーフ弁26の開弁圧力を前述したように設定するとともに、リリーフ弁26が開いたことを報知する手段を用意しておけば、リリーフ弁26が開いたことによりフィルター24の交換時期を報知することができる。
【0037】
凸部62、すなわち静止系に軸受用通路23を設けることにより、冷却媒体の供給は、ローターコア82の回転の影響を受けない。このため、シャフト8側から軸受7Bに油路を形成する場合と比較して、ローターコア82の回転にともなう冷却媒体の変動を抑制できる。その結果、軸受7Bへ適切な量の冷却媒体を供給することができる。
【0038】
<電動機の冷却>
冷却媒体分配部63の冷却媒体入口631から供給され、フィルター24を通過した冷却媒体の一部は、ローター用通路28を通ってシャフト内冷却媒体通路813の軸方向通路811に流入する。この冷却媒体は、径方向通路812を通過してバランスプレート84の凹部841を通ってローターコア貫通孔821に流入する。冷却媒体は、ローターコア貫通孔821を通過する過程でローターコア82及び図示しない永久磁石を冷却した後、バランスプレート83のバランスプレート貫通孔831から流出する。ローターコア82が回転している場合、バランスプレート貫通孔831から流出した冷却媒体は、遠心力によりステーター9のコイルエンド(コイル92がステーターコア91から突出した部分)に供給される。この冷却媒体は、筐体6内を下方に流れる過程でステーター9を冷却して、第1フランジ65の筐体6の内部側に設けられた第1の排出口27に集められる。図5の符号OLは、油溜まり部39に溜まる冷却媒体の液面を示している。このように、油溜まり部39に溜まる冷却媒体の量は、図5に示すように、第1のフランジ側に向けて突出しているコイルエンドの一部が常に浸かる程度に冷却媒体排出口651からの排出量が調節されていて、前記コイルエンドを冷却するようになっている。
【0039】
冷却媒体分配部63の冷却媒体入口631から供給され、フィルター24を通過した冷却媒体のうち、ローター用通路28に流入しなかった冷却媒体は、軸受用通路23に流入して、軸受7Bに供給される。この冷却媒体は、軸受7Bを冷却及び潤滑した後、筐体6内を下方に流れる。その過程で、ローターコア82及び図示しない永久磁石と接してこれを冷却する。ローターコア82と接した冷却媒体の一部は、遠心力によりローターコア82の径方向外側のステーター9に供給されてこれを冷却する。ステーター9を冷却した冷却媒体は、筐体6内を下方に流れて、第1フランジ65の筐体6の内部側に設けられた油溜まり部39に集められる。油溜まり部39に集められた冷却媒体は、軸受7Aの内輪と外輪と転動体との間の空間を通って、後述する第2の排出口30に流入する。その結果、油溜まり部39に集められた冷却媒体は、軸受7Aを冷却し、潤滑する。
【0040】
このように、冷却媒体は、ローターコア82及びステーター9を冷却するとともに、軸受7A、7Bを冷却及び潤滑する。この他にも、上述したように、筐体6の側部66が有するウォータージャケット612へ冷却水導入口613から冷却水が供給される。この冷却水は、筐体6を介して主にステーター9を冷却する。第1フランジ65と側部66との間には、ウォータージャケット612を封止するための封止部材として、ガスケット35が設けられる。ガスケット35は、側部66と第1フランジ65との間から筐体6の内部の冷却媒体が流出し、ウォータージャケット612に混入したり、筐体6の外部に流出したりすることを回避するためのオイルシールとしての機能も有する。次に、油溜まり部39に集められた冷却媒体を筐体6の外部へ排出する構造、すなわち、本実施形態に係る電動機の冷却媒体排出構造について説明する。
【0041】
<電動機の冷却媒体排出構造>
図7は、図5のA−A矢視図である。図8は、図5のB−B矢視図である。図9は、図5のC−C矢視図である。図10は、電動機が水平面に対して傾斜した状態における冷却媒体の液面の状態を示す概念図である。電動機の冷却媒体排出構造(以下、必要に応じて排出構造という)100は、第1の排出口27と、第2の排出口30と、排出通路32とを含む。
【0042】
第1フランジ65は、円板形状の構造体である。第1フランジ65は、一方の表面から突出する円弧状の凸部65Tを有する。凸部65Tの径方向内側には、軸受7Aを支持する段差が形成されている。軸受7Aは、前記段差に収められた後、Cリング(C形状の板状部材)37で第1フランジ65に固定される。第1の排出口27は、凸部65の径方向外側に設けられる。第1の排出口27は、凸部65Tの頂部(Cリング37が凸部65と接触する部分)よりも低い位置(第1のフランジ65が有する前記一方の表面)に開口する部分である。第2の排出口30は、凸部65の径方向内側に設けられて、電動機1の筐体6の内部、より具体的には油溜め39から軸受7Aを通過した冷却媒体が排出通路32へ流出する部分である。
【0043】
このように、第1の排出口27は、筐体6の一方の端部に配置されるとともに前記シャフトが貫通する端部側部材(本実施形態では第1フランジ65)に設けられて、冷却媒体を通過させる。第1の排出口27は、筐体6の油溜め39、本実施形態においては前記端部側部材としての第1フランジ65に開口して、筐体6内の冷却媒体を排出通路32へ通過させる部分である。第2の排出口30は、前記端部側部材(本実施形態では第1フランジ65)に設けられて、軸受7Aを通過した油溜まり部39の冷却媒体、すなわち、筐体6内の冷却媒体を通過させる。排出通路32は、第1の排出口27及び第2の排出口30を通過した冷却媒体を筐体6の外部へ排出する。
【0044】
本実施形態において、第1フランジ65の凸部65Tの径方向内側には、軸受7Aから筐体6内の冷却媒体が流出する空間(軸受外空間)29が設けられる。ここで、軸受7Aの下方(シャフト8の一方の端部側であり、この例ではシャフト8が第1フランジ65から突出する側)には、第1フランジ65とシャフト8との間から冷却媒体が流出することを回避するため、シール34が設けられる。シール34は、第1フランジ65とシャフト8との間に介在して、冷却媒体の漏れを抑制する。本実施形態において、軸受外空間29は、第1フランジ65と、軸受7Aと、シール34とで囲まれる空間である。第2の排出口30は、軸受外空間29に排出通路32が開口する部分である。軸受外空間29は、軸受7Aから冷却媒体が流出する部分よりもシャフト8の一方の端部側に配置される。
【0045】
第2の排出口30は、軸受7Aを通過した筐体6内(より具体的には筐体6の油溜め39)の冷却媒体を、排出通路32へ通過させる部分である。なお、電動機1は、軸受外空間29を必ずしも有している必要はない。この場合、第2の排出口30は、軸受7Aと排出通路32との間に設けられて、軸受7Aを通過した筐体6内の冷却媒体を排出通路32に通過させる部分である。
【0046】
本実施形態において、排出通路32は、第1排出通路31Aと第2排出通路31Bとを含む。第1排出通路31Aは、第2の排出口30と接続された通路であり、第2の排出口30から第1の排出口27までを接続する部分である。第2排出通路31Bは、第1の排出口27と接続された通路であり、第1の排出口27よりも冷却媒体の流れ方向下流側の部分である。
【0047】
第1の排出口27は、図5、図7、図8に示すように、第1フランジ65の筐体6側に開口している。図8において、第1の排出口27は、ハッチングで示す部分である。第1の排出口27は、排出通路32と連通しており、第1の排出口27を通過した冷却媒体は、排出通路32へ流入する。排出通路32は、冷却媒体排出口651と接続している。排出通路32を通過した冷却媒体は、冷却媒体排出口651を通過して、図2に示すポンプ21に吸引された後、図2に示す通路22に吐出された後、再び筐体6内に戻ってローターコア82及びステーター9等を冷却する。本実施形態において、第1フランジ65は、ドレーン通路32Dを介してドレーン口652と接続するドレーン用排出口27Dも有しているが、ドレーン用排出口27D及びドレーン通路32Dは、第1の排出口27及び排出通路32と同様の構造である。なお、本実施形態において、ドレーン用排出口27D及びドレーン通路32Dは、第1の排出口27及び排出通路32と別個に設けたが、ドレーン用排出口27D及びドレーン通路32Dを設けなくてもよい。この場合、図3に示すドレーン口652も不要である。ドレーン用排出口27D、ドレーン通路32D及びドレーン口652を設けない場合、冷却媒体排出口651に接続される電動機1の搭載対象(例えば、建設車両)側の通路(配管)にドレーンの分岐通路(分岐配管)を設ける。そして、第1の排出口27、排出通路32及び前記分岐通路を用いてドレーンを行う。このようにすれば、ドレーン用排出口27D及びドレーン通路32Dを第1フランジ65に形成する必要はないので、加工の手間を低減できるとともに、第1フランジ65の強度低下も抑制できる。
【0048】
図5、図8に示すように、第2の排出口30は、軸受7Aから流出した冷却媒体が排出通路32(より具体的には、第1排出通路31A)に流出する部分である。図8は、図5のB−B断面を現しているが、この断面においては、軸受7Aの外輪7oと、球(転動体)7bの一部と、内輪7iとが現れている。球7b間に、軸受外空間29が現れている。また、軸受外空間29に、第2の排出口30が開口している。第2の排出口30を通過した冷却媒体は、排出通路32(より具体的には、第1排出通路31A)に流入する。
【0049】
排出通路32へ流入した冷却媒体は、冷却媒体排出口651を通過して、図2に示すポンプ21に吸引された後、図2に示す通路22に吐出されて、再び筐体6内に戻ってローターコア82及びステーター9等を冷却する。本実施形態において、第1排出通路31Aの通路断面積と第2排出通路31Bの通路断面積とは同じ大きさであっても異なっていてもよい。本実施形態において、図8に示すように、ドレーン通路32Dはドレーン用第2の排出口30Dと接続される。冷却媒体を筐体6内から抜き取る場合、ドレーン用第2の排出口30Dを通過した冷却媒体は、ドレーン通路32Dへ流入する。
【0050】
本実施形態において、排出通路32は、第1の排出口27と第2の排出口30とで共通である。第1の排出口27と第2の排出口30とがそれぞれ別個に排出通路を持つと、第1フランジ65の加工が増えるが、第1の排出口27と第2の排出口30とで排出通路32を共通にすると、前記加工を少なくすることができる。また、排出通路32を共通にすることで、排出通路の数を低減できるので、第1フランジ65強度の低下を抑制できる。さらに、第1の排出口27と第2の排出口30とがそれぞれ別個に排出通路を持つと、それぞれの排出口を第1フランジ65の側面に設ける必要があるので、配管が増加する。車両では配管を通すスペースの確保が必要となるので、配管は少ない方が好ましい。第1の排出口27と第2の排出口30とで排出通路32を共通にすることにより、第1フランジ65の側面に設ける排出口を一つにすることができるので、配管の数を低減でき、好ましい。なお、第1の排出口27と第2の排出口30とは、それぞれ別個に排出通路を有していてもよい。
【0051】
排出構造100は、第1フランジ65の筐体6の内部側における表面、すなわち、筐体6の内部の下方に設けられた第1の排出口27から、排出通路32を介して筐体6内の冷却媒体を排出させる。このため、排出構造100は、重力の作用を利用して第1の排出口27へ冷却媒体を導くことができるので、筐体6内に滞留して排出されない冷却媒体を低減することができる。その結果、排出構造100は、筐体6内に滞留する冷却媒体を最小限に抑えて、筐体6内の冷却媒体を確実に外部に排出することができる。また、排出構造100は、第2の排出口30から軸受7Aを通過して軸受外空間29に流入した冷却媒体を、排出通路32から排出させる。このため、軸受外空間29に溜まった冷却媒体を確実に排出させることができる。
【0052】
軸受外空間29には、ステーター9のコイル92を被覆するワニス、電動機1の摺動部分からの金属屑等の切削屑、軸受7A、7Bの摩耗粉等が異物として溜まりやすい。特に、電動機1は、コイル92の一部分が冷却媒体に浸かっているので、軸受外空間29には前記異物が溜まりやすくなる。排出構造100は、第2の排出口30と排出通路32とを接続し、第2の排出口30の冷却媒体を排出通路32から筐体6の外部へ排出させる。このため、軸受外空間29内の前記異物は、冷却媒体とともに排出されるので、軸受外空間29内に蓄積される異物を極小にすることができる。軸受外空間29内の冷却媒体は、シール34に接しているが、軸受外空間29内の前記異物の量が極小になることで、シール34の耐久性低下が抑制される。また、軸受外空間29内の冷却媒体に混入した異物が軸受7Aに侵入するおそれもほとんどないので、異物の噛みこみ、異物による傷又は異物によるかじり等に起因する軸受7Aの耐久性低下の抑制にも効果的である。また、軸受7Aを通過する油量が低減されることで、軸受7Aを通過する異物の量も低減できるので、シール34及び軸受7Aの耐久性低下を抑制できる。また、後述するように、第1の排出口27の開口面積の方が第2の排出口30の開口面積よりも大きいので、冷却媒体の多くは第1の排出口27を通過する。このため、第2の排出口30は、軸受7Aの潤滑及び冷却に必要な量を超えた過剰な流量で冷却媒体が通過することを回避できる。その結果、冷却構造2は、シール34及び軸受7Aの耐久性低下をより効果的に抑制できる。
【0053】
また、軸受7Aを介して軸受外空間29内へ異物が入ったとしても、上述したように、軸受外空間29内の異物は冷却媒体とともに確実に排出される。このため、軸受7Aからの異物の侵入を防止するために軸受7Aにシールを設ける必要はない。その結果、コスト低減及びシールによる摺動抵抗の低減を図ることができる。さらに、軸受7Aにシールを設けない場合には、電動機1の運転中に軸受7Aを冷却媒体が通過するが、冷却媒体は、軸受7A、より具体的には外輪7oと内輪7iと球7bとの間を流れる。この作用により、外輪7o、内輪7i及び球7bの表面を洗浄する効果も得られる。前記洗浄により、外輪7o、内輪7i及び球7bの表面に付着した異物を取り除くことができるので、排出構造100は、軸受7Aの耐久性低下を効果的に抑制することができる。
【0054】
これまでの技術では、軸受の中に溜まった冷却媒体をほとんど排出できなかったので、冷却媒体中に存在する異物によるかじり又は傷等が軸受に発生するおそれがあった。排出構造100は、上述したように、軸受7A及び軸受外空間29内の冷却媒体を異物とともに排出できるので、冷却媒体中に存在する異物によるかじり又は傷等が軸受に発生するおそれを低減できる。また、油溜まり部39を有していない電動機であっても、鉛直方向側の軸受(電動機1の軸受7Aに相当する軸受)は、上方、すなわち鉛直方向とは反対側上から流下してくる冷却媒体によって冷却及び潤滑される。このため、油溜まり部39を有していない電動機も軸受内及び軸受外空間29に溜まった冷却媒体が排出されにくい。本実施形態においては、筐体6内に油溜まり部39を有する電動機1に排出構造100を適用しているが、排出構造100は、油溜まり部39を有していない電動機に対しても適用できる。この場合であっても、排出構造100は、下方の軸受及び軸受外空間29内の冷却媒体を異物とともに排出できるので、冷却媒体中に存在する異物によるかじり又は傷等が軸受に発生するおそれを低減できる。
【0055】
図5、図7に示すように、筐体6の側部66は、ウォータージャケット612を有しているが、排出構造100は、第1フランジ65に排出通路32を設けたので、ウォータージャケット612による排出通路32を設ける場所の制約が少ない。また、第1フランジ65に排出通路32を設けると、第1フランジ65の厚みはやや増加するが、その分、筐体6の側部66の長さを小さくすることができる。このため、電動機1の寸法増加は抑えられる。
【0056】
第1の排出口27の開口面積をSAとし、第2の排出口30の開口面積をSCすると、SC<SAとすることが好ましい。このようにすることで、第2の排出口30は、第1の排出口27よりも圧力損失が大きくなる。その結果、第1の排出口27を通過する冷却媒体の流量は、第2の排出口30を通過する冷却媒体の流量よりも大きくなる。このように、第1の排出口27を通過する冷却媒体の流量を第2の排出口30よりも大きくすることで、排出通路32から冷却媒体を吸引する際の抵抗を小さくすることができる。その結果、図2に示すポンプ21の仕事量を低減することができるので、ポンプ21のエネルギー消費を抑制することができる。また、第2の排出口30を通過する冷却媒体の流量は第1の排出口27よりも小さいが、第2の排出口30にも冷却媒体を通過させることにより、軸受7Aの潤滑、冷却及び清掃を促進することができる。なお、第2の排出口30の開口面積SCは、第2の排出口30を通過する冷却媒体の流量が、軸受7Aの潤滑及び冷却に必要な最低流量となる大きさとすることが好ましい。
【0057】
また、第1排出通路31Aの内径をD1とし、第2排出通路31Bの内径D2とし、これらの通路断面(第1排出通路31A、第2排出通路31Bが延在する方向と直交する断面)が円形であるとする。このとき、第1排出通路31Aの通路断面積S1はD1×π/4であり、第2排出通路31Bの通路断面積S2はD2×π/4となる。S2>S1とすることにより、第2排出通路31Bを流れる冷却媒体の流量は、第1排出通路31Aを流れる冷却媒体の流量よりも大きくなり、その結果、第1の排出口27を流れる冷却媒体の流量は、第2の排出口30を流れる冷却媒体の流量よりも大きくなる。S2/S1は、第2の排出口30を通過する冷却媒体の流量が、軸受7Aの潤滑に必要な最低流量となる大きさとなる範囲が好ましい。このように、本実施形態において、排出構造100は、排出通路32の通路断面積を調整することにより、第1の排出口27を通過する冷却媒体の流量を、第2の排出口30を通過する冷却媒体の流量よりも大きくすることもできる。さらに、本実施形態においては、排出通路32の通路断面積の調整と、第1の排出口27及び第2の排出口30の開口面積の調整との両方を用いて、第1の排出口27及び第2の排出口30を通過する冷却媒体の流量を調整してもよい。
【0058】
ハイブリッド油圧ショベル等の建設車両は、一般に駆動系には高い負荷が作用する。例えば、電動機1がハイブリッド油圧ショベルの旋回モータに用いられる場合、ハイブリッド油圧ショベルは、上部旋回体を頻繁に旋回させ、停止させるので、電動機1には連続して高い負荷が作用する。このため、電動機1の発熱量は増加するので、十分な冷却が必要である。したがって、電動機1の筐体6の内部へ供給され、排出される冷却媒体の流量(電動機1とポンプとの間を循環する冷却媒体の流量)は大きくなる。上述したように、第2の排出口30は、圧力損失が大きくなるので、冷却媒体を排出する流量が大きくなると、そのための動力が増加したり、十分な流量を確保できなかったりするおそれがある。排出構造100は、圧力損失の低い第1の排出口27と、これよりも圧力損失が大きい第2の排出口30との両方から冷却媒体を排出させる。このような構造の場合、圧力損失の低い第1の排出口27に冷却媒体は流れやすくなる。このため、排出構造100は、圧力損失の小さい第1の排出口27から大流量で冷却媒体を効率よく排出できるとともに、軸受7Aにはある程度の冷却媒体を通過させて軸受7Aを冷却、潤滑及び洗浄することができる。圧力損失の低い第1の排出口27からより効率よく冷却媒体を排出させるため、上述したように、排出構造100は、圧力損失の小さい第1の排出口27から多くの冷却媒体を排出させるように、第1の排出口27の開口面積SAを第2の排出口30の開口面積SCよりも大きくしたり、第2排出通路31Bの通路断面積S2を第1排出通路31Aの通路断面積S1よりも大きくしたりする。このようにすることで、排出構造100は、より大流量で冷却媒体を第1の排出口27から排出させることができる。このように、排出構造100は、特に、電動機1の発熱量が大きくなって大量の冷却媒体を電動機に供給し、排出する場合に有効である。例えば、ハイブリッド油圧ショベル、ホイールローダ等の建設車両に用いられる電動機に対して排出構造100は有効である。
【0059】
排出通路32は、シャフト8の径方向外側に向かって延在している。このため、排出通路32は、内部にフィルター38を設けることができる。このようにすることで、フィルター38を設置するスペースを新たに設ける必要はないので、省スペース化を図ることができる。また、排出通路32がシャフト8の径方向外側に向かって延在しているため、排出通路32は第1フランジ65の側部に開口する。すなわち、第1の排出口27を通過した冷却媒体は、排出通路32へ流入する際に90度向きを変えて筐体6の外部へ排出される。このように、排出構造100は、第1フランジ65の下方、すなわち、シャフト8が第1フランジ65から突出する方向に冷却媒体を排出しない構造なので、電動機1の出力取り出し側には余分な構造物を配置する必要がなくなる。
【0060】
図7に示すように、第1の排出口27は、シャフト8の径方向と直交する方向における寸法Wよりもシャフト8の径方向と平行な方向における寸法Lの方が大きい(W<L)。W>Lとして第1の排出口27の冷却媒体が通過する面積を大きくすると、排出通路32の内径を大きくする必要があり、第1フランジ65の厚みの増加を招く。しかし、W<Lとすることで、第1の排出口27を排出通路32に沿って形成できるので、排出通路32の内径を大きくすることなく第1の排出口27の冷却媒体が通過する面積を大きくすることができる。
【0061】
図10に示すように、電動機1が水平面HPに対して傾斜すると、冷却媒体の液面OPと筐体6の側部66及び第1フランジ65との関係も変化する。側部66に冷却媒体の排出口EXを設けると、電動機1の傾斜が大きくなった場合、ポンプ21は筐体6内の空気を吸引してしまい、冷却媒体を排出できなくなってしまう。本実施形態の排出構造100は、第1フランジ65の筐体6の内部側に設けた第1の排出口27から冷却媒体を排出する。このため、排出構造100は、側部66に設けた排出口EXからは冷却媒体を排出できなくなる程度に電動機1が傾斜した場合でも、第1の排出口27から冷却媒体を排出させることができる。このように、排出構造100は、側部66に冷却媒体の排出口EXを設けた場合と比較して、電動機1の水平面HPに対する傾斜がより大きくなった場合でも、筐体6内の冷却媒体を排出させることができるので、傾斜地でも作業を行う建設車両に好適である。
【0062】
上述したように、第1の排出口27は、筐体6の中心、すなわち回転中心軸Zrに近い位置に設けることが好ましい。本実施形態では、図7に示すように、第1の排出口27は、筐体6の側部66の内周面615よりも内側に設けられている。このようにすることで、排出構造100は、電動機1が傾斜した場合に、冷却媒体をより確実に第1の排出口27から排出させることができる。また、側部66に排出口EXを設けた場合、排出口EXの側部66の内周面側における開口を回転中心軸Zrに近づけるためには、側部66の肉厚を大きくする必要があるが、これには多くの制約があるため、実現が困難である。特に、側部66がウォータージャケット612を有している場合、前記制約はより多くなる。排出構造100は、第1の排出口27を第1フランジ65に設けることにより、第1の排出口27を配置する際の自由度が向上するため、容易に第1の排出口27を回転中心軸Zrに接近させることができる。
【0063】
第1フランジ65と側部66とは、図5に示すボルト40を図7から図9に示すねじ穴41へねじ込むことにとって取り付けられる。ねじ穴41は、円板形状の部材である第1フランジ65の周方向に向かって等間隔で設けられている。このため、第1フランジ65と側部66との周方向における位置関係をある程度自由に選択することができる。その結果、第1フランジ65に設けられた冷却媒体排出口651と側部66に設けられた冷却水導入口613とを同じ側に配置したり、異なる側に配置したりすることができる。このように排出構造100は、冷却媒体排出口651と接続される排出通路32を設けることにより、冷却媒体排出口651の位置を側部66とは独立して調整することができるので、電動機1をハイブリッド油圧ショベル10等に搭載する際の自由度が向上する。
【0064】
以上、本実施形態は、電動機の筐体の下部に設けた第1の排出口と、軸受と隣接して設けられて軸受から流出する筐体内の冷却媒体を通過させる第2の排出口との両方から筐体内の冷却媒体を排出する。このようにすることで、筐体内に残留する冷却媒体を低減できるとともに、前記軸受が支持するシャフトの一方の端部側において前記軸受と隣接する部分、より具体的には第2の排出口に蓄積される異物等を低減することができる。特に、電動機を縦置き、すなわち、シャフトが重力の作用する方向に向かうように設置して使用する用途に好適である。また、本実施形態は、ローターコア内に冷却通路を有する電動機を例としたが、本実施形態の冷却媒体排出構造は、電動機の冷却構造がどのような形態であっても適用できる。すなわち、電動機の筐体内に軸受及び冷却媒体を有するものであれば、本実施形態の冷却媒体排出構造が適用できる。
【符号の説明】
【0065】
1 電動機
2 冷却構造
6 筐体
7A、7B 軸受
8 シャフト
9 ステーター
10 ハイブリッド油圧ショベル
21 ポンプ
22 通路
23 軸受用通路
24、38 フィルター
25 リリーフ通路
26 リリーフ弁
27 第1の排出口
28 ローター用通路
29 軸受外空間
30 第2の排出口
31A 第1排出通路
31B 第2排出通路
32 排出通路
34 シール
35 ガスケット
39 油溜まり部
61 第2フランジ
65 第1フランジ
66 側部
82 ローターコア
83、84 バランスプレート
91 ステーターコア
92 コイル
100 排出構造
612 ウォータージャケット
615 内周面
651 冷却媒体排出口
811 軸方向通路
812 径方向通路
813 シャフト内冷却媒体通路
821 ローターコア貫通孔
831 バランスプレート貫通孔
841 凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筐体内にローターコアが取り付けられるシャフトが配置される電動機を冷却した冷却媒体を前記筐体から排出するにあたり、
軸受を介して前記シャフトを支持し、かつ前記筐体の一方の端部に配置される端部側部材に設けられて、前記筐体内の冷却媒体を通過させる第1の排出口と、
前記端部側部材に設けられ、かつ前記端部側部材に支持される軸受を通過した前記筐体内の冷却媒体を通過させる第2の排出口と、
前記第1の排出口及び前記第2の排出口を通過した前記冷却媒体を前記筐体の外部へ排出する排出通路と、
を含むことを特徴とする電動機の冷却媒体排出構造。
【請求項2】
前記第1の排出口の開口面積は、前記第2の排出口の開口面積よりも大きい請求項1に記載の電動機の冷却媒体排出構造。
【請求項3】
前記第1の排出口は、前記筐体の内周面よりも内側に設けられる請求項1又は2に記載の電動機の冷却媒体排出構造。
【請求項4】
前記排出通路は、前記シャフトの径方向外側に向かって延在する請求項1から3のいずれか1項に記載の電動機の冷却媒体排出構造。
【請求項5】
前記第1の排出口は、前記シャフトの径方向と直交する方向における寸法よりも前記シャフトの径方向と平行な方向における寸法の方が大きい請求項1から4のいずれか1項に記載の電動機の冷却媒体排出構造。
【請求項6】
前記端部側部材は、前記筐体の一方の端部に取り付けられる円板形状の部材である請求項1から5のいずれか1項に記載の電動機の冷却媒体排出構造。
【請求項7】
前記排出通路は、前記冷却媒体から異物を取り除くフィルターを有する請求項1から6のいずれか1項に記載の電動機の冷却媒体排出構造。
【請求項8】
前記排出通路は、前記第1の排出口と前記第2の排出口とで共通である請求項1から7のいずれか1項に記載の電動機の冷却媒体排出構造。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか1項に記載の電動機の冷却媒体排出構造を備えることを特徴とする電動機。
【請求項10】
筐体内にローターコアが取り付けられるシャフトが配置される建設機械の上部旋回体を回転駆動する電動機であって、
軸受を介して前記シャフトを支持し、かつ前記筐体の一方の端部に配置される端部側部材であって前記筐体の内周面よりも内側に設けられて、前記筐体内の冷却媒体を通過させる第1の排出口と、
前記端部側部材に設けられ、かつ前記端部側部材に支持される軸受を通過した前記筐体内の冷却媒体を通過させる第2の排出口と、
前記シャフトの径方向外側に向かって延在して、前記第1の排出口及び前記第2の排出口を通過した前記冷却媒体を前記筐体の外部へ排出する排出通路と、
を含み、
前記第1の排出口は、開口面積が前記第2の排出口の開口面積よりも大きく、前記シャフトの径方向と直交する方向における寸法よりも前記シャフトの径方向と平行な方向における寸法の方が大きいことを特徴とする電動機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−191826(P2012−191826A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−55737(P2011−55737)
【出願日】平成23年3月14日(2011.3.14)
【出願人】(000001236)株式会社小松製作所 (1,686)
【Fターム(参考)】