説明

電圧制御型発振器

【課題】微小な周波数調整が可能な電圧制御型発振器を提供する。
【解決手段】増幅器12と、前記増幅器12に対して帰還回路を構成する弾性表面波素子14と、前記帰還回路中に挿入され前記帰還回路内の位相を可変させる移相器16と、前記帰還回路中に挿入され前記帰還回路内の電力を分配して前記帰還回路外に出力する等分配器18と、を有する電圧制御型発振器であって、前記移相器16を構成するハイブリッドカプラ16aとバリキャップD1、D2との間に、オープンスタブSh5、Sh6がキャパシタとして接続されてなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性表面波素子を共振子として用いて帰還回路を構成するようにした電圧制御型発振器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の高周波発振器は、特許文献1に見られるように、増幅器、圧電素子等からなる周波数選択器、帰還回路内の電力を分配する分配器、外部からの電圧で周波数を変化させる移相器、帰還回路内に挿入され、フィルタ構成をとる周波数調整器とから構成される。周波数調整回路は、π型若しくはT型の構成をとり、回路定数を変化させることで、位相を変化させ、発振周波数を調整している。
【0003】
そして特許文献2においては、発振回路内のいずれかのインダクタに、直列に梯子状のパターンインダクタを挿入し、パターンインダクタをカットすることで、インダクタンスを変化させ、周波数を調整している。
【特許文献1】特開2004−363922号公報
【特許文献2】特開2007−124566号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に係る周波数調整回路では、使用するチップ部品の定数が離散的であるため、離散的な周波数調整しかできない。
また、特許文献2に係る周波数の調整においては、大きな面積の梯子状パターンを形成しなければならず、小型な発振器を形成できない。また発振ループ内の回路定数を変化させることで、発振回路内にインピーダンス・ミスマッチを起こす可能性がある。
【0005】
そこで本発明は上記問題点に着目し、発振回路内にミスマッチを生じさせずに微小な周波数調整が可能な電圧制御型発振器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題を少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の適用例として実現することが可能である。
[適用例1]増幅器と、前記増幅器に対して帰還回路を構成する弾性表面波素子と、前記帰還回路中に挿入され前記帰還回路内の位相を可変させる移相器と、前記帰還回路中に挿入され前記帰還回路内の電力を分配して前記帰還回路外に出力する分配器と、を有する電圧制御型発振器であって、前記移相器を構成するハイブリッドカプラとバリキャップとの間に、オープンスタブが接続されていることを特徴とする電圧制御型発振器。
【0007】
上記構成により、移相器に周波数調整機能が付加されるので、他に周波数を調整する回路を必要とせず、実装部品の削減を図ることができる。そして、離散的な定数しかないチップ部品とは異なり、オープンスタブはその長さを調節することによりキャパシタ容量を変化させることができるため、微小な周波数調整が可能となる。また、バリキャップと並列にオープンスタブを接続しているため、オープンスタブを切断する際のインピーダンス変化を無視できる。さらに、発振状態においてもオープンスタブを切断して周波数調整が可能であるため、短時間で高精度な周波数調整が可能となる。
【0008】
[適用例2]前記オープンスタブは、互いに長さの異なる複数のマイクロストリップ線路のうちの一が前記ハイブリッドカプラと前記張バリキャップとの間に接続されて形成されていることを特徴とする請求項1に記載の電圧制御型発振器。
【0009】
上記構成により、レーザ等でオープンスタブを切断する必要はないので、切断時に発生する塵の回路全体への影響を低減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を図に示した実施形態を用いて詳細に説明する。但し、この実施形態に記載される構成要素、種類、組み合わせ、形状、その相対配置などは特定的な記載がない限り、この発明の範囲をそれのみに限定する主旨ではなく単なる説明例に過ぎない。
【0011】
本実施形態に係る電圧制御型発振器を図1に示す。本実施形態に係る電圧制御型発振器10は、増幅器12と、前記増幅器12に対して帰還回路を構成する弾性表面波素子14と、外部から制御電圧を入力して発振ループ内の位相を可変させる付加制御部を有する移相器16と、前記発振ループ内の電力を等配分して前記発振ループ外に出力する等分配器18と、がループ状に接続された発振ループを有し、前記移相器16を構成するハイブリッドカプラ16aとバリキャップとの間に、キャパシタとしてオープンスタブを接続した構成である。そしてこれらの素子は一定の特性インピーダンス、例えば50Ωにマッチング接続されている。
【0012】
増幅器12は電源電圧入力端子taに電源電圧Vccが入力されるとともに、入力側がコンデンサC2を介して弾性表面波素子14に接続され、出力側がコンデンサC3を介して等分配器18の入力側に接続され、電源電圧入力端子taと、増幅器12の出力側及びコンデンサC3との間にコイルLcが接続されている。
【0013】
等分配器18は、帰還回路内のインピーダンスを乱すことなく電力を等分配して帰還回路外に出力するもので、コンデンサCd1〜Cd3及びコイルLd1〜Ld2及び抵抗Rdが設けられている。そしてコンデンサCd2、コイルLd2、コイルLd1及びコンデンサCd1がこの順で直列接続され、コイルLd1とコイルLd2との間には、コンデンサCd3が接続されるとともに、直流阻止用コンデンサC3を介して増幅器12の出力側が接続され、コンデンサCd1とコイルLd1との間には、後述の移相器16のハイブリッドカプラ16a側に接続され、コンデンサCd2とコイルLd2との間には電圧制御型発振器10の出力端子toが接続され、この出力端子toとハイブリッドカプラ16aの入力端子との間には、抵抗Rdが接続している。
【0014】
移相器16は外部からの制御電圧Vcを入力して帰還回路内の位相を可変させるもので、ハイブリッドカプラ16aおよび付加制御部16bを備えている。ハイブリッドカプラ16a(−3dB90°)は、絶縁基板上に形成されたマイクロストリップラインであるスタブSh1〜Sh4により構成され、Sh1〜Sh4はループ状に接続されている。スタブSh1とスタブSh2との間は、弾性表面波素子14と接続され、スタブSh1とスタブSh4との間は等分配器18と接続されている。
【0015】
付加制御部16bはリアクタンス可変回路で構成され、制御電圧Vcからの直流を阻止するコンデンサCh1及びCh2と、抵抗Rv1及びRv2と、制御電圧Vcにより容量を可変させるバリキャップD1及びD2と、オープンスタブSh5、Sh6が設けられている。そしてハイブリッドカプラ16aのスタブSh2及びSh3間と、スタブSh3及びSh4との間にコンデンサCh1、抵抗Rv1、抵抗Rv2、コンデンサCh6が順に接続され、コンデンサCh1と抵抗Rv1との間にはバリキャップD1が接続され、コンデンサCh2と抵抗Rv2との間にはバリキャップD2が設けられている。さらにオープンスタブSh5が、コンデンサCh1とバリキャップD1との間に接続され、オープンスタブSh6が、コンデンサCh2とバリキャップD2が接続されている。
【0016】
オープンスタブSh5、Sh6は、例えば絶縁基板上に形成されたマイクロストリップラインの一端を開放した分布定数回路であって、その入力インピーダンスZinは、
【数1】

となる。ここでlはオープンスタブの長さ、λは伝送線路上の波長を示す。よって、
【数2】

の範囲ではキャパシタとして機能する。またlの長さは[数2]の範囲であれば任意にその容量を変化させることができる。容量を変化させるためにはオープンスタブの開放端側をレーザ等で切断すればよい。また、オープンスタブSh5(Sh6)を集中定数回路としてみると、一端がコンデンサCh1(Ch2)とバリキャップD1(D2)との間に接続され、他端が接地されたコンデンサとみることができる。よってオープンスタブSh5、Sh6は、それぞれバリキャップD1、D2と並列に接続されたものと見ることができる。したがってオープンスタブSh5、Sh6は付加制御部16bの周波数の可変域をシフトさせる役割を果たす。よってオープンスタブSh5、Sh6は付加制御部16bに周波数調整機能を付加したものと考えることができる。さらにオープンスタブSh5、Sh6は微小な周波数調整を目的にしており、カットする長さは小さいため、これに伴う移相器のインピーダンスの変化は無視できるほど小さい。よって回路全体のマッチングに影響を与えることはない。
【0017】
このように、移相器16を、ハイブリッドカプラ16と、それに付随したリアクタンス可変回路である付加制御部16bにより構成することで、電圧制御型発振器10の周波数可変幅を大きく取ることができ、制御電圧Vcに対し、良好な周波数可変特性を得ることが可能となる。また、低挿入損失・低リターンロスであることから、回路損失も最小限に抑えることができ、出力変動が少なく、効率の良い電圧制御型発振器10となる。
【0018】
またオープンスタブは[数2]の条件を満たす互いに長さの異なる複数のマイクロストリップ線路(不図示)を、他の配線パターンと電気的に接続されていない状態で予め電圧制御型発振器内に配設し、そして、その複数のマイクロストリップ線路のうちの一を選択して、ワイアボンディング等によりマイクロストリップ線路の一端を、コンデンサCh1(Ch2)とバリキャップD1(D2)との間に接続すればよい。これにより、上述のシフトの量をマイクロストリップ線路の選択により変更可能であるので、レーザによる切断処理を不要にするとともに、切断処理によって発生する塵等が回路全体に与える影響を排除することができる。
【0019】
また本実施形態において、ハイブリッドカプラは図2に示すように集中定数回路を用いて構成してもよい。図2においてハイブリッドカプラ16c(−3dB90°)は、コンデンサCh3〜Ch6、及びコイルLh1〜Lh4が設けられている。コイルLh1〜コイルLh4はループ状に接続され、コイルLh1とコイルLh2との間にはコンデンサCh3が接続されるとともに、弾性表面波素子と接続されている。コイルLh2とコイルLh3との間には、コンデンサCh4が接続されるとともに、付加制御部16bのコンデンサCh1と接続されている。コイルLh3とコイルLh4との間にはコンデンサCh5と接続されるとともに、付加制御部16bのコンデンサCh2と接続されている。コイルLh4とコイルLh1との間は、コンデンサCh6と接続されるとともに、等分配器18側と接続されている。この構成によるハイブリッドカプラ16cは、スタブにより構成されるハイブリッドカプラ16aと等価な回路となる。
【0020】
従って本実施形態に係る電圧制御型発振器10によれば、移相器16に周波数調整機能が付加されるので、他に周波数を調整する回路を必要とせず、実装部品の削減を図ることができる。そして、離散的な定数しかないチップ部品とは異なり、オープンスタブSh5、Sh6はその長さを調節することによりキャパシタ容量を変化させることができるため、微小な周波数調整が可能となる。また、バリキャップD1、D2と並列にオープンスタブSh5、Sh6それぞれ接続しているため、オープンスタブSh5、Sh6を切断する際のインピーダンス変化を無視できる。さらに、発振状態においてもオープンスタブSh5、Sh6を切断して周波数調整が可能であるため、短時間で高精度な周波数調整が可能となる。さらに、オープンスタブは、長さの異なるものが複数用意され、そのうちの一を選択して接続可能とすることにより、レーザ等でオープンスタブを切断する必要はないので、切断時に発生する塵の回路全体への影響を排除できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】第1実施形態の電圧制御型発振器の回路図である。
【図2】第1実施形態の電圧制御型発振器を構成するハイブリッドカプラの変形例の回路図である。
【符号の説明】
【0022】
10………電圧制御型発振器、12………増幅器、14………弾性表面波素子、16………移相器、16a………ハイブリッドカプラ、16b………付加制御部、16c………ハイブリッドカプラ、18………等分配器、C1〜C3、Cd1〜Cd3、Ch1〜Ch6………コンデンサ、Lc、Ld1、Ld2、Lh1〜Lh4………コイル、Rd、Rv1、Rv2………抵抗、D1、D2………バリキャップ、Sh1〜Sh4………スタブ、Sh5、Sh6………オープンスタブ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
増幅器と、前記増幅器に対して帰還回路を構成する弾性表面波素子と、前記帰還回路中に挿入され前記帰還回路内の位相を可変させる移相器と、前記帰還回路中に挿入され前記帰還回路内の電力を分配して前記帰還回路外に出力する分配器と、を有する電圧制御型発振器であって、
前記移相器を構成するハイブリッドカプラとバリキャップとの間に、オープンスタブが接続されていることを特徴とする電圧制御型発振器。
【請求項2】
前記オープンスタブは、互いに長さの異なる複数のマイクロストリップ線路のうちの一が前記ハイブリッドカプラと前記バリキャップとの間に接続されて形成されていることを特徴とする請求項1に記載の電圧制御型発振器。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−246409(P2009−246409A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−87054(P2008−87054)
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【出願人】(000003104)エプソントヨコム株式会社 (1,528)
【Fターム(参考)】