説明

電圧非直線抵抗体、電圧非直線抵抗体を搭載した避雷器及び電圧非直線抵抗体の製造方法

【課題】優れた電圧非直線性を有する電圧非直線抵抗体を低不良率で提供すること。
【解決手段】酸化亜鉛粒子と、亜鉛及びアンチモンを主成分とするスピネル粒子と、酸化ビスマス相とから主として構成される焼結体からなり、酸化ビスマス相中にカリウム及びナトリウムからなる群から選択される少なくとも1種のアルカリ金属が存在し且つ焼結体における正方晶Bi16CrO27の(123)面のX線回折ピーク強度(A)に対する立方晶Bi38CrO60の(321)面のX線回折ピーク強度(B)の比(B/A)が0以上0.24未満の範囲であることを特徴とする電圧非直線抵抗体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、避雷器、サージアブゾーバーなどに好適に用いられる電圧非直線抵抗体、この電圧非直線抵抗体を搭載した避雷器及び電圧非直線抵抗体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、避雷器、サージアブゾーバーなどに用いられる電圧非直線抵抗体は、主成分である酸化亜鉛(ZnO)に電圧非直線性の発現に必須である酸化ビスマスをはじめ、電気特性の改善に有効な添加物を添加した組成物を粉砕、混合、造粒、成形、焼成及び後熱処理の各工程を経た焼結体からなり、この焼結体に電極と側面高抵抗層とを設けることによって構成されている。
【0003】
電圧非直線抵抗体の動作は、サージエネルギーが印加されない待機状態と、サージエネルギーが加わる動作状態とに大きく分けられる。動作状態における電圧非直線性の良否を表す指標として平坦率が用いられ、この値を小さくするための技術開発が鋭意進められている。平坦率は、電圧非直線抵抗体に大きさの異なる2つの電流を流した時に電圧非直線抵抗体の両端に発生する電圧の比として定義され、その評価に用いられる電流の大きさは電圧非直線抵抗体の直径によって異なる。例えば、大電流域特性を反映する数値である10kA通電時の電圧値(V10kA)と、2mA通電時の電圧値(V2mA)との比(V10kA/V2mA)が平坦率として用いられる。
【0004】
電圧非直線抵抗体の平坦率等の電気特性は、焼結体の微細構造に大きく左右される。焼結体は大きく分けて酸化亜鉛粒子、亜鉛とアンチモンとを主成分とするスピネル粒子、粒界の3重点近辺に存在する酸化ビスマス相から構成される。電圧非直線性の発現に必須の添加物であるビスマスは、酸化ビスマス相だけでなく、酸化亜鉛粒子間の粒界に微量ながら存在することが知られている(例えば、非特許文献1を参照)。また、その他にも添加物によってはシリコンを主成分とするケイ酸亜鉛粒子も観察される。
【0005】
上述したような焼結体の微細構造は、添加物の種類や添加量及び焼成を中心とする製造条件に大きく依存することが知られており、これまで、電圧非直線抵抗体の電気特性を改善するための様々な検討がなされている。
例えば、特許文献1には、酸化亜鉛、酸化アンチモン及び酸化ビスマスを特定の割合で配合した組成物を1000℃以下の温度で焼成することで、平坦率(V2.5kA/V1mA)が1.80未満である電圧非直線性に優れた電圧非直線抵抗体を低コストで得る方法が開示されている。また、特許文献2には、酸化亜鉛を主成分とし、酸化ビスマス等を含む電圧非直線抵抗体に、酸化ナトリウムを添加物として添加することで、サージ印加後の制限電圧変化率及び吸湿特性が改善されることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−297612号公報
【特許文献2】特開平4−253302号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Kei-Iciro Kobayashi, Journal of American Ceramic Society, "Continuous Existence of Bismuth at Grain Boundaries of Zinc Oxide Varistor without Intergranular Phase", 81, [8], 2071-2076(1998)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
電圧非直線抵抗体を低コストで製造するには、特許文献1に開示されるように1000℃以下で焼成を行う必要があるが、1000℃以下の焼成で得られる従来の電圧非直線抵抗体は、1000℃を超える焼成で得られる電圧非直線抵抗体と比較して、電圧非直線抵抗体間で平坦率等の電気特性のばらつきが大きいという課題があった。特に、平坦率、動作開始電圧(バリスタ電圧)等に関する規格値が厳しい場合、電圧非直線抵抗体の製造過程において、電気特性不良品が大量に発生することとなり、不良率を低減できない、言い換えれば歩留まりを上げることができないという課題があった。
従って、本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、優れた電圧非直線性を有する電圧非直線抵抗体を低不良率で提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
これまで、例えば、特開平8−138910号公報に開示されるように、電圧非直線抵抗体中のナトリウムやカリウムの量が増大すると、電気特性は悪化するものと認識されており、その混入量を極力少なくすることによって優れた電圧非直線性を達成しようとする試みがなされてきた。しかしながら、本発明者らが、酸化亜鉛を主成分とし、酸化ビスマス、酸化アンチモン及び酸化クロムを必須成分として含む組成物の配合や焼成温度について種々検討した結果、1000℃以下で焼成を行う場合、ナトリウム等のアルカリ金属を組成物に添加すると、電圧非直線抵抗体間で平坦率のばらつきに大きな差異が生じることが分かった。更に、その現象を分析機器により詳細に調査した結果、平坦率のばらつきが大きいものでは、立方晶Bi38CrO60が正方晶Bi16CrO27に対して或る比率以上存在すること、言い換えれば平坦率のばらつきが小さいものでは、正方晶Bi16CrO27に対する立方晶Bi38CrO60の存在比率が或る値未満であること、及びその存在比率は、アルカリ金属の添加量を調整することにより制御可能であることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
即ち、本発明は、酸化亜鉛を主成分とし、酸化ビスマス、酸化アンチモン、酸化クロム、並びにカリウム及びナトリウムからなる群から選択される少なくとも1種のアルカリ金属を含む組成物を1000℃以下で焼成する電圧非直線抵抗体の製造方法であって、アルカリ金属の添加量を調整することによって、得られる焼結体における正方晶Bi16CrO27の(123)面のX線回折ピーク強度(A)に対する立方晶Bi38CrO60の(321)面のX線回折ピーク強度(B)の比(B/A)が0以上0.24未満の範囲となるように調整することを特徴とする電圧非直線抵抗体の製造方法である。アルカリ金属の添加により立方晶Bi38CrO60の生成が抑制されるメカニズムは不明であるが、立方晶Bi38CrO60と正方晶Bi16CrO27との存在比率が平坦率のばらつきに影響を及ぼすことは明らかである。
また、本発明者らは、上記製造方法により得られる焼結体の微細構造を分析したところ、正方晶Bi16CrO27の(123)面のX線回折ピーク強度(A)に対する立方晶Bi38CrO60の(321)面のX線回折ピーク強度(B)の比(B/A)が0以上0.24未満の範囲である電圧非直線抵抗体は、酸化亜鉛粒子と、亜鉛及びアンチモンを主成分とするスピネル粒子と、酸化ビスマス相とから主として構成され、酸化ビスマス相中にカリウム及びナトリウムからなる群から選択される少なくとも1種のアルカリ金属が存在することも見出した。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、優れた電圧非直線性を有する電圧非直線抵抗体を低不良率で提供することができる。また、本発明による電圧非直線抵抗体を用いることで、優れた保護性能を有する避雷器及びサージアブソーバーといった過電圧保護装置を低コストで実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施の形態1に係る電圧非直線抵抗体の微細構造の模式図である。
【図2】実施例及び比較例で用いた評価用試料の模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
実施の形態1.
本発明の実施の形態による電圧非直線抵抗体は、酸化亜鉛(ZnO)を主成分とし、酸化ビスマス、酸化アンチモン、酸化クロム、並びにカリウム及びナトリウムからなる群から選択される少なくとも1種のアルカリ金属を含む組成物を1000℃以下で焼成したことにより得られるものである。このようにして得られる焼結体は、図1に示すように、酸化亜鉛粒子1と、亜鉛及びアンチモンを主成分とするスピネル粒子2と、酸化ビスマス相3とから主として構成され、酸化亜鉛結晶粒子内には双晶境界4が存在している。更に、酸化ビスマス相中には、添加されたアルカリ金属が存在することが、微細構造分析により確認されている。更に、酸化ビスマス相中に存在するアルカリ金属により立方晶Bi38CrO60の生成が抑制されているため、焼結体中に立方晶Bi38CrO60は存在しないか、又は正方晶Bi16CrO27に比べてかなり少ない量で存在しており、具体的には、X線回折法による分析で、正方晶Bi16CrO27の(123)面のX線回折ピーク強度(A)に対する立方晶Bi38CrO60の(321)面のX線回折ピーク強度(B)の比(B/A)が0以上0.24未満の範囲となるような量である。立方晶Bi38CrO60の存在量をこの数値範囲に規定した理由は、立方晶Bi38CrO60の存在量が0.24以上になると電圧非直線抵抗体の電気特性のばらつきが極端に大きくなり、不良率を低減することができないためである。
【0014】
本実施の形態において、焼成される組成物は、酸化亜鉛を主成分とし、酸化ビスマス、酸化アンチモン、酸化クロム、並びにカリウム及びナトリウムからなる群から選択される少なくとも1種のアルカリ金属を含有するものである。
【0015】
酸化亜鉛(ZnO)は、電圧非直線性の改善、エネルギー耐量の向上及び長寿命化の総合的観点から、組成物中に、90モル%以上98モル%以下の範囲で含まれることが好ましく、95モル%以上98モル%以下の範囲で含まれることが更に好ましい。酸化亜鉛としては、通常、平均粒子径が1μm以下の粉末を用いることが好ましい。
【0016】
酸化ビスマス(Bi23)は、電圧非直線性及び課電寿命をより向上させるため、組成物中に、0.5モル%以上2モル%以下の範囲で含まれることが好ましく、0.7モル%以上1.5モル%以下の範囲で含まれることが更に好ましい。
酸化アンチモン(Sb23)は、電圧非直線性及び課電寿命をより向上させるため、組成物中に、0.1モル%以上2モル%以下の範囲で含まれることが好ましく、0.2モル%以上0.8モル%以下の範囲で含まれることが更に好ましい。
また、電圧非直線性及び課電寿命をより向上させるため、酸化ビスマス(Bi23)及び酸化アンチモン(Sb23)は、組成物中に、総量で0.5モル%以上2モル%以下の範囲で含まれることが好ましく、1.0モル%以上1.5モル%以下の範囲で含まれることが更に好ましい。
【0017】
酸化クロム(Cr23)は、電圧非直線性及び課電寿命をより向上させるため、組成物中に、0.05モル%以上0.5モル%以下の範囲で含まれることが好ましく、0.1モル%以上0.3モル%以下の範囲で含まれることが更に好ましい。
【0018】
カリウム及びナトリウムからなる群から選択される少なくとも1種のアルカリ金属は、焼結体における正方晶Bi16CrO27の(123)面のX線回折ピーク強度(A)に対する立方晶Bi38CrO60の(321)面のX線回折ピーク強度(B)の比(B/A)が0以上0.24未満の範囲となるように適宜調整して添加すればよいが、平坦率の小さい電圧非直線抵抗体を低不良率で得るために、組成物中に0.02モル%以上0.06モル%以下の範囲で添加することが好ましい。このアルカリ金属の添加量が、0.06モル%を超えると、不良率は低減されるものの、平坦率が悪化する傾向にあるため好ましくない。このアルカリ金属は、通常、平均粒子径が1μm以下のNa2CO3粉末及びK2CO3粉末として配合するか、あるいはこれらを溶かした水溶液として配合することが好ましい。
【0019】
本実施の形態における組成物には、電圧非直線性及び課電寿命をより向上させるため、上記した成分以外に、酸化ニッケル(NiO)、二酸化マンガン(MnO2)、酸化コバルト(Co34)、硝酸アルミニウム(Al(NO33)、ホウ酸(H3BO3)、二酸化珪素等を配合してもよい。これらの酸化物は、通常、組成物中に、総量で1モル%以上2モル%以下の範囲である。また、これらの酸化物としては、通常、平均粒子径が1μm以下の粉末を用いることが好ましい。
【0020】
電圧非直線性及び課電寿命をより向上させるため、組成物中に、0.1モル%以上2モル%以下の範囲で酸化ニッケルを配合してもよい。
電圧非直線性及び課電寿命をより向上させるため、組成物中に、0.1モル%以上2モル%以下の範囲で二酸化マンガンを配合してもよい。
電圧非直線性及び課電寿命をより向上させるため、組成物中に、0.1モル%以上2モル%以下の範囲で酸化コバルトを配合してもよい。
電圧非直線性をより向上させるため、組成物中に、0.001モル%以上0.01モル%以下の範囲で硝酸アルミニウムを配合してもよい。
電圧非直線性をより向上させ、焼結体中の微細孔(ポア)を減じエネルギー耐量をより向上させるため、組成物中に、0.01モル%以上0.2モル%以下の範囲でホウ酸を配合してもよい。
【0021】
次に、本発明の実施の形態による電圧非直線抵抗体の製造方法について具体的に説明する。上記した原料から構成される組成物を調製した後、これに水、分散剤及びポリビニルアルコール等の結合剤(バインダー)を添加し、粉砕・混合を十分に行って均一な組成のスラリーを作製する。このスラリーをスプレードライヤーで乾燥・造粒して造粒物を得る。得られた造粒物を、例えば200kgf/cm2以上500kgf/cm2以下の成形圧で成形して所定形状の成形体を得る。次に、成形体を、大気中又は酸素雰囲気中で、450℃程度に加熱してバインダーを除去し、続いて、1000℃以下で焼成して焼結体を得る。必要に応じて、この焼結体に、例えばアルミニウム溶射等により電極を形成したり、ガラスの焼き付けや抵抗値の高い拡散層の導入等により側面高抵抗層を形成してもよい。
本実施の形態による電圧非直線抵抗体の製造方法によれば、優れた電圧非直線性を有する電圧非直線抵抗体を低不良率で得られるにも関わらず、焼成温度が1000℃以下と低いため、焼成時の電力消費量を大幅に削減することができる。このように、本実施の形態による電圧非直線抵抗体の製造方法は、従来の製造方法に比べて製造時のCO2排出量を大幅に削減することができるので、環境に優しい方法といえる。
【0022】
更に、本実施の形態によって得られる電圧非直線抵抗体を単体で又は積層して避雷器に搭載すれば、優れた保護性能を有する避雷器及びサージアブソーバーといった過電圧保護装置を低コストで提供することができる。
【実施例】
【0023】
以下、本発明を実施例及び比較例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
<実施例1〜10及び比較例1〜6>
酸化ビスマス(Bi23)粉末 0.9モル%、酸化アンチモン(Sb23)粉末 0.4モル%、酸化ニッケル(NiO)粉末 0.5モル%、二酸化マンガン(MnO2)粉末 0.5モル%、酸化クロム(Cr23)粉末 0.1モル%、酸化コバルト(Co34)粉末 0.4モル%、硝酸アルミニウム(Al(NO33・9H2O) 0.004モル%及びホウ酸(H3BO3) 0.16モル%を配合したものを基本組成とし、これにNa2CO3又はK2CO3を0モル%〜0.08モル%の範囲で添加し、表1に示す16種の組成物を用意した。残部は酸化亜鉛(ZnO)である。なお、それぞれの原料には工業用原料又は試薬を用い、粉末原料についてはすべて平均粒子径が1μm以下のものを使用した。
表1に示した組成物それぞれに、純水、分散剤及び結合剤を添加し、粉砕・混合を十分に行って均一な組成を持つスラリーを作製した。
作製したスラリーをスプレードライヤーで造粒し、得られた造粒粉を成形圧500kgf/cm2で成形して、直径40mm、厚さ10mm程度のディスク状の成形体を得た。
【0024】
成形体を、大気中にて、450℃で5時間加熱処理した(脱バインダー工程)後、950℃の焼成温度で5時間焼成を行った(焼成工程)。昇温及び降温速度は50℃/時間とした。
【0025】
〔平坦率の評価及び不良率の計算〕
焼結体5の側面に、インパルス電圧印加時の側面閃絡防止用の側面高抵抗層6(樹脂)を塗布し、ディスク両面にはアルミニウム溶射によりアルミニウム電極7を形成して、評価用の試料とした。試料の模式断面図を図2に示した。
【0026】
平坦率はV2.35kA/V0.46mAにより評価した。V2.35kAは試料に8×20μsのインパルス電圧を印加し、そのピーク値を読み取ってV2.35kAとした。また、V0.46mAは60Hzの交流電圧(正弦波)を用いて測定を行った。交流を印加した場合、試料を流れる電流は抵抗性成分(Ir)と容量性成分(Ic)に分かれるが、抵抗分もれ電流抽出装置を用いてIrを抽出した。具体的にはIrが0.46mAとなる印加電圧を読み取りV0.46mAとした。
実施例1〜10及び比較例1〜6の試料では焼成後の不良率を評価した。電気特性良品(各実施例、比較例の中でV0.46mAの値が最も大きいもの)と比較して、V0.46mAが20〜30V/mm低下し且つ平坦率が0.1程度大きくなるものを電気特性不良品とし、不良率を下記の式に従って計算した。不良率が0%でないものは、V0.46mAの値の低下が見られないものを良品として、その平坦率を示した。良品の平坦率、不良率の評価結果を表1に示した。
不良率=電気特性不良品の数÷全数×100(%)
【0027】
表1に示されるように、実施例1〜10では、試料間で平坦率のばらつきが極めて小さく、不良率が0%であった。これらの中でも、ナトリウムあるいはカリウムを0.02モル%以上0.06モル%以下の範囲で添加した実施例1〜3及び6〜8は、平坦率が小さく、特に優れた非直線性を有していることが分かる。これに対し、比較例1〜6では、試料間で平坦率のばらつきが大きく、不良率が35%〜100%であった。
【0028】
〔微細構造の解析〕
焼成体を切断した後、メノウ乳ばちで30分程度粉砕し、粉末X線回折法を用いて焼成体に含まれるビスマスの生成物の結晶構造を解析したところ、すべての試料から、α−Bi23、Bi16CrO27の存在が確認され、また一部の試料からはBi38CrO60の存在も確認された。更に、ばらつきが発生した中の電気特性不良品の解析を進めたところ、これらの試料では、Bi16CrO27の(123)面のX線回折ピークの強度(A)とし、Bi38CrO60の(321)面のX線回折ピークの強度(B)とした時に、B/Aが0.24以上であることが確認された。また、実施例5及び10では、Bi38CrO60の存在が確認され、B/Aが0.15〜0.20であったが、試料間で平坦率のばらつきが極めて小さく、不良率が0%であった。結果を表1に示した。
更に、ナトリウムあるいはカリウムを添加した試料を高性能電子プローブマイクロアナライザ(EPMA:Electron Probe Microanalyzer)を用いて分析したところ、酸化ビスマス相中に添加したナトリウムあるいはカリウムが存在することが確認された。
【0029】
これらのことから、ナトリウムあるいはカリウムには、電気特性不良の原因となると考えられるBi38CrO60の生成を直接抑制する効果があることが分かり、また、ナトリウムあるいはカリウムの添加によりBi38CrO60の生成量を特定量未満に調整することで不良率を著しく低減できることが明らかとなった。ただし、実施例4及び9の結果から分かるように、ナトリウムあるいはカリウムを過剰に添加すると、不良率は0%のままであるが、平坦率が悪化する。このように平坦率が大きくなる理由は、添加したナトリウムあるいはカリウムが酸化ビスマス相だけでなく酸化亜鉛粒子にも固溶し始め、酸化亜鉛粒子の抵抗が大幅に増加するためであると考えられる。
【0030】
また、ナトリウムやカリウムと同様にリチウムの添加実験も実施したが、試料は絶縁物に近い状態となり電気特性の評価ができなかった。すなわち、アルカリ金属であるリチウムは、酸化亜鉛の抵抗を大幅に増大させ、焼結体をほぼ絶縁物に近い状態にすることも確認した。特開平8−138910号公報にも示唆されているように、これまでは、電圧非直線抵抗体中に含まれるアルカリ金属は電気特性を悪化させるものと認識されていたが、本実施例のようにアルカリ金属を積極的に添加することにより優れた電圧非直線性を有する電圧非直線抵抗体が低不良率で得られるという効果は、これまでと全く異なる特異な効果であると言える。
【0031】
【表1】

【0032】
以上のことから、酸化亜鉛を主成分とし、酸化ビスマス、酸化アンチモン、酸化クロム、並びにカリウム及びナトリウムからなる群から選択される少なくとも1種のアルカリ金属を含む組成物を1000℃以下で焼成して電圧非直線抵抗体を製造する際、焼結体における正方晶Bi16CrO27の(123)面のX線回折ピーク強度(A)に対する立方晶Bi38CrO60の(321)面のX線回折ピーク強度(B)の比(B/A)が0以上0.24未満の範囲となるようにアルカリ金属の添加量を調整することにより電圧非直線抵抗体間で電気特性のばらつきが小さくなり、不良率を大幅に低減できることが確認された。特に、アルカリ金属を0.02モル%以上0.06モル%以下の範囲で添加することにより、優れた電気特性の電圧非直線抵抗体を低不良率で得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化亜鉛粒子と、亜鉛及びアンチモンを主成分とするスピネル粒子と、酸化ビスマス相とから主として構成される焼結体からなり、酸化ビスマス相中にカリウム及びナトリウムからなる群から選択される少なくとも1種のアルカリ金属が存在し且つ焼結体における正方晶Bi16CrO27の(123)面のX線回折ピーク強度(A)に対する立方晶Bi38CrO60の(321)面のX線回折ピーク強度(B)の比(B/A)が0以上0.24未満の範囲であることを特徴とする電圧非直線抵抗体。
【請求項2】
カリウム及びナトリウムからなる群から選択される少なくとも1種のアルカリ金属を0.02モル%以上0.06モル%以下の範囲で含むことを特徴とする請求項1に記載の電圧非直線抵抗体。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の電圧非直線抵抗体を搭載したことを特徴とする避雷器。
【請求項4】
酸化亜鉛を主成分とし、酸化ビスマス、酸化アンチモン、酸化クロム、並びにカリウム及びナトリウムからなる群から選択される少なくとも1種のアルカリ金属を含む組成物を1000℃以下で焼成する電圧非直線抵抗体の製造方法であって、アルカリ金属の添加量を調整することによって、得られる焼結体における正方晶Bi16CrO27の(123)面のX線回折ピーク強度(A)に対する立方晶Bi38CrO60の(321)面のX線回折ピーク強度(B)の比(B/A)が0以上0.24未満の範囲となるように調整することを特徴とする電圧非直線抵抗体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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