説明

電子ビーム発生装置

【課題】三相遮断素子が故障しているか否かの判別が困難であったという点である。
【解決手段】 電子ビームを発生する電子銃と、前記電子銃放電時に前記電子銃に供給される電流を遮断する遮断回路と、前記電子銃放電時の放電波形を量子化する量子化回路と、この量子化された信号に基づき前記遮断回路の故障状態を判別する判別回路と、を備えた電子ビーム発生装置であって、前記判別回路において前記量子化された信号の幅が所定の幅より長い場合に故障と判別し、所定の幅に満たない場合は正常と判別することを特徴とする電子ビーム装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子ビームを発生する電子銃を備える電子ビーム発生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子銃から発生させた電子ビームを物質表面にぶつけると、跳ね返されるもの、内部に潜り込むもの、あるいはX線・光となるものなど多くの現象がおこる。これらは、情報源として、電子顕微鏡、電子線プローブマイクロアナライザー、テレビ等に利用されている。
【0003】
しかし、これら情報源に変化する電子ビームのエネルギー量は、数%以下で、残りは全部熱になる。この発生する熱は非常に特徴があり、電子ビームを細く絞れば、1cm当たり百万KWもの密度で熱を発生させることが可能で、地球上のどんな物質でも瞬時に蒸発させてしまう能力がある。すなわち、電子ビームは磁界などで容易に位置制御、走査制御を行うことができるため、最適な電子ビーム電流密度で加熱材料面を制御ができ、電子ビームの電力密度が大きくできる。このため、タングステン、モリブテン等の高融点金属からSiO、Al等の誘電体まであらゆる材料を蒸発させることが可能である。
【0004】
偏向型電子銃はディジタルカメラ、メガネ、プロジェクタ用レンズ、DVD・CD検出用レンズ、プラズマディスプレー、ディジタルビデオテープ等のコーティング用の蒸着源として用いられている。
【0005】
直進型電子銃は高速で連続的に送られる幅広のプラスチックフィルム、板ガラス、鋼板等に均一に金属、金属酸化物を蒸着するために開発された電子ビーム蒸発源で、高密度記録用磁気テープ、酸化バリア機能をもつ包装用フィルムの製造、プラズマディスプレーパネルのMgO膜の蒸着、表面処理鋼板の開発などに広く使用されている。また、高融点材料、高純度金属の溶融にも使用できる。
【0006】
図1は従来技術における高圧電源を備えた電子ビーム発生装置である。三相交流電源1から供給された三相交流電流は、瞬時に電流を遮断するIGBT等の半導体スイッチから構成された三相遮断素子2、導通角を制御することにより位相制御を行う位相制御用サイリスタ3、昇圧トランス4を経て、三相整流回路5により直流に整流され、電子銃8に供給される。
【0007】
図3は電子銃8の詳細図である。フィラメント16に電流を流してカソード17を加熱し、カソード17とアノード18に加速電圧が印加されると、図1におけるエミッション電流10が流れ、電子銃から電子ビームが照射される。すると、電子銃8に放電が発生することがある。すなわち、電子銃8は図示しない真空容器に収容されており、カソード17とアノード18は絶縁されているが、2つの電極間の電圧を高くすると、絶縁が破れて両電極間に電流が流れるのである。
【0008】
図1において電子銃8に放電が発生した場合、制御装置11おいて図示しないフィルタ等によってエミッション電流に含まれる放電波形を検出し、所定の時間、三相遮断素子2及び位相制御用サイリスタ3をオフさせて三相交流電流を遮断し、放電が納まるまで待つ。所定の時間が経過し、放電が納まった後、三相遮断素子2及び位相制御用サイリスタ3を再点弧させる。すると、平滑コンデンサ7を充電しながら加速電圧が自動復帰し、エミッション電流10が流れ、再び電子銃から電子ビームが照射される。
【0009】
しかしながら、上記一連の過程で、三相遮断素子2が短絡故障することがある。その状態で放電が発生すると、三相遮断素子2による遮断機能が得られず、位相制御用サイリスタ3による三相遮断となる。サイリスタはゲートに電圧を加えると流れる交流電圧の極性が変わるまで電流を流し、交流電圧の極性が変わると電流を通さなくなる。すなわち、サイリスタによる遮断はゲートに電圧を加えてから極性が変わるまで電流を止めることができない。このため、放電が発生した際に瞬時に遮断できず、放電が三相遮断素子2による遮断よりも長く持続する。その間は電子ビームが発生せず蒸着等の作業が中断してしまい、製品の品質に大きな支障をきたしていた。三相遮断素子2は常時オン状態で使用するため素子が正常なのか、故障しているのかを、オペレータが判別することは困難であった。
【0010】
なお、従来技術としては、エミッション電流検出器の内容をCPUにフィードバックさせ、実測値を取り込み、エミッション電流基準値と実測値との比較を行い種々のフィラメント状態の判断をCPUが行う電子銃のフィラメント状態観察装置がある(例えば、特許文献1)。
【0011】
【特許文献1】特開平3−312198
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明が解決しようとする問題点は、三相遮断素子が故障した場合瞬時に電子銃に流れる電流を遮断できず、そして、三相遮断素子が短絡故障しているか否かの判別が困難であったという点である。
【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項1に記載された発明は、電子ビームを発生する電子銃と、前記電子銃放電時に前記電子銃に供給される電流を遮断する遮断回路と、を備えた電子ビーム発生装置において、前記電子銃放電時の放電波形を量子化する量子化回路と、この量子化された信号に基づき前記遮断回路の故障状態を判別する判別回路と、を備えたことを特徴とする。
【0014】
請求項2に記載された発明は、前記判別回路において前記量子化された信号の幅が所定の幅より長い場合に故障と判別し、所定の幅に満たない場合は正常と判別することを特徴とする。
【0015】
請求項3に記載された発明は、交流電源からの交流電流を前記電子銃に供給する直流電流に整流する整流回路を備えた電子ビーム発生装置において、前記遮断回路は前記交流電流を遮断する半導体スイッチであり、前記量子化回路はパルス生成器であり、前記判別回路において前記パルス生成器で量子化されたパルス信号が所定のパルス幅より長い場合に故障と判別し、所定のパルス幅に満たない場合は正常と判別する、ことを特徴とする。
【0016】
請求項4に記載された発明は、前記判別回路からの故障状態信号を保持する故障状態信号保持回路と、前記故障状態信号保持回路からの信号により故障警報を発する故障警報出力手段と、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明により三相遮断素子が故障した場合の放電を容易に判別することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の構成を図2を用いて説明する。図2中、図1で使用された符号と同一符号の付されたものは同一構成要素である。図2は本発明における高圧電源を備えた電子ビーム発生装置である。位置制御装置、走査制御装置は図示していない。1は三相交流電源である。電圧値としては、例えば200Vや400Vが用いられる。2は三相交流電源1と接続された、IGBT等の半導体スイッチから構成された三相遮断素子である。各相毎に設けられた三相遮断素子2は放電が検出された場合、三相交流電流を瞬時に遮断する。2は三相遮断素子2と接続された、それぞれの相毎に設けられた位相制御用サイリスタ3である。これらサイリスタ2はその導通角を制御することにより、位相制御ができるようになっている。
【0019】
4は昇圧トランスで、位相制御用サイリスタ3の出力が1次側に接続されている。5は昇圧トランス4の2次側に接続された三相整流回路である。この三相整流回路5はダイオードから構成され、全波整流を行う。6は三相整流回路5のアノード側に接続された平滑用のチョークコイル、7はチョークコイル6の一端に接続された平滑コンデンサである。チョークコイル6と平滑コンデンサ7とで平滑回路を構成している。この平滑回路からは、直流電圧が出力される。
【0020】
8は平滑回路と接続される、負荷としての電子銃である。電子銃8には、エミッション電流10が流れ、電子ビームが照射される。電子銃8に放電が発生した場合、制御装置11によりエミッション電流に含まれる放電波形を検出し、所定の時間、三相遮断素子2及び位相制御用サイリスタ3をオフさせて電子銃8に流れる電流を遮断し、放電が納まるまで待つ。所定の時間が経過し、放電が納まった後、三相遮断素子2及び位相制御用サイリスタ3を再点弧させる。
【0021】
エミッション検出抵抗9によって電圧信号に変換されたエミッション電流10はパルス生成器12へ供給される。パルス生成器12はパルス生成回路(コンパレータ)から構成され、その入力にはエミッション電流信号と所定の負の設定値−Vが入力される。パルス生成器12は放電波形を所定の電圧のパルスに変換する。パルス生成器12の出力は短絡故障検出回路13に供給される。短絡故障検出回路13は所定の長さ以上のパルス信号は通し、所定の長さに満たないパルス信号は通さない。短絡故障検出回路13は短絡故障状態保持回路14に接続される。短絡故障状態保持回路14はフリップフロップから構成され、入力された所定の長さ以上のパルス信号でONとなり、ON状態を保持する。短絡故障状態保持回路14は警報出力装置15に接続され、警報出力装置15はON状態で警報を出力し続ける。
【0022】
以上、図2における各部の構成について説明したが、次に動作について説明する。
図3で示す、フィラメント16に電流を流してカソード17を加熱し、加速電圧を印加すると、図2で示すエミッション電流10が流れる。すると、電子銃8に放電が発生することがある。すなわち、電子銃8は図示しない真空容器に収容されており、カソード17とアノード18は絶縁されているが、2つの電極間の電圧を高くすると、絶縁が破れて両電極間に電流が流れるのである。電子銃8に放電が発生した場合、制御装置11は放電波形を検出し、所定の時間、三相遮断素子2及び位相制御用サイリスタ3をオフさせて三相交流電流を遮断し、電子銃に流れる電流を遮断して、放電が納まるまで待つ。所定の時間が経過し、放電が納まった後、制御装置11は三相遮断素子2及び位相制御用サイリスタ3を再点弧させる。すると、平滑コンデンサ7を充電しながら加速電圧が自動復帰し、エミッション電流10が流れ、電子銃から電子ビームが照射される。
【0023】
今、何らかの事由により三相遮断素子2が短絡故障したまま電子ビームを発生しているとする。放電時に三相遮断素子2が正常に作動すれば、瞬間に電力の供給が停止されるため放電は数m秒程度で納まるのであるが、三相遮断素子2が短絡故障していると位相制御用サイリスタ3が完全に消弧するまで電子銃8に電力が供給されるため放電が数十m秒持続してしまう。そこで、エミッション電流信号の放電波形(図4参照)をパルス生成器12でパルス化することにより、三相遮断素子が故障した場合の放電を検出する。
【0024】
さて、ここで図4を用いて放電パターンの説明を行う。
(1)完全な放電:三相遮断素子2が短絡故障した場合、位相制御用サイリスタ3による消弧のため放電波形はなだらかに収束する。パルス生成器12によりパルス化されたパルス信号は幅の広い信号となる。この場合、パルス幅が所定の閾値よりも広くなることから、短絡故障検出回路14で検出される。
(2)単発放電:三相遮断素子2が正常な場合、放電しても三相遮断素子2が瞬時に電流を遮断するため矩形の放電波形となる。この場合、パルス生成器12によりパルス化されたパルス信号は幅の狭い信号となる。パルス幅が所定の閾値に満たないことから、短絡故障検出回路14で検出されない。
(3)単発の繰返し:三相遮断素子2が正常で、単発放電が1秒間に数回発生する場合である。放電しても三相遮断素子2が瞬時に電力を遮断するため幅の狭い放電波形の繰返しとなる。パルス生成器12によりパルス化されたパルス信号は幅の狭い信号の繰返しとなる。いずれのパルス信号もパルス幅が所定の閾値に満たないことから、短絡故障検出回路14で検出されない。
(4)繰返し放電:三相遮断素子2が正常で、放電発生後、加速電圧が復帰する最中に再放電する場合である。放電しても三相遮断素子2が瞬時に電流を遮断するため幅の狭い放電波形の繰返しとなる。パルス生成器12によりパルス化されたパルス信号は幅の狭い信号の繰返しとなる。いずれのパルス信号もパルス幅が所定の閾値に満たないことから、短絡故障検出回路14で検出されない。
【0025】
図2において、短絡故障検出回路13では、入力されたパルス信号のパルス幅が所定の閾値よりも広くなった場合、三相遮断素子2の故障状態を検出し信号を出力する。出力された信号は、短絡故障状態保持回路14をONし、ON状態を保持する。短絡故障状態保持回路14の信号を受けて、警報出力装置15は警報を出力し続ける。オペレータはこの警報を受け、電子ビームが発生せずに蒸着等の作業が中断してしまい、製品の品質に大きな支障をきたすことを認識することができるため、適切な処理を行うことができる。
【0026】
以上、動作について説明したが、本発明により三相遮断回路が故障した場合、検出されるパルス信号の幅は所定の閾値より広いことから、確実に故障検出を行うことができるという効果が得られる。
【0027】
なお、本発明は、上記実施の形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。例えば、パルス生成器は3段階以上の量子化を行うA/D変換回路でもよい。また、三相交流電流は単相、二相又は多相電流でもよい。さらに、三相遮断素子はIGBT以外の半導体スイッチ、又は他の瞬時に遮断自在な遮断手段でもよい。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】従来技術における高圧電源を備えた電子ビーム発生装置である。
【図2】本発明における高圧電源を備えた電子ビーム発生装置である。
【図3】電子銃詳細図である。
【図4】電子銃が放電したときの放電パターンを示す図である。
【符号の説明】
【0029】
1 三相交流電源
2 三相遮断素子
3 位相制御用サイリスタ
4 昇圧トランス
5 三相整流回路
6 チョークコイル
7 平滑コンデンサ
8 電子銃
9 エミッション電流検出抵抗
10 エミッション電流
11 制御装置
12 パルス生成器
13 短絡故障検出回路
14 短絡故障状態保持回路
15 警報出力装置
16 フィラメント
17 カソード
18 アノード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子ビームを発生する電子銃と、
前記電子銃放電時に前記電子銃に供給される電流を遮断する遮断回路と、
を備えた電子ビーム発生装置において、
前記電子銃放電時の放電波形を量子化する量子化回路と、
この量子化された信号に基づき前記遮断回路の故障状態を判別する判別回路と、
を備えた電子ビーム発生装置。
【請求項2】
前記判別回路において前記量子化された信号の幅が所定の幅より長い場合に故障と判別し、所定の幅に満たない場合は正常と判別することを特徴とする請求項1に記載された電子ビーム発生装置。
【請求項3】
交流電源からの交流電流を前記電子銃に供給する直流電流に整流する整流回路を備えた請求項2に記載した電子ビーム発生装置において、
前記遮断回路は前記交流電源を遮断する半導体スイッチであり、
前記量子化回路はパルス生成器であり、
前記判別回路において前記パルス生成器で量子化されたパルス信号が所定のパルス幅より長い場合に故障と判別し、所定のパルス幅に満たない場合は正常と判別する、ことを特徴とする電子ビーム発生装置。
【請求項4】
前記判別回路からの故障状態信号を保持する故障状態信号保持回路と、
前記故障状態信号保持回路からの信号により故障警報を発する故障警報出力手段と、を備えた請求項1乃至3のいずれかに記載した電子ビーム発生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−311211(P2007−311211A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−139651(P2006−139651)
【出願日】平成18年5月19日(2006.5.19)
【出願人】(000004271)日本電子株式会社 (811)
【Fターム(参考)】