説明

電子ビーム蒸着用電子銃装置

【課題】容易に溶け跡の平坦化作業を行える電子銃蒸着用電子銃装置を提供する。
【解決手段】電子ビーム軌道を所定角度曲げてるつぼ6内の蒸着材料7に照射し、該蒸着材料7を溶融してその蒸着材料の蒸気を上部に配置された被蒸着基板に付着させて薄膜を形成させるように構成させた電子ビーム蒸着用電子銃装置において、偏向コイル3による電子ビーム軌道と、走査コイル5による電子ビーム軌道とを制御する電子ビーム軌道制御手段と、該電子ビーム軌道制御手段により前記蒸着材料7へ入射する電子ビーム8の入射角を制御する入射角制御手段とを設け、これら電子ビーム軌道制御手段と入射角制御手段とを動作させることにより、るつぼ6内の蒸着材料の溶け具合の平均化を図る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電子ビーム蒸着用電子銃装置に関し、更に詳しくはるつぼ内の蒸着材料の溶け具合の平均化を図った電子ビーム蒸着用電子銃装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子ビーム蒸着用電子銃は、真空中で蒸着材料が充填されたるつぼに電子ビームを照射し、蒸着材料の加熱、溶融及び蒸気化するために利用される。蒸着材料の蒸気は、真空容器の上方に置かれた基板に付着、堆積し、光学特性や電磁気特性を有する薄膜となる。本装置を実装した真空蒸着膜は、電子ビーム蒸着装置として一般に市販され、光学薄膜や金属薄膜の薄膜形成用途で主に利用されている。
【0003】
本発明で用いられる電子ビーム蒸着用電子銃装置は、一般に蒸着室(以下真空室とも呼ぶ)に設置されており、蒸着材料が充填されたるつぼに電子ビームを照射し、蒸着材料の加熱、溶融、及び蒸気化するために利用されている。本発明の電子ビーム蒸着用電子銃装置は、特に薄膜形成用途の蒸着装置の中に内蔵され、主に光学薄膜形成に利用される場合が多い。
【0004】
図5は電子ビーム蒸着用電子銃装置の側面図、図6は正面図、図7は電源接続図である。これら図において、同一番号の部品は同一のものである。図5〜図7を用い、電子ビーム蒸着用電子銃装置の概要について説明する。フィラメント1は、タングステン等の高融点材料からなり、フィラメント加熱電源10の交流により加熱され、熱電子が放出可能な温度、例えば2300℃まで加熱される。
【0005】
アノード2はアース電位となっており、フィラメント1とある一定間隔をもって設置されている。このアノード2とフィラメント1との距離は、空間電荷の影響を考慮され、電子銃の最大ビーム電流値を決定する大きなファクタとなっている。偏向コイル3は電子ビーム8を270度偏向させるための磁場を発生させる機能を持ち、偏向コイル電源14の直流電流をコイルに流し、必要な磁場を発生させるのに利用されている。9は蒸発粒子が走査コイル5,アノード2,フィラメント1等に付着するのを防止するための防着板である。
【0006】
ヨーク4は磁性材料からなり、偏向コイル3と磁気的に結合され、電子ビーム8の偏向に必要な磁場形成の補助的な役割をしている。走査コイル5(5a,5b)は、電子ビーム8を後述するXとY方向に走査するため磁場を発生させる機能を持ち、直流電源12a,12bと交流電源13a,13bにそれぞれ接続されている。るつぼ6は蒸着材料7を充填するためのもので、冷却水にて水冷された構造となっている。
【0007】
次に、電子銃の動作について説明する。先ず、電子ビーム8を偏向させるための磁場を形成するために、偏向コイル3に偏向コイル電源14より直流電流を流す。この場合において、ヨーク4の作用もあって電子ビーム8の軌道上に必要な磁場分布が形成される。次に、フィラメント1にフィラメント加熱電源10から交流電流を流し、フィラメント1を熱電子が放出可能な温度まで加熱させる。
【0008】
フィラメント1の加熱が完了したら、アノード2のアース電位に対し、フィラメント1に負のバイアスを印加させるために加速電源11でマイナス数kV〜マイナス十数kVの電圧をかける。その結果、フィラメント1とアノード2間に加速電圧相当の電位差が発生し、フィラメント1からの熱電子eが電位差で加速され、偏向コイル3とヨーク4で形成された磁場分布で電子ビーム8が偏向され、電子ビーム8の照射対象である蒸着材料7に電子ビーム8が入射される。
【0009】
ここで、蒸着材料7はSiO2やTiO2の粉末が利用される。ここで、走査コイル5を利用すれば、フィラメント1から出た電子ビーム8を走査コイル5の磁場で軌道変更させることが可能で、るつぼ6上に照射される電子ビームを精密に走査させることで、るつぼ上の蒸着材料の表面を均一に溶かすことができる。
【0010】
従来のこの種の装置としては、蒸着材の蒸気を開閉するシャッタを設け、シャッタ閉鎖時とシャッタ解放時にめっき材への入射角θを変化させて、ビームの乱反射量を低減するようにした装置が知られている(例えば特許文献1参照)。また、めっき原料上面と被めっき材下面の垂直間距離を250〜500mmとすると共に、前記めっき原料表面への電子線入射角度θを20度以上とするようにした装置が知られている(例えば特許文献2参照)。
【0011】
また、2つの蒸発材料AとBを含む2つのるつぼを設け、入射全電子ビーム量のうち、蒸発材料Aに割り振られる比率と電子ビームの入射角における電子ビームの反射される割合から電子銃の使用効率を求めるようにした装置が知られている(例えば特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平5−214529号公報(段落0013〜0015、図1)
【特許文献2】特開平5−255841号公報(段落0020、図1〜図6)
【特許文献3】特開平6−212410号公報(段落0007〜0017、図4〜図7)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
近年、光学薄膜用途の蒸着装置においては、生産の歩留まりを向上させ、生産コストの低減を図ることが重要視されている。特に最近では、光学多層膜の分光特性の高スペック化の要求が高まりを見せており、歩留まり向上のためには、バッチ間の成膜再現性が非常に重要となってくる。
【0014】
このバッチ間の成膜再現性を高めるためのポイントは、成膜材料が充填されているるつぼ上の溶け跡をフラットにし、常に安定した蒸発分布で膜形成させることにある。なお、この溶け跡が電子ビーム照射で局所的にくぼみなどができると、蒸発分布が変化し、基板ドーム上にセットされた基板に堆積する膜の膜厚に分布が生じてしまう。これが歩留まり悪化の大きな要因と考えられており、改善が望まれていた。
【0015】
従来の問題点を更に説明すると、従来、蒸着材料の溶け跡改善には走査コイルを利用して、電子ビームの走査形状と電子ビームの局所的な滞在時間を精密に制御して溶け跡改善を図っていた。但し、SiO2材料や昇華性材料、顆粒材料など一部の蒸着材料の中には、電子ビームが当たった瞬間に溶け、重力方向に掘れてしまう材料がある。これらの材料に対しては、電子ビームを精密に走査しても満足な溶け跡改善には至らない場合がある。
【0016】
なお、ここで説明している電子ビーム走査の基本的な考えは、電子ビームの蒸着材料への照射を垂直入射(材料面に直角方向に入射)としているのが一般的である。
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであって、電子ビームの走査だけでは溶け跡の改善が図れないような蒸着材料に対し、容易に溶け跡の平坦化作業を行えるようにするための手段を提供することを目的としている。
【0017】
ここで、電子ビームが当たった瞬間に溶けて掘れてしまう材料についての対策として、本発明者らの経験的なノウハウであるが、電子ビームの蒸着材料への入射を垂直入射から斜め入射にしていく、例えば電子ビームの入射角を90度から60度以下にしていくと、電子ビームが当たった瞬間に溶けて掘れてしまう傾向に改善が図れることが分かっている。但し、この現象の理論的な解明は未だ定かでない。よって、この電子ビームの入射角を材料毎に電気的に変更、制御する機構を付加することで、蒸着材料の溶け跡改善が容易に改善するものと期待される。
【課題を解決するための手段】
【0018】
(1)請求項1記載の発明は、電子ビーム軌道を所定角度曲げてるつぼ内の蒸着材料に照射し、該蒸着材料を溶融してその蒸着材料の蒸気を上部に配置された被蒸着基板に付着させて薄膜を形成させるように構成された電子ビーム蒸着用電子銃装置において、偏向コイルによる電子ビーム軌道と、走査コイルによる電子ビーム軌道とを制御する電子ビーム軌道制御手段と、該電子ビーム軌道制御手段により前記蒸着材料へ入射する電子ビームの入射角を制御する入射角制御手段と、を設け、これら電子ビーム軌道制御手段と入射角制御手段とを同時に動作させることにより、るつぼ内の蒸着材料の溶け具合の平均化を図ったことを特徴とする。
【0019】
(2)請求項2記載の発明は、前記電子ビーム軌道制御手段は、偏向コイル電源と走査コイル電源に流す電流信号を制御することを特徴とする。
(3)請求項3記載の発明は、前記電子ビーム軌道制御手段は、偏向コイル磁場と走査コイル磁場の組合せにより、蒸着材料上での入射角を変化させることを特徴とする。
【0020】
(4)請求項4記載の発明は、入射位置は一定で、入射角度の異なる偏向コイル電流と走査コイル電流との組合せを記憶手段に記憶させておき、希望する入射角度を指定することにより、前記入射角制御手段は対応する偏向コイル電流と走査コイル電流を読み出して、その値を偏向コイル用電源と走査コイル用電源に設定することを特徴とする。
【0021】
(5)請求項5記載の発明は、蒸着材料の種類と、各蒸着材料の種類毎の電子ビーム入射角の設定値を記憶手段に記憶させておき、蒸着材料の種類が設定されたら、前記記憶手段に記憶されている電子ビーム入射角の設定値を読み出して、前記電子ビーム軌道制御手段と前記入射角制御手段により電子ビーム入射角の設定を行なうことを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
(1)請求項1記載の発明によれば、入射角制御手段により、蒸着材料へ入射される電子ビーム入射角を制御することで、るつぼ内の蒸着材料の溶け具合の平均化を図ることができ、被蒸着基板に均一な膜を蒸着することができる。
【0023】
(2)請求項2記載の発明によれば、電子ビーム軌道制御手段により偏向コイル電源と走査コイル電源に流す電流信号を制御することで、電子ビーム軌道を所定の軌道に乗せることが可能になる。
【0024】
(3)請求項3記載の発明によれば、偏向コイル磁場と走査コイル磁場の組合わせで蒸着材料上での入射角を変化させ、るつぼ内の蒸着材料の溶け具合の平均化を図ることができる。
【0025】
(4)請求項4記載の発明によれば、入射角度の異なる偏向コイル電流と走査コイル電流との組合わせを記憶手段に記憶させておき、希望する入射角度を指定することにより、前記記憶手段から該入射角に対応した偏向コイル電流と走査コイル電流を読み出して、偏向コイル電源と走査コイル電源に設定することにより、所定の入射角度でるつぼ内の蒸着材料に電子ビームを照射させることができる。
【0026】
(5)請求項5記載の発明によれば、蒸着材料の種類と、各蒸着材料の種類毎の電子ビーム入射角の設定値を記憶手段に記憶させておき、蒸着材料の種類が設定されたら、前記記憶手段に記憶されている電子ビーム入射角の設定値を読み出して、前記電子ビーム軌道制御手段と前記入射角制御手段により電子ビーム入射角の設定を行なうことにより、るつぼ内の蒸着材料の溶け具合の平均化を図ることができ、被蒸着基板に均一な膜を蒸着することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の一実施の形態を示す構成図である。
【図2】ラーモア円による軌道の変化例を示す図である。
【図3】データ記憶テーブルの構成例を示す図である。
【図4】膜形成の説明図である。
【図5】電子ビーム蒸着用電子銃装置の側面図である。
【図6】電子ビーム蒸着用電子銃装置の正面図である。
【図7】電子ビーム蒸着用電子銃装置の電源接続図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。図1は本発明の一実施の形態を示す構成図である。図5〜図7と同一のものは、同一の符号を付して示す。図において、23は入射角度の設定や各種コマンドを入力するための操作部、21は該操作部23と接続されるシステム全体の動作を制御する制御装置である。該制御装置21としては、例えばパソコン等のコンピュータが用いられる。操作部23としては、例えばキーボードやマウスが用いられる。20は入射角番号とそれに付随する偏向コイル電流と走査コイル電流が記憶される記憶手段としてのメモリである。25はこれらデータが記憶されるデータ記憶テーブルであり、メモリ20内に設けられている。
【0029】
30は蒸着室としての真空室である。該真空室30において、1は電子を放出するフィラメント、2は電子に対して加速電圧を与えるアノード(引出電極)、3は電子ビーム8を180度〜270度回転させる偏向コイル、5は電子ビーム8をX,Y2次元方向に走査する走査コイルである。6はるつぼ、7は該るつぼ6内に充填された蒸着材料である。該蒸着材料としては、例えばSiO2やTiO2等の粉体が用いられる。
【0030】
12は走査コイル5に流す電流の制御を行なう走査コイル電源、14は偏向コイル3に流す電流の制御を行なう偏向コイル電源である。これら電源12,14は制御装置21と接続され、該制御装置21の出力によりこれら電源12,14に制御信号が与えられ、それぞれのコイル5,3に流す電流を設定するようになっている。このように構成された装置の動作を説明すれば、以下の通りである。
【0031】
フィラメント1から発生した電子ビーム8は、前述したように、偏向コイル3から発生した磁束により180〜270度曲げられる。その軌道は、偏向コイル3とヨーク4(図6参照)により形成された均一に近い磁場によりラーモア円を描く。この時、電子ビームがるつぼ6内の蒸着材料7の中心に来るためのラーモア円は、幾何学的な電子銃の構造から一様に定まる。
【0032】
従って、この時の偏向コイル電流もある値に定まり、るつぼ6内の蒸着材料7への入射角度もラーモア円の形状から一様に定まる。図2にラーモア円による軌道の変化例を示す。ここで、磁場を強くしていくとラーモア円の半径は小さくなっていく。このように、偏向コイル3のラーモア円の半径によりるつぼ6の蒸着材料7内への電子ビーム入射角が変化するが、同時にその位置も変化する。この場合において、偏向コイル3と走査コイル5とを同時に制御する。
【0033】
しかしながら、この位置は、走査コイル5の発生する磁場により蒸着材料7上の中心に持ってくることができる。走査コイル5による磁場は走査コイル5の近辺にしか発生せず、この磁場により走査コイル5近辺の電子ビーム軌道の位置と角度は変化するが、るつぼ6近辺では再び偏向コイル磁場によるラーモア円に戻る。従って、偏向コイル3の磁場と、走査コイル5の磁場の組合わせにより、るつぼ6上でのビーム入射位置は同じで、入射角度のみを変化させることができる。
【0034】
従って、本発明によれば、入射角制御手段により、蒸着材料へ入射される電子ビーム入射角を制御することで、るつぼ内の蒸着材料の溶け具合の平均化を図ることができ、被蒸着基板に均一な膜を蒸着することができる。
【0035】
また、本発明によれば、電子ビーム軌道制御手段(制御装置21)により偏向コイル電源14と走査コイル電源12に流す電流信号を制御することで、電子ビーム軌道を所定の軌道に乗せることが可能になる。
【0036】
また、偏向コイル磁場と走査コイル磁場の組合わせで蒸着材料7上での入射角を変化させ、るつぼ6内の蒸着材料7の溶け具合の平均化を図ることができる。
具体的には、データ記憶テーブル25に予めるつぼ6内のビームの位置としては一定であるが、入射角度の異なる偏向コイル3と走査コイル5のそれぞれのコイル電流のペアを記憶させておく。
【0037】
図3はデータ記憶テーブル25の構成例を示す図である。番号と蒸着材料と入射角と偏向コイル電流と走査コイル電流とが記憶されている。例えば、番号01番の場合、材料はSiO2であり、入射角を45度に設定する場合には、偏向コイル3に流す電流はA1アンペア、走査コイル5に流す電流はB1アンペアである。次に、入射角を60度に設定する場合は、偏向コイル電流はA2アンペア、走査コイル電流はB2アンペアである。偏向コイル3と走査コイル5にこのような電流を同時に与えると、蒸着材料7への入射角をそれぞれ45度,60度に設定することができる。このような制御は、材料がTiO2の場合でも同様である。
【0038】
但し、SiO2の蒸着材料7へ入射角45度で入射させる場合の、偏向コイル電流A1アンペア、走査コイル電流B1アンペアと、TiO2の蒸着材料7へ入射角45度で入射させる場合の、偏向コイル電流A3と走査コイル電流B3の値は、一般的には同じである。即ち、A1=A3,B1=B3である。
【0039】
このような各蒸着材料7への電子ビーム8の入射角の設定は、オペレータが操作部23から入射角を入力することにより行なう。例えば、オペレータが入射角45度、蒸着材料SiO2を入力すると、制御装置21はデータ記憶テーブル25を参照して、蒸着材料がSiO2、入射角が45度の時の偏向コイル電流A1アンペアと走査コイル電流B1アンペアを読み出して、それぞれの値を走査コイル電源12と偏向コイル電源14に与える。この結果、偏向コイル電源14は偏向コイル3にA1アンペア、走査コイル5にB1アンペアを流す。この結果、入射角制御手段(制御装置21)により、蒸着材料7へ入射される電子ビーム入射角45を制御することで、るつぼ6内の蒸着材料7の溶け具合の平均化を図ることができ、被蒸着基板に均一な膜を蒸着することができる。
【0040】
このように、本発明によれば、蒸着材料の種類と、各蒸着材料の種類毎の電子ビーム入射角の設定値を記憶手段(データ記憶テーブル25)に記憶させておき、蒸着材料7の種類が設定されたら、前記記憶手段25に記憶されている電子ビーム入射角の設定値を読み出して、前記電子ビーム軌道制御手段(偏向コイル電源14と偏向コイル3)と前記入射角制御手段(走査コイル電源12と走査コイル5)により電子ビーム入射角の設定を行なうことにより、るつぼ6内の蒸着材料7の溶け具合の平均化を図ることができ、被蒸着基板に均一な膜を蒸着することができる。このような制御は、制御装置21が行なう。
【0041】
図4は本発明による膜形成の説明図である。40は真空蒸着を行なうための基板としてのプラスチックである。41はプラスチック40の上に形成されたハードコートである。このハードコートの上にSiO2膜43を形成する。次に、この膜の上にTiO2膜44を形成する。さらにTiO2膜44の上にSiO2膜45を形成する。更に、SiO2膜45の上にTiO2膜46を形成する。本発明によれば、このような多層の膜を均一に形成させることができる。
【0042】
以上詳細に説明したように、本発明によれば、偏向コイルと走査コイルの磁場を同時に制御することで、電子ビームの入射角を可変させ、蒸着材料に合った電子ビームの入射角度を設定でき、蒸着材料の溶け跡最適化が図れるようになった。また、電子ビーム入射角を制御させる機能と、予め入射角のパターンを記憶する機能を電源側に持たせることにより、外部信号により入射角パターンを呼び出し、蒸着材料に応じた電子ビーム入射角を簡単に設定することができるようになった。
【符号の説明】
【0043】
1 フィラメント
2 アノード
3 偏向コイル
5 走査コイル
6 るつぼ
7 蒸着材料
8 電子ビーム
12 走査コイル電源
14 偏向コイル電源
20 メモリ
21 制御装置
23 操作部
25 データ記憶テーブル
30 真空室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子ビーム軌道を所定角度曲げてるつぼ内の蒸着材料に照射し、該蒸着材料を溶融してその蒸着材料の蒸気を上部に配置された被蒸着基板に付着させて薄膜を形成させるように構成された電子ビーム蒸着用電子銃装置において、
偏向コイルによる電子ビーム軌道と、走査コイルによる電子ビーム軌道とを制御する電子ビーム軌道制御手段と、
該電子ビーム軌道制御手段により前記蒸着材料へ入射する電子ビームの入射角を制御する入射角制御手段と、
を設け、
これら電子ビーム軌道制御手段と入射角制御手段とを同時に動作させることにより、るつぼ内の蒸着材料の溶け具合の平均化を図ったことを特徴とする電子ビーム蒸着用電子銃装置。
【請求項2】
前記電子ビーム軌道制御手段は、偏向コイル電源と走査コイル電源に流す電流信号を制御することを特徴とする請求項1記載の電子ビーム蒸着用電子銃装置。
【請求項3】
前記電子ビーム軌道制御手段は、偏向コイル磁場と走査コイル磁場の組合せにより、蒸着材料上での入射角を変化させることを特徴とする請求項1記載の電子ビーム蒸着用電子銃装置。
【請求項4】
入射位置は一定で、入射角度の異なる偏向コイル電流と走査コイル電流との組合せを記憶手段に記憶させておき、希望する入射角度を指定することにより、前記入射角制御手段は対応する偏向コイル電流と走査コイル電流を読み出して、その値を偏向コイル用電源と走査コイル用電源に設定することを特徴とする請求項3記載の電子ビーム蒸着用電子銃装置。
【請求項5】
蒸着材料の種類と、各蒸着材料の種類毎の電子ビーム入射角の設定値を記憶手段に記憶させておき、蒸着材料の種類が設定されたら、前記記憶手段に記憶されている電子ビーム入射角の設定値を読み出して、前記電子ビーム軌道制御手段と前記入射角制御手段により電子ビーム入射角の設定を行なうことを特徴とする請求項1記載の電子ビーム蒸着用電子銃装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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