説明

電子メトロノーム、およびプログラム

【課題】テンポの指定を直感的に行え、かつ、特段の選択操作を行わなくとも、演奏対象の楽器に応じた音色のテンポガイド音で電子メトロノームにテンポを刻ませる。
【解決手段】複数種の楽器の各々の音色を表す音データに対応付けてその音色の特徴を表す音色特徴量データが記憶されたテンポガイド音DBを電子メトロノームに設ける。そして、1または複数小節分の楽曲の演奏音を収音し、その演奏音の波形を解析してその演奏テンポと、その演奏音の音色についての音色特徴量データとを算出する処理、および、当該演奏音についての音色特徴量データに最も近い値を有する音色特徴量データに対応付けてテンポガイド音DBに記憶されている音データの表す音色のテンポガイド音を上記演奏テンポで再生する処理をその電子メトロノームに実行させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、楽器演奏者に楽曲のテンポや演奏タイミングを把握させるための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
楽器の演奏練習の際に練習対象の楽曲のテンポや演奏タイミングを演奏者に把握させるための道具として、メトロノームが一般に知られている。ここで、テンポとは拍節の速さのことであり、拍節とは等間隔で刻まれる基本的なリズムのことである。この等間隔で刻まれる一つ一つの時間単位は「拍」と呼ばれる。メトロノームは、「カチ・カチ・カチ・チーン・カチ・・・」といった具合にクリック音(「カチ」という音)やチャイム音(「チーン」という音)を一定間隔で刻むことでテンポを表現する。このようなメトロノームとしては、振り子の振動に合わせて特定のテンポを刻むように構成された機械式のものが一般的であったが、部品の経年劣化等によりテンポの再現精度が劣化するなどの問題があった。そこで、近年では、電子式のものが主流になりつつある。電子式メトロノームでは、クォーツ等の振動子の振動から同期信号を取り出し、波形メモリに書き込まれた波形データをその同期信号に合わせて読み出しその波形データに応じた電子音を再生することで一定のテンポが表現される。この種の電子式メトロノームに関する先行技術としては、特許文献1〜3に開示されたものが挙げられる。
【0003】
特許文献1には、メトロノーム機能を有する電子打楽器について記載されている。この特許文献1に開示された技術は、上記メトロノーム機能により再生するテンポを打撃面への打撃間隔で指定することを可能にするためのものである。電子式メトロノームでは、テンポの指定を数値入力で行うことが一般的であるが、特許文献1に開示された技術によれば、所望のテンポで打撃面を打撃するといった直感的な操作でテンポを指定することが可能になる。特許文献2には、強拍時と弱拍時とで異なる音色の音を出力することにより拍子を再現する電子メトロノームについて記載されている。そして、特許文献3には、楽曲の演奏開始タイミングを合わせるためのカットインにて再生する音の音色と、カットイン後、演奏テンポを把握させるための音の音色とを異ならせることで演奏開始タイミングを明確にする電子メトロノームについて記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−195858号公報
【特許文献2】特開2007−205824号公報
【特許文献3】特開2006−119188号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、メトロノームが刻むクリック音やチャイム音は、ピアノなどの鍵盤楽器の演奏音との間では特段の問題を生じさせないものの、タムやバス、シンバルなどの打楽器の演奏音とは親和性が低く、演奏者に違和感を与える場合があることが知られている。このような問題を解決するには、テンポを表現するためにメトロノームが刻む音(以下、テンポガイド音)の音色を楽器の種類に応じて変える必要がある。機械式メトロノームでは、このようなことは困難であるものの、電子式メトロノームでは、テンポガイド音の音色を表す波形データとして、各々異なる音色を表す複数種のものを記憶させておき、演奏対象の楽器の音色に応じたものを選択させるようにすれば上記問題を解決することができる。しかし、楽器の演奏練習の度にテンポガイド音の音色を逐一選択することは、電子メトロノームの利用者にとっては非常に煩わしいことである。
本発明は上記課題に鑑みて為されたものであり、テンポの指定を直感的に行え、かつ、特段の選択操作を行わなくとも、演奏対象の楽器に応じた音色のテンポガイド音で電子メトロノームにテンポを刻ませることを可能にする技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために本発明は、複数種の楽器の各々の音色を表す音データに対応付けてその音色の特徴を表す音色特徴量データが記憶されたテンポガイド音データベースと、1または複数小節分の楽曲の演奏音を表す演奏音データを受け取り、その演奏音データを解析して、その演奏音の音色についての音色特徴量データを算出する演奏音解析手段と、前記演奏音解析手段により算出される音色特徴量データに近い値の音色特徴量データに対応付けて前記テンポガイド音データベースに記憶されている音データを選択し、その音データの表す音色のテンポガイド音でテンポを刻むテンポガイド音再生手段とを有することを特徴とする電子メトロノーム、およびコンピュータ装置を上記各手段として機能させることを特徴とするプログラムを提供する。
【0007】
このような電子メトロノームおよびプログラムによれば、楽曲の演奏音と音色の特徴が似たテンポガイド音でテンポを刻む処理が実行される。一般に、打楽器の演奏練習においては、その演奏音と似た音色の音(より好ましくは、演奏音と似た音色であって、その演奏音よりも高音域の音)でテンポを刻めば、演奏者に違和感を与えないことが知られている。このため、本発明によれば、演奏対象の楽器が打楽器であっても、演奏者に違和感を与えることなくテンポや演奏タイミングを演奏者に把握させることが可能になる。
【0008】
ここで、楽器の演奏音を示す演奏音データを演奏音解析手段に与えるための具体的な構成としては、演奏音を収音しその演奏音に応じた音信号を出力するマイクロホンとその音信号にA/D変換等を施して演奏音データに変換して上記演奏音解析手段に与える前処理回路とを上記電子メトロノームに設けることが考えられる。このような態様によれば、電子メトロノームに対してテンポの指定を行う際に、実際の楽曲演奏(本番演奏)に先立って、例えば1から2小節等の所定小節分だけその楽曲を演奏(試奏)するといった直感的な手法でテンポの指定を行うことが可能になる。また、CD−ROM(Compact Disk-Read Only Memory)などの記録媒体に書き込まれている演奏音データを読み出して上記演奏音解析手段に与える記録媒体読取手段や、インターネットなどの電気通信回線経由で送信されてくる演奏音データを受信して上記演奏音解析手段に与える通信インターフェースを上記電子メトロノームに設けても良い。
【0009】
より好ましい態様においては、前記電子メトロノームの演奏音解析手段は、演奏音の音波形の音量振幅値のエンベロープ曲線が増加から減少に転じる複数のローカルピークについて、隣接するローカルピークの時間間隔の平均値を算出し、前記テンポガイド音再生手段は、前記平均値に応じた時間間隔で前記テンポガイド音を再生することでテンポを刻むことを特徴とする。この態様は、一般に演奏音波形の音量振幅値のエンベロープ曲線には複数のローカルピークが表れることに着目したものであり、互いに隣接するローカルピークの時間間隔の平均値がテンポガイド音の再生テンポとされる。このため、楽曲の演奏テンポに若干の揺らぎがある場合であっても、それら揺らぎを相殺して一定のテンポを電子メトロノームに刻ませることが可能になる。
【0010】
より好ましい態様においては、上記電子メトロノームの演奏音解析手段は、前記演奏音における強拍および弱拍を特定し、前記テンポガイド音再生手段は、前記強拍と前記弱拍とで異なる音色または異なる音量のテンポガイド音を再生することを特徴とする。このような態様によれば、テンポのみでなく拍子を表現することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の第1実施形態に係る電子メトロノーム1Aの構成例を示す図である。
【図2】同電子メトロノーム1Aのテンポガイド音DB50Aの格納内容の一例を示す図である。
【図3】同電子メトロノーム1Aの制御部30Aが実行するテンポ検出処理を説明するための図である。
【図4】本発明の第2実施形態に係る電子メトロノーム1Bの構成例を示す図である。
【図5】同電子メトロノーム1Bのテンポガイド音DB50Bの格納内容の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。
(A:第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態に係る電子メトロノーム1Aの構成例を示すブロック図である。この電子メトロノーム1Aは、1または複数小節(例えば2小節など)分の楽曲の演奏音を収音し、その演奏音と似た音色のテンポガイド音を刻むことで、その演奏音から求まるテンポを表現するものである。図1に示すように、この電子メトロノーム1Aは、マイクロホン10、前処理回路20、制御部30A、操作部40、テンポガイド音データベース(以下、DB)50A、後処理回路70、およびスピーカ80を含んでいる。
【0013】
マイクロホン10は、例えばコンデンサマイクロホンである。このマイクロホン10は、電子メトロノーム1Aの利用者(すなわち、電子メトロノーム1Aを利用して楽器の演奏練習を行う者)により奏でられる楽器の演奏音を収音し、その演奏音の波形を示す音信号を出力する。前処理回路20は、プリアンプとA/D変換器を含んでいる(図1では、何れも図示省略)。前処理回路20のプリアンプは、マイクロホン10から出力される音信号を、以降の信号処理に適した信号レベルまで増幅して出力する。一方、前処理回路20のA/D変換器は、プリアンプの出力信号にA/D変換を施し、その変換結果である演奏音データ(演奏音の波形を所定のサンプリング周期でサンプリングしたサンプリングデータ列などの波形データ)を制御部30Aに出力する。
【0014】
制御部30Aは、電子メトロノーム1Aの制御中枢の役割を果たすものであり、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access
Memory)およびROM(Read Only Memory)を含んでいる(図1では何れも図示省略)。上記RAMは各種プログラムを実行する際のワークエリアとして上記CPUによって利用される。一方、上記ROMには、本実施形態に係る電子メトロノーム1Aの特徴を顕著に示す処理を上記CPUに実行させるための制御プログラム(図1では図示省略)が格納されている。この制御プログラムにしたがって作動している制御部30Aは、図1に示すように演奏音解析処理SA01およびテンポガイド音再生処理SA02の2つの処理を実行する。
これら2つの処理の概略は、以下の通りである。
【0015】
図1の演奏音解析処理SA01は、前処理回路20から与えられる演奏音データを解析し、演奏テンポを表すテンポ特徴量データと、演奏音の音色の特徴を表す音色特徴量データと、演奏音の音量の時間変化を示す音量変化データ(図1では図示省略)と、を算出する処理である。より詳細に説明すると、この演奏音解析処理SA01では、テンポ特徴量データとして上記演奏音における各拍の時間間隔の平均値を表すデータが算出される。また、音色特徴量データとしては、演奏音のスペクトラム(すなわち、各周波数成分の音量分布)の特徴を示すデータが算出される。この音量特徴量データとしては、スペクトラムそのものを示すデータを用いても勿論良い。しかし、スペクトラムそのものを示すデータでは、データ量が大きくなるため、複数種の楽器の演奏音の周波数特性に各々固有の識別番号を付与して類型化しておき、この識別番号をスペクトラムデータとして用いるようにしても良い。そして、音量変化データとしては、演奏音の拍子を構成する各拍の強弱を示すデータ(例えば、各拍のベロシティを示すデータ)や、各拍のアタックタイムやディケイタイム、サスティンタイム、リリースタイムを示すデータが算出される。ここで、アタックタイムとはエンベロープ曲線が立ち上がり始めてからローカルピーク(エンベロープ曲線の振幅が増加から減少に転じる箇所:このローカルピークが1つの拍に対応する)に達するまでの時間である。ディケイタイムとは、ローカルピークに達した後、エンベロープ曲線の振幅が一定の持続レベルまで減衰するのに要した時間であり、サスティンタイムとはエンベロープ曲線の振幅が上記維持レベルに保たれた時間である。そして、リリースタイムとは、エンベロープ曲線の振幅が上記維持レベルからゼロまで減衰するのに要した時間である。これら各特徴量データの算出手法については後に詳細に説明する。
【0016】
図1のテンポガイド音再生処理SA02は、上記演奏音データの表わす演奏音と似た音色の音の波形データを上記テンポ特徴量データの示す時間間隔で後段の回路へ出力することで一定のテンポを表現する処理である。このように制御部30AのCPUは、上記制御プログラムを実行することにより、演奏音解析処理SA01を実行する演奏音解析手段、およびテンポガイド音再生処理SA02を実行するテンポガイド音再生手段として機能するのである。
【0017】
操作部40は、前述した演奏音解析処理SA01の実行を指示するボタンや、テンポガイド音再生処理SA02の実行を指示するボタンなどの各種操作子(図1では何れも図示省略)を含んでいる。操作部40は、これら操作子に対するユーザの操作を検出しその検出結果に応じたデータを制御部30Aに与える。これにより、上記各操作子に対して為されるユーザの操作の内容が制御部30Aに伝達されるのである。
【0018】
テンポガイド音DB50Aには、図2に示すように、複数種の楽器の各々の演奏音(単音)の音色および音程を表す音データに対応付けてその演奏音についての音色特徴量データが格納されている。本実施形態では、上記音データとして、演奏音の波形を表す波形データが用いられている。このテンポガイド音DB50Aの格納内容は、マイクロホン10により収音される楽器演奏音と似た音色のテンポガイド音を特定する際に利用される。図1では、詳細な図示は省略したが、このテンポガイド音DB50Aは、ハードディスクなどの記憶手段に格納された状態で電子メトロノーム1Aに実装される。
【0019】
後処理回路70は、制御部30Aから与えられる音データ(波形データ)をアナログ形式の音信号に変換し、更に、スピーカ駆動に適した信号レベルまで増幅して出力するものである。図1では詳細な図示は省略したが、後処理回路70は、デジタル/アナログ変換を実行するD/A変換器と、上記信号レベルの増幅を行うアンプとを含んでいる。そして、スピーカ80は、後処理回路70から与えられる音信号を音として出力するものである。
以上が電子メトロノーム1Aの構成である。
【0020】
次いで電子メトロノーム1Aの動作について説明する。
電子メトロノーム1Aを利用して楽器の演奏練習を行おうとする者は、まず、電子メトロノーム1Aの操作部40を操作して演奏音解析処理SA01の実行を指示した後、練習対象の楽曲を所定のテンポで所定小節(例えば、1から2小節)だけ演奏(試奏)する。このようにして奏でられる楽器演奏音は、マイクロホン10により収音され、その音波形を表す演奏音データが前処理回路20から制御部30Aに与えられる。
【0021】
制御部30Aが実行する演奏音解析処理SA01では、前処理回路20から与えられる演奏音データを解析し、前述したテンポ特徴量データ、音色特徴量データ、および音量変化データを算出する処理が行われる。より詳細に説明すると、演奏音解析処理SA01では、まず、上記演奏音データの表す音波形の音量振幅値のエンベロープ曲線を算出する処理が実行される。次いで、制御部30Aは、上記エンベロープ曲線に表れる複数のローカルピークについて、互いに隣あうローカルピークの時間間隔(以下、ピーク間隔)を計測し、これらピーク間隔の平均値をテンポ特徴量データとして算出する。また、制御部30Aは、図3に示すように、各ローカルピークのベロシティからそのローカルピークが強拍に対応するのか、それとも弱拍に対応するのかを特定する。また、制御部30Aは、上記エンベロープ曲線から各拍のアタックタイム、ディケイタイム、サスティンタイムおよびリリースタイムを計測する。図3では、各拍のディケイタイムおよびサスティンタイムが略ゼロである場合について例示されている。そして、制御部30Aは、強拍毎および弱拍毎に、ベロシティ、アタックタイム、ディケイタイム、サスティンタイムおよびリリースタイムの各平均値を算出し、それら平均値を示すデータを強拍および弱拍の出現順に配列して音量変化データを生成する。さらに、制御部30Aは、上記演奏データにFFT(高速フーリエ変換)を施してそのスペクトラムを求め、そのスペクトラムを示す音色特徴量データを算出する。なお、図3では、各拍が略等間隔に並んでいる場合について例示されているが、例えば「タン、タタ、タン、タタ・・・」といった具合に、長さの異なる複数種類の音符が演奏される態様も考えられる。このような態様に対処するため、各ローカルピークの時間間隔を、値が近いもの同士でグループ分けし、各グループ内で平均値を算出するようにしても良い。
【0022】
以上のようにして、テンポ特徴量データ、音色特徴量データおよび音量変化データの算出を完了すると制御部30Aは、演奏音解析処理SA01の実行完了をメッセージ出力等により報知する。この報知を受けた利用者は、操作部40を操作してテンポガイド音再生処理SA02の実行を指示する。
【0023】
制御部30Aが実行するテンポガイド音再生処理SA02では、まず、演奏音解析処理SA01により得られた音色特徴量データとテンポガイド音DB50Aの格納内容とを用いて、テンポガイド音の音色が決定される。より詳細に説明すると、制御部30Aは、演奏音解析処理SA01により得られた音色特徴量データに近い値の音色特徴量データに対応付けてテンポガイド音DB50Aに格納されている音データを読出し、この音データの表す音色をテンポガイド音の音色として決定する。ここで、テンポガイド音として楽器演奏音の音色に似たものを選択するのは、打楽器の演奏練習においては、その打楽器の演奏音の音色とテンポガイド音の音色が似ているほど両者の親和性が良く、演奏者に違和感を与えないことが一般に知られているからである。
【0024】
テンポガイド音の音色を決定する際の具体的な態様としては、以下の2つの態様が考えられる。第1に、演奏音解析処理SA01により得られた音色特徴量データに最も近い値の音色特徴量データに対応付けてテンポガイド音DB50Aに格納されている音データを選択し、この音データの表す音色をテンポガイド音の音色とする態様である。この態様によれば、テンポガイド音DB50Aに格納されている複数の音データの各々が表す音色のうち、楽器演奏音の音色に最も似たものがテンポガイド音の音色として選択されることになる。これに対して第2の態様は、演奏音解析処理SA01により得られた音色特徴量データとの差が所定の閾値以下である音色特徴量データに対応付けてテンポガイド音DB50Aに格納されている音データのうち、最も高い音程の音を表す音データを選択し、この音データの表す音色をテンポガイド音の音色とする態様である。この態様によれば、楽器演奏音と似た音色の音(すなわち、練習対象の楽器と同系統の楽器の演奏音)のうち、最も音程の高いもので演奏テンポが刻まれることになる。これは、音色の似た複数の音のうちでは、音程の高い音ほど聴き取り易いということを考慮したものである。
【0025】
そして、制御部30Aは、上記のようにして選択した音データを、強拍の場合と弱拍の場合とで、音量変化データにしたがってアタックタイムやリリースタイム、音量を調整しつつ、テンポ特徴量データに応じた時間間隔で後処理回路70に与える処理を実行する。ここで、強拍と弱拍の各々についての音量調整の具体的な態様としては、弱拍の場合の音量が強拍の場合の音量の70パーセント程度となるようにする態様が考えられる。以上説明した処理が為される結果、電子メトロノーム1Aのスピーカ80からは、練習対象の楽器の演奏音と似た音色のテンポガイド音がテンポ特徴量データの示す時間間隔で放音されることになる。
【0026】
以上説明したように、本実施形態に係る電子メトロノーム1Aを用いて楽器の演奏練習を行おうとする者は、練習対象の楽曲を所定小節分だけ実際に演奏するといった直感的な操作でその楽曲のテンポを指定することができ、また、その楽器演奏音との親和性の良い音色のテンポガイド音でそのテンポを電子メトロノーム1Aに刻ませることができる。このように楽器演奏音と親和性の良いテンポガイド音で演奏テンポが刻まれるため、そのテンポガイド音の音色に起因した違和感を上記楽器演奏者が抱くことはない。このように、本実施形態によれば、テンポの指定を直感的に行え、かつ、特段の選択操作を行わなくとも、演奏対象の楽器に応じた音色のテンポガイド音でテンポを刻ませることが可能になる。
【0027】
(B:第2実施形態)
次いで、本発明の第2実施形態について説明する。図4は、本発明の第2実施形態に係る電子メトロノーム1Bの構成例を示すブロック図である。この図4では、図1と同一の構成要素には同一の符号が付されている。図4と図1を対比すれば明らかなように、電子メトロノーム1Bの構成は、以下の3つの点が電子メトロノーム1Aの構成と異なる。第1に、制御部30Aに換えて制御部30Bを設けた点である、第2に、テンポガイド音DB50Aに換えてテンポガイド音DB50Bを設けた点である。そして、第3に、MIDI(Musical Instrument Digital Interface)音源60を設けた点である。このMIDI音源60は、制御部30Bから与えられるMIDIメッセージ(発音するべき音の音色や音高、音量を指示するメッセージや、音の発音開始および停止を指示するメッセージ)にしたがって、音データを生成し後処理回路70へ出力する。
【0028】
図5は、テンポガイド音DB50Bの格納内容の一例を示す図である。図5に示すように、このテンポガイド音DB50Bについても、複数種の楽器の演奏音の音色および音程を表す音データに対応付けてその演奏音の音色の特徴を表す音色特徴量データが格納されている。ただし、本実施形態では、上記音データとしてMIDI規格において楽器の種類に応じた音色番号(プログラムチェンジ)と同規格において音程を表すノート番号とが用いられている点が、前述した第1実施形態と異なる。上記音色番号やノート番号は、0〜127までの整数値の何れかであるため、前述した波形データに比較してデータサイズが小さく、テンポガイド音DB50Bを格納する記憶手段の記憶容量が上記第1実施形態の場合に比較して少なくて済むといった利点がある。
【0029】
制御部30Bは、第1実施形態における制御部30Aと同様にCPU、RAMおよびROMで構成されており、これら各構成要素の果たす役割は前述した制御部30Aにおけるものと同一である。ただし、制御部30BのROMには、制御部30Aにおけるものとは異なる制御プログラムが格納されており、この制御プログラムを実行することにより制御部30BのCPUは、図4に示す演奏音解析処理SA01およびテンポガイド音再生処理SB02を実行する。
【0030】
図4のテンポガイド音再生処理SB02は、演奏音解析処理SA01にて算出される音色特徴量データに近い値の音色特徴量データに対応付けてテンポガイド音DB50Bに格納されている音データを読出す点では前述したテンポガイド音再生処理SA02と同一である。しかし、このテンポガイド音再生処理SB02では、上記のようにして読み出した音データ(音色番号およびノート番号)の表す音色および音程の音を、音量変化データにしたがって音量を変化させつつノートオンおよびノートオフさせることを指示する旨のMIDIメッセージをテンポ特徴量データの示す時間間隔で生成してMIDI音源60に与える点が前述したテンポガイド音再生処理SA02と異なる。このテンポガイド音再生処理SB02によって与えられるMIDIメッセージにしたがってMIDI音源60は後処理回路70へ音データを出力し、楽器演奏音との親和性の良い音色のテンポガイド音でその演奏テンポが刻まれるのである。
【0031】
以上説明したように、本実施形態によっても、電子メトロノーム1Bを用いて楽曲の演奏練習を行う際に、楽曲の演奏テンポを直感的に指定することが可能になるとともに、特段の選択操作を行わなくとも、演奏対象の楽器に応じた音色のテンポガイド音でテンポを刻ませることが可能になる。
【0032】
(C:他の実施形態)
以上、本発明の実施形態について説明したが、かかる実施形態に以下に述べる変形を加えても勿論良い。
(1)上述した実施形態では、楽器演奏音と親和性の良い音色のテンポガイド音でテンポを表現する際に、強拍と弱拍とで音の強さ(ベロシティ)を異ならせて拍子を表現したが、強拍と弱拍とでテンポガイド音の音色を異ならせることで拍子を表現しても良い。また、強拍であるか弱拍であるかによらず一定の音色(或いは、ベロシティ)のテンポガイド音で演奏テンポを刻むことで、その演奏テンポのみを表現しても勿論良い。なお、拍子は表現せずに演奏テンポのみを表現する態様の場合には、演奏音解析処理SA01にてベロシティを算出する必要はない。さらに、演奏テンポのみを表現する態様と、演奏テンポおよび拍子の両者を表現する態様と、を切り換えるスイッチを操作部40に設けても良い。
【0033】
(2)上述した実施形態では、テンポガイド音の再生間隔(すなわち、そのテンポガイド音により刻むテンポ)を、楽器演奏音を解析して算出する処理を制御部30A(或いは、30B)に実行させた。しかし、上記テンポを数値入力などで設定させるようにしても良く、このような場合には、楽器演奏音の音波形のエンベロープ曲線のローカルピークの時間間隔の平均を算出する処理を制御部30A(或いは制御部30B)に実行させる必要が無いことは勿論である。すなわち、上記テンポを数値入力などで設定させる態様においては、数値入力された値をテンポ特徴量として用い、楽器演奏音との親和性の良いテンポガイド音をそのテンポ特徴量の示す時間間隔で再生する処理を制御部30A(或いは制御部30B)に実行させるようにずれば良い。
【0034】
(3)上述した実施形態では、楽器演奏者にテンポや演奏タイミングを把握させるためのテンポガイド音として、演奏対象の楽器と似た音色を有する音を用いた。一般に、このようなテンポガイド音を用いることにより、演奏対象の楽器が打楽器であっても演奏者に違和感を与えることが回避されるのであるが、どのような音色のテンポガイド音が楽器演奏音と親和性が良いかは、演奏者の好みに依存する場合も多い。そこで、演奏者の好みに応じてテンポガイド音の音色を選択し直すことができるようにしても勿論良い。
【0035】
(4)上述した実施形態では、電子メトロノーム1A(或いは電子メトロノーム1B)の利用者により奏でられる楽器演奏音をマイクロホン10に収音させ、このマイクロホン10から出力される音信号にA/D変換等を施して演奏音データを生成した。しかし、CD−ROMなどの記録媒体経由やインターネットなどの電気通信回線経由のダウンロードで演奏音データを電子メトロノーム1A(或いは、電子メトロノーム1B)に与えても良い。例えば、記録媒体経由で演奏音データを与えることを可能にするには、記録媒体に書き込まれている演奏音データを読み出して制御部30A(或いは、制御部30B)に与える記録媒体読取手段をマイクロホン10および前処理回路20に換えて電子メトロノーム1A(或いは、電子メトロノーム1B)に設けるようにすれば良い。また、電気通信回線経由のダウンロードで演奏音データを与えることを可能にするためには、例えばNIC(Network Interface Card)などの通信インターフェースをマイクロホン10および前処理回路20に換えて電子メトロノーム1A(或いは、電子メトロノーム1B)に設けるようにすれば良い。
【0036】
このように記録媒体経由や電気通信回線経由で演奏データを与える態様によれば、以下のような効果がある。例えば、複数種類の楽器により合奏を行う場合、各楽器の演奏担当者が一堂に会して合同練習を行う必要があることは勿論であるが、そのような合同練習を意義あるものとするため、各楽器担当者は事前に個別練習を行っておく必要がある。本変形例に係る電子メトロノームによれば、このような個別練習の効率を向上させることができるのである。具体的には、上記複数種の楽器のうち、パーカッションの担当者にその担当パートを演奏させ、その演奏音を表す演奏音データを記録媒体経由または電気通信回線経由で他の楽器担当者に配布させる。そして、これら他の楽器担当者は、このようにして配布される演奏音データを本変形例に係る電子メトロノームに読み込ませ、その演奏音データの表す演奏音と似た音色のテンポガイド音でその演奏テンポを刻ませつつ自らの担当するパートの演奏練習を行うことができるのである。これにより、上記他の担当者の各々は、合同練習にてパーカッション担当者が刻むであろうテンポでの演奏練習を事前に行っておくことができるのである。また、演奏対象の楽器がMIDI楽器である場合には、演奏操作に応じて出力されるMIDIデータを電子メトロノーム1Aや1Bに与え、そのMIDIデータの音色番号を音色特徴量データとして用い、そのMIDIデータのベロシティデータから音量変化量データを算出するようにすれば良い。
【0037】
(5)上述した実施形態では、本発明に係る電子メトロノームに特徴的な処理を実現させるための制御プログラムが予めインストールされていたが、かかる制御プログラムをCD−ROMに書き込んで配布しても良く、また、インターネットなどの電気通信回線経由のダウンロードにより配布しても良い。このようにして配布される制御プログラムを一般的なコンピュータ装置へインストールすることによって、そのコンピュータ装置を本発明に係る電子メトロノームとして機能させることが可能になる。また、上述した実施形態では、本発明に係る電子メトロノームの特徴を顕著に示す演奏音解析処理SA01やテンポガイド音再生処理SA02(或いは、テンポガイド音再生処理SB02)をソフトウェアにより実現したが、これら各処理を実行する手段(前述した演奏音解析手段およびテンポガイド音再生手段)を電子回路で構成し、これら各手段を組み合わせて本発明に係る電子メトロノームを構成しても勿論良い。
【符号の説明】
【0038】
1A,1B…電子メトロノーム、10…マイクロホン、20…前処理回路、30A、30B…制御部、40…操作部、50A、50B…テンポガイド音DB、60…MIDI音源、70…後処理回路、80…スピーカ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数種の楽器の各々の音色を表す音データに対応付けてその音色の特徴を表す音色特徴量データが記憶されたテンポガイド音データベースと、
1または複数小節分の楽曲の演奏音を表す演奏音データを受け取り、その演奏音データを解析して、その演奏音の音色についての音色特徴量データを算出する演奏音解析手段と、
前記演奏音解析手段により算出される音色特徴量データに近い値の音色特徴量データに対応付けて前記テンポガイド音データベースに記憶されている音データを選択し、その音データの表す音色のテンポガイド音でテンポを刻むテンポガイド音再生手段と、
を有することを特徴とする電子メトロノーム。
【請求項2】
前記演奏音解析手段は、
前記演奏音の音波形の音量振幅値のエンベロープ曲線が増加から減少に転じる複数のローカルピークについて、隣接するローカルピークの時間間隔の平均値を算出し、
前記テンポガイド音再生手段は、前記平均値に応じた時間間隔で前記テンポガイド音を再生することでテンポを刻む
ことを特徴とする請求項1に記載の電子メトロノーム。
【請求項3】
前記演奏音解析手段は、前記演奏音における強拍および弱拍を特定し、
前記テンポガイド音再生手段は、前記強拍と前記弱拍とで異なる音色または異なる音量のテンポガイド音を再生する
ことを特徴とする請求項2に記載の電子メトロノーム。
【請求項4】
コンピュータ装置を、
1または複数小節分の楽曲の演奏音を表す演奏音データを受け取り、その演奏音データを解析して、その演奏音の音色についての音色特徴量データを算出する演奏音解析手段と、
複数種の楽器の各々の音色を表す音データに対応付けてその音色についての音色特徴量データが記憶されたテンポガイド音データベースから、前記演奏音解析手段により算出される音色特徴量データに近い値の音色特徴量データに対応付けて格納されている音データを選択し、その音データの表す音色のテンポガイド音でテンポを刻むテンポガイド音再生手段、
として機能させることを特徴とするプログラム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate