説明

電子レンジ用陶磁製調理器

【課題】食品に焦げ目を付けることができ、且つ食品内の水分の過剰な蒸発と、食品から排出され油分の燃焼とが有利に防止可能な電子レンジ用陶磁製調理器を提供する。
【解決手段】食品載置面28に、貫通孔36と、軟磁性金属粉が混練された釉薬層が焼成されてなる加熱部40とが形成された陶磁製の支持台14を、受け皿10に対して、隙間24を隔てて載置して、構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食材や料理を電子レンジによって加熱調理する際に用いられる電子レンジ用陶磁製調理器の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、食品の加熱を容易に実現できる装置として、電子レンジが、一般に広く用いられている。よく知られているように、電子レンジは、約2.45GHzのマイクロ波を食品に照射することにより、食品中に含まれる水の分子を分極させ電気双極子作り出し、それを振動乃至は回転させることにより、分子間に摩擦熱を生じさせて、食品を加熱するものである。
【0003】
このような電子レンジは、これまで、冷凍食品の解凍や、食品を適温に温めることに主眼をおいて使用されていたが、最近、電子レンジを、火を使わない調理装置として、食材の加熱調理に利用することが検討されてきている。しかしながら、電子レンジは、上記のような加熱原理によって食品を加熱するものであるところから、加熱された食品内の水分が蒸発し易い。そのため、食品をふっくらと仕上げることが容易ではなかった。また、火を使う調理装置とは異なって、加熱調理された食品に「焦げ目」を付けることが、極めて困難であった。
【0004】
このような状況下、例えば、特開2002−272602号公報(特許文献1)には、軟磁性金属材料を耐熱性陶磁器材料や耐熱性樹脂材料に混練して、平板状や皿状に成形してなる電子レンジ用調理器が提案されている。この調理器では、軟磁性金属材料がマイクロ波を吸収して発熱するため、調理器自体が高温に加熱される。それ故、このような調理器を用いて、食品を電子レンジで加熱した場合、通常の調理器を使用するよりも食品を強く加熱することができ、加熱した食品に「焦げ目」を付けることが可能となる。
【0005】
ところが、そのような従来の電子レンジ用調理器では、軟磁性金属材料が調理器の全体に練り込まれていることから、調理器全体が高温に加熱される。そのため、加熱調理後に、調理器を電子レンジから取り出す際に、使用者が火傷する危険があった。しかも、調理器全体が高温となることで食品内からの水分の蒸発が促進されため、食品内に必要な水分を残して、ふっくらと加熱しつつ、「焦げ目」が付くように、食品を加熱調理することが極めて困難であった。加えて、例えば、加熱によって油分が排出される(滲み出る)肉などの食品を加熱調理する際には、食品から排出された肉汁などの油分が、高温に加熱された調理器に接触して燃焼し、それによって煙が発生するなどの不具合も生じていたのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−272602号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上述の事情を背景に為されたものであって、その解決課題は、電子レンジによって加熱した食品に「焦げ目」を付けることができ、しかも、調理器全体が過度に高温となることが有利に防止されて、食品内の水分の過剰な蒸発と、食品から排出される油分の燃焼による煙の発生とを効果的に解消乃至は抑制することができる、新規な構造の電子レンジ用陶磁製調理器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第一の態様は、電子レンジ用陶磁製調理器において、受け皿と、該受け皿に対して隙間を隔てて載置される陶磁製の支持台とを備えており、該支持台の食品載置面には、軟磁性金属紛が混練された釉薬層が焼成されてなる加熱部と、該支持台を貫通する貫通孔が設けられていることを特徴とする。
【0009】
本態様に係る電子レンジ用陶磁製調理器においては、支持台の食品載置面に食品を載置した状態で、電子レンジにて加熱された際に、食品載置面の加熱部内の軟磁性金属粉が、マイクロ波を吸収して発熱する。そのため、加熱部が、その他の部分よりも高温となり、それによって、食品載置面に載置された食品に対して、加熱部により「焦げ目」を付けることが可能となる。
【0010】
また、陶磁製であるが故に、調理器の表面に積層される釉薬を巧みに利用して、軟磁性金属粉を、支持台の食品載置面のみに付着乃至は練り込むことができる。そうして、支持台の限定された一部の部位に対して、加熱部を容易に形成できる。
【0011】
さらに、高温となる加熱部が食品載置面のみに設けられているところから、支持台全体、ひいては調理器全体が高温に加熱されることがない。そのため、加熱調理後に電子レンジから調理器を取り出す際に、加熱部以外の部位を把持すれば、使用者が火傷を負うような危険性が有利に解消され、それによって、取扱性の向上が図られる。また、支持台全体が高温とならないため、食品内からの過剰な水分の蒸発が回避でき、それにより、「焦げ目」を付けつつ、ふっくらとした状態で、食品を加熱調理することができる。
【0012】
また、支持台に貫通孔が設けられているため、加熱によって食品から排出された油分が、貫通孔を通じて、受け皿に滴下される。この受け皿は、軟磁性金属粉を含んでいないため、電子レンジによる食品の加熱時に、加熱部よりも低温となる。しかも、受け皿が、高温となる加熱部を備えた支持台から隙間を隔てて離間しているため、食品から排出されて受け皿に溜まった油分が、加熱部と接触するようなことも有利に回避にされる。従って、食品から排出されて受け皿に溜まった油分が燃焼するようなことがなく、それ故、油分の燃焼によって煙が発生することも効果的に解消又は抑制され得る。
【0013】
なお、釉薬に混練される軟磁性金属粉としては、酸化鉄や酸化ニッケルなどが、好適に用いられる。これによって、加熱部の温度を、より十分に且つ効率的に高めることができる。
【0014】
本発明の第二の態様は、前記貫通孔が、前記食品載置面に、直線状に延びる形態を有して、並列に複数並んで形成されていると共に、前記加熱部が、該貫通孔の両サイドにおいて該貫通孔に沿って直線状に延びる部分を有して、該食品載置面の全体に形成されているものである。
【0015】
本態様によれば、加熱部と貫通孔とが、食品載置面において、直線状に延びる形態をもって、交互に並んで配置される。そのため、食品載置面に載置される食品に対して、「焦げ目」を効果的に分散させて付けることが可能となる。また、食品から排出される油分を、速やかに且つ効率的に滴下させることができる。
【0016】
なお、直線状に延びる貫通孔の長さは、12cm以上とされていることが望ましい。それによって、マイクロ波の波長と適合して、マイクロ波による加熱部の加熱が、より効果的に実施される。
【0017】
本発明の第三の態様は、前記支持台を覆蓋する蓋部を備えているものである。
【0018】
本態様によれば、高温に加熱された加熱部の温度を、電子レンジ内の温度センサが検知することを有利に防止できる。それにより、食品が十分に加熱される前に、電子レンジ内の温度センサの温度検知に基づいて、マイクロ波照射が停止してしまうようなことが未然に阻止できる。また、加熱時における食品からの水分の蒸発を効果的に抑えることができ、それによって、加熱調理した食品を、よりふっくらと仕上げることが可能となる。
【0019】
本発明の第四の態様は、前記受け皿と前記蓋部のうちの少なくとも何れか一方が吸水性を備えているものである。
【0020】
本態様によれば、吸水性を備えた受け皿や蓋部に予め水を含ませた状態で、電子時レンジによる加熱を行うことにより、受け皿や蓋部が含む水が気化して、調理器内に充満し、それによって、食品の加熱状態がマイルドとなって、よりふっくらと仕上げられる。
【発明の効果】
【0021】
本発明に従う電子レンジ用陶磁製調理器によれば、電子レンジによる加熱により、食品に「焦げ目」を付けることができるだけでなく、食品内の水分の過剰な蒸発が防止されて、食品をふっくらと仕上げることができ、その上、食品から排出される油分の燃焼による煙の発生を効果的に解消乃至は抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に従う構造を有する電子レンジ用陶磁製調理器の一実施形態の縦断面図。
【図2】図1に示された電子レンジ用陶磁製調理器が有する支持台の平面図。
【図3】図1に示された電子レンジ用陶磁製調理器が有する支持台の部分拡大断面図。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0024】
先ず、図1には、本発明に従う構造を有する電子レンジ用陶磁製調理器が、その縦断面形態において示されている。この図1から明らかなように、本実施形態の電子レンジ用陶磁製調理器は、受け皿10と蓋体12と支持台14とを有している。なお、以下の説明において、上下方向とは、電子レンジ用陶磁製調理器の使用状態下において鉛直上下方向となる、図1中の上下を言うものとする。
【0025】
より詳細には、受け皿10は、全体として、上方に向かって開口する、比較的に深底の皿形状を呈している。そして、内面の中央部分が、円形の平坦面からなる平面部16とされており、また、内面の外周部分が、上方に向かって次第に拡径する湾曲状のテーパ面部18とされている。これによって、受け皿10の内側に、油分などの液体が貯留され得るようになっている。なお、図1中、20は、受け皿10を電子レンジ内のテーブル上に安定的に載置するための脚部である。
【0026】
そして、そのような受け皿10は、表面に開口する微小空間又は連通孔を多数備えた多孔質の陶器にて構成されている。これにより、受け皿10が、水との接触によって微小空間や連通孔内に水を収容、保持する吸水性を発揮するようになっている。また、受け皿10内に形成される微小空間や連通孔が、その内周面と外周面の両方において外部に開口していることで、受け皿10が、その内外両面から水を内部に取り入れ得るようになっている。そして、それにより、受け皿10に対して、内周側の領域と外周側の領域の間で水分の移動を許容する透水性が付与されている。なお、受け皿10の形成材料は、特に限定されるものではなく、一般的な陶器の形成材料が、適宜に用いられ得る。
【0027】
蓋体12は、全体として、下方に向かって開口する略ドーム形状を有している。そして、下方への開口部の大きさが、受け皿10の上方への開口部の大きさよりも一回り小さくされており、また、開口側端面が、受け皿10の開口側端部の内周面部分に対応した湾曲状のテーパ面とされている。これにより、蓋体12が、開口側の端面において、受け皿10の開口側端部に重ね合わされることで、受け皿10の上方への開口部が覆蓋されるようになっている。また、そのような蓋体12による受け皿10覆蓋により、それら受け皿10と蓋体12との間に、十分な容積を有する内側空間が形成されるようになっている。なお、図1中、22は、蓋体12を把持するための把持部である。
【0028】
このような蓋体12も、受け皿10と同様に、表面に開口する微小空間又は連通孔を多数備えた多孔質の陶器にて構成されている。それにより、蓋体12が、水との接触によって微小空間や連通孔内に水を収容、保持する吸水性を発揮するようになっている。また、蓋体12にあっても、内部に形成される微小空間や連通孔が、その内周面と外周面の両方において外部に開口して、内外両面から水を内部に取り入れ得るようになっていると共に、内周側の領域と外周側の領域の間で水分の移動を許容する透水性が発揮されるようになっている。なお、蓋体12の形成材料は、特に限定されるものではなく、一般的な陶器の形成材料が、適宜に用いられ得る。
【0029】
一方、支持台14は、図1及び図2に示されるように、全体として、円形の平板形状を呈する陶器や磁器からなっている。なお、支持台14の形成材料は、特に限定されるものではなく、一般的な陶器や磁器の形成材料が、適宜に用いられ得る。
【0030】
そして、支持台14は、受け皿10の円形の平面部16の径よりも大きく、且つテーパ面部18の最大径よりも小さな径を有している。これによって、支持台14が、その下面の外周縁部において、受け皿10のテーパ面部18の高さ方向中間部に係止して、受け皿10上に、水平に載置されるようになっている。そして、そのような載置状態下で、支持台14と受け皿10の平面部16との間に、所定の隙間24が形成されるようになっている。なお、そのような隙間24を確実に形成するために、支持台14の下面に対して、受け皿10の平面部16やテーパ面部18に支持される脚部を設けても良い。
【0031】
また、支持台14の径は、蓋体12の開口径(開口側端部の内径)よりも小さくされている。それによって、支持台14が、上記のようにして受け皿10に載置された状態で、受け皿10と蓋体12との間に形成される内側空間内に収容可能とされている。また、支持台14の内側空間内への収容下において、支持台14と蓋体12の内面との間に、種々の食品や食材を収容するのに十分な容積を有する食品収容空間26が形成されるようになっている。そして、この食品収容空間26内に露呈される受け皿10の上面が、種々の食品や食材を載置可能な平坦面からなる食品載置面28とされている。
【0032】
さらに、支持台14には、厚さ方向に貫通する貫通孔36が、食品載置面28の全面に多数、形成されている。これによって、支持台14の食品載置面28上に載置された食品を電子レンジで加熱調理した際に、食品から排出される油分などの液状物が、多数の貫通孔36を通じて、食品載置面28上から滴下されるようになっている。
【0033】
また、それら多数の貫通孔36は、何れも、所定の幅を備えた長孔形状又は細長い長方形状を呈するスリットからなり、食品載置面28の互いに異なる複数の径方向に沿って、直線状に延びている。そして、そのような多数の貫通孔36が、延出方向が互いに同一とされたもの同士でそれぞれグループを形成して、食品載置面28に、各グループ毎に偏在し、且つ同一グループ内のものが、互いに並列的に並んで配置されている。そうして、多数の貫通孔36が、食品載置面28に対して、分散配置されているのである。
【0034】
なお、スリット形態を呈する貫通孔36の大きさは、食品から排出される油分などの液状物を滴下させ得る程度であれば、特に限定されるものではないものの、延出長さ(図2にLにて示される寸法)が、12cm以上とされていることが望ましい。何故なら、貫通孔36の延出長さ:Lを12cm以上とすることにより、マイクロ波の波長と適合させることが可能となり、それによって、支持台14の食品載置面28に貫通孔36と並んで設けられる、後述する加熱部40を、より効率的且つ高温に加熱することができるからである。
【0035】
そして、本実施形態においては、図2及び図3に示されるように、加熱部40が、支持台14の食品載置面28上に、所定厚さを有する層状形態をもって積層形成されている。この加熱部40には、マイクロ波を吸収して発熱する、無数の軟磁性金属粉38が埋入されている。これによって、加熱部40は、それに埋入された軟磁性金属粉38がマイクロ波を吸収して、発熱することにより、加熱されるようになっている。
【0036】
このような加熱部40は、陶磁器製の支持台14の製造に際して、所定量の軟磁性金属粉38が混練された釉薬を、食品載置面28に、例えば、塗布したり、噴霧したり、掛け流したり、或いは食品載置面28を釉薬に浸したりして、釉薬層を形成し、そして、そのようなされた釉薬層を、支持台14と共に焼成することによって得られる。即ち、加熱部40は、無数の軟磁性金属紛38が混練された釉薬層が焼成されてなる釉薬焼成層にて構成されているのである。
【0037】
また、前記したように、支持台14の食品載置面28には、スリット形態を有する多数の貫通孔36が、並列に並んで直線状に延びるように形成されている。このため、ここでは、それら多数の貫通孔36の形成部位を除く食品載置面28部分に対して、加熱部40が形成されている。そして、そのような加熱部40は、食品載置面28の外周部に沿って円形に延びる部分と、各貫通孔36を間に挟んだ両サイドにおいて各貫通孔36に沿って延びる直線状部分とを含んで構成されている。これにより、貫通孔36と加熱部40の直線状に延びる部分とが、食品載置面28において交互に並列的に並んで位置するように、分散配置されている。
【0038】
なお、支持台14の製造時には、食品載置面28以外の下面や外周面にも、釉薬層が形成されて、それらが、支持台14と共に焼成されるが、それらの釉薬層内には、軟磁性金属粉38が、何等混練されていない。つまり、軟磁性金属粉38が埋入された加熱部40は、食品載置面28の貫通孔36の形成部位を除く部分だけに形成されているのである。
【0039】
加熱部40内に埋入される(釉薬に混練される)軟磁性金属粉38の構成材料としては、特に限定されるものではない。例えば、軟磁性金属粉38の構成材料には、Fe−Ni系材料、Fe−Ni−Si系材料、Fe−Si系材料、Fe−Si−Al系材料、Fe−Co系材料、Fe−Cr−Al系材料等が、それぞれ単独で、或いはそれらの中から適宜に選択された2種類以上のものが組み合わされて、使用される。そして、その中でも、酸化鉄と酸化ニッケルとを組み合わせた材料や、酸化鉄と酸化コバルトとを組み合わせた材料などが、好適に使用される。それらの材料を用いることによって、加熱部40が、より高温に加熱されることとなる。また、コスト低下を図るには、酸化鉄と酸化ニッケルとを組み合わせた材料が、より有利に使用される。
【0040】
また、軟磁性金属粉38の形状や大きさは、特に限定されるものではなく、加熱部40の厚さ等に応じて適宜に決定されるところである。即ち、軟磁性金属粉38は、前記釉薬層の焼成により形成された加熱部40の表面から突出しない程度の大きさや形状とされていることが望ましいのである。そして、そのような軟磁性金属粉38の形状は、好ましくは表面積が大きな扁平形状とされる。
【0041】
軟磁性金属粉38が混練される釉薬の種類も、何等限定されるものではない。使用される釉薬は、例えば、支持台14の食品載置面28に付与すべき色や強度などを考慮して、従来より公知のものの中から適宜に選択される。
【0042】
釉薬と軟磁性金属粉38の配合比率は、特に限定されるものではなく、軟磁性金属粉38の構成材料の種類等に応じて、適宜に決定される。例えば、軟磁性金属粉38の構成材料として、酸化鉄と酸化ニッケルとを組み合わせた材料が使用される場合には、釉薬の100重量部に対して、30重量部の酸化鉄と、2〜10重量部の酸化ニッケルが配合され、混練される。これによって、加熱部40が、電子レンジのマイクロ波にて、より高温に加熱されるようになる。なお、酸化ニッケルの配合量の更に好適な配合割合は、5重量部である。
【0043】
ところで、上記のような構造を有する電子レンジ用陶磁製調理器を用いて、食品を電子レンジにて加熱調理する際には、例えば、以下のようにして、その作業が進められる。
【0044】
すなわち、先ず、加熱調理操作の準備作業として、受け皿10と蓋体12とを、水中に浸漬する。このとき、受け皿10と蓋体12とを、水中に、それらの全体が没するように1分間以上浸漬させておくことが、望ましい。それにより、多孔質の陶器製の受け皿10や蓋体12が有する微小空間や連通孔内に、水が十分に浸透し、収容、保持される。
【0045】
次に、図1に示されるように、例えば、肉等の加熱調理されるべき食品42(図1に二点差線で示す)を、支持台14の食品載置面28上に載置した後、支持台14を、受け皿10のテーパ面部18に対して、食品載置面28側とは反対の下面側の外周縁部が係止するように支持させる。
【0046】
引き続いて、受け皿10を蓋体12にて覆蓋する。これによって、支持台14の食品載置面28上に載置した食品42を、受け皿10と蓋体12との間に形成される食品収容空間26内に収容する。そうして、食品42を、電子レンジ用陶磁製調理器内に収納する。
【0047】
その後、食品42が収容された電子レンジ用陶磁製調理器の全体を電子レンジ内に投入して、電子レンジを作動させることにより、マイクロ波を電子レンジ用陶磁製調理器に投射する。そうして、食品42を加熱するのである。
【0048】
よく知られているように、マイクロ波は、陶器に吸収され難く、陶器を通り抜ける一方、水や支持台14の加熱部40内の軟磁性金属粉38に吸収され易い性質を有している。そのため、食品42を収容した電子レンジ用陶磁製調理器にマイクロ波が投射されると、陶器製の蓋体12を通り抜けたマイクロ波や、陶器製の受け皿10と陶磁器製の支持台14とを、その下面側から通り抜けたマイクロ波により、食品42内の水分が効率的に発熱して、食品42全体が、その内部から加熱される。また、それと同時に、蓋体12と受け皿10と支持台14とを通り抜けたマイクロ波によって、支持台14の加熱部40内の無数の軟磁性金属粉38が発熱し、食品42が載置される食品載置面28に形成された加熱部40が、高温に加熱される。
【0049】
そして、そのようなマイクロ波加熱によって、肉等の食品42から油分が排出された際には、その油分が、食品載置面28に設けられた複数の貫通孔36を通じて、食品載置面28上から受け皿10上に滴下されて、受け皿10の平面部16上に溜められる。
【0050】
また、電子レンジ用陶磁製調理器に投射されたマイクロ波は、蓋体12と受け皿10の内部に、多数の微小空間や連通孔内に保持された水(保留水)に吸収されて、そのような保留水を発熱させる。これによって、蓋体12と受け皿10が陶器製でありながら、それらの温度が適度に高められる。また、蓋体12と受け皿10内の水が気化し、その蒸気が食品収容空間26内に充満させられるようになる。
【0051】
このように、本実施形態の電子レンジ用陶磁製調理器を用いれば、従来の陶器製の調理器を用いた場合と同様な食品42内部からの加熱が実施されることに加えて、高温に加熱された加熱部40により、食品42の加熱部40(食品載置面28)との接触部分が外部から加熱される。従って、食品42を、その内部加熱によって十分に加熱しつつ、加熱部40(食品載置面28)との接触部分に対して、「焦げ目」を付けることが可能となる。
【0052】
しかも、支持台14の食品載置面28に対して、加熱部40の直線状に延びる部分が、複数の貫通孔36と交互に並列的に並んで位置するように分散配置されている。それによって、食品42の食品載置面28への載置部分に対して、「焦げ目」を効果的に分散させつつ、略均一に付けることができる。
【0053】
また、本実施形態に係る電子レンジ用陶磁製調理器では、保留水の発熱により温度が高められた蓋体12と受け皿10からの熱伝達による外部加熱によって、食品42が、より効率的に加熱される。そして、食品収容空間26内に充満された蒸気によって、食品42の加熱状態がマイルドとなって、食品42が、ふっくらと加熱調理されることとなる。
【0054】
さらに、蓋体12と受け皿10は、保留水の発熱により、ある程度温度が高められるものの、その温度は、軟磁性金属粉38の発熱により高温に加熱された支持台14の加熱部40の温度にまで高められることはない。また、支持台14は、加熱部40だけが高温となり、それ以外の部位は高温とならならい。しかも、上記のように、食品42の加熱時には、受け皿10(支持台14)と蓋体10との間の食品収容空間26内が、蒸気で満たされる。それ故、加熱された食品42内からの過剰な水分の蒸発が回避でき、それによって、更に一層ふっくらとした状態で、食品42が加熱調理される。
【0055】
さらに、受け皿10が、加熱部40よりも低い温度とされ、しかも、受け皿10の平面部16と支持台14との間に隙間24が形成されている。また、支持台14の下面には、軟磁性金属粉38が埋入された加熱部40が何等設けられていない。そのため、支持台14の貫通孔36を通じて滴下されて、受け皿10の平面部16上に溜められた油分が、受け皿10や支持台14との接触により燃焼することがない。また、仮に、そのような油分が、支持台14の下面と接触しても、燃焼する程に高温に達することがない。従って、食品42から滲み出た油分の燃焼によって、煙が発生することも、効果的に防止され得る。
【0056】
また、上記のように、支持台14は、加熱部40のみが高温となり、加熱部40以外の部分は、高温とならない。しかも、支持台14とは別体の受け皿10や蓋体12の内部に載置されている。従って、食品42の加熱調理後に、使用者が、受け皿10を把持して電子レンジから取り出したり、加熱部40以外の部分をつかんで、支持台14を受け皿10上から取り上げるようにすれば、使用者が火傷を負うようなことも、効果的に回避され得る。
【0057】
さらに、本実施形態では、高温に加熱される加熱部40を有する支持台14が、受け皿10と蓋体12との間の収容空間内に収容される。そのため、高温に加熱された加熱部40の温度が、電子レンジの温度センサによって検知されることを防止できる。それによって、食品42が、十分に加熱されるまで、電子レンジを有効に且つ継続的に作動させる。
【0058】
加えて、本実施形態では、陶磁器からなる支持台14の製造時に、その表面に必ず形成される釉薬層を利用して、加熱部40が形成されている。それ故、余分な作業負担やコスト負担が付加されることなく、食品載置面28上だけに、軟磁性金属粉38が混練された加熱部40が、極めて容易に且つ効率的に形成され得るといった利点がある。
【0059】
ここにおいて、本発明に従う構造を有する電子レンジ用陶磁製調理器が、上記のような特徴を発揮するものであることを確認するために、本発明者が実施した幾つかの試験について詳述する。
【0060】
<試験A>
本発明に従う構造を有する加熱部が設けられた陶器と、そのような加熱部が何等設けられていない陶器との間での、電子レンジ加熱(マイクロ波加熱)による温度上昇の違いを調べるために、以下の試験Aを実施した。
【0061】
先ず、従来より公知の粘土原料を用いて、図1に示されるような皿形状を呈する成形体と、図1〜図3に示されるような円形平板状を呈する成形体とを、それぞれ成形した。
【0062】
次に、土鍋用釉薬として一般に用いられる公知の耐熱性釉薬を、皿状成形体の表面の全面に、0.5〜0.7mmの厚さで塗布した後、皿状成形体を1200℃の温度で焼成して、図1に示されるような構造を有する受け皿を製造した。
【0063】
その一方で、受け皿の製造に用いた釉薬と同一種類の釉薬中に、酸化鉄と酸化ニッケルとの混合物からなる軟磁性金属粉を混練して、加熱部形成材料を調製した。この加熱部形成材料の組成は、釉薬:100重量部、酸化鉄:35重量部、酸化ニッケル:7重量部とした。そして、この加熱部形成材料を、円形平板状成形体の一方の板面に塗布する一方、円形平板状成形体の他の面には、受け皿の製造に用いた釉薬と同じ釉薬を塗布した後、円形平板状成形体を1200℃の温度で焼成した。これによって、一方の面だけに加熱部が形成されてなる、図1〜図3に示されるような構造の支持台を製造した。なお、円形平板状成形体に塗布された加熱部形成材料や釉薬の厚さは、皿状成形体表面に塗布された釉薬の厚さと同一とした。
【0064】
そして、上記のようにして得られた支持台を、図1に示されるように、上面に加熱部を位置させた姿勢で、受け皿に載置し、その状態において、それら支持台と受け皿とを、電子レンジ[シャープ(株)製RE−SD50−s]内に投入した。その後、それら支持台と受け皿とに対する500Wの出力での1分間の加熱を連続して6回行った。そして、1回の加熱終了毎に、支持台の加熱部の表面温度と、受け皿のテーパ面部の表面温度とをそれぞれ測定した。その結果を、下記表1に示した。
【0065】
【表1】

【0066】
表1の結果から明らかなように、全ての温度測定時において、支持台の加熱部の表面温度が、受け皿のテーパ面部の表面温度を大きく上回っている。これは、電子レンジ加熱によって、支持台の加熱部が、受け皿よりも高温に加熱されることを如実に示している。
【0067】
<試験B>
加熱部中に埋入される軟磁性金属粉の種類及び配合割合と、加熱部の電子レンジ加熱(マイクロ波加熱)による温度上昇との関係を調べるために、以下の試験Bを実施した。
【0068】
すなわち、先ず、従来より公知の粘土原料を用いて、円形平板状の成形体を7個形成した。これら7個の成形体は、何れも17cmの直径と0.7cmの厚さを有する同一の大きさとした。
【0069】
次に、土鍋用の公知の耐熱性釉薬の100重量部に対して、軟磁性金属である酸化鉄と酸化コバルトと酸化ニッケルのうちの何れか2種類が、下記表2に示された配合割合で混練された、互いに組成の異なる7種類の加熱部形成材料(No.1〜No.7)を準備した。
【0070】
【表2】

【0071】
そして、それら7種類の過熱部形成材料を、先に形成された7個の成形体の一方の板面の全面にそれぞれ0.5〜0.7mmの厚さで塗布した後、それら7個の成形体を1200℃の温度で焼成した。これによって、一方の板面に、軟磁性金属粉が、互いに異なる種類の組み合わせで、且つ互いに異なる量において埋入されてなる加熱部(互いに異なる組成の釉薬層を焼成してなる加熱部)をそれぞれ有する7種類の支持台を得た。そして、それら7種類の支持台のうち、過熱部形成材料No.1を用いて加熱部が形成されたものを支持台1、過熱部形成材料No.2を用いて加熱部が形成されたものを支持台2、過熱部形成材料No.3を用いて加熱部が形成されたものを支持台3、過熱部形成材料No.4を用いて加熱部が形成されたものを支持台4、過熱部形成材料No.5を用いて加熱部が形成されたものを支持台5、過熱部形成材料No.6を用いて加熱部が形成されたものを支持台6、過熱部形成材料No.7を用いて加熱部が形成されたものを支持台7とした。
【0072】
次いで、支持台1〜7を、電子レンジ[シャープ(株)製RE−SD50−s]内に、それぞれ別個に投入して、500Wの出力で5分間加熱した後、それら支持台1〜7のそれぞれの最高温度となった個所を調べ、そして、その温度を測定した。その結果を、支持台1〜7の最高温度となった個所は、何れも、加熱部であった。それら支持台1〜7の最高温度を、下記表3に示した。なお、支持台1〜7のそれぞれの最高温度となった個所は、電子レンジによる加熱後に、市販の熱画像測定装置を用いて、各陶器を撮影した赤外線映像から検出した。
【0073】
【表3】

【0074】
表3の結果から、支持台2〜7の加熱部、即ち、釉薬100重量部に対して、30重量部の酸化鉄と3〜10重量部の酸化コバルトとを混合した軟磁性金属粉を混練してなる加熱部形成材料を用いて得られた加熱部と、釉薬100重量部に対して、30重量部の酸化鉄と2〜10重量部の酸化ニッケルとを混合した軟磁性金属粉を混練してなる加熱部形成材料とを用いて得られた加熱部とが、電子レンジ加熱によって、500℃に近い温度、或いは500℃以上の極めて高い温度に加熱されることが判る。
【0075】
<試験C>
支持台の食品載置面に貫通孔を形成した場合と形成しない場合とでの電子レンジ加熱による加熱部の温度上昇の違いを調べるために、以下の試験Cを行った。
【0076】
先ず、加熱部が形成された食品載置面に、長さが12cm以上で、幅が0.2cmのスリット状の貫通孔が設けられた支持台8と、加熱部が形成された食品載置面に、貫通孔が何等設けられていない支持台9とを、前記した試験Aにて支持台を製造する際と同様にして、製造した。
【0077】
そして、それら支持台8と支持台9とを、電子レンジ[シャープ(株)製RE−SD50−s]内に、それぞれ別個に投入した。その後、それらの支持台8と支持台9に対する500Wの出力での5分間の加熱を連続して2回行った。そして、1回目の加熱終了時と2回目の過熱終了時とにおいて、支持台8と支持台9の各加熱部の表面温度をそれぞれ測定した。その結果を、下記表4に示した。なお、それらの加熱部の温度の測定個所は、各支持台の中心と外周縁の周上の一点とを結んだ直線の中央部とした。
【0078】
【表4】

【0079】
表4の結果から明らかなように、食品載置部に12cm以上の長さの貫通孔が設けられた支持台8の方が、そのような貫通孔を何等有しない支持台9よりも高い温度に加熱される。これによって、食品載置部に12cm以上の長さの貫通孔を設けることで、加熱部の温度を効果的に高め得ることが認識され得る。
【0080】
以上、本発明の一実施形態について説明してきたが、これはあくまでも例示であって、本発明は、そのような実施形態における具体的な記載によって、何等、限定的に解釈されるものではない。
【0081】
例えば、受け皿10と蓋体12は、必ずしも陶器製である必要はなく、それらが磁器製や耐熱性の樹脂製であっても良い。
【0082】
また、支持台14を貫通する貫通孔36の形状や個数、或いは食品載置面28での形成位置も、適宜に変更可能である。即ち、貫通孔36は、円形や多角形形状であっても良く、また、食品載置面28の一部に偏在するように設けられていても良い。また、直線状に延びるスリット状の貫通孔36を複数設ける場合にあっても、それら複数の貫通孔36全てのものの延出方向を不規則な方向としても良く、或いは全て一定の方向としても良い。
【0083】
さらに、受け皿10と蓋体12のうちの何れか一方のみが、吸水性を有するように構成することも可能である。
【0084】
その他、一々列挙はしないが、本発明は、当業者の知識に基づいて種々なる変更、修正、改良などを加えた態様において実施され得るものであり、また、そのような実施態様が、本発明の趣旨を逸脱しない限り、何れも、本発明の範囲内に含まれるものであることは、言うまでもない。
【符号の説明】
【0085】
10:受け皿、12:蓋体、14:支持台、24:隙間、28:食品載置面、36:貫通孔、38:軟磁性金属粉、35:加熱部、42:食品

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子レンジ用陶磁製調理器であって、
受け皿と、該受け皿に対して隙間を隔てて載置される陶磁製の支持台とを備えており、
該支持台の食品載置面には、軟磁性金属紛が混練された釉薬層が焼成されてなる加熱部と、該支持台を貫通する貫通孔が設けられている、
ことを特徴とする電子レンジ用陶磁製調理器。
【請求項2】
前記貫通孔が、前記食品載置面に、直線状に延びる形態を有して、並列に複数並んで形成されていると共に、前記加熱部が、該貫通孔の両サイドにおいて該貫通孔に沿って直線状に延びる部分を有して、該食品載置面の全体に形成されている請求項1に記載の電子レンジ用陶磁製調理器。
【請求項3】
前記支持台を覆蓋する蓋部を備えている請求項1又は2に記載の電子レンジ用陶磁製調理器。
【請求項4】
前記受け皿と前記蓋部のうちの少なくとも何れか一方が吸水性を備えている請求項3に記載の電子レンジ用陶磁製調理器。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2012−115523(P2012−115523A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−268625(P2010−268625)
【出願日】平成22年12月1日(2010.12.1)
【出願人】(597149364)長谷製陶株式会社 (10)
【Fターム(参考)】