説明

電子内視鏡装置

【課題】カラー撮像素子の出力画像信号から所定波長域の分光画像を形成する電子内視鏡装置において、被観察体の分光画像をその実物の色相で表示する。
【解決手段】被観察体に白色光を照射する光源14と、被観察体を撮像するカラー撮像素子15と、該素子15が出力したY(輝度)/C(色差)信号を変換して得たR、G、B3色画像信号から所定波長域の分光画像を形成する分光画像形成回路29とを有する電子内視鏡装置において、分光画像形成回路29を、指定された波長域の色で分光画像を示す分光画像信号を生成するように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電子内視鏡装置に関し、特に詳細には、被観察体のカラー画像を担持する画像信号を演算処理することによって、特定の波長域の分光画像(映像)を形成、表示可能とした電子内視鏡装置に関する。
【背景技術】
【0002】
固体撮像素子を用いた電子内視鏡装置の分野では、近年、胃粘膜等の消化器官における分光反射率に基づいて、狭帯域バンドパスフィルタを組み合わせた分光イメージングを行う装置、すなわち狭帯域フィルタ内蔵電子内視鏡装置(Narrow Band Imaging-NBl)が注目されている。この装置は、面順次式のR(赤),G(緑),B(青)の回転フィルタの代わりに、3つの狭(波長)帯域のバンドパスフィルタを設け、これら狭帯域バンドパスフィルタを介して照明光を順次出力し、これらの照明光で得られた3つの信号に対しそれぞれの重み付けを変えながらR,G,B(RGB)信号の場合と同様の処理を行うことにより、分光画像を形成するものである。このような分光画像によれば、胃、大腸等の消化器において、従来では得られなかった微細構造等が抽出される。
【0003】
一方、上記の狭帯域バンドパスフィルタを用いる面順次式のものではなく、特許文献1、2や非特許文献1に示されるように、固体撮像素子に微小モザイクの色フィルタを配置する同時式において、白色光が照射された被観察体を撮像して得た画像信号を基に、演算処理にて分光画像を形成することが提案されている。これは、RGBのそれぞれのカラー感度特性を数値データ化したものと、特定の狭帯域バンドパスの分光特性を数値データ化したものとの関係をマトリクスデータ(係数セット)として求め、このマトリクスデータとRGB信号との演算により、狭帯域バンドパスフィルタを介して得られる分光画像を推定した分光画像信号を得るものである。このような演算によって分光画像を形成する場合は、所望の波長域に対応した複数のフィルタを用意する必要がなく、またこれらの交換配置が不要となるので、装置の大型化が避けられ、低コスト化を図ることができる。
【特許文献1】特公平7−96005号公報
【特許文献2】特開2003−93336号公報
【非特許文献1】三宅洋一著「デジタルカラー画像の解析・評価」東京大学出版会、 2000年、p.148〜153
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上述の演算によって分光画像を得る従来の電子内視鏡装置は、分光画像をモノクロ画像として表示したり、あるいは予め指定した特定の3色を基に構成されるカラー画像として表示するように構成されていたので、例えば正常な部分と病巣部分との区別は明確になるものの、表示部位が実際とは異なる色で表示されることもあり、その点が、装置を使い慣れていない医師等には戸惑いを感じさせるものとなっていた。
【0005】
本発明は上記の問題点に鑑みてなされたものであり、前述の演算によって分光画像を得るようにした電子内視鏡装置において、分光画像中の部位を、実際と同じような色相で表示可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明による電子内視鏡装置は、
被観察体に白色光を照射する光源と、
この白色光の照射を受けた前記被観察体を撮像するカラー撮像素子と、
このカラー撮像素子の出力に基づくRGB3色画像信号と、所定のマトリクスデータとの演算により、指定された波長の分光画像を示す分光画像信号を形成する分光画像形成回路とを備えてなる電子内視鏡装置において、
前記分光画像形成回路が前記分光画像信号を、それぞれ前記指定された波長の色で分光画像を示す信号として、互いに異なる少なくとも3波長について生成するように構成されたことを特徴とするものである。
【0007】
なお上記の3波長はそれぞれ、赤、緑、青領域の波長であることが望ましい。
【0008】
また前記指定された波長の色で分光画像を示す分光画像信号を生成するためのマトリクスデータは、予め作成されて記憶手段に記憶されていることが望ましい。
【0009】
また前記分光画像形成回路は、前記分光画像信号として、それぞれ固定の色で前記分光画像を示す信号も生成可能とされた上で、該固定の色で前記分光画像を示す信号と、前記指定された波長の色で分光画像を示す信号とを、選択的に切り換えて出力可能に構成されることが望ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の電子内視鏡装置においては、分光画像形成回路が、互いに異なる少なくとも3波長についての分光画像信号を生成するように構成されているので、これらの分光画像信号に基づけば、カラーの分光画像を形成することができる。そしてこれらの分光画像信号は、それぞれ指定された波長の色で分光画像を示す信号とされているので、該分光画像信号に基づいてディスプレイ手段に表示されたり、あるいは画像記録手段で記録されたりする分光画像は、カラー撮像素子によって撮像された部分を、基本的に実物と同じ色相で示すものとなる。
【0011】
また本発明の電子内視鏡装置において、特に上記のようなマトリクスデータが予め作成されて記憶手段に記憶されている場合は、この演算処理を迅速に行って分光画像を短時間で表示あるいは記録可能となる。
【0012】
また本発明の電子内視鏡装置において、特に分光画像形成回路が、分光画像信号として、それぞれ固定の色で分光画像を示す信号も生成可能とされた上で、該固定の色で分光画像を示す信号と、前記指定された波長の色で分光画像を示す信号とを、選択的に切り換えて出力可能に構成された場合は、分光画像を医師等の要求に応じて、上述のように実物と同じ色相で表示または記録したり、あるいは固定の色相で表示または記録することを随意に選択実行可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0014】
図1は、本発明の一実施形態による電子内視鏡装置の基本構成を示すものである。本実施形態の電子内視鏡装置は、後述のようにして形成される被観察体の分光画像を表示するモードと、被観察体の通常画像を表示するモードのどちらかに設定され、さらに分光画像表示モード下では、分光画像を固定の3色画像信号に基づくカラー画像として表示するモードと、実物通りの(実物に近い)色相で被観察体を示すカラー画像として表示するモードの一方に選択的に設定されるように構成されている。最初に、分光画像表示モードおよびそのための構成について説明する。
【0015】
図示の通りこの電子内視鏡装置は、スコープ10すなわち内視鏡本体部分と、このスコープ10が着脱自在に接続されるプロセッサ装置12とから構成され、プロセッサ装置12内には白色光を発する光源装置14が配置されている。スコープ10の先端には照明窓23が設けられ、この照明窓23には、一端が上記光源装置14に接続されたライトガイド24の他端が対面している。なお光源装置14は、プロセッサ装置12とは別体の部分に配置されてもよい。
【0016】
上記スコープ10の先端部には、固体撮像素子であるCCD15が設けられている。このCCD15としては、例えば撮像面にMg(マゼンタ),Ye(イエロー),Cy(シアン),G(グリーン)の色フィルタを有する補色型、あるいはRGBの色フィルタを有する原色型が用いられる。
【0017】
CCD15には、同期信号に基づいて駆動パルスを形成するCCD駆動回路16が接続されると共に、このCCD15が出力した画像(映像)信号をサンプリングして増幅するCDS/AGC(相関二重サンプリング/自動利得制御)回路17が接続されている。またCDS/AGC回路17には、そのアナログ出力をデジタル化するA/D変換器18が接続されている。さらにスコープ10内には、そこに設けられた各種回路を制御するとともに、プロセッサ装置12との間の通信制御を行うマイコン20が配設されている。
【0018】
一方プロセッサ装置12には、A/D変換器18によりデジタル化された画像信号に対して各種の画像処理を施すDSP(デジタル信号プロセッサ)25が設けられている。このDSP25は、上記画像信号から輝度(Y)信号と色差[C(R−Y,B−Y)]信号で構成されるY/C信号を生成し、それを出力するものであり、該DSP25には第1色変換回路28が接続されている。この第1色変換回路28は、DSP25から出力されたY/C信号をR、G、Bの3色画像信号に変換する。なお、DSP25はスコープ10側に配置してもよい。
【0019】
上記第1色変換回路28の後段側には、分光画像形成のためのマトリクス演算を行って、選択された波長域λ1,λ2,λ3による分光画像を示す画像信号を出力する色空間変換処理回路29、1つの狭波長帯域の分光画像を形成する単色モードと、3つの波長域からなる分光画像を形成する3色モードとのいずれかを選択するモードセレクタ30、1つの波長域または3つの波長域の画像信号λ1s,λ2s,λ3sを、RGB信号に対応させた処理をするためにRs,Gs,Bs信号として入力し、このRs,Gs,Bs信号をY/C信号に変換する第2色変換回路31、鏡像処理,マスク発生、キャラクタ発生等のその他の各種信号処理を行う信号処理回路32、およびD/A変換器33が逐次この順に接続されている。そして最後段のD/A変換器33は、プロセッサ装置12外に配置された例えば液晶表示装置やCRT等からなるモニタ34および、光走査記録装置等からなる画像記録装置45に接続されている。なお、モードセレクタ30が選択する3色モードに代えて、2つの波長域からなる分光画像を形成する2色モードを設定するようにしてもよい。
【0020】
またプロセッサ装置12内には、スコープ10との間の通信を行うと共に、該装置12内の各回路を制御し、またメモリ36に記憶されているマトリクス(係数)データを上記色空間変換処理回路29に入力する等の機能を有するマイコン35が設けられている。上記メモリ36には、RGB信号に基づいて分光画像を形成するためのマトリクスデータがテーブルの形で記憶されている。本実施形態において、このメモリ36に格納されているマトリクスデータの一例は次の表1のようになる。
【表1】

【0021】
この表1のマトリクスデータは、例えば400nmから700nmの波長域を5nm間隔で分けた61の波長域パラメータ(係数セット)p1〜p61および、通常画像形成のためのパラメータP1〜P3からなる。パラメータp1〜p61は各々、マトリクス演算のための係数kpr,kpg,kpb(p=1〜61)から構成され、他方パラメータP1は係数(1.00000,0.00000,0.00000)から、パラメータP2は(係数0.00000,1.00000,0.00000)から、パラメータP3は係数(0.00000,0.00000,1.00000)からそれぞれ構成されている。
【0022】
そして色空間変換処理回路29において、上記係数kpr,kpg,kpbと第1色変換回路28から出力されたRGB信号とにより次式で示すマトリクス演算が行われて、分光画像信号λ1s,λ2s,λ3sが形成される。
【数1】

【0023】
すなわち、分光画像を構成する波長域λ1,λ2,λ3としてそれぞれ例えば500nm,620nm,650nmが選択される場合は、係数(kpr,kpg,kpb)として、表1の61のパラメータのうち、中心波長500nmに対応するパラメータp21の係数(-0.00119,0.002346,0.0016)、中心波長620nmに対応するパラメータp45の係数(0.004022,0.000068,‐0.00097)、および中心波長650nmに対応するパラメータp51の係数(0.005152,-0.00192,0.000088)を用いて上記マトリクス演算がなされる。
【0024】
なお色空間変換処理回路29は、後述するようにして通常画像表示あるいは記録の指示が与えられた際には、パラメータP1〜P3の係数を用いて上記マトリクス演算を行う。したがってその場合は、第1色変換回路28から出力されたRGB信号がそのまま該色空間変換処理回路29から出力される。
【0025】
マイコン35には前記メモリ36に加えて、操作パネル41、画像記録コントローラ42、およびキーボード等からなる入力部43が接続されている。図2は上記操作パネル41を詳しく示すものであり、該操作パネル41には、併せて概略図示する例えばa〜hの波長セットを選択するためのセット選択スイッチ41a、波長域λ1,λ2,λ3のそれぞれの中心波長を選択するため波長選択スイッチ41b、この波長選択スイッチ41bによりなされる波長切換えの幅を設定する切換え幅設定スイッチ41c、前述した単色モードと3色モードとの切換えを行う単色−3色モード切換えスイッチ41dおよび、分光画像形成を指示する分光画像形成スイッチ41jが設けられている。
【0026】
なお上記分光画像形成スイッチ41jは、スコープ10側に設けることもできる。また、この分光画像形成スイッチ41jの下側には、固定色モードスイッチ41eおよび実色モードスイッチ41fが設けられているが、それらについては後述する。
【0027】
以下、上記構成を有する本実施形態の電子内視鏡装置の作用について説明する。まず分光画像形成スイッチ41jが押された場合、つまり分光画像の形成から説明する。
【0028】
この分光画像を形成する際には、図1に示す光源装置14が駆動され、そこから発せられた白色光がライトガイド24に入射し、スコープ10内に配されたライトガイド24の先端から出射した白色光が被観察体に照射される。そして、CCD駆動回路16によって駆動されたCCD15がこの被観察体を撮像し、撮像信号を出力する。この撮像信号はCDS/AGC回路17で相関二重サンプリングと自動利得制御による増幅を受けた後、A/D変換器18でA/D変換されて、デジタル信号としてプロセッサ装置12のDSP25に入力される。
【0029】
DSP25では、スコープ10からの出力信号に対してガンマ処理が行われると共に、Mg,Ye,Cy,Gの色フィルタを介して得られた信号に対して色変換処理が行われ、前述の通りのY/C信号が形成される。このDSP25が出力するY/C信号は第1色変換回路28に入力され、そこでRGB信号に変換される。このRGB信号は色空間変換処理回路29に入力され、この色空間変換処理回路29においてRGB信号とマトリクスデータとにより、分光画像形成のためのマトリクス演算がなされる。
【0030】
以下、この演算について詳しく説明する。図2に示す操作パネル41の分光画像形成スイッチ41jが押された場合、色空間変換処理回路29は前述のメモリ36に記憶されているマトリクスデータを用いて、それと各画素毎のRGB信号とにより、分光画像形成のための前記(数1)式のマトリクス演算を行う。すなわち、この場合は操作パネル41の操作によってλ1,λ2,λ3の3つの波長域が設定され、マイコン35はそれらの3つの選択波長域に対応するマトリクスデータをメモリ36から読み出し、それらを色空間変換処理回路29に入力する。
【0031】
例えば、3つの波長域λ1,λ2,λ3として波長500nm,620nm,650nmが選択された場合は、それぞれの波長に対応する(表1)のパラメータp21,p45,p51の係数が用いられて、各画素毎のRGB信号から次の(数2)式のマトリクス演算によって分光画像信号λ1s,λ2s,λ3sが形成される。
【数2】

【0032】
なお、図2の単色−3色モード切換えスイッチ41dに接続されたモードセレクタ30にて3色モードが選択されている場合は、上記分光画像信号λ1s,λ2s,λ3sが各々Rs,Gs,Bsの3色画像信号として第2色変換回路31に入力され、また単色モードが選択されている場合は分光画像信号λ1s,λ2s,λ3sのいずれか1つがRs,Gs,Bsの信号として第2色変換回路31に入力される。以下、上記3色モードが選択されている場合について詳しく説明する。
【0033】
上記第2色変換回路31では、Rs,Gs,Bsの3色画像信号がY/C信号(Y,Rs−Y,Bs−Y)に変換され、このY/C信号が信号処理回路32およびD/A変換器33を介して前述のモニタ34および画像記録装置45へ入力される。
【0034】
上記Y/C信号に基づいてモニタ34に表示される分光画像は、図4および図5で示すような波長域の色成分で構成されるカラー画像となる。すなわち図4は、原色型CCD15の色フィルタの分光感度特性R,G,Bに、分光画像を形成する3つの波長域λ1,λ2,λ3を重ねた概念図であり、また図5は、生体の反射スペクトルに3つの波長域λ1,λ2,λ3を重ねた概念図である。先に例示したパラメータp21,p45,p51による分光画像信号λ1s,λ2s,λ3sは、図5に示されるように各々500nm、620nm、650nmを中心波長とする±10nm程度の範囲の波長域の分光画像を示す信号であり、これら3つの信号の組合せから構成されるカラー分光画像(動画あるいは静止画)が表示あるいは記録されることになる。
【0035】
なおこのようなカラー分光画像は、図2に示す固定色モードスイッチ41eが押されている場合は、固定の3色画像信号に基づくカラー画像となり、その一方、同図に示す実色モードスイッチ41fが押されている場合は被観察体を実物の色(実物に近い色)で表示あるいは記録するカラー画像となるが、その点については後に詳しく説明する。
【0036】
次に、上記波長域λ1,λ2,λ3の選択について説明する。本実施形態では図2に示すように、λ1,λ2,λ3の波長セットとして、例えば400,500,600(nm、以下同様)の標準セットa、血管を描出するための470,500,670の血管B1セットb、同じく血管を描出するための475,510,685の血管B2セットc、特定組織を描出するための440,480,520の組織E1セットd、同じく特定組織を描出するための480,510,580の組織E2セットb、オキシヘモグロビンとデオキシヘモグロビンとの差を描出するための400,430,475のヘモグロビンセットf、血液とカロテンとの差を描出するための415,450,500の血液‐カロテンセットg、血液と細胞質の差を描出するための420,550,600の血液‐細胞質セットhの8つの波長セットが、デフォルト波長セットとして、図1に示すメモリ36の一部に記憶されている。
【0037】
電子内視鏡装置の工場出荷後、最初に電源を入れて装置を立ち上げると、上記デフォルト波長セットがマイコン35によって選択される。そして、図2に示す操作パネル41の分光画像形成スイッチ41jが押されると、上記選択された波長セットの中の標準セットaが、図3のモニタ34において波長情報表示領域34sに表示される。このとき、モード切換えスイッチ41dが押されて3色モードが選択されていれば、標準セットaのλ1=400nm,λ2=500nm,λ3=600nmに対応する各パラメータがメモリ36から読み出され、それらのパラメータが色空間変換処理回路29に入力される。色空間変換処理回路29は、こうして入力されたパラメータを用いて前述のマトリクス演算を行う。
【0038】
また臨床医師等の装置操作者は、図2の操作パネル41に有るセット選択スイッチ41aを操作することにより、デフォルト波長セットにおけるその他の波長セットb〜hを任意に選択することができ、マイコン35はこうして選択された波長セットを、図3のモニタ34において波長情報表示領域34sに表示させる。それとともにこの場合も、選択された波長セットの波長域λ1,λ2,λ3に対応する各パラメータがマイコン35によってメモリ36から読み出され、それらのパラメータが色空間変換処理回路29に入力される。色空間変換処理回路29は、こうして入力されたパラメータを用いて前述のマトリクス演算を行う。
【0039】
なおセット選択スイッチ41aは図2に示す通り、上向きの三角形の操作部を有する上行スイッチと、下向きの三角形の操作部を有する下行スイッチとからなり、前者が1回押される毎に波長セットはa→h→g・・・と逐次選択され、それに対して後者が1回押される毎に波長セットはa→b→c・・・と逐次選択される。
【0040】
また、上記波長セットa〜hのうちの1つが選択されているとき、操作者が波長選択スイッチ41bを操作することにより、その選択されている波長セットの波長域λ1,λ2,λ3のそれぞれを任意の値に変更することができる。この波長域の変更に際しては、波長切換え幅を、切換え幅設定スイッチ41cによって変えることができる。すなわち、切換え幅設定スイッチ41cのツマミを回転させることにより、連続的切換えに近い1nm幅、ステップ切換えである5nm幅、10nm幅、20nm幅というように、連続的または段階的な切換えを設定することができる。なお、例えば1nm幅で切り換える場合は、400〜700nmの範囲において301の波長域を設定し、この301の波長域に対応したマトリクスデータ(p′1〜p′301)を作成することになる。
【0041】
図6はこの波長域の選択を示すものであり、上記5nm幅を設定したときは、λ1の切換えで示されるように、400→405→410というように切り換えられ、上記20nm幅を設定したときは、λ3の切換えで示されるように、600→620→640というように切り換えられ、この値がモニタ34の波長情報表示領域34sに表示される。
【0042】
図3には、上記波長情報表示領域34sにおける表示状態を詳しく示してある。本実施形態では、前記信号処理回路32内のキャラクタ発生等によって、図3(A)に示すように、モニタ34の右下部等に設定された波長情報表示領域34sに波長情報が表示される。すなわち、この波長情報表示領域34sには、図3(B)に示すように、λ1,λ2,λ3等の文字の下に、選択された波長の値(nm)が表示される。あるいは図3(C)に示すように、横軸を波長目盛、縦軸を感度とし、選択された波長域を可動グラフ(図4に対応したもの)でビジュアル表示してもよい。
【0043】
図2に示すモード切換えスイッチ41dは単色モードと3色モードの切換えを行うものであり、3色モード動作時にこのモード切換えスイッチ41dを押すと、単色モードへ切り換えられ、マイコン35により波長域λ1,λ2,λ3の全てが、470,470,470というように同一の値に設定される。そしてモニタ34には、図7に示すように、共通の波長域が表示される。なおこの共通の波長域についても、上記波長選択スイッチ41bによって任意の値を選択することができる。
【0044】
ここで、上記8つの波長セットとして、前述したようなデフォルト波長セットの他に、装置使用者である医師の要望等に応じて別のセットを用意し、それらをメモリに記憶しておいて適宜選択使用できるようにしてもよい。また、上記の操作パネル41上のスイッチ類の一部機能をキーボードのキー機能に置き換えたり、全部の機能をキーボードのキー機能に置き換えたりしてもよい。
【0045】
次に、分光画像を固定の3色に基づいてカラー表示するモードと、被観察体の実物の色(実物に近い色)でカラー表示するモードに関して説明する。まず前者のモード、つまり図2に示す固定色モードスイッチ41eが押されている場合について説明する。この場合、色空間変換処理回路29は分光画像信号λ1s,λ2s,λ3sを、波長λ1,λ2,λ3の如何に拘わらず、それぞれ固定の色(例えば400nm,500nm,600nm等の波長の色)に対応したRs,Gs,Bsの信号として第2色変換回路31に入力する。それにより、モニタ34に表示され、あるいは画像記録装置45で記録される分光画像は、上記固定の3色に基づいて構成されるカラー画像となる。なお、モードセレクタ30にて単色モードが選択されている場合は、上記固定の3色のうちの1つによって分光画像を示す分光画像信号λ1s,λ2sまたはλ3sがRs,GsまたはBsの信号として第2色変換回路31に入力される。
【0046】
次に、図2に示す実色モードスイッチ41fが押されている場合について説明する。この場合、色空間変換処理回路29は分光画像信号λ1s,λ2s,λ3sを、それぞれ波長λ1,λ2,λ3の色で分光画像を示すRs,Gs,Bsの信号として第2色変換回路31に入力する。それにより、モニタ34に表示され、あるいは画像記録装置45で記録される分光画像は、CCD15によって撮像された被観察体の部分を、基本的に実物と同じ色相で示すものとなる。
【0047】
以下、このような実色モードを実現する分光画像信号λ1s,λ2s,λ3sの生成について詳しく説明する。先に述べた固定色モードにおいては色空間変換処理回路29が、(数2)式のマトリクス演算によって形成した分光画像信号λ1s,λ2s,λ3sをそれぞれ、例えば400nm、500nm、600nmの波長色の輝度(画像表示の場合)を担持するRs,Gs,Bsの3色画像信号として出力するが、この実色モードの場合は、Rs,Gs,Bsを同様に例えば400nm、500nm、600nmの波長色の輝度を担持するものとしたとき、色空間変換処理回路29は分光画像信号λ1s,λ2s,λ3sをそれぞれ次の演算により形成して出力する。
【0048】
λ1s=aRs+bGs+cBs
λ2s=dRs+eGs+fBs
λ3s=gRs+hGs+iBs
上記9個の係数a〜iは下記の通りにして定められて、例えば前記メモリ36に波長λ1,λ2,λ3の組み合わせ毎にテーブルの形で記憶されており、上記演算に際してはそれらがマイコン35によって読み出され、色空間変換処理回路29に入力される。これらの係数a〜iが波長λ1,λ2,λ3の組み合わせ毎に適切に定められていれば、モニタ34に表示され、あるいは画像記録装置45で記録される分光画像が、CCD15によって撮像された被観察体の部分を、基本的に実物と同じ色相で示すものとなる。
【0049】
次に、上記係数a〜iを求める方法について説明する。ここでは、等色関数を用いて、三刺激値(X,Y,Z)が同じであれば、例えばモニタ34に表示される画像中の部分が実物と同じ色相で表示されると考える。以下、ベクトルを小文字、行列を大文字で示すものとし、波長λについての等色関数を
【数3】

【0050】
とし、またモニタ34の発色を
【数4】

【0051】
とする。そして前述の3つの波長λ1,λ2,λ3における色度をそれぞれ(x1,y1,z1)、(x2,y2,z2)、(x3,y3,z3)とする。
【0052】
色度値が同じであれば人間の目には同じ色として見えるので、上記9つの係数a〜iにより下記式が成立すれば、モニタ34に表示される画像中の部分が実物と同じ色相で表示される。
【数5】

【0053】
ここで
【数6】

【0054】
とし、転置を〜で表すと、
【数7】

【0055】
で、
【数8】

【0056】
は3×3となって、逆行列が存在することになる。したがって
【数9】

【0057】
として求めることができる。ただし、
【数10】

【0058】
の要素に負は無いので、計算の結果生じた負の要素は強制的に0(ゼロ)として係数a〜jを求める。
【0059】
なお、以上は3色の画像信号λ1s、λ2s、λ3sに基づいてカラー画像を表示あるいは記録する場合について説明したが、4色以上の画像信号に基づいてカラー画像を表示あるいは記録する場合も、基本的には同様の考えに基づいて、分光画像を実物と同じ色相で示す信号を形成することができる。
【0060】
次に、被観察体の通常画像を表示するモードについて説明する。以上述べたようにして分光画像が形成、表示されているときに、図2に示した操作パネル41の分光画像形成スイッチ41jが再度押された場合、あるいは最初から分光画像形成スイッチ41jが押されない場合は、色空間変換処理回路29におけるマトリクス演算の係数として、前述のパラメータP1〜P3の係数が選択され、それにより該色空間変換処理回路29からは第1色変換回路28が出力したRGB信号がそのまま出力される。そしてこのRGB信号が第2色変換回路31でY/C信号に変換され、このY/C信号が信号処理回路32およびD/A変換器33を介してモニタ34へ入力されるので、該モニタ34においては被観察体の通常カラー画像(動画あるいは静止画)が表示される。
【0061】
なお本実施形態においては、上記D/A変換器33の出力がモニタ34の他に画像記録装置45にも入力されるようになっており、マイコン35によって制御される画像記録コントローラ42が画像記録装置45に画像記録の指示を与えた場合は、その指示で指定されたシーンの通常カラー画像あるいは分光画像のハードコピーがこの画像記録装置45から出力される。
【0062】
なお従来の内視鏡では、被観察体にインディゴやピオクタニン等の色素散布を行い、色素散布によって着色した組織を撮像することが行われているが、上記λ1,λ2,λ3の波長セットとして、色素散布によって着色する組織が描出できる波長域を選択することにより、色素散布をすることなく、色素散布時の画像と同等の分光画像を得ることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の一実施形態に係る電子内視鏡装置の構成を示すブロック図
【図2】図1の電子内視鏡装置を構成するプロセッサ装置の操作パネルの構成、および波長セットの例を示す図
【図3】図1の電子内視鏡装置のモニタにおける波長情報表示領域、およびその表示例を示す図
【図4】分光画像の波長域の一例を、原色型CCDの分光感度特性と共に示すグラフ
【図5】分光画像の波長域の一例を、生体の反射スペクトルと共に示すグラフ
【図6】図1の電子内視鏡装置の波長切換えスイッチで操作される波長切換え状態を示す図
【図7】図1の電子内視鏡装置において、単色モードで選択される波長セットを示す図
【符号の説明】
【0064】
10 スコープ(電子内視鏡本体部)
12 プロセッサ装置
14 光源装置
15 CCD
17 CDS/AGC回路
20,35 マイコン
25 DSP
28 第1色変換回路
29 色空間変換処理回路
30 モードセレクタ
31 第2色変換回路
32 信号処理回路
34 モニタ
34s 波長情報表示領域
36 メモリ
41 操作パネル
43 入力部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被観察体に白色光を照射する光源と、
この白色光の照射を受けた前記被観察体を撮像するカラー撮像素子と、
このカラー撮像素子の出力に基づくRGB3色画像信号と、所定のマトリクスデータとの演算により、指定された波長の分光画像を示す分光画像信号を形成する分光画像形成回路とを備えてなる電子内視鏡装置において、
前記分光画像形成回路が前記分光画像信号を、それぞれ前記指定された波長の色で分光画像を示す信号として、互いに異なる少なくとも3波長について生成するように構成されたことを特徴とする電子内視鏡装置。
【請求項2】
前記指定された波長の色で分光画像を示す分光画像信号を生成するためのマトリクスデータを記憶した記憶手段を備えたことを特徴とする請求項1記載の電子内視鏡装置。
【請求項3】
前記分光画像形成回路が前記分光画像信号として、それぞれ固定の色で前記分光画像を示す信号も生成可能とされた上で、
該固定の色で前記分光画像を示す信号と、前記指定された波長の色で分光画像を示す信号とを、選択的に切り換えて出力可能に構成されたことを特徴とする請求項1または2記載の電子内視鏡装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−86347(P2008−86347A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−267104(P2006−267104)
【出願日】平成18年9月29日(2006.9.29)
【出願人】(000005430)フジノン株式会社 (2,231)
【Fターム(参考)】