説明

電子写真感光体、プロセスカートリッジ、および電子写真装置

【課題】 画像流れの抑制と感光体の摩擦力の低減とを両立することができる電子写真感光体を提供する。
【解決手段】 電子写真感光体の表面層が熱可塑性樹脂と針状無機フィラーを含有し、該熱可塑性樹脂がポリアリレート樹脂であり、該針状無機フィラーは、数平均アスペクト比が5以上50以下、モース硬度が2以上6以下、および塩基性であることを特徴とする電子写真感光体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真用感光体、プロセスカートリッジ、および電子写真装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機光導電性物質を含有する電子写真感光体において、電子写真感光体の表面には、接触部材(クリーニングブレードなど)が接触する。そのため、電子写真感光体は、これらの接触部材等との接触ストレスによる画像劣化の発生を低減させることが求められ、電子写真感光体の表面の摩擦力を効果的に低減することが求められている。また近年は、電子写真感光体の表面層に用いられる熱可塑性樹脂は、電子写真感光体の耐久性を向上させるために、耐摩耗性の高い樹脂が用いられている。この結果、電子写真感光体の表面が摩耗しにくいことにより、帯電過程にて生じる放電生成物質が除去され難く感光体表面に蓄積されてしまう。この放電生成物質が、感光体の表面の摩擦力を上昇させるだけでなく、高湿時に空気中の水分を吸収して電子写真感光体の表面抵抗を低下させ、画像流れが発生する場合がある。
【0003】
電子写真感光体の摩擦力を低減させる方法として、電子写真感光体の表面層に潤滑性の高い粒子やフィラーを含有させる方法がある。特許文献1では、フッ素系樹脂粒子を含有させて、感光体と接触部材との摩擦力を低減させる方法が提案されている。また、粒子に潤滑性の高い材料を被覆した粒子を用いて、摩擦力を低減させる方法がある。特許文献2では、電子写真感光体の表面層にシロキサン構造を有する化合物によって表面処理されたシリカ粒子を含有させて、感光体と接触部材との摩擦力を低減させる方法が提案されている。
【0004】
一方、無機の針状フィラー(以下、針状無機フィラーという)を電子写真感光体の表面層に含有させて、電子写真感光体の耐摩耗性を向上させることが提案されている。特許文献3では、チタン酸カリウムの針状無機フィラーを表面層に含有させて、感光体の耐摩耗性を向上させる方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−043765号公報
【特許文献2】特開平8−262778号公報
【特許文献3】特開平5−158250号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、本発明者らの検討の結果、特許文献1、2に記載の方法では、一時的に摩擦力を低減させるが、長期間の画像形成を行う過程で、放電生成物質が蓄積されて、摩擦力を低減させることが十分ではなくなる。さらに、放電生成物質の除去が不十分となるため、高温高湿環境下において画像流れの抑制が十分ではない。
【0007】
特許文献3に記載の方法では、ポリカーボネート樹脂の耐摩耗性が低いため、針状無機フィラーが脱離して、感光体やクリーニングブレードに傷が発生して、画像流れの抑制が十分でなくなる。
【0008】
本発明の目的は、画像流れの抑制と電子写真感光体の摩擦力の低減とを両立することができる電子写真電子写真感光体を提供することである。また、本発明の別の目的は、前記電子写真感光体を有するプロセスカートリッジおよび電子写真装置を提供することにある。上記の目的は、以下の本発明によって達成される。
【0009】
本発明は、支持体、該支持体上に形成された感光層を有する電子写真感光体において、該電子写真感光体の表面層が熱可塑性樹脂と針状無機フィラーを含有し、
該熱可塑性樹脂がポリアリレート樹脂であり、該針状無機フィラーは、数平均アスペクト比が5以上50以下、モース硬度が2以上6以下、および塩基性であることを特徴とする電子写真感光体に関する。
【0010】
また、本発明は、前記電子写真感光体およびクリーニング手段を一体に支持し、電子写真装置本体に着脱自在であることを特徴とするプロセスカートリッジに関する。
【0011】
また、本発明は、前記電子写真感光体、帯電手段、露光手段、現像手段、転写手段およびクリーニング手段を有する電子写真装置に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、表面層にポリアリレート樹脂と針状無機フィラーを含有する電子写真感光体において、画像流れの抑制と電子写真感光体の摩擦力の低減効果とを両立することができる電子写真感光体を提供することができる。また、本発明によれば、前記電子写真感光体を有するプロセスカートリッジ、および電子写真装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の電子写真感光体を有するプロセスカートリッジを備えた電子写真装置の概略構成の一例を示す図である。
【図2】本発明の電子写真感光体の層構成を説明するための図である。
【図3】本発明の実施例における動摩擦係数測定方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の電子写真感光体は、上記のとおり、支持体、該支持体上形成された感光層を有する電子写真感光体において、該電子写真感光体の表面層が熱可塑性樹脂と針状無機フィラーを含有し、該熱可塑性樹脂がポリアリレート樹脂であり、該針状無機フィラーは、数平均アスペクト比が5以上50以下、モース硬度が2以上6以下、および塩基性であることを特徴とする。
【0015】
本発明者らは、本発明の電子写真感光体において、画像流れの抑制と感光体の摩擦力の低減との両立に優れた効果を奏する理由を以下のように推測している。本発明の電子写真感光体の表面層には、熱可塑性樹脂として、ポリアリレート樹脂を含有する。ポリアリレート樹脂は、主鎖中に芳香族環を高密度に含むことにより耐摩耗性に優れるが、感光体の繰り返し使用により、感光体の摩擦力が上昇しやすく、画像流れが発生しやすい。
【0016】
また、本発明の針状無機フィラーは、アスペクト比が5以上50以下である。これによって、電子写真感光体と接触部材との摺擦により、表面層におけるポリアリレート樹脂と針状無機フィラーとが圧迫されて離れなくなるという楔のような効果により、針状無機フィラーは除去されずに、表面の凹凸形状が常に形成される。この感光体表面の凹凸形状により、感光体と接触部材との接触面積が低減され、摩擦係数の上昇を抑えられる。しかしながら、感光体表面に凹凸形状を有すると、感光体表面の凹部に放電生成物が蓄積しやすく、画像流れが発生しやすい傾向がある
そこで、本発明の針状無機フィラーは、アスペクト比が5以上50以下であることに加えて、モース硬度が2以上6以下、塩基性である針状無機フィラーを用いる。この針状無機フィラーを用いると、モース硬度が比較的低いので、電子写真感光体と接触部材とが接触することによって、針状無機フィラーが適度に摩耗し、針状無機フィラー由来の微粒子が感光体表面に付与される。そして、針状無機フィラーが塩基性であることにより、この針状無機フィラー由来の微粒子が、感光体表面の凹部に蓄積した放電生成物を中和し、クリーニング工程で放電生成物が除去されると考えられる。
【0017】
これらの結果として、繰り返し使用時においても、摩擦力の低減効果を維持しながら、画像流れの発生を抑制することが可能になると考えられる。
【0018】
一方、表面層に硬化性樹脂を用いると、耐摩耗性が非常に高いため、針状無機フィラーが感光体表面に露出しない。したがって、表面の凹凸形状が形成されず、放電生成物の除去効果も十分に得られないため、電子写真感光体の摩擦力低減と画像流れの抑制効果が十分ではない。
【0019】
また、熱可塑性樹脂として、2価フェノールを原材料とするポリカーボネート樹脂を用いると、ポリアリレート樹脂と比較して主鎖中の芳香族環密度が低いので、耐摩耗性が低く、樹脂が摩耗して針状無機フィラーが脱離しやすい。そして、感光体と接触部材との摺擦により、脱離した針状無機フィラーや摩耗したポリカーボネート樹脂により感光体表面に傷が発生して、画像流れが発生しやすい。
【0020】
本発明の電子写真感光体は、支持体、該支持体上に設けられた感光層を有する電子写真感光体である。
【0021】
本発明において感光層は、電荷輸送物質と電荷発生物質を同一の層に含有する単層型感光層と、電荷発生物質を含有する電荷発生層と電荷輸送物質を含有する電荷輸送層とに分離した積層型(機能分離型)感光層とが挙げられる。本発明の電子写真感光体は、電子写真特性の観点から、積層型感光層が好ましい。また、電荷発生層や電荷輸送層自体をそれぞれ積層構成とすることができる。
【0022】
本発明における電子写真感光体の好ましい構成の概略が図2に示される。図2に示される電子写真感光体においては、支持体21上に導電層22、導電層上に中間層23、中間層上に電荷発生層24、電荷発生層上に電荷輸送層25が積層されている。また、必要に応じて電荷輸送層上に保護層を設けてもよい。また、電荷輸送層は、積層構造としてもよい。
【0023】
本発明の電子写真感光体の表面層は、電荷輸送層が最表面である場合は、電荷輸送層が表面層であり、電荷輸送層上に保護層が設けられている場合は、保護層が表面層である。
【0024】
本発明の電子写真感光体に用いられるポリアリレート樹脂は、耐摩耗性の観点から、2価フェノールとフタル酸との縮重合を基本構造とするものが好ましく、具体的には、下記構造式(1)で示される構成単位を有するポリアリレート樹脂である。ポリアリレート樹脂の重量平均分子量は、感光体の機械的強度の観点から100,000以上250,000以下であることが好ましい。
【0025】
【化1】

【0026】
式(1)中、R11〜R14は、それぞれ独立に水素原子、またはメチル基を示す。Xは、m−フェニレン基、p−フェニレン基、または2つのp−フェニレン基が酸素原子を介して結合した2価の基を示す。Yは、単結合、メチレン基、エチリデン基、プロピリデン基、シクロヘキシリデン基、または酸素原子を示す。好ましくは、Yがプロヒリデン基である。
【0027】
以下に、本発明のポリアリレート樹脂の具体例を示す。
【0028】
【化2】

【0029】
【化3】

【0030】
本発明の電子写真感光体において、表面層が電荷輸送層である場合、樹脂としてポリアリレート樹脂を含有するが、さらに他の樹脂を混合して用いてもよい。混合してもよい他の樹脂としては、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂などが挙げられる。他の樹脂を混合して用いる場合、ポリアリレート樹脂とその他の樹脂との割合は、9:1〜99:1(質量比)の範囲が好ましい。
【0031】
本発明の電子写真感光体において、表面層が保護層である場合、樹脂としてポリアリレート樹脂を含有するが、さらに他の樹脂を混合して用いてもよい。混合してもよい他の樹脂としては、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂などが挙げられる。他の樹脂を混合して用いる場合、ポリアリレート樹脂とその他の樹脂の割合は、9:1〜99:1(質量比)の範囲が好ましい。
【0032】
本発明の電子写真感光体においては、表面層に針状無機フィラーを含有し、該針状無機フィラーは、数平均アスペクト比が5以上50以下である。より好ましくは、数平均アスペクト比が5以上20以下である。
【0033】
針状無機フィラーのアスペクト比とは、針状無機フィラーの平均繊維径に対する平均繊維長の比のである。アスペクト比は、作製された感光体から、表面層をテトラヒドロフランにて溶解させることで得た針状無機フィラーを用いて測定する。画像処理装置(商品名:ルーゼックスFS、ニレコ社製)を用いて、任意に選択された100個の針状無機フィラーのアスペクト比の平均を求め、これを数平均アスペクト比とする。数平均アスペクト比が5未満であると感光体の表面層から針状無機フィラーが離脱しやすくなり、画像流れの抑制と感光体の摩擦力低減効果が十分でない。また、針状無機フィラーのアスペクト比が50より大きいと、フィラーが表面層を貫通しやすくなり、支持体からの正孔注入が促されてしまう。また、針状無機フィラーの平均繊維径は、0.1〜5μmであり、平均繊維長は5〜50μmである。
【0034】
さらに、画像流れの発生を抑制する観点から、針状無機フィラーのモース硬度を2以上6以下である。より好ましくは、2.5以上5以下である。モース硬度が2より小さいと、モース硬度が低いため、針状無機フィラーが脱離しやすく、針状無機フィラー由来の微粒子が感光体表面に付与されず、画像流れの抑制効果が十分に得られない。モース硬度が6より大きいと、モース硬度が高いため、針状無機フィラーが摩耗しにくいため、針状無機フィラー由来の微粒子が感光体表面に付与されず、画像流れの抑制効果が十分に得られない。
【0035】
モース硬度とは、F.Mohsにより案出されたもので、次の10種の標準物質を順次ひっかいて傷がつけば、その標準物質よりも硬さが低いとする。標準物質は、硬度が低い順から1:滑石、2:石膏、3:方解石、4:蛍石、5:りん灰石、6:正長石、7:水晶、8:黄玉、9:鋼玉、10:ダイヤモンド、である。また、本発明の針状無機フィラーがある標準物質とある標準物質の間の硬度である場合、例えば、方解石(モース硬度3)と蛍石(モース硬度4)との間である場合、その硬度は3.5と表される。モース硬度は、横方向に力を掛けた際の硬さの程度を示すものであり、針状無機フィラーがクリーニングブレードによって摺擦を受けることによる摩耗に対する尺度として適している。なお、モース硬度は、公知のモース硬度計を用いて測定することができる。
【0036】
画像流れの原因となる放電生成物質は酸性である。そこで、上述の特徴に加えて、塩基性である針状無機フィラーを用いることにより、画像流れの抑制をすることができる。表面層に塩基性の針状無機フィラーを用いると、酸性である放電生成物質を中和する作用があると推測される。これにより、放電生成物質に起因する画像流れの発生を抑制することができると考えられる。本発明において、塩基性のフィラーとは、次のような方法で、針状無機フィラーの分散液のpHを測定したとき、針状無機フィラーの分散液のpHが8以上であるものをいう。より好ましくは、pHが9以上11以下である。100mlの水の中に針状無機フィラーを5g入れ、5分間煮沸して、分散液の温度が室温になるまで冷やし、10分間静置する。この分散液の上澄みのpHをpHメーターにて測定する。
【0037】
針状無機フィラーは、無機のフィラーであり、具体的には、塩基性硫酸マグネシウム(商品名:モスハイジ、宇部興産社製、化学式はMgSO・5Mg(OH)・3HO)、チタン酸カリウム (商品名:ティスモD、大塚化学製,化学式はKO・8TiO)、または天然珪酸カルシウムのウィスカー(単結晶繊維)(商品名:ウォラストナイト4W、巴工業製、化学式はCaOSiO)、セピオライトなどが挙げられる。
【0038】
針状無機フィラーの含有量は、感光体表面層の全体積に対して、27℃、1気圧環境下で、0.1体積%以上30体積%以下が好ましい。0.1体積%よりも少ないと、感光体の摩擦力を低減させる効果が十分ではない場合がある。30体積%よりも多いと、電子写真特性が十分ではない場合がある。
【0039】
次に、本発明の電子写真感光体の構成について説明する。
本発明の電子写真感光体に用いられる支持体としては、導電性を有するもの(導電性支持体)が好ましく、アルミニウム、アルミニウム合金、ステンレスなどが挙げられる。アルミニウム、またはアルミニウム合金製の支持体の場合は、ED管、EI管や、これらを切削、電解複合研磨、湿式または乾式ホーニング処理した支持体を用いることもできる。また、金属支持体、樹脂支持体上にアルミニウム、アルミニウム合金、または酸化インジウム−酸化スズ合金等の導電性材料の薄膜を形成したものも挙げられる。支持体の表面は、切削処理、粗面化処理、アルマイト処理などを施してもよい。
【0040】
また、カーボンブラック、酸化スズ粒子、酸化チタン粒子、銀粒子のような導電性粒子を樹脂などに含浸した支持体や、導電性樹脂を有するプラスチックを用いることもできる。
【0041】
支持体と感光層(電荷発生層、電荷輸送層)または後述の中間層との間には、レーザー光などの散乱による干渉縞の防止や、支持体の傷の被覆を目的とした導電層を設けてもよい。
【0042】
本発明の電子写真感光体において、支持体上に導電性粒子と樹脂を有する導電層を設けてもよい。導電層は、導電性粒子を樹脂に分散させた導電層用塗布液を用いて形成される層である。導電性粒子としては、カーボンブラック、アセチレンブラックや、アルミニウム、ニッケル、鉄、ニクロム、銅、亜鉛、銀などの金属粉や、導電性酸化スズ、ITOなどの金属酸化物粉体が挙げられる。
【0043】
導電層に用いられる樹脂としては、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂およびアルキッド樹脂などが挙げられる。
【0044】
導電層用塗布液の溶剤としては、エーテル系溶剤、アルコール系溶剤、ケトン系溶剤、および芳香族炭化水素溶剤が挙げられる。導電層の膜厚は、0.2μm以上40μm以下であることが好ましく、1μm以上35μm以下であることがより好ましい。さらには5μm以上30μm以下であることがより好ましい。
【0045】
本発明の電子写真感光体では、支持体または導電層と、電荷発生層との間に中間層を設けてもよい。
【0046】
中間層は、樹脂を含有する中間層用塗布液を支持体上、または導電層上に塗布し、これを乾燥または硬化させることによって形成することができる。
【0047】
中間層に用いられる樹脂としては、ポリアクリル酸類、メチルセルロース、エチルセルロース、ポリアミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアミド酸、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂などが挙げられる。
【0048】
中間層の膜厚は、0.05μm以上40μm以下であることが好ましく、0.1μm以上30μm以下であることがより好ましい。また、中間層には、半導電性粒子、電子輸送物質、あるいは電子受容性物質を含有させてもよい。
【0049】
〔電荷発生層〕
本発明の電子写真感光体において、支持体、導電層または中間層上には、電荷発生層が設けられる。
【0050】
本発明の電子写真感光体に用いられる電荷発生物質としては、アゾ顔料、フタロシアニン顔料、インジゴ顔料およびペリレン顔料が挙げられる。これら電荷発生物質は1種のみ用いてもよく、2種以上用いてもよい。これらの中でも、特にオキシチタニウムフタロシアニン、ヒドロキシガリウムフタロシアニン、クロロガリウムフタロシアニンなどが高感度であるため好ましい。
【0051】
電荷発生層に用いられる樹脂としては、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ブチラール樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、アクリル樹脂、酢酸ビニル樹脂、および尿素樹脂が挙げられる。これらの中でも、ブチラール樹脂が特に好ましい。これらの樹脂は、単独、混合、または共重合体として1種または2種以上用いることができる。
【0052】
電荷発生層は、電荷発生物質を樹脂および溶剤とともに分散して得られる電荷発生層用塗布液を塗布し、これを乾燥させることによって形成することができる。また、電荷発生層は、電荷発生物質の蒸着膜としてもよい。
【0053】
分散方法としては、たとえば、ホモジナイザー、超音波、ボールミル、サンドミル、アトライター、ロールミルを用いた方法が挙げられる。
【0054】
電荷発生物質と樹脂との割合は、樹脂1質量部に対して、電荷発生物質が0.1質量部以上10質量部以下が好ましく、0.25質量部以上4質量部以下がより好ましい。
【0055】
電荷発生層用塗布液に用いられる溶剤は、アルコール系溶剤、スルホキシド系溶剤、ケトン系溶剤、エーテル系溶剤、エステル系溶剤、または芳香族炭化水素溶剤などが挙げられる。
【0056】
電荷発生層の膜厚は、0.01μm以上5μm以下であることが好ましく、0.1μm以上2μm以下であることがより好ましい。また、電荷発生層には、種々の増感剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤などを必要に応じて添加することもできる。また、電荷発生層において電荷の流れが滞らないようにするために、電荷発生層には、電子輸送物質、または電子受容性物質を含有させてもよい。
【0057】
〔電荷輸送層〕
本発明の電子写真感光体において、電荷発生層上には、電荷輸送層が設けられる。
【0058】
電荷輸送層は、電荷輸送物質を樹脂および溶剤とともに分散して得られる電荷輸送層用塗布液を塗布し、これを乾燥させることによって形成することができる。
【0059】
本発明において、電荷輸送層が表面層である場合は、上記ポリアリレート樹脂と上記針状無機フィラーを含有するが、上述のように他の樹脂をさらに混合して用いてもよい。混合して用いてもよい他の樹脂は、上述のとおりである。
【0060】
本発明の電子写真感光体に用いられる電荷輸送物質としては、トリアリールアミン化合物、ヒドラゾン化合物、スチリル化合物、スチルベン化合物、ピラゾリン化合物、オキサゾール化合物、チアゾール化合物、トリアリルメタン化合物などが挙げられる。これらの電荷輸送物質は1種のみ用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0061】
分散方法としては、たとえば、ホモジナイザー、超音波、ボールミル、サンドミル、アトライター、ロールミルを用いた方法が挙げられる。
【0062】
電荷輸送物質と熱可塑性樹脂との割合は、熱可塑性樹脂1質量部に対して、電子輸送物質が0.5質量部以上2質量部以下が好ましい。
【0063】
電荷輸送層用塗布液に用いられる溶剤としては、ケトン系溶剤、エステル系溶剤、エーテル系溶剤、芳香族炭化水素溶剤、ハロゲン化炭化水素溶剤が挙げられる。これら溶剤は、単独で使用してもよいが、2種類以上を混合して使用してもよい。
【0064】
電荷輸送層の膜厚は5〜30μmであることが好ましく、6〜25μmであることがより好ましい。また、電荷輸送層には、酸化防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤などを必要に応じて添加することもできる。
【0065】
本発明の電子写真感光体において、電荷輸送層上に保護層を設けてもよい。この場合、電子写真感光体の表面層は、保護層となる。
【0066】
保護層は、樹脂および必要に応じて電荷輸送物質を溶剤に分散させて得られる保護層用塗布液を塗布し、これを乾燥させることによって形成することができる。
【0067】
本発明において、保護層が表面層である場合は、上記ポリアリレート樹脂と上記針状無機フィラーを含有するが、上述のように他の樹脂をさらに混合して用いてもよい。混合して用いてもよい他の樹脂は、上述のとおりである。
【0068】
保護層に用いられる電荷輸送物質としては、上述の電荷輸送層に用いられる電荷輸送物質と同様のものを用いることができる。
【0069】
保護層用塗布液に用いられる溶剤としては、アルコール系溶剤、スルホキシド系溶剤、ケトン系溶剤、エーテル系溶剤、エステル系溶剤、または芳香族炭化水素溶剤などが挙げられる。
【0070】
保護層の膜厚は、0.1μm以上10μm以下であることが好ましい。また、保護層には、レベリング剤、分散剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤などを必要に応じて含有させてもよい。
【0071】
上記各層の塗布液を塗布する際には、浸漬コーティング法(浸漬塗布法)、スプレーコーティング法、スピンナーコーティング法、ローラーコーティング法、マイヤーバーコーティング法、ブレードコーティング法などの塗布方法を用いることができる。
【0072】
〔電子写真装置〕
図1に、本発明の電子写真感光体を有するプロセスカートリッジを備えた電子写真装置の概略構成の一例を示す。
【0073】
図1において、1は円筒状の電子写真感光体であり、軸2を中心に矢印方向に所定の周速度をもって回転駆動される。回転駆動される電子写真感光体1の表面は、回転過程において、帯電手段(一次帯電手段:帯電ローラーなど)3により、負の所定電位に均一に帯電される。次いで、スリット露光やレーザービーム走査露光などの露光手段(不図示)から出力される目的の画像情報の時系列電気デジタル画像信号に対応して強度変調された露光光(画像露光光)4を受ける。こうして電子写真感光体1の表面に、目的の画像に対応した静電潜像が順次形成されていく。
【0074】
電子写真感光体1の表面に形成された静電潜像は、現像手段5の現像剤に含まれるトナーで反転現像により現像されてトナー像となる。次いで、電子写真感光体1の表面に形成担持されているトナー像が、転写手段(転写ローラーなど)6からの転写バイアスによって、転写材(紙など)Pに順次転写されていく。なお、転写材Pは、転写材供給手段(不図示)から電子写真感光体1の回転と同期して取り出されて電子写真感光体1と転写手段6との間(当接部)に給送される。また、転写手段6には、バイアス電源(不図示)からトナーの保有電荷とは逆極性のバイアス電圧が印加される。
【0075】
トナー像の転写を受けた転写材Pは、電子写真感光体1の表面から分離されて定着手段8へ搬入されてトナー像の定着処理を受けることにより画像形成物(プリント、コピー)として装置外へ搬送される。
【0076】
トナー像転写後の電子写真感光体1の表面は、クリーニング手段7によって転写残りの現像剤(転写残トナー)の除去を受けて清浄面化される。次いで、前露光手段(不図示)からの前露光光(不図示)により除電処理された後、繰り返し画像形成に使用される。なお、図1に示すように、帯電手段3が帯電ローラーなどを用いた接触帯電手段である場合は、前露光は必ずしも必要ではない。本発明において、クリーニング手段は、クリーニングブレードを有することが好ましい。さらには、ウレタン樹脂を含有するブレードであることが好ましい。
【0077】
本発明において、上記の電子写真感光体1、帯電手段3、現像手段5、転写手段6、およびクリーニング手段7などの構成要素の中から複数のものを選択し、これらを容器に納めてプロセスカートリッジとして一体に支持して構成してもよい。そして、このプロセスカートリッジを複写機やレーザービームプリンタなどの電子写真装置本体に対して着脱自在に構成してもよい。図1では、電子写真感光体1と、帯電手段3、現像手段5、およびクリーニング手段7とを一体に支持してカートリッジ化して、電子写真装置本体のレールなどの案内手段10を用いて電子写真装置本体に着脱自在なプロセスカートリッジ9としている。
【実施例】
【0078】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明を詳細に説明する。ただし、本発明は下記の実施例によって何ら限定されるものではない。なお、実施例中の「部」は「質量部」を意味する。
【0079】
(実施例1)
直径30mm、長さ260mmのアルミニウムシリンダーを支持体とした。次に、SnOコート処理硫酸バリウム(導電性顔料)10部、酸化チタン(抵抗調節用顔料)2部、フェノール樹脂(結着樹脂)6部、シリコーンオイル(レベリング剤)0.001部を、メタノール4部およびメトキシプロパノール16部の混合溶剤を用いて導電層用塗布液を調製した。この導電層用塗布液を上記アルミニウムシリンダー上に浸漬塗布し、これを140℃で30分間加熱硬化させて、膜厚が15μmの導電層を形成した。
【0080】
次に、N−メトキシメチル化ナイロン3部、及び共重合ナイロン3部を、メタノール65部およびn−ブタノール30部の混合溶媒に溶解させて、中間層用塗布液を調製した。この中間層用塗布液を上記導電層上に浸漬塗布し、これを100℃で30分間乾燥させて、膜厚が0.5μmの中間層を形成した。
【0081】
次に、CuKα特性X線回折におけるブラッグ角(2θ±0.2°)の28.1°に強いピークを有する結晶形のヒドロキシガリウムフタロシアニン結晶(電荷発生物質)3部を用意した。それに、ポリビニルブチラール樹脂(商品名:エスレックBX−1、積水化学工業(株)製)2部およびシクロヘキサノン100部を混合し、直径1mmのガラスビーズを用いたサンドミル装置で1時間分散した。分散後、メチルエチルケトン100部を加えて、電荷発生層用塗布液を調製した。この電荷発生層用塗布液を上記中間層上に浸漬塗布し、90℃で10分間乾燥させて、膜厚が0.15μmの電荷発生層を形成した。
【0082】
次に、上記式(1−2)で示される繰り返し構造単位を有するポリアリレート樹脂(重量平均分子量128,000)36.8部、下記構造式(2)で示される電荷輸送物質33.1部、および塩基性硫酸マグネシウムフィラー(商品名:モスハイジ、宇部興産社製、モース硬度2.5)15部を、表1に示すようにしてクロロベンゼン400部に分散させることによって、電荷輸送層用塗布液を調製した。この電荷輸送層用塗布液を上記電荷発生層上に浸漬塗布し、120℃で2時間乾燥させて、膜厚が20μmの電荷輸送層を形成した。形成された電荷輸送層の針状無機フィラーの含有量は、電荷輸送層の全体積に対して、27℃、1気圧環境下で、10体積%(電荷輸送層の全質量に対しては17.7質量%)である。なお、上述した塩基性硫酸マグネシウムフィラーの比重は、2.3g/cmであり、数平均アスペクト比は16である。このようにして、電荷輸送層が表面層であり、表面層がポリアリレート樹脂と針状無機フィラーを含有する電子写真感光体を製造した。
【0083】
【化4】

【0084】
(実施例2)
表面層(電荷輸送層)が含有する針状無機フィラーをチタン酸カリウムフィラー(商品名:ティスモD、大塚化学社製、モース硬度4)に変更し、表1に示すように電荷輸送層用塗布液を調製した以外は、実施例1と同様にして、電子写真感光体を製造した。形成された電荷輸送層の針状無機フィラーの含有量は、電荷輸送層の全体積に対して、27℃、1気圧環境下で、10体積%(電荷輸送層の全質量に対しては24.5質量%)である。なお、上述したチタン酸カリウムフィラーの比重は、3.5g/cmであり、数平均アスペクト比は19である。
【0085】
(実施例3)
表面層(電荷輸送層)が含有する針状無機フィラーを天然珪酸カルシウムフィラー(商品名:ウォラストナイト4W、巴工業(株)製、モース硬度4.5)に変更し、表1に示すように電荷輸送層用塗布液を調製した以外は、実施例1と同様にして、電子写真感光体を製造した。形成された電荷輸送層の針状無機フィラーの含有量は、電荷輸送層の全体積に対して、27℃、1気圧環境下で、10体積%(電荷輸送層の全質量に対しては21.2質量%)である。なお、上述した天然珪酸カルシウムフィラーの比重は、2.9g/cmであり、数平均アスペクト比は6である。
【0086】
(実施例4)
表面層(電荷輸送層)が含有する針状無機フィラーを塩基性硫酸マグネシウムフィラーに変更し、表1に示すように電荷輸送層用塗布液を調製した以外は実施例1と同様にして、電子写真感光体を製造した。形成された電荷輸送層の針状無機フィラーの含有量は、電荷輸送層の全体積に対して、27℃、1気圧環境下で、1体積%(電荷輸送層の全質量に対しては1.9質量%)である。
【0087】
(比較例1)
表面層(電荷輸送層)に針状無機フィラーを含有させなかった以外は、実施例1と同様と同様にして、電子写真感光体を製造した。
【0088】
(比較例2)
表面層(電荷輸送層)に針状無機フィラーを含有させず、結着樹脂として下記構造式(3)で示される繰り返し構造単位を有するポリカーボネート樹脂(商品名:ユーピロンZ200、三菱ガス化学(株)製)に変更した以外は、実施例1と同様にして、電子写真感光体を製造した。
【0089】
【化5】

【0090】
(比較例3)
表面層(電荷輸送層)に含有する針状無機フィラーをルチル型酸化チタン(石原産業社製、モース硬度7)に変更し、表1に示すように電荷輸送層用塗布液を調製した以外は実施例1と同様にして、電子写真感光体を製造した。形成された電荷輸送層の針状無機フィラーの含有量は、電荷輸送層の全体積に対して、27℃、1気圧環境下で、10体積%(電荷輸送層の全質量に対しては28.3質量%)である。なお、上述したルチル型酸化チタンの比重は4.27g/cmであり、数平均アスペクト比は11である。
【0091】
(比較例4)
表面層(電荷輸送層)に含有するフィラーを直径5.0μmのシリカ粒子(商品名:ハイプレシカ宇部日東化成社製、モース硬度7)に変更し、表1に示すように電荷輸送層塗布液を調製した以外は実施例1と同様にして、電子写真感光体を製造した。形成された電荷輸送層のフィラーの含有量は、電荷輸送層の全体積に対して、27℃、1気圧環境下で、10体積%(電荷輸送層の全質量に対しては16.9質量%)である。なお、上述したシリカ粒子の比重は、2.2g/cmであり、数平均アスペクト比は1である。
【0092】
(比較例5)
表面層(電荷輸送層)に含有するフィラーを直径5.0μmのアルミナ粒子(日本軽金属社製、モース硬度9)に変更し、表1に示すように電荷輸送層用塗布液を調製した以外は実施例1と同様にして、電子写真感光体を製造した。形成された電荷輸送層のフィラーの含有量は、電荷輸送層の全体積に対して、27℃、1気圧環境下で、10体積%(電荷輸送層の全質量に対しては27質量%)である。なお、上述したアルミナ粒子の比重は、4.0g/cmであり、数平均アスペクト比は1である。
【0093】
(比較例6)
表面層(電荷輸送層)に含有する結着樹脂として、上記構造式(3)で示される繰り返し構造単位を有するポリカーボネート樹脂を使用した以外は実施例1と同様にして、電子写真感光体を製造した。
【0094】
(比較例7)
表面層(電荷輸送層)に含有する結着樹脂として、上記構造式(3)で示される繰り返し構造単位を有するポリカーボネート樹脂を使用した以外は実施例3と同様にして、電子写真感光体を製造した。
【0095】
【表1】

【0096】
(評価方法)
実施例1〜4、および比較例1〜7の電子写真感光体の評価方法については、以下通りである。評価装置としては、ヒューレットパッカード(株)製のレーザービームプリンタLaserJet8100(プロセススピード32ppm)を用いた。それぞれの実施例、比較例の評価結果については、表2に示す。
【0097】
(フィラーのpH)
フィラーのpHの評価は、上述したように、5gのフィラーを100mlの水に分散させ、5分間煮沸処理をした。この分散液を室温になるまで冷やし、10分間静置した。得られた分散液の上澄みをpHメーター(商品名:コンパクトpHメーター Twin pH、(株)HORIBA製)で測定し、そのpHの値を表2に示す。本発明において塩基性のフィラーとは、測定したフィラーの分散液pHが8.0以上の値を示す場合とした。なお、酸性のフィラーの場合は、pHが1.0以上6.0未満であり、中性のフィラーの場合は、pHが6.0以上8.0未満である。
【0098】
(画像流れの評価)
画像流れの評価方法は、以下の通りである。上記評価装置を用いて、温度22℃、湿度55%RH環境下にて、シアン色用のプロセスカートリッジに製造した電子写真感光体を装着して、レーザービームプリンタ LaserJet8100のプロセスカートリッジのステーションに装着した。電子写真感光体表面電位は、初期暗部電位(Vd)が−650V、初期明部電位(Vl)が−155Vになるように一次帯電電圧およびレーザー光量を調整した。電子写真感光体の表面電位の測定は、カートリッジを改造し、現像位置に電位プローブ(model6000B−8、トレック・ジャパン社製)を装着し、ドラム中央部の電位を表面電位計(model344、トレック・ジャパン社製)を使用して測定した。次に、1ドット桂馬パターンのハーフトーン画像で、初期連続1,000枚通紙耐久を行った。その後、温度32.5℃、湿度85%RH環境下で、Vdが−650V、Vlが−155Vになるように設定し、1ドット桂馬パターンのハーフトーン画像で初期連続10,000枚通紙使用を行った。連続1,000枚通紙時、および連続10,000枚通紙時に画像評価を行った。画像評価は、連続1,000枚通紙時、および連続10,000枚通紙時における1ドット桂馬パターンのハーフトーン画像を分光濃度計(X−Rite504/508、X−Rite社製)を用いて、通紙使用後のハーフトーン画像を評価した。なお、温度22℃、湿度55%RH環境下での、初期1枚通紙時の1ドット桂馬パターンのハーフトーン画像の画像濃度は、0.30である。評価は、以下の基準で行い、得られた結果を表2に示す。本発明においては、下記の評価基準でA及びBは本発明の効果が得られているレベルであり、その中でもAは優れているレベルと判断した。一方、C及びDは本発明の効果が得られていないレベルと判断した。
A:ハーフトーン画像濃度が0.29以上
B:ハーフトーン画像濃度が0.27以上0.29未満
C:ハーフトーン画像濃度が0.25以上0.27未満
D:ハーフトーン画像濃度が0.25未満
として行った。
【0099】
(動摩擦係数の測定)
動摩擦係数の測定は、JIS−A硬度が70度であるウレタンブレードと電子写真感光体との動摩擦係数の変化を測定した。上記画像流れの評価に用いた、初期連続1,000枚通紙使用後、および連続10,000枚通紙使用後の電子写真感光体を評価装置から取りだした。この電子写真感光体について、表面性測定機Type14FW(新東科学社製)(垂直荷重30g、摺擦速度100mm/min)で、図3に示すようにウレタンブレードを、電子写真感光体の表面に対して、当接角26°、および当接圧30gとなるように設定し、摩擦係数を測定した。図3中、31は製造した電子写真感光体、32はウレタンブレード、33は電子写真感光体の留め具である。通紙使用前の電子写真感光体において同様に摩擦係数を測定し、この摩擦係数を1としたときの、連続1,000枚通紙使用後、および連続10,000枚通紙使用後の感光体の摩擦係数を算出し、評価を行う。評価は、以下の基準で行い、得られた結果を表2に示す。本発明においては、下記の評価基準でA及びBは本発明の効果が得られているレベルであり、その中でもAは優れているレベルと判断した。一方、C及びDは本発明の効果が得られていないレベルと判断した。
A:通紙使用後の摩擦係数が1.2未満
B:通紙使用後の摩擦係数が1.2以上1.4未満
C:通紙使用後の摩擦係数が1.4以上1.8未満
D:通紙使用後の摩擦係数が1.8以上
として行った。
【0100】
【表2】

【0101】
フィラーの形状による電子写真感光体の表面の凹凸形状の維持性について調べるため、放電擦過前後の表面粗さを測定した。表面粗さの測定は、表面粗さ計サーフテスト(商品名:SJ−210、ミツトヨ社製)を用いて行った。実施例1と比較例4について、連続10,000枚通紙使用前後におけるRzをそれぞれ評価した。Rzとは、JIS B 0601−2001で定義される粗さ曲線の最大高さである。実施例1と比較例4で連続10,000枚耐久前後の表面粗さRzを比較したところ、実施例1では、通紙使用前後で、ほとんど表面粗さが変わらずRz=1.5μmを維持していたのに対し、比較例4では通紙使用前後で0.7μmの下降が見られた。このことから、本発明のようにアスペクト比が高いフィラーでは、フィラーが脱離しにくく、感光体表面の凹凸形状が維持されると考えられる。
【0102】
比較例1に示すように、ポリアリレート樹脂に針状無機フィラーを含有しないものでは、放電生成物質が中和されないため、連続1,000枚通紙後、および連続10,000枚通紙後の摩擦係数、画像流れの効果が十分ではない。比較例2に示すように、結着樹脂をポリカーボネート樹脂にすることで改善されるものの、連続10,000枚通紙後の画像流れの抑制効果が十分ではない。
【0103】
比較例3に示すように、アスペクト比が大きくても、モース硬度が高く、酸性の針状無機フィラーであると、連続1,000枚通紙後、および連続10,000枚通紙後の画像流れ抑制効果が十分ではない。また、比較例4、5に示すようにアスペクト比が1に近いフィラーでは、通紙使用時の摩擦力の低減効果、画像流れ低減効果が十分に得られない。
【0104】
比較例6、7に示すように、塩基性かつアスペクト比が大きい針状無機フィラーを含有させても、熱可塑性樹脂がポリカーボネート樹脂であると、連続10,000枚通紙後の画像流れの抑制効果が十分に得られない。以上の結果から、画像流れの抑制と感光体の摩擦力の低減効果を両立させるためには、実施例1〜4に示すように塩基性であり、アスペクト比の高い針状無機フィラーを、ポリアリレート樹脂を表面層に含有させる必要がある。
【符号の説明】
【0105】
1 電子写真感光体
2 軸
3 帯電手段(一次帯電手段)
4 露光光(画像露光光)
5 現像手段
6 転写手段(転写ローラー)
7 クリーニング手段(クリーニングブレード)
8 定着手段
9 プロセスカートリッジ
10 案内手段
11 前露光光
P 転写材(紙など)
21 支持体
22 導電層
23 中間層
24 電荷発生層
25 電荷輸送層
31 電子写真感光体
32 ウレタンブレード
33 留め具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体、該支持体上に形成された感光層を有する電子写真感光体において、該電子写真感光体の表面層が熱可塑性樹脂と針状無機フィラーを含有し、
該熱可塑性樹脂がポリアリレート樹脂であり、
該針状無機フィラーは、数平均アスペクト比が5以上50以下、モース硬度が2以上6以下、および塩基性であることを特徴とする電子写真感光体。
【請求項2】
前記針状無機フィラーが下記式(A)で示される化合物で構成されている請求項1に記載の電子写真感光体。
MgSO・5Mg(OH)・3HO ・・・(A)
【請求項3】
前記ポリアリレート樹脂が、下記構造式(1)で示される繰り返し構造単位を有する請求項1または2に記載の電子写真感光体。
【化1】


(式(1)中、R11〜R14は、それぞれ独立に水素原子、またはメチル基を示す。Xは、m−フェニレン基、p−フェニレン基、または2つのp−フェニレン基が酸素原子を介して結合した2価の基を示す。Yは、単結合、メチレン基、エチリデン基、プロピリデン基、シクロヘキシリデン基、または酸素原子を示す。)
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の電子写真感光体、およびクリーニング手段とを一体に支持し、電子写真装置本体に着脱自在であることを特徴とするプロセスカートリッジ。
【請求項5】
前記クリーニング手段がクリーニングブレードを有する請求項4に記載のプロセスカートリッジ。
【請求項6】
請求項1から3のいずれか1項に記載の電子写真感光体と、帯電手段、露光手段、現像手段、転写手段およびクリーニング手段を有することを特徴とする電子写真装置。
【請求項7】
前記クリーニング手段がクリーニングブレードを有する請求項6に記載の電子写真装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−237981(P2012−237981A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−94051(P2012−94051)
【出願日】平成24年4月17日(2012.4.17)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】