説明

電子写真感光体、プロセスカートリッジ、電子写真装置および電子写真感光体の製造方法

【課題】特定の電荷輸送物質を含有する電子写真感光体において、接触部材等との接触ストレスの持続的な緩和と、繰り返し使用時の電位安定性との両立に優れた電子写真感光体を提供する。
【解決手段】電子写真感光体の表面層である電荷輸送層が、成分〔β〕(特定の繰り返し構造単位を有するポリカーボネート樹脂Cおよび特定の繰り返し構造単位を有するポリエステル樹脂Dから選択される少なくとも一方の樹脂)および成分〔γ〕(特定構造の電荷輸送物質)を含むマトリックスと、成分〔α〕(特定のシロキサン部位を含む繰り返し構造単位を有するポリカーボネート樹脂A)を含むドメインとで構成されているマトリックス−ドメイン構造を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真感光体、プロセスカートリッジ、電子写真装置および電子写真感光体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真装置に搭載される電子写真感光体として有機系の電荷発生物質(有機光導電性物質)を含有する有機電子写真感光体(以下、「電子写真感光体」という)がある。電子写真プロセスにおいて、電子写真感光体の表面には、現像剤、帯電部材、クリーニングブレード、紙、転写部材などの種々のもの(以下「接触部材等」ともいう)が接触する。そのため、電子写真感光体は、これら接触部材等との接触ストレスによる画像劣化の発生を低減させることが求められている。特に、近年、電子写真感光体の耐久性が向上するのに伴い、電子写真感光体は、接触ストレスによる画像劣化の低減効果の持続性が求められている。
【0003】
持続的な接触ストレスの緩和に関して、特許文献1には、シロキサン構造を分子鎖中に組み込んだシロキサン樹脂を用いて表面層中にマトリックス−ドメイン構造を形成する方法が提案されている。その中で特定のシロキサン構造を組み込んだポリエステル樹脂を用いることにより、持続的な接触ストレスの緩和と電子写真感光体の繰り返し使用時の電位安定性(変動の抑制)とを両立させることが示されている。
【0004】
一方、シロキサン構造を分子鎖中に有するシロキサン変性樹脂を電子写真感光体の表面層に含有させることが提案されている。特許文献2および特許文献3には、特定構造のシロキサン構造を組み込んだポリカーボネート樹脂を含有する電子写真感光体の提案がなされ、離型作用によるフィルミング防止や汚染防止といった効果が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開WO2010/008095号公報
【特許文献2】特開平10−232503号公報
【特許文献3】特開2001−337467号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示されている電子写真感光体は、持続的な接触ストレスの低減と繰り返し使用時の電位安定性とが両立されている。しかしながら、本発明者らが検討を進めた結果、電荷輸送物質として特定構造の電荷輸送物質を用いた場合は、繰り返し使用時の電位安定性が、より改善できる余地があることがわかった。
【0007】
特許文献2および3に開示されているシロキサン構造を分子鎖中に有するシロキサン変性樹脂を表面層に含有する電子写真感光体では、持続的な接触ストレスの緩和と繰り返し使用時の電位安定性との両立ができているとはいえなかった。
【0008】
本発明の目的は、特定の電荷輸送物質を含有する電子写真感光体において、接触部材等との接触ストレスの持続的な緩和と、繰り返し使用時の電位安定性との両立に優れた電子写真感光体を提供することである。また、本発明の別の目的は、前記電子写真感光体を有するプロセスカートリッジおよび電子写真装置を提供することにある。また、本発明の別の目的は、前記電子写真感光体を製造する電子写真感光体の製造方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的は以下の本発明によって達成される。
【0010】
本発明は、支持体、該支持体上に設けられた電荷発生層および該電荷発生層上に設けられた電荷輸送層を有し、かつ該電荷輸送層が表面層である電子写真感光体において、該電荷輸送層が、マトリックスとドメインで構成されているマトリックス−ドメイン構造を有し、該ドメインは、下記式(A)で示される繰り返し構造単位および下記式(B)で示される繰り返し構造単位を有するポリカーボネート樹脂Aを含有し、該マトリックスは、下記式(C)で示される繰り返し構造単位を有するポリカーボネート樹脂C、および下記式(D)で示される構造単位を有するポリエステル樹脂Dから選択される少なくとも一方の樹脂と、下記式(1)、および(1’)で示される化合物から選択される少なくとも一方の電荷輸送物質とを含有し、該ポリカーボネート樹脂Aの全質量に対するシロキサン部位の含有量が5質量%以上40質量%以下であることを特徴とする電子写真感光体に関する。
【0011】
【化1】

【0012】
式(A)中、a、bおよびcは、それぞれ独立に各括弧内の構造の繰り返し数を示し、ポリカーボネート樹脂Aにおけるaおよびbの平均値は、1以上10以下であり、ポリカーボネート樹脂Aにおけるcの平均値は、20以上200以下である。
【0013】
【化2】

【0014】
式(B)中、R21〜R24は、それぞれ独立に水素原子、またはメチル基を示す。Yは、単結合、メチレン基、エチリデン基、プロピリデン基、フェニルエチリデン基、シクロヘキシリデン基、または酸素原子を示す。
【0015】
【化3】

【0016】
式(C)中、R31〜R34は、それぞれ独立に水素原子、またはメチル基を示す。Yは、単結合、メチレン基、エチリデン基、プロピリデン基、フェニルエチリデン基、シクロヘキシリデン基、または酸素原子を示す。
【0017】
【化4】

【0018】
式(D)中、R41〜R44は、それぞれ独立に水素原子、またはメチル基を示す。Xは、m−フェニレン基、p−フェニレン基、または2つのp−フェニレン基が酸素原子を介して結合した2価の基を示す。Yは、単結合、メチレン基、エチリデン基、プロピリデン基、シクロヘキシリデン基、または酸素原子を示す。
【0019】
【化5】

【0020】
式(1)および式(1’)中、Arは、フェニル基、または置換基としてメチル基、もしくはエチル基を有するフェニル基を示す。Arは、フェニル基、置換基としてメチル基を有するフェニル基、置換基として−CH=CH−Ta(式中、Taは、トリフェニルアミンのベンゼン環から水素原子1個を除いて導き出される1価の基、または置換基としてメチル基、もしくはエチル基を有するトリフェニルアミンのベンゼン環から水素原子1個を除いて導き出される1価の基を示す)で示される1価の基を有するフェニル基またはビフェニリル基を示す。Rは、フェニル基、置換基としてメチル基を有するフェニル基、または置換基として−CH=C(Ar)Ar(式中、ArおよびArは、それぞれ独立にフェニル基、または置換基としてメチル基を有するフェニル基を示す)で示される1価の基を有するフェニル基を示す。Rは、水素原子、フェニル基、または置換基としてメチル基を有するフェニル基を示す。
【0021】
また、本発明は、前記電子写真感光体と、帯電手段、現像手段、転写手段およびクリーニング手段からなる群より選択される少なくとも1つの手段とを一体に支持し、電子写真装置本体に着脱自在であるプロセスカートリッジに関する。
【0022】
また、本発明は、前記電子写真感光体、帯電手段、露光手段、現像手段および転写手段を有する電子写真装置に関する。
【0023】
また、本発明は、前記電子写真感光体の製造方法であって、前記ポリカーボネート樹脂Aと、前記ポリカーボネート樹脂Cおよび前記ポリエステル樹脂Dから選択される少なくとも一方の樹脂と、前記式(1)および(1’)で示される化合物から選択される少なくとも一方の電荷輸送物質とを含有する電荷輸送層用塗布液を前記電荷発生層上に塗布し、これを乾燥させて電荷輸送層を形成する工程を有することを特徴とする電子写真感光体の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、特定の電荷輸送物質を含有する電子写真感光体において、接触部材等との接触ストレスの持続的な緩和と、繰り返し使用時の電位安定性との両立に優れた電子写真感光体を提供することができる。また、本発明によれば、前記電子写真感光体を有するプロセスカートリッジおよび電子写真装置を提供することができる。また、本発明によれば、前記電子写真感光体を製造する電子写真感光体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の電子写真感光体を有するプロセスカートリッジを備えた電子写真装置の概略構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、式(A)で示される繰り返し構造単位、および式(B)で示される繰り返し構造単位を有するポリカーボネート樹脂Aを成分〔α〕と呼ぶ。式(C)で示される繰り返し構造単位を有するポリカーボネート樹脂C、および式(D)で示される繰り返し構造単位を有するポリエステル樹脂Dから選択される少なくとも一方の樹脂を成分〔β〕と呼ぶ。式(1)、および(1’)で示される化合物から選択される少なくとも一方の電荷輸送物質を成分〔γ〕と呼ぶ。
【0027】
本発明の電子写真感光体は、上記のとおり、支持体と、該支持体上に設けられた電荷発生層と、該電荷発生層上に設けられた電荷輸送層、かつ、該電荷輸送層が表面層である電子写真感光体において、該電荷輸送層が、成分〔β〕および〔γ〕を含むマトリックスと、成分〔α〕を含むドメインで構成されているマトリックス−ドメイン構造を有する。
【0028】
本発明におけるマトリックス−ドメイン構造は、「海島構造」でいうならば、マトリックスが海に相当し、ドメインが島に相当する。成分〔α〕を含むドメインは、成分〔β〕および〔γ〕を含むマトリックス中に形成された粒状(島状)構造を示す。成分〔α〕を含むドメインは、前記マトリックス中にドメインが独立して存在している。このようなマトリックス−ドメイン構造は、電荷輸送層の表面観察あるいは電荷輸送層の断面観察を行うことにより確認することができる。
【0029】
マトリックス−ドメイン構造の状態観察あるいはドメインの計測は、たとえば、市販のレーザー顕微鏡、光学顕微鏡、電子顕微鏡、原子力間顕微鏡を用いて測定することが可能である。上記顕微鏡を用いて、所定の倍率により、マトリックス−ドメイン構造の状態観察あるいはドメイン構造の計測することができる。
【0030】
本発明における成分〔α〕を含むドメインの数平均粒径は、100nm以上、1,000nm以下であることが好ましい。また、各ドメインの粒径の粒度分布は狭いほうが接触ストレス緩和の効果の持続性の観点から好ましい。本発明における数平均粒径は、本発明の電荷輸送層を垂直に切断した断面を上述の顕微鏡で観察することによって観測されるドメインのうち任意に100個選択する。切断されたそれぞれのドメインの最大径を測定し、それぞれのドメインの最大径を平均化することにより、ドメインの数平均粒径を算出している。なお、電荷輸送層の断面を顕微鏡で観察することにより、深さ方向の画像情報が得られ、電荷輸送層の三次元画像を取得することも可能である。
【0031】
本発明におけるマトリックス−ドメイン構造を形成するためには、成分〔α〕であるポリカーボネート樹脂Aのシロキサン部位の含有量は、電荷輸送層中の全樹脂の全質量に対して1質量%以上20質量%以下であることが好ましい。また、接触ストレスの緩和の持続性と繰り返し使用時の電位安定性の両立の観点からも、成分〔α〕であるポリカーボネート樹脂Aのシロキサン部位の含有量は、電荷輸送層中の全樹脂の全質量に対して1質量%以上20質量%以下であることが好ましい。さらには、2質量%以上10質量%以下であることがより好ましく、接触ストレスの緩和の持続性と繰り返し使用時の電位安定性をさらに高めることが可能になる。
【0032】
本発明の電子写真感光体の電荷輸送層のマトリックス−ドメイン構造は、成分〔α〕、〔β〕および〔γ〕を含有する電荷輸送層用塗布液を用いて形成することができる。そして、この電荷輸送層用塗布液を前記電荷発生層上に塗布し、これを乾燥させることにより、本発明の電子写真感光体を製造することができる。
【0033】
本発明のマトリックス−ドメイン構造は、成分〔β〕および〔γ〕を含むマトリックス中に、成分〔α〕を含むドメインを形成している構造である。電荷輸送層の表面だけでなく、電荷輸送層中に成分〔α〕を含むドメインが形成されていることにより、接触ストレス緩和の効果が持続的に発現していると考えられる。詳しくは、紙やクリーニングブレードなどの部材の摺擦により減少した接触ストレス緩和効果を有するシロキサン樹脂成分を電荷輸送層中のドメインより供給可能となるためであると考えられる。
【0034】
本発明者らは、電荷輸送物質として特定構造の電荷輸送物質を用いた場合は、繰り返し使用時の電位安定性が、より改善できる余地があることがわかった。そして、本発明者らは、本発明の特定の電荷輸送物質(成分〔γ〕)を含有する電子写真感光体において、繰り返し使用時の電位安定性をさらに高める理由を以下のように推測している。
【0035】
本発明のマトリックス−ドメイン構造を有する電荷輸送層を有する電子写真感光体において、繰り返し使用時の電位変動が抑制されるためには、形成されたマトリックス−ドメイン構造におけるドメイン中の電荷輸送物質の含有量を極力低減することが重要である。電荷輸送物質とドメインを形成するシロキサン構造を組み込んだ樹脂との相溶性が高い場合、ドメイン中に含有される電荷輸送物質の含有量が多くなり、感光体の繰り返し使用時にドメイン中の電荷輸送物質に電荷が捕捉され、電位安定性が十分ではなくなる。
【0036】
特定構造の電荷輸送物質を含有する電子写真感光体において、繰り返し使用時の電位安定性と、持続的な接触ストレスの低減との両立のためには、シロキサン構造を組み込んだ樹脂による特性改善が必要とされる。本発明における成分〔γ〕は、電荷輸送層中の樹脂と相溶性が高い電荷輸送物質であり、シロキサン含有樹脂によるドメイン中に成分〔γ〕を多く含有されてしまい、成分〔γ〕が凝集状態を形成しやすくなっていると考えられる。
【0037】
本発明では、成分〔γ〕を含有する電子写真感光体において、本発明の成分〔α〕を含むドメインを形成することにより良好な電荷輸送能を保持することが可能になっている。この理由としては、成分〔α〕を含むドメインを形成することにより、ドメイン中の成分〔γ〕(特定の電荷輸送物質)の含有量が低減されていると思われる。これは、成分〔α〕であるポリカーボネート樹脂A中の分岐シロキサン構造により、樹脂と相溶しやすい構造である成分〔γ〕(特定の電荷輸送物質)のドメイン内の残留を低減できているためであると考えられる。
【0038】
〈成分〔γ〕について〉
本発明の成分〔γ〕は、下記式(1)、および(1’)で示される化合物から選択される少なくとも一方の電荷輸送物質である。
【0039】
【化6】

【0040】
式(1)および式(1’)中、Arは、フェニル基、または置換基としてメチル基、もしくはエチル基を有するフェニル基を示す。Arは、フェニル基、置換基としてメチル基を有するフェニル基、置換基として−CH=CH−Ta(式中、Taは、トリフェニルアミンのベンゼン環から水素原子1個を除いて導き出される1価の基、または置換基としてメチル基、もしくはエチル基を有するトリフェニルアミンのベンゼン環から水素原子1個を除いて導き出される1価の基を示す)で示される1価の基を有するフェニル基またはビフェニリル基を示す。Rは、フェニル基、置換基としてメチル基を有するフェニル基、または置換基として−CH=C(Ar)Ar(式中、ArおよびArは、それぞれ独立にフェニル基、または置換基としてメチル基を有するフェニル基を示す)で示される1価の基を有するフェニル基を示す。Rは、水素原子、フェニル基、または置換基としてメチル基を有するフェニル基を示す。
【0041】
以下に、成分〔γ〕である上記式(1)、または上記式(1’)で示される構造を有する電荷輸送物質の具体例を示す。
【0042】
【化7】

【0043】
【化8】

【0044】
これらの中でも、成分〔γ〕は、上記式(1−1)、(1−3)、(1−5)、(1−7)で示される構造を有する電荷輸送物質であることが好ましい。
【0045】
〈成分〔α〕について〉
本発明の成分〔α〕は、下記式(A)で示される繰り返し構造単位および下記式(B)で示される繰り返し構造単位を有し、シロキサン部位の含有量が5質量%以上40質量%以下のポリカーボネート樹脂Aである。
【0046】
【化9】

【0047】
式(A)中、a、bおよびcは、それぞれ独立に各括弧内の構造の繰り返し数を示し、ポリカーボネート樹脂Aにおけるaおよびbの平均値は、1以上10以下であり、ポリカーボネート樹脂Aにおけるcの平均値は、20以上200以下である。
【0048】
【化10】

【0049】
式(B)中、R21〜R24は、それぞれ独立に水素原子、またはメチル基を示す。Yは、単結合、メチレン基、エチリデン基、プロピリデン基、フェニルエチリデン基、シクロヘキシリデン基、または酸素原子を示す。
【0050】
以下に成分〔α〕である上記式(A)で示される繰り返し構造単位および上記式(B)で示される繰り返し構造単位を有するポリカーボネート樹脂Aに関して説明する。
【0051】
上記式(A)中のaおよびbは、それぞれ括弧内の構造の繰り返し数を示し、ポリカーボネート樹脂Aにおけるaおよびbの平均値は、それぞれ独立に1以上10以下である。さらに、繰り返し使用時の電位安定性の観点から、1以上5以下であることがより好ましい。さらに、各構造単位における括弧内の構造の繰り返し数aおよびbの最大値と最小値との差は、0以上2以下であることが好ましい。また、cは、括弧内の構造の繰り返し数を示し、ポリカーボネート樹脂Aにおけるcの平均値は、20以上200以下である。さらに、持続的な接触ストレス緩和と繰り返し使用時の電位安定性の両立の観点から、20以上150以下であることがより好ましい。さらに、各構造単位における括弧内の構造の繰り返し数cは、cの繰り返し数の平均値で示した値の±10%の範囲内であることが、本発明の効果が安定的に得られる点で好ましい。また、a、bのおよびcの平均値の和が30以上200以下であることが好ましい。
【0052】
表1に上記式(A)で示される繰り返し構造単位の例を示す。
【0053】
【表1】

【0054】
これらの中でも、上記式(A−1)、(A−2)、(A−3)、(A−4)、(A−5)、(A−9)、(A−10)で示される構造単位であることが好ましい。
【0055】
次に、上記式(B)で示される繰り返し構造単位について説明する。以下に、上記式(B)で示される繰り返し構造単位の具体例を示す。
【0056】
【化11】

【0057】
これらの中でも、上記式(B−1)、(B−2)、(B−7)、(B−8)、(B−9)、(B−10)で示される繰り返し構造単位が好ましい。
【0058】
また、本発明における成分〔α〕であるポリカーボネート樹脂Aは、ポリカーボネート樹脂Aの全質量に対してシロキサン部位を5質量%以上40質量%以下で含有する。
【0059】
本発明において、シロキサン部位とは、シロキサン部分を構成する両端のケイ素原子およびそれらに結合する基と、該両端のケイ素原子に挟まれた酸素原子、ケイ素原子およびそれらに結合する基を含む部位である。具体的にいえば、本発明において、シロキサン部位とは、例えば、下記式(A−S)で示される繰り返し構造単位の場合、下記破線で囲まれた部位のことである。
【0060】
【化12】

【0061】
すなわち、以下に示す構造式がシロキサン部位である。
【0062】
【化13】

【0063】
本発明の成分〔α〕であるポリカーボネート樹脂Aの全質量に対するシロキサン部位の含有量が5質量%以上であると、接触ストレスの緩和効果が持続的に発揮され、かつ、成分〔β〕および〔γ〕を含むマトリックス中に効率的にドメイン構造が形成される。また、シロキサン部位の含有量が40質量%以下であると、成分〔α〕を含むドメイン中で成分〔γ〕が凝集体を形成することが抑制され、繰り返し使用時の電位変動が抑制される。
【0064】
本発明の成分〔α〕であるポリカーボネート樹脂Aの全質量に対するシロキサン部位の含有量は、一般的な分析手法で解析可能である。以下に、分析手法の例を示す。
【0065】
まず、電子写真感光体の表面層である電荷輸送層を溶剤で溶解させる。その後、サイズ排除クロマトグラフィーや高速液体クロマトグラフィーなどの各組成成分を分離回収可能な分取装置で、表面層である電荷輸送層に含有される種々の材料を分取する。分取された成分〔α〕であるポリカーボネート樹脂Aをアルカリ存在下などで加水分解させ、カルボン酸部分とビスフェノール部分に分解する。得られたビスフェノール部分に対し、核磁気共鳴スペクトル分析や質量分析をおこない、シロキサン部分の繰り返し数やモル比を算出し、含有量(質量比)に換算する。
【0066】
本発明に用いられる成分〔α〕であるポリカーボネート樹脂Aの共重合比は、一般的な手法である樹脂のH−NMR測定による水素原子(樹脂を構成している水素原子)のピーク面積比による換算法によって確認することができる。
【0067】
本発明に用いられる成分〔α〕であるポリカーボネート樹脂Aは、たとえば、従来からのホスゲン法で合成することが可能である。また、エステル交換法によって合成することも可能である。
【0068】
本発明に用いられる成分〔α〕であるポリカーボネート樹脂Aは、上記式(A)で示される繰り返し構造単位と上記式(B)で示される繰り返し構造単位との共重合体である。そして、その共重合形態は、ブロック共重合、ランダム共重合、交互共重合などのいずれの形態であってもよい。
【0069】
本発明に用いられる成分〔α〕であるポリカーボネート樹脂Aの重量平均分子量は、成分〔β〕および〔γ〕を含むマトリックス中でドメイン構造を形成する観点から、30,000以上150,000以下であることが好ましい。さらには、40,000以上100,000以下であることがより好ましい。
【0070】
本発明において、樹脂の重量平均分子量とは、常法に従い、特開2007−79555号公報に記載の方法により測定されたポリスチレン換算の重量平均分子量である。
【0071】
以下に、本発明に用いられる成分〔α〕であるポリカーボネート樹脂Aの合成例を示す。
【0072】
上記ポリカーボネート樹脂Aは、特開平10−182832号公報に記載の合成方法を用いて合成することが可能である。本発明においても同様の合成方法を用い、上記式(A)で示される繰り返し単位および上記式(B)で示される構造単位に応じた原材料を用いて、表2の合成例に示す成分〔α〕(ポリカーボネート樹脂A)を合成した。合成したポリカーボネート樹脂Aの重量平均分子量およびポリカーボネート樹脂A中のシロキサン部位の含有量を表2に示す。
【0073】
【表2】

【0074】
繰り返し構造単位例(A−1)の括弧内の繰り返し数aおよびbの最大値と最小値との差は、aおよびbともに0であり、括弧内の繰り返し数cの最大値は42、最小値は38であった。繰り返し構造単位例(A−6)の括弧内の繰り返し数aおよびbの最大値と最小値との差は、aおよびbともに0であり、括弧内の繰り返し数cの最大値は210、最小値は195であった。繰り返し構造単位例(A−11)の括弧内の繰り返し数aおよびbの最大値と最小値との差は、aおよびbともに2であり、括弧内の繰り返し数cの最大値は42、最小値は38であった。
【0075】
〈成分〔β〕について〉
本発明の成分〔β〕は、下記式(C)で示される繰り返し構造単位を有するポリカーボネート樹脂C、および下記式(D)で示される繰り返し構造単位を有するポリエステル樹脂Dからなる群より選択される少なくとも一方の樹脂である。
【0076】
【化14】

【0077】
式(C)中、R31〜R34は、それぞれ独立に水素原子、またはメチル基を示す。Yは、単結合、メチレン基、エチリデン基、プロピリデン基、フェニルエチリデン基、シクロヘキシリデン基、または酸素原子を示す。
【0078】
【化15】

【0079】
式(D)中、R41〜R44は、それぞれ独立に水素原子、またはメチル基を示す。Xは、m−フェニレン基、p−フェニレン基、または2つのp−フェニレン基が酸素原子を介して結合した2価の基を示す。Yは、単結合、メチレン基、エチリデン基、プロピリデン基、シクロヘキシリデン基、または酸素原子を示す。
【0080】
以下に、上記式(C)で示される繰り返し構造単位の具体例を示す。
【0081】
【化16】

【0082】
これらの中でも、上記式(C−1)、(C−2)、(C−7)、(C−8)、(C−9)、(C−10)で示される繰り返し構造単位が好ましい。
【0083】
以下に、上記式(D)で示される繰り返し構造単位の具体例を示す。
【0084】
【化17】

【0085】
これらの中でも、上記式(D−1)、(D−2)、(D−6)、(D−7)で示される繰り返し構造単位が好ましい。また、〔β〕は、電荷輸送物質との均一なマトリックスを形成するという観点から、シロキサン部位を有さない方が好ましい。
【0086】
本発明の電子写真感光体の表面層である電荷輸送層は、樹脂として成分〔α〕および〔β〕を含有するが、さらに他の樹脂を混合して用いてもよい。混合して用いてもよい他の樹脂としては、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂などが挙げられる。他の樹脂を混合して用いる場合、成分〔β〕とその他の樹脂との割合は、成分〔β〕が90質量%以上100質量%未満の範囲が好ましい。本発明において、ポリカーボネート樹脂C、またはポリエステル樹脂Dに加えて、他の樹脂を混合して用いる場合、電荷輸送物質との均一なマトリックスを形成するという観点から、他の樹脂はシロキサン構造を有さない樹脂を用いることが好ましい。
【0087】
本発明の電子写真感光体の表面層である電荷輸送層には、電荷輸送物質として成分〔γ〕を含有するが、他の構造の電荷輸送物質を含有しても良い。含有してもよい他の構造の電荷輸送物質としては、トリアリールアミン化合物、ヒドラゾン化合物などが挙げられる。これらの中でも、電荷輸送物質としてトリアリールアミン化合物を用いることが、繰り返し使用時の電位安定性の点で好ましい。成分〔γ〕以外の電荷輸送物質を混合して用いる場合、成分〔γ〕が、電荷輸送層に含有される全電荷輸送物質中に50質量%以上含有することが好ましい。さらには70質量%以上含有することが好ましい。
【0088】
次に、本発明の電子写真感光体の構成について説明する。
【0089】
本発明の電子写真感光体は、支持体、該支持体上に設けられた電荷発生層および該電荷発生層上に設けられた電荷輸送層を有する電子写真感光体である。また、電荷輸送層が電子写真感光体の表面層(最上層)である電子写真感光体である。
【0090】
また、本発明の電子写真感光体の電荷輸送層は、上記成分〔α〕、〔β〕および〔γ〕を含有する。
【0091】
また、電荷輸送層を積層構造としてもよく、その場合は、少なくとも最も表面側の電荷輸送層に上記マトリックス−ドメイン構造を有させる。
【0092】
電子写真感光体は、一般的には、円筒状支持体上に感光層(電荷発生層、電荷輸送層)を形成してなる円筒状の電子写真感光体が広く用いられるが、ベルト状、シート状などの形状とすることも可能である。
【0093】
〔支持体〕
本発明に用いられる支持体としては、導電性を有するもの(導電性支持体)が好ましく、アルミニウム、アルミニウム合金などが挙げられる。アルミニウム、またはアルミニウム合金製の支持体の場合は、ED管、EI管や、これらを切削、電解複合研磨、湿式または乾式ホーニング処理した支持体を用いることもできる。また、金属製支持体や樹脂性支持体上にアルミニウム、アルミニウム合金、または酸化インジウム−酸化スズ合金等の導電材料の薄膜を形成したもの等が挙げられる。さらに、金属製支持体や樹脂性支持体上にカーボンブラック、酸化スズ粒子、酸化チタン粒子、銀粒子のような導電性粒子を樹脂中に分散した導電層を設けたものも挙げられる。
【0094】
また、干渉縞を抑制するために導電性支持体はその表面を適度に荒らしておくことが好ましい。具体的には、上記導電性支持体表面をホーニング、ブラスト、切削、電界研磨等の処理をした導電性支持体、または、アルミニウムもしくはアルミニウム合金の導電性支持体上に導電性金属酸化物粒子及び樹脂を含む導電層を有する導電性支持体を用いることが好ましい。導電層表面で反射した光が干渉して出力画像に干渉縞が発生することを抑制するために、導電層に、導電層表面を粗面化するための表面粗し付与材を添加することも可能である。
【0095】
導電性粒子および樹脂を有する導電層を支持体上に形成する方法では、導電層中に導電性粒子を含む粉体が含有される。導電性粒子としては、カーボンブラック、アセチレンブラックや、アルミニウム、ニッケル、鉄、ニクロム、銅、亜鉛、銀などの金属粉や、導電性酸化スズ、ITOなどの金属酸化物粉体が挙げられる。
【0096】
導電層に用いられる樹脂としては、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリビニルブチラール、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂およびアルキッド樹脂が挙げられる。これらの樹脂は単独でも、二種以上を組合せて用いても良い。
【0097】
導電層は、浸漬塗布、あるいはマイヤーバー等による溶剤塗布で形成することができる。導電層用塗布液の溶剤としては、エーテル系溶剤、アルコール系溶剤、ケトン系溶剤、芳香族炭化水素溶剤が挙げられる。
【0098】
導電層の膜厚は、0.2μm以上40μm以下であることが好ましく、1μm以上35μm以下であることがより好ましく、さらには5μm以上30μm以下であることがより好ましい。
【0099】
〔中間層〕
本発明の電子写真感光体では、支持体または導電層と、電荷発生層との間には、中間層を設けてもよい。
【0100】
中間層は、樹脂を含有する中間層用塗布液を導電層上に塗布し、これを乾燥または硬化させることによって形成することができる。
【0101】
中間層に用いられる樹脂としては、ポリアクリル酸類、メチルセルロース、エチルセルロース、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアミド酸樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂などが挙げられる。中間層の樹脂は熱可塑性樹脂が好ましく、熱可塑性のポリアミド樹脂が好ましい。ポリアミド樹脂としては、溶液状態で塗布できるような低結晶性または非結晶性の共重合ナイロンが好ましい。
【0102】
中間層の膜厚は、0.05μm以上40μm以下であることが好ましく、0.1μm以上7μm以下であることがより好ましい。
【0103】
また、中間層には、半導電性粒子、電子輸送物質、あるいは電子受容性物質を含有させてもよい。
【0104】
〔電荷発生層〕
本発明の電子写真感光体において、支持体、導電層、または中間層上には、電荷発生層が設けられる。
【0105】
本発明の電子写真感光体に用いられる電荷発生物質としては、アゾ顔料、フタロシアニン顔料、インジゴ顔料およびペリレン顔料が挙げられる。これら電荷発生物質は1種のみ用いてもよく、2種以上用いてもよい。これらの中でも、特にオキシチタニウムフタロシアニン、ヒドロキシガリウムフタロシアニン、クロロガリウムフタロシアニンなどが高感度であるため好ましい。
【0106】
電荷発生層に用いられる樹脂としては、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ブチラール樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、アクリル樹脂、酢酸ビニル樹脂、尿素樹脂が挙げられる。これらの中でも、ブチラール樹脂が特に好ましい。これらは単独、混合、または共重合体として1種または2種以上用いることができる。
【0107】
電荷発生層は、電荷発生物質を樹脂および溶剤とともに分散して得られる電荷発生層用塗布液を塗布し、これを乾燥させることによって形成することができる。また、電荷発生層は、電荷発生物質の蒸着膜としてもよい。
【0108】
分散方法としては、たとえば、ホモジナイザー、超音波、ボールミル、サンドミル、アトライター、ロールミルを用いた方法が挙げられる。
【0109】
電荷発生物質と樹脂との割合は、樹脂1質量部に対して、電荷発生物質が0.1質量部以上10質量部以下が好ましく、特には、1質量部以上3質量部以下がより好ましい。
【0110】
電荷発生層用塗布液に用いられる溶剤は、アルコール系溶剤、スルホキシド系溶剤、ケトン系溶剤、エーテル系溶剤、エステル系溶剤、芳香族炭化水素溶剤などが挙げられる。
【0111】
電荷発生層の膜厚は、0.01μm以上5μm以下であることが好ましく、0.1μm以上2μm以下であることがより好ましい。
【0112】
また、電荷発生層には、種々の増感剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤などを必要に応じて添加することもできる。また、電荷発生層において電荷の流れが滞らないようにするために、電荷発生層には、電子輸送物質、または電子受容性物質を含有させてもよい。
【0113】
〔電荷輸送層〕
電荷発生層上には、電荷輸送層が設けられる。
【0114】
本発明の電子写真感光体の表面層である電荷輸送層は、特定の電荷輸送物質として成分〔γ〕を含有するが、上述のように他の構造の電荷輸送物質を含有しても良い。混合してもよい他の構造の電荷輸送物質としては、上述のとおりである。
【0115】
本発明の電子写真感光体の表面層である電荷輸送層は、樹脂として成分〔α〕および〔β〕を含有するが、上述のとおり、他の樹脂をさらに混合して用いてもよい。混合して用いてもよい他の樹脂は、上述のとおりである。
【0116】
電荷輸送層は、電荷輸送物質および上記各樹脂を溶剤に溶解させることによって得られる電荷輸送層用塗布液を塗布し、これを乾燥させることによって形成することができる。
【0117】
電荷輸送物質と樹脂との割合は、樹脂1質量部に対して、電荷輸送物質が0.4質量部以上2質量部以下が好ましく、0.5質量部以上1.2質量部以下がより好ましい。
【0118】
電荷輸送層用塗布液に用いられる溶剤としては、ケトン系溶剤、エステル系溶剤、エーテル系溶剤、芳香族炭化水素溶剤が挙げられる。これら溶剤は、単独で使用してもよいが、2種類以上を混合して使用してもよい。これらの溶剤の中でも、エーテル系溶剤、または芳香族炭化水素溶剤を使用することが、樹脂溶解性の観点から好ましい。
【0119】
電荷輸送層の膜厚は、5μm以上50μm以下であることが好ましく、10μm以上35μm以下であることがより好ましい。
【0120】
また、電荷輸送層には、酸化防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤などを必要に応じて添加することもできる。
【0121】
本発明の電子写真感光体の各層には、各種添加剤を添加することができる。添加剤としては、例えば、酸化防止剤、紫外線吸収剤、耐光安定剤のような劣化防止剤や、有機微粒子、無機微粒子などの微粒子が挙げられる。劣化防止剤としては、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、ヒンダードアミン系耐光安定剤、硫黄原子含有酸化防止剤、リン原子含有酸化防止剤が挙げられる。有機微粒子としては、フッ素原子含有樹脂粒子、ポリスチレン微粒子、ポリエチレン樹脂粒子などの高分子樹脂粒子が挙げられる。無機微粒子としては、シリカ、アルミナなどの金属酸化物が挙げられる。
【0122】
上記各層の塗布液を塗布する際には、浸漬塗布法(浸漬コーティング法)、スプレーコーティング法、スピンナーコーティング法、ローラーコーティング法、マイヤーバーコーティング法、ブレードコーティング法などの塗布方法を用いることができる。
【0123】
〔電子写真装置〕
図1に、本発明の電子写真感光体を有するプロセスカートリッジを備えた電子写真装置の概略構成の一例を示す。
【0124】
図1において、1は円筒状の電子写真感光体であり、軸2を中心に矢印方向に所定の周速度をもって回転駆動される。回転駆動される電子写真感光体1の表面は、回転過程において、帯電手段(一次帯電手段:帯電ローラーなど)3により、負の所定電位に均一に帯電される。次いで、スリット露光やレーザービーム走査露光などの露光手段(不図示)から出力される目的の画像情報の時系列電気デジタル画像信号に対応して強度変調された露光光(画像露光光)4を受ける。こうして電子写真感光体1の表面に、目的の画像情報に対応した静電潜像が順次形成されていく。
【0125】
電子写真感光体1の表面に形成された静電潜像は、現像手段5の現像剤に含まれるトナーで反転現像により現像されてトナー像となる。次いで、電子写真感光体1の表面に形成担持されているトナー像が、転写手段(転写ローラーなど)6からの転写バイアスによって、転写材(紙など)Pに順次転写されていく。なお、転写材Pは、転写材供給手段(不図示)から電子写真感光体1の回転と同期して取り出されて、電子写真感光体1と転写手段6との間(当接部)に給送される。また、転写手段6には、バイアス電源(不図示)からトナーの保有電荷とは逆極性のバイアス電圧が印加される。
【0126】
トナー像の転写を受けた転写材Pは、電子写真感光体1の表面から分離されて定着手段8へ搬送されてトナー像の定着処理を受けることにより画像形成物(プリント、コピー)として装置外へ搬送される。
【0127】
トナー像転写後の電子写真感光体1の表面は、クリーニング手段(クリーニングブレードなど)7によって転写残りの現像剤(転写残トナー)の除去を受けて清浄面化される。次いで、前露光手段(不図示)からの前露光光(不図示)により除電処理された後、繰り返し画像形成に使用される。なお、図1に示すように、帯電手段3が帯電ローラーなどを用いた接触帯電手段である場合は、前露光は必ずしも必要ではない。
【0128】
本発明においては、上記の電子写真感光体1、帯電手段3、現像手段5、転写手段6およびクリーニング手段7などの構成要素の中から複数のものを選択し、これらを容器に納めてプロセスカートリッジとして一体に支持して構成してもよい。そして、このプロセスカートリッジを、複写機やレーザービームプリンターなどの電子写真装置本体に対して着脱自在に構成してもよい。図1では、電子写真感光体1と、帯電手段3、現像手段5およびクリーニング手段7とを一体に支持してカートリッジ化して、電子写真装置本体のレールなどの案内手段10を用いて電子写真装置本体に着脱自在なプロセスカートリッジ9としている。
【実施例】
【0129】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。ただし、本発明は下記の実施例によって何ら限定されるものではない。なお、実施例中の「部」は「質量部」を意味する。
【0130】
〔実施例1〕
直径30mm、長さ260.5mmのアルミニウムシリンダーを支持体とした。
【0131】
次に、SnOコート処理硫酸バリウム(導電性粒子)10部、酸化チタン(抵抗調節用顔料)2部、フェノール樹脂6部およびシリコーンオイル(レベリング剤)0.001部を、メタノール4部およびメトキシプロパノール16部の混合溶剤を用いて導電層用塗布液を調製した。
【0132】
この導電層用塗布液を上記アルミニウムシリンダー上に浸漬塗布し、これを140℃で30分間硬化(熱硬化)させることによって、膜厚が15μmの導電層を形成した。
【0133】
次に、N−メトキシメチル化ナイロン3部および共重合ナイロン3部を、メタノール65部およびn−ブタノール30部の混合溶剤に溶解させることによって、中間層用塗布液を調製した。
【0134】
この中間層用塗布液を上記導電層上に浸漬塗布し、これを100℃で10分間乾燥させることによって、膜厚が0.7μmの中間層を形成した。
【0135】
次に、CuKα特性X線回折におけるブラッグ角(2θ±0.2°)の7.5°、9.9°、16.3°、18.6°、25.1°および28.3°に強いピークを有する結晶形のヒドロキシガリウムフタロシアニン結晶(電荷発生物質)10部を、シクロヘキサノン250部にポリビニルブチラール樹脂(商品名:エスレックBX−1.積水化学工業(株)製)5部を溶解させた液に加えた。これを、直径1mmのガラスビーズを用いたサンドミル装置で23±3℃雰囲気下1時間分散した。分散後、酢酸エチル250部を加えて、電荷発生層用塗布液を調製した。
【0136】
この電荷発生層用塗布液を上記中間層上に浸漬塗布し、これを100℃で10分間乾燥させることによって、膜厚が0.26μmの電荷発生層を形成した。
【0137】
次に、成分〔γ〕として上記式(1−1)で示される構造を有する電荷輸送物質10部、成分〔α〕として合成例1で合成したポリカーボネート樹脂A(1)4部、成分〔β〕として上記式(C−5)で示される繰り返し構造と(C−7)で示される繰り返し構造を8:2の比で含有するポリカーボネート樹脂C(重量平均分子量120,000)6部を、テトラヒドロフラン20部およびトルエン60部の混合溶剤に溶解させることによって、電荷輸送層用塗布液を調製した。
【0138】
この電荷輸送層用塗布液を上記電荷発生層上に浸漬塗布し、これを110℃で1時間乾燥させることによって、膜厚が16μmの電荷輸送層を形成した。形成された電荷輸送層には成分〔β〕および〔γ〕を含むマトリックス中に成分〔α〕を含むドメインが含有されていることが確認された。
【0139】
このようにして、電荷輸送層が表面層である電子写真感光体を作製した。電荷輸送層に含有される成分〔α〕、〔β〕、〔γ〕、ポリカーボネート樹脂A中のシロキサン部位の含有量および全樹脂の全質量に対するポリカーボネート樹脂A中のシロキサン部位の含有量を表3に示す。
【0140】
次に、評価について説明する。
【0141】
評価は、2,000枚繰り返し使用時の明部電位の変動(電位変動)、初期および2,000枚繰り返し使用時のトルクの相対値およびトルク測定時の電子写真感光体の表面の観察について行った。
【0142】
評価装置としては、キヤノン(株)製レーザービームプリンター LBP−2510を、電子写真感光体の帯電電位(暗部電位)を調整できるように改造して用いた。また、ポリウレタンゴム製のクリーニングブレードを、電子写真感光体の表面に対して、当接角22.5°および当接圧35g/cmとなるように設定した。評価は、温度23℃、相対湿度50%環境下で行った。
【0143】
<電位変動評価>
評価装置の780nmのレーザー光源の露光量(画像露光量)については、電子写真感光体の表面での光量が0.3μJ/cmとなるように設定した。電子写真感光体の表面電位(暗部電位および明部電位)の測定は、電子写真感光体の端部から130mmの位置に電位測定用プローブが位置するように固定された冶具と現像器とを交換して、現像器位置で行った。電子写真感光体の非露光部の暗部電位が−450Vとなるように設定し、レーザー光を照射して暗部電位から光減衰させた明部電位を測定した。また、A4サイズの普通紙を用い、連続して画像出力を2,000枚行い、その前後での明部電位の変動量を評価した。テストチャートは、印字比率5%のものを用いた。結果を表8中の電位変動に示す。
【0144】
<トルクの相対値評価>
上記電位変動評価条件と同条件において、電子写真感光体の回転モーターの駆動電流値(電流値A)を測定した。この評価は、電子写真感光体とクリーニングブレードとの接触ストレス量を評価したものである。得られた電流値の大きさは、電子写真感光体とクリーニングブレードとの接触ストレス量の大きさを示す。
【0145】
さらに、以下の方法でトルク相対値の対照となる電子写真感光体を作製した。実施例1の電子写真感光体の電荷輸送層に用いた成分〔α〕であるポリカーボネート樹脂A(1)を、表3中の成分〔β〕に変更し、樹脂として成分〔β〕のみの構成に変更した以外は実施例1と同様にして電子写真感光体を作製した。この電子写真感光体を対照用電子写真感光体とした。作製された対照用電子写真感光体を用いて、実施例1と同様に電子写真感光体の回転モーターの駆動電流値(電流値B)を測定した。
【0146】
このようにして得られた本発明に関わる成分〔α〕を含有する電子写真感光体の回転モーターの駆動電流値(電流値A)と、成分〔α〕を用いなかった電子写真感光体の回転モーターの駆動電流値(電流値B)との比を算出した。得られた(電流値A)/(電流値B)の数値を、トルクの相対値として比較した。このトルクの相対値の数値は、成分〔α〕を用いたことによる電子写真感光体とクリーニングブレードとの接触ストレス量の低減の程度を示し、トルクの相対値の数値が小さいほうが電子写真感光体とクリーニングブレードとの接触ストレス量の低減の程度が大きいことを示す。結果を、表8中の初期トルクの相対値に示す。
【0147】
続いて、A4サイズの普通紙を用い、連続して画像出力を2,000枚行った。テストチャートは、印字比率5%のものを用いた。その後、2,000枚繰り返し使用後のトルクの相対値測定を行った。2,000枚繰り返し使用後のトルクの相対値は初期トルクの相対値と同様の評価で行った。この場合、対照用の電子写真感光体に対しても2,000枚繰り返し使用を行い、そのときの回転モーターの駆動電流値を用いて2,000枚繰り返し使用後のトルクの相対値を算出した。結果を、表8中の2,000枚後トルクの相対値に示す。
【0148】
<マトリックス−ドメイン構造の評価>
上記の方法により作製された電子写真感光体に対して、電荷輸送層を垂直方向に切断した電荷輸送層の断面を超深度形状測定顕微鏡VK−9500((株)キーエンス社製)を用いて断面観察を行った。その際、対物レンズ倍率50倍とし、電子写真感光体の表面の100μm四方(10,000μm)を視野観察とし、視野内にあるランダムに選択された100個の形成されたドメインの最大径の測定を行った。得られた最大径より平均値を算出し、数平均粒径とした。結果を表8に示す。
【0149】
〔実施例2〜45〕
実施例1において、電荷輸送層の成分〔α〕、〔β〕および〔γ〕を表3に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして電子写真感光体を作製し、評価した。形成された電荷輸送層には成分〔β〕および〔γ〕を含むマトリックス中に、成分〔α〕を含むドメインが含有されていることが確認された。結果を表8に示す。
なお、成分〔β〕として用いたポリカーボネート樹脂Cの重量平均分子量は、
(C−5)/(C−7)=8/2:120,000
(C−1):100,000
であった。
【0150】
〔実施例46〜90〕
実施例1において、電荷輸送層の成分〔α〕、〔β〕および〔γ〕を表4に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして電子写真感光体を作製し、評価した。形成された電荷輸送層には成分〔β〕および〔γ〕を含むマトリックス中に、成分〔α〕を含むドメインが含有されていることが確認された。結果を表8に示す。
なお、成分〔β〕として用いたポリカーボネート樹脂Cの重量平均分子量は、
(C−5)/(C−7)=8/2:120,000
(C−2):130,000
(C−3)/(C−5)=3/7:100,000
であった。
【0151】
〔実施例91〜135〕
実施例1において、電荷輸送層の成分〔α〕、〔β〕および〔γ〕を表5に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして電子写真感光体を作製し、評価した。形成された電荷輸送層には成分〔β〕および〔γ〕を含むマトリックス中に、成分〔α〕を含むドメインが含有されていることが確認された。結果を表9に示す。
なお、成分〔β〕として用いたポリカーボネート樹脂Cの重量平均分子量は、
(C−6)/(C−7)=8/2:120,000
(C−1)/(C−10)=7/3:130,000
(C−1)/(C−4)=8/2:120,000
(C−1)/(C−8)=8/2:100,000
(C−1)/(C−9)=8/2:90,000
であった。
【0152】
〔実施例136〜180〕
実施例1において、電荷輸送層の成分〔α〕、〔β〕および〔γ〕を表6に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして電子写真感光体を作製し、評価した。形成された電荷輸送層には成分〔β〕および〔γ〕を含むマトリックス中に、成分〔α〕を含むドメインが含有されていることが確認された。結果を表9に示す。
なお、電荷輸送物質として、下記式(2−1)
【0153】
【化18】

【0154】
で示される構造を有する電荷輸送物質および下記式(2−2)
【0155】
【化19】

【0156】
で示される構造を有する電荷輸送物質を、成分〔γ〕である上記式(1)、あるいは上記式(1’)で示される構造を有する電荷輸送物質と混合して用いた。
【0157】
また、成分〔β〕として用いたポリエステル樹脂Dの重量平均分子量は、
(D−1):120,000
(D−2):90,000
(D−1)/(D−4)=7/3:130,000
(D−2)/(D−3)=9/1:100,000
(D−5):100,000
(D−6):120,000
(D−7):110,000
であった。
また、上記式(D−1)、(D−2)、(D−3)、(D−4)および(D−5)で示される繰り返し構造単位は、いずれもテレフタル酸/イソフタル酸の比が、1/1である。
【0158】
〔比較例1〜6〕
実施例1においてポリカーボネート樹脂A(1)を、上記式(A−1)で示される繰り返し構造単位および上記式(B−1)で示される繰り返し構造単位を含有し、カーボネート樹脂中のシロキサン部位の含有量が2質量%であるポリカーボネート樹脂(E(1):重量平均分子量60,000)に変更し、表7に示す変更を行った以外は、実施例1と同様にして電子写真感光体を作製した。電荷輸送層に含有される樹脂の構成およびシロキサン部位の含有量を表7に示す。実施例1と同様に評価を行い、結果を表10に示す。形成された電荷輸送層には、マトリックス−ドメイン構造は確認されなかった。
【0159】
〔比較例7〜12〕
実施例1において、ポリカーボネート樹脂A(1)を、上記ポリカーボネート樹脂E(1)に変更し、表7に示す変更を行った以外は、実施例1と同様にして電子写真感光体を作製した。電荷輸送層に含有される樹脂の構成およびシロキサン部位の含有量を表7に示す。実施例1と同様に評価を行い、結果を表10に示す。形成された電荷輸送層には、マトリックス−ドメイン構造は確認されなかった。
【0160】
〔比較例13〕
実施例1において、電荷輸送層中に含有する樹脂として上記ポリカーボネート樹脂E(1)のみを含有するように変更した以外は、実施例1と同様にして電子写真感光体を作製した。電荷輸送層に含有される樹脂の構成およびシロキサン部位の含有量を表7に示す。実施例1と同様に評価を行い、結果を表10に示す。形成された電荷輸送層には、マトリックス−ドメイン構造は確認されなかった。なお、トルク相対値の対照となる電子写真感光体は、実施例1で用いた対照の電子写真感光体を用いた。
【0161】
〔比較例14〜19〕
実施例1においてポリカーボネート樹脂A(1)を、上記式(A−1)で示される繰り返し構造単位および上記式(B−1)で示される繰り返し構造単位を含有し、カーボネート樹脂中のシロキサン部位の含有量が50質量%であるポリカーボネート樹脂(E(2):重量平均分子量70,000)に変更し、表7に示す変更を行った以外は、実施例1と同様にして電子写真感光体を作製した。電荷輸送層に含有される樹脂の構成およびシロキサン部位の含有量を表7に示す。実施例1と同様に評価を行い、結果を表10に示す。形成された電荷輸送層には、マトリックス−ドメイン構造が形成されていた。
【0162】
〔比較例20〜25〕
実施例1において、ポリカーボネート樹脂A(1)を、上記ポリカーボネート樹脂E(2)に変更し、表7に示す変更を行った以外は、実施例1と同様にして電子写真感光体を作製した。電荷輸送層に含有される樹脂の構成およびシロキサン部位の含有量を表7に示す。実施例1と同様に評価を行い、結果を表10に示す。形成された電荷輸送層には、マトリックス−ドメイン構造が形成されていた。
【0163】
〔比較例26〕
実施例1において、電荷輸送層中に含有する樹脂として上記ポリカーボネート樹脂E(2)のみを含有するように変更した以外は、実施例1と同様にして電子写真感光体を作製した。電荷輸送層に含有される樹脂の構成およびシロキサン部位の含有量を表7に示す。実施例1と同様に評価を行い、結果を表10に示す。形成された電荷輸送層には、マトリックス−ドメイン構造は確認されなかった。なお、トルク相対値の対照となる電子写真感光体は、実施例1で用いた対照の電子写真感光体を用いた。
【0164】
〔比較例27〜32〕
実施例1において、ポリカーボネート樹脂A(1)を、特開2001−337467号公報に記載の繰り返し構造よりなる樹脂E(3)に変更し、表7に示す変更を行った以外は、実施例1と同様にして電子写真感光体を作製した。樹脂E(3:重量平均分子量120,000)は、下記式(E−3)で示される繰り返し構造単位、上記式(B−5)で示される繰り返し構造単位および上記式(B−7)で示される繰り返し構造単位をそれぞれ85/14.9/0.1の比で含有する樹脂である。樹脂中のシロキサン部位の含有量は、1質量%であった。電荷輸送層に含有される樹脂の構成およびシロキサン部位の含有量を表7に示す。実施例1と同様に評価を行い、結果を表10に示す。形成された電荷輸送層には、マトリックス−ドメイン構造は確認されなかった。なお、下記式(E−3)で示される繰り返し構造単位中のシロキサン部位の繰り返し数を示す数値は、繰り返し数の平均値を示す。この場合、樹脂E(3)における下記式(E−3)で示される繰り返し構造単位中のシロキサン部位の繰り返し数の平均値は25である。
【0165】
【化20】

【0166】
〔比較例33〕
実施例1において、ポリカーボネート樹脂A(1)を、上記ポリカーボネート樹脂E(3)に変更し、表7に示す変更を行った以外は、実施例1と同様にして電子写真感光体を作製した。電荷輸送層に含有される樹脂の構成およびシロキサン部位の含有量を表7に示す。実施例1と同様に評価を行い、結果を表10に示す。形成された電荷輸送層には、マトリックス−ドメイン構造は確認されなかった。
【0167】
〔比較例34〜39〕
実施例1において、ポリカーボネート樹脂A(1)を、国際公開WO2010/008095号公報に記載されている構造である下記式(E−4)で示される繰り返し構造単位および上記式(D−1)で示される繰り返し構造単位を含有し、樹脂中のシロキサン部位の含有量が30質量%である樹脂(E(4):重量平均分子量60,000)に変更し、表7に示す変更を行った以外は、実施例1と同様にして電子写真感光体を作製した。上記式(E−4)および上記式(D−1)で示される繰り返し構造単位は、テレフタル酸/イソフタル酸の比が1/1である。電荷輸送層に含有される樹脂の構成およびシロキサン部位の含有量を表7に示す。実施例1と同様に評価を行い、結果を表10に示す。形成された電荷輸送層には、マトリックス−ドメイン構造が形成されていた。なお、トルク相対値の対照となる電子写真感光体は、実施例139で用いた対照の電子写真感光体を用いた。なお、下記式(E−4)で示される繰り返し構造単位中のシロキサン部位の繰り返し数を示す数値は、繰り返し数の平均値を示す。この場合、樹脂E(4)における下記式(E−4)で示される繰り返し構造単位中のシロキサン部位の繰り返し数の平均値は40である。
【0168】
【化21】

【0169】
〔比較例40〜43〕
実施例1において、ポリカーボネート樹脂A(1)を、上記樹脂E(4)に変更し、また、電荷輸送物質を上記式(2−1)に変更し、表7に示す変更を行った以外は、実施例1と同様にして電子写真感光体を作製した。電荷輸送層に含有される樹脂の構成およびシロキサン部位の含有量を表7に示す。実施例1と同様に評価を行い、結果を表10に示す。形成された電荷輸送層には、マトリックス−ドメイン構造が形成されていた。なお、トルク相対値の対照となる電子写真感光体は、実施例139で用いた対照の電子写真感光体を用いた。
【0170】
〔比較例44および45〕
実施例1において、ポリカーボネート樹脂A(1)を、ポリカーボネート樹脂A(2)に変更し、また、電荷輸送物質を上記式(2−1)に変更し、表7に示す変更を行った以外は、実施例1と同様にして電子写真感光体を作製した。電荷輸送層に含有される樹脂の構成およびシロキサン部位の含有量を表7に示す。実施例1と同様に評価を行い、結果を表10に示す。形成された電荷輸送層には、マトリックス−ドメイン構造が形成されていた。なお、トルク相対値の対照となる電子写真感光体は、実施例139で用いた対照の電子写真感光体を用いた。
【0171】
【表3】

【0172】
表3〜6中の「成分〔γ〕」は、電荷輸送層に含有される成分〔γ〕を意味する。電荷輸送物質を混合して用いた場合は、成分〔γ〕および他の電荷輸送物質の種類と混合比を意味する。表3〜6中の「成分〔α〕」は、成分〔α〕の構成を意味する。表3〜6中の「シロキサン含有量A(質量%)」は、ポリカーボネート樹脂A中のシロキサン部位の含有量(質量%)を意味する。表3〜6中の「成分〔β〕」は、成分〔β〕の構成を意味する。表3〜6中の「成分〔α〕と成分〔β〕の混合比」は、電荷輸送層中の成分〔α〕と成分〔β〕の混合比(成分〔α〕/成分〔β〕)を意味する。表3〜6中の「シロキサン含有量B(質量%)」は、電荷輸送層中の樹脂の全質量に対するポリカーボネート樹脂A中のシロキサン部位の含有量(質量%)を意味する。
【0173】
【表4】

【0174】
【表5】

【0175】
【表6】

【0176】
【表7】

【0177】
表7中の「電荷輸送物質」は、電荷輸送層に含有される電荷輸送物質を意味する。電荷輸送物質を混合して用いた場合は、電荷輸送物質の種類と混合比を意味する。表7中の「樹脂E」は、シロキサン部位を有する樹脂Eを意味する。表7中の「シロキサン含有量A(質量%)」は、「樹脂E」中のシロキサン部位の含有量(質量%)を意味する。表7中の「成分〔β〕」は、成分〔β〕の構成を意味する。表7中の「樹脂Eと成分〔β〕の混合比」は、電荷輸送層中の樹脂E、あるいはポリカーボネート樹脂Aと成分〔β〕との混合比(樹脂E/成分〔β〕)を意味する。表7中の「シロキサン含有量B(質量%)」は、電荷輸送層中の全樹脂の全質量に対する「樹脂E」中のシロキサン部位の含有量(質量%)を意味する。
【0178】
以下、実施例1〜180、比較例1〜45の評価結果を表8〜10に示す。
【0179】
【表8】

【0180】
【表9】

【0181】
【表10】

【0182】
実施例と比較例1〜12との比較により、電荷輸送層中のシロキサン部位を含有するポリカーボネート樹脂に対するシロキサン質量比が低い場合、十分な接触ストレスの緩和効果が得られていない。このことは、本評価法の初期および2,000枚後の評価において、比較例1〜12では、トルク低減の効果がないことにより示されている。また、比較例13では、シロキサン部位を有するポリカーボネート樹脂に対するシロキサン質量比が低い場合には、シロキサン含有樹脂の電荷輸送層中の含有量を増やしても十分な接触ストレスの緩和効果が得られないことが示されている。
【0183】
実施例と比較例14〜25との比較により、電荷輸送層中のシロキサン部位を含有するポリカーボネート樹脂に対するシロキサン質量比が高い場合には、繰り返し使用時の電位安定性が著しく劣る結果が得られている。この場合は、シロキサン部位を含有するポリカーボネート樹脂によるマトリックス−ドメイン構造は形成されるものの、ポリカーボネート樹脂中や電荷輸送層中に過剰量のシロキサン構造を有するため、電荷輸送物質との相溶性が不十分となる。そのため、繰り返し使用時の十分な電位安定性の効果が得られていない。また、比較例26においても繰り返し使用時の電位安定性が著しく劣る結果が得られている。比較例26の結果では、マトリックス−ドメイン構造を形成していなくとも大きな電位変動を発生している。すなわち、比較例14〜26では、電荷輸送物質と過剰量のシロキサン構造を有する樹脂を含有するため、電荷輸送物質との相溶性が不十分となっていると考えられる。
【0184】
実施例と比較例27〜33との比較により、比較例1〜12と同様に、電荷輸送層中のシロキサン部位を含有するポリカーボネート樹脂に対するシロキサン質量比が低い場合、十分な接触ストレスの緩和効果が得られていない。
【0185】
比較例34〜39では、本発明に示した電荷輸送物質ではシロキサン構造を有する樹脂を用いてマトリックス−ドメイン構造を形成した場合でも、電位安定性に劣る場合がある。そして、実施例と比較例34〜39との比較により、本発明のポリカーボネート樹脂を用いることにより繰り返し使用時の電位安定性の向上が図られることが示されている。また、この場合、十分な電位安定性の効果と共に、持続的な接触ストレス緩和の両立が達成できることが示されている。比較例34〜39では、電荷輸送層中の樹脂と相溶性が高い成分〔γ〕は、シロキサン含有樹脂によるドメイン中に電荷輸送物質を多く含有し、結果としてドメイン中で電荷輸送物質の凝集状態を形成し、電位安定性が不十分である。しかしながら、実施例では、本発明の成分〔α〕と成分〔γ〕との相溶性が低いため、ドメイン中の電荷輸送物質の含有量が低減されていると思われる。このために、電位変動発生の要因となるドメイン中の電荷輸送物質の含有量を低減し、電位変動低減がなされていると考えられる。成分〔α〕と〔γ〕との相溶性により繰り返し使用時の電位安定性の向上が図られていることは、比較例40〜45の結果からも示唆されている。比較例34〜45と実施例の比較より、本発明の成分〔α〕および〔γ〕を含有する電荷輸送層を形成する場合において、顕著な電位変動の抑制効果が得られている。
【符号の説明】
【0186】
1 電子写真感光体
2 軸
3 帯電手段
4 露光光
5 現像手段
6 転写手段
7 クリーニング手段
8 定着手段
9 プロセスカートリッジ
10 案内手段
P 転写材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体、該支持体上に設けられた電荷発生層および該電荷発生層上に設けられた電荷輸送層を有し、かつ、該電荷輸送層が表面層である電子写真感光体において、
該電荷輸送層が、下記マトリックスとドメインで構成されているマトリックス−ドメイン構造を有し、
該ドメインは、下記式(A)で示される繰り返し構造単位および下記式(B)で示される繰り返し構造単位を有するポリカーボネート樹脂Aを含有し、
該マトリックスは、
下記式(C)で示される繰り返し構造単位を有するポリカーボネート樹脂C、および下記式(D)で示される構造単位を有するポリエステル樹脂Dから選択される少なくとも一方の樹脂と、
下記式(1)で示される化合物、および下記式(1’)で示される化合物からなる群より選択される少なくとも一方の電荷輸送物質と
を含有し、
該ポリカーボネート樹脂Aの全質量に対するシロキサン部位の含有量が5質量%以上40質量%以下であることを特徴とする電子写真感光体。
【化1】

(式(A)中、a、bおよびcは、それぞれ独立に各括弧内の構造の繰り返し数を示し、ポリカーボネート樹脂Aにおけるaおよびbの平均値は、1以上10以下であり、ポリカーボネート樹脂Aにおけるcの平均値は、20以上200以下である。)
【化2】

(式(B)中、R21〜R24は、それぞれ独立に水素原子、またはメチル基を示す。Yは、単結合、メチレン基、エチリデン基、プロピリデン基、フェニルエチリデン基、シクロヘキシリデン基、または酸素原子を示す。)
【化3】

(式(C)中、R31〜R34は、それぞれ独立に水素原子、またはメチル基を示す。Yは、単結合、メチレン基、エチリデン基、プロピリデン基、フェニルエチリデン基、シクロヘキシリデン基、または酸素原子を示す。)
【化4】

(式(D)中、R41〜R44は、それぞれ独立に水素原子、またはメチル基を示す。Xは、m−フェニレン基、p−フェニレン基、または2つのp−フェニレン基が酸素原子を介して結合した2価の基を示す。Yは、単結合、メチレン基、エチリデン基、プロピリデン基、シクロヘキシリデン基、または酸素原子を示す。)
【化5】

(式(1)および式(1’)中、Arは、フェニル基、または置換基としてメチル基、もしくはエチル基を有するフェニル基を示す。Arは、フェニル基、置換基としてメチル基を有するフェニル基、置換基として−CH=CH−Ta(式中、Taは、トリフェニルアミンのベンゼン環から水素原子1個を除いて導き出される1価の基、または置換基としてメチル基、もしくはエチル基を有するトリフェニルアミンのベンゼン環から水素原子1個を除いて導き出される1価の基を示す。)で示される1価の基を有するフェニル基またはビフェニリル基を示す。Rは、フェニル基、置換基としてメチル基を有するフェニル基、または置換基として−CH=C(Ar)Ar(式中、ArおよびArは、それぞれ独立にフェニル基、または置換基としてメチル基を有するフェニル基を示す。)で示される1価の基を有するフェニル基を示す。Rは、水素原子、フェニル基、または置換基としてメチル基を有するフェニル基を示す。)
【請求項2】
前記電荷輸送層中の前記シロキサン部位の含有量が、前記電荷輸送層中の全樹脂の全質量に対して1質量%以上20質量%以下である請求項1に記載の電子写真感光体。
【請求項3】
前記式(A)中のcの平均値が、20以上150以下である請求項1又は2に記載の電子写真感光体。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の電子写真感光体と、帯電手段、現像手段、転写手段およびクリーニング手段からなる群より選択される少なくとも1つの手段とを一体に支持し、電子写真装置本体に着脱自在であることを特徴とするプロセスカートリッジ。
【請求項5】
請求項1から3のいずれか1項に記載の電子写真感光体、帯電手段、露光手段、現像手段および転写手段を有することを特徴とする電子写真装置。
【請求項6】
請求項1から3のいずれか1項に記載の電子写真感光体の製造方法であって、
前記ポリカーボネート樹脂Aと、前記ポリカーボネート樹脂Cおよび前記ポリエステル樹脂Dから選択される少なくとも一方の樹脂と、前記式(1)および(1’)で示される化合物から選択される少なくとも一方の電荷輸送物質とを含有する電荷輸送層用塗布液を前記電荷発生層上に塗布し、これを乾燥させて電荷輸送層を形成する工程を有することを特徴とする電子写真感光体の製造方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2012−83737(P2012−83737A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−200571(P2011−200571)
【出願日】平成23年9月14日(2011.9.14)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】