説明

電子写真感光体、プロセスカートリッジおよび電子写真装置

【課題】金属酸化物を含有する層を導電層として採用した電子写真感光体であっても帯電スジが発生しにくい電子写真感光体、ならびに、該電子写真感光体を有するプロセスカートリッジおよび電子写真装置を提供する。
【解決手段】電子写真感光体の導電層が、結着材料、および、リンまたはタングステンがドープされている酸化スズで被覆されている酸化チタン粒子を含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真感光体、ならびに、電子写真感光体を有するプロセスカートリッジおよび電子写真装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有機光導電性材料を用いた電子写真感光体(有機電子写真感光体)の研究開発が盛んに行われている。
【0003】
電子写真感光体は、基本的には、支持体と該支持体上に形成された感光層とから構成される。しかしながら、現状は、支持体の表面の欠陥の隠蔽、感光層の電気的破壊に対する保護、帯電性の向上、支持体から感光層への電荷注入阻止性の改良などのために、支持体と感光層との間には、各種の層が設けられることが多い。
【0004】
支持体と感光層との間に設けられる層の中でも、支持体の表面の欠陥の隠蔽を目的として設けられる層としては、金属酸化物粒子を含有する層が知られている。金属酸化物を含有する層は、一般的に、金属酸化物粒子を含有しない層に比べて導電性が高く(例えば、体積抵抗率で5.0×10〜1.0×1013Ω・cm)、層の膜厚を厚くしても、画像形成時の残留電位の上昇が生じにくいため、支持体の表面の欠陥を隠蔽することが容易である。このような導電性の高い層(以下「導電層」という。)を支持体と感光層との間に設けて支持体の表面の欠陥を隠蔽することにより、支持体の表面の欠陥の許容範囲は大きくなる。その結果、支持体の使用許容範囲が大幅に広がるため、電子写真感光体の生産性の向上が図れるという利点がある。
【0005】
特許文献1には、支持体と光導電層との間の層にリンがドープされている酸化スズ粒子を用いる技術が開示されている。また、特許文献2には、感光層上の保護層にタングステンがドープされている酸化スズ粒子を用いる技術が開示されている。また、特許文献3には、支持体と感光層との間の導電層に酸素欠損型の酸化スズで被覆されている酸化チタン粒子を用いる技術が開示されている。また、特許文献4および5には、支持体と感光層との間の層に酸化スズで被覆されている硫酸バリウム粒子を用いる技術が開示されている。また、引用文献6には、支持体と感光層との間の層にスズがドープされている酸化インジウム(酸化インジウム−酸化スズ)で被覆されている酸化チタン粒子を用いる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平06−222600号公報
【特許文献2】特開2003−316059号公報
【特許文献3】特開2007−047736号公報
【特許文献4】特開平06−208238号公報
【特許文献5】特開平07−295270号公報
【特許文献6】特開平11−007145号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、本発明者らの検討の結果、上記のような金属酸化物を含有する層を導電層として採用した電子写真感光体を低温低湿環境下で画像形成を行うと、出力画像に帯電スジが発生しやすくなることが判明した。帯電スジとは、電子写真感光体の表面を帯電した際の電子写真感光体の表面電位の均一性の低下(帯電ムラ)に起因する、電子写真感光体の表面の周方向に直交する方向のスジ状の画像不良のことであり、ハーフトーン画像を出力したときに顕著に現れやすい。
【0008】
本発明の目的は、金属酸化物を含有する層を導電層として採用した電子写真感光体であっても帯電スジが発生しにくい電子写真感光体、ならびに、該電子写真感光体を有するプロセスカートリッジおよび電子写真装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、支持体、該支持体上に形成された導電層、および、該導電層上に形成された感光層を有する電子写真感光体において、
該導電層が、結着材料、および、リンまたはタングステンがドープされている酸化スズで被覆されている酸化チタン粒子を含有することを特徴とする電子写真感光体である。
【0010】
また、本発明は、上記電子写真感光体と、帯電手段、現像手段、転写手段およびクリーニング手段からなる群より選択される少なくとも1つの手段とを一体に支持し、電子写真装置本体に着脱自在であることを特徴とするプロセスカートリッジである。
【0011】
また、本発明は、上記電子写真感光体、ならびに、帯電手段、露光手段、現像手段および転写手段を有することを特徴とする電子写真装置である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、金属酸化物を含有する層を導電層として採用した電子写真感光体であっても帯電スジが発生しにくい電子写真感光体、ならびに、該電子写真感光体を有するプロセスカートリッジおよび電子写真装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の電子写真感光体を有するプロセスカートリッジを備えた電子写真装置の概略構成の一例を示す図である。
【図2】導電層の体積抵抗率の測定方法を説明するための図(上面図)である。
【図3】導電層の体積抵抗率の測定方法を説明するための図(断面図)である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の電子写真感光体は、支持体、該支持体上に形成された導電層、および、該導電層上に形成された感光層を有する電子写真感光体である。感光層は、電荷発生物質および電荷輸送物質を単一の層に含有させた単層型感光層であってもよいし、電荷発生物質を含有する電荷発生層と電荷輸送物質を含有する電荷輸送層とを積層した積層型感光層であってもよい。また、必要に応じて、導電層と感光層との間に下引き層を設けてもよい。
【0015】
支持体としては、導電性を有するもの(導電性支持体)が好ましく、例えば、アルミニウム、アルミニウム合金、ステンレスなどの金属で形成されている金属製支持体を用いることができる。アルミニウムやアルミニウム合金を用いる場合は、押し出し工程および引き抜き工程を含む製造方法により製造されるアルミニウム管や、押し出し工程およびしごき工程を含む製造方法により製造されるアルミニウム管を用いることができる。このようなアルミニウム管は、表面を切削することなく良好な寸法精度や表面平滑性が得られるうえ、コスト的にも有利であるが、無切削のアルミニウム管の表面にはササクレ状の凸状欠陥が生じやすいため、導電層を設けることが特に有効である。
【0016】
本発明においては、支持体の表面の欠陥の隠蔽を目的として、支持体上には、結着材料、および、リン(P)またはタングステン(W)がドープされている酸化スズ(SnO)で被覆されている酸化チタン(TiO)粒子を含有する導電層が設けられる。リン(P)またはタングステン(W)がドープされている酸化スズ(SnO)で被覆されている酸化チタン(TiO)粒子を、以下「リン/タングステンドープ酸化スズ被覆酸化チタン粒子」ともいう。
【0017】
導電層の体積抵抗率は、1.0×1013Ω・cm以下であることが好ましく、5.0×1012Ω・cm以下であることがより好ましい。支持体の表面の欠陥を隠蔽するための層として、体積抵抗率が高すぎる層を支持体上に設けると、画像形成時に電荷の流れが滞りやすくなり、残留電位が上昇しやすくなる。また、帯電スジの発生を抑制する観点からも、導電層の体積抵抗率は低いことが好ましい。一方、導電層の体積抵抗率は、1.0×10Ω・cm以上であることが好ましく、5.0×10Ω・cm以上であることがより好ましい。導電層の体積抵抗率が低すぎると、導電層中を流れる電荷の量が多くなりすぎて、高温高湿環境下で繰り返し画像形成を行った場合、支持体から感光層への電荷注入によるポチやかぶりが出力画像に発生しやすくなる。
【0018】
図2および3を用いて、電子写真感光体の導電層の体積抵抗率を測定する方法を説明する。
【0019】
導電層の体積抵抗率は、常温常湿(23℃/50%RH)環境下において測定する。導電層202の表面に銅製テープ203(住友スリーエム(株)製、型番No.1181)を貼り、これを導電層202の表面側の電極とする。また、支持体201を導電層202の裏面側の電極とする。銅製テープ203と支持体201との間に電圧を印加するための電源206、および、銅製テープ203と支持体201との間を流れる電流を測定するための電流測定機器207をそれぞれ設置する。また、銅製テープ203に電圧を印加するため、銅製テープ203の上に銅線204を載せ、銅線204が銅製テープ203からはみ出さないように銅線204の上から銅製テープ203と同様の銅製テープ205を貼り、銅製テープ203に銅線204を固定する。銅製テープ203には、銅線204を用いて電圧を印加する。
【0020】
銅製テープ203と支持体201との間に電圧を印加しないときのバックグラウンド電流値をI[A]とし、直流成分のみの電圧を1V印加したときの電流値をI[A]とし、導電層202の膜厚d[cm]、導電層202の表面側の電極(銅製テープ203)の面積をS[cm]とするとき、下記数式(1)で表される値を導電層202の体積抵抗率ρ[Ω・cm]とする。
ρ=1/(I−I)×S/d[Ω・cm]・・・(1)
【0021】
この測定では、1×10−6A以下の微小な電流量を測定するため、電流測定機器207としては、微小電流の測定が可能な機器を用いて行うことが好ましい。そのような機器としては、例えば、横河ヒューレットパッカード社製のpAメーター(商品名:4140B)などが挙げられる。
【0022】
なお、導電層の体積抵抗率は、支持体上に導電層のみを形成した状態で測定しても、電子写真感光体から導電層上の各層(感光層など)を剥離して支持体上に導電層のみを残した状態で測定しても、同様の値を示す。
【0023】
本発明において、導電層に用いる金属酸化物粒子として、芯材粒子(酸化チタン(TiO)粒子)および被覆層(リン(P)またはタングステン(W)がドープされている酸化スズ(SnO))を有する複合粒子を用いるのは、導電層の形成に用いる導電層用塗布液における金属酸化物粒子の分散性の向上を図るためである。金属酸化物粒子として、リン(P)またはタングステン(W)がドープされている酸化スズ(SnO)粒子(リン(P)またはタングステン(W)がドープされている酸化スズ(SnO)のみからなる粒子)を用いた場合、導電層用塗布液における金属酸化物粒子の粒径が大きくなりやすく、導電層の表面に凸状のブツ欠陥が発生したり、また、導電層用塗布液の安定性が低下したりする場合がある。
【0024】
また、芯材粒子として酸化チタン(TiO)粒子を用いるのは、帯電スジの発生を抑制する効果が高いからである。さらに、金属酸化物粒子としての透明性が低く、支持体の表面の欠陥を隠蔽しやすいからである。これに対して、例えば、芯材粒子として硫酸バリウム粒子を用いた場合、帯電スジの発生を抑制しにくくなる。また、金属酸化物粒子としての透明性が高いために、支持体の表面の欠陥を隠蔽するための材料が別途必要になる場合がある。
【0025】
また、金属酸化物粒子として、非被覆の酸化チタン(TiO)粒子ではなく、リン/タングステンドープ酸化スズ被覆酸化チタン粒子を用いるのは、非被覆の酸化チタン(TiO)粒子では、画像形成時に電荷の流れが滞りやすくなり、残留電位が上昇しやすくなるからである。
【0026】
また、リン/タングステンドープ酸化スズ被覆酸化チタン粒子は、酸素欠損型の酸化スズ(SnO)で被覆されている酸化チタン(TiO)粒子に比べて、帯電スジの発生を抑制する効果が高い。さらに、酸素欠損型の酸化スズ(SnO)で被覆されている酸化チタン(TiO)粒子に比べて、低湿環境下での体積抵抗率の上昇や高湿環境下での体積抵抗率の低下が少なく、環境安定性にも優れている。
【0027】
なお、リン(P)またはタングステン(W)がドープされている酸化スズ(SnO)で被覆されている酸化チタン(TiO)粒子の製造方法は、特開平06−207118号公報や特開2004−349167号公報にも開示されている。
【0028】
導電層の体積抵抗率を上記範囲に収めるためには、導電層の形成に用いる導電層用塗布液を調製する際に、粉体抵抗率(粉体比抵抗)が1.0×10Ω・cm以上1.0×10Ω・cm以下のリン/タングステンドープ酸化スズ被覆酸化チタン粒子を用いることが好ましい。リン/タングステンドープ酸化スズ被覆酸化チタン粒子のより好ましい粉体抵抗率は、1.0×10Ω・cm以上1.0×10Ω・cm以下であり、より好ましくは1.0×10Ω・cm以上1.0×10Ω・cm以下であり、より好ましくは1.0×10Ω・cm以上1.0×10Ω・cm以下である。リン/タングステンドープ酸化スズ被覆酸化チタン粒子の粉体抵抗率が高すぎる場合、導電層の体積抵抗率を1.0×1013Ω・cm以下あるいは5.0×1012Ω・cm以下に調整しにくくなる。一方、リン/タングステンドープ酸化スズ被覆酸化チタン粒子の粉体抵抗率が低すぎる場合、作製される電子写真感光体の帯電能が低下しやすくなる。
【0029】
リン/タングステンドープ酸化スズ被覆酸化チタン粒子における酸化スズ(SnO)の割合(被覆率)は、10〜60質量%であることが好ましく、15〜55質量%であることがより好ましい。酸化スズ(SnO)の被覆率を制御するためには、酸化スズ(SnO)を生成するのに必要なスズ原材料をリン/タングステンドープ酸化スズ被覆酸化チタン粒子製造時に配合する必要がある。例えば、スズ原材料である塩化スズ(SnCl)から生成される酸化スズ(SnO)を考慮した仕込みである必要がある。なお、酸化スズ(SnO)の被覆率は、酸化スズ(SnO)にドープされているリン(P)やタングステン(W)の質量を考慮に入れず、酸化スズ(SnO)と酸化チタン(TiO)の合計質量に対する酸化スズ(SnO)の質量により計算した値とする。酸化スズ(SnO)の被覆率が小さすぎる場合、リン/タングステンドープ酸化スズ被覆酸化チタン粒子の粉体抵抗率を1.0×10Ω・cm以下に調整しにくくなる。被覆率が大きすぎる場合、酸化スズ(SnO)による酸化チタン(TiO)粒子の被覆が不均一になりやすく、また、高コストになりやすい。
【0030】
また、酸化スズ(SnO)にドープされるリン(P)またはタングステン(W)の量(ドープ量)は、酸化スズ(SnO)(リン(P)またはタングステン(W)を含まない質量)に対して0.1〜10質量%であることが好ましい。酸化スズ(SnO)にドープされるリン(P)またはタングステン(W)の量が少なすぎる場合、リン/タングステンドープ酸化スズ被覆酸化チタン粒子の粉体抵抗率を1.0×10Ω・cm以下に調整しにくくなる。酸化スズ(SnO)にドープされるリン(P)またはタングステン(W)の量が多すぎる場合、酸化スズ(SnO)の結晶性が低下し、リン/タングステンドープ酸化スズ被覆酸化チタン粒子の粉体抵抗率を1.0×10Ω・cm以上1.0×10Ω・cm以下に調整しにくくなる。一般的には、酸化スズ(SnO)にリン(P)またはタングステン(W)をドープすることにより、ドープしていないものに比べて、粒子の粉体抵抗率を低くすることができる。
【0031】
リン/タングステンドープ酸化スズ被覆酸化チタン粒子の粉体抵抗率は、常温常湿(23℃/50%RH)環境下において測定する。本発明においては、測定装置として、三菱化学(株)製の抵抗測定装置(商品名:ロレスタGP)を用いた。測定対象のリン/タングステンドープ酸化スズ被覆酸化チタン粒子は、500kg/cmの圧力で固めて、ペレット状の測定用サンプルとする。印加電圧は100Vとする。
【0032】
また、帯電スジの発生をより抑制するためには、電子写真感光体の周波数1.0×10Hzにおける誘電損失tanδは、5×10−3以上2×10−2以下であることが好ましい。
【0033】
帯電スジと電子写真感光体の誘電損失tanδとの関係について、詳細は不明であるが、本発明者らは、以下のように考えている。
【0034】
以下、電子写真感光体の回転方向に対して、帯電領域(帯電手段によって電子写真感光体の表面が帯電される領域)の手前側を帯電領域上流と呼び、反対側を帯電領域下流と呼ぶ。まず、帯電領域上流で電子写真感光体の表面に電荷の付与が行われた後、帯電領域下流では電荷の付与量が少なくなり、その結果、電子写真感光体の表面において、十分に帯電された部分と十分に帯電されなかった部分が混在する場合がある。この場合、電子写真感光体の表面に電位差が発生し、現像ムラとなって、電子写真感光体の表面の周方向に直交する方向のスジ状の画像不良(濃淡ムラ)が出力画像に発生することがある。この画像不良が帯電スジである。
【0035】
この現象の原因の1つとして、誘電分極が考えられる。誘電分極とは、電界中に置かれた誘電体に電荷の偏りが生じる現象である。この誘電分極の1つが、その誘電体を構成する分子中の双極子モーメントが向きを変えることによって起こる配向分極である。
【0036】
配向分極と電子写真感光体の表面電位との関係を、電子写真感光体の表面が帯電される際の電子写真感光体にかかる電界がどのように変化するかと関連させながら、以下に説明する。
【0037】
帯電領域上流における電子写真感光体の表面への電荷の付与により、電子写真感光体の表面に電荷が乗る。電子写真感光体の表面に電荷が乗るとともに、その電荷により、電界(以下「外部電界」という。)が生じる。この外部電界により、電子写真感光体の内部の双極子モーメントは、除々に分極(配向分極)していく。分極した双極子モーメントのベクトル和は、分極によって電子写真感光体の内部で発生した電界(以下「内部電界」という。)となる。時間の経過に従い、分極は進行し、内部電界は大きくなる。
【0038】
次に、電子写真感光体全体にかかる電界強度を考えると、電子写真感光体の表面の電荷量が一定である場合、その電荷が作る外部電界は一定である。それに対して、内部電界は配向分極が進むにつれて大きくなる。電子写真感光体全体にかかる電界強度の総和は、外部電界と内部電界を足し合せればよいので、電界強度の総和は分極の進行とともに除々に減少すると考えられる。
【0039】
配向分極が進行する過程で電子写真感光体の各層の膜厚は実質的に変化しないため、電位差と電界は比例関係にあると考えられ、配向分極の進行に従って減少する電界強度の総和は、電子写真感光体の表面電位の低下を引き起こす。
【0040】
この配向分極の進行を見積もるために、本発明では、誘電損失tanδが用いられる。誘電損失とは、交流電場での配向分極の進行に基づくエネルギーの熱損失であり、配向分極の時間依存性の指標となるものである。ある周波数における誘電損失tanδが大きいということは、その周波数に対応する時間における配向分極の進行が大きいことを意味する。配向分極の進行による電子写真感光体の表面電位の低下には、帯電領域上流における電子写真感光体の表面への電荷の付与の開始から帯電領域下流における電子写真感光体の表面への電荷の付与までの時間(通常1.0×10−3秒程度)にどれだけ分極が進むかが影響する。この時間に配向分極が完了していない場合は、帯電領域下流における電子写真感光体の表面への電荷の付与前までに配向分極が進行してしまうため、電子写真感光体の表面電位が低下すると考えられる。
【0041】
以上より、電子写真感光体の誘電損失tanδを測定することにより、配向分極の進行に伴う電子写真感光体の表面電位の低下に起因する帯電スジの発生およびその程度を予測することができると考えられる。
【0042】
以下、電子写真感光体の誘電損失tanδを測定する方法を説明する。
まず、電子写真感光体を小片(10mm×10mm)に切断する。電子写真感光体が円筒状である場合は、曲面の小片が平面になるように万力などで延伸する。平面にした小片の上に厚さ600nmの金(電極)を蒸着することによって、測定用サンプルを作製する。本発明においては、SANYU DENSHI社製のスパッタリング装置(商品名:SC−707QUICK COATER)を用いて蒸着を行った。その測定用サンプルを常温常湿(23℃/50%RH)環境下で24時間放置する。放置後、同環境下で、周波数1.0×10Hz、印加電圧100mVの条件で電子写真感光体の誘電損失tanδを測定する。本発明においては、ソーラトロン社製のインピーダンスアナライザー(商品名:周波数応答アナライザー1260型、誘電率インターフェイス1296型)を用いて誘電損失tanδの測定を行った。
【0043】
なお、測定用サンプルは、アルミニウムシートを巻きつけた支持体上に測定対象の電子写真感光体と同様の各層を形成した後、アルミニウムシートを小片(10mm×10mm)に切断し、この上に上記金(電極)を蒸着することによって作製してもよい。このようにして作製した測定用サンプルを用いても、上記と同様の値を示す。
【0044】
導電層の体積抵抗率と該導電層を有する電子写真感光体の誘電損失tanδには相関があり、導電層の体積抵抗率が高くなるとともに、該導電層を有する電子写真感光体の誘電損失tanδが高くなる傾向にある。
【0045】
導電層の体積抵抗率が同じである場合、リン/タングステンドープ酸化スズ被覆酸化チタン粒子を含有する導電層を有する電子写真感光体の誘電損失tanδは、従来の金属酸化物粒子を含有する導電層を有する電子写真感光体の誘電損失tanδに比べて低くなる傾向がある。そのため、リン/タングステンドープ酸化スズ被覆酸化チタン粒子を用いることによって、ポチやかぶりの発生を抑制しながら、帯電スジの発生を抑制しやすくなるのである。
【0046】
導電層は、リン/タングステンドープ酸化スズ被覆酸化チタン粒子を結着材料とともに溶剤に分散させることによって得られる導電層用塗布液を塗布し、これを乾燥および/または硬化させることによって形成することができる。分散方法としては、例えば、ペイントシェーカー、サンドミル、ボールミル、液衝突型高速分散機を用いた方法が挙げられる。
【0047】
導電層に用いられる結着材料(結着樹脂)としては、例えば、フェノール樹脂、ポリウレタン、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリビニルアセタール、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、メラミン樹脂、ポリエステルなどが挙げられる。これらは1種または2種以上用いることができる。また、これらの中でも、他層へのマイグレーション(溶け込み)の抑制、支持体への密着性、リン/タングステンドープ酸化スズ被覆酸化チタン粒子の分散性・分散安定性、層形成後の耐溶剤性などの観点から、硬化性樹脂が好ましく、熱硬化性樹脂がより好ましい。また、熱硬化性樹脂の中でも、熱硬化性のフェノール樹脂、熱硬化性のポリウレタンが好ましい。導電層の結着材料として硬化性樹脂を用いる場合、導電層用塗布液に含有させる結着材料は、該硬化性樹脂のモノマーおよび/またはオリゴマーとなる。
【0048】
導電層用塗布液に用いられる溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノールなどのアルコールや、アセトン、メチルエチルケトン、シクロへキサノンなどのケトンや、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルなどのエーテルや、酢酸メチル、酢酸エチルなどのエステルや、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素が挙げられる。
【0049】
本発明において、導電層用塗布液におけるリン/タングステンドープ酸化スズ被覆酸化チタン粒子(P)と結着材料(B)との質量比(P/B)は、1.0/1.0以上3.5/1.0以下であることが好ましい。結着材料に比べてリン/タングステンドープ酸化スズ被覆酸化チタン粒子の量が少なすぎると、導電層の体積抵抗率を1.0×1013Ω・cm以下あるいは5.0×1012Ω・cm以下に調整しにくくなる。一方、結着材料に比べてリン/タングステンドープ酸化スズ被覆酸化チタン粒子の量が多すぎると、導電層の体積抵抗率を1.0×10Ω・cm以上あるいは5.0×10Ω・cm以上に調整しにくくなる。また、結着材料に比べてリン/タングステンドープ酸化スズ被覆酸化チタン粒子の量が多すぎると、リン/タングステンドープ酸化スズ被覆酸化チタン粒子の結着が難しくなり、導電層にクラックが発生しやすくなる。
【0050】
導電層の膜厚は、支持体の表面の欠陥を隠蔽するという観点から、10μm以上40μm以下であることが好ましく、15μm以上35μm以下であることがより好ましい。
【0051】
なお、本発明において、導電層を含む電子写真感光体の各層の膜厚の測定装置として、(株)フィッシャーインストルメンツ社製のFISCHERSCOPE mmsを用いた。
【0052】
また、導電層用塗布液におけるリン/タングステンドープ酸化スズ被覆酸化チタン粒子の平均粒径は、0.10μm以上0.60μm以下であることが好ましく、0.15μm以上0.45μm以下であることがより好ましい。平均粒径が小さすぎる場合、導電層用塗布液の調製後にリン/タングステンドープ酸化スズ被覆酸化チタン粒子の再凝集が起こり、導電層用塗布液の安定性が低下したり、導電層の表面にクラックが発生したりすることがある。平均粒径が大きすぎる場合は、導電層の表面が荒れて、感光層への局所的な電荷注入が起こりやすくなり、出力画像の白地におけるポチが目立つようになることがある。
【0053】
導電層用塗布液におけるリン/タングステンドープ酸化スズ被覆酸化チタン粒子の平均粒径の測定は、以下のとおり、液相沈降法によって行うことができる。
【0054】
まず、導電層用塗布液を、その調製に用いた溶剤で透過率が0.8〜1.0の間になるように希釈する。次に、超遠心式自動粒度分布測定装置を用いてリン/タングステンドープ酸化スズ被覆酸化チタン粒子の平均粒径(体積標準D50)および粒度分布のヒストグラムを作成する。本発明においては、超遠心式自動粒度分布測定装置として、(株)堀場製作所製の超遠心式自動粒度分布測定装置(商品名:CAPA700)を用い、回転数3000rpmの条件で測定を行った。
【0055】
また、導電層の表面で反射した光が干渉して出力画像に干渉縞が発生することを抑制するため、導電層用塗布液には、導電層の表面を粗面化するための表面粗し付与材を含有させてもよい。表面粗し付与材としては、平均粒径が1μm以上5μm以下(好ましくは3μm以下)の樹脂粒子が好ましい。樹脂粒子としては、例えば、硬化性ゴム、ポリウレタン、エポキシ樹脂、アルキド樹脂、フェノール樹脂、ポリエステル、シリコーン樹脂、アクリル−メラミン樹脂などの硬化性樹脂の粒子が挙げられる。これらの中でも、凝集しにくいシリコーン樹脂の粒子が好ましい。樹脂粒子の比重(0.5〜2)は、リン/タングステンドープ酸化スズ被覆酸化チタン粒子の比重(4〜7)に比べて小さいため、導電層形成時に効率的に導電層の表面を粗面化することができる。ただし、導電層中の表面粗し付与材の含有量が多いほど、導電層の体積抵抗率が上昇する傾向にある。そのため、導電層の体積抵抗率を1.0×1013Ω・cm以下に調整するためには、導電層用塗布液における表面粗し付与材の含有量は、導電層用塗布液中の結着材料に対して1〜80質量%であることが好ましく、1〜40質量%であることがより好ましい。
【0056】
また、導電層用塗布液には、導電層の表面性を高めるためのレベリング剤を含有させてもよい。また、導電層用塗布液には、導電層の隠蔽性を向上させるための顔料粒子を含有させてもよい。
【0057】
導電層と感光層との間には、導電層から感光層への電荷注入を阻止するために、電気的バリア性を有する下引き層(バリア層または中間層とも呼ばれる。)を設けてもよい。
【0058】
下引き層は、樹脂(結着樹脂)を含有する下引き層用塗布液を導電層上に塗布し、これを乾燥させることによって形成することができる。
下引き層に用いられる樹脂(結着樹脂)としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルメチルエーテル、ポリアクリル酸類、メチルセルロース、エチルセルロース、ポリグルタミン酸、カゼイン、でんぷんなどの水溶性樹脂や、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアミド酸、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン、ポリグルタミン酸エステルなどが挙げられる。これらの中でも、下引き層の電気的バリア性を効果的に発現させるためには、熱可塑性樹脂が好ましい。熱可塑性樹脂の中でも、熱可塑性のポリアミドが好ましい。ポリアミドとしては、共重合ナイロンなどが好ましい。
下引き層の膜厚は、0.1μm以上2μm以下であることが好ましい。
【0059】
また、下引き層において電荷の流れが滞らないようにするために、下引き層には、電子輸送物質を含有させてもよい。
【0060】
導電層(下引き層)上には、感光層が設けられる。
感光層に用いられる電荷発生物質としては、例えば、モノアゾ、ジスアゾ、トリスアゾなどのアゾ顔料や、金属フタロシアニン、非金属フタロシアニンなどのフタロシアニン顔料や、インジゴ、チオインジゴなどのインジゴ顔料や、ペリレン酸無水物、ペリレン酸イミドなどのペリレン顔料や、アンスラキノン、ピレンキノンなどの多環キノン顔料や、スクワリリウム色素や、ピリリウム塩およびチアピリリウム塩や、トリフェニルメタン色素や、キナクリドン顔料や、アズレニウム塩顔料や、シアニン染料や、キサンテン色素や、キノンイミン色素や、スチリル色素などが挙げられる。これらの中でも、オキシチタニウムフタロシアニン、ヒドロキシガリウムフタロシアニン、クロロガリウムフタロシアニンなどの金属フタロシアニンが好ましい。
【0061】
感光層が積層型の感光層である場合、電荷発生層は、電荷発生物質を結着樹脂とともに溶剤に分散させることによって得られる電荷発生層用塗布液を塗布し、これを乾燥させることによって形成することができる。分散方法としては、例えば、ホモジナイザー、超音波、ボールミル、サンドミル、アトライター、ロールミルなどを用いた方法が挙げられる。
【0062】
電荷発生層に用いられる結着樹脂としては、例えば、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリアリレート、ブチラール樹脂、ポリスチレン、ポリビニルアセタール、ジアリルフタレート樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、酢酸ビニル樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、ポリスルホン、スチレン−ブタジエン共重合体、アルキッド樹脂、エポキシ樹脂、尿素樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体などが挙げられる。これらは、単独、混合または共重合体として1種または2種以上用いることができる。
【0063】
電荷発生物質と結着樹脂との割合(電荷発生物質:結着樹脂)は、10:1〜1:10(質量比)の範囲が好ましく、5:1〜1:1(質量比)の範囲がより好ましく、3:1〜1:1(質量比)の範囲がより好ましい。
【0064】
電荷発生層用塗布液に用いられる溶剤としては、例えば、アルコール、スルホキシド、ケトン、エーテル、エステル、脂肪族ハロゲン化炭化水素、芳香族化合物などが挙げられる。
【0065】
電荷発生層の膜厚は、5μm以下であることが好ましく、0.1μm以上2μm以下であることがより好ましい。
【0066】
また、電荷発生層には、種々の増感剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤などを必要に応じて添加することもできる。また、電荷発生層において電荷の流れが滞らないようにするために、電荷発生層には、電子輸送物質(アクセプターなどの電子受容性物質)を含有させてもよい。
【0067】
感光層に用いられる電荷輸送物質としては、例えば、トリアリールアミン化合物、ヒドラゾン化合物、スチリル化合物、スチルベン化合物、ピラゾリン化合物、オキサゾール化合物、チアゾール化合物、トリアリルメタン化合物が挙げられる。
【0068】
感光層が積層型の感光層である場合、電荷輸送層は、電荷輸送物質および結着樹脂を溶剤に溶解させることによって得られる電荷輸送層用塗布液を塗布し、これを乾燥させることによって形成することができる。
【0069】
電荷輸送層に用いられる結着樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、スチレン樹脂、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリサルホン、ポリフェニレンオキシド、エポキシ樹脂、ポリウレタン、アルキド樹脂、不飽和樹脂などが挙げられる。これらは、単独、混合物または共重合体として1種または2種以上用いることができる。
【0070】
電荷輸送物質と結着樹脂との割合(電荷輸送物質:結着樹脂)は、2:1〜1:2(質量比)の範囲が好ましい。
【0071】
電荷輸送層用塗布液に用いられる溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトンや、酢酸メチル、酢酸エチルなどのエステルや、ジメトキシメタン、ジメトキシエタンなどのエーテルや、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素や、クロロベンゼン、クロロホルム、四塩化炭素などのハロゲン原子で置換された炭化水素などが挙げられる。
【0072】
電荷輸送層の膜厚は、帯電均一性や画像再現性の観点から、3μm以上40μm以下であることが好ましく、5μm以上30μm以下であることがより好ましい。
【0073】
また、電荷輸送層には、酸化防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤を必要に応じて添加することもできる。
【0074】
感光層が単層型の感光層である場合、単層型の感光層は、電荷発生物質、電荷輸送物質、結着樹脂および溶剤を含有する単層型の感光層用塗布液を塗布し、これを乾燥させることによって形成することができる。電荷発生物質、電荷輸送物質、結着樹脂および溶剤は、例えば、上記の各種のものを用いることができる。
【0075】
また、感光層上には、感光層を保護することを目的として、保護層を設けてもよい。
保護層は、樹脂(結着樹脂)を含有する保護層用塗布液を塗布し、これを乾燥および/または硬化させることによって形成することができる。
保護層に用いられる結着樹脂としては、例えば、フェノール樹脂、アクリル樹脂、ポリスチレン、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリスルホン、ポリフェニレンオキシド、エポキシ樹脂、ポリウレタン、アルキド樹脂、シロキサン樹脂、不飽和樹脂などが挙げられる。これらは、単独、混合物または共重合体として1種または2種以上用いることができる。
保護層の膜厚は、0.5μm以上10μm以下であることが好ましく、1μm以上8μm以下であることがより好ましい。
【0076】
上記各層用の塗布液を塗布する際には、例えば、浸漬塗布法(浸漬コーティング法)、スプレーコーティング法、スピンナーコーティング法、ローラーコーティング法、マイヤーバーコーティング法、ブレードコーティング法の塗布方法を用いることができる。
【0077】
図1に、電子写真感光体を有するプロセスカートリッジを備えた電子写真装置の概略構成の一例を示す。
図1において、1はドラム状の電子写真感光体であり、軸2を中心に矢印方向に所定の周速度で回転駆動される。
【0078】
回転駆動される電子写真感光体1の周面は、帯電手段(一次帯電手段、帯電ローラーなど)3により、正または負の所定電位に均一に帯電され、次いで、スリット露光やレーザービーム走査露光などの露光手段(画像露光手段、不図示)から出力される露光光(画像露光光)4を受ける。こうして電子写真感光体1の周面に、目的の画像に対応した静電潜像が順次形成されていく。帯電手段3に印加する電圧は、直流電圧のみであってもよいし、交流電圧を重畳した直流電圧であってもよい。
【0079】
電子写真感光体1の周面に形成された静電潜像は、現像手段5のトナーにより現像されてトナー像となる。次いで、電子写真感光体1の周面に形成されたトナー像が、転写手段(転写ローラーなど)6からの転写バイアスによって、転写材(紙など)Pに転写される。転写材Pは、電子写真感光体1の回転と同期して転写材供給手段(不図示)から電子写真感光体1と転写手段6との間(当接部)に給送されてくる。
【0080】
トナー像の転写を受けた転写材Pは、電子写真感光体1の周面から分離されて定着手段8へ導入されて像定着を受けることにより画像形成物(プリント、コピー)として装置外へプリントアウトされる。
【0081】
トナー像転写後の電子写真感光体1の周面は、クリーニング手段(クリーニングブレードなど)7によって転写残りのトナーの除去を受ける。さらに前露光手段(不図示)からの前露光光11により除電処理された後、繰り返し画像形成に使用される。なお、帯電手段が接触帯電手段である場合には、前露光は必ずしも必要ではない。
【0082】
上述の電子写真感光体1、帯電手段3、現像手段5、転写手段6およびクリーニング手段7などから選択される構成要素のうち、複数のものを容器に納めてプロセスカートリッジとして一体に結合して構成し、このプロセスカートリッジを電子写真装置本体に対して着脱自在に構成してもよい。図1では、電子写真感光体1と、帯電手段3、現像手段5およびクリーニング手段7とを一体に支持してカートリッジ化して、電子写真装置本体のレールなどの案内手段10を用いて電子写真装置本体に着脱自在なプロセスカートリッジ9としている。
【0083】
本発明のプロセスカートリッジおよび電子写真装置の帯電手段には、ローラー形状の帯電部材(帯電ローラー)が好適に用いられる。帯電ローラーの構成としては、例えば、導電性基体および該導電性基体上に形成された1層以上の被覆層からなる構成が挙げられる。また、被覆層の少なくとも1層には、導電性が付与される。より具体的には、導電性基体、該導電性基体上に形成された導電性弾性層および該導電性弾性層上に形成された表面層からなる構成が好適な構成として挙げられる。
【0084】
帯電ローラーの表面の十点平均粗さ(Rzjis)は、5.0μm以下であることが好ましい。本発明において、帯電ローラーの表面の十点平均粗さ(Rzjis)の測定は、(株)小坂研究所製の表面粗さ測定器(商品名:SE−3400)を用いて行った。より詳しくは、この表面粗さ測定器を用いて帯電ローラーの表面の任意の6点におけるRzjisを測定し、その6点の平均値をもって、帯電ローラーの表面の十点平均粗さ(Rzjis)とした。
【0085】
帯電ローラーの表面の十点平均粗さ(Rzjis)が大きすぎると、繰り返し画像形成を行った場合、トナーやその外添剤が帯電ローラーの表面に付着しやすくなり、帯電ローラーの表面の汚れに起因する画像不良が発生する場合がある。また、帯電ローラーの表面の十点平均粗さ(Rzjis)を5.0μm以下とすることにより、帯電ローラーの表面の高低差による放電電荷量差を小さく抑えることができる。そのため、帯電ローラーの表面の形状に起因する帯電不良によるポチなどの画像不良の発生を抑制することができる。
【実施例】
【0086】
以下に、具体的な実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例中の「部」は「質量部」を意味する。実施例中で使用したリン/タングステンドープ酸化スズ被覆酸化チタン粒子中の酸化チタン(TiO)粒子(芯材粒子)は、すべてBet値が6.6m/gのものである。
【0087】
〈導電層用塗布液の調製例〉
(導電層用塗布液1の調製例)
金属酸化物粒子としてのリン(P)がドープされている酸化スズ(SnO)で被覆されている酸化チタン(TiO)粒子(粉体抵抗率:40Ω・cm、酸化スズ(SnO)の被覆率:35質量%、酸化スズ(SnO)にドープされているリン(P)の量(ドープ量):3質量%)204部、結着樹脂としてのフェノール樹脂(フェノール樹脂のモノマー/オリゴマー)(商品名:プライオーフェンJ−325、大日本インキ化学工業(株)製、樹脂固形分:60質量%)148部、および、溶剤としての1−メトキシ−2−プロパノール98部を、直径0.8mmのガラスビーズ450部を用いたサンドミルに入れ、回転数:2000rpm、分散処理時間:4時間、冷却水の設定温度:18℃の分散処理条件で分散処理を行い、分散液を得た。
【0088】
この分散液からメッシュでガラスビーズを取り除いた後、分散液に表面粗し付与材としてのシリコーン樹脂粒子(商品名:トスパール120、GE東芝シリコーン(株)製、平均粒径:2μm)13.8部、レベリング剤としてのシリコーンオイル(商品名:SH28PA、東レ・ダウコーニング・シリコーン(株)製)0.014部、メタノール6部、および、1−メトキシ−2−プロパノール6部を添加して攪拌することによって、導電層用塗布液1を調製した。
【0089】
導電層用塗布液1におけるリン(P)がドープされている酸化スズ(SnO)で被覆されている酸化チタン(TiO)粒子の平均粒径は、0.35μmであった。
【0090】
(導電層用塗布液2〜20の調製例)
導電層用塗布液の調製の際に用いた金属酸化物粒子(リン/タングステンドープ酸化スズ被覆酸化チタン粒子)の種類等および分散処理条件(分散処理時間および回転数)を、それぞれ表1に示すようにした以外は、導電層用塗布液1の調製例と同様の操作で、導電層用塗布液2〜20を調製した。導電層用塗布液2〜20における金属酸化物粒子(リン/タングステンドープ酸化スズ被覆酸化チタン粒子)の平均粒径を、それぞれ表1に示す。表1中、酸化スズは「SnO」であり、酸化チタンは「TiO」である。
【0091】
【表1】

【0092】
(導電層用塗布液C1の調製例)
導電層用塗布液の調製の際に用いた金属酸化物粒子を、リン(P)がドープされている酸化スズ(SnO)で被覆されている酸化チタン(TiO)粒子204部から、特開平06−222600号公報の実施例1に記載のリン(P)がドープされている酸化スズ(SnO)粒子(リン含有の酸化スズ微粒子)(粉体抵抗率:25Ω・cm、酸化スズ(SnO)にドープされているリン(P)の量(ドープ量):1質量%)204部に変更した以外は、導電層用塗布液1の調製例と同様の操作で、導電層用塗布液C1を調製した。導電層用塗布液C1における金属酸化物粒子の平均粒径は、0.48μmであった。
【0093】
(導電層用塗布液C2の調製例)
導電層用塗布液の調製の際に用いた金属酸化物粒子を、リン(P)がドープされている酸化スズ(SnO)で被覆されている酸化チタン(TiO)粒子204部から、特開2003−316059号公報の実施例1に記載のタングステン(W)がドープされている酸化スズ(SnO)粒子(タングステン元素(W)を酸化スズ(SnO)に対して7.1モル%ドープした酸化スズ超微粒子)204部に変更した以外は、導電層用塗布液1の調製例と同様の操作で、導電層用塗布液C2を調製した。導電層用塗布液C2における金属酸化物粒子の平均粒径は、0.65μmであった。
【0094】
(導電層用塗布液C3の調製例)
導電層用塗布液の調製の際に用いた金属酸化物粒子を、リン(P)がドープされている酸化スズ(SnO)で被覆されている酸化チタン(TiO)粒子204部から、特開2007−047736号公報の導電層用塗布液Aの調製に記載の酸素欠損型の酸化スズ(SnO)が被覆されている酸化チタン(TiO)粒子(酸素欠損型SnO被覆TiO粒子)(粉体抵抗率:100Ω・cm、酸化スズ(SnO)の被覆率:40質量%)204部に変更した以外は、導電層用塗布液1の調製例と同様の操作で、導電層用塗布液C3を調製した。導電層用塗布液C3における金属酸化物粒子の平均粒径は、0.36μmであった。
【0095】
(導電層用塗布液C4の調製例)
導電層用塗布液の調製の際に用いた金属酸化物粒子を、リン(P)がドープされている酸化スズ(SnO)で被覆されている酸化チタン(TiO)粒子204部から、特開平11−007145号公報の比較例1に記載のアンチモン(Sb)がドープされている酸化スズ(SnO)で被覆されている酸化チタン(TiO)粒子(酸化アンチモン含有酸化スズの被覆層を有する酸化チタン粉末)(粉体抵抗率:200Ω・cm)204部に変更した以外は、導電層用塗布液1の調製例と同様の操作で、導電層用塗布液C4を調製した。導電層用塗布液C4における金属酸化物粒子の平均粒径は、0.36μmであった。
【0096】
(導電層用塗布液C5の調製例)
導電層用塗布液の調製の際に用いた金属酸化物粒子を、リン(P)がドープされている酸化スズ(SnO)で被覆されている酸化チタン(TiO)粒子204部から、特開平07−295270号公報の実施例3に記載のフッ素(F)がドープされている酸化スズ(SnO)で被覆されている硫酸バリウム(BaSO)粒子(フッ素含有の酸化スズ被覆層を有する硫酸バリウム微粒子)(粉体抵抗率:40Ω・cm、被覆率:50質量%、酸化スズ(SnO)にドープされているフッ素(F)の量(ドープ量):9質量%)204部に変更した以外は、導電層用塗布液1の調製例と同様の操作で、導電層用塗布液C5を調製した。導電層用塗布液C5における金属酸化物粒子の平均粒径は、0.47μmであった。
【0097】
(導電層用塗布液C6の調製例)
導電層用塗布液の調製の際に用いた金属酸化物粒子を、リン(P)がドープされている酸化スズ(SnO)で被覆されている酸化チタン(TiO)粒子204部から、特開2007−047736号公報の導電層用塗布液Aの調製に記載の酸素欠損型の酸化スズ(SnO)で被覆されている酸化チタン粒子(酸素欠損型SnO被覆TiO粒子)(粉体抵抗率:100Ω・cm、酸化スズ(SnO)の被覆率:40質量%)240部に変更した以外は、導電層用塗布液1の調製例と同様の操作で、導電層用塗布液C6を調製した。導電層用塗布液C6における金属酸化物粒子の平均粒径は、0.36μmであった。
【0098】
(導電層用塗布液C7の調製例)
導電層用塗布液の調製の際に用いた金属酸化物粒子を、リン(P)がドープされている酸化スズ(SnO)で被覆されている酸化チタン(TiO)粒子204部から、リン(P)がドープされている酸化スズ(SnO)で被覆されている硫酸バリウム(BaSO)粒子(粉体抵抗率:40Ω・cm、酸化スズ(SnO)の被覆率:35質量%、酸化スズ(SnO)にドープされているリン(P)の量(ドープ量):3質量%)204部に変更した以外は、導電層用塗布液1の調製例と同様の操作で、導電層用塗布液C7を調製した。導電層用塗布液C7における金属酸化物粒子の平均粒径は、0.40μmであった。
【0099】
〈電子写真感光体の製造例〉
(電子写真感光体1の製造例)
押し出し工程および引き抜き工程を含む製造方法により製造された、長さ246mm、直径24mmのアルミニウムシリンダー(JIS−A3003、アルミニウム合金)を支持体とした。
【0100】
23℃/60%RHの環境下で、導電層用塗布液1を支持体上に浸漬塗布し、これを30分間140℃で乾燥および熱硬化させることによって、膜厚が30μmの導電層を形成した。導電層の体積抵抗率を前述の方法で測定したところ、2.1×10Ω・cmであった。
【0101】
次に、N−メトキシメチル化ナイロン(商品名:トレジンEF−30T、帝国化学産業(株)製)4.5部および共重合ナイロン樹脂(商品名:アミランCM8000、東レ(株)製)1.5部を、メタノール65部/n−ブタノール30部の混合溶剤に溶解させることによって、下引き層用塗布液を調製した。この下引き層用塗布液を導電層上に浸漬塗布し、これを6分間70℃で乾燥させることによって、膜厚が0.85μmの下引き層を形成した。
【0102】
次に、CuKα特性X線回折におけるブラッグ角(2θ±0.2°)の7.5°、9.9°、16.3°、18.6°、25.1°および28.3°に強いピークを有する結晶形のヒドロキシガリウムフタロシアニン結晶(電荷発生物質)10部、ポリビニルブチラール(商品名:エスレックBX−1、積水化学工業(株)製)5部およびシクロヘキサノン250部を、直径0.8mmのガラスビーズを用いたサンドミルに入れ、分散処理時間:3時間の条件で分散処理を行い、次に、酢酸エチル250部を加えることによって、電荷発生層用塗布液を調製した。この電荷発生層用塗布液を下引き層上に浸漬塗布し、これを10分間100℃で乾燥させることによって、膜厚が0.12μmの電荷発生層を形成した。
【0103】
次に、下記式(CT−1)で示されるアミン化合物(電荷輸送物質)4.8部および下記式(CT−2)で示されるアミン化合物(電荷輸送物質)3.2部、
【化1】

【化2】

ならびに、ポリカーボネート(商品名:Z200、三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製)10部を、ジメトキシメタン30部/クロロベンゼン70部の混合溶剤に溶解させることによって、電荷輸送層用塗布液を調製した。この電荷輸送層用塗布液を電荷発生層上に浸漬塗布し、これを30分間110℃で乾燥させることによって、膜厚が12μmの電荷輸送層を形成した。
このようにして、電荷輸送層が表面層である電子写真感光体1を製造した。
【0104】
電子写真感光体1の周波数1.0×10Hzにおける誘電損失tanδを前述の方法で測定したところ、7×10−3であった。
【0105】
(電子写真感光体2〜20およびC1〜C7の製造例)
電子写真感光体の製造の際に用いた導電層用塗布液を、導電層用塗布液1から、それぞれ導電層用塗布液2〜20、C1〜C7に変更した以外は、電子写真感光体1の製造例と同様の操作で、電荷輸送層が表面層である電子写真感光体2〜20およびC1〜C7を製造した。電子写真感光体2〜20およびC1〜C7の周波数1.0×10Hzにおける誘電損失tanδを、電子写真感光体1と同様、前述の方法で測定した。また、電子写真感光体2〜20およびC1〜C7の導電層の体積抵抗率に関しても、電子写真感光体1の導電層と同様、前述の方法で測定した。それらの結果を表2に示す。
【0106】
(電子写真感光体21の製造例)
電子写真感光体の電荷発生層の形成の際に用いた電荷発生物質を、CuKα特性X線回折におけるブラッグ角(2θ±0.2°)の7.5°、9.9°、16.3°、18.6°、25.1°および28.3°に強いピークを有する結晶形のヒドロキシガリウムフタロシアニン10部から、CuKα特性X線回折におけるブラッグ角(2θ±0.2°)の9.0°、14.2°、17.9°、23.9°および27.1°に強いピークを有する結晶形のオキシチタニウムフタロシアニン結晶10部に変更した以外は、電子写真感光体1の製造例と同様の操作で、電荷輸送層が表面層である電子写真感光体21を作製した。電子写真感光体21の周波数1.0×10Hzにおける誘電損失tanδおよびその導電層の体積抵抗率を、電子写真感光体1と同様、前述の方法で測定した。その結果を表2に示す。
【0107】
(電子写真感光体22の製造例)
電子写真感光体の電荷輸送層の形成の際に用いた上記式(CT−1)で示されるアミン化合物の量を4.8部から7部に変更し、また、上記式(CT−2)で示されるアミン化合物3.2部を下記式(CT−3)で示されるアミン化合物1部
【化3】

に変更した以外は、電子写真感光体1の製造例と同様の操作で、電子写真感光体22を製造した。電子写真感光体22の周波数1.0×10Hzにおける誘電損失tanδおよびその導電層の体積抵抗率を、電子写真感光体1と同様、前述の方法で測定した。その結果を表2に示す。
【0108】
(電子写真感光体R1の製造例)
電子写真感光体の作製の際、導電層を形成しなかった以外は、電子写真感光体1の製造例と同様の操作で、電子写真感光体R1を製造した。電子写真感光体R1の周波数1.0×10Hzにおける誘電損失tanδを、電子写真感光体1と同様、前述の方法で測定した。その結果を表2に示す。
【0109】
【表2】

【0110】
(実施例1〜22、参考例1および比較例1〜7)
電子写真感光体1〜22、R1およびC1〜C7を、それぞれヒューレットパッカード社製のレーザービームプリンター(商品名:HP Laserjet P1505)に装着して、低温低湿(15℃/10%RH)環境下にて通紙耐久試験を行い、画像の評価を行った。通紙耐久試験では、印字率2%の文字画像をレター紙にて1枚ずつ出力する間欠モードでプリント操作を行い、3000枚の画像出力を行った。
【0111】
そして、通紙耐久試験開始時および3000枚画像出力終了後に各2枚の画像評価用のサンプル(ベタ白画像および1ドット桂馬パターンのハーフトーン画像)を出力した。
【0112】
なお、画像の評価は、帯電スジ、ポチ(黒ポチ)、カブリに関して行った。帯電スジの評価は、1ドット桂馬パターンのハーフトーン画像により行い、その基準は以下のとおりである。
A:帯電スジが全くなし。
B:帯電スジがほとんどなし。
C:帯電スジがわずかに観測される。
D:帯電スジが観測される。
E:帯電スジがはっきりわかる。
カブリおよび黒ポチの評価は、ベタ白画像により行った。
結果を表3に示す。
【0113】
また、上記の通紙耐久試験を行った電子写真感光体1〜22、R1およびC1〜C7とは別に、もう1つずつ電子写真感光体1〜22、R1およびC1〜C7を用意し、高温高湿(30℃/80%RH)にて上記と同様の通紙耐久試験を行い、帯電スジ以外の評価を行った。
【0114】
【表3】

【符号の説明】
【0115】
1 電子写真感光体
2 軸
3 帯電手段(一次帯電手段)
4 露光光(画像露光光)
5 現像手段
6 転写手段(転写ローラーなど)
7 クリーニング手段(クリーニングブレードなど)
8 定着手段
9 プロセスカートリッジ
10 案内手段
11 前露光光
P 転写材(紙など)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体、該支持体上に形成された導電層、および、該導電層上に形成された感光層を有する電子写真感光体において、
該導電層が、結着材料、および、リンまたはタングステンがドープされている酸化スズで被覆されている酸化チタン粒子を含有することを特徴とする電子写真感光体。
【請求項2】
前記導電層の体積抵抗率が、5.0×10Ω・cm以上1.0×1013Ω・cm以下である請求項1に記載の電子写真感光体。
【請求項3】
請求項1または2に記載の電子写真感光体と、帯電手段、現像手段、転写手段およびクリーニング手段からなる群より選択される少なくとも1つの手段とを一体に支持し、電子写真装置本体に着脱自在であることを特徴とするプロセスカートリッジ。
【請求項4】
請求項1または2に記載の電子写真感光体、ならびに、帯電手段、露光手段、現像手段および転写手段を有することを特徴とする電子写真装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−18371(P2012−18371A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−196408(P2010−196408)
【出願日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【特許番号】特許第4743921号(P4743921)
【特許公報発行日】平成23年8月10日(2011.8.10)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】