説明

電子写真機器用無端ベルト

【課題】ベルトの寄りや蛇行が防止されるとともに、ベルト内周面への異物の凝集を生じさせず、耐久性に優れた電子写真機器用無端ベルトを提供する。
【解決手段】少なくとも基層1を備えた電子写真機器用無端ベルトであって、上記基層1が、下記の(A)〜(C)を共重合させてなる変性ポリアミドイミド樹脂を用いて形成され、基層1内周面の静摩擦係数が0.2〜0.5の範囲に設定されているとともに、その基層1内周面における上記ベルトの左右両端の開口縁部全周にわたって、JIS−A硬度70〜90°のウレタン系エラストマー製蛇行防止用ガイド3が設けられている。
(A)芳香族イソシアネート化合物。
(B)芳香族系多価カルボン酸の無水物。
(C)分子中にポリジメチルシロキサン構造を有するシリコーンポリマーであって、片末端もしくは両末端に、上記(A)のイソシアネート基に対する反応基を有するシリコーンポリマー。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真機器用無端ベルトに関するものであり、詳しくは、フルカラーLBP(レーザービームプリンター)、フルカラーMFP(マルチファンクションプリンター)、フルカラーPPC(プレーンペーパーコピア)等の電子写真技術を採用した電子写真機器において、中間転写ベルトや紙転写搬送ベルト等に用いられる電子写真機器用無端ベルトに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、フルカラーLBP、フルカラーMFP、フルカラーPPC等の電子写真技術を採用した電子写真機器において、トナー像の転写用,紙転写搬送用,感光体基体用等の用途に、無端ベルト(シームレスベルト)が多用されている。このような無端ベルトとしては、例えば、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)等のフッ素系樹脂に、導電性カーボンブラックを配合したものを、ディッピング法等の成形方法により、筒状フィルムに形成したものが用いられている。
【0003】
しかし、上記フッ素系樹脂製ベルトは、電気特性には優れるものの、弾性率等のベルト物性が低くなるとともに、コストが高くなるという難点がある。
【0004】
一方、ポリアミドイミド樹脂にカーボンブラックを含有させてなる半導電性管状ポリアミドイミドを、画像形成装置用転写ベルトに用いることが提案されている(特許文献1参照)。しかし、上記特許文献1に記載のポリアミドイミド樹脂は、剛直な分子構造で構成されているため、剛性が高い。したがって、このようなポリアミドイミド樹脂を用いてなる画像形成装置用転写ベルトは、耐屈曲性が悪く、耐久性に劣る。
【0005】
ところで、従来、転写ベルト等の電子写真機器用無端ベルトは、消耗品として位置づけられてきたが、電子写真機器のメンテナンスフリー化やランニングコスト削減等の要請により、次世代の電子写真機器用無端ベルトにおいては、特に高耐久性が求められている。このような課題を解決するためにとられてきた手段として、例えば、上記無端ベルト内周面(裏面)の両端開口部付近の全周にわたり、所定幅の蛇行防止用ガイド(テープ)を貼着する技術が提案されている(特許文献2および3参照)。このようにすると、ベルトの寄りや蛇行が防止されるようになり、ベルトの機械的物性が向上するようになる。
【特許文献1】特開2003−261768公報
【特許文献2】特開平10−198179号公報
【特許文献3】特開平7−187435号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、電子写真機器内で上記無端ベルトを使用し続けているうちに、飛散したトナーや、上記蛇行防止用ガイド,エラストマーローラー等の磨耗屑や、上記蛇行防止用ガイドとベルトとの貼着に用いている粘着剤が溶け出したもの等の異物が、上記ベルトの内周面に付着し、凝集することがある。このような凝集物が、上記ベルトの内周面と、そのベルトを張架するローラーとの間に挟まると、その個所で、上記ベルトが突き上げられ、その突き上げられたベルト個所から亀裂が生じやすくなる。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、ベルトの寄りや蛇行が防止されるとともに、ベルト内周面への異物の凝集を生じさせず、耐久性に優れた電子写真機器用無端ベルトの提供をその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するため、本発明の電子写真機器用無端ベルトは、少なくとも基層を備えた電子写真機器用無端ベルトであって、上記基層が、下記の(A)〜(C)を共重合させてなる変性ポリアミドイミド樹脂を用いて形成され、基層内周面の静摩擦係数が0.2〜0.5の範囲に設定されているとともに、その基層内周面における上記ベルトの左右両端の開口縁部全周にわたって、JIS−A硬度70〜90°のウレタン系エラストマー製蛇行防止用ガイドが設けられているという構成をとる。
(A)芳香族イソシアネート化合物。
(B)芳香族系多価カルボン酸の無水物。
(C)分子中にポリジメチルシロキサン構造を有するシリコーンポリマーであって、片末端もしくは両末端に、上記(A)のイソシアネート基に対する反応基を有するシリコーンポリマー。
【0009】
本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意研究を重ねた。その研究の過程で、芳香族イソシアネート化合物と、芳香族系多価カルボン酸の無水物と、特定のシリコーンポリマーとを共重合させてなる変性ポリアミドイミド樹脂を作製し、この変性ポリアミドイミド樹脂を用いて電子写真機器用無端ベルトの基層(ベース層)を形成するとともに、その基層内周面の静摩擦係数が特定の範囲内になるよう設定すると、耐久性に優れるようになるとともに、ベルトの駆動性を損なうことなく、ベルト内周面への異物凝集が抑えられるようになることを突き止めた。さらに、この無端ベルト内周面(基層内周面)の両端開口部全周にわたって形成される蛇行防止用ガイドに関しても研究を重ねた結果、特定の硬度を有するウレタン系エラストマー製のガイドとすることにより、耐磨耗性等に優れ、磨耗屑の発生も抑えられるため、所期の目的が達成できることを見いだし、本発明に到達した。
【発明の効果】
【0010】
このように、本発明の電子写真機器用無端ベルトは、基層のみからなる単層、もしくは基層を含む2層以上の層からなる無端ベルトであって、その少なくとも基層が、特定の変性ポリアミドイミド樹脂を用いて形成され、さらに、基層内周面の静摩擦係数が特定の範囲に設定されているとともに、その基層内周面における上記ベルトの左右両端の開口縁部全周にわたって、特定硬度のウレタン系エラストマー製蛇行防止用ガイドが設けられている。そのため、本発明の無端ベルトは、耐久性に優れるとともに、ベルトの寄りや蛇行を防ぐことができ、しかも、ベルト内周面への異物(蛇行防止用ガイド等の磨耗屑、飛散トナー等)の凝集が生じにくくなるために、これらの凝集物が引き起こす諸問題(ベルトの亀裂発生等)が解消されるようになる。
【0011】
特に、上記基層と蛇行防止用ガイドとの間の接着が、エポキシ樹脂系、ウレタン樹脂系および変性シリコーン樹脂系のいずれかに属する反応硬化型接着剤によりなされていると、その接着後の溶出が生じず、溶出物の凝集物が引き起こす諸問題(ベルトの亀裂発生等)が解消されるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
つぎに、本発明の実施の形態について説明する。
【0013】
本発明の電子写真機器用無端ベルトは、例えば、図1に示すように、基層1の外周面に表層2が直接形成されて構成されており、上記基層1内周面における上記無端ベルトの左右両端の開口縁部全周にわたって、蛇行防止用ガイド3が設けられている。なお、図2は、上記無端ベルトを、その中央部付近で切断した際の部分断面図である。
【0014】
そして、本発明においては、上記基層1が、下記の(A)〜(C)を共重合(反応)させて得た変性ポリアミドイミド(PAI)樹脂を用いて形成され、基層1内周面の静摩擦係数が0.2〜0.5の範囲に設定されているとともに、上記蛇行防止用ガイド3が、JIS−A硬度70〜90°のウレタン系エラストマーによって形成されている。
(A)芳香族イソシアネート化合物。
(B)芳香族系多価カルボン酸の無水物。
(C)分子中にポリジメチルシロキサン構造を有するシリコーンポリマーであって、片末端もしくは両末端に、上記(A)のイソシアネート基に対する反応基を有するシリコーンポリマー。
【0015】
上記変性ポリアミドイミド(PAI)樹脂の形成に用いる、上記芳香族系イソシアネート化合物(A)としては、分子中に芳香族環を有する化合物であれば特に限定はないが、例えば、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、トルエンジイソシアネート(TDI)、トリジンジイソシアネート(TODI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、リジンジイソシアネート(LDI)、ナフタレンジイソシアネート(NDI)、パラフェニレンジイソシアネート(PPDI)、テトラメチルキシレンジイソシアネート(TMXDI)等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。これらのなかでも、反応性、コスト、溶解性の点で、MDI、TODIが好適に用いられる。
【0016】
また、上記芳香族系多価カルボン酸の無水物(B)としては、分子中に芳香族環を有し、上記芳香族系イソシアネート化合物(A)と縮合反応するものであれば特に限定はなく、例えば、芳香族系多価カルボン酸無水物(B1)、芳香族系多価カルボン酸二無水物(B2)等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。なお、本発明においては、上記芳香族系多価カルボン酸の無水物(B)とともに、芳香族系多価カルボン酸を併用しても差し支えない。
【0017】
上記芳香族系多価カルボン酸無水物(B1)としては、例えば、トリメリット酸無水物(無水トリメリット酸)、ナフタレン−1,2,4−トリカルボン酸無水物等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。これらのなかでも、反応性、コスト、溶解性等の点から、トリメリット酸無水物(無水トリメリット酸)が好適に用いられる。
【0018】
また、上記芳香族系多価カルボン酸二無水物(B2)としては、例えば、ベンゼン−1,2,4,5−テトラカルボン酸二無水物(ピロメリット酸二無水物)、ベンゾフェノン−3,3′,4,4′−テトラカルボン酸二無水物、ジフェニルエーテル−3,3′,4,4′−テトラカルボン酸二無水物、ベンゼン−1,2,3,4−テトラカルボン酸二無水物、ビフェニル−3,3′,4,4′−テトラカルボン酸二無水物、ビフェニル−2,2′,3,3′−テトラカルボン酸二無水物、ナフタレン−2,3,6,7−テトラカルボン酸二無水物、ナフタレン−1,2,4,5−テトラカルボン酸二無水物、ナフタレン−1,4,5,8−テトラカルボン酸二無水物、デカヒドロナフタレン−1,4,5,8−テトラカルボン酸二無水物、4,8−ジメチル−1,2,3,5,6,7−ヘキサヒドロナフタレン−1,2,5,6−テトラカルボン酸二無水物、2,6−ジクロロナフタレン−1,4,5,8−テトラカルボン酸二無水物、2,7−ジクロロナフタレン−1,4,5,8−テトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−テトラクロロナフタレン−1,4,5,8−テトラカルボン酸二無水物、フェナントレン−1,3,9,10−テトラカルボン酸二無水物、ペリレン−3,4,9,10−テトラカルボン酸二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、1,1−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、2,2−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,3−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、エチレングリコールビス(アンヒドロトリメリテート)、プロピレングリコールビス(アンヒドロトリメリテート)等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。これらのなかでも、反応性、コスト、溶解性等の点から、エチレングリコールビス(アンヒドロトリメリテート)が好適に用いられる。
【0019】
本発明における芳香族系多価カルボン酸の無水物(B)としては、上記芳香族系多価カルボン酸無水物(B1)と、芳香族系多価カルボン酸二無水物(B2)とを併用して用いることが好ましい。このように、B1とB2とを併用すると、変性PAI樹脂中のイミド基の比率が高くなるため、吸水性が低下し、無端ベルトの曲がり癖を改善することができるようになる。
【0020】
上記B1と、B2とのモル混合比は、B1/B2=90/10〜50/50の範囲内が好ましく、特に好ましくはB1/B2=80/20〜60/40の範囲内である。このような割合でB1とB2とを併用すると、耐屈曲性を悪化させずに、曲がり癖を改善することができるため好ましい。
【0021】
つぎに、上記(A)および(B)とともに用いられる特定のシリコーンポリマー(C)は、分子中にポリジメチルシロキサン構造を有するシリコーンポリマーであって、片末端もしくは両末端に、上記(A)のイソシアネート基に対する反応基を有するものであれば特に限定はなく、例えば、両末端に反応基を1個ずつ有するもの、もしくは片末端に反応基を2個有するもの等があげられる。
【0022】
上記ポリジメチルシロキサン構造は、下記の一般式(1)で表される構造単位を、繰り返し単位とする構造である。
【0023】
【化1】

【0024】
上記反応基としては、芳香族系イソシアネート化合物(A)のイソシアネート基と反応する官能基であれば特に限定はなく、例えば、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アミノ基等があげられる。
【0025】
上記両末端に反応基を有するシリコーンポリマーとしては、具体的には、両末端にカルボキシル基を1個ずつ有するカルボン酸両末端シリコーンポリマー(東レ・ダウコーニング・シリコーン社製、BY16−750)や、両末端にヒドロキシル基を有するシリコーンポリマー(東レ・ダウコーニング・シリコーン社製、SF8427)等があげられる。
【0026】
また、上記片末端に反応基を2個有するシリコーンポリマーとしては、具体的には、片末端にヒドロキシル基を2個有する片末端2官能シリコーンポリマー(信越化学工業社製、X−22−176DX)等があげられる。
【0027】
上記特定のシリコーンポリマー(C)の酸価は、1〜1000mgKOH/gの範囲内が好ましく、特に好ましくは4〜150mgKOH/gの範囲内である。
【0028】
また、上記特定のシリコーンポリマー(C)の数平均分子量(Mn)は、200〜40,000の範囲内が好ましく、特に好ましくは1,000〜20,000の範囲内である。
【0029】
上記特定のシリコーンポリマー(C)の配合割合は、上記(A)〜(C)の合計量全体〔なお、後述のように、カルボン酸両末端ポリマー(D)を用いる場合は、(A)〜(D)の合計量全体〕の1〜20重量%の範囲内が好ましく、特に好ましくは2〜15重量%の範囲内である。すなわち、特定のシリコーンポリマー(C)の配合割合が1重量%未満であると、摩擦係数が下がらないため、異物凝集を抑えることができず、逆に、20重量%を超えると、摩擦係数が下がり過ぎ、駆動ローラーに対し、ベルトが空回りするからである。
【0030】
なお、本発明に用いる上記変性ポリアミドイミド樹脂は、上記(A)〜(C)とともに、カルボン酸両末端ポリマー(D)を共重合させたものであっても差し支えない。上記カルボン酸両末端ポリマー(D)としては、ポリマーの末端にカルボン酸をそれぞれ1個有するものであれば特に限定はなく、例えば、カルボン酸両末端ポリブタジエン、カルボン酸両末端水素添加ポリブタジエン、カルボン酸両末端ポリエステル、カルボン酸両末端ポリアミド、カルボン酸両末端ポリアクリロニトリル−ブタジエン共重合体等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。
【0031】
上記ポリマーの両末端にカルボン酸を導入するために用いるカルボン酸としては、特に限定はなく、例えば、脂肪族カルボン酸、芳香族カルボン酸等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。
【0032】
上記脂肪族カルボン酸としては、例えば、アジピン酸、セバシン酸、スベリン酸、シュウ酸、コハク酸、コルク酸、アゼライン酸、ドデカンジカルボン酸、ウンデカンジカルボン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等があげられる。また、上記芳香族カルボン酸としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、クロルフタル酸、ニトロフタル酸等があげられる。
【0033】
上記カルボン酸両末端ポリマー(D)は、通常の製法に従って合成したポリブタジエン、水素添加ポリブタジエン、ポリエステル、ポリアミド等のポリマーの両末端に、上記のようなカルボン酸を導入することにより得ることができる。なお、上記ポリブタジエン、水素添加ポリブタジエン、ポリエステル、ポリアミド等のポリマーの合成法は、特に限定するものではない。例えば、ポリエステルやポリアミドは、第4版 実験化学講座28 高分子合成(日本化学会編、1992年、丸善株式会社発行)の第208頁〜第231頁および第252頁〜第287頁に記載の方法に準じて作製することができる。
【0034】
上記カルボン酸両末端ポリマー(D)のうち、カルボン酸両末端ポリエステルは、例えば、つぎのようにして作製することができる。すなわち、加熱装置、攪拌装置、還流装置、水分離器、蒸留塔および温度計を備えた反応槽に、アジピン酸やセバシン酸等のジカルボン酸と、メチルペンタンジオール,ノナンジオール,メチルオクタンジオール等のジオールとを仕込み、所定温度(例えば、220℃)まで所定時間(例えば、1時間)かけて昇温する。さらに所定温度(例えば、220℃)で縮重合反応を続けた後、所定温度(例えば、室温)まで冷却することにより、所望のカルボン酸両末端ポリエステルを得ることができる。
【0035】
なお、カルボン酸両末端ポリブタジエン等のカルボン酸両末端ポリマー(D)も、上記製法に準じて作製することができる。
【0036】
上記カルボン酸両末端ポリマー(D)の酸価は、15〜150mgKOH/gの範囲内が好ましく、特に好ましくは45〜110mgKOH/gの範囲内である。
【0037】
また、上記カルボン酸両末端ポリマー(D)の数平均分子量(Mn)は、750〜7500の範囲内が好ましく、特に好ましくは1000〜2500の範囲内である。
【0038】
上記カルボン酸両末端ポリマー(D)の配合割合は、上記(A)〜(D)の合計量全体の5〜50重量%の範囲内が好ましく、特に好ましくは10〜30重量%の範囲内である。すなわち、カルボン酸両末端ポリマー(D)の配合割合が5重量%未満であると、耐久性が悪くなる傾向がみられ、逆に50重量%を超えると、クリープ率が悪化する傾向がみられるからである。
【0039】
ここで、上記芳香族イソシアネート化合物(A)のイソシアネート基の総モル数(a)と、芳香族系多価カルボン酸の無水物(B)の酸無水物基とカルボキシル基との総モル数(b)、およびカルボン酸両末端ポリマー(D)のカルボキシル基の総モル数(d)の合計総モル数〔(b)+(d)〕とのモル混合比は、(a)/〔(b)+(d)〕=90/100〜130/100の範囲内が好ましく、特に好ましくは(a)/〔(b)+(d)〕=100/100〜120/100の範囲内である。すなわち、(a)/〔(b)+(d)〕の値が、上記上限または下限の範囲から外れると、PAI樹脂の分子量を高くすることが困難となり、耐久性が悪化する傾向がみられるからである。
【0040】
つぎに、上記変性PAI樹脂は、例えば、つぎのようにして調製することができる。すなわち、撹拌機、窒素導入管、温度計、冷却管を備えた反応容器を準備し、上記芳香族イソシアネート化合物(A)と、無水トリメリット酸等の芳香族系多価カルボン酸の無水物(B)と、特定のシリコーンポリマー(C)と、必要に応じてカルボン酸両末端ポリマー(D)とを所定量配合し、N−メチル−2−ピロリドン(NMP),N,N−ジメチルホルムアミド(DMF),N,N−ジメチルアセトアミド(DMAC),γ−ブチロラクトン等の極性溶剤を仕込み、窒素気流下、撹拌しながら所定時間(好ましくは、1〜3時間)かけて所定温度(好ましくは、130〜150℃)まで昇温する。つぎに、所定温度(好ましくは、130〜150℃)で所定時間(好ましくは、約3〜5時間)反応させた後、反応を停止することにより、変性PAI樹脂を調製することができる。
【0041】
このようにして得られる変性PAI樹脂は、数平均分子量(Mn)が5,000〜100,000の範囲内が好ましく、特に好ましくはMnが10,000〜50,000の範囲内である。すなわち、PAI樹脂のMnが5,000未満であると、引き裂き強度が低くなり、耐久性が悪化し、逆にPAI樹脂のMnが100,000を超えると、溶液粘度が高くなり加工性が悪化する傾向がみられるからである。なお、数平均分子量(Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)法により測定することができる。
【0042】
なお、上記基層1の形成に用いる材料(基層用材料)としては、上記変性PAI樹脂とともに、導電性充填剤やリン含有ポリエスル系樹脂等を用いても差し支えない。また、上記基層用材料には、上記各成分とともに、DMF,DMAC,トルエン,アセトン,NMP等の有機溶剤や、炭酸カルシウム等の通常の充填剤を、必要に応じて含有させることも可能である。
【0043】
上記導電性充填剤としては、特に限定はないが、例えば、カーボンブラック,グラファイト等の導電性粉末、アルミニウム粉末,ステンレス粉末等の金属粉末、導電性酸化亜鉛(c−ZnO),導電性酸化チタン(c−TiO2 ),導電性酸化鉄(c−Fe3 4 ),導電性酸化錫(c−SnO2 )等の導電性金属酸化物、第四級アンモニウム塩,リン酸エステル,スルホン酸塩,脂肪族多価アルコール,脂肪族アルコールサルフェート塩のようなイオン性導電剤等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。
【0044】
また、上記リン含有ポリエスル系樹脂としては、リン含有量がリン含有ポリエスル系樹脂全体の3〜15重量%の範囲内にあるものが好ましく、特に好ましくはリン含有量が5〜10重量%の範囲内にあるものである。上記リン含有量がこのような範囲内にあると、難燃性が向上するため好ましい。
【0045】
上記基層用材料は、例えば、前記変性PAI樹脂と、導電性充填剤と、有機溶剤と、充填剤とを必要に応じて適宜に配合し、撹拌羽根で混合した後、リングミル,ボールミル,サンドミル等を用いて分散させることにより調製することができる。
【0046】
つぎに、上記表層2の形成に用いる材料(表層用材料)としては、特に限定はなく、例えば、シリコーン系樹脂、フッ素系樹脂、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリアミド系樹脂等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。これらのなかでも、作業性を考慮して、液状または溶剤可溶タイプのものが好適に用いられる。また、汚れ防止、塗膜強度、あるいは密着性を向上させる目的で、前記樹脂材料を変性したものを用いてもよく、例えば、変性アクリル系樹脂があげられる。この変性アクリル系樹脂としては、アクリル樹脂の分子構造を母体とし、他の樹脂ないし樹脂成分で変性されたものであれば特に限定はないが、シリコーン変性アクリル系樹脂が好適に用いられる。
【0047】
上記シリコーン変性アクリル系樹脂としては、例えば、シリコーングラフトアクリル系樹脂があげられる。このシリコーングラフトアクリル系樹脂としては、アクリル系樹脂(主鎖)にシリコーン系樹脂がグラフト重合したものであれば特に限定するものではない。このシリコーングラフトアクリル系樹脂の具体例としては、東亞合成社製のサイマックUS−350等があげられる。
【0048】
なお、上記表層用材料としては、前記樹脂材料に対して、イソシアネート樹脂,アミノ樹脂,フェノール樹脂,キシレン樹脂等の樹脂架橋剤を用いて、樹脂架橋を施した材料や、感光性モノマーまたはポリマーに光重合開始剤を混合した紫外線硬化型材料を用いても差し支えない。
【0049】
上記表層用材料は、例えば、変性アクリル系樹脂と、DMF,トルエン,アセトン等の有機溶剤とを適宜に配合し、撹拌羽根で混合することにより調製することができる。なお、各層を精度良く形成するためには、隣接する層の形成材料に用いる有機溶剤は、互いに異なった種類のものを使用することが好ましい。すなわち、表層用材料に用いる有機溶剤と、基層用材料に用いる有機溶剤とは、互いに異なった種類のものを使用することが好ましい。
【0050】
ここで、前記図1に示した、本発明の電子写真機器用無端ベルトは、例えばつぎのようにして作製することができる。
【0051】
すなわち、前記と同様にして、基層用材料を調製し、これを、所定の金型(円筒形基体)の外周面にディスペンサーコーティングする。ついで、このものを150〜300℃で3〜6時間乾燥することにより、上記金型の外周面に、基層1を形成する。つぎに、この基層1の外周面に、前記と同様にして調製した表層用材料を、ディッピング法にてコーティングし乾燥した後、基層1と円筒形基体との間にエアーを吹き付けることにより、円筒形基体を抜き取り、基層1の外周面に、表層2が形成されてなる2層構造の無端ベルトを作製することができる。
【0052】
上記基層1内周面においては、その静摩擦係数が0.2〜0.5の範囲となるよう設定する必要がある。好ましくは、上記静摩擦係数が0.2〜0.4の範囲内である。すなわち、上記静摩擦係数が0.2未満であると、ベルトと張架ローラーとの間でスリップが発生し、ベルトの駆動性が損なわれるからであり、逆に、上記静摩擦係数が0.5を超えると、ベルト内周面への異物凝集の発生が顕著となり、それによる弊害(ベルトと張架ローラーとの間に凝集物が挟まることに起因するベルト亀裂等)を生じるからである。なお、上記静摩擦係数は、例えば、新東科学社製のHEIDONトライボギア ミューズ TYPE:94iIIにより測定することができる。
【0053】
なお、本発明の電子写真機器用無端ベルトの基層1は、上記製法以外に、押出成形法、インフレーション法、ブロー成形法、ディッピング法、遠心成形法、スプレー法等により、作製することも可能である。また、表層2の形成方法も、上記ディッピング法に限定されるものではなく、基層1の形成方法と同様な形成法であっても差し支えない。そして、上記表層2の形成を省略することにより、基層1のみからなる単層構造の無端ベルトとしてもよい。
【0054】
そして、本発明では、上記のような無端ベルトのベルト内周面(基層1内周面)の両端開口部全周にわたって、JIS−A硬度70〜90°のウレタン系エラストマーによって形成された蛇行防止用ガイド3を設ける必要がある(図1参照)。好ましくは、上記蛇行防止用ガイド3のJIS−A硬度が70〜80°の範囲内である。すなわち、上記蛇行防止用ガイドのJIS−A硬度が70°未満であると、耐磨耗性等に劣るようになり、その磨耗屑の発生による弊害(ベルトと張架ローラーとの間に磨耗屑等が挟まることに起因するベルト亀裂等)を生じるからである。逆に、上記蛇行防止用ガイドのJIS−A硬度が90°を超えると、蛇行防止用ガイドの柔軟性が悪化し、そのガイド端部(特に、ベルト内周面との接着部分のエッジ部)に応力が集中して、結果、それに起因するベルト亀裂が発生するからである。
【0055】
上記蛇行防止用ガイド3の形成材料であるウレタン系エラストマーとしては、蛇行防止用ガイド3のJIS−A硬度が上記特定の範囲となるものであれば、特に限定はなく、具体的には、エーテル系ウレタン、エステル系ウレタン、カーボネート系ウレタン等が用いられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。
【0056】
また、上記蛇行防止用ガイド3と、ベルト内周面(基層1内周面)の両端開口部全周との間の接着には、通常、従来公知の接着剤等が用いられるが、なかでも、エポキシ樹脂系、ウレタン樹脂系、変性シリコーン樹脂系のいずれかに属する反応硬化型接着剤により接着がなされていると、その接着後に溶出物が発生せず、その凝集物が引き起こす諸問題(ベルトと張架ローラーとの間に上記凝集物等が挟まることに起因するベルト亀裂等)が解消されるようになるため、好ましい。
【0057】
本発明の電子写真機器用無端ベルトにおける各層の厚みは、ベルトの用途に応じて適宜に設定されるが、基層1の厚みは、通常、30〜300μmの範囲内であり、好ましくは50〜200μmの範囲内である。また、表層2の厚みは、0.1〜10μmの範囲内が好ましく、特に好ましくは0.5〜5μmの範囲内である。さらに、上記基層1の内周長が90〜1500mmで、ベルト幅が100〜500mm程度のものが好ましい。そして、上記基層1の内周面に設けられた蛇行防止用ガイド3の厚みは、0.5〜2.0mmの範囲内が好ましく、特に好ましくは0.5〜1.5mmの範囲内であり、幅は、3〜10mmの範囲内が好ましく、特に好ましくは4〜7mmの範囲内である。すなわち、上記寸法の範囲内に設定すると、電子写真複写機等に組み込んで使用するのに適した大きさとなるからである。
【0058】
なお、前述のように、本発明の電子写真機器用無端ベルトは、基層1の外周面に表層2を直接形成した2層構造に限定されるものではなく、例えば、基層1のみからなる単層構造であってもよい。また、基層1と表層2との間に、熱可塑性樹脂層もしくはゴム弾性層を介在させた3層構造、基層1と表層2との間に、熱可塑性樹脂層およびゴム弾性層の双方を介在させた4層構造等であっても差し支えない。ただし、これらの場合において、基層1は、前述の変性PAI樹脂を用いて形成されている必要がある。
【0059】
この場合、上記基層1と表層2との間に介在させる熱可塑性樹脂層用材料としては、特に限定はないが、熱可塑性樹脂とともに、必要に応じて、メチルエチルケトン(MEK),トルエン等の溶剤等が用いられる。なお、この熱可塑性樹脂層用材料中にも、先に述べたような、導電性充填剤を配合しても差し支えない。
【0060】
また、上記熱可塑性樹脂としては、特に限定はなく、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF),テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA),エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)等のフッ素系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリカーボネート(PC)系樹脂、ポリアミド系樹脂、EVA(エチレン−酢酸ビニル共重合体)系樹脂、EEA(エチレン−アクリル酸エチル共重合体)系樹脂等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。これらのなかでも、難燃性に優れる点で、PVDF等のフッ素系樹脂を用いることが好ましい。
【0061】
また、上記基層1と表層2との間に介在させるゴム弾性層用材料としては、ゴム材および加硫剤とともに、必要に応じて、加硫促進剤、溶剤、加工助剤、老化防止剤等が用いられる。なお、このゴム弾性層用材料中にも、先に述べたような、導電性充填剤を配合しても差し支えない。
【0062】
上記ゴム材としては、特に限定はないが、難燃性の観点から、塩素化ポリエチレンゴム(CPE)、クロロプレンゴム(CR)等が用いられる。これらのなかで、電子写真機器用無端ベルトに要求される電気特性、弾力性、耐久性に合わせて最適材料が選定される。
【0063】
本発明の電子写真機器用無端ベルトは、フルカラーLBPやフルカラーPPC等の電子写真技術を採用した電子写真機器において、トナー像の転写用,紙転写搬送用,感光体基体用等の用途に好適に用いられるが、これに限定するものではなく、例えば、フルカラーではない、単色の電子写真複写機の転写ベルト等にも使用することができる。
【0064】
つぎに、実施例について比較例と併せて説明する。
【実施例】
【0065】
〔実施例1〕
(基層用材料の調製)
撹拌機、窒素導入管、温度計、冷却管を備えた反応容器に、MDI(日本ポリウレタン社製、ミリオネートMT、Mn:250.26)22重量部(以下「部」と略す)と、TODI(日本曹達社製、TODI/R203、Mn:264.29)29部と、芳香族系多価カルボン酸無水物(B1)である無水トリメリット酸(Mn:192.12)37部と、特定のシリコーンポリマー(C)として、両末端にカルボキシル基を1個ずつ有するカルボン酸両末端シリコーンポリマー(東レ・ダウコーニング・シリコーン社製、BY16−750、酸価:75mgKOH/g、Mn:1496)15部と、NMP溶剤280部とを仕込み、窒素気流下、撹拌しながら1時間かけて130℃まで昇温し、そのまま130℃で約5時間反応させた後反応を停止し、PAI−NMP溶液(固形分濃度:29重量%)を調製した。つぎに、このPAI−NMP溶液に、カーボンブラック(昭和キャボット社製、ショウブラックN220)4部を配合し、撹拌羽根で混合した後、ボールミル分散させて基層用材料を調製した。
【0066】
(表層用材料の調製)
シリコーングラフトアクリル系樹脂(東亞合成社製、サイマックUS−350)100部と、トルエン溶剤500部とを配合し、撹拌羽根で混合して、表層用材料を調製した。
【0067】
(無端ベルトの作製)
円筒形金型を準備し、この外周面に上記基層用材料をディスペンサーコーティングして、金型の外周面に基層を形成し、250℃で2時間加熱処理をした。つぎに、この基層の外周面に、上記表層用材料をディッピング法にてコーティングし、乾燥した後、基層と円筒形基体との間にエアーを吹き付けることにより、円筒形金型を抜き取り、基層(厚み:80μm、内周長:780mm、ベルト幅:250mm)の外周面に、表層(厚み:1μm)が形成されてなる2層構造の無端ベルトを作製した。続いて、JIS−A硬度80°である、ウレタン系エラストマー(日本バルカー社製、タフレンR5580)製の帯状の蛇行防止用ガイド(厚み:1mm、幅:4mm)を、エポキシ樹脂系の反応硬化型接着剤(セメダイン社製、EP170)を用い、上記無端ベルト裏面(基層内周面)の両端開口部全周にわたって接着した(図1参照)。このようにして、目的とする電子写真機器用無端ベルトを作製した。
【0068】
〔実施例2〕
上記実施例1の基層用材料に用いられる特定のシリコーンポリマー(C)の配合量を3部に変更し、用いた。それ以外は、実施例1と同様にして、基層用材料の調製を行った。そして、この基層用材料を用い、実施例1と同様(表層用材料等もすべて同様)にして2層構造の無端ベルトを作製し、さらに、実施例1と同様の蛇行防止用ガイドを、同様の接着剤を用いて接着し、目的とする電子写真機器用無端ベルトを得た。
【0069】
〔実施例3〕
上記実施例1の基層用材料に用いられる特定のシリコーンポリマー(C)に代え、信越化学工業社製のX−22−176DX(酸価:30mgKOH/g、Mn:3740)を9部用いた。それ以外は、実施例1と同様にして、基層用材料の調製を行った。そして、この基層用材料を用い、実施例1と同様(表層用材料等もすべて同様)にして2層構造の無端ベルトを作製した。続いて、実施例1の蛇行防止用ガイドに代えて、JIS−A硬度70°であるウレタン系エラストマー(タイガースポリマー社製、TR100−70)製の帯状の蛇行防止用ガイド(厚み:1mm、幅:4mm)を用い、これを実施例1と同様の接着剤を用いて接着し、目的とする電子写真機器用無端ベルトを得た。
【0070】
〔実施例4〕
上記実施例1の基層用材料に用いられる特定のシリコーンポリマー(C)に代え、信越化学工業社製のX−22−176DX(酸価:30mgKOH/g、Mn:3740)を9部用いた。それ以外は、実施例1と同様にして、基層用材料の調製を行った。そして、この基層用材料を用い、実施例1と同様(表層用材料等もすべて同様)にして2層構造の無端ベルトを作製した。続いて、実施例1の蛇行防止用ガイドに代えて、JIS−A硬度90°であるウレタン系エラストマー(タイガースポリマー社製、TR100−90)製の帯状の蛇行防止用ガイド(厚み:1mm、幅:4mm)を用い、これを実施例1と同様の接着剤を用いて接着し、目的とする電子写真機器用無端ベルトを得た。
【0071】
〔実施例5〕
上記実施例1の基層用材料に用いられる特定のシリコーンポリマー(C)に代え、東レ・ダウコーニング・シリコーン社製のSF8427(酸価:47mgKOH/g、Mn:2400)を10部用いた。それ以外は、実施例1と同様にして、基層用材料の調製を行った。そして、この基層用材料を用い、実施例1と同様(表層用材料等もすべて同様)にして2層構造の無端ベルトを作製した。続いて、実施例1と同様の蛇行防止用ガイドを、ウレタン樹脂系の反応硬化型接着剤(三井武田ケミカル社製、タケラックW−2501)を用いて接着し、目的とする電子写真機器用無端ベルトを得た。
【0072】
〔実施例6〕
上記実施例1の基層用材料に用いられる特定のシリコーンポリマー(C)に代え、東レ・ダウコーニング・シリコーン社製のSF8427(酸価:47mgKOH/g、Mn:2400)を10部用いた。それ以外は、実施例1と同様にして、基層用材料の調製を行った。そして、この基層用材料を用い、実施例1と同様(表層用材料等もすべて同様)にして2層構造の無端ベルトを作製した。続いて、実施例1と同様の蛇行防止用ガイドを、変性シリコーン樹脂系の反応硬化型接着剤(ケミテック社製、S292)を用いて接着し、目的とする電子写真機器用無端ベルトを得た。
【0073】
〔比較例1〕
上記実施例1の基層用材料に用いられる特定のシリコーンポリマー(C)の配合量を22部に変更し、用いた。それ以外は、実施例1と同様にして、基層用材料の調製を行った。そして、この基層用材料を用い、実施例1と同様(表層用材料等もすべて同様)にして2層構造の無端ベルトを作製し、さらに、実施例1と同様の蛇行防止用ガイドを、同様の接着剤を用いて接着し、目的とする電子写真機器用無端ベルトを得た。
【0074】
〔比較例2〕
上記実施例1の基層用材料に用いられる特定のシリコーンポリマー(C)に代え、信越化学工業社製のX−22−176DX(酸価:30mgKOH/g、Mn:3740)を0.1部用いた。それ以外は、実施例1と同様にして、基層用材料の調製を行った。そして、この基層用材料を用い、実施例1と同様(表層用材料等もすべて同様)にして2層構造の無端ベルトを作製し、さらに、実施例1と同様の蛇行防止用ガイドを、同様の接着剤を用いて接着し、目的とする電子写真機器用無端ベルトを得た。
【0075】
〔比較例3〕
上記実施例1の基層用材料に用いられる特定のシリコーンポリマー(C)の配合量を8部に変更し、用いた。それ以外は、実施例1と同様にして、基層用材料の調製を行った。そして、この基層用材料を用い、実施例1と同様(表層用材料等もすべて同様)にして2層構造の無端ベルトを作製した。続いて、実施例1の蛇行防止用ガイドに代えて、JIS−A硬度65°であるウレタン系エラストマー(シーダム社製、DUS614)製の帯状の蛇行防止用ガイド(厚み:1mm、幅:4mm)を用い、これを実施例1と同様の接着剤を用いて接着し、目的とする電子写真機器用無端ベルトを得た。
【0076】
〔比較例4〕
上記実施例1の基層用材料に用いられる特定のシリコーンポリマー(C)に代え、東レ・ダウコーニング・シリコーン社製のSF8427(酸価:47mgKOH/g、Mn:2400)を10部用いた。それ以外は、実施例1と同様にして、基層用材料の調製を行った。そして、この基層用材料を用い、実施例1と同様(表層用材料等もすべて同様)にして2層構造の無端ベルトを作製した。続いて、実施例1の蛇行防止用ガイドに代えて、JIS−A硬度95°であるウレタン系エラストマー(日本バルカー社製、タフレンR5795)製の帯状の蛇行防止用ガイド(厚み:1mm、幅:4mm)を用い、これを実施例1と同様の接着剤を用いて接着し、目的とする電子写真機器用無端ベルトを得た。
【0077】
〔比較例5〕
上記実施例1の基層用材料に用いられる特定のシリコーンポリマー(C)の配合量を8部に変更し、用いた。それ以外は、実施例1と同様にして、基層用材料の調製を行った。そして、この基層用材料を用い、実施例1と同様(表層用材料等もすべて同様)にして2層構造の無端ベルトを作製した。続いて、実施例1の蛇行防止用ガイドに代えて、JIS−A硬度70°であるエチレン−プロピレン−ジエン三元共重合体(EPDM)(日東化工社製、EPT−710Z)製の帯状の蛇行防止用ガイド(厚み:1mm、幅:4mm)を用い、これを実施例1と同様の接着剤を用いて接着し、目的とする電子写真機器用無端ベルトを得た。
【0078】
このようにして得られた実施例および比較例の無端ベルトを用い、下記の基準に従って各特性の評価を行った。これらの結果を後記の表1〜2に併せて示した。
【0079】
〔裏面摩擦係数〕
新東科学社製のHEIDONトライボギア ミューズ TYPE:94iIIにより、ベルト裏面(基層内周面)の静摩擦係数を測定した。
【0080】
〔ベンチ耐久試験〕
直径13mmの金属製ローラーを2本準備し、2本の金属製ローラー間にシームレスベルト(幅150mm)を張架した状態で、一方の金属製ローラーをテーブル上に固定した。ついで、テーブルに固定していない他方の金属製ローラーが、テーブルの端部(テーブル上)になるように配置し、その金属製ローラーの両端にオモリを2kgずつ吊り下げ(総荷重4kg。上記オモリはテーブルの端からぶら下がった状態)、シームレスベルトにテンションをかけた状態にして、ラボ環境(25℃×40%)下で、シームレスベルトを回転させた。そして、シームレスベルトに亀裂が確認できるまでの累積回転数を測定した。なお、表において、30万回転以上耐久できたものを「300K<」と表示した。そして、この表示の有無を、本発明品の基準の一つとする。
【0081】
〔異物粘着性〕
無端ベルトを、転写ベルトとしてフルカラーPPCに組み込み、3万枚の複写を行った。その後、ベルト裏面に付着した磨耗屑(異物)を採取し、粘着性の有無を触感により評価した。
【0082】
〔摩耗屑凸画像不具合〕
上記3万枚複写後の画像を、つぎの基準で目視評価した。すなわち、摩耗屑の凝集物が、ベルト裏面と、そのベルトを張架するローラーとの間に挟まることにより生じた、ベルト表面側の凸変形による画像不具合(斑点濃度むら等)が確認されたものを、×として表示し、そのような画像不具合が確認されなかったものを○として表示した。
【0083】
〔画像ずれ〕
上記3万枚複写中の画像を目視評価した結果、ベルトのスリップによる画像のずれが確認されたものを「有り」として表示し、そのような不具合が確認されなかったものを「無し」として表示した。
【0084】
【表1】

【0085】
【表2】

【0086】
上記結果から、いずれの実施例品も、裏面摩擦係数が特定の範囲内に設定され、かつ、その蛇行防止用ガイドが、特定硬度のウレタン系エラストマーからなるものであるため、ベルト裏面への磨耗屑等の付着も殆どなく、磨耗屑の付着があっても、その粒径は微細であり、磨耗屑の挟み込みにより生じる画像不具合もなく、ベルトの亀裂も生じ難かった。
【0087】
これに対し、比較例1品は、耐久性等には優れていたが、スリップによる画像ずれが生じた。比較例2〜5品は、耐久試験による亀裂がみられ、特に、比較例4品以外では、磨耗屑の挟み込みにより生じる画像不具合が生じた。また、比較例5品では、耐久使用により、EPDMガイドの摩耗によるものとみられる粘着性磨耗屑が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明の電子写真機器用無端ベルトは、フルカラーLBP(レーザービームプリンター)やフルカラーPPC(プレーンペーパーコピア)等の電子写真技術を採用した電子写真機器において、中間転写ベルトや紙転写搬送ベルト等に好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】本発明の電子写真機器用無端ベルトの一例を示す斜視図である。
【図2】上記電子写真機器用無端ベルトの部分断面図である。
【符号の説明】
【0090】
1 基層
2 表層
3 蛇行防止用ガイド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも基層を備えた電子写真機器用無端ベルトであって、上記基層が、下記の(A)〜(C)を共重合させてなる変性ポリアミドイミド樹脂を用いて形成され、基層内周面の静摩擦係数が0.2〜0.5の範囲に設定されているとともに、その基層内周面における上記ベルトの左右両端の開口縁部全周にわたって、JIS−A硬度70〜90°のウレタン系エラストマー製蛇行防止用ガイドが設けられていることを特徴とする電子写真機器用無端ベルト。
(A)芳香族イソシアネート化合物。
(B)芳香族系多価カルボン酸の無水物。
(C)分子中にポリジメチルシロキサン構造を有するシリコーンポリマーであって、片末端もしくは両末端に、上記(A)のイソシアネート基に対する反応基を有するシリコーンポリマー。
【請求項2】
上記基層と蛇行防止用ガイドとの間の接着が、エポキシ樹脂系、ウレタン樹脂系および変性シリコーン樹脂系のいずれかに属する反応硬化型接着剤によりなされている請求項1記載の電子写真機器用無端ベルト。
【請求項3】
上記(C)のシリコーンポリマーの配合割合が、上記(A)〜(C)の合計量全体の1〜20重量%の範囲内に設定されている請求項1または2記載の電子写真機器用無端ベルト。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−227119(P2006−227119A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−38266(P2005−38266)
【出願日】平成17年2月15日(2005.2.15)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【Fターム(参考)】