説明

電子回路装置

【課題】電子回路部を収納するケース体とカバー部材との接触部から封止部材となる液状樹脂が漏れることを防止することが可能な電子回路装置を提供すること。
【解決手段】電子回路部10の収納空間を形成するケース20とカバー30との接触部50となるケース20側の接触面25に、フッ素樹脂のコーティング層26が形成されており、電子回路部10の収納空間に液状樹脂41を充填した際に、ケース20とカバー30との接触部50のクリアランスに侵入し毛細管現象により外部に向かって這い上がろうとする液状樹脂41をコーティング層26により弾く。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケース体とカバー部材とにより形成される収納空間に収納された電子回路部を封止樹脂で封止した電子回路装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術として、下記特許文献1に開示された電子回路装置がある。この電子回路装置では、ケース体内に収納した電子回路部を封止樹脂で封止して、電子回路部を保護している。
【特許文献1】特開2002−343907号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、電子回路部を収納する空間をケース体とケース体の開口を塞ぐカバー部材とにより構成し、封止部材となる液状樹脂をケース体とカバー部材との境界面の内周端(接触面の内側端部)より上方まで充填した場合には、ケース体とカバー部材との接触部から外部に液状樹脂が漏れる場合があるという問題がある。
【0004】
本発明は、上記点に鑑みてなされたものであり、電子回路部を収納するケース体とカバー部材との接触部から封止部材となる液状樹脂が漏れることを防止することが可能な電子回路装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、
電子回路をなす電子回路部と、
電子回路部を内部に収納するケース体と、
ケース体の開口部を閉塞するカバー部材と、
ケース体内に充填された液状樹脂を硬化してなり、電子回路部を封止するための封止部材とを備え、
封止部材が液状樹脂の状態でケース体内に充填された際の上面が、ケース体とカバー部材とが相互に接触する接触部の内側端部より上方となる電子回路装置であって、
ケース体の接触部となる部位に、フッ素樹脂コーティングが施されていることを特徴としている。
【0006】
これによると、ケース体とカバー部材との接触部のクリアランスに侵入しようとする液状樹脂を、ケース体のカバー部材との接触部となる部位に施したフッ素樹脂コーティングにより弾き、液状樹脂が接触部から外部に漏れることを防止することができる。
【0007】
また、請求項2に記載の発明では、ケース体には、カバー部材との接触部となる部位のみに、フッ素樹脂コーティングが施されていることを特徴としている。
【0008】
これによると、液状樹脂の漏れ防止に必要な部位のみにフッ素樹脂をコーティングしているので、フッ素樹脂の使用量を低減することができる。
【0009】
また、請求項3に記載の発明では、カバー部材の接触部となる部位にも、フッ素樹脂コーティングが施されていることを特徴としている。
【0010】
これによると、ケース体とカバー部材との接触部のクリアランスに侵入しようとする液状樹脂を、ケース体およびカバー部材の両者に施したフッ素樹脂コーティングにより確実に弾き、液状樹脂が接触部から外部に漏れることを一層確実に防止することができる。
【0011】
また、請求項4に記載の発明では、電子回路部は、ケース体の外表面に露出したセンサ部を有することを特徴としている。
【0012】
これによると、液状樹脂が外部に漏れケース体の外表面に露出したセンサ部に付着することを防止することができる。
【0013】
そして、請求項5に記載の発明のように、センサ部が超音波の送信および受信の少なくともいずれかを行うものである場合には、センサ部に樹脂が付着すると超音波振動を阻害して機能不良に陥る恐れがあり、センサ部に樹脂の付着を防止できる効果は極めて大きい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を図に基づいて説明する。
【0015】
図1は、本発明を適用した一実施形態における電子回路装置である超音波センサ装置1の外観を示す斜視図である。図2および図3は、超音波センサ装置1の組立工程を説明するための斜視図であり、図4は、超音波センサ装置1の要部断面図である。
【0016】
図1に示す超音波センサ装置1は、外殻筐体をなすケース20(ケース体に相当)およびカバー30(カバー部材に相当)と、筐体内に収納される電子回路部10(図2参照)と、電子回路部10を振動や水、塵等から保護するための封止樹脂40(封止部材に相当)とから構成されている。
【0017】
電子回路部10はケース20の外表面に露出したセンサ部11を有しており、超音波センサ装置1は、車両のバンパ等に装着されてセンサ部11で超音波の送受信を行い、車両と障害物等との距離を検出するための装置である。
【0018】
ケース20は、図示上方側の角筒部21と図示下方側の円筒部22とを連結した形状をなしており、図2に示すように、内部に電子回路部10を収納するようになっている。そして、センサ部11は円筒部22内に収納されて、センサ部11の先端部が円筒部22の底面において露出するようになっている。また、角筒部21の側面部にはコネクタ23が設けられており、コネクタ23の端子部が電子回路部10と電気的に接続されている。
【0019】
図2に示すように、ケース20は、角筒部21の上部側が開口しており、開口縁部24の内側にカバー30が装着されるようになっている。カバー30には、ケース20の開口形状に対応して略矩形状であり、中心から若干ずれた位置に、封止樹脂40となる液状樹脂41(図4参照)を注入するための注入口31が形成されているとともに、周縁部にはケース20の開口縁部24の内側に嵌合する嵌合壁部32が形成されている。
【0020】
ケース20およびカバー30は、ともに樹脂材料(例えばポリブチレンテレフタレート樹脂)を射出成形して形成されており、本例では、それぞれ複数個取りの金型で成形されている。
【0021】
ケース20の開口縁部24のうち、コネクタ23が設けられている側の一部は、残部より高さが低い低位部241となっている。この低位部241は、ケース20内に電子回路部10を収納した後、ケース20内における加工(例えば、電気回路部10とコネクタ23端子部との電気的接続加工等)を容易にするために形成されている。
【0022】
図4は、ケース20とカバー30とを組付けた状態における低位部241領域の縦断面を示す図である。
【0023】
図4に示すように、ケース20の開口縁部24には、内側に向かうほど高さ寸法(図示上下寸法)が小さくなるように複数の段部が形成されている。一方、カバー30の嵌合壁部32には、ケース20開口縁部24の内側面の段部に対応するように、内側に向かうほど高さ寸法(図示上下寸法)が大きくなるように複数の段部が形成されている。
【0024】
そして、ケース20の内側にカバー30が嵌合するように装着されて、ケース20開口縁部24の段部を有する内側面と、カバー30嵌合縁部32の段部を有する外側面とが相互に接触し、屈曲する接触部50形成されている。前述した封止樹脂40は、ケース20およびカバー30により形成された電子回路部10の収納空間を満たすように充填されており、ケース20とカバー30との接触部50の内側端部501より上方にあるカバー30の注入口31まで充填されている。
【0025】
ここで、接触部50を形成するケース20側の面およびとカバー30側の面、すなわちケース20の接触面25およびカバー30の接触面33のうち、ケース20の接触面25には、図2および図4に示すように、フッ素樹脂をコーティングしてなるコーティング層26が形成されている。
【0026】
次に、上記構成の超音波センサ装置1の組立方法を簡単に説明する。
【0027】
まず、図2に示すように、開口縁部24内側の接触面25のみにコーティング層26を形成したケース20内に電子回路部10を装着する。コーティング層26は、フッ素樹脂と溶剤とからなる塗布液を接触面25のみに塗布し温風で乾燥して形成している。次に、ケース20の開口縁部24の内側にカバー30を嵌合装着する。
【0028】
さらに、図3に示すように、カバー30の注入口31からケース20とカバー30とにより形成された電子回路部10収納空間に、ディスペンサ等の充填機100を用いて封止樹脂40となる液状樹脂41を充填する。本例では、液状樹脂41としてウレタン樹脂を採用している。液状樹脂41は、図4に示すように、上面411が接触部50の内側端部501より上方となる注入口31の開口位置まで充填される。ちなみに、液状樹脂41の上面411は、接触部50の内側端部501より上方であるばかりでなく、接触部50の内側端部501より高い外側端部よりも上方にある。
【0029】
電子回路部10収納空間への液状樹脂41の充填を完了したら、樹脂の加熱硬化(例えば、80℃10分程度の加熱硬化)を行い、液状樹脂41を硬化して封止樹脂40とする。
【0030】
上述の構成および組立方法によれば、ケース20の接触部50となる部位である接触面25に、フッ素樹脂のコーティング層26が形成されている。これによって、電子回路部10の収納空間に液状樹脂41を充填した際に、ケース20とカバー30との接触部50のクリアランスに内側端部501から侵入し毛細管現象により外部に向かって這い上がろうとする液状樹脂41をコーティング層26により弾き、液状樹脂41が接触部50から外部に漏れることを防止することができる。
【0031】
液状樹脂41の加熱硬化を開始した直後は、加熱硬化反応による高分子相互の結合に伴う粘度上昇よりも温度上昇による高分子の可塑化に伴う粘度降下が大きく、液状樹脂41は注入時よりも粘度が一時低下する。この液状樹脂41が最低粘度となったときであっても、液状樹脂41の接触部50クリアランスへの侵入を防止することができる。
【0032】
本実施形態のように、ケース20およびカバー30をそれぞれ複数個取りの金型で成形している場合には、ケース20とカバー30との組み合わせによらず液状樹脂41の侵入を抑制できる接触部50の密着状態を得ようとすると、金型の調整や成形条件の調整に手間がかかり、工程管理が非常に複雑になるという問題がある。
【0033】
ところが、フッ素樹脂のコーティング層26を採用すれば、具体的には、接触部50のクリアランスが数十μm〜100μmあったとしても、数μm〜10μmのコーティング層26を形成するだけで、液状樹脂41の接触部50クリアランスへの侵入を防止することができることを、本発明者らは確認している。
【0034】
フッ素樹脂のコーティング層26を形成していない場合には、例えば図5に示すように、封止樹脂40となる液状樹脂41がケース920とカバー30との接触部950のクリアランスに侵入して外部に向かって進行し、ケース920の外表面に液状樹脂の垂れ(液塊)941ができてしまう場合がある(図6も参照)。この垂れは、超音波センサ装置1を車両に搭載する際の障害となったり、センサ部に付着するとセンサが機能障害を発生したりする。
【0035】
これに対し、本実施形態によれば、液状樹脂41の外部への漏れを防止することで、液状樹脂41がケース20の外表面に付着して搭載時の障害となったり、ケース20の外周面に露出したセンサ部11に樹脂が付着して超音波の送受信を阻害したりすることを確実に防止することができる。
【0036】
また、コーティング層26は、ケース20の接触面25のみに形成しているので、フッ素樹脂の使用量が少量で済むとともに、液状樹脂41を弾くコーティング層26を接触部50以外の部位に形成しないことで、封止樹脂40とケース20やカバー30との密着性を向上することが容易である。これにより、封止樹脂40による高い封止性能を得ることができる。
【0037】
さらに、コーティング層26を形成する接触面25はケース20の内周側の面であるので、フッ素樹脂塗布液の塗布乾燥を行う際にケース20の外周面を把持でき、把持位置の自由度が大きいので、コーティング層26形成工程を容易に行うことができる。
【0038】
(他の実施形態)
上記一実施形態では、フッ素樹脂のコーティング層26はケース20の接触面25のみに形成するものであったが、コーティング層26はケース20の接触面25以外にも形成するものであってもよい。
【0039】
また、上記一実施形態では、フッ素樹脂のコーティング層26はケース20の接触面25のみに形成するものであったが、カバー30の接触面33にも形成するものであってもよい。両接触面25、33にフッ素樹脂層を形成することで、液状樹脂41を確実に弾き、液状樹脂41が接触部25から外部に漏れることを一層確実に防止することができる。
【0040】
また、上記一実施形態では、超音波センサ装置1に本発明を適用した場合について説明したが、他のセンサ装置に適用するものであってもよい。特に、センサ部がケース体の外表面に露出したセンサ装置であればセンサ部への樹脂付着を防止でき、センサ部の機能障害を引き起こすことがなく非常に有効である。また、センサ装置に限らず、ケース体とカバー部材とにより形成される空間に収納される電子回路部を樹脂封止する電子回路装置であれば、本発明を広く適用して有効である。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明を適用した一実施形態における電子回路装置である超音波センサ装置1の外観を示す斜視図である。
【図2】超音波センサ装置1の組立工程の一部を説明するための斜視図である。
【図3】超音波センサ装置1の組立工程の一部を説明するための斜視図である。
【図4】超音波センサ装置1の要部断面図である。
【図5】図4の要部に対応する比較例の部位の断面図である。
【図6】図5に示す比較例の部位の外観斜視図である。
【符号の説明】
【0042】
1 超音波センサ装置(電子回路装置)
10 電子回路部
11 センサ部
20 ケース(ケース体)
25、33 接触面(接触部50となる部位)
26 コーティング層(フッ素樹脂コーティング)
30 カバー(カバー部材)
40 封止樹脂(封止部材)
41 液状樹脂
50 接触部
411 上面(液状樹脂41の上面)
501 内側端部(接触部50の内側端部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子回路をなす電子回路部と、
前記電子回路部を内部に収納するケース体と、
前記ケース体の開口部を閉塞するカバー部材と、
前記ケース体内に充填された液状樹脂を硬化してなり、前記電子回路部を封止するための封止部材とを備え、
前記封止部材が前記液状樹脂の状態で前記ケース体内に充填された際の上面が、前記ケース体と前記カバー部材とが相互に接触する接触部の内側端部より上方となる電子回路装置であって、
前記ケース体の前記接触部となる部位に、フッ素樹脂コーティングが施されていることを特徴とする電子回路装置。
【請求項2】
前記ケース体には、前記接触部となる部位のみに、前記フッ素樹脂コーティングが施されていることを特徴とする請求項1に記載の電子回路装置。
【請求項3】
前記カバー部材の前記接触部となる部位にも、前記フッ素樹脂コーティングが施されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の電子回路装置。
【請求項4】
前記電子回路部は、前記ケース体の外表面に露出したセンサ部を有することを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の電子回路装置。
【請求項5】
前記センサ部は、超音波の送信および受信の少なくともいずれかを行うことを特徴とする請求項4に記載の電子回路装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−212305(P2009−212305A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−53894(P2008−53894)
【出願日】平成20年3月4日(2008.3.4)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】