電子放出素子、及び電子放出素子の製造方法
【課題】 誘電体膜型の電子放出素子において、さらなる高出力化を達成する。
【解決手段】 誘電体からなるエミッタ層113の上側表面113a上には、上部電極114が形成されている。この上部電極114は、黒鉛粒子115と銀微粒子116とから構成されている。黒鉛粒子115には、微視的な溝である微細溝115aや、微視的な突起である微小突起115bが形成されている。銀微粒子116は、黒鉛粒子115の表面に付着している。銀微粒子116は、小径微粒子116aと大径微粒子116bとからなる。上部電極114は、合成樹脂のバインダーに黒鉛粒子及び銀微粒子を分散してなる電極ペーストをエミッタ層113上に塗布して熱処理することによって形成されている。このバインダーとしては、銀微粒子によって黒鉛粒子の一部が酸化される温度よりも低温の分解温度を有する材質が用いられている。
【解決手段】 誘電体からなるエミッタ層113の上側表面113a上には、上部電極114が形成されている。この上部電極114は、黒鉛粒子115と銀微粒子116とから構成されている。黒鉛粒子115には、微視的な溝である微細溝115aや、微視的な突起である微小突起115bが形成されている。銀微粒子116は、黒鉛粒子115の表面に付着している。銀微粒子116は、小径微粒子116aと大径微粒子116bとからなる。上部電極114は、合成樹脂のバインダーに黒鉛粒子及び銀微粒子を分散してなる電極ペーストをエミッタ層113上に塗布して熱処理することによって形成されている。このバインダーとしては、銀微粒子によって黒鉛粒子の一部が酸化される温度よりも低温の分解温度を有する材質が用いられている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定の電界が印加されることにより電子を放出し得るように構成された電子放出素子に関する。また、本発明は、当該電子放出素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の電子放出素子(electron emitter)は、所定の真空度の真空中で、電子放出部(エミッタ部:emitter section)に所定の電界が印加されることで、当該電子放出部(エミッタ部)から電子が放出されるように構成されている。
【0003】
かかる電子放出素子は、電子線を利用した種々の装置における電子線源として用いられている。かかる装置の具体例としては、ディスプレイ(特にフィールドエミッションディスプレイ[FED])、電子線照射装置、光源装置、電子部品製造装置、電子回路部品、等を挙げることができる。
【0004】
電子放出素子がFEDに適用される場合、複数の電子放出素子が二次元的に配列される。また、これら複数の電子放出素子に対応して、複数の蛍光体が、各電子放出素子と所定の間隔をもってそれぞれ配置される。
【0005】
かかる構成のFEDにおいては、二次元配列された複数の電子放出素子中の、任意の位置のものが選択的に駆動されることによって、任意の位置の電子放出素子から電子が放出される。この放出された電子が蛍光体に衝突して、任意の位置の蛍光体より蛍光が発せられることで、所望の表示を行うことができる。
【0006】
電子線照射装置は、例えば、半導体チップの製造工程にて、ウェハーを重ねる際に絶縁膜を固化する用途で用いられている。また、電子線照射装置は、印刷インキを硬化・乾燥させる用途で用いられている。また、電子線照射装置は、医療機器をパッケージに入れたまま殺菌する用途で用いられている。電子線照射装置は、上述の用途で従来用いられてきた紫外線照射装置に比べて、高出力化が容易であり、照射対象物における照射線の吸収効率が高い。
【0007】
電子放出素子を光源装置に適用する場合の適用対象としては、高輝度・高効率が要求される光源装置が好適である。具体例としては、プロジェクタの光源装置を挙げることができる。この種の光源装置として従来用いられてきた超高圧水銀ランプ等に比べて、電子放出素子を用いた光源装置は、小型化、長寿命化、高速化、環境負荷低減が可能であるという特徴を有している。また、電子放出素子を用いた光源装置には、LEDの代替品としての用途がある。かかる光源装置は、例えば、屋内照明器具、自動車用ランプ、信号機、携帯電話向け小型液晶ディスプレイのバックライトとして用いられ得る。また、電子放出素子と蛍光体とを組み合わせることで、電子写真装置における感光ドラムを露光するための発光デバイスを構成することが可能である。
【0008】
電子放出素子を電子部品製造装置に適用する場合の適用対象としては、例えば、電子ビーム蒸着装置等の成膜装置の電子ビーム源、プラズマCVD装置におけるプラズマ生成用(ガス等の活性化用)電子源、ガス分解用途の電子源等がある。
【0009】
電子放出素子を電子回路部品に適用する場合の適用対象としては、例えば、スイッチ、リレー、ダイオード等のデジタル素子や、オペアンプ等のアナログ素子がある。かかる電子回路部品に電子放出素子を適用した場合、大電流出力化、高増幅率化が可能である。
【0010】
電子放出素子の用途としては、他に、例えば、テラHz駆動の高速スイッチング素子、大電流出力素子等の、真空マイクロデバイスがある。また、電子放出素子は、誘電体を帯電させるための電子源としても好適に用いられ得る。
【0011】
この電子放出素子の具体例として、下記の各特許文献に記載のものを挙げることができる。
【0012】
下記特許文献1及び2に記載の電子放出素子における電子放出部(エミッタ部)は、尖った先端部を有する微細な導体電極からなる。また、かかる電子放出素子においては、エミッタ部に対向して対向電極が設けられている。そして、かかる電子放出素子は、対向電極とエミッタ部との間に所定の駆動電圧が印加されることで、当該エミッタ部における上述の先端部から電子が放出されるように構成されている。
【0013】
下記特許文献1及び2に記載の電子放出素子を製造する際には、上述の通りの微細な構造の導体電極からなるエミッタ部を形成するためには、エッチングや精密フォーミング加工(エレクトロファインフォーミング加工)等による微細加工を行うが必要であり、製造工程が複雑となっていた。
【0014】
また、下記特許文献1及び2に記載の電子放出素子において、上述の導体電極の先端部から充分な量の電子を放出させるためには、駆動電圧として高電圧を印加する必要があった。よって、この電子放出素子を駆動するためのIC等の駆動素子として、高電圧駆動に対応可能な高価なものが必要であった。
【0015】
このように、導体電極からなるエミッタ部を備えた下記特許文献1及び2に記載の電子放出素子においては、当該電子放出素子、及び当該電子放出素子が適用された装置の製造コストが高くなるという問題があった。
【0016】
そこで、誘電体の薄層からなるエミッタ部を備えた電子放出素子が案出された(例えば、下記特許文献3〜6参照)。かかる電子放出素子を、以下、「誘電体膜型電子放出素子」と称する。
【0017】
下記特許文献3〜6に記載の誘電体膜型電子放出素子は、上述のエミッタ部と、カソード電極と、アノード電極とを備えている。前記カソード電極は、エミッタ部の表(おもて)面側(front surface side:電子放出側)に形成されている。前記アノード電極は、前記エミッタ部の裏面側(reverse
surface side)、又は、前記エミッタ部の前記表面側であって前記カソード電極と所定の間隔を隔てた位置に形成されている。すなわち、前記エミッタ部の前記表面側に、前記カソード電極も前記アノード電極も形成されていないエミッタ部表面(surface
of the emitter)の露出部が、前記カソード電極の外縁部近傍に存在するように、当該誘電体膜型電子放出素子が構成されている。
【0018】
この誘電体膜型電子放出素子は、以下のように動作する。
【0019】
まず、第1段階として、前記カソード電極と前記アノード電極との間に、前記カソード電極の方が高電位となるような電圧が印加される。この印加電圧によって形成された電界によって、前記エミッタ部(特に前記の露出部)が所定の分極状態に設定される。
【0020】
次に、第2段階として、前記カソード電極と前記アノード電極との間に、前記カソード電極の方が低電位となるような電圧が印加される。このとき、前記カソード電極の外縁部から電子が放出されるとともに、前記エミッタ部の分極が反転し、エミッタ部表面に電子が蓄積される。再度カソード電極が高電位となるように電圧が印加された際に、エミッタ部の分極反転に伴い、この蓄積された電子が双極子との静電斥力により放出される。この電子が外部からの所定の電界により所定方向に飛翔することで、この誘電体膜型電子放出素子による電子放出が行われる。
【特許文献1】特開平7−147131号公報
【特許文献2】特開2000−285801号公報
【特許文献3】特開2004−146365号公報
【特許文献4】特開2004−172087号公報
【特許文献5】特開2005−116232号公報
【特許文献6】特開2005−142134号公報
【発明の開示】
【0021】
本発明の電子放出素子は、上述した従来の電子放出素子よりもさらなる高出力化が達成された、誘電体膜型電子放出素子である。
【0022】
(1)本発明の対象となる電子放出素子は、エミッタ層と、第1電極と、第2電極と、を備えている。前記エミッタ層は、誘電体から構成されている。好ましくは、前記エミッタ層は、強誘電体から構成されている。前記第1電極は、前記エミッタ層における第1の表面側に設けられている。前記第2電極は、前記エミッタ層における、前記第1の表面側、内部、又は前記第1の表面とは反対側に位置する第2の表面側に設けられている。
【0023】
・本発明の特徴は、前記電子放出素子における前記第1電極の表面に、微視的な溝が形成されていることにある。この微視的な溝は、最深部が10nm以上であり、且つ前記第1電極の厚さの90%(より好ましくは50%)以下となるように形成されていることが好適である。また、当該溝の平面形状(当該溝の深さ方向と平行な方向から見た形状)については特に限定がなく、例えば、スリット状、楕円状、矩形状、不定形状に形成され得る。
【0024】
かかる構成による電子放出作用は以下の通りである。まず、前記第1電極と前記第2電極との間で、所定の負極性の(前記第1電極の方が前記第2電極よりも低電位となるような)駆動電圧が印加される。これにより、前記エミッタ層における前記第1の表面の近傍の分極状態が、所定の状態に設定される。また、前記第1電極から前記第1の表面に向けて電子が供給され、当該第1の表面上に電子が蓄積される。すなわち、当該第1の表面が帯電する。
【0025】
ここで、本構成においては、前記第1電極の表面に、微視的な溝が形成されている。この溝によって、電界集中箇所(電気力線が集中しやすい箇所であり、鋭利なエッジ部分:以下、電気力線が集中するような状態を、「電界集中」と称することがある。)が形成される。この電界集中箇所から、前記第1の表面に向けて、多量の電子が供給される。
【0026】
次に、前記第1電極と前記第2電極との間で、所定の正極性の(前記第1電極の方が前記第2電極よりも高電位となるような)駆動電圧が印加される。これにより、前記分極が反転する。この分極の反転により、前記第1の表面上に蓄積された前記電子が放出される。
【0027】
このように、本構成によれば、電子放出量が従来よりも向上する。すなわち、高出力の電子放出素子が得られる。
【0028】
・前記第1電極の端縁部と、前記エミッタ層における前記第1の表面との間には、ギャップが形成されていてもよい。
【0029】
かかる構成においては、前記第1電極の前記端縁部が、庇形状(overhanging shape)に形成される。そして、当該庇(overhang)の下方に、前記ギャップが形成される。
【0030】
かかる構成によれば、前記ギャップにおける電界強度が、前記エミッタ層内における電界強度よりも高くなり、実質的に、前記駆動電圧の大部分が前記ギャップの部分に印加される。すなわち、前記駆動電圧によって形成される電界が、前記ギャップの部分に集中する。これにより、前記駆動電圧を低電圧化しつつ高出力の電子放出を行うことが可能になる。
【0031】
・前記第1電極には、開口部が形成されていてもよい。この開口部は、前記エミッタ層における前記第1の表面を当該電子放出素子の外部に向けて露出するように形成されている。
【0032】
かかる構成によれば、上述のような、前記第1電極から前記第1の表面への電子供給、及び当該第1の表面からの電子放出が、より多数箇所にて生じる。すなわち、前記第1電極における前記開口部の内側の端縁部、及び当該第1電極の平面視における外形をなす外側の端縁部にて生じる。よって、本構成によれば、電子放出量がよりいっそう向上する。すなわち、よりいっそう高出力の電子放出素子が得られる。
【0033】
また、かかる構成によれば、当該開口部が、前記エミッタ層における前記第1の表面から放出される電子に対して、ゲート電極又はフォーカス電子レンズのような機能を果たし得る。よって、当該放出電子の直進性を向上させることができる。これにより、当該電子放出素子を平面状に複数個配列した場合、隣接する電子放出素子間のクロストークが減少する。特に、当該電子放出素子がFEDに応用された場合に、当該FEDの解像度が向上する。
【0034】
・前記溝は、前記開口部及び/又はその近傍に形成されていてもよい。この場合、例えば、前記溝は、前記第1電極における前記開口部を形成する端縁に形成されている。また、前記溝は、前記開口部の内側に形成され得る。あるいは、前記溝は、前記第1電極の表面であって、前記開口部のすぐ外側に形成され得る。そして、当該第1電極は、その厚さ方向と垂直な方向に沿って複数の微細な段差(凹凸)を有するように構成され得る。
【0035】
かかる構成においては、上述の電界集中箇所が、前記開口部の近傍に多数形成される。よって、かかる構成によれば、より多量の電子が前記第1の表面上に蓄積され、当該第1の表面から放出され得る。
【0036】
ここで、前記溝の幅方向(長手方向と直交する方向)における両端部に形成される凸部の先端が、鋭利な形状に形成されていることが好適である。例えば、当該先端が、鋭角に形成されていることが好適である。あるいは、当該先端が、丸みや面取りのない形状に形成されていることが好適である。これにより、当該先端における電界集中が顕著となる。そして、より多量の電子が前記第1の表面上に蓄積され、当該第1の表面から放出され得る。
【0037】
・前記第1電極は、黒鉛から構成されていてもよい。これにより、前記第1電極がより安価に形成され得る。また、前記開口部がより簡易な製造プロセスで形成され得る。
【0038】
・前記第1電極の前記表面に付着した導電性の微粒子をさらに備えていてもよい。この微粒子は、例えば、銀、白金、金、銅、及びこれらを含む合金から構成され得る。あるいは、この微粒子は、非金属の導電性材料から構成され得る。
【0039】
かかる構成においては、前記微粒子は、前記電界集中箇所として機能する。よって、かかる構成によれば、より多くの前記電界集中箇所が形成される。したがって、かかる構成によれば、より多量の電子が前記第1の表面上に蓄積され、当該第1の表面から放出され得る。
【0040】
ここで、前記微粒子が銀又は銀を含む合金からなることが好適である。この銀又は銀を含む合金からなる微粒子は、加熱下で黒鉛を分解する触媒として機能する。よって、かかる構成によれば、前記第1電極の形成のための製造工程において所定温度の加熱工程(熱処理工程)を行うことで、前記第1電極を構成する黒鉛が分解・侵食される。これにより、前記溝や前記開口部が形成される。すなわち、本構成によれば、前記溝や前記開口部が、きわめて簡易な製造工程を用いて形成され得る。なお、銀及び銀を含む合金以外であっても、加熱下で黒鉛を分解する触媒として機能する材質であれば、当該微粒子として好適に用いられ得る。例えば、金、白金、銅、及びこれらを含む合金等が好適に用いられ得る。
【0041】
・前記微粒子には、小径微粒子と、その小径微粒子よりも大径の大径微粒子とが含まれていてもよい。この場合、粒径が100nm以下の微粒子と、600nm以上の微粒子とが含まれ、これらが共存することが好ましい。また、粒径分布において、前記微粒子が、300nm以下の範囲及び300nmより大きい範囲において、各々少なくとも一つのピークを有すること、すなわち、前記小型微粒子の平均粒径は300nm以下であり、前記大型微粒子の平均粒径は300nmより大きいことが好ましい。この場合、前記大型微粒子の平均粒径が500nm以上となることがより好適である。
【0042】
ここで、当該微粒子が銀からなる場合、前記第1電極を構成する黒鉛が、前記小径微粒子によって小さな範囲で分解・侵食されることで、前記溝が形成され得る。また、前記第1電極を構成する黒鉛が、前記大径微粒子によって大きな範囲で分解・侵食されることで、前記開口部が形成され得る。
【0043】
・前記電子放出素子が、基体をさらに備えていて、前記エミッタが前記基体の表面上に固着して設けられていてもよい。この基体は、前記エミッタ層を支持するように、当該エミッタ層における前記第2の表面側に配置されている。
【0044】
・前記第2電極が前記基体の前記表面上に固着して設けられていて、前記エミッタ層が前記第2電極上に固着して設けられていてもよい。
【0045】
(2)本発明の対象となる電子放出素子は、エミッタ層と、第1電極と、第2電極と、を備えている。前記エミッタ層は、誘電体から構成されている。好ましくは、前記エミッタ層は、強誘電体から構成されている。前記第1電極は、前記エミッタ層における第1の表面側に設けられている。この第1電極には、開口部が形成されている。この開口部は、前記エミッタ層における前記第1の表面を当該電子放出素子の外部に向けて露出するように形成されている。前記第2電極は、前記エミッタ層における、前記第1の表面側、内部、又は前記第1の表面とは反対側に位置する第2の表面側に設けられている。
【0046】
・本発明の特徴は、前記開口部における内側の端縁には、微視的な突起が、当該第1電極の厚さ方向について複数形成されていることにある。この突起は、高さが7nm以上であり、且つ前記第1電極の厚さの90%(より好ましくは50%)以下となるように形成されていることが好適である。また、当該突起の平面形状(当該突起の高さ方向と平行な方向から見た形状)については特に限定がなく、例えば、薄肉平板状、楕円状、矩形状、多角形状、不定形状に形成され得る。
【0047】
かかる構成による電子放出作用は以下の通りである。まず、前記第1電極と前記第2電極との間で、前記負極性の前記駆動電圧が印加される。これにより、前記エミッタ層における前記第1の表面の近傍の分極状態が、所定の状態に設定される。また、前記第1電極から前記第1の表面に向けて電子が供給され、当該第1の表面上に電子が蓄積される。すなわち、当該第1の表面が帯電する。
【0048】
ここで、本構成においては、前記開口部における内側の端縁には、微視的な突起が、当該第1電極の厚さ方向について複数形成されている。この突起によって、電界集中箇所(電気力線が集中しやすい箇所であり、鋭利なエッジ部分)が形成される。この電界集中箇所は、前記開口部における内側の端縁に形成されているので、当該電界集中箇所は、電子の蓄積・放出に供される前記第1の表面の近傍に位置することとなる。よって、当該電界集中箇所から、その近傍の前記第1の表面に向けて、多量の電子が供給される。
【0049】
次に、前記第1電極と前記第2電極との間で、前記正極性の前記駆動電圧が印加される。これにより、前記分極が反転する。この分極の反転により、前記第1の表面上に蓄積された前記電子が放出される。
【0050】
このように、本構成によれば、電子放出量が従来よりも向上する。すなわち、高出力の電子放出素子が得られる。
【0051】
また、当該開口部が、前記エミッタ層における前記第1の表面から放出される電子に対して、ゲート電極又はフォーカス電子レンズのような機能を果たし得る。よって、当該放出電子の直進性を向上させることができる。これにより、当該電子放出素子を平面状に複数個配列した場合、隣接する電子放出素子間のクロストークが減少する。特に、当該電子放出素子がFEDに応用された場合に、当該FEDの解像度が向上する。
【0052】
・前記突起は、前記開口部の外側であって、前記開口部の近傍にも形成されていることが好適である。
【0053】
かかる構成においては、上述の電界集中箇所が、前記開口部の近傍に多数形成される。よって、かかる構成によれば、より多量の電子が前記第1の表面上に蓄積され、当該第1の表面から放出され得る。
【0054】
・前記開口部における前記端縁と、前記エミッタ層における前記第1の表面との間には、ギャップが形成されていてもよい。
【0055】
かかる構成においては、前記第1電極の前記端縁部が、庇形状に形成される。そして、当該庇の下方に、前記ギャップが形成される。
【0056】
かかる構成によれば、上述したように、前記駆動電圧によって形成される電界が、前記ギャップの部分に集中する。これにより、前記駆動電圧を低電圧化しつつ高出力の電子放出を行うことが可能になる。
【0057】
・前記第1電極は、黒鉛から構成されていてもよい。これにより、前記第1電極がより安価に形成され得る。また、前記開口部がより簡易な製造プロセスで形成され得る。
【0058】
・前記第1電極の前記表面に付着した導電性の微粒子をさらに備えていてもよい。この微粒子は、例えば、銀、白金、金、銅、及びこれらを含む合金から構成され得る。あるいは、この微粒子は、非金属の導電性材料から構成され得る。
【0059】
かかる構成においては、前記微粒子は、前記電界集中箇所として機能する。よって、かかる構成によれば、より多くの前記電界集中箇所が形成される。したがって、かかる構成によれば、より多量の電子が前記第1の表面上に蓄積され、当該第1の表面から放出され得る。
【0060】
ここで、前記微粒子が銀又は銀を含む合金からなることが好適である。かかる構成によれば、前記第1電極の形成のための製造工程において所定温度の加熱工程(熱処理工程)を行うことで、前記第1電極を構成する黒鉛が分解・侵食される。これにより、前記突起や前記開口部が形成される。すなわち、本構成によれば、前記突起や前記開口部が、きわめて簡易な製造工程を用いて形成され得る。なお、銀及び銀を含む合金以外であっても、加熱下で黒鉛を分解する触媒として機能する材質であれば、当該微粒子として好適に用いられ得る。例えば、金、白金、銅、及びこれらを含む合金等が好適に用いられ得る。
【0061】
・前記微粒子は、小径微粒子と、その小径微粒子よりも大径の大径微粒子とからなることが好適である。この場合、粒径が100nm以下の微粒子と、600nm以上の微粒子とが含まれ、これらが共存することが好ましい。また、粒径分布において、前記微粒子が、300nm以下の範囲及び300nmより大きい範囲において、各々少なくとも一つのピークを有すること、すなわち、前記小型微粒子の平均粒径は300nm以下であり、前記大型微粒子の平均粒径は300nmより大きいことが好ましい。この場合、前記大型微粒子の平均粒径が500nm以上となることがより好適である。
【0062】
ここで、当該微粒子が銀からなる場合、前記第1電極を構成する黒鉛が、前記小径微粒子によって小さな範囲で分解・侵食されることで、前記突起が形成され得る。また、前記第1電極を構成する黒鉛が、前記大径微粒子によって大きな範囲で分解・侵食されることで、前記開口部が形成され得る。
【0063】
・前記電子放出素子が、基体をさらに備えていて、前記エミッタが前記基体の表面上に固着して設けられていてもよい。この基体は、前記エミッタ層を支持するように、当該エミッタ層における前記第2の表面側に配置されている。
【0064】
・前記第2電極が前記基体の前記表面上に固着して設けられていて、前記エミッタ層が前記第2電極上に固着して設けられていてもよい。
【0065】
(3)本発明の電子放出素子の製造方法の特徴は、ペースト調製工程と、ペースト層形成工程と、第1熱処理工程と、第2熱処理工程と、を含むことにある。
【0066】
本発明の電子放出素子の製造方法は、以下のようにして行われる。まず、黒鉛と、所定の黒鉛分解温度以上の加熱下で前記黒鉛を分解し得る微粒子と、合成樹脂からなるバインダーと、が混合される。これにより、電極ペーストが調製される(ペースト調製工程)。前記黒鉛としては、例えば、粉末状の黒鉛が好適に用いられ得る。前記微粒子としては、例えば、銀、白金、金、銅、及びこれらを含む合金からなる微粒子が用いられ得る。また、前記微粒子としては、例えば、ビスマス(Bi)、バナジウム(V)、アンチモン(Sb)、モリブデン(Mo)の酸化物からなる微粒子が用いられ得る。
【0067】
次に、前記エミッタ層を構成する誘電体層の上に、前記ペースト調製工程によって得られた前記電極ペーストの層が形成される(ペースト層形成工程)。
【0068】
続いて、前記ペースト層形成工程によって得られた前記電極ペーストの前記層が、前記黒鉛分解温度よりも低い温度で熱処理される(第1熱処理工程)。これにより、前記微粒子が粗粒化する前、且つ前記第1電極を構成する黒鉛の分解・侵食が生じる前に、前記バインダーの大部分が分解又は蒸散される。
【0069】
そして、前記第1熱処理工程の後に、前記層が、前記黒鉛分解温度以上の温度で熱処理される(第2熱処理工程)。これにより、前記第1電極を構成する黒鉛が、前記微粒子によって分解・侵食され、前記溝又は前記突起が形成される。
【0070】
このようにして、前記電極ペーストの層から前記第1電極が形成される。
【0071】
かかる製造方法によれば、上述したような、表面に前記溝や前記突起を有する前記第1電極が、簡易な製造工程によって形成され得る。
【0072】
・ここで、前記ペースト調製工程にて、示差熱分析による最も低温側のピークの立ち上がり温度(バインダー熱分解開始温度)が前記黒鉛分解温度よりも低い温度である材質からなる前記バインダーを用いることが好適である。
【0073】
かかる製造方法においては、前記第1熱処理工程において、前記微粒子がより小径である間に、前記バインダーがより迅速に分解又は蒸散される。したがって、より微細な構造の前記溝や前記突起が、より確実に形成され得る。
【0074】
・また、前記「黒鉛分解温度」は、触媒の存在下における前記黒鉛の分解温度であり、前記微粒子が、前記触媒として機能することが好適である。すなわち、前記黒鉛それ自体が加熱により酸化されて分解される温度は、一般的に、550℃より高温である一方、触媒の存在下では、550℃以下で前記黒鉛が分解され得る。例えば、銀の存在下では、前記黒鉛は、400℃より低温でも分解され得、400℃ないし450℃で活発に分解され得る。
【0075】
これにより、上述のような溝ないし突起が、より簡略なプロセスによって確実に形成され得る。
【0076】
(4)本発明の電子放出素子の製造方法の特徴は、ペースト調製工程と、ペースト層形成工程と、熱処理工程と、を含むことにある。
【0077】
本発明の電子放出素子の製造方法は、以下のようにして行われる。まず、黒鉛と、所定の黒鉛分解温度以上の加熱下で前記黒鉛を分解し得る微粒子と、前記黒鉛分解温度よりも低い温度で分解又は蒸散し得る合成樹脂からなるバインダーと、が混合される。これにより、電極ペーストが調製される(ペースト調製工程)。前記黒鉛としては、例えば、粉末状の黒鉛が好適に用いられ得る。
【0078】
次に、前記エミッタ層を構成する誘電体層の上に、前記ペースト調製工程によって得られた前記電極ペーストの層が形成される(ペースト層形成工程)。
【0079】
続いて、前記ペースト層形成工程によって得られた前記電極ペーストの前記層が熱処理される(熱処理工程)。
【0080】
このようにして、前記電極ペーストの層から前記第1電極が形成される。
【0081】
かかる製造方法によれば、上述したような、表面に前記溝や前記突起を有する前記第1電極が、簡易な製造工程によって形成され得る。
【0082】
・前記ペースト調製工程にて、示差熱分析による最も低温側のピークにおける頂点に対応する温度(バインダー熱分解ピーク温度)が前記黒鉛分解温度よりも低い温度である材質からなる前記バインダーを用いることが好適である。
【0083】
・また、前記「黒鉛分解温度」は、触媒の存在下における前記黒鉛の分解温度であり、前記微粒子が、前記触媒として機能することが好適である。これにより、上述のような溝ないし突起が、より簡略なプロセスによって確実に形成され得る。
【0084】
・ここで、前記熱処理工程は、第1熱処理工程と、第2熱処理工程と、を含んでいてもよい。前記第1熱処理工程は、前記ペースト層形成工程によって得られた前記電極ペーストの前記層を、前記黒鉛分解温度よりも低い温度で熱処理する工程である。この第1熱処理工程における熱処理温度は、前記黒鉛分解温度よりも、好ましくは50℃以上低く、より好ましくは100℃以上低い温度である。また、前記第2熱処理工程は、前記第1熱処理工程の後に、前記層を、前記黒鉛分解温度以上の温度で熱処理する工程である。
【0085】
かかる製造方法においては、前記ペースト調製工程及び前記ペースト層形成工程を経た前記電極ペーストの層に対して、前記黒鉛分解温度よりも低い温度で熱処理が施される(第1熱処理工程)。これにより、前記バインダー(の大部分)が分解又は蒸散する。続いて、前記層に対して、前記黒鉛分解温度以上の温度で熱処理が施される(第2熱処理工程)。これにより、前記第1電極を構成する黒鉛が、前記微粒子によって分解・侵食され、前記溝又は前記突起が形成される。
【0086】
かかる製造方法によれば、前記溝や前記突起がより確実に形成され得る。
【0087】
・また、前記熱処理工程は、前記第1熱処理工程と前記第2熱処理工程とに分けられた2段階熱処理工程ではなく、1段階の熱処理工程であってもよい。この1段階熱処理工程は、前記ペースト層形成工程によって得られた前記電極ペーストの前記層を、前記黒鉛分解温度よりも高い温度で熱処理する工程である。
【0088】
ここで、前記熱処理工程として、前記1段階熱処理工程が行われる場合、前記バインダーは、示差熱分析による最も低温側のピークにおける頂点に対応する温度(バインダー熱分解ピーク温度)が前記黒鉛分解温度よりも低いことが好適である。一方、前記熱処理工程として、前記2段階熱処理工程が行われる場合、前記バインダーは、示差熱分析による最も低温側のピークの立ち上がり温度(バインダー熱分解開始温度)が前記黒鉛分解温度よりも低いことが好適である。
【0089】
なぜなら、上述のような微視的な溝や突起が良好に形成されるためには、前記第1電極を構成する黒鉛が前記微粒子によって分解・侵食され始める時点において、前記微粒子の粗粒化がまだ進んでいない状態であるとともに、前記バインダーの大部分が分解されている状態である必要があるからである。すなわち、前記第1電極を構成する黒鉛が前記微粒子によって分解・侵食され始める前であって、前記微粒子の粗粒化が進んでいない段階で、前記バインダーの大部分が分解されることで、前記微粒子が比較的小径の状態で黒鉛の表面上に存在し得る。この比較的小径の前記微粒子によって前記黒鉛が分解・侵食されることで、上述のような微視的な溝や突起が良好に形成され得る。
【0090】
そして、前記2段階熱処理工程が用いられる場合、前記第2熱処理工程よりも低温な前記第1熱処理工程において、前記微粒子の粗粒化が進行しない間に、バインダーの大部分が分解・蒸散される。よって、この場合、少なくとも前記バインダー熱分解開始温度が前記黒鉛分解温度よりも低ければよい。一方、前記1段階熱処理工程が用いられる場合、前記微粒子の粗粒化の進行と前記黒鉛の分解・侵食とが生じる前に、バインダーが急速に分解・蒸散される必要がある。よって、この場合、前記バインダー熱分解ピーク温度が前記黒鉛分解温度よりも低温である必要がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0091】
以下、本発明の好適な実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0092】
<電子放出素子を用いたFEDの概略構成>
図1は、本実施形態に係る電子放出素子を備えたFEDとしての、ディスプレイ100の一部を拡大して示す断面図である。このディスプレイ100は、本実施形態に係る電子放出素子110と、その電子放出素子110と対向して配置された表示部120とから構成されている。電子放出素子110と表示部120との間の空間は、所定の真空度(例えば102〜10-6Pa、より好ましくは10-3〜10-5Pa)の減圧雰囲気とされている。
【0093】
表示部120は、透明板122と、コレクタ電極124と、蛍光体層126と、を備えている。透明板122は、ガラスやアクリル製の板から構成されている。コレクタ電極124は、透明板122の下面(すなわち電子放出素子110と対向する側の面)に形成されている。このコレクタ電極124は、ITO(インジウム・錫酸化物)薄膜等の、透明な導電性物質から構成されている。蛍光体層126は、コレクタ電極124の下面に形成されている。このコレクタ電極124には、コレクタ電圧Vcを出力するバイアス電圧源151の高圧側出力端子が接続されている。
【0094】
このディスプレイ100は、電子放出素子110から放出された電子がコレクタ電圧Vcの印加によって前記空間に発生する電界によってコレクタ電極124に向かって飛翔し、当該電子が蛍光体層126と衝突して蛍光を発することで、所定の画素の発光が行われるように構成されている。
【0095】
<電子放出素子の概略構成>
電子放出素子110は、基体111と、下部電極112と、エミッタ層113と、上部電極114と、を備えている。
【0096】
基体111は、下部電極112、エミッタ層113、及び上部電極114を支持するための基板であって、ガラスやセラミックスの板材から構成されている。
【0097】
大画面のディスプレイ100を低コストで形成するという観点からは、基体111として、ガラスが用いられることが好ましい。
【0098】
基体111として用いられるセラミックスの種類には、特に制限はない。もっとも、耐熱性、化学的安定性、及び絶縁性の点から、安定化された酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、ムライト、窒化アルミニウム、窒化珪素、及びガラスからなる群より選択される少なくとも一種を含むセラミックスからなることが好ましい。機械的強度が大きく、靭性に優れる点から、安定化された酸化ジルコニウムが用いられることが更に好ましい。
【0099】
なお、ここにいう「安定化された酸化ジルコニウム」とは、安定化剤の添加により結晶の相転移を抑制した酸化ジルコニウムをいう。これには、安定化酸化ジルコニウムの他、部分安定化酸化ジルコニウムが包含される。安定化された酸化ジルコニウムとしては、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化イットリウム、酸化スカンジウム、酸化イッテルビウム、酸化セリウム又は希土類金属の酸化物等の安定化剤を、1〜30モル%含有するものが挙げられる。特に、機械的強度が高くなる点で、酸化イットリウムを安定化剤として含有させたものが好ましい。このとき、酸化イットリウムの含有量は、1.5〜6モル%が好ましく、2〜4モル%が更に好ましい。また、更に酸化アルミニウムを0.1〜5モル%含有させたものが好ましい。
【0100】
安定化された酸化ジルコニウムの結晶相は、立方晶+単斜晶の混合相、正方晶+単斜晶の混合相、立方晶+正方晶+単斜晶の混合相などであってもよい。もっとも、強度、靭性、及び耐久性の観点から、主たる結晶相が、正方晶、又は正方晶+立方晶の混合相であるものが好ましい。
【0101】
下部電極112は、基体111の表面上に固着するように形成されている。この下部電極112は、厚さが20μm以下、より好適には5μm以下となるように形成されている。
【0102】
この下部電極112は、金属や非金属の導電性物質からなる。下部電極112の材質としては、高温酸化雰囲気に対して耐性を有する導体が好適に用いられ得る。金属単体としては、例えば、白金、イリジウム、パラジウム、ロジウム、モリブデン等の高融点貴金属が用いられ得る。合金としては、例えば、銀−パラジウム、銀−白金、白金−パラジウム等や、これらを主成分としたものが用いられ得る。また、絶縁性セラミックスと金属単体との混合物や、絶縁性セラミックスと合金との混合物等(例えば、白金とセラミック材料とのサーメット材料)が用いられ得る。なお、電極材料中に添加されるセラミック材料の割合は、5〜30体積%程度が好適である。また、下部電極112の材質として、炭素系材料が用いられ得る。ここで、最も好適には、下部電極112は、白金単体、又は白金系の合金を主成分とする材料によって構成される。ここで、当該電子放出素子110の製造コストを低減させる観点から、基体111としてガラス基板が用いられる場合、下部電極112には銀単体又は銀を含む合金が好適に用いられ得る。
【0103】
エミッタ層113は、誘電体材料の多結晶体からなる薄層からなる。このエミッタ層113の厚さhは、好ましくは1〜300μm、より好ましくは5〜100μmに構成されている。エミッタ層113の上側表面113aには、結晶粒界(図2における符号B参照)等に基づく微視的な凹凸が形成されている。すなわち、エミッタ層113の上側表面113aには、多数の凹部113cが形成されている。そして、この凹部113cによる当該上側表面113aの表面粗さが、Ra(中心線平均粗さ:単位μm)で0.05以上3以下となるように、本実施形態のエミッタ層113が形成されている。また、エミッタ層113は、その下側表面113bが下部電極112と固着するように、当該下部電極112上に形成されている。
【0104】
エミッタ層113を構成する材質としては、好適には、比誘電率が比較的高い(例えば1000以上の)誘電体材料が用いられ得る。このような誘電体材料としては、例えば、チタン酸バリウム、ジルコン酸鉛、マグネシウムニオブ酸鉛、ニッケルニオブ酸鉛、亜鉛ニオブ酸鉛、マンガンニオブ酸鉛、マグネシウムタンタル酸鉛、ニッケルタンタル酸鉛、アンチモンスズ酸鉛、チタン酸鉛、マグネシウムタングステン酸鉛、コバルトニオブ酸鉛等が用いられ得る。また、エミッタ層113を構成する材質としては、これらの誘電体材料を任意に組み合わせてなるセラミックスが用いられ得る。また、エミッタ層113を構成する材質としては、主成分がこれらの誘電体材料を50重量%以上含有するセラミックスが用いられ得る。また、エミッタ層113を構成する材質としては、上述した各種の誘電体材料やセラミックスに対して、さらに、ランタン、カルシウム、ストロンチウム、モリブデン、タングステン、バリウム、ニオブ、亜鉛、ニッケル、マンガン等の酸化物その他の化合物(これらは適宜組み合わされ得る)を、適切に添加したものが用いられ得る。
【0105】
例えば、マグネシウムニオブ酸鉛(PMN)とチタン酸鉛(PT)の2成分系nPMN−mPT(n、mをモル数比とする)において、PMNのモル数比が大きくされることで、キュリー点が下げられて室温での比誘電率が大きくされた誘電体材料が、エミッタ層113を構成する材質として好適に用いられ得る。ここで、特に、n=0.85〜1.0、m=1.0−nが好適である。この場合、比誘電率が3000以上となる。例えば、n=0.91、m=0.09では、室温の比誘電率15000が得られ、n=0.95、m=0.05では室温の比誘電率20000が得られる。
【0106】
マグネシウムニオブ酸鉛(PMN)、チタン酸鉛(PT)、ジルコン酸鉛(PZ)の3成分系においては、PMNのモル数比が大きいものの他、正方晶と擬立方晶又は正方晶と菱面体晶のモルフォトロピック相境界(MPB:Morphotropic Phase Boundary)付近の組成のものが、比誘電率が大きいために、エミッタ層113を構成する材質として好適に用いられ得る。例えば、PMN:PT:PZ=0.375:0.375:0.25にて比誘電率が5500、PMN:PT:PZ=0.5:0.375:0.125にて比誘電率が4500となり、特に好ましい。
【0107】
なお、絶縁性が確保できる範囲内でこれらの誘電体材料に、白金等の金属が混入されることで、誘電率がさらに向上した材質が、エミッタ層113を構成する材質として好適に用いられ得る。この場合、例えば、誘電体材料に対して、白金が重量比で5ないし20%程度混入されていることが好ましい。
【0108】
エミッタ層113の上側表面113a上には、上部電極114が形成されている。この上部電極114は、黒鉛粒子115と、銀微粒子116とからなる。黒鉛粒子115の粒子形状としては、例えば、鱗片状、板状、箔状、針状、棒状が好ましい。
【0109】
上部電極114には、多数の開口部117が形成されている。この開口部117は、エミッタ層113の上側表面113aを上方に露出するように構成されている。また、開口部117は、凹部113cに対応した部分に形成されている。また、開口部117は、凹部113cに対応した部分以外にも形成されている。なお、図1においては、1つの開口部117が1つの凹部113cと対応するように形成されている場合が示されている。もっとも、1つの開口部117が複数の凹部113cと対応するように形成されている場合もあり得る。あるいは、複数の開口部117が1つの凹部113cと対応するように形成されている場合もあり得る。
【0110】
開口部117によって上方に露出されているエミッタ層113に形成された凹部113cの一部には、フロート電極部116’が形成されている。このフロート電極部116’は、当該凹部113cにおける上側表面113aに付着した上述の銀微粒子116からなる。
【0111】
下部電極112及び上部電極114には、これら両電極間に駆動電圧Vaを印加するためのパルス発生源152が接続されている。
【0112】
<電子放出素子の構成の詳細>
図2は、図1に示した電子放出素子110の要部を拡大した断面図である。
【0113】
上部電極114における、開口部117の近傍の部分には、庇部(overhanging portion)114aが形成されている。この庇部114aは、上部電極114(黒鉛粒子115)の端縁部であって、開口部117を構成する貫通孔117aに対向する部分からなる。
【0114】
庇部114aの下方には、ギャップ117bが形成されている。このギャップ117bは、庇部114aにおける、エミッタ層113の上側表面113aと対向する下面114a1と、当該上側表面113aと、の間に形成されている。すなわち、この庇部114aは、エミッタ層113の上側表面113aから離隔して、水平方向に沿って庇(overhang)の如く張り出すように形成されている。
【0115】
本電子放出素子110においては、エミッタ層113の上側表面113aと、庇部114aの先端114a2と、の間の、厚さ方向に沿った最大間隔dが、0μm<d≦10μmとなるように、エミッタ層113及び上部電極114が形成されている。
【0116】
また、本電子放出素子110においては、トリプルジャンクション(3重点)114a3の近傍における、エミッタ層113の上側表面113aと庇部114aの下面114a1とのなす角θが、1°≦θ≦60°となるように、エミッタ層113及び上部電極114が形成されている。このトリプルジャンクション114a3は、エミッタ層113(上側表面113a)と、上部電極114(庇部114aにおける下面114a1)と、当該電子放出素子110の外部の前記減圧雰囲気と、の接触箇所からなる。
【0117】
上部電極114を構成する黒鉛粒子115の表面には、微細溝115a、及び当該微細溝115aに起因する微小突起115bが形成されている。すなわち、これらの微細溝115a及び微小突起115bは、上部電極114に形成された微視的な(エミッタ層113の上側表面113aによって形成される凹凸(平面粗さ)よりも小さい(好ましくは10分の1以下))凹部によって形成されている。
【0118】
この微細溝115a及び微小突起115bは、開口部117の近傍に多数形成されている。すなわち、微細溝115a及び微小突起115bは、庇部114aに相当する黒鉛粒子115の端縁部の表面に多数形成されている。具体的には、微細溝115a及び微小突起115bは、貫通孔117aに面する位置に、上部電極114の厚さ方向(図2における上下方向:電子放出方向)について複数個形成されている。また、微細溝115a及び微小突起115bは、庇部114aの下面114a1に相当する位置に形成されている。また、微細溝115a及び微小突起115bは、庇部114aの上面に相当する位置にも形成されている。
【0119】
さらに、微細溝115a及び微小突起115bは、黒鉛粒子115の表面における、庇部114a以外の位置にも形成されている。すなわち、微細溝115a及び微小突起115bは、開口部117の外側にも形成されている。そして、微細溝115a及び微小突起115bは、上部電極114の厚さ方向と垂直な方向(図2における左右方向)に沿って複数個形成されている。
【0120】
黒鉛粒子115の表面に付着している銀微粒子116には、小径微粒子116a及び大径微粒子116bが含まれている。小径微粒子116aは、銀の単位微粒子、又は少数個の当該単位微粒子が凝集して粒成長したものからなる。大径微粒子116bは、多数個の前記単位微粒子、又は複数の小径微粒子116aが凝集して粒成長したものからなる。ここで、小型微粒子116aには、100nm以下の微粒子が含まれ、また、大型微粒子116bには600nm以上の微粒子が含まれ、これらがそれぞれ共存している。さらには、粒径分布において、銀微粒子116が、300nm以下の範囲及び300nmより大きい範囲において、各々少なくとも一つのピークを有している。すなわち、小型微粒子116aの平均粒径は300nm以下であり、大型微粒子116bの平均粒径は300nmより大きい。なお、ここでは、100nm以下の微粒子と600nm以上の微粒子が共存し、かつ、300nm以下の範囲及び300nmより大きい範囲において、各々少なくとも一つのピークを有している実施例を示したが、これらのうちのどちらか一方を有している状態であれば本願発明の効果が生起され得る。
【0121】
本実施形態の電子放出素子110においては、上部電極114の先端114a2、トリプルジャンクション114a3、微細溝115a、微小突起115b、及び銀微粒子116(小径微粒子116a及び大径微粒子116b)によって、電界集中部が構成されている。ここで、電界集中部とは、上部電極114と下部電極112(図1参照)との間に駆動電圧を印加した場合に、電気力線の集中(電界集中)が生じる箇所(電界集中部)をいう。また、ここにいう「電気力線の集中」とは、仮に下部電極112(図1参照)、エミッタ層113、及び上部電極114を側断面視無限長の平板として電気力線を描く場合に、下部電極112から均等間隔で発した電気力線が集中する箇所をいうものとする。この電界集中部における電気力線の集中(電界集中)の様子は、有限要素法による数値解析によってシミュレーションすることで簡単に確認され得る。
【0122】
なお、上述のような電界集中部は、開口部117以外の上部電極114の外縁部(上部電極114の平面視における外形形状を構成する端縁部)にも形成されている。
【0123】
また、開口部117の内縁により構成される貫通孔117aは、平面視にて、円形、楕円形、多角形、不定形など、様々な形状に形成され得る。
【0124】
ここで、貫通孔117aは、以下の理由により、平面視における貫通孔117aの面積と同面積の円形に当該貫通孔117aの形状を近似した場合に、当該円形の直径の平均が、10nm以上、20μm以下となるような大きさに形成されている。
【0125】
すなわち、図2に示されているように、エミッタ層113のうち、上部電極114と下部電極112(図1参照)との間に印加される駆動電圧(図1におけるVa)に応じて分極が反転あるいは変化する部分は、図中の第1の部分113dと第2の部分113eとからなる。第1の部分113dは、上部電極114(黒鉛粒子115)の直下の部分である。第2の部分113eは、貫通孔117aの内縁(上部電極114の先端114a2)の直下から、貫通孔117aの内側に向かう領域に形成される部分である。この第2の部分113eは、上部電極114(上述の電界集中部)から供給された電子を蓄積して電子放出に寄与する主要な領域である。この第2の部分113eの発生範囲は、駆動電圧Vaのレベルや、当該部分の電界集中の度合いによって変化することになる。
【0126】
貫通孔117aの平均径が小さすぎると、第2の部分113eの面積が小さくなって電子放出量が低下することから、本実施形態における貫通孔117aの平均径が10nm以上に設定されている。逆に、貫通孔117aの平均径が大きすぎると、開口部117内における、第2の部分113eが形成されない(電子の蓄積・放出に寄与しない)エミッタ層113の上側表面113aの領域が多くなって、電子放出の効率が低下することから、本実施形態における貫通孔117aの平均径が20μm以下に設定されている。このように、開口部117近傍のエミッタ層113の上側表面113aにて蓄積・放出される電子量を多くしつつ、効率よく電子が放出されるようにするために、本実施形態における貫通孔117aの平均径が、上述の範囲(10nm以上、20μm以下)に設定されている。
【0127】
<電子放出素子の等価回路構成>
また、本実施形態の電子放出素子110は、図3に示されているように、電気回路的な特性として、上部電極114と下部電極112との間に、エミッタ層113によるコンデンサC1と、上述の各ギャップ117bによる複数のコンデンサCaの集合体によるコンデンサC2とが直列に接続された構成に近似され得る。このコンデンサC2は、各ギャップ117b(図2参照)による複数のコンデンサCaが互いに並列に接続されてなる。
【0128】
もっとも、上述の複数のコンデンサCaの集合体によるコンデンサC2と、エミッタ層113によるコンデンサC1とが、単純に直列接続された等価回路は実際的ではない。すなわち、図1及び図2に示されているような、上部電極114における開口部117の形成個数・状態に応じて、エミッタ層113によるコンデンサC1のうちの一部が、集合体によるコンデンサC2と直列接続されるように、当該等価回路が構成され得る。
【0129】
ここで、例えば、図4に示されているように、エミッタ層113によるコンデンサC1のうちの25%が、集合体によるコンデンサC2と直列接続された場合を想定して、容量計算を行ってみる。
【0130】
ギャップ117bは、ほぼ真空であることから、比誘電率を1とする。そして、ギャップ117bの最大間隔dを0.1μm、1つのギャップ117bの部分の面積Sを1μm×1μmとし、ギャップ117bの数を10,000個とする。また、エミッタ層113の比誘電率を2000、エミッタ層113の厚さを20μm、上部電極114と下部電極112の対向面積を200μm×200μmとする。
【0131】
以上の仮定の下では、集合体によるコンデンサC2の容量値は0.885pFとなり、エミッタ層113によるコンデンサC1の容量値は35.4pFとなる。そして、エミッタ層113によるコンデンサC1のうち、集合体によるコンデンサC2と直列接続されている部分を全体の25%としたとき、当該直列接続された部分における容量値(集合体によるコンデンサC2の容量値を含めた容量値)は0.805pFとなり、残りの容量値は26.6pFとなる。
【0132】
上述のエミッタ層113によるコンデンサC1のうち、集合体によるコンデンサC2と直列接続された部分以外の残りの部分は、当該直列接続された部分と並列接続されている。よって、上部電極114と下部電極112との間の全体の合成容量値は、27.5pFとなる。この合成容量値は、エミッタ層113によるコンデンサC1の容量値35.4pFの78%である。つまり、全体の合成容量値は、エミッタ層113によるコンデンサC1の容量値よりも小さくなる。
【0133】
このように、ギャップ117bによるコンデンサCaの容量値、及び当該ギャップ117bの集合体の合成容量C2は、直列接続されるエミッタ層113によるコンデンサC1よりも非常に小さいものとなる。すなわち、このコンデンサCa(C2)及びC1の直列回路に駆動電圧Vaを印加した場合の分圧の大部分が、容量の小さな方のコンデンサCa(C2)の方に印加され得るように、当該電子放出素子110が構成されている。換言すれば、駆動電圧Vaの大部分がギャップ117b(図2参照)に印加され得るように、当該電子放出素子110が構成されている。
【0134】
<電子放出素子の電子放出動作原理>
次に、電子放出素子110の電子放出動作の原理について、図5ないし図7を用いて説明する。図5は、駆動電圧Vaの波形を示す図である。図6及び図7は、電子放出素子110の動作説明のための模式図である。
【0135】
本実施形態において、上部電極114と下部電極112との間に印加される駆動電圧Vaとしては、図5に示されている通りの、基準電圧(波動の中心に対応する電圧)が0[V]、振幅が(V1+V2)[V]、周期が(T1+T2)[s]の矩形波の交流電圧が用いられる。この駆動電圧Vaにおいては、第1段階としての時間T1にて、上部電極114の方が下部電極112よりも低電位となる(負電圧)V2となり、続く第2段階としての時間T2にて、上部電極114の方が下部電極112よりも高電位となる(正電圧)V1となる。
【0136】
また、初期状態において、エミッタ層113の分極方向が一方向に揃えられている場合(具体例として、図6(A)に示されているように、双極子の負極がエミッタ層113の上側表面113aに向いた状態となっている場合)を想定して、以下の動作説明をする。
【0137】
まず、上部電極114と下部電極112との間の電圧が基準電圧である初期状態では、図6(A)に示されているように、双極子の負極がエミッタ層113の上側表面113aに向いた状態となっている。よって、エミッタ層113の上側表面113aは、電子がほとんど蓄積されていない状態となっている。
【0138】
その後、負電圧V2が印加されると、図6(B)に示されているように、分極が反転する。この分極反転によって、前記した電界集中部である先端114a2や、トリプルジャンクション114a3において、電界集中が発生する。これにより、上部電極114における前記の電界集中部からエミッタ層113の上側表面113aに向けた電子の放出(供給)が起こる。例えば、図6(C)に示されているように、上側表面113aのうちの、開口部117から露出した部分や、庇部114aの近傍の部分に、電子が蓄積される。すなわち、上側表面113aが帯電する。この上側表面113aの帯電は、当該エミッタ層113の表面抵抗値に基づく一定の飽和状態となるまで可能であり、駆動電圧波形等により帯電量を制御することが可能である。このように、上部電極114(特に上述の電界集中部)が、エミッタ層113(上側表面113a)への電子供給源として機能する。
【0139】
その後、駆動電圧Vaが、負電圧V2から、図7(A)の如く一旦基準電圧となった後、さらに、駆動電圧Vaとして正電圧V1が印加されると、分極が再度反転する(図7(B)参照)。すると、双極子の負極との静電斥力によって、上側表面113aに蓄積されていた電子が、貫通孔117aを通過して外部に向けて放出される(図7(C)参照)。
【0140】
なお、上部電極114における、開口部117のない外縁部においても、上述と同様の電子放出動作が行われる。
【0141】
<電子放出素子の製造方法>
次に、上述の構成を有する本実施形態の電子放出素子110(図1等参照)の製造方法について、当該電子放出素子110の構成を示す図1及び図2の符号を引用しつつ、以下に説明する。
【0142】
まず、基体111の上に、下部電極112が、基体111と固着して一体化した状態で形成される(下部電極形成工程)。この下部電極形成工程としては、例えば、蒸着等の薄膜形成プロセスが用いられ得る。あるいは、当該下部電極形成工程としては、例えば、印刷、塗布等の厚膜形成プロセスが用いられ得る。
【0143】
次に、下部電極112の上に、誘電体層を形成することで、エミッタ層113が形成される(エミッタ層形成工程)。このエミッタ層形成工程としては、例えば、スクリーン印刷法、ディッピング法、塗布法、電気泳動法、エアロゾルデポジション法、ゾル含浸法、イオンビーム法、スパッタリング法、真空蒸着法、イオンプレーティング法、化学気相成長法(CVD)、めっき等が用いられ得る。
【0144】
更に、形成されたエミッタ層113の上に、上部電極114が形成される(上部電極形成工程)。これにより、本実施形態の電子放出素子110が形成される。この上部電極形成工程は、以下のようにして行われる。
【0145】
まず、合成樹脂からなる所定のバインダーに対して、黒鉛粒子及び銀微粒子が分散された、電極ペーストが調製される(電極ペースト調製工程)。黒鉛粒子、銀微粒子、及びバインダーの混合は、攪拌機、ロールミル、ナノマイザー(登録商標)等によって行われ得る。黒鉛粒子、及び銀微粒子はバインダーに同時に添加・混合され得る。あるいは、黒鉛粒子とバインダーとが混合されてなる黒鉛ペーストに、銀微粉末、銀ナノ粒子分散インク、又は銀の有機金属化合物が添加・混合されることで、当該黒鉛ペーストに銀微粒子が分散され得る。
【0146】
ここで、バインダーとしては、分解温度が比較的低温のものが好適に用いられ得る。例えば、黒鉛が銀微粒子の触媒作用によって酸化されることで黒鉛粒子の一部が分解・侵食される温度(黒鉛分解温度:約450℃)よりも、分解温度が、好ましくは50℃以上低く、より好ましくは100℃以上低い材質が、バインダーとして好適に用いられ得る。なお、「分解温度」とは、示差熱分析による最も低温側のピークに対応する温度をいうものとする。
【0147】
具体的には、バインダーとしては、EMAコポリマー、iBMA(メタクリル酸i−ブチル)、BMA(ブチルメタクリレート)、MMA(メタクリル酸メチル)、MMA/EA(メタクリル酸メチル/アクリル酸エチル)が用いられ得る。この場合、重量平均分子量(Mw)が略50,000〜150,000の範囲のものが好適に用いられ得る。
【0148】
なお、黒鉛粒子とバインダーとの混合比(重量比)は、黒鉛粒子:バインダー=1:5ないし5:1の範囲内に設定され得る。また、黒鉛粒子と銀微粒子との混合比(重量比)は、黒鉛:銀=100:1ないし1:1の範囲内に設定され得る。
【0149】
次に、上述のエミッタ層113の上に、上述の電極ペーストの層が形成される(電極ペースト層形成工程)。この電極ペースト層形成工程としては、例えば、スクリーン印刷法、ディッピング法、塗布法等が用いられ得る。
【0150】
上述のようにして電極ペースト層が形成された後、所定の熱処理が行われる(熱処理工程)。この熱処理工程により、バインダーが分解・蒸散される。また、この熱処理工程により、黒鉛粒子が銀微粒子の触媒作用によって侵食される。
【0151】
この熱処理工程が行われることで、エミッタ層113の上側表面113a上に、微細溝115a、微小突起115b、及び銀微粒子116を表面に有する黒鉛粒子115からなる上部電極114が形成される。
【0152】
ここで、熱処理工程は、処理温度の異なる第1熱処理工程と第2熱処理工程との2段階に分けて行われ得る。
【0153】
第1熱処理工程は、電極ペースト層からバインダーを除去するための工程である。この第1熱処理工程における温度(第1熱処理温度)としては、バインダー熱分解開始温度よりも高温であって、且つ前記黒鉛分解温度よりも低い温度(例えば400℃程度)が採用され得る。また、前記第1熱処理温度としては、銀微粒子の成長を促進させないような温度が採用され得る。
【0154】
第2熱処理工程は、第1熱処理工程を経てバインダー(のほとんど)が分解・蒸散した状態の電極ペースト層に対して、前記第1熱処理温度よりも高温の熱処理を施すことで、銀微粒子による黒鉛の分解・侵食を促進して、黒鉛粒子115における微細溝115a及び微小突起115bや貫通孔117aを形成するための工程である。
【実施例1】
【0155】
次に、上述の構成を有する本実施形態の電子放出素子110(図1等参照)の製造方法の一つの具体例(実施例)について、以下に説明する。
【0156】
<下部電極形成工程>
酸化イットリウム(Y2O3)で安定化された酸化ジルコニウム(ZrO2)からなる基体111の上に、所定の寸法・形状で、金属白金(Pt)を含む金属ペーストの層がスクリーン印刷法により形成される。この金属ペーストの層を1000〜1400℃程度の温度で熱処理することで、厚さ3μmの金属白金(Pt)からなる下部電極112が、基体111と固着して一体化した状態で形成される。
【0157】
<エミッタ層形成工程>
まず、鉛(Pb),マグネシウム(Mg),ジルコニウム(Zr),チタン(Ti),ニッケル(Ni)等の酸化物(例えば、一酸化鉛(PbO)、四酸化三鉛(Pb3O4)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化ジルコニウム(ZrO2)、酸化チタン(TiO2)、酸化ニッケル(NiO))等が、各元素の含有率が所望の割合になるように混合される。次に、得られた混合物が、750〜1300℃で仮焼されることで、上述の誘電体材料が得られる。この仮焼によって得られた誘電体材料は、X線回折装置による回折強度において、ペロブスカイト相の最強回折線の強度に対するパイロクロア相等の異相の最強回折線の強度の比が、5%以下であることが好ましく、2%以下であることがより好ましい。最後に、得られた仮焼後の誘電体材料を、ボールミル等を用いて粉砕することで、所定の粒子径(例えばレーザー回折法による平均粒径で0.1〜1μm)の誘電体粉末が得られる。
【0158】
このようにして得られた誘電体粉末を、所定のバインダー及び溶剤の混合液に分散することによって、誘電体ペーストが調製される。
【0159】
次に、下部電極112の上に、誘電体ペーストの層が、スクリーン印刷法により、40μmの塗布厚さとなるように形成される。
【0160】
そして、この誘電体ペースト層を乾燥して溶剤を蒸散させた後、熱処理してバインダーを分解・蒸散させるとともに、誘電体層を緻密化させることで、エミッタ層113が形成される。
【0161】
<上部電極形成工程>
更に、形成されたエミッタ層113の上に、以下のプロセスを用いて、上部電極114が形成される。
【0162】
<<電極ペースト調製工程>>
まず、黒鉛粉末(平均粒径10μm、厚さ1μm以下)と、アクリル系のバインダー(EMAコポリマー:重量平均分子量(Mw)105,000)と、溶剤(テルピネオール)と、カルボン酸エステル系分散剤(アミン価:約70)とを、20:25:75:4の重量比で、トリロールミル(3本のロールによるロールミル)を用いて混合することで、黒鉛が分散した状態のペースト(黒鉛ペースト)が得られる。続いて、この黒鉛ペーストに、銀ナノ粒子分散インク(銀粒子の平均粒径:10nm)を、黒鉛と銀の重量比が2:1となるように加え、トリロールミルにて混合することで、電極ペーストが調製される。
【0163】
ここで、アクリル系のバインダーの熱分解ピーク温度は、銀の触媒効果による黒鉛の分解(酸化)・侵食のための熱処理温度(以下、単に「黒鉛分解温度」と称する。)である約450℃よりも100℃以上低い280℃である。ここで、前記熱分解ピーク温度とは、図8に示されている示差熱分析によるピークP1,P2・・・における、第1ピーク(最も低温側のピーク)P1の頂点に対応する温度(図9における温度T1)である。なお、図8における熱分解開始温度Tsは、当該第1ピークP2の立ち上がり温度である。
【0164】
なお、図8は、示差熱分析にて現れ得る典型的なプロファイルの一例であって、実際の示差熱分析のプロファイルは図8とは異なるものが出現し得る。例えば、ピークが1つしか出現しない場合があり得る。この場合、前記熱分解ピーク温度T1及び前記熱分解開始温度Tsは、当該単一のピークに対応して決定される。また、複数のピークのうち、最も低温側のピークP1の高さよりも、他のピークP2等の方が高くなる場合があり得るが、このような場合であっても、前記熱分解ピーク温度T1及び前記熱分解開始温度Tsは、最も低温側のピークP1に対応して決定される。
【0165】
<<電極ペースト層形成工程>>
得られた電極ペーストは、テルピネオールで希釈されることで、粘度が10万〜20万cp程度に調整される。希釈された電極ペーストは、スクリーン印刷法によって、上述のエミッタ層113の上に、1〜20μm程度の厚さで塗布される。これにより、当該エミッタ層113の上に、電極ペースト層が形成される。
【0166】
<<熱処理工程>>
上述のようにして電極ペースト層が形成された後の対象物は、乾燥工程によって溶剤が蒸散された後、空気雰囲気(大気圧)の加熱炉中において熱処理される。この熱処理は、次のように行われる。まず、15分間で450℃まで昇温された後、450℃で30分間キープされる。その後、炉内で15分間かけて徐冷される。
【0167】
<実施例1に係る電子放出素子の評価>
図9は、上述の実施例1の製造方法によって製造された電子放出素子110の、単位面積あたりの電子放出量を表すグラフである。なお、比較例として、上述の実施例1とは異なるバインダーを用いた場合が示されている。この比較例のバインダーとしては、エチルセルロース系のバインダー(エトキシ基含有量:48〜50%、Mw=75,000)が用いられている。
【0168】
図9に示されているように、実施例の電子放出素子110によれば、比較例よりも電子放出量が非常に多くなった。
【0169】
図10(A)は、実施例1の電子放出素子110の(上部電極114)を上方から見た場合の走査電子顕微鏡写真である。図10(B)は、図10(A)に対応する、比較例の電子放出素子(上部電極)の走査電子顕微鏡写真である。図11(A)は、実施例1の電子放出素子110の(上部電極114)を斜め上方から見た場合の走査電子顕微鏡写真である。図11(B)は、図11(A)に対応する、比較例の電子放出素子(上部電極)の走査電子顕微鏡写真である。
【0170】
図10及び図11から明らかなように、比較例においては黒鉛粒子の表面が平坦であるのに対し、実施例1においては、黒鉛粒子の表面にサブミクロンないしナノレベルの微細な溝(図2における微細溝115a)や孔が多数形成されている。この溝は、図10(A)及び図11(A)に示されているように、最深部が10nm以上であり、且つ黒鉛粒子の厚さの50%以下となるように形成されている。
【0171】
また、実施例1においては、黒鉛粒子の端縁(図2における庇部114a)に、多数の鋭利な突起(図2における微小突起115b)が形成されている。この突起は、黒鉛粒子の厚さ方向について複数個形成されている。この突起は、図10(A)及び図11(A)に示されているように、その高さが、銀微粒子の一次粒子の径である7nm以上であり、且つ黒鉛粒子の厚さの50%以下となるように形成されている。
【0172】
さらに、比較例における銀微粒子は、比較的中規模(0.3〜0.5μm程度)に粗粒化し、且つ比較的均一な粒径分布となっている。これに対し、実施例1においては、非常に大きく(平均粒径として500nm以上に)粒成長した大径微粒子と、当該大径微粒子よりもはるかに小さい(平均粒径として100nm以下の)小径微粒子とが多数存在している。
【0173】
そして、図10(A)に示されているように、この大径微粒子に対応するように、最深部が10nm以上であり且つ黒鉛粒子の厚さの90%以下となるような比較的大きな穴が形成され、当該穴の外縁に突起が形成されている。また、当該大径微粒子に対応するように、図2における開口部117を形成する貫通孔が形成されている。
【実施例2】
【0174】
さらに、本実施形態の電子放出素子110(図1等参照)の製造方法の他の具体例(実施例)について、以下に説明する。
【0175】
本実施例においては、バインダーとして、上述の比較例と同一のエチルセルロース(熱分解開始温度Ts=300℃、熱分解ピーク温度T1=380℃)が用いられている代わりに、熱処理工程が、第1熱処理工程と第2熱処理工程との2段階に分けられている。
【0176】
(実施例2−1)
第1熱処理工程においては、まず、15分間で300℃まで昇温された後、300℃で5時間キープされる。その後、第2熱処理工程においては、400℃で2時間キープされた後、炉内で15分間かけて徐冷される。
【0177】
(実施例2−2)
第1熱処理工程においては、まず、15分間で350℃まで昇温された後、350℃で2時間キープされる。その後、第2熱処理工程においては、400℃で2時間キープされた後、炉内で15分間かけて徐冷される。
【0178】
実施例2−1及び実施例2−2による電子放出素子110においても、上述の実施例1と同様に、電子放出量の大幅な向上が見られた。
【0179】
図12(A)は、実施例2の電子放出素子110の(上部電極114)を上方から見た場合の走査電子顕微鏡写真である。図12(B)は、図10(A)に対応する、比較例の電子放出素子(上部電極)の走査電子顕微鏡写真である。
【0180】
図12から明らかなように、実施例2においても、実施例1と同様に、黒鉛粒子の表面の微細な溝、及び黒鉛粒子の端縁の多数の鋭利な突起が形成されている。また、実施例2においても、実施例1と同様に、銀微粒子として、非常に大きく粒成長した大径微粒子と、当該大径微粒子よりもはるかに小さい小径微粒子とが存在している。
【0181】
<実施例のまとめ>
実施例1においては、熱処理工程は単一温度による単一な工程(1段階熱処理工程)であった反面、比較的低温(前記黒鉛分解温度よりも100℃以上低温)で分解・蒸散するバインダーが用いられていた。一方、実施例2においては、従来と変わらないバインダーが用いられた反面、熱処理工程が2段階に分けられた(2段階熱処理工程)。
【0182】
そして、上述の通り、実施例1及び実施例2のいずれにおいても、電子放出量が大幅に増大した。また、実施例1及び実施例2のいずれにおいても、上部電極114に同様の形状的な特徴が生じた。
【0183】
これは、以下のようなメカニズムによるものと考えられる。
【0184】
黒鉛を酸化・分解する触媒として機能する銀微粒子の存在下で黒鉛の分解・侵食が生じる温度(以下、「所定の黒鉛分解温度」と称する。)及び銀微粒子の粒成長が生じる温度以下の温度においてバインダーが分解・蒸散されることで、銀微粒子は、小径の微粒子の状態で黒鉛の表面に存在し得る。
【0185】
温度が上昇していくと、銀の触媒作用によって、上部電極(114)を構成する黒鉛(黒鉛粒子115)が侵食されていく。ここで、この黒鉛の侵食と同時に、銀微粒子の粒成長が生じようとする。しかしながら、黒鉛の侵食によって、銀微粒子は黒鉛の当該侵食部分によって形成された凹部に埋もれた状態となる。よって、銀微粒子の移動が阻害され、当該銀微粒子の粒成長が阻害される。
【0186】
そして、この小径の銀微粒子(図2における小径微粒子116a)によって黒鉛が小規模に侵食されることで、当該黒鉛の表面に多数の溝や突起が形成される。
【0187】
ここで、実施例1においては、上述の通り、前記バインダー熱分解ピーク温度が比較的低温(前記黒鉛分解温度よりも100℃以上低温)なバインダーが用いられていた。この場合、熱処理工程を2段階に分けなくても、比較的低温で銀微粒子の粗粒化が進んでいない状態で、バインダーが比較的急速に分解・蒸散する。これにより、バインダーの大部分が分解・蒸散された状態で、小径の銀微粒子が黒鉛の表面に付着する。この小径の銀微粒子により、上述のような微視的な溝や突起が良好に形成され得る。このように、実施例1の製造方法によれば、きわめて単純な熱処理工程を用いて、
【0188】
一方、実施例2においては、実施例1よりも前記バインダー熱分解ピーク温度が高温のバインダーが用いられていた。もっとも、このような場合であっても、前記2段階熱処理工程を行うことで、上述のような微視的な溝や突起が良好に形成され得る。この場合、前記バインダー熱分解開始温度が前記黒鉛分解温度よりも低ければよい。これにより、前記第2熱処理工程よりも低温な前記第1熱処理工程において、銀微粒子の粗粒化が進行しない間に、バインダーの大部分が分解・蒸散される。
【0189】
また、図10(A)ないし図12(A)にて確認された大径の銀粒子(図2における大径微粒子116b)は、ペーストの乾燥工程及びバインダーの分解・蒸散工程において、銀微粒子の一部が凝集し、その後に粒成長したものであると考えられる。この大径の銀粒子によって、黒鉛粒子(115)に、開口部(117)や、大き目の凹部や溝が形成される。
【0190】
ここで、前記所定の黒鉛分解温度及び銀微粒子の粒成長が生じる温度以下の温度において、上述のような小径の銀微粒子及び大径の銀粒子が存在するように、電極ペーストの調製条件等を適宜調整することで、上述のような特徴的な形状が容易に形成され得るものと考えられる。
【0191】
<変形例の示唆>
なお、上述の実施形態及び実施例は、上述した通り、出願人が取り敢えず本願の出願時点において最良であると考えた本発明の代表的な実施形態及び実施例を単に例示したものにすぎない。よって、本発明はもとより上述の実施形態等に何ら限定されるものではなく、本発明の本質的部分を変更しない範囲内において種々の変形を施すことができることは当然である。
【0192】
以下、先願主義の下で本願の出願の際に追記し得る程度(時間の許す限り)で、変形例について幾つか例示するが、変形例とてこれらに限定されるものではないことはいうまでもない。本願発明を、上述の実施形態等及び下記変形例の記載に基づき限定解釈すること(特に、本発明の課題を解決するための手段を構成する各要素における、作用・機能的に表現されている要素を、実施形態等の記載に基づき限定解釈すること)は、先願主義の下で出願を急ぐ出願人の利益を不当に害する反面、模倣者を不当に利するものであって、発明の保護及び利用を目的とする特許法の目的に反し、許されない。
【0193】
(i) 本発明に係る電子放出素子の構成は、前記実施形態の電子放出素子110の構成に限定されない。例えば、上部電極114は、前記エミッタ層113の前記上側表面113a上に形成された所定のコーティング層の上に形成されていてもよい。あるいは、下部電極112に代えて、エミッタ層113の上側表面113a上に形成された第2電極が形成されていてもよい。
【0194】
また、上部電極114,エミッタ層113,下部電極112が、この順で上方から下方に複数回繰り返して積層された、いわゆる多層構造を有していてもよい。
【0195】
(ii) エミッタ層113を構成する誘電体材料の調製方法としては、上述の実施例に示された方法以外の様々な方法が用いられ得る。例えば、アルコキシド法や共沈法等も用いられ得る。
【0196】
(iii) 電極ペーストへの銀微粒子の添加は、銀の有機金属化合物や銀ナノ粒子分散インクの添加に限定されない。例えば、銀粉末そのものが電極ペーストに添加されてもよい。この場合、銀粉末を0.5μm以下に粉砕・解砕する前処理が必要となる場合がある。また、銀粉末をバインダーに分散させた銀ペーストが用いられ得る。この場合、上述の黒鉛ペースト及び当該銀ペーストの、バインダー、溶剤、分散剤を適宜選択することで、銀微粒子の分散状態が適宜調整され得る。
【0197】
(iv) 銀微粒子に代えて、加熱下における黒鉛の分解・侵食作用を奏し得る他の微粒子が用いられ得る。例えば、銀を含有する合金からなる微粒子も好適に用いられ得る。あるいは、白金、金、銅、及びこれらを含む合金からなる微粒子が用いられ得る。さらには、ビスマス(Bi)、バナジウム(V)、アンチモン(Sb)、モリブデン(Mo)の酸化物からなる微粒子が用いられ得る。このとき、より電界集中部を多く形成する観点からは、導電性微粒子が用いられることが好適である。なぜなら、当該微粒子によって形成される溝や突起のみならず、当該微粒子自体も電界集中部となり得るからである。
【0198】
(v) 実施例1の低分解温度バインダーと、実施例2の2段階熱処理とは、併用され得る。
【0199】
(vi) スクリーン印刷における電極ペーストの希釈の度合いや塗布厚さは、電極ペーストの粘度に応じて適宜調整され得る。例えば、希釈前の電極ペーストの粘度が低い場合は、希釈せずにスクリーン印刷が行われ得る。また、スクリーン印刷する際のペーストの粘度が低い場合、塗布厚さは厚くされる。
【0200】
(vii) 熱処理工程が、減圧雰囲気中、真空中、不活性ガス(窒素を含む)雰囲気中で行われる場合、電極ペースト層形成工程にて形成される電極ペーストの層厚は薄くされ得る。
【0201】
(viii) 本発明の課題を解決するための手段を構成する各要素における、作用・機能的に表現されている要素は、上述の実施形態・実施例や変形例にて開示されている具体的構造の他、当該作用・機能を実現可能な、いかなる構造をも含む。
【図面の簡単な説明】
【0202】
【図1】本発明の一実施形態に係る電子放出素子を備えたディスプレイの一部を拡大して示す断面図である。
【図2】図1に示されている電子放出素子の要部を拡大して示す断面図である。
【図3】図1に示されている電子放出素子の等価回路図である。
【図4】図1に示されている電子放出素子の等価回路図である。
【図5】図1に示されているパルス発生源の出力波形を示す図である。
【図6】図1に示されている電子放出素子の動作説明のための模式図である。
【図7】図1に示されている電子放出素子の動作説明のための模式図(図6の続き)である。
【図8】バインダーの示差熱分析のチャートである。
【図9】実施例及び比較例の電子放出素子による電子放出量を示すグラフである。
【図10】実施例及び比較例における上部電極を拡大して示す走査電子顕微鏡写真である。
【図11】実施例及び比較例における上部電極を拡大して示す走査電子顕微鏡写真である。
【図12】実施例及び比較例における上部電極を拡大して示す走査電子顕微鏡写真である。
【符号の説明】
【0203】
100…ディスプレイ、 110…電子放出素子、 111…基体、
112…下部電極、 113…エミッタ層、 113a…表面、
113b…裏面、 113c…凹部、 114…上部電極、
114a…庇部、 114a1…下面、 114a2…先端、
114a3…トリプルジャンクション、 115…黒鉛粒子、
115a…微細溝、 115b…微小突起、 116…銀微粒子、
116’…フロート電極部、116a…小径微粒子、 116b…大径微粒子、
117…開口部、 117a…貫通孔、 117b…ギャップ、
120…表示部、 122…透明板、 124…コレクタ電極、
126…蛍光体層、 151…パルス発生源、 152…バイアス電圧源、
B…結晶粒界
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定の電界が印加されることにより電子を放出し得るように構成された電子放出素子に関する。また、本発明は、当該電子放出素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の電子放出素子(electron emitter)は、所定の真空度の真空中で、電子放出部(エミッタ部:emitter section)に所定の電界が印加されることで、当該電子放出部(エミッタ部)から電子が放出されるように構成されている。
【0003】
かかる電子放出素子は、電子線を利用した種々の装置における電子線源として用いられている。かかる装置の具体例としては、ディスプレイ(特にフィールドエミッションディスプレイ[FED])、電子線照射装置、光源装置、電子部品製造装置、電子回路部品、等を挙げることができる。
【0004】
電子放出素子がFEDに適用される場合、複数の電子放出素子が二次元的に配列される。また、これら複数の電子放出素子に対応して、複数の蛍光体が、各電子放出素子と所定の間隔をもってそれぞれ配置される。
【0005】
かかる構成のFEDにおいては、二次元配列された複数の電子放出素子中の、任意の位置のものが選択的に駆動されることによって、任意の位置の電子放出素子から電子が放出される。この放出された電子が蛍光体に衝突して、任意の位置の蛍光体より蛍光が発せられることで、所望の表示を行うことができる。
【0006】
電子線照射装置は、例えば、半導体チップの製造工程にて、ウェハーを重ねる際に絶縁膜を固化する用途で用いられている。また、電子線照射装置は、印刷インキを硬化・乾燥させる用途で用いられている。また、電子線照射装置は、医療機器をパッケージに入れたまま殺菌する用途で用いられている。電子線照射装置は、上述の用途で従来用いられてきた紫外線照射装置に比べて、高出力化が容易であり、照射対象物における照射線の吸収効率が高い。
【0007】
電子放出素子を光源装置に適用する場合の適用対象としては、高輝度・高効率が要求される光源装置が好適である。具体例としては、プロジェクタの光源装置を挙げることができる。この種の光源装置として従来用いられてきた超高圧水銀ランプ等に比べて、電子放出素子を用いた光源装置は、小型化、長寿命化、高速化、環境負荷低減が可能であるという特徴を有している。また、電子放出素子を用いた光源装置には、LEDの代替品としての用途がある。かかる光源装置は、例えば、屋内照明器具、自動車用ランプ、信号機、携帯電話向け小型液晶ディスプレイのバックライトとして用いられ得る。また、電子放出素子と蛍光体とを組み合わせることで、電子写真装置における感光ドラムを露光するための発光デバイスを構成することが可能である。
【0008】
電子放出素子を電子部品製造装置に適用する場合の適用対象としては、例えば、電子ビーム蒸着装置等の成膜装置の電子ビーム源、プラズマCVD装置におけるプラズマ生成用(ガス等の活性化用)電子源、ガス分解用途の電子源等がある。
【0009】
電子放出素子を電子回路部品に適用する場合の適用対象としては、例えば、スイッチ、リレー、ダイオード等のデジタル素子や、オペアンプ等のアナログ素子がある。かかる電子回路部品に電子放出素子を適用した場合、大電流出力化、高増幅率化が可能である。
【0010】
電子放出素子の用途としては、他に、例えば、テラHz駆動の高速スイッチング素子、大電流出力素子等の、真空マイクロデバイスがある。また、電子放出素子は、誘電体を帯電させるための電子源としても好適に用いられ得る。
【0011】
この電子放出素子の具体例として、下記の各特許文献に記載のものを挙げることができる。
【0012】
下記特許文献1及び2に記載の電子放出素子における電子放出部(エミッタ部)は、尖った先端部を有する微細な導体電極からなる。また、かかる電子放出素子においては、エミッタ部に対向して対向電極が設けられている。そして、かかる電子放出素子は、対向電極とエミッタ部との間に所定の駆動電圧が印加されることで、当該エミッタ部における上述の先端部から電子が放出されるように構成されている。
【0013】
下記特許文献1及び2に記載の電子放出素子を製造する際には、上述の通りの微細な構造の導体電極からなるエミッタ部を形成するためには、エッチングや精密フォーミング加工(エレクトロファインフォーミング加工)等による微細加工を行うが必要であり、製造工程が複雑となっていた。
【0014】
また、下記特許文献1及び2に記載の電子放出素子において、上述の導体電極の先端部から充分な量の電子を放出させるためには、駆動電圧として高電圧を印加する必要があった。よって、この電子放出素子を駆動するためのIC等の駆動素子として、高電圧駆動に対応可能な高価なものが必要であった。
【0015】
このように、導体電極からなるエミッタ部を備えた下記特許文献1及び2に記載の電子放出素子においては、当該電子放出素子、及び当該電子放出素子が適用された装置の製造コストが高くなるという問題があった。
【0016】
そこで、誘電体の薄層からなるエミッタ部を備えた電子放出素子が案出された(例えば、下記特許文献3〜6参照)。かかる電子放出素子を、以下、「誘電体膜型電子放出素子」と称する。
【0017】
下記特許文献3〜6に記載の誘電体膜型電子放出素子は、上述のエミッタ部と、カソード電極と、アノード電極とを備えている。前記カソード電極は、エミッタ部の表(おもて)面側(front surface side:電子放出側)に形成されている。前記アノード電極は、前記エミッタ部の裏面側(reverse
surface side)、又は、前記エミッタ部の前記表面側であって前記カソード電極と所定の間隔を隔てた位置に形成されている。すなわち、前記エミッタ部の前記表面側に、前記カソード電極も前記アノード電極も形成されていないエミッタ部表面(surface
of the emitter)の露出部が、前記カソード電極の外縁部近傍に存在するように、当該誘電体膜型電子放出素子が構成されている。
【0018】
この誘電体膜型電子放出素子は、以下のように動作する。
【0019】
まず、第1段階として、前記カソード電極と前記アノード電極との間に、前記カソード電極の方が高電位となるような電圧が印加される。この印加電圧によって形成された電界によって、前記エミッタ部(特に前記の露出部)が所定の分極状態に設定される。
【0020】
次に、第2段階として、前記カソード電極と前記アノード電極との間に、前記カソード電極の方が低電位となるような電圧が印加される。このとき、前記カソード電極の外縁部から電子が放出されるとともに、前記エミッタ部の分極が反転し、エミッタ部表面に電子が蓄積される。再度カソード電極が高電位となるように電圧が印加された際に、エミッタ部の分極反転に伴い、この蓄積された電子が双極子との静電斥力により放出される。この電子が外部からの所定の電界により所定方向に飛翔することで、この誘電体膜型電子放出素子による電子放出が行われる。
【特許文献1】特開平7−147131号公報
【特許文献2】特開2000−285801号公報
【特許文献3】特開2004−146365号公報
【特許文献4】特開2004−172087号公報
【特許文献5】特開2005−116232号公報
【特許文献6】特開2005−142134号公報
【発明の開示】
【0021】
本発明の電子放出素子は、上述した従来の電子放出素子よりもさらなる高出力化が達成された、誘電体膜型電子放出素子である。
【0022】
(1)本発明の対象となる電子放出素子は、エミッタ層と、第1電極と、第2電極と、を備えている。前記エミッタ層は、誘電体から構成されている。好ましくは、前記エミッタ層は、強誘電体から構成されている。前記第1電極は、前記エミッタ層における第1の表面側に設けられている。前記第2電極は、前記エミッタ層における、前記第1の表面側、内部、又は前記第1の表面とは反対側に位置する第2の表面側に設けられている。
【0023】
・本発明の特徴は、前記電子放出素子における前記第1電極の表面に、微視的な溝が形成されていることにある。この微視的な溝は、最深部が10nm以上であり、且つ前記第1電極の厚さの90%(より好ましくは50%)以下となるように形成されていることが好適である。また、当該溝の平面形状(当該溝の深さ方向と平行な方向から見た形状)については特に限定がなく、例えば、スリット状、楕円状、矩形状、不定形状に形成され得る。
【0024】
かかる構成による電子放出作用は以下の通りである。まず、前記第1電極と前記第2電極との間で、所定の負極性の(前記第1電極の方が前記第2電極よりも低電位となるような)駆動電圧が印加される。これにより、前記エミッタ層における前記第1の表面の近傍の分極状態が、所定の状態に設定される。また、前記第1電極から前記第1の表面に向けて電子が供給され、当該第1の表面上に電子が蓄積される。すなわち、当該第1の表面が帯電する。
【0025】
ここで、本構成においては、前記第1電極の表面に、微視的な溝が形成されている。この溝によって、電界集中箇所(電気力線が集中しやすい箇所であり、鋭利なエッジ部分:以下、電気力線が集中するような状態を、「電界集中」と称することがある。)が形成される。この電界集中箇所から、前記第1の表面に向けて、多量の電子が供給される。
【0026】
次に、前記第1電極と前記第2電極との間で、所定の正極性の(前記第1電極の方が前記第2電極よりも高電位となるような)駆動電圧が印加される。これにより、前記分極が反転する。この分極の反転により、前記第1の表面上に蓄積された前記電子が放出される。
【0027】
このように、本構成によれば、電子放出量が従来よりも向上する。すなわち、高出力の電子放出素子が得られる。
【0028】
・前記第1電極の端縁部と、前記エミッタ層における前記第1の表面との間には、ギャップが形成されていてもよい。
【0029】
かかる構成においては、前記第1電極の前記端縁部が、庇形状(overhanging shape)に形成される。そして、当該庇(overhang)の下方に、前記ギャップが形成される。
【0030】
かかる構成によれば、前記ギャップにおける電界強度が、前記エミッタ層内における電界強度よりも高くなり、実質的に、前記駆動電圧の大部分が前記ギャップの部分に印加される。すなわち、前記駆動電圧によって形成される電界が、前記ギャップの部分に集中する。これにより、前記駆動電圧を低電圧化しつつ高出力の電子放出を行うことが可能になる。
【0031】
・前記第1電極には、開口部が形成されていてもよい。この開口部は、前記エミッタ層における前記第1の表面を当該電子放出素子の外部に向けて露出するように形成されている。
【0032】
かかる構成によれば、上述のような、前記第1電極から前記第1の表面への電子供給、及び当該第1の表面からの電子放出が、より多数箇所にて生じる。すなわち、前記第1電極における前記開口部の内側の端縁部、及び当該第1電極の平面視における外形をなす外側の端縁部にて生じる。よって、本構成によれば、電子放出量がよりいっそう向上する。すなわち、よりいっそう高出力の電子放出素子が得られる。
【0033】
また、かかる構成によれば、当該開口部が、前記エミッタ層における前記第1の表面から放出される電子に対して、ゲート電極又はフォーカス電子レンズのような機能を果たし得る。よって、当該放出電子の直進性を向上させることができる。これにより、当該電子放出素子を平面状に複数個配列した場合、隣接する電子放出素子間のクロストークが減少する。特に、当該電子放出素子がFEDに応用された場合に、当該FEDの解像度が向上する。
【0034】
・前記溝は、前記開口部及び/又はその近傍に形成されていてもよい。この場合、例えば、前記溝は、前記第1電極における前記開口部を形成する端縁に形成されている。また、前記溝は、前記開口部の内側に形成され得る。あるいは、前記溝は、前記第1電極の表面であって、前記開口部のすぐ外側に形成され得る。そして、当該第1電極は、その厚さ方向と垂直な方向に沿って複数の微細な段差(凹凸)を有するように構成され得る。
【0035】
かかる構成においては、上述の電界集中箇所が、前記開口部の近傍に多数形成される。よって、かかる構成によれば、より多量の電子が前記第1の表面上に蓄積され、当該第1の表面から放出され得る。
【0036】
ここで、前記溝の幅方向(長手方向と直交する方向)における両端部に形成される凸部の先端が、鋭利な形状に形成されていることが好適である。例えば、当該先端が、鋭角に形成されていることが好適である。あるいは、当該先端が、丸みや面取りのない形状に形成されていることが好適である。これにより、当該先端における電界集中が顕著となる。そして、より多量の電子が前記第1の表面上に蓄積され、当該第1の表面から放出され得る。
【0037】
・前記第1電極は、黒鉛から構成されていてもよい。これにより、前記第1電極がより安価に形成され得る。また、前記開口部がより簡易な製造プロセスで形成され得る。
【0038】
・前記第1電極の前記表面に付着した導電性の微粒子をさらに備えていてもよい。この微粒子は、例えば、銀、白金、金、銅、及びこれらを含む合金から構成され得る。あるいは、この微粒子は、非金属の導電性材料から構成され得る。
【0039】
かかる構成においては、前記微粒子は、前記電界集中箇所として機能する。よって、かかる構成によれば、より多くの前記電界集中箇所が形成される。したがって、かかる構成によれば、より多量の電子が前記第1の表面上に蓄積され、当該第1の表面から放出され得る。
【0040】
ここで、前記微粒子が銀又は銀を含む合金からなることが好適である。この銀又は銀を含む合金からなる微粒子は、加熱下で黒鉛を分解する触媒として機能する。よって、かかる構成によれば、前記第1電極の形成のための製造工程において所定温度の加熱工程(熱処理工程)を行うことで、前記第1電極を構成する黒鉛が分解・侵食される。これにより、前記溝や前記開口部が形成される。すなわち、本構成によれば、前記溝や前記開口部が、きわめて簡易な製造工程を用いて形成され得る。なお、銀及び銀を含む合金以外であっても、加熱下で黒鉛を分解する触媒として機能する材質であれば、当該微粒子として好適に用いられ得る。例えば、金、白金、銅、及びこれらを含む合金等が好適に用いられ得る。
【0041】
・前記微粒子には、小径微粒子と、その小径微粒子よりも大径の大径微粒子とが含まれていてもよい。この場合、粒径が100nm以下の微粒子と、600nm以上の微粒子とが含まれ、これらが共存することが好ましい。また、粒径分布において、前記微粒子が、300nm以下の範囲及び300nmより大きい範囲において、各々少なくとも一つのピークを有すること、すなわち、前記小型微粒子の平均粒径は300nm以下であり、前記大型微粒子の平均粒径は300nmより大きいことが好ましい。この場合、前記大型微粒子の平均粒径が500nm以上となることがより好適である。
【0042】
ここで、当該微粒子が銀からなる場合、前記第1電極を構成する黒鉛が、前記小径微粒子によって小さな範囲で分解・侵食されることで、前記溝が形成され得る。また、前記第1電極を構成する黒鉛が、前記大径微粒子によって大きな範囲で分解・侵食されることで、前記開口部が形成され得る。
【0043】
・前記電子放出素子が、基体をさらに備えていて、前記エミッタが前記基体の表面上に固着して設けられていてもよい。この基体は、前記エミッタ層を支持するように、当該エミッタ層における前記第2の表面側に配置されている。
【0044】
・前記第2電極が前記基体の前記表面上に固着して設けられていて、前記エミッタ層が前記第2電極上に固着して設けられていてもよい。
【0045】
(2)本発明の対象となる電子放出素子は、エミッタ層と、第1電極と、第2電極と、を備えている。前記エミッタ層は、誘電体から構成されている。好ましくは、前記エミッタ層は、強誘電体から構成されている。前記第1電極は、前記エミッタ層における第1の表面側に設けられている。この第1電極には、開口部が形成されている。この開口部は、前記エミッタ層における前記第1の表面を当該電子放出素子の外部に向けて露出するように形成されている。前記第2電極は、前記エミッタ層における、前記第1の表面側、内部、又は前記第1の表面とは反対側に位置する第2の表面側に設けられている。
【0046】
・本発明の特徴は、前記開口部における内側の端縁には、微視的な突起が、当該第1電極の厚さ方向について複数形成されていることにある。この突起は、高さが7nm以上であり、且つ前記第1電極の厚さの90%(より好ましくは50%)以下となるように形成されていることが好適である。また、当該突起の平面形状(当該突起の高さ方向と平行な方向から見た形状)については特に限定がなく、例えば、薄肉平板状、楕円状、矩形状、多角形状、不定形状に形成され得る。
【0047】
かかる構成による電子放出作用は以下の通りである。まず、前記第1電極と前記第2電極との間で、前記負極性の前記駆動電圧が印加される。これにより、前記エミッタ層における前記第1の表面の近傍の分極状態が、所定の状態に設定される。また、前記第1電極から前記第1の表面に向けて電子が供給され、当該第1の表面上に電子が蓄積される。すなわち、当該第1の表面が帯電する。
【0048】
ここで、本構成においては、前記開口部における内側の端縁には、微視的な突起が、当該第1電極の厚さ方向について複数形成されている。この突起によって、電界集中箇所(電気力線が集中しやすい箇所であり、鋭利なエッジ部分)が形成される。この電界集中箇所は、前記開口部における内側の端縁に形成されているので、当該電界集中箇所は、電子の蓄積・放出に供される前記第1の表面の近傍に位置することとなる。よって、当該電界集中箇所から、その近傍の前記第1の表面に向けて、多量の電子が供給される。
【0049】
次に、前記第1電極と前記第2電極との間で、前記正極性の前記駆動電圧が印加される。これにより、前記分極が反転する。この分極の反転により、前記第1の表面上に蓄積された前記電子が放出される。
【0050】
このように、本構成によれば、電子放出量が従来よりも向上する。すなわち、高出力の電子放出素子が得られる。
【0051】
また、当該開口部が、前記エミッタ層における前記第1の表面から放出される電子に対して、ゲート電極又はフォーカス電子レンズのような機能を果たし得る。よって、当該放出電子の直進性を向上させることができる。これにより、当該電子放出素子を平面状に複数個配列した場合、隣接する電子放出素子間のクロストークが減少する。特に、当該電子放出素子がFEDに応用された場合に、当該FEDの解像度が向上する。
【0052】
・前記突起は、前記開口部の外側であって、前記開口部の近傍にも形成されていることが好適である。
【0053】
かかる構成においては、上述の電界集中箇所が、前記開口部の近傍に多数形成される。よって、かかる構成によれば、より多量の電子が前記第1の表面上に蓄積され、当該第1の表面から放出され得る。
【0054】
・前記開口部における前記端縁と、前記エミッタ層における前記第1の表面との間には、ギャップが形成されていてもよい。
【0055】
かかる構成においては、前記第1電極の前記端縁部が、庇形状に形成される。そして、当該庇の下方に、前記ギャップが形成される。
【0056】
かかる構成によれば、上述したように、前記駆動電圧によって形成される電界が、前記ギャップの部分に集中する。これにより、前記駆動電圧を低電圧化しつつ高出力の電子放出を行うことが可能になる。
【0057】
・前記第1電極は、黒鉛から構成されていてもよい。これにより、前記第1電極がより安価に形成され得る。また、前記開口部がより簡易な製造プロセスで形成され得る。
【0058】
・前記第1電極の前記表面に付着した導電性の微粒子をさらに備えていてもよい。この微粒子は、例えば、銀、白金、金、銅、及びこれらを含む合金から構成され得る。あるいは、この微粒子は、非金属の導電性材料から構成され得る。
【0059】
かかる構成においては、前記微粒子は、前記電界集中箇所として機能する。よって、かかる構成によれば、より多くの前記電界集中箇所が形成される。したがって、かかる構成によれば、より多量の電子が前記第1の表面上に蓄積され、当該第1の表面から放出され得る。
【0060】
ここで、前記微粒子が銀又は銀を含む合金からなることが好適である。かかる構成によれば、前記第1電極の形成のための製造工程において所定温度の加熱工程(熱処理工程)を行うことで、前記第1電極を構成する黒鉛が分解・侵食される。これにより、前記突起や前記開口部が形成される。すなわち、本構成によれば、前記突起や前記開口部が、きわめて簡易な製造工程を用いて形成され得る。なお、銀及び銀を含む合金以外であっても、加熱下で黒鉛を分解する触媒として機能する材質であれば、当該微粒子として好適に用いられ得る。例えば、金、白金、銅、及びこれらを含む合金等が好適に用いられ得る。
【0061】
・前記微粒子は、小径微粒子と、その小径微粒子よりも大径の大径微粒子とからなることが好適である。この場合、粒径が100nm以下の微粒子と、600nm以上の微粒子とが含まれ、これらが共存することが好ましい。また、粒径分布において、前記微粒子が、300nm以下の範囲及び300nmより大きい範囲において、各々少なくとも一つのピークを有すること、すなわち、前記小型微粒子の平均粒径は300nm以下であり、前記大型微粒子の平均粒径は300nmより大きいことが好ましい。この場合、前記大型微粒子の平均粒径が500nm以上となることがより好適である。
【0062】
ここで、当該微粒子が銀からなる場合、前記第1電極を構成する黒鉛が、前記小径微粒子によって小さな範囲で分解・侵食されることで、前記突起が形成され得る。また、前記第1電極を構成する黒鉛が、前記大径微粒子によって大きな範囲で分解・侵食されることで、前記開口部が形成され得る。
【0063】
・前記電子放出素子が、基体をさらに備えていて、前記エミッタが前記基体の表面上に固着して設けられていてもよい。この基体は、前記エミッタ層を支持するように、当該エミッタ層における前記第2の表面側に配置されている。
【0064】
・前記第2電極が前記基体の前記表面上に固着して設けられていて、前記エミッタ層が前記第2電極上に固着して設けられていてもよい。
【0065】
(3)本発明の電子放出素子の製造方法の特徴は、ペースト調製工程と、ペースト層形成工程と、第1熱処理工程と、第2熱処理工程と、を含むことにある。
【0066】
本発明の電子放出素子の製造方法は、以下のようにして行われる。まず、黒鉛と、所定の黒鉛分解温度以上の加熱下で前記黒鉛を分解し得る微粒子と、合成樹脂からなるバインダーと、が混合される。これにより、電極ペーストが調製される(ペースト調製工程)。前記黒鉛としては、例えば、粉末状の黒鉛が好適に用いられ得る。前記微粒子としては、例えば、銀、白金、金、銅、及びこれらを含む合金からなる微粒子が用いられ得る。また、前記微粒子としては、例えば、ビスマス(Bi)、バナジウム(V)、アンチモン(Sb)、モリブデン(Mo)の酸化物からなる微粒子が用いられ得る。
【0067】
次に、前記エミッタ層を構成する誘電体層の上に、前記ペースト調製工程によって得られた前記電極ペーストの層が形成される(ペースト層形成工程)。
【0068】
続いて、前記ペースト層形成工程によって得られた前記電極ペーストの前記層が、前記黒鉛分解温度よりも低い温度で熱処理される(第1熱処理工程)。これにより、前記微粒子が粗粒化する前、且つ前記第1電極を構成する黒鉛の分解・侵食が生じる前に、前記バインダーの大部分が分解又は蒸散される。
【0069】
そして、前記第1熱処理工程の後に、前記層が、前記黒鉛分解温度以上の温度で熱処理される(第2熱処理工程)。これにより、前記第1電極を構成する黒鉛が、前記微粒子によって分解・侵食され、前記溝又は前記突起が形成される。
【0070】
このようにして、前記電極ペーストの層から前記第1電極が形成される。
【0071】
かかる製造方法によれば、上述したような、表面に前記溝や前記突起を有する前記第1電極が、簡易な製造工程によって形成され得る。
【0072】
・ここで、前記ペースト調製工程にて、示差熱分析による最も低温側のピークの立ち上がり温度(バインダー熱分解開始温度)が前記黒鉛分解温度よりも低い温度である材質からなる前記バインダーを用いることが好適である。
【0073】
かかる製造方法においては、前記第1熱処理工程において、前記微粒子がより小径である間に、前記バインダーがより迅速に分解又は蒸散される。したがって、より微細な構造の前記溝や前記突起が、より確実に形成され得る。
【0074】
・また、前記「黒鉛分解温度」は、触媒の存在下における前記黒鉛の分解温度であり、前記微粒子が、前記触媒として機能することが好適である。すなわち、前記黒鉛それ自体が加熱により酸化されて分解される温度は、一般的に、550℃より高温である一方、触媒の存在下では、550℃以下で前記黒鉛が分解され得る。例えば、銀の存在下では、前記黒鉛は、400℃より低温でも分解され得、400℃ないし450℃で活発に分解され得る。
【0075】
これにより、上述のような溝ないし突起が、より簡略なプロセスによって確実に形成され得る。
【0076】
(4)本発明の電子放出素子の製造方法の特徴は、ペースト調製工程と、ペースト層形成工程と、熱処理工程と、を含むことにある。
【0077】
本発明の電子放出素子の製造方法は、以下のようにして行われる。まず、黒鉛と、所定の黒鉛分解温度以上の加熱下で前記黒鉛を分解し得る微粒子と、前記黒鉛分解温度よりも低い温度で分解又は蒸散し得る合成樹脂からなるバインダーと、が混合される。これにより、電極ペーストが調製される(ペースト調製工程)。前記黒鉛としては、例えば、粉末状の黒鉛が好適に用いられ得る。
【0078】
次に、前記エミッタ層を構成する誘電体層の上に、前記ペースト調製工程によって得られた前記電極ペーストの層が形成される(ペースト層形成工程)。
【0079】
続いて、前記ペースト層形成工程によって得られた前記電極ペーストの前記層が熱処理される(熱処理工程)。
【0080】
このようにして、前記電極ペーストの層から前記第1電極が形成される。
【0081】
かかる製造方法によれば、上述したような、表面に前記溝や前記突起を有する前記第1電極が、簡易な製造工程によって形成され得る。
【0082】
・前記ペースト調製工程にて、示差熱分析による最も低温側のピークにおける頂点に対応する温度(バインダー熱分解ピーク温度)が前記黒鉛分解温度よりも低い温度である材質からなる前記バインダーを用いることが好適である。
【0083】
・また、前記「黒鉛分解温度」は、触媒の存在下における前記黒鉛の分解温度であり、前記微粒子が、前記触媒として機能することが好適である。これにより、上述のような溝ないし突起が、より簡略なプロセスによって確実に形成され得る。
【0084】
・ここで、前記熱処理工程は、第1熱処理工程と、第2熱処理工程と、を含んでいてもよい。前記第1熱処理工程は、前記ペースト層形成工程によって得られた前記電極ペーストの前記層を、前記黒鉛分解温度よりも低い温度で熱処理する工程である。この第1熱処理工程における熱処理温度は、前記黒鉛分解温度よりも、好ましくは50℃以上低く、より好ましくは100℃以上低い温度である。また、前記第2熱処理工程は、前記第1熱処理工程の後に、前記層を、前記黒鉛分解温度以上の温度で熱処理する工程である。
【0085】
かかる製造方法においては、前記ペースト調製工程及び前記ペースト層形成工程を経た前記電極ペーストの層に対して、前記黒鉛分解温度よりも低い温度で熱処理が施される(第1熱処理工程)。これにより、前記バインダー(の大部分)が分解又は蒸散する。続いて、前記層に対して、前記黒鉛分解温度以上の温度で熱処理が施される(第2熱処理工程)。これにより、前記第1電極を構成する黒鉛が、前記微粒子によって分解・侵食され、前記溝又は前記突起が形成される。
【0086】
かかる製造方法によれば、前記溝や前記突起がより確実に形成され得る。
【0087】
・また、前記熱処理工程は、前記第1熱処理工程と前記第2熱処理工程とに分けられた2段階熱処理工程ではなく、1段階の熱処理工程であってもよい。この1段階熱処理工程は、前記ペースト層形成工程によって得られた前記電極ペーストの前記層を、前記黒鉛分解温度よりも高い温度で熱処理する工程である。
【0088】
ここで、前記熱処理工程として、前記1段階熱処理工程が行われる場合、前記バインダーは、示差熱分析による最も低温側のピークにおける頂点に対応する温度(バインダー熱分解ピーク温度)が前記黒鉛分解温度よりも低いことが好適である。一方、前記熱処理工程として、前記2段階熱処理工程が行われる場合、前記バインダーは、示差熱分析による最も低温側のピークの立ち上がり温度(バインダー熱分解開始温度)が前記黒鉛分解温度よりも低いことが好適である。
【0089】
なぜなら、上述のような微視的な溝や突起が良好に形成されるためには、前記第1電極を構成する黒鉛が前記微粒子によって分解・侵食され始める時点において、前記微粒子の粗粒化がまだ進んでいない状態であるとともに、前記バインダーの大部分が分解されている状態である必要があるからである。すなわち、前記第1電極を構成する黒鉛が前記微粒子によって分解・侵食され始める前であって、前記微粒子の粗粒化が進んでいない段階で、前記バインダーの大部分が分解されることで、前記微粒子が比較的小径の状態で黒鉛の表面上に存在し得る。この比較的小径の前記微粒子によって前記黒鉛が分解・侵食されることで、上述のような微視的な溝や突起が良好に形成され得る。
【0090】
そして、前記2段階熱処理工程が用いられる場合、前記第2熱処理工程よりも低温な前記第1熱処理工程において、前記微粒子の粗粒化が進行しない間に、バインダーの大部分が分解・蒸散される。よって、この場合、少なくとも前記バインダー熱分解開始温度が前記黒鉛分解温度よりも低ければよい。一方、前記1段階熱処理工程が用いられる場合、前記微粒子の粗粒化の進行と前記黒鉛の分解・侵食とが生じる前に、バインダーが急速に分解・蒸散される必要がある。よって、この場合、前記バインダー熱分解ピーク温度が前記黒鉛分解温度よりも低温である必要がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0091】
以下、本発明の好適な実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0092】
<電子放出素子を用いたFEDの概略構成>
図1は、本実施形態に係る電子放出素子を備えたFEDとしての、ディスプレイ100の一部を拡大して示す断面図である。このディスプレイ100は、本実施形態に係る電子放出素子110と、その電子放出素子110と対向して配置された表示部120とから構成されている。電子放出素子110と表示部120との間の空間は、所定の真空度(例えば102〜10-6Pa、より好ましくは10-3〜10-5Pa)の減圧雰囲気とされている。
【0093】
表示部120は、透明板122と、コレクタ電極124と、蛍光体層126と、を備えている。透明板122は、ガラスやアクリル製の板から構成されている。コレクタ電極124は、透明板122の下面(すなわち電子放出素子110と対向する側の面)に形成されている。このコレクタ電極124は、ITO(インジウム・錫酸化物)薄膜等の、透明な導電性物質から構成されている。蛍光体層126は、コレクタ電極124の下面に形成されている。このコレクタ電極124には、コレクタ電圧Vcを出力するバイアス電圧源151の高圧側出力端子が接続されている。
【0094】
このディスプレイ100は、電子放出素子110から放出された電子がコレクタ電圧Vcの印加によって前記空間に発生する電界によってコレクタ電極124に向かって飛翔し、当該電子が蛍光体層126と衝突して蛍光を発することで、所定の画素の発光が行われるように構成されている。
【0095】
<電子放出素子の概略構成>
電子放出素子110は、基体111と、下部電極112と、エミッタ層113と、上部電極114と、を備えている。
【0096】
基体111は、下部電極112、エミッタ層113、及び上部電極114を支持するための基板であって、ガラスやセラミックスの板材から構成されている。
【0097】
大画面のディスプレイ100を低コストで形成するという観点からは、基体111として、ガラスが用いられることが好ましい。
【0098】
基体111として用いられるセラミックスの種類には、特に制限はない。もっとも、耐熱性、化学的安定性、及び絶縁性の点から、安定化された酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、ムライト、窒化アルミニウム、窒化珪素、及びガラスからなる群より選択される少なくとも一種を含むセラミックスからなることが好ましい。機械的強度が大きく、靭性に優れる点から、安定化された酸化ジルコニウムが用いられることが更に好ましい。
【0099】
なお、ここにいう「安定化された酸化ジルコニウム」とは、安定化剤の添加により結晶の相転移を抑制した酸化ジルコニウムをいう。これには、安定化酸化ジルコニウムの他、部分安定化酸化ジルコニウムが包含される。安定化された酸化ジルコニウムとしては、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化イットリウム、酸化スカンジウム、酸化イッテルビウム、酸化セリウム又は希土類金属の酸化物等の安定化剤を、1〜30モル%含有するものが挙げられる。特に、機械的強度が高くなる点で、酸化イットリウムを安定化剤として含有させたものが好ましい。このとき、酸化イットリウムの含有量は、1.5〜6モル%が好ましく、2〜4モル%が更に好ましい。また、更に酸化アルミニウムを0.1〜5モル%含有させたものが好ましい。
【0100】
安定化された酸化ジルコニウムの結晶相は、立方晶+単斜晶の混合相、正方晶+単斜晶の混合相、立方晶+正方晶+単斜晶の混合相などであってもよい。もっとも、強度、靭性、及び耐久性の観点から、主たる結晶相が、正方晶、又は正方晶+立方晶の混合相であるものが好ましい。
【0101】
下部電極112は、基体111の表面上に固着するように形成されている。この下部電極112は、厚さが20μm以下、より好適には5μm以下となるように形成されている。
【0102】
この下部電極112は、金属や非金属の導電性物質からなる。下部電極112の材質としては、高温酸化雰囲気に対して耐性を有する導体が好適に用いられ得る。金属単体としては、例えば、白金、イリジウム、パラジウム、ロジウム、モリブデン等の高融点貴金属が用いられ得る。合金としては、例えば、銀−パラジウム、銀−白金、白金−パラジウム等や、これらを主成分としたものが用いられ得る。また、絶縁性セラミックスと金属単体との混合物や、絶縁性セラミックスと合金との混合物等(例えば、白金とセラミック材料とのサーメット材料)が用いられ得る。なお、電極材料中に添加されるセラミック材料の割合は、5〜30体積%程度が好適である。また、下部電極112の材質として、炭素系材料が用いられ得る。ここで、最も好適には、下部電極112は、白金単体、又は白金系の合金を主成分とする材料によって構成される。ここで、当該電子放出素子110の製造コストを低減させる観点から、基体111としてガラス基板が用いられる場合、下部電極112には銀単体又は銀を含む合金が好適に用いられ得る。
【0103】
エミッタ層113は、誘電体材料の多結晶体からなる薄層からなる。このエミッタ層113の厚さhは、好ましくは1〜300μm、より好ましくは5〜100μmに構成されている。エミッタ層113の上側表面113aには、結晶粒界(図2における符号B参照)等に基づく微視的な凹凸が形成されている。すなわち、エミッタ層113の上側表面113aには、多数の凹部113cが形成されている。そして、この凹部113cによる当該上側表面113aの表面粗さが、Ra(中心線平均粗さ:単位μm)で0.05以上3以下となるように、本実施形態のエミッタ層113が形成されている。また、エミッタ層113は、その下側表面113bが下部電極112と固着するように、当該下部電極112上に形成されている。
【0104】
エミッタ層113を構成する材質としては、好適には、比誘電率が比較的高い(例えば1000以上の)誘電体材料が用いられ得る。このような誘電体材料としては、例えば、チタン酸バリウム、ジルコン酸鉛、マグネシウムニオブ酸鉛、ニッケルニオブ酸鉛、亜鉛ニオブ酸鉛、マンガンニオブ酸鉛、マグネシウムタンタル酸鉛、ニッケルタンタル酸鉛、アンチモンスズ酸鉛、チタン酸鉛、マグネシウムタングステン酸鉛、コバルトニオブ酸鉛等が用いられ得る。また、エミッタ層113を構成する材質としては、これらの誘電体材料を任意に組み合わせてなるセラミックスが用いられ得る。また、エミッタ層113を構成する材質としては、主成分がこれらの誘電体材料を50重量%以上含有するセラミックスが用いられ得る。また、エミッタ層113を構成する材質としては、上述した各種の誘電体材料やセラミックスに対して、さらに、ランタン、カルシウム、ストロンチウム、モリブデン、タングステン、バリウム、ニオブ、亜鉛、ニッケル、マンガン等の酸化物その他の化合物(これらは適宜組み合わされ得る)を、適切に添加したものが用いられ得る。
【0105】
例えば、マグネシウムニオブ酸鉛(PMN)とチタン酸鉛(PT)の2成分系nPMN−mPT(n、mをモル数比とする)において、PMNのモル数比が大きくされることで、キュリー点が下げられて室温での比誘電率が大きくされた誘電体材料が、エミッタ層113を構成する材質として好適に用いられ得る。ここで、特に、n=0.85〜1.0、m=1.0−nが好適である。この場合、比誘電率が3000以上となる。例えば、n=0.91、m=0.09では、室温の比誘電率15000が得られ、n=0.95、m=0.05では室温の比誘電率20000が得られる。
【0106】
マグネシウムニオブ酸鉛(PMN)、チタン酸鉛(PT)、ジルコン酸鉛(PZ)の3成分系においては、PMNのモル数比が大きいものの他、正方晶と擬立方晶又は正方晶と菱面体晶のモルフォトロピック相境界(MPB:Morphotropic Phase Boundary)付近の組成のものが、比誘電率が大きいために、エミッタ層113を構成する材質として好適に用いられ得る。例えば、PMN:PT:PZ=0.375:0.375:0.25にて比誘電率が5500、PMN:PT:PZ=0.5:0.375:0.125にて比誘電率が4500となり、特に好ましい。
【0107】
なお、絶縁性が確保できる範囲内でこれらの誘電体材料に、白金等の金属が混入されることで、誘電率がさらに向上した材質が、エミッタ層113を構成する材質として好適に用いられ得る。この場合、例えば、誘電体材料に対して、白金が重量比で5ないし20%程度混入されていることが好ましい。
【0108】
エミッタ層113の上側表面113a上には、上部電極114が形成されている。この上部電極114は、黒鉛粒子115と、銀微粒子116とからなる。黒鉛粒子115の粒子形状としては、例えば、鱗片状、板状、箔状、針状、棒状が好ましい。
【0109】
上部電極114には、多数の開口部117が形成されている。この開口部117は、エミッタ層113の上側表面113aを上方に露出するように構成されている。また、開口部117は、凹部113cに対応した部分に形成されている。また、開口部117は、凹部113cに対応した部分以外にも形成されている。なお、図1においては、1つの開口部117が1つの凹部113cと対応するように形成されている場合が示されている。もっとも、1つの開口部117が複数の凹部113cと対応するように形成されている場合もあり得る。あるいは、複数の開口部117が1つの凹部113cと対応するように形成されている場合もあり得る。
【0110】
開口部117によって上方に露出されているエミッタ層113に形成された凹部113cの一部には、フロート電極部116’が形成されている。このフロート電極部116’は、当該凹部113cにおける上側表面113aに付着した上述の銀微粒子116からなる。
【0111】
下部電極112及び上部電極114には、これら両電極間に駆動電圧Vaを印加するためのパルス発生源152が接続されている。
【0112】
<電子放出素子の構成の詳細>
図2は、図1に示した電子放出素子110の要部を拡大した断面図である。
【0113】
上部電極114における、開口部117の近傍の部分には、庇部(overhanging portion)114aが形成されている。この庇部114aは、上部電極114(黒鉛粒子115)の端縁部であって、開口部117を構成する貫通孔117aに対向する部分からなる。
【0114】
庇部114aの下方には、ギャップ117bが形成されている。このギャップ117bは、庇部114aにおける、エミッタ層113の上側表面113aと対向する下面114a1と、当該上側表面113aと、の間に形成されている。すなわち、この庇部114aは、エミッタ層113の上側表面113aから離隔して、水平方向に沿って庇(overhang)の如く張り出すように形成されている。
【0115】
本電子放出素子110においては、エミッタ層113の上側表面113aと、庇部114aの先端114a2と、の間の、厚さ方向に沿った最大間隔dが、0μm<d≦10μmとなるように、エミッタ層113及び上部電極114が形成されている。
【0116】
また、本電子放出素子110においては、トリプルジャンクション(3重点)114a3の近傍における、エミッタ層113の上側表面113aと庇部114aの下面114a1とのなす角θが、1°≦θ≦60°となるように、エミッタ層113及び上部電極114が形成されている。このトリプルジャンクション114a3は、エミッタ層113(上側表面113a)と、上部電極114(庇部114aにおける下面114a1)と、当該電子放出素子110の外部の前記減圧雰囲気と、の接触箇所からなる。
【0117】
上部電極114を構成する黒鉛粒子115の表面には、微細溝115a、及び当該微細溝115aに起因する微小突起115bが形成されている。すなわち、これらの微細溝115a及び微小突起115bは、上部電極114に形成された微視的な(エミッタ層113の上側表面113aによって形成される凹凸(平面粗さ)よりも小さい(好ましくは10分の1以下))凹部によって形成されている。
【0118】
この微細溝115a及び微小突起115bは、開口部117の近傍に多数形成されている。すなわち、微細溝115a及び微小突起115bは、庇部114aに相当する黒鉛粒子115の端縁部の表面に多数形成されている。具体的には、微細溝115a及び微小突起115bは、貫通孔117aに面する位置に、上部電極114の厚さ方向(図2における上下方向:電子放出方向)について複数個形成されている。また、微細溝115a及び微小突起115bは、庇部114aの下面114a1に相当する位置に形成されている。また、微細溝115a及び微小突起115bは、庇部114aの上面に相当する位置にも形成されている。
【0119】
さらに、微細溝115a及び微小突起115bは、黒鉛粒子115の表面における、庇部114a以外の位置にも形成されている。すなわち、微細溝115a及び微小突起115bは、開口部117の外側にも形成されている。そして、微細溝115a及び微小突起115bは、上部電極114の厚さ方向と垂直な方向(図2における左右方向)に沿って複数個形成されている。
【0120】
黒鉛粒子115の表面に付着している銀微粒子116には、小径微粒子116a及び大径微粒子116bが含まれている。小径微粒子116aは、銀の単位微粒子、又は少数個の当該単位微粒子が凝集して粒成長したものからなる。大径微粒子116bは、多数個の前記単位微粒子、又は複数の小径微粒子116aが凝集して粒成長したものからなる。ここで、小型微粒子116aには、100nm以下の微粒子が含まれ、また、大型微粒子116bには600nm以上の微粒子が含まれ、これらがそれぞれ共存している。さらには、粒径分布において、銀微粒子116が、300nm以下の範囲及び300nmより大きい範囲において、各々少なくとも一つのピークを有している。すなわち、小型微粒子116aの平均粒径は300nm以下であり、大型微粒子116bの平均粒径は300nmより大きい。なお、ここでは、100nm以下の微粒子と600nm以上の微粒子が共存し、かつ、300nm以下の範囲及び300nmより大きい範囲において、各々少なくとも一つのピークを有している実施例を示したが、これらのうちのどちらか一方を有している状態であれば本願発明の効果が生起され得る。
【0121】
本実施形態の電子放出素子110においては、上部電極114の先端114a2、トリプルジャンクション114a3、微細溝115a、微小突起115b、及び銀微粒子116(小径微粒子116a及び大径微粒子116b)によって、電界集中部が構成されている。ここで、電界集中部とは、上部電極114と下部電極112(図1参照)との間に駆動電圧を印加した場合に、電気力線の集中(電界集中)が生じる箇所(電界集中部)をいう。また、ここにいう「電気力線の集中」とは、仮に下部電極112(図1参照)、エミッタ層113、及び上部電極114を側断面視無限長の平板として電気力線を描く場合に、下部電極112から均等間隔で発した電気力線が集中する箇所をいうものとする。この電界集中部における電気力線の集中(電界集中)の様子は、有限要素法による数値解析によってシミュレーションすることで簡単に確認され得る。
【0122】
なお、上述のような電界集中部は、開口部117以外の上部電極114の外縁部(上部電極114の平面視における外形形状を構成する端縁部)にも形成されている。
【0123】
また、開口部117の内縁により構成される貫通孔117aは、平面視にて、円形、楕円形、多角形、不定形など、様々な形状に形成され得る。
【0124】
ここで、貫通孔117aは、以下の理由により、平面視における貫通孔117aの面積と同面積の円形に当該貫通孔117aの形状を近似した場合に、当該円形の直径の平均が、10nm以上、20μm以下となるような大きさに形成されている。
【0125】
すなわち、図2に示されているように、エミッタ層113のうち、上部電極114と下部電極112(図1参照)との間に印加される駆動電圧(図1におけるVa)に応じて分極が反転あるいは変化する部分は、図中の第1の部分113dと第2の部分113eとからなる。第1の部分113dは、上部電極114(黒鉛粒子115)の直下の部分である。第2の部分113eは、貫通孔117aの内縁(上部電極114の先端114a2)の直下から、貫通孔117aの内側に向かう領域に形成される部分である。この第2の部分113eは、上部電極114(上述の電界集中部)から供給された電子を蓄積して電子放出に寄与する主要な領域である。この第2の部分113eの発生範囲は、駆動電圧Vaのレベルや、当該部分の電界集中の度合いによって変化することになる。
【0126】
貫通孔117aの平均径が小さすぎると、第2の部分113eの面積が小さくなって電子放出量が低下することから、本実施形態における貫通孔117aの平均径が10nm以上に設定されている。逆に、貫通孔117aの平均径が大きすぎると、開口部117内における、第2の部分113eが形成されない(電子の蓄積・放出に寄与しない)エミッタ層113の上側表面113aの領域が多くなって、電子放出の効率が低下することから、本実施形態における貫通孔117aの平均径が20μm以下に設定されている。このように、開口部117近傍のエミッタ層113の上側表面113aにて蓄積・放出される電子量を多くしつつ、効率よく電子が放出されるようにするために、本実施形態における貫通孔117aの平均径が、上述の範囲(10nm以上、20μm以下)に設定されている。
【0127】
<電子放出素子の等価回路構成>
また、本実施形態の電子放出素子110は、図3に示されているように、電気回路的な特性として、上部電極114と下部電極112との間に、エミッタ層113によるコンデンサC1と、上述の各ギャップ117bによる複数のコンデンサCaの集合体によるコンデンサC2とが直列に接続された構成に近似され得る。このコンデンサC2は、各ギャップ117b(図2参照)による複数のコンデンサCaが互いに並列に接続されてなる。
【0128】
もっとも、上述の複数のコンデンサCaの集合体によるコンデンサC2と、エミッタ層113によるコンデンサC1とが、単純に直列接続された等価回路は実際的ではない。すなわち、図1及び図2に示されているような、上部電極114における開口部117の形成個数・状態に応じて、エミッタ層113によるコンデンサC1のうちの一部が、集合体によるコンデンサC2と直列接続されるように、当該等価回路が構成され得る。
【0129】
ここで、例えば、図4に示されているように、エミッタ層113によるコンデンサC1のうちの25%が、集合体によるコンデンサC2と直列接続された場合を想定して、容量計算を行ってみる。
【0130】
ギャップ117bは、ほぼ真空であることから、比誘電率を1とする。そして、ギャップ117bの最大間隔dを0.1μm、1つのギャップ117bの部分の面積Sを1μm×1μmとし、ギャップ117bの数を10,000個とする。また、エミッタ層113の比誘電率を2000、エミッタ層113の厚さを20μm、上部電極114と下部電極112の対向面積を200μm×200μmとする。
【0131】
以上の仮定の下では、集合体によるコンデンサC2の容量値は0.885pFとなり、エミッタ層113によるコンデンサC1の容量値は35.4pFとなる。そして、エミッタ層113によるコンデンサC1のうち、集合体によるコンデンサC2と直列接続されている部分を全体の25%としたとき、当該直列接続された部分における容量値(集合体によるコンデンサC2の容量値を含めた容量値)は0.805pFとなり、残りの容量値は26.6pFとなる。
【0132】
上述のエミッタ層113によるコンデンサC1のうち、集合体によるコンデンサC2と直列接続された部分以外の残りの部分は、当該直列接続された部分と並列接続されている。よって、上部電極114と下部電極112との間の全体の合成容量値は、27.5pFとなる。この合成容量値は、エミッタ層113によるコンデンサC1の容量値35.4pFの78%である。つまり、全体の合成容量値は、エミッタ層113によるコンデンサC1の容量値よりも小さくなる。
【0133】
このように、ギャップ117bによるコンデンサCaの容量値、及び当該ギャップ117bの集合体の合成容量C2は、直列接続されるエミッタ層113によるコンデンサC1よりも非常に小さいものとなる。すなわち、このコンデンサCa(C2)及びC1の直列回路に駆動電圧Vaを印加した場合の分圧の大部分が、容量の小さな方のコンデンサCa(C2)の方に印加され得るように、当該電子放出素子110が構成されている。換言すれば、駆動電圧Vaの大部分がギャップ117b(図2参照)に印加され得るように、当該電子放出素子110が構成されている。
【0134】
<電子放出素子の電子放出動作原理>
次に、電子放出素子110の電子放出動作の原理について、図5ないし図7を用いて説明する。図5は、駆動電圧Vaの波形を示す図である。図6及び図7は、電子放出素子110の動作説明のための模式図である。
【0135】
本実施形態において、上部電極114と下部電極112との間に印加される駆動電圧Vaとしては、図5に示されている通りの、基準電圧(波動の中心に対応する電圧)が0[V]、振幅が(V1+V2)[V]、周期が(T1+T2)[s]の矩形波の交流電圧が用いられる。この駆動電圧Vaにおいては、第1段階としての時間T1にて、上部電極114の方が下部電極112よりも低電位となる(負電圧)V2となり、続く第2段階としての時間T2にて、上部電極114の方が下部電極112よりも高電位となる(正電圧)V1となる。
【0136】
また、初期状態において、エミッタ層113の分極方向が一方向に揃えられている場合(具体例として、図6(A)に示されているように、双極子の負極がエミッタ層113の上側表面113aに向いた状態となっている場合)を想定して、以下の動作説明をする。
【0137】
まず、上部電極114と下部電極112との間の電圧が基準電圧である初期状態では、図6(A)に示されているように、双極子の負極がエミッタ層113の上側表面113aに向いた状態となっている。よって、エミッタ層113の上側表面113aは、電子がほとんど蓄積されていない状態となっている。
【0138】
その後、負電圧V2が印加されると、図6(B)に示されているように、分極が反転する。この分極反転によって、前記した電界集中部である先端114a2や、トリプルジャンクション114a3において、電界集中が発生する。これにより、上部電極114における前記の電界集中部からエミッタ層113の上側表面113aに向けた電子の放出(供給)が起こる。例えば、図6(C)に示されているように、上側表面113aのうちの、開口部117から露出した部分や、庇部114aの近傍の部分に、電子が蓄積される。すなわち、上側表面113aが帯電する。この上側表面113aの帯電は、当該エミッタ層113の表面抵抗値に基づく一定の飽和状態となるまで可能であり、駆動電圧波形等により帯電量を制御することが可能である。このように、上部電極114(特に上述の電界集中部)が、エミッタ層113(上側表面113a)への電子供給源として機能する。
【0139】
その後、駆動電圧Vaが、負電圧V2から、図7(A)の如く一旦基準電圧となった後、さらに、駆動電圧Vaとして正電圧V1が印加されると、分極が再度反転する(図7(B)参照)。すると、双極子の負極との静電斥力によって、上側表面113aに蓄積されていた電子が、貫通孔117aを通過して外部に向けて放出される(図7(C)参照)。
【0140】
なお、上部電極114における、開口部117のない外縁部においても、上述と同様の電子放出動作が行われる。
【0141】
<電子放出素子の製造方法>
次に、上述の構成を有する本実施形態の電子放出素子110(図1等参照)の製造方法について、当該電子放出素子110の構成を示す図1及び図2の符号を引用しつつ、以下に説明する。
【0142】
まず、基体111の上に、下部電極112が、基体111と固着して一体化した状態で形成される(下部電極形成工程)。この下部電極形成工程としては、例えば、蒸着等の薄膜形成プロセスが用いられ得る。あるいは、当該下部電極形成工程としては、例えば、印刷、塗布等の厚膜形成プロセスが用いられ得る。
【0143】
次に、下部電極112の上に、誘電体層を形成することで、エミッタ層113が形成される(エミッタ層形成工程)。このエミッタ層形成工程としては、例えば、スクリーン印刷法、ディッピング法、塗布法、電気泳動法、エアロゾルデポジション法、ゾル含浸法、イオンビーム法、スパッタリング法、真空蒸着法、イオンプレーティング法、化学気相成長法(CVD)、めっき等が用いられ得る。
【0144】
更に、形成されたエミッタ層113の上に、上部電極114が形成される(上部電極形成工程)。これにより、本実施形態の電子放出素子110が形成される。この上部電極形成工程は、以下のようにして行われる。
【0145】
まず、合成樹脂からなる所定のバインダーに対して、黒鉛粒子及び銀微粒子が分散された、電極ペーストが調製される(電極ペースト調製工程)。黒鉛粒子、銀微粒子、及びバインダーの混合は、攪拌機、ロールミル、ナノマイザー(登録商標)等によって行われ得る。黒鉛粒子、及び銀微粒子はバインダーに同時に添加・混合され得る。あるいは、黒鉛粒子とバインダーとが混合されてなる黒鉛ペーストに、銀微粉末、銀ナノ粒子分散インク、又は銀の有機金属化合物が添加・混合されることで、当該黒鉛ペーストに銀微粒子が分散され得る。
【0146】
ここで、バインダーとしては、分解温度が比較的低温のものが好適に用いられ得る。例えば、黒鉛が銀微粒子の触媒作用によって酸化されることで黒鉛粒子の一部が分解・侵食される温度(黒鉛分解温度:約450℃)よりも、分解温度が、好ましくは50℃以上低く、より好ましくは100℃以上低い材質が、バインダーとして好適に用いられ得る。なお、「分解温度」とは、示差熱分析による最も低温側のピークに対応する温度をいうものとする。
【0147】
具体的には、バインダーとしては、EMAコポリマー、iBMA(メタクリル酸i−ブチル)、BMA(ブチルメタクリレート)、MMA(メタクリル酸メチル)、MMA/EA(メタクリル酸メチル/アクリル酸エチル)が用いられ得る。この場合、重量平均分子量(Mw)が略50,000〜150,000の範囲のものが好適に用いられ得る。
【0148】
なお、黒鉛粒子とバインダーとの混合比(重量比)は、黒鉛粒子:バインダー=1:5ないし5:1の範囲内に設定され得る。また、黒鉛粒子と銀微粒子との混合比(重量比)は、黒鉛:銀=100:1ないし1:1の範囲内に設定され得る。
【0149】
次に、上述のエミッタ層113の上に、上述の電極ペーストの層が形成される(電極ペースト層形成工程)。この電極ペースト層形成工程としては、例えば、スクリーン印刷法、ディッピング法、塗布法等が用いられ得る。
【0150】
上述のようにして電極ペースト層が形成された後、所定の熱処理が行われる(熱処理工程)。この熱処理工程により、バインダーが分解・蒸散される。また、この熱処理工程により、黒鉛粒子が銀微粒子の触媒作用によって侵食される。
【0151】
この熱処理工程が行われることで、エミッタ層113の上側表面113a上に、微細溝115a、微小突起115b、及び銀微粒子116を表面に有する黒鉛粒子115からなる上部電極114が形成される。
【0152】
ここで、熱処理工程は、処理温度の異なる第1熱処理工程と第2熱処理工程との2段階に分けて行われ得る。
【0153】
第1熱処理工程は、電極ペースト層からバインダーを除去するための工程である。この第1熱処理工程における温度(第1熱処理温度)としては、バインダー熱分解開始温度よりも高温であって、且つ前記黒鉛分解温度よりも低い温度(例えば400℃程度)が採用され得る。また、前記第1熱処理温度としては、銀微粒子の成長を促進させないような温度が採用され得る。
【0154】
第2熱処理工程は、第1熱処理工程を経てバインダー(のほとんど)が分解・蒸散した状態の電極ペースト層に対して、前記第1熱処理温度よりも高温の熱処理を施すことで、銀微粒子による黒鉛の分解・侵食を促進して、黒鉛粒子115における微細溝115a及び微小突起115bや貫通孔117aを形成するための工程である。
【実施例1】
【0155】
次に、上述の構成を有する本実施形態の電子放出素子110(図1等参照)の製造方法の一つの具体例(実施例)について、以下に説明する。
【0156】
<下部電極形成工程>
酸化イットリウム(Y2O3)で安定化された酸化ジルコニウム(ZrO2)からなる基体111の上に、所定の寸法・形状で、金属白金(Pt)を含む金属ペーストの層がスクリーン印刷法により形成される。この金属ペーストの層を1000〜1400℃程度の温度で熱処理することで、厚さ3μmの金属白金(Pt)からなる下部電極112が、基体111と固着して一体化した状態で形成される。
【0157】
<エミッタ層形成工程>
まず、鉛(Pb),マグネシウム(Mg),ジルコニウム(Zr),チタン(Ti),ニッケル(Ni)等の酸化物(例えば、一酸化鉛(PbO)、四酸化三鉛(Pb3O4)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化ジルコニウム(ZrO2)、酸化チタン(TiO2)、酸化ニッケル(NiO))等が、各元素の含有率が所望の割合になるように混合される。次に、得られた混合物が、750〜1300℃で仮焼されることで、上述の誘電体材料が得られる。この仮焼によって得られた誘電体材料は、X線回折装置による回折強度において、ペロブスカイト相の最強回折線の強度に対するパイロクロア相等の異相の最強回折線の強度の比が、5%以下であることが好ましく、2%以下であることがより好ましい。最後に、得られた仮焼後の誘電体材料を、ボールミル等を用いて粉砕することで、所定の粒子径(例えばレーザー回折法による平均粒径で0.1〜1μm)の誘電体粉末が得られる。
【0158】
このようにして得られた誘電体粉末を、所定のバインダー及び溶剤の混合液に分散することによって、誘電体ペーストが調製される。
【0159】
次に、下部電極112の上に、誘電体ペーストの層が、スクリーン印刷法により、40μmの塗布厚さとなるように形成される。
【0160】
そして、この誘電体ペースト層を乾燥して溶剤を蒸散させた後、熱処理してバインダーを分解・蒸散させるとともに、誘電体層を緻密化させることで、エミッタ層113が形成される。
【0161】
<上部電極形成工程>
更に、形成されたエミッタ層113の上に、以下のプロセスを用いて、上部電極114が形成される。
【0162】
<<電極ペースト調製工程>>
まず、黒鉛粉末(平均粒径10μm、厚さ1μm以下)と、アクリル系のバインダー(EMAコポリマー:重量平均分子量(Mw)105,000)と、溶剤(テルピネオール)と、カルボン酸エステル系分散剤(アミン価:約70)とを、20:25:75:4の重量比で、トリロールミル(3本のロールによるロールミル)を用いて混合することで、黒鉛が分散した状態のペースト(黒鉛ペースト)が得られる。続いて、この黒鉛ペーストに、銀ナノ粒子分散インク(銀粒子の平均粒径:10nm)を、黒鉛と銀の重量比が2:1となるように加え、トリロールミルにて混合することで、電極ペーストが調製される。
【0163】
ここで、アクリル系のバインダーの熱分解ピーク温度は、銀の触媒効果による黒鉛の分解(酸化)・侵食のための熱処理温度(以下、単に「黒鉛分解温度」と称する。)である約450℃よりも100℃以上低い280℃である。ここで、前記熱分解ピーク温度とは、図8に示されている示差熱分析によるピークP1,P2・・・における、第1ピーク(最も低温側のピーク)P1の頂点に対応する温度(図9における温度T1)である。なお、図8における熱分解開始温度Tsは、当該第1ピークP2の立ち上がり温度である。
【0164】
なお、図8は、示差熱分析にて現れ得る典型的なプロファイルの一例であって、実際の示差熱分析のプロファイルは図8とは異なるものが出現し得る。例えば、ピークが1つしか出現しない場合があり得る。この場合、前記熱分解ピーク温度T1及び前記熱分解開始温度Tsは、当該単一のピークに対応して決定される。また、複数のピークのうち、最も低温側のピークP1の高さよりも、他のピークP2等の方が高くなる場合があり得るが、このような場合であっても、前記熱分解ピーク温度T1及び前記熱分解開始温度Tsは、最も低温側のピークP1に対応して決定される。
【0165】
<<電極ペースト層形成工程>>
得られた電極ペーストは、テルピネオールで希釈されることで、粘度が10万〜20万cp程度に調整される。希釈された電極ペーストは、スクリーン印刷法によって、上述のエミッタ層113の上に、1〜20μm程度の厚さで塗布される。これにより、当該エミッタ層113の上に、電極ペースト層が形成される。
【0166】
<<熱処理工程>>
上述のようにして電極ペースト層が形成された後の対象物は、乾燥工程によって溶剤が蒸散された後、空気雰囲気(大気圧)の加熱炉中において熱処理される。この熱処理は、次のように行われる。まず、15分間で450℃まで昇温された後、450℃で30分間キープされる。その後、炉内で15分間かけて徐冷される。
【0167】
<実施例1に係る電子放出素子の評価>
図9は、上述の実施例1の製造方法によって製造された電子放出素子110の、単位面積あたりの電子放出量を表すグラフである。なお、比較例として、上述の実施例1とは異なるバインダーを用いた場合が示されている。この比較例のバインダーとしては、エチルセルロース系のバインダー(エトキシ基含有量:48〜50%、Mw=75,000)が用いられている。
【0168】
図9に示されているように、実施例の電子放出素子110によれば、比較例よりも電子放出量が非常に多くなった。
【0169】
図10(A)は、実施例1の電子放出素子110の(上部電極114)を上方から見た場合の走査電子顕微鏡写真である。図10(B)は、図10(A)に対応する、比較例の電子放出素子(上部電極)の走査電子顕微鏡写真である。図11(A)は、実施例1の電子放出素子110の(上部電極114)を斜め上方から見た場合の走査電子顕微鏡写真である。図11(B)は、図11(A)に対応する、比較例の電子放出素子(上部電極)の走査電子顕微鏡写真である。
【0170】
図10及び図11から明らかなように、比較例においては黒鉛粒子の表面が平坦であるのに対し、実施例1においては、黒鉛粒子の表面にサブミクロンないしナノレベルの微細な溝(図2における微細溝115a)や孔が多数形成されている。この溝は、図10(A)及び図11(A)に示されているように、最深部が10nm以上であり、且つ黒鉛粒子の厚さの50%以下となるように形成されている。
【0171】
また、実施例1においては、黒鉛粒子の端縁(図2における庇部114a)に、多数の鋭利な突起(図2における微小突起115b)が形成されている。この突起は、黒鉛粒子の厚さ方向について複数個形成されている。この突起は、図10(A)及び図11(A)に示されているように、その高さが、銀微粒子の一次粒子の径である7nm以上であり、且つ黒鉛粒子の厚さの50%以下となるように形成されている。
【0172】
さらに、比較例における銀微粒子は、比較的中規模(0.3〜0.5μm程度)に粗粒化し、且つ比較的均一な粒径分布となっている。これに対し、実施例1においては、非常に大きく(平均粒径として500nm以上に)粒成長した大径微粒子と、当該大径微粒子よりもはるかに小さい(平均粒径として100nm以下の)小径微粒子とが多数存在している。
【0173】
そして、図10(A)に示されているように、この大径微粒子に対応するように、最深部が10nm以上であり且つ黒鉛粒子の厚さの90%以下となるような比較的大きな穴が形成され、当該穴の外縁に突起が形成されている。また、当該大径微粒子に対応するように、図2における開口部117を形成する貫通孔が形成されている。
【実施例2】
【0174】
さらに、本実施形態の電子放出素子110(図1等参照)の製造方法の他の具体例(実施例)について、以下に説明する。
【0175】
本実施例においては、バインダーとして、上述の比較例と同一のエチルセルロース(熱分解開始温度Ts=300℃、熱分解ピーク温度T1=380℃)が用いられている代わりに、熱処理工程が、第1熱処理工程と第2熱処理工程との2段階に分けられている。
【0176】
(実施例2−1)
第1熱処理工程においては、まず、15分間で300℃まで昇温された後、300℃で5時間キープされる。その後、第2熱処理工程においては、400℃で2時間キープされた後、炉内で15分間かけて徐冷される。
【0177】
(実施例2−2)
第1熱処理工程においては、まず、15分間で350℃まで昇温された後、350℃で2時間キープされる。その後、第2熱処理工程においては、400℃で2時間キープされた後、炉内で15分間かけて徐冷される。
【0178】
実施例2−1及び実施例2−2による電子放出素子110においても、上述の実施例1と同様に、電子放出量の大幅な向上が見られた。
【0179】
図12(A)は、実施例2の電子放出素子110の(上部電極114)を上方から見た場合の走査電子顕微鏡写真である。図12(B)は、図10(A)に対応する、比較例の電子放出素子(上部電極)の走査電子顕微鏡写真である。
【0180】
図12から明らかなように、実施例2においても、実施例1と同様に、黒鉛粒子の表面の微細な溝、及び黒鉛粒子の端縁の多数の鋭利な突起が形成されている。また、実施例2においても、実施例1と同様に、銀微粒子として、非常に大きく粒成長した大径微粒子と、当該大径微粒子よりもはるかに小さい小径微粒子とが存在している。
【0181】
<実施例のまとめ>
実施例1においては、熱処理工程は単一温度による単一な工程(1段階熱処理工程)であった反面、比較的低温(前記黒鉛分解温度よりも100℃以上低温)で分解・蒸散するバインダーが用いられていた。一方、実施例2においては、従来と変わらないバインダーが用いられた反面、熱処理工程が2段階に分けられた(2段階熱処理工程)。
【0182】
そして、上述の通り、実施例1及び実施例2のいずれにおいても、電子放出量が大幅に増大した。また、実施例1及び実施例2のいずれにおいても、上部電極114に同様の形状的な特徴が生じた。
【0183】
これは、以下のようなメカニズムによるものと考えられる。
【0184】
黒鉛を酸化・分解する触媒として機能する銀微粒子の存在下で黒鉛の分解・侵食が生じる温度(以下、「所定の黒鉛分解温度」と称する。)及び銀微粒子の粒成長が生じる温度以下の温度においてバインダーが分解・蒸散されることで、銀微粒子は、小径の微粒子の状態で黒鉛の表面に存在し得る。
【0185】
温度が上昇していくと、銀の触媒作用によって、上部電極(114)を構成する黒鉛(黒鉛粒子115)が侵食されていく。ここで、この黒鉛の侵食と同時に、銀微粒子の粒成長が生じようとする。しかしながら、黒鉛の侵食によって、銀微粒子は黒鉛の当該侵食部分によって形成された凹部に埋もれた状態となる。よって、銀微粒子の移動が阻害され、当該銀微粒子の粒成長が阻害される。
【0186】
そして、この小径の銀微粒子(図2における小径微粒子116a)によって黒鉛が小規模に侵食されることで、当該黒鉛の表面に多数の溝や突起が形成される。
【0187】
ここで、実施例1においては、上述の通り、前記バインダー熱分解ピーク温度が比較的低温(前記黒鉛分解温度よりも100℃以上低温)なバインダーが用いられていた。この場合、熱処理工程を2段階に分けなくても、比較的低温で銀微粒子の粗粒化が進んでいない状態で、バインダーが比較的急速に分解・蒸散する。これにより、バインダーの大部分が分解・蒸散された状態で、小径の銀微粒子が黒鉛の表面に付着する。この小径の銀微粒子により、上述のような微視的な溝や突起が良好に形成され得る。このように、実施例1の製造方法によれば、きわめて単純な熱処理工程を用いて、
【0188】
一方、実施例2においては、実施例1よりも前記バインダー熱分解ピーク温度が高温のバインダーが用いられていた。もっとも、このような場合であっても、前記2段階熱処理工程を行うことで、上述のような微視的な溝や突起が良好に形成され得る。この場合、前記バインダー熱分解開始温度が前記黒鉛分解温度よりも低ければよい。これにより、前記第2熱処理工程よりも低温な前記第1熱処理工程において、銀微粒子の粗粒化が進行しない間に、バインダーの大部分が分解・蒸散される。
【0189】
また、図10(A)ないし図12(A)にて確認された大径の銀粒子(図2における大径微粒子116b)は、ペーストの乾燥工程及びバインダーの分解・蒸散工程において、銀微粒子の一部が凝集し、その後に粒成長したものであると考えられる。この大径の銀粒子によって、黒鉛粒子(115)に、開口部(117)や、大き目の凹部や溝が形成される。
【0190】
ここで、前記所定の黒鉛分解温度及び銀微粒子の粒成長が生じる温度以下の温度において、上述のような小径の銀微粒子及び大径の銀粒子が存在するように、電極ペーストの調製条件等を適宜調整することで、上述のような特徴的な形状が容易に形成され得るものと考えられる。
【0191】
<変形例の示唆>
なお、上述の実施形態及び実施例は、上述した通り、出願人が取り敢えず本願の出願時点において最良であると考えた本発明の代表的な実施形態及び実施例を単に例示したものにすぎない。よって、本発明はもとより上述の実施形態等に何ら限定されるものではなく、本発明の本質的部分を変更しない範囲内において種々の変形を施すことができることは当然である。
【0192】
以下、先願主義の下で本願の出願の際に追記し得る程度(時間の許す限り)で、変形例について幾つか例示するが、変形例とてこれらに限定されるものではないことはいうまでもない。本願発明を、上述の実施形態等及び下記変形例の記載に基づき限定解釈すること(特に、本発明の課題を解決するための手段を構成する各要素における、作用・機能的に表現されている要素を、実施形態等の記載に基づき限定解釈すること)は、先願主義の下で出願を急ぐ出願人の利益を不当に害する反面、模倣者を不当に利するものであって、発明の保護及び利用を目的とする特許法の目的に反し、許されない。
【0193】
(i) 本発明に係る電子放出素子の構成は、前記実施形態の電子放出素子110の構成に限定されない。例えば、上部電極114は、前記エミッタ層113の前記上側表面113a上に形成された所定のコーティング層の上に形成されていてもよい。あるいは、下部電極112に代えて、エミッタ層113の上側表面113a上に形成された第2電極が形成されていてもよい。
【0194】
また、上部電極114,エミッタ層113,下部電極112が、この順で上方から下方に複数回繰り返して積層された、いわゆる多層構造を有していてもよい。
【0195】
(ii) エミッタ層113を構成する誘電体材料の調製方法としては、上述の実施例に示された方法以外の様々な方法が用いられ得る。例えば、アルコキシド法や共沈法等も用いられ得る。
【0196】
(iii) 電極ペーストへの銀微粒子の添加は、銀の有機金属化合物や銀ナノ粒子分散インクの添加に限定されない。例えば、銀粉末そのものが電極ペーストに添加されてもよい。この場合、銀粉末を0.5μm以下に粉砕・解砕する前処理が必要となる場合がある。また、銀粉末をバインダーに分散させた銀ペーストが用いられ得る。この場合、上述の黒鉛ペースト及び当該銀ペーストの、バインダー、溶剤、分散剤を適宜選択することで、銀微粒子の分散状態が適宜調整され得る。
【0197】
(iv) 銀微粒子に代えて、加熱下における黒鉛の分解・侵食作用を奏し得る他の微粒子が用いられ得る。例えば、銀を含有する合金からなる微粒子も好適に用いられ得る。あるいは、白金、金、銅、及びこれらを含む合金からなる微粒子が用いられ得る。さらには、ビスマス(Bi)、バナジウム(V)、アンチモン(Sb)、モリブデン(Mo)の酸化物からなる微粒子が用いられ得る。このとき、より電界集中部を多く形成する観点からは、導電性微粒子が用いられることが好適である。なぜなら、当該微粒子によって形成される溝や突起のみならず、当該微粒子自体も電界集中部となり得るからである。
【0198】
(v) 実施例1の低分解温度バインダーと、実施例2の2段階熱処理とは、併用され得る。
【0199】
(vi) スクリーン印刷における電極ペーストの希釈の度合いや塗布厚さは、電極ペーストの粘度に応じて適宜調整され得る。例えば、希釈前の電極ペーストの粘度が低い場合は、希釈せずにスクリーン印刷が行われ得る。また、スクリーン印刷する際のペーストの粘度が低い場合、塗布厚さは厚くされる。
【0200】
(vii) 熱処理工程が、減圧雰囲気中、真空中、不活性ガス(窒素を含む)雰囲気中で行われる場合、電極ペースト層形成工程にて形成される電極ペーストの層厚は薄くされ得る。
【0201】
(viii) 本発明の課題を解決するための手段を構成する各要素における、作用・機能的に表現されている要素は、上述の実施形態・実施例や変形例にて開示されている具体的構造の他、当該作用・機能を実現可能な、いかなる構造をも含む。
【図面の簡単な説明】
【0202】
【図1】本発明の一実施形態に係る電子放出素子を備えたディスプレイの一部を拡大して示す断面図である。
【図2】図1に示されている電子放出素子の要部を拡大して示す断面図である。
【図3】図1に示されている電子放出素子の等価回路図である。
【図4】図1に示されている電子放出素子の等価回路図である。
【図5】図1に示されているパルス発生源の出力波形を示す図である。
【図6】図1に示されている電子放出素子の動作説明のための模式図である。
【図7】図1に示されている電子放出素子の動作説明のための模式図(図6の続き)である。
【図8】バインダーの示差熱分析のチャートである。
【図9】実施例及び比較例の電子放出素子による電子放出量を示すグラフである。
【図10】実施例及び比較例における上部電極を拡大して示す走査電子顕微鏡写真である。
【図11】実施例及び比較例における上部電極を拡大して示す走査電子顕微鏡写真である。
【図12】実施例及び比較例における上部電極を拡大して示す走査電子顕微鏡写真である。
【符号の説明】
【0203】
100…ディスプレイ、 110…電子放出素子、 111…基体、
112…下部電極、 113…エミッタ層、 113a…表面、
113b…裏面、 113c…凹部、 114…上部電極、
114a…庇部、 114a1…下面、 114a2…先端、
114a3…トリプルジャンクション、 115…黒鉛粒子、
115a…微細溝、 115b…微小突起、 116…銀微粒子、
116’…フロート電極部、116a…小径微粒子、 116b…大径微粒子、
117…開口部、 117a…貫通孔、 117b…ギャップ、
120…表示部、 122…透明板、 124…コレクタ電極、
126…蛍光体層、 151…パルス発生源、 152…バイアス電圧源、
B…結晶粒界
【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体からなるエミッタ層と、
そのエミッタ層の第1の表面側に設けられた第1電極と、
前記エミッタ層における、前記第1の表面側、内部、又は前記第1の表面とは反対側に位置する第2の表面側に設けられた、第2電極と、
を備え、
前記第1電極の表面には、微視的な溝が形成されていることを特徴とする、電子放出素子。
【請求項2】
請求項1に記載の電子放出素子であって、
前記第1電極の端縁部と、前記エミッタ層における前記第1の表面との間には、ギャップが形成されていることを特徴とする、電子放出素子。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の電子放出素子であって、
前記第1電極には、前記エミッタ層における前記第1の表面を当該電子放出素子の外部に向けて露出する開口部が形成されていることを特徴とする、電子放出素子。
【請求項4】
請求項3に記載の電子放出素子であって、
前記溝は、前記開口部及び/又はその近傍に形成されていることを特徴とする、電子放出素子。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の電子放出素子であって、
前記第1電極は、黒鉛からなることを特徴とする、電子放出素子。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の電子放出素子において、
前記第1電極の前記表面に付着した導電性の微粒子をさらに備えたことを特徴とする、電子放出素子。
【請求項7】
請求項6に記載の電子放出素子であって、
前記微粒子は、銀又は銀を含む合金からなることを特徴とする、電子放出素子。
【請求項8】
請求項6又は請求項7に記載の電子放出素子であって、
前記微粒子は、小径微粒子と、その小径微粒子よりも大径の大径微粒子とからなることを特徴とする、電子放出素子。
【請求項9】
請求項8に記載の電子放出素子であって、
前記小径微粒子は粒径100nm以下の微粒子を含み、前記大径微粒子は粒径600nm以上の微粒子を含むことを特徴とする、電子放出素子。
【請求項10】
誘電体からなるエミッタ層と、
そのエミッタ層の第1の表面側に設けられた第1電極と、
前記エミッタ層における、前記第1の表面側、内部、又は前記第1の表面とは反対側に位置する第2の表面側に設けられた、第2電極と、
を備え、
前記第1電極には、前記エミッタ層における前記第1の表面を当該電子放出素子の外部に向けて露出するように、開口部が形成されていて、
その開口部における内側の端縁には、微視的な突起が、当該第1電極の厚さ方向について複数形成されていることを特徴とする、電子放出素子。
【請求項11】
請求項10に記載の電子放出素子であって、
前記突起は、前記開口部の外側であって、前記開口部の近傍にも形成されていることを特徴とする、電子放出素子。
【請求項12】
請求項10又は請求項11に記載の電子放出素子であって、
前記開口部における前記端縁と、前記エミッタ層における前記第1の表面との間には、ギャップが形成されていることを特徴とする、電子放出素子。
【請求項13】
請求項10ないし請求項12のいずれかに記載の電子放出素子であって、
前記第1電極は、黒鉛からなることを特徴とする、電子放出素子。
【請求項14】
請求項10ないし請求項13のいずれかに記載の電子放出素子において、
前記第1電極の前記表面に付着した導電性の微粒子をさらに備えたことを特徴とする、電子放出素子。
【請求項15】
請求項14に記載の電子放出素子であって、
前記微粒子は、銀又は銀を含む合金からなることを特徴とする、電子放出素子。
【請求項16】
請求項14又は請求項15に記載の電子放出素子であって、
前記微粒子は、小径微粒子と、その小径微粒子よりも大径の大径微粒子とからなることを特徴とする、電子放出素子。
【請求項17】
請求項16に記載の電子放出素子であって、
前記小径微粒子は粒径100nm以下の微粒子を含み、前記大径微粒子は粒径600nm以上の微粒子を含むことを特徴とする、電子放出素子。
【請求項18】
誘電体からなるエミッタ層と、
そのエミッタ層の第1の表面側に設けられた第1電極と、
前記エミッタ層における、前記第1の表面側、内部、又は前記第1の表面とは反対側に位置する第2の表面側に設けられた、第2電極と、
を備えた電子放出素子の製造方法において、
黒鉛と、所定の黒鉛分解温度以上の加熱下で前記黒鉛を分解し得る微粒子と、合成樹脂からなるバインダーと、を混合することで、電極ペーストを調製するペースト調製工程と、
前記エミッタ層を構成する誘電体層の上に、前記ペースト調製工程によって得られた前記電極ペーストの層を形成するペースト層形成工程と、
前記ペースト層形成工程によって得られた前記電極ペーストの前記層を、前記黒鉛分解温度よりも低い温度で熱処理する第1熱処理工程と、
前記第1熱処理工程の後に、前記層を、前記黒鉛分解温度以上の温度で熱処理する第2熱処理工程と、
を含むことを特徴とする、電子放出素子の製造方法。
【請求項19】
請求項18に記載の、電子放出素子の製造方法であって、
前記黒鉛分解温度は、触媒の存在下における前記黒鉛の分解温度であり、
前記微粒子は、前記触媒として機能することを特徴とする、電子放出素子の製造方法。
【請求項20】
請求項19に記載の、電子放出素子の製造方法であって、
前記微粒子として、銀又は銀を含む合金からなる微粒子を用いることを特徴とする、電子放出素子の製造方法。
【請求項21】
誘電体からなるエミッタ層と、
そのエミッタ層の第1の表面側に設けられた第1電極と、
前記エミッタ層における、前記第1の表面側、内部、又は前記第1の表面とは反対側に位置する第2の表面側に設けられた、第2電極と、
を備えた電子放出素子の製造方法において、
黒鉛と、所定の黒鉛分解温度以上の加熱下で前記黒鉛を分解し得る微粒子と、前記黒鉛分解温度よりも低い温度で分解又は蒸散し得る合成樹脂からなるバインダーと、を混合することで、電極ペーストを調製するペースト調製工程と、
前記エミッタ層を構成する誘電体層の上に、前記ペースト調製工程によって得られた前記電極ペーストの層を形成するペースト層形成工程と、
前記ペースト層形成工程によって得られた前記電極ペーストの前記層を熱処理する熱処理工程と、
を含むことを特徴とする、電子放出素子の製造方法。
【請求項22】
請求項21に記載の、電子放出素子の製造方法であって、
前記黒鉛分解温度は、触媒の存在下における前記黒鉛の分解温度であり、
前記微粒子は、前記触媒として機能することを特徴とする、電子放出素子の製造方法。
【請求項23】
請求項12に記載の、電子放出素子の製造方法であって、
前記微粒子として、銀又は銀を含む合金からなる微粒子を用いることを特徴とする、電子放出素子の製造方法。
【請求項1】
誘電体からなるエミッタ層と、
そのエミッタ層の第1の表面側に設けられた第1電極と、
前記エミッタ層における、前記第1の表面側、内部、又は前記第1の表面とは反対側に位置する第2の表面側に設けられた、第2電極と、
を備え、
前記第1電極の表面には、微視的な溝が形成されていることを特徴とする、電子放出素子。
【請求項2】
請求項1に記載の電子放出素子であって、
前記第1電極の端縁部と、前記エミッタ層における前記第1の表面との間には、ギャップが形成されていることを特徴とする、電子放出素子。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の電子放出素子であって、
前記第1電極には、前記エミッタ層における前記第1の表面を当該電子放出素子の外部に向けて露出する開口部が形成されていることを特徴とする、電子放出素子。
【請求項4】
請求項3に記載の電子放出素子であって、
前記溝は、前記開口部及び/又はその近傍に形成されていることを特徴とする、電子放出素子。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の電子放出素子であって、
前記第1電極は、黒鉛からなることを特徴とする、電子放出素子。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の電子放出素子において、
前記第1電極の前記表面に付着した導電性の微粒子をさらに備えたことを特徴とする、電子放出素子。
【請求項7】
請求項6に記載の電子放出素子であって、
前記微粒子は、銀又は銀を含む合金からなることを特徴とする、電子放出素子。
【請求項8】
請求項6又は請求項7に記載の電子放出素子であって、
前記微粒子は、小径微粒子と、その小径微粒子よりも大径の大径微粒子とからなることを特徴とする、電子放出素子。
【請求項9】
請求項8に記載の電子放出素子であって、
前記小径微粒子は粒径100nm以下の微粒子を含み、前記大径微粒子は粒径600nm以上の微粒子を含むことを特徴とする、電子放出素子。
【請求項10】
誘電体からなるエミッタ層と、
そのエミッタ層の第1の表面側に設けられた第1電極と、
前記エミッタ層における、前記第1の表面側、内部、又は前記第1の表面とは反対側に位置する第2の表面側に設けられた、第2電極と、
を備え、
前記第1電極には、前記エミッタ層における前記第1の表面を当該電子放出素子の外部に向けて露出するように、開口部が形成されていて、
その開口部における内側の端縁には、微視的な突起が、当該第1電極の厚さ方向について複数形成されていることを特徴とする、電子放出素子。
【請求項11】
請求項10に記載の電子放出素子であって、
前記突起は、前記開口部の外側であって、前記開口部の近傍にも形成されていることを特徴とする、電子放出素子。
【請求項12】
請求項10又は請求項11に記載の電子放出素子であって、
前記開口部における前記端縁と、前記エミッタ層における前記第1の表面との間には、ギャップが形成されていることを特徴とする、電子放出素子。
【請求項13】
請求項10ないし請求項12のいずれかに記載の電子放出素子であって、
前記第1電極は、黒鉛からなることを特徴とする、電子放出素子。
【請求項14】
請求項10ないし請求項13のいずれかに記載の電子放出素子において、
前記第1電極の前記表面に付着した導電性の微粒子をさらに備えたことを特徴とする、電子放出素子。
【請求項15】
請求項14に記載の電子放出素子であって、
前記微粒子は、銀又は銀を含む合金からなることを特徴とする、電子放出素子。
【請求項16】
請求項14又は請求項15に記載の電子放出素子であって、
前記微粒子は、小径微粒子と、その小径微粒子よりも大径の大径微粒子とからなることを特徴とする、電子放出素子。
【請求項17】
請求項16に記載の電子放出素子であって、
前記小径微粒子は粒径100nm以下の微粒子を含み、前記大径微粒子は粒径600nm以上の微粒子を含むことを特徴とする、電子放出素子。
【請求項18】
誘電体からなるエミッタ層と、
そのエミッタ層の第1の表面側に設けられた第1電極と、
前記エミッタ層における、前記第1の表面側、内部、又は前記第1の表面とは反対側に位置する第2の表面側に設けられた、第2電極と、
を備えた電子放出素子の製造方法において、
黒鉛と、所定の黒鉛分解温度以上の加熱下で前記黒鉛を分解し得る微粒子と、合成樹脂からなるバインダーと、を混合することで、電極ペーストを調製するペースト調製工程と、
前記エミッタ層を構成する誘電体層の上に、前記ペースト調製工程によって得られた前記電極ペーストの層を形成するペースト層形成工程と、
前記ペースト層形成工程によって得られた前記電極ペーストの前記層を、前記黒鉛分解温度よりも低い温度で熱処理する第1熱処理工程と、
前記第1熱処理工程の後に、前記層を、前記黒鉛分解温度以上の温度で熱処理する第2熱処理工程と、
を含むことを特徴とする、電子放出素子の製造方法。
【請求項19】
請求項18に記載の、電子放出素子の製造方法であって、
前記黒鉛分解温度は、触媒の存在下における前記黒鉛の分解温度であり、
前記微粒子は、前記触媒として機能することを特徴とする、電子放出素子の製造方法。
【請求項20】
請求項19に記載の、電子放出素子の製造方法であって、
前記微粒子として、銀又は銀を含む合金からなる微粒子を用いることを特徴とする、電子放出素子の製造方法。
【請求項21】
誘電体からなるエミッタ層と、
そのエミッタ層の第1の表面側に設けられた第1電極と、
前記エミッタ層における、前記第1の表面側、内部、又は前記第1の表面とは反対側に位置する第2の表面側に設けられた、第2電極と、
を備えた電子放出素子の製造方法において、
黒鉛と、所定の黒鉛分解温度以上の加熱下で前記黒鉛を分解し得る微粒子と、前記黒鉛分解温度よりも低い温度で分解又は蒸散し得る合成樹脂からなるバインダーと、を混合することで、電極ペーストを調製するペースト調製工程と、
前記エミッタ層を構成する誘電体層の上に、前記ペースト調製工程によって得られた前記電極ペーストの層を形成するペースト層形成工程と、
前記ペースト層形成工程によって得られた前記電極ペーストの前記層を熱処理する熱処理工程と、
を含むことを特徴とする、電子放出素子の製造方法。
【請求項22】
請求項21に記載の、電子放出素子の製造方法であって、
前記黒鉛分解温度は、触媒の存在下における前記黒鉛の分解温度であり、
前記微粒子は、前記触媒として機能することを特徴とする、電子放出素子の製造方法。
【請求項23】
請求項12に記載の、電子放出素子の製造方法であって、
前記微粒子として、銀又は銀を含む合金からなる微粒子を用いることを特徴とする、電子放出素子の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2007−95409(P2007−95409A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−281277(P2005−281277)
【出願日】平成17年9月28日(2005.9.28)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年9月28日(2005.9.28)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】
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