説明

電子材料表面保護剤

【課題】パーティクル等の異物が基板表面に強固に付着する前に、基板表面に吸着し、これらの異物の強固な付着を防ぎ、後の洗浄工程で基板上の異物の残留を著しく減少させることが可能となる電子材料用表面保護剤を提供することを目的とする。
【解決手段】炭素数6〜24の脂肪族第1級アミンのアルキレンオキサイド付加物(A1)、炭素数8〜36の脂肪族第2級アミンのアルキレンオキサイド付加物(A2)、炭素数6〜24の第1級アルカノールアミンのアルキレンオキサイド付加物(A3)および炭素数8〜36の第2級アルカノールアミンのアルキレンオキサイド付加物(A4)からなる群から選ばれる1種以上のアルキレンオキサイド付加物(A)並びに水を必須成分として含むことを特徴とする電子材料用表面保護剤を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子材料用表面保護剤および電子材料の製造方法に関する。
さらに詳しくは、研磨工程とそれに続く洗浄工程を含む電子材料の製造方法において、その研磨した表面に吸着することで、研磨砥粒、研磨屑パーティクルなどの異物が電子材料表面に強固に付着することを防止することができる表面保護剤及びこの表面保護剤を使用した電子材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子材料、とりわけ磁気ディスクは、年々小型化、高容量化の一途をたどっており、磁気ヘッドと磁気ディスク基板間の距離がますます小さくなってきている。
そのため、磁気ディスク基板の製造での研磨工程直後の洗浄工程で、研磨に使用した砥粒や発生した研磨屑等のパーティクルの残留が極力残存しない基板が求められている。また、表面粗さ、微少うねりの低減、及びスクラッチ、ピット等の表面欠陥の低減も求められている。
【0003】
磁気ディスク製造工程には、(1)平坦化した基板を作成する工程であるサブストレート工程と、(2)磁性層を基板に形成する工程であるメディア工程を含む。
これらのうち、サブストレート工程では、基板の平坦化のためにアルミナ、酸化セリウム、コロイダルシリカ等の砥粒を含むスラリーによる研磨を行い、洗浄工程で基板表面の砥粒や研磨屑等のパーティクルを除去した後、乾燥工程を経て、所定の容器に梱包され輸送される。
【0004】
ここでサブストレート工程中の研磨工程と洗浄工程はそれぞれの設備、装置が全く別個であるため、洗浄設備、装置の稼動状況によって、研磨工程後の基板をすぐに洗浄工程に移行できず、通常5時間〜10時間程度待機せざるを得ない場合がある。研磨工程後の基板は、空気中で放置して乾燥させてしまうと、基板上に残留したパーティクルが基板に強固に付着し、洗浄工程で容易に除去できなくなるため、このように待機せざるを得ない場合、基板が乾燥しないように純水中に基板を浸漬させた状態で保管することが通常おこなわれている。しかし、純水に浸漬してもなお、時間の経過とともにパーティクルが基板表面に強固に付着する問題がある。
【0005】
また、サブストレート工程からメディア工程に基板を搬送する際に、基板を乾燥状態で保管しなければならない期間があり、この保管期間において、空気中の塵、埃やサブストレート工程で除去できなかったパーティクルなどの異物が基板に強く付着する問題がある。このパーティクルなどの異物も上記同様、洗浄で一層除去しづらくなる。
このように、基板上に強固に異物が付着した基板は、一度の洗浄では十分に満足する清浄度を得ることができず、洗浄工程を再度行われ、それでも目標とする清浄度が満足できない場合は廃棄されるなど、著しく生産効率を落とすため、問題になっている。
そのため、これらの固着しやすい異物の除去性を高めるために、各洗浄工程で用いる洗浄剤の高性能化や洗浄時間の長時間化が検討されている(先行技術文献−1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献−1】特開2009−280802号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、基板を繰り返し洗浄することや長時間洗浄は、生産性を落とすだけでなく、基板の表面荒さやピットの発生など、新たな欠陥が発生するといった問題がある。また、洗浄剤の高性能化は前記と同様に基板の表面荒さやピットの発生などの問題がある。
そこで、とりわけ異物が基板表面に強固に付着する前に、基板表面に吸着し、これらのパーティクルなどの異物の強固な付着を完全に防ぎ、後の洗浄工程で基板上の異物の残留を著しく減少させることが可能となる電子材料用表面保護剤、および電子材料の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の目的を達成するべく検討を行った結果、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、パーティクルや塵、埃等の異物が基板表面に強固に付着する前に、基板表面に吸着し、これらの異物の強固な付着を防ぎ、後の洗浄工程で基板上の異物の残留を著しく減少させることが可能となる電子材料用表面保護剤;およびこの表面保護剤を用いた電子材料の製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の電子材料用表面保護剤および電子材料の製造方法は、砥粒や研磨屑などのパーティクルや、梱包容器などから発生する異物が電子材料基板上に強固に固着することを防ぎ、高記録密度化で要求される清浄度の高い電子材料を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明における電子材料とは、製造工程中に研磨工程とそれに続く洗浄工程を含む電子材料であれば特に限定するものではない。
例えば、(1)磁気ディスク用ガラス基板および表面がニッケル−リン(Ni−P)メッキされた磁気ディスク用アルミ基板等の磁気ディスク用基板、(2)半導体素子及びシリコンウェハ等用の半導体基板、(3)SiC基板、GaAs基板、GaN基板、AlGaAs基板等の化合物半導体基板、(4)LED等用のサファイヤ基板等が挙げられる。
【0011】
これらのうち、生産効率向上の観点で好ましくは磁気ディスク用基板であり、具体的に磁気ディスク用ガラス基板、および表面がニッケル−リン(Ni−P)メッキされた磁気ディスク用アルミ基板である。
【0012】
本発明における電子材料中間体とは、製造工程中の電子材料を表し、具体的には、研磨された後のガラス基板、研磨された後のNi−Pメッキされたアルミ基板等、もしくは、乾燥前のガラスサブストレート基板、乾燥前のアルミサブストレート基板のことを指す。
【0013】
本発明の電子材料用表面保護剤(B)は、アルキレンオキサイド付加物(A)および水を必須成分として含むことを特徴とし、このアルキレンオキサイド付加物(A)は、炭素数6〜24の脂肪族第1級アミンのアルキレンオキサイド付加物(A1)、炭素数8〜36の脂肪族第2級アミンのアルキレンオキサイド付加物(A2)、炭素数6〜24の第1級アルカノールアミンのアルキレンオキサイド付加物(A3)および炭素数8〜36の第2級アルカノールアミンのアルキレンオキサイド付加物(A4)からなる群から選ばれる1種以上である。
【0014】
本発明の炭素数6〜24の脂肪族第1級アミンのアルキレンオキサイド付加物(A1)における原料の脂肪族第1級アミンは、直鎖、分岐鎖または環状でもよく、飽和または不飽和結合をもっていてもよい炭素数6〜24の脂肪族第1級アミンである。
炭素数6未満では基板への吸着性が劣るため、パーティクルなどの異物の固着防止性の観点から好ましくない。
脂肪族第1級アミンの具体例としては、ラウリルアミン、ヘキシルアミン、シクロヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ウンデシルアミン、n−トリデシルアミン、テトラデシルアミン、ペンタデシルアミン、ヘキサデシルアミン、ヘプタデシルアミン、オクタデシルアミン、ノナデシルアミン、イコシルアミン、ヘンイコシルアミン、ドコシルアミン、トリコシルアミン、テトラコシルアミン、オクタデセニルアミンおよびオクタデカジエニルアミンや、これらの混合物である牛脂アミン、硬化牛脂アミン、ヤシ油アミン、パーム油アミンおよび大豆油アミン等動植物油由来の脂肪族第1アミンを挙げることができる。脂肪族第1級アミンは1種または2種以上の混合物を用いてもよい。
【0015】
本発明の炭素数8〜36の脂肪族第2級アミンのアルキレンオキサイド付加物(A2)における原料の脂肪族第2級アミンは、直鎖、分岐鎖または環状でもよく、飽和または不飽和結合をもっていてもよい炭素数8〜36の脂肪族第2級アミンである。
炭素数8未満では基板への吸着性が劣るため、パーティクルなどの異物の固着防止性の観点から好ましくない。
脂肪族第2級アミンの具体例としては、ジオクチルアミン、ジブチルアミン、ジヘキシルアミン、ジデシルアミン、ジウンデシルアミン、ジドデシルアミン、ジトリデシルアミン、ジテトラデシルアミン、ジペンタデシルアミン、ジヘキサデシルアミン、ジヘプタデシルアミンおよびジオクタデシルアミンを挙げることができる。
脂肪族第2級アミンは1種または2種以上の混合物を用いてもよい。
【0016】
本発明の炭素数6〜24の第1級アルカノールアミンのアルキレンオキサイド付加物(A3)における原料の第1級アルカノールアミンは、直鎖、分岐鎖または環状でもよく、飽和または不飽和結合をもっていてもよい炭素数6〜24の第1級アルカノールアミンである。
炭素数6未満では基板への吸着性が劣るため、パーティクルなどの異物の固着防止性の観点から好ましくない。
第1級アルカノールアミンの具体例としては、6−アミノ−1−ヘキシルアルコール、4−アミノ−1−シクロヘキシルアルコール、8−アミノ−1−オクチルアルコール、10−アミノ−1−デシルアルコール、11−アミノ−1−ウンデシルアルコール、12−アミノ−1−ドデシルアルコール、14−アミノ−1−テトラデシルアルコール、15−アミノ−1−ペンタデシルアルコール、16−アミノ−1−ヘキサデシルアルコール、18−アミノ−1−オクタデシルアルコール、20−アミノ−1−イコシルアルコール、22−アミノ−1−ドコシルアルコール、24−アミノ−1−テトラコシルアルコール及びこれらの混合物を挙げることができる。第1級アルカノールアミンは1種または2種以上の混合物を用いてもよい。
【0017】
本発明の炭素数8〜36の第2級アルカノールアミンのアルキレンオキサイド付加物(A4)における原料の脂肪族第2級アミンは、直鎖、分岐鎖または環状でもよく、飽和または不飽和結合をもっていてもよい炭素数8〜36の第2級アルカノールアミンである。
炭素数8未満では基板への吸着性が劣るため、パーティクルなどの異物の固着防止性の観点から好ましくない。
第2級アルカノールアミンの具体例としては、ジオクタノールアミン、ジブタノールアミン、ジヘキサノールアミン、ジデカノールアミン、ジウンデカノールアミン、ジドデカノールアミン、ジトリデカノールアミン、ジテトラデカノールアミン、ジペンタデカノールアミン、ジヘキサデカノールアミン、ジヘプタデカノールアミンおよびジオクタデカノールアミンを挙げることができる。
第2級アルカノールアミンは1種または2種以上の混合物を用いてもよい。
【0018】
本発明の(A1)〜(A4)における原料のアルキレンオキシドとしては、炭素数2〜12のアルキレンオキシド、例えば、エチレンオキシド(以下、EOと略称する。)、1,2−プロピレンオキシド(以下、POと略称する。)、1,2−ブチレンオキシド、テトラヒドロフラン並びに3―メチルテトラヒドロフラン等が挙げられる。これらのアルキレンオキサイドは1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。上記アルキレンオキサイドのうち好ましくはEO、およびPOであり、さらに好ましくはEOである。
【0019】
(A1)〜 (A4)におけるアルキレンオキサイドの平均付加モル数は、アミン1モル当たり3〜100モルであり、パーティクルなどの異物の固着防止の観点から好ましくは3〜70モル、更に好ましくは3〜40モル、特に好ましくは6〜15モルである。
【0020】
本発明の炭素数6〜24の脂肪族第1級アミンのアルキレンオキサイド付加物(A1)は直鎖、分岐鎖または環状でもよく、飽和または不飽和結合をもっていてもよい。
具体的には、ラウリルアミンEO8モル付加物、ヘキシルアミンEO8モル付加物、シクロヘキシルアミンEO8モル付加物、オクチルアミンEO8モル付加物、デシルアミンEO8モル付加物、ウンデシルアミンEO8モル付加物、n−トリデシルアミンEO8モル付加物、テトラデシルアミンEO8モル付加物、ペンタデシルアミンEO8モル付加物、ヘキサデシルアミンEO8モル付加物、ヘプタデシルアミンEO8モル付加物、オクタデシルアミンEO8モル付加物、ノナデシルアミンEO8モル付加物、イコシルアミンEO8モル付加物、ヘンイコシルアミンEO8モル付加物、ドコシルアミンEO8モル付加物、トリコシルアミンEO8モル付加物、テトラコシルアミンEO8モル付加物、オクタデセニルアミンEO8モル付加物およびオクタデカジエニルアミンEO8モル付加物や、これらの混合物である牛脂アミンEO8モル付加物、硬化牛脂アミンEO8モル付加物、ヤシ油アミンEO8モル付加物、パーム油アミンEO8モル付加物および大豆油アミンEO8モル付加物等動植物油由来の脂肪族第1アミンEO8モル付加物を挙げることができる。脂肪族第1級アミンアルキレンオキサイド付加物は1種または2種以上の混合物を用いてもよい。
【0021】
本発明の炭素数8〜36の脂肪族第2級アミンのアルキレンオキサイド付加物(A2)は、直鎖、分岐鎖または環状でもよく、飽和または不飽和結合をもっていてもよい。
具体的には、ジオクチルアミンEO12モル付加物、ジブチルアミンEO12モル付加物、ジヘキシルアミンEO12モル付加物、ジデシルアミンEO12モル付加物、ジウンデシルアミンEO12モル付加物、ジドデシルアミンEO12モル付加物、ジトリデシルアミンEO12モル付加物、ジテトラデシルアミンEO12モル付加物、ジペンタデシルアミンEO12モル付加物、ジヘキサデシルアミンEO12モル付加物、ジヘプタデシルアミンEO12モル付加物およびジオクタデシルアミンEO12モル付加物を挙げることができる。
脂肪族第2級アミンアルキレンオキサイド付加物は1種または2種以上の混合物を用いてもよい。
【0022】
本発明の炭素数6〜24の第1級アルカノールアミンのアルキレンオキサイド付加物(A3)は直鎖、分岐鎖または環状でもよく、飽和または不飽和結合をもっていてもよい。
具体的には、6−アミノ−1−ヘキシルアルコールEO8モル付加物、4-アミノ−1−シクロヘキシルアルコールEO8モル付加物、8−アミノ−1−オクチルアルコールEO8モル付加物、10−アミノ−1−デシルアルコールEO8モル付加物、11−アミノ−1−ウンデシルアルコールEO8モル付加物、12−アミノ−1−ドデシルアルコールEO8モル付加物、14−アミノ−1−テトラデシルアルコールアミンEO8モル付加物、15−アミノ−1−ペンタデシルアルコールEO8モル付加物、16−アミノ−1−ヘキサデシルアルコールEO8モル付加物、18−アミノ−1−オクタデシルアルコールEO8モル付加物、20−アミノ−1−イコシルアルコールEO8モル付加物、22−アミノ−1−ドコシルアルコールEO8モル付加物及び24−アミノ−1−テトラコシルアルコールEO8モル付加物等を挙げることができる。第1級アルカノールアミンアルキレンオキサイド付加物は1種または2種以上の混合物を用いてもよい。
【0023】
本発明の炭素数8〜36の第2級アルカノールアミンのアルキレンオキサイド付加物(A4)は、直鎖、分岐鎖または環状でもよく、飽和または不飽和結合をもっていてもよい。
具体的には、ジオクタノールアミンEO12モル付加物、ジブタノールアミンEO12モル付加物、ジヘキサノールアミンEO12モル付加物、ジデカノールアミンEO12モル付加物、ジウンデカノールアミンEO12モル付加物、ジドデカノールアミンEO12モル付加物、ジトリデカノールアミンEO12モル付加物、ジテトラデカノールアミンEO12モル付加物、ジペンタデカノールアミンEO12モル付加物、ジヘキサデカノールアミンEO12モル付加物、ジヘプタデカノールアミンEO12モル付加物およびジオクタデカノールアミンEO12モル付加物を挙げることができる。
第2級アルカノールアミンアルキレンオキサイド付加物は1種または2種以上の混合物を用いてもよい。
【0024】
本発明の(A1)〜 (A4)の製造方法としては、公知の方法等が利用できる。
具体的には、攪拌可能な耐圧容器に上記脂肪族第1級アミン、脂肪族第2級アミン、第1級アルカノールアミンまたは第2級アルカノールアミンを仕込み、不活性ガス(窒素、アルゴンなど)で十分に置換後、減圧下で脱水を行い、反応温度80〜160℃で上記アルキレンオキサイドを投入し反応させる方法が利用できる。また、反応時は必要により公知の触媒を使用してもよい。触媒は反応の最初から加えても、途中から加えてもよい。
触媒としては、金属原子を含有しない触媒(テトラメチルアンモニウムヒドロキサイドなどの第4級アンモニウム水酸化物、並びにテトラメチルエチレンジアミンや1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン−7(DBU)などの第3級アミンなど)および金属原子含有触媒(水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物並びにアルカリ土類金属酸化物など)が挙げられる。
【0025】
本発明の(A)の2重量%水溶液における曇点は、好ましくは、10℃以上であり、ハンドリング性の観点から30℃以上が更に好ましい。
【0026】
実使用時における本発明の表面保護剤中の(A)の濃度は、0.001〜10重量%である。
【0027】
本発明の表面保護剤(B)の別の必須成分である水は、清浄度の観点から電気抵抗率が18MΩ・cm以上の純水が好ましく、イオン交換水、逆浸透水(RO水)、蒸留水などが挙げられる。
【0028】
本発明の表面保護剤は、パーティクルなどの異物付着防止の観点で、キレート剤(C)を含むことが好ましい。
【0029】
本発明におけるキレート剤(C)としては、ホスホン酸系キレート剤(C1)およびカルボン酸系キレート剤(C2)が挙げられる。
【0030】
ホスホン酸系キレート剤(C1)としては、ヒドロキシエチリデンジホスホン酸(HEDP)及びその塩、メチルジホスホン酸及びその塩、アミノトリ(メチレンホスホン酸)及びその塩等が挙げられる。
【0031】
カルボン酸系キレート剤(C2)としては、ジエチレントリアミンペンタ酢酸(DTPA)及びその塩、エチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)及びその塩、ヒドロキシエチルイミノ二酢酸(HIDA)及びその塩、クエン酸及びその塩、グルコン酸及びその塩などが挙げられる。
【0032】
実使用時における本発明の電子材料中間体用洗浄剤中の(C)の濃度は、0.001〜2重量%である。
また、(A)に対する(C)の重量比(C)/(A)は0.01〜10である。
【0033】
本発明の表面保護剤には、上記の成分以外にpH調整剤(水酸化ナトリウム等の無機アルカリ、イソプロパノールアミン等の有機アルカリ)、(A)以外の界面活性剤およびハイドロトロープ剤(p−トルエンスルホン酸塩、安息香酸塩等)等を配合してもよい。

【0034】
本発明の別の実施態様は、研磨工程と洗浄工程を必要とする電子材料の製造方法において、研磨工程とそれに続く洗浄工程の間で、上記の表面保護剤(B)中に電子材料中間体を浸漬する工程を含む電子材料の製造方法である。研磨工程直後に、表面保護剤中に浸漬することで、研磨粒子等の異物の付着を防止することができるため、その後の洗浄工程において発生するスクラッチやピットなどの表面欠陥が低減した電子材料を製造することが可能となる。
【0035】
本発明の表面保護剤(B)を用いた磁気ディスク用ガラス基板の製造工程(一部)の一例を以下に示す。
(1)サブストレート工程において、砥粒としてコロイダルシリカを用いてガラス基板を研磨する。
(2)研磨後のガラス基板を純水で軽くリンスした後、本発明の表面保護剤が入った容器にガラス基板を数分、長い場合では数時間浸漬する。
(3)ガラス基板を引き上げ、純水で軽くリンスした後、洗浄機にセットしてブラシを用いたスクラブ洗浄または超音波を用いたディップ洗浄をおこなう。
(4)洗浄後、純水でリンスした後、スピン乾燥で乾燥させる。
(5)ガラス基板を容器に梱包し、メディア工程に搬送する。
【0036】
上記製造工程(2)における浸漬温度は5〜100℃であり、好ましくは10〜90℃、さらに好ましくは20〜80℃である。
【0037】
上記製造工程(2)における浸漬時間は1分〜20時間であり、好ましくは5分〜15時間、さらに好ましくは10分〜10時間である。
【0038】
本発明のもう一つの実施態様は、乾燥工程とそれに続く洗浄工程を必要とする電子材料の製造方法において、乾燥工程の前に、電子材料中間体を前述した電子材料用表面保護剤中に浸漬する工程を含む電子材料の製造方法である。乾燥工程の前に、表面保護剤中に浸漬することで、乾燥後の異物の付着を防止することができるため、清浄度の高い電子材料を製造することが可能となる。
【0039】
本発明の表面保護剤を用いた磁気ディスク用ガラス基板の製造工程(一部)の一例を以下に示す。
(a)サブストレート工程において、砥粒としてコロイダルシリカを用いてガラス基板を研磨する。
(b)研磨後のガラス基板を引き上げ、純水で軽くリンスした後、洗浄機にセットしてブラシを用いたスクラブ洗浄または超音波を用いたディップ洗浄をおこなう。
(c)洗浄後、純水でリンスした後、本発明の表面保護剤が入った容器にガラス基板を浸漬する。
(d)浸漬したガラス基板を引き上げ、純粋でリンスした後、スピン乾燥で乾燥させる。
(e)ガラス基板を容器に梱包し、メディア工程に搬送する。
(f)搬送後、超音波を用いたディップ洗浄等で受け入れ洗浄をおこなう。
【0040】
上記(c)における浸漬温度は、5〜100℃であり、好ましくは10〜90℃、さらに好ましくは20〜80℃である。
【0041】
上記(c)における浸漬時間は、1分〜20時間であり、好ましくは5分〜15時間、さらに好ましくは10分〜10時間である。
【0042】
上記(d)における回転数は、1000〜6000rpmであり、好ましくは2000〜5000rpmである。上記(d)におけるスピン乾燥時間は、1〜10分である。
【0043】
本発明の電子材料の製造方法で製造される電子材料は、前述したように、製造工程中に研磨工程とそれに続く洗浄工程を含む電子材料であれば特に限定するものではなく、例えば、磁気ディスク基板、シリコン半導体基板、化合物半導体基板、サファイヤ基板等が挙げられる。
これらのうち、生産効率向上の観点で好ましくは磁気ディスク用基板であり、具体的に磁気ディスク用ガラス基板、および表面がニッケル−リン(Ni−P)メッキされた磁気ディスク用アルミ基板である。
【実施例】
【0044】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。以下、特に定めない限り、%は重量%、部は重量部を示す。
【0045】
実施例1〜8、および比較例1〜5
表1に記載の組成となるように、各成分を配合し、25℃、マグネチックスターラーで40rpm、20分間攪拌して、本発明の表面保護剤および比較のための処理液を得た。
なお、ブランクとして電気抵抗率が18MΩ・cm以上の純水を比較例5とした。
【0046】
【表1】

【0047】
表面保護剤の性能評価試験は下記の方法で行った。
なお、本評価は大気からの汚染を防ぐため、クラス1,000(FED−STD−209D、米国連邦規格、1988年)のクリーンルーム内で実施した。
表面保護剤の試験基板への表面保護性については、接触角を用いて評価し、パーティクルなどの異物の付着防止性については、試験基板上の異物数をカウントすることで行った。
<表面保護性の評価>
【0048】
(1)実施例1〜8の表面保護剤、比較例1〜4の処理液を50倍希釈し、表面保護評価用の試験液を得た。比較例5は純水をそのまま試験液とした。
(2)2.5インチの磁気ディスク用ガラス基板または磁気ディスク用のNi−Pメッキされたアルミ基板を、上記試験液が1000mL入ったビーカーに縦方向に浸漬し、10分間静置した。
(3)10分経過後、ガラス基板およびアルミ基板を引き上げ、純水の流水で10秒間軽く濯ぎ流し、窒素で乾燥し試験用基板を作成した。
(4)各基板に対するイオン交換水の接触角を全自動接触角計(協和界面科学製、「全自動接触角計DM700」)で測定した。結果を表1に示す。

<付着防止性の評価(浸漬して一時保管する場合)>
【0049】
(1)市販のコロイダルシリカスラリー(フジミインコーポレイテッド製「COMPOL80」粒径約80nm)(約30重量%)100mLを純水で10倍に希釈し、試験用のスラリー液を1000mL準備した。
(2)試験用のスラリー液が1000mL入ったビーカーに上記の試験用基板を縦方向に浸漬し、6時間静置した。
(3)6時間経過後、試験用基板を引き上げ、純水の流水で10秒間軽く濯ぎ流した後、窒素で乾燥させ表面保護性能評価用基板を作成した。
(4)表面検査装置(ビジョンサイテック社製、MicroMax VMX−6100SK)で基板表面を観察し、基板上のパーティクル数を数えた。
なお、ブランクの比較例5のガラス基板上パーティクル数は500個、ブランクの比較例5のアルミ基板上パーティクル数は300個であった。
【0050】
それぞれの基板上のパーティクル数をブランクの(比較例5)の基板上パーティクル数と比較し、下記の判断基準に従い、パーティクルが基板に付着することを抑える表面保護効果を評価し、判定した。
結果を表1に示す。
5:ブランクの10%未満
4:ブランクの10%〜40%未満
3:ブランクの40%〜60%未満
2:ブランクの60%〜80%未満
1:ブランクの80%以上

<付着防止性の評価2(乾燥状態の場合)>
【0051】
(1)市販の粉末シリカ(粒径約3μm)を試験用基板上に1g散布し、1週間静置した。
(2)1週間経過後、試験用基板を純水の流水で10秒間軽く濯ぎ流した後、窒素で乾燥させ表面保護性能評価用基板を作成した。
(3)表面検査装置(ビジョンサイテック社製、MicroMax VMX−6100SK)で基板表面を観察し、基板上のパーティクル数を数えた。
なお、ガラス基板の場合、ブランクの比較例5の基板上パーティクル数は100個、アルミ基板の場合、ブランクの比較例5の基板上パーティクル数は70個であった。
【0052】
それぞれの基板上のパーティクルなどの異物数をブランクの(比較例5)の基板上異物数 と比較し、下記の判断基準に従い、パーティクルなどの異物が基板に付着することを抑える表面保護効果を評価し、判定した。
結果を表1に示す。
5:ブランクの10%未満
4:10%〜40%未満
3:40%〜60%未満
2:60%〜80%未満
1:80%以上
【0053】
表1より、実施例1〜8の表面保護剤に浸漬した基板は、接触角が比較例5(ブランク)と比較して高いことから、表面保護剤が表面に吸着していることがわかる。
また、表1より、実施例1〜8の表面保護剤に浸漬して処理したガラス基板およびアルミ基板は、基板上のパーティクルなどの異物数がブランク(比較例5)と比較して極めて少なく(10%未満)、吸着して基板表面を保護することによってパーティクルなどの異物が強く付着することを抑える効果が高いことがわかる。
一方、比較例1〜4の処理液は、表面保護効果が不十分であり、パーティクルなどの異物の付着数はブランクより幾分低減するが、目標到達レベルは不十分である。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の電子材料用表面保護剤は、砥粒や研磨屑のパーティクルなどの異物が基板表面に強固に付着することを従来の保護剤と比較して大幅に低減できる。そのため、製造工程中に研磨を必要とする電子材料、特にハードディスク等の磁気ディスク基板製造工程における基板の表面保護剤として使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数6〜24の脂肪族第1級アミンのアルキレンオキサイド付加物(A1)、炭素数8〜36の脂肪族第2級アミンのアルキレンオキサイド付加物(A2)、炭素数6〜24の第1級アルカノールアミンのアルキレンオキサイド付加物(A3)および炭素数8〜36の第2級アルカノールアミンのアルキレンオキサイド付加物(A4)からなる群から選ばれる1種以上のアルキレンオキサイド付加物(A)並びに水を必須成分として含むことを特徴とする電子材料用表面保護剤(B)。
【請求項2】
該電子材料が磁気ディスク基板である請求項1記載の電子材料用表面保護剤。
【請求項3】
さらにキレート剤(C)を含む請求項1または2記載の電子材料用表面保護剤。
【請求項4】
研磨工程と洗浄工程を必要とする電子材料の製造方法において、研磨工程とそれに続く洗浄工程の間に、請求項1〜3のいずれか1項に記載の表面保護剤中に電子材料中間体を浸漬する工程を含むことを特徴とする電子材料の製造方法。
【請求項5】
乾燥工程とそれに続く洗浄工程を必要とする電子材料の製造方法において、乾燥工程の前に、電子材料中間体を請求項1〜3のいずれか1項に記載の電子材料用表面保護剤中に浸漬する工程を含むことを特徴とする電子材料の製造方法。
【請求項6】
該電子材料が磁気ディスク基板である請求項4または5記載の電子材料の製造方法。


【公開番号】特開2012−252772(P2012−252772A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−109772(P2012−109772)
【出願日】平成24年5月11日(2012.5.11)
【出願人】(000002288)三洋化成工業株式会社 (1,719)
【Fターム(参考)】