説明

電子機器の免震装置

【課題】電子機器を吊り下げワイヤで吊り下げる構造の免震装置において、吊り下げワイヤの振動を抑制することで電子機器の振動を確実に防止する。
【解決手段】 建屋の一部に構築された天井等の基台1に吊り下げワイヤ16によってコンピュータ装置等の電子機器2を吊り下げた免震装置であって、吊り下げワイヤ16の上端部を基台1の表面上で移動可能なアンカー13に連結する。地震により基台1が振動するとアンカー13は基台上で移動するため、アンカー13は静止状態となり、アンカー13に連結した吊り下げワイヤに振動が伝達することはなく、吊り下げワイヤ16に振動が伝達される場合でも吊り下げワイヤ16の長さが長いことにより慣性の法則の効果を高め、電子機器の振動を防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はコンピュータ装置等の電子機器を建屋内に設置するための装置に関し、特に地震発生時の電子機器の揺れを防止した免震装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
コンピュータ装置等の電子機器を建屋内の床に固定設置した場合には、地震発生時に生じる振動によって床が振動し、この床の振動が直接電子機器に伝達し電子機器が揺れて損傷を受けてしまう。このような地震の振動から電子機器を保護するために、従来では電子機器を設置する床を免震床構造にしているが、免震床構造は構造が複雑であると共に大型化することは避けられず、小型の電子機器に適用するのには適さない。そのため、近年では簡易化した構造の免震装置が提案されている。例えば、特許文献1では電子機器を含めた物品を収納するための可動棚を建屋に対して一方向に移動可能に設置したものにおいて、当該可動棚をその可動方向とは異なる方向に移動させることができるようにした技術が提案されている。この技術では地震発生時に建屋に揺れが発生したときに、可動棚は一方向に移動するとともにこれと異なる方向に移動することで、建屋のあらゆる方向の揺れに対しても可動棚に対する振動の伝達を防止する。
【0003】
しかしながら、特許文献1の技術は、可動棚を移動するための機構として軌条に沿って転動する車輪を用いた構造であるので、軌条と車輪との間の摩擦によって震動が可動棚に伝導されることを防止することは困難である。特に、可動棚は鉛直方向には建屋に固定されているので、鉛直方向の振動に対して免震効果を期待することは困難である。
【0004】
一方、特許文献2では電子機器を耐震支柱から吊り下げワイヤにより吊り下げるとともに、この吊り下げワイヤにバネ体を有する緩衝具を直列に連結した技術が提案されている。この特許文献2の技術では吊り下げられた電子機器の重量に依存する慣性によって電子機器が建屋と共に振動することが防止される。また、吊り下げワイヤの撓みにより鉛直方向に対する免震効果を期待することも可能である。
【特許文献1】特開平10−327947号公報
【特許文献2】特開平10−176432号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献2の技術は、電子機器の慣性を利用しているため、前述のように耐震支柱に生じた振動が直接電子機器に伝達されることはなく、また構造が比較的に簡易であるため小型の電子機器の免震構造としては好適である。しかし、特許文献2では、吊り下げワイヤを建屋と一体的な耐震支柱に対して直結した構成であるため、この耐震支柱の振動がそのまま吊り下げワイヤの連結部(上端部)に伝達され、吊り下げワイヤの上端部は耐震支柱と一体に振動する。そのため、吊り下げワイヤが共振周波数で振動されたときには、当該振動が電子機器にも伝達されてしまうことになり、電子機器の振動を確実に防止することが困難になる。そのため、特許文献2では吊り下げワイヤと直列にバネ体を有する緩衝具を連結しているが、この緩衝具の構成が複雑なものとなり、また設計、製造が困難なものになる。
【0006】
本発明の目的は電子機器を吊り下げワイヤで吊り下げる構造の免震装置において、吊り下げワイヤの振動を抑制することで吊り下げワイヤを介して電子機器が振動することを確実に防止した電子機器の免震装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、建屋の一部に構築された基台に吊り下げワイヤによって電子機器を吊り下げた免震装置であって、吊り下げワイヤの上端部を基台の表面上で移動可能なアンカーに連結したことを特徴とする。ここで、基台は表面が水平に配設されており、アンカーは基台の表面上で任意の平面方向に移動可能とする。例えば、アンカーは回転可能な複数個の球によりころがり支持される。具体的には、基台の表面には円形の凹部が設けられ、凹部内にそれよりも小径の円板状をしたアンカーが配設され、吊り下げワイヤは凹部の底面に開口された貫通穴に挿通される。
【0008】
本発明の他の形態としては、電子機器は複数本の吊り下げワイヤによって吊り下げられ、これら複数本の吊り下げワイヤの各上端部が1つのアンカーに連結される。あるいは、電子機器は複数本の吊り下げワイヤによって吊り下げられ、複数本の吊り下げワイヤの各上端部はそれぞれ複数個の別のアンカーに連結される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、地震により基台が振動するとアンカーは基台上で移動するため、アンカーは静止状態となる。そのためアンカーに連結した吊り下げワイヤに振動が伝達することはなく吊り下げワイヤで吊り下げた電子機器が振動されることはない。また、アンカーに振動が伝達される場合でも極く僅かであり、しかも電子機器は吊り下げワイヤによってアンカーから距離を離した位置に保持されるので、慣性の法則による電子機器の振動防止効果をさらに高めることができる。さらに、アンカーを基台の上部に設置することで基台の荷重設計を容易に行うことが可能になる。
【実施例1】
【0010】
次に、本発明の実施例を図面を参照して説明する。図1は本発明をコンピュータ装置のサーバ等の各種電子機器の免震装置として構成した実施例の外観斜視図である。コンピュータ装置2が設置される建屋内の天井に沿って基台1が延設され、この基台1に本発明の免震装置が構成されている。前記基台1はここでは天井、換言すれば上階の床板と一体に形成されている。あるいは、図示は省略するがコンピュータ装置2の周囲位置に複数本の支柱を立設し、これらの支柱によってコンピュータ装置の上部を覆うように板状の基台を配設支持する構成としてもよい。
【0011】
図2は前記基台1を含む断面図であり、図3は要部の部分分解斜視図である。前記基台1には基台1の上面を円形に凹設した凹部11が形成されるとともに、この凹部11の中心位置には基台1を上下方向に貫通した貫通穴12が開口される。前記凹部11内にはそれよりも小径の円板状をしたアンカー13が内装されており、凹部11内においてころがり支持構造によって水平方向に任意の方向に移動可能とされている。ここでは前記ころがり支持構造は、前記凹部11の上面に表面を円弧状に形成した複数個、ここでは4個の球座14が円周方向に配置されており、各球座14にそれぞれ支持球15が回転可能に支承されている。そして、これら支持球15の上にわたって前記アンカー13が載せられており、これによりアンカー13は凹部11内において支持球15を球座14上で回転させながら基台1上を任意の水平方向に移動可能である。すなわち、水平XY方向の移動が可能である。なお、前記凹部11は現実には上階の床面に形成されるものであり、上階ではこの凹部を隠すように床パネルを敷設する。
【0012】
前記アンカー13の下面の中心位置には、所要の強度を有する線材からなる吊り下げワイヤ16の上端部が連結され、前記貫通穴12を通して基台1の下方にまで垂下されている。この吊り下げワイヤ16の下端部は図1に示したように前記コンピュータ装置2の上部に連結されており、これによりコンピュータ装置2は吊り上げワイヤ16によって前記基台1、すなわち天井の下方に吊り下げられている。なお、実際にはコンピュータ装置2が吊り下げワイヤ16の回りに回転することがないように、回転止め機構が設けられるが、この機構は免震効果とは直接の関係が少ないため、ここでは詳細な説明は省略する。
【0013】
この構成によれば、図4に模式図を示すように、地震が発生して建屋が振動すると、当該振動は基台に伝達され、基台は水平方向に振動する。図4(a)は基台1が左方向に振動し、図4(b)は基台1が右方向に振動した状態を示している。このように基台1は水平方向に振動するが、アンカー13は吊り下げワイヤ16でコンピュータ装置2を吊り下げてコンピュータ装置2の全重量が加わっているので、基台1のかかる振動によってもアンカー13は基台1に対しては相対的に水平方向に移動しながらほぼ定位置に静止される。すなわち、図4(a),(b)に示す各吊り下げワイヤ16の位置を対照すると、アンカー13は基台1に対して相対的に移動するが、絶対位置をみればアンカー13は静止された状態に保たれ、結果として基台1の振動がアンカー13に伝達されることが防止される。これにより、基台1が振動してもアンカー13が振動されることはなく、さらにアンカー13に連結された吊り下げワイヤ16で吊り下げられたコンピュータ装置2は自身の重量に依存する慣性によって定位置が保もたれ、水平方向に振動されることはない。
【0014】
実際にはアンカー13と基台1との間には僅かではあるがころがり支持構造におけるころがり摩擦が生じているので、このころがり摩擦によって基台1の振動の僅かな一部はアンカー13に伝達され、吊り下げワイヤ16に伝達される。そのため、コンピュータ装置2には若干の振動が伝達されることになるが、この振動は吊り下げワイヤ16の共振周波数に一致しないかぎり吊り下げワイヤ16において吸収されることになり、振動がコンピュータ装置2にまで伝達されることはない。特に、コンピュータ装置2は吊り下げワイヤ16によってアンカー13から距離の離れた位置に保持されるので、慣性の法則によるコンピュータ装置2の振動防止効果をさらに高めることができる。また、アンカー13を基台1の上部に設置することにより、基台1の荷重設計を従来の床置き構造の免震装置と同じ荷重で設計できるので、設計が複雑なものになることはない。
【0015】
なお、前記実施例ではアンカー13を複数個の支持球15を含むころがり構造によって支持しているが、アンカー13を基台1上において水平方向に任意に移動可能な構成であれば支持構造に限定されるものではない。例えば、摩擦係数が小さな滑り支持構造、あるいはバネ材等の弾性材による弾性支持構造を用いてもよい。これら滑り支持構造や弾性支持構造は実施例のころがり支持構造に比較すると摩擦係数が大きいため基台からアンカーへの振動の伝達を抑制する効果は実施例よりも低いが、本発明ではアンカーが基台上で移動することで基台が振動したときにアンカーを静止状態に保持することができ、基台から吊り下げワイヤへの振動の伝達防止効果を得ることができる効果が得られることは同じである。
【0016】
あるいは、図5に示すように、アンカー13の中心位置に挿通穴13aを開口し、この挿通穴13aの直上位置のアンカー上面にコイルスプリング17を立設し、このコイルスプリング17の上端部に当接した端板18に吊り下げワイヤ16を連結するようにしてもよい。この構成では、アンカー13の水平方向の移動により前述のように水平方向の振動に対する免震が可能であるとともに、コイルスプリング17の弾性変形によって鉛直方向の振動に対する免震効果を高めることが可能になる。
【0017】
ここで、図6のように1つのアンカー13に対して複数本の吊り下げワイヤ16でコンピュータ装置2を保持してもよい。1本の吊り下げワイヤではコンピュータ装置が水平方向に回転してしまうおそれがあるが、少なくとも3本ないしは図示のように4本の吊り下げワイヤで保持することで回転が抑制される。また、1本の吊り下げワイヤに加わる負荷を軽減し、吊り下げワイヤを長寿命化する。
【0018】
あるいは、図7のように、基台1上に複数のアンカー、ここでは4個のアンカー13を設け、各アンカー13にそれぞれ連結した吊り下げワイヤ16でコンピュータ装置2を保持するようにしてもよい。1つのアンカーではコンピュータ装置の全重量が加わるが、複数のアンカーを配設することで各アンカーに加わる重量を軽減することができ、各アンカーを移動され易くして振動吸収効果を高めるとともに、各アンカーにおける磨耗等を低減して長寿命化が実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の免震装置の全体構成を示す概略斜視図である。
【図2】図1の免震装置の基台を断面した断面図である。
【図3】アンカーの構成を示す分解斜視図である。
【図4】本発明の免震装置の免震動作を説明するための模式断面図である。
【図5】アンカーの変形例の断面図である。
【図6】本発明の免震装置の異なる形態を示す概略斜視図である。
【図7】本発明の免震装置のさらに異なる形態を示す概略斜視図である。
【符号の説明】
【0020】
1 基台(天井,床板)
2 コンピュータ装置(電子機器)
11 凹部
12 貫通穴
13 アンカー
14 球座
15 支持球
16 吊り下げワイヤ
17 コイルスプリング



【特許請求の範囲】
【請求項1】
建屋の一部に構築された基台に吊り下げワイヤによって電子機器を吊り下げた免震装置であって、前記吊り下げワイヤの上端部を前記基台の表面上で移動可能なアンカーに連結したことを特徴とする電子機器の免震装置。
【請求項2】
前記基台は表面が水平に配設されており、前記アンカーは前記基台の表面上で任意の平面方向に移動可能であることを特徴とする請求項1に記載の電子機器の免震装置。
【請求項3】
前記アンカーは回転可能な複数個の球によりころがり支持されていることを特徴とする請求項2に記載の電子機器の免震装置。
【請求項4】
前記基台の表面には円形の凹部が設けられ、前記凹部内にそれよりも小径の円板状をしたアンカーが配設され、前記吊り下げワイヤは前記凹部の底面に開口された貫通穴に挿通されていることを特徴とする請求項2又は3に記載の電子機器の免震装置。
【請求項5】
前記電子機器は複数本の吊り下げワイヤによって吊り下げられ、前記複数本の吊り下げワイヤの各上端部が1つのアンカーに連結されていることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の電子機器の免震装置。
【請求項6】
前記電子機器は複数本の吊り下げワイヤによって吊り下げられ、前記複数本の吊り下げワイヤの各上端部はそれぞれ複数個の別のアンカーに連結されていることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の電子機器の免震装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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