説明

電子素子

【課題】共役系高分子を活性層とする電子素子であって工業的製造が容易でかつキャリア移動度等の特性の高い電子素子を提供する。
【解決手段】共役系高分子に接して少なくとも2つの電極が設置されてなる電子素子において、少なくとも2つの電極の間隙において該共役系高分子の主鎖が配向してなり、式(1)で表される該電子素子のホッピング確率係数Zが1を越え10未満であることを特徴とする電子素子。
Z=dmin÷Lmin (1)
〔Lmin:該共役系高分子の数平均分子鎖長、
min:該2つの電極の内の1つの電極の1点と他の電極の1点とを結ぶ線分の長さの内で最小である長さ。〕

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電子工学分野において有用な電子素子に関し、詳しくは表示素子、光電変換素子、センサーなどに使用される電子素子に関する。
【背景技術】
【0002】
共役系高分子を半導体として用いた電子素子は、塗布などの簡便な工程により樹脂フィルムのような柔軟で安価な基材上に量産できるため、シリコンなどの結晶による電子素子よりも大きな面積を有する電子素子にすることができ、かつ安く製造できる可能性があることが指摘されている。該共役系高分子を半導体として用いた電子素子は、表示素子、光電変換素子、センサー等の分野で有用である。
【0003】
共役系高分子は分子が一般に細長いため、分子の鎖長(具体的には数平均分子鎖長Lmin)よりも短い電極の間でこれを適切にある条件で配向させると、キャリアが分子鎖内を移動するので、共役系高分子を用いれば、(共役系高分子ではない)通常の有機分子を電子素子に用いた場合よりもかなり高速で移動するキャリアを有する電子素子、例えば電界効果トランジスタ等を構成できることが既に知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
【特許文献1】特開平10−22547号公報
【0005】
ところが1つの電極の1点と他の電極の1点とを結ぶ線分の長さの内で最小である長さdminを通常のLminのサイズにしようとすると電極の設置は必ずしも容易ではない場合もあった。特にLminが比較的小さな場合には、極めて微細な加工が求められ、工業的な量産が難しい場合もあった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、共役系高分子を活性層とする電子素子であって工業的製造が容易でかつキャリア移動度等の特性の高い電子素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、dminをLminよりも短い長さにしなくても、素子のホッピング確率係数が一定の範囲となるようにdminとLminを選択することにより、高いキャリア移動度を示す電子素子を構成出来ることを見出し本発明に達した。
【0008】
すなわち本発明は、以下の<1>〜<8>を提供する。
<1> 共役系高分子に接して少なくとも2つの電極が設置されてなる電子素子において、少なくとも2つの電極の間隙において該共役系高分子の主鎖が配向してなり、式(1)で表される該電子素子のホッピング確率係数Zが1を越え10未満であることを特徴とする電子素子。
【0009】
Z=dmin÷ Lmin (1)
〔Lmin:該共役系高分子の数平均分子鎖長、
min:該2つの電極の内の1つの電極の1点と他の電極の1点とを結ぶ線分の長さの内で最小である長さ。〕
【0010】
<2> 共役系高分子の主鎖が一軸配向してなり、該2つの電極の内の1つの電極の1点と他の電極の1点とを結ぶ線分の長さの内で最小である長さdminを表す線分と共役系高分子の主鎖の配向方向とのなす角をθとするとき、θが−45度以上45度以下である<1>記載の電子素子。
【0011】
<3> 共役系高分子の主鎖が一軸配向してなり、該2つの電極の内の1つの電極の1点と他の電極の1点とを結ぶ線分の長さの内で最小である長さdminを表す線分と共役系高分子の主鎖の配向方向とが略平行である<1>記載の電子素子。
【0012】
<4> 共役系高分子の配向度Sが0.3以上である<1>〜<3>のいずれかに記載の電子素子。
【0013】
<5> 共役系高分子が膜を形成し、該膜の面内に共役系高分子の主鎖が配向してなり、該2つの電極の内の1つの電極の1点と他の電極の1点とを結ぶ線分の長さの内で最小である長さdminを表す線分が該膜の面に略平行である<1>〜<4>のいずれかに記載の電子素子。
【0014】
<6> 共役系高分子の主鎖が共役系高分子を含むフィルムを延伸することにより一軸配向してなる<1>〜<5>のいずれかに記載の電子素子。
【0015】
<7> 少なくとも2つの電極の他に、共役系高分子に接しない少なくとも1つ以上のゲート電極が更に設置されてなり、前記2つの電極の間を通過する電流が、該2つの電極以外のゲート電極に印加される電圧によって制御される<1>〜<6>のいずれかに記載の電子素子。
【0016】
<8> 該2つの電極の間が発光する<1>〜<7>のいずれかに記載の電子素子。
【発明の効果】
【0017】
本発明の電子素子は従来より高いキャリア移動度を示し、高性能の表示素子、光電変換素子、センサー等となる。特に、電界効果型トランジスタは、応答速度が速い、オン抵抗が小さい等、高い性能を有する。また、本発明の電子素子は、比較的容易に製造することが出来るので、本発明は工業的に極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の電子素子について詳細に説明する。
本発明の電子素子は、共役系高分子に接して少なくとも2つの電極が設置されてなる電子素子であって、少なくとも2つの電極の間隙において該共役系高分子の主鎖が配向してなり、式(1)で表される該電子素子のホッピング確率係数Zが1を越え10未満であることを特徴とする。
Z=dmin÷Lmin (1)
〔Lmin:該共役系高分子の数平均分子鎖長、
min:該2つの電極の内の1つの電極の1点と他の電極の1点とを結ぶ線分の長さの内で最小である長さ。〕
【0019】
本発明の電子素子には、共役系高分子を使用する。該共役系高分子としては、π電子共役系高分子またはσ電子共役系高分子として知られる共役系高分子を使用することができる。
本発明における共役系高分子は、同一の繰り返し単位から構成される高分子でもよく、複数の異なる繰り返し単位から構成される共重合高分子でもよい。また、本発明における共役系高分子は、複数の異なる共役系高分子を混合したものでもよい。該共役系高分子の数平均重合度は、10以上を使用することができるが、10〜10000の範囲が好ましく、100〜5000の範囲がさらに好ましく、300〜3000の範囲が特に好ましい。本発明における共役系高分子は、電子供与性または電子吸引性のドーパントを不純物として含有することができる。ただし、電子素子の用途に応じてドーパントの種類と濃度を選択して使用することが好ましい。
【0020】
このような共役系高分子として、ポリフェニルアセチレンのようなポリアセチレンもしくはその誘導体;ポリフルオレンもしくはその誘導体;ポリパラフェニレンもしくはその誘導体;ポリ(2エチル−p−フェニレンビニレン)、ポリ(2,5ジメチル−p−フェニレンビニレン)、ポリ(2,5ジエチル−p−フェニレンビニレン)、ポリ(2,5ジオクチル−p−フェニレンビニレン)、ポリ(2,5ジメトキシ−p−フェニレンビニレン)、ポリ(2,5ジオクチルオキシ−p−フェニレンビニレン)等のポリパラフェニレンビニレンもしくはその誘導体;ポリチエニレンビニレンもしくはその誘導体;ポリチエニレンもしくはその誘導体;ポリピロールもしくはその誘導体;ポリアニリンもしくはその誘導体;またはポリシランもしくはその誘導体を挙げることができる。
【0021】
分子鎖内のキャリア移動度の点でできるだけ平面性の高いπ電子共役系高分子を用いることが好ましい。そのような高分子としては各種のラダー型の共役系高分子〔ポリパラフェニレン系、等〕、ポリフルオレンもしくはその誘導体、ポリパラフェニレンビニレンもしくはその誘導体、ポリチエニレンビニレンもしくはその誘導体、ポリチエニレンもしくはその誘導体、等を挙げることができるが、この中では各種のラダー型の共役系高分子〔ポリパラフェニレン系、等〕が好ましい。具体的な分子鎖内のキャリア移動度としては、1cm2/Vs以上が好ましく、5cm2/Vs以上がより好ましく、10cm2/Vs以上がさらに好ましく、50cm2/Vs以上がさらにより好ましく、100cm2/Vs以上が特に好ましい。分子鎖の間のキャリア移動度も相対的に高い方が好ましいが、一般的には10-6〜10cm2/Vs程度の範囲であり、本発明でもこの範囲のものから選択して用いることが出来、10-6cm2/Vs以上が好ましく、10-5cm2/Vs以上がより好ましく、10-4cm2/Vs以上がさらに好ましく、10-3cm2/Vs以上が特に好ましい。
【0022】
本発明の電子素子において、共役系高分子は、自立したフィルム、基材上の簿膜、繊維、成形体などの形状で使用できる。電子素子形成の容易さでは、膜(自立したフィルムまたは基材上の簿膜)として使用することが好ましい。
【0023】
このような膜は、共役系高分子の種類により公知の各種の方法で得ることができるので、適宜選択して使用することができる。たとえば、ポリパラフェニレンビニレンまたはその誘導体では、前駆体である高分子スルホニウム塩のフィルムを加熱しながら延伸することにより、高配向のフィルムが得られる。また、ポリチエニレンビニレンでも、前駆体である高分子のフィルムを加熱しながら延伸することにより、一軸に高配向のフィルムが得られる。
【0024】
次に、本発明の電子素子の構造について説明する。本発明の電子素子は、共役系高分子上に少なくとも2つの電極が設置されてなる電子素子であり、具体的には共役系高分子を含むフィルム上に、または基材上に形成された共役系高分子の薄膜上に、または共役系高分子からなる繊維上に、または共役系高分子を含む成形体上に、少なくとも2つの電極が設置されてなる電子素子である。該電極の数は、電子素子の目的とする機能によって異なる。ある電気信号を別の任意の電気信号により変調、増幅等する目的には、3つ以上の電極を形成することが好ましく、このうち少なくとも1つは絶縁層を介して共役系高分子に接触させる(通常ゲート電極と呼ばれる)ことがさらに好ましく、3つの電極を接触させ、このうち少なくとも1つは絶縁層を介して共役系高分子に接触させることが特に好ましい。このような素子は電界効果トランジスタと呼ばれる。
【0025】
本発明の電子素子において、用いる共役系高分子の主鎖が、配向していることが好ましい実施態様である。配向としては、一軸配向であっても膜面(又はフィルム面)に平行な面内配向であってもその両方の配向であってもよい。本発明においては、配向度を示す一つの指標として、以下に示すSを用いる。Sは、共役系高分子の主鎖すなわち連続した共役系を構成する原子からなる鎖の配向度を表すが、より具体的にはn個の分子鎖のそれぞれについて、分子内の連続した共役系を構成する原子の内、該共役系の両末端の原子のある一方を起点とし、他の一方を終点とするn個のベクトルをai(i=1〜n)として、以下のように定義される。
【0026】
S=(3<cos2β>−1)/2 ・・・・・(2)
(式中、<>内は、統計平均を表し、βは、ベクトルuとベクトルaiとのなす角を表し、ベクトルuは、任意の方向を向いた単位ベクトルの内で、式(3)が最大になるものを表す。
【0027】

・・・・・(3)
(式中、| |は、この中の数値の絶対値を表す。)
【0028】
上記Sは、通常厳密な測定は難しいが、共役系高分子の場合、スペクトルにおいて、共役分子鎖と平行な方向に光吸収が見られるので、この吸収について、以下の式(4)で算出される値を用いる。
【0029】
S=(R−1)/(R+2) ・・・・・(4)
【0030】
式(4)におけるRは、吸収極大波長において、共役系高分子の配向方向に平行な方向の偏光の吸光度(A1)と、共役系高分子の配向方向と直交する方向の偏光の吸光度(A2)を測定し、式(5)により求める。
【0031】
R=A1/A2 ・・・・・(5)
このようにして求められるSとしては、一般に高いほうが好ましいが、Sが0.3以上が好ましく、0.5以上がさらに好ましく、0.7以上がさらにより好ましく、0.8以上が特に好ましい。
【0032】
さらに一軸配向の場合、該共役系高分子の数平均分子鎖長をLminとし、1つの電極の1点と他の電極の1点とを結ぶ線分の長さの内で最小である長さ(以下、電極間の最小距離と記すことがある。)をdminとし、該最小である長さを有する線分と該共役系高分子の主鎖の配向方向とのなす角をθとするとき、θは、−45度以上45度以下が好ましく、−30度以上30度以下がより好ましく、−10度以上10度以下がさらに好ましく、−5度以上5度以下がさらにより好ましく、0度すなわち前記dminの方向と該共役系高分子の主鎖の配向方向が略平行であることが特に好ましい。なお、測定精度を考慮すると0度は、±2度程度の範囲を含む。
【0033】
面内配向の場合も、配向のオーダーパラメータは一般に高いことが好ましい。面内配向の場合も面内配向のオーダーパラメータKは式(6)で定義できる。
【0034】
K=(3<cos2γ>−1)/2 ・・・・・(6)
(式(6)中、<>内は、統計平均を表し、γは、ベクトルaiと膜面のなす角を表す。)
【0035】
Kとしては、一般に高いほうが好ましい。Kが0.3以上が好ましく、0.5以上がさらに好ましく、0.7以上が特に好ましい。Kの高い共役系高分子の膜は、共役系高分子の種類により公知の各種の方法で得ることができるので、適宜選択して使用することができる。たとえば有機溶媒に可溶なポリフルオレン類の塗布膜中では、ポリフルオレンの分子鎖は膜面に垂直な配向をとりにくく、多くの分子が基板面に平行な配向を示すことが知られている。すなわち、共役系高分子が膜を形成し、該膜の面内に共役系高分子の主鎖が配向してなり、該2つの電極の内の1つの電極の1点と他の電極の1点とを結ぶ線分の長さの内で最小である長さdminを表す線分が該膜の面に略平行であることが特に好ましい。
【0036】
ホッピング確率係数Zは、少なくとも1を越え10未満であることが必要であるが、最適なZの範囲は配向の種類や配向のオーダーパラメータ等によって異なる。一軸配向でSが0.7以上でかつθが10度未満の場合、キャリア移動度の点で1を越え7未満であることが好ましく、1を越え5未満であることが好ましく、1を越え3未満であることがさらに好ましく、1を越え2未満であることが特に好ましい。Sが0.7以下でかつθが10度以上の場合は、1を越え10未満の範囲で上記よりもやや小さなZを用いることで同様の効果が得られる。面内配向の場合でKが0.7以上の場合、同様に1を越え5未満であることが好ましく、1を越え3未満であることが好ましく、1を越え2未満であることが特に好ましい。Kが0.7以下の場合は、1を越え10未満の範囲で上記よりもやや小さなZを用いることで同様の効果が得られる。具体的なLminの大きさとしては、特に制限は無いが小さいと素子作製が結果的に難しくなりがちであり、通常10nm以上10000nm以下で、20nm以上3000nm以下が好ましく、50nm以上3000nm以下がより好ましく、100nm以上2000nm以下がさらに好ましく、500nm以上2000nm以下が特に好ましい。
【0037】
即ちこのような構造であると、この電極間を伝播するキャリアの中で、分子鎖内だけを伝播するキャリアの効果が相対的に大きく生じるので、バルクよりも高速にキャリアが移動することができる。分子鎖から分子鎖へホッピングするキャリアよりも、分子鎖内だけを伝播するキャリアの割合が大きくなるほど、全体としてキャリアは高速で電極間を流れることができる。したがって、極めて高速にしかも低い電圧で電子素子を動作させることが可能となる。
【0038】
本発明において用いる電極の材質は、用途や共役系高分子の種類によって異なるので、適宜選択して使用する。一般には、電気伝導性が良好で安定な材料が利用できるが、このような材料としては、金属もしくはその合金、導電性の金属酸化物、ドーピングされた半導体、導電性高分子またはカーボンなどが挙げられる。具体的には、該金属として、リチウム等のアルカリ金属、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム等のアルカリ土類金属、アルミニウム、インジウム、スカンジウム、イットリウム、ガリウム、金、銀、白金、銅、ニッケル、クロム、パラジウム、タングステン、タンタル、ニオブ、イリジウム、オスミウム、コバルト、亜鉛等が挙げられる。
【0039】
また、該導電性の金属酸化物として、酸化スズ、インジウム・スズ・酸化物(ITO)等が挙げられる。該半導体として、シリコン、セレン、ゲルマニウム等;硫化カドミウム、硫化亜鉛等の硫化物;セレン化亜鉛等のセレン化物等が挙げられる。該導電性高分子として、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチエニレン等が挙げられる。さらに、該カーボンとして、グラファイト、カーボンブラック等が挙げられる。これらの中で、安定性の点から、アルミニウム、インジウム、スカンジウム、イットリウム、ガリウム、金、銀、白金、銅、ニッケル、クロム、パラジウム、タングステン、タンタル、ニオブ、イリジウム、オスミウム、コバルト、亜鉛等の金属またはそれらの合金;酸化スズ、インジウム・スズ・酸化物(ITO)等の導電性の金属酸化物;グラファイト、カーボンブラック等のカーボンが好ましい。実際にはこれらの中から目的に応じて選択して使用することができる。
【0040】
これら電極は、共役系高分子表面に直接接触させるが、この際、接触抵抗の低減(キャリア注入性の向上)等の目的に応じて半導性薄膜を間に介して接触させることもできる。該半導性薄膜としては、シリコン、セレン、ゲルマニウム;硫化カドミウム、硫化亜鉛等の硫化物;セレン化亜鉛等のセレン化物等の半導体からなる薄膜、また電子輸送性材料からなる薄膜または正孔輸送性材料からなる薄膜が挙げられる。該電子輸送性材料としては、オキサジアゾール誘導体、ベンゾキノンもしくはその誘導体、アントラキノンもしくはその誘導体、8−ヒドロキシキノリンの金属錯体もしくはその誘導体の金属錯体、フラーレン等が挙げられる。また、該正孔輸送性材料としては、トリフェニルジアミン誘導体、共役系高分子等が挙げられる。ただし、これらの半導性薄膜の電気伝導度が低すぎると、本発明の特徴が活かされないので、該薄膜の厚さを大きくすることは好ましくない。具体的には、半導性薄膜の電気伝導度によるが、一般的に該半導性薄膜の厚さは、200nm以下が好ましく、100nm以下がさらに好ましく、50nm以下が特に好ましい。
【0041】
本発明の電子素子が、ある電気信号を別の任意の電気信号により変調、増幅等する目的の電子素子である場合には、少なくとも2つの電極の他に、共役系高分子に接しない少なくとも1つ以上のゲート電極が更に設置されてなり、前記2つの電極の間を通過する電流が、該2つの電極以外のゲート電極に印加される電圧によって制御される電子素子であることが好ましい。前記ゲート電極は、絶縁層により共役系高分子から隔絶されていることがさらに好ましい。このような電子素子は、ゲート電極に電圧を印加することにより、ホッピング確率係数Zが1を越え10未満である電極間の電流を変化させることができ、従来電界効果トランジスタと称される電子素子と同様に、信号の増幅、変調、記憶、演算等の多様な目的に原理的に適用可能であるので、適宜構造や使用条件を選択して使用する。
【0042】
該絶縁層の材料としては、安定で絶縁性に優れるものが使用できる。このような材料としては、酸化物、窒化物、高分子等が挙げられる。該酸化物として、チタン酸化物、アルミニウム酸化物、ジルコニウム酸化物、シリコン酸化物等が挙げられる。該窒化物としては、シリコン窒化物、アルミニウム窒化物等が挙げられる。該高分子としては、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリビニルアルコール、ポリスチレン、ポリエステル、ポリエステルイミドや種々のフォトレジスト等が挙げられる。ただし、これらの絶縁層の厚さが大きいと電流の制御が困難になるので、あまり大きくすることができない。一方、絶縁層の厚さが小さいと、絶縁性が不充分で電界が有効にかからず電流の制御が困難になる。したがって、具体的には、絶縁層の誘電率によるが、一般的に該半導性薄膜の厚さは、10nm〜100000nmが好ましく、10nm〜10000nm以下がさらに好ましく、50nm〜2000nm以下が特に好ましい。
【0043】
次に、本発明の電子素子の作製方法を説明する。本発明における電極は、公知の方法により共役系高分子上に設置される。具体的な設置方法としては、リソグラフィーによる電極の加工法、イオンビーム加工法等の利用が挙げられる。これら電極を設置することにより、本発明の電子素子の最も基本的な構造が構成される。
【0044】
たとえば、リソグラフィーによる電極の加工においては、公知のリソグラフィー技術を用いて、共役系高分子上または共役系高分子と接触させる基板上に所定の間隔と形状を有する2つ以上の電極を設置する。該リソグラフィー技術としては、光リソグラフィー、電子線リソグラフィー、エックス線リソグラフィー、イオンビームリソグラフィー等が挙げられる。
【0045】
この時、少なくとも2つの該電極間の最小間隔と共役系高分子の数平均分子鎖長との関係が、式(1)を満たすように設定する。具体的には、あらかじめフォトレジストを被覆した基板に、所定のマスクを介して光を照射した後、現像することによりフォトレジストのパターンを形成する。この基板に金属を蒸着した後、フォトレジストを溶解する溶剤でフォトレジストを除去(リフトオフ法)すると、マスクのパターンに応じた形状に金属が除去されて電極を形成できる。この基板上に共役系高分子の延伸配向フィルムを圧着するか、または基板上に共役系高分子の一軸配向薄膜を直接形成すれば、目的を達成できる。また、基板の替わりに、共役系高分子の延伸配向フィルム上に直接電極を設置する方法も使用できる。このほか必要に応じてその他の電極を形成する。これら電極の種類と数は、電子素子の構造や用途によって異なるので適宜選択して使用する。
【0046】
次に、本発明の電子素子の使用方法を説明する。本発明の電子素子では、式(1)を満たす電極間に電流を流す。電流を流す方法としては、用途によるが、外部電圧の印加、光照射等を挙げることができる。外部電圧を印加する場合、その電圧、波形などの条件は、電子素子の構造や用途によって異なるので、適宜選択して使用する。
【0047】
また、本発明の電子素子は、共役系高分子に接する少なくとも2つの電極の間を通過する電流により、該2つの電極の間の共役系高分子が発光する電子素子として用いることができる。また、本発明の電子素子は、一般に、特定の電圧以上の直流電圧を印加した時、流れる電流が電子素子に照射される光量に応じて変化する電子素子としても用いることができる。
【実施例】
【0048】
以下、本発明をさらに詳細に説明するために実施例を示すが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0049】
[実施例1]
図1に示す様に、長さLminの共役系高分子が、電極1と電極2の間において最小距離dminの方向に直線的に配列した時の移動度を計算で求めた。図1の場合、dminを表す線分と共役系高分子の主鎖の配向方向とのなす角θ=0°、共役系高分子の配向度S=1である。共役系高分子間の距離をδとし、左端共役系高分子の電極1に重ならない部分の長さをrLmin(但し、0≦r≦1)とすると、キャリアが空隙をホッピングする距離の総和dinter、及び共役系高分子内を伝導する距離の総和dintraは式(7)の様になる。




・・・・・(7)
【0050】
但し、int(x)はx以下で最もxに近い整数、min[x,y]はxとyの小さい方の数である。
また、空隙でのキャリア移動度をμinter、共役系高分子鎖内のキャリア移動度をμintraとし、電極1、2間の平均キャリア移動度をμave、電界強度をEとすると、空隙でのキャリアの速度νinter、共役系高分子鎖内のキャリアの速度νintra、電極1、2間の平均キャリア速度νaveは式(8)の様になる。


・・・・・(8)
【0051】
式(8)より、電極1、2間のキャリア通過時間Tは式(9)の様になる。


・・・・・(9)
【0052】
式(8)と式(9)から式(10)が導かれる。


・・・・・(10)
【0053】
δとして平均的な最近接主鎖間距離3.6Å、dmin=5μm、μintra=10cm2/Vs、r=0.5を仮定し、式(7)と式(10)を用いて計算したμaveとホッピング確率係数Zの関係を図2に示す。Zが10未満になると急激にμaveが大きくなることが分かる。
【0054】
[実施例2]
図1に示す様に、長さLminの共役系高分子が、電極1と電極2の間において最小距離dminの方向に直線的に配列した系について、δとして一般的な最近接主鎖間距離3.6Å、dmin=1μm、μintra=10cm2/Vs、r=0.5を仮定し、式(7)と式(10)を用いて計算したμaveとホッピング確率係数Zの関係を図3に示す。Zが10未満になると急激にμaveが大きくなることが分かる。
【0055】
[実施例3]
図1に示す様に、長さLminの共役系高分子が、電極1と電極2の間において最小距離dminの方向に直線的に配列した系について、δとして平均的な最近接主鎖間距離3.6Å、dmin=5μm、μintra=100cm2/Vs、r=0.5を仮定し、式(7)と式(10)を用いて計算したμaveとホッピング確率係数Zの関係を図4に示す。Zが10未満になると急激にμaveが大きくなることが分かる。
【0056】
[実施例4]
図1に示す様に、長さLminの共役系高分子が、電極1と電極2の間において最小距離dminの方向に直線的に配列した系について、δとして平均的な最近接主鎖間距離3.6Å、dmin=1μm、μintra=100cm2/Vs、r=0.5を仮定し、式(7)と式(10)を用いて計算したμaveとホッピング確率係数Zの関係を図5に示す。Zが10未満、特に3以下になると急激にμaveが大きくなることが分かる。

【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】共役系高分子が二つの電極間に直線的に配列した状態を示す模式図。
【図2】2つの電極間の最小距離dminが5μmで共役系高分子鎖内のキャリア移動度μintraが10cm2/Vsとして、実施例1で求めた二つの電極間の平均キャリア移動度μaveとホッピング確率係数Zの関係。
【図3】dminが1μmでμintraが10cm2/Vsとして、実施例2で求めたμaveとZの関係。
【図4】dminが5μmでμintraが100cm2/Vsとして実施例3で求めたμaveとZの関係。
【図5】dminが1μmでμintraが100cm2/Vsとして実施例4で求めた、μaveとZの関係。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
共役系高分子に接して少なくとも2つの電極が設置されてなる電子素子において、少なくとも2つの電極の間隙において該共役系高分子の主鎖が配向してなり、式(1)で表される該電子素子のホッピング確率係数Zが1を越え10未満であることを特徴とする電子素子。
Z=dmin÷Lmin (1)
〔Lmin:該共役系高分子の数平均分子鎖長、
min:該2つの電極の内の1つの電極の1点と他の電極の1点とを結ぶ線分の長さの内で最小である長さ。〕
【請求項2】
共役系高分子の主鎖が一軸配向してなり、該2つの電極の内の1つの電極の1点と他の電極の1点とを結ぶ線分の長さの内で最小である長さdminを表す線分と共役系高分子の主鎖の配向方向とのなす角をθとするとき、θが−45度以上45度以下である請求項1記載の電子素子。
【請求項3】
共役系高分子の主鎖が一軸配向してなり、該2つの電極の内の1つの電極の1点と他の電極の1点とを結ぶ線分の長さの内で最小である長さdminを表す線分と共役系高分子の主鎖の配向方向とが略平行である請求項1記載の電子素子。
【請求項4】
共役系高分子の配向度Sが0.3以上である請求項1〜3のいずれかに記載の電子素子。
【請求項5】
共役系高分子が膜を形成し、該膜の面内に共役系高分子の主鎖が配向してなり、該2つの電極の内の1つの電極の1点と他の電極の1点とを結ぶ線分の長さの内で最小である長さdminを表す線分が該膜の面に略平行である請求項1〜4のいずれかに記載の電子素子。
【請求項6】
共役系高分子の主鎖が共役系高分子を含むフィルムを延伸することにより一軸配向してなる請求項1〜5のいずれかに記載の電子素子。
【請求項7】
少なくとも2つの電極の他に、共役系高分子に接しない少なくとも1つ以上のゲート電極が更に設置されてなり、前記2つの電極の間を通過する電流が、該2つの電極以外のゲート電極に印加される電圧によって制御される請求項1〜6のいずれかに記載の電子素子。
【請求項8】
該2つの電極の間が発光する請求項1〜7のいずれかに記載の電子素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−231313(P2009−231313A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−71110(P2008−71110)
【出願日】平成20年3月19日(2008.3.19)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】