説明

電子線照射方法および電子線照射装置

【課題】低エネルギーの電子線であっても、電子線のエネルギーの消耗を抑制し得る電子線照射方法および電子線照射装置を提供する。
【解決手段】電子線照射対象物(飲料容器等)を内部に収容する電子線照射槽1内に向けて、電子線EBを電子線照射手段3aから照射する。電子線照射手段3aまわりの雰囲気を第一の負圧に管理された雰囲気とし、電子線照射槽1内を前記第一の負圧よりも絶対圧力の高い第二の負圧に管理された雰囲気とする。照射開始の後に、クリーンエア発生装置51からのクリーンエアを電子線照射槽1内部に瞬間的に供給して、第二の負圧の高さを変える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象物に電子線を照射する電子線照射方法、および電子線照射装置に係り、特に、例えば、飲食品、水、医薬品、漢方薬品、化粧品、飼料、肥料等、あるいはこれらに用いられる包装材料などを前記対象物とし、その殺菌を実施するために好適に使用しうる電子線照射方法、および電子線照射装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の電子線照射方法および電子線照射装置としては、従来、高エネルギーの電子線を、その透過作用を利用して対象物に照射するものが一般的であった。しかし、このような高エネルギー型の電子線照射方法および電子線照射装置では、その施設が大規模となる傾向があり、また、エネルギー効率が悪いという課題がある。そこで、施設の簡素化、エネルギー効率の向上を目的として、低エネルギーの電子線を用いるとともに、磁場を利用して電子を偏向させたり、あるいは電子を反射板にて反射させることで、対象物に電子線をできるだけ均一に照射させ得る低エネルギー型の電子線照射方法および電子線照射装置が提案されている。
【0003】
例えば、その代表的な例として、特許文献1、特許文献2に記載の技術が開示されている。
特許文献1に記載の技術では、電子線照射領域に向けて電子線を照射する電子線照射手段と、電子線照射領域の周囲に配置されて複数の磁場を発生させる複数の磁場偏向器とを備えている。そして、立体的な対象物を電子線照射領域内に搬送する搬送手段をさらに備えた電子線照射装置が開示されている。
【0004】
また、特許文献2に記載の技術では、電子線照射領域内の立体的な対象物に電子線を照射する電子線照射手段と、対象物の下方に配置した磁場偏向器と、対象物を搬送する搬送手段と、を備えた電子線照射装置が開示されている。
これら特許文献1、特許文献2に開示されている構成によれば、搬送手段にて対象物を電子線照射領域内に搬送し、次いで、電子線照射手段にて電子線を発生して電子線照射領域内に照射し、この照射された電子線をそれぞれの磁場偏向器にて偏向することによって、対象物の各所に電子線を照射することができる。
【特許文献1】特開2002−308229号公報
【特許文献2】特開平11−281798号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、対象物の全面に電子線を均一に照射するには、磁場偏向器の配置やその磁場強度をいろいろと変化させる必要がある。しかし、このような照射を実施するためには、電子の飛程を長くとる必要があるが、電子線照射領域内の空気により、電子のエネルギーロスが発生するので、大幅な低エネルギー化は非常に難しく、上記各特許文献の技術によっても、対象物の全面に電子線をエネルギー効率よく均一に照射する上では未だ不十分である。
【0006】
また、対象物が、例えば複雑な凹凸がある立体物である場合は、電子線照射手段の照射部に対し、対象物の反対面側への照射は、対象物や反射板での二次電子によって、対象物の反対面側に電子線を照射する提案もされているものの、このような二次電子はさらに空間距離による損失が大きいため、その照射量を確保し且つエネルギー効率よく均一に照射することはやはり難しい。
【0007】
このように、この種の電子線照射装置から照射された電子線は、対象物以外に、その雰囲気である周辺ガス(気体)による、そのエネルギーの消耗が大きいため、様々な手段を用いても、対象物への低エネルギーの電子線のエネルギー効率がよく均一な照射をより難しいものとしている。
さらに、上述したような問題は、特に、対象物を連続的に搬送するような連続ラインで適用する場合には、その搬送される対象物に対して、低エネルギーの電子線を、そのエネルギー効率よく均一に照射することが、更に難しいものとなっている。
【0008】
そこで、本発明は、このような問題点に着目してなされたものであって、低エネルギーの電子線であっても、電子線のエネルギーの消耗を抑制し得る電子線照射方法および電子線照射装置、並びに、電子線のエネルギーの消耗を抑制しながら、連続的に電子線を照射可能な電子線照射装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は、電子線を、対象物を内部に収容する電子線照射槽内に前記対象物の表面に均一に照射可能な電子線照射手段から照射する方法であって、前記電子線照射手段まわりの雰囲気を第一の負圧に管理された雰囲気とし、前記電子線照射槽内を前記第一の負圧よりも絶対圧力の高い第二の負圧に管理された雰囲気として前記電子線を照射することを特徴としている。
【0010】
また、本発明は、内部に対象物が収容される電子線照射槽と、その電子線照射槽内に前記対象物の表面に均一に照射可能な電子線照射手段と、を備える電子線照射装置であって、前記電子線照射手段は、内部の圧力を維持可能な電子線発生室内に設けられており、前記電子線照射槽は、その内部の圧力を前記電子線発生室とは別個に維持可能に前記電子線発生室に隣接されて構成されており、さらに、前記電子線発生室内を第一の負圧に管理するとともに、前記電子線照射槽内を前記第一の負圧よりも絶対圧力の高い第二の負圧に管理する圧力管理手段を備えていることを特徴としている。
【0011】
本発明によれば、電子線照射手段まわりの雰囲気を第一の負圧に管理された雰囲気とし、電子線照射槽内を第一の負圧よりも絶対圧力の高い第二の負圧に管理された雰囲気として電子線を照射するようにしているので、その雰囲気である周辺ガス(気体)は少なくなり、周辺ガス(気体)との衝突による電子線のエネルギーの消耗を抑制することができる。
【0012】
ここで、前記圧力管理手段は、前記第二の負圧の高さを変えることで電子の発散度合いを変化させるようになっていることが好ましい。このような構成であれば、電子線照射槽(以下、単に「照射槽」ともいう)内での第二の負圧の高さを変えることで、電子の発散度合いを変化させることができるので、電子飛程方向の無秩序性を得られる。そのため、対象物に対し、より効率的な電子線の照射が可能となる。
【0013】
また、内部の圧力を別個に維持可能に構成されて前記電子線照射槽に隣接して設けられる複数の予備室と、その複数の予備室と前記電子線照射槽との間で前記対象物を搬送する対象物搬送手段と、を備え、前記複数の予備室として、前記電子線照射槽内に向けて前記対象物を前記対象物搬送手段で移送可能な位置に設置される前予備室と、前記電子線照射槽内から前記対象物を前記対象物搬送手段で移送可能な位置に設置される後予備室と、を少なくとも有して構成されており、さらに、前記圧力管理手段は、前記複数の予備室の内部の圧力を前記電子線照射槽とは別個に管理するように構成されていることが好ましい。このような構成であれば、対象物を流している、バッチ式の生産ラインあるいは連続式の生産ラインの途中にて本発明を適用できる。特に、大気から連続的に電子線照射室に対象物が搬入、および搬出され、前記対象物を連続的に流すようにラインを構成する上で、電子線照射槽の前後に予備室をそれぞれ設けているので、上記第二の負圧の高さを好適に維持可能である。
【0014】
また、前記複数の予備室を備える構成において、前記前予備室および後予備室内の圧力を、前記第二の負圧の高さに合わせるように変える構成が好ましい。このような構成であれば、上記電子線照射槽内での第二の負圧の維持がより確実になる。
また、前記照射槽内の雰囲気は、空気、酸素、窒素、水素、二酸化炭素、アルゴン、およびヘリウムから選ばれる一または複数のものであることが好ましい。このような構成であれば、例えば比重の小さいヘリウムなどを用いて、雰囲気を第二の負圧の状態に管理して、電子のエネルギーロスをより軽減することができる。そして、対象物の種類や照射目的に応じて、雰囲気のガスを適宜に選択して、対象物まわりの雰囲気を所定の状態に管理することができる。
【0015】
また、前記複数の予備室は、前記照射槽に対し、直列または並列に配置されている構成とすれば、対象物搬送手段を構成する上で、そのレイアウトが容易である。
また、前記予備室は、搬送方向に連続して複数設けられており、隣り合う予備室は、回転式の扉およびラビリンスシール構造のうち少なくとも一方を有する隔壁で相互に分けられている構成とすれば、圧力のリークを抑制しつつ対象を連続的に搬送可能な構成とする上で好適である。更に、対象物が連続したシート状の場合は、ラビリンスシール構造を用いることが好適である。
【0016】
また、前記前予備室、電子線照射槽および後予備室は、前記第二の負圧を管理する際に使用するリークガスとして、無塵および無菌のうち少なくとも一方の条件を満たすクリーンエアが供給される構成とすれば、例えば、飲食品、水、医薬品、漢方薬品、化粧品等、あるいはこれらに用いられる包装材料などを前記対象物とする上でより好ましい。
また、前記前予備室、電子線照射槽および後予備室は、それぞれ多段階に圧力制御可能になっており、気流を所望の向きに流すように構成されていることが好ましい。このような構成であれば、例えば、気流を後工程から前工程に向けて流すようにすれば、未処理工程(前工程)からの浮遊菌や塵が流入すること、および殺菌されて死滅した細菌等を含むガスが無秩序に飛散することを好適に防止する構成とすることができる。
【0017】
また、前記対象物は容器またはシート部材であり、当該容器またはシート部材に電子線を照射してこれの殺菌に用いる用途で好適に利用できる。すなわち、本発明は、複雑形状の立体物から平面状のものまで、対象物の種類や形状に応じて本発明を用いることができるが、例えば、清涼飲料水用などのいわゆるPETボトル(ペットボトル)その他のプラスチック製の中空容器や、包装紙、プラスチックフィルム等のシート部材に電子線を照射してこれを殺菌する用途などで好適に利用できる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、低エネルギーの電子線であっても、電子線のエネルギーの消耗を抑制し得る電子線照射方法および電子線照射装置、並びに、電子線のエネルギーの消耗を抑制しながら、連続的に電子線を照射可能な電子線照射装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について、図面を適宜参照しつつ説明する。
図1は、本発明の第一の実施形態に係る電子線照射装置を示す概略構成図である。なお、同図では、電子線照射装置の本体部分をなす略円筒形状の電子線の照射槽を、その軸線を含む断面にて示している。
この電子線照射装置は、同図に示すように、電子線EBの照射槽であるチャンバ1を備えている。このチャンバ1は、その内部に、電子線EBを照射する不図示の対象物(例えば後述の例での飲料容器30)を収容するのに十分な大きさをもつ耐圧構造の密封容器であり、軸線を上下とする四角筒形状をなし、その内部の圧力を維持可能に構成されている。チャンバ1の材質は、鋼材、あるいはステンレス鋼製であり、さらに、その周囲はX線を遮蔽できる遮蔽材料2で囲われている。チャンバ1の壁面には、開閉可能に設けられた不図示の対象物搬入口を有しており、この対象物搬入口からチャンバ1内に対象物を搬入出可能になっている。
【0020】
チャンバ1の上部には、中空半球状で耐圧構造の密封容器である電子線発生室3を備えている。この電子線発生室3は、その中空半球状の下面部が電子線照射窓5を介して、上記チャンバ1の上部に密接して設置されており、その内部の圧力を上記チャンバ1とは別個に維持可能に構成されている。そして、この電子線発生室3は、電子線照射領域となるチャンバ内に向けて電子線を照射する電子線照射手段3aを内部に有する。この電子線照射手段3aは、低エネルギーの電子線EBを照射可能であり、その本体での出力は200kV以下に設定されている。これにより、電子線照射手段3aは、電子線照射窓5を通して低エネルギーの電子線EBをチャンバ1内に照射できる構造となっている。
ここで、この電子線照射装置は、チャンバ1および電子線発生室3のそれぞれに、内部の圧力制御用の配管および圧力制御機器が付設されている。
【0021】
詳しくは、チャンバ1には、その壁面に、ガス封入口6と、ガス吸引口7とが設けられている。ガス吸引口7は、手動弁42、シリンダ弁41Cおよび配管を介して真空排気装置11に接続されている。なお、真空排気装置11には、ドライポンプを用いている。一方、ガス封入口6は、可変流量弁43およびシリンダ弁41を介してクリーンエア発生装置51に接続されている。このクリーンエア発生装置51には、HEPAフィルタ52、バイオフィルタ53を搭載しており、これらHEPAフィルタ52、バイオフィルタ53よりも流れの上流側にファン51aが装備されている。このファン51aは、同図での上方からの外気とクリーンエア発生装置51の内気を取り入れてから下方向に向けて送風するようになっており、HEPAフィルタ52、バイオフィルタ53を介することで、チャンバ1内にクリーンエアを供給可能に構成されている。これにより、供給されるクリーンエアは、無塵または無菌な状態とされたリークガスとしてチャンバ1内に供給可能になっている。また、クリーンエア発生装置51側の配管と真空排気装置11側の配管とは、相互にシリンダ弁41Bを介して接続されている。
【0022】
さらに、上記電子線発生室3についても、圧力制御用の配管および圧力制御機器が付設されている。つまり、上述のチャンバ1での配管等と同様に構成された、以下不図示のガス吸引口が付設されており、このガス吸引口が配管を介して電子線発生室3用の真空排気装置に接続されている。そして、電子線照射手段3aまわりの雰囲気を所定の第一の負圧に管理された雰囲気としている。具体的には、当該電子線発生室3用の真空排気装置によってガス吸引口から電子線発生室3内部の空気ないしガスを吸引して、電子線発生室3内を第一の負圧である10−3Pa以下の高真空状態にするようになっている。
【0023】
ところで、チャンバ1内に、電子線EBを照射すると、チャンバ1内にある酸素などは、ラジカル反応や酸素プラズマ化によって消費されるので、負圧の環境下では酸素がなくなり易い。そのため、照射プロセスへの影響が懸念される。そこで、その影響を緩和するために、この電子線照射装置では、上記の可変流量弁43とシリンダ弁41A〜41Cとをそれぞれ制御する圧力管理手段を有する制御盤(不図示)を備えており、この制御盤での圧力管理処理によって、消費される分の酸素を供給しつつ、チャンバ1内の圧力を所定の第二の負圧として設定された一定の範囲内に制御するようになっている。また、この圧力管理処理では、前記第二の負圧の高さを変えることで電子の発散度合いを変化させている。これにより、チャンバ1内での電子飛程方向の無秩序性を得られるようになっている。また、制御盤での圧力管理処理は、電子線発生室3内の第一の負圧についても同時に管理している。
【0024】
ここで、上記圧力管理手段には、この制御盤での、電子線発生室3内を所定の第一の負圧に管理するとともに、チャンバ1内を前記第一の負圧よりも絶対圧力の高い第二の負圧に管理する圧力管理処理が対応する。
詳しくは、この制御盤は、その制御機能として、所定の制御信号に基づいて、各部の電源の入/切、シリンダ弁の開/閉、可変流量弁の流量調整、真空排気装置11の電源の入/切、等を制御して、上記の圧力管理処理が実行可能に構成されている。そして、この制御盤は、以下、いずれも図示しない、所定の制御プログラムに基づいて、演算およびこの電子線照射装置のシステム全体を制御するCPUと、所定領域にあらかじめCPUの制御プログラム等を格納しているROMと、ROM等から読み出したデータやCPUの演算過程で必要な演算結果を格納するためのRAMと、電子線照射装置の操作パネル等を含めた外部装置に対してデータの入出力を媒介するI/F(インターフェイス)とを備えて構成されている。これらは、データを転送するための信号線であるバスで相互にかつデータ授受可能に接続されている。そして、その操作パネルからは上記圧力管理処理の実行指令、および所定の負圧の雰囲気に応じた必要な設定値を入力可能になっている。なお、具体的な例として、上記の制御盤に、プログラマブルコントローラなどを使用すると好適である。
【0025】
これにより、この電子線照射装置は、制御盤での圧力管理処理によって、チャンバ1内で、対象物(例えば飲料容器)まわりの雰囲気を所定の状態に管理可能になっている。この電子線照射装置では、所定の状態として、真空排気装置11によってガス吸引口7からチャンバ1内部の空気ないしガスを吸引して、チャンバ1内を、上記第一の負圧である10−3Pa以下の高真空状態よりも絶対圧力の高い第二の負圧を維持するように管理している。具体的には、チャンバ1内を10−3Paを超えて0.1MPa以下の範囲の低真空状態に管理している。なお、制御される圧力制御値は、電子の必要飛程や照射プロセス等により決定されたものに対応可能になっている。
【0026】
次に、この電子線照射装置の作用・効果について説明する。
この電子線照射装置では、まず、対象物(例えば飲料容器)を対象物搬入口からチャンバ1内に搬入し、チャンバ1内での所定の位置に設置した後に対象物搬入口を閉じる。
次いで、制御盤で圧力管理処理が実行されて、真空排気装置11にて、チャンバ1内部の空気をガス吸引口7から吸引し、チャンバ1内が前記第二の負圧に、つまり、10−3Paを超えて0.1MPa以下の範囲の低真空状態に管理される。
【0027】
次いで、電子線照射手段で電子を発生させるとともに加速して、電子線照射窓5から低エネルギーの電子線EBをチャンバ1内に突入させる。このとき、電子線発生室3内は、制御盤での圧力管理処理で、第一の負圧である10−3Pa以下の高真空状態にされている。そのため、電子線発生室3内での電子線EBのエネルギーロスはほとんどない。
【0028】
ここで、この電子線照射装置では、チャンバ1内部の空気をガス吸引口7から真空排気装置11で吸引して、10−3Paを超えて0.1MPa以下の範囲の低真空状態として、上記第一の負圧よりも絶対圧力の高い第二の負圧を維持するように管理しているので、ガス(気体)の存在量が少ないことから電子線EBをチャンバ1内においても運動しやすい状態(エネルギーロスの少ない状況)にすることができる。そのため、チャンバ1内部のガス(気体)での電子線EBのエネルギーロスが軽減される。したがって、低エネルギーの電子線であっても、電子線のエネルギーの消耗を抑制して、効率良く電子線EBを照射することができる。また、この場合、不図示であるが、チャンバ1内面または外面に電子偏向手段を設置することで、更に効率よい照射が可能となる。
【0029】
さらに、この電子線照射装置では、制御盤での圧力管理処理で、前記第二の負圧の高さを変えることで空気密度を変化させ電子の発散度合いを変化させるようになっているので、電子飛程方向の無秩序性を得られる。そのため、対象物に対し均一に電子線を照射し得て、より効率的な電子線の照射が可能となる。
なお、上述の圧力管理処理の構成は、対象物の形状などによる照射条件により、チャンバ1内部の雰囲気圧力をそれぞれの照射条件に応じた設定圧力値に変化させて、照射中は雰囲気圧力を一定とする構成に限定されるものではなく、照射中に雰囲気圧力を意図的に変化させる構成としてもよい。
【0030】
また、上記の、照射中にチャンバ1内部の雰囲気圧力、すなわち第二の負圧の高さを変える圧力管理処理の具体的構成例として、例えば、1つの対象物への電子線照射工程において、先ずチャンバ1内部の空気をガス吸引口7から真空排気装置11で吸引して、10−3Paを超えて0.1MPa以下の範囲の第二の負圧の一定の低真空状態に維持した状態で電子線EBの対象物への照射を開始しておいて、その直後にガス封印口6に可変流量弁43を介して接続されたシリンダ弁41Aに対して、閉、開、閉の順に操作を行って、クリーンエア発生装置51からのクリーンエアをチャンバ1内部に供給することにより、チャンバ1内部に瞬間的に、例えば1秒以下の極めて短い時間にクリーンエアを封入してチャンバ1内の雰囲気圧力をその直前の第二の負圧より絶対圧力の高い負圧状態に変化させる、という雰囲気切り替え制御を行うようにすれば、この雰囲気切り替えの直前にチャンバ1内部の電子線照射窓5から遠い下部領域に到達していた電子線EBが、雰囲気切り替え後、瞬間的に切り替え前の第二の負圧よりも絶対圧力の高い負圧状態のクリーンエア雰囲気に囲まれることになり、チャンバ1内部の下部領域でも、電子線EBと多量に存在する雰囲気ガス分子との衝突が急激に発生するので、短時間ではあるが、チャンバ1内部の下部領域でも充分な量の電子シャワーを形成させて、対象物に対する均一な照射を行うことが可能となる。
【0031】
一方、1つの対象部への電子線照射工程の全行程に亘って、チャンバ1内部を例えば常圧に近い負圧状態のクリーンエア雰囲気に維持したままで電子線照射を行う構成の場合には、チャンバ1内部に照射された電子線EBが、チャンバ1内部のうち電子線照射窓5に近い上部領域において、多量に存在する雰囲気ガス分子との衝突によりエネルギーが消耗してしまうことにより、電子線照射窓5から遠い下部領域に到達する電子線EBの量が少なくなってしまうので、充分な量の電子線シャワーを下部領域で形成することができないことになり、その分だけ対象物への電子線照射の均一性が低くなる。したがって、上述のような、電子線照射工程中に、第二の負圧の高さ、すなわち、チャンバ1内部の雰囲気圧力をその直前の第二の負圧よりも絶対圧力の高い負圧状態へ瞬間的に切り替える雰囲気切り替え制御を行う圧力管理処理の構成は、短時間ではあるが、対象物への均一性の高い電子線照射を行うことができる点で好適であり、また、電子線EBの照射量等を適宜設定することにより、上記の短時間の均一照射の期間中に対象物が充分に殺菌されるようにすることができる。
【0032】
なお、図1では不図示であるが、ガス封入口6に可変流量弁43を介して接続されるシリンダ弁41Aを2個直列に設けてシリーズで開閉する制御を行う構成、あるいは、上記のシリンダ弁41Aの替わりに、より高速動作の可能なバタフライ弁を用いる構成とすることにより、雰囲気切り替え制御をより高速に行うことができるようになる。
また、ガス封入口6に可変量弁43を介して接続されるシリンダ弁41Aを複数個直列に、且つ、隣接するシリンダ弁41A同士の間に所定の間隔を空けて設けた構成とすれば、複数のシリンダ弁41Aをその間の配管内にクリーンエアが充満された状態で閉じておき、その後、チャンバ1側に近い方のシリンダ弁41Aを開ける、という弁開閉操作を行うことにより、チャンバ1内部にクリーンエアを規定量だけ供給することが容易にできるようになる。
【0033】
また、さらに、上記構成において、直列に設けられるシリンダ弁41Aの個数を3個以上とすれば、雰囲気切り替え制御の前に閉じておく2個のシリンダ弁41Aの組み合わせを選択することにより、閉じられた2個のシリンダ弁41Aの間の配管内に充満されたクリーンエア量を変えることができ、チャンバ1内部へのクリーンエア供給量を選択調整することが可能になる。
【0034】
また、上述の雰囲気切り替え制御を行う圧力管理処理の構成は、本発明者らが、電子線の飛程や発散度合いと雰囲気条件との関係についての考察に基づいて着想したものであるが、電子線の飛程や発散度合いが電子線照射領域の雰囲気圧力や雰囲気ガスの種類に依存することは、例えば、Yoshiaki Arata et. el.「Some Fundamental Properties of Nonvacuum Electron Beam」 Transactions of J.W.S.September1970 p.40−p.59、の研究論文に開示されている。そして、この研究論文には、上記の依存性に関し、60kVの電圧で加速した電子線を用いて、空気およびヘリウムガスの2種類の雰囲気ガスについて、雰囲気圧力を13.33Pa(10−1mmHg)〜101325Pa(760mmHg)の範囲で変えて行った、電子線発散(プラズマ化)の実験結果が示されている。
【0035】
また、この電子線照射装置では、チャンバ1内には、前記第二の負圧を管理する際に使用するリークガスとして、無塵且つ無菌なクリーンエアが供給されるようになっているので、例えば、飲食品、水、医薬品、漢方薬品、化粧品等、あるいはこれらに用いられる包装材料などを前記対象物とする上で好適である。
なお、上記実施形態の例では、殺菌や材料改質のプロセス利用を考慮して、クリーンエア発生装置51を装備した例で説明したが、照射プロセスに応じて、クリーンエア発生装置51の替わりに、各種ガスの発生装置やガスボンベ等を接続してもよい。例えば、クリーンエア発生装置51に替えて、配管を介してヘリウムガスが貯蔵されたボンベに接続することができる。そして、ガス封入口6からチャンバ1内へ、比重の軽いヘリウムガスを空気に替えてチャンバ1内に封入することでも同様に、電子線EBをチャンバ1内で運動しやすい状態(エネルギーロスの少ない状況)にすることができる。
【0036】
次に、本発明の第二の実施形態に係る電子線照射装置について図2を適宜参照しつつ説明する。
図2は、本発明の第二の実施形態に係る電子線照射装置を示す概略構成図であり、上述の第一の実施形態の電子線照射装置を、連続処理ラインに適用した例を示している。また、この実施の形態では、対象物として、清涼飲料水用などのPETボトル(ペットボトル)等の複雑形状をした中空の飲料容器30に電子線を照射してこれを殺菌する用途に本発明に係る電子線照射装置を適用した例である。なお、図2(a)は、その電子線照射装置を平面方向から見た図であり、処理槽を搬送方向での断面にて示している。また、同図(b)は、正面方向から見た図であり、同図においても、処理槽を搬送方向での断面にて図示している。なおまた、上記第一の実施形態と同様の構成については同一の符号を附し、その説明については適宜省略する。
【0037】
この第二実施形態では、照射槽31に隣接して設けられる複数の予備室と、その複数の予備室と照射槽31との間で飲料容器30を搬送する対象物搬送手段である対象物搬送装置28と、を備えている。なお、照射槽31は、搬送方向に沿って箱形に形成されている点以外は、上述のものと同様、耐圧構造の密封容器になっており、照射槽31内で飲料容器30まわりの雰囲気を所定の状態に管理可能になっている。さらに、この照射槽31上部の略中央には、電子線EBを照射槽31内に広い面積で照射できる電子線発生室3を、上記第一の実施形態と同様に備えている。また、必要に応じて、不図示であるが、照射槽31の内面および外面に電子偏向手段が設置されている。
【0038】
複数の予備室は、この照射槽31の前後に、前予備室34、および後予備室35として、それぞれ複数設けられている。同図の例では、それぞれ3室を搬送方向に沿って並列に有する例を示している。各室内の圧力は、内部の圧力を別個に維持可能に構成されており、上述の照射槽1と同様に、個別に大気圧から所望の負圧まで制御盤での圧力管理によって可変できるようになっている。
【0039】
対象物搬送装置28は、不図示のコンベア機構にて搬送方向に沿って飲料容器30を搬送可能に構成されている。なお、搬送機構は、コンベア機構に限定されず、例えば送りねじ方式による搬送機構を採用することができる。
そして、前予備室34および後予備室35の搬送方向下流側には、それぞれ前方ゲートバルブ32が設けられている。また、前予備室34および後予備室35の搬送方向上流側には、それぞれ後方ゲートバルブ33が設けられている。ここで、各部屋の仕切りとなっているゲートバルブ32、33は、対象物搬送装置28の受け渡し部が、薄く形成されている。これにより、各部屋の仕切り部分での特別な受け渡し機構を不要としている。
【0040】
また、この照射槽31、およびその前後の前予備室34および後予備室35には、上述した圧力制御用の配管および圧力制御機器が同様に付設されている。すなわち、同図に示すように、上述の第一実施形態と同様に、殺菌や材料改質のプロセス利用を考慮して、HEPAフィルタ52、バイオフィルタ53を搭載したクリーンエア発生装置51からクリーンエアを供給できるようになっている。また、真空排気装置11には、上述の第一実施形態と同様に、ドライポンプを利用した構造を、前予備室34および後予備室35にも、それぞれ採用している。なおまた、本実施形態においても、照射プロセスに応じて、クリーンエア発生装置51の替わりに、上記例示同様、各種ガス発生装置やガスボンベを接続可能なことは勿論である。
【0041】
さらに、照射槽31、およびその前後の前予備室34および後予備室35には、飲料容器30の有無を確認可能に設置された不図示の近接センサがそれぞれ付設されている。そして、各近接センサは、飲料容器30の有無に係る所定の信号を制御盤に出力可能に信号線を介して接続されている。また、各ゲートバルブ32、33は、制御盤で実行される、以下説明する所定の圧力管理処理によって、所望のタイミングで開閉可能に制御されている。
【0042】
図4は、制御盤で実行される圧力管理処理のフローチャートである。
同図に示すように、制御盤で圧力管理処理が実行されると、まず、ステップS1に移行して前予備室34の前方ゲートバルブ32を開けてステップS2に移行する。ステップS2では、対象物搬送装置28にて、飲料容器30を前予備室に搬入してステップS3に移行し、ステップS3では前方ゲートバルブ32を閉じてステップS4に移行する。
【0043】
続くステップS4で、前予備室34内と照射槽31内とを、同じ圧力にする処理がなされてステップS5に移行し、次いで、ステップS5では前予備室34の後方ゲートバルブ33を開けて、ステップS5aに移行する。ステップS5aでは、他予備室で飲料容器30が照射槽31に送り込まれるのが終了することを確認し、終了したら、すぐに、ステップS6に移行する。すなわち、当該処理において、前予備室34内と照射槽31内とは、上記第一の実施形態で説明した第二の負圧に、それぞれの圧力を設定しており、その所定の範囲に管理される。
【0044】
ここで、この制御盤での圧力管理処理では、各部屋の仕切りとなっているゲートバルブ32、33を開く場合に、必ず前工程側の圧力を低めに設定するようになっている。したがって、このステップS6での処理では、同じ第二の負圧にするものの、ゲートバルブ32を開くまでは、照射槽31内よりも前予備室34内の圧力を低くするようにしている。これにより、装置内の気流の流れを、後工程側から前工程側に向けて流れるように意図的に制御しており、前工程からの菌や塵埃が、後工程内に混入することを防止可能になっている(他のゲートバルブ開閉において同様である。)。
【0045】
次いで、ステップS6では対象物搬送装置28にて、他予備室から送り込まれた飲料容器30に連続して、飲料容器30を照射槽31内に搬入してステップS7に移行する。ステップS7では、電子線EBを照射する処理がなされてステップS8に移行する。続くステップS8では、飲料容器30が前予備室34内から無くなったか否かを上記近接センサからの信号に基づいて確認する。すなわち、飲料容器30が前予備室34から無くなっていれば(YES)、ステップS9に移行し、そうでなければ(NO)、ステップS8で待機する。そして、ステップS9では、前予備室34の後方ゲートバルブ33を閉じてステップS10に移行し、ステップS10では前予備室34を大気圧にする処理が実行されてステップS12に移行する。
【0046】
続くステップS11では、照射槽31と後予備室35との間の前方ゲートバルブ32を開けてステップS12に移行し、ステップS12では、対象物搬送装置28にて、電子線EBを照射された飲料容器30を照射槽31内から連続して後予備室35内に搬送する処理がされてステップS13に移行する。
続くステップS13では、その飲料容器30を搬送後、後方ゲートバルブ33を閉じるように各部に所定のタイミングで制御信号を出してステップS14に移行する。次いで、ステップS15では後予備室35を大気圧にする処理がなされてステップS15に移行し、次いで、ステップS15では後予備室35の後方ゲートバルブ33を開けてステップS15aに移行する。ステップS15aでは、他予備室で飲料容器30が後工程に送り込まれるのが終了することを確認し、終了したら、すぐに、ステップS16に移行する。そして、ステップS16では、対象物搬送装置28にて、他予備室から送り込まれた飲料容器30に連続して、飲料容器30を後工程に搬送してステップS17に移行する。
【0047】
次いで、ステップS17では、飲料容器30が後予備室35内から無くなったか否かを上記近接センサからの信号に基づいて確認する。すなわち、飲料容器30が後予備室35から無くなっていれば(YES)ステップS18に移行し、そうでなければ(NO)、ステップS17で待機する。そして、ステップS18では、後予備室35の後方ゲートバルブ33を閉じてステップS19に移行し、ステップS19では、後予備室35を照射槽31と同じ圧力にするという一連の処理を実行してステップS20に移行する。そして、ステップS20では、圧力管理処理が終了か否かを、例えば上記前予備室34の近接センサからの信号に基づいて確認する。すなわち、飲料容器30が前予備室34に供給されなくなっていれば(YES)圧力管理処理を終了し、そうでなければ(NO)、ステップS1に処理を戻す。ここで、この第二の実施形態の電子線照射装置では、上記圧力管理手段に、当該圧力管理処理が対応する。
【0048】
このように、この第二の実施形態の電子線照射装置によれば、複数の前予備室34および後予備室35を備えており、さらに、制御盤での、上記の一連の圧力管理処理を実行することで、飲料容器30を装置全体として連続的に流すことができる。
また、この電子線照射装置によれば、チャンバに対象物搬入出口を設けそれぞれに遮蔽扉であるゲートバルブ32、33を備えているので、チャンバ内を低真空や特定ガスの雰囲気にする等、対象物まわりの雰囲気を所定の状態に保つことがより容易になる。
【0049】
また、この電子線照射装置によれば、前記前予備室34、照射槽31および後予備室35は、それぞれ多段階に圧力制御可能になっており、気流を後工程から前工程に向けて流すように構成しているので、未処理工程(前工程)からの浮遊菌や塵が流入すること、および殺菌されて死滅した細菌等を含むガスが無秩序に飛散することを好適に防止することができる。
【0050】
次に、本発明の第三の実施形態に係る電子線照射装置について図3を適宜参照しつつ説明する。なお、上記第一ないし第二の実施形態と同様の構成については同一の符号を附し、その説明については適宜省略する。
図3は、本発明の第三の実施形態に係る電子線照射装置を示す概略構成図であり、上述の第一の実施形態の電子線照射装置を、連続処理ラインに適用した例を示している。また、この実施の形態では、対象物として、第二実施形態同様の、中空の飲料容器30に電子線を照射してこれを殺菌する用途に本発明に係る電子線照射装置を適用した例である。なお、図3(a)は、その電子線照射装置を平面方向から見た図であり、処理槽を搬送方向での断面にて示している。また、同図(b)は、前予備室を、前工程側から見た図であり、前予備室を横断面にて図示している。また、同図(c)は、同図(b)での搬送部を拡大して示す図である。
【0051】
同図に示すように、この第三の実施形態の電子線照射装置でも、上記第二実施形態同様に、照射槽60に隣接して設けられる複数の予備室と、その複数の予備室と照射槽60との間で飲料容器30を搬送する対象物搬送手段と、を備えている。ここで、この照射槽60は、搬送方向に沿って円環状に形成されている点以外は、上述のものと同様、耐圧構造の密封容器になっており、照射槽60内で飲料容器30まわりの雰囲気を所定の状態に管理可能になっている。さらに、この照射槽60上部には、円環状の搬送領域に沿うように、電子線EBを照射槽60内に広い面積で照射できる電子線発生室3を、上記第一の実施形態と同様に備えている。また、必要に応じて、不図示であるが、照射槽60の電子線発生室3の下部には電子偏向手段が設置されている。
【0052】
この第三の実施形態での複数の予備室は、同図に示すように、それぞれ照射槽60とほぼ同様の円環状をなして形成されており、照射槽60の前後に隣接して設けられている。同図の例では、それぞれの予備室は、円環状の周方向に沿ってほぼ等間隔に多数の小部屋に隔壁66で分割されている(同図の例では、それぞれ36個の小部屋を有している。)。ここで、本実施形態では、各小部屋それぞれを、前予備室61および後予備室62として多数有している。
【0053】
すなわち、同図に示すように、前予備室61および後予備室62の構造は、一つの内フレーム64に仕切り板66を径方向に向けて放射状に取り付けることで、各部屋に分割されており、それぞれの前予備室61および後予備室62は、隣接する仕切り板66同士と外フレーム63との間で囲まれた空間によって画成されている。ここで、各仕切り板66と外フレーム63との間には、図3(c)に示すように、微少な隙間Gがあり、シール材等は使用されていない。また、各予備室内の圧力は、その圧力を処理ゾーン毎に管理可能に構成されており、上述の照射槽1と同様に、各処理ゾーン個別に大気圧から所望の負圧まで制御盤での圧力管理によって可変できるようになっている。
【0054】
さらに、本実施形態では、前予備室61および後予備室62内の圧力を、搬送機構との協働によって、照射槽60での第二の負圧の高さに合わせるように変える構成になっている。
詳しくは、照射槽60は、その内フレーム64と外フレーム63とによって囲まれた密封空間になっており、外フレーム63は、各予備室を構成する前処理ゾーンと後処理ゾーンとに亘って一体に形成されている。そして、照射槽60、前処理ゾーンおよび後処理ゾーンには、それぞれその内フレーム64に、各予備室61、62に対応して取り付けられた多数のハンド機構65を有しており、このハンド機構65によって飲料容器30を把持し、さらに、照射槽60および前処理ゾーンの前予備室61相互間、並びに、照射槽60および後処理ゾーンの後予備室62相互間でそれぞれ飲料容器30を受け渡し可能になっている。
【0055】
そして、前処理ゾーンは、その内フレーム64が、同図に示すように、時計方向に回転するように構成されている。ここで、各前予備室61は、内フレーム64が回転することで、前予備室61が前工程から照射槽60に近づくにつれて、少しずつ照射槽60の負圧に引かれ、照射槽60側に移動した時点では、照射槽60と同じ圧力になるように構成されている。また、その逆に、各前予備室61は、照射槽60側から前工程側に近づくと、前工程側の大気圧に引かれて、前予備室61が前工程側に移動した時点では、大気圧になっている。なお、後処理ゾーンの後予備室62についても同様な構造であるのでその説明を省略する。
【0056】
さらに、前処理ゾーンの前予備室61を構成する部分の外フレーム部には、前工程から照射槽60に移動する部分の外壁に、専用の真空排気装置69と、数段の配管68とを設置している。これにより、照射槽60の真空排気装置11の容量軽減と圧力制御の精度向上を図ることを可能としている。また、数段の配管68は、照射槽60に近い程、その配管径を大きくしており、真空排気装置69の容量軽減、および、前予備室61の圧力変化を円滑に行うことができるようになっている。なお、後処理ゾーンの後予備室62についても同様な構造であるのでその説明を省略する。ここで、上記対象物搬送手段には、照射槽60、前処理ゾーンおよび後処理ゾーンそれぞれの各内フレーム64を回動可能に装備された不図示の回転機構と、その各内フレーム64毎に多数装着された対象物用のハンド機構65と、が対応する。
【0057】
ここで、この照射槽60は、基本的には密封空間となっているが、前予備室61および後予備室62の構造上、図3(c)に示すように、周囲に微少な隙間Gがあるので、照射槽60を負圧にした際、この微少な隙間Gからのリークが懸念される。しかし、仕切り板66は、周方向に何層にも亘って設けられており、これにより流路抵抗が大きくなるため、リーク量を非常に少なくすることが可能となっており、真空排気装置の容量をリーク量分を見込んだ容量にすることで、照射槽60内を一定の圧力に保つことができる。なお、この原理は、発電機などで採用されているラビリンスシール構造と同様の原理である。
【0058】
また、同図に示すように、本実施形態においても、上述した第一実施形態同様に、殺菌や材料改質のプロセス利用を考慮して、HEPAフィルタ52、バイオフィルタ53を搭載したクリーンエア発生装置51からクリーンエアを供給できるようになっている。また、各真空排気装置11には、上述の第一実施形態と同様に、ドライポンプを利用した構造を、前予備室61および後予備室62にも、それぞれ採用している。なおまた、本実施形態においても、照射プロセスに応じて、クリーンエア発生装置51の替わりに、上記例示同様、各種ガス発生装置やガスボンベを接続可能なことは勿論である。
【0059】
そして、この第三の実施形態では、その制御盤で、以下説明する所定の圧力管理処理が実行可能に構成される。
図5は、制御盤で実行される圧力管理処理のフローチャートである。
同図に示すように、この制御盤で圧力管理処理が実行されると、まず、ステップS31に移行して、電子線発生室内を所定の第一の負圧に管理するとともに、照射槽60内を所定の第二の負圧に管理して、ステップS32に移行する。ここで、第一の負圧および第二の負圧については、上記第一の実施形態同様に、それぞれの圧力を設定しており、その所定の範囲に管理されるようになっている。
【0060】
次いで、ステップS32では、内フレーム64を時計方向に回転させながら、前工程の回転搬送機構から各前予備室61に取り付けられたハンド機構65によって飲料容器30を前処理ゾーンの内フレーム64内に受け取るとともに、前処理ゾーンの内フレーム64を時計方向にさらに回転させることで、飲料容器30を把持して収容した前予備室61を照射槽60側に向けて移動させるという一連の処理がなされてステップS33に移行する。その際、上述の構造により、前予備室61内の圧力は照射槽60内の第二の負圧に近づいていく。ここで、各前予備室61で飲料容器30が正しく搬送されているか否かは、上記第二実施形態同様の近接センサを設けることで判定可能になっている。
【0061】
次いで、ステップS33では、前処理ゾーンの各前予備室61から順次に送られてくる飲料容器30を、照射槽60の内フレーム64を反時計方向に回転させながら照射槽60の内フレーム64に取り付けられたハンド機構65で受け取る一連の処理がなされてステップS34に移行する。そして、ステップS34では、第二の負圧に管理された、圧力一定の照射槽60の中で、照射槽60の内フレーム64を反時計方向にさらに回転させ、この過程で、規定のプロセスに従って第一の負圧に管理された電子線発生室から、電子線EBを飲料容器30に照射(この例では、同図での円環状の照射槽60の上半分の側で飲料容器30に照射される。)しつつ、後処理ゾーン側に向けて飲料容器30を搬送するという一連の処理がなされてステップS35に移行する。
【0062】
次いで、ステップS35では、照射槽60から順次に送られてくる、電子線EB照射後の飲料容器30を、後処理ゾーン用の内フレーム64の各後予備室62に取り付けられたハンド機構65によって、その内フレーム64を時計方向に回転させながら受け取るという処理がなされてステップS36に移行する。
次いで、ステップS36では、後処理ゾーン用の内フレーム64を時計方向にさらに回転させて、飲料容器30を把持した後予備室62を後工程側に移動させ、後工程の回転搬送機構に、飲料容器30を順に受け渡しする処理がなされてステップS37に移行する。その際、上述の構造により、後予備室62の圧力が大気圧に次第に近づいていく。
【0063】
ステップS37では、当該圧力管理処理が終了か否かを、例えば上記前予備室61の近接センサからの信号に基づいて確認する。すなわち、飲料容器30が前予備室61に供給されなくなっていれば(YES)、当該圧力管理処理を終了し、そうでなければ(NO)、ステップS32に処理を戻す。ここで、この第三の実施形態の電子線照射装置では、上記圧力管理手段に、当該圧力管理処理が対応する。
【0064】
このように、この第三の実施形態の電子線照射装置によれば、円環状に配置された照射槽60、複数の前予備室61および後予備室62を備えており、これらの照射槽60、複数の前予備室61、および複数の後予備室62において、上記一連の圧力管理処理を連続して実行することにより、前予備室61から順次搬入されたライン上の飲料容器30は、照射槽60内の電子シャワー状態とした電子線照射領域内を通過し、各飲料容器30に電子線EBを照射後、後予備室62に順次搬出することを可能としており、これにより、飲料容器30を連続的に流すことができる。
【0065】
さらに、この電子線照射装置によれば、制御盤での圧力管理処理は、複数の予備室の内部の圧力を、前処理ゾーンと後処理ゾーンとで別個に管理するように構成されているので、飲料容器30を流している、バッチ式の生産ラインあるいは連続式の生産ラインの途中にて、第一実施形態に例示した構成を好適に適用できる。特に、飲料容器30等の対象物を連続的に流すようにラインを構成する上で、照射槽60の前後に内部の圧力を別個に管理できる予備室をそれぞれ設けているので、上記第二の負圧の高さを好適に維持可能である。
【0066】
また、この電子線照射装置によれば、上述の構成において、前予備室61および後予備室62内の圧力を、照射槽60の第二の負圧の高さに合わせるように変えられるので、照射槽60内での第二の負圧の維持がより確実になる。
また、この電子線照射装置によれば、複数の予備室61、62は、隔壁66を多数備えており、これら多数の隔壁66がいわば回転式の扉になっており、搬送方向に多数配置されることで、ラビリンスシールを構成する隔壁として設けられているので、圧力のリークを好適に抑制しつつ対象物を連続的に搬送することができる。
また、この電子線照射装置によれば、複数の各予備室61、62は、飲料容器30の近傍のみを囲い込むように画成されている。これにより、飲料容器30まわりの雰囲気を所定の状態に管理する領域を最小限にする上で好適である。
【0067】
次に、本発明の第四の実施形態に係る電子線照射装置について図6を適宜参照しつつ説明する。なお、上記第一ないし第三の実施形態と同様の構成については、同一の符号を附し、その説明については適宜省略する。
図6は、本発明の第四の実施形態に係る電子線照射装置を示す概略構成図であり、上述の第三の実施形態の電子線照射装置をシート部材への電子線照射に適用した例を示している。
【0068】
図6に示すように、この第四の実施形態の電子線照射装置の基本構造としては、電子線発生室3を上下に設置された照射槽70と、その前後に配置された複数の前予備室75および後予備室76が設置されており、この前予備室75および後予備室76の構成は、図6(b)に示すように、四角形のフレーム77の内に隔壁66とギャップローラ71とが設置されるとともに、例えば、乳飲料用などの紙容器として組み立てる前の紙製のシート部材31が通過できる程度の微少なギャップGをもっている予備室が複数直列に配置されてラビリンスシール構造となっている。この構成では、予備室に微少なギャップGがあるが、予備室が複数直列配置された構造となっていて、これにより、流路抵抗が大きくなるため、第三の実施形態と同じように、照射槽70の第二の負圧は、真空排気装置11の容量をリーク量を考慮したものとすることにより、容易に管理することが可能となっている。
【0069】
また、シート部材31については、不図示であるが、後工程にてシート部材31を引っ張る機構が設けられており、シート部材31は、ギャップローラ71とローラ72とを介して、前工程から複数の前予備室75を通過して、第二の負圧に管理された照射槽70で、両面より電子線を照射され、複数の後予備室76を通過して、後工程へと送られる。
上記のような第四の実施形態に係る電子線照射装置により、シート状部材についても同様に、エネルギー効率の良い照射が可能となる。
【0070】
以上説明したように、本発明に係る電子線照射方法および電子線照射装置によれば、低エネルギーの電子線EBであっても、対象物である飲料容器30に対し、電子線EBを均一に照射することができる。
なお、本発明に係る電子線照射方法および電子線照射装置は、上記各実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しなければ種々の変形が可能である。
【0071】
例えば、上記第二および第三の実施形態では、対象物として飲料容器30を例に説明したが、これに限定されず、例えば、対象物として、飲食品、水、医薬品、漢方薬品、化粧品、飼料、肥料等、あるいはこれらに用いられる包装材料などであっても適用することができる。すなわち、本発明は、複雑形状の立体物から平面状のフィルムまで、対象物の種類や形状に応じて適宜用いることができる。
【0072】
また、上記各実施形態では、対象物を殺菌する用途を例に説明したが、これに限定されず、殺菌以外の用途であっても適用することができる。
また、上記各実施形態では、チャンバは、対象物の種類に合わせて外形形状が予め決められている例で説明したが、これに限定されず、その内形形状を対象物の形状に応じて変えられる内形形状可変構造を有する構成とすることができる。このような内形形状可変構造の例としては、外形を構成する隔壁をスライド可能な組合わせ構造とする。このような構成であれば、対象物の形状に応じて、チャンバの内形形状を適宜に可変して対応することができる。そのため、対象物に対し、さらに効率的で均一な電子線の照射が可能となる。
【0073】
また、上記実施形態では、チャンバ内の雰囲気は、チャンバ1内を低真空、つまり負圧の状態にし、照射プロセスの必要性に応じて、クリーンエア、あるいは空気に替えて比重の軽いヘリウムガスを封入可能とした例で説明したが、これに限定されず、例えば、チャンバ内の雰囲気は、空気、酸素、窒素、水素、二酸化炭素、アルゴン、およびヘリウムから選ばれる一または複数のものであってもよい。すなわち、対象物の種類や照射目的に応じて、チャンバ内の雰囲気を適宜に選択して、対象物まわりの雰囲気を所定の状態に管理することができる。例えば、雰囲気によるエネルギーロスを軽減する場合は、上記例示したように、比重の小さいヘリウムなどを好適に利用できる。
また、上記各実施形態は、それぞれの構成を適宜に選択して相互に組み合わせることができるのは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明の第一の実施形態に係る電子線照射装置を示す概略構成図である。
【図2】本発明の第二の実施形態に係る電子線照射装置を示す概略構成図である。
【図3】本発明の第三の実施形態に係る電子線照射装置を示す概略構成図である。
【図4】本発明の第二の実施形態に係る電子線照射装置での制御盤で実行される圧力管理処理のフローチャートである。
【図5】本発明の第三の実施形態に係る電子線照射装置での制御盤で実行される圧力管理処理のフローチャートである。
【図6】本発明の第四の実施形態に係る電子線照射装置を示す概略構成図である。
【符号の説明】
【0075】
1、21、60、70 チャンバ(照射槽)
2 遮蔽材料
3 電子線発生室
3a 電子線照射手段
5 電子線照射窓
6 ガス封入口
7 ガス吸引口
11、69 真空排気装置
27 遮蔽扉
28 対象物搬送装置(対象物搬送手段)
30 飲料容器(対象物)
31 シート部材(対象物)
32 前方ゲートバルブ
33 後方ゲートバルブ
34、61、75 前予備室
35、62、76 後予備室
41 シリンダ弁
42 手動弁
43 可変流量弁
51 クリーンエア発生装置
51a ファン
52 フィルタ
53 バイオフィルタ
63 外フレーム
64 内フレーム
65 ハンド機構
66 隔壁
68 配管
69 真空排気装置
71 ギャップローラ
72 ローラ
77 フレーム
EB 電子線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子線を、対象物を内部に収容する電子線照射槽内に前記対象物の表面に均一に照射可能な電子線照射手段から照射する方法であって、
前記電子線照射手段まわりの雰囲気を第一の負圧に管理された雰囲気とし、前記電子線照射槽内を前記第一の負圧よりも絶対圧力の高い第二の負圧に管理された雰囲気として前記電子線を照射することを特徴とする電子線照射方法。
【請求項2】
内部に対象物が収容される電子線照射槽と、その電子線照射槽内に前記対象物の表面に均一に電子線を照射可能な電子線照射手段と、を備える電子線照射装置であって、
前記電子線照射手段は、内部の圧力を維持可能な電子線発生室内に設けられており、前記電子線照射槽は、その内部の圧力を前記電子線発生室とは別個に維持可能に前記電子線発生室に隣接されて構成されており、
さらに、前記電子線発生室内を第一の負圧に管理するとともに、前記電子線照射槽内を前記第一の負圧よりも絶対圧力の高い第二の負圧に管理する圧力管理手段を備えていることを特徴とする電子線照射装置。
【請求項3】
前記圧力管理手段は、前記第二の負圧の高さを変えることで電子の発散度合いを変化させるようになっていることを特徴とする電子線照射装置。
【請求項4】
内部の圧力を別個に維持可能に構成されて前記電子線照射槽に隣接して設けられる複数の予備室と、その複数の予備室と前記電子線照射槽との間で前記対象物を搬送する対象物搬送手段と、を備え、
前記複数の予備室として、前記電子線照射槽内に向けて前記対象物を前記対象物搬送手段で移送可能な位置に設置される前予備室と、前記電子線照射槽内から前記対象物を前記対象物搬送手段で移送可能な位置に設置される後予備室と、を少なくとも有して構成されており、
さらに、前記圧力管理手段は、前記複数の予備室の内部の圧力を前記電子線照射槽とは別個に管理するように構成されていることを特徴とする請求項2または3に記載の電子線照射装置。
【請求項5】
前記前予備室および後予備室内の圧力を、前記第二の負圧の高さに合わせるように変える構成になっていることを特徴とする請求項4に記載の電子線照射装置。
【請求項6】
前記照射槽内の雰囲気は、空気、酸素、窒素、水素、二酸化炭素、アルゴン、およびヘリウムから選ばれる一または複数のものであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の電子線照射装置。
【請求項7】
前記複数の予備室は、前記照射槽に対し、直列または並列に配置されていることを特徴とする請求項4〜6のいずれか一項に記載の電子線照射装置。
【請求項8】
前記予備室は、搬送方向に連続して複数設けられており、隣り合う予備室は、回転式の扉およびラビリンスシール構造のうち少なくとも一方を有する隔壁で相互に分けられていることを特徴とする請求項4〜7のいずれか一項に記載の電子線照射装置。
【請求項9】
前記前予備室、電子線照射槽および後予備室は、前記第二の負圧を管理する際に使用するリークガスとして、無塵および無菌のうち少なくとも一方の条件を満たすクリーンエアが供給されるようになっていることを特徴とする請求項4〜8のいずれか一項に記載の電子線照射装置。
【請求項10】
前記前予備室、電子線照射槽および後予備室は、それぞれ多段階に圧力制御可能になっており、気流を所望の向きに流すように構成されていることを特徴とする請求項4〜9のいずれか一項に記載の電子線照射装置。
【請求項11】
前記対象物は容器またはシート部材であり、当該容器またはシート部材に電子線を照射してこれの殺菌に用いることを特徴とする請求項2〜10のいずれか一項に記載の電子線照射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−113936(P2007−113936A)
【公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−302876(P2005−302876)
【出願日】平成17年10月18日(2005.10.18)
【出願人】(501383635)株式会社日本AEパワーシステムズ (168)
【Fターム(参考)】