説明

電子線装置及びパターン評価方法

【課題】空間電荷効果の影響を電子光学系の光路長を短くして、空間電荷の影響及び偏向収差の発生を低減する
【解決手段】電子銃1から放出された電子線は、マルチ開口2、縮小レンズ3、非分散のウィーンフィルタ5、タブレットレンズ10、電磁偏向器11、ビーム分離器12及び対物レンズを構成するタブレットレンズ17を介して試料18上に縮小像を形成する。ビーム分離器12は、2次電子ビームのビーム分離器12内の通過距離が、1次電子ビームのビーム分離器12内の通過距離の3倍程度となるよう構成されているため、ビーム分離器12における磁界を、1次電子ビームを約10度以下の小角度だけ偏向するように設定しても、2次電子ビームを約30度以上偏向させることができ、1次及び2次電子ビームは十分に分離される。また、1次電子ビームを小角度だけ偏向することにより、1次電子ビームに生じる収差が小さい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウエハ等の試料上に形成された最小線幅0.1μm以下のパターンを高スループットで評価するための電子線装置及びパターン評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子線を細く絞って試料に照射し、それにより試料から放出される2次電子を検出して画像化することにより、試料上のパターンの評価を行う電子線装置が知られている。また、試料上に面ビームを照射し、それにより試料から放出される2次電子を写像投影光学系で検出面に拡大投影し画像化することにより、試料上のパターンを評価するようにした電子線装置も知られている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
今日、試料の高密度化が図られてきており、試料上のパターンがより微細化されてきている。このような微細化されたパターンを高スループットで評価するためには、空間電荷効果の問題を解決する必要がある。しかしながら、従来の電子線装置は、このような空間電荷効果の問題を解決することができるものではない。
【0004】
また、電子線装置はビーム分離器を具備しているが、ビーム分離器による偏向収差の発生を避けるため、ビーム分離器を配置すべき場所を試料面と共役な位置に限定している。このため、電子線装置の光路長が長くなることから装置の小型化が困難であり、また、ビーム分離器によって生じる偏向収差により、得られた画像がぼやける等の問題がある。
【0005】
本発明の目的は、このような従来例の問題を解決して、微細パターンを評価する際の空間電荷効果の影響を、電子線装置の光路長を短くすることによって低減させるとともに、偏向収差の発生を低減することができるようにした電子線装置及びパターン評価方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記した目的を達成するために、本発明に係る、1次電子ビームを試料に照射し、これにより試料から放出される2次電子をビーム分離器で1次電子ビームから分離し、分離された2次電子を2次電子光学系を介して検出するようにした電子線装置においては、
ビーム分離器は、磁気偏向器であって、1次電子ビーム及び2次電子の一方に対しては通過する領域が短く、他方に対しては通過する領域が前記した短い領域の2倍以上となるように構成されている
ことを特徴としている。
【0007】
上記した本発明に係る電子線装置において、ビーム分離器は、2つの磁極面を連接する強磁性体と、該強磁性体に巻回した励磁コイルとからなることが好ましい。また、2次電子光学系が写像投影光学系であり、ビーム分離器が、1次電子ビームを偏向させて試料面の法線から小角度傾いた角度で試料上に入射させ、2次電子を偏向する角度がゼロとなるよう構成されていることが好ましい。この場合、ビーム分離器は、2つの磁極面を連接する強磁性体と、該強磁性体に巻回した励磁コイルとからなり、2次電子光学系は、その光軸の周囲に、ビーム分離器により生じる磁界が光軸に侵入するのを防止する軸対称シールドを備えていることが好ましい。
【0008】
本発明はまた、電子線装置により、試料上に形成されたパターンを評価するための評価方法を提供し、該評価方法は、
1次電子線を小角度だけ偏向してビーム分離器に入射させるステップと、
ビーム分離器により、1次電子線を試料に対して垂直方向に偏向させて試料に照射するステップと、
ビーム分離器により、試料面から放出された2次電子を大きく偏向して2次電子光学系に導くステップと、
検出器により、2次電子光学系を介して受け取った2次電子を検出するステップと
を含んでいることを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、上記したように構成されており、1次電子ビームと2次電子ビームとを分離するビーム分離器が、低収差を必要とする1次電子光学系側の電子ビーム通過軌道が、2次電子ビーム通過軌道よりも短いため、ビーム分離器で発生する一次電子光学系の収差を小さくすることができる。
【0010】
また、写像投影型の電子光学系を有する電子線装置においては、2次電子ビームがビーム分離器を通らないので、ビーム分離器で発生する収差を無くすことができる。
【0011】
さらに、ビーム分離器12を試料面と共役位置に配置する必要がないため、光路長を大幅に短くすることができ、よって、空間電荷効果を小さくすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図1は、本発明の第1の実施形態に係るマルチビームSEM型の電子線装置の電子光学系を示している。該電子線装置においては、電子銃1から放出された電子線は、複数の開口2に照射され、縮小レンズ3により位置4に縮小像を形成する。そして、非分散のウィーンフィルタ5により位置8及び9に結像され、タブレットレンズ10及び17でさらに縮小されて試料18上にマルチビームの縮小像を形成する。タブレットレンズ17は、該レンズの試料18の側に磁気ギャップ19を設けた磁気レンズであり、対物レンズとして機能する。
【0013】
より詳細に説明すると、ウィーンフィルタ5は、入射側及び出射側の2つの領域のボーア径6が小さく設定されていて該領域で集束作用を行い、中央領域のボーア径7が大きく設定されてフィルタ作用が行われないように構成されている。位置9の縮小像から発散したビームは、タブレットレンズ10により平行ビーム13となり、ビーム分離器12の所定の位置から入射するように、電磁偏向器11により偏向される。平行ビーム13は、ビーム分離器12により試料面18に対して垂直となるように偏向される。ビーム分離器13により偏向された平行ビームは、2段の静電偏向器14及び15によりラスタスキャンされ、かつ、軸対称電極16により低収差化される。ラスタスキャンを行うための2段の静電偏向器14及び15は、偏向支点と2つの偏向方向とを最適化した条件で駆動され、また、偏向器4及び15のz方向(光軸方向)の位置は、シミュレーションにより最適化することができる。軸対称電極16に試料18との間で放電を生じさせない程度の高電圧を印加することにより、低収差化を図ることができる。
【0014】
1次電子ビームの照射により試料18から放出された2次電子は、静電偏向器15及び14により光軸方向に偏向されながらビーム分離器12に入射する。2次電子は、該ビーム分離器12により、図において右側に偏向されて2次電子光学系の拡大レンズ23に向かう。拡大レンズ23で拡大された2次電子像は、次の拡大レンズ24でさらに拡大され、そして、検出器25においてマルチチャネルのSEM像が得られる。
【0015】
ビーム分離器12は、電磁偏向器で構成されており、図1に示すように、2次電子ビームがビーム分離器12内を走行する距離が、1次電子ビームがビーム分離器12内を走行する距離の3倍程度となるよう構成されている。したがって、ビーム分離器12における磁界を、1次電子ビームを10度程度の小角度だけ偏向するように設定した場合であっても、2次電子ビームは31.8度(=3×10×√(4.5/4))程度偏向されるため、1次電子ビームと2次電子ビームとは十分に分離される。これは、ビーム分離器12の位置での1次電子ビーム及び2次電子ビームのエネルギはそれぞれ4.5KeV及び4.0KeVであり、ビーム分離器12が電磁偏向器であるから、偏向角がエネルギの(1/2)乗に逆比例するためである。上記の式により2次電子ビームの偏向角度が求められる。
【0016】
また、1次電子ビームを10度程度以下の小角度だけ偏向可能なようにビーム分離器12を設定することにより、1次電子ビームに比較的小さい収差しか生じないことになる。また、ビーム分離器12により1次電子ビームに偏向色収差が生じたとしても、該収差の絶対値と、ビーム分離器12による偏向方向と逆方向に偏向する電磁偏向器11により生じる偏向色収差の絶対値とを等しく設定することにより、偏向色収差をうち消すことができる。また、他の偏向収差も小さい。なお、2次電子ビームは、偏向収差はあまり問題とならないので、ビーム分離器12により大きく偏向しても問題が生じない。
【0017】
さらに、ビーム分離器12で発生する偏向色収差は偏向器11でうち消されるので、ビーム分離器12を試料面と共役の位置に配置する必要がない。そのため、電子光学系設計の自由度が増えて、光路長を大幅に短くすることができ、空間電荷効果を小さくすることができる。
【0018】
図2の(A)は、図1に示した電子線装置の電磁偏向器11及びビーム分離器12を、図1の矢印aの方向であって、紙面に平行な方向から見た図を示している。ビーム分離器12は、強磁性体であるパーマロイコア21に2つの平行平板からなる磁極面で形成される磁気ギャップ20が2カ所形成され、上側のギャップを1次電子ビームのみが通過し、下側のギャップを1次及び2次電子ビームの両方が通過する。22及び22’は励磁コイルである。
【0019】
図2の(B)は、電磁偏向器11及びビーム分離器12を、図1の紙面に垂直な方向(手前側)から見た図である。電磁偏向器11を構成する磁気コアは、図2の(B)の紙面の裏側から手前方向に出て右下方向へ曲げられ、紙面に垂直に向かう。ビーム分離器12を構成する紙面の裏側の磁気コアは、紙面の裏側へ出て図の左上側に曲げられ、紙面の裏側から紙面方向に向かう。磁気コアの断面は、図1及び図2の(B)に示すような上に凸及び下に凸の形状を備えているそして、電磁偏向器11で紙面の裏側から表側に向かう磁力線が、ビーム分離器12で紙面の表側から裏側へ向かうように、励磁コイル22が巻かれている。なお、図2の(B)においては、励磁コイル22’は、紙面の前面側のコイルのみを示している。図2の(B)は図1の紙面に直交する上側からみた図であるため、図1の矢印から見たときに左側のコイル、すなわち図2の(A)のコイル22’が図2の(B)に示されたコイルである。
【0020】
ビーム分離器12がこのような構成を備えることにより、1次電子ビームを小角度偏向して2次電子を大角度偏向することができ、問題となる1次電子ビームの偏向収差を比較的小さくすることができるとともに、1次電子光学系の光路長を短くすることができる。
【0021】
上記したビーム分離器12は、磁気コアに励磁コイルを巻回した構造を有しているが、励磁コイルを巻回する代わりに、永久磁石を用いても良い。図2の(C)は、永久磁石を用いたビーム分離器を示しており、NSで表した薄い2枚の永久磁石を磁気コアの適宜の位置に配置している。図2の(C)に示したビーム分離器を用いれば、真空中にコイルを入れる必要がなく、磁場の強さも変動しないので、安定に動作することができる。また、図2の(A)及び(B)に示したビーム分離器と同様に、1次電子ビームを小角度偏向して2次電子を大角度偏向することができ、1次電子ビームの偏向収差を小さくすることができるとともに、1次電子光学系の光路長を短くすることができる。
【0022】
図3は、本発明の第2の実施形態の電子線装置であり、この電子線装置は、写像投影型の電子光学系で構成されている。この電子線装置において、電子銃31から放出された電子線は、長方形開口32を一様な強度で照射し、その結果得られた長方形の1次電子ビームは、2段のレンズ33及び34で縮小率が調整され、電磁偏向器35で偏向される。そして、対物レンズ36を介して、38で示す軌道(例えば、4〜15°の範囲)で試料37上に入射される。
【0023】
1次電子ビームの照射により試料37から放出された2次電子は、対物レンズ36を通過し、NA開口40で適宜の解像度に制限され、タブレットレンズ42で収束されて、軸上色収差補正レンズ44の物点43に拡大像を生成する。この像は、軸上色収差補正レンズ44により点47及び48に像を形成し、非分散のウイーン条件を満たすことになる。次いで、点48の像は拡大レンズ49及び50で2段に拡大され、検出器52に拡大像を結像し、これにより、2次元像が形成される。
【0024】
NA開口40の上下には、電磁偏向器35の偏向磁場が2次電子ビームの軌道に漏れないようにシールドするためのテーパ付きのパイプ39及び41が配置されている。該パイプに、レンズ側で径が大きくNA開口側で径が小さいテーパを付けたことにより、2つの静電レンズの特性劣化を防止することができる。
【0025】
図4は、図3に示した電子線装置の電磁偏向器35を、図3の矢印bの方向から見た図を示している。電磁偏向器35は、磁気ギャップ53をつなぐパーマロイコア54を有し、該パーマロイコアには励磁コイル55が巻回されている。
【0026】
電磁偏向器35は、約2mmの磁気ギャップの形状が図3に示すようにビームの入射点及びビームの出射点でビーム軌道に直角になっている。該磁気ギャップ53をパーマロイコア54で結んだ形状を有している。磁気ギャップから紙面の上側へ延びたパーマロイコア54は、光軸を避けて図の右側へ回り、紙面の裏側へ延びている。そして、そこで左へ曲がり、紙面の裏側に位置するギャップに接続されている。
【0027】
第2の実施形態は、図1に示した第1の実施形態と共通の言い方をすれば、ビーム分離器(すなわち電磁偏向器)35を通るビームの光路長が、低収差を必要とする2次電子ビーム側で短く(この例ではゼロ)、低収差をさほど必要としない1次電子ビーム側で長いことを特徴としている。
【0028】
図5は、図1に示した第1の実施形態における軸上色収差補正レンズ5及び図3に示した第2の実施形態における軸上色収差補正レンズ44の断面図(光軸に直交する1/4断面図)を示している。軸上色収差補正レンズは、中央部で一度結像させることにより非分散の条件を満足している。該軸上色収差補正レンズにおいて、電極兼磁極(電磁極)57は、光軸近傍の放射状の面58と、励磁コイル59が巻回される面64とを備えている。面64は、外方に向かうに連れて板厚が薄くなっているが、ただし、最外端は、ネジ締めをするために厚くなっている。各面が交差又は連接している部分はすべて曲面として、鋭いエッジが形成されないようにしている。例えば、電磁極57の最も光軸に近い部分は0.5R程度、面58と面64との連接部分は100R程度、電磁極57の最外端の左右端は5R程度に設定されている。
【0029】
軸上色収差補正レンズはさらに、各励磁コイル59の外側には金属カバーが被覆され該コイルの被膜用絶縁物が光軸方向から見えないようにして、スペーサ56の表面が帯電したとしてもその電荷による電界が光軸方向へ漏洩しないように、金属カバーによりシールドしている。隣接する金属カバーの間隔は、放電が回避できる最小の幅に設定されている。電磁極57は、位置63でコア55に周方向で2カ所以上でネジ止めされている。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る電子線装置の電子光学系を示す図である。
【図2】図1に示した電子光学系に具備される電磁偏向器の構成を示す図である。
【図3】本発明の第2の実施形態に係る電子線装置の電子光学系を示す図である。
【図4】図3に示した電子光学系に具備される電磁偏向器の構成を示す図である。
【図5】図1及び図2に示した電子光学系に具備される軸上色収差補正レンズの構成を示す断面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1次電子ビームを試料に照射し、これにより試料から放出される2次電子をビーム分離器で1次電子ビームから分離し、分離された2次電子を2次電子光学系を介して検出するようにした電子線装置において、
ビーム分離器は、磁気偏向器であって、1次電子ビーム及び2次電子の一方に対しては通過する領域が短く、他方に対しては通過する領域が前記した短い領域の2倍以上となるように構成されている
ことを特徴とする電子線装置。
【請求項2】
請求項1記載の電子線装置において、
ビーム分離器は、2つの磁極面を連接する強磁性体と、該強磁性体に巻回した励磁コイルとからなる
ことを特徴とする電子線装置。
【請求項3】
請求項1記載の電子線装置において、
2次電子光学系は写像投影光学系であり、
ビーム分離器は、1次電子ビームを偏向させて試料面の法線から小角度傾いた角度で試料上に入射させ、かつ2次電子を偏向する角度がゼロとなるよう構成されている
ことを特徴とする電子線装置。
【請求項4】
請求項3記載の電子線装置において、
ビーム分離器は、2つの磁極面を連接する強磁性体と、該強磁性体に巻回した励磁コイルとからなり、
2次電子光学系は、その光軸の周囲に、ビーム分離器により生じる磁界が光軸に侵入するのを防止する軸対称シールドを備えている
ことを特徴とする電子線装置。
【請求項5】
電子線装置により、試料上に形成されたパターンを評価するための評価方法において、
1次電子線を小角度だけ偏向してビーム分離器に入射させるステップと、
ビーム分離器により、1次電子線を試料に対して垂直方向に偏向させて試料に照射するステップと、
ビーム分離器により、試料面から放出された2次電子を大きく偏向して2次電子光学系に導くステップと、
検出器により、2次電子光学系を介して受け取った2次電子を検出するステップと
を含んでいることを特徴とする評価方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−141488(P2007−141488A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−329825(P2005−329825)
【出願日】平成17年11月15日(2005.11.15)
【出願人】(000000239)株式会社荏原製作所 (1,477)
【Fターム(参考)】