説明

電子血圧計

【課題】個人毎の動脈硬化度の指標を検出する。
【解決手段】容積補償法に従い血圧を測定するための電子血圧計は、血圧の測定部位に装着されるカフ内のカフ圧を検出する。動脈容積検出回路74は測定部位の動脈容積信号を検出する。駆動制御部101は、カフ圧を初期カフ圧に設定した後に、検出される動脈容積信号に基づいて、動脈の容積が一定となるようにカフ圧調整部をサーボ制御する。サーボ制御が行なわれている際に、検出される動脈容積信号に基づき動脈容積変化量を検出する。サーボ制御において、動脈容積の変化量が最小であると検出されたときに、容積変化消去率算部110は容積変化消去率(制御中の動脈容積信号の振幅/制御前の動脈容積信号の振幅)を算出し、動脈硬化の指標として出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電子血圧計に関し、特に、容積補償法を用いて血圧を測定する電子血圧計に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の電子血圧計は、オシロメトリック法に従い血圧を測定するものがある。オシロメトリック法とは、被測定者の測定部位に予め腕帯(カフ)を巻き付けておく。測定時には、カフ内の圧力(カフ圧)を最高血圧より高く加圧し、その後徐々に減圧していく。この減圧する過程において、測定部位の動脈で発生する脈動をカフを介して圧力センサで脈波信号として検出する。その時のカフ圧と検出した脈動の大きさ(脈波信号の振幅)を利用して最高血圧と最低血圧を決定している。
【0003】
このようにして測定される血圧値に関連する生体情報として、動脈硬化度や血管コンプライアンスがある。これを血圧波形から求める手法として、心臓から駆出された脈波の伝播する速度(PWV:Pulse Wave Velocity)を調べる方法(特許文献1:特許3140007号公報、特許文献2:特許3599858号公報)、脈波に含まれる反射波の情報であるAugmentation Index (AI)を調べる方法(特許文献3:特開2004−195204号公報)がある。
【0004】
PWVは、心電図や心音図の測定時のように上腕と下肢などの少なくとも2箇所以上に脈波等を測定するセンサ(カフなど)を装着した状態で測定される。測定時には、各センサを用いて同時に測定を行う。各センサそれぞれが検出した脈波信号が示す時間差とセンサが装着された2点間の動脈の長さとからPWVが算出される。
【0005】
このように、PWVの測定は、少なくとも2箇所にカフ等のセンサを装着する必要があるため、簡便に動脈硬化度を測定することは難しい。
【0006】
また、AIは、手首の橈骨動脈を適度な圧力で押圧しながら測定される圧脈波信号に基づき算出される。ところが、適度な圧力で押圧するための機構と測定部位を正確に位置決めするために高価なセンサユニットが必要とされ、また、センサユニットを適切に装着するための手技が必要である。そのため、簡便に動脈硬化度を測定することは難しい。
【0007】
一方、非侵襲で連続的に血圧波形を測定することができ、且つ簡便な装置として、容積補償法式血圧計がある(特許文献4:特公昭59−005296号公報)。
【0008】
容積補償法とは次のようである。つまり、生体外からカフによって動脈を圧迫し、心拍に同期して脈動する動脈の容積を常時一定に保つことで測定部位を圧迫する圧力(カフ圧)と測定部位の動脈の内圧すなわち血圧とを平衡させ、この平衡状態を維持したときのカフ圧を検出することにより連続的に血圧値を得る方式である。
【0009】
したがって、容積補償法では、動脈が無負荷状態にあるときの容積値(制御目標値)の検出、および、この無負荷状態を維持すること(サーボ制御)の2点が重要となる。サーボ制御の方法としてはフィードバック制御のPID制御(比例制御(Proportional Control)、積分制御(Integral Control)、微分制御(Derivative Control)を組み合わせて制御目標値に収束させる制御を指す)が用いられる。
【0010】
ここで、高い精度で測定を行うためにはサーボゲインを制御対象に合わせて調整する必要がある。従来のサーボ制御では、制御対象の入力に対する応答性からサーボゲインを決定する手法が一般的である。具体的には入力値を階段状に変動させた時に出力値が応答しはじめるまでに要する時間(無駄時間)と応答しはじめてからの変化の速度(時定数)を事前に測定して、それらの値に基づきサーボゲインを設定する方法がとられる。
【0011】
しかし、この方法は試行錯誤による調整を必要とするため調整に時間が掛かるので、迅速に制御を開始する必要がある血圧測定に適用するのは困難である。
【0012】
また、この方法は、制御対象の応答性が不変であることを前提としており、体調の変化等により応答性が頻繁に変化する生体を対象とする血圧測定の制御に適用するのは困難である。
【0013】
そこで、容積補償法による電子血圧計においては、事前の調整を行わずに制御を開始し、制御中に最適なサーボゲインを決定する必要が生じる。制御中に最適なサーボゲインを決定するために、特許文献4においては、サーボゲインを徐々に増加させていき、動脈容積変化信号の消去率(制御中の振幅/制御前の振幅)が所定値より小さくなる時のサーボゲインを利用して血圧測定を行っている。このような制御は、非特許文献1(文献1:Yamakoshi K, Shimazu H, Togawa T, Indirect measurement of instantaneous arterial blood pressure in the rat, Am J Physiol 237, H632-H637, 1979.)の図1にも示されている。
【特許文献1】特許3140007号公報
【特許文献2】特許3599858号公報
【特許文献3】特開2004−195204号公報
【特許文献4】特公昭59−005296号公報
【非特許文献1】Yamakoshi K, Shimazu H, Togawa T, Indirect measurement of instantaneous arterial blood pressure in the rat, Am J Physiol 237, H632-H637, 1979.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、上述した従来の容積補償法による電子血圧計では、サーボゲインを、動脈容積変化信号の一定の消去率に基づき決定している。したがって、サーボゲインを被測定者個人毎に調整するものではない。それゆえに、従来の容積補償法に従い測定された血圧波形を用いても、個人毎に固有の動脈硬化度を測定することはできなかった。
【0015】
それゆえに、この発明の目的は、容積補償法により測定される血圧波形を用いて、個人毎の動脈硬化度の指標を検出することができる電子血圧計を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
この発明のある局面に従うと、容積補償法に従い血圧を測定するための電子血圧計は、血圧の測定部位に装着されるカフと、カフ内の圧力を表わすカフ圧を検出するための圧力検出手段と、カフに設けられ、且つ測定部位の動脈の容積を示す動脈容積信号を検出するための容積検出手段と、カフ圧を加圧および減圧により調整するためのカフ圧調整手段と、制御手段と、を備える。
【0017】
そして、制御手段は、カフ圧調整手段を制御して、カフ圧を、特定の圧力値を表わす初期カフ圧に設定するための第1の制御手段と、カフ圧を初期カフ圧に設定した後に、検出される動脈容積信号に基づいて、動脈の容積が一定となるようにカフ圧調整手段をサーボ制御するためのサーボ制御手段と、サーボ制御手段による制御が行なわれている際に、検出される動脈容積信号に基づき動脈の容積の変化の量を検出する容積変化検出手段と、カフ圧を初期カフ圧に設定したときに検出された動脈容積信号の振幅と、容積変化検出手段により動脈の容積の変化の量が最小であると検出された際に検出された動脈容積信号の振幅との比を検出する振幅比検出手段と、振幅比検出手段により検出された振幅の比を、動脈硬化の指標として出力する手段と、を含む。
【0018】
好ましくは、カフ圧を初期カフ圧に設定したときに検出される動脈容積信号の振幅は最大であり、サーボ制御手段は、動脈容積信号について最大の振幅が検出されたときの動脈容積をサーボ制御の目標値とし、且つ、検出される動脈容積信号が指す動脈容積と目標値との差に基づいて、容積変化検出手段が検出する動脈の容積の変化の量が最小となるようにサーボゲインを調整することにより、カフ圧調整手段をサーボ制御する。
【0019】
好ましくは、サーボ制御手段による制御が行なわれている際に、血圧を連続的に測定するための血圧測定手段を、さらに備え、血圧測定手段は、圧力検出手段からの検出信号を受付けて、検出信号に応じたカフ圧を血圧として決定するための決定手段を有し、容積変化検出手段により動脈の容積の変化の量が最小であると検出された際に、決定手段により決定された血圧を出力する。
【0020】
好ましくは、制御手段は、振幅の比と動脈硬化度との相関関係に従い、振幅比検出手段により検出された振幅の比に基づき、測定部位の動脈の硬化度を検出する。
【0021】
好ましくは、サーボ制御手段により、サーボゲインを一定の割合で増加させていく過程において、容積変化検出手段により検出される動脈の容積の変化の量が収束したときに、振幅比検出手段は振幅の比を検出する。
【0022】
好ましくは、容積変化検出手段により検出される動脈の容積の変化の量が一定以下になることを検出したとき、動脈の容積の変化の量が収束したことを検出する。
【0023】
好ましくは、検出される動脈容積信号の脈波1拍毎に、当該1拍の動脈の容積の変化の量と、一拍前の動脈の容積の変化の量との差分を検出し、検出する差分が一定値以下を指示することを複数拍分連続して検出するとき、動脈の容積の変化の量が収束したことを検出する。
【0024】
好ましくは、サーボ制御手段により、サーボゲインを一定の割合で増加させていく過程において、脈波1拍分の制御誤差が最小となるとき、動脈の容積の変化の量が収束したことが検出され、制御誤差は、検出される動脈容積信号が指す動脈容積と目標値との差を示す。
【0025】
好ましくは、サーボ制御手段により、サーボゲインを一定の割合で増加させていく過程において、サーボ制御によるカフ圧が示す脈動の大きさが収束したとき、動脈の容積の変化の量が収束したことを検出する。このカフ圧が示す脈動の大きさは、圧力検出手段が検出するカフ圧の変化を指すカフ圧信号の振幅レベルを指す。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、容積補償法に従い血圧を測定する電子血圧計は、血圧測定時のサーボ制御のための制御値を、測定部位に押圧するカフ圧を調整する過程で検出される被測定者個々人に特有の動脈の容積の変化に従い決定する。このとき、動脈容積信号の振幅の比として動脈硬化度の指標が検出される。したがって、動脈硬化度の指標を、被測定者個々人の動脈の特性を表すものとして得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、この発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。なお、各図中、同一符号は同一または相当部分を指し、その説明は繰返さない。
【0028】
各実施の形態に係る容積補償法を用いた電子血圧計は、容積変化消去率は動脈の弾性特性すなわち動脈硬化度により異なることに着目して、血圧測定のためのサーボゲインを決定する。具体的には、動脈が硬いほど押圧に対する応答性が悪くなるため制御が難しく、制御中の脈波信号の振幅は大きくなる。その結果、容積変化消去率は大きな値となる。反対に動脈が柔らかいほど消去率は小さな値となる。そこで、発明者らは、容積変化消去率の値を動脈硬化度の指標として算出することが可能であろうとの示唆を得た。
【0029】
発明者らは、この示唆に基づき実験を行ない図1に示す容積変化消去率と動脈硬化度の相関関係を指すデータを得ることができた。図1では、2次元の座標平面においてY軸に容積変化消去率をとり、X軸にPWVで示す動脈硬化度をとった場合において、両者の相関関係は、おおよそ式500で示す一次関数式で示される。これにより、発明者らは、容積変化消去率は動脈の弾性特性(硬さ)と比例関係を持つとの認識を得て、容積変化消去率を用いて動脈硬化度の指標(容積変化消去率)を検出することが可能であるとの知見を得た。なお、図1の実験データは、血管について侵襲状態で測定して得られたデータである。
【0030】
さらに発明者らは、容積補償法において、動脈の無負荷状態を維持するためのサーボ制御に係るサーボゲインの決定については次のような知見を得た。
【0031】
サーボゲインを増加していくにつれて、動脈容積変化信号の振幅は次第に小さくなり振幅は最小値に収束していく。つまり、サーボ制御により、サーボゲインを増加させていく過程において、カフ圧信号から検出される脈動の大きさも収束し、動脈の容積の変化の量が収束する。それ以上にサーボゲインを増加すると、制御系が不安定になるため、制御信号において不要な高周波成分の振動が生じる。さらにゲインを増加すると、制御信号において異常発振が生じて制御不能になるという性質がある。そこで、発明者らは、この性質を利用して、サーボゲインを増加させながらサーボ制御を行う過程で動脈容積変化信号の振幅が最小となる点を検出することにより、個人ごとに動脈の無負荷状態を維持するための最適なサーボゲインを決定できること、そして、そのときに検出される容積変化消去率により個人に固有の動脈硬化度の指標を検出することができるとの知見を得た。
【0032】
以下に、各実施の形態に係る容積補償法を用いて血圧を測定する電子血圧計を説明する。容積補償法を用いた血圧測定は、特許文献4に開示される手順を利用している。
【0033】
各実施の形態に係る電子血圧計は、容積補償法により連続的に血圧を測定する。電子血圧計は、生体外から動脈に外圧を加え、生体外圧と動脈内圧すなわち血圧とを常時平衡するようにフィードバック制御する。つまり、電子血圧計は、動脈壁が無負荷状態に維持されるようにカフ圧を微調整し、そのとき(無負荷状態)の生体外圧を測定することにより連続的に血圧を測定する。
【0034】
(実施の形態1)
図2は、本発明の実施の形態1に係る電子血圧計1の外観斜視図である。
【0035】
図2を参照して、電子血圧計1は、本体部10と、被測定者の四肢に巻き付け可能なカフ20とを備える。本体部10はカフ20に取り付けられている。本体部10の表面には、たとえば液晶等により構成される表示部40と、ユーザ(被測定者)からの指示を受付けるための操作部41とが配置されている。操作部41は、複数のスイッチを含む。
【0036】
本実施の形態において、「四肢」とは、上肢および下肢のうち、それぞれの指を除く部位を表わす。つまり、四肢は、手首から腕の付け根までの部位と、足首から足の付け根までの部位とを含む。以下の説明においては、カフ20は、被測定者の手首に装着されるものとする。
【0037】
なお、本実施の形態における電子血圧計1は、図2に示されるように、本体部10がカフ20に取り付けられた形態を例に説明するが、上腕式の血圧計で採用されているような、本体部10とカフ20とがエアチューブ(後述の図4においてエアチューブ31)によって接続される形態のものであってもよい。
【0038】
図3は、本発明の実施の形態1に係る電子血圧計1における血圧測定のためのカフ圧を制御する概念を表わした図である。図3には、カフ20が、被測定者の手首200に装着された様子が示される。
【0039】
図3を参照して、本体部10には、ポンプ51および排気弁(以下、単に「弁」という)52を含むカフ圧の調整機構が配置される。
【0040】
ポンプ51、弁52、および空気袋21内の圧力(カフ圧)を検出するための圧力センサ32からなるエア系30は、エアチューブ31を介して、カフ20に内包される空気袋21と接続される。このように、エア系30が本体部10に設けられるため、カフ20の厚みを薄く保つことができる。
【0041】
空気袋21の内側には発光素子71と受光素子72とが所定の間隔に配置される。本実施の形態では、カフ20の装着状態における手首の周に沿って発光素子71と受光素子72とが並べられるが、このような配置例に限定されるものではない。
【0042】
図4は、本発明の実施の形態1に係る電子血圧計1のハードウェア構成を表わすブロック図である。
【0043】
図4を参照して、電子血圧計1のカフ20は、空気袋21と、動脈容積センサ70とを含む。動脈容積センサ70は、上述した発光素子71と受光素子72とを有する。発光素子71は、動脈に対して光を照射し、受光素子72は、発光素子71によって照射された光の動脈の透過光または反射光を受光する。
【0044】
なお、動脈容積センサ70は、動脈の容積が検出できるものであればよく、インピーダンスにより動脈の容積を検出するものであってもよい。その場合、発光素子71および受光素子72に代えて、動脈を含む部位のインピーダンスを検出するための複数の電極が含まれる。
【0045】
本体部10は、上述の表示部40および操作部41に加え、各部を集中的に制御し、各種の演算処理を行なうためのCPU(Central Processing Unit)100と、CPU100に所定の動作をさせるプログラムや各種データを記憶するためのメモリ部42と、測定された血圧データを後述の図5に従い記憶するための不揮発性メモリ(たとえばフラッシュメモリ)43と、CPU100を介し各部に電力を供給するための電源44、および現在時間を計時して計時データをCPU100に出力するタイマ45とを含む。操作部41は、電源をONまたはOFFするための指示の入力を受付ける電源スイッチ41Aと、測定開始の指示を受付けるための測定スイッチ41Bと、測定停止の指示を受付けるための停止スイッチ41Cと、フラッシュメモリ43に記録された血圧などの情報を読出す指示を受付けるためのメモリスイッチ41Dと、被測定者を識別するためのID(Identifier)情報を入力するために操作されるIDスイッチ41Eを有する。
【0046】
本体部10は、さらに、上述したエア系30と、カフ圧の調整機構50と、発振回路33と、発光素子駆動回路73と、動脈容積検出回路74とを含む。
【0047】
調整機構50は、ポンプ51および弁52の他、ポンプ駆動回路53と弁駆動回路54とを有する。
【0048】
ポンプ51は、カフ圧を加圧するために、空気袋21に空気を供給する。弁52は、空気袋21の空気を排出しまたは封入するために開閉される。ポンプ駆動回路53は、ポンプ51の駆動をCPU100から与えられる制御信号に基づいて制御する。弁駆動回路54は弁52の開閉制御をCPU100から与えられる制御信号に基づいて行なう。
【0049】
発光素子駆動回路73は、CPU100からの指令信号に応じて、発光素子71を所定のタイミングで発光させる。動脈容積検出回路74は、受光素子72からの信号に基づき、動脈容積を検出する。
【0050】
圧力センサ32は、静電容量型の圧力センサでありカフ圧により容量値が変化する。発振回路33は、圧力センサ32の容量値に応じた発振周波数の信号をCPU100に出力する。CPU100は、発振回路33から得られる信号を圧力に変換し圧力を検知する。
【0051】
図6は、本発明の実施の形態1に係る電子血圧計1の機能構成を示す機能ブロック図である。
【0052】
図6を参照して、CPU100は、カフ圧を初期カフ圧にセットするための制御を行なう駆動制御部101と、血圧を連続的に測定するためのフィードバック制御を行なうサーボ制御部106と、血圧決定部108と、サーボ制御に関するゲインを決定するためのゲイン決定部109と、容積変化消去率を算出するための容積変化消去率算出部110と、算出された容積変化消去率に基づき動脈硬化度を算出する動脈硬化度算出部111を含む。なお、図6には、説明を簡単にするために、CPU100の有するこれら各部との間で直接的に信号を授受する周辺のハードウェアのみ示されている。
【0053】
駆動制御部101は、サーボ制御のための制御目標値を検出するための制御目標値検出部102と、カフ圧を設定するためのカフ圧設定部104とを含む。
【0054】
制御目標値検出部102は、カフ圧を所定値(たとえば200mmHg)まで加圧させる過程において、初期カフ圧を導出する処理を行なう。制御目標値検出部102は、ポンプ駆動回路53にポンプ51を駆動させるとともに、発光素子駆動回路73に発光素子71を駆動させる。ポンプ51が駆動されることで、カフ圧が徐々に上昇する。発光素子71の駆動により、受光素子72が受付けた信号が、動脈容積検出回路74に出力される。制御目標値検出部102は、動脈容積検出回路74から出力される動脈容積信号の1拍ごとの変化(振幅)を表わす容積変化信号を入力する。
【0055】
制御目標値検出部102は、カフ圧が所定値となるまでポンプ駆動回路53の駆動を制御する。カフ圧が所定値に達するまでの間、容積変化信号の(仮の)最大値を検出するとともに、発振回路33からの信号を入力し、入力した信号を圧力値に変換する。そして、検出された仮の最大値とその時点におけるカフ圧とを、フラッシュメモリ43の所定の領域に記録する。仮の最大値とカフ圧とは、記録された(仮の)最大値が更新されるたびに上書き記録されてよい。
【0056】
最終的に、容積変化信号の最大値として記録された値は、サーボ制御の際の制御目標値として確定される。また、容積変化信号が最大値のときのカフ圧(サーボ制御の際の基準カフ圧)は、初期カフ圧として確定される。
【0057】
制御目標値検出部102は、カフ圧が所定値となったことを検知すると、ポンプ駆動回路53の駆動を停止する。そして、確定された初期カフ圧および制御目標値をカフ圧設定部104に出力する。
【0058】
なお、カフ圧を所定値から減圧させる過程において、初期カフ圧としての基準カフ圧が導出されてもよい。
【0059】
カフ圧設定部104は、発振回路33からの信号を入力し、カフ圧が初期カフ圧となるまで弁駆動回路54を駆動する。これにより、弁52が空気を排出し、カフ圧が所定値のカフ圧から初期カフ圧まで減少される。
【0060】
サーボ制御部106は、発光素子駆動回路73を駆動する。そして、動脈容積検出回路74からの信号に基づいて、動脈の容積が一定となるようにポンプ駆動回路53または弁駆動回路54を制御する。
【0061】
より具体的には、サーボ制御部106は、動脈容積検出回路74から受付けた動脈容積信号と制御目標値との差が最小となるように(好ましくはゼロになるように)、ポンプ駆動回路53または弁駆動回路54を制御する。つまり、ポンプ駆動回路53または弁駆動回路54は、容積変化信号の値(振幅)が所定の閾値以下となるようにポンプ51の動作または弁52の開閉を制御する。
【0062】
血圧決定部108は、サーボ制御部106による制御が行なわれている際に、発振回路33から入力する信号(「圧力検出信号」という)を連続的に(定期的に)受付けて、圧力検出信号に応じたカフ圧を、血圧として決定するための処理を行なう。
【0063】
より具体的には、血圧決定部108は、動脈容積信号の値と制御目標値との差が、所定の閾値以下であるか否かを判断する。そうである場合にのみ、そのときのカフ圧を血圧として決定する。決定された血圧は、フラッシュメモリ43に時系列に格納される。
【0064】
なお、CPU100に含まれる各機能ブロックの動作は、メモリ部42中に格納されたソフトウェアを実行することで実現されてもよいし、これらの機能ブロックのうち少なくとも1つについては、ハードウェアで実現されてもよい。
【0065】
あるいは、ハードウェア(回路)として記載したブロックのうち少なくとも1つについては、CPU100がメモリ部42中に格納されたソフトウェアを実行することで実現されてもよい。
【0066】
次に、本実施の形態1における電子血圧計1の動作について説明する。
図7は、本発明の実施の形態1における血圧測定処理を示すフローチャートである。図7のフローチャートに示す処理は、予めプログラムとしてメモリ部42に格納されており、CPU100がこのプログラムを読み出して実行することにより、血圧測定処理の機能が実現される。なお、被測定者は、血圧測定をするときには、電子血圧計1のカフ20を図3に示すように測定部位である手首に装着していると想定する。
【0067】
図7を参照して、CPU100は、電源スイッチ41Aが操作(たとえば押下)されたか否かを判断する(ステップS2)。電源スイッチ41Aが操作されたと判断した場合(ステップS2においてYES)、ステップS4に進む。
【0068】
ステップS4において、CPU100は、初期化処理を行なう。具体的には、メモリ部42の所定の領域を初期化し、空気袋21の空気を排気し、圧力センサ32の補正を行なう。また、ことのとき、サーボ制御のためのゲインが決定されたか否かを指示するためのフラグFLの値が初期化される。たとえば、フラグFLの値は0に更新される。フラグFLは、当該フローチャートのために準備される一時変数であり、CPU100の図示のない内部メモリの所定記憶領域を指している。
【0069】
初期化が終わると、CPU100は、測定スイッチ41Bが操作(たとえば押下)されたか否かを判断する(ステップS6)。測定スイッチ41Bが操作されるまで待機する。測定スイッチ41Bが押下されたと判断すると(ステップS6においてYES)、ステップS8に進む。
【0070】
ステップS8において、制御目標値検出部102は、初期カフ圧および制御目標値の検出の処理を実行する。初期カフ圧および制御目標値の検出は以下のように行う。
【0071】
カフ圧を徐々に増加させながら、その時の動脈容積信号(容積脈波信号の直流成分)PGdcと動脈容積変化信号(容積脈波信号の交流成分)PGacを検出する。これら信号は、動脈容積検出回路74により検出される。つまり、動脈容積検出回路74は図示のないHPF(High Pass Filter)回路を有している。
【0072】
動作において、動脈容積センサ70から動脈の容積の変化を指す容積脈波信号を入力すると、その入力信号をHPF回路により、容積脈波信号の直流成分の動脈容積信号PGdcと交流成分の動脈容積変化信号PGacに分離して出力する。たとえば、フィルタ定数を1Hzとして、1Hz以下の信号は直流成分として導出されて、1Hzを超える信号は交流成分として導出される。制御目標値検出部102は、動脈容積信号PGdcと動脈容積変化信号PGacを入力する。
【0073】
制御目標値検出部102は、現在検出される動脈容積変化信号PGacのレベルが最大であるかを判断し、その時に検出される動脈容積信号PGacのレベル値と動脈容積信号PGdcの値とカフ圧とを関連付けて所定のメモリ領域に格納する。カフ圧が所定の圧力に達するまでこの動作を繰り返す。この所定の圧力は、フラッシュメモリ43から読出されるカフ圧データPC1(たとえば200mmHg)により指示される。
【0074】
カフ圧が所定の圧力に達したことを検出したときに所定のメモリ領域に格納されている動脈容積変化信号PGacの値うちの最大値に関連付けられる動脈容積信号PGdcを制御目標値とし、関連して格納されていたカフ圧を制御初期カフ圧として確定する。これにより、制御目標帯と初期カフ圧が検出される。
【0075】
このような、制御目標値と初期カフ圧の検出について、図8および図9を用いて詳細に説明する。
【0076】
図8は、本発明の実施の形態1における制御目標値と初期カフ圧検出処理を示すフローチャートである。図9は、本発明の実施の形態1の血圧測定処理を説明するための図である。図9の上段には、圧力センサ32によって検出されるカフ圧Pcを示す信号がタイマ45が計時する時間軸に沿って示される。図9の中段と下段には、同一の時間軸に沿った動脈容積変化信号PGacと動脈容積信号PGdcが示される。
【0077】
図8を参照して、制御目標値検出部102は、メモリ部42の所定の領域に記憶される、動脈容積変化信号PGacの最大値およびカフ圧値を初期化する(ステップS102)。なお、以下の処理において動脈容積変化信号PGacの最大値は随時更新されるものであるので、最終的に最大値として確定するまでの値を「容積仮最大値」というものとする。
【0078】
次に、ポンプ駆動回路53を制御して、カフ圧を加圧する(ステップS104)。
カフ圧を加圧する段階において、制御目標値検出部102は、動脈容積検出回路74から入力する容積脈波信号に基づき、動脈容積信号PGdcと動脈容積変化信号PGacを検出する(ステップS106)。
【0079】
制御目標値検出部102は、動脈容積変化信号PGacの値がメモリ部42に記憶された容積仮最大値以上であるか否かを判断する(ステップS108)。動脈容積変化信号PGacの値が容積仮最大値以上であると判断された場合(ステップS108においてYES)、ステップS110に進む。一方、動脈容積変化信号PGacが容積仮最大値未満であると判断された場合(ステップS108においてNO)、ステップS112に進む。
【0080】
ステップS110において、制御目標値検出部102は、容積仮最大値を更新するとともに、その時点におけるカフ圧を上書き記録する。この処理が終わると、処理はステップS112に移される。
【0081】
ステップS112において、制御目標値検出部102は、検出するカフ圧Pcが所定値PC1のカフ圧以上を指示するか否かを判断する。カフ圧Pcが所定値PC1のカフ圧以上を指示しないと判断した場合(ステップS112においてNO)、ステップS104に戻る。一方、カフ圧Pcが所定値PC1のカフ圧以上を指示すると判断した場合(ステップS112においてYES)、ステップS114に進む。
【0082】
ステップS114において、制御目標値検出部102は、ステップS110において最終的に記録された容積仮最大値を最大値として確定するとともに、最大値が検出された時刻T0において検出されたカフ圧Pcの値を、初期カフ圧(図9の符号MBPが指すカフ圧)として確定する。制御目標値検出部102は、さらに、時刻T0において動脈容積変化信号PGacに関連付けされて格納されていた動脈容積信号PGdcの値を制御目標値V0として確定する。
【0083】
ステップS114の処理が終わると、処理はメインルーチンに戻される。
再び図7を参照して、上述のような制御目標値と初期カフ圧の検出処理が終了すると、カフ圧設定部104は、弁駆動回路54を制御して、カフ圧Pcを初期カフ圧に設定する(ステップS10)。図9を参照して、カフ圧設定部104は、カフ圧Pcが初期カフ圧に設定された時点T1で、弁駆動回路54を停止させる。
【0084】
このようにカフ圧が初期カフ圧に設定されると、動脈容積変化信号PGacが示す振幅は最大となる。
【0085】
カフ圧が初期カフ圧に設定されると、サーボ制御の最適ゲインが決定されるまでは(ステップS12でNO)、ゲイン決定処理(ステップS26)が行なわれる。ステップS12における最適ゲインが決定済みであるか否かの検出は、フラグFLの値に従い行なわれる。具体的には、フラグFLの値が1を指示すると判定すると、最適ゲインが決定済み(ステップS12でYES)と検出し、そうでないと(ステップS12でNO)、最適ゲインが未決定であると検出し、ゲイン決定部109による最適ゲインを決定するための処理(ステップS26)に移行する。ゲイン決定部109によるゲイン決定の手順については後述する。
【0086】
ゲイン決定部109によって最適ゲインが決定済みの場合には(ステップS12でYES)、決定したゲインを用いてサーボ制御部106によりサーボ制御による動脈容積一定制御が実行される(ステップS14)。具体的には、サーボ制御部106は、動脈容積信号PGdcおよび動脈容積変化信号PGacを動脈容積検出回路74から入力するとともに、ポンプ駆動回路53および弁駆動回路54に制御信号を出力し、ポンプ51および弁52を駆動する。検出される動脈容積信号PGdcのレベルと制御目標値V0との差が最小となるように、ポンプ51および弁52が駆動される。
【0087】
ポンプ51および弁52の制御信号は、具体的には動脈容積信号PGdcのレベルと制御目標値V0との差分にサーボゲインを掛け合わせた値から算出される。サーボゲインを大きくすれば、サーボ制御によってカフ圧が示す脈動が大きくなる。すなわち、本実施の形態において、サーボゲインとはサーボ制御によるカフ圧の脈動の大きさを決定する係数を指す。
【0088】
図9の例では、時刻T2から動脈容積一定制御(サーボ制御)が開始されたことが示される。時刻T1からT2までの期間においてゲイン決定処理が行われる。
【0089】
このような動脈容積一定制御に並行して、血圧決定部108は、血圧算出および血圧決定の処理(ステップS16とS18)を実行する。具体的には、動脈容積一定制御を行っている間において検出されるカフ圧Pcを血圧として決定する(ステップS18)。
【0090】
決定した血圧のデータはフラッシュメモリ43に格納される(ステップS20)。ステップS20の処理が終わると、処理はステップS22に移行する。
【0091】
図9に示される時刻T2以降は、決定したゲインを用いたサーボ制御により動脈容積と制御目標値V0との差はゼロに近い。すなわち、サーボ制御部106により動脈は無負荷状態に維持される。したがって、時刻T2以降において検出されるカフ圧Pcが血圧として決定される。つまり、カフ圧Pcを指す信号の1拍毎の振幅の最大値と最小値を当該信号の波形を微分処理などすることにより検出して、検出した最大値は最高血圧に、最小値は最低血圧に相当するとして算出される。
【0092】
続いて、ステップS22において、サーボ制御部106は、停止スイッチ41Cが操作(たとえば押下)されたか否かを判断する。停止スイッチ41Cが操作されていないと判断した場合(ステップS22においてNO)、処理はステップS12に戻る。停止スイッチ41Cが操作されたと判断した場合(ステップS22においてYES)、測定された血圧データは、フラッシュメモリ43に格納されるとともに、表示部40に表示される(ステップS24)。これにより、一連の血圧測定処理は終了する。
【0093】
本実施の形態では、停止スイッチ41Cの操作が検知された場合に、血圧測定処理を終了することとしたが、動脈容積一定制御が開始されてから所定時間経過した場合に、終了することとしてもよい。
【0094】
次に、本実施の形態1に係るゲイン決定処理(ステップS26)を図10のフローチャートに従い説明する。本実施の形態1においては、サーボゲインを一定の割合で増加していくと、動脈容積変化信号PGacの振幅は始めは大きく減少するが、次第に減少量が小さくなり振幅はある値に収束するという性質が知られている。この性質を利用して、動脈容積変化信号PGacの振幅の収束点を検出することにより最適なサーボゲインを決定する。
【0095】
まず、サーボ制御部106は、サーボゲインを一定の割合で増加させる(ステップST3)。
【0096】
続いて、サーボ制御部106は、このサーボゲインを用いてサーボ制御を行う(ステップST5)。そして、ゲイン決定部109は、検出される動脈容積変化信号PGacに基づき一拍毎の振幅値を検出し(ステップST7)、振幅減少量ΔPGac(ΔPGac=動脈容積変化信号PGacの一拍前の振幅レベル−現在の動脈容積変化信号PGacの振幅レベル)を算出する(ステップST9)。算出された振幅減少量ΔPGacと一拍毎の動脈容積変化信号PGacの振幅レベルのデータは、CPU100の内部メモリに格納される。動脈容積変化信号PGacの振幅レベルは、たとえば1拍分の動脈容積変化信号PGacの波形を抽出して、抽出した波形を微分処理することにより算出される最大値に相当する。
【0097】
ゲイン決定部109は、振幅減少量ΔPGacが所定閾値TH1よりも小さくなったことを連続して検出すると(ステップST41でNO)、動脈容積変化信号PGacが収束したと判定し、血圧算出処理で使用するサーボゲインをこの時点の値に決定する(ステップST43)。決定したサーボゲインは、サーボ制御部106に与えられるので、サーボ制御部106は与えられるゲインに基づきサーボ制御を行うことができる。
【0098】
そして、ゲインが決定済みであることを指示するためにフラグFLに1を設定する(ステップST45)。そして、容積変化消去率算部110は、動脈容積変化信号PGacの1拍毎に、この時点の容積変化消去率(現在の動脈容積変化信号PGacの振幅レベル/カフ圧を初期カフ圧に設定したときに検出された動脈容積変化信号PGacの振幅レベル)を算出し、フラッシュメモリ43に格納する(ステップST47)。カフ圧を初期カフ圧に設定したときに検出された動脈容積変化信号PGacの振幅レベルは、CPU100の内部メモリに格納されていると想定する。
【0099】
次に、動脈硬化度算出部111は、先に算出された容積変化消去率をフラッシュメモリ43から読出し、読出した容積変化消去率に基づき、図1に示す相関関係の式500を用いて、動脈硬化度(PWV)を算出する(ステップST49)。そして、算出した動脈硬化度をフラッシュメモリ43に格納する(ステップST51)。
【0100】
算出した容積変化消去率を動脈硬化度の指標として表示部40に表示する。このとき、動脈硬化度の指標としての容積変化消去率を算出した血圧値とともに表示してもよく、または、算出した血圧値とは別個に表示部40に表示してもよい。また、動脈硬化度との関わりが分かりやすいように、たとえば算出した容積変化消去率を図1に示す関係または式500に従い動脈硬化度(PWV)に換算し、換算して得られた動脈硬化度(PWV)を表示するようにしてもよい。さらに、統計資料に基づく、動脈硬化度(PWV)のデータと相当する平均的な血管年齢のデータを対応付けた統計データをメモリ部42に予め格納しておき、得られた動脈硬化度(PWV)に基づき当該統計データを検索することで、相当する平均的な血管年齢のデータを読出して、表示部40に表示するようにしてもよい。
【0101】
以上の手順により、本実施の形態1に係るゲイン決定(ステップS26)の処理は終了する。
【0102】
上述の閾値TH1は、多数の被験者からサンプリングして予め決定しておいた値であり、たとえば動脈容積変化信号PGac振幅の最大値の10%となる値を使用することができる。
【0103】
このように、サーボ制御部106により、サーボゲインを一定の割合で増加させていく過程において、測定部位の動脈が心拍に同期して示す脈動の大きさ、すなわち動脈容積変化信号PGacが示す振幅が閾値TH1に収束したとき、動脈容積の変化量が収束したことを検出できる。
【0104】
以上の血圧測定処理によりフラッシュメモリ43に格納される各測定データのデータ構造について説明する。
【0105】
図5は、本発明の実施の形態1のフラッシュメモリ43に格納される測定データのデータ構造を示す図である。
【0106】
図5を参照して、フラッシュメモリ43は領域E1、作業領域E2および測定データの格納領域E3を含む。領域E1には、カフ圧データPC1と、閾値TH1が格納される。後述の閾値TH2およびTH3も領域E1に予め格納される。カフ圧データPC1は、制御目標値および初期カフ圧検出のために参照される。
【0107】
領域E3には、複数の測定データ80が格納される。測定データ80の各々は、一例として、「ID情報」のフィールド81と、測定情報のフィールド83とを含む。フィールド81には、血圧測定時のIDスイッチ41Eの操作により入力したID情報が格納される。フィールド83には、測定データの測定開始日時や測定期間などのタイマ45により計時されたデータ831、測定された血圧のデータ832、容積変化消去率算部110により算出された容積変化消去率のデータ833および動脈硬化度算出部111により算出れた動脈硬化度(PWV)のデータ834が関連付けて格納される。
【0108】
(実施の形態2)
本実施の形態2では、ゲイン決定部109によるゲイン決定(ステップS26)の他の処理手順が示される。ゲイン決定の手順が異なる他は、電子血圧計1の構成および他の機能は実施の形態1と同様である。
【0109】
上述の実施の形態1では、動脈容積変化信号PGacの収束を判定する条件として、動脈容積変化信号PGacの振幅減少量ΔPGacを用いたが、代わりに、本実施の形態2のように動脈容積変化信号PGacの振幅減少量の差ΔΔPGac(振幅減少量の差ΔΔPGac=一拍前の振幅減少量ΔPGac−現在の振幅減少量ΔPGac)を利用してもよい。本実施の形態2に係るゲイン決定(ステップS26)の処理手順を図11に示すフローチャートに従い説明する。
【0110】
図11のステップST3〜ST9の処理では、図10のステップST3〜ST9の処理が実行されるので、ここでは、説明を繰返さない。
【0111】
続いて、ゲイン決定部109は、振幅減少量の差ΔΔPGacを、一拍前の振幅減少量ΔPGac−現在の振幅減少量ΔPGacに基づき算出する(ステップST15)。一拍前の振幅減少量ΔPGacのデータはCPU100の内部メモリから読出されたものである。
【0112】
続いて、振幅減少量の差ΔΔPGacが所定の閾値TH2よりも小さくなったことを複数拍分連続して検出すると(ステップST17でNO)、ゲイン決定部109は、動脈容積変化信号PGacの振幅は最小値に収束したと判定する。
【0113】
その後は、図10のステップST43〜ST51の処理が同様に行なわれる。
ここで、閾値TH2は、多数の被験者からサンプリングして予め決定しておいた値であり、たとえば動脈容積変化信号PGac振幅の最大値の10%となる値を使用することができる。
【0114】
(実施の形態3)
本実施の形態3では、ゲイン決定部109によるゲイン決定(ステップS26)の他の処理手順が示される。ゲイン決定の手順が異なる他は、電子血圧計1の構成および他の機能は実施の形態1と同様である。
【0115】
上述の実施の形態1と2に代わって、本実施の形態の処理手順を用いてもよい。本実施の形態では、制御誤差(制御目標値と現在の動脈容積信号PGdcのレベルの差)は最適サーボゲインにおいては最小になるとの性質が知られているので、この性質に着目して、脈波一拍分の制御誤差が最小になる点を検出することにより最適なサーボゲインを決定する。
【0116】
本実施の形態3に係るゲイン決定(ステップS26)の処理手順を図12に示すフローチャートに従い説明する。
【0117】
図12のステップST3〜ST5の処理では、図10のステップST3〜ST5の処理が実行されるので、ここでは、説明を繰返さない。
【0118】
ゲイン決定部109は、ステップST5では、動脈容積信号PGdcのレベルと制御目標値V0との差が最小となるようにカフ圧のサーボ制御を行う。続いて、ゲイン決定部109は、このサーボ制御の過程で検出される脈波一拍ごとに制御誤差信号Errを検出する(ステップST23)。
【0119】
ここで、制御誤差信号Errは、制御目標値V0と動脈容積信号PGdcのレベルの差分を2乗したもの、もしくは差分の絶対値を脈波一拍分について積分した値として算出される。
【0120】
ゲイン決定部109は、脈波一拍毎に制御誤差信号Errの値を算出し、算出した制御誤差信号Errの値と、現在のサーボゲインの値とを関連付けてCPU100の内部メモリに記憶する。そして、脈波一拍毎に算出する毎に、直前に算出した制御誤差信号Errの指示する値をメモリから読出し、読出した値と、今回算出した制御誤差信号Errの指示する値とを比較して、比較結果に基づき制御誤差信号Errの値が増加したか否かを検出する。増加したことが検出されない間は(ステップST25でNO)、上記動作を繰返す。
【0121】
サーボ制御部106はPID制御を行っているので制御誤差信号Errの値は最小値に収束するはずである。したがって、制御誤差信号Errの値が増加したことが検出されるとき(ステップST25でYES)、ゲイン決定部109はその一拍前のサーボゲインを、すなわちCPU100の内部メモリから読出した1拍前のサーボゲインの値を、制御誤差信号Errの値が収束した時点の最適値として決定する(ステップST43)。以降は、図10のステップST45〜ST51の処理が同様に行なわれる。
【0122】
(実施の形態4)
本実施の形態4では、ゲイン決定部109によるゲイン決定(ステップS26)の他の処理手順が示される。ゲイン決定の手順が異なる他は、電子血圧計1の構成および他の機能は実施の形態1と同様である。上述の実施の形態1〜3に代わって、本実施の形態4のゲイン決定手順を用いても良い。
【0123】
図13に示すフローチャートに従って、本実施の形態4に係るゲイン決定処理の方法を説明する。ここでは、サーボ制御部106がサーボゲインを一定の割合で増加していくと、サーボ制御部106のサーボ制御によるカフ圧を介して検出される脈動の大きさ(制御脈圧)が、始めは大きく増加するが、次第に増加量が小さくなり、遂にはある値に収束する。この特質に着目して、ゲイン決定部109は、制御脈圧の収束点を検出することにより最適なサーボゲインを決定する。
【0124】
図13を参照して、まず、図10のステップST3およびST5の処理が同様に行なわれる。
【0125】
サーボ制御が行われる過程において、ゲイン決定部109は、カフ圧Pcの一拍毎に、振幅の最大値と最小値の差分(制御脈圧PPCという)を検出して、検出した制御脈圧PPCを、その時点のサーボゲインの値と関連付けてCPU100の内部メモリに格納する(ステップST33)。そして、今回、検出した制御脈圧PPCと、メモリから読出した一拍前に検出された制御脈圧PPCとに基づき、制御脈圧PPCの一拍前からの差分を指す差分値ΔPPCを算出する(ステップST35)。
【0126】
ゲイン決定部109は、算出した差分値ΔPPCが閾値TH3よりも小さくなったことを連続して検出すると(ステップST37でNO)、制御脈圧PPCが収束したと判定し、血圧算出処理で使用するサーボゲインをこの時点の値に決定する(ステップST43)。
【0127】
以降は、図10のステップST45〜ST51の処理が同様に行なわれる。
ここで、閾値TH3は、多数の被験者からサンプリングして予め決定しておいた値であり、たとえば、2.5mmHg(被測定者の脈圧が50mmHgの時の5%の誤差となる値)を利用できる。
【0128】
各実施の形態によれば、容積補償法に従い血圧を測定する電子血圧計1は、血圧測定時のサーボゲインの最適値を個人に特有の動脈容積変化信号PGacを用いて決定する。これにより、動脈硬化度の指標としての容積変化消去率を精度よく検出することができる。
【0129】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0130】
【図1】実験結果に基づく容積変化消去率と動脈硬化度の相関関係を示す図である。
【図2】本発明の実施の形態1に係る電子血圧計の外観斜視図である。
【図3】本発明の実施の形態1に係る電子血圧計における血圧測定のためのカフ圧を制御する概念を表わした図である。
【図4】本発明の実施の形態1に係る電子血圧計のハードウェア構成を表わすブロック図である。
【図5】本発明の実施の形態1に係る測定データの格納例を説明する図である。
【図6】本発明の実施の形態1に係る電子血圧計の機能構成を示す機能ブロック図である。
【図7】本発明の実施の形態1における血圧測定処理を示すフローチャートである。
【図8】本発明の実施の形態1における制御目標値と初期カフ圧検出処理を示すフローチャートである。
【図9】本発明の実施の形態1の血圧測定処理を説明するための図である。
【図10】本発明の実施の形態1に係るゲイン決定処理のフローチャートである。
【図11】本発明の実施の形態2に係るゲイン決定処理のフローチャートである。
【図12】本発明の実施の形態3に係るゲイン決定処理のフローチャートである。
【図13】本発明の実施の形態4に係るゲイン決定処理のフローチャートである。
【符号の説明】
【0131】
1 電子血圧計、102 制御目標値検出部、104 カフ圧設定部、106 サーボ制御部、108 血圧決定部、109 ゲイン決定部、110 容積変化消去率算出部、111 動脈硬化度算出部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
容積補償法に従い血圧を測定するための電子血圧計であって、
血圧の測定部位に装着されるカフと、
前記カフ内の圧力を表わすカフ圧を検出するための圧力検出手段と、
前記カフに設けられ、且つ前記測定部位の動脈の容積を示す動脈容積信号を検出するための容積検出手段と、
カフ圧を加圧および減圧により調整するためのカフ圧調整手段と、
制御手段と、を備え、
前記制御手段は、
前記カフ圧調整手段を制御して、カフ圧を、特定の圧力値を表わす初期カフ圧に設定するための第1の制御手段と、
カフ圧を前記初期カフ圧に設定した後に、検出される前記動脈容積信号に基づいて、前記動脈の容積が一定となるように前記カフ圧調整手段をサーボ制御するためのサーボ制御手段と、
前記サーボ制御手段による制御が行なわれている際に、検出される前記動脈容積信号に基づき前記動脈の容積の変化の量を検出する容積変化検出手段と、
前記カフ圧を前記初期カフ圧に設定したときに検出された前記動脈容積信号の振幅と、前記容積変化検出手段により前記動脈の容積の変化の量が最小であると検出された際に検出された前記動脈容積信号の振幅との比を検出する振幅比検出手段と、
前記振幅比検出手段により検出された前記振幅の比を、動脈硬化の指標として出力する手段と、を含む、電子血圧計。
【請求項2】
カフ圧を前記初期カフ圧に設定したときに検出される前記動脈容積信号の振幅は最大であり、
前記サーボ制御手段は、
前記動脈容積信号について最大の振幅が検出されたときの動脈容積をサーボ制御の目標値とし、且つ、
検出される前記動脈容積信号が指す動脈容積と前記目標値との差に基づいて、前記容積変化検出手段が検出する前記動脈の容積の変化の量が最小となるようにサーボゲインを調整することにより、前記カフ圧調整手段をサーボ制御する、請求項1に記載の電子血圧計。
【請求項3】
前記サーボ制御手段による制御が行なわれている際に、前記血圧を連続的に測定するための血圧測定手段を、さらに備え、
前記血圧測定手段は、
前記圧力検出手段からの検出信号を受付けて、前記検出信号に応じたカフ圧を血圧として決定するための決定手段を有し、
前記容積変化検出手段により前記動脈の容積の変化の量が最小であると検出された際に、前記決定手段により決定された血圧を出力する、請求項1または2に記載の電子血圧計。
【請求項4】
前記制御手段は、
前記振幅の比と動脈硬化度との相関関係に従い、前記振幅比検出手段により検出された前記振幅の比に基づき、前記測定部位の動脈の硬化度を検出する、請求項1から3のいずれかに記載の電子血圧計。
【請求項5】
前記サーボ制御手段により、前記サーボゲインを一定の割合で増加させていく過程において、前記容積変化検出手段により検出される前記動脈の容積の変化の量が収束したときに、前記振幅比検出手段は振幅の比を検出する、請求項2から4のいずれかに記載の電子血圧計。
【請求項6】
前記容積変化検出手段により検出される前記動脈の容積の変化の量が一定以下になることを検出したとき、前記動脈の容積の変化の量が収束したことを検出する、請求項5に記載の電子血圧計。
【請求項7】
検出される前記動脈容積信号の脈波1拍毎に、当該1拍の前記動脈の容積の変化の量と、一拍前の前記動脈の容積の変化の量との差分を検出し、
検出する前記差分が一定値以下を指示することを複数拍分連続して検出するとき、前記動脈の容積の変化の量が収束したことを検出する、請求項5に記載の電子血圧計。
【請求項8】
前記サーボ制御手段により、前記サーボゲインを一定の割合で増加させていく過程において、脈波1拍分の制御誤差が最小となるとき、前記動脈の容積の変化の量が収束したことが検出され、
前記制御誤差は、検出される前記動脈容積信号が指す動脈容積と前記目標値との差を示す、請求項5に記載の電子血圧計。
【請求項9】
前記サーボ制御手段により、前記サーボゲインを一定の割合で増加させていく過程において、サーボ制御によるカフ圧が示す脈動の大きさが収束したとき、前記動脈の容積の変化の量が収束したことを検出する、請求項5に記載の電子血圧計。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2009−225861(P2009−225861A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−71930(P2008−71930)
【出願日】平成20年3月19日(2008.3.19)
【出願人】(503246015)オムロンヘルスケア株式会社 (584)
【Fターム(参考)】