説明

電子衝撃加熱装置及びこれを用いた半導体デバイスの製造方法

【課題】大きなサイズのウエハであっても均一なアニール処理が可能な、加熱プレート内の温度均一性が高い電子衝撃加熱装置を提供する。
【解決手段】天板2aを有するヒーター容器2内に、螺旋状のフィラメント4と、該フィラメント4の螺旋で囲まれた領域内に反射板3を備え、該反射板3が、フィラメント4の天板2aに最も近い位置Dに上面を有し、直径がフィラメント4の螺旋の直径Rの10%以上の円板3aと、該3円板3aの外径と同じ内径を有し、外径がフィラメント4の螺旋の直径よりも大きいリング板3bと、円板3aの外周とリング板3bの内周とを連結する円筒板3bとから構成され、フィラメント4から発生した熱電子を、天板2aの外周部に優先的に衝突させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウエハ等の被処理基板を高温に加熱する加熱装置、特にフィラメントに通電することにより発生した熱電子を高電圧で加速し、この熱電子を導電性容器に衝突させて発熱させるヒーターを有する電子衝撃加熱装置に関する。更に、これを用いた半導体デバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化ケイ素(SiC)等のワイドバンドギャップ半導体の製造プロセスにおいて、処理基板を1500℃乃至2000℃程度の超高温に加熱することが行われている(特許文献1参照)。このような半導体製造プロセスに用いる加熱装置としては、フィラメントに通電することにより発生した熱電子を高電圧で加速して加熱プレートの背後に衝突させ、発熱させ、加熱プレート上の被処理基板を加熱する装置が知られている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−206441号公報
【特許文献2】特許第2912616号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
現在、高電圧・大電流用炭化ケイ素(SiC)半導体装置は、チップサイズが大きく、製造コストを低減するために、ウェハサイズがφ3インチからφ4インチに移行している。さらに今後、φ6インチに拡大されて行くことが予想される。このような大きいサイズのウエハを、従来の加熱装置を用いてアニール処理をしてデバイスを作製した場合、デバイスの特性を満足しないことがあった。具体的には、加熱プレート上にウエハを載置してアニール処理を行う。この時、加熱プレートの中央で処理されて作製されたダイオードは良好なデバイス特性を満たすのに対して、加熱プレートの中心から離れた領域でアニール処理を行い作製したダイオードはリーク電流が流れることがあった。これは、アニール時の加熱プレート面内の温度差が、デバイス特性に大きく影響を与えるためであった。
【0005】
本発明の課題は、加熱プレート内の温度均一性が高い加熱装置を提供し、大きなサイズのウエハであっても均一なアニール処理を施して、均一な特性の半導体デバイスを製造しうる製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1は、基板を加熱する加熱プレートを備え、少なくとも導電材からなるヒーター容器と、該ヒーター容器内に配置されたフィラメント及び反射板と、フィラメントとヒーター容器との間に加速電圧を印加する加速電源とを備えた電子衝撃加熱装置であって、
上記フィラメントが、上記加熱プレートの中心を通る法線を中心軸とするシングルループ或いは螺旋状に配置され、
上記反射板が、上記フィラメントの上記加熱プレートから離れた側に位置する前記加熱プレートに平行な面内において、上記加熱プレートの中心軸を中心とする円周と、上記中心軸を中心とし、前記円周より加熱プレートの側に位置する円周とを含む形状を有することを特徴とする。
【0007】
本発明の第2は、アニール処理工程を含む半導体デバイスの製造方法であって、該アニール処理工程を上記本発明の電子衝撃加熱装置を用いて行うことを特徴とする
【発明の効果】
【0008】
本発明の電子衝撃加熱装置は、加熱プレート内の温度が均一に制御されているため、大きなサイズのウエハであっても、場所によらず均一にアニール処理を施すことができる。よって、本発明によれば、均一な特性の半導体デバイスを歩留り良く提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の電子衝撃加熱装置の好ましい一実施形態の構成を示す断面概略図である。
【図2】本発明の電子衝撃加熱装置の反射板の他の形状例を示す断面模式図である。
【図3】本発明の電子衝撃加熱装置の反射板の他の形状例を示す断面模式図である。
【図4】本発明の実施例において、実際にアニール処理を行った際の天板の温度分布を示す図である。
【図5】本発明の実施例で作製したPN接合ダイオードの構成を示す断面模式図とそのダイオードのV−I特性測定回路図である。
【図6】図5のダイオードの作製工程を示す断面模式図である。
【図7】本発明の比較例で作製したダイオードの特性を示す図である。
【図8】本発明の実施例で作製したダイオードの特性を示す図である。
【図9】従来の電子衝撃加熱装置の構成を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1に本発明の電子衝撃加熱装置の好ましい一実施形態の構成を概略的に示す。図中、(a)は垂直方向断面概略図、(b)は水平方向断面概略図であり、(b)は(a)のA−A’に、(a)は(b)のB−B’に相当する。以下、本発明の実施形態を例に本発明を詳細に説明する。
【0011】
本発明の電子衝撃加熱装置は、基本的に、アニール処理を施す基板1を載置する天板(加熱プレート)2aを備えたヒーター容器2と、該ヒーター容器内に配置されたフィラメント4及び反射板3とを備えている。さらに、フィラメント4を加熱する加熱電源11と、フィラメント4とヒーター容器2との間に加速電圧を印加する加速電源12を備えている。
【0012】
加熱プレートとして天板2aと側壁2bとを備えたヒーター容器2の下端部は、冷却されたベースフランジ7との間でシール材としてOリング10により、気密にシールされている。ベースフランジ7には、排気管8が設けられており、不図示の真空ポンプ9により、ヒーター容器6内部の空間は真空にされる。ヒーター容器2は、少なくとも導電材からなる。即ち、ヒーター容器2全体を導電材で形成するか、或いは内側表面を導電材で被覆した容器とする。具体的には、耐熱性を有する熱分解カーボン、熱分解カーボンコーティングを行ったカーボン、或いは、シリコン含浸シリコンカーバイトやアルミナ、窒化ケイ素等のセラミック等の表面をメタライズして導電層を形成する。そして、導電材からなる容器或いは内側表面に形成した導電層をベースフランジ7を介して接地する。尚、図1のベースフランジ7より上部の構成全体が不図示の真空容器内に収納されている。
【0013】
ヒーター容器2内部にはフィラメント4が設置されている。フィラメント4は、天板2aの中心を通る中心軸Cを中心軸とする螺旋状或いはシングルループで、天板2aの下方近傍に配置される。図1のフィラメントは、2周半の螺旋状である。以下、螺旋状のフィラメントを例に説明するが、シングルループにおいても同様である。フィラメント4には、熱電子を発生させるための加熱電源11が接続されている。さらに、フィラメント4とヒーター容器2との間で、ヒーター容器2を介して加速電源12により、フィラメント4に発生した熱電子を引き出すための加速電圧が印加される。天板2aを含めてヒーター容器2はベースフランジ7を介し接地されており、フィラメント4に対しては、正電位に保持されている。これによりフィラメント4より発生された熱電子は、加速電圧により加速され、天板2aに衝突して天板2aを加熱する。
【0014】
尚、上記例では、天板2aである加熱プレートに基板1を載置する例について説明したが、本発明においては、基板1を加熱プレートに対向配置する電子衝撃加熱装置に適用することもできる。
【0015】
本発明においては、フィラメント4の螺旋で囲まれた領域内に、少なくともその一部が位置するように、特定の形状の反射板3が設置されている。本発明において、反射板3は、フィラメント4の天板2aから離れた側に位置する該天板2aに平行な面内において、天板2aの中心軸を中心とする円周と、該中心軸を中心とし、前記円周より天板2a側に位置する円周とを含む。図1の例においては、反射板3は、フィラメント4の下方に位置し天板2aに平行な面内において、上記天板2aの中心軸を中心とする円周を含むリング板3bを有する。また、フィラメント4の螺旋で囲まれた領域内に位置し、前記円周の直径より小さい直径を有する円周とを含む円板3aとを含む形状を有する。前記円板3aの円周は、フィラメント4の天板2aに最も近い位置Dから上下方向において該位置と天板2aの下面との距離tの70%以内(以下「範囲d」という)にあることが好ましい。また、円板3aの円周は、該範囲dの範囲内であって天板に平行な面を「面d」としたとき、面d内において、天板2aの中心を通る法線Cを中心軸とするフィラメント4の螺旋が形成する直径の10%以上90%以下の直径の円周を有することが好ましい。
【0016】
図1の構成においては、反射板3が、天板2aと平行な円板3aと、該円板3aの外径と一致する内径を有し、外径がフィラメント4の直径Rより大きなリング板3bと、上記円板3aの外周とリング板3bの内周とを連結する円筒板3cとからなる。そして、円板3aは中心軸Cを中心とする円形で、直径はフィラメント4の螺旋の直径Rの10%以上90%以下であり、リング板3bはフィラメント4の下方に位置している。円板3aは範囲d内に位置し、天板2aに平行な平板であり、よって、面d内において中心軸Cを中心とするフィラメントの螺旋の直径の10%以上90%以下の直径の円周は円板3a内に含まれる。また、フィラメント4の下方に位置する円周はリング板3b内に含まれる。
【0017】
本発明において、反射板3の形状を上記した特定の形状とする理由は、フィラメント4から発生した熱電子を、天板2aの中心軸Cから離れた外周側に優先的に衝突させるためである。図9は、従来の電子衝撃加熱装置の構成を示す断面模式図であり、図中の符号は図1と同じである。図9に示すように、従来の反射板91は天板2aに平行な平板であり、フィラメント4の螺旋内には反射板3は位置していない。このような構成で、ヒーター容器2を接地し、フィラメント4及び反射板3をヒーター容器2に対して負電位になるように電圧を印加すると、フィラメント4から発生した熱電子は天板2aに向かって加速される。しかしながら、フィラメント4と反射板91によって形成された電界によって、熱電子は天板2aの中心軸Cに近い位置に集まり易い。また、天板2aの外周には角があり、天板2aに入った熱は表面積の多い角から逃げ易いため、天板2aの外周部の温度が下がり易い。その上、ヒーター容器2の側壁2bは、冷却されたベースフランジ7と接続されているため、天板2aの外周部の熱は側壁2bを介してベースフランジ7に逃げ易い。このように、天板2aの中心部は外周部よりも優先的に加熱される上、外周部は中心部より熱が逃げやすい構造となっている。その結果、従来は天板2aの中心部の温度が外周部と比較して高くなる温度分布が生じていた。
【0018】
本発明においては、反射板3が、天板2aに近い前記面d内において、中心軸Cを中心とするフィラメントの螺旋の直径の10%以上90%以下の直径の円周を含む形状を有していることが好ましい。ここで、ヒーター容器2を接地し、フィラメント4及び反射板3をヒーター容器2に対して負電位になるように電圧を印加すると、フィラメント4より飛び出した熱電子は、相対的に電位が高い天板2aに向かう電界の中で加速され、天板2aに衝突して発熱する。この時、反射板3の円板3aの存在により、フィラメント4から発生した熱電子が天板2aの中心に近づくのが阻止され、熱電子は天板2aの外周部分に向かって優先的に衝突する。その結果、天板2aは中心よりも外周部分が優先的に加熱されることになるが、中心に近づくほど直径は小さくなるのであるから、加熱された外周部分によって中心側も容易に加熱され、結果的に全体として温度差の小さい、均一な加熱が実現する。
【0019】
本発明において、面d内において、反射板3が含む円周の直径がフィラメント4の螺旋の直径Rの10%以上の場合には、熱電子が中心に偏るのを阻止する効果が足りなくなる場合があり、好ましくない。また、90%を超えると、天板2aの外周部分に衝突する熱電子の偏りが多すぎて、逆に中心部分の加熱が不十分になる恐れがあり、好ましくない。また、中心軸Cを中心とするフィラメントの螺旋の直径の10%以上90%以下の直径の円周が、範囲dよりも天板2a側に位置した場合には、天板2aの中心に近い位置に衝突する熱電子が少なくなり過ぎる場合があり、好ましくない。同様に、該範囲dよりも天板2a側に反射板3の一部が位置した場合にも好ましくない。設計上は、範囲dをなるべく狭く設定することが好ましく、望ましくは位置Dとする。
【0020】
さらに、本発明に係る反射板3は、フィラメント4の下方に位置する円周を含む形状を有しているが、これは、フィラメント4から発生する熱電子を天板2a方向に向けることと、天板2aへの熱輻射効果を得るためである。天板2aへの熱輻射効果を得る上では、図1に示したように、さらなる反射板5a、5bを備えることが好ましい。
【0021】
本発明に係る反射板3、さらなる反射板5a、5bは、好ましくはカーボン、モリブテン、タンタル、タングステンなどの高融点金属で構成されている。特に、反射板3は、反射率の高い金属を用いたり、鏡面仕上げを施すことなどにより反射率が高くなるように構成される。また、反射板3は、ヒーター容器2とは電気的に絶縁され、フィラメント4と同電位に設定される。
【0022】
図2,図3に、本発明に係る反射板3の他の形状例を示す。図2(a)は、本発明に係る反射板3が、天板2aと平行な2枚の円板21a、21bとからなり、天板側の上部円板21aが、下部に位置する他方の円板21bよりも直径が大である。上部円板21aは、中心軸Cを中心とする円形で、その円の直径がフィラメント4の直径Rの10%以上90%以下であり、範囲d内に位置している。また、円板21bは中心軸Cを中心とする円形で、直径がフィラメント4の直径Rよりも大で、フィラメント4の下方に位置している。円板21aと21bとは部材21cで連結されているが、部材21cは導電材であっても、導電材の表面を絶縁体で被覆したものであっても良い。
【0023】
図2(b)は、反射板3が、天板2aと平行で外周部がフィラメント4の下方に位置する円板22bと、外径がフィラメント4の直径の10%以上90%以下で、一方の端が天板2a側に位置し、他端が上記円板22bに接する円筒板22aとからなる。円筒板22aの上端は範囲d内にある。天板2aは中心軸Cを中心とし、円筒板22aも円筒の中心軸はCである。
【0024】
図3(a)は、反射板3が、天板2aと平行な円板31aと、フィラメント4の下方に位置し、内径が上部円板31aの外径より大きく、外径がフィラメント4の直径よりも大きく、天板2aと平行なリング板31bとを有している。さらに、円板31aの外周とリング板31bの内周とを側面板31cが円錐台の側面状に連結している。円板31a及びリング板31bの中心は中心軸Cであり、円板31aは直径がフィラメント4の直径の10%以上90%以下で、範囲d内に位置している。
【0025】
図3(b)は、反射板3が、天板2aと平行な円板32aと、フィラメント4の下方に位置し、内径が上記円板32aの外径より大きいリング板32bとを有している。さらに、下端がリング板32bの内周に接し、上記中心軸方向の長さが、円板32aとリング板32bとの距離よりも短い円筒板32cと、円筒板32cの上端から円板32aの外周とを側面板32dが円錐台の側面状に連結している。円板32a及びリング板32bの中心は中心軸Cであり、円板32aは直径がフィラメント4の直径の10%以上90%以下で、範囲d内に位置している。
【実施例】
【0026】
電子衝撃装置での熱電子分布のシミュレーションを、図1の電子衝撃加熱装置を用い、反射板3の形態を変更して行った。シミュレーションのパラメータとして、ヒーター部品の条件を、以下の(1)〜(5)とした。
(1)天板2a及び側壁2b、反射板3の材質はカーボンとし、厚さは1mm、輻射率は0.4、熱伝導率は40W/K/mとした。
(2)フィラメント4及び反射板3の電位は、それぞれ−2.2kV、エミッションは1Aとした。
(3)天板2a及び側壁2bの電位は、0Vとした。
(4)フィラメント4は、天板2aの中心軸Cを中心軸として、直径Rがφ95mmで高さ30mmの2周半に巻いた螺旋状とし、材質はタングステン、線径はφ0.8mmとした。
(5)フィラメント4と天板2aとの距離tは10mmとした。
【0027】
(比較例1)
比較対象として、図1の反射板3を、図9に示すように平板の反射板91として、熱電子分布のシミュレーションを行った。カーボン製の天板2aの中心からの距離をrとして、中心(r=0mm)から、中心から外周に向かって38mm(r=38mm)の範囲で温度のシミュレーションを行い、結果を表1にまとめた。表1より、r=0mm乃至r=38mmまでの範囲内において、最高温度Tmaxと最低温度Tminの差である最大温度差Tmax−Tminは、133℃であることが分かった。
【0028】
(実施例1)
カーボン製反射板3の形状が、図1の反射板3であり、円板3aの直径がφ40mm、円筒板3cの高さが45mm、リング板3bの外径をφ100mmとした。円板3aは上面が位置Dに位置している。カーボン製の天板2aの中心から、中心より外周部38mm(r=0mm乃至r=38mm)の範囲で温度分布のシミュレーションを行った。結果を表1に示す。表1より、r=0乃至38mm範囲での面内の温度差Tmax−Tminは、比較例1が133℃であるのに対し、本例では45℃となり、面内の温度差の改善が見られた。
【0029】
(実施例2)
カーボン製反射板3の形状を、図2(a)とした以外は実施例1と同様にしてシミュレーションを行った。上部円板21aの直径をφ40mm、下部円板21bの外径をφ100mm、上部天板21aの上面から下部円板21bの上面までの距離を45mmとした。上部円板21aは上面が位置Dに位置している。結果を表1に示す。表1より、r=0乃至38mm範囲での面内の温度差Tmax−Tminは42℃となり、面内の温度差の改善が見られた。
【0030】
(実施例3)
カーボン製反射板3の形状を、図2(b)とした以外は実施例1と同様にしてシミュレーションを行った。下部円板22bの外径をφ100mm、円筒板22aの外径を40mmで高さを45mmとした。円筒板22aの上端が位置Dに位置している。結果を表1に示す。表1より、r=0乃至38mm範囲での面内の温度差Tmax−Tminは45℃となり、面内の温度差の改善が見られた。
【0031】
(実施例4)
カーボン製反射板3の形状を、図3(a)とした以外は実施例1と同様にしてシミュレーションを行った。円板31aの直径をφ10mm、リング板31bの内径を40mmで外径をφ100mm、側面板31cの高さ(円板31a上面からリング板31bの上面までの距離)を45mmとした。円板31aの上面が位置Dに位置している。結果を表1に示す。表1より、r=0乃至38mm範囲での面内の温度差Tmax−Tminは87℃となり、面内の温度差の改善が見られた。
【0032】
(実施例5)
カーボン製反射板3の形状を、図3(b)とした以外は実施例1と同様にしてシミュレーションを行った。円板32aの直径をφ20mm、リング板32bの内径を40mmで外径をφ100mm、円筒板32cの高さを35mm、側面端32dの高さ(円板32a上面から円筒板32cの上端までの距離)を10mmとした。円板32aの上面が位置Dに位置している。結果を表1に示す。表1より、r=0乃至38mm範囲での面内の温度差Tmax−Tminは28℃となり、面内の温度差の改善が見られた。
【0033】
【表1】

【0034】
上記の実施例1乃至5及び比較例1のシミュレーション結果より、反射板3の形状の違いによる温度分布比較を行った。φ3インチ基板を想定した場合、r=0乃至38mm範囲での面内の温度差Tmax−Tminは、従来の平板形状の場合が133℃である。これに対し、実施例1は45℃、実施例2は42℃、実施例3は45℃、実施例4は87℃、実施例5は28℃となり、いずれにおいても大幅に改善できた。
【0035】
(比較例2,実施例6)
比較例1,実施例1乃至実施例5のシミュレーションの信頼性を確認するため、実際に比較例1,実施例1の電子衝撃加熱装置を構成し(比較例2,実施例6)、同様の条件で天板2aの上面の温度を測定した。結果を表2及び図4に示す。図4(a)は実施例6,(b)は比較例2における天板2aの上面内の各位置における温度をそれぞれ示す。表1と表2,図4との比較から明らかなように、比較例1及び実施例1乃至実施例5のシミュレーションは実際の天板2aの温度分布のシミュレーションを良好に反映していることがわかった。
【0036】
【表2】

【0037】
(比較例3,実施例7)
天板2aの面内のデバイス性能を検証するため、比較例1及び実施例1の電子衝撃加熱装置を用い、φ3インチSiC基板を用いて実際にアニール処理を行った(比較例3,実施例7)。同一基板のうち、天板2aの中心箇所(r=0mm)でアニールした基板と、中心から外周部へ30mm離れた箇所(r=30mm)でアニールした基板にて、それぞれ図5(a)に示す断面構造を有するPN接合ダイオードを作製した。図中、51はオーミックコンタクト層、52はn型4H−SiC(0001)基板、53はn型エピタキシャル層、54はAl注入層、55はTi/Alからなるオーミックコンタクト層である。図6にその製造工程を示す。
【0038】
先ず、図6(a)に示すように半導体基板である高濃度n型4H−SiC(0001)基板52を用意し、基板52の上に、CVD法を用いて、ドナー濃度が1×1016/cm3、厚さが5μmのn型エピキシャル層53を堆積させた。
【0039】
次に、図6(b)に示すように、n型エピキシャル層53の表面付近に30乃至170keVのエネルギーレンジにて、多段でAlイオン注入を行った。これにより、n型エピキシャル層53の表面に、イオン密度が3×1020/cm3、深さ350nmのp型Al注入層54を作製した。尚、Alイオン注入は、基板を500℃に加熱しながら行った。
【0040】
次に、図6(c)に示すように、電子衝撃加熱装置(EBAS装置)にて、1×10-3Pa以下の真空中にて、1900℃で1分間、Alイオン注入された基板のアニール処理を行った。
【0041】
次に、図6(d)に示すように、O2ガス中で、基板52を1150℃で90分間熱酸化し、Al注入層54の表面に深さ10nmの犠牲酸化膜61を作製した。
【0042】
次に、図6(e)が示すように、基板表面をフッ酸で洗浄し、Al注入層54の表面にある犠牲酸化膜61を除去した。
【0043】
次に、図6(f)に示すように、Al注入層54の表面に、パターン62を形成し、RIE装置により、CF4+Arガスでドライエッチングを行い、n型エピキシャル層53及びp型Al注入層54を、1μmの深さでエッチングし、メサを形成した。
【0044】
次に、パターン62を取り除いた後、図6(g)に示すように、Ti層20nm、Al層100nmの積層膜をリフトオフ法で形成した後、Arガス中で900℃で3分間アニールし、オーミックコンタクト55をp型Al注入層54に形成した。また、n型SiC基板52のオーミックコンタクト51は、高濃度n型4H−SiC(0001)基板52の裏面に150nmのAl層を堆積させて作製した。
【0045】
天板2aの中心(r=0mm)箇所及び中心から外周部へ30mm離れた箇所(r=30mm)でアニールした基板にて作製した、PN接合ダイオードを、図5(b)のV−I特性測定回路図のように接続した。図中、56は電流計、57は電圧計、58は抵抗、59は可変電源、60はダイオードである。それぞれのダイオードについて、順方向のV−I特性を計測し、その結果を、図7,図8に示す。図7(a)は比較例3でr=0mmの位置でアニール処理した基板で作製したダイオードの特性、図7(b)は比較例3でr=30mmの位置でアニール処理した基板で作製したダイオードの特性を示す。また、図8(a)は実施例7でr=0mmの位置でアニール処理した基板で作製したダイオードの特性、図8(b)は実施例7でr=30mmの位置でアニール処理した基板で作製したダイオードの特性を示す。
【0046】
図8に示すように、本発明の電子衝撃加熱装置でアニール処理を行った基板を用いて作製したダイオードは、アニール処理の際の位置が天板2aの中心(r=0mm)でも、外周部へ30mm離れた箇所(r=30mm)でも変わらず、いずれも正常であった。一方、図7に示すように、比較例3では、アニール処理の際の位置が天板2aの中心(r=0mm)であった場合には、正常なダイオード特性を示した。しかしながら、比較例3では、アニール処理の位置が天板2aの外周部へ30mm離れた箇所(r=30mm)の場合には、ダイオード特性が、順方向バイアス領域でリーク電流が生じる、即ち不良の特性を示した。
【0047】
上記の結果より、本発明の電子衝撃加熱装置を用いてアニール処理を行った場合には、天板2aの位置に関わらず、良好な特性のダイオードが得られることがわかった。よって、本発明によれば、半導体デバイスの製造において、アニール処理における基板面内の温度均一性が向上し、基板の活性化率の均一性が改善され、デバイスの歩留りが向上し、コストダウンが見込まれる。
【符号の説明】
【0048】
1:基板、2:ヒーター容器、2a:天板(加熱プレート)、3:反射板、4:フィラメント、11:加熱電源、12:加速電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板を加熱する加熱プレートを備え、少なくとも導電材からなるヒーター容器と、該ヒーター容器内に配置されたフィラメント及び反射板と、フィラメントとヒーター容器との間に加速電圧を印加する加速電源と、を備えた電子衝撃加熱装置であって、
上記フィラメントが、上記加熱プレートの中心を通る法線を中心軸とするシングルループ或いは螺旋状に配置され、
上記反射板が、上記フィラメントの上記加熱プレートから離れた側に位置する前記加熱プレートに平行な面内において、上記加熱プレートの中心軸を中心とする円周と、上記中心軸を中心とし、前記円周より前記加熱プレートの側に位置する円周とを含む形状を有することを特徴とする電子衝撃加熱装置。
【請求項2】
前記加熱プレート側に位置する反射板の円周の直径が、前記フィラメントのループ或いは螺旋が形成する円周の直径の10%以上90%以下であることを特徴とする請求項1に記載の電子衝撃加熱装置。
【請求項3】
上記反射板が、上記加熱プレートと平行で直径がフィラメントのループ或いは螺旋の円周の直径の10%以上90%以下の円板と、フィラメントの加熱プレートと離れた側に位置し、内径が加熱プレートに近い側の円板の外径に一致し、外径がフィラメントの円周の直径より大きく、加熱プレートと平行なリング板と、円板の外周とリング板の内周とを連結する円筒板とからなる請求項1に記載の電子衝撃加熱装置。
【請求項4】
上記反射板が、前記加熱プレートと平行な2枚の円板からなり、加熱プレート側に位置する円板の直径が、他方の円板の直径よりも直径が大きく、かつ、前記フィラメントのループ或いは螺旋が形成する円周の直径の10%以上90%以下であり、前記他方の円板の外周部がフィラメントよりも前記加熱プレートから離れた側に位置している請求項1に記載の電子衝撃加熱装置。
【請求項5】
上記反射板が、加熱プレートと平行で外周部がフィラメントの加熱プレートからは離れた側に位置する円板と、外径が前記フィラメント或いは螺旋が形成する円周の直径の10%以上90%以下で、一方の端が加熱プレート側に位置し、他端が上記円板に接する円筒板とからなる請求項1に記載の電子衝撃加熱装置。
【請求項6】
上記反射板が、加熱プレートと平行で直径がフィラメントのループ或いは螺旋が形成する円周の直径の10%以上90%以下の円板と、前記フィラメントの前記加熱プレートから離れた側に位置し、内径が前記円板の外径より大きく、加熱プレートと平行なリング板と、前記円板の外周と前記リング板の内周とを円錐台の側面状に連結する側面板とからなる請求項1に記載の電子衝撃加熱装置。
【請求項7】
上記反射板が、加熱プレートと平行で直径がフィラメントの直径の10%以上90%以下の円板と、フィラメントの前記加熱プレートから離れた側に位置し、内径が前記円板の外径より大きく、加熱プレートに平行なリング板と、一方の端が前記リング板の内周に接し、上記中心軸方向の長さが、円板とリング板との距離よりも短い円筒板と、前記円筒板の他端から円板の外周とを円錐台の側面状に連結する側面板とからなる請求項1に記載の電子衝撃加熱装置。
【請求項8】
前記フィラメントの内側に位置する反射板は、前記フィラメントの前記加熱プレートに最も近い位置から上下方向において該位置と加熱プレートとの間の距離の70%以内の距離に位置することを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の電子衝撃加熱装置。
【請求項9】
アニール処理工程を含む半導体デバイスの製造方法であって、該アニール処理工程を請求項1乃至8のいずれか1項に記載の電子衝撃加熱装置を用いて行うことを特徴とする半導体デバイスの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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