説明

電子装置の動作試験装置、動作試験方法、及び電子装置の製造方法

【課題】従来の冷却装置を用いずに電子装置等の被測定物を冷却しつつ電気的特性を測定可能な動作試験装置を提供する。
【解決手段】冷却液3を貯留させる容器10と、この容器10内の冷却液3を容器10外に流出させるとともに流出した冷却液3を容器10内に再流入させる冷却液排出管4、ポンプ30、熱交換管5、熱交換機20のラジエータ22、及び冷却液供給管6により構成される循環閉路管とを有する動作試験装置1である。容器10には、稼働時に発熱する電子装置2を、貯留させた冷却液3に浸漬させた状態で稼働させ、これにより稼働中の電子装置2の電気的特性の測定を可能にする収容領域が形成されている。循環閉路管の近傍には、当該循環閉路管を流れる不活性液体を冷却させる熱交換機20が介在する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばIC(Integrated Circuit)やLSI(Large Scale Integration)、あるいは、マザーボードのような半導体装置が搭載された電子装置において、電磁界分布等の電気的特性を測定するための動作試験装置、動作試験方法、および、このような電子装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子装置に内蔵される半導体装置の高集積化、高速化が顕著である。半導体装置が高集積化すると、稼働時に流れる電流が増大し、それにより発生する電磁波の影響が無視できないレベルとなる。そのために、電子装置、特に個々の半導体装置及びこれらを搭載する基板における電磁界の発生状況を正しく把握し、半導体装置や部品の配置を最適化して、周囲部品への電磁波の影響を極力抑制する必要がある。
【0003】
しかしながら、動作時の電流の増大により半導体装置の消費電力も大きくなり、それによる発熱量が増大する。発熱量の増大は、半導体装置の正常な動作にも影響を及ぼす。そのため、通常の動作時には、熱対策として、空冷式や水冷式等の冷却装置を半導体装置に取り付けて、熱の影響を緩和しているのが一般的である。
【0004】
冷却装置は、発熱量が増大するにつれて大きいものが必要になる。また、金属を含んで構成されることもある。そのため、正確な電磁気の発生状況を把握する上で、冷却装置の存在が支障をきたす場合がある。しかし、冷却装置を取り除いて電磁気の発生状況を測定しようとすると、半導体装置の動作状態を正しく反映することができなくなる。
他方、電磁気の発生状況の他にも、例えば半導体装置内の電流や電圧を直接測定可能であれば、半導体装置内の実際の動作時の電気的状態を知ることができるために、製品開発において非常に有用である。
このようなことから、発熱の影響を緩和した状態で半導体装置の動作時の電気的特性を測定することについての要求が高まっている。
【0005】
このような要求に対応して、特許文献1には、液体窒素や液化炭酸ガスを半導体装置に吹きかけることにより、冷却する技術が開示されている。また、特許文献2には、半導体装置を収容する試料ステージ自体を液体窒素で冷却して、該半導体装置の電気的特性を計測する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−277362号公報
【特許文献2】特開平7−29947号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1のように液体窒素や液化炭酸ガスを直接吹きかける技術では、電気的特性の測定中ずっと吹きかけ続ける必要があり、コスト面の問題で長時間の測定には向かない。また、半導体装置にプローブを近づけると、吹き付けられるガスにプローブが影響されて正確な測定が困難となる。
特許文献2のように試料ステージを液体窒素で冷却する場合にも、やはり測定が長時間になると大量の液体窒素が必要になり、コスト面で問題が生じる。
【0008】
本発明は、上記の問題に鑑み、稼働時の発熱が電気的特性の測定の阻害要因となる電子装置を、従来の冷却装置を用いずに冷却しつつ電気的特性の測定を容易にする動作試験装置を提供することを主たる課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以上の課題を解決する本発明の電子装置の製造方法は、稼働時の発熱が電気的特性の測定の阻害要因となる電子装置の製造方法であって、前記電子装置を、所定の容器内で流動する不活性液体に浸漬させた状態で稼働させ、稼働中の前記電子装置の電気的特性の測定を行う段階と、前記電気的特性の測定結果が所定条件を満たすときに、前記電子装置を前記不活性液体から取り出して、当該電子装置の所定部位にヒートシンクまたは電磁シールド部材を取り付ける段階と、を含む。
なお、前記不活性液体に触れる容器の所定部位に接地電極を設けて、前記不活性液体が流動する際に発生する静電気を前記接地電極を通じて容器外に放散させるようにしてもよい。
このような本発明では、電子装置を不活性液体に浸漬させた状態で稼働させるために、稼働時の発熱が電子装置の電気的特性の測定の阻害要因となることはない。
【0010】
本発明の電子装置の動作試験装置は、不活性液体を貯留させる容器と、この容器内の不活性液体を容器外に流出させるとともに流出した不活性液体を前記容器内に再流入させる循環閉路管とを有している。前記容器には、稼働時に発熱する電子装置を、貯留させた不活性液体に浸漬させた状態で稼働させ、これにより稼働中の前記電子装置の電気的特性の測定を可能にする収容領域が形成されており、前記循環閉路管の近傍には、当該循環閉路管を流れる不活性液体を冷却させる冷却手段が介在する。
【0011】
電子装置を容器内の不活性液体に浸漬させた状態で稼働させるために、従来のような冷却装置を用いずに電子装置の実稼働状態の電気的特性を測定することができる。不活性液体は、循環閉路管を介して冷却手段により冷却されるために、電子装置が異常に稼働する程度に加熱されることはない。
【0012】
また、前記不活性液体に触れる容器の所定部位に接地電極を設けることで、不活性液体の循環による静電気の発生を抑止することができる。前記不活性液体は、例えば誘電率が2[F/m]以下のものを用いることで、電子装置の正常な高速動作への影響を防止できる。
【0013】
本発明の電子装置の動作試験方法は、稼働時の発熱が電気的特性の測定の阻害要因となる電子装置の動作試験方法であって、前記電子装置を稼働可能に配線するとともに所定の容器内に収容する段階と、前記容器内に、収容した前記電子装置が浸漬するように不活性液体を流入させる段階と、前記不活性液体を流動させて前記電子装置を冷却しつつ稼働させ、稼働中の前記電子装置の電気的特性の測定を行う段階と、を含む。このような動作試験方法では、従来の冷却装置を用いず、電子装置を不活性液体で冷却しながら、稼働中の電気的特性が測定できる。
なお、前記不活性液体に触れる容器の所定部位に接地電極を設けて、前記不活性液体が流動する際に発生する静電気を前記接地電極を通じて容器外に放散させるようにしてもよい。
また、前記不活性液体を前記容器外に流出させるとともに流出した不活性液体を所定の冷却手段で冷却して前記容器内に再流入させることで、不活性液体を常に一定の温度にして、効率よく電子装置を冷却することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の動作試験装置では、電子装置を不活性液体に浸漬させた状態で該電子装置の電気的特性を測定するために、従来の冷却装置を用いずに、電子装置本体の電気的特性を正確に測定することが容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本実施形態の電子装置の動作試験装置の概観図である。
【図2】容器の詳細な構成を説明するためのA−A断面図である。
【図3】熱交換機の構成を説明するための図である。
【図4】電磁界分布の測定結果の例示図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照して説明する。
【0017】
図1は、本実施形態の動作試験装置の概観図である。
動作試験装置1は、稼働時の発熱が電気的特性の測定の阻害要因となる電子装置2が収容される容器10、容器10内に入れられた冷却液3を冷やすための熱交換機20、容器10と熱交換機20との間で冷却液3を循環させるためのポンプ30、及び電子装置2の動作試験を行うための試験機40を備えている。
容器10とポンプ30との間には冷却液排出管4が配管され、ポンプ30と熱交換機5との間には熱交換管5が配管され、熱交換機20と容器10との間には冷却液注入管6が配管される。
電子装置2は、単体の半導体装置、あるいは、1以上の半導体装置を搭載した基板である。冷却液3は、非導電性のものであり、好ましくは誘電率が2[F/m]以下の不活性液体である。誘電率が高くなると、電子装置2内を伝送される高速信号の波形が鈍り、正常な高速動作に支障をきたすためである。冷却液3には、例えばフッ素系不活性液体、フロリナート、純水、ベンゼン、シリコンオイル、ミネラルオイル等を用いることができる。
【0018】
図2は、容器10の詳細な構成を説明するためのA−A断面図である。
容器10には、動作試験時に電子装置2が浸漬される量だけ冷却液3が貯留される。容器10内には、電子装置2を収容するための収容台11が、収容面が容器10の底面12から所定の高さになるように設けられる。容器10内の冷却液3に触れる部位に接地電極13が設けられる。図2の例では、接地電極13が収容台11下の容器10の底面12に設けられる。接地電極13には容器10外部に延びる導線14が接続されており、この導線14を介して容器10の外部で接地される。
【0019】
収容台11を設けて動作試験時にこの上に電子装置2を収容することで、電子装置2は、すべての方向から冷却液3により冷却される。収容台11が無い場合には、電子装置2が底面12に直に置かれることになるが、これでは電子装置2の底側からの冷却が十分に行えず、収容台11に収容する場合よりも冷却効率が悪い。収容台11上の電子装置2の近傍に、温度センサ15が設けられる。温度センサ15により、電子装置2近傍の温度を測定することができる。
【0020】
なお、収容台11に電子装置2の各入力端子に対応して電極を設けて、収容台11上の所定の位置に電子装置2を収容することで、電子装置2の稼働に必要な電源、信号の印加を可能にしてもよい。収容台11に設けられる電極は、容器10外部に用意される電源装置、信号発生装置等の電子装置の稼働に必要な各種装置に接続される。このような構成では、収容台11の所定の位置に搭載するだけで電子装置2が稼働できるために、動作試験を効率よく行えるようになる。複数の異なる電子装置に対して動作試験を行う場合には、それぞれの電子装置2に対応した収容台11を用意する必要がある。
【0021】
容器10には、熱交換機20から冷却液3が注入される注入口16と、ポンプ30により冷却液3が排出される排出口17とが設けられている。注入口16には冷却液注入管6が接続される。排出口17には冷却液排出管4が接続される。
【0022】
図3は、熱交換機20の構成を説明するための図である。
熱交換機20には、液槽21内にラジエータ22を有している。液槽21には、ラジエータ22が浸漬される量だけ2次冷却液23が貯留される。ラジエータ22には、熱交換管5が接続される注入口24と、冷却液注入管6が接続される排出口25とが設けられる。
ラジエータ22には、ポンプ30により注入口24から冷却液3が注入される。また、冷却液3が排出口25から容器10に排出される。
【0023】
熱交換機20では、ポンプ30から注入される冷却液3が、ラジエータ22において2次冷却液23と熱交換することで冷却される。そのために、2次冷却液23は、冷却液3よりも常に温度を低く設定してある。
【0024】
<運用形態>
動作試験の開始時には、容器10の収容台11に収容された電子装置2に動作試験に必要な配線を行い、冷却液3を電子装置2が浸漬される量だけ溜める。冷却液3は、容器10の上部から直接供給されてもよいが、例えば冷却液注入管6を冷却液3の供給装置(図示しない)に接続し、この供給装置から注入口16を介して供給されてもよい。
【0025】
動作試験が開始されると、冷却液3は、ポンプ30により容器10の排出口17から排出されて、熱交換機20に送られる。熱交換機20で冷却された冷却液3は、熱交換機20から容器10の注入口16を介して容器10に注入される。
このように、冷却液3は、冷却液排出管4、ポンプ30、熱交換管5、熱交換機20のラジエータ22、及び冷却液供給管6により構成される循環閉路管を循環することで、冷却されて容器10に戻される。
電子装置2は、従来の冷却装置を用いずに、容器10内で冷却液3により冷却されつつ稼働中の電気的特性が測定される。
【0026】
なお、電子装置2により加熱された冷却液3と2次冷却液23との温度差が大きい場合には、ポンプ30を用いなくとも、冷却液3が対流して循環閉路管内を循環することが考えられるが、冷却効率を考慮すると、ポンプ30で強制的に循環させる方が電子装置2の冷却に、より効果がある。
【0027】
冷却液3は、循環閉路管を循環する以外にも、容器10内で対流する。非導電性である冷却液3には、循環及び対流により静電気が発生することがある。発生した静電気は、電子装置2を破壊する可能性がある。接地電極13は、このような静電気を排除することで、静電気による電子装置2への影響を低減する。
【0028】
<具体例>
試験機40が電子装置2の表面の電磁界分布を測定する装置である場合、上記の動作試験装置1により、発熱量が大きい電子装置2であっても、冷却液3で冷却しながら、通常稼働時の電磁界分布が測定される。電磁界分布が測定されると、電子装置2の他の電子機器に影響を与える恐れがある部分に対策を施すことができる。
【0029】
図4は、電子装置として複数の半導体装置が搭載されたプリント基板50を用いた場合の電磁界分布の測定結果の例示図である。このプリント基板50には、半導体装置としてCPU(Central Processing Unit)51、GPU(Graphic Processing Unit)52、2個のRAM(Random Access Memory)53、54、及びVRAM(Video Random Access Memory)55が搭載される。各半導体装置は、配線l1〜l4により接続されている。また、プリント基板50には、半導体装置の他に、ノイズ対策等のためにコンデンサ等の部品p1〜p3が直接配置されている。
【0030】
このようなプリント基板50を容器10の収容台11に収容し、冷却液3に浸漬させる。この状態で各半導体装置に電源電圧を印加し、入力信号を実動作時と同様に入力することでプリント基板50を稼働させる。稼働状態で、試験機40により電磁界分布の測定を行う。このとき、電磁界が最も強く発生するような入力信号のパタンを与えて、電磁界分布の変化を観測することも有用である。
【0031】
近年の半導体装置では、設計時から電磁界分布をある程度考慮しており、またパッケージ技術が向上しているために、それ自体により発生する電磁界は、プリント基板50上に直接配置される部品p1〜p3や配線l1〜l4のそれに比べて弱い。そのために、図4に示すように、部品p1〜p3や配線l1〜l4により発生する電磁界が強く検出される。
【0032】
動作試験を終えると、プリント基板50は、容器10から取り出される。測定結果が所定の条件を満たす場合に電子装置2は、乾燥されて所定部位にヒートシンクが取り付けられ、測定した電磁界分布に応じて電磁シールド部材等が取り付けらる。このような動作試験後の電子装置2は、製品として出荷可能なものとなる。
【0033】
また、本実施形態の動作試験装置1では、電子装置2上にヒートシンク等を設けないために、稼働中の電子装置2の各部の動作を測定できる。例えば、電子装置2が複数の半導体装置を接続して構成される場合には、各半導体装置の入出力信号を容易にモニタできる。図4に示すプリント基板50では、配線l1〜l4により伝送される信号を容易にモニタできる。
電子装置2が半導体装置である場合には、半導体装置内に形成された配線により伝送される信号をモニタできる。このようにして動作試験を行い、試験結果を電子装置2の製造にフィードバックしてもよい。
【符号の説明】
【0034】
1…動作試験装置、2…電子装置、3…冷却液、4…冷却液排出管、5…熱交換管、6…冷却液注入管、10…容器、11…収容台、12…底面、13…接地電極、14…導線、15…温度センサ、16…注入口、17…排出口、20…熱交換機、12…液槽、22…ラジエータ、23…2次冷却液、24…注入口、25…排出口、30…ポンプ、40…試験機、50…プリント基板、51…CPU、52…GPU、53,54…RAM、55…VRAM、l1〜l4…配線、p1〜p3…部品

【特許請求の範囲】
【請求項1】
稼働時の発熱が電気的特性の測定の阻害要因となる電子装置の製造方法であって、
前記電子装置を、所定の容器内で流動する不活性液体に浸漬させた状態で稼働させ、稼働中の前記電子装置の電気的特性の測定を行う段階と、
前記電気的特性の測定結果が所定条件を満たすときに、前記電子装置を前記不活性液体から取り出して、当該電子装置の所定部位にヒートシンクまたは電磁シールド部材を取り付ける段階と、を含む、
電子装置の製造方法。
【請求項2】
前記不活性液体に触れる容器の所定部位に接地電極を設け、前記不活性液体が流動する際に発生する静電気を前記接地電極を通じて容器外に放散させる、
請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
不活性液体を貯留させる容器と、この容器内の不活性液体を容器外に流出させるとともに流出した不活性液体を前記容器内に再流入させる循環閉路管とを有し、
前記容器には、稼働時に発熱する電子装置を、貯留させた不活性液体に浸漬させた状態で稼働させ、これにより稼働中の前記電子装置の電気的特性の測定を可能にする収容領域が形成されており、
前記循環閉路管の近傍には、当該循環閉路管を流れる不活性液体を冷却させる冷却手段が介在する、
電子装置の動作試験装置。
【請求項4】
前記不活性液体に触れる容器の所定部位に接地電極を設けてなる、
請求項3記載の動作試験装置。
【請求項5】
前記不活性液体は、誘電率が2[F/m]以下である、
請求項3または4記載の動作試験装置。
【請求項6】
稼働時の発熱が電気的特性の測定の阻害要因となる電子装置の動作試験方法であって、
前記電子装置を稼働可能に配線するとともに所定の容器内に収容する段階と、
前記容器内に、収容した前記電子装置が浸漬するように不活性液体を流入させる段階と、
前記不活性液体を流動させて前記電子装置を冷却しつつ稼働させ、稼働中の前記電子装置の電気的特性の測定を行う段階と、を含む、
電子装置の動作試験方法。
【請求項7】
前記不活性液体に触れる容器の所定部位に接地電極を設け、前記不活性液体が流動する際に発生する静電気を前記接地電極を通じて容器外に放散させる、
請求項6記載の動作試験方法。
【請求項8】
前記不活性液体を前記容器外に流出させるとともに流出した不活性液体を所定の冷却手段で冷却して前記容器内に再流入させる段階をさらに含む、
請求項6または7記載の動作試験方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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