説明

電子装置の製造方法

【課題】ワイヤボンディングが行われる基板上にストリップマスクを用いてはんだを配置する電子装置の製造方法において、ボンディングランドにPdメッキを施すことなく、ストリップマスクの残渣を適切に低減する。
【解決手段】マスク配置工程に用いるストリップマスク100に、マスクの硬化温度およびはんだリフロー温度にてボンディングランド12における下地金属12aよりも酸化しやすい還元部材110を添加しておく。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤボンディングが行われる基板上にストリップマスクを用いてはんだを配置する電子装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、この種の電子装置の製造方法は、次の通りである。まず、一面上に、電子部品がはんだ付けされるはんだ付け部、および、ワイヤボンディングされるボンディングランドを有する基板を用意する。ここで、ボンディングランドは下地金属の表面に金メッキを施してなるものである。
【0003】
そして、基板の一面上に、ボンディングランドを被覆して保護するストリップマスクを印刷などで塗布して配置し、これを加熱して硬化させる(マスク配置工程)。このストリップマスクは、通常、塩化ビニルを含む樹脂よりなる。
【0004】
次に、基板のはんだ付け部にはんだを配置する(はんだ配置工程)。その後、はんだを介して、はんだ付け部に電子部品を搭載して、はんだをリフローさせてはんだ接合を行う(リフロー工程)。
【0005】
続いて、ピンセットなどにより、ストリップマスクを基板の一面から剥離させる(マスク剥離工程)。その後、ボンディングランドに対してワイヤボンディングを行うことにより、電子装置ができあがる。
【0006】
しかしながら、この場合、ストリップマスクの剥離後に、ボンディングランドに、ストリップマスクが剥がれず残った部分、すなわち、マスク残渣が残るため、その後のワイヤボンディングにおいて、ワイヤボンディング性を低下させるなどの問題があった。
【0007】
ここで、従来では、ストリップマスクにメチルフェニルシリコーンを添加する事で数日間にわたり良好な剥離性を確保する方法が提案されている(特許文献1参照)。しかし、この方法では、マスク残渣が低減できるかどうかは不明である。
【0008】
また、従来では、ボンディングランドの下地金属の拡散を防ぐ方法として、下地金属であるCuの表面へ高純度のPdをメッキし、その上に金メッキを形成したものが提案されている(特許文献2参照)。
【特許文献1】特開平6−279711号公報
【特許文献2】特開2005−197442号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者は、上記ストリップマスクの残渣について検討した結果、当該マスク残渣が残る原因としては、ボンディングランド表面の金属とストリップマスク中の酸素とが反応し、ランドとマスクとの密着力が強くなることが原因であると考えた。
【0010】
ストリップマスク中の酸素は、通常時は結合しており、ボンディングランド表面の金属と反応することは無いと考えられる。しかし、はんだリフロー時の熱により、マスク内にて脱塩化水素反応を伴う分解が起こり、生じた酸素とボンディングランド表面の金属とが反応する可能性がある。
【0011】
本発明者の検討によれば、下地金属であるCuの表面に金メッキを施してなるAu/Cuで構成されたボンディングランドでも、マスク残渣は点状に発生した。また、この場合、ストリップマスクの硬化や、はんだリフローなど、製造工程中に加わる熱によって下地金属であるCuが金メッキ表面へ析出した部位に、当該マスク残渣が残りやすい傾向が見られた。
【0012】
つまり、Auメッキの表面にマスク残渣が残るのは、上記製造工程中の熱により、マスク中の酸素とランド表面である金メッキ表面に析出した下地金属とが反応し、互いの密着強度が強くなったためと考えられる。
【0013】
このようなメカニズムに対して、ストリップマスクの残渣を低減する方法としては、金メッキ表面への下地金属の析出を防ぐことが考えられる。上記特許文献2では、下地金属であるCuの表面へPdメッキを施し、その上に金メッキを形成することで、高純度のPdがCuの拡散バリアとなりCuの析出を抑制するようにしているが、PdはCuに比べて導電率が一桁ほど小さく配線抵抗が増加してしまうし、また、工程数の増加やコストアップなどの問題がある。
【0014】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、ワイヤボンディングが行われる基板上にストリップマスクを用いてはんだを配置する電子装置の製造方法において、ボンディングランドにPdメッキを施すことなく、ストリップマスクの残渣を適切に低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、一面上に、はんだ付け部(11)、および、下地金属(12a)の表面に金メッキ(12b)を施してなるボンディングランド(12)を有する基板(10)を用意し、基板(10)の一面上に、ストリップマスク(100)を配置し、当該マスクを加熱して硬化させ、次に、はんだ付け部(11)にはんだ(30)を配置し、その後、はんだ付け部(11)に電子部品(20)を搭載して、はんだ(30)をリフローさせてはんだ接合を行い、続いて、ストリップマスク(100)を基板(10)の一面から剥離させる電子装置の製造方法であって、マスク配置工程に用いるストリップマスク(100)に、マスクの硬化温度およびはんだリフロー温度にてボンディングランド(12)における下地金属(12a)よりも酸化しやすい部材(110)を添加しておくことを特徴とする。
【0016】
それによれば、ストリップマスク(100)に、当該マスクの硬化温度およびはんだリフロー温度にてボンディングランド(12)における下地金属(12a)よりも酸化しやすい部材(110)が添加されており、マスク(100)中の酸素は、マスク(100)内にて当該添加された部材と結合しやすくなるから、当該マスク中の酸素とランド(12)表面に析出した下地金属(12a)との結合が抑制される。そのため、ボンディングランド(12)にPdメッキを施すことなく、ストリップマスク(100)の残渣を適切に低減することができる。
【0017】
ここで、請求項2に記載の発明では、ストリップマスク(100)を構成する樹脂は、塩化ビニルを含む樹脂であることを特徴とする。
【0018】
また、請求項3に記載の発明では、下地金属(12a)よりも酸化しやすい部材(110)は、Ti、Mg、Si、Mn、W、Fe、AlおよびBaの中から選択されたものよりなることを特徴とする。
【0019】
なお、特許請求の範囲およびこの欄で記載した各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示す一例である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各図相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、説明の簡略化を図るべく、図中、同一符号を付してある。
【0021】
図1は、本発明の実施形態に係る電子装置の概略断面を示す図である。本実施形態の電子装置は、大きくは、一面上に、はんだ付け部11およびボンディングランド12を有する基板10と、基板10の一面に搭載されはんだ付け部11に、はんだ30を介して接合された電子部品20と、電子部品20とボンディングランド12とを結線するボンディングワイヤ40とを備えて、構成されている。
【0022】
まず、基板10としては、セラミック基板やプリント基板などの一般的な回路基板、配線基板などが挙げられる。はんだ付けランド11は、銅やアルミニウムなどの導体材料よりなる一般的な部品ランドである。
【0023】
また、ボンディングランド12は、基板10の一面(図1中の上面)側から下地金属12a、下地金属12aの表面に施された金メッキ12bが積層されたものである。つまり、ボンディングランド12の最表面は金メッキ12bである。
【0024】
このボンディングランド12における下地金属12aとしては、一般的なものと同様、CuやNiなどが挙げられる。また、金メッキ12bは一般的なメッキ方法によって形成されたものである。また、これらランド11、12は、それぞれ1個でもよいが、電子部品20の数やワイヤボンディングの本数に応じて複数個あってもよい。
【0025】
電子部品20は、この基板10の一面にはんだ30によって表面実装されるものであれば、何でもよいが、たとえば、電子部品20としては、ICチップ、フリップチップ、ダイオード、コンデンサ、抵抗などが挙げられる。
【0026】
ここで、はんだ30としては、一般的な共晶はんだ、鉛フリーはんだなどが挙げられ、印刷などにより配置される。また、ボンディングワイヤ40は、一般的なワイヤボンディング方法により形成されるものであり、金やアルミニウムなどよりなる。
【0027】
次に、本実施形態の電子装置の製造方法について、図2を参照して述べる。図2は、本製造方法を示す工程図であり、(a)〜(e)の順に実施される各工程におけるワークの断面構成を示している。
【0028】
まず、図2(a)に示されるように、はんだ付け部11、および、下地金属12aの表面に金メッキ12bを施してなるボンディングランド12を一面に有する基板10を用意する。このような基板10は、一般的な回路基板や配線基板の製造方法によって、製造される。
【0029】
次に、図2(b)に示されるように、基板10の一面上にて、ボンディングランド12の上に樹脂よりなるストリップマスク100を配置する(マスク配置工程)。このストリップマスク100は、ボンディングランド12を被覆して保護するものであり、後ではんだ30を配置するときに、ボンディングランド12に、はんだ30が付着するのを防止するものである。
【0030】
このストリップマスク100は、一般のものと同様、塩化ビニルを含む樹脂、すなわち、塩化ビニルまたは主成分が塩化ビニルである樹脂などよりなることが望ましい。このようなストリップマスク100は、溶剤に樹脂を溶解させた溶液を用いて、印刷やポッティングなどにより、ボンディングランド12上に塗布し、これを加熱して硬化することにより、配置する。
【0031】
次に、図2(c)に示されるように、はんだ付け部11に、はんだ30を配置する(はんだ配置工程)。このはんだ30は、一般のものと同様、はんだペーストを用いた印刷などにより配置する。
【0032】
その後、図2(d)に示されるように、はんだ30を介して、はんだ付け部11に電子部品20を搭載し、加熱によって、はんだ30をリフローさせてはんだ接合を行う(リフロー工程)。
【0033】
続いて、図2(e)に示されるように、ストリップマスク100を基板10の一面から剥離させる(マスク剥離工程)。この剥離は、ピンセットなどの治具を用いて機械的に剥がすことにより行う。
【0034】
こうして、ストリップマスク100を除去した後、ボンディングランド12と電子部品20との間でワイヤボンディングを行い、ボンディングワイヤ40を形成すれば、本実施形態の電子装置ができあがる。
【0035】
ここにおいて、本実施形態の製造方法では、マスク配置工程に用いるストリップマスク100に、独自の工夫を施している。これについて、図3も参照して述べる。図3は、マスク配置工程の詳細を示す拡大断面図である。
【0036】
図3に示されるように、本実施形態では、ボンディングランド12の下地金属12aよりも酸化しやすい部材110を、ストリップマスク100に添加しておく。この酸化しやすい部材110を、以下、還元部材110ということにする。そして、この還元部材110は、マスクの硬化温度領域およびはんだリフロー温度領域にて、当該下地金属12aよりも酸化しやすいものである。
【0037】
還元部材110としては、下地金属12aとして用いられるCuやNiよりも酸化物の形成エネルギーが小さいものが望ましく、具体的には、Ti、Mg、Si、Mn、W、Fe、Al、Baなどがある。このうち、Si、Ti、Mn、Al、Mg、BaはCuやNiよりも塩化物の形成エネルギーが小さく、半導体製品に悪影響を与えるClも同時に除去が可能と考えられる。
【0038】
このような還元部材110は、たとえば粉末状のものとして、塗布されるストリップマスク100の溶液に混合、分散される。そして、マスク配置工程では、図3(a)に示されるように、この還元部材110が分散された溶液としてのストリップマスク100を、ボンディングランド12上に塗布し、これを加熱して硬化させればよい。
【0039】
それにより、図3(b)に示されるように、還元部材110が分散・添加されたストリップマスク100が、ボンディングランド12の表面すなわち金メッキ12bの表面に形成され、当該表面とストリップマスク100とは密着する。
【0040】
本実施形態では、このマスク配置工程におけるマスク100の加熱・硬化、および、後のリフロー工程におけるはんだリフローによる熱で、金メッキ12bの表面に、下地金属12aが析出してくる。
【0041】
一方、ストリップマスク100においては、これらプロセス中の熱により、脱塩化水素反応が起こり、図3(b)に示されるように、酸素(O)が生じる。しかし、本実施形態では、マスク100の硬化温度や、はんだリフロー温度という高温領域において下地金属12aよりも酸化しやすい還元部材110が、ストリップマスク100の内部に存在している。
【0042】
そのため、図3(b)に示されるように、当該マスク100中の酸素(O)は、ボンディングランド12表面に析出した下地金属12aと結合するよりも先に、マスク100内にて還元部材110と結合する。そのため、当該マスク100中の酸素(O)とボンディングランド12表面に析出した下地金属12aとの結合が抑制される。
【0043】
その結果、本実施形態では、ボンディングランド12とストリップマスク100との密着力が必要以上に強固になることがなく、マスク剥離工程では、ストリップマスク100の剥離が容易になる。よって、本実施形態によれば、ボンディングランド12にPdメッキを施すことなく、ストリップマスク100の残渣を低減することができる。
【0044】
また、ストリップマスク100の剥離を行った後にボンディングランド12の表面に残るストリップマスク100の残渣の面積割合、すなわち残渣面積率が4%を超えると、ワイヤボンディングにおいて剥がれが多発する。そのため、還元部材110の添加量は、残渣面積率4%以下となる量とするのが望ましい。
【0045】
また、図4(a)、(b)は、ストリップマスク100内部における還元部材110の分布を示す概略断面図である。図4(a)に示されるように、還元部材110がマスクの厚さ方向および平面方向の全体に均一に分布することが、好ましい。
【0046】
さらに、図4(b)に示されるように、還元部材110がマスクの平面方向の全体に均一に分布しつつ、厚さ方向においては、ボンディングランド12側(図4(b)の下側)の方が、それとは反対側よりも多く分布していること、つまり還元部材110の濃度が大きくなっていることが、好ましい。
【0047】
この図4(b)に示されるような分布形態は、還元部材110が混合されたストリップマスク100の溶液をボンディングランド12上に塗布した後に、しばらく放置することで、重力によって還元部材110をボンディングランド12側に沈降させ、その後、マスク100の加熱・硬化を行えばよい。このとき、当該溶液の粘性を調整することで、還元部材110の沈降が容易に行えることは明らかである。
【0048】
このように、本実施形態によれば、ボンディングランドなど、電子装置側において、構成を変更することなく、ストリップマスク側を改良することにより、マスク残渣の低減が実現できるため、実質的にプロセスの工数を増加させることがなく、コストアップを抑制できるなどの利点がある。
【0049】
また、上述のように、ストリップマスク100とボンディングランド12との密着力が強くならないので、もし、マスク残渣が残っていても、その後の洗浄工程により容易にマスク残渣を除去することができる。
【0050】
(他の実施形態)
なお、基板としては、一面上に、電子部品がはんだ付けされるはんだ付け部、および、ワイヤボンディングされるボンディングランドを有するとともに、ボンディングランドは下地金属の表面に金メッキを施してなるものであればよく、上記実施形態に示した回路基板や配線基板に限定されるものではない。
【0051】
たとえば、基板としては、リードフレームなどでもよく、はんだ付け部は、リードフレームのアイランド部などでもよい。
【0052】
また、ボンディングランドに接続されるボンディングワイヤは、同一の基板上にて電子部品とランドとの間を結線するものでなくてもよく、たとえば、基板とその外部に位置する別の部材(たとえば別の基板やリードフレームなど)との間を結線するワイヤであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の実施形態に係る電子装置の概略断面図である。
【図2】上記実施形態の電子装置の製造方法を示す工程図である。
【図3】マスク配置工程の詳細を示す拡大断面図である。
【図4】ストリップマスク内部における還元部材の分布を示す概略断面図である。
【符号の説明】
【0054】
10 基板
11 はんだ付け部
12 ボンディングランド
12a 下地金属
12b 金メッキ
30 はんだ
100 ストリップマスク
110 還元部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一面上に、電子部品(20)がはんだ付けされるはんだ付け部(11)、および、ワイヤボンディングされるボンディングランド(12)を有するとともに、前記ボンディングランド(12)は下地金属(12a)の表面に金メッキ(12b)を施してなるものである基板(10)を用意し、
前記基板(10)の一面上に、前記ボンディングランド(12)を被覆して保護する樹脂よりなるストリップマスク(100)を配置し、当該マスクを加熱して硬化させるマスク配置工程と、
次に、前記はんだ付け部(11)にはんだ(30)を配置するはんだ配置工程と、
その後、前記はんだ(30)を介して、前記はんだ付け部(11)に前記電子部品(20)を搭載して、前記はんだ(30)をリフローさせてはんだ接合を行うリフロー工程と、
続いて、前記ストリップマスク(100)を前記基板(10)の一面から剥離させるマスク剥離工程と、を備え、
前記マスク配置工程に用いる前記ストリップマスク(100)に、前記マスクの硬化温度および前記はんだリフロー温度にて前記ボンディングランド(12)における前記下地金属(12a)よりも酸化しやすい部材(110)を添加しておくことを特徴とする電子装置の製造方法。
【請求項2】
前記ストリップマスク(100)を構成する樹脂は、塩化ビニルを含む樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の電子装置の製造方法。
【請求項3】
前記下地金属(12a)よりも酸化しやすい部材(110)は、Ti、Mg、Si、Mn、W、Fe、AlおよびBaの中から選択されたものよりなることを特徴とする請求項1または2に記載の電子装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−103232(P2010−103232A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−271953(P2008−271953)
【出願日】平成20年10月22日(2008.10.22)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】