説明

電子部品、電子部品の製造方法および電子体温計

【課題】非金属部品を覆うように金属部品が接合されている電子部品において、良好な作業性で、高温条件を必要とせず、短時間に組立てることができる電子部品およびその製造方法を提供する。
【解決手段】非金属部品11と、非金属部品11の表面上に設けられた被覆領域11bを覆う金属部品14とを備えている電子部品10であって、被覆領域11bと、金属部品14とが、光重合開始剤および有機過酸化物を含有する紫外線嫌気硬化型接着剤が硬化してなる接着剤層12を介して接着している電子部品10を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電子部品、電子部品の製造方法、および電子体温計に関するものであり、詳細には、金属部品と非金属部品とが接合されてなる電子部品、当該電子部品の製造方法および当該電子部品を備える電子体温計に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電気機器または電子機器の高機能化に伴い、使用される電子部品の構造が精巧になり、電子部品の組立において、高度な組立技術が要求されるようになっている。
【0003】
従来、電子部品の組立には、例えばネジ止めなどの機械的な接合方法、または接着剤などによる接合方法が用いられている。ただし、ネジ止めは、簡単に接合できる方法であるが、接合部から水が浸入しやすいため、防水性などが必要な(例えば、電子体温計が備える)電子部品の製造には適用できない。
【0004】
接着剤としては、紫外線硬化型接着剤、熱硬化型接着剤、常温湿気硬化型接着剤、嫌気硬化型接着剤など、多種類の接着剤がある(特許文献1〜6)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−98180号公報(2006年4月13日公開)
【特許文献2】特開平3−118432号公報(1991年5月21日公開)
【特許文献3】特公昭60−23794号公報(1985年6月10日公開)
【特許文献4】特公昭58−018960号公報(1983年4月15日公開)
【特許文献5】特開2007−26476号公報(2007年2月1日公開)
【特許文献6】特開平6−225495号公報(1994年8月12日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、非金属部品を覆うように金属部品が接合されている電子部品において、良好な作業性で、高温条件を必要とせず、短時間に組立てることができる技術はこれまで存在しない。そのため、例えば、ステンレスキャップ(金属部品)と、樹脂製の本体ケース(非金属部品)とを接合することによって中空部を形成し、当該中空部にセンサなどの機構部品を配置する電子体温計等を好適に製造することができない。
【0007】
すなわち、紫外線硬化型接着剤では、非金属部品を覆うように金属部品が接合されている場合に、非金属部品と金属部品とを接合することは困難である。
【0008】
また、特許文献1に記載のような熱硬化型接着剤では、硬化のために高温条件が必要であるため、非金属部品をいためる可能性がある。
【0009】
また、常温湿気硬化型接着剤は、空気中で短時間放置するだけで硬化するため、可使時間が非常に短く、作業性に劣る。
【0010】
また、特許文献2に記載のような、常温硬化型接着剤でステンレスキャップの空洞部を充填する方法では、硬化時間が非常にかかる。
【0011】
また、特許文献3〜6には、紫外線硬化性と、嫌気硬化性とを併せ持つ接着剤を用いて、金属部品同士を接着することが記載されているが、嫌気硬化型接着剤は、非金属部品上では硬化反応を起こさないことが知られている。
【0012】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、非金属部品を覆うように金属部品が接合されている電子部品において、良好な作業性で、高温条件を必要とせず、短時間に組立てることができる電子部品およびその製造方法を提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の課題を解決するために、本発明に係る電子部品は、非金属部品と、当該非金属部品の表面上に設けられた被覆領域を覆う金属部品とを備えている電子部品であって、上記被覆領域と、上記金属部品とが、光重合開始剤および有機過酸化物を含有する紫外線嫌気硬化型接着剤が硬化してなる接着剤層を介して接着していることを特徴としている。
【0014】
上記構成によれば、非金属部品と金属部品とは、紫外線嫌気硬化型接着剤を用いて接着されている。金属部品と非金属部品との隙間から照射した紫外線で発生するラジカルにより、紫外線が照射される入り口付近の接着剤を硬化させ、ラジカル重合反応の連鎖重合性によって光の直接当たらない部分(非金属部品と接する部分)の接着剤を硬化させる。また、紫外線が照射される入り口付近で発生したラジカルをトリガーとして、紫外線嫌気硬化型接着剤の金属部品付近における金属表面と有機過酸化物の反応を促進させ、金属表面と有機過酸化物の反応によって発生するラジカルにより紫外線嫌気硬化型接着剤の金属部品と接する部分を硬化させる。これにより、高温条件を必要とせず、短時間に、非金属部品と金属部品とを接着させることができる。また、後述するように、紫外線嫌気硬化型接着剤は、可使時間が長く、作業性が良好である。
【0015】
このように、上記構成によれば、良好な作業性で、高温条件を必要とせず、短時間に組立てることができる電子部品を提供することができる。
【0016】
本発明に係る電子部品では、上記接着剤層の厚さは、0μmを超え、400μm以下であることが好ましい。
【0017】
本発明に係る電子部品は、上記接着剤層の厚さが上記範囲内である場合、効率的に組立を行うことができる。
【0018】
本発明に係る電子部品では、上記非金属部品の表面において当該被覆領域と隣接する隣接領域との間に、当該隣接領域が上記被覆領域よりも隆起するように段が設けられていてもよく、上記非金属部品と、上記金属部品とが面一であることが好ましい。
【0019】
本発明に係る電子部品では、非金属部品の表面に上記のような段が設けられ、非金属部品と、金属部品との間の空隙が、L字型の断面を有する場合であっても、上述したように、嫌気硬化により、金属部品側の接着剤が硬化し、非金属部品と金属部品の隙間から照射された紫外線の反射光による紫外線硬化により、非金属部品側の接着剤が硬化するため、首尾よく、非金属部品と金属部品とを接着することができる。そして、上記の構成によれば、非金属部品と、金属部品とが面一となる電子部品を好適に提供することができる。
【0020】
本発明に係る電子部品では、上記金属部品は、鉄、銅、または、鉄および銅の少なくとも一方を含む合金から形成されたものであることが好ましい。
【0021】
上記の構成によれば、短い硬化時間で上記紫外線嫌気硬化型接着剤を硬化させることができるため、非金属部品と金属部品とをより短時間で接着することができる。
【0022】
本発明に係る電子部品では、上記非金属部品は、樹脂、セラミック、ガラス、およびゴムからなる群より選ばれる一つ以上の材料から形成されたものであることが好ましい。
【0023】
樹脂、セラミック、ガラス、およびゴムからなる群より選ばれる一つ以上の材料は、本発明に係る電子部品の非金属部品の材料として好適に用いることができる。
【0024】
本発明に係る電子部品は、上記金属部品および上記非金属部品によって囲まれた中空部と、上記中空部内に配置されたセンサと、をさらに備えていてもよい。上記センサは、温度を感知するセンサであってもよい。
【0025】
上記の構成によれば、例えば、電子体温計が備える電子部品として好適に用いることができる電子部品を提供することができる。
【0026】
また、本発明に係る電子部品を備えた電子体温計をはじめとする電気機器および電子機器もまた、本発明の範疇に含まれる。
【0027】
本発明に係る電子部品の製造方法は、非金属部品と、当該非金属部品の表面上に設けられた被覆領域を覆う金属部品とを備えている電子部品の製造方法であって、上記被覆領域と、上記金属部品との間に、光重合開始剤および有機過酸化物を含有する紫外線嫌気硬化型接着剤からなる接着剤層を形成する接着剤層形成工程、および上記非金属部品と上記金属部品との隙間に、紫外線を照射する紫外線照射工程を包含していることを特徴としている。
【0028】
上記構成によれば、非金属部品と金属部品とを紫外線嫌気硬化型接着剤を用いて接着する。紫外線嫌気硬化型接着剤の金属部品と接する部分は、有機過酸化物と金属部品との間の反応から発生するラジカルを利用して硬化させ、紫外線嫌気硬化型接着剤の非金属部品と接する部分は、金属部品と非金属部品との隙間から照射した紫外線によって発生するラジカルにより連鎖的に硬化させる。これにより、高温条件を必要とせず、短時間に、非金属部品と金属部品とを接着させることができる。また、後述するように、紫外線嫌気硬化型接着剤は、可使時間が長く、作業性が良好である。
【0029】
このように、上記構成によれば、良好な作業性で、高温条件を必要とせず、短時間に電子部品を製造することができる。
【0030】
本発明に係る電子部品の製造方法では、上記接着剤層の厚さは、0μmを超え、400μm以下であることが好ましい。
【0031】
上記の構成によれば、上記接着剤層の硬化を好適に実施することができる。
【0032】
本発明に係る電子部品の製造方法では、上記被覆領域と、上記非金属部品の表面において当該被覆領域と隣接する隣接領域との間に、当該隣接領域が上記被覆領域よりも隆起するように段が設けられており、上記紫外線照射工程では、当該段と上記金属部品と隙間に紫外線を照射することが好ましい。
【0033】
上記の構成によれば、非金属部品の表面に上記のような段が設けられ、非金属部品と、金属部品との間の空隙が、L字型の断面を有する場合であっても、上述したように、嫌気硬化により、金属部品側の接着剤が硬化し、当該段と金属部品の隙間から照射された紫外線によって発生するラジカルの連鎖的な硬化反応を利用して、非金属部品側の接着剤が硬化するため、首尾よく、非金属部品と金属部品とを接着することができる。
【0034】
本発明に係る電子部品の製造方法では、上記金属部品は、鉄、銅、または、鉄および銅の少なくとも一方を含む合金から形成されたものであることが好ましい。
【0035】
上記の構成によれば、上記接着剤層の硬化時間をより短くすることができる。
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、非金属部品を覆うように金属部品が接合されている電子部品において、当該接合を、良好な作業性で、高温条件を必要とせず、短時間に組立てることができる電子部品およびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の一実施形態に係る電子部品の概略構成を示す図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る電子部品の製造過程を示す図である。
【図3】接着性評価に用いる接着性評価用サンプルの製作過程を示す図である。
【図4】本発明の一実施形態において用いる接着剤の可使時間を示すグラフである。
【図5】実機を用いた接着強度評価実験の様子を示す図である。
【図6】本発明の一実施例に係る電子体温計の接着部の拡大写真である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、本発明の一実施形態について図面を参照して説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る電子部品10の概略構成を示す図である。
【0039】
図1に示すように、電子部品10は、非金属部品11および非金属部品11の一部を覆う金属部品14を備えている。非金属部品11の表面には段11aが形成されており、金属部品14によって覆われる下段領域(被覆領域)11bと上段領域(隣接領域)11cとに分かれている。この下段領域11bと、金属部品14とが、接着剤層12を介して接着されている。これにより、非金属部品11(の上段領域11c)と、金属部品14とが面一となるように設計されている。なお、このとき、金属部品14と、非金属部品11との間の空隙は、断面がL字型となっている。
【0040】
接着剤層12は、光重合開始剤および有機過酸化物を含有する紫外線嫌気硬化型接着剤12aが硬化してなるものである。本明細書において、「紫外線嫌気硬化型接着剤」とは、紫外線硬化するとともに、嫌気硬化する接着剤を指す。なお、嫌気硬化とは、酸素が遮断された状態で、金属と触れ合うことにより硬化することを指す。本実施形態に係る紫外線嫌気硬化型接着剤12aは、光重合開始剤を含んでおり、紫外線を受けて発生するラジカルを起点として、重合反応が開始し、接着剤が硬化する。本実施形態に係る紫外線嫌気硬化型接着剤12aはまた、有機過酸化物を含んでおり、当該有機過酸化物(金属触媒)と金属とのレドックス反応によって発生するラジカルを起点として、重合反応が開始し、接着剤が硬化する。
【0041】
電子部品10はまた、上記金属部品および上記非金属部品によって囲まれた中空部17を有しており、中空部17内には、温度を感知するセンサ15が配置されている。センサ15には信号を伝送するリード線16がつながっている。これにより、電子部品10は、例えば、電子体温計の部品として好適に利用することができる。
【0042】
図2は、電子部品10の製造方法を説明するための図である。本実施形態に係る電子部品10の製造方法は、(A)下段領域11bと、金属部品14との間に、光重合開始剤および有機過酸化物を含有する紫外線嫌気硬化型接着剤12aからなる接着剤層12を形成する接着剤層形成工程、および(B)非金属部品11と金属部品14との隙間に、紫外線を照射する紫外線照射工程を包含している。以下、各工程について詳細に説明する。
【0043】
(接着剤層形成工程)
接着剤層形成工程において、金属部品14と、非金属部品11との接合面において、紫外線嫌気硬化型接着剤12aからなる接着剤層12を形成する。
【0044】
接着剤層12を形成する方法は限定されない。例えば、図2(a)の左欄に示すように、紫外線嫌気硬化型接着剤12aを、接着剤供給手段30を用いて非金属部品11の下段領域11bに塗布、またはスプレーした後、図2(a)の中央欄に示すように、金属部品14をかぶせることにより、接着剤層12を容易に形成することができる。
【0045】
(紫外線照射工程)
接着剤層12を形成した後、紫外線照射工程において、接着剤層12に対して、非金属部品11と金属部品14との隙間から、紫外線を照射する。例えば、図2(a)の右欄に示すように、紫外線照射装置40を用いて紫外線41を、非金属部品11の段11aと、金属部品14との隙間から照射する。
【0046】
ここで、硬化反応のメカニズムについて図2(b)を参照して詳細に説明する。図2(b)は、紫外線照射工程における、非金属部品11と、金属部品14との接合部分の詳細を示す図である。図2(b)に示すように、当該接合部分において、非金属部品11の下段領域11bと、金属部品14の底面14bとの間に接着剤層12が形成されている。
【0047】
紫外線照射装置40を用いて、非金属部品11の段11aと、金属部品14の端面14aとの隙間から紫外線41を照射すると、照射された紫外線41は、まず、41aに示す径路をたどり、接着剤層12の段11a付近が硬化する。その後、紫外線照射によって発生したラジカルの連鎖反応により、下段領域11bの表面付近の紫外線嫌気硬化型接着剤12aが硬化する。
【0048】
また、金属部品14の底面14bでは、接着剤中の有機過酸化物と金属表面とのレドックス反応によってラジカルを発生し、金属部品14の底面14bの表面付近の紫外線嫌気硬化型接着剤12aが硬化する。その後、金属表面で発生したラジカルの連鎖反応により、金属部品14の底面14bから非金属部品11の下段領域11bに向かって、紫外線嫌気硬化型接着剤12aを硬化させる。
【0049】
以上により、接着剤層12の非金属部品11側および金属部品14側の両側を硬化させることができ、首尾よく非金属部品11と金属部品14とを接着することができる。ここで、後述する実施例に示すように、本実施形態に係る方法は、従来技術に比べ、良好な作業性で、高温条件を必要とせず、短時間に実施することができる。また、言い換えれば、本実施形態に係る電子部品は、従来技術に比べ、良好な作業性で、高温条件を必要とせず、短時間に非金属部品11と金属部品14との接合を行うことができる。
【0050】
これにより、短時間で組立てることができるため、生産性の向上、生産ラインにおける在庫の低減、および在庫管理の簡易化が見込めるほか、高温加熱が不要であるため、部品に大きな負荷をかけることなく接着させることができ、非金属部品として様々な材料を採用することができる。
【0051】
(金属部品)
金属部品14の材料としては、様々な金属を用いることができるが、例えば、Fe、Al、Cu、Ag、Au、およびこれらの合金を挙げることができる。特に、Fe、Cu、またはFeもしくはCuの少なくともいずれか一方を含む合金(例えば、ステンレス、真鍮)は、後述する実施例に示すように、短時間で硬化させることができ、また、良好な熱伝導性を有するため、好ましい。
【0052】
(非金属部品)
本明細書において「非金属」とは、金属の性質を持たない、金属以外の材料をいう。本実施形態に係る電子部品では、金属部品14と非金属部品11との接合に高温条件が不要であるため、非金属部品11の材料としては様々なものを用いることができる。例えば、樹脂、セラミック、ガラス、およびゴムからなる群より選ばれる一つ以上の材料を挙げられるが、これらに限定されない。樹脂としては、例えば、PE(ポリエチレン)、PP(ポリプロピレン)、PI(ポリイミド)、ABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体)、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)、LCP(液晶ポリマー)等が挙げられる。また、セラミックとしては、例えば、Al23、SiC等が挙げられる。
【0053】
(紫外線嫌気硬化型接着剤)
紫外線嫌気硬化型接着剤12aは、紫外線硬化するとともに、嫌気硬化する接着剤であればよいが、光重合開始剤、有機過酸化物、および樹脂を含有することが好ましい。
【0054】
硬化反応性を有する樹脂としては、アクリレート系、またはエポキシ系等が挙げられる。紫外線硬化型接着剤として使用する場合、アクリレート系はラジカルで重合し、エポキシ系はカチオン(もしくはアニオン)で重合する。本発明においては紫外線照射および金属表面での反応によって発生するラジカルを樹脂の硬化反応に利用する観点から、アクリレート系樹脂を選択する方が好ましい。例としては、一般的なアクリレート、またはメタクリレートを使用することが可能であるが、これに限定されない。
【0055】
光重合開始剤としては、紫外線照射された際にラジカルを発生させる物質をいう。例として、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド、2−メチル−1[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モリフォリノプロパン−1−オン、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィン=オキシド、などを挙げることができるが、これに限定されない。紫外線照射に使用する光源の波長に対して、最適な吸収波長を有する光重合開始剤を使用するのが好ましい。
【0056】
有機過酸化物としては、例として、金属とのレドックス(酸化還元)反応性が高いハイドロパーオキサイド、ケトンパーオキサイド、ジアルキルパーオキサイド、パーオキシエステル、ジアシルパーオキサイドなどが挙げられるが、これらに限定されない。具体的には、クメンハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、p−メンタンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド(以上、ハイドロパーオキサイド系)、メチルエチルケトンパーオキサイド、シクロヘキサノンパーオキサイド、アセチルアセトンパーオキサイド(以上、ケトンパーオキサイド系)、ジクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ジ−t−ヘキシルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド(以上、ジアルキルパーオキサイド系)、t−ブチルパーオキシピヴァレート、t−ヘキシルパーオキシピヴァレート(以上、パーオキシエステル系)、ジイソブチリルパーオキサイド、ジラウロイルパーオキサイド(以上、ジアシルパーオキサイド)を挙げることができるが、これらに限定されない。
【実施例】
【0057】
〔1.接着性評価用サンプルの製作および接着性の評価〕
(接着性評価用サンプルの製作)
実施例および比較例において用いた接着性評価用サンプル100の製作について、図3を参照して以下に説明する。
【0058】
図3は、接着性評価用サンプル100の製作の各段階(1)〜(4)を示す図である。図3において、列(a)には、製作途中の接着性評価用サンプル100を上方から観察した上面図を表し、列(b)には、製作途中の接着性評価用サンプル100を側方から観察した側面図を表す。また、表1および表2に、それぞれの接着性評価用サンプル100の製作に用いた条件を示す。
【0059】
図3の行(1)に示すように、接着性評価用サンプル100の製作のために用いる非金属部品101の上面には、中央付近の段101aによって分割される下段領域(被覆領域)101bおよび上段領域(隣接領域)101cを形成した。
【0060】
非金属部品101の材料としては、実施例1〜4、実施例8〜15および比較例1〜6ではABS(アクリロニトリル ブタジエン スチレン共重合体)を、実施例5ではPEEK(ポリエーテルエーテルケトン)を、実施例6ではLCP(液晶ポリマー)を、実施例7ではPI(ポリイミド)を、それぞれ使用した。
【0061】
続いて、図3の行(2)に示すように、非金属部品101の下段領域101bに、接着剤102を適量滴下した。
【0062】
接着剤102としては、実施例1〜12、14および15では紫外線嫌気硬化型接着剤BU730UF(東亞合成、商品名アロニックス(登録商標))を、実施例13では紫外線嫌気硬化型接着剤BU810(東亞合成)を、比較例1では熱硬化型エポキシ系接着剤を、比較例2では湿気硬化型アクリレート系接着剤を、比較例3では常温硬化型シリコーン系接着剤を、比較例4〜6では紫外線硬化型接着剤UVX−5457(東亞合成)をそれぞれ使用した。
【0063】
続いて、図3の行(3)に示すように、接着剤102を適量滴下した非金属部品101の下段領域101bに、当該接着剤102を挟むように、2本のシックネスゲージ103を設置した。シックネスゲージ103は、所望の膜厚を有する接着剤102の層を形成するためのスペーサーであり、上記所望の膜厚と同じ厚さを有する金属片(SUS製)を使用した。シックネスゲージ103の具体的な厚さは、実施例1、5〜14および比較例1〜3では100μmとし、実施例2では50μmとし、実施例3では200μmとし、実施例4では400μmとし、実施例15では1000μmとし、比較例4では10μmとし、比較例5では20μmとし、比較例6では30μmとした。
【0064】
続いて、図3の行(4)に示すように、非金属部品101の下段領域101b上に、シックネスゲージ103を介して、金属部品104を重ね、接着剤102の層を形成し、所定の条件に従って接着剤102を硬化させた。実施例1〜15では、紫外線(UV)を照射したのち、60℃の恒温槽内で所定の時間放置することにより、接着剤102の硬化を行った。上記所定の時間(硬化時間)としては、実施例1〜3、5〜8、10および13では10分間とした。実施例4では1時間とした。実施例9、11および12では30分間とした。実施例14では5分間とした。実施例15では長時間とした。また、比較例1〜3では、所定の温度に調整された恒温槽内で所定の時間放置することにより、接着剤102の硬化を行った。比較例1では100℃にて2時間、比較例2では室温にて数分間、比較例3では室温にて24時間それぞれ放置した。また、比較例4〜6では、紫外線(UV)を照射することによって接着剤102の硬化を行った。なお、実施例および比較例における紫外線照射は、紫外線照射装置(たけでん)を用いて出力600mW/cmで2秒間(紫外線照射量としては1200mJ/cm)照射した。
【0065】
硬化終了後、シックネスゲージ103を取り外した。以上により、図3の行(4)に示すように、金属部品104と、非金属部品101とが、硬化した接着剤102の層を介して接着された接着性評価用サンプル100を製作した。
【0066】
(接着性の評価)
次に、製作した接着性評価用サンプルのそれぞれについて、接着性の評価を行った。接着性の評価は、接着剤102の硬化可否を判定することによって行った。
【0067】
具体的には、製作した接着性評価用サンプル100の金属部品104を非金属部品101から剥がし、金属部品104および非金属部品101の何れかに残った接着剤を指で触ることにより、接着剤102の硬化可否を判定した。その際、未硬化の接着剤が指に付着するか、タック感が残っている場合を「否」と、タックがないものを「可」と判定した。
【0068】
(接着剤の可使時間(ポットライフ)の評価)
接着剤の可使時間とは、一定条件(一般的には25℃(室温)条件)において、樹脂の粘度が上昇し始めるまでの時間をいう。可使時間は、ポットライフともいう。可使時間は、作業性の指標として使用され得る。
【0069】
紫外線嫌気硬化型接着剤BU730UFについて、25℃条件下、40℃条件下において、それぞれ可使時間について調べた。その結果を、図4に示す。
【0070】
図4(a)は、25℃条件下における、紫外線嫌気硬化型接着剤BU730UFの粘度の経時変化を示す。少なくとも2ヶ月以上、接着剤粘度の明らかの上昇は見られなかった。これによれば、25℃において、上記接着剤の可使時間は2ヶ月以上であることが明らかとなった。また、図4(b)は、40℃条件下における、紫外線嫌気硬化型接着剤BU730UFの粘度の経時変化を示す。示すように、少なくとも200時間以上、接着剤粘度の明らかの上昇は見られなかった。これによれば、40℃において、上記接着剤の可使時間は200時間以上であることが示された。実施例および比較例で用いた他の接着剤についても同様に可使時間を調べた。
【0071】
(実機での接着強度の評価)
実施例1で用いたものと同じ接着剤(紫外線嫌気硬化型接着剤BU730UF、東亞合成、商品名アロニックス(登録商標))を使用して、電子体温計の実機200を製作した。樹脂製本体ケース(非金属部品)201の先端部に紫外線嫌気硬化型接着剤BU730UFを塗布し、ステンレスキャップ(金属部品)204をはめ合わせた。接着面における樹脂製本体ケース201と、ステンレスキャップ204との間の距離は、250μmとした。続いて、紫外線照射装置を使用して、出力600mW/cmで2秒間(紫外線照射量としては1200mJ/cm)照射した後)、60℃恒温槽において、10分間放置した。
【0072】
上記により製作した実機200について、接着強度を測定した。図5に、接着強度測定の様子を示している。接着強度測定器400は、実機200の樹脂製本体ケース201を固定する固定部401と、実機200のステンレスキャップ204を固定する固定部402とを備えている。そして、負荷発生部403により、固定部401と固定部402とが離れる方向に負荷を掛けた。結果として、樹脂製本体ケース201と、ステンレスキャップ204との間の接着剤層は完全に硬化しており、100N以上の接着強度を有することが実証された。
【0073】
実施例2〜15および比較例1〜6についても、同様に、実機での接着強度の評価を行った。
【0074】
以上の結果を、表1および表2にまとめた。なお、硬化可否の欄では、「可」を「○」、「否」を「×」として表記した。また、硬化条件、硬化時間および可使時間の欄において、当該欄の記載内容が好ましいものである場合には「○」を、若干好ましくないものである場合には「△」を、好ましくないものである場合には「×」をそれぞれ併記した。また、接着強度の欄においては、接着強度が20Nよりも小さい場合を「×」、20〜80Nの場合を「△」、80Nより大きい場合を「○」とそれぞれ表記した。
【0075】
【表1】

【0076】
【表2】

【0077】
実施例に示すように、紫外線嫌気硬化型接着剤を用いることにより、金属部品と非金属部品とを、比較的低い温度(例えば、60℃)において、短時間(例えば、10分)で、作業性よく(可使時間:数ヶ月)接着することができた。また、実施例4に示すように、接着剤の膜厚が厚い(400μm)場合でも首尾よく接着することができた。
【0078】
一方、比較例1に示すように、熱硬化型エポキシ系接着剤を用いた場合、高温(100℃)かつ長時間(2時間)の硬化処理が必要であった。また、熱硬化型エポキシ系接着剤の可使時間も5時間と比較的短いものであった。そのため、熱硬化型エポキシ系接着剤を用いる場合には、部品に耐熱性が必要であり、組み立て効率が悪く、作業性も悪いことが示唆された。
【0079】
また、比較例2に示すように、湿気硬化型アクリレート系接着剤を用いた場合、短時間で接着することができたが、接着剤の可使時間が極めて短いものであった(数分)。そのため、湿気硬化型アクリレート系接着剤を用いる場合には、作業性が非常に悪いことが示唆された。また、接着剤成分が樹脂(ABS)の表面を侵食する点も問題であった。
【0080】
また、比較例3に示すように、常温硬化型シリコーン系接着剤を用いた場合、硬化時間が非常に長時間必要であった(24時間)。そのため、組み立て効率が非常に悪いことが示唆された。
【0081】
また、比較例4〜6に示すように、紫外線硬化型接着剤を用いた場合、接着剤の膜厚が厚くなると(20μm以上)接着が不十分であった。
【0082】
このように、本発明によれば、金属部品と非金属部品とを従来技術に比べ好適に接着し得ることが示された。
【0083】
また、実施例1および14の結果を比較することにより、上記紫外線硬化型接着剤を用いれば、10分間あれば、100μmの膜厚の接着剤を好適に硬化させ得ることが示された。
【0084】
また、実施例1〜4および15の結果を比較することにより、上記紫外線硬化型接着剤を用いれば、400μmの膜厚の接着剤を硬化させ得ることが示された。
【0085】
また、実施例1および5〜7の結果を比較することにより、接着すべき非金属部品の材料としては、ABS(アクリロニトリル ブタジエン スチレン共重合体)、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)、LCP(液晶ポリマー)、PI(ポリイミド)等様々な非金属材料を使用できることが示された。
【0086】
また、実施例1および8〜12の結果を比較することにより、接着すべき金属部品の材料としては、SUS、Fe、Al,Cu、Ag、Auなど様々な金属材料を使用できることが示された。特に、金属部品がFeまたはCuからなる場合、硬化時間が短くなることが示された。
【0087】
(接合部について)
図6は、上述した実機200における樹脂製本体ケース201と、ステンレスキャップ204との接着部の拡大写真である。樹脂製本体ケース201と、ステンレスキャップ204との図6の紙面縦方向の隙間(樹脂製本体ケース201の段201aと、ステンレスキャップ204の端面204aとの間)L201-204は、2〜20μmであった。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明は、金属部品と非金属部品とをと含む電子部品の製造に利用することが可能であり、電子体温計などの医療機器をはじめ、多くの電気機器と電子機器の製造に利用することができる。
【符号の説明】
【0089】
10 電子部品
11 非金属部品
11a 段
11b 下段領域(被覆領域)
11c 上段領域(隣接領域)
12 接着剤層
12a 紫外線嫌気硬化型接着剤
14 金属部品
14a 端面
14b 底面
15 感温素子
16 リード線
30 接着剤供給手段
40 紫外線照射装置
41 紫外線
41a 紫外線経路
100 評価試験用サンプル
101 非金属部品
101a 段
101b 下段領域(被覆領域)
101c 上段領域(隣接領域)
102 接着剤
103 シックネスゲージ
104 金属部品
200 実機(電子体温計)
201 樹脂製本体ケース(非金属部品)
204 ステンレスキャップ(金属部品)
400 接着強度測定器
401 固定部
402 固定部
403 負荷発生部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
非金属部品と、当該非金属部品の表面上に設けられた被覆領域を覆う金属部品とを備えている電子部品であって、
上記被覆領域と、上記金属部品とが、光重合開始剤および有機過酸化物を含有する紫外線嫌気硬化型接着剤が硬化してなる接着剤層を介して接着していることを特徴とする電子部品。
【請求項2】
上記接着剤層の厚さは、0μmを超え、400μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の電子部品。
【請求項3】
上記被覆領域と、上記非金属部品の表面において当該被覆領域と隣接する隣接領域との間に、当該隣接領域が上記被覆領域よりも隆起するように段が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の電子部品。
【請求項4】
上記非金属部品と、上記金属部品とが面一であることを特徴とする請求項3に記載の電子部品。
【請求項5】
上記金属部品は、鉄、銅、または、鉄および銅の少なくとも一方を含む合金から形成されたものであることを特徴とする請求項1に記載の電子部品。
【請求項6】
上記非金属部品は、樹脂、セラミック、ガラス、およびゴムからなる群より選ばれる一つ以上の材料から形成されたものであることを特徴とする請求項1に記載の電子部品。
【請求項7】
上記金属部品および上記非金属部品によって囲まれた中空部と、
上記中空部内に配置されたセンサとをさらに備えていることを特徴とする請求項1に記載の電子部品。
【請求項8】
上記センサが、温度を感知するセンサであることを特徴とする請求項7に記載の電子部品。
【請求項9】
請求項8に記載の電子部品を備えていることを特徴とする電子体温計。
【請求項10】
非金属部品と、当該非金属部品の表面上に設けられた被覆領域を覆う金属部品とを備えている電子部品の製造方法であって、
上記被覆領域と、上記金属部品との間に、光重合開始剤および有機過酸化物を含有する紫外線嫌気硬化型接着剤からなる接着剤層を形成する接着剤層形成工程、および
上記非金属部品と上記金属部品との隙間に、紫外線を照射する紫外線照射工程を包含していることを特徴とする電子部品の製造方法。
【請求項11】
上記接着剤層の厚さは、0μmを超え、400μm以下であることを特徴とする請求項10に記載の電子部品の製造方法。
【請求項12】
上記被覆領域と、上記非金属部品の表面において当該被覆領域と隣接する隣接領域との間に、当該隣接領域が上記被覆領域よりも隆起するように段が設けられており、
上記紫外線照射工程では、当該段と上記金属部品と隙間に紫外線を照射することを特徴とする請求項10に記載の電子部品の製造方法。
【請求項13】
上記金属部品は、鉄、銅、または、鉄および銅の少なくとも一方を含む合金から形成されたものであることを特徴とする請求項10に記載の電子部品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−185859(P2011−185859A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−53455(P2010−53455)
【出願日】平成22年3月10日(2010.3.10)
【出願人】(000002945)オムロン株式会社 (3,542)
【Fターム(参考)】