説明

電子部品の製造方法及び電子部品の検査方法

【課題】酸素欠損量の変動を抑制することによって、品質のばらつきが少なく、歩留まりを向上させることが可能な電子部品の製造方法を提供すること。
【解決手段】ペロブスカイト型酸化物を含む焼結体と電極とを有する素体をアニールして焼結体を酸化するアニール工程を有する電子部品の製造方法であって、アニール工程の前にペロブスカイト型酸化物のラマンスペクトルを測定する第1測定工程と、アニール工程の後にペロブスカイト型酸化物のラマンスペクトルを測定する第2測定工程と、第1測定工程と第2の測定工程で測定されたそれぞれのラマンスペクトルから格子振動領域におけるピークのシフト量を求める評価工程と、を有する電子部品の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子部品の製造方法及び電子部品の検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
チップコンデンサなどの電子部品は、通常、誘電体などを含むセラミックス層と、卑金属等の内部電極との積層体を焼成することによって製造される。このようにセラミックス層と内部電極とを同時に焼成する場合、内部電極の主成分である卑金属の酸化を防ぐために、還元雰囲気中で焼成が行われている。このように還元雰囲気中で焼成を行うと、セラミックス層に含まれる酸化物に酸素欠損が生じ、その結果、絶縁抵抗性などが大幅に低下してしまうことが知られている。このため、通常は還元雰囲気中での焼成後に、焼結体に再酸化処理を施すことによって、酸素欠損を補うアニール(再酸化処理)が行われている。
【0003】
この再酸化処理を高温・長時間で行うと、Niなどの卑金属を含む電極が酸化するなどの弊害がある。このため、再酸化処理は、低温且つ短時間で行うことが好ましい。一方で、上述の酸化物中における酸素欠損量は、電子部品の寿命に大きな影響を及ぼす。このため、酸化物中における酸素欠損量を、できるだけ正確に把握できる測定技術を確立する必要がある。
【0004】
しかしながら、還元雰囲気中における焼成によって生じる酸素欠損量はわずかであるため、酸素欠損量を直接的に測定することは困難である。このため、現状は、加速寿命試験などの破壊試験を用いて、再酸化処理によって酸素欠損量が低減されているか否かを間接的に評価している。このように、酸素欠損量を直接把握する手法が確立されていないことが、特に電子部品の量産工程において、歩留まりの低下や製造工程の長期化の原因となっている。
【0005】
このような状況の下、例えば非特許文献1では、チタン酸バリウムの酸素欠損量を測定する方法として、カソード・ルミネッセンス法を用いる方法が提案されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】G.Koschek and E.Kubalek, “Micron-scaled Spectral-ResolvedCathodoluminescence of Grains in Bariumtitanate Ceramics”, phys. Stat. sol. (a)79, 131, p.131-139, (1983)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述の特許文献1のカソード・ルミネッセンス法を用いる方法は、純粋なチタン酸バリウムを対象としたものであり、ピークの高さから酸素欠損量を求めるものである。この方法は、電子部品に含まれる焼結体など、種々の成分を含む焼結体を対象とした場合、成分ごとにピークの位置が異なるため、ピーク同士が重なり合ってしまうことから、酸素欠損量に対応するピークの位置や高さを特定することが極めて困難である。このため、特許文献1の方法は、複数の成分を含有する焼結体の酸素欠損量を測定することが極めて困難である。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、電子部品に含まれる酸素欠損量を容易に測定することが可能な電子部品の検査方法を提供することを目的とする。また、酸素欠損量の変動を抑制することによって、品質のばらつきが少なく、歩留まりを向上することが可能な電子部品の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明では、ペロブスカイト型酸化物を含む焼結体と電極とを有する素体をアニールして焼結体を酸化するアニール工程を有する、素体を備える電子部品の製造方法であって、アニール工程の前にペロブスカイト型酸化物のラマンスペクトルを測定する第1測定工程と、アニール工程の後にペロブスカイト型酸化物のラマンスペクトルを測定する第2測定工程と、第1測定工程と第2の測定工程で測定されたそれぞれのラマンスペクトルから格子振動領域におけるピークのシフト量を求める評価工程と、を有する電子部品の製造方法を提供する。
【0010】
本発明の電子部品の製造方法では、電子部品となる素体を破壊することなく、アニール工程の前後で測定されたラマンスペクトルのピークのシフト量から、ペロブスカイト型酸化物の酸素欠損量の変化を容易に測定することができる。したがって、本発明の電子部品の製造方法によれば、品質の変動が十分に抑制された電子部品を、高い歩留まりで製造することが可能となる。
【0011】
本発明において、複数成分を含む焼結体中におけるペロブスカイト型酸化物の酸素欠損量が測定できる理由の一つとしては、格子振動領域におけるラマンスペクトルを用いていることが挙げられる。すなわち、圧電体や誘電体において、従来、ラマン分光法は、フォノンバンド構造を解析するために用いられており、この解析には1000cm−1以下の波数領域のラマンスペクトルが用いられていた。ところが、このような領域に属するラマンスペクトルは、酸素欠損量が変わっても殆ど変化しないため、酸化欠損量に関する情報を得ることは極めて困難であった。
【0012】
しなしながら、本発明では、フォノンバンドの解析に用いられていた波数領域とは異なる1000cm−1以上の格子振動領域におけるラマンスペクトルを採用している。本発明者らは、このような波数領域に着目するとともに、格子振動領域に現れるピークの波数が、ペロブスカイト型酸化物の酸素欠損量の変化によって変動することを見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0013】
本発明では、上記シフト量に応じて、アニール工程におけるアニール条件を調整することが好ましい。これによって、ペロブスカイト型酸化物の酸素欠損量を低減することが可能となり、品質のばらつきを一層低減して歩留まりを一層向上することができる。
【0014】
本発明は、別の側面において、ペロブスカイト型酸化物を含む焼結体と電極とを備える電子部品の検査方法であって、ペロブスカイト型酸化物の格子振動領域におけるラマンスペクトルを測定する工程を有する電子部品の検査方法を提供する。
【0015】
本発明の電子部品の検査方法によれば、電子部品の破壊試験を行うことなく、電子部品に含まれる酸素欠損量を容易に測定することができる。したがって、例えば、電子部品の量産工程において、本発明の電子部品の検査方法を行えば、ペロブスカイト型酸化物酸素欠損量が十分に低減された焼結体を備える電子部品を安定的に供給することができる。
【0016】
本発明では、測定した上記ラマンスペクトルのピークのシフト量に基づいて、ペロブスカイト型酸化物の酸素欠損量を求める工程を有することが好ましい。これによって、電子部品の品質のばらつきが十分に低減され、寿命の長い電子部品を安定的に供給することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、電子部品に含まれる酸素欠損量を容易且つ迅速に測定することが可能な電子部品の検査方法を提供することができる。また、酸素欠損量の変動を十分に抑制することによって、品質のばらつきが少なく、歩留まりを向上させることが可能な電子部品の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の好適な実施形態に係る電子部品の製造方法に用いられるセラミック部品シートを示す模式断面図である。
【図2】本発明の好適な実施形態に係る電子部品の製造方法において用いられる、ペロブスカイト型酸化物を含む焼結体と内部電極とを有する素体を模式的に示す断面図である。
【図3】本発明の好適な実施形態に係る電子部品の製造方法によって得られる積層セラミックコンデンサを模式的に示す断面図である。
【図4】実施例1の素体の焼結体におけるアニール前のラマンスペクトルとアニール後のラマンスペクトルを示す図である。
【図5】実施例1及び実施例2におけるアニール温度−ピーク位置関係を示すグラフである。
【図6】実施例3及び実施例4におけるアニール温度−ピーク位置関係を示すグラフである。
【図7】実施例5の圧電素子のアニール前後における格子振動領域のラマンスペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、場合により図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明する。なお、各図面において、同一又は同等の要素には同一の符号を付与し、重複する説明を省略する。
【0020】
本実施形態の電子部品の製造方法は、ペロブスカイト型酸化物を含む焼結体と電極とを有する素体を形成する素体形成工程と、焼結体に含まれるペロブスカイト型酸化物のラマンスペクトルを測定する第1測定工程と、素体をアニールして焼結体を再酸化するアニール工程と、上記ペロブスカイト型酸化物のラマンスペクトルを測定する第2測定工程と、第1測定工程と第2の測定工程で測定されたそれぞれのラマンスペクトルから格子振動領域におけるピークのシフト量を求める評価工程と、素体上に端子電極を形成して電子部品を得る電極形成工程とを有する。以下、電子部品の一例として、積層セラミックコンデンサを製造する場合について説明する。
【0021】
素体形成工程では、まず、複数のセラミック部品シートを準備する。図1は、本実施形態の製造方法に好適に用いられるセラミック部品シートの一例を示す模式断面図である。セラミック部品シート20は、例えば、以下の手順で作製することができる。
【0022】
市販の基材フィルム10の一方の表面10a上に、セラミック粉末を含有するペースト(セラミックペースト)及び電極材料を含有するペースト(電極ペースト)をそれぞれ塗布する。
【0023】
セラミックペーストは、例えば、誘電体原料(セラミック粉体)と有機ビヒクルとを混練して調製できる。誘電体原料としては、焼成によってペロブスカイト型酸化物となる各種化合物、たとえば炭酸塩、硝酸塩、水酸化物、有機金属化合物などから適宜選択して用いることができる。また、ペロブスカイト型酸化物を含有するものであってもよい。誘電体原料は、平均粒子径が0.4μm以下、好ましくは0.1〜3.0μm程度の粉体を用いることができる。
【0024】
電極ペーストは、各種導電性金属や合金からなる導電体材料、焼成後に導電体材料となる各種酸化物、有機金属化合物、又はレジネート等と、有機ビヒクルとを混練して調製することができる。
【0025】
電極ペーストを製造する際に用いる導電体材料としては、Ni金属、Ni合金、またはこれらの混合物を用いることが好ましい。接着性向上のために、電極ペーストは、可塑剤を含んでいてもよい。可塑剤としては、フタル酸ベンジルブチル(BBP)などのフタル酸エステル、アジピン酸、燐酸エステル及びグリコール類などが挙げられる。
【0026】
セラミックペースト及び電極ペーストに含まれる有機ビヒクルは、バインダ樹脂を有機溶剤中に溶解して調製される。有機ビヒクルに用いられるバインダ樹脂としては、例えばエチルセルロース、アクリル樹脂、ブチラール系樹脂、ポリビニルアセタール、ポリビニルアルコール、ポリオレフィン、ポリウレタン、ポリスチレン、又はこれらの共重合体などが用いられる。
【0027】
有機ビヒクルの調製に用いられる有機溶剤としては、例えばテルピネオール、アルコール、ブチルカルビトール、アセトン、トルエン、キシレン、酢酸ベンジルなどの有機溶剤を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。アルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール及びブタノールなどが挙げられる。
【0028】
セラミックペーストは、必要に応じて各種分散剤、可塑剤、帯電除剤、誘電体、ガラスフリット、絶縁体などから選択される添加物を含有してもよい。本実施形態の製造方法では、複数の誘電体原料を含んでいたり、誘電体原料以外の成分を含んでいたりしても、高精度で酸素欠損量を測定することができる。
【0029】
上述のセラミックペーストを、例えばドクターブレード装置などにより、基材フィルム10の表面10a上に塗布する。そして、塗布したセラミックペーストを、市販の乾燥装置内で、例えば50〜100℃の温度で1〜20分間乾燥させて、セラミックグリーンシート22を形成する。
【0030】
次に、形成したセラミックグリーンシート22の表面22a上に、例えばスクリーン印刷装置を用いて、所定のパターンとなるように、電極ペーストを印刷する。そして、塗布した電極ペーストを、市販の乾燥装置内で、例えば50〜100℃の温度で1〜20分間乾燥させて、電極グリーンシート24を形成する。これによって、基材フィルム10、セラミックグリーンシート22及び電極グリーンシート24が順次積層されたセラミック部品シート20を得ることができる。
【0031】
続いて、作製したセラミック部品シート20を用いて、以下の手順で積層体を作製する。セラミック部品シート20の基材フィルム10を剥離してグリーンシート26を得る。このグリーンシート26の面22bと別のセラミック部品シート20の電極グリーンシート24とが向き合うようにして、グリーンシート26とセラミック部品シート20とを積層する。その後、積層したセラミック部品シート20から基材フィルム10を剥離する。このような手順を繰り返し行って、グリーンシート26を積層することによって、積層体を得ることができる。すなわち、グリーンシート26上にセラミック部品シート20を積層した後に、基材フィルム10を剥離する手順を複数回繰り返すことによって、積層体が作製される。
【0032】
積層体におけるグリーンシートの積層枚数に特に制限はなく、例えば、数十層から数百層であってもよい。積層体の積層方向に直交する両端面に、電極層が形成されない厚めの外装用グリーンシートを設けてもよい。この外装用グリーンシートは、セラミックグリーンシート22と同様の成分からなるものとすることができる。また、積層体を形成した後、積層体を切断してグリーンチップとしてもよい。
【0033】
次に、上述の手順で得られた積層体(グリーンチップ)を焼成することによって、焼結体と電極とを備える素体が得られる。焼成条件は、例えば1100〜1300℃で、加湿した窒素と水素とを含む混合ガス等の還元雰囲気下で行う。焼成時の雰囲気中の酸素分圧は、電極グリーンシート24に含まれる金属の酸化を抑制するため、好ましくは10−2Pa以下、より好ましくは10−2〜10−8Paとする。なお、焼成前には、積層体の脱バインダ処理を施すことが好ましい。脱バインダ処理は、通常の条件で行うことができる。例えば、内部電極(電極グリーンシート24)の導電体材料として、NiやNi合金等の卑金属を用いる場合、200〜600℃で行うことが好ましい。
【0034】
図2は、本実施形態の電子部品の製造方法における素体形成工程で作製される、ペロブスカイト型酸化物を含む焼結体と内部電極とを有する素体を模式的に示す断面図である。素体100は、上述の通り、積層体を還元雰囲気中で焼成することによって得られる。素体100は、焼結体であるセラミック層42と内部電極44とが交互に積層された内装部40と、内装部40を積層方向に挟むように、焼結体からなる一対の外装部50とを有する。
【0035】
素体形成工程では、上述の通り、積層体を焼成することによって素体100が形成される。この焼成を、還元雰囲気中で行うことによって、内部電極44に含まれる卑金属の酸化を抑制することができる。一方で、ペロブスカイト型酸化物を含む焼結体(セラミック層42)には、酸素欠陥が生じ易くなる。このため、本実施形態の製造方法では、以下の工程によって、焼結体に含まれる酸素欠陥量を低減する。
【0036】
第1測定工程では、素体100に備えられる焼結体のラマンスペクトルを測定する。測定は、通常の市販の測定装置を用いることができる。ラマンスペクトルの測定は、焼結体に含まれるペロブスカイト型酸化物の格子振動領域を含む波数領域について行う。格子振動領域は、ペロブスカイト型酸化物の種類によって異なるが、通常、1000cm−1以上、好ましくは1000〜4000cm−1の波数領域となる。
【0037】
格子振動領域におけるラマンスペクトルのピークの波数(ピーク位置)は、焼結体に主成分として含まれるペロブスカイト型酸化物の種類や、主成分とは異なる副成分の種類によって異なり、焼結体の主成分がチタン酸バリウムの場合は1450cm−1付近に、チタン酸鉛の場合は2300cm−1付近にピークがそれぞれ検出される。
【0038】
アニール工程では、素体100をアニール(熱処理)して、焼結体の再酸化処理を行う。これによって、焼結体の結晶構造に酸素が補填されて、酸素欠損量が低減される。アニール工程におけるアニール条件としては、アニール温度、アニール時間及びアニール雰囲気等が挙げられる。アニール工程における素体100のアニール温度は、好ましくは700〜1100℃であり、当該温度に保持するアニール時間は好ましくは1〜5時間である。アニール雰囲気は、焼成時の還元雰囲気よりも高い酸素分圧とし、好ましくは10−2〜1Paの酸素分圧を有する雰囲気とする。具体的には、窒素と空気の混合雰囲気としてもよい。上記アニール条件は、後述する評価工程におけるシフト量に基づいて、調整することが好ましい。
【0039】
第2測定工程では、アニール処理を施した素体に備えられる焼結体のラマンスペクトルを測定する。測定は、第1測定工程と同じ測定機器を用い、同じ測定条件で測定することが好ましい。第2測定工程においても、第1測定工程と同様に、焼結体に含まれるペロブスカイト型酸化物の格子振動領域を含む波数領域のラマンスペクトルを測定する。
【0040】
評価工程では、第1測定工程と第2測定工程で測定されたそれぞれのラマンスペクトルから、格子振動領域におけるピークのシフト量を求める。このシフト量に応じて、アニール工程による焼結体の酸素欠損量の低減の有無を評価することができる。つまり、格子振動領域において、第1測定工程で検出されたラマンスペクトルのピークが、第2測定工程で検出されたラマンスペクトルのピークよりも高波数側へシフトしていれば、アニール工程によって焼結体の酸素欠損量が低減されていると判断することができる。なお、シフト量は、アニール工程前後において、ピークの頂点が移動した波数幅として求めることができる。
【0041】
格子振動領域におけるラマンスペクトルのピークのシフト量が小さい場合は、酸素欠損量が十分に低減されていないと判断することができる。この場合、再度アニール工程を行って焼結体の再酸化処理を行ってもよい。また、電子部品を量産している場合、アニール工程における温度や時間などの熱処理条件を調整することによって、酸素欠損量が低減されていない不良品の生産を迅速に回避することができる。このように、本実施形態の製造方法によれば、焼結体中の酸素欠損量を容易且つ迅速に測定できることから、品質のばらつきが低減され、寿命の長い電子部品を高い収率で製造することができる。
【0042】
電極形成工程では、酸素欠損量が十分に低減された焼結体と内部電極とを備える素体に、例えばバレル研磨、サンドブラスト等にて端面研磨を施す。そして、当該素体の側面上に、端子電極用ペーストを焼きつけて端子電極を形成することにより、積層セラミックコンデンサを得ることができる。
【0043】
図3は、本実施形態の製造方法によって得られる積層セラミックコンデンサを示す模式断面図である。図3に示す積層セラミックコンデンサ200は、内装部40と、この内装部40を積層方向に挟む一対の外装部50とを備えている。本実施形態に積層セラミックコンデンサ200は、互いに対向する側面にそれぞれ端子電極60を有している。
【0044】
内装部40は、焼結体である、複数(本実施形態では13層)のセラミック層43と、複数(本実施形態では12層)の内部電極44とを有している。セラミック層43と内部電極44とは、交互に積層されている。また、一方の端子電極60に電気的に接続された内部電極44と、他方の端子電極60に電気的に接蔵された内部電極44とが交互に積層されている。
【0045】
外装部50は、セラミック層により形成されている。このセラミック層は、外装用グリーンシートから形成されるもの(焼結体)であり、例えばセラミック層43と同様の成分を含有する。
【0046】
積層セラミックコンデンサ200の焼結体(セラミック層43)に含まれるペロブスカイト型酸化物には、アニール工程によって、酸素が補填されている。本実施形態の製造方法では、第1測定工程と及び第2測定工程によって、アニール工程における酸素の補填が確実に行われるため、焼結体における酸素欠損量を十分に低減することができる。すなわち、積層セラミックコンデンサ200のセラミック層43は、素体100のセラミック層42に比べて、酸素欠損量が十分に低減されている。したがって、セラミック層43の絶縁抵抗の低下が十分に抑制され、寿命の長い積層セラミックコンデンサとすることができる。
【0047】
次に、本発明の電子部品の検査方法に係る好適な実施形態について以下に説明する。
【0048】
本実施形態の電子部品の検査方法は、ペロブスカイト型酸化物を含む焼結体と電極とを有する電子部品を準備する準備工程と、焼結体に含まれるペロブスカイト型酸化物の格子振動領域におけるラマンスペクトルを測定する検査工程と、を有する。
【0049】
ペロブスカイト型酸化物を含む焼結体と電極とを有する電子部品としては、図2に示す素体100や、図3に示すような積層セラミックコンデンサ200を用いることができる。素体100又は積層セラミックコンデンサ200は上述の製造方法によって製造することができる。
【0050】
電子部品として素体100を用いる場合、検査工程では、素体100の焼結体(セラミック層42)に含まれるペロブスカイト型酸化物の格子振動領域におけるラマンスペクトルを測定する。この格子振動領域におけるラマンスペクトルのピークの波数(ピーク位置)から、焼結体における酸素欠損量を求めることができる。この際、予め、特定の組成を有する焼結体について、酸素欠損量とピーク位置との相関関係を示す検量線を準備しておけば、同等の組成を有する焼結体における酸素欠損量を定量することも可能である。
【0051】
検査工程におけるラマンスペクトルの結果に応じて、素体100の再酸化処理を行ってもよい。その後、素体100に含まれるペロブスカイト型酸化物の格子振動領域におけるラマンスペクトルを測定し、再酸化処理前のラマンスペクトルのピーク位置と再酸化処理後のラマンスペクトルのピーク位置とを比較することによって、酸素欠損量の低減の有無を判定することができる。また、焼結体の酸素欠損量を定量することも可能である。
【0052】
このように、本実施形態の検査方法は、電子部品を破壊することなく、容易、迅速且つ高精度に焼結体における酸素欠損量を求めることができる。したがって、歩留まり向上、品質ばらつき低減、及び製造工程短縮の観点から、特に量産品の検査方法として有用である。
【0053】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではない。例えば、上記実施形態では積層セラミックコンデンサについて説明したが、例えば、ペロブスカイト型酸化物を含む焼結体からなる圧電磁器と電極とを備える積層圧電素子であってもよい。すなわち、ペロブスカイト型酸化物を含む焼結体と電極とを備える電子部品であれば、本発明の製造方法又は検査方法を適用することによって、本発明の効果を享受することができる。
【実施例】
【0054】
以下、実施例及び比較例を参照して本発明の内容をより具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0055】
(実施例1,2)
<素体の作製>
原料として、BaTiO系セラミック粉末に、表1に示す添加物、有機バインダとしてポリビニルブチラール(PVB)、及び溶媒としてメタノールを準備した。次に、該セラミック粉末100質量部に対して、10質量部の有機バインダと、130質量部の溶媒とを、ボールミルで混練してスラリー化することによって誘電体スラリーを得た。
【0056】
市販の基材フィルム上に、焼成後のセラミック層の厚みが1.0μmになるように、誘電体スラリーを塗布して誘電体グリーンシートを形成した。次いで、この誘電体グリーンシート上に、Niペーストを印刷及び乾燥して、図1に示すようなグリーンシート26を有するセラミック部品シート20を得た。
【0057】
セラミック部品シート20から基材フィルム10を剥離して得られた複数のグリーンシート26を積層して積層体を作製した。積層体の積層方向に垂直である端面の上には、電極層が形成されない外装用グリーンシートを積層した。このようにして得られた積層体を、所定のサイズに切断してグリーンチップを得た。このグリーンチップに脱バインダ処理を施した後、所定の条件で焼成して、図2に示すような素体100を得た。実施例1では、窒素と水素の混合ガス雰囲気(水素含有率:3体積%)下、1150℃で1時間焼成した。一方、実施例2では、窒素と水素の混合ガス雰囲気(水素含有率:1体積%)下、1200℃で1時間焼成した。実施例1及び実施例2の素体100に含まれる焼結体の組成は表1に示すとおりであった。
【0058】
【表1】

【0059】
<ラマンスペクトルの測定>
実施例1及び実施例2の素体100をそれぞれ複数作製し、市販のラマン分光分析装置を用いて、それぞれの素体100のセラミック層42部分のラマンスペクトルを測定した。測定は、チタン酸バリウムの格子振動領域を含む波数について行い、格子振動領域におけるピーク位置(波数:cm−1)を求めた。
【0060】
<アニール処理及びラマンスペクトルの測定>
次に、各素体に対し、窒素と空気の混合ガス雰囲気(酸素分圧:10−1Pa)中、200〜1050℃、2時間の再酸化処理(アニール)を施した。アニール後の素体のセラミック層部分のラマンスペクトルを再び測定し、格子振動領域におけるピーク位置(波数:cm−1)を求めた。アニール前後のピークの波数(ピーク位置)の測定結果及びピークのシフト量は、表2に示すとおりであった。なお、図4に、実施例1の素体の焼結体におけるアニール前のラマンスペクトル(点線)とアニール後(アニール温度:800℃、実線)のラマンスペクトルを示す。図4において、再酸化処理に伴うピークのシフト量は「a」である。
【0061】
【表2】

【0062】
図5は、実施例1及び実施例2におけるアニール温度−ピーク位置関係を示すグラフである。図5中、アニール温度0℃の値は、アニール前のピークの波数を示す。図5の結果から、実施例1及び実施例2の組成において、600℃以上でアニールすることによって、格子振動領域におけるラマンスペクトルのピークが高波数側にシフトすることが確認された。
【0063】
<絶縁試験>
アニール後の各素体の隣接する内部電極44間において、焼結体(セラミック層42)の抵抗値を測定した。測定は、素体を25℃と180℃の温度環境下に置いて、それぞれ行った。その結果は、表3に示すとおりであった。
【0064】
【表3】

【0065】
表3に示すとおり、アニールによって、焼結体の絶縁抵抗が向上することが確認された。特にアニール温度が700〜1000℃の場合に、焼結体の絶縁抵抗を高くすることができた。
【0066】
<HALT試験>
次に、アニール後の各素体のHALT試験を以下の手順で行った。アニールを施した素体を140℃に加熱し、隣接する内部電極44間に40Vの電圧を印加した。焼結体(セラミック層42)の抵抗値が1×10Ω以上であることを確認した後、上記電圧を継続して印加し、抵抗値が、初期値から一桁低下するまでの時間を測定した。その結果は、表3に示すとおりであった。
【0067】
【表4】

【0068】
表4に示すとおり、アニール温度800℃の時に、もっとも長い時間、絶縁抵抗を高く維持できることが確認された。一方、アニール前の素体の焼結体は、当初から絶縁抵抗が低く、初期値が1×10Ω未満であった。これは、焼結体中における酸素欠陥量が多いことに起因している。アニール温度を600℃以上にすることによって、焼結体における酸素欠損量が十分に低減されて、寿命の長い電子部品(積層セラミックコンデンサ)が得られることが確認された。
【0069】
(実施例3,4)
実施例1,2と同じ原料を用いて、実施例3,4の素体を作製した。なお、焼結の条件は、実施例3及び実施例4共に、実施例2と同じ条件とした。その後、実施例1及び2と同様にして、焼結体のラマンスペクトルを測定し、格子振動領域におけるピークの波数(ピーク位置)を求めた。さらに、実施例2と同様にしてアニールを行い、アニール処理後の焼結体のラマンスペクトルを測定し、格子振動領域におけるピークの波数を求めた。また、アニールに伴うピークのシフト量も求めた。これらの結果は、表5に示すとおりであった。
【0070】
【表5】

【0071】
図6は、実施例3及び実施例4におけるアニール温度−ピーク位置関係を示すグラフである。図6中、アニール温度「0℃」の値は、アニール前のピーク位置を示す。図6の結果から、実施例3及び実施例4においても、実施例1及び実施例2と同様に、アニール温度の上昇とともに、格子振動領域におけるラマンスペクトルのピーク位置が高波数側にシフトしていることが確認された。600〜1000℃のアニール温度で、再酸化処理することによって、焼結体における酸素欠損量が低減されることが確認された。
【0072】
(実施例5)
<圧電素子の作製>
出発原料として、酸化鉛(PbO)、酸化チタン(TiO)、酸化ジルコニウム(ZrO)、酸化ニオブ(Nb)の各粉末原料を準備した。これらの原料を、焼成後にPb[(Zn1/3Nb2/30.1(Ti0.5Zr0.50.9]Oの組成を有する圧電磁器組成物となるように、各出発原料を秤量して配合し、混合原料を調製した。
【0073】
次に、調製した混合原料と純水とをZrボールと共にボールミルで10時間混合してスラリーを得た。このスラリーを、十分に乾燥させた後でプレス成形し、900℃で仮焼成して仮焼成体を得た。次に、仮焼成体をボールミルで微粉砕した後、これを乾燥したものに、バインダとしてPVA(ポリビニルアルコール)を適量加えて造粒した。造粒した粉末を、BaTiO系セラミック粉末に代わりに用い、実施例1と同様にして、造粒粉を含有する圧電体スラリーを調製した。
【0074】
市販の基材フィルム上に、焼成後の圧電磁器層の厚みが100μmになるように、圧電体スラリーを塗布して圧電体グリーンシートを形成した。次いで、この圧電体グリーンシート上に、Cuペーストを印刷及び乾燥して、図1に示すようなグリーンシート26を有するセラミック部品シート20を得た。そして、実施例1と同様にして積層体及びグリーンチップを作製した。
【0075】
作製したグリーンチップに脱バインダ処理を施した後、所定の条件で焼成して、図2に示す素体100と同様の素体を得た。焼成は、窒素と水素の混合ガス雰囲気(水素含有率:100ppm)下、950℃で10時間加熱して行った。これによって、Pb[(Zn1/3Nb2/30.1(Ti0.5Zr0.50.9]Oの組成を有する圧電磁器組成物を主成分として含有する焼結体(圧電磁器層)を有する積層圧電素子を得た。
【0076】
<ラマンスペクトルの測定>
市販のラマン分光分析装置を用いて、上述の通り作製した圧電素子の焼結体部分(圧電磁器層)のラマンスペクトルを測定した。測定は、PZTの格子振動領域を含む波数について行い、格子振動領域におけるピークの波数(ピーク位置)を求めた。
【0077】
<アニール処理及びラマンスペクトルの測定>
次に、800℃のアニール温度で、窒素と空気の混合ガス雰囲気(酸素分圧:10−5Pa)中、2時間の再酸化処理(アニール)を施した。アニール後の圧電素子における圧電磁器部分のラマンスペクトルを再び測定し、格子振動領域におけるピークの波数(ピーク位置)を求めた。
【0078】
図7は、実施例5の圧電素子における焼結体のアニール前後における格子振動領域のラマンスペクトルを示す図である。図7には、実施例5の圧電素子における圧電磁器のアニール前のラマンスペクトル(点線)とアニール後(アニール温度:800℃、実線)のラマンスペクトルが示されている。図7から明らかなように、圧電磁器においても、再酸化処理によって、酸素欠陥量が低減され、ピーク位置がシフトすることが確認された。なお、図7において、ピークのシフト量は「a」である。
【符号の説明】
【0079】
10…基材フィルム、20…セラミック部品シート、22…セラミックグリーンシート、24…電極グリーンシート、26…グリーンシート、40…内装部、42,43…セラミック層、44…内部電極、50…外装部、60…端子電極、100…素体、200…積層セラミックコンデンサ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペロブスカイト型酸化物を含む焼結体と電極とを有する素体をアニールして前記焼結体を酸化するアニール工程を有する電子部品の製造方法であって、
前記アニール工程の前に前記ペロブスカイト型酸化物のラマンスペクトルを測定する第1測定工程と、
前記アニール工程の後に前記ペロブスカイト型酸化物のラマンスペクトルを測定する第2測定工程と、
前記第1測定工程と前記第2の測定工程で測定されたそれぞれのラマンスペクトルから格子振動領域におけるピークのシフト量を求める評価工程と、を有する電子部品の製造方法。
【請求項2】
前記シフト量に応じて、前記アニール工程におけるアニール条件を調整する請求項1記載の電子部品の製造方法。
【請求項3】
ペロブスカイト型酸化物を含む焼結体と電極とを備える電子部品の検査方法であって、
前記ペロブスカイト型酸化物の格子振動領域におけるラマンスペクトルを測定する工程を有する電子部品の検査方法。
【請求項4】
前記ラマンスペクトルのピークのシフト量に基づいて、前記ペロブスカイト型酸化物の酸素欠損量を求める工程を有する、請求項3記載の電子部品の検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−29272(P2011−29272A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−171345(P2009−171345)
【出願日】平成21年7月22日(2009.7.22)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】