説明

電子銃のコンディショニング処理方法および処理装置

【課題】 電子銃を構成する電極あるいは絶縁体の表面に存在する放電要因を効率的かつ効果的に除去し電子銃の耐電圧特性を簡便に向上させる。
【解決手段】 電子銃のコンディショニング処理装置10には、電圧供給部11、該電圧供給部11の出力電圧を調整する電圧調整部12、電子銃の電極間に流れるリーク電流を検出する電流検出部13が備えられる。また、電子銃内を減圧状態に調節するための真空排気部15、圧力検出部16が取り付けられている。そして、例えばパーソナルコンピュータ(PC)17が、電流検出部13で検出するリーク電流あるいはその基準値との比較等に基づき、データ処理を行い、電圧供給部11から接続部14を通して電極間に印加される電圧を電圧調整部12を介して制御するようになっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子銃を構成している電極あるいは絶縁体の表面に存在する放電要因を除去し、電子銃の耐電圧特性を向上させるコンディショニング処理方法および処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば電子ビーム描画装置に使用される電子銃100は、図6の略断面図に示すように、電子光学鏡筒101の上方部に配設され、一対の第1の電極102(102a、102b)、第2の電極103および第3の電極104(例えば、ウェーネルト)を有する。
【0003】
ここで、電子ビーム描画装置の動作時には、電子銃100および電子光学鏡筒101の内部が高真空(例えば、10−7Pa程度)にされ、第1の電極102の先端に取り付けられたカソード105と第3の電極104(アノード)の間に例えば50kV程度の高電圧が印加される。そして、第1の電極102aと102b間に印加される電圧(不図示)により、六硼化ランタン(LaB)から成るカソード105から熱電子が出射し上記高電圧により加速されて電子ビーム106として電子光学鏡筒101内に放出される。この電子ビーム106は、電子光学鏡筒101内に設けられた各種レンズ、各種偏向器、ビーム成形アパーチャ等(不図示)により所要の形状に整形されて描画に用いられる。
【0004】
上記電子銃100において、第3の電極104は引き出し電極107を通して高電圧源108の負極側に接続され、第1の電極102はバイアス電源109を介して上記高電圧源108の負極側に接続されている。そして、第3の電極104が第1の電極102よりも例えば500V程度負側に高くなる。また、第2の電極103は高電圧源108の正極側に接続され接地電位にされる。ここで、図示しないが、例えばステンレス製の第1の電極102a、102b、第2の電極103、第3の電極104の間は、例えばセラミックス絶縁体により絶縁分離されている。
【0005】
上述したような電子銃100に上記高電圧が印加されると、その電極表面におけるバリや傷等の突起部、塵埃等の付着物などの放電要因に起因した異常放電が、上記電極間、特に第2の電極103と第3の電極104間において発生することがある。あるいは、電極間の絶縁体表面における不純物、付着物等の放電要因に起因した大きな沿面放電の生じることがある。このような異常放電の発生頻度は、新しい電子銃の取り付け後、交換後、あるいは電子銃のメンテナンス後に、その電子銃の使用を開始してから数十時間の初期において高い。
【0006】
この異常放電の発生は、例えば電子ビーム描画装置の高電圧源108の動作時に500V程度の電圧ドロップを引き起こし、その稼動を停止させる。そして、電子ビーム描画の工程における本来必要な電子ビームが消えてしまい描画精度の悪化により製品歩留まりの低下を引き起こすと共に、描画装置の稼動停止により稼働率低下を生じさせる。
【0007】
そこで、このような異常放電の発生を抑制あるいは防止するために、新しい電子銃の取り付けあるいは交換後、また、電子銃のメンテナンス後において、電子銃のコンディショニング処理(ノッキング処理ともいう。)を施すことが一般的に行われる(特許文献1参照)。
【0008】
次に、通常に行われるこのコンディショニング処理について、図6および図7を参照して説明する。図7は、従来技術のコンディショニング処理において電子銃の電極に印加される電圧の波形の一例を示したグラフである。例えば図6に示した電子銃100のコンディショニング処理では、電子光学鏡筒101の下方側に設置されている真空排気装置(不図示)により、電子光学鏡筒101およびこれに連通している電子銃100内を真空排気して高真空(例えば10−5Pa)にする。そして、第1の電極102aと102b間の電圧印加を停止しカソード105から熱電子の出射を止めたままにして、第1の電極102にはバイアス電源109を介して、第3の電極104には直接に、それぞれ高電圧源108の負電圧を印加する。また、第2の電極103は接地電位に固定する
【0009】
ここで、高電圧源108の負電圧の絶対値は、図7に示すように時間の経過と共に一定の時間間隔で低い印加電圧から高い電圧にステップ状に徐々に増加させる。例えば、1分間隔で1kV〜5kVずつ昇圧する条件で印加電圧を増加させて、電子銃100のコンディショニング処理を行う。そして、印加電圧の最高値を電子銃の実使用電圧である例えば50kVの1.6倍程度すなわち80kVにし、所定時間たとえば10分間程度の間、この最高値の電圧を保持して異常放電の生じないことを確認して上記コンディショニング処理を終了する。このコンディショニング処理の終了判定において、異常放電が生じる場合は、所定の電圧まで降下させ、その降下させた電圧から再度コンディショニング処理を繰り返し、上述した異常放電が生じなくなるまで行う。
【0010】
このようなコンディショニング処理すなわち電極放電加工を電子銃に施すことにより、第1の電極102、第2の電極103、第3の電極104等の電極表面および上記絶縁体表面の上述した放電要因が除去され、電子銃の耐電圧特性が向上する。
【特許文献1】特開2005−026112号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、従来の電子銃のコンディショニング処理では、このコンディショニング処理中に大きな放電が高い頻度で発生することがあり、この放電により電子銃の電極あるいは絶縁体の表面荒れ、クラック等の損傷の生じることがあった。例えば、上記大きな放電により電極面がクレータ状に破損し、その小さな破砕物が別のところに付着し残存するようになる。このため電子銃の寿命が短縮し易いという問題があった。
また、コンディショニング処理において微小放電の要因となる微小な突起部、不純物あるいは付着物が充分に取りきれないと、電子銃の実使用時において上記微小放電の要因に起因するところの異常放電が発生し易いことが判明した。そして、従来のコンディショニング処理方法では、上記破砕物を含む微小放電の要因が充分に除去できないために、電子銃の耐電圧特性の向上に限界があることが明らかになった。
【0012】
このような問題は、上述したような電子ビーム描画装置に搭載される電子銃の場合に限らず、高電界により電子を放出するその他の電子源となる電子銃にあっても同様に生じる。
【0013】
本発明は、上述の事情に鑑みてなされたもので、電子銃を構成している電極あるいは絶縁体の表面に存在する放電要因を効率的かつ効果的に除去し、電子銃の耐電圧特性を向上させるコンディショニング処理方法および処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために、本発明にかかる電子銃のコンディショニング処理方法は、電子銃を構成する電極に印加する電圧をステップ状に徐々に増加させて、前記電極の表面あるいは前記電子銃を構成する絶縁体の表面に存在する放電要因を除去する電子銃のコンディショニング処理において、前記電極に流れるリーク電流を検出し、前記リーク電流に基づいて前記電圧を制御する構成になっている。
【0015】
そして、本発明にかかる電子銃のコンディショニング処理装置は、電子銃を構成する電極に印加する電圧をステップ状に徐々に増加させて、前記電極の表面あるいは前記電子銃を構成する絶縁体の表面に存在する放電要因を除去する電子銃のコンディショニング処理装置において、前記ステップ状の電圧を供給する電圧供給手段と、前記電圧の印加に伴う前記電極のリーク電流を検出するリーク電流検出手段と、該リーク電流検出手段からの検出データを処理するデータ処理手段と、該データ処理手段からの処理データに基づいて前記電圧供給手段から供給される電圧を調整する電圧調整手段と、を有する構成になっている。
【0016】
前記電子銃のコンディショニング処理方法において、電子銃内を真空排気し所定の圧力のガス雰囲気におくことが好ましい。また、前記ガスは窒素ガスであることが好ましい。
さらに、前記電子銃のコンディショニング処理装置は、電子銃を真空排気し所定の圧力のガス雰囲気に保持する雰囲気制御手段を具備することが好ましい。

【発明の効果】
【0017】
本発明により、電子銃を構成している電極あるいは絶縁体の表面に存在する放電要因を効率的かつ効果的に除去し、電子銃の耐電圧特性を簡便に向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を参照して説明する。図面において互いに同一または類似の部分には共通の符号を付して、重複説明は省略される。
【0019】
(第1の実施形態)
図1は、この実施形態の電子銃のコンディショニング処理装置の一例を示す概略構成図である。ここで、電子銃は、高電界により電子を放出する電子源であればよいが、以下の実施形態は、図6に示したように電子ビーム描画装置に取り付けられる電子銃の例で説明される。
【0020】
図1に示すように、本実施形態の電子銃のコンディショニング処理装置10には、電子銃100に高電圧を供給する電圧供給部11、該電圧供給部11の電圧値を調整する電圧調整部12、電子銃100の電極間に流れるリーク電流を検出する電流検出部13が備えられている。ここで、電圧供給部11からは、接続部14により短絡される第1の電極102および引き出し電極107に負極の高い電圧が印加されるようになっている。また、電子銃100内を減圧状態に調節するための真空排気部15および圧力検出部16が取り付けられている。
そして、例えばパーソナルコンピュータ(PC)17が備えられ、電流検出部13で検出する上記リーク電流、圧力検出部16で検出する電子銃内の真空度等の検出データを用いた演算等のデータ処理を行い、また、コンディショニング処理装置10の一括制御を行うようになっている。
【0021】
電圧供給部11は、電圧供給手段を構成し、負極の高電圧に昇圧できる直流の高電圧源を備えている。この高電圧源では、その負極側が接続部14を介して電子銃100の第1の電極102および第3の電極104に接続され、その正極側が例えば放電保護用の抵抗体を介して接地されている。そして、第1の電極102および第3の電極104と第2の電極103の間に、後述するような高電圧がステップ状に徐々に増加して印加される。上記高電圧源は、例えばコンデンサを介して昇圧される周知の多段昇圧式構造になっている。ここで、高電圧源としては、電子銃100の実動作に使用される高電圧源がそのまま用いられてもよいし、この実動作用のものとは別個の電圧可変の高電圧源が使用されるようになっていても構わない。
【0022】
電圧調整部12は、電圧調整手段を構成し、PC17からの指令により電圧供給部11の高電圧源からの直流の出力電圧を自在に昇圧あるいは降圧する。例えば、その出力電圧を、任意のタイミングで一段高い電圧にステップ状に昇圧したり、ステップ状に一段あるいは数段低い電圧に降圧する。このようにして、その詳細は後述されるように、電子銃の電極間の高電圧が任意のタイミングでステップ状に徐々に増加して印加される。
【0023】
電流検出部13は、リーク電流検出手段を構成し、電流計を備えており、電子銃100の第1の電極102および第3の電極104と第2の電極103間に流れるリーク電流を検出する。そして、この電流検出部13は、A/D変換器を内蔵しリーク電流をA/D変換しデジタル信号にしてその検出データをPC17に供給するようになっている。あるいは、所定の時間間隔でリーク電流値をサンプリングしその検出データをPC17に供給するようになっていてもよい。また、電流検出部13は、予め設定したリーク電流の基準値と放電電流を比較することができ、その基準値との大小関係を判定することのできる回路構成を備えていてもよい。この場合、電流検出部13はPC17と共にデータ処理手段を構成する。
ここで、電流計は、上述した高電圧源の正極側の抵抗体に生じる電位を検出するものであってもよいし、例えば高電圧源の正極側が接地される導線と電磁結合した誘導コイルの電流を計測する構造になっていても構わない。そして、このリーク電流は、例えばオシロスコープのような装置で表示できるようになっていると好適である。
【0024】
真空排気部15は、雰囲気制御手段を構成し、例えばイオンポンプ、ターボ分子ポンプ等の真空ポンプを備えた真空排気装置であり、電子銃内の真空度を10−5Pa以下の低圧力で制御するものが好ましい。このような真空排気装置は、電子銃が搭載される装置、例えば図6に示した電子ビーム描画装置の電子光学鏡筒101の減圧に使用される真空排気装置により兼用される。あるいは、それとは別個の真空排気装置が備えられても構わない。
【0025】
圧力検出部16は、同様に雰囲気制御手段を構成し、通常のB−A真空計のような電離真空計を備え、電子銃100内の真空度を検出してその検出データをPC17に供給するようになっている。
【0026】
PC17は、データ処理手段を構成し、例えばノートパソコンからなり、マイクロプロセッサー(MPU)を内蔵し、各種の演算等のデータ処理を行うと共に、メモリ部、入出力部、表示部を備えている。そして、このようなパーソナルコンピュータが、電子銃のコンディショニング処理における全体の制御を簡便に行う。上述したように、PC17は、電流検出部13で検出するリーク電流あるいはリーク電流の基準値との大小関係等のデータを受けてデータ処理し、電圧調整部12に指令を与えて電圧供給部11の出力電圧が所要の電圧になるように制御する。ここで、PC17は、電流検出部13が検出したリーク電流とその基準値を比較しその大小関係を演算処理するようになっていてもよい。その詳細は後述されるが、上記リーク電流の基準値はPC17の入出力部から自在に指定される。
また、PC17は、圧力検出部16から供給される電子銃100内の真空度等の検出データに基づき、真空排気部15を制御して電子銃内の真空度が例えば10−5Pa程度の一定圧力になるように制御する。
また、PC17は、内部にタイマーを備えておりコンディショニング処理の経過時間を制御する。
【0027】
次に、本実施形態の電子銃のコンディショニング処理装置の動作について図1、図2、図3および図6を参照して説明する。そして、本実施形態にかかる電子銃のコンディショニング処理方法は上記動作説明の中で示される。ここで、図2はこのコンディショニング処理装置の動作を示すフローチャートである。図3は上記コンディショニング処理装置の動作における印加電圧の波形およびリーク電流の波形の一例を示したグラフである。
【0028】
例えば電子銃100のコンディショニング処理では、図1で説明した真空排気部15により、電子銃100内を真空排気して例えば1×10−5Paにする。そして、図2のステップS1において、図1の電圧供給部11からの出力電圧である印加電圧をV=Vminにして、電子銃100の第2の電極103を接地したままに、コンディショニング処理において絶対値が最小になる最小負電圧Vminを第1の電極102および第3の電極104と第2の電極103間に印加する。ここで、Vminは予めPC17から設定入力した電圧値である。
【0029】
そして、印加電圧をV=Vminに保持して、図2のステップS2において、電流検出部13により第1の電極102および第3の電極104と第2の電極103間のリーク電流Iを検出し、後述するような比較判定を行う。図3の印加電圧の波形に示すように、印加電圧をV=Vminにステップ状に昇圧すると、その昇圧時において、高電圧源の上記コンデンサへの充電電流(不図示)がリーク電流Iとして一瞬(1秒間程度)現れる。しかし、この充電電流は上記コンデンサ容量等、高電圧源の回路特性により決まっているので、リーク電流Iの検出から除外する。
【0030】
通常、このようなリーク電流検出においては、リーク電流Iは、図3のリーク電流の波形に示すように小さな放電電流を示しながら、上記昇圧時からの時間経過とともに徐々に低下する。そこで、図3のリーク電流の波形に示したように、リーク電流Iの第1基準値Iおよび第1基準値Iを設定し、リーク電流Iと第1基準値Iおよび第1基準値Iとの大小関係を比較判定する。これ等の判定は、上述したように、電流検出部13から供給されるリーク電流の検出データあるいは上記大小関係のデータをPC17においてデータ処理して行われる。
【0031】
ここで、第1基準値Iは、大きな放電により電子銃の電極表面に損傷が生じるのを抑制あるいは防止するために設定され、第1基準値Iは、印加電圧Vを一段高い電圧Vuに昇圧するための基準として設定される。この電圧Vuは、任意に設定される値であり、例えば従来の技術で説明した1kV〜5kVの範囲で予め決められる。
【0032】
図2のステップS3において、リーク電流I≧Iかどうかの判定がNO(N)であると、ステップS4において、リーク電流I<Iかどうかの判定を行い、その判定がNであると上記リーク電流検出は続行される。そして、リーク電流I≧Iかどうかの判定がYES(Y)であると、ステップS5において、PC17は、電圧調整部12に印加電圧Vの降圧の指令を直ちに送り、その指令により電圧供給部11の出力電圧を電圧Vuだけ降下させ、印加電圧を(V−Vu)にして上記と同様なリーク電流検出を行う。
【0033】
また、ステップS4において、リーク電流I<Iかどうかの判定を行い、その判定がYであるとステップS6において、印加電圧V=Vmaxかどうかの判定に移る。ここで、Vmaxは、コンディショニング処理において絶対値が最大になる最大負電圧である。このステップS6において印加電圧VがVmaxに達していないと、ステップS7において、PC17は、電圧調整部12に直ちに印加電圧Vの昇圧の指令を送り、その指令により電圧供給部11の出力電圧を電圧Vuだけ増加させる。そして、印加電圧を(V+Vu)にして上述したのと全く同様のリーク電流検出を行う。
【0034】
そして、上記の繰り返しを行い、ステップS6において印加電圧VがVmaxに達すると、印加電圧Vmaxに固定したままでコンディショニング処理の後述されるような終了判定がなされる。ここで、Vmaxは、電子銃の実使用電圧を50kVとすると、その電圧の1.6倍程度すなわち80kVである。
【0035】
このように、本実施形態では、電子銃のコンディショニング処理において、電子銃の電極間に印加するステップ状の高電圧は、その電極間のリーク電流に基づいたPC17による自動制御で行われる。そして、図3のリーク電流Iの波形Aに示すように、リーク電流I≧Iを満たすような放電が生じた場合には、印加電圧Vは電圧Vuだけ降下する。また、同図のリーク電流Iの波形Bに示すように、例えば微小放電が続きリーク電流I<Iが満たされない場合は、その電圧において長い時間に保持される。逆に、リーク電流I<Iが短時間に満たされればその電圧における保持時間は短いものになる。このようにして、図3の印加電圧の波形に示したように、印加電圧Vは、その保持時間がリーク電流Iにより異なったものになり、VminからVmaxまでステップ状に増加する。上述したように、逆に電圧降下が生じる場合もある。
【0036】
上記コンディショニング処理の終了判定は、図2に示したステップS6において印加電圧VがVmaxに達すると、ステップS8において一定の電圧Vmaxを電子銃の電極間に印加し保持したままで、その電極間のリーク電流検出を行う。そして、リーク電流Iが予め決めた一定時間のあいだ所定の電流値以下に維持されれば電子銃のコンディショニング処理が終了する。
【0037】
ここで、ステップS9の判定において、電極間のリーク電流Iが予め決めた第3基準値I以上であると、ステップ10において、PC17は、電圧調整部12に印加電圧Vの降圧の指令を送り、その指令により電圧供給部11の出力電圧を電圧Vdだけ降圧させる。そして、再度、上述したリーク電流Iを基準として印加電圧がステップ状に増加するサイクルへと戻すことになる。ここで、第3基準値Iは、異常放電のような大きな放電に対応するものであり、例えば高圧電源の電流駆動能力を超えるような電流値に設定すればよい。この場合、リーク電流Iが第3基準値I以上になると、一時的に高圧電源の電圧ドロップが生じることになる。
【0038】
そして、ステップS9の判定において電極間のリーク電流Iが予め決めた第3基準値I未満であり、更に、ステップ11の判定においてリーク電流Iが予め決めた第4基準値I以下でしかも一定時間維持されると、電子銃のコンディショニング処理が終了する。ここで、第4基準値Iは例えば0.3μAに設定され、上記維持時間は例えば10分程度に設定される。
【0039】
従来の電子銃のコンディショニング処理においては、一定の保持時間で一定電圧ずつ昇圧させる条件で電極間の印加電圧を増加させていたが、本実施形態では、上述したようにリーク電流Iを基準にした印加電圧の制御を行う。例えば、上述した第1基準値Iを基準にすることにより、電子銃の電極間に生じる大きな放電の発生を抑制あるいは防止する。これにより、従来のコンディショニング処理で高い頻度で生じていた大きな放電による電子銃の電極表面あるいは絶縁体表面の破損、それに伴う電子銃の寿命短縮という問題は解消される。そして、上述の第2基準値Iを基準とすることにより、リーク電流が多くなる印加電圧ではその保持時間を長くし放電要因を充分に除去する。逆に、リーク電流が少なくなる印加電圧では短い保持時間にする。これにより、従来の場合に較べて効率的で効果的なコンディショニング処理が可能になる。
【0040】
また、本実施形態では、上述した第1基準値Iを基準にすることにより、コンディショニング処理において微小放電の要因となる微小な突起部、付着物あるいは不純物が充分に取りきれるようになる。更には、上述した大きな放電に伴う破砕物の付着が低減することから、電子銃の実使用時において上記微小放電の要因に起因するところの異常放電が大きく低減する。例えば、従来のコンディショニング処理方法で生じていた異常放電の頻度は、本実施形態により1/10程度に低減することが確認された。
【0041】
上記実施形態においては、リーク電流Iが所定の第2基準値I未満に達すると直ちに印加電圧が一段高い電圧Vu上昇する場合について説明している。ここで、印加電圧の保持では、所定の最少時間の保持を行うように設定してもよい。この場合、最少の保持時間は従来の技術における一定時間(例えば1分間)より短くする。
【0042】
(第2の実施形態)
この第2の実施形態は、放電が比較的に生じ易い所定ガスを電子銃内に導入して、コンディショニング処理を行うことを特徴とする。図4は、この実施形態の電子銃のコンディショニング処理装置の一例を示す概略構成図である。
【0043】
図4に示すように、第2の実施形態の電子銃のコンディショニング処理装置20には、第1の実施形態で説明したのと同様に、電子銃100に高電圧を調整して供給するための電圧供給部11と電圧調整部12、および、電子銃100の電極間に流れるリーク電流を検出するための電流検出部13が備えられている。そして、接続部14を介して短絡する第1の電極102および引き出し電極107に負極の高い電圧が印加されるようになっている。
更に、ガス供給部18が備えられ、例えば窒素(N)ガスのような所定ガスが電子銃100内に制御して供給させるようになっている。ここで、電子銃100内を上記所定ガスの雰囲気における減圧状態に調節するための真空排気部15および圧力検出部16が取り付けられている。
【0044】
そして、第1の実施形態で説明したのと同様に、PC17が、電流検出部13で検出するリーク電流あるいはその基準値との大小関係、圧力検出部16で検出する電子銃内の真空度等の検出データのデータ処理を行うと共に、コンディショニング処理装置10の全体の制御を行うようになっている。
【0045】
ガス供給部18は、雰囲気制御手段を構成し、ガス流量計あるいは圧力制御バルブ等を備えており、電子銃100内への所定ガスの導入量を制御するようになっている。ここで、電子銃内部で例えばその上部から下部に向かうようなガスの流れ(ガスフロー)が生じるような構造になっていると好適である。
【0046】
真空排気部15は、第1の実施形態で説明したのと同様に真空ポンプを備えた真空排気装置であり、電子銃内の真空度を10−1Pa以下の低圧力で制御するものが好ましい。ここで、ガス供給部18から電子銃100に導入される所定ガスは、PC17を通して真空排気部15により圧力制御される。
【0047】
PC17は、第1の実施形態で説明したのと同様な構成になっており、ガス供給部1からの所定ガスの導入量を、圧力検出部16からの検出データに基づき制御する。
【0048】
そして、その他の電圧供給部11、電圧調整部12、電流検出部13および圧力検出部16は、第1の実施形態で説明したのと同様な構成になっている。
【0049】
第2の実施形態の電子銃のコンディショニング処理方法では、電子銃100内を例えばNガスにし、その圧力を10−1Pa程度と第1の実施形態の場合の10倍程度の圧力にする。そして、第1の実施形態で説明したように、電子銃の電極間のリーク電流Iを基準にして、その電極間の印加電圧をステップ状に増加させ、電子銃のコンディショニング処理を行う。また、この場合のコンディショニング処理の終了判定でも、電子銃100内が上記所定ガスの雰囲気にある以外は第1の実施形態で説明したのと同様に行う。但し、印加電圧がVmaxでの維持時間は2時間程度にされる
【0050】
第2の実施形態では、電子銃のコンディショニング処理において電子銃内での放電が第1の実施形態の場合よりも生じ易く、上述した放電要因の電極放電加工による除去が容易になる。これについて、図5を参照して説明する。図5はこの効果を説明するための第2の電極103と第3の電極104間の模式図となっている。
図5に示すように、第2の電極103が接地され、第3の電極104に高い負電圧が印加された状態で、第3の電極104の表面に突起部、付着物、不純物等の放電要因19が存在すると、この周りが高電界になり一次電子がこの放電要因19から出射する。そして、この一次電子は、この電極間に存在する所定ガスたとえばNガスに衝突し、Nガスを電離する。そして、正電荷を帯びた窒素イオンNは、上記高電界により放電要因19側に引きつけられ加速して上記放電要因19をスパッタリングで除去するようになる。この所定ガスの帯電により上記電極放電加工が促進されることになる。
【0051】
そして、上記Nガスの電離したNイオンは、例えばステンレス製の電極表面の鉄、クロム等の金属と反応し絶縁体の窒化膜を放電要因19の領域に形成する。この絶縁皮膜が放電を更に低減させるようになる。
【0052】
また、所定ガスは、第1の実施形態の場合よりも例えば10倍程度に電極間に存在し、そのガスカーテン作用により破砕物の付着を抑制する効果を有する。例えば、電子銃のコンディショニング処理において大きな放電が起こり、その放電による破砕物が電極間に飛散したとしても、これ等の破砕物は所定ガスにより遮蔽されその付着が大きく低減するようになる。ここで、所定ガスに一定方向へのガスフローが生じていると、それに沿って破砕物が流され上記付着の低減効果が増大する。
【0053】
本実施形態では、第1の実施形態で説明したのと同様の効果が生じる。そして、上述したような所定ガスの導入により、第1の実施形態の場合よりも放電要因の電極放電加工による除去が容易になる。更には、コンディショニング処理中にたとえ大きな放電が起こったとしても、それに伴う破砕物の付着が抑制されることから、電子銃の実動作時において破砕物の付着に起因するところの異常放電が大幅に低減する。
【0054】
第2の実施形態のコンディショニング処理の終了判定においては、所定ガスの雰囲気において印加電圧Vmaxで2時間程度の間維持した後に、第1の実施形態の場合と同様に10−5Pa程度まで電子銃内を真空排気し、更に印加電圧Vmaxで10分程度の間維持するようにしてもよい。これにより、電子銃の電極表面および絶縁体表面における所定ガスの吸着量を低減させることができる。
【0055】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、上述した実施形態は本発明を限定するものでない。当業者にあっては、具体的な実施態様において本発明の技術思想および技術範囲から逸脱せずに種々の変形・変更を加えることが可能である。
例えば、上記実施形態ではパーソナルコンピュータにより電子銃のコンディショニング処理をする場合について説明しているが、電流検出部13から供給されるリーク電流に関する検出データをデータ処理し、この処理データにより電圧調整部12を介して電圧供給部11の出力電圧を制御するデータ処理手段であればどのような構成であってもよい。ここで、コンディショニング処理を一括制御する制御部があっても構わない。
また、上記コンディショニング処理では電子銃内を減圧にしているが、常圧でのコンディショニング処理であってもよい。この場合には、真空排気部15、圧力検出部16は必ずしも必要でない。
また、電子銃のコンディショニング処理において、印加電圧Vmaxで一定時間維持する最終判定の工程を削除するようなものであってもよい。
また、電子銃のコンディショニング処理において、印加電圧Vmaxで一定時間維持する最終判定の工程を削除するようなものであってもよい。
また、上記電流検出部13で検出するリーク電流Iとその基準値との大小関係の判定において、判定条件の「以上」と「越える」、「以下」と「未満」をそれぞれ入れ替えてもよい。
また、上記実施形態では、電子銃のコンディショニング処理において第1の電極102と第3の電極104とを接続部14で短絡する場合について説明しているが、バイアス電源109が間に存在する場合であっても構わない。
そして、本実施形態の電子銃のコンディショニング処理方法は、図1あるいは図4で説明したコンディショニング処理装置を用いる方法に限定されるものでなく、その他にどのような処理装置を用いても構わない。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】第1の実施形態にかかる電子銃のコンディショニング処理装置の一例を示す概略構成図。
【図2】第1の実施形態のコンディショニング処理装置の動作を示すフローチャート。
【図3】第1の実施形態のコンディショニング処理装置の動作における印加電圧の波形およびリーク電流の波形の一例を示したグラフ。
【図4】第2の実施形態にかかる電子銃のコンディショニング処理装置の一例を示す概略構成図。
【図5】第2の実施形態における効果を説明するための模式図。
【図6】本発明を説明するための電子銃の一例を示した略断面図。
【図7】従来の技術のコンディショニング処理方法を説明するために電子銃への印加電圧の波形の一例を示したグラフ。
【符号の説明】
【0057】
10、20 電子銃のコンディショニング処理装置
11 電圧供給部
12 電圧調整部
13 電流検出部
14 接続部
15 真空排気部
16 圧力検出部
17 パーソナルコンピュータ(PC)
18 ガス供給部
19 放電要因
100 電子銃
101 電子光学鏡筒
102,102a,102b 第1の電極
103 第2の電極
104 第3の電極
105 カソード
106 電子ビーム
107 引き出し電極
108 高電圧源
109 バイアス電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子銃を構成する電極に印加する電圧をステップ状に徐々に増加させて、前記電極の表面あるいは前記電子銃を構成する絶縁体の表面に存在する放電要因を除去する電子銃のコンディショニング処理方法において、
前記電極に流れるリーク電流を検出し、前記リーク電流に基づいて前記電圧を制御することを特徴とする電子銃のコンディショニング処理方法。
【請求項2】
前記電極に流れるリーク電流が第1の基準値未満あるいは以下に達した時点で、前記電圧を一段高い電圧へとステップ状に昇圧させることを特徴とする請求項1に記載の電子銃のコンディショニング処理方法。
【請求項3】
前記電極に流れるリーク電流が前記第1の基準値より大きな第2の基準値以上あるいはその値を越える場合には、前記電圧を一段低い電圧に降圧させてから前記コンディショニング処理を続行することを特徴とする請求項1又は2に記載の電子銃のコンディショニング処理方法。
【請求項4】
前記電極に印加する電圧を前記電子銃の実使用電圧より高い電圧にした後、前記高い電圧を一定時間印加し続け、電子銃のコンディショニング処理の終了判定をすることを特徴とする請求項1,2又は3に記載の電子銃のコンディショニング処理方法。
【請求項5】
電子銃を構成する電極に印加する電圧をステップ状に徐々に増加させて、前記電極の表面あるいは前記電子銃を構成する絶縁体の表面に存在する放電要因を除去する電子銃のコンディショニング処理装置において、
前記ステップ状の電圧を供給する電圧供給手段と、前記電圧の印加に伴う前記電極のリーク電流を検出するリーク電流検出手段と、該リーク電流検出手段からの検出データを処理するデータ処理手段と、該データ処理手段からの処理データに基づいて前記電圧供給手段から供給される電圧を調整する電圧調整手段と、を有することを特徴とする電子銃のコンディショニング処理装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−78103(P2008−78103A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−259373(P2006−259373)
【出願日】平成18年9月25日(2006.9.25)
【出願人】(504162958)株式会社ニューフレアテクノロジー (669)
【Fターム(参考)】