説明

電子鍵盤楽器

【課題】コストダウンが図れる電子鍵盤楽器を提供する。
【解決手段】鍵4の回転動作に応じて上下方向に回転してアクション荷重を付与するハンマー部材5に形成された可動接点(第1可動接点42と第2可動接点43)と、ハンマー部材5の回転に伴って前記可動接点と接離可能に接触する固定接点を有するスイッチ基板(スイッチ基板21)と、を備えた構成とする。ハンマー部材5の回転に伴ってハンマー部材5に形成された前記可動接点がスイッチ基板21の固定接点に接離可能に接触し、これら可動接点と固定接点から押鍵操作に応じた信号を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電子ピアノや電子オルガンなどの電子鍵盤楽器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子鍵盤楽器においては、特許文献1に記載されているように、鍵を押鍵操作によって上下方向に回転させた際に、その鍵の回転動作に応じてハンマー部材が上下方向に回転して鍵にアクション荷重を付与することにより、アコースティックピアノの鍵タッチ感に近似した鍵タッチ感が得られるように構成されたものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平05−73029号公報
【0004】
この種の電子鍵盤楽器は、鍵の押鍵操作に応じたゴムスイッチの動作によって発生する信号に基づいて楽音の発音を制御する構成になっている。ゴムスイッチは、基板の表面に設けられたゴムシートにドーム状の膨出部が設けられた構成になっており、この膨出部内に可動接点を備えるとともに、この可動接点に対応する基板の箇所に固定接点を備えている。このゴムスイッチは、膨出部がハンマー部材によって押されて弾性変形した際に、可動接点が対応する固定接点に接触するように構成され、この接触により前記信号が出力される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このような従来の電子鍵盤楽器では、上記ゴムシートが必要不可欠である。上記ゴムシートは、ドーム状の膨出部を形成するのに工数がかかるため、コストダウンの阻害要因となっていた。
【0006】
この発明が解決しようとする課題は、少なくとも上記ゴムシートに相当する部材が不要になりコストダウンが図れる電子鍵盤楽器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、上記課題を解決するために、次のような構成要素を備えている。
請求項1に記載の発明は、鍵盤シャーシと、この鍵盤シャーシ上に設けられて押鍵操作に応じて上下方向に回転する鍵と、この鍵の回転動作に応じて上下方向に回転して前記鍵にアクション荷重を付与するハンマー部材と、このハンマー部材に形成された可動接点と、前記ハンマー部材の回転に伴って前記可動接点が接離可能に接触する固定接点を有するスイッチ基板と、を備えていることを特徴とする電子鍵盤楽器である。
ここで、「接離可能」とは、接触したり離れたりすることが可能であることを意味する。
【0008】
請求項2に記載の発明は、前記可動接点の少なくとも前記固定接点に接触する部分が導電性を有する弾性材料で形成されていることを特徴とする請求項1に記載の電子鍵盤楽器である。
【0009】
請求項3に記載の発明は、前記ハンマー部材には、導電性を有する弾性材料からなるコーティング部が設けられており、前記可動接点は、前記コーティング部における前記固定接点に対応する部分に突起状に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の電子鍵盤楽器である。
【0010】
請求項4に記載の発明は、前記可動接点が前記ハンマー部材に複数個設けられており、前記固定接点は前記スイッチ基板に前記複数の可動接点とそれぞれ対応して設けられ、前記複数の可動接点の高さが互いに異なっていることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載の電子鍵盤楽器である。
【0011】
請求項5に記載の発明は、前記可動接点が、前記ハンマー部材の上面と下面とにそれぞれ形成されており、前記スイッチ基板は、前記ハンマー部材の回転動作に伴う前記可動接点の上下方向の移動領域上における上部と下部とにそれぞれ配置されていることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれかに記載の電子鍵盤楽器である。
【発明の効果】
【0012】
この発明によれば、ハンマー部材の回転に伴ってハンマー部材に形成された可動接点がスイッチ基板の固定接点に接離可能に接触し、これら可動接点と固定接点から押鍵操作に応じた信号を得ることができる。このため、前述したゴムスイッチの少なくともゴムシートに相当する部品が不要になりコストダウンが図れる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】この発明を適用した電子鍵盤楽器の第1実施形態を示した平面図である。
【図2】図1に示された電子鍵盤楽器のA−A矢視における拡大断面図であり、ハンマー部材が下限位置にある状態を示す図である。
【図3】図1に示された電子鍵盤楽器のA−A矢視における拡大断面図であり、ハンマー部材が上限位置にある状態を示す図である。
【図4】図2に示された鍵盤シャーシとスイッチ基板とハンマー部材を示した拡大断面図である。
【図5】図2に示されたスイッチ基板を示し、(a)はその側面図、(b)はその下面図である。
【図6】図2に示されたスイッチ基板の固定接点とハンマー部材の可動接点とを示し、(a)は第1可動接点のみが第1固定接点に接触した一部オンの状態を示した拡大断面図、(b)は各可動接点がそれぞれ各固定接点に接触した全部オンの状態を示した拡大断面図である。
【図7】この発明を適用した電子鍵盤楽器の第2実施形態の拡大断面図である。
【図8】図7に示された下側のスイッチ基板の固定接点と、ハンマー部材の下側の可動接点とを示し、(a)は各可動接点がそれぞれ各固定接点に接触した全部オンの状態を示した拡大断面図、(b)は第2可動接点のみが第2固定接点に接触した一部オンの状態を示した拡大断面図である。
【図9】可動接点の変形例を示した拡大断面図である。
【図10】ハンマー部材の変形例を示した拡大側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図1〜図6を参照して、この発明を適用した電子鍵盤楽器の第1実施形態について説明する。
この電子鍵盤楽器は、図1に示すように、楽器本体1を備えている。この楽器本体1には、鍵盤部2が上方に露出した状態で設けられている。この鍵盤部2は、図2に示すように、楽器本体1内に設けられた鍵盤シャーシ3と、この鍵盤シャーシ3上に音階順に配列された状態で上下方向に回転可能に設けられた複数の鍵4と、鍵盤シャーシ3に設けられて複数の鍵4にアクション荷重をそれぞれ付与する複数のハンマー部材5と、を備えている。
【0015】
鍵盤シャーシ3は、図2に示すように、楽器ケースの下部ケースを兼ねるものであり、その前端部(図2では右端部)には、前脚部8が底部から上方に突出して形成されており、この前脚部8の前側上部には、鍵4の前端面に対応する前カバー部9が更に上方に突出して形成されている。また、この鍵盤シャーシ3のほぼ中間部には、図2に示すように、ハンマー部材5を回転可能に支持するハンマー支持部10が前脚部8とほぼ同じ高さで形成されている。
【0016】
この場合、ハンマー支持部10の前側(図1では右側)には、立上り部11が鍵盤シャーシ3の底部から上方に向けて起立した状態で形成されている。この立上り部11には、ハンマー部材5の後述する鍵当接部40が挿入される開口部11aが設けられている。また、鍵盤シャーシ3におけるハンマー支持部10の前側上部(図2では右側上部)には、図2に示すように、鍵4の横振れを防ぐための鍵ガイド部12が上方に突出して形成されている。
【0017】
この鍵盤シャーシ3における鍵ガイド部12とハンマー支持部10との間には、図4に示すようにハンマー部材5が自重で回転して吊り下げられる際に、ハンマー部材5の先端部(図2では右端部)に位置する鍵当接部40が挿入可能なスリット孔13がそれぞれ形成されている。
また、ハンマー支持部10の後側(図2では左側)に位置する鍵盤シャーシ3上には、図2に示すように、鍵4をそれぞれ回転可能に支持するための複数の鍵支持部14が上方に突出した状態で鍵4の配列方向に沿って所定間隔で形成されている。
【0018】
さらに、この鍵支持部14の後端下部(図2では左端下部)には、後脚部15が鍵盤シャーシ3の上部から底部に亘って形成されている。また、この鍵盤シャーシ3の所定箇所における上部下面には、図2および図4に示すように、複数の取付ボス部16が底部に向けて形成されており、この複数の取付ボス部16の各下端部には、図2に示すように、鍵盤シャーシ3の底部を塞ぐための底板17がビス17aによって取り付けられている。
【0019】
また、鍵盤シャーシ3の後部上側(図2では左上側)には、後脚部15の上端から前側に略水平に伸びるように上壁部18が形成され、前述の鍵支持部14はこの上壁部18の上面に形成されている。また、この上壁部18の前端部からは下方に伸びるように立下り部19が形成され、この立下り部19と上壁部18よりなる角部には、後述するスイッチ基板21の前端部を露出させる開口部20が形成されている。
【0020】
また、鍵盤シャーシ3の後部上側(図2では左上側)には、図2に示すように、スイッチ基板21が鍵4の配列方向に沿って連続して設けられている。このスイッチ基板21は、その上面が上壁部18の下面に接合するように配置されて、上壁部18の後端部に下向きに形成された取付ボス部22と、立下り部19の前面側に上向きに形成された取付ボス部23とに対して、それぞれビス22a,23aによって固定されている。なおこの取付状態では、スイッチ基板21の前端側が前述の開口部20を貫通し前側に伸びて鍵盤シャーシ3の上面側に露出している。そしてスイッチ基板21は、開口部20よりも前側に伸びた前端部においてビス23aにより取付ボス部23の上面に固定されている。
【0021】
このスイッチ基板21の下面には、図5に示すように、回路導体としての配線パターン24(図2では図示省略)が、各ハンマー部材5に対してそれぞれ形成されている。この場合、各配線パターン24は、図5(b)に示すようにライン24aとライン24bの2系統に分かれており、各ライン24a,24bに第1固定接点25と第2固定接点26とがそれぞれ形成されている。これら第1固定接点25と第2固定接点26とは、この場合、図5(b)に示すように配線パターン24の各ライン24a,24bの途中が櫛歯状に形成されて不連続とされている部分である。なお、第1固定接点25と第2固定接点26とは、鍵4の前後方向に並んで形成され、この場合、第1固定接点25の方が、第2固定接点26よりも前側(図2では右側)に位置している。
【0022】
この配線パターン24は、特に限定されないが、例えば導電インク(銀ペースト、カーボンペースト、銀ペーストにカーボンを混ぜたブレンドなど)のスクリーン印刷によって形成され、各固定接点25,26を除いた部分の表面は図示しないレジスト(絶縁インク)によって覆われて保護絶縁されている。なお、各固定接点25,26の部分は、接点として好ましい耐久性等を確保すべく、配線パターン24の他の部分とは異なる構造になっていてもよい。例えば、各固定接点25,26の部分は、抵抗値の低い銀ペーストの上に酸化に強いカーボンペーストを重ねて印刷した構造とし、他の部分は銀ペーストのみよりなる構造などがあり得る。
【0023】
そしてスイッチ基板21は、これら第1固定接点25又は第2固定接点26に導電性物体が接触して不連続部分が短絡することによって配線パターン24の各系統で構成される回路が電気的に導通し、逆にこれら第1固定接点25又は第2固定接点26に導電性物体が接触しないことによって配線パターン24の各系統で構成される回路が電気的に非導通となって、スイッチとしての機能が果たされるように構成されている。
【0024】
すなわち、第1固定接点25と第2固定接点26とは、それぞれ一対の導電体よりなり、導電性物体(後述する可動接点42,43)が接触することによって、前記一対の導電体が短絡して導通するように構成されたものである。以下では、上述のように固定接点が短絡した回路の導通状態をオン(ON)とし、逆に固定接点が短絡していない回路の非導通状態をオフ(OFF)とし、このような固定接点のオン・オフの状態変化に応じた信号をスイッチ信号という。なお、このスイッチ信号を電圧変化として図示しない制御部に入力するための入力回路は、例えばスイッチ基板21に形成されていてもよいし、図示しない他の基板に形成されていてもよいが、その構成は公知の回路構成と同様でよいので、その図示や詳細説明は省略する。
【0025】
上記入力回路の基本構成の一例を挙げると、例えば各固定接点25,26の一方側(例えば図5(b)の各ライン24a,24bにおける各接点25,26よりも上側の部分)に、それぞれプルアップ抵抗を介して電圧を印加するとともに、他方側(例えば図5(b)の各ライン24a,24bにおける各接点25,26よりも下側の部分)はそれぞれグランドに接続する構成とする。そして、前記一方側の電圧が、前記スイッチ信号として前記制御部で読み取られる構成とすればよい。この場合、オンの状態ではスイッチ信号の電圧は低電位(グランドレベル)となり、オフの状態では高電位となって、いわゆるアクティブローの信号形態となるが、これに限定されず、いわゆるアクティブハイの信号形態もあり得ることはいうまでもない。
【0026】
また図2に示すように、スイッチ基板21の前端(ビス23aよりも前側)の上面には、各鍵4の位置にそれぞれ対応させてチップLED27が搭載されている。このチップLED27は、弾く鍵盤を光で教えるナビ機能等のために、各鍵4を内側から光らせる光源である。このようにスイッチ基板には、スイッチ以外を構成する回路要素が搭載されていてもよい。
【0027】
一方、複数の鍵4は、図1に示すように、白鍵と黒鍵とを備えている。ただし、この実施形態では白鍵のみについて説明している。この鍵4は、その後端部(図2では左端部)が鍵盤シャーシ3の鍵支持部14に支持軸14aによって上下方向に回転可能に取り付けられている。
【0028】
また、鍵4の前側(図2では右側)には、図2に示すように、ハンマー部材5を押圧して回転させるためのハンマー押圧部35が、鍵盤シャーシ3の立上り部11に沿って下側に突出して形成されている。この場合、ハンマー押圧部35の下部には、ハンマー部材5の先端部(図2では右端部)に位置する鍵当接部40が摺動可能に挿入された状態で、この鍵当接部40を保持するハンマー保持部36が形成されている。
【0029】
ところで、ハンマー部材5は、図2に示すように、ハンマー本体37と、このハンマー本体37の後部(図2では左側部)に設けられた錘部38と、ハンマー本体37の前側部(図2では右側部)に設けられた回転取付部39と、ハンマー本体37の前側に位置する先端部に設けられた鍵当接部40とを備えている。錘部38の表面は、クッション性を有するコーティング樹脂41(コーティング部)が2色成型によって被覆されている。この場合、コーティング樹脂41は、導電性と弾性(変形可能で変形が復元する性質)を持ち、好ましくは高い衝撃吸収性を有する材料(例えば導電シリコーンゴム)よりなる。
【0030】
このハンマー部材5は、図2に示すように、ハンマー本体37の鍵当接部40を鍵盤シャーシ3の下側から立上り部11の開口部11a内に挿入させ、この状態で回転取付部39を鍵盤シャーシ3のハンマー支持部10に設けられた支持軸10aに回転可能に取り付けることにより、ハンマー本体37が上記支持軸10aを中心に上下方向に回転するように構成されている。
【0031】
また、このハンマー部材5は、図2に示すように、ハンマー本体37の回転取付部39を鍵盤シャーシ3の前記支持軸10aに取り付ける際に、前記鍵当接部40を、鍵4に形成されたハンマー押圧部35のハンマー保持部36内に摺動可能に挿入することにより、鍵4の押鍵操作に連動して回転するように構成されている。
【0032】
これにより、ハンマー部材5は、図2に示す状態で、鍵4が上方から押される押鍵操作がなされると、鍵4のハンマー押圧部35によってハンマー本体37の鍵当接部40が錘部38の重量に抗して押し下げられ、これに伴ってハンマー本体37の鍵当接部40がハンマー押圧部35のハンマー保持部36内を摺動しながら、図3に示すように、ハンマー本体37がハンマー支持部10の支持軸10aを中心に時計回りに回転するように構成されている。
【0033】
そして、図2,6などに示すように、ハンマー部材5の錘部38の上面には、コーティング樹脂41の一部として形成された2個の突起が、鍵4の前後方向に並んで形成され、これら突起が第1可動接点42と第2可動接点43をそれぞれ構成している。この場合、第1可動接点42の方が、第2可動接点43よりも前側(図2では右側)に位置している。これら第1可動接点42と第2可動接点43を構成する各突起は、柱状(例えば円柱状又は角柱状)とされることによって、変形し易い構成となっている。特に図6に示した各突起は、先細りの柱状の形状で、潰れるように変形し易くなっている。なお、例えば各突起に縦方向のスリットを入れるなどして、より変形し易い構成としてもよい。
【0034】
これら第1可動接点42と第2可動接点43とは、スイッチ基板21の第1固定接点25と第2固定接点26とにそれぞれ対応する位置に設けられ、鍵4が押鍵操作されてハンマー部材5が時計回りに回転した際に、これら第1固定接点25と第2固定接点26とにそれぞれ接触し、各固定接点25,26がそれぞれオンとなるように構成されている。ここで、第1可動接点42と第2可動接点43を構成する突起の先端面は、前記第1固定接点25と第2固定接点26にそれぞれ接合してこれらを短絡させる十分な広さを持つ。
【0035】
また、第1可動接点42と第2可動接点43を構成するコーティング樹脂41の突起は、図6(a)に示すように高さが互いに異なっていて、この場合、第1可動接点42の方が第2可動接点43よりも高くなっている。これにより、鍵4が押鍵操作されてハンマー部材5が時計回りに回転した際に、図6(a)に示すように最初に突起の高さの高い第1可動接点42が第1固定接点25に接触して第1固定接点25がオンとなり、その後、ハンマー部材5の慣性力によって、図6(b)に示すように第1可動接点42を構成する突起及びその近傍部分が変形を進行させ、突起の高さの低い第2可動接点43が第2固定接点26に接触して第2固定接点26もオンするように構成されている。
【0036】
このように本実施形態では、鍵盤シャーシ3や底板17で構成される下部ケースにおいて、ハンマー部材5の錘部38の上面が対向する内面にスイッチ基板21が配置されている。また、前記錘部38の上面に対向するスイッチ基板21の表面に各固定接点が形成され、前記錘部38の上面の対応箇所に各可動接点が形成されている。そして、鍵4の押鍵操作に伴うハンマー部材5の回転に応じて、これら各固定接点と各可動接点が前述したように接触したり離れたりして、スイッチ信号が生成されるように構成されている。すなわち、ハンマー部材5が、スイッチの可動接点を支持してスイッチのオン・オフのために動作するスイッチの可動片としても機能している。
【0037】
またこの場合、このハンマー部材5は、図2に示すように、鍵4が押鍵されていない初期状態のときに、錘部38の重量によって反時計回りに回転して、クッション性を有するコーティング樹脂41が底板17の上面に当接(突き当たるように接触)することにより、下限位置が規制されると共に、この状態でハンマー本体37の鍵当接部40が鍵4のハンマー押圧部35を押し上げていることにより、鍵4の上限位置を規制するように構成されている。
【0038】
また、このハンマー部材5は、図3に示すように、鍵4が押鍵されて錘部38の重量に抗して時計回りに回転すると、クッション性を有するコーティング樹脂41がスイッチ基板21の下面に前述したように当接することにより、上限位置が規制されると共に、この状態でハンマー部材5の鍵当接部40が鍵4のハンマー押圧部35を保持していることにより、鍵4の下限位置を規制するように構成されている。
【0039】
次に、図4を参照して、この電子鍵盤楽器の鍵盤部2を組み立てる場合について説明する。
鍵盤部2は、図4に示すように鍵盤シャーシ3にまずスイッチ基板21を取り付け、次にハンマー部材5と鍵4を取り付け、そして最後に、底板17を取り付けることによって組み立てられる。ここで、スイッチ基板21を取り付ける際には、スイッチ基板21を、鍵盤シャーシ3の下から斜めに入れて、その前端部を前述した開口部20に挿入するようにして、前述した上壁部18に接合させて位置決めし、その後前述したビス22a,23aによって固定すればよい。
【0040】
次に、各固定接点(第1固定接点25、第2固定接点26)のオン・オフの状態変化について説明する。
鍵4が押鍵されて下限位置にあるハンマー部材5が上限位置までフルストローク時計回りに回転し、その後反時計回りに回転して下限位置に戻る場合を考える。この場合、まず第1固定接点25がオフからオンとなる。次に、時間差T1経過すると、第2固定接点26がオフからオンとなる。その後、離鍵によりハンマー部材5が下限位置に戻り始め、時間差T2経過すると、まず第2固定接点26がオンからオフとなる。次に、時間差T3経過すると、第1固定接点25がオンからオフとなる。
【0041】
このように本実施形態では、各固定接点のオン・オフの状態変化が順次時間差をもって生じ、これら時間差T1〜T3は演奏者の押鍵操作(離鍵操作含む)の状態によって増減する。このため、これら時間差T1〜T3のうちの1つ又は複数を、図示しない制御部(例えばCPUを含むマイクロコンピュータよりなるもの)によって前記スイッチ信号に基づいて読み取ることによって、鍵4の押鍵操作の各種状態(例えば速度)を検知できる。これにより、例えばアコースティックピアノに近い、よりリアルな発音の制御を行うことができるようになる。
【0042】
例えば制御部が、第1固定接点25がオフからオンに変化すると、鍵4が押鍵されてハンマー部材5が回転したと判断し、次に第2固定接点26がオフからオンに変化したか否かを判断する。そして、この第2固定接点26がオンになると、第1固定接点25がオンになった時点から第2固定接点26がオンになるまでの時間差T1を判定し、この時間差T1により計算されるベロシティー値(押鍵操作の速度の値)での通常発音のエンベロープを読み出す。そして、読み出したエンベロープによるノーマル発音を指示し、図示しないサウンドシステム部でノーマルな楽音を発音させる。
【0043】
なおサウンドシステム部は、図示しない音源部で作成されたデジタル信号をアナログ信号に変換するDAコンバータと、アナログ信号を増幅するアンプと、このアンプで増幅された楽音信号に基づいて楽音を発音するスピーカとを備えている。また音源部は、制御部の指示に従って、鍵盤部2の押鍵および離鍵により生成されるノートオン・ノートオフのイベント(前述したスイッチ信号の変化)に基づいて楽音信号を生成・停止するものあり、生成された楽音信号はサウンドシステム部に供給されて楽音を発生する。
【0044】
また、この音源部は、制御部から楽音信号のエンベロープに対して指示があるときに、その指示に応じてアタックA、ディケイD、サステインS、リリースRの各時間を増減させる処理を行う。これにより、楽音はレガートからスタッカートまでの表現が可能になる。
またノーマル発音とは、予め、図示しないメモリ部に記憶されているエンベロープを用いて、前記音源部に発音させる発音指示である。この処理によって、発音が音源部に指示されると、音源部は、メモリ部から押鍵された鍵4の音高に応じた波形を読み出し、エンベロープの値に変更を加えずに、そのままサウンドシステム部で発音させる。
【0045】
このように第1実施形態の電子鍵盤楽器は、ハンマー部材5に形成された可動接点(第1可動接点42と第2可動接点43)と、ハンマー部材5の回転に伴って前記可動接点と接離可能に接触する固定接点(第1固定接点25と第2固定接点26)を有するスイッチ基板21とを備えている。すなわち、ハンマー部材5の回転に伴ってハンマー部材5に形成された可動接点がスイッチ基板21の固定接点に接離可能に接触し、これら可動接点と固定接点から押鍵操作に応じたスイッチ信号を得ることができる。このため、前述したゴムスイッチの少なくともゴムシートに相当する部材が不要になりコストダウンが図れる。
【0046】
なお本例では、ハンマー部材5のコーティング樹脂41に前記可動接点が突起状に形成され、前記可動接点がハンマー部材5と一体に設けられているため、部品点数としては、従来に比較して、可動接点とゴムシートを含むゴムスイッチ全体(基板除く)に相当する部品点数が削減され、ゴムシートのコスト(材料費や製作費)に加えて、楽器全体の組立工数の点でもコストダウンが図れる。
【0047】
すなわち従来では、基板に対して可動接点とゴムシートを含むゴムスイッチがセットとして必要であり、固定接点の形成された基板に対してこのようなゴムスイッチを鍵4の数に対応する数だけ多量に取り付ける工数に加え、ハンマー部材5等の他の部品を取り付ける工数も当然必要であった。しかし本例では、ハンマー部材5を取り付けることによって、同時にスイッチ基板に対して従来のゴムスイッチ(基板除く)に相当する機能が組み付けられるので、従来必要であった基板にゴムスイッチを多量に取り付ける工数が削減され、相当なコストダウンが図れる。
【0048】
また、前記可動接点がハンマー部材5と一体に設けられているため、例えば可動接点を構成する導電性部材をハンマー部材5とは別個に製作してハンマー部材5に取り付けるといった必要が無くなり、この点でもコストダウンに貢献できる。
【0049】
また本実施形態によれば、スイッチ部分のスペースが、スイッチ基板の基板本体の厚さに各接点の僅かな厚さを加えた厚み分のみとなり、ゴムシートの膨出部の厚さが大きく加わるゴムスイッチの厚さ寸法に比較して格段に小型化できる。
【0050】
またこの電子鍵盤楽器は、前記可動接点において少なくとも前記固定接点に接触する部分が導電性を有する弾性材料で形成されている。このため、従来必要であったストッパ(少なくともスイッチ基板21のある上側のストッパ)も不要であり、さらにコストダウンが図れる。
すなわち通常は、ハンマー部材5が上限位置や下限位置に到達すると、ハンマー部材5の錘部が従来金属であったので衝撃音が発生し、これを軽減するための振動防止のストッパが上下に必要であった。しかしこの電子鍵盤楽器は、前記可動接点の少なくとも固定接点に接触する部分が弾性材料で形成されているため、前記可動接点が振動防止のストッパとしても機能し、少なくともスイッチ基板側のストッパが不要になる。
【0051】
特に本実施形態では、ハンマー部材5の錘部38の表面には、導電性を有する弾性材料からなるコーティング部(コーティング樹脂41の部分;例えば、やわらかいシリコーンゴム)が設けられており、前記可動接点は、このコーティング部における前記固定接点に対応する部分に突起状に形成されている。すなわち、本例の場合、前記可動接点とこれを支持する部分が全て弾性材料で構成され、しかも前記可動接点が変形し易い突起状(柱状)とされている。このため、前記可動接点と前記固定接点の当接によって、ハンマー部材5の上限位置を規制し、かつ衝撃音を効果的に抑制でき、これにより、まず上側のストッパを削除できる。
【0052】
また本実施形態の場合、前記コーティング部の下面と底板17が当接することによって、同様にハンマー部材5の下限位置を規制し、かつ衝撃音を抑制でき、これにより、下側のストッパも削除できる。つまり本例では、このハンマー部材5のコーティング部を、錘の一部としても可動接点としても上下のストッパとしても機能させることができ、従来の上下のストッパ(別個独立に設けられた弾性部材やフェルトなど)をも削除できる。
【0053】
またこの電子鍵盤楽器は、前記可動接点がハンマー部材5に複数個設けられており、前記固定接点はスイッチ基板21に前記複数の可動接点とそれぞれ対応して設けられ、前記複数の可動接点の高さが互いに異なっている。これにより、ハンマー部材5の回転に伴って、各可動接点と対応する固定接点とが前記回転の速度に応じた時間差T1〜T3をもって順次接触したり離れたりする。このため、これらの時間差に基づいて、よりリアルな発音の制御を行うことができる。例えば、前述した具体例のように、押鍵操作の速度を検知し、演奏者が表現したい音量(音の強弱)を良好に表現することができる。
【0054】
次に、図7〜図8を参照して、この発明を適用した電子鍵盤楽器の第2実施形態について説明する。なお、第1実施形態と同じ構成要素については同符号を用いて説明を省略する。
本例の電子鍵盤楽器は、図7に示すように、ハンマー部材5の錘部38の下側にもスイッチが設けられている。すなわち、鍵盤シャーシ3の後部下側(図7では左下側)には、スイッチ基板28が鍵4の配列方向に沿って連続して設けられている。このスイッチ基板28は、その下面が底板17の上面に接合するように配置されて、底板17の上面に例えば両面粘着テープによって固定されている。
【0055】
図8(a),(b)に示すように、このスイッチ基板28の上面には、スイッチ基板21の下面と同様に、回路導体としての配線パターン29(図7では図示省略)が、各ハンマー部材5に対してそれぞれ形成されている。各配線パターン29は、スイッチ基板21の配線パターン24と同様に、2系統に分かれており、各系統に第1固定接点30と第2固定接点31とがそれぞれ形成されている。これら第1固定接点30と第2固定接点31とは、スイッチ基板21の第1固定接点25と第2固定接点26と同様の構成である。但し、この場合、第2固定接点31の方が、第1固定接点30よりも前側(図7では右側)に位置している。
【0056】
そして、図7に示すように、ハンマー部材5の錘部38の下面には、コーティング樹脂41の一部として形成された2個の突起が形成され、これら突起が第1可動接点44と第2可動接点45をそれぞれ構成している。これら第1可動接点44と第2可動接点45とは、スイッチ基板28の第1固定接点30と第2固定接点31とに対応する位置にそれぞれ設けられている。これら第1可動接点44と第2可動接点45とは、上側の第1可動接点42と第2可動接点43と同様の構成である。但し、この場合、第2可動接点45の方が、第1可動接点44よりも前側(図7では右側)に位置している。
【0057】
そして、これら第1可動接点44と第2可動接点45とは、鍵4が押鍵操作されていない状態では、図8(a)に示すようにハンマー部材5の自重によって第1固定接点30と第2固定接点31とにそれぞれ接触し、各固定接点30,31がそれぞれオンするように構成されている。そして、鍵4が押鍵操作されてハンマー部材5が時計回りに回転した際には、これら第1可動接点44と第2可動接点45とは、第1固定接点30と第2固定接点31とからそれぞれ離れて、各固定接点30,31がそれぞれオフするように構成されている。ここで、第1可動接点44と第2可動接点45を構成する突起の先端面は、前記第1固定接点30と第2固定接点31にそれぞれ接合してこれらを短絡させる十分な広さを持つ。
【0058】
なお、これら下面側の第1可動接点44と第2可動接点45を構成するコーティング樹脂41の突起も、上面側の第1可動接点42と第2可動接点43と同様に、高さが互いに異なっている。この場合、第2可動接点45の方が第1可動接点44よりも高くなっている。これにより、鍵4が押鍵操作されてハンマー部材5が時計回りに回転した際には、図8(b)に示すように最初に突起の高さの低い第1可動接点44が第1固定接点30から離れて第1固定接点30がオフとなり、その後、突起高さの高い第2可動接点45が第2固定接点31から離れて第2固定接点31もオフするように構成されている。
【0059】
このように本実施形態では、鍵盤シャーシ3や底板17で構成される下部ケースにおいて、ハンマー部材5の錘部38の上面及び下面が対向する内面にスイッチ基板21,28がそれぞれ配置されている。また、前記錘部38の上面及び下面にそれぞれ対向する各スイッチ基板21,28の表面に各固定接点が形成され、前記錘部38の上面及び下面の対応箇所に各可動接点が形成されている。そして、鍵4の押鍵操作に伴うハンマー部材5の回転に応じて、これら各固定接点と各可動接点が前述したように接触したり離れたりして、スイッチ信号が生成されるように構成されている。すなわち、ハンマー部材5が、上下のスイッチの各可動接点を支持して各スイッチのオン・オフのために動作する可動片としても機能している。
【0060】
またこの場合、このハンマー部材5は、図7に実線で示すように、鍵4が押鍵されていない初期状態のときに、錘部38の重量によって反時計回りに回転して、クッション性を有するコーティング樹脂41がスイッチ基板28の上面に前述したように当接することにより、下限位置が規制されると共に、この状態で鍵4の上限位置を規制する。またハンマー部材5は、図7に2点鎖線で示すように、鍵4が押鍵されて時計回りに回転すると、第1実施形態と同様に、コーティング樹脂41がスイッチ基板21の下面に当接することにより、上限位置が規制され、この状態で鍵4の下限位置を規制する。
【0061】
次に、各固定接点(第1固定接点25と第2固定接点26、第1固定接点30と第2固定接点31)のオン・オフの状態変化について説明する。
鍵4が押鍵されて下限位置にあるハンマー部材5が上限位置までフルストローク時計回りに回転し、その後反時計回りに回転して下限位置に戻る場合を考える。この場合、まず下の第1固定接点30がオンからオフとなる。次に、時間差T1経過すると、下の第2固定接点31がオンからオフとなる。次に、さらに時間差T2経過すると、上の第1固定接点25がオフからオンとなる。次に、さらに時間差T3経過すると、上の第2固定接点26がオフからオンとなる。
【0062】
その後、離鍵によりハンマー部材5が下限位置に戻り始め、時間差T4経過すると、まず上の第2固定接点26がオンからオフとなる。次に、時間差T5経過すると、上の第1固定接点25がオンからオフとなる。次に、さらに時間差T6経過すると、下の第2固定接点31がオフからオンとなる。次に、さらに時間差T7経過すると、下の第1固定接点30がオフからオンとなる。
【0063】
このように本実施形態では、各固定接点のオン・オフの状態変化が順次時間差をもって生じ、これら時間差T1〜T7は演奏者の押鍵操作(離鍵操作含む)の状態によって増減する。このため、これら時間差T1〜T7のうちの1つ又は複数を制御部によって読み取ることによって、鍵4の押鍵操作の各種状態(例えば速度、さらには加速度)を検知できる。これにより、例えばアコースティックピアノに近い、よりリアルな発音の制御(具体例は後述する)を行うことができるようになる。
【0064】
例えば制御部が、上の第1固定接点25がオフからオンに変化すると、鍵4が押鍵されてハンマー部材5が回転したと判断し、次に上の第2固定接点26がオフからオンに変化したか否かを判断する。そして、この第2固定接点26がオンになると、第1固定接点25がオンになった時点から第2固定接点26がオンになるまでの時間差T1を判定し、この時間差T1により計算されるベロシティー値(押鍵操作の速度の値)での通常発音のエンベロープを読み出す。そして、読み出したエンベロープによるノーマル発音を指示し、サウンドシステム部でノーマルな楽音を発音させる。
【0065】
次に、制御部は下の第2固定接点31がオフからオンに変化したか否かを判断し、下の第2固定接点31がオフからオンに変化すると、離鍵操作によりハンマー部材5が上限位置から再び下限位置に戻ってきたと判断し、次に下の第1固定接点30がオフからオンに変化したか否かを判断する。そして、この第1固定接点30がオフからオンになると、第2固定接点31がオンになった時点から第1固定接点30がオンになるまでの時間差T7を判定する。そして、この時間差T7により計算されるベロシティー値(押鍵操作からの戻りの速度の値)、つまり演奏者が指を鍵4から離す離鍵操作の速度に基づいて、スタッカート演奏であるのか否か判断する。
そして、スタッカート演奏でないと判断されたときには、演奏者が指を鍵4からゆっくり離すノーマル演奏であると判断し、ノーマル発音の継続を指示し、サウンドシステム部でノーマルな楽音を発音させる。
【0066】
しかし、スタッカート演奏であると判断されたときには、例えば、スタッカートの楽音の発音への切替えを指示し、サウンドシステム部でスタッカートの楽音を発音させる。
このスタカートは、公知のスタカート演奏のことであり、音を短くして、楽音の躍動感を表現するために使用される。この表現を音源部に行わせることがスタカート発音である。このスタカート発音は、ノーマル発音に対して、エンベロープのアタックA、ディケイD、サステインS、リリースRのうちの1つ又は複数を短くすることにより、音を短く処理する。この実施形態では、時間差T7により計算されるベロシティー値に応じて、スタカートの強弱を変化させる。すなわち、時間差T7により計算されるベロシティー値が高い程、時間的に短い発音を行い、より短時間で消音させる。
【0067】
このように第2実施形態の電子鍵盤楽器は、各可動接点(第1可動接点42と第2可動接点43、第1可動接点44と第2可動接点45)が、ハンマー部材5の上面と下面とにそれぞれ形成されており、スイッチ基板21,28が、ハンマー部材5の回転動作に伴う前記可動接点の上下方向の移動領域上における上部と下部とにそれぞれ配置されている。このため、既述した第1実施形態の効果に加えて以下のような効果を奏する。
【0068】
すなわち、本実施形態でも、従来のゴムスイッチのようなゴムシートの膨出部が必要ないため、図7に示すスイッチ基板28のように、ハンマー部材5の下限位置側にも基板本体の薄さ程度のスペースがあればスイッチを配置できる。これにより、低コスト及び小型化を実現しつつ、これまでにない演奏形態を検知できるようになる。例えば、前述した具体例のように、指を鍵4から離す速度を下の固定接点30,31のオン・オフで検知し、例えば同一の鍵4を連続して押鍵する連打演奏において演奏者によるスタカート演奏を良好に表現することができる。
【0069】
なお、上述した実施形態では、可動接点の固定接点に接触する部分以外も導電性を有する弾性材料で形成した構成を例示したが、これに限らず、例えば図9に示す変形例のように、可動接点における固定接点に接触する部分のみが導電性を有する弾性材料で形成された構成としてもよい。
【0070】
すなわち、図9に示された変形例は、ハンマー本体37の錘部38のコーティング樹脂41において、各可動接点を構成する突起の先端部分のみが、例えば2色成型によって導電性を有する弾性材料とされた構成である。図9は、例えば上面側の第1可動接点42と第2可動接点43の先端部分42a,43aが導電性を有する弾性材料とされ、この先端部分42a,43a以外の部分が例えば導電性を持たない樹脂である構成を表している。
なお、この図9の変形例は、突起の先端部分のみを導電性を有する弾性材料とした例であるが、これに限られず、例えば突起全体、或いは突起とその近傍部分のみを導電性を有する弾性材料とした構成でもよい。
【0071】
また、上述した実施形態では、ハンマー部材5におけるハンマー本体37の端部に位置する錘部38が、単純な平板状に形成されている場合について述べたが、これに限らず、例えば図10に示す変形例のように、ハンマー本体37の端部に位置する錘部38を、コーティング樹脂41が付着し易い形状に形成しても良い。
【0072】
すなわち、図10に示された変形例は、ハンマー本体37の錘部38に複数の小孔38aを設けると共に、錘部38の周囲に複数の切欠部38bを設けた構成になっている。このように錘部38に複数の小孔38aおよび複数の切欠部38bを形成すれば、錘部38の複数の小孔38a内および複数の切欠部38b内にそれぞれコーティング樹脂41を詰まり易くすることができ、これによりコーティング樹脂41を錘部38に十分に且つ確実に付着させることができる。またこの場合、切欠部38b等がある分だけコーティング樹脂41の量が増加してクッション性が増える利点がある。
【0073】
また、上述した実施形態では、上又は下のそれぞれの側においてスイッチの接点部(一対の固定接点と可動接点よりなるもの)を2個設けた場合について述べたが、必ずしも2個に限られず、1個だけ設けた構成でもよいし、3個以上設けた構成であってもよい。3個以上設けた構成とすれば、1つのスイッチのみで、押鍵操作の速度に加えて、押鍵操作の加速度や荷重などが公知の技術によって検知可能であり、このような検知データに基づいて音源を制御することによって、よりリアルな鍵盤楽器の制御が可能となる。
【0074】
例えば、上述した実施形態におけるコーティング樹脂41の上面に、可動接点としての突起(高さが順次異なるもの)を前後方向に一列に並んだ状態で3個形成するとともに、スイッチ基板21にはこれに対応した位置に固定接点を3個形成することによって、上のスイッチの接点部(時間差をもって順次オンするもの)を3個設ける。そして、押鍵操作によってハンマー部材5が時計回りに回転した際、第1の接点部がオンした時点から第2の接点部がオンするまでの時間差Taと、第2の接点部がオンした時点から第3の接点部がオンするまでの時間差Tbとから、押鍵操作の速度と加速度を計算し、これらのデータに基づいて音源を制御する。具体例としては、速度に応じて音量を変化させるのに加えて、加速度に応じて音質等を変化させる(例えば、エフェクターの効果の大小をコントロールするパラメータを変化させる)といったものがあり、このような多彩な制御が可能となる。
【0075】
また、上述した実施形態では、押鍵操作されてハンマー部材5が時計回りに回転した際、高さの高いコーティング樹脂41の突起(上の第1可動接点42)が、対応する第1固定接点25に接触した後、ハンマー部材5の慣性力によって前記高い突起が潰れるように変形することによって、次の突起(上の第2可動接点43)が対応する第2固定接点26に接触する構成である。しかし本発明は、このようにハンマー部材5の慣性力によって複数の接点部が順次オンする構成に限られない。
【0076】
例えば、前述したように3個の接点部を設け、通常の押下力で押鍵操作した場合には、第1と第2の接点部のみが順次オンして第3の接点部はオンしないが、例えばいわゆるアフタータッチと呼ばれるような押下した鍵4をさらに強く押し込むような押鍵操作をした場合には、第3の接点部もオンする構成(すなわち、押鍵操作の荷重に応じて複数の接点部が順次オンする構成)としてもよい。このようにすれば、アフタータッチと呼ばれるような押鍵操作も検出できる。またこの場合、このようなアフタータッチが検出されたときには、例えば音にビブラートを加えるなどの特殊な発音の制御も可能となる。
【0077】
また、上述した実施形態では、錘部38の表面全体をコーティング樹脂41で被覆するように構成した場合について述べたが、必ずしも全体を被覆する必要はなく、例えばスイッチ基板に対向する面だけをコーティング樹脂41で被覆する構成としてもよい。このように構成しても、上述した実施形態と同様の作用効果がある。
また樹脂は、2色成型で設ける構成に限られず、例えば所定の樹脂よりなる板状の部材(例えば、前述した実施形態のように可動接点としての突起を有するもの)をハンマー部材の錘部の上面や下面に接着や粘着或いはビス止め等によって取り付ける構成でもよい。
また、錘部の表面だけでなく錘部の全体が導電性樹脂からなる構成でもよい。
【0078】
また、前記第1実施形態は、第2実施形態のような下側のスイッチ基板28が無いので、ハンマー部材5の錘部38の下面には、前記可動接点としての突起が設けられていない。しかし、前記第1実施形態において、ハンマー部材5の錘部38の下面に、振動防止用のストッパとしての突起を設けてもよい。
【符号の説明】
【0079】
1 楽器本体
2 鍵盤部
3 鍵盤シャーシ
4 鍵
5 ハンマー部材
21 スイッチ基板
24 配線パターン
25 第1固定接点
26 第2固定接点
28 スイッチ基板
30 第1固定接点
31 第2固定接点
38 錘部
41 コーティング樹脂
42 第1可動接点
43 第2可動接点
44 第1可動接点
45 第2可動接点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鍵盤シャーシと、
この鍵盤シャーシ上に設けられて押鍵操作に応じて上下方向に回転する鍵と、
この鍵の回転動作に応じて上下方向に回転して前記鍵にアクション荷重を付与するハンマー部材と、
このハンマー部材に形成された可動接点と、
前記ハンマー部材の回転に伴って前記可動接点が接離可能に接触する固定接点を有するスイッチ基板と、
を備えていることを特徴とする電子鍵盤楽器。
【請求項2】
前記可動接点は、少なくとも前記固定接点に接触する部分が導電性を有する弾性材料で形成されていることを特徴とする請求項1に記載の電子鍵盤楽器。
【請求項3】
前記ハンマー部材には、導電性を有する弾性材料からなるコーティング部が設けられており、前記可動接点は、前記コーティング部における前記固定接点に対応する部分に突起状に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の電子鍵盤楽器。
【請求項4】
前記可動接点は前記ハンマー部材に複数個設けられており、前記固定接点は前記スイッチ基板に前記複数の可動接点とそれぞれ対応して設けられ、前記複数の可動接点の高さが互いに異なっていることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載の電子鍵盤楽器。
【請求項5】
前記可動接点は、前記ハンマー部材の上面と下面とにそれぞれ形成されており、前記スイッチ基板は、前記ハンマー部材の回転動作に伴う前記可動接点の上下方向の移動領域上における上部と下部とにそれぞれ配置されていることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれかに記載の電子鍵盤楽器。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate