説明

電柱もしくは電話柱の健全度判定方法

【課題】 簡易に健全度の判定を行える健全度の判定方法を提供する。
【解決手段】 作業者23は、高所作業車11を用いて、拘束部7で電柱2の上端を拘束し、両端固定の状態でハンマ23を用いて打撃を行う。
測定用コンピュータ19は、速度計15が測定した振動波形からフーリエスペクトルおよび位相差スペクトルを求め、フーリエスペクトルの固有振動数を測定し、固有振動数を標準固有振動数で割った値である健全度指標を求める。
測定用コンピュータ19は、健全度指標が一定値以下の場合は電柱2は不健全な状態にあると判断し、一定値を超えている場合は、健全な状態にあると判断する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電柱もしくは電話柱の健全度判定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電柱もしくは電話柱の劣化は、鉄筋の腐食、アルカリ骨材反応、凍害等により、内部組織が軟化したり破断したりすることにより生じるが、劣化が目視できる段階まで進行する前に、劣化の度合、即ち健全度を判定できるのが望ましい。
【0003】
健全度の判定方法には、対象物に細孔を開け、内部を直接観察したり、対象物の一部を採取して分析したりする、いわゆる破壊検査による測定もあるが、対象物を傷つけずに検査が可能である非破壊検査による判定を行うことが望ましい。
【0004】
非破壊検査は、対象物に超音波を入射して、反射波を測定する超音波探傷試験などが知られているが、対象物を打撃するなどして振動させ、得られる固有振動数を比較して健全度を判定する、いわゆる衝撃振動試験が近年、よく用いられており、以下のようなものが知られている。
(非特許文献1)。
【非特許文献1】西村、棚村「概設橋梁橋脚の健全度判定法に関する研究」、鉄道総研報告、鉄道技術総合研究所、1989年8月、第3巻、第8号、p41−49
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、電柱および電話柱は、上端に電線や電話線が張られており、これらによって上端に生ずる拘束力は、個々の電柱および電話柱によって千差万別である。
そのため、単純に固有振動数を比較することはできず、個々の拘束力の違いを加味した振動モデルを逐一作成しなければならなかったため、判定に時間がかかっていた。
【0006】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、その目的は簡易に健全度の判定を行える健全度の判定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前述した目的を達成するために、本発明は、電柱もしくは電話柱の上端近辺を拘束する工程(a)と、前記電柱もしくは前記電話柱を打撃し、振動させる工程(b)と、前記電柱もしくは前記電話柱を振動させた際の固有振動数を測定する工程(c)と、前記固有振動数に基づき、前記電柱もしくは前記電話柱の健全度を判定する工程(d)と、を有することを特徴とする電柱もしくは電話柱の健全度判定方法である。
前記工程(a)は、前記電柱もしくは前記電話柱の上端を地上から部材で挟み込むことにより、前記電柱もしくは前記電話柱の上端を拘束してもよく、あるいは、重量物を前記電柱もしくは前記電話柱の上端に載置し、前記重量物の重量により、前記電柱もしくは前記電話柱の上端を拘束してもよい。
前記工程(b)は、前記電柱もしくは前記電話柱をハンマで打撃してもよく、あるいは前記電柱もしくは前記電話柱を重錘で打撃してもよい。
前記工程(c)は、前記電柱もしくは前記電話柱を振動させた際の変位、速度もしくは加速度の応答波形を測定する工程と、前記応答波形のフーリエスペクトルおよび位相差スペクトルを求める工程と、前記フーリエスペクトルおよび位相差スペクトルから、固有振動数を測定する工程と、を有する。
前記工程(d)は、前記固有振動数と、標準固有振動数とを比較して、健全度の判定を行う。
【0008】
本発明では、電柱もしくは電話柱の上端近辺を拘束する工程を備えており、拘束条件下で振動試験を行う。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、電柱もしくは電話柱の上端近辺を拘束する工程を備えているため、簡易に健全度の判定を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、図面に基づいて本発明に好適な実施形態を詳細に説明する。図1は、第1の実施形態に係る測定システム1の構成を示す図である。
また、図2は、図1の拘束部7付近の斜視図、図3は図2のA方向矢視図である。
【0011】
電柱2は地面3に対して鉛直もしくは斜めに設けられており、電柱2の上端には、電線5a、5bが設けられている。
高所作業車11は腕部9を有し、腕部9の端部には拘束部7が設けられている。
電柱2の上端付近で、かつ電線5a、5bの下部は、拘束部7によって拘束されている。
また、高所作業車11には、車両を地面に固定するためのアウトリガ13が設けられている。
【0012】
一方、電柱2には、速度計15が設けられ、速度計15はケーブル17を介して測定用コンピュータ19に接続されている。
【0013】
電柱2を打撃する際に用いられるのはハンマ21であり、作業者23が直接電柱2を打撃する。
ただし、別途ロボット等を用いて打撃を行ってもよい。
【0014】
ここで、拘束部7について詳細に説明する。
図2および図3に示すように、拘束部7は、半円筒状の湾曲板25a、25bおよび湾曲板25a、25bの一端に接続されたヒンジ24からなり、湾曲板25aは、図示しないアクチュエータ等を駆動させることによって、図3のB方向及びC方向に回転可能である。
また湾曲板25bは、図示しないアクチュエータ等を駆動させることによって、図3のD方向及びE方向に回転可能である。
【0015】
即ち、図3において、湾曲板25aをB方向に回転させ、湾曲板25bをD方向に回転させることによって、湾曲板25aと、湾曲板25bで電柱2を拘束することができる。
なお、湾曲板25aと湾曲板25bの表面には、電柱2を傷つけないようにするため、ゴムやエアクッション等を設けてもよい。
【0016】
次に、測定の手順について説明する。
図4は第1の実施形態における健全度の判定方法の手順を示すフローチャートであり、図5は、電柱2への打撃を示す模式図である。
また、図6は電柱2の振動モデルであり、図7はフーリエスペクトルの1例であり、図8は、位相差スペクトルの1例である。
【0017】
まず、作業者23は電柱2に速度計15を取り付ける(ステップ101)。なお、前述したように、速度計ではなく、変位計、加速度計等を取り付けてもよい。
【0018】
次に、作業者23は、高所作業車11を用いて、拘束部7によって電柱の上端を拘束する(ステップ102)。
なお、この際、高所作業車11自体も移動しないようにするため、アウトリガ13を用いて、高所作業車11を地面3に固定する。
【0019】
拘束部7の拘束位置は、厳密には電柱2の上端で、かつ電線5a、5bが張られている場所より下を拘束する。
これは、拘束部7が拘束した場所より上の部分は健全度の評価ができない一方、電線5a、5bより上部を拘束すると、電線5a、5bの張力の影響を除去できない可能性があるからである。
【0020】
以下、作業者23および測定用コンピュータ19は、測定用ステップ104からステップ106を規定回数繰り返す(ステップ103、ステップ107)。規定回数とは、例えば10回である。
【0021】
作業者23は、電柱2の中央部近傍をハンマ21で打撃する(ステップ104)。
具体的には、図5に示すように作業者23が電柱2をハンマ21で打撃する。
なお、打撃する場所は一定で、かつ電柱2の中央部近傍であることが望ましい。
これは、打撃する場所が異なると、振動モードが変わるおそれがあるからである。
【0022】
速度計15は電柱2の振動速度を測定し、測定用コンピュータ19は、速度計15が測定した振動速度に基づいて、速度の応答波形(振動速度の経時変化)を測定する(ステップ105)。
測定用コンピュータ19は、測定した応答波形を記録する(ステップ106)。
【0023】
測定用コンピュータ19は、測定した応答波形を重ね合わせて1つの波形にする(ステップ108)。これは、個々の応答波形のみでは波形の振幅が小さく、ノイズの影響が大きく現れるおそれがあるからである。
【0024】
測定用コンピュータ19は重ね合わせた波形のフーリエスペクトルを求める(ステップ109)。
具体的には図7に示すような、振動数と振幅の関係を示すフーリエスペクトルを求める。
【0025】
測定用コンピュータ19は、重ね合わせた波形の位相差スペクトルを求める(ステップ110)。具体的には、図8に示すような、振動数と位相差の関係を示す位相差スペクトルを求める。
【0026】
測定用コンピュータ19は、フーリエスペクトルおよび位相差スペクトルから、固有振動数を測定する(ステップ111)。
具体的には、図7および図8に示すように、フーリエスペクトルでピーク30を示し、かつ位相差スペクトル上で規定位相差38を示す振動数を固有振動数32として抽出する。
なお、規定位相差38は、速度の位相差スペクトルの場合は0°、180°、360°であり、変位および加速度の位相差スペクトルの場合は、90°、270°である。
【0027】
測定用コンピュータ19は、固有振動数32と標準固有振動数から健全度指標を算出する(ステップ112)。
健全度指標とは、電柱2の健全度を示す指標であり、以下の式で算出される。
健全度指標=固有振動数/標準固有振動数
【0028】
また、標準固有振動数とは、健全な電柱の固有振動数の目安であり、新品等の健全な電柱の固有振動数のデータがある場合は、それをそのまま用いてもよいが、そのようなデータがない場合は、過去に測定した固有振動数のデータから統計的に計算した値を用いる。
即ち、過去に測定した固有振動数のデータと、その電柱の高さ、重量等のデータを基にして、高さ、重量と固有振動数の関係式を統計的に求め、電柱の高さ、重量等がわかれば、標準固有振動数が求められる。
【0029】
測定用コンピュータ19は、健全度指標が一定値以下かどうかを判断し(ステップ113)、一定値以下の場合は電柱2を不健全な状態と判断し(ステップ114)、一定値以下ではない場合、電柱2を健全な状態と判断する(ステップ115)。
これは、一般に、不健全な電柱は固有振動数が低い(健全度指標が小さい)場合が多いからである。
【0030】
なお、第1の実施形態では電柱2の上端を固定して試験を行っているため、電柱2を打撃した際の振動モデルは、図6に示すような、両端固定でG方向およびF方向に振動する単純な1次振動となる。そのため、電線5a、5bの影響を加味した振動モデルを逐一作成する必要はない
【0031】
このように、第1の実施の形態によれば、電柱2の上端近辺を拘束部7を用いて拘束し、両端固定の状態で打撃振動試験を行う。
従って、電柱2ごとに振動モデルを作成する必要がなく、簡易に健全度の判定を行うことができる。
【0032】
次に、第2の実施形態について説明する。図9は、第2の実施形態に係る測定システム28の構成を示す図である。
なお、第1の実施形態と同様の機能を果たす要素には同一の番号を付し、説明を省略する。
【0033】
図9に示すように、第2の実施形態では、重り29を電柱2に載置し、重り29の自重によって電柱2の上端を拘束する。
【0034】
なお、拘束後の測定の手順は第1の実施形態と同様であるため、説明を省略する。
このように、第2の実施形態によれば、電柱2の上端を重り29の自重によって拘束し、両端固定の状態で打撃振動試験を行う。
従って、第1の実施形態と同様の効果を奏する。
【0035】
次に、第3の実施形態について説明する。図10は、第3の実施形態に係る測定システム34の構成を示す図である。
【0036】
第3の実施形態では、電柱2の打撃を重錘33を用いて行う。
【0037】
図10に示すように、測定システム34では、図1に示す測定システム1に比して高所作業車11aが更に用いられている。
高所作業車11aには腕部9bが設けられ、腕部9bの一端にはワイヤ31が設けられている。また高所作業車11aには、車両を地面に固定するためのアウトリガ13bが設けられている。
ワイヤ31の一端には重錘33が設けられている。
【0038】
電柱2を打撃する際には、重錘33をH方向に回転させ、電柱2に衝突させることによって打撃を行う。
【0039】
なお、測定の手順は第1の実施形態と同様であるため、説明を省略する。
【0040】
このように、第3の実施形態によれば、電柱2の上端近辺を拘束部7を用いて拘束し、両端固定の状態で重錘33を電柱2に衝突させることによって打撃振動試験を行う。
従って、第1の実施形態と同様の効果を奏する。
【0041】
次に、第4の実施形態について説明する。図11は、第4の実施形態に係る測定システム36の構成を示す図である。
【0042】
第4の実施形態では、第3の実施形態同様、電柱2の打撃を重錘33aを用いて行うが、拘束と打撃を1台の高所作業車11で行う。
【0043】
図11に示すように、測定システム36では、高所作業車11が用いられており、高所作業車11は腕部9を有している。
高所作業車11の腕部9にはワイヤ31aが設けられており、ワイヤ31aの先端には重錘33aが設けられている。
【0044】
電柱2を打撃する際には、重錘33aをI方向に回転させ、電柱2に衝突させることによって打撃を行う。
【0045】
なお、測定の手順は第1の実施形態と同様であるため、説明を省略する。
【0046】
このように、第4の実施形態によれば、電柱2の上端近辺を拘束部7を用いて拘束し、両端固定の状態で重錘33aを電柱2に衝突させることによって打撃振動試験を行う。
従って、第1の実施形態と同様の効果を奏する。
【0047】
以上、添付図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明したが、本発明の技術的範囲は、前述した実施の形態に左右されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0048】
例えば、各実施形態では固有振動数の抽出、健全度の判断等を測定用コンピュータ19が行っているが、作業者23が行ってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】測定システム1の構成を示す図
【図2】図1の拘束部7付近の斜視図
【図3】図2のA方向矢視図
【図4】健全度の判定方法の手順を示すフローチャート
【図5】電柱2への打撃を示す模式図
【図6】電柱2の振動モデル
【図7】フーリエスペクトルの1例
【図8】位相差スペクトルの1例
【図9】測定システム28の構成を示す図
【図10】測定システム34の構成を示す図
【図11】測定システム36の構成を示す図
【符号の説明】
【0050】
1…………測定システム
2…………電柱
3…………地面
5a………電線
7…………拘束部
9…………腕部
11………高所作業車
13………アウトリガ
15………速度計
17………ケーブル
19………測定用コンピュータ
21………ハンマ
23………作業者
24………ヒンジ
25a……湾曲板
28………測定システム
29………重り
31………ワイヤ
33………重錘
33a……重錘
34………測定システム
36………測定システム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電柱もしくは電話柱の上端近辺を拘束する工程(a)と、
前記電柱もしくは前記電話柱を打撃し、振動させる工程(b)と、
前記電柱もしくは前記電話柱を振動させた際の固有振動数を測定する工程(c)と、
前記固有振動数に基づき、前記電柱もしくは前記電話柱の健全度を判定する工程(d)と、
を有することを特徴とする電柱もしくは電話柱の健全度判定方法。
【請求項2】
前記工程(a)は、
前記電柱もしくは前記電話柱の上端を地上から部材で挟み込むことにより、前記電柱もしくは前記電話柱の上端を拘束することを特徴とする請求項1記載の健全度判定方法。
【請求項3】
前記工程(a)は、
重量物を前記電柱もしくは前記電話柱の上端に載置し、前記重量物の重量により、前記電柱もしくは前記電話柱の上端を拘束することを特徴とする請求項1記載の健全度判定方法。
【請求項4】
前記工程(b)は、前記電柱もしくは前記電話柱をハンマで打撃することを特徴とする請求項1記載の健全度判定方法。
【請求項5】
前記工程(b)は、前記電柱もしくは前記電話柱を重錘で打撃することを特徴とする請求項1記載の健全度判定方法。
【請求項6】
前記工程(c)は、
前記電柱もしくは前記電話柱を振動させた際の変位、速度、もしくは加速度の応答波形を測定する工程と、
前記応答波形のフーリエスペクトルおよび位相差スペクトルを求める工程と、
前記フーリエスペクトルおよび位相差スペクトルから、固有振動数を測定する工程と、
を有することを特徴とする請求項1記載の健全度判定方法。
【請求項7】
前記工程(d)は、
前記固有振動数と、標準固有振動数とを比較して、健全度の判定を行うことを特徴とする請求項1記載の健全度判定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2006−250682(P2006−250682A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−67032(P2005−67032)
【出願日】平成17年3月10日(2005.3.10)
【出願人】(000173784)財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【Fターム(参考)】