説明

電極の製造方法、電池用電極および電池

【課題】基材の表面に活物質層を形成してなる構造を有する電池用電極およびこれを備える電池の製造技術において、性能が良好でパターンの損壊や剥離を生じさせることなく巻回することのできる電極を提供する。
【解決手段】曲率半径Rで巻回される集電体膜の内側に形成される活物質材料からなるライン状パターン121の高さH、頂部の幅W、集電体膜上におけるパターンの配列ピッチPとしたとき、これらの間に、P>W・R/(R−H)の関係が成立するように、各部の寸法が設定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、基材の表面に活物質層を形成してなる構造を有する電池用電極およびこれを備える電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えばリチウムイオン電池のような化学電池としては、従来より、正極活物質および負極活物質をそれぞれ付着させた集電体としての金属箔を、液体または固体の電解質層を介して重ね合わせた構造が知られている。例えば、特許文献1には、負極集電体の表面に負極活物質層を形成してなる負極電極と、正極集電体の表面に正極活物質層を形成してなる正極電極とをセパレータを介して重ね合わせ、それらを一体的に巻回してケースに収めたリチウムイオン二次電池の構造が開示されている。
【0003】
この技術における電極は、集電体として機能する金属箔の表面に、活物質材料を含むペースト状の塗布液をドクターブレードまたはバーコータなどで塗布して乾燥させた後に圧縮成型したものであり、集電体表面を覆う活物質層の表面は概ね平坦となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−289586号公報(例えば段落0060、図3)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のような化学電池の電気的特性、特に充放電特性を向上させるために、活物質層を立体的構造としてその体積に対する表面積を増大させることが検討されており、本願発明者らは、ラインアンドスペース構造の活物質層を有する電極を製造する技術の開発を行っている。ここでいうラインアンドスペース構造とは、互いに離隔した複数のライン状パターンからなる構造を指している。
【0006】
このような構造を有する電極において、例えばケースに収めるために電極を巻回する場合、上記従来技術のような略平坦な活物質層を有する電極と異なり、ライン状パターンを有する活物質が損壊したり集電体表面から剥離したりするおそれがあり、これらは電池としての性能を低下させることとなる。しかしながら、このような立体的構造を有する電極を巻回する場合の問題については、これまでほとんど検討されていなかった。
【0007】
この発明は上記課題に鑑みなされたものであり、基材の表面に活物質層を形成してなる構造を有する電池用電極およびこれを備える電池の製造技術において、性能が良好でパターンの損壊や剥離を生じさせることなく巻回することのできる電極を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明にかかる電極の製造方法は、基材の表面に活物質層を形成してなる、巻回可能な電池用電極の製造方法であって、上記目的を達成するため、前記活物質層の材料物質を含む塗布液を、前記基材の表面にライン状に塗布し該塗布液を硬化させることによって、互いに平行な複数のライン状パターンを有する前記活物質層を前記基材の表面に形成し、しかも、前記基材の表面からの前記ライン状パターンの高さをH、前記ライン状パターンの頂部の幅をW、隣接する前記ライン状パターン間のピッチをP、前記巻回における前記集電体膜の曲率半径の最小値をRとしたとき、以下の関係式:
P>W・R/(R−H)
を満たすことを特徴としている。
【0009】
また、この発明にかかる電池用電極は、集電体膜の表面に活物質層が形成されてなる、巻回可能な電池用電極であって、上記目的を達成するため、前記活物質層は、前記集電体膜の表面に互いに平行に形成された複数のライン状パターンを有し、しかも、前記集電体膜の表面からの前記ライン状パターンの高さをH、前記ライン状パターンの頂部の幅をW、隣接する前記ライン状パターン間のピッチをP、前記巻回における前記集電体膜の曲率半径の最小値をRとしたとき、以下の関係式:
P>W・R/(R−H)
を満たすことを特徴としている。
【0010】
また、この発明にかかる電池は、上記目的を達成するため、上記載の電池用電極からなる一方極の電極と、他方極の電極とが電解質層を挟んで対向配置された積層体を有し、前記積層体が、前記一方極の電極の前記活物質層を内側にして、該電極に形成された前記ライン状パターンの延設方向に平行な軸周りに巻回されていることを特徴としている。
【0011】
詳しい原理については後出の「発明を実施するための形態」の項で説明するが、上記のように構成された各発明によれば、巻回されたときに活物質層のライン状パターン同士が接触することが防止されている。このため、互いが接触することに起因するパターンの損壊や剥離を未然に防止することが可能であり、これらの問題を生じさせることなく電極を巻回することができる。また、こうしてパターンの損壊や剥離が防止されることにより、電気的性能の良好な電極を得ることができる。
【0012】
なお、ここでいう「巻回」については、例えば当該電極またはこれを含む電池素子を電池の完成品とするためにケース等に収容する目的での巻回の他に、電池の製造プロセスにおいて、例えば搬送等の目的で一時的に巻回される場合も含むものとする。
【0013】
この発明にかかる電極の製造方法では、例えば、塗布液を吐出するノズルを基材の表面に対し相対移動させて、塗布液を基材の表面に塗布するようにしてもよい。このようないわゆるノズルスキャン方式での塗布により、活物質材料による微細なライン状パターンを形成することが可能であり、表面積の大きな活物質層を得ることができる。
【0014】
また、例えば、基材の表面に活物質層を形成してなる構造体を、ライン状パターンの延設方向に平行な軸周りに、かつ活物質層を内側にして巻回する工程を含むようにしてもよい。このようにして構造体を巻回することで電極をコンパクトな形態にまとめることができ、このとき上記条件が満たされていれば、巻回によるパターンの損壊や剥離の問題も回避される。
【0015】
ここで、基材は集電体膜であってもよい。こうすることで、集電体膜の表面に複数のライン状パターンからなる活物質層が形成されてなる電極を製造することができ、上記条件を満たすようにすることで、巻回によるパターンの損壊や剥離のおそれがない電極を製造することができる。
【0016】
また、基材は集電体膜の表面に活物質膜を形成した積層体であり、該積層体の活物質膜の表面に塗布液を塗布するようにしてもよい。このようにすると、集電体膜の表面全体が活物質膜により覆われ、かつ塗布液の塗布により形成されるライン状パターンと一体となって活物質層として機能することとなるので、より表面積の増大された活物質層を得ることができる。
【発明の効果】
【0017】
この発明によれば、活物質層を形成された電極が巻回されたときに活物質層のライン状パターン同士が接触することが防止されており、これに起因するパターンの損壊や剥離を未然に防止して、電気的特性が良好で巻回可能な電極およびこれを有する電池を供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】この発明にかかる電池用電極の一の態様を示す図である。
【図2】本発明の原理を模式的に示す図である。
【図3】この発明にかかる電池用電極の製造装置の一例を示す図である。
【図4】塗布対象物たるワークの例を示す図である。
【図5】本発明にかかる電池の一実施形態の要部を示す拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<本発明の原理>
図1はこの発明にかかる電池用電極の一の態様を示す図である。本発明にかかる電池用電極10は、例えばリチウムイオン二次電池のような化学電池の電極として適用可能なものであり、その断面図である図1(a)に示すように、例えば金属膜のようなシート状導電体からなり集電体として機能する集電体層11の表面に、活物質層12を形成してなる構造を有する。より詳しくは、活物質層12は、それぞれが図1(a)の紙面に垂直な方向に延び集電体層11の表面に互いに離隔して形成された、活物質材料を含む複数のライン状パターン121を有している。このように構成された電池用電極10は、液体または固体の電解質層を挟んでもう1組の電極と対向配置されることで、両電極間で電解質層を介した電荷の移動が生じ電池として機能する。
【0020】
例えばリチウムイオン二次電池の場合、集電体層11となる金属膜としては、正極用には例えばアルミニウムを、負極用には例えば銅を用いることができる。これらは単体の金属板または金属箔であってもよく、またシート状の基材に金属膜が積層されたものであってもよい。
【0021】
また、正極用の活物質材料としては、代表的にはLiCoO2(LCO)を用いることができるほか、例えばLiNiO2またはLiFePO4、LiMnPO4、LiMn24、またLiMeO2(Me=Mxyz;Me、Mは遷移金属、x+y+z=1)で代表的に示される化合物、例えばLiNi1/3Mn1/3Co1/32、LiNi0.8Co0.15Al0.052などを用いることができる。また、負極用の活物質材料としては、代表的にはLi4Ti512(LTO)を用いることができるほか、例えば黒鉛、金属リチウム、SnO2、合金系材料などを用いることが可能である。なお、上記材料はその例を示したものであり、本発明の適用範囲がこれらの材料に限定されるものではない。
【0022】
上記構造を有する電池用電極10は、図1(b)に示すように、活物質材料を含むライン状パターン121の延設方向(紙面に垂直な方向)に平行な巻回軸周りに巻回可能となっている。活物質材料自体は脆く可撓性を有していない場合であっても、これを互いに平行な多数のライン状パターン121に形成することで、その延設方向に平行な軸周りについてはパターンを破損することなく巻回することができるからである。
【0023】
集電体膜11は金属箔もしくはシート状基材に金属膜を積層したものとすることで可撓性を確保することができるので巻回に支障はない。また、活物質層12を外向きにして巻回する場合には、図1(a)に示すように各ライン状パターン121が互いに離隔配置されているため巻回によりパターンが破損することはない。ただし、活物質層12を内向きにして巻回する場合には、図1(c)に示すように、集電体膜11の曲率をあまり大きくするとライン状パターン121同士がその頂部で接触してしまい、これによりパターンが部分的に欠損したり、集電体膜11から剥離してしまうおそれがある。これらの現象は当然に電池としての性能を低下させる。
【0024】
ライン状パターン121の活物質層12を有する電池用電極10においては、該パターンの幅を狭く、かつ高さを高くした、いわゆるアスペクト比の高い断面形状を有するライン状パターンを形成することによって、活物質材料の使用量に対してその表面積を大きくすることができ、これにより電池としての性能を向上させることができる。しかしながら、パターンのアスペクト比を大きくすればするほど上記したパターン損壊や剥離については不利となり、これまでパターン寸法についての好ましい条件が見出されるには至っていなかった。本発明は、このような巻回に起因する活物質パターンの損壊や剥離を未然に防止することのできる条件を規定したものである。
【0025】
図2は本発明の原理を模式的に示す図である。ライン状パターン121の倒壊や剥離を防止するためには、巻回における集電体膜11の曲率が最も大きい(すなわち曲率半径が最も小さい)位置においても、隣接するライン状パターン121間で互いの頂部が接触しないようにすればよい。巻回における集電体膜の曲率半径の最小値をRとしたとき、この状態でライン状パターン121同士の接触が起こらない条件は次のようにして求めることができる。
【0026】
図2は巻回された電池用電極10の部分断面図を示している。最も曲率が大きい位置での集電体膜11の内側(活物質層が形成された側)の表面は曲率半径Rの曲面であり、同図では、切断面における該曲面の切片である円弧を符号C1により表している。各ライン状パターン121の各部の寸法を図2に示す各符号により表す。すなわち、ライン状パターン121の集電体膜表面C1からの高さを符号H、パターン頂部および集電体膜表面それぞれにおけるパターンの幅を符号WおよびWbとする。また、集電体膜表面に配列された各パターンの延設方向に直交する方向における配列ピッチを符号Pにより表す。したがって、集電体膜表面におけるパターン間の空隙Sは次の式:
S=P−Wb
により表される。
【0027】
ここで、曲率半径Rを有する円弧C1に沿って2つのライン状パターン121をピッチPで配列したときに、それらの頂部同士のギャップGが0より大きければ両者は接触しない。図2に示すように、ライン状パターン121の頂部を通る仮想的な円弧C2を考えると、該円弧C2状におけるライン状パターン121の頂部の配列ピッチQはライン状パターン121の頂部の幅WとギャップGとの和にほぼ等しいから、
G=Q−W>0 … (式1)
となればよい。図2に示す2つの扇形、すなわち扇形OABと扇形OCDとの相似関係から、
Q:Rs=P:R
であるから、(式1)は、
G=Q−W=(Rs・P/R)−W
=(R−H)・P/R−W>0
と書き直すことができる。以上より、以下の条件式:
P>W・R/(R−H) … (式2)
が導かれる。電池用電極10を曲率半径Rまで巻回可能とするためには、活物質材料を含むライン状パターン121の頂部幅W、高さHおよび配列ピッチPが上記(式2)の関係を満たしていればよい。この条件が満たされるとき、電極10を最小曲率半径Rまで巻回しても、隣接パターン同士が接触しパターンが損壊したり剥離したりすることがない。
【0028】
なお上記とは別に、各ライン状パターン121が離隔配置されるための条件としては、
S>0、すなわち、P>Wb … (式3)
の関係が成り立つ。(式3)の関係が成立する限りにおいて、WとWbとの大小関係については問わない。つまり、図1、図2においては、W<Wb、つまり断面形状が略台形となったパターンの例を示しているが、パターンの断面形状はこれに限定されない。例えばW=Wb、すなわちパターンの断面形状が長方形であってもよく、またW>Wbであっても構わない。またパターン頂面が平らではなく、正または負の曲率を有していてもよい。
【0029】
上記条件に合致する好ましい数値例を以下に示すが、本発明がこれらの数値に限定されるものではない。巻回における曲率半径が小さいほどパターン同士が接触しやすいので、特に曲率半径が小さいと思われるケースを例示する。例えば想定される巻回の曲率半径Rの最小値を100μmとすると、例えばパターン頂部幅Wおよびパターン高さHをいずれも50μmとしたとき配列ピッチPを100μmを超える値とすればよい。また、よりアスペクト比の高いパターンとして例えばパターン頂部幅Wが30μm、高さHが90μmである場合を考えると、曲率半径Rの最小値100μmに対してパターン配列ピッチPが300μmより大きくなるようにすればよいこととなる。
【0030】
<電極の製造方法>
図3はこの発明にかかる電池用電極の製造装置の一例を示す図である。より詳しくは、同図はこの発明にかかる電極の製造方法を実施するのに好適な電極製造装置の一実施形態の要部を示す図である。上記のような構造を有する電池用電極10については、以下に説明するように、いわゆるノズルスキャン方式による塗布技術を用いて効率よく製造することが可能である。ノズルスキャン方式の塗布技術については多くの公知文献があるので(例えば特開2002−184303号公報参照)、ここでは詳しい説明を省略する。
【0031】
図3(a)に示すように、ノズルスキャン方式の塗布では、水平面(XY平面)に沿って配置された塗布対象物たるワークWkに対して、Z方向(鉛直方向)上方位置にノズル体31が配置される。ノズル体31の下部には、ワークWkに向けて突設されて下端に吐出口312が穿設された吐出ノズル311が設けられており、ノズル体31内の貯留空間に貯留された所定の塗布液31pが吐出ノズル311の吐出口312から吐出されるとともに、ノズル体31がワークWkに対して所定の相対移動方向Dn(例えばY方向)に相対移動することにより、ワークWkの表面Wfに塗布液31pがライン状に塗布され、塗布液によるライン状パターン32がワーク表面Wfに形成される。
【0032】
図3(b)に示すように、ノズル体31に対して、それぞれ吐出口312を有する複数の吐出ノズル311が移動方向Dnに直交する方向(X方向)に沿って一列にかつ等間隔に配置される。このような構成によれば、図3(c)に示すように、ワークWkに対するノズル体31の相対移動により、X方向においては等間隔かつ互いに平行であり、Y方向に沿って延びる複数のライン状パターン32が形成される。
【0033】
そして、吐出ノズル311の配列ピッチ、その先端の吐出口312の断面形状、吐出口312とワーク表面Wfとの距離、塗布液の粘度およびワークWkに対するノズル体31の相対移動速度等を適宜に制御することにより、上記(式2)および(式3)の関係を満たすライン状パターンを形成することが可能である。さらに、塗布後のワークWkを例えば静置または必要に応じ加熱等の硬化促進処理を施して、こうして形成された塗布液によるライン状パターン32を乾燥・硬化させることにより、固体化した活物質材料によるライン状パターン121(図1)をワーク表面に形成することができる。
【0034】
ライン状パターン32を形成するための塗布液としては、例えば、前記した活物質材料の他に、導電助剤としてのアセチレンブラックまたはケッチェンブラック、結着剤としてのポリフッ化ビニリデン(PVDF)、スチレンブタジエンラバー(SBR)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリビニルアルコール(PVA)またはポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、溶剤としてのN−メチル−2−ピロリドン(NMP)などを混合したものを用いることができる。
【0035】
また、ワークWkとしては、電池用電極10の基材となるものを用いることができ、次に説明するように、集電体膜を単体で、または集電体膜に活物質膜を形成したシート状の基材を使用することができる。
【0036】
図4はワークの例を示す図である。図4(a)に示すワークW1は、電池用電極10において集電体膜11として機能するものであり、前記したように、単体の金属箔、またはシート状基材に金属膜を積層したものを用いることができる。該ワークW1の金属表面に、前記したノズルスキャン方式により塗布液を塗布しこれを硬化させてライン状パターン121を形成することにより、集電体となる金属膜と活物質層とを積層してなる電極構造を得ることができる。
【0037】
また図4(b)に示す例では、集電体として機能するシート状基材111bの表面に、ライン状パターン121を構成するのと同一の活物質材料を含む活物質膜112bが形成されたワークW2を用いる。活物質膜112bについては、基材111bの可撓性を損なうことのないよう薄く形成される。このようなワークW2の活物質膜112b上に、ノズルスキャン方式によりライン状パターン121が形成される。このようにすると、互いに同一の活物質材料を含む活物質膜112bとライン状パターン121とが一体として活物質層としての機能を果たすことになる。この場合、活物質層の実効的な表面積がより大きくなっており、また集電体の表面が露出せず活物質により覆われているので、電池としての性能をより向上させることが可能となる。
【0038】
<本発明にかかる電池>
図5は本発明にかかる電池の一実施形態の要部を示す拡大断面図である。この電池の主要部は、本発明にかかる一方極(例えば正極)の電池用電極10と、他方極(例えば負極)の電池用電極20とを、セパレータ30を挟んで対向させるとともに、これらの間隙空間を固体または液体の電解質40により充填した構造を有する積層体1となっており、電池はこの積層体1を巻回してケースに収めた構造となっている。電池全体の構造としては、例えば前記した特許文献1(特開2009−289586号公報)に記載のものの他、特許第4438863号公報、特許第4497904号公報に記載のものなどを採用することができる。
【0039】
図5の例では、本発明にかかる一方極側電極10の活物質によるライン状パターン121を内側にして、かつその延設方向に平行な軸周りに上記積層体1を巻回している。この場合において、電極10の曲率半径の最小値Rに対応して、ライン状パターン121の頂部幅W、高さHおよび配列ピッチP(図2)が前述の(式2)を満たすように形成しておくことで、パターン121の損壊や集電体膜11からの剥離が未然に防止される。これにより、小型で高性能な電池を得ることが可能となっている。
【0040】
ここで、活物質パターンを外側にして巻回されている他方極側電極20については、その寸法が本発明にかかる条件を満足する必要は必ずしもない。したがって、個々のパターンの寸法や配列ピッチは一方極側電極10のものとは異なっていてもよい。ただし、少なくとも巻回軸方向と同方向に延びる互いに離隔したライン状パターンとすることによってパターンの剥離を防止できる構造としておくことが望ましい。
【0041】
<その他>
なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したもの以外に種々の変更を行うことが可能である。例えば、上記実施形態における活物質のライン状パターンのそれぞれは、その延設方向において基材の一方端側から他方端側に一体的に連続したものであるが、これに限定されず、ライン状パターンがその延設方向においていくつかに分断されていてもよい。
【0042】
また、上記実施形態では、ライン状パターン121の配列ピッチPを均一、つまり複数のライン状パターン121を全て等間隔に配置しているが、本発明の条件式は電極が巻回される部分において成立していればよく、この意味において、例えば巻回される部分とそうでない部分とが予め明確に分離できるのであれば、巻回される部分についてのみ本発明を適用するようにしてもよい。
【0043】
また、上記実施形態では、電極をケースに収める際の巻回における曲率を考慮してライン状パターンの寸法を規定しているが、これ以外にも例えば、本発明にかかる電池用電極を製造した後、他の工程への搬送のために該電極をロール状に巻き取ることが考えられるが、このような巻き取りにおける曲率が大きい場合にこれに対応させた寸法のパターンを形成するようにしてもよい。
【0044】
また、上記実施形態では、ワークに対して相対移動するノズル体にその移動方向に直交させて多数の吐出ノズルを設けたノズルスキャン方式によって、多数のライン状パターンを形成しているが、より少ないノズル数で、ワークとノズル体との相対移動を所定回数繰り返すことによっても、同様の構造を実現することが可能である。
【0045】
また、上記実施形態の電極パターンの形成方法では、枚葉シート状のワークWkに対し活物質材料を含む塗布液を塗布しライン状パターンを形成しているが、ワークとしてはこれに限定されるものではなく、例えばワークとして長尺帯状(ウェブ状)の基材を用いてもよい。例えば、長尺帯状基板の長手方向と直交する方向に沿ってライン状パターンを形成するようにしてもよい。
【0046】
また、上記実施形態で例示した集電体、活物質、電解質等の材料はその一例を示したものであってこれに限定されず、リチウムイオン電池の構成材料として用いられる他の材料を使用してリチウムイオン電池または該電池用の電極を製造する場合においても、本発明の製造方法を好適に適用することが可能である。また、リチウムイオン電池に限らず、他の材料を用いた化学電池全般の製造に本発明を適用することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0047】
この発明は、例えばリチウムイオン二次電池のような電池用の電極および該電極を含む電池を製造する技術に特に好適に適用することができる。
【符号の説明】
【0048】
1 (電池の主要部としての)積層体
10 電池用電極
11 集電体膜
12 活物質層
20 他方極側電極
40 電解質
121 (活物質材料の)ライン状パターン
H (ライン状パターンの)高さ
P (ライン状パターンの)配列ピッチ
R (集電体膜の)曲率半径
W (ライン状パターン頂部の)幅
Wk ワーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の表面に活物質層を形成してなる、巻回可能な電池用電極の製造方法において、
前記活物質層の材料物質を含む塗布液を、前記基材の表面にライン状に塗布し該塗布液を硬化させることによって、互いに平行な複数のライン状パターンを有する前記活物質層を前記基材の表面に形成し、しかも、
前記基材の表面からの前記ライン状パターンの高さをH、前記ライン状パターンの頂部の幅をW、隣接する前記ライン状パターン間のピッチをP、前記巻回における前記集電体膜の曲率半径の最小値をRとしたとき、以下の関係式:
P>W・R/(R−H)
を満たすことを特徴とする電極の製造方法。
【請求項2】
前記塗布液を吐出するノズルを前記基材の表面に対し相対移動させて、前記塗布液を前記基材の表面に塗布する請求項1に記載の電極の製造方法。
【請求項3】
前記基材の表面に前記活物質層を形成してなる構造体を、前記ライン状パターンの延設方向に平行な軸周りに、かつ前記活物質層を内側にして巻回する工程を含む請求項1または2に記載の電極の製造方法。
【請求項4】
前記基材は集電体膜である請求項1ないし3のいずれかに記載の電極の製造方法。
【請求項5】
前記基材は集電体膜の表面に活物質膜を形成した積層体であり、該積層体の前記活物質膜の表面に前記塗布液を塗布する請求項1ないし3のいずれかに記載の電極の製造方法。
【請求項6】
集電体膜の表面に活物質層が形成されてなる、巻回可能な電池用電極において、
前記活物質層は、前記集電体膜の表面に互いに平行に形成された複数のライン状パターンを有し、しかも、
前記集電体膜の表面からの前記ライン状パターンの高さをH、前記ライン状パターンの頂部の幅をW、隣接する前記ライン状パターン間のピッチをP、前記巻回における前記集電体膜の曲率半径の最小値をRとしたとき、以下の関係式:
P>W・R/(R−H)
を満たすことを特徴とする電池用電極。
【請求項7】
請求項6に記載の電池用電極からなる一方極の電極と、他方極の電極とが電解質層を挟んで対向配置された積層体を有し、
前記積層体が、前記一方極の電極の前記活物質層を内側にして、該電極に形成された前記ライン状パターンの延設方向に平行な軸周りに巻回されている
ことを特徴とする電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−146480(P2012−146480A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−3630(P2011−3630)
【出願日】平成23年1月12日(2011.1.12)
【出願人】(000207551)大日本スクリーン製造株式会社 (2,640)
【Fターム(参考)】