説明

電極シート積層型リチウムイオン電池またはその製造方法

【課題】電積層型リチウムイオン電池において、複数の電極シートごとに識別番号を付すことにより、電池品質の向上が図ることができるリチウムイオン電池を提供する。
【解決手段】正極物質が塗布された複数の正極シート11と、負極物質が塗布された複数の負極シート12と、前記正極シートと前記負極シートとの間に設けられるセパレータ13とを備え、複数の前記正極シートと複数の前記負極シートとは、独立に識別できる識別標識を有することを特徴とする電極シート積層型リチウムイオン電池を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池の構造に関するものであり、特に複数枚の電極シートを重ねあわせた電極シート積層型リチウムイオン電池の構造に係わり、本発明に基づく構造によって信頼性の高いリチウムイオン電池またはその製造方法を供する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、長尺の電極シートやセパレータを巻き取り、最終的には円柱や角柱に成型した、いわゆる捲回型と呼ばれるリチウムイオン電池において、正極、負極の少なくとも1つに識別表示が付されているものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−040875号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特定面積に切断した複数毎の電極シートおよびセパレータを重ねる、いわゆる積層型とよばれる構造のリチウムイオン電池においては、捲回型と比較すると、積層枚数の制御や、積層電極の選択により電池性能を調整できることや、積層する電極電池形状の自由度も大きいなどメリットも多い。その一方で、積層型リチウムイオン電池では、複数シートの電極で構成されているため、各々の電極は必ずしも同一のタイミングや製造条件で生産されるとは限らない。
【0005】
特許文献1では、1つの電極構造体につき、1種類の識別表示が付されているのみである。シートの選択により、電池性能を調整したい場合には、電極の品質管理データが明らかである電極シートを確実に選択することが重要であるが、特許文献1のように1種類の識別表示しかないと、量産時や製品が市場に供給された後に電極膜厚、電極重量、生産日時、生産装置等の品質管理データを複数の電極ごとに特定することができない。
【0006】
本発明では、上記問題点に鑑み、積層型リチウムイオン電池において、複数の電極シートに独立に判別できる識別番号を付すことにより、電池品質の向上が図ることができるリチウムイオン電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明は、正極物質が塗布された複数の正極シートと、負極物質が塗布された複数の負極シートと、前記正極シートと前記負極シートとの間に設けられるセパレータとを備え、複数の前記正極シートと複数の前記負極シートとは、独立に識別できる識別標識を有することを特徴とすることを特徴とする電極シート積層型リチウムイオン電池を提供する。
【0008】
また、他の観点における本発明は、複数の正極シートおよび複数の負極シートに独立に判別できる識別標識を付記する付記工程と前記正極シートと、前記負極シートとをセパレータを介して複数積層させた積層シート群を形成する積層工程とを有することを特徴とする電極シート積層型リチウムイオン電池の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、積層型リチウムイオン電池において、複数の電極シートごとに識別番号を付すことにより、電池品質の向上が図ることができるリチウムイオン電池を提供することを目的とする。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】電極シート積層型リチウムイオン電池の概念図。
【図2】正極シートを示す図である。
【図3】負極シートを示す図である。
【図4】電極シートの製造工程を示す図である。
【図5】電極シートの膜厚を測定する場合の測定例を示す図である。
【図6】電極シートを選択し、電池を組み立てる工程を示す図である。
【図7】電極シートを選択し、電池を組み立てる工程を示す図である。
【図8】電極シートを選択し、電池を組み立てる工程を示す図である。
【図9】電極シートを選択し、電池を組み立てる工程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
リチウムイオン電池は、正極シート、負極シート、両シートの間に設けられたセパレータを、缶構造、あるいはアルミニウム等を基体としたフィルム状の電池筐体に組み込み、電解液を注液した後、封止することによって製造する。缶構造、あるいはフィルム状構造によって製造方法や外観は大きく異なるが、電池を動作させるための基本的な部分は共通である。例えば、正極シートには正極物質が、負極シートには負極物質が両面に塗布され、セパレータは正極物質と負極物質が短絡するのを防ぐために挿入されている。
【0012】
この様なリチウムイオン電池の製造において、まず試作品開発のフェーズでは、電池特性向上や信頼性向上を目的として、種々のプロセス条件で試作を行い、その特性データを元に、さらに新しい設計指針にフィードバックしていくことが重要となってくる。電池容量などの電池特性は電極物質の重量などの品質管理データと大きな相関を持つことから、品質管理データの把握、品質管理データをもとにした製品設計が重要となる。
【0013】
また量産品生産のフェーズでは、前述した品質管理データを監視することにより、突発的なエラーや品質の推移を把握することができ、その解析から不良原因を突き止め、製品不良率の低減が可能となってくる。
【0014】
一方、製品が市場に出た後のフェーズでは、顧客からの問い合わせに対する製造トレーサビリティの確保が重要になってきており、特に近年では製造物責任法の観点から高信頼性品質管理の重大性が増加している。
【0015】
正負極の電極シートおよびセパレータを重ねる構造を大きくわけると、長尺の電極シートやセパレータを巻き取り、最終的には円柱や角柱に成型した、いわゆる捲回型と呼ばれる方法や、特定面積に切断した複数毎の電極シートおよびセパレータを重ねる、いわゆる積層型とよばれる構造がある。
【0016】
本実施例における積層型方式によるものは、各電極シートを所定の寸法・形状に打ち抜いた後、必要な電極やセパレータを重ねて積層構造にする。捲回型と比較すると、積層枚数の制御や、積層電極の選択により電池性能を調整できることや、積層する電極電池形状の自由度も大きいなどメリットも多い。
【0017】
一方、積層型リチウムイオン電池では、複数シートの電極で構成されているため、各々の電極は必ずしも同一のタイミングや製造条件で生産されるとは限らない。従って前述したようにシートの選択により、電池性能を調整したい場合には、電極の品質管理データが明らかである電極シートを確実に選択することが重要である。ここでの品質管理データとは電極膜厚、電極重量、生産日時、生産装置等を指している。また、量産時や製品が市場に供給された後、その電池品質を特定するためには、電極シートを確実に判別することが必要となってくる。
【0018】
以下、本実施例におけるリチウムイオン電池の構造について、電極シート、およびセパレータを積層するときの模式図を図1に示して説明する。
【0019】
ここで正極シート、負極シート、セパレータを複数積層したものを、ここでは積層シート群10と呼ぶ。なお積層シート群は、後の工程で、缶構造やフィルム状の電池筐体に組み込み、電解液を注液することで電池として完成する。
【0020】
積層シート群10は、複数の正極シート11、負極シート12、セパレータ13で構成されている。ここで、積層シート群は、複数の正極シート11、負極シート12、セパレータ13を重ねた構造となっている、例えば本発明の実施例においては、図面に示すように、正極シート11a、セパレータ13a、負極シート12a、セパレータ13b、正極シート11b、セパレータ13c、負極シート12bの様に、正極シート2枚、負極シート2枚、セパレータ3枚の例を示しているが、セパレータ13を介して対面する電極シートが異極であれば、枚数は問題ではなく、リチウムイオン電池の電池容量設計によって、この枚数は任意に変更することが可能である。なお本発明の特徴である電極シート状の識別標識を14で示してある。
【0021】
次に本発明により供されるリチウムイオン電池の電極シートを図2、図3により詳細に説明する。図2は正極シートを、図3は負極シートをそれぞれ示したものである。正極シート20は正極用集電箔21、正極物質22、によりにより構成されている。負極シート30は負極用集電箔31、負極物質32により構成されている。
【0022】
本発明のリチウムイオン電池の正極活物質22には、Mnを含有するスピネル構造のリチウム含有複合酸化物を使用しているが、他の正極活物質を併用してもよい。例えば、LiMO2(M:Co、Ni、Mn、Al、Mg、Zr、Tiなど)で表わされるオリビン型化合物や、LiCoO2、LiNi1−xCox−yAlyO2、LiNi1−xCox−yMnyO2などで表わされる層状構造のリチウム含有遷移金属酸化物を用いることができる。
【0023】
また本発明の負極活物質32は、天然黒鉛、人造黒鉛などの黒鉛材料やコークスなどの易黒鉛化性炭素質材料を使用しているが、フルフリルアルコール樹脂(PFA)、ポリパラフェニレン(PPP)およびフェノール樹脂を低温焼成して得られた非晶質炭素などの難黒鉛化性炭素質材料、その他炭素材料以外として、Liや、Si,Al等とLiの合金あるいはSi酸化物などの酸化物材料も負極活物質として用いることができる。
【0024】
本発明では正極用集電箔21にアルミニウム箔を、また負極用集電箔に銅箔を使用した例を示してある。複数の正極シート20、および負極シート30上には、複数の正極シート20、および負極シート30を独立に識別できるような識別標識23、33がそれぞれ付記されている。これにより、複数の正極シート20、および負極シート30ごとに、品質管理データを特定することができる。
【0025】
次にこの正極シートおよび負極シートの製造方法について詳細を説明する。図4は複数の正極シートと、複数の負極シートにそれぞれを独立に識別できる識別標識を付記するプロセスの示したものであり、電極シートを上面から観察したものである。
【0026】
まず正極材料および負極材料42を、集電箔41上に塗布する。正極材料は、例えば、正極活物質、導電助剤およびバインダなどを含有する正極合剤を、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)などの有機溶剤や水に分散させて調整した、ペーストあるいはスラリー状の正極合剤含有組成物を、集電箔に塗布して乾燥させる。負極材料は、例えば、負極活物質およびバインダ、必要に応じて導電助剤などを含有する負極合剤を、NMPなどの有機溶剤や水等に分散させて調和させた、ペーストあるいはスラリー状の負極合剤を、集電体に塗布して乾燥させる。これら塗布済の正極シートおよび負極シートは必要に応じてプレス処理を施す。なおペーストあるいはスラリー状の合材は集電箔全面に塗布するのではなく、一部集電箔がむき出しになる部分41を残しておく(図4a)。
【0027】
次に塗布後の電極シートを任意の形状に切断する。この際、後に識別標識を付記する場所43を残しておく(図4b)。
【0028】
切断した後、電極シート上の集電箔がむき出しになっている部分に識別標識44を付記する(図4c)。本発明では、上記影響を考慮して、レーザを用いたマーキングを行っている。なお、識別標識を付記する方法は、後の電池に影響がでないものであれば、どの様な方法でも良く、例えばエンボス加工によって実施しても良い。ここで記載した電池への影響というのは、異物、電池反応を阻害するような汚染等である。また本実施例では識別標識をアルファベットおよび数字の組合せとしているが、後の品質管理に支障がなければ問題なく、例えば、記号やバーコード等を用いても何ら問題はない。
【0029】
識別標識を付記した後は、電極シートそれぞれの品質管理データを取得し、その後、積層電池用の電極シートを選択する。なお、ここでの品質管理データとは、電極シートの膜厚、電極シートの重量などである。本発明では、電極シートの膜厚測定は図5に示すように、電極シート内の特定の位置51で数点測定し、その平均値を計算することによって求めている。また重量測定は電子天秤等で測定する。電池容量などの電池特性は電極物質の膜厚や重量に概ね比例する。そこでこれらの品質管理データを活用し、使用する電極を決定することとする。本発明での積層シート型リチウム電池では、正極シートおよび負極シートは、少なくともそれぞれ2枚以上によって構成されており、正極シートの組み合わせ、および負極シートの組合せを選ぶ際には、品質管理データに基づいてそれぞれのシート群の総膜厚や、総重量が設計値になるように選択する。このように品質管理データを運用することによって、最初に設計した電池容量を精度よく達成することが可能となる。
【0030】
この様な品質管理データの運用には、複数の正極シート、複数の負極シートそれぞれの膜厚や重量を個別に管理し、シート群の総膜厚や、総重量が設計値通りになっているか否かの確認が必要である。また、これらの品質管理データの運用は、製造時に発生する不良の特定やまた市場に供給された後、対象電池の履歴特定するために製造時や製品が市場に供給された後においても必要である。そこで、本実施例のように、複数の正極シートと複数の負極シートとに独立に識別できる識別標識を付記することで、品質管理データを運用し、品質の向上、維持を図ることができる。
【0031】
電極シートを選択した後、複数の正極シート61と複数の負極シート63とをセパレータ62を介して積層させ、最終的な電池を組み立てるまでの工程を図6〜図9に示す。まず、本実施例では、正極シート61、セパレータ62、負極シート63を順次重ねた例を示す(図6)。
【0032】
その後、正極シートの電極材料が塗布されていない部分71、及び負極シートの電極材料が塗布されていない部分72を溶着する。ここでの溶着は超音波圧着方式を用いているが、正極シート、あるいは負極シートすべての導通がとれれば手段は問わない(図7)。
【0033】
次に溶着した部分には、電極取り出し用の金属を溶着する。正極部分にはアルミニウム金属の電極81を、また負極部分には銅表面をニッケルめっきした金属の電極82を溶着する。本発明での溶着は超音波圧着方式を用いているが、正極部、負極部それぞれの導通が確保できれば手段は問わない(図8)
この様に形成したシート群を、アルミニウム金属を基体とした、ラミネートフィルム91に封入し、ラミネートフィルムの周辺部分3箇所92を熱圧着により封止する。なお、ラミネートフィルム91の表側と裏側面はそれぞれ非導電性膜によってコーティングされている。その後、ラミネートフィルムの開口部93より電解液を注入し、最後にラミネートフィルムの開口部93を熱圧着により封止し完成する(図9)。
【0034】
本実施例によれば、電極シート積層型のリチウムイオン電池において、正極シートおよび負極シートの電極識別標識を付記することによって、正極、負極シートの品質が明らかな電極の組合せでの電池製造が可能となるため、電池品質の向上が図れる。また、電極の品質情報と、電池性能を関連づけた解析が容易となり、製造時に発生する不良の特定を迅速化することが可能となる。また市場に供給された後、対象電池の履歴特定が容易となる。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本考案は電極シート積層型リチウムイオン電池を対象になされたものであるが、本質は、電極シートに識別標識を付記して、それを用いて重ね合せた点にある。従って、他の電極シート積層型電池類にも活用できる。
【符号の説明】
【0036】
10:積層シート群
11:正極シート
12:負極シート
13:セパレータ
14:識別標識
20:正極シート
21:正極用集電箔
22:正極物質
30:負極シート
31:負極用集電箔
32:負極物質
41:集電箔
42:正極材料または負極材料
43:識別標識を付記する箇所
44:識別標識
51:膜厚測定位置
61:正極シート
62:負極シート
63:セパレータ
71:正極シートの電極材料未塗布部
72:負極シートの電極材料未塗布部
81:正極取り出し電極
82:負極取り出し電極
91:ラミネートフィルム
92:封着部
93:封着部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極物質が塗布された複数の正極シートと、
負極物質が塗布された複数の負極シートと、
前記正極シートと前記負極シートとの間に設けられるセパレータとを備え、
複数の前記正極シートと複数の前記負極シートとは、独立に識別できる識別標識を有することを特徴とする電極シート積層型リチウムイオン電池。
【請求項2】
前記正極シートおよび前記負極シートは活物質材料が塗布されている箇所と、前記識別標識を記載する箇所が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の電極シート積層型リチウム電池。
【請求項3】
識別標識は、アルファベット、数字、記号、バーコードのいずれかを含むことを特徴とする請求項1に記載の電極シート積層型リチウム電池。
【請求項4】
前記正極シートおよび前記負極シートの組み合わせは品質管理データに基づき選択されることを特徴とする請求項1に記載の電極シート積層型リチウムイオン電池。
【請求項5】
前記品質管理データは、電極膜厚、電極重量であることを特徴とする請求項4に記載の電極シート積層型リチウムイオン電池。
【請求項6】
前記品質管理データは、正極シートの重量の総和、および負極シートの重量の総和であることを特徴とする請求項5に記載の電極シート積層型リチウムイオン電池。
【請求項7】
前記品質管理データは、正極シートの膜厚の総和、および負極シートの膜厚の総和であることを特徴とする請求項5に記載の電極シート積層型リチウムイオン電池。
【請求項8】
複数の正極シートおよび複数の負極シートに独立に判別できる識別標識を付記する付記工程と
前記正極シートと、前記負極シートとをセパレータを介して複数積層させた積層シート群を形成する積層工程とを有することを特徴とする電極シート積層型リチウムイオン電池の製造方法。
【請求項9】
前記付記工程はレーザマーキング方式エンボス方式のいずれかによって実施することを特徴とする請求項8に記載の電極シート積層型リチウムイオン電池の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−30376(P2013−30376A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−166194(P2011−166194)
【出願日】平成23年7月29日(2011.7.29)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】