説明

電極フィルム及び座標検出装置

【課題】電極パターンによる視認性の低下を防止することが可能な電極フィルム及び座標検出装置を提供する。
【解決手段】本発明の電極フィルム1は、基材2と、積層体とを有する。基材2は、光透過性を有する。積層体は、基材2上に積層された絶対屈折率が1.50より大きい高屈折率材料からなり2nm以上20nm以下の厚さを有する高屈折率層3と、高屈折率層上3に積層された絶対屈折率が1.50未満の低屈折率材料からなり10nm以上100nm以下の厚さを有する低屈折率層4と、低屈折率層4上に積層された透明導電性材料からなり表面抵抗が350Ω/□以下であるパターン状の電極層5とを有する積層体であって、積層体のJIS K−7105にて規定される全光線透過率が85%以上かつ、電極層5の有無による前記全光線透過率の差異が2%未満である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表示画面上の指示位置を検出するための座標検出装置に用いられる電極フィルム及びその電極フィルムを用いた座標検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ディスプレイ上の指示位置を検出することが可能なタッチパネルには種々の検出原理のものがある。その中でも近年、比較的小型なディスプレイ向けに投影型静電容量方式のタッチパネルの普及が進んでいる。投影型静電容量方式のタッチパネルは、基材上に電極パターンが形成された電極フィルムがディスプレイ上に配置されて構成されている。ユーザの指等の操作子が電極フィルムに近接すると、操作子と電極とが静電結合し、電極に流れる電流が変化する。タッチパネルはこの電流の変化から支持体の位置を検出する。
【0003】
ここで、電極フィルムはディスプレイ上に配置されるため、ユーザによるディスプレイの視認性を妨げないことが求められる。具体的には、光透過性が高く、また、色調変化が小さいものが好適である。例えば、特許文献1には、透明フィルム上に、高屈折率材料からなる高屈折率層と、低屈折率材料からなる低屈折率層が交互に2層ずつ積層され、さらに透明導電層が積層されて形成された「透明電極フィルム」が開示されている。この透明電極フィルムでは、高屈折率層と低屈折率層による光路差により反射光が打ち消され、光透過性が高く、色調変化も小さいとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−299534号公報(段落[0044]、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記透明電極フィルムのような構成において、透明導電層の有無による光透過性及び色調変化の差は考慮されていない。上述のように静電容量方式のタッチパネルに用いられる電極フィルムでは、位置検出のために電極層(透明導電層)がパターニングされている必要がある。このため、電極フィルムには電極層の存在する領域と電極層が存在しない領域が存在する。電極層が存在する領域と存在しない領域の光透過性及び色調変化の差が大きければ、ユーザが電極パターンを視認してしまい、ディスプレイの視認性が損なわれる。
【0006】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、電極パターンによる視認性の低下を防止することが可能な電極フィルム及び座標検出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る電極フィルムは、基材と、積層体とを具備する。
上記基材は光透過性を有する。
上記積層体は、上記基材上に積層された絶対屈折率が1.50より大きい高屈折率材料からなり2nm以上20nm以下の厚さを有する高屈折率層と、上記高屈折率層上に積層された絶対屈折率が1.50未満の低屈折率材料からなり10nm以上100nm以下の厚さを有する低屈折率層と、上記低屈折率層上に積層された透明導電性材料からなり表面抵抗が350Ω/□以下であるパターン状の電極層とを有する積層体であって、上記積層体のJIS K−7105にて規定される全光線透過率が85%以上かつ、上記電極層の有無による上記全光線透過率の差異が2%未満である。
【0008】
この構成によれば、全光線透過率が85%以上であるため光透過性が高く、また、電極層の有無による全光線透過率の差が2%以下であるため、ユーザが電極層のパターンを視認することが防止される。
【0009】
上記電極フィルムは、上記電極層の有無による、JIS Z−8701にて規定される透過率の刺激値Yの差が2.0以下であってもよい。
【0010】
この構成によれば、電極層の有無による光透過率の差が小さいため、ユーザが電極層のパターンを視認することが防止される。
【0011】
上記電極フィルムは、上記電極層の有無による、JIS Z−8701にて規定される反射率の刺激値Yの差が2.0以下であってもよい。
【0012】
この構成によれば、電極層の有無による光反射率の差が小さいため、ユーザが電極層のパターンを視認することが防止される。
【0013】
上記電極フィルムは、上記電極層の有無による、JIS Z−8729にて規定される透過率のa−b色座標空間における座標の差が4.0以下であってもよい。
【0014】
この構成によれば、透過光における電極層の有無による色の差が小さいため、ユーザが電極層のパターンを視認することが防止される。
【0015】
上記電極フィルムは、上記電極層の有無による、JIS Z−8729にて規定される反射率のa−b色座標空間における座標の差が4.0以下であってもよい。
【0016】
この構成によれば、反射光における電極層の有無による色の差が小さいため、ユーザが電極層のパターンを視認することが防止される。
【0017】
上記高屈折率層は一酸化ニオブからなり、上記低屈折率層は二酸化ケイ素からなり、上記電極層は酸化インジウムスズからなるものであってもよい。
【0018】
この構成によれば、電極フィルムの全光線透過率を85%以上かつ、電極層の有無による全光線透過率の差を2%以下とすることが可能である。
【0019】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る座標検出装置は、表示画面と、少なくとも1枚以上の電極フィルムとを具備する。
上記表示画面は、画像を表示する。
上記電極フィルムは、光透過性を有する基材と、上記基材上に積層された絶対屈折率が1.50より大きい高屈折率材料からなり2nm以上20nm以下の厚さを有する高屈折率層と、上記高屈折率層上に積層された絶対屈折率が1.50未満の低屈折率材料からなり10nm以上100nm以下の厚さを有する低屈折率層と、上記低屈折率層上に積層された透明導電性材料からなり表面抵抗が350Ω/□以下であるパターン状の電極層とを有する積層体であって、上記積層体のJIS K−7105にて規定される全光線透過率が85%以上かつ、上記電極層の有無による上記全光線透過率の差異が2%未満である積層体を有する。
【0020】
この構成によれば、ユーザによる電極フィルムの電極層のパターンの視認が防止されるため、表示画面に表示される画像の視認性が高い座標検出装置とすることが可能である。
【発明の効果】
【0021】
以上のように本発明によれば、電極パターンによる視認性の低下を防止することが可能な電極フィルム及び座標検出装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施形態に係る電極フィルムの積層構造を示す断面図である。
【図2】該電極フィルムの電極層のパターニングの様子を示す斜視図である。
【図3】電極層、高屈折率層及び低屈折率層の積層体の各光学特性の測定結果を示す表である。
【図4】電極層、高屈折率層及び低屈折率層の積層体の各光学特性の測定結果を示す表である。
【図5】該電極フィルムの製造設備を示す模式図である。
【図6】本発明の実施形態に係るタッチパネルの構成を模式的に示す分解斜視図である。
【図7】本発明の実施形態に係る電極フィルムの電極領域及び非電極領域の配置を示す平面図である。
【図8】本発明の適用例に係るタッチパネルのパターン視認性の評価結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
【0024】
[電極フィルムの構成]
図1は、本発明の一実施形態に係る電極フィルム1の積層構造を示す断面図である。
同図に示すように、電極フィルム1は、この順に積層された、基材2、高屈折率層3、低屈折率層4及び電極層5から構成されている。電極層5は、パターニングされており、電極フィルム1は電極層5が形成された電極領域1aと、電極層5が形成されていない非電極領域1bとを有する。
【0025】
図2は、電極層5のパターニングの様子を示す斜視図である。同図に示すように、電極層5は、一方向に沿って配列する菱型状にパターニングされており、各列には配線6がそれぞれ接続されている。このようなパターンは一例であり、電極層5はこれと異なるパターンにパターニングされていてもよい。このようなパターンはディスプレイ上における位置検出のために必要であり、詳細は後述する。
【0026】
以下、各層の構成について説明する。
図1に示す基材2は、可撓性を有する光透過性の高い材料、例えばPET(Polyethylene Terephthalate)、PEN(Polyethylene naphthalate)、延伸COP(Cycloolefin Polymer)あるいは無延伸COPからなるものとすることができる。これらの材料に傷つき防止のために紫外線硬化性樹脂を塗布したものを用いても良い。また、基材2の厚さは例えば50μm以上188μm以下とすることができる。
【0027】
高屈折率層3は、絶対屈折率が1.50より大きい高屈折率材料、例えば一酸化ニオブ(NbO)、五酸化ニオブ(Nb)、二酸化チタン(TiO)、窒化ケイ素(Si)、二酸化スズ(SnO)、五酸化タンタル(Ta)、酸化亜鉛(ZnO)、一酸化ケイ素(SiO)等からなるものとすることができる。また、高屈折率層3の厚さは2nm以上20nm以下とすることができる。
【0028】
低屈折率層4は、絶対屈折率が1.50未満の低屈折率材料、例えば二酸化ケイ素(SiO)、フッ化マグネシウム(MgF)等からなるものとすることができる。また、低屈折率層4の厚さは10nm以上100nm以下とすることができる。
【0029】
電極層5は、透明導電性材料、例えば酸化インジウムスズ(ITO:Indium Tin Oxide)、酸化インジウム亜鉛(IZO:Indium Zinc Oxide)、酸化亜鉛アルミニウム(AZO:Aluminum Doped Zinc Oxide)等からなるものとすることができる。電極層5は、表面抵抗が350Ω/□未満となる厚さ(ITOの場合15nm>)とすることができる。この表面抵抗は、「JIS K−7194」に準拠して「ロレスタGP(登録商標)」(株式会社ダイアインスツルメンツ製)を用いて測定することができる。
【0030】
電極フィルム1は、電極領域1a(基材2、高屈折率層3、低屈折率層4及び電極層5が積層された領域)の全光線透過率が85%以上となるように構成されている。また、電極フィルム1は、電極領域1aの全光線透過率と、非電極領域1b(基材2、高屈折率層3及び低屈折率層4が積層された領域)の全光線透過率の差が2%未満となるように構成されている。なお、全光線透過率は「JIS K−7105」に準拠して「NDH5000」(日本電色工業株式会社製)を用いて測定することができる。
【0031】
図3及び図4は、電極層、高屈折率層及び低屈折率層の積層体の各光学特性の測定結果を示す表である。電極層、高屈折率層及び低屈折率層が積層された積層体を「積層構成」として示す。各積層構成において電極層はITO、高屈折率層は五酸化ニオブ、低屈折率層は二酸化ケイ素からなるものである。図3及び図4には、各積層構成について、各層の厚さと、「表面抵抗」、「刺激値Y」、「全光線透過率」、「分光透過率」及び「分光反射率」の各値を示す。
【0032】
表面抵抗は、電極層の厚さに依存し、積層構成1と積層構成2では電極層の厚さが薄いため、表面抵抗が350Ω/□以上となっている。このため、積層構成1及び積層構成2はタッチパネル用の電極フィルムとしては不適である。
【0033】
全光線透過率は、「JIS K−7105」に規定された測定方法により測定された値であり、電極層、高屈折率層及び低屈折率層の厚さ及び絶対屈折率に依存する。図3及び図4には、各積層構成について、電極領域の全光線透過率、非電極領域の全光線透過率及びその差を示す。同図に示すように、電極領域及び非電極領域の全光線透過率は電極層、高屈折率層及び低屈折率層の厚さに対応して増減するわけではなく、各層の厚さが厚くなっても減少する場合がある。これは、積層体に入射した光は、各層の界面で反射するが、各層の絶対屈折率の違いにより反射光の位相が相違する。各層の厚みが適切であれば反射光が打ち消しあい、透過率が向上するためである。図3及び図4に示すように、全光線透過率は、各層の厚みが適切な積層構成で85%以上となる。全光線透過率が85%以上となるのは、積層構成12及び15以外の積層構成である。透過率差は、電極領域と非電極領域のそれぞれの全光線透過率の差である。なお、プラスの値は電極層の存在により全光線透過率が減少していることを示し、マイナスの値は電極層の存在により全光線透過率が増加していることを示す。図3及び図4に示すように、透過率差が2%未満となるのは、積層構成4、7、8、10、17、19、及び22である。
【0034】
これらの測定結果から、電極層の表面抵抗が350Ω/□未満、全光線透過率が85%以上、透過率差が2%未満となるのは、積層構成4、7、8、10、17、19及び22の場合である。即ち、各層の厚みをこれらの積層構成の値とすることにより、電極フィルム1は光透過性が高く、また、電極領域1aと非電極領域1bの光透過性の差が小さくなるため、ユーザが電極領域1aと非電極領域1bの境界、即ち、電極パターンを視認し難くなる。
【0035】
また、電極フィルム1は、上記構成に加え、電極層の有無による「刺激値Y」の差である「ΔY」が2.0以下となるように構成されている。刺激値は、分光測定器にて入射角12°にて測定した波長380nmから780nmまでの範囲での透過率及び反射率の測定値から「JIS Z−8701」に規定されている計算方法により算出することが可能である。具体的には、「U−4100」(株式会社日立ハイテクノロジーズ(登録商標)製)を用いて、D65光源による透過率及び反射率を測定することができる。刺激値には、青(z)に関する刺激値Z、緑(y)に関する刺激値Y及び赤(x)に関する刺激値Xがあり、ここでは緑(y)に関する刺激値Yを用いる。図3及び図4に示すように、積層構成4、7、8、10、17、19、及び22のうち、分光透過率及び分光反射率のΔYが2.0%以下であるのは積層構成4、7及び19の場合である。
【0036】
これらの積層構成を有する電極フィルム1は、電極領域1aと非電極領域1bの光反射率の差が小さい。これにより電極領域1aと非電極領域1bの光反射率の差によるユーザの電極パターンの認識が防止される。
【0037】
さらに、電極フィルム1は、上記構成に加え、電極層の有無によるa−b色座標空間における変化量であるΔEabが4.0以下となるように構成されている。a−b色座標空間は、色空間の一種であり、人間の眼の非線形な反応を擬似するものである。したがってa−b色座標空間における2座標のユークリッド距離は、人間の眼における相対的知覚差異とみなすことができる。a−b色座標空間における変化量は、分光測定器にて入射角12°にて測定した波長380nmから780nmまでの範囲での透過率及び反射率の測定値から「JIS Z−8729」に規定されている計算方法により算出することが可能である。図3及び図4に示すように、分光透過率及び分光反射率のΔYが2.0%以下である積層構成4、7及び19は、分光透過率及び分光反射率のΔEabが4.0以下である。
【0038】
これらの積層構成を有する電極フィルム1は、電極領域1aと非電極領域1bの色の差が人間の眼にとって知覚できないほど小さい。これにより電極領域1aと非電極領域1bの色の差によるユーザの電極パターンの認識が防止される。
【0039】
以上のように、本実施形態に係る電極フィルム1は、電極領域1aの全光線透過率が85%以上となり、かつ、電極領域1aと非電極領域1bの全光線透過率の差が2%未満となるように構成されている。これにより電極領域1aと非電極領域1bの光透過率の差によるユーザの電極パターンの認識が防止される。また、本実施形態に係る電極フィルムは、電極領域1aと非電極領域1bの刺激値Yの差が2.0以下となるように構成されている。これにより電極領域1aと非電極領域1bの光反射率の差によるユーザの電極パターンの認識が防止される。さらに、本実施形態に係る電極フィルムは、電極領域1aと非電極領域1bのa−b色座標空間の変化量が4.0以下となるように構成されている。これにより電極領域1aと非電極領域1bの色の差によるユーザの電極パターンの認識が防止される。即ち、電極フィルム1は電極領域1aと非電極領域1bの光学特性の差が小さい。したがって、この電極フィルム1は、ユーザによるパターンの視認が防止され、ディスプレイの視認性を妨げないことが可能である。
【0040】
[電極フィルムの製造方法]
電極フィルム1の製造方法について説明する。
ここでは、例として、電極フィルム1は、高屈折率層3が五酸化ニオブ(Nb)、低屈折率層4が二酸化ケイ素(SiO)、電極層5が酸化インジウムスズ(ITO)であるものとして説明する。
【0041】
図5は、電極フィルム1の製造設備10を示す模式図である。
同図に示すように、製造設備10は、チャンバ11、巻き出し機12、メインロール13、巻き取り機14、ガイドロール15、第1カソード16、第2カソード17及び第3カソード18を有する。巻き出し機12、メインロール13、巻き取り機14、ガイドロール15、第1カソード16、第2カソード17及び第3カソード18はチャンバ11に収容されている。
【0042】
巻き出し機12、メインロール13及びガイドロール15には、基材2の材料となるフィルムFがセットされている。フィルムFは、PET樹脂フィルムにアクリル樹脂を塗布したフィルムとすることができる。フィルムFは巻き出し機12から、ガイドロール15を介してメインロール13及び巻き取り機14に巻回されている。巻き出し機12及び巻き取り機14が回転することで、フィルムFが巻き出し機12からメインロール13を介して巻き取り機14に走行することが可能とされている。
【0043】
第1カソード16、第2カソード17及び第3カソード18は、それぞれ所定のスパッタリングターゲットが設けられたスパッタリングカソードであり、それぞれメインロール13に対向して配置されている。これらは、巻き出し機12側、即ちフィルムFの上流側から第1カソード16、第2カソード17及び第3カソード18の順に配置されている。また、第1カソード16の近傍には第1ガス導入管19、第2カソード17の近傍には第2ガス導入管20、第3カソード18の近傍には第3ガス導入管21がそれぞれ設けられている。
【0044】
第1カソード16は高屈折率層3を成膜するためのカソードであり、Nbからなるターゲット材16aを有する。第2カソード17は低屈折率層4を成膜するためのカソードであり、Siからなるターゲット材17aを有する。第3カソード18は電極層5を成膜するためのカソードであり、In−Sn−O複合酸化物からなるターゲット材18aを有する。チャンバ11にプラズマ生成ガスとしてAr及びOを供給し、これらのターゲットを用いてスパッタリング(反応性スパッタリング)を発生させることにより、それぞれNb、SiO及びITOからなる膜が成膜される。上記ターゲット材やプラズマ生成ガスは、各層の材料に応じて適宜変更可能である。
【0045】
電極フィルム1の製造プロセスについて説明する。
フィルムFを上述のようにセットした後、チャンバ11内を真空排気する。この際、フィルムFを往復運動させて、フィルムFに含まれているガスを除去してもよい。1×10−3Pa程度まで減圧した後、第1ガス導入管19、第2ガス導入管20及び第3ガス導入管21からプラズマ生成ガス(例えばAr)を導入する。この際、チャンバ11内の圧力が0.5Pa程度になるようにプラズマ生成ガスの流量を調整する。
【0046】
次に、第1カソード16、第2カソード17及び第3カソード18に電力を印加してプラズマ生成ガスをプラズマ化させる。各カソードの印加電圧を徐々に高くして所定の電力になるように調整する。この際、フィルムFを微小速度で走行させることによって、プラズマ放電に伴なう熱負荷によりフィルムFが変形することを防止してもよい。各カソードへの印加電力は、予め求められた成膜速度と電力の関係に基づいて決定される。
【0047】
続いて各ガス導入管からOガスを微小量導入してフィルムFの走行を開始させる。
巻き出し機12と巻き取り機14が回転することによってフィルムFがメインロール13上を走行する。プラズマにより各ソードのターゲット材から生成したスパッタ粒子がフィルムFに対して飛翔する。走行するフィルムFの上流側に設けられた第1カソード16によってNbからなる高屈折率層3がフィルムF(基材2)上に積層され、次に設けられた第2カソード17によってSiOからなる低屈折率層4が高屈折率層3上に積層される。さらに第3カソード18によってITOからなる電極層5が低屈折率層4上に積層される。形成された積層体は巻き取り機14に巻き取られて成膜が完了する。
【0048】
続いて、上記積層体の電極層5をエッチング法等によりパターニングし、適当な大きさにカットする。これにより電極フィルム1が製造される。なお、電極フィルム1はここに示した方法以外の方法で製造することも可能である。例えば、スパッタリングカソードは1つの材料に対して複数配置してもよく、また、スパッタリングカソードを1つのみ配置して、単一の材料を成膜後、スパッタリングターゲットを交換して再度成膜してもよい。スパッタリング法ではなく、蒸着法、プラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)法、レーザーアブレーション法等の方法によって各層を成膜することも可能である。以上のようにして、電極フィルム1を製造することができる。なお、上記光学特性の測定は、このようにして製造された電極フィルム1をオーブンにより150℃、60分間の熱処理を施し、寸法変形の抑制と電極層5の結晶化をしたものについてされている。
【0049】
[タッチパネルの構成]
次に、電極フィルム1を用いたタッチパネルについて説明する。
図6はタッチパネル30の構成を模式的に示す分解斜視図である。
同図に示すように、タッチパネル30は、ディスプレイDと、2枚の電極フィルム1(以下、電極フィルム1X及び電極フィルム1Y)、カバーパネルCが積層されて構成されている。ディスプレイDはLCD(Liquid Crystal Display)等である。カバーパネルCは電極フィルム1を保護するためのものであり、ディスプレイDと共に電極フィルム1X及び電極フィルム1Yを挟持する。電極フィルム1X及び電極フィルム1Yは透明な粘着剤もしくは接着剤にて貼り合わせている。なお、図6では、タッチパネル30が設けられた電子機器の筐体やタッチパネル30の駆動回路等は図示を省略する。
【0050】
電極フィルム1X及び電極フィルム1Yは、電極領域1aと非電極領域1bの配置が異なる。図7は、電極フィルム1X及び電極フィルム1Yの電極領域1a及び非電極領域1bの配置を示す平面図である。図7(a)は電極フィルム1Xと電極フィルム1Yのそれぞれの電極領域1a及び非電極領域1bの配置を示し、図7(b)は電極フィルム1Xと電極フィルム1Yを重ねた状態でのそれぞれの電極領域1a及び非電極領域1bの配置を示す。同図に示すように、電極フィルム1Xと電極フィルム1Yでは、菱型の電極パターンが接続されている方向が異なり、互いに直交する方向となっている。また、電極フィルム1X及び電極フィルム1Yは、積層された際に互いの電極領域1aが重ならないように配置されている。
【0051】
ここでタッチパネル30の動作原理は、カバーパネルCを介して電極フィルム1X及び電極フィルム1Yに操作子が接近すると、操作子と各電極フィルムの電極領域1aの間の静電結合により電極線交差容量が減少することを利用する。電極領域1aに接続された検波回路の出力から、交差容量が減少している交差箇所、即ちユーザの指が接近している交差箇所が特定されることで、指示された位置座標が検出される。このため、電極フィルム1X及び電極フィルム1Yの電極領域1aは互いに重ならないように、かつ、操作子と静電結合可能な面積が大きくなるように形成される。
【0052】
図7(b)に示すように、電極フィルム1Xと電極フィルム1Yの一方の電極領域1aは他方の電極フィルムの非電極領域1bと完全には一致せず、2枚の電極フィルムの電極領域1aの間には隙間が形成されている。これは、電極領域1a同士が重複すると、その部分の光透過性が低下するためである。このため、電極フィルム1Xと電極フィルム1Yを重ねた状態では、各電極フィルムの電極領域1aと非電極領域1bが重複した領域(以下、パターン領域)と、各電極フィルムの非電極領域1b同士が重複した領域(以下、非パターン領域)が存在する。
【0053】
このため、電極フィルム1において、電極領域1aと非電極領域1bの光学特性が異なれば、上記パターン領域と、非パターン領域の光学特性が異なる。ここで、本実施形態に係るタッチパネルでは、上述のように、各電極フィルム1の電極領域1aと非電極領域1bの光学特性の差が小さいため、パターン領域と非パターン領域の光学特性の差も小さくなり、ディスプレイの視認性を妨げないことが可能である。
【0054】
(適用例)
以下、本実施形態の適用例について説明する。
適用例では、各種構成を有する電極フィルム1Xと電極フィルム1Yを重ねて目視により視認性を評価した。図8は、適用例に係るタッチパネルのパターン視認性の評価結果を示す表である。積層構成は上記実施形態における各積層構成である。
【0055】
図8に示すように、積層構成が、上記実施形態に示した積層構成4、7、8、10、17、19及び22の場合、即ち、全光線透過率が85%以上、電極領域と非電極領域の透過率差が2%未満となる場合、タッチパネルのパターン視認性は良好であることがわかる。
【0056】
本発明はこの実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において変更され得る。
【0057】
この実施形態では、座標検出装置は投影型静電容量方式のタッチパネルであるものとしたが、これに限られない。本発明は、例えば、電極パターンが形成されるマトリクス型抵抗膜方式のタッチパネルに適用することも可能である。
【符号の説明】
【0058】
1…電極フィルム
1…チャンバ
2…基材
3…高屈折率層
4…低屈折率層
5…電極層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光透過性を有する基材と、
前記基材上に積層された絶対屈折率が1.50より大きい高屈折率材料からなり2nm以上20nm以下の厚さを有する高屈折率層と、前記高屈折率層上に積層された絶対屈折率が1.50未満の低屈折率材料からなり10nm以上100nm以下の厚さを有する低屈折率層と、前記低屈折率層上に積層された透明導電性材料からなり表面抵抗が350Ω/□以下であるパターン状の電極層とを有する積層体であって、前記積層体のJIS K−7105にて規定される全光線透過率が85%以上かつ、前記電極層の有無による前記全光線透過率の差異が2%未満である積層体と
を具備する電極フィルム。
【請求項2】
請求項1に記載の電極フィルムであって、
前記電極層の有無による、JIS Z−8701にて規定される透過率の刺激値Yの差が2.0以下である
電極フィルム。
【請求項3】
請求項1に記載の電極フィルムであって、
前記電極層の有無による、JIS Z−8701にて規定される反射率の刺激値Yの差が2.0以下である
電極フィルム。
【請求項4】
請求項1に記載の電極フィルムであって、
前記電極層の有無による、JIS Z−8729にて規定される透過率のa−b色座標空間における座標の差が4.0以下である
電極フィルム。
【請求項5】
請求項1に記載の電極フィルムであって、
前記電極層の有無による、JIS Z−8729にて規定される反射率のa−b色座標空間における座標の差が4.0以下である
電極フィルム。
【請求項6】
請求項1に記載の電極フィルムであって、
前記高屈折率層は、一酸化ニオブからなり、
前記低屈折率層は、二酸化ケイ素からなり、
前記電極層は、酸化インジウムスズからなる
電極フィルム。
【請求項7】
画像を表示する表示画面と、
光透過性を有する基材と、前記基材上に積層された絶対屈折率が1.50より大きい高屈折率材料からなり2nm以上20nm以下の厚さを有する高屈折率層と、前記高屈折率層上に積層された絶対屈折率が1.50未満の低屈折率材料からなり10nm以上100nm以下の厚さを有する低屈折率層と、前記低屈折率層上に積層された透明導電性材料からなり表面抵抗が350Ω/□以下であるパターン状の電極層とを有する積層体であって、前記積層体のJIS K−7105にて規定される全光線透過率が85%以上かつ、前記電極層の有無による前記全光線透過率の差異が2%未満である積層体とを有する電極フィルムを少なくとも1枚以上
具備する座標検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−58956(P2012−58956A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−200776(P2010−200776)
【出願日】平成22年9月8日(2010.9.8)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】