説明

電極付き基板、その製造方法、有機LED素子およびその製造方法

【課題】光取り出し効率を向上しつつも、放熱性を高め、高効率で長寿命の有機LED素子などの光デバイスを提供する。
【解決手段】本発明の電極付基板は、反射性の基板と、前記基板上に形成され、複数個の散乱物質を具備したガラス層からなる散乱層と、前記散乱層上に形成された透光性電極とを具備したことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極付き基板、その製造方法、有機LED素子およびその製造方法に係り、特に、有機LED(Organic Light Emitting Diode)などの光取り出し構造に関する。
【背景技術】
【0002】
有機LED素子は、有機層を電極間に挟み、電極間に電圧を印加して、ホール、電子を注入し、有機層内で再結合させて、発光分子が励起状態から基底状態に至る過程で発生する光を取り出すもので、ディスプレイやバックライト、照明用途に用いられている。
有機層の屈折率は波長430nmで1.8〜2.1程度である。一方、例えば透光性電極層としてITO(酸化インジウム錫:Indium Tin Oxide)を用いる場合の屈折率は、ITO成膜条件や組成(Sn-In比率)で異なるが、1.9〜2.1程度が一般的である。このように有機層と透光性電極層の屈折率は近く、発光光は有機層と透光性電極層間で全反射することなく、透光性電極層と透光性基板の界面に到達する。透光性基板には通常ガラスや樹脂基板が用いられるが、これらの屈折率は1.5〜1.6程度であり、有機層あるいは透光性電極層よりも低屈折率である。スネルの法則から考えると、ガラス基板に浅い角度で進入しようとした光は全反射で有機層方向に反射され、反射性電極で再度反射され再び、ガラス基板の界面に到達する。この時、ガラス基板への入射角度は変わらないため、反射を有機層、透光性電極層内で繰り返し、ガラス基板から外に取り出すことができない。概算では、発光光の60%程度がこのモード(有機層・透光性電極層伝播モード)で取り出せないことが分かる。同様なことが基板、大気界面でも起き、これにより発光光の20%程度がガラス内部を伝播して、光が取り出せない(基板伝播モード)。従って、有機LED素子の外部に取り出せる光の量は、発光光の20%足らずになっているのが現状である。
【0003】
また特許文献1では、透光性電極と基板との間に粒子を含有しない低屈折率層と、光散乱粒子含有浸みだし光散乱層とを形成し、光取り出し効率を向上する素子構成の記載がある(特許文献1段落0113)。この構成は、光取り出し側に基板側に光散乱粒子含有浸み出し光散乱層を設け、光の浸み出しにより光を有効に取り出す構造の素子である。
ところで、上記有機LED素子は、基板側から光取り出しを行う、いわゆるボトムエミッション型素子であった。これは基板側から光取出しを行なうように、安価で保護性の高いガラス基板を使用することができ、また最適な層配列で構成されるため、下地層の段差に起因する膜厚のばらつきを生じることもない。
【0004】
これに対し、特許文献2に示すように、基板の素子形成面側から光を取り出すいわゆるトップエミッション型の有機LED素子も提案されている。ここでは、散乱層または反射性散乱層と素子部との間に発光層の屈折率よりも高屈折率の平坦化膜を形成し、凹凸による素子劣化を低減する素子構成の記載がある(特許文献2段落0054)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−296437号公報
【特許文献2】特開2004−22438号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、近年高輝度特性を持つ有機LED素子が求められる傾向が高まっており、大電流化が進むにつれて、放熱の問題が生じている。ガラスなどの放熱性の悪い基板を用いると、素子の温度が上昇し、輝度劣化の加速や電極間短絡などの問題が顕在化している。ここで、熱伝導率の良い基板を用いた素子が望まれている。熱伝導の良い基板としては、金属やセラミクスなど反射性基板が挙げられ、反射性基板を用いた有機LED素子などの光デバイスの実用化が望まれている。
【0007】
しかしながら、高輝度特性を得るために大電流を流すような場合に、反射性基板を用いると、配線パターンの引き回しにも自由度が高まり、取り出し抵抗の低減をはかることができる一方で、反射性基板による反射光が基板あるいは素子側面に出てしまい、取り出し効率が十分ではなかった。
【0008】
本発明は、前記実情に鑑みてなされたもので、光取り出し効率を向上しつつも、高効率で長寿命の有機LED素子などの光デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで本発明の電極付基板は、反射性の基板と、前記基板上に形成され、複数個の散乱物質を具備したガラス層からなる散乱層と、前記散乱層上に形成された透光性電極とを具備したことを特徴とする。
この構成によれば、散乱層の存在により、効率よくトップエミッションを取り出すことができ、光取り出し効率が向上する。
【0010】
また、本発明は、上記電極付き基板であって、前記散乱層は、前記基板上に形成され、透過する光の少なくとも1波長に対して第1の屈折率を有するベース材と、前記ベース材中に分散された、前記ベース材と異なる第2の屈折率を有する複数の散乱物質とを具備したガラスからなる散乱層と、前記散乱層上に形成された透光性電極とを具備した電極付き基板であって、前記散乱物質の前記散乱層内分布が、前記散乱層内部から前記透光性電極にむかって、小さくなっているものを含む。
【0011】
また、本発明は、上記電極付き基板であって、前記透光性電極が、前記第1の屈折率と同じ若しくはより低い第3の屈折率を有するものを含む。
さらにまた、前記第3の屈折率は第1の屈折率よりも高く、その差が0.2を越えないように形成されていてもよい。
【0012】
また、本発明は、上記電極付き基板であって、前記散乱層の透光性電極側の表面からの距離x(x≦0.2μm)における散乱物質の密度ρが、距離x=2μmにおける前記散乱物質の密度ρに対し、ρ>ρを満たすことを特徴とする。
【0013】
また、本発明は、上記電極付き基板において、前記散乱層表面の表面粗さRaが30nm以下である。
【0014】
また、本発明は、上記電極付き基板において、前記散乱層中における前記散乱物質の含有率は少なくとも1vol%である。
【0015】
また、本発明は、上記電極付き基板において、前記散乱物質は気泡である。
【0016】
また、本発明は、上記電極付き基板において、前記散乱物質は前記ベース層とは異なる組成をもつ材料粒子である。
【0017】
また、本発明は、上記電極付き基板において、前記散乱物質は前記ベース層を構成するガラスの析出結晶である。
【0018】
また、本発明は、上記電極付き基板において、前記散乱物質の前記散乱層1mm当たりの数は、少なくとも1×10個である。
【0019】
また、本発明は、上記電極付き基板において、前記散乱物質のうち、最大長さが5μm以上である散乱の割合が15%以下である。
【0020】
また、本発明は、上記電極付き基板において、前記散乱層は、前記ガラス基板上に所望のパターンを構成するように選択的に形成される。
【0021】
また、本発明は、上記電極付き基板において、波長λ(430nm<λ<650nm)のうち少なくとも一つの波長における前記第1の屈折率は1.8以上である。
【0022】
また、本発明は、上記電極付き基板において、前記散乱層の、100℃から400℃における平均熱膨張係数が、70×10−7(℃−1)から95×10−7(℃−1)であり、且つガラス転移温度が、450℃から550℃であることを特徴とする。
【0023】
また、本発明は、上記電極付き基板において、前記散乱層が、mol%表記で、P 15〜30%、SiO 0〜15%、B 0〜18%、Nb 5〜40%、TiO 0〜15%、WO 0〜50%、Bi 0〜30%、ただし、Nb+TiO+WO+Bi 20〜60%、LiO 0〜20%、NaO 0〜20%、KO 0〜20%、ただしLiO+NaO+KO 5〜40%、MgO 0〜10%、CaO 0〜10%、SrO 0〜10%、BaO 0〜20%、ZnO 0〜20%、Ta 0〜10%を含むガラスをベース材とするものを含む。
【0024】
また、本発明は、上記電極付き基板において、前記散乱層が、Pが20〜30mol%、Bが、3〜14mol%、LiOとNaOとKOの総量が10〜20mol%、Biが10〜20mol%、TiOが3〜15mol%、Nbが10〜20mol%、WOが5〜15mol%を含む。
【0025】
また、本発明は、上記電極付き基板において、前記反射性の基板は、金属製の基板である。
この構成により、放熱性が高められ、大電流下での使用が容易となる。
【0026】
また、本発明は、上記電極付き基板において、前記反射性の基板は、表面を金属膜で被覆された基板である。
【0027】
また、本発明の電極付き基板の製造方法は、反射性の基板を用意する工程と、前記基板上に、複数個の散乱物質を具備したガラス層からなる散乱層を形成する工程と、前記散乱層上に透光性電極を形成する工程とを含む。
【0028】
また、本発明は、上記電極付き基板の製造方法において、前記散乱層を形成する工程は、前記基板上にガラス粉末を含む塗布材料を塗布する工程と、前記塗布されたガラス粉末を焼成する工程とを含み、第1の屈折率を有するベース材と、前記ベース材中に分散された、前記ベース材と異なる第2の屈折率を有する複数の散乱物質とを具備し、前記散乱層内部から最表面にむかって、散乱層中の散乱物質の層内分布が、小さくなっている散乱層を形成する。
【0029】
また、本発明は、上記電極付き基板の製造方法において、前記焼成する工程は、前記塗布されたガラス材料のガラス転移温度よりも40〜100℃以上高い温度で焼成する工程を含む。
【0030】
また、本発明は、上記電極付き基板の製造方法において、前記焼成する工程は、前記塗布されたガラス材料のガラス転移温度よりも60〜100℃以上高い温度で焼成する工程を含む。
【0031】
また、本発明は、上記電極付き基板の製造方法において、前記焼成する工程は、前記塗布されたガラス材料のガラス転移温度よりも40〜60℃高い温度で焼成する工程を含む。
【0032】
また、本発明は、上記電極付き基板の製造方法において、前記塗布する工程は、粒径のD10が0.2μm以上でかつ、D90が5μm以下であるガラス粉末を塗布する工程を含む。
【0033】
また、本発明は、上記電極付き基板の製造方法において、前記第1電極としての前記透光性電極上に発光機能を有する層を形成する工程と、前記発光機能を有する層上に第2電極を形成する工程とを含む。
【0034】
また、本発明の有機LED素子は、反射性の基板と、前記基板上に形成され、複数個の散乱物質を備えたガラスからなる散乱層と、前記散乱層上に形成された第1の透光性電極と、前記第1の透光性電極上に形成される有機層と、前記有機層上に形成される第2の透光性電極とを備える。
【0035】
また、本発明は、上記有機LED素子において、前記反射性の基板は、金属製の基板である。
【0036】
また、本発明は、上記有機LED素子において、前記反射性の基板は、表面を金属膜で被覆された基板である。
ここで反射性の基板としてガラス基板などの透光性基板を金属膜で被覆した基板を用いる場合、透光性基板側に散乱層を形成したもの、金属膜側に散乱層を形成したもの、いずれも有効である。
【0037】
また、本発明は、上記有機LED素子において、前記散乱層は、有機LED素子の発光光の波長のうち少なくとも一つの波長において第1の屈折率を有するベース材と、前記ベース材内部に位置し前記ベース材と異なる第2の屈折率を有する複数の散乱物質と、を備えるとともに、前記散乱物質の前記散乱層内分布が、前記散乱層内部から前記透光性電極にむかって、小さくなっているものを含む。
【0038】
また、本発明は、上記有機LED素子において、前記第1の透光性電極は、前記散乱層上に形成され、前記第1の屈折率と同じ若しくはより低い前記波長における第3の屈折率を有するものを含む。
また、上記有機LED素子において、前記第1の透光性電極は、前記散乱層上に形成され、前記第1の屈折率よりも高く、その差が0.2を越えないように形成された第3の屈折率を有するものであってもよい。
【0039】
また、本発明の有機LED素子の製造方法は、反射性の基板を準備する工程と、前記基板上に、有機LED素子の発光光の波長のうち少なくとも一つの波長において第1の屈折率を有するベース材と、前記ベース材内部に位置し前記ベース材と異なる第2の屈折率を有する複数個の散乱物質と、を備えたガラスからなる散乱層を形成する工程と、前記散乱層上に、第1の透光性電極を形成する工程と、前記第1の透光性電極上に有機層を形成する工程と、前記有機層上に第2の透光性電極を形成する工程とを有する。
【発明の効果】
【0040】
本発明によれば、基板側からの放熱が可能であり、長寿命で信頼性の高い有機LED素子を提供することが可能となる。光の取り出し効率を向上することができ、取り出し効率の高い光デバイスを提供することが可能な、電極付き基板を提供することが可能となる。
また、散乱層をガラスで構成することにより、安定性と高強度性を実現することができ、本来のガラスからなる透光性基板に比べて厚みを増大することなく、散乱性に優れた透光性基板を提供することが可能となる。
本発明によれば、取り出し効率を最大で発光光の98%まで向上した有機LED素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の実施の形態1の電極付き基板および有機LED素子の構造を示す断面図である。
【図2】光取り出し効率(%)と散乱物質の密度(個/mm)の関係および散乱物質の含有率(vol%)と散乱物質の密度(個/mm)の関係を示す図である。
【図3】光取り出し効率(%)と散乱物質の直径(μm)の関係および散乱物質の含有率(vol%)と散乱物質の直径(μm)の関係を示す図である。
【図4】取り出し光量(W)と散乱物質の散乱物質の屈折率との関係を示す図である。
【図5】取り出し光量(W)と散乱物質のベース材の屈折率との関係を示す図である。
【図6】取り出し光量(W)と散乱層のベース材の透過率との関係を示す図である。
【図7】取り出し光量(W)と基板の反射率(%)との関係を示す図である。
【図8】取り出し光量(W)と散乱層の膜厚(μm)との関係を示す図である。
【図9】取り出し光量(W)と散乱粒子密度との関係を示す図である。
【図10】シミュレーションを行う有機LED素子の断面図である。
【図11】導波モードによるロスと屈折率との関係を示す図である。
【図12】本発明の実施の形態1の電極付き基板の散乱層を構成するガラス粒子の塗布時の状態を示す模式図である。
【図13】本発明の実施の形態1の電極付き基板の散乱層を構成するガラス粒子の焼成時の状態を示す模式図である。
【図14】本発明の比較例としてガラスの軟化温度よりも低い温度で焼成したときの散乱層の状態を示す模式図である。
【図15】本発明の実施の形態1の散乱層(ガラスの軟化温度よりも十分に高い温度で焼成したとき)の状態を示す模式図である。
【図16】本発明の実施の形態1の散乱層表面のうねりの状態を示す模式図である。
【図17】散乱層表面のミクロな凹部を示す模式図である。
【図18】散乱層表面のミクロな凹部を示す模式図である。
【図19】本発明の実施の形態1の散乱層表面の状態を示す模式図である。
【図20】比較例(焼成温度が高すぎたとき)の散乱層表面の状態を示す模式図である。
【図21】本発明の実施の形態2の有機LED素子用を示す図
【図22】本発明の実施の形態3の有機LED素子用を示す図
【図23】本発明の有機LED素子用基板の製造方法を示すフローチャートである。
【図24】本発明の有機LED素子の製造方法を示すフローチャートである。
【図25】有機LED表示装置の構成を模式的に示す断面図である。
【図26】本発明の実施の形態4の有機LED素子を示す断面図である。
【図27】例1と例2の条件において、正面から観測した結果である。
【図28】評価素子の構造を示す、図29のC方向から見たA−A線における断面図である。
【図29】図28のB方向から見た評価素子の上面図である。
【図30】本発明の実施例2の電極付き基板の散乱層の焼成温度と表面粗さの関係を測定した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
(実施の形態1)
以下、図面を用いて、本発明の実施の形態1の電極付き基板および有機LED素子について説明する。図1は、この電極付き基板を備えた有機LED素子の構造を示す断面図である。(a)は断面説明図、(b)は光の出射方向を示す概略断面図である。
本発明の有機LED素子は、図1に示すように、電極付き基板100と、有機層110と、透光性電極120とにより構成される。電極付き基板100は、反射性基板101と、散乱層102と、透光性電極103とにより構成される。
【0043】
ここで反射性基板101の厚さt1は1mmであり、この上に形成される散乱層102は、膜厚t2が30μm、屈折率2.0のベース材105に屈折率1.0の散乱物質104を1μmΦ、10個/mm含有する。また透光性電極103は、膜厚t3が1.5μm、屈折率1.9の酸化インジウム錫層からなり、この上層に、発光機能を有する層としての膜厚t4が1.6μm、屈折率1.9の有機層110と、膜厚t5が0.8μm、屈折率1.9の酸化インジウム錫層からなる透光性電極120が形成され素子部を構成している。なおここで反射性基板101としては反射率100%となる金属材料を選択する。
【0044】
本発明で用いられる電極付き基板100は、前述したように反射性の基板101と、前記基板101上に形成されたガラスからなる散乱層102と透光性電極103を具備し、前記散乱層が、透過する光の1波長に対して第1の屈折率を有するベース材105と、前記ベース材中に分散された、前記ベース材と異なる第2の屈折率を有する複数の散乱物質104とを具備し、前記散乱物質の前記散乱層内分布が、前記散乱層内部から前記透光性電極にむかって、小さくなっている。そしてこの透光性電極103は、前記第1の屈折率と同じ若しくはより低い第3の屈折率を有する。
また、ガラスからなる前記散乱層102の半分の厚さ(δ/2)における散乱物質の密度ρと、前記透光性電極と対向する側の前記散乱層の表面(すなわち基板側の表面)から距離x(δ/2<x≦δ)における散乱物質の密度ρとは、ρ≧ρを満たす。
【0045】
さらに、ガラスからなる前記散乱層の透光性電極側表面からの距離x(x≦0.2μm)における散乱物質の密度ρが、距離x=2μmにおける前記散乱物質の密度ρに対し、ρ>ρを満たすようにするのが好ましい。
【0046】
さらにまた、ガラスからなる前記散乱層の透光性電極側表面からの距離x(x≦0.2μm)における散乱物質の密度ρが、距離x=5μmにおける前記散乱物質の密度ρに対し、ρ>ρを満たすようにするのが好ましい。
【0047】
この構成によれば、気泡や析出結晶あるいはベース材と異なる組成の材料からなる散乱物質がガラス層からなる散乱層表層および直下に存在する確率が、散乱層内部より低く構成されており、平滑な表面を得ることができる。このため、例えば有機LED素子を形成する場合、透光性基板の表面すなわち散乱層表面が平滑であるため、この上層に形成される透光性電極(第1電極)表面が平滑であり、この上層に塗布法などによって発光機能を有する層などを形成する場合にも、発光機能を有する層を均一に形成することができ、透光性電極と、発光機能を有する層上に形成される透光性電極(第2電極)表面との間の電極間距離も均一となる。その結果、発光機能を有する層に局所的に大電圧が印加されることもないため、長寿命化をはかることができる。また高解像度ディスプレイのように、微細画素で構成する表示装置を形成する場合には、微細な画素パターンを形成する必要があり、表面の凹凸は、画素の位置やサイズにばらつきが生じる原因となるだけでなく、この凸凹で有機LED素子が短絡してしまうという問題があったが、微細パターンを精度よく形成することができる。
また、反射性基板を用いた、トップエミッション構造をとるため、基板側の配線の引き回しも膜厚も制約なしに形成することができ、低抵抗化が可能となり、大電流デバイスの形成が可能である。
また反射性基板として金属基板や金属酸化物基板などの熱伝導性の良好な基板を用いれば、放熱性も良好であり、特性が良好で信頼性の高い有機LED素子を提供することが可能となる。
【0048】
(計算方法)
本発明者らは、散乱層の特性を知るために、光学シミュレーションを行い、それぞれのパラメータについて、その取り出し効率に与える影響を調べた。用いた計算ソフトはCYBERNET社のLightToolsである。本ソフトは光線追跡ソフトであると同時に、散乱層はMie散乱の理論式を適用することが可能である。計算に用いたモデルは図1に示したものである。ここでは図1に示したように、直径10mmφの有機エレクトロルミネッセンス素子の積層体の中に一辺L1が2mmの正方形状で厚さL2が1.2μmの発光部110LERを考える。受光部Rcは、素子上方0.1μmのところに大きさ10mmφの円で設置している。実際に電荷注入・輸送層、発光部などの発光機能を有する層として用いられる有機層110の厚さは、合計0.1μmから0.3μm程度であるが、光線追跡では光線の角度は厚さを変えても変わらないことから、計算可能な膜厚として、上記値を用いた。また、各層の屈折率も上記値を用いた。散乱層102はベース材と散乱粒子から構成され、散乱粒子は屈折率1.0で直径1μmの球が、10(個/mm)の密度で分布しているものとした。また反射性基板101では、反射率は100%とした。また、各層内での吸収はないものとした。この有機層110内の発光部110LERでは、波長550nmの光が、合計6面から指向性を持たずに出射するものとする。全光束量を1Wとし、光線本数を1万本として計算した。光取り出し効率は受光部Rcに到達した光(W)/1(W)×100(%)として算出した。また有機層が薄いことから、厳密に考えると干渉による導波路モードが立つが、幾何光学的に扱っても、大きく結果を変えることはないので、本発明の構成による効果を計算で見積もるには十分である。但し透光性電極103の屈折率が、散乱層のベース材の屈折率よりも大きくなる場合では、導波路的な考察が必要となる為、別途導波路計算を行った。以下上記条件をベースに各パラメータを変化させたときの取り出し光量の変化を計算した。
【0049】
(散乱層がない場合)
散乱層がない構造での取り出し光量は0.150Wであった。このことから取り出し効率は15.0%であることが分かる。
【0050】
(散乱層内の散乱物質の密度)
図2は、取り出し光量と散乱物質の密度との関係を示す図である。図2に示すように、散乱層中における散乱物質の密度が上昇するに連れて、取り出し光量が増大していることが分かる。散乱粒子数が10個/mmでも、取り出し効率が18.5Wとなっており、上述した散乱層がない場合と比較して取り出し光量の改善が認められるが、10個/mm以上あれば、取り出し効率は、25%以上となる。さらに望ましくは、10個/mm以上であれば、取り出し効率は70%以上とさらに向上する。また10個/mm以上であれば、取り出し効率は、90%以上となり最も望ましい。
【0051】
(散乱物質の大きさ)
次に、図3に、散乱粒子の直径と取り出し光量の関係を測定した結果を示す。散乱粒子径が大きくなるに従って、取り出し光量が多くなることが分かる。散乱粒子が大きくなるに連れて、ガラス内部に均一に配置することが困難になるため、散乱粒子径は、望ましくは、0.1〜5μmであり、さらに望ましくは、0.2〜3μmであり、最も望ましくは、0.5〜2μmである。また図2及び図3から、散乱粒子の含有量は、0.001vol%でも改善効果が認められるが、0.1vol%以上であることが望ましく、1vol%以上であることが更に望ましく、5vol%以上が最も望ましい。
【0052】
(散乱物質の屈折率)
図4に散乱物質の屈折率と取り出し光量の関係を測定した結果を示す。ここで散乱層ベース材の屈折率は2.0である。散乱層ベース材と散乱物質の屈折率差が、0.1以上であれば、光取出しが改善されるが、屈折率差が0.2以上が望ましく、0.3以上が更に望ましい。
【0053】
(散乱層ベース材の屈折率)
図5に散乱層ベース材の屈折率と取り出し光量の関係を測定した結果を示す。ベース材の屈折率が透光性電極の屈折率と同じか大きい場合には、取り出し光量が高く望ましい。ベース材の屈折率が小さくなるに連れて、取り出し光量が下がることが分かる。なお、ベース材の屈折率が透光性電極の屈折率よりも小さい場合においては、導波路的な考察が必要なため後述する。
【0054】
(散乱層ベース材の透過率)
散乱層ベース材のバルクとしての透過率と取り出し光量の関係を測定した結果を図6に示す。1mm厚の透過率が、20%以上であれば、40%以上の取り出し効率が得られる。また、1mm厚の透過率が、70%以上であれば、70%以上の取り出し効率が得られる。さらに望ましくは、1mm厚の透過率が、95%以上である。このときは、90%以上の取り出し効率が得られ、最も望ましい。
【0055】
(基板反射率)
次に、基板反射率と取り出し光量の関係を測定した結果を図7に示す。ここで反射はミラー反射を想定しているが、拡散反射性基板を用いても良い。この図から明らかなように反射率が低下するにつれて、取り出し光量が減少することが分かる。ここで反射率が50%以上であれば、取り出し効率は20%以上となり、反射率が80%以上であれば、取り出し効率は40%以上となりさらに望ましく、反射率が90%以上であれば、55%以上の取り出し効率が得られ最も望ましい。
【0056】
(散乱層の厚さ)
次に、散乱層の厚さを変更したときの取り出し光量を図8に示す。ここで散乱粒子密度は10(個/mm)、粒子径は1μmである。このように散乱層膜厚が厚くなるほど、取り出し効率が向上する。散乱層膜厚が1μm以上であれば、55%以上の取り出し効率が得られるが、5μm以上であれば、80%以上の光取出しが可能であり、さらに望ましく、10μm以上であれば、90%以上の光取り出しが可能であり最も望ましい。
【0057】
(散乱層単位面積当たりの散乱粒子数密度)
散乱粒子の密度及び、散乱層の厚さを変更した場合の取り出し光量の変化について、散乱層単位面積あたりの散乱粒子数と取り出し光量の関係に換算した。結果を図9に示す。aは散乱層の厚さt2を示す。
このように、10(個/mm)以上であれば、光取り出し効率は50%以上であり望ましく、10(個/mm)以上であれば、光取り出し効率は80%以上でありさらに望ましく、10(個/mm)以上であれば、光取り出し効率は90%以上であり最も望ましい。散乱粒子の密度を変えずに散乱層の厚さt2を変えた場合でも、単位面積当たりの散乱粒子数が変わる。
【0058】
(散乱層ベース材屈折率と透光性電極屈折率の関係の導波路的考察)
先に述べたように、透光性電極103の屈折率が散乱層ベース材の屈折率よりも大きい場合には、導波路的な考察が必要である。
以下、図面を用いて、散乱層のベース材の屈折率と透光性電極の屈折率との関係を導波路的に考察したシミュレーション結果を示す。ここでいう導波路的考察とは、透光性電極内に存在が許されるモードの存在割合を計算する事を意味しており、具体的には外部から有機層に光を入射させ、その光がどの程度有機層から透光性電極へ移譲し、透光性電極中を漏れずに伝播するかを計算した。
【0059】
図10は、このシミュレーションを行うに際し、想定した有機LED素子のサンプルの断面図である。サンプルの有機LED素子は、高屈折率を有する散乱層102と、散乱層102上に設けられる透光性電極103と、透光性電極103上に設けられる有機層110および透光性電極120とを備えるものとした。散乱層102は、屈折率2.0のガラスとした。散乱層102のベース材の屈折率と透光性電極103の屈折率との関係に注目するため、散乱層102(102B)は、ベース材のみで構成され、散乱物質を含まないものとした。高い光取り出し効率を得るためには、散乱物質が重要な要素であることに変わりはない。散乱層の厚みは有機層、透光性電極に比べて、十分厚いため、散乱層の厚さについては考慮しないことにした。透光性電極103は、厚さ0.1〜0.8μm、屈折率1.96〜2.2とした。
【0060】
ここで、有機層110と透光性電極120は一体と考え、厚さ0.15μm、屈折率2.0とした。なお、実際の有機層110は複数の層からなる積層体であるが、散乱層102のベース材の屈折率と透光性電極103の屈折率との関係に注目するため、透光性電極103と合わせて単層とした。以上のように想定したモデルをBPM法(Beam Propagation Method)を用いて計算した。ここで、計算波長を470nm、有機層へ入射させる光のモードをガウシアン、計算結果を示す出力モニターを透光性電極内に存在する光強度、計算ステップをX=0.01μm、Y=0.005μm、Z=0.5μm、計算領域をX:±4μm、Y:+4μm、−2μm、Z:+1000μmとした。
【0061】
図11は、シミュレーションの結果を示す図である。図11の縦軸は透光性電極103内の導波路モードのエネルギー量で、取り出し損失に相当する量である。横軸は透光性電極103の屈折率である。凡例は透光性電極103の膜厚を示している。図からわかるように、透光性電極103の屈折率が散乱層のベース材の屈折率より同じか、低い場合には、導波路モードの損失は見られない。一方透光性電極103の屈折率が散乱層102のベース材の屈折率より高い場合には、その屈折率差(Δn)が大きくなるにつれて、損失が大きくなる。図中でデータが振動しているのは、受光部Rcでの電界強度が条件により変化する影響を受けているためだが、上記傾向は変わらない。また透光性電極の厚さが0.1μmから0.3μmの場合では、損失が発生する透光性電極103の屈折率は、それぞれ2.10、2.06、2.04となっているが、それよりも厚い場合には、2.0を超えると損失が生じている。しかしながら、Δnが0.2以下であれば、透光性電極103の膜厚が変化しても、損失は7%以下であり、散乱層の光取り出し改善効果を十分保つことが可能である。
【0062】
なお、散乱層は反射性基板である金属基板上に直接形成されているが、例えば金属基板上にスパッタ法によってシリカ薄膜を形成した後、散乱層を形成するなど、バリア層を介して形成してもよい。しかし、反射性基板上に接着剤や有機層を介する事無くガラスからなる散乱層を形成することで、極めて安定でかつ平坦な表面を得ることができる上、無機物質のみで構成することで、熱的に安定で長寿命の光デバイスを形成することが可能となる。
【0063】
次に、このような散乱層の持つ特性について詳細に説明する。
ガラス粉末を焼成する場合、ガラス粉末を好適な方法で、塗布した状態の概念図を図12に示す。ここでは本発明の電極付き基板を構成する散乱層であるガラス層の最上部の断面を示している。この状態は、例えば、溶剤あるいは樹脂と溶剤を混合したものにガラス粒子Gを分散させ所望の厚さに塗布することで得られる。例えば、ガラス粒子Gの大きさは最大長さで0.1から10μm程度のものを用いる。樹脂と溶剤を混合した場合には、ガラス粒子Gが分散した樹脂膜を加熱し、樹脂を分解することで、図12の状態が得られる。図12は簡略して記載しているが、ガラス粒の間には、隙間が空いている。
【0064】
仮にガラス粒子Gのガラス粒の大きさに分布があれば、大きなガラス粒子Gの間の隙間に小さいガラス粒子が入り込む構造になると考えられる。さらに温度を上げると、ガラスの軟化温度より10℃から20℃低い温度で、ガラスの粒子同士が融着し始める。この時の様子を図13に示す。ガラス粒同士が融着すると、図12のガラス粒子の間に形成された隙間はガラスが軟化することで変形し、ガラス中に閉空間を形成する。ガラス粒子の最上層では、ガラス粒子同士が融着することで、散乱層102(ガラス層)の最表面を形成する。最表面では、閉空間にならない隙間は、凹みとして存在している。
【0065】
更に温度を上げるとガラスの軟化、流動が進み、ガラス内部の隙間は球形の気泡を形成する、ガラス最表面200では、ガラス粒子Gの隙間に起因する凹みは平滑化されていく。この様子を図14に示す。ガラス粒子Gの隙間による気泡だけでなく、ガラスが軟化する際にガスが発生し、気泡を形成する場合もある。例えば、ガラス層表面に有機物が付着している場合には、それが分解してCOを生じ気泡を生じる場合もある。またこのように熱で分解する物質を導入し積極的に気泡を発生させても良い。このような状態は通常軟化温度付近で得られる。ガラスの粘度は、軟化温度で107.6ポアズと高く、気泡の大きさが数μm以下であれば、浮上することができない。従って小さな気泡を発生するように材料組成を調整するとともに、さらに温度を上げるか、保持時間を長くするかで、気泡の浮上を抑えつつ、表面をさらに平滑にすることが可能である。このようにして、表面を平滑にした状態から冷却すると図15に示すような散乱物質の密度が、散乱層内部よりも表面で小さく、表面が平滑な散乱層が得られる。
【0066】
このように、ガラス層を形成するための材料組成および焼成温度を調整することにより、ガラス層中には気泡を残しつつ、かつガラス層最表面には、気泡や、凹みの発生を抑制することが可能である。つまり、散乱物質の上昇を防ぎ、ガラス層に残留させて表面まで上昇しないように、焼成温度プロファイルを調整すると共に焼成時間を調整することで、散乱特性に優れ、表面平滑性の高い、電極付き基板を提供することが可能となる。
【0067】
またこの時に、処理温度、ガラス層用ガラス材料、ガラス粒の大きさ、基板材料によっては、ガラス層最表面がうねることがある。その概念図を図16に示す。ここでうねりとは、周期λが、10μm以上のものである。うねりの大きさ(粗さ)は、Raで0.01μmから5μm程度である。このようなうねりが存在している場合でもミクロな平滑性は保たれている。処理温度が低い場合では、最表面のミクロな凹部が残る場合があるが、焼成時間を長くとることで、凹部の形状は、図17に示すようなオーバーハング状ではなく、図18に示すように緩やとなる。ここでオーバーハングとは、図17のようにθが鋭角になっていることであり、緩やかとは図18中のθが鈍角あるいは直角であることを言う。このように緩やかである場合には、この凹部により有機LED素子が電極間短絡を起こす可能性は低いと言える。焼成温度はガラス転移温度から、40℃から60℃程度高いことが望ましい。あまり温度が低すぎると、焼結不足となり表面が平滑にならないので、焼成温度はガラス転移温度から、50℃から60℃程度高いことが更に望ましい。
【0068】
また、結晶化しやすいガラスを用いることで、ガラス層内部に結晶を析出させることが可能である。この時結晶の大きさが0.1μm以上であれば、光散乱物質として機能する。この時の様子を図19に示す。焼成温度を適切に選ぶことで、このようにガラス層最表面での結晶析出を抑制しつつかつ、ガラス層内部に結晶を析出させることが可能となる。具体的には、ガラス転移温度から60℃から100℃程度温度が高くするのが望ましい。この程度の温度上昇であれば、ガラスの粘性が高く、気泡が浮上することはない。
【0069】
温度が高すぎる場合には、ガラス層最表面でも結晶が析出してしまい、最表面の平滑性が失われる為、好ましくない。概念図を図20に示す。従って、焼成温度はガラス転移温度から60℃から80℃度程度高くすることがより望ましく、さらには60℃から70℃高くすることが最も望ましい。このような手法によりガラス層中に、気泡や析出結晶を散乱物質として存在させ、ガラス最表面ではそれらの発生を抑制することが可能である。これらが可能であるのは、ガラスがある温度範囲で自らが平坦化し、かつ気泡は浮上しない高粘性を実現できる、あるいは結晶を析出できるためである。樹脂では上述のような高粘性でプロセスを制御するのは困難であり、また結晶を析出させることもできない。
【0070】
このように、材料組成や焼成条件を調整することで、前記散乱層最表面の散乱物質の密度が、前記散乱層内部の散乱物質の密度より小さい基板を得ることができる。
また、ガラスからなる前記散乱層の半分の厚さにおける散乱物質の密度ρ1と、散乱層最表面からの距離xが0≦x≦δを満足する、xにおける散乱物質の密度ρが、ρ≧ρを満たすδが存在するような基板を用いることで、十分な散乱特性を有しかつ平滑な表面を持つ基板を得ることが可能となる。
【0071】
さらにまた、散乱層表面にはうねりが形成されている場合もある。うねりがある場合は、図16に示すように、この散乱層表面の表面粗さRaの、表面のうねりの波長Rλaに対する比Ra/Rλaが1.0×10−4以上3.0×10−2以下であるのが望ましい。
【0072】
また、前記散乱層表面の表面粗さRaは30nm以下であるのが望ましい。さらに望ましくは、前記散乱層の表面粗さが10nm以下であるのが望ましい。
例えば、このような基板上に有機LED素子を形成する場合、例えば透光性電極は薄く形成する必要があるが、この透光性電極が下地の影響を受ける事無く形成できるのは表面粗さが30nm以下、望ましくは10nm以下である。表面粗さが30nmを越えると、その上に形成される有機層の被覆性が悪くなる場合があり、ガラス散乱層上に形成される透光性電極ともう一方の電極との間で短絡が発生する場合がある。電極間短絡により、素子は不灯となるが、過電流を印加することにより、修復することが可能な場合がある。修復を可能とするうえで、ガラス散乱層の粗さは望ましくは10nm以下であり、さらに望ましくは、3nm以下である。
なお、ある材料系では焼成温度を570℃以上としたときに表面粗さ10nm以下とすることができることがわかっている(表1参照)。材料系によって最適な焼成条件は異なるが、散乱物質の種類や大きさをコントロールすることで散乱物質が最表面に存在するのを抑制し、表面平滑性に優れた散乱層を得ることができる。
【0073】
【表1】

【0074】
また、散乱物質の大きさは、散乱層中に気泡がある場合、気泡が大きくなると、焼成などの散乱層形成プロセスで浮力が大きくなり、浮上し易くなり、最表面に到達すると気泡が破裂し、表面平滑性を著しく低下させることになる可能性がある。また相対的にその部分の散乱物質の数が少なくなるためその部分のみ散乱性が低下することにもなる。このように大きな気泡が凝集すれば、むらとなって視認されることにもなる。さらにまた直径が5μm以上の気泡の割合が15%以下であるのが望ましく、さらに望ましくは、10%以下であり、さらに望ましくは7%以下である。また、散乱物質が気泡以外の場合でも、相対的にその部分の散乱物質の数が少なくなるため、その部分のみ散乱性が低下することになる。従って散乱物質の最大長さが5μm以上のものの割合が15%以下であるのが望ましく、望ましくは10%以下であり、さらに望ましくは7%以下である。
【0075】
また、前記散乱層中における前記散乱物質の含有率は少なくとも1vol%であるのがのぞましい。
これは実験結果から1vol%以上散乱物質が含有されているとき、十分な光散乱性を得ることができることがわかる。
【0076】
また、散乱物質としては、気泡である場合と、ベース層とは異なる組成をもつ材料粒子である場合と、ベース層の析出結晶である場合とがあり、これら単体でもよいし、混合でもよい。
散乱物質が気泡である場合には、焼成温度などの焼成条件を調整することで、気泡の大きさや気泡分布や密度を調整可能である。
散乱物質がベース層とは異なる組成をもつ材料粒子である場合には、材料組成物の調整、焼成温度などの焼成条件を調整することで、散乱物質の大きさや分布や密度を調整可能である。
前記散乱物質が前記ベース層を構成するガラスの析出結晶である場合には、焼成温度などの焼成条件を調整することで、気泡の大きさや気泡分布や密度を調整可能である。
【0077】
また、波長λ(430nm<λ<650nm)のうち少なくとも一つの波長におけるベース層の第1の屈折率は1.8以上であるのが望ましい。高屈折率材料層を形成するのは困難であるが、ガラス材料の材料組成を調整することで、屈折率の調整が容易となる。
【0078】
(実施の形態2)
<有機LED素子の他の構成例>
次に、図面を用いて、本発明の実施の形態2の有機LED素子について説明する。なお、図1と同じ構成については、同じ番号を付与し、説明を省略する。図21は、本発明の有機LED素子の他の構造を示す断面図である。本発明の他の有機LED素子は、透光性電極付き基板100として、透光性のガラス基板101T上に銀層からなる反射膜Rを形成し、この上層にガラス層からなる散乱層102を形成しこの上層にITOからなる透光性電極103を形成してなることを特徴とするものである。他部については前記実施の形態1と同様に形成されているため、ここでは説明を省略する。
【0079】
(実施の形態3)
<有機LED素子の他の構成例>
次に、図面を用いて、本発明の実施の形態3の有機LED素子について説明する。なお、図1と同じ構成については、同じ番号を付与し、説明を省略する。図22は、本発明の有機LED素子の他の構造を示す断面図である。本発明の他の有機LED素子では、透光性電極付き基板100として、反射膜Rを透光性のガラス基板101Tの背面側に形成したものを用いた点で前記実施の形態2と異なるのみで、他は前記実施の形態2と同様に形成されている。
【0080】
以下各部材について詳細に説明する。
<基板>
反射性基板としては、アルミニウム基板のように基板自体が反射性の基板である場合と、基板に反射膜を形成した基板とがある。前者としては、セラミックス、アルミナ、MgO、TiO、ZrO、LTCC(LOW TEMPERATURE CO-FIRED CERAMICS)などの多層セラミック基板、AlN、結晶化ガラス、金属、鉄、銅、ステンレスなどが適用可能である。後者としては、ガラス基板などの透光性基板あるいは遮光性基板上に、Au、Ag、Cu、Al、Cr、Mo、Pt、W、Ni、Ruなどの反射膜を形成したものが適用可能である。ここで特に望ましくはセラミックス(耐熱性)、更には、アルミナ、MgO、TiO、ZrO、LTCC(反射率)更にはアルミナ(熱伝導)が用いられる。
【0081】
さらにまたシリカ/チタニア多層膜などの誘電体多層膜も有効である。なおガラス基板などの透光性基板を用いた場合には、反射膜の位置が素子側(上)と逆側(下)の2通りが考えられる。
さらにまた基板上にガラスビーズを敷き詰めるなどの方法により、ガラスビーズの回帰反射を利用することも可能である。
【0082】
上述した基板材料のうち、反射性の基板としては、反射率の面では、Ag、Alなどの反射率が高い材料が特に望ましい。更には、耐熱性を考慮すると、基板はセラミックスが望ましい。更には、熱伝導を考慮すると基板はアルミナを用いるのが望ましい。さらに、実装作業性を考慮すると、サーマルビアを有したLTCCなどの多層セラミック基板などが適用可能である。
【0083】
ここで、反射膜の位置が素子側でなく、素子と逆側である場合には、透光性基板101としては、主としてガラス基板など、可視光に対する透過率が高い材料が用いられる。ガラス基板の材料としては、アルカリガラス、無アルカリガラスまたは石英ガラスなどの無機ガラスがある。透光性の基板101の厚さは、ガラスの場合0.1mm〜2.0mmが好ましい。但し、あまり薄いと強度が低下するので、0.5mm〜1.0mmであることが特に好ましい。
【0084】
なお、散乱層をガラスフリットで作製するには、歪の問題等が生じるので、熱膨張係数は50×10−7/℃以上、好ましくは70×10−7/℃以上、より好ましくは80×10−7/℃以上が好ましい。
【0085】
また、さらには散乱層の100℃から400℃における平均熱膨張係数が、70×10−7(℃−1)から95×10−7(℃−1)であり、且つガラス転移温度が、450℃から550℃であるのが望ましい。
【0086】
<散乱層>
以下、散乱層の構成、作製方法、特性および屈折率の測定方法について、詳細に説明する。なお、詳細は後述するが、本発明の主眼である光取り出し効率の向上を実現するためには、散乱層の屈折率は、透光性電極材料の屈折率よりも同等若しくは高くすることが好ましい。
【0087】
(構成)
本実施の形態では、散乱層102は、前述したように、塗布などの方法でガラス基板上にガラス粉末を形成し、所望の温度で焼成することで形成され、第1の屈折率を有するベース材105と、前記ベース材105中に分散された、前記ベース材と異なる第2の屈折率を有する複数の散乱物質104とを具備し、前記散乱層内部から最表面にむかって、前記散乱層中の前記散乱物質の層内分布が、小さくなっており、ガラス層を用いることで前述したように、優れた散乱特性を有しつつも表面の平滑性を維持することができ、発光デバイスなどの光出射面側に用いることで極めて高効率の光取り出しを実現することができる。
また、散乱層としては、コーティングされた主表面を有する光透過率の高い材料(ベース材)が用いられる。ベース材としては、ガラス、結晶化ガラス、透光性樹脂、透光性セラミックスが用いられる。ガラスの材料としては、ソーダライムガラス、ホウケイ酸塩ガラス、無アルカリガラス、石英ガラスなどの無機ガラスがある。なお、ベース材の内部には、複数の散乱物質104(例えば、気泡、析出結晶、ベース材とは異なる材料粒子、分相ガラスがある。)が形成されている。ここで、粒子とは固体の小さな物質をいい、例えば、フィラーやセラミックスがある。また、気泡とは、空気若しくはガスの物体をいう。また、分相ガラスとは、2種類以上のガラス相により構成されるガラスをいう。なお、散乱物質が気泡の場合、散乱物質の径とは空隙の長さをいう。
【0088】
また、本発明の主たる目的である光取り出し効率の向上を実現するためには、ベース材の屈折率は、透光性電極材料の屈折率と同等若しくは高くするのが好ましい。屈折率が低い場合、ベース材と透光性電極材料との界面において、全反射による損失が生じてしまうためである。ベース材の屈折率は、少なくとも発光層の発光スペクトル範囲における一部分(例えば、赤、青、緑など)において上回っていれば良いが、発光スペクトル範囲全域(430nm〜650nm)に亘って上回っていることが好ましく、可視光の波長範囲全域(360nm〜830nm)に亘って上回っていることがより好ましい。
【0089】
また、有機LED素子の電極間の短絡を防ぐ為に散乱層主表面は平滑である必要がある。その為には散乱層の主表面から散乱物質が突出していることは好ましくない。散乱物質が散乱層の主表面から突出しないためにも、散乱物質が散乱層の主表面から0.2μm以内に存在していないことが好ましい。散乱層の主表面のJIS B0601−1994に規定される算術平均粗さ(Ra)は30nm以下が好ましく、10nm以下であることがより好ましく(表1参照)、1nm以下が特に望ましい。散乱物質とベース材の屈折率はいずれも高くても構わないが、屈折率の差(Δn)は、少なくとも発光層の発光スペクトル範囲における一部分において0.2以上であることが好ましい。十分な散乱特性を得るために、屈折率の差(Δn)は、発光スペクトル範囲全域(430nm〜650nm)若しくは可視光の波長範囲全域(360nm〜830nm)に亘って0.2以上であることがより好ましい。
【0090】
最大の屈折率差を得るためには、上記高光透過率材料としては高屈折率ガラス、散乱物質としては気体の物体すなわち気泡という構成とすることが望ましい。この場合、ベース材の屈折率はできるだけ高いことが望ましいため、ベース材を高屈折率のガラスとすることが好ましい。高屈折率のガラスの成分として、ネットワークフォーマとしてはP、SiO、B、GeO、TeOから選ばれる一種類または二種類以上の成分を、高屈折率成分として、TiO、Nb、WO、Bi、La、Gd、Y、ZrO、ZnO、BaO、PbO、Sbから選ばれる一種類または二種類以上の成分を含有する高屈折率ガラスを使用することが出来る。その他に、ガラスの特性を調整する意味で、アルカリ酸化物、アルカリ土類酸化物、フッ化物などを屈折率に対して要求される物性を損なわない範囲で使用しても良い。具体的なガラス系としてはB−ZnO−La系、P−B−R’O−R”O−TiO−Nb−WO−Bi系、TeO−ZnO系、B−Bi系、SiO−Bi系、SiO−ZnO系、B−ZnO系、P−ZnO系、などが挙げられる。ここで、R’はアルカリ金属元素、R”はアルカリ土類金属元素を示す。なお、以上は例であり、上記の条件を満たすような構成であれば、この例に限定されるものではない。
【0091】
ベース材に特定の透過率スペクトルを持たせることにより、発光の色味を変化させることもできる。着色剤としては、遷移金属酸化物、希土類金属酸化物、金属コロイドなどの公知のものを、単独であるいは組み合わせて使うことができる。
【0092】
ここで、一般的に、バックライトや照明用途では、白色発光させることが必要である。白色化は、赤、青、緑を空間的に塗り分ける方法(塗り分け法)、異なる発光色を有する発光層を積層する方法(積層法)、青色発光した光を空間的に分離して設けた色変換材料で色変換する方法(色変換法)が知られている。バックライトや照明用途では、均一に白色を得ればよいので、積層法が一般的である。積層する発光層は加色混合で白になるような組み合わせを用いる、例えば、青緑層とオレンジ層を積層する場合や、赤、青、緑を積層する場合がある。特に、照明用途では照射面での色再現性が重要で、可視光領域に必要な発光スペクトルを有していることが望ましい。青緑層とオレンジ層を積層する場合には、緑色の発光強度が低い為、緑を多く含んだものを照明すると、色再現性が悪くなってしまう。積層方法は、空間的に色配置を変える必要がないというメリットがある一方で、以下2つの課題を抱えている。1つ目の問題は上記のように有機層の膜厚が薄いことから、取り出された発光光は干渉の影響を受ける。したがって、見る角度によって、色味が変化することになる。白色の場合には、人間の目の色味に対する感度が高い為、このような現象は問題になることがある。2つ目の問題は発光している間に、キャリアバランスがずれて、各色での発光輝度が変わり、色味が変わってしまうことである。
【0093】
従来の有機LED素子は、散乱層若しくは拡散層に蛍光体を分散させる思想がないので、上述の色味が変わってしまうという問題点を解決できていない。そのため、従来の有機LED素子は、バックライトや照明用途としては、まだ不十分であった。しかし、本発明の有機LED素子用基板および有機LED素子は、散乱物質またはベース材に蛍光性物質を使用することができる。そのため、有機層からの発光により、波長変換を行い色味を変化させる効果をもたらすことができる。この場合には、有機LEDの発光色を減らすことが可能であり、かつ発光光は散乱されて出射するので、色味の角度依存性や色味の経時変化を抑制することができる。
【0094】
(散乱層の作製方法)
散乱層の作製方法は、塗布および焼成により行うが、特に、10〜100μmの厚膜を大面積に均一かつ迅速に形成するという観点から、ガラスをフリットペースト化して作製する方法が好ましい。フリットペースト法を活用するために、基板ガラスの熱変形を抑制するために、散乱層のガラスの軟化点(Ts)が基板ガラスの歪点(SP)よりも低く、かつ熱膨張係数αの差が小さいことが望ましい。軟化点と歪点の差は30℃以上であることが好ましく、50℃以上であることがより好ましい。また、散乱層と反射性基板の膨張率差は、±10×10−7(1/K)以下であることが好ましく、±5×10−7(1/K)以下であることがより好ましい。ここで、フリットペーストとは、ガラス粉末が樹脂、溶剤、フィラーなどに分散したものを指す。フリットペーストをスクリーン印刷などのパターン形成技術を用いてパターニング、焼成することで、ガラス層被覆が可能となる。以下技術概要を示す。
【0095】
(フリットペースト材料)
1.ガラス粉末
ガラス粉末粒径は1μm〜10μmである。焼成された膜の熱膨張を制御するため、フィラーを入れることがある。フィラーは、具体的には、ジルコン、シリカ、アルミナなどが用いられ、粒径は0.1μm〜20μmである。
【0096】
以下にガラス材料について説明する。
本発明では、前記散乱層が、たとえばPが20〜30mol%、Bが、3〜14mol%、LiOとNaOとKOの総量が10〜20mol%、Biが10〜20mol%、TiOが3〜15mol%、Nbが10〜20mol%、WOが5〜15mol%を含み、以上成分の合量が、90mol%以上であるものを用いる。
【0097】
散乱層を形成するガラス組成としては、所望の散乱特性が得られ、フリットペースト化して焼成可能であれば特に限定はされないが、取り出し効率を最大化するためには、例えば、Pを必須成分として含有し、さらにNb、Bi、TiO、WO、の一成分以上を含有する系、B、ZnOおよびLaを必須成分として含み、Nb、ZrO、Ta、WOの一成分以上を含有する系、SiOを必須成分として含み、Nb、TiOの一成分以上を含有する系、Biを主成分として含有し、ネットワーク形成成分としてSiO、Bなどを含有する系などが挙げられる。
【0098】
なお、本発明において散乱層として使用する全てのガラス系において、環境に対して悪影響を及ぼす成分である、As、PbO、CdO、ThO、HgOについては、原料由来の不純物としてやむを得ず混入する場合を除いて含まない。
【0099】
を含み、Nb、Bi、TiO、WO、の一成分以上を含有する散乱層は、mol%表記で、P 15〜30%、SiO 0〜15%、B 0〜18%、Nb 5〜40%、TiO 0〜15%、WO 0〜50%、Bi 0〜30%、ただし、Nb+TiO+WO+Bi 20〜60%、LiO 0〜20%、NaO 0〜20%、KO 0〜20%、ただしLiO+NaO+KO 5〜40%、MgO 0〜10%、CaO 0〜10%、SrO 0〜10%、BaO 0〜20%、ZnO 0〜20%、Ta 0〜10%の組成範囲のガラスが好ましい。
【0100】
各成分の効果は、mol%表記で、以下の通りである。
は、このガラス系の骨格を形成しガラス化させる必須成分であるが、含有量が小さすぎる場合、ガラスの失透性が大きくなりガラスを得ることができなくなるため、15%以上が好ましく、18%以上がより好ましい。一方、含有量が大きすぎると屈折率が低下するため、発明の目的を達成することができなくなる。従って、含有量は30%以下が好ましく、28%以下がより好ましい。
【0101】
は、ガラス中に添加することにより耐失透性を向上させ、熱膨張率を低下させる成分である任意成分であるが、含有量が大きすぎる場合、屈折率が低下してしまうため、18%以下が好ましく、15%以下がより好ましい。
【0102】
SiOは、微量を添加することによりガラスを安定化させ、耐失透性を向上させる成分である任意成分であるが、含有量が大きすぎる場合、屈折率が低下してしまうため、15%以下が好ましく、10%以下がより好ましく、8%以下が特に好ましい。
【0103】
Nbは、屈折率を向上させ、耐侯性を高める効果も同時に有する必須成分である。そのため、含有量は、5%以上が好ましく、8%以上がより好ましい。一方、含有量が大きすぎると、失透性が強まりガラスが得られなくなってしまうため、その含有量は40%以下が好ましく、35%以下がより好ましい。
【0104】
TiOは、屈折率を向上させる任意成分であるが、含有量が大きすぎるとガラスの着色が強くなり、散乱層における損失が大きくなってしまい、光取り出し効率の向上という目的を達成することができなくなってしまう。そのため含有量は15%以下が好ましく、13%以下であるとさらに好ましい。
【0105】
WOは、屈折率を向上させ、ガラス転移温度を低下させ焼成温度を低下させる任意成分であるが、過度に導入するとガラスが着色してしまい、光取り出し効率の低下をもたらすため、その含有量は50%以下が好ましく、45%以下がさらに好ましい。
【0106】
Biは屈折率を向上させる成分であり、ガラスの安定性を維持しながら比較的多量にガラス中に導入することができる。しかしながら過度に導入することにより、ガラスが着色し、透過率が低下してしまうという問題点が発生するため、含有量は30%以下が好ましく、25%以下がより好ましい。
【0107】
屈折率を所望の値よりも高くするためには、上記Nb、TiO、WO、Biのうちの一成分またはそれ以上を必ず含まなくてはならない。具体的には(Nb+TiO+WO+Bi)の合量が20%以上であることが好ましく、25%以上であることがより好ましい。一方これらの成分の合量が大きすぎる場合、着色したり、失透性が強くなりすぎるため、60%以下であることが好ましく、55%以下であることがより好ましい。
【0108】
Taは屈折率を向上させる任意成分であるが、添加量が大きすぎる場合、耐失透性が低下してしまうことに加え、価格が高いことから、その含有量は10%以下が好ましく、5%以下がより好ましい。
【0109】
LiO、NaO、KO等のアルカリ金属酸化物(RO)は、溶融性を向上させ、ガラス転移温度を低下させる効果をもつと同時に、ガラス基板との親和性を高め、密着力を高める効果を有する。そのため、これらの1種類または2種類以上を含有していることが望ましい。LiO+NaO+KOの合量として5%以上を含むことが望ましく、10%以上であることがより好ましい。しかしながら、過剰に含有させると、ガラスの安定性を損なってしまうのに加え、いずれも屈折率を低下させる成分であるため、ガラスの屈折率が低下してしまい、所望の光取り出し効率の向上が望めなくなってしまう。そのため、合計の含有量は40%以下であることが好ましく、35%以下であることがより好ましい。
【0110】
LiOは、ガラス転移温度を低下させ、溶解性を向上させるための成分である。しかしながら、含有量が多すぎると失透性が高くなりすぎ、均質なガラスを得ることができなくなる。また、熱膨張率が大きくなりすぎ、基板との膨張率差が大きくなってしまうとともに、屈折率も低下し所望の光取出し効率の向上を達成できなくなる。そのため、含有量は20%以下であることが望ましく、15%以下であることがさらに好ましい。
【0111】
NaO、KOはいずれも溶融性を向上させる任意成分であるが、過度の含有により、屈折率が低下し、所望の光取り出し効率を達成できなくなってしまう。そのため、含有量はそれぞれ20%以下であることが好ましく、15%以下であることがより好ましい。
【0112】
ZnOは、屈折率を向上させ、ガラス転移温度を低下させる成分であるが、過剰に添加するとガラスの失透性が高くなり均質なガラスを得ることができなくなる。そのため、含有量は20%以下であることが好ましく、18%以下がより好ましい。
【0113】
BaOは、屈折率を向上させると同時に、溶解性を向上させる成分であるが、過剰に添加するとガラスの安定性を損なうため、その含有量は20%以下であることが好ましく、18%以下であることがより好ましい。
MgO、CaO、SrOは、溶融性を向上させる任意成分であるが、同時に屈折率を低下させる成分であるため、いずれも10%以下であることが好ましく、8%以下であることがより好ましい。
【0114】
高屈折率かつ安定なガラスを得るためには、上記成分の合量は、90%以上であることが好ましく、93%以上であることがより好ましく、95%以上であることがさらに好ましい。
【0115】
以上に記載の成分の他に、必要なガラスの特性を損なわない範囲で、清澄剤やガラス化促進成分、屈折率調整成分、波長変換成分などを少量添加しても良い。具体的には、清澄剤としてはSb、SnOが挙げられ、ガラス化促進成分としては、GeO、Ga、In、屈折率調整成分としては、ZrO、Y、La、Gd、Yb、波長変換成分としては、CeO、Eu、Erなどの希土類成分などが挙げられる。
【0116】
、Laを必須成分として含み、Nb、ZrO、Ta、WO、の一成分以上を含有する散乱層は、mol%表記で、B 20〜60%、SiO 0〜20%、LiO 0〜20%、NaO 0〜10%、KO 0〜10%、ZnO 5〜50%、La 5〜25%、Gd 0〜25%、Y 0〜20%、Yb 0〜20%、ただし、La+Gd+Y+Yb 5%〜30%、ZrO 0〜15%、Ta 0〜20%、Nb 0〜20%、WO 0〜20%、Bi 0〜20%、BaO 0〜20%の組成範囲のガラスが好ましい。
【0117】
各成分の効果は、mol%表記で、以下の通りである。
は、ネットワーク形成酸化物であり、このガラス系における必須成分である。含有量が少なすぎる場合、ガラス形成しなくなるか、ガラスの耐失透性の低下をもたらすため、20%以上含有することが好ましく、25%以上であることがより好ましい。一方、含有量が多すぎると、屈折率が低下し、さらに対抗性の低下を招くため、含有量は60%以下に制限され、より好ましくは55%以下である。
【0118】
SiOは、この系のガラス中に添加されるとガラスの安定性を向上させる成分であるが、導入量が大きすぎる場合、屈折率の低下やガラス転移温度の上昇をもたらす。そのため、含有量は20%以下が好ましく、18%以下がより好ましい。
LiOは、ガラス転移温度を低下させる成分である。しかしながら、導入量が大きすぎる場合、ガラスの耐失透性が低下してしまう。そのため、含有量は20%以下が好ましく、18%以下がより好ましい。
【0119】
NaOおよびKOは溶解性を向上させるが、導入により耐失透性の低下や屈折率の低下がもたらされるため、それぞれ10%以下が好ましく、8%以下がより好ましい。
ZnOは、ガラスの屈折率を向上させるとともに、ガラス転移温度を低下させる必須成分である。そのため、導入量は5%以上が好ましく、7%以上がより好ましい。一方、添加量が大きすぎる場合、耐失透性が低下してしまい均質なガラスが得られなくなってしまうため、50%以下であることが好ましく、45%以下であることがより好ましい。
【0120】
Laは高屈折率を達成し、かつB系ガラスに導入すると耐侯性を向上させる必須成分である。そのため、含有量は5%以上であることが好ましく、7%以上であることがより好ましい。一方、導入量が大きすぎる場合、ガラス転移温度が高くなったり、ガラスの耐失透性が低下し、均質なガラスが得られなくなってしまう。そのため、含有量は25%以下が好ましく、22%以下がさらに好ましい。
【0121】
Gdは高屈折率を達成し、かつB系ガラスに導入すると耐侯性を向上させ、Laと共存させることにより、ガラスの安定性を向上させる成分であるが、導入量が大きすぎる場合、ガラスの安定性が低下してしまうため、その含有量は25%以下が好ましく、22%以下がさらに好ましい。
およびYbは高屈折率を達成し、かつB系ガラスに導入すると耐侯性を向上させ、Laと共存させることにより、ガラスの安定性を向上させる成分であるが、導入量が大きすぎる場合、ガラスの安定性が低下してしまうため、含有量はそれぞれ20%以下であることが好ましく、18%以下であることが好ましい。
【0122】
La、Gd、Y、Yb、といった希土類酸化物は、高屈折率を達成し、かつガラスの耐侯性を向上させるためには必須の成分であるため、これらの成分の合量、La+Gd+Y+Ybは5%以上であることが好ましく、8%以上であることがより好ましい。しかしながら、導入量が大きすぎる場合、ガラスの耐失透性が低下し、均質なガラスを得ることができなくなるため、30%以下であることが好ましく、25%以下であることがより好ましい。
【0123】
ZrOは屈折率を向上させるための成分であるが、含有量が大きすぎると耐失透性が低下したり、液相温度が過度に向上してしまうため、含有量は15%以下であることが好ましく、10%以下であることがより好ましい。
【0124】
Taは屈折率を向上させるための成分であるが、含有量が大きすぎると耐失透性が低下したり、液相温度が過度に向上してしまうため、含有量は20%以下であることが好ましく、15%以下であることがより好ましい。
【0125】
Nbは屈折率を向上させるための成分であるが、含有量が大きすぎると耐失透性が低下したり、液相温度が過度に向上してしまうため、含有量は20%以下であることが好ましく、15%以下であることがより好ましい。
【0126】
WOは屈折率を向上させるための成分であるが、含有量が大きすぎると耐失透性が低下したり、液相温度が過度に向上してしまうため、含有量は20%以下であることが好ましく、15%以下であることがより好ましい。
【0127】
Biは屈折率を向上させるための成分であるが、含有量が大きすぎると耐失透性が低下したり、ガラスに着色が生じ透過率の低下をもたらし取り出し効率を低下させてしまうため、含有量は20%以下であることが好ましく、15%以下であることがより好ましい。
【0128】
BaOは屈折率を向上させる成分であるが、含有量が大きすぎると耐失透性が低下してしまうため、20%以下であることが好ましく、15%以下であることがより好ましい。
本発明の目的に合致させるためには、以上に記載の成分の合量は90%以上であることが望ましく、95%以上であることがさらに好ましい。以上に記載の成分以外であっても、清澄、溶解性向上などの目的で本発明の効果を損なわない範囲で添加しても良い。このような成分として、例えば、Sb、SnO、MgO、CaO、SrO、GeO、Ga、In、フッ素が挙げられる。
【0129】
SiOを必須成分として含み、Nb、TiO、Biのうち一成分以上を含有する散乱層は、mol%表記で、SiO 20〜50%、B 0〜20%、Nb 1〜20%、TiO 1〜20%、Bi 0〜15%、ZrO 0〜15%、Nb+TiO+Bi+ZrO 5〜40%、LiO 0〜40%、NaO 0〜30%、KO 0〜30%、LiO+NaO+KO 1〜40%、MgO 0〜20%、CaO 0〜20%、SrO 0〜20%、BaO 0〜20%、ZnO 0〜20%の組成範囲のガラスが好ましい。
【0130】
SiOはガラス形成をさせるためのネットワークフォーマとして働く必須成分であり、その含有量が少なすぎるとガラスを形成しなくなってしまうため20%以上であることが好ましく、22%以上であることがより好ましい。
【0131】
はSiOと比較的少量添加することによりガラス形成を助け失透性を低下させるが、含有量が多すぎると、屈折率の低下をもたらすため、その含有量は20%以下であることが好ましく、18%以下であることがより好ましい。
【0132】
Nbは屈折率を向上させるための必須成分であり、その含有量は1%以上であることが好ましく、3%以上であることがより好ましい。しかしながら、過剰に添加することによりガラスの耐失透性を低下させ、均質なガラスを得ることができなくなるため、その含有量は20%以下であることが望ましく、18%以下であることがより好ましい。
【0133】
TiOは屈折率を向上させるための必須成分であり、その含有量は1%以上であることが好ましく、3%以上であることがより好ましい。しかしながら、過剰に添加することによりガラスの耐失透性を低下させ、均質なガラスを得ることができなくなり、さらに着色をもたらし、散乱層を光が伝播する際の吸収による損失を大きくしてしまう。そのため、その含有量は20%以下であることが望ましく、18%以下であることがより好ましい。
【0134】
Biは屈折率を向上させるための成分であるが、過剰に添加することによりガラスの耐失透性を低下させ、均質なガラスを得ることができなくなり、さらに着色をもたらし、散乱層を光が伝播する際の吸収による損失を大きくしてしまう。そのため、その含有量は15%以下であることが望ましく、12%以下であることがより好ましい。
【0135】
ZrOは着色度を悪化させること無く屈折率を向上させる成分であるが、含有量が大きすぎる場合、ガラスの耐失透性が低下し、均質なガラスが得られなくなってしまう。そのため、含有量は15%以下が好ましく、10%以下がより好ましい。
高屈折率のガラスを得るためには、Nb+TiO+Bi+ZrOが5%以上であることが好ましく、8%以上であることがより好ましい。一方、この合量が大きすぎると、ガラスの耐失透性が低下したり、着色を生じたりするため、40%以下が好ましく、38%以下がより好ましい。
【0136】
LiO、NaO、KOは溶解性を向上させるとともにガラス転移温度を低下させる成分であり、さらにガラス基板との親和性を高める成分である。そのためこれらの成分の合量LiO+NaO+KOは、1%以上であることが好ましく、3%以上であることがより好ましい。一方、アルカリ酸化物成分の含有量が大きすぎる場合、ガラスの耐失透性が低くなり、均質なガラスが得られなくなるため、その含有量は、40%以下であることが好ましく、35%以下であることがより好ましい。
【0137】
BaOは屈折率を向上させると同時に溶解性を向上させる成分であるが、過度に含有した場合、ガラスの安定性を損ない、均質なガラスを得ることができなくなるため、その含有量は20%以下が好ましく、15%以下がより好ましい。
【0138】
MgO、CaO、SrO、ZnOはガラスの溶解性を向上させる成分であり、適度に添加するとガラスの耐失透性を低下させることができるが、過度に含有すると失透性が高くなってしまい均質なガラスを得ることができなくなるため、その含有量はそれぞれ20%以下が好ましく、15%以下がより好ましい。
【0139】
本発明の目的に合致させるためには、以上に記載の成分の合量は90%以上であることが望ましい。また、以上に記載の成分以外であっても、清澄、溶解性向上などの目的で本発明の効果を損なわない範囲で添加しても良い。このような成分として、例えば、Sb、SnO、GeO、Ga、In、WO、Ta、La、Gd、Y、Ybが挙げられる。
【0140】
Biを主成分として含有し、ガラス形成助剤としてSiO、Bなどを含有する散乱層は、mol%表記で、Bi 10〜50%、B 1〜40%、SiO 0〜30%、ただし、B+SiO 10〜40%、P 0〜20%、LiO 0〜15%、NaO 0〜15%、KO 0〜15%、TiO 0〜20%、Nb 0〜20%、TeO 0〜20%、MgO 0〜10%、CaO 0〜10%、SrO 0〜10%、BaO 0〜10%、GeO 0〜10%、Ga 0〜10%の組成範囲のガラスが好ましい。
【0141】
各成分の効果は、mol%表記で、以下の通りである。
Biは、高屈折率を達成し、かつ多量に導入しても安定にガラスを形成する必須成分である。そのため、その含有量は、10%以上が好ましく、15%以上がより好ましい。一方、過剰に添加すると、ガラスに着色が生じ、本来透過すべき光を吸収してしまい、取り出し効率が低下してしまうことに加え、失透性が高くなり、均質なガラスを得ることができなくなってしまう。そのため、含有量は50%以下が好ましく、45%以下がより好ましい。
は、Biを多量に含むガラスにおいて、ネットワークフォーマとして働き、ガラス形成を助ける必須成分であり、その含有量は、1%以上が好ましく、3%以上がより好ましい。しかしながら、添加量が大きすぎる場合、ガラスの屈折率が低下してしまうため、40%以下が好ましく、38%以下がより好ましい。
【0142】
SiOは、Biをネットワークフォーマとしてガラス形成を助ける働きをする成分であるが、含有量が大きすぎる場合、屈折率の低下をもたらすため、30%以下が好ましく、25%以下がより好ましい。
【0143】
とSiOは、組合わせることによってガラス形成を向上させるため、その合量は5%以上であることが好ましく、10%以上であることがより好ましい。一方、導入量が大きすぎる場合、屈折率が低下してしまうため、40%以下であることが好ましく、38%であることがより好ましい。
【0144】
は、ガラス形成を助けるとともに、着色度の悪化を抑制する成分であるが、含有量が大きすぎる場合、屈折率の低下をもたらすため、20%以下が好ましく、18%以下がより好ましい。
【0145】
LiO、NaO、KOは、ガラス溶解性を向上させ、さらにガラス転移温度を低下させるための成分であるが、過度に含有するとガラスの耐失透性が低下し、均質なガラスを得ることができなくなってしまう。このため、それぞれ15%以下が好ましく、13%以下がより好ましい。また、以上のアルカリ酸化物成分の合量、LiO+NaO+KOが大きすぎると屈折率の低下を招き、さらにガラスの耐失透性を低下させるため、30%以下が好ましく、25%以下がより好ましい。
【0146】
TiOは、屈折率を向上させる成分であるが、含有量が大きすぎる場合、着色を生じたり、耐失透性が低下し、均質なガラスを得ることができなくなってしまう。そのため、含有量は20%以下が好ましく、18%以下がより好ましい。
【0147】
Nbは屈折率を向上させる成分であるが、導入量が大きすぎるとガラスの耐失透性が低下し、安定なガラスが得られなくなってしまう。そのため、含有量は20%以下であることが好ましく、18%以下であることがさらに好ましい。
【0148】
TeOは着色度を悪化させずに屈折率を向上させる成分であるが、過度の導入により、耐失透性が低下し、フリット化したのちに焼成した時の着色の原因となるため、その含有量は20%以下が好ましく、15%以下がより好ましい。
【0149】
GeOは、屈折率を比較的高く維持しつつ、ガラスの安定性を向上させる成分であるが、極めて高価であるため、含有量は10%以下が好ましく、8%以下であることがより好ましく、含まないことがさらに好ましい。
【0150】
Gaは、屈折率を比較的高く維持しつつ、ガラスの安定性を向上させる成分であるが、極めて高価であるため、含有量は10%以下が好ましく、8%以下であることがより好ましく、含まないことがさらに好ましい。
【0151】
本発明の目的に合致させるためには、以上に記載の成分の合量は90%以上であることが望ましく、95%以上であることがさらに好ましい。以上に記載の成分以外であっても、清澄、溶解性向上、屈折率調整などの目的で本発明の効果を損なわない範囲で添加しても良い。このような成分として、例えば、Sb、SnO、In、ZrO、Ta、WO、La、Gd、Y、Yb、Alが挙げられる。
【0152】
散乱層を形成するガラス組成としては、所望の散乱特性が得られ、フリットペースト化して焼成可能であれば特に限定はされないが、取り出し効率を最大化するためには、例えば、Pを含み、Nb、Bi、TiO、WO、の一成分以上を含有する系、B、Laを必須成分として含み、Nb、ZrO、Ta、WO、の一成分以上を含有する系、SiOを必須成分として含み、Nb、TiOの一成分以上を含有する系、Biを主成分として含有し、ガラス形成助剤としてSiO、Bなどを含有する系などが挙げられる。なお、本発明において散乱層として使用する全てのガラス系において、環境に対して悪影響を及ぼす成分である、As、PbO、CdO、ThO、HgOについては、原料由来の不純物としてやむを得ず混入する場合を除いて含んでいてはならない。
【0153】
を含み、Nb、Bi、TiO、WO、の一成分以上を含有する成分においては、以下の組成範囲のガラスが好ましい。なお、以下組成はmol%で表記する。
【0154】
2.樹脂
樹脂は、スクリーン印刷後、塗膜中のガラス粉末、フィラーを支持するもので、必要に応じて使用される。具体例としては、エチルセルロース、ニトロセルロース、アクリル樹脂、酢酸ビニル、ブチラール樹脂、メラミン樹脂、アルキッド樹脂、ロジン樹脂などが用いられる。主剤として用いられるのは、エチルセルロースとニトロセルロースがある。なお、ブチラール樹脂、メラミン樹脂、アルキッド樹脂、ロジン樹脂は塗膜強度向上の為の添加として用いられる。焼成時の脱バインダ温度は、エチルセルロースで350℃から400℃、ニトロセルロースで200℃から300℃である。
【0155】
3.溶剤
樹脂を溶解しかつ印刷に必要な粘度を調整する。また印刷中には乾燥せず、乾燥工程では、すばやく乾燥する。沸点200℃から230℃のものが望ましい。粘度、固形分比、乾燥速度調整のためブレンドして用いる。具体例としては、スクリーン印刷時のペーストの乾燥適合性からエーテル系溶剤(ブチルカルビトール(BC)、ブチルカルビトールアセテート(BCA)、ジエチレングリコールジ−n−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールブチルエーテル、トリプロピレングリコールブチルエーテル、酢酸ブチルセロソルブ)、アルコール系溶剤(α−テルピネオール、パインオイル、ダワノール)、エステル系溶剤(2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノイソブチレート)、フタル酸エステル系溶剤(DBP(ジブチルフタレート)、DMP(ジメチルフタレート)、DOP(ジオクチルフタレート))がある。主に用いられているのは、α−テルピネオールや2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノイソブチレート)である。なお、DBP(ジブチルフタレート)、DMP(ジメチルフタレート)、DOP(ジオクチルフタレート)は、可塑剤としても機能する。
【0156】
4.その他
粘度調整、フリット分散促進の為、界面活性剤を使用しても良い。フリット表面改質の為、シランカップリング剤を使用しても良い。
【0157】
(フリットペースト膜の作製方法)
(1)フリットペースト
ガラス粉末とビヒクルを準備する。ここで、ビヒクルとは、樹脂、溶剤、界面活性剤を混合したものをいう。具体的には、50℃〜80℃に加熱した溶剤中に樹脂、界面活性剤などを投入し、その後4時間から12時間程度静置したのち、ろ過し、得られる。
次に、ガラス粉末とビヒクルとを、プラネタリーミキサーで混合した後、3本ロールで均一分散させる。その後粘度調整のため、混練機で混練する。通常ガラス材料70〜80wt%に対してビヒクル20〜30wt%とする。
【0158】
(2)印刷
(1)で作製したフリットペーストをスクリーン印刷機を用いて印刷する。スクリーン版のメッッシュ荒さ、乳剤の厚み、印刷時の押し圧、スキージ押し込み量などで形成される、フリットペースト膜の膜厚を制御できる。印刷後焼成炉で乾燥させる。
【0159】
(3)焼成
焼成炉で印刷、乾燥した基板を焼成する。焼成は、フリットペースト中の樹脂を分解・消失させる脱バインダ処理とガラス粉末を焼結、軟化させる焼成処理からなる。脱バインダ温度は、エチルセルロースで350℃〜400℃、ニトロセルロースで200℃〜300℃であり、30分から1時間大気雰囲気で加熱する。その後温度を上げて、ガラスを焼結、軟化させる。焼成温度は軟化温度から軟化温度+20℃であり、処理温度により内部に残存する気泡の形状、大きさが異なる。その後、冷却して基板上にガラス層が形成される。得られる膜の厚さは、5μm〜30μmであるが、印刷時に積層することでさらに厚いガラス層が形成可能である。
【0160】
なお、上記で印刷工程をドクターブレード印刷法、ダイコート印刷法を用いると、より厚い膜形成が可能となる(グリーンシート印刷)。PETフィルム等の上に膜を形成した後、乾燥するとグリーンシートが得られる。次いでローラー等によりグリーンシートを基板上に熱圧着し、フリットペーストと同様の焼成行程を経て焼成膜を得る。得られる膜の厚さは、50μm〜400μmであるが、グリーンシートを積層して用いることにより、さらに厚いガラス膜が形成可能である。
(散乱層の屈折率の測定方法)
散乱層の屈折率を測定するには、下記の2つの方法がある。
一つは、散乱層の組成を分析し、その後、同一組成のガラスを作製し、プリズム法にて屈折率を評価する。他の一つは、散乱層を1〜2μmまで薄く研磨し、泡のない10μmΦ程度の領域で、エリプソ測定し、屈折率を評価する。なお、本発明では、プリズム法にて屈折率を評価することを前提としている。
【0161】
(散乱層の表面粗さ)
散乱層は、透光性電極が設けられる主表面を有している。上述したように、本発明の散乱層は、散乱物質を含有している。上述したように、散乱物質の径としては、大きければ大きいほど含有量が少なくても光取り出し効率の向上が図れる。しかし、発明者の実験によれば、径が大きければ大きいほど、散乱層の主表面から突出した場合に散乱層の主表面の算術平均粗さ(Ra)が大きくなる傾向にある。上述したように、散乱層の主表面には透光性電極が設けられる。そのため、散乱層の主表面の算術平均粗さ(Ra)が大きいほど、透光性電極と散乱層間で短絡し、有機LED素子が発光しないという問題がある。上述した特許文献1は、段落0010において、基板に形成された凹凸が数μm程度であっても問題であること開示しているが、発明者らの実験によると、μmの単位では有機LED素子の発光が得られないことがわかった。
【0162】
<透光性電極>
透光性電極(陽極)103は、有機層110で発生した光を外部に取り出すために、80%以上の透光性が要求される。また、多くの正孔を注入するため、仕事関数が高いものが要求される。具体的には、ITO、SnO、ZnO、IZO(Indium Zinc Oxide)、AZO(ZnO−Al:アルミニウムがドーピングされた亜鉛酸化物)、GZO(ZnO−Ga:ガリウムがドーピングされた亜鉛酸化物)、NbドープTiO、TaドープTiOなどの材料が用いられる。陽極103の厚さは、100nm以上が好ましい。なお、陽極103の屈折率は、1.9〜2.2程度である。ここで、キャリア濃度を増加させると、ITOの屈折率を低下させることができる。市販されているITOは、SnOが10wt%が標準となっているが、これより、Sn濃度を増やすことで、ITOの屈折率を下げることができる。但し、Sn濃度増加により、キャリア濃度は増加するが、移動度および透過率の低下がある為、これらのバランスをとって、Sn量を決める必要がある。
なお、透光性電極を陰極としても良いことは言うまでもない。
【0163】
<有機層(発光機能を有する層)>
有機層110は、発光機能を有する層であり、正孔注入層と、正孔輸送層と、発光層と、電子輸送層と、電子注入層とにより構成される。有機層110の屈折率は、1.7〜1.8程度である。
【0164】
<正孔注入層>
正孔注入層は、陽極としての透光性電極103からの正孔注入障壁を低くするために、イオン化ポテンシャルの差が小さいものが要求される。正孔注入層における電極界面からの電荷の注入効率の向上は、素子の駆動電圧を下げるとともに、電荷の注入効率を高める。高分子では、ポリスチレンスルフォン酸(PSS)がドープされたポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT:PSS)、低分子ではフタロシアニン系の銅フタロシアニン(CuPc)が広く用いられる。
【0165】
<正孔輸送層>
正孔輸送層は、正孔注入層から注入された正孔を発光層に輸送する役割をする。適切なイオン化ポテンシャルと正孔移動度を有することが必要である。正孔輸送層は、具体的には、トリフェニルアミン誘導体、N,N’−ビス(1−ナフチル)−N,N’−ジフェニル−1,1’−ビフェニル−4,4’−ジアミン(NPD)、N,N’−ジフェニル−N,N’−ビス[N−フェニル−N−(2−ナフチル)−4’−アミノビフェニル−4−イル]−1,1’−ビフェニル−4,4’−ジアミン(NPTE)、1,1−ビス[(ジ−4−トリルアミノ)フェニル]シクロヘキサン(HTM2)およびN,N’−ジフェニル−N,N’−ビス(3−メチルフェニル)−1,1’−ジフェニル−4,4’−ジアミン(TPD)などが用いられる。正孔輸送層の厚さは、10nm〜150nmが好ましい。厚さは薄ければ薄いほど低電圧化できるが、電極間短絡の問題から10nm〜150nmであることが特に好ましい。
【0166】
<発光層>
発光層は、注入された電子と正孔が再結合する場を提供し、かつ、発光効率の高い材料を用いる。詳細に説明すると、発光層に用いられる発光ホスト材料および発光色素のドーピング材料は、陽極および陰極から注入された正孔および電子の再結合中心として機能する、また、発光層におけるホスト材料への発光色素のドーピングは、高い発光効率を得ると共に、発光波長を変換させる。これらは電荷注入のための適切なエネルギーレベルを有すること、化学的安定性や耐熱性に優れ、均質はアモルファス薄膜を形成することなどが求められる。また、発光色の種類や色純度が優れていることや発光効率の高いことが求められる。有機材料である発光材料には、低分子系と高分子系の材料がある。さらに、発光機構によって、蛍光材料、りん光材料に分類される。発光層は、具体的には、トリス(8−キノリノラート)アルミニウム錯体(Alq)、ビス(8−ヒドロキシ)キナルジンアルミニウムフェノキサイド(Alq′OPh)、ビス(8−ヒドロキシ)キナルジンアルミニウム−2,5−ジメチルフェノキサイド(BAlq)、モノ(2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナート)リチウム錯体(Liq)、モノ(8−キノリノラート)ナトリウム錯体(Naq)、モノ(2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナート)リチウム錯体、モノ(2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナート)ナトリウム錯体およびビス(8−キノリノラート)カルシウム錯体(Caq)などのキノリン誘導体の金属錯体、テトラフェニルブタジエン、フェニルキナクドリン(QD)、アントラセン、ペリレン並びにコロネンなどの蛍光性物質が挙げられる。ホスト材料としては、キノリノラート錯体が好ましく、特に、8−キノリノールおよびその誘導体を配位子としたアルミニウム錯体が好ましい。
【0167】
<電子輸送層>
電子輸送層は、電極から注入された電子を輸送するという役割をする。電子輸送層は、具体的には、キノリノールアルミニウム錯体(Alq3)、オキサジアゾール誘導体(例えば、2,5−ビス(1−ナフチル)−1,3,4−オキサジアゾール(BND)および2−(4−t−ブチルフェニル)−5−(4−ビフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール(PBD)など)、トリアゾール誘導体、バソフェナントロリン誘導体、シロール誘導体などが用いられる。
【0168】
<電子注入層>
電子注入層は、電子の注入効率を高めるものが要求される。電子注入層は、具体的には、陰極界面にリチウム(Li)、セシウム(Cs)等のアルカリ金属をドープした層を設ける。
【0169】
<透光性電極>
透光性電極(陰極)120には、陽極と同様、ITOなどの透光性膜が用いられるが、仕事関数の小さな金属またはその合金の極薄膜を介して形成される場合もある。具体的には、アルカリ金属、アルカリ土類金属および周期表第3属の金属などが挙げられる。このうち、安価で化学的安定性の良い材料であることから、アルミニウム(Al)、マグネシウム(Mg)またはこれらの合金などが好ましく用いられる。いずれの場合も極薄膜と透光性導電膜との積層膜である。
【0170】
<電極付き基板(有機LED素子)の製造方法>
以下に、図面を用いて、本発明の電極付き基板の製造方法を説明する。図23は、本発明の電極付き基板の製造方法を示すフローチャートである。本発明の電極付き基板の製造方法は、反射性基板を準備する工程(ステップ1100)と、反射性基板上に、有機LED素子の発光光の波長において第1の屈折率を有するベース材と、ベース材内部に設けられベース材と異なる屈折率を有する複数の散乱物質とを備えた散乱層を形成する工程(ステップ1110)と、散乱層上に、透光性電極を形成する工程(ステップ1120)とを有する。
【0171】
初めに、透光性基板上を反射膜で被覆した反射性基板を準備する(ステップ1100)。ここで、透光性基板は、具体的には、ガラス基板やプラスチック基板が用いられる。
次に、有機LED素子の発光光の波長において第1の屈折率を有するベース材と、ベース材内部に設けられベース材と異なる屈折率を有する複数の散乱物質とを備えた散乱層を準備する。そして、準備した散乱層を反射性基板上に形成する(ステップ1110)。
【0172】
次に、散乱層上に、透光性電極、好ましくは、第1の屈折率と同じ若しくはより低い第2の屈折率を有する透光性電極を形成する(ステップ1120)。具体的に説明すると、基板上にITOを成膜して、そのITO膜にエッチングを施すことによって形成する。ITOはスパッタや蒸着によって、反射膜で被覆したガラス基板全面に均一性よく成膜することができる。フォトリソグラフィーおよびエッチングによりITOパターンを形成する。このITOパターンが透光性電極(陽極)となる。レジストとしてはフェノールノボラック樹脂を使用し、露光現像を行う。エッチングはウェットエッチングあるいはドライエッチングのいずれでもよいが、例えば、塩酸および硝酸の混合水溶液を使用してITOをパターニングすることができる。レジスト剥離材としては例えば、モノエタノールアミンを使用することができる。
【0173】
<有機LED素子の製造方法>
以下に、図面を用いて、本発明の有機LED素子の製造方法を説明する。図24は、本発明の有機LED素子の製造方法を示すフローチャートである。本発明の有機LED素子の製造方法は、反射性基板を準備する工程(ステップ1100)と、反射性基板上に、有機LED素子の発光光の波長において第1の屈折率を有するベース材と、ベース材内部に設けられベース材と異なる屈折率を有する複数の散乱物質とを備えた散乱層を形成する工程(ステップ1110)と、散乱層上に、透光性電極を形成する工程(ステップ1120)と、透光性電極上に有機層を形成する工程(ステップ1200)と、有機層上に透光性電極を形成する工程(ステップ1210)とを有する。
【0174】
上述のステップ1100からステップ1120を行った後、透光性電極上に有機層を形成する(ステップ1200)。ここで、有機層は、塗布法と蒸着法の併用により、形成される。例えば、有機層のある1層以上が塗布法により形成されれば、その他の層は蒸着法により形成される。塗布法により形成した層の後、その上の層を蒸着法で形成する場合、蒸着法で有機層を形成する前に、濃縮乾燥硬化を行う。また、有機層は塗布法のみ蒸着法のみで形成するようにしてもよい。
【0175】
次に、有機層上に透光性電極を形成する(ステップ1210)。具体的に説明すると、有機層上に、ITO等の透光性材料を蒸着することにより、透光性電極を形成する。
【0176】
次に上述の工程により形成された有機LED素子を封止するため、封止用の対向基板を製造する工程について説明する。まず。素子基板とは別のガラス基板を用意する。このガラス基板を加工して捕水材を収納するための捕水材収納部を形成する。捕水材収納部はガラス基板にレジストを塗布し、露光、現像により基板の一部を露出させる。この露出部分をエッチングにより薄くすることにより捕水材収納部を形成する。
【0177】
図25に示すように、発光層としての有機層110の周囲に設けられたこの捕水材収納部1300に酸化カルシウム等の捕水材1310を配置した後、二枚の基板を重ね合わせて接着する。なお、図25は有機LED表示装置の構成を模式的に示す断面図である。具体的には、対向基板1320の捕水材収納部1300が設けられた面に、ディスペンサを用いてシール材1330を塗布する。シール材1330として、例えば、エポキシ系紫外線硬化性樹脂を用いることができる。また、シール材1330は、有機LED素子と対向する領域の外周全体に塗布する。二枚の基板を位置合わせして対向させた後、紫外線を照射してシール材を硬化させ、基板同士を接着する。この後、シール材の硬化をより促進させるために、例えば、80℃のクリーンオーブン中で1時間の熱処理を施す。この結果、シール材および一対の基板によって、有機LED素子が存在する基板間と、基板の外部とが隔離される。捕水材1310を配置することにより、封止された空間に残留または侵入してくる水分等による有機LED素子の劣化を防止することができる。
【0178】
有機層110からの発光が図の上方向に出射される。対向基板1320の有機LED素子が形成された面とは反対側の面すなわち、出射面に光学シート1340を貼り付ける。光学シート1340は偏光板と1/4波長板を有しており、反射防止膜として機能する。この光学シート1340が設けられた面側に有機薄膜層からの光が取り出される。
【0179】
基板の外周付近の不要部分を切断除去し、陽極配線1350に信号電極ドライバを接続し、陰極接続配線に走査電極ドライバを接続する。基板端部において各配線に接続される端子部が形成されている。この端子部に異方性導電フィルム(ACF)を貼付け、駆動回路が設けられたTCP(Tape Carrier Package)を接続する。具体的には端子部にACFを仮圧着する。ついで駆動回路が内蔵されたTCPを端子部に本圧着する。これにより駆動回路が実装される。この有機LED表示パネルが筐体に取り付けられ、有機LED表示装置が完成する。上記は、ドットマトリックス表示素子の場合を示したが、キャラクター表示でもよく、又素子仕様によっては上記の構成の限りではない。
【0180】
(実施の形態4)
<有機LED素子の他の構成例>
次に、図面を用いて、本発明の実施の形態4の有機LED素子について説明する。なお、図1と同じ構成については、同じ番号を付与し、説明を省略する。図26は、本発明の有機LED素子用積層体及び有機LED素子用積層体の他の構造を示す断面図である。本発明の他の有機LED素子は、透光性電極つき反射性基板(有機LED素子用積層体)1400と、有機層1410と、透光性電極120とにより構成される。透光性電極付き基板1400は、反射性の基板101と、散乱層1401と、透光性電極103とにより構成される。有機層1410は、正孔注入・輸送層1411と、発光層1412と、電子注入・輸送層1413とにより構成される。
【0181】
ここで、図1に示した実施の形態1の有機LED素子の発光層は、3つの層により構成されている。3つのいずれか一つの層は、3色の発光色(赤、緑、青)のいずれか一つの色を発光するように形成されている。しかし、図26の有機LED素子の発光層1412は、散乱層1401の内部に設けられる複数の散乱物質1420を赤色および緑色の発光を行う蛍光発光材料(例えば、フィラー)とすることにより、青色のみを発光する一つの層により構成できる。つまり、本発明の有機LED素子の他の構成によれば、発光層を青・緑・赤色のいずれか一つの色を発光する層とすることができ、有機LED素子をダウンサイズすることができるという効果を奏する。
【0182】
なお本発明の透光性電極付き基板は、有機LED素子に限定されることなく、無機EL素子、液晶など、種々の発光デバイス、あるいは光量センサ、太陽電池などの受光デバイスなど光デバイスの高効率化に有効である。
【実施例】
【0183】
(散乱層の効果の実証)
以下、光取り出し効率の向上のために、散乱層が効果的であることの実証を説明する。試料1は本発明の散乱層を備えた実施例であり、試料2が内部に散乱物質が設けられていない散乱層を備えた比較例である。計算方法は、上述の散乱層の計算方法と同じである。以下、各条件および結果(取り出し効率)を表2に示す。
【0184】
【表2】

【0185】
実施例と比較例の前面取り出し効率の比較結果を図27に示す。図27(a)および(b)は、それぞれ試料2と試料1の条件において、光取り出し面側から観測した結果を示す図である。図27に示すように、本発明の電極付き基板および有機LED素子によれば、未処置の場合に20%程度の光取り出し効率を80%程度まで向上させることが可能となる。
【0186】
以下に、図面を用いて、本発明の電極付き基板が外部取り出し効率を改善していることを確認するために行った評価実験の内容および結果について説明する。
【0187】
初めに、図28および図29に示される評価素子を準備した。ここで、図28は評価素子の構造を示す、図29のC方向から見たA−A線における断面図である。図29は、図28のB方向から見た評価素子の上面図である。なお、図29は、ガラス基板1610と散乱層1620の位置関係を明確にするため、ガラス基板1610と散乱層1620のみを記載している。これらのガラス基板は背面側に銀膜などの反射性膜を形成して反射性基板として用いられる。
【0188】
評価素子は、ガラス基板1610と、散乱層1620と、ITO膜1630と、Alq(トリス(8−キリノリラート)アルミニウム錯体)膜1640と、ITO膜1650とを有する。ここで、散乱層の有無による光取り出し効率の違いを比較するために、評価素子を散乱層ありの領域1600Aと散乱層なしの領域1600Bの2つに分けた。散乱層ありの領域1600Aの評価素子は、ガラス基板1610上に散乱層1620が形成されている。散乱層なしの領域1600Bの評価素子は、ガラス1610上にITO膜1630が形成されている。
【0189】
ガラス基板は、旭硝子株式会社製ガラス基板[商品名:PD200]を用いた。このガラスは歪点570℃、熱膨張係数83×10−7(1/℃)である。このような高歪点と高い熱膨張係数を有するガラス基板は、ガラスフリットペーストを焼成して散乱層を形成する場合に好適である。
【0190】
散乱層1620は、高屈折率ガラスフリットペースト層である。ここでは、散乱層1620として、表3に示す組成を有するガラスを作製した。このガラスのガラス転移温度は483℃、屈服点は528℃、熱膨張係数は83×10−7(1/℃)である。このガラスのF線(486.13nm)での屈折率nFは2.03558、d線(587.56nm)での屈折率ndは1.99810、C線(656.27nm)での屈折率nCは1.98344である。屈折率は、屈折率計(カルニュー光学工業社製、商品名:KRP−2)で測定した。ガラス転移点(Tg)および屈服点(At)は、熱分析装置(Bruker社製、商品名:TD5000SA)で熱膨張法により、昇温速度5℃/分で測定した。
【0191】
【表3】

【0192】
以下の手順で、散乱層1620を形成した。表3の比率で示される組成となるように、粉末原料を調合した。調合した粉末原料をアルミナ製のボールミルで12時間乾式粉砕し、平均粒径(d50、積算値50%の粒度、単位μm)が1〜3μmであるガラス粉末を作製した。そして、得られたガラス粉末75gを、有機ビヒクル(α―テルピネオール等にエチルセルロースを10質量%程度溶解したもの)25gと混練してペーストインク(ガラスペースト)を作製した。このガラスペーストを、前述のガラス基板上に、焼成後の膜厚が15μm、30μm、60μm、120μmとなるよう均一に印刷し、これを150℃で30分間乾燥した後、一旦室温に戻し、450℃まで45分で昇温し、450℃で10時間保持し、その後、550℃まで12分で昇温し、550℃で30分間保持し、その後、室温まで3時間で降温し、ガラス基板上にガラス層を形成した。膜厚120μmの散乱層については、膜厚が60μmにあるまで表面を研磨した。これにより形成された、ガラス膜中には、多くの気泡が含まれており、これによる散乱が生じる。一方で散乱層ガラス最表面には、うねりはあるものの、気泡が開口するなど、有機LEDの電極間短絡の原因となるような局所的な凹凸は見られなかった。
【0193】
(実施例2)
(散乱層の主表面の平坦性の実証)
以下、光取り出し効率の向上のために、散乱層の主表面が平坦(算術平均粗さが30nm以下)であることが効果的であることの実証を説明する。
まず、基板としては、上述の旭硝子株式会社製ガラス基板[PD200]を用いた。散乱層は以下のように作製した。まずガラス組成が表3になるように粉末原料を調合し、1100℃の電気炉にて溶解し、ロールにキャストしてガラスのフレークを得た。このガラスのガラス転移温度は499℃、屈服点は545℃、熱膨張係数は74×10−7(1/℃)(100〜300℃の平均値)である。このガラスのF線(486.13nm)での屈折率nFは2.0448、d線(587.56nm)での屈折率ndは2.0065、C線(656.27nm)での屈折率nCは1.9918である。屈折率およびガラス転移点・屈服点の測定方法は、上述の例と同様である。反射性基板として用いられるときにはガラス基板の背面側にアルミニウム薄膜(反射性膜)を形成して用いられる。
【0194】
さらに作製したフレークをジルコニア製の遊星ミルで2時間粉砕した後、ふるいにかけて粉末を作製した。このときの粒度分布は、D50が、0.905μm、D10が、0.398μm、D90が、3.024μmであった。次に、得られたガラス粉末20gを有機ビヒクル7.6gと混錬してガラスペーストを作製した。このガラスペーストを、前述のガラス基板上に直径が10mmの円形で焼成後の膜厚が15μmとなるように均一に印刷し、これを150℃で30分間乾燥した後、一旦室温に戻し、450℃まで45分で昇温し、450℃で30分間保持・焼成し、その後550℃まで12分で昇温し、550℃で30分間保持し、その後室温まで3時間で降温し、ガラス基板上に散乱層を形成した。その他同様の温度プロファイルで、保持・焼成温度のみ570℃、580℃とした散乱層も作製した。
【0195】
次いでこれらの表面粗さを測定した。測定には、菱化システム社製三次元非接触表面形状計測システム Micromapを用いた。測定は円形散乱層の中央部付近の2ケ所であり、測定領域は1辺が30μmの正方形とした。またうねりのカットオフ波長は10μmとした。10μm以上の周期を有する凸凹であれば、有機LED素子形成に用いられるスパッタ、蒸着、スピンコート、スプレーなどの方式により形成された膜は、その凸凹に十分追従できると考えられ、10μmより小さい周期の凸凹については、蒸着などでは、その被覆性が十分でなくなる場合があると考えられる。図30に各温度で焼成した散乱層の算術表面粗さ(Ra)を示す。550℃で焼成したものは、焼成が不完全で、散乱層中の気泡が球形でなかったり、表面が荒れている為、その上に素子を作製すると、電極間短絡など不具合を生じやすい。これに対して570℃、580℃焼成品では、散乱層中の気泡が球形となっていて、表面も平滑になっている。
【0196】
こうして作製された散乱層付ガラス基板の全光透過率は77.8、ヘイズ値は85.2であった。測定装置はスガ試験機社製ヘーズコンピュータ(商品名:HZ−2)を用い、リファレンスとしてガラス基板[PD200]の素板を用いて測定した。
【0197】
なお、気泡と結晶は別のメカニズムで発生するため、ガラス材料、粉末粒径、表面状態、焼成条件(雰囲気、圧力)などを制御することで、気泡のみあるいは結晶のみを発生させることが可能である。例えば、ガラスのネットワークフォーマを増やしたり、結晶析出を抑制するアルカリ酸化物成分を増やすことで、結晶析出は抑制され、減圧下で焼成すれば、気泡発生は抑制される。
【0198】
ガラス散乱層中には、散乱物質があるため、ガラス基板の背面側に反射膜を形成した反射性基板面は鏡面のように視認されないが、仮に散乱性を低くした場合では、鏡面として視認され、外観上好ましくない可能性がある。
【0199】
本発明を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0200】
以上説明してきたように、本発明の電極付き基板は、光散乱性が良好でありかつ安定で信頼性の高い散乱層を具備した反射性基板を具備していることから、光の取り出し効率あるいは取り込み効率を増大することができ、発光デバイス、受光デバイスなどに適用可能である。
【符号の説明】
【0201】
100 電極付き基板
101 反射性基板
102 散乱層
103 透光性電極
104 散乱物質
105 ベース材
110 有機層
120 透光性電極
110LER 発光領域
Rc 受光部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反射性の基板と、
前記基板上に形成され、複数個の散乱物質を具備したガラス層からなる散乱層と、
前記散乱層上に形成された透光性電極とを具備した電極付き基板。
【請求項2】
請求項1に記載の電極付き基板であって、
前記散乱層は、
前記基板上に形成され、透過する光の少なくとも1波長に対して第1の屈折率を有するベース材と、前記ベース材中に分散された、前記ベース材と異なる第2の屈折率を有する複数の散乱物質とを具備したガラスからなる散乱層と、
前記散乱層上に形成された電極付き基板であって、
前記散乱物質の前記散乱層内分布が、前記散乱層内部から前記透光性電極にむかって、小さくなっている電極付き基板。
【請求項3】
請求項1に記載の電極付き基板であって、
前記透光性電極は、前記第1の屈折率と同じ若しくはより低い第3の屈折率を有する電極付き基板。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の電極付き基板であって、
前記散乱層の透光性電極側の表面からの距離x(x≦0.2μm)における散乱物質の密度ρが、距離x=2μmにおける前記散乱物質の密度ρに対し、ρ>ρを満たすことを特徴とする電極付き基板。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の電極付き基板であって、
前記散乱層表面の表面粗さRaが30nm以下である電極付き基板。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載の電極付き基板であって、
前記散乱層中における前記散乱物質の含有率は少なくとも1vol%である電極付き基板。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかに記載の電極付き基板であって、
前記散乱物質は気泡である電極付き基板。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれかに記載の電極付き基板であって、
前記散乱物質は前記ベース層とは異なる組成をもつ材料粒子である電極付き基板。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれかに記載の電極付き基板であって、
前記散乱物質は前記ベース層を構成するガラスの析出結晶である電極付き基板。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれかに記載の電極付き基板であって、
前記散乱物質の前記散乱層1mm当たりの数は、少なくとも1×10個である電極付き基板。
【請求項11】
請求項1乃至10のいずれかに記載の電極付き基板であって、
前記散乱物質のうち、最大長さが5μm以上である散乱物質の割合が15%以下である電極付き基板。
【請求項12】
請求項1乃至11のいずれかに記載の電極付き基板であって、
前記散乱層は、前記ガラス基板上に所望のパターンを構成するように選択的に形成された電極付き基板。
【請求項13】
請求項1乃至12のいずれかに記載の電極付き基板であって、
波長λ(430nm<λ<650nm)のうち少なくとも一つの波長における前記第1の屈折率は1.8以上である電極付き基板。
【請求項14】
請求項1乃至13のいずれかに記載の電極付き基板であって、前記散乱層の、100℃から400℃における平均熱膨張係数が、70×10−7(℃−1)から95×10−7(℃−1)であり、且つガラス転移温度が、450℃から550℃である電極付き基板。
【請求項15】
請求項1乃至14のいずれかに記載の電極付き基板であって、前記散乱層が、mol%表記で、P 15〜30%、SiO 0〜15%、B 0〜18%、Nb 5〜40%、TiO 0〜15%、WO 0〜50%、Bi 0〜30%、ただし、Nb+TiO+WO+Bi 20〜60%、LiO 0〜20%、NaO 0〜20%、KO 0〜20%、ただしLiO+NaO+KO 5〜40%、MgO 0〜10%、CaO 0〜10%、SrO 0〜10%、BaO 0〜20%、ZnO 0〜20%、Ta 0〜10%を含むガラスをベース材とする電極付き基板。
【請求項16】
請求項1乃至15のいずれかに記載の電極付き基板であって、
前記反射性の基板は、金属製の基板である電極付き基板。
【請求項17】
請求項1乃至15のいずれかに記載の電極付き基板であって、
前記反射性の基板は、表面を金属膜で被覆された基板である電極付き基板。
【請求項18】
反射性の基板を用意する工程と、
前記基板上に、複数個の散乱物質を具備したガラス層からなる散乱層を形成する工程と、
前記散乱層上に透光性電極を形成する工程とを含む電極付き基板の製造方法。
【請求項19】
請求項18に記載の電極付き基板の製造方法であって、
前記散乱層を形成する工程は、
前記基板上にガラス粉末を含む塗布材料を塗布する工程と、
前記塗布されたガラス粉末を焼成する工程とを含み、
第1の屈折率を有するベース材と、前記ベース材中に分散された、前記ベース材と異なる第2の屈折率を有する複数の散乱物質とを具備し、
前記散乱層内部から最表面にむかって、散乱層中の散乱物質の層内分布が、小さくなっている散乱層を形成する電極付き基板の製造方法。
【請求項20】
請求項19に記載の電極付き基板の製造方法であって、
前記焼成する工程は、前記塗布されたガラス材料のガラス転移温度よりも40〜100℃以上高い温度で焼成する工程を含む電極付き基板の製造方法。
【請求項21】
請求項19または20のいずれかに記載の電極付き基板の製造方法であって、
前記塗布する工程は、粒径のD10が0.2μm以上でかつ、D90が5μm以下であるガラス粉末を塗布する工程を含む電極付き基板の製造方法。
【請求項22】
請求項19乃至21のいずれかに記載の電極付き基板の製造方法を含み、
前記第1電極としての前記透光性電極上に発光機能を有する層を形成する工程と、
前記発光機能を有する層上に第2電極を形成する工程とを含む有機LED素子の製造方法。
【請求項23】
反射性の基板と、
前記基板上に形成され、複数個の散乱物質を備えたガラスからなる散乱層と、
前記散乱層上に形成された第1の透光性電極と
前記第1の透光性電極上に形成される有機層と、
前記有機層上に形成される第2の透光性電極とを備えた有機LED素子。
【請求項24】
請求項23に記載の有機LED素子であって、
前記散乱層は、有機LED素子の発光光の波長のうち少なくとも一つの波長において第1の屈折率を有するベース材と、前記ベース材内部に位置し前記ベース材と異なる第2の屈折率を有する複数の散乱物質と、を備えるとともに、前記散乱物質の前記散乱層内分布が、前記散乱層内部から前記透光性電極にむかって、小さくなっている有機LED素子。
【請求項25】
請求項23に記載の有機LED素子であって、
前記第1の透光性電極は、前記散乱層上に形成され、前記第1の屈折率と同じ若しくはより低い前記波長における第3の屈折率を有する有機LED素子。
【請求項26】
反射性の基板を準備する工程と、
前記基板上に、有機LED素子の発光光の波長のうち少なくとも一つの波長において第1の屈折率を有するベース材と、前記ベース材内部に位置し前記ベース材と異なる第2の屈折率を有する複数個の散乱物質と、を備えたガラスからなる散乱層を形成する工程と、
前記散乱層上に、第1の透光性電極を形成する工程と、
前記第1の透光性電極上に有機層を形成する工程と、
前記有機層上に第2の透光性電極を形成する工程とを有する有機LED素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【公開番号】特開2010−170969(P2010−170969A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−14795(P2009−14795)
【出願日】平成21年1月26日(2009.1.26)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】