説明

電極付基板の製造方法

【課題】高い光取出し効率を可能とする有機EL素子用の電極付基板の製造方法を提供する。
【解決手段】低屈折率層2と、機能層3と、光透過性を示す電極4とがこの順に積層されて構成される電極付基板1であり、電極の屈折率n1、機能層の屈折率n2及び低屈折率層の屈折率n3が次式(1)を満たし、


平均粒径が1.0μm〜200μmの複数の微粒子が基台の表面上に敷設された鋳型を用いるインプリント法によって凹凸部を表面部に形成して、低屈折率層を形成する工程と、低屈折率層の凹凸部が形成された面に、機能層となる材料を含む塗布液を塗布して、これを固化することにより機能層を形成する工程と、機能層上に電極を形成する工程とを含む有機エレクトロルミネッセンス素子用の電極付基板の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、有機EL素子という場合がある。)用の電極付基板の製造方法、この電極付基板を備える有機EL素子、照明装置、及び表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
発光材料に有機物を用いた有機EL素子が発光素子の1つとして注目されている。この有機EL素子は、一対の電極と、電極間に設けられる発光層とを含んで構成される。有機EL素子に電圧を印加すると、陰極から電子が注入されるとともに、陽極から正孔が注入され、これら電子と正孔とが発光層で結合することによって発光する。
【0003】
発光層から放射される光は電極を通して外に出射するため、一対の電極のうちの一方の電極には光透過性を示す透明電極が用いられる。この透明電極には例えば酸化インジウムスズ(ITO:Indium Tin Oxide)からなる薄膜が一般的に用いられている。有機EL素子は、例えばITO薄膜が表面に形成された電極付基板上に形成されており、発光層から放射される光はITO薄膜、基板を通って外に出射する。
【0004】
基板と透明電極の屈折率を比較すると、一般的には透明電極の屈折率の方が高い。例えばガラス基板の屈折率は1.5程度であり、ITO薄膜の屈折率は2.0程度である。透明電極と基板との間にこのような屈折率の関係があるために、発光層から放射される光に対して、透明電極と基板との界面で全反射が生じる。発光層から放出される光の大部分は、このような屈折率差に起因する反射などによって素子中に閉じ込められ、外に出射せずに有効に利用されていないのが現状である。
【0005】
そこで光取出し効率の向上を目的として、反射などを抑制する構造が形成された有機EL素子用の基板が提案されている。例えば複数のマイクロレンズがその中に形成された基板を用いた有機EL素子が提案されている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−86353号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の技術では、フォトリソグラフィによって、マイクロレンズとなる構造物を感光性樹脂の表面に形成していたが、所期の形状・配置で微細な構造のマイクロレンズを形成することは困難である。例えばそれぞれが略半球状の複数のマイクロレンズを高い充填率で作製することはきわめて難しく、高い取出し効率を可能とする光学設計通りのマイクロレンズを簡易に形成することができないという問題がある。
【0008】
従って本発明の目的は、高い光取出し効率を可能とする構造を簡易に作製可能な有機EL素子用の電極付基板の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、低屈折率層と、機能層と、光透過性を示す電極とがこの順に積層されて構成される電極付基板であり、
前記電極の屈折率n1、前記機能層の屈折率n2及び前記低屈折率層の屈折率n3が次式(1)を満たす有機エレクトロルミネッセンス素子用の電極付基板の製造方法であって、
【0010】
【数1】

平均粒径が1.0μm〜200μmの複数の微粒子が基台の表面上に敷設された鋳型を用いるインプリント法によって凹凸部を前記低屈折率層の表面部に形成して、前記低屈折率層を形成する工程と、
前記低屈折率層の前記凹凸部が形成された面に、前記機能層となる材料を含む塗布液を塗布して、これを固化することにより前記機能層を形成する工程と、
前記機能層上に前記電極を形成する工程とを含むことを特徴とする、上記方法に関する。
【0011】
また本発明は、前記複数の微粒子が、それぞれ略球状であり、かつ最密充填に近い配置で前記基台の表面上に敷設されている、有機エレクトロルミネッセンス素子用の電極付基板の製造方法に関する。
【0012】
また本発明は、前記製造方法により作製された電極付基板を備えることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子に関する。
【0013】
前記有機エレクトロルミネッセンス素子を備えることを特徴とする照明装置又は表示装置に関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、高い光取出し効率を可能とする構造を備える有機EL素子用の電極付基板を簡易に作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】有機EL素子用の電極付基板1を備える有機EL素子8を概略的に示す図である。
【図2】鋳型を模式的に示す図である。図2(1)は鋳型の一部を拡大して示す断面図であり、図2(2)は格子状の枠が形成された鋳型の一部を示す平面図である。
【図3】電極付き基板の作製工程を示す図である。
【図4】実施例1及び比較例1におけるPL発光強度の放射パターンを示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に本発明の有機EL素子用の電極付基板の製造方法及びその構成の詳細について図1を参照しつつ説明する。図1は本発明の製造方法によって得られる実施の一形態の有機EL素子用の電極付基板1を備える有機EL素子8を概略的に示す図である。
【0017】
有機EL素子8は、一対の電極と、該電極間に配置される発光層とを含んで構成される。本実施形態では電極付基板1に設けられる光透過性を示す電極(以下、第1電極4という)が、一対の電極のうちの一方の電極として機能する。また以下において一対の電極のうちの他方の電極を第2電極6という。
【0018】
有機EL素子8は第1電極4と第2電極6との間に、少なくとも1層の発光層5を備えるが、複数の発光層を備えていてもよく、また求められる特性及び工程の簡易さなどを考慮して、第1電極4と第2電極6との間に、発光層とは異なる所定の層を備えていてもよい。図1に示す本実施形態の有機EL素子8は、発光層とは異なる所定の層として正孔注入層7を備え、電極付基板1、正孔注入層7、発光層5、第2電極6がこの順に積層されて構成される。
【0019】
本実施形態の第1電極4は陽極として機能し、第2電極6は、陰極として機能する。この第2電極6は、光を反射する部材によって構成することが好ましい。また低屈折率層2及び機能層3は光透過性を示す部材によって構成される。すなわち電極付基板1は光透過性を示す。したがって発光層5から第1電極4に向けて放射される光は、第1電極4を含む電極付基板1を通って外に出射する。また発光層5から第2電極6に向けて放射される光は第2電極6で反射され、電極付基板1を通って外に出射する。すなわち本実施形態の有機EL素子8は、電極付基板1から光が出射するボトムエミッション型の素子である。なお変形例として第1電極を陰極とし、第2電極を陽極とするボトムエミッション型の有機EL素子を構成してもよく、また第2電極に透光性を示す電極を用いて第2電極側からも光を出射する両面発光型の有機EL素子を構成してもよい。
【0020】
電極付基板1は、少なくとも低屈折率層2と、機能層3と、光透過性を示す第1電極4とが、この順に積層されて構成される。また第1電極4の屈折率をn1、機能層3の屈折率をn2、低屈折率層2の屈折率をn3とすると、各部材の屈折率は、それぞれ次式(1)を満たす。なお機能層3と第1電極4との間には例えば薄い絶縁層やバリア層などを設けてもよい。
【0021】
【数2】

低屈折率層2と機能層3との界面は凹凸状に形成されており、この凹凸状の界面が複数のマイクロレンズとして機能する。本実施形態では低屈折率層2と機能層3との界面に高さが0.4μm〜100μmの複数のマイクロレンズが形成される。
【0022】
式(1)に示すように機能層3と第1電極4との屈折率差が小さいので、機能層3と第1電極4との界面での全反射を抑制し、反射率を低減することができる。これによって発光層5から放射されて第1電極4に入射した光を、機能層3に効率的に伝播させることができる。また機能層3と低屈折率層2との界面を凹凸状に形成することにより、機能層3と低屈折率層2との界面での全反射を抑制することができる。これにより第1電極4から機能層3に入射した光を、屈折率が機能層3よりも低い低屈折率層2に効率的に伝播させることができる。さらに式(1)に示すように、電極付基板1は、外界(空気)に近い層ほど屈折率が小さくなるような層構成をしているので、空気と接する層(低屈折率層2)と、空気との屈折率差を小さくすることができる。そのため有機EL素子8から光が外に出射する面(出射面)での全反射を抑制し、反射率を低減することができる。これによって光取出し効率の高い有機EL素子8を実現することができる。
【0023】
1.電極付基板の製造方法
本実施形態の電極付基板1の製造方法は、平均粒径が1.0μm〜200μmの複数の微粒子が基台の表面上に敷設されたものを鋳型として用いるインプリント法によって凹凸部を前記低屈折率層の表面部に形成して、前記低屈折率層を形成する工程と、前記低屈折率層の前記凹凸部が形成された面に、前記機能層となる材料を含む塗布液を塗布して、これを固化することにより前記機能層を形成する工程と、前記機能層上に前記電極を形成する工程とを含む。
【0024】
<低屈折率層を形成する工程>
本工程では平均粒径が1.0μm〜200μmの複数の微粒子が基台の表面上に敷設されたものを鋳型として用いるインプリント法によって凹凸部を前記低屈折率層の表面部に形成して、前記低屈折率層を形成する。本発明において平均粒径とは、長さ平均径のことをいい、レーザー光回折・散乱式粒子径分布測定器により測定された体積基準粒径分布に基づいて算出された平均粒径(算術平均径)を意味する。レーザー光回折・散乱式粒子径分布測定器とは、微粒子にレーザー光を照射し、その回折光・散乱光の光強度分布を測定し、測定結果から粒径分布を解析する測定器である。この原理を用いた粒径分布測定装置は一般に市販されており、これらの装置を用いることにより平均粒径を測定することができる。
【0025】
基台表面上に敷設される微粒子の平均粒径は、1.0μm〜200μmであるが、低屈折率層2と機能層3との界面での光の反射を効果的に防ぐためには、好ましくは1.6μm〜160μmであり、さらに好ましくは2.0μm〜100μmである。また横軸に粒径をとり、縦軸に各径での粒子群の存在比率をとったグラフで粒子群の分布を表し、平均粒径をd、径がdの粒子群の存在比率をAとしたときに、存在比率がA/2となる粒子群の粒径と、dとの差の絶対値を「粒度分布」と定義すると、用いる粒子の粒度分布は0.6d〜11.4dが好ましく、より好ましくは0.8d〜1.2dである。
【0026】
基台に敷設される微粒子の材料は、特に限定されないが、インプリントの鋳型として用いる際に要求される強度、耐熱性、耐光性、基台への密着性などに優れたものが好ましく、例えばポリスチレン、ポリメチルメタクリレート(PMMA:poly(methyl methacrylate))、ポリエチレン、及びポリエチレンテレフタレートなどの有機物質、並びにシリカ、酸化チタン、チタン酸バリウム、及びアルミナなどの無機物質を挙げることができる。またインプリントする低屈折率層の材料に光硬化性モノマーを用いる場合には、微粒子の材料は、光硬化性モノマーを光硬化する際に照射する紫外線に対して透明なものが好ましい。
【0027】
微粒子の形状は、低屈折率層2と機能層3との界面の形状を規定することから、光学設計に応じて適宜設定される。例えば微粒子の形状としては、略球状、略楕円体状などが挙げられ、さらにはこれらに突起物を形成した形状、これらに穴が形成された形状などが挙げられる。低屈折率層2と機能層3との界面での光の反射を効果的に防ぐためには、微粒子の形状は略球状又は略楕円体状が好ましく、略球状がさらに好ましい。なお略球状、略楕円体状はそれぞれ球状、楕円体状を含む。
【0028】
微粒子の表面は、平滑状でも、凹凸状でもよい。また微粒子は、加熱処理を施してもよく、表面を化学修飾又は物理修飾してもよい。例えば微粒子を分散媒に均一に分散させるために、シランカップリング剤などで微粒子の表面を処理してもよい。
【0029】
微粒子を基台の表面上に敷設する手法としては塗布法が挙げられる。例えば前述した複数の微粒子を分散媒に分散した分散液を基台表面に塗布し、さらに分散媒を除去することにより微粒子を基台表面上に敷設することができる。
【0030】
図2は鋳型を模式的に示す図である。図2(1)は鋳型の一部を拡大して示す断面図であり、図2(2)は格子状の枠が形成された鋳型の一部を示す平面図である。
【0031】
光取出し効率向上の観点からは、複数の微粒子12は、それぞれが略球状であり、かつ最密充填の配置で基台14上に敷設されていることが好ましい。本明細書における最密充填とは、微粒子が2層以上に重なることなく、最密状態で基台上に敷設されることを意味する(図2(1)参照)。基台表面上に微粒子を敷設する手法としては、例えばColloids and surfaces,109(1996)363に記載される自己組織化を利用した手法等が挙げられる。なお、基台表面の一面に最密充填の配置で微粒子が敷設されていることが好ましいが、基台表面上の領域が複数の小領域に分割され、小領域毎に、最密充填の配置で微粒子が敷設されていてもよい。自己組織化の方法を用いる場合、広い面積において均一に最密充填に近い配置で微粒子を敷設するために、特定の枠体13を基台表面上に設けてもよい。例えば基台表面を賽の目に区切る格子状の枠体13を基台14表面上に設け、枠体13に囲まれた各領域内において最密充填に近い配置で自己組織化により微粒子を敷設してもよい。枠体13の形状、材料、幅、高さは特に限定されないが、最密充填に近い配置で微粒子を敷設できる形状が好ましい。また枠体13の材料としては、微粒子の敷設を塗布法等で行う場合に、塗布液に対する耐性があるものが好ましい。このような枠体13は、例えばフォトリソグラフィによってフォトレジストを用いて所定のパターンで形成することができる。また枠体の材料は、鋳型として用いる際に、インプリント時の熱や光に対して変化し難い材料が好ましい。枠の幅は、微粒子が敷設される領域を広くするために、細い方が好ましい。枠体13の高さは用いる微粒子の平均粒径の半分以下であることが鋳型として好ましい。
【0032】
基台表面上に敷設された複数の微粒子は、インプリントの鋳型として用いるために、基台に固定する必要がある。微粒子を基台に固定するために、鋳型には、基台と微粒子とを接着する接着部材15を設けてもよい。この接着部材15は例えば微粒子12と基台14との隙間を埋めるように配置される。接着部材15の材料は特に限定されないが、インプリントの鋳型11として使用する際に要求される耐熱性、強度、耐光性などを有することが必要であり、例えばゾルゲル法によって形成されるシリカが挙げられる。また略半球状の複数の凸部を備える鋳型を実現するためには、各微粒子が基台14に敷設された状態で、各微粒子12の高さの半分(半径)以下の位置まで接着部材15が形成されていることが好ましく、換言すると各微粒子12の高さの半分(半径)以上の部分が、接着部材15から突出している状態であることが好ましい。このような配置で接着部材15を設ける方法としては、毛細管現象を利用する方法がある。例えば複数の微粒子12を基台上に敷設した後に、液状の接着剤を注入すると、毛細管現象により微粒子と基板との隙間を埋めるように接着剤が流動する。これを固化することにより、各微粒子の高さの半分(半径)以下の位置まで接着部材15を形成することができる。
【0033】
なお例えばシランカップリング剤などの所定の処理を表面に施した微粒子を用いることで、複数の微粒子を基台上に敷設した後に、加熱処理などを行うことにより、微粒子を基台に固定することも可能である。
【0034】
上記微粒子が敷設されたものを鋳型として用いるインプリント法により、低屈折率層2に鋳型の形状を転写することができる。インプリント法としては低屈折率層2に用いる部材に適した方法を適用することができ、例えば熱インプリント法、光インプリント法などを挙げることができる。熱インプリント法では例えば熱可塑性樹脂を加熱した状態で鋳型を押圧することにより、鋳型の形状を転写することができる。また光インプリント法では例えば光硬化性モノマーからなる部材に鋳型を押し当てた状態で、紫外線を照射することによって光硬化性モノマーを重合し、鋳型の形状を転写することができる。このようなインプリント法により、高さが0.4μm〜100μmの複数の凹部が低屈折率層2に形成される。特に、略球状の微粒子が敷設されたものを鋳型として用いることにより、高さが0.4μm〜100μmの複数の半球状の凹部が低屈折率層2に形成される。
【0035】
低屈折率層2は、可視光領域の光の透過率が高く、また有機EL素子を形成する工程において変化しないものが好適に用いられる。またその製造方法から、上述したインプリント法により鋳型の表面形状を転写可能な材料である必要がある。例えばプラスチック板、あるいはプラスチックフィルムとシリコン板やガラス等を積層した積層板などが好適に用いられる。
【0036】
低屈折率層2としては具体的には、低密度又は高密度のポリエチレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−ブテン共重合体、エチレン−ヘキセン共重合体、エチレン−オクテン共重合体、エチレン−ノルボルネン共重合体、エチレン−ドモン共重合体、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−メチルメタクリレート共重合体、アイオノマー樹脂などのポリオレフィン系樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル系樹脂;ナイロン−6、ナイロン−6,6、メタキシレンジアミン−アジピン酸縮重合体;ポリメチルメタクリルイミドなどのアミド系樹脂;ポリメチルメタクリレートなどのアクリル系樹脂;ポリスチレン、スチレン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、ポリアクリロニトリルなどのスチレン−アクリロニトリル系樹脂;トリ酢酸セルロース、ジ酢酸セルロースなどの疎水化セルロース系樹脂;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレンなどのハロゲン含有樹脂;ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体、セルロース誘導体などの水素結合性樹脂;ポリカーボネート樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリフェニレンオキシド樹脂、ポリメチレンオキシド樹脂、ポリアリレート樹脂、液晶樹脂などのエンジニアリングプラスチック系樹脂などが挙げられる。
【0037】
低屈折率層2には、有機EL素子の作製プロセスでの耐熱性が求められるので、上述の樹脂の中でもガラス転移点Tgが、150℃以上の樹脂が好ましく、180℃以上の樹脂がより好ましく、200℃以上の樹脂がさらに好ましい。
【0038】
低屈折率層2は、酸素及び水蒸気などを通し難いバリア性の高い材料又は部材をさらに含んでいてもよい。その場合インプリント法で凹凸形状を成形する部分ではない部分に、バリア性の高い部材を設ける必要がある。例えば金属、金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物及び金属酸窒化物などの無機物から成る無機層、前記無機層と有機層との積層体、又は無機−有機ハイブリッド材料からなる層などがバリア性の高い部材として好適に用いられる。無機層としては、薄膜層であって空気中で安定なものが好ましく、具体的にはシリカ、アルミナ、チタニア、酸化インジウム、酸化錫、酸化チタン、酸化亜鉛、インジウム錫酸化物、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、炭化ケイ素、酸窒化ケイ素、及びそれらの組合せの薄膜層が挙げられる。これらの中でも無機層としては窒化アルミニウム、窒化ケイ素、又は酸窒化ケイ素からなる薄膜層が好ましく、酸窒化ケイ素の薄膜層がさらに好ましい。
【0039】
低屈折率層を構成する部材は、式(1)を満たす限りにおいて、機能層3及び第1電極4の屈折率に応じて、例示したもののうちから適宜選択される。低屈折率層が複数の部材で構成される場合の低屈折率層の屈折率は、低屈折率層を1層の部材として扱ったときの当該部材の屈折率である。
【0040】
低屈折率層の屈折率n3は、低屈折率層を構成する部材によって決まり、例えばポリカーボネートの場合、1.58であり、ポリエチレンテレフタレートの場合、1.49であり、ポリエーテルサルホンの場合、1.65であり、ポリエチレンナフタレートの場合、1.50である。
【0041】
<機能層を形成する工程>
本工程では、低屈折率層2の凹凸部が形成された面に、機能層3となる材料を含む塗布液を塗布し、さらに固化することにより機能層3を形成する。高さが0.4μm〜100μmの複数の凹部がその表面に形成された低屈折率層2に塗布液を塗布すると、低屈折率層2の凹部に塗布液が充填され、さらにこれを固化すると、高さが0.4μm〜100μmの複数の凸部が形成された機能層3を容易に得ることができる。またこのように塗布法を用いることで、第1電極4側の機能層3の表面を平坦に形成することができる。塗布液は、溶液でも分散液でもよい。また必要に応じて、有機溶剤、界面活性剤、密着増強剤、架橋剤、増感剤、感光剤をさらに塗布液に加えてもよい。具体的には、珪素系無機ポリマー、芳香族を含むモノマー熱可塑性樹脂に高屈折率ナノ粒子を分散した組成物、光硬化性モノマーに高屈折率ナノ粒子を分散した組成物、熱硬化性モノマーに高屈折率ナノ粒子を分散した組成物などを塗布液として挙げることができる。低屈折率層に塗布した塗布膜は、光照射、加熱、乾燥、加圧などの所定の処理を施すことによって固化することができ、例えばゾルゲル法によって機能層3を形成することができる。
【0042】
機能層3には、可視光領域の光の透過率が高く、また有機EL素子を形成する工程において変化しないものが好適に用いられる。また機能層3は、酸素及び水蒸気などを通し難いバリア性の高い材料又は部材を含んでいてもよい。機能層3は、例えば無機ポリマー、及び無機−有機ハイブリッド材料などで構成される。無機−有機ハイブリッド材料には、分子レベルで無機と有機とがハイブリッドされた化合物、及び有機物に無機物が分散されている混合物なども含まれる。
【0043】
無機物としては、金属、金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物及び金属酸窒化物などを挙げることができ、空気中で安定なものが好ましく、具体的には、シリカ、アルミナ、チタニア、酸化インジウム、酸化錫、酸化チタン、酸化亜鉛、インジウムスズ酸化物、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、炭化ケイ素、酸窒化ケイ素、及びそれらの混合物が挙げられる。無機物としては、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、酸窒化ケイ素が好ましく、酸窒化ケイ素がさらに好ましい。
【0044】
機能層3を構成する部材は、式(1)を満たす限りにおいて、低屈折率層2及び第1電極4の屈折率に応じて、例示したもののうちから適宜選択される。機能層の屈折率は、式(1)の関係を満たし、かつ透明電極(第1電極4)との屈折率差が小さい方が全反射を抑えられるので、1.75以上が好ましい。なお機能層が複数の部材で構成される場合の機能層3の屈折率は、機能層3を1層の部材として扱ったときの当該部材の屈折率である。
【0045】
機能層3の屈折率n2は、機能層3を構成する部材によって決まり、例えばシリコン系の無機ポリマーの場合、1.75〜2.0であり、ポリマーにTiOが分散された混合物の場合、1.8〜2.0である。
【0046】
機能層3の第1電極4側の表面の凹凸は、この機能層3の表面に積層される第1電極4の平坦性に影響を与える。第1電極4の平坦性が低く、表面に突起物などが形成されていると、この突起物に起因して発光不良が発生することがある。例えば正孔注入層7や発光層5は薄いので、これらの層を突起物が貫通することによって、意図しない短絡が生じることがある。したがって第1電極4の中心線平均粗さRaは、小さい方が好ましく、このような第1電極4を形成するためには、前記機能層3の前記第1電極4側の表面の中心線平均粗さRaは小さい方が好ましく、具体的には100nm以下であることが好ましく、より好ましくは50nm以下、さらに好ましくは10nm以下、さらに好ましくは3nm以下である。
【0047】
低屈折率層2に形成される各凹部の配置は、基台表面上の微粒子の配置に依存する。本実施形態では、最密充填に近い配置で略球状の微粒子を基台に敷設することができるので、低屈折率層2に形成される各凹部を最密充填に近い配置とすることができる。各略半球状の凹部をこのような配置で設けることにより、光の反射を抑制する効果が大きくなり、光取出し効率の向上を図ることができる。特に略半球状の凹部を設けることにより、低屈折率層2と機能層3との境界部分がマイクロレンズアレイとして機能するので、光の反射を抑制する効果が大きくなり、光取出し効率の向上を図ることができる。
【0048】
<機能層上に電極を形成する工程>
本実施形態では機能層3上に第1電極4を形成する。本実施形態の第1電極4は、透光性及び導電性を示す薄膜によって実現され、例えば金属酸化物膜及び金属薄膜などによって構成される。具体的には、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化スズ、インジウムスズ酸化物(Indium Tin Oxide:略称ITO)、インジウム亜鉛酸化物(Indium Zinc Oxide:略称IZO)、金、白金、銀、銅などの薄膜を第1電極4として用いることができ、ITO、IZO、酸化スズなどの薄膜が好ましい。また第1電極4として、ポリアニリン若しくはその誘導体、ポリチオフェン若しくはその誘導体などの有機の透明導電膜を用いてもよい。第1電極4の厚みは、光透過性と導電性とを考慮して適宜設定することができ、一般的には10nm〜10μm程度であり、好ましくは20nm〜1μm、さらに好ましくは50nm〜500nmである。
【0049】
第1電極の形成方法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、メッキ法等が挙げられる。
【0050】
第1電極の屈折率n1は、第1電極を構成する部材によって決まり、例えばITOの場合、2.0であり、IZOの場合、1.9〜2.0であり、ポリチオフェン若しくはその誘導体などの有機の透明導電膜の場合、約1.7である。第1電極を構成する部材は、式(1)を満たす限りにおいて、低屈折率層2及び機能層3の屈折率に応じて、例示したもののうちから適宜選択される。
【0051】
以上の製造工程を経ることにより電極付基板1を作製することができる。前述したように、インプリント法を用いることで、高い光取出し効率を可能とする構造を備える有機EL素子用の電極付基板を簡易に作製することができる。
【0052】
以上説明した本実施形態の電極付基板1における低屈折率層2、機能層3、第1電極4の組合せとしては、ガラス基板とプラスチックシートとの積層体からなる低屈折率層、無機ポリマー層からなる機能層、及びITOからなる第1電極が好ましく、樹脂層からなる低屈折率層、無機ポリマー層からなる機能層、及びITOからなる第1電極がさらに好ましい。
【0053】
2.有機EL素子
本実施形態の有機EL素子8は、前述したように電極付基板1を備え、この電極付基板1上に正孔注入層7、発光層5、第2電極6を順次積層することにより作製することができる。
【0054】
<正孔注入層>
正孔注入層を構成する正孔注入材料としては、フェニルアミン系、スターバースト型アミン系、フタロシアニン系、酸化バナジウム、酸化モリブデン、酸化ルテニウム、酸化アルミニウム等の酸化物、アモルファスカーボン、ポリアニリン、ポリチオフェン誘導体などが挙げられる。
【0055】
正孔注入層は、例えば正孔注入層となる材料を含む塗布液を第1電極4上に塗布して成膜することができる。塗布液を塗布する方法としては、スピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイアーバーコート法、ディップコート法、スプレーコート法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、インクジェットプリント法等を挙げることができる。
【0056】
<発光層>
発光層は、蛍光及び/又は燐光を発光する有機物、若しくは該有機物と、ドーパントとを含んで構成される。ドーパントは、たとえば発光効率の向上や発光波長を変化させるなどの目的で付加される。発光層に用いられる有機物としては、低分子化合物又は高分子化合物のいずれでもよく、塗布法で発光層を形成する場合には塗布液への溶解性の観点から高分子化合物を含むことが好ましい。発光層を構成する発光材料としては、例えば以下のものを挙げることができる。
【0057】
色素系の発光材料としては、例えば、シクロペンダミン誘導体、テトラフェニルブタジエン誘導体化合物、トリフェニルアミン誘導体、オキサジアゾール誘導体、ピラゾロキノリン誘導体、ジスチリルベンゼン誘導体、ジスチリルアリーレン誘導体、ピロール誘導体、チオフェン環化合物、ピリジン環化合物、ペリノン誘導体、ペリレン誘導体、オリゴチオフェン誘導体、オキサジアゾールダイマー、ピラゾリンダイマーなどが挙げられる。
【0058】
金属錯体系の発光材料としては、例えばTb、Eu、Dyなどの希土類金属、又はAl、Zn、Be、Ir、Ptなどを中心金属に有し、オキサジアゾール、チアジアゾール、フェニルピリジン、フェニルベンゾイミダゾール、キノリン構造などを配位子に有する金属錯体を挙げることができ、例えばイリジウム錯体、白金錯体などの三重項励起状態からの発光を有する金属錯体、アルミニウムキノリノール錯体、ベンゾキノリノールベリリウム錯体、ベンゾオキサゾリル亜鉛錯体、ベンゾチアゾール亜鉛錯体、アゾメチル亜鉛錯体、ポルフィリン亜鉛錯体、フェナントロリンユーロピウム錯体などを挙げることができる。
【0059】
高分子系の発光材料としては、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリパラフェニレン誘導体、ポリシラン誘導体、ポリアセチレン誘導体、ポリフルオレン誘導体、及びポリビニルカルバゾール誘導体など、並びに上記色素系の発光材料や金属錯体系の発光材料を高分子化したものなどが挙げられる。
【0060】
上記発光材料のうち、青色に発光する材料としては、ジスチリルアリーレン誘導体、オキサジアゾール誘導体、及びそれらの重合体、ポリビニルカルバゾール誘導体、ポリパラフェニレン誘導体、ポリフルオレン誘導体などを挙げることができる。なかでも高分子材料のポリビニルカルバゾール誘導体、ポリパラフェニレン誘導体やポリフルオレン誘導体などが好ましい。
【0061】
また、緑色に発光する材料としては、キナクリドン誘導体、クマリン誘導体、及びそれらの重合体、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリフルオレン誘導体などを挙げることができる。なかでも高分子材料のポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリフルオレン誘導体などが好ましい。
【0062】
また、赤色に発光する材料としては、クマリン誘導体、チオフェン環化合物、及びそれらの重合体、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリフルオレン誘導体などを挙げることができる。なかでも高分子材料のポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリフルオレン誘導体などが好ましい。
【0063】
また、白色に発光する材料としては、上記青色、緑色、赤色の材料を組み込んだポリマーでもよく、各色のブレンドでもよい。また各色の積層でもよい。
【0064】
ドーパント材料としては、例えば、ペリレン誘導体、クマリン誘導体、ルブレン誘導体、キナクリドン誘導体、スクアリウム誘導体、ポルフィリン誘導体、スチリル系色素、テトラセン誘導体、ピラゾロン誘導体、デカシクレン、フェノキサゾンなどを挙げることができる。なお、このような発光層の厚さは、通常約2nm〜2000nmである。
【0065】
有機物を含む発光層の成膜方法としては、発光材料を含む塗布液を正孔注入層7に塗布する方法、真空蒸着法、転写法などを挙げることができる。発光材料を含む塗布液の溶媒としては、発光材料を溶解する液体であればよく、例えばクロロホルム、塩化メチレン、ジクロロエタン等の塩素系溶媒、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル、エチルセルソルブアセテート等のエステル系溶媒を挙げることができる。
【0066】
発光材料を含む塗布液を塗布する方法としては、スピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイアーバーコート法、ディップコート法、スリットコート法、キャピラリーコート法、スプレーコート法、ノズルコート法などのコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、反転印刷法、インクジェットプリント法などの塗布法を挙げることができる。パターン形成や多色の塗分けが容易であるという点で、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、反転印刷法、インクジェットプリント法などの塗布法が好ましい。また、昇華性の低分子化合物の場合には、真空蒸着法を用いることができる。さらには、レーザーによる転写や熱転写などの方法によって、所望するところのみに発光層を形成することもできる。
【0067】
<第2電極>
第2電極6は、本実施形態では陰極として設けられる。このような第2電極の材料としては、仕事関数が小さく、発光層への電子注入が容易な材料が好ましく、また電気伝導度の高い材料が好ましい。具体的には、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属及びIII−B族金属などの金属を用いることができ、さらに具体的にはリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、アルミニウム、スカンジウム、バナジウム、亜鉛、イットリウム、インジウム、セリウム、サマリウム、ユーロピウム、テルビウム、イッテルビウムなどの金属、又は上記金属のうち2つ以上の合金、又はそれらのうち1つ以上と、金、銀、白金、銅、マンガン、チタン、コバルト、ニッケル、タングステン、錫のうち1つ以上との合金、又はグラファイト若しくはグラファイト層間化合物などが用いられる。合金の例としては、マグネシウム−銀合金、マグネシウム−インジウム合金、マグネシウム−アルミニウム合金、インジウム−銀合金、リチウム−アルミニウム合金、リチウム−マグネシウム合金、リチウム−インジウム合金、カルシウム−アルミニウム合金などが挙げられる。第2電極からも光を取出す場合には、第2電極は透明である必要があり、このような透明な第2電極は、上記の材料から成る薄膜と導電性金属酸化物や導電性有機物などから成る薄膜とを積層した積層体で構成される。
【0068】
以上説明したように、インプリント法を用いることにより、低屈折率層2と機能層3との間に、光の反射を抑制する構造を容易に作り込むことができ、光取出し効率の高い有機EL素子を容易に作製することができる。特に微粒子が基台の表面に最密充填の配置で敷設されたものを鋳型として用いることにより、低屈折率層2と機能層3との間に、最密充填の配置で凹凸状の界面を容易に作り込むことができる。
【0069】
本実施形態の有機EL素子8は、第1電極4と第2電極6との間に正孔注入層7と発光層5とが配置されるとしたが、有機EL素子8の構成は図1に示す構成に限らない。以下に有機EL素子の第1電極と第2電極との間の素子構成の一例について説明する。なお第1電極は透明であれば陽極及び陰極のいずれでもよいので、以下の説明では第1電極及び第2電極の極性を特定せずに素子構成の一例を説明する。また例えば樹脂などでフィルム状の低屈折率層2を形成する場合、ガラスなどの基板上に低屈折率層2を設けてもよい。
【0070】
前述したように陽極と陰極との間には、少なくとも一層の発光層が設けられていればよく、陽極と陰極との間には複数の発光層、及び/又は発光層とは異なる1又は複数の所定の層を設けてもよい。
【0071】
陰極と発光層との間に設けられる層としては、電子注入層、電子輸送層、正孔ブロック層などが挙げられる。陰極と発光層との間に、電子注入層と電子輸送層との両方の層が設けられる場合、陰極に近い側に位置する層を電子注入層といい、発光層に近い側に位置する層を電子輸送層という。
【0072】
電子注入層は、陰極からの電子注入効率を改善する機能を有する層である。電子輸送層は、陰極、又は電子注入層、若しくは陰極により近い電子輸送層からの電子注入を改善する機能を有する層である。正孔ブロック層は、正孔の輸送を堰き止める機能を有する層である。なお電子注入層又は電子輸送層が、正孔ブロック層を兼ねる場合がある。
【0073】
陽極と発光層との間に設ける層としては、正孔注入層、正孔輸送層、電子ブロック層等が挙げられる。陽極と発光層との間に、正孔注入層と正孔輸送層との両方が設けられる場合、陽極に近い側に位置する層を正孔注入層といい、発光層に近い側に位置する層を正孔輸送層という。
【0074】
正孔注入層は、陽極からの正孔注入効率を改善する機能を有する層である。正孔輸送層は、陽極又は正孔注入層、若しくは陽極により近い正孔輸送層からの正孔注入を改善する機能を有する層である。電子ブロック層は、電子の輸送を堰き止める機能を有する層である。正孔注入層又は正孔輸送層が、電子ブロック層を兼ねることがある。
【0075】
なお、電子注入層及び正孔注入層を総称して電荷注入層ということがあり、電子輸送層及び正孔輸送層を総称して電荷輸送層ということがある。
【0076】
本実施形態の有機EL素子のとりうる層構成の一例を以下に示す。
a)陽極/発光層/陰極
b)陽極/正孔注入層/発光層/陰極
c)陽極/正孔注入層/発光層/電子注入層/陰極
d)陽極/正孔注入層/発光層/電子輸送層/陰極
e)陽極/正孔注入層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極
f)陽極/正孔輸送層/発光層/陰極
g)陽極/正孔輸送層/発光層/電子注入層/陰極
h)陽極/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/陰極
i)陽極/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極
j)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/陰極
k)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子注入層/陰極
l)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/陰極
m)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極
n)陽極/発光層/電子注入層/陰極
o)陽極/発光層/電子輸送層/陰極
p)陽極/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極
(ここで、記号「/」は、記号「/」を挟む各層が隣接して積層されていることを示す。以下同じ。)
本実施形態の有機EL素子は2層以上の発光層を有していてもよい。上記a)〜p)の層構成のうちのいずれか1つにおいて、陽極と陰極とに挟持された積層体を「構造単位A」とすると、2層の発光層を備える有機EL素子の構成として、以下のq)に示す層構成を挙げることができる。なお2つある(構造単位A)の層構成は互いに同じでも、異なっていてもよい。
q)陽極/(構造単位A)/電荷発生層/(構造単位A)/陰極
また「(構造単位A)/電荷発生層」を「構造単位B」とすると、3層以上の発光層を備える有機EL素子の構成として、以下のr)に示す層構成を挙げることができる。
r)陽極/(構造単位B)x/(構造単位A)/陰極
なお記号「x」は、2以上の整数を表し、(構造単位B)xは、構造単位Bがx段積層された積層体を表す。また複数ある(構造単位B)の層構成は同じでも、異なっていてもよい。
【0077】
ここで、電荷発生層とは電界を印加することにより、正孔と電子を発生する層である。電荷発生層としては、例えば酸化バナジウム、インジウムスズ酸化物(Indium Tin Oxide:略称ITO)、酸化モリブデンなどから成る薄膜を挙げることができる。
【0078】
有機EL素子は、さらに電極との密着性向上や、電極からの電荷注入の改善のために、電極に隣接して膜厚が2nm以下の絶縁層を設けてもよく、また界面の密着性向上や混合の防止等のために、隣接する前記各層の界面に薄いバッファー層を挿入してもよい。
【0079】
以下、各層の具体的な構成について説明する。なお発光層5及び正孔注入層7については前述したので重複する説明を省略する。また陽極及び/又は陰極には、それぞれ前述した第1電極又は第2電極を用いることができるので重複する説明を省略する。
【0080】
<正孔輸送層>
正孔輸送層を構成する正孔輸送材料としては、ポリビニルカルバゾール若しくはその誘導体、ポリシラン若しくはその誘導体、側鎖若しくは主鎖に芳香族アミンを有するポリシロキサン誘導体、ピラゾリン誘導体、アリールアミン誘導体、スチルベン誘導体、トリフェニルジアミン誘導体、ポリアニリン若しくはその誘導体、ポリチオフェン若しくはその誘導体、ポリアリールアミン若しくはその誘導体、ポリピロール若しくはその誘導体、ポリ(p−フェニレンビニレン)若しくはその誘導体、又はポリ(2,5−チエニレンビニレン)若しくはその誘導体などが挙げられる。
【0081】
これらの正孔輸送材料の中で、正孔輸送材料としては、ポリビニルカルバゾール若しくはその誘導体、ポリシラン若しくはその誘導体、側鎖若しくは主鎖に芳香族アミン化合物基を有するポリシロキサン誘導体、ポリアニリン若しくはその誘導体、ポリチオフェン若しくはその誘導体、ポリアリールアミン若しくはその誘導体、ポリ(p−フェニレンビニレン)若しくはその誘導体、又はポリ(2,5−チエニレンビニレン)若しくはその誘導体等の高分子の正孔輸送材料が好ましく、ポリビニルカルバゾール若しくはその誘導体、ポリシラン若しくはその誘導体、側鎖若しくは主鎖に芳香族アミンを有するポリシロキサン誘導体などがさらに好ましい。低分子の正孔輸送材料の場合には、高分子バインダーに分散させて用いることが好ましい。
【0082】
正孔輸送層の成膜の方法としては、低分子の正孔輸送材料では、高分子バインダーとの混合溶液からの成膜による方法を挙げることができ、高分子の正孔輸送材料では、溶液からの成膜による方法を挙げることができる。
【0083】
溶液からの成膜に用いる溶媒としては、正孔輸送材料を溶解させるものであればよく、クロロホルム、塩化メチレン、ジクロロエタン等の塩素系溶媒、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル、エチルセルソルブアセテート等のエステル系溶媒を挙げることができる。
【0084】
溶液からの成膜方法としては、スピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイアーバーコート法、ディップコート法、スプレーコート法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、インクジェットプリント法等の塗布法を挙げることができる。
【0085】
混合する高分子バインダーとしては、電荷輸送を極度に阻害しないものが好ましく、また可視光に対する吸収が弱いものが好適に用いられる。該高分子バインダーとしては、ポリカーボネート、ポリアクリレート、ポリメチルアクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリシロキサンなどが挙げられる。
【0086】
正孔輸送層の膜厚としては、用いる材料によって最適値が異なり、駆動電圧と発光効率が適度な値となるように選択され、少なくともピンホールが発生しないような厚さが必要であり、厚すぎると、素子の駆動電圧が高くなり好ましくない。従って、正孔輸送層の膜厚としては、例えば1nm〜1μmであり、好ましくは2nm〜500nmであり、さらに好ましくは5nm〜200nmである。
【0087】
<電子注入層>
電子注入層を構成する電子注入材料としては、発光層の種類に応じて、アルカリ金属、アルカリ土類金属、又は前記金属を1種類以上含む合金、又は前記金属の酸化物、ハロゲン化物及び炭酸化物、又は前記物質の混合物などが挙げられる。アルカリ金属又はその酸化物、ハロゲン化物、炭酸化物としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、酸化リチウム、フッ化リチウム、酸化ナトリウム、フッ化ナトリウム、酸化カリウム、フッ化カリウム、酸化ルビジウム、フッ化ルビジウム、酸化セシウム、フッ化セシウム、炭酸リチウム等が挙げられる。また、アルカリ土類金属又はその酸化物、ハロゲン化物、炭酸化物の例としては、マグネシウム、カルシウム、バリウム、ストロンチウム、酸化マグネシウム、フッ化マグネシウム、酸化カルシウム、フッ化カルシウム、酸化バリウム、フッ化バリウム、酸化ストロンチウム、フッ化ストロンチウム、炭酸マグネシウム等が挙げられる。電子注入層は、2層以上を積層した積層体であってもよい。積層体の具体例としては、LiF/Caなどが挙げられる。電子注入層は、蒸着法、スパッタリング法、印刷法等によって形成される。電子注入層の膜厚としては、1nm〜1μm程度が好ましい。
【0088】
<電子輸送層>
電子輸送層を構成する電子輸送材料としては、オキサジアゾール誘導体、アントラキノジメタン若しくはその誘導体、ベンゾキノン若しくはその誘導体、ナフトキノン若しくはその誘導体、アントラキノン若しくはその誘導体、テトラシアノアンスラキノジメタン若しくはその誘導体、フルオレノン誘導体、ジフェニルジシアノエチレン若しくはその誘導体、ジフェノキノン誘導体、又は8−ヒドロキシキノリン若しくはその誘導体の金属錯体、ポリキノリン若しくはその誘導体、ポリキノキサリン若しくはその誘導体、ポリフルオレン若しくはその誘導体等を挙げることができる。
【0089】
これらのうち、電子輸送材料としては、オキサジアゾール誘導体、ベンゾキノン若しくはその誘導体、アントラキノン若しくはその誘導体、又は8−ヒドロキシキノリン若しくはその誘導体の金属錯体、ポリキノリン若しくはその誘導体、ポリキノキサリン若しくはその誘導体、ポリフルオレン若しくはその誘導体が好ましく、2−(4−ビフェニリル)−5−(4−t−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール、ベンゾキノン、アントラキノン、トリス(8−キノリノール)アルミニウム、ポリキノリンがさらに好ましい。
【0090】
前述実施形態の有機EL素子8を用いることによって、有機EL素子を備える照明装置、又は有機EL素子を複数備える表示装置、又はスキャナの光源や表示装置のバックライトとして用いられる面状光源を実現することができる。
【0091】
有機EL素子を備える表示装置としては、セグメント表示装置、ドットマトリックス表示装置などを挙げることができる。ドットマトリックス表示装置には、アクティブマトリックス表示装置及びパッシブマトリックス表示装置などがある。有機EL素子は、アクティブマトリックス表示装置、パッシブマトリックス表示装置において、各画素を構成する発光素子として用いられる。また有機EL素子は、セグメント表示装置において、各セグメントを構成する発光素子又はバックライトとして用いられ、液晶表示装置において、バックライトとして用いられる。
【実施例】
【0092】
[実施例1]
<基板の作製>
図3を参照して電極付基板の作製方法について以下に説明する。
(ステップ1)球状のポリスチレン(polystyrene:略称PS)粒子の単層化
まずSi基板にOプラズマ処理を1分間施すことによってSi基板の表面を親液化した。次に球状のPS粒子がコロイド状に分散した懸濁液(Duck Scientific Corporationから入手)を用いて、自己組織化によって球状のPS粒子(平均粒径2μm)の単層をSi基板上に形成した。
本実施例では簡易な方法によって球状のPS粒子をSi基板上に堆積した。まず球状のPS粒子を含むコロイド状懸濁液をSi基板上に数滴滴下し、続いてSi基板を水平から40°傾けることによって所期の位置にコロイド状懸濁液を拡げた。コロイド状懸濁液を滴下する前の懸濁液における球状のPS粒子の濃度を約20重量%とした。これにより、重力効果により、球状のPS粒子を含む懸濁液の均一薄膜がSi基板の表面に形成される。さらに均一薄膜中の溶剤を蒸発させた。蒸発時に球状のPS粒子側面に生じる毛管効果によって球状のPS粒子が自己組織化するため、ヘキサゴナル状に稠密に集積されたコロイダル結晶の単層が形成された。
(ステップ2)球状のPS粒子の固定
次に球状のPS粒子をSi基板に固定するために、球状のPS粒子間の間隙をシリカで充填した。まず液状のゾルゲル用材料(Emulsitone Company(USA)から入手したシリカ膜)をスピンコートし、これをゲル化した。なおゾルゲル用材料は、球状のPS粒子の間隙に充填される程度、且つこのゾルゲル用材料から球状のPS粒子が露出する程度に塗布した。これにより鋳型を作製した。
(ステップ3)インプリント
低屈折率材料としてHI6150(Addison Clear Wave (USA)から入手,波長589nmにおける屈折率n=1.575)の50重量%メチルエチルケトン溶液をスピンコートによってガラス基板上に塗布した。回転数は5000rpmとし、30秒間回転させた。これを70℃で5分間軽く加熱した。次に以下の(1)〜(3)の手順に従ってステップ2で作製した鋳型を用いてインプリントを行った。(1)温度を70℃にし、40バール(bar)の圧力で鋳型を90秒間押圧した。(2)温度、圧力をそれぞれ70℃、40バールに保ったまま、紫外線(UV)を20秒照射した。(3)温度を50℃にし離型した。
(ステップ4)付着物の除去
インプリントを施したガラス基板上には鋳型の球状のPS粒子が付着していることがあるため、トルエン中において超音波洗浄を行い、付着した球状のPS粒子を除去した。
(ステップ5)平坦化層の形成
インプリントが施された低屈折率のHI6150からなる層を平坦化するために、この層上にチタニアを含むA-series高屈折率材料(Brewer Science (USA)から入手,波長700nmでの屈折率n=1.97、波長400nmでの屈折率n=2.17)を用いて平坦化層を形成した。なおこのA-series高屈折率材料は、硬化及び溶媒除去のためにベーキングを施す必要があった。本実施例ではA-series高屈折率材料を7回塗布し、塗布するごとにベーキングを行った。スピンコートは1500rpmで30秒行った。またベーキングはホットプレートを用いて、120℃で30分、200℃で15分間、350℃で30秒と加熱温度を段階的に上げて行った。
(ステップ6)ITO薄膜の形成
A-series高屈折率材料からなる層上に、ULVAC社製のスパッタリング装置を用いてITO薄膜(屈折率n=2)を形成した。成膜条件は、雰囲気圧を0.3 Pa、雰囲気温度を60℃未満、堆積レートを4 nm/秒とした。これによって膜厚が130nm、シート抵抗が25Ω/□のITO薄膜を形成した。
<基板の評価>
緑色発光する高分子発光材料(サメイション製、製品名「Lumation GP1300」)をトルエンに溶解して、高分子発光材料の濃度が1.2質量%の塗布液を調製し、この塗布液を上記で得られた基板のITO薄膜上にスピンコートにより塗布し、発光層を形成した。得られた発光層の膜厚は100nmであった。波長が254nmの紫外線を発光層側から照射し、発光層とは反対側の基板側から出射する緑色発光のPL(Photoluminescence)発光強度を測定した。PL発光強度の放射パターンを図4に示す。図2では、(X,Y)=(0,0)を原点oとし、原点oからの距離でPL発光強度を表している。また放射角度θは、図2において原点oと測定点とを結ぶ直線と、X=0となる軸線(原点を通るY軸)との成す角度θで表される。例えば「θ=0」の測定点は、基板表面に出射するPL発光の光強度を表す。
【0093】
[比較例1]
<基板の作製>
実施例1と同様にして、表面が平坦なガラス基板上に、ITO薄膜を形成し、電極付基板を作製した。
<基板の評価>
上記で得られた基板のITO薄膜上に、実施例1と同様にして緑色発光する発光層を塗布形成し、実施例1と同様にしてPL発光強度を測定した。PL発光強度の放射パターンを図4に示す。
【0094】
図4に示すように、比較例1のPL放射パターンは、実施例1のPL放射パターン内に納まるため、実施例1の基板を用いることにより、全放射角度においてPL発光強度が強くなっていることがわかった。また基板全面から取り出されたPL発光量を積分球で測定したところ、比較例1のPL発光量を「1」とすると、実施例1のPL発光量は2.6であることがわかった。このように、実施例1で得られた基板上に有機EL素子を作製することにより、光取り出し効率は向上する。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明によれば、高い光取出し効率を可能とする構造を備える有機EL素子用の電極付基板を簡易に作製することができる。
【符号の説明】
【0096】
1 電極付基板
2 低屈折率層
3 機能層
4 第1電極
5 発光層
6 第2電極
7 正孔注入層
8 有機EL素子
11 鋳型
12 微粒子
13 枠体
14 基台
15 接着部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
低屈折率層と、機能層と、光透過性を示す電極とがこの順に積層されて構成される電極付基板であり、
前記電極の屈折率n1、前記機能層の屈折率n2及び前記低屈折率層の屈折率n3が次式(1)を満たす有機エレクトロルミネッセンス素子用の電極付基板の製造方法であって、
【数1】

平均粒径が1.0μm〜200μmの複数の微粒子が基台の表面上に敷設された鋳型を用いるインプリント法によって凹凸部を表面部に形成して、前記低屈折率層を形成する工程と、
前記低屈折率層の前記凹凸部が形成された面に、前記機能層となる材料を含む塗布液を塗布して、これを固化することにより前記機能層を形成する工程と、
前記機能層上に前記電極を形成する工程とを含むことを特徴とする、上記方法。
【請求項2】
前記複数の微粒子が、それぞれ略球状であり、かつ最密充填に近い配置で前記基台の表面上に敷設されている、請求項1記載の方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の製造方法により作製された電極付基板を備えることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項4】
請求項3に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を備えることを特徴とする照明装置。
【請求項5】
請求項3に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を複数備えることを特徴とする表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−44296(P2011−44296A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−190827(P2009−190827)
【出願日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【出願人】(508201466)エージェンシー フォー サイエンス, テクノロジー アンド リサーチ (13)
【Fターム(参考)】