説明

電極材料の製造方法

エネルギー密度の向上し、出力特性にすぐれた電極材料の製造方法を提供する。1)少なくとも2種類の異なる酸化数を有する遷移金属の錯体モノマー溶液に比表面積200から3000m−1の導電性材料を浸漬し、2)前記導電性材料を電極としてパルス電圧を印加することにより電解重合を電解時間0.1乃至60秒、休止時間が10乃至600秒の条件で行って、前記錯体モノマーを積層し、3)前記積層した錯体モノマーにより形成された遷移金属の高分子錯体化合物を含むエネルギー蓄積レドックスポリマー層を導電性材料表面に形成し、これによりレドックス反応でエネルギーを蓄積する電極材料の製造方法によって、薄く均一な電極膜を形成する方法、すなわち出力特性にすぐれ、エネルギー密度の向上した電極材料の製造方法が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極材料の製造方法に関し、さらに詳しくはエネルギー密度が向上し、出力特性にすぐれた電極材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球の環境問題などから、エンジン駆動であるガソリン車やディーゼル車に代わり、電気自動車やハイブリッド車への期待が高まっている。これらの電気自動車やハイブリッド車では、モーターを駆動させるための電源としては、高エネルギー密度かつ高出力密度特性を有する電気化学素子が用いられる。このような電気化学素子としては、二次電池、電気二重層キャパシタがある。
【0003】
二次電池には、鉛電池、ニッケル・カドミウム電池、ニッケル水素電池、またはプロトン電池などがある。これらの二次電池は、イオン伝導性の高い酸性またはアルカリ性の水系電解液を用いているため、充放電の際に大電流が得られるという優れた出力特性を有するが、水の電気分解電圧が1.23Vであるため、それ以上の高い電圧を得ることができない。電気自動車の電源としては、200V前後の高電圧が必要であるため、それだけ多くの電池を直列に接続しなければならず、電源の小型・軽量化には不利である。
【0004】
高電圧型の二次電池としては、有機電解液を用いたリチウムイオン二次電池が知られている。このリチウムイオン二次電池は、分解電圧の高い有機溶媒を電解液溶媒としているため、最も卑な電位を示すリチウムイオンを充放電反応に関与する電荷とすれば、3V以上の電位を示す。リチウムイオン二次電池は、リチウムイオンを吸蔵、放出する炭素を負極とし、コバルト酸リチウム(LiCoO)を正極として用いたものが主流である。電解液には、六フッ化リン酸リチウム(LiPF)などのリチウム塩をエチレンカーボネートやプロピレンカーボネートなどの溶媒に溶解させたものが用いられている。
【0005】
しかしながら、このリチウムイオン二次電池は、電圧が高くエネルギー密度も高いので電源として優れているが、充電反応が電極のリチウムイオンの吸蔵、放出であるため、出力特性に劣るという問題があり、大きな瞬間電流が必要とされる電気自動車用の電源には不利である。そこで、高電圧で、かつ充放電特性を改善するために正極にポリチオフェンの誘導体を用いる試みがある(特開2003−297362号公報)。
【0006】
また、電気二重層キャパシタは、活性炭などの分極性電極を正負極とし、プロピレンカーボネートなどの有機溶媒に四フッ化ホウ素や六フッ化リンの四級オニウム塩を溶解させたものを電解液としている。このような、電気二重層キャパシタは電極表面と電解液との界面に生じる電気二重層を静電容量としており、電池のようなイオンが関与する反応がないので、充放電特性が高く、また充放電サイクルによる容量劣化が少ない。しかし、二重層容量によるエネルギー密度は電池に比べてエネルギー密度が低く、電気自動車の電源としては、大幅に不足する。これに対して、大容量化を目的として正極にポリピロールを用いる試みがある(特開平6−104141号公報)。
【0007】
そこで、高エネルギー密度と、高出力特性を有する、導電性高分子や金属酸化物を電極材料として用いた電気化学キャパシタが開発されている。この電気化学キャパシタは、電解液中のアニオン、カチオンの電極への吸脱着を電荷貯蔵機構としており、エネルギー密度、出力特性ともに優れている。なかでも、ポリアニリン、ポリピロール、ポリアセン、ポリチオフェン誘導体などの導電性高分子を用いた電気化学キャパシタは、非水系電解液中のアニオン、もしくはカチオンが導電性高分子にp−ドーピングまたはn−ドーピングすることによって、充放電を行う。このドーピングの電位は負極側では低く、正極側では高いので高電圧特性が得られる(特開2000−315527号公報)。
【0008】
しかし、上記導電性高分子を用いたキャパシタでさえも更なる高エネルギー密度、高出力特性が要求されている。この要求に対して、少なくとも2つの電極を含むバッテリ又はスーパーキャパシタのようなエネルギー蓄積装置であって、その電極の少なくとも一つが少なくとも二つの異なる酸化度のエネルギーを蓄積する遷移金属のレドックス高分子錯体化合物の層を有する電気伝導回路基盤を含み、この高分子錯体化合物が遷移金属錯体モノマーの積層されて形成されたエネルギー蓄積装置が開発されている。このエネルギー蓄積装置における遷移金属錯体モノマーは平面から0.1nm未満の偏差のプレーナー構造及びp−共有結合の分岐システムを有しており、遷移金属の高分子錯体化合物は置換4座シッフ塩基を備えた高分子金属錯体として形成されることが可能であり、レドックス高分子の厚さは1nm乃至20mmの範囲内である(国際公開第03/065536号パンフレット)。さらに前記高分子錯体化合物は、その中心金属が可逆的に酸化・還元できるため、正極・負極の双方に用いることができる。この電極を両極に用いたキャパシタは3Vと高い作動電圧と、300Jg−1ものエネルギー密度が得られる可能性があり、このエネルギー密度を引き出す製造方法も開示されている(国際公開第04/030123号パンフレット)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、電気自動車等の電源用途での小型化の要求は恒常的で、そのための高エネルギー密度化、高出力特性化という強い要求がある。そこで、エネルギー密度が高く、出力特性にすぐれた電極材料の製造方法を提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記課題を解決するために、電極材料の製造方法の検討を行った結果、1)少なくとも2種類の異なる酸化数を有する遷移金属の錯体モノマー溶液に比表面積200から3000m−1の導電性材料を浸漬し、2)前記導電性材料を電極としてパルス電圧を印加することにより電解重合を電解時間0.1乃至60秒、休止時間が10乃至600秒の条件で行って、前記錯体モノマーを積層し、3)前記積層した錯体モノマーにより形成された遷移金属の高分子錯体化合物を含むエネルギー蓄積レドックスポリマー層を導電性材料表面に形成し、これによりレドックス反応でエネルギー蓄積する電極材料の製造方法によって、薄く均一な電極膜を形成する方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本方法によれば、カーボン、金属等の電極構造体表面を遷移金属の高分子錯体化合物で薄く均一に被覆することが可能であり、つまり膜厚に対して表面積を大きくすることが可能となり、その結果、本方法により作成された電極材料はアニオン、カチオンの膜に対する単位体積あたりのドープ、脱ドープの割合が大きくなり、レート特性やサイクル特性の向上を図ることができ、高出力特性を有する電気化学素子用電極材料となる。そして、膜厚が小さいと膜の抵抗が低減し、放電の際のIRドロップが小さくなるので、電圧を高くすることができる。また、以上のようにして作成された電極材料は、多孔質材料の空孔部を閉塞することなく電極膜を形成することが可能であるため、表面積が増大しエネルギー密度が向上する。その結果、出力特性に優れ、エネルギー密度の向上した電気化学素子用電極材料を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
前記遷移金属の高分子錯体化合物のエネルギー密度を向上させるには、パルス電解重合に関するさまざまなパラメータを最適化する必要があり、中でも電解時間、休止時間、重合電位を最適化することが望ましい。そして、さらに前記電極のエネルギー密度の向上を検討した結果、これらのパラメータに加え、電極基板の比表面積の効果が大きいことが判明した。その好ましい特性は、上記電極基板の比表面積が200から3000m-1、より好ましくは1000から3000m-1、さらに好ましくは1500から2500m-1である。そして、この基板に電解重合するためには、電解時間、休止時間、重合電位、パルス回数は以下の条件が好ましいことが判明した。すなわち、パルス電解時間は0.1から60秒、好ましくは0.5から10秒、さらに好ましくは0.7から5秒である。また、休止時間は10から300秒、好ましくは10から60秒、さらに好ましくは20から30秒である。したがって、電解時間に対するパルス繰り返し時間(電解時間+休止時間)の割合をパルス比とすると、パルス比は1500以下、好ましくは60以下、さらに30以下である。この範囲内では、高比表面積特性を有する電極基板に電解重合すると、電解時間中に酸化した錯体モノマーが、基板の細孔内や形成されたポリマーの欠陥へ拡散しながら重合するのに最適な条件が得られるため、薄く均一なポリマー膜が形成でき、結果的に高いエネルギー密度を持つ電極を効率的に製造することができる。なお、ここで休止時間の休止とは、モノマーの重合が休止する電位とすることであり、−2乃至+0.5V、好ましくは−1乃至+0.3V、さらに好ましくは−0.5乃至0Vである。
【0013】
次に、本発明の一実施の形態に係る遷移金属の高分子錯体化合物及び遷移金属の高分子錯体化合物を用いた電極の製造工程について説明する。まず、カーボンあるいは金属の構造体で集電体上を覆った電極を作用電極とし、この電極を錯体モノマーの溶解電解液に浸漬し、活性炭電極を対極とし、参照電極に対して一定の電位を印加して電解重合を行うことにより前記錯体モノマーから遷移金属の高分子錯体化合物を得る。
【0014】
このように、錯体モノマーを溶解した電解液を用いることにより、重合中に電解液へ錯体モノマーが溶出するのを抑制しつつ電解液に溶解した錯体モノマーを重合することが可能となり、単位時間・面積当たりの重合量の向上を図ることが可能となる。
【0015】
また、本発明のもう一つの実施の形態に係る遷移金属の高分子錯体化合物及び遷移金属の高分子錯体化合物を用いた電極の製造工程方法として、前述した錯体モノマーと導電補助剤との混合物からなる膜を集電体上に堆層し成膜した後乾燥させて電極とし、この電極を電解液に浸漬し、活性炭電極を対極とし、参照電極に対して一定の電位を印加して電解重合を行うことにより遷移金属の高分子錯体化合物を得ることもできる。
【0016】
これら遷移金属の高分子錯体化合物は集電体表面に形成された膜からなる電極として形成されているため、そのまま電池やキャパシタ等のデバイスの構成要素として用いることができる。よって、遷移金属の高分子錯体化合物を含有する電極を簡便且つ短工程で得ることができる。
【0017】
なお、本電解重合は前記のような電極を電解液に浸漬し、活性炭電極を対極として参照電極に対して錯体モノマーの酸化電位を印加するか酸化電流を流すことにより重合を行うが、このような3極式のみならず、2極式を用いても良い。
【0018】
本電解重合に使用する錯体モノマーを溶解した電解液は、その溶媒として錯体モノマーの溶解度が0.01〜50重量%、より好ましくは0.01〜10重量%程度のものを使用すると良い。溶解度がこの値より高い場合、錯体モノマーが電解液に溶出しやすくなってしまい、集電体上に固定・濃縮した錯体モノマーが減少し製造の効率が低くなる。逆に、溶解度がこの値より低い場合、すなわち錯体モノマーが殆ど溶解しない溶媒を用いた電解液中で電解重合を行った場合、錯体モノマーの重合性が低下してしまい遷移金属の高分子錯体化合物を良好に得ることができない。上記範囲の溶解度を有する電解液を用いることにより、錯体モノマーあるいは形成された遷移金属の高分子錯体化合物が電極から必要以上に溶出することなく、遷移金腐の高分子錯体化合物の収率の向上を図ることができる。なお、錯体モノマーを溶解した電解液の溶媒としては、使用可能な限り水又は有機溶媒のどちらにも限定されない。
【0019】
本電解重合に使用する錯体モノマーを溶解した電解液は、その支持電解質として、水溶液の場合、例えば、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、有機スルホン酸塩、硫酸塩、硝酸塩、過塩素酸塩等の水に可溶であり且つイオン導電性を確保できる塩を使用すると好ましく、種類・濃度ともに限定されない。また、有機溶媒の場合も同様に有機溶媒に可溶であり且つイオン導電性を確保できる塩を使用すると好ましく、種類・濃度ともに限定されない。さらに、必要に応じて上記の塩のプロトン酸を用いたり、別途プロトン源を添加しても良い。
【0020】
電解重合モードには、例えば、電位掃引重合法、定電位重合法、定電流重合法、その他電位ステップ法、電位パルス法が挙げられるが、本発明においては電位パルス法を用いる。
【0021】
本電解重合において、パルス電圧条件は0.5〜1.0Vvs.Ag/Ag、好ましくは0.5〜0.7Vvs.Ag/Ag、さらに好ましくは0.5〜0.6Vvs.Ag/Agであると良い。この範囲の電圧であれば、電気化学的な反応による錯体モノマーの酸化体が十分に生成されるため、遷移金属の錯体高分子化合物が効率良く形成され、その上、形成された遷移金属の錯体高分子化合物が過酸化されにくく、結果的に高容量密度の遷移金属の錯体高分子化合物が形成される。
【0022】
本電解重合において、サイクル数は100〜10000サイクル、好ましくは100〜5000サイクル、さらに好ましくは200〜2000サイクルであると良い。この範囲のサイクル数であれば、遷移金属の錯体高分子化合物の生成量が十分となり、その上、遷移金属の錯体高分子化合物が過剰に生成しないので、薄い遷移金属の錯体高分子化合物の膜が維持される。
【0023】
本電解重合において、導電補助剤としては、カーボンブラック、結晶性のカーボン、非結晶性のカーボン等、導電性が確保できる材料を用いると良い。
【0024】
また、本電解重合において、前記錯体モノマーと前記導電補助剤とを集電体に固定するために必要に応じてバインダを用いると良い。バインダとしては、例えばポリフッ化ビニリデンのような有機樹脂材料等が挙げられる。これらの電極の構成材料の混合比は任意であるが、錯体モノマーの量がある程度存在しないと製造効率が低くなる。また、バインダを添加しすぎると電解重合を阻害する可能性がある。したがって、電極は錯体モノマーを全体の30重量%以上、好ましくは40重量%乃至70重量%、バインダは20重量%以下好ましくは5重量%乃至10重量%含有すると良い。
【0025】
本電解重合において得られる遷移金属の高分子錯体化合物は4座シッフ塩基の高分子金属錯体、特に、
【0026】
構造式:
【化1】

【0027】
[式中、Yは
【化2】

【化3】

又は
【化4】

【0028】
Meは遷移金属であり、RはH又は電子供与基であり、R’はH又はハロゲンであり、そして、nは2乃至200000の整数である]で表される高分子錯体化合物であると良い。特に、好適な遷移金属MeとしてはNi,Pd,Co,Cu及びFeが挙げられる。また、好適なRとしてはCHO−,CO−,HO−及び−CHが挙げられる。
【0029】
本発明の原理によると、遷移金属のレドックス高分子錯体化合物は「一方向性」又は「積層」高分子として構成される。
【0030】
電極に好適な高分子金属の典型例としては、レドックス高分子類が該当し、これは新規な異方性電子酸化還元伝導を提供する(Timonov A.M.,Shagisultanova G.A., Popeko I.E. ニッケル、パラジウム及びプラチナのシッフ塩基による高分子部分酸化錯体//プラチナ化学研究会、基本及び応用面、イタリア、フェラーラ、1991、P.28を参照)。
【0031】
フラグメント間の結合の構造は、第一の接近における、ある分子のリガンドと別の分子の金属中心体との間の供与−授与分子間相互作用とみなされ得る。いわゆる「表面的」又は「積層」巨大分子の形成は前記相互作用の結果として起こる。高分子のそのような「積層」構造の形成のメカニズムは、現在平面四角形構造のモノマーを使用した場合に一番うまく達成される。概略的に、この構造は以下のように表される:
【0032】
【化5】

【0033】
表面的にはそのような一連の巨大分子は肉眼では電極表面の硬い透明なフィルムとして確認できる。このフィルムの色は金属の種類及びリガンド構造における置換基の存在に非常に依存し得る。しかし、拡大すると積層構造が明らかとなる(図1)。
【0034】
高分子金属錯体は化学吸着によって電極表面に結合する。
【0035】
高分子金属錯体中の電荷移動は電荷の異なる状態での金属中心間の「電子ホッピング」によってもたらされる。電荷移動は拡散モデルを用いて数学的に記載されることが可能である。金属中心の電荷の状態の変化及びポリマー鎖全体にわたる電荷移動に関連する高分子金属錯体の酸化又は還元では、システム全体の電気的中性を維持するために、高分子を取り囲む電解溶液中に存在する電荷補償対イオンの高分子中への浸透が、或いは高分子からの電荷補償対イオン放出が付随して起こる。
【0036】
高分子金属錯体において電荷の異なる状態で金属中心が存在することが、「混合原子価」錯体又は「部分酸化」錯体と呼ばれる所以である。
【0037】
模範的なポリ−[Ni(CHO−Salen)]の金属中心は以下の3つの電荷の状態の一つであり得る。
Ni2+−中性状態;
Ni3+−酸化状態;
Ni−還元状態;
【0038】
この高分子が中性状態(図3a)の場合、そのモノマーフラグメントは帯電しておらず、金属中心の電荷はリガンドの電荷の状況によって補正される。この高分子が酸化状態(図3b)の場合、そのモノマーフラグメントはプラス電荷を有し、この高分子が還元状態の場合、そのモノマーフラグメントはマイナス電荷を有する。この高分子が酸化状態の場合、高分子の空間(体積)電荷を中和するため、電解質陰イオンが重合体構造中へ導入される。この高分子が還元状態の場合、正味荷電の中和が陽イオンの導入によってもたらされる(図2参照)。本発明の電極材料においては、酸化状態の高分子金属錯体を正極の充電状態、還元状態を負極の充電状態として利用できるので、正・負極の双方に用いることができる。
【0039】
以上の電極と以下の電解液を用いて電気化学素子を形成することができる。用いる電解液としては非水系、水系がある。非水系電解液の場合、溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、スルホラン、アセトニトリル及びジメトキシエタンからなる群から選ばれる1種以上を含むことが好ましい。溶質としてリチウムイオンを有するリチウム塩、第4級アンモニウムカチオン又は第4級ホスホニウムカチオンを有する第4級アンモニウム塩又は第4級ホスホニウム塩を挙げることができる。リチウム塩としては、LiPF、LiBF、LiClO、LiN(CFSO、LiCFSO、LiC(SOCF、LiAsF及びLiSbF等が挙げられる。また、第4級アンモニウム塩又は第4級ホスホニウム塩としては、R1 R2 R3 R4 N+又はR1 R2 R3 R4 P+で表されるカチオン(ただし、R1、R2、R3、R4は炭素数1〜6のアルキル基)と、PF6−、BF4−、ClO4−、N(CF3SO2)2−、CF3SO3−、C(SO2CF3)3−、AsF6−又はSbF6−からなるアニオンとからなる塩であることが好ましい。特にPF6−、BF4−、ClO4−、N(CF3SO2)2−をアニオンとすることが好ましい。
【0040】
水系電解液としては、カチオンとしてナトリウム、カリウム等のアルカリ金属、またはプロトンを用いる。アニオンとしては硫酸、硝酸、塩酸、リン酸、テトラフルオロほう酸、六フッ化リン酸、六フッ化ケイ酸などの無機酸、飽和モノカルボン酸、脂肪族カルボン酸、オキシカルボン酸、p―トルエンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、ラウリン酸などの有機酸をプロトンとともに形成するアニオンを挙げることができる。
【0041】
以下に本発明の電極材料を用いた電気化学素子について説明する。
【0042】
(二次電池)
二次電池は以下のようにして作成することができる。リチウム二次電池の場合は、電解液としてリチウム塩を溶質とした非水系電解液を用いる。そして、正極として本発明の製造方法による電極材料を用い、負極としてリチウム金属、またはリチウムを吸蔵、放出する炭素などリチウムを吸蔵、放出できる電極材料を用いる。また、負極に本発明の電極材料を用い、正極にLiCoOなどのリチウム金属酸化物を用いて二次電池を作成することもできる。いずれの場合も、出力特性、エネルギー密度が向上する。
【0043】
また、プロトン電池を形成する場合は、電解液としてプロトンを有する酸性水溶液を用いる。そして、正極に本発明の電極材料を用い、負極はキノキサリン系ポリマー等のプロトン電池の負極を用いる。以上のプロトン電池はエネルギー密度が高い。
【0044】
(電気二重層キャパシタ)
電気二重層キャパシタは次のようにして作製することができる。電解液としては、前記の非水系、水系のすべてを用いることができる。正極として本発明の製造方法による電極材料を用い、負極として活性炭などの電気二重層容量を有する電極を用いた場合、この電気二重層キャパシタはエネルギー密度が向上する。また、正極として電気二重層容量を有する電極を用い、負極として本発明の負極を用いた場合も同様にエネルギー密度が向上する。
【0045】
(電気化学キャパシタ)
電気化学キャパシタは次のようにして作製することができる。電解液としては、第4級アンモニウム塩又は第4級ホスホニウム塩を溶質とした非水系電解液を用いる。正極として本発明の製造方法による電極材料を用い、負極として酸化還元反応応答性を有するポリチオフェン等の導電性高分子を用いた場合や、正極として前記の導電性高分子、または酸化ルテニウムなどの金属酸化物を用い、負極として本発明の負極を用いた場合、エネルギー密度が向上する。さらに、本発明の製造方法による高分子錯体電極は、正、負極の双方に用いることができるので、両極に本発明の電極を用いることができ、高いエネルギー密度を有する電気化学キャパシタを得ることができる。
【実施例】
【0046】
以下に実施例により本発明をさらに具体的に説明する。
【0047】
電解用電解液として1mMのNi(salen)と0.1MのTEABF4を含むアセトニトリル溶液を用い、電極として作用極に活性炭繊維布(投影面積1cm、比表面積2500m−1)、参照極に銀/銀イオン(Ag/Ag+)電極、対極に活性炭繊維布(投影面積10cm、比表面積2500m−1)を用いて、電気化学セルを構築し、表1に示した実施例1乃至3及び比較例1乃至3の電位にて重合電荷量0.5Ccm−2、電解時間1秒、休止時間30秒にてパルス電解重合を行った。重合後、作用極をアセトニトリルで洗浄、乾燥した。次に、これら電極を用いて容量評価用電解液を入れた電気化学セルを構築し、サイクリックボルタンメトリーから容量を算出し、エネルギーを表2に示す。
【0048】
なお、比較例は定電位電解重合で行った。
【0049】
【表1】

【0050】
以上のように、本発明の電気化学素子の作動電圧は比較例に比べて高いエネルギー密度を示している。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】高分子金属錯体の積層状態を示す概略図である。
【図2】a)化学吸着によって電極表面に結合した酸化状態の高分子金属錯体を示す概略図である。b)化学吸着によって電極表面に結合した還元状態の高分子金属錯体を示す概略図である。
【図3】a)高分子金属錯体が中性状態である場合の概略図である。b)高分子金属錯体が酸化状態である場合の概略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1)少なくとも2種類の異なる酸化数を有する遷移金属の錯体モノマー溶液に比表面積200から3000m−1の導電性材料を浸漬し、
2)前記導電性材料を電極としてパルス電圧を印加することにより電解重合を電解時間0.1乃至60秒、休止時間が10乃至600秒の条件で行って、前記錯体モノマーを積層し、
3)前記積層した錯体モノマーにより形成された遷移金属の高分子錯体化合物を含むエネルギー蓄積レドックスポリマー層を導電性材料表面に形成し、これによりレドックス反応でエネルギー蓄積する電極材料の製造方法。
【請求項2】
パルス電圧が0.5乃至1.0V vs. Ag/Ag+である請求項1記載の電極材料の製造方法。
【請求項3】
サイクル数が100乃至10000サイクルである請求項1記載の電極材料の製造方法。
【請求項4】
前記遷移金属の高分子錯体化合物が4座シッフ塩基の高分子金属錯体である請求項1記載の電極材料の製造方法。
【請求項5】
前記4座シッフ塩基の高分子金属錯体が、
構造式:
【化1】

で表される高分子錯体化合物からなり、
式中、
Yは
【化2】

【化3】

又は
【化4】

Meは遷移金属であり、
RはH又は電子供与基であり、
R’はH又はハロゲンであり、そして、
nは2乃至200000の整数である請求項4記載の電極材料の製造方法。
【請求項6】
前記遷移金属MeがNi,Pd,Co,Cu及びFeから構成される群より選択される請求項5記載の電極材料の製造方法。
【請求項7】
前記RがCHO−,CO−,HO−及び−CHから構成される群より選択される請求項5記載の電極材料の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公表番号】特表2008−515132(P2008−515132A)
【公表日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−513565(P2007−513565)
【出願日】平成16年9月30日(2004.9.30)
【国際出願番号】PCT/JP2004/014767
【国際公開番号】WO2006/038293
【国際公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【出願人】(000228578)日本ケミコン株式会社 (514)
【出願人】(505109439)ゲン3 パートナーズ インコーポレイテッド (6)
【Fターム(参考)】