説明

電極構造

【課題】電極自体と液体との接触による影響を回避することができる電極構造を提供しようとするもの。
【解決手段】電極の制御機構1と電気的に接続させるイオン液体2を具備し、前記イオン液体2と、酸化還元反応を生ぜしめるべき対象液体3との間で電荷の授受を行わせるようにした。金属等の電極と対象液体との間ではなく、イオン液体と対象液体との間で電荷の授受(イオンや電子の授受)を行わせて酸化還元反応(電子移動反応)を生ぜしめるようにしたので、対象液体と接する金属電極は存在しない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、排水の浄化の為の電気分解やまた電池その他に適用できる電極の構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、プール水や風呂水を循環して電気分解することにより浄化殺菌を行う場合、耐食性の高い白金メッキ電極が陽極として用いられていた(特許文献1)。
電気分解することによる浄化殺菌効果は高いものの、高価な白金メッキ層は通常薄膜であると共に前記メッキ層も僅かづつではあるが溶出して滅耗いくので、白金メッキ電極の寿命は短く数ヶ月で電極を交換する必要があった。一方、導電性セラミックス陽極板(こちらも溶出し難い)を形成しようとした場合、高温での焼成時に熱歪みにより反ったり曲がったりして歩留まりが悪くなるという欠点があった。
これに鑑み前記文献の発明は、複数の筒型の導電性セラミックス電極を長い筒と成るように積み重ね、積み重ねた電極相互は隙間無く密着するようにして陽極を構成し、連結し一体化して長くなった導電性セラミック電極の筒の中に柱状の電極端子を挿入して更に前記セラミック電極との導通を取り、上記陽極の外側にチタン、ステンレススチールなどの導電性材料からなる筒型の陰極が一定の極間距離を置いて同心状に配置されている、というものである。
この提案によると、陽極が複数の筒型の導電性セラミックス電極を長い筒となるように積み重ね連結し一体化したものとしているので、複数の筒型のセラミックス電極は電気炉も小形で済み、また焼成の際の変形の少なくて歩留まりもよくコストを下げることができる、という利点を有するものである。
しかし、溶出し難いセラミックス電極といえども液体との接触による影響(微量な溶出)は避けられないという問題があった。
【特許文献1】特許公開2003−251356号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
そこでこの発明は、電極自体と液体との接触による影響を回避することができる電極構造を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
前記課題を解決するためこの発明では次のような技術的手段を講じている。
(1)この発明の電極構造は、電極の制御機構と電気的に接続させるイオン液体を具備し、前記イオン液体と、酸化還元反応(電子移動反応)を生ぜしめるべき対象液体との間で電荷の授受(イオンや電子の授受)を行わせるようにしたことを特徴とする。
前記イオン液体は基本的にはカチオンとアニオンのみ(100%)で形成されていて、食塩水(飽和食塩水の濃度で26〜27%程度)よりも大きなイオン密度を有しており、電気を流すことができ、導電率が高く(例えば十数mS/cm)、電極として有効に機能する。また、広い電位窓を有する。
イオン液体は一般的には室温でも液体で存在し得る塩である。このイオン液体は例えばイミダゾリウム,ピリジニウム,第4級アンモニウム,第4級ホスホニウムなどのカチオンと,ハロゲン,トリフラート,テトラフルオロボラート,ヘキサフルオロホスフェートなどのアニオンからなる塩とすることができる。前記対象液体の酸化還元反応は加熱下で行うケースもあり、この場合イオン液体はその温度域で液状であればよく、必ずしも室温で液状である必要はない。
このような構成を有し金属等の電極と対象液体との間ではなく、イオン液体と対象液体との間で電荷の授受(イオンや電子の授受)を行わせて酸化還元反応(電子移動反応)を生ぜしめるようにしたので、対象液体と接する金属電極は存在しない。この電極構造は酸化還元反応を生ぜしめるべき対象液体を挟んで対称的な構造、すなわち陽極と陰極或いは正極と負極となるように配置して使用することができる。
【0005】
前記酸化還元反応を生ぜしめるべき対象液体として各種工場排水を例示することができ、この電極構造を前記排水の電気分解による浄化処理に適用すると、陽極酸化により排水の汚れ成分が直接分解せしめられ、電気分解により排水中に生成する次亜ハロゲン酸、活性酸素、OH・ラジカルなどの作用によって排水の汚れ成分が分解せしめられ、そのCODが低減せしめられる。この電極構造は前記排水の浄化処理の他に、電池や二次電池などにも適用することができる。
前記電極の制御機構とイオン液体とは、イオン液体に挿入した金属その他の電極端子を介して電気的に接続させることができる。イオン液体は電位窓が広い性質を有するので、これに挿入した電極端子との酸化還元反応は起こり難い。
【0006】
(2) 前記イオン液体と対象液体とを電荷移動膜で区画するようにしてもよい。このように構成すると、イオン液体と対象液体とを区画する電荷移動膜でイオンや電子の授受・受け渡しを行いつつ、イオン液体と対象液体との混合を防止して安定した処理を行うことができる。ここで、前記電荷移動膜として例えば超微細孔を有する逆浸透膜を用いることができる。
この電極構造によって電気分解を行う場合、対象液体を挟んで一対の電荷移動膜(例えば逆浸透膜)を対向せしめ、前記それぞれの電荷移動膜にイオン液体が当接するように配置すると共に、双方のイオン液体が陽極と陰極となるように対象液体に電圧を印加すると、イオン液体は電荷移動膜を介して対象液体と電気を導通することとなる。
(3)前記イオン液体は導電性微粒子が分散されたものであることとしてもよい。具体的には、イオン液体に白金、金、銀、銅、アルミニウム、チタン、ニッケル、ステンレスなどの金属導電性微粒子パウダーや、カーボンなどの非金属導電性微粒子パウダーが混合され液中に分散・保持されたものを例示できる。このように構成すると、元々の導電率がそれ程までは高くないイオン液体であっても、その導電率を向上させて好適に電気を流すことができる。
【発明の効果】
【0007】
この発明は上述のような構成であり、次の効果を有する。
対象液体と接する金属電極は存在しないので、金属等の電極自体と液体との接触による影響を回避することができる電極構造を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、この発明の実施の形態を説明する。
図1に示すように、この実施形態の電極構造は、電極の制御機構1と電気的に接続させるイオン液体2(2a,2b)を具備する。そして前記イオン液体2と、酸化還元反応(電子移動反応)を生ぜしめるべき対象液体3(後述の電気分解して浄化すべき排水など)との間で電荷の授受(イオンや電子の授受)を行わせるようにしている。前記イオン液体2と対象液体3とは電荷移動膜4(4a,4b)で区画している。前記電荷移動膜4として超微細孔を有する逆浸透膜を用いた。また、前記電極の制御機構1とイオン液体2とは、イオン液体2に挿入した金属その他の電極端子5(5a,5b)を介して電気的に接続させる。電極の制御機構1により、対象液体3に印加する電圧・電流をコントロールする。
【0009】
イオン液体2は室温等でも液体で存在し得る塩である。このイオン液体2は例えばイミダゾリウム,ピリジニウム,第4級アンモニウム,第4級ホスホニウムなどのカチオンと,ハロゲン,トリフラート,テトラフルオロボラート,ヘキサフルオロホスフェートなどのアニオンからなる塩とすることができる。対象液体の酸化還元反応は加熱下で行うケースもあり、この場合イオン液体2はその温度域で液状であればよく、必ずしも室温で液状である必要はない。
前記イオン液体2は基本的にはカチオンとアニオンのみ(100%)で形成されていて、食塩水(飽和食塩水の濃度で26〜27%程度)よりも大きなイオン密度を有しており、電気を流すことができ、導電率(例えば十数mS/cm)が高く電極として有効に機能すると共に、広い電位窓を有するのでこれに挿入した前記電極端子5との酸化還元反応は起こり難い。ここで、イオン液体2に白金、金、銀、銅、アルミニウム、チタン、ニッケル、ステンレスなどの金属導電性微粒子パウダーや、カーボンなどの非金属導電性微粒子パウダーが混合され液中に分散・保持されたものとすると、元々の導電率がそれ程までは高くないイオン液体2であっても、その導電率を向上させて好適に電気を流すことができる。
【0010】
この電極構造は、酸化還元反応を生ぜしめるべき対象液体3を挟んで対称的な構造、すなわち陽極と陰極(電気分解の場合)或いは正極と負極(電池の場合)となるように配置する。この電極構造によって例えば電気分解を実施する場合、対象液体3を挟んで一対の電荷移動膜4を対向せしめ、前記一対の電荷移動膜4の外側に接してイオン液体2を直接貯留するようにレイアウトする。具体的には、陽極側の電極端子5a−陽極側のイオン液体2a/陽極側の電荷移動膜4a/対象液体3/陰極側の電荷移動膜4b/陰極側のイオン液体2b−陰極側の電極端子5bのように配置せしめる。そして、両端の陰陽の電極端子5を電極の制御機構1と電気的に接続し、各イオン液体2を陽極と陰極にするように対象液体3に電圧を印加して電気分解する。
【0011】
前記酸化還元反応を生ぜしめるべき対象液体3として工場などの排水を用い、この電極構造を排水の電気分解による浄化処理に適用すると、対象液体3(排水)の汚れ成分がイオン液体2によって電荷移動膜4を介して陽極酸化により分解せしめられると共に、電気分解により電荷移動膜4を介して対象液体3(排水)中に生成した次亜ハロゲン酸、活性酸素、OH・ラジカルの酸化作用によって汚れ成分が分解せしめられ、そのCODが低減せしめられる。
【0012】
次に、この実施形態の電極構造の使用状態を説明する。
上記のような構成を有し金属等の電極と対象液体との間ではなく、イオン液体2と対象液体3との間で電荷の授受を行わせて酸化還元反応を生ぜしめるようにしたので、対象液体3と接する金属電極は存在せず、金属等の電極自体と液体との接触による影響を回避することができるという利点がある。すなわち、対象液体3との接液部に金属電極を配する必要がなく(その代わり電荷移動膜4で接液するようにしている)、従来のような陽極電極からの溶出(=短寿命)という問題を回避することができる。
また、前記イオン液体2と対象液体3とを電荷移動膜4で区画するようにしており、イオン液体2と対象液体3とを区画する電荷移動膜4でイオンや電子の授受・受け渡しを行いつつ、イオン液体2と対象液体3との混合を防止して安定した処理を行うことができるという利点がある。
【産業上の利用可能性】
【0013】
対象液体と接する金属電極は存在せず、金属等の電極自体と液体との接触による影響を回避することができるので、種々の電極の用途に適用することができる。この電極構造は排水の電気分解による浄化処理の他に、電池や二次電池などに適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】この発明の電極構造の実施形態を説明するレイアウト図。
【符号の説明】
【0015】
1 電極の制御機構
2 イオン液体
3 対象液体
4 電荷移動膜


【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極の制御機構1と電気的に接続させるイオン液体2を具備し、前記イオン液体2と、酸化還元反応を生ぜしめるべき対象液体3との間で電荷の授受を行わせるようにしたことを特徴とする電極構造。
【請求項2】
前記イオン液体2と対象液体3とを電荷移動膜4で区画するようにした請求項1記載の電極構造。
【請求項3】
前記イオン液体は導電性微粒子が分散されたものである請求項1又は2記載の電極構造。


【図1】
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【公開番号】特開2010−51863(P2010−51863A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−217484(P2008−217484)
【出願日】平成20年8月27日(2008.8.27)
【出願人】(399049981)株式会社オメガ (70)
【Fターム(参考)】