説明

電極活物質およびこれを用いた蓄電デバイス

【課題】電気化学的に酸化還元可能であり、高容量を有する新規な蓄電デバイス用電極活物質を提供する。
【解決手段】蓄電デバイス用電極活物質は、少なくとも、一般式(1):
【化1】


(式(1)中、R1〜R4は、それぞれ独立して、水素原子、フッ素原子、不飽和脂肪族基または飽和脂肪族基であり、不飽和脂肪族基および飽和脂肪族基は、ハロゲン原子、窒素原子、酸素原子、硫黄原子また珪素原子を含んでもよく、不飽和脂肪族基および前記飽和脂肪族基は、直鎖状でもよく、環状でもよい。R1およびR2は互いに結合して環を形成してもよい。R3およびR4は互いに結合して環を形成してもよい。また、nは1以上の整数である。)で表される構造を有する化合物を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高出力、高容量、かつ繰り返し特性に優れた蓄電デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ガソリンおよび電気の両方のエネルギーで駆動可能なハイブリッド自動車や、無停電電源、移動体通信機器、携帯機器等の電子機器の普及に伴い、その電源として用いられる蓄電デバイスの高性能化への要求が非常に高まっている。具体的には、高出力、高容量、および優れた繰り返し特性を有する高性能な電池が要求されている。
【0003】
このような電池の高性能化に対して、様々な取り組みが行われている。電極材料、特に、正極材料や負極材料の高エネルギー密度化は、電池自体の高エネルギー密度化に直接的につながるため、正極材料および負極材料の検討が積極的に行われている。
例えば、特許文献1および2では、ジスルフィド結合を有する有機化合物を電極材料に用いた二次電池が提案されている。この化合物は電気化学的酸化反応によりS−S結合を介して互いに結合し、M+-S−R−S−S−R−S−S−R−S-−M+(Rは脂肪族または芳香族の有機基であり、Sは硫黄、M+はプロトンまたは金属カチオンである。)の形でポリマー化する。こうして生成したポリマーは電気化学的還元反応により元のモノマーに戻る。この反応を充放電反応に利用した二次電池が提案されている。
【0004】
また、特許文献3では、硫黄単体を電極材料に用いることが提案されている。さらに、特許文献4および5では、ハイレートでの充放電が期待される新しい電極活物質として、π電子共役雲を有する有機化合物を用いた、蓄電デバイスが提案されている。この有機化合物はハイレートで可逆的に電気化学反応を起こすことが可能であり、例えば、テトラチアフルバレン(以下、TTFと表す。)では、260mAh/gの高エネルギー密度が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第5,833,048号明細書
【特許文献2】米国特許第2,715,778号明細書
【特許文献3】米国特許第5,523,179号明細書
【特許文献4】特開2004−111374号公報
【特許文献5】特開2004−342605号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1および2記載のジスルフィド系材料では、高容量が得られるが、その反面サイクル特性が低下する。これは、酸化還元反応がジスルフィド結合の解裂・再結合により起こり、一度解裂すると再結合する頻度が低いためである。このように、ジスルフィド系材料では、たとえ理論的に高いエネルギー密度を有しても、すべての反応部位が効率よく反応に寄与せず、実際には高エネルギー密度は得られないという問題がある。
【0007】
特許文献4および5記載のπ電子共役雲を有する有機化合物は、電解質に溶解する場合があり、これに対しては、例えば、TTFの高分子化および誘導体化が検討されている。しかし、TTFの誘導体化および高分子化には、酸化還元反応に関与しない部位の導入が不可欠であるため、結果的にエネルギー密度は260mAh/g以下となり、高エネルギー密度化は困難である。
そこで、本発明は、上記従来の問題を解決するために、新規な電極活物質を用いて、高出力、高容量、および優れた繰り返し特性を有する蓄電デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の蓄電デバイス用電極活物質は、少なくとも、一般式(1):
【0009】
【化1】

【0010】
(式(1)中、R1〜R4は、それぞれ独立して、水素原子、フッ素原子、不飽和脂肪族基または飽和脂肪族基であり、前記不飽和脂肪族基および前記飽和脂肪族基は、ハロゲン原子、窒素原子、酸素原子、硫黄原子また珪素原子を含んでもよく、前記不飽和脂肪族基および前記飽和脂肪族基は、直鎖状でもよく、環状でもよい。R1およびR2は互いに結合して環を形成してもよい。R3およびR4は互いに結合して環を形成してもよい。また、nは1以上の整数である。)で表される構造を有する化合物を含むことを特徴とする。
【0011】
また、本発明は、正極活物質を含む正極と、負極活物質を含む負極と、電解質とを含む蓄電デバイスであって、前記正極活物質および前記負極活物質の少なくとも一方が、一般式(1):
【0012】
【化2】

【0013】
(式(1)中、R1〜R4は、それぞれ独立して、水素原子、フッ素原子、不飽和脂肪族基または飽和脂肪族基であり、前記不飽和脂肪族基および前記飽和脂肪族基は、ハロゲン原子、窒素原子、酸素原子、硫黄原子または珪素原子を含んでもよく、前記不飽和脂肪族基および前記飽和脂肪族基は、直鎖状でもよく、環状でもよい。R1およびR2は互いに結合して環を形成してもよい。R3およびR4は互いに結合して環を形成してもよい。また、nは1以上の整数である。)で表される構造を有する化合物であることを特徴とする蓄電デバイスに関する。
【0014】
前記一般式(1)において、R1〜R4は水素原子であり、n=1であるのが好ましい。
前記一般式(1)において、R1〜R4は水素原子であり、n=2であるのが好ましい。
前記化合物は、前記一般式(1)で表される構造を複数有するのが好ましい。
【0015】
前記一般式(1)で表される構造を有する化合物は、一般式(2):
【0016】
【化3】

【0017】
(式(2)中、R5〜R8は、それぞれ独立して、水素原子、フッ素原子、不飽和脂肪族基または飽和脂肪族基であり、前記不飽和脂肪族基および前記飽和脂肪族基は、ハロゲン原子、窒素原子、酸素原子、硫黄原子または珪素原子を含んでもよく、前記不飽和脂肪族基および前記飽和脂肪族基は、直鎖状でもよく、環状でもよい。R5およびR6は互いに結合して環を形成してもよい。R7およびR8は互いに結合して環を形成してもよい。また、nは1以上の整数である。)で表される構造を有する化合物であるのが好ましい。
前記一般式(2)において、R5〜R8はメチル基であり、n=2であるのが好ましい。
【0018】
前記一般式(2)で表される構造を有する化合物は、一般式(3):
【0019】
【化4】

【0020】
(式(3)中、nは1以上の整数である。)で表される化合物であるのが好ましい。
前記一般式(3)において、n=2であるのが好ましい。
【0021】
前記電解質が、非水溶媒と、前記非水溶媒中に溶解したアニオンおよびカチオンからなる塩とからなり、前記非水溶媒が、比誘電率が10以下の溶媒と、比誘電率が30以上の溶媒との混合物からなり、前記混合物の比誘電率が10以上30以下であることを特徴とするのが好ましい。
前記比誘電率が10以下の溶媒は、鎖状炭酸エステル、鎖状エステル、および鎖状エーテルからなる群より選ばれる少なくとも1種であり、前記比誘電率が30以上の溶媒は、環状炭酸エステルおよび環状エーテルからなる群より選ばれる少なくとも1種であるのが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、新規な電極活物質を用いることにより、高出力、高容量、および優れた繰り返し特性を有する蓄電デバイスが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施例1のコイン型電池の概略縦断面図である。
【図2】本発明の実施例1の電池の充放電曲線を示す図である。
【図3】本発明の実施例2の電池の充放電曲線を示す図である。
【図4】本発明の実施例3の電池の充放電曲線を示す図である。
【図5】本発明の実施例4の電池の充放電曲線を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明者らは、蓄電デバイス用電極活物質の検討を以下のように行った。蓄電デバイス用電極活物質として用いられる化合物の条件としては、「酸化還元反応が可能である」ことである。すなわち、有機化合物が酸化還元反応に伴い価数が変化し、酸化体または還元体を形成し、この酸化体、還元体の両方が分解等の反応を起こさずに安定して存在することである。例えば、(イ)解裂/再結合反応を用いた酸化還元反応(ジスルフィドの反応)、(ロ)酸化体および還元体が中性状態/ラジカル状態をとる酸化還元反応、(ハ)酸化体および還元体の両方がヒュッケル則を満たす構造を有する化合物である、のうちの少なくともいずれかひとつに該当することが考えられる。
【0025】
しかし、上記(イ)のジスルフィド系の反応では、繰り返り特性が低下する。また、上記(ロ)では、化合物が安定にラジカルを形成する必要がある。一般にラジカルは不安定であるが、安定なラジカルを形成する化合物として、4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシルに代表される化合物が挙げられる。この化合物は、ラジカルが発生する部位であるNO位の両側に、立体的に大きなメチル基を4つ配置することにより、安定なラジカルが得られる。しかし、分子内に、反応に関与しないメチル基を有し、多数のラジカル部位を形成することが困難なラジカル化合物は、エネルギー密度の観点から非常に不利であり、高エネルギー密度化が困難である。
そこで、本発明者らは、上記(ハ)の条件を満たす材料を選択した。
【0026】
次に、高容量、高出力、および繰り返し特性に優れた蓄電デバイス用電極活物質に求められる有機化合物の物性について考察した。これらについて以下(A)〜(C)に記述する。
(A)高容量を実現するための条件としては、単位分子あたりの反応電子数が多いことが挙げられる。
蓄電デバイス用活物質のエネルギー密度は、以下の(式1)により定義される。
エネルギー密度[mAh/g]=[(反応電子数×96500)/(分子量)]×(1000/3600) (式1)
上記のことから、反応電子数が大きく、分子量が小さいことが必須となる。
【0027】
上記(ハ)の条件を満たす有機化合物としては、ポリアニリンやポリピロールなどに代表される導電性高分子が挙げられる。これらは、分子内においてπ電子共役雲が大きく広がるため、単位ユニットあたり(ピロール環またはアニリン環1つあたり)の反応電子数が0.5電子反応以下である。よって、一様にπ電子共役雲が広がった構造は高エネルギー密度化には適さないと言える。
(B)高出力を実現するための条件としては、酸化還元の反応速度が高いことが挙げられる。
酸化還元反応の速度を阻害するものとしては、反応時の構造変化が大きいことが挙げられる。よって、高出力化に対しては、酸化還元反応時に構造が大きく変化しないことが求められる。
(C)優れた繰り返し特性を実現するための条件としては、分子上への配位反応など結合の形成/解裂反応でないことが挙げられる。
【0028】
以上の点を考慮して鋭意検討した結果、蓄電デバイス用電極活物質として以下に示す一般式(1)で表される化合物を用いた場合に、優れた高容量、高出力、かつ繰り返し特性を有する蓄電デバイスが得られることを見出した。
一般式(1):
【0029】
【化5】

【0030】
式(1)中、R1〜R4は、それぞれ独立して、水素原子、フッ素原子、不飽和脂肪族基または飽和脂肪族基であり、前記不飽和脂肪族基および前記飽和脂肪族基は、ハロゲン原子、窒素原子、酸素原子、硫黄原子または珪素原子を含んでもよく、前記不飽和脂肪族基および前記飽和脂肪族基は、直鎖状でもよく、環状でもよい。R1およびR2は互いに結合して環を形成してもよい。R3およびR4は互いに結合して環を形成してもよい。また、nは1以上の整数である。
【0031】
一般式(1)で表される構造を有する化合物は、酸化還元反応時に構造が変化しない。この化合物は、構造対称性および平面構造を有する。また、その分子構造は中心に炭素―炭素間の結合として二重結合を有し、硫黄、酸素等の等電子的な孤立電子対を有するヘテロ元素を含む環状構造を有することから、分子上にπ電子共役雲が形成される。この分子上に広がったπ電子共役雲内へは電子の授受が可能である。この電子授受はこの物質への酸化・還元反応によって進行する。例えば、還元反応(放電反応)時には、一般式(1)で表される構造を分子内に有する化合物が還元され、電解質中のアニオン種が配位する。その後の酸化反応(充電反応)は、一般式(1)で表される構造を分子内に有する化合物上に配位したアニオン種が脱離する反応である。この反応を電池反応として用いることができる。この一連の酸化還元反応において活物質である化合物は、結合の解裂・再結合といった大きな構造変化を起こさない。この反応は、上記(A)および(B)の条件を満たしており、高容量、高出力、および優れた繰り返し特性を有する蓄電デバイス用電極活物質が得られる。
【0032】
また、同じ反応原理を有するものとして、上記特許文献4および5に記載のTTF系化合物が挙げられる。これらの化合物は、高容量、高出力、および優れた繰り返し特性を有するが、さらに、電解質への溶解を抑制するために高分子化する場合、TTF骨格の両端にエチレンジチオ基等の置換基を導入する必要がある。これらの置換基の導入により、物性は大幅に変化するが、導入基が反応に寄与しないため、高エネルギー密度化が困難である。
これに対して、本発明の一般式(1)で表される構造を有する化合物は、TTF系化合物とは異なり、酸化還元部位である2つの硫黄元素を含む5員環のみにより拡張した構造を有する。この場合、反応に寄与しない部分を導入することなく、多量体分子を構成することが可能であるため、高エネルギー密度化を実現することができる。
【0033】
一般式(1)において、R1〜R4で示される各基は、具体的には次の通りである。
鎖状または環状の飽和脂肪族基としては、例えば、アルキル基、シクロアルキル基などが挙げられる。アルキル基として、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、tert−ブチル、n−ペンチル、イソペンチル、n−ヘキシル、イソヘキシル、n−ヘプチル、イソヘプチル、n−オクチル、イソオクチル、n−ノニル、イソノニル、n−デシル、イソデシル、n−ウンデシル、イソウンデシル、n−ドデシル、イソドデシル、トリデシル、イソトリデシルなどの炭素数1〜22の直鎖または分岐鎖状のアルキル基が挙げられる。
【0034】
シクロアルキル基としては、例えば、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシルなどの炭素数3〜6のシクロアルキル基が挙げられる。
鎖状または環状の不飽和脂肪族基としては、例えば、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルケニル基、フェニル基などが挙げられる。
【0035】
アルケニル基としては、例えば、ビニル、1−プロペニル、2−プロペニル、1−メチル−1−プロペニル、2−メチル−1−プロペニル、2−メチル−2−プロペニル、2−プロペニル、2−ブテニル、1−ブテニル、3−ブテニル、2−ペンテニル、1−ペンテニル、3−ペンテニル、4−ペンテニル、1,3−ブタジエニル、1,3−ペンタジエニル、2−ペンテン−4−イル、2−ヘキセニル、1−ヘキセニル、5−へキセニル、3−ヘキセニル、4−へキセニル、3,3−ジメチル−1−プロペニル、2−エチル−1−プロペニル、1,3,5−ヘキサトリエニル、1,3−ヘキサジエニル、1,4−ヘキサジエニル基などの、二重結合を1個以上3個以下有し、炭素数2以上6以下(好ましくは炭素数2以上4以下)である直鎖または分枝鎖状アルケニル基が挙げられる。アルケニル基はトランス体およびシス体の両者を包含する。
【0036】
アルキニル基としては、例えば、エチニル、2−プロピニル、2−ブチニル、3−ブチニル、1−メチル−2−プロピニル、2−ペンチニル、2−ヘキシニル基などの、が含まれる。炭素数2以上炭素数6以下(好ましくは炭素数2以上炭素数4以下)の直鎖または分枝鎖状アルキニル基が挙げられる。また、シクロアルケニル基としては、例えば、シクロプロペニル、シクロブテニル、シクロペンテニル、シクロヘキセニル、メチルシクロペンテニル、メチルシクロヘキセニルなどの炭素数3以上7以下のシクロアルケニル基が挙げられる。
【0037】
1〜R4で示される不飽和脂肪族基および飽和脂肪族基(以下「脂肪族基」と総称する)は、ハロゲン原子、窒素原子、酸素原子、硫黄原子および珪素原子よりなる群から選ばれる少なくとも1つの原子を含んでいてもよい。ハロゲン原子は、例えば、脂肪族基の水素原子と置換して存在する。ハロゲン原子としては、例えば、フッ素、塩素、臭素、沃素などが挙げられる。窒素原子は、例えば、ニトロ基、アミノ基、アミド基、イミノ基、シアノ基などの形態で脂肪族基に置換する。
【0038】
酸素原子は、例えば、水酸基、オキソ基、カルボキシル基などの形態で脂肪族基に置換する。硫黄原子は、例えば、アルキルチオ基、スルホ基、スルフィノ基、スルフェノ基、メルカプト基などの形態で脂肪族基に置換する。珪素原子は、例えば、シリル基などの形態でこれら各基に置換する。ここに挙げた各種置換基の中でも、ニトロ基、アルキルチオ基、フェニル基などの電子吸引性の置換基が好ましい。
脂肪族基は、ここに挙げた各種置換基を、1個または2個以上を組み合わせて有することができる。
【0039】
電極活物質に用いられる一般式(1)で表される構造を有する化合物としては、例えば、下記に示す、化学式(2)および(3)で表される構造を有する化合物が挙げられる。化学式(2):
【0040】
【化6】

【0041】
化学式(3):
【0042】
【化7】

【0043】
また、電極活物質としては、上記一般式(1)で表される構造を複数含む高分子化合物が挙げられる。これらの化合物としては、例えば、以下に示す一般式(4)〜(6)で表される構造を有する化合物が挙げられる。例えば、nは1〜6およびmは1以上の整数である。
一般式(4):
【0044】
【化8】

【0045】
一般式(5):
【0046】
【化9】

【0047】
一般式(6):
【0048】
【化10】

【0049】
電極活物質としては、上記で挙げられた化合物を2種類以上組み合わせて用いてもよい。
上記一般式(4)〜(6)のように、一般式(1)で表される構造を有する、分子量の大きい分子が複数結合して形成された高分子化合物は、低分子化合物に比べて、電解質に溶解しにくい性質を有するため、この化合物を電極材料として用いた場合、電解質への溶出が抑えられ、優れた保存特性や繰り返し特性が得られる。なお、高分子化合物とは一般的に分子量が10000以上のものを指す。
一般式(6)のR4’としては、例えば、上述のR1〜R4に用いられる不飽和脂肪族基または飽和脂肪族基と同じものが挙げられる。
【0050】
また、電極活物質に用いられる一般式(1)で表される構造を有する化合物としては、例えば、下記に示す、一般式(2a)で表される構造を有する化合物が挙げられる。
一般式(2a):
【0051】
【化11】

【0052】
式(2a)中、R5〜R8は、それぞれ独立して、水素原子、フッ素原子、不飽和脂肪族基または飽和脂肪族基であり、前記不飽和脂肪族基および前記飽和脂肪族基は、ハロゲン原子、窒素原子、酸素原子、硫黄原子または珪素原子を含んでもよく、前記不飽和脂肪族基および前記飽和脂肪族基は、直鎖状でもよく、環状でもよい。R5およびR6は互いに結合して環を形成してもよい。R7およびR8は互いに結合して環を形成してもよい。また、nは1以上の整数である。
一般式(2a)におけるR5〜R8に用いられる不飽和脂肪族基および飽和脂肪族基としては、例えば、上述のR1〜R4に用いられる不飽和脂肪族基または飽和脂肪族基と同じものが挙げられる。
【0053】
5〜R8がメチル基の場合は、合成を比較的簡便に行うことができるため、前記一般式(2a)において、R5〜R8はメチル基であり、n=2である、すなわち、下記の化学式(2b)で表される構造を有する化合物であるのが好ましい。
化学式(2b):
【0054】
【化12】

【0055】
また、前記一般式(2a)で表される構造を有する化合物は、下記の一般式(3a)で表される構造を有する化合物であるのが好ましい。
一般式(3a):
【0056】
【化13】

【0057】
式(3a)中、nは1以上の整数である。
前記一般式(3a)において、n=2である、すなわち、下記の化学式(3b)で表される構造を有する化合物であるのが好ましい。
化学式(3b):
【0058】
【化14】

【0059】
本発明の蓄電デバイスでは、正極および負極のうち少なくとも一方が、一般式(1)で表される構造を分子内に有する化合物を用いる。例えば、正極および負極のうちいずれか一方の電極に、一般式(1)で表される構造を分子内に有する化合物を用い、他方の電極に、二次電池で一般的に使用されている活物質材料を用いることができる。より具体的には、正極活物質に、一般式(1)で表される構造を分子内に有する化合物を用いる場合、負極活物質には、例えば、グラファイト、活性炭等の非晶質炭素材料、リチウム金属、リチウム含有複合窒化物、リチウム含有チタン酸化物、スズ(Sn)および炭素または他の金属との複合物を用いることができる。
【0060】
また、負極活物質に、一般式(1)で表される構造を分子内に有する化合物を用いる場合、正極活物質には、例えば、LiCoO2、LiNiO2、LiMn24等の金属酸化物等を用いることができる。
電極(正極または負極)は、例えば、電極集電体、および前記電極集電体上に塗布された電極合剤からなる。電極合剤は、例えば、活物質、電極抵抗を低減するため電子伝導補助剤、イオン伝導補助剤、および活物質や導電助材の結着性を改善するための結着剤を含む。負極には、リチウム金属板と負極集電体との積層体を用いてもよい。
【0061】
電子伝導補助剤としては、例えば、カーボンブラック、グラファイト、アセチレンブラック等の炭素材料、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン等の導電性高分子が用いられる。イオン伝導補助剤としては、例えば、ポリエチレンオキシド等の固体電解質、ポリメチルメタクリレート、ポリメタクリル酸メチル等のゲル電解質が用いられる。
結着剤としては、ポリフッカビニリデン、ビニリデンフルライド−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ビニリデンフルオライド−テトラフルオロエチレン共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、スチレン−ブタジエン共重合ゴム、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリイミドなどを用いることができる。
【0062】
電極集電体としては、例えば、ニッケル、アルミニウム、金、銀、銅、ステンレス、アルミニウム合金等の金属箔や、メッシュ状が用いられる。また、集電体上にカーボンなどを塗布して、抵抗を低減する、触媒化させる、活物質と集電体とを化学結合または物理結合させてもよい。
本発明は、正極と負極との間に配されるセパレータに電解質を含有させる。電解質は、非水溶媒および前記非水溶媒に溶解する支持塩からなる。支持塩としては、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属やマグネシウム等のアルカリ土類金属のハロゲン塩、過塩素酸塩、またはトリフロロメタンスルホン酸塩を代表とするフッ素含有化合物が用いられる。具体的には、例えば、フッ化リチウム、塩化リチウム、過塩素酸リチウム、トリフロロメタンスルホン酸リチウム、四ホウフッ化リチウム、ビストリフロロメチルスルホニルイミドリチウム、チオシアン酸リチウム、過塩素酸マグネシウム、トリフロロメタンスルホン酸マグネシウム、四ホウフッ化ナトリウムなどが挙げられる。
【0063】
蓄電デバイスにおいて電気化学反応を生じさせるためには、例えば、支持塩を非水溶媒中で溶解させて解離させる必要がある。このため、非水溶媒の比誘電率が高いことが要求される。また、有機化合物の種類により、電極活物質が比誘電率の高い非水溶媒に溶解しやすい場合がある。従って、本発明の蓄電デバイスにおいて、適切な比誘電率を有する非水溶媒を電解質に用いる必要がある。非水溶媒の比誘電率を制御する方法としては、比誘電率の異なる複数種の溶媒を混合することが挙げられる。
上記の観点から、非水溶媒としては、比誘電率10以下の溶媒と比誘電率30以上の溶媒との混合物からなり、前記混合物の比誘電率が10以上30以下であるのが好ましい。比誘電率が10以下の溶媒としては、鎖状炭酸エステル、鎖状エステル、鎖状エーテルが挙げられる。比誘電率が30以上の溶媒としては、環状炭酸エステル、環状エーテルが挙げられる。
【0064】
鎖状炭酸エステルとしては、例えば、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジn-プロピルカーボネート、ジブチルカーボネート、ジイソプロピルカーボネート、メチルエチルカーボネートが挙げられる。
鎖状エステルとしては、例えば、蟻酸メチル、蟻酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、プロピオン酸メチル、酪酸メチル、吉草酸メチルが挙げられる。
鎖状エーテルとしては、例えば、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタン、ジエチルエーテル、ジメチルエーテル、メチルエチルエーテル、ジプロピルエーテルが挙げられる。
環状炭酸エステルとしては、例えば、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネートが挙げられる。
環状エーテルとしては、例えば、1,4-ジオキサン、1,3-ジオキソラン、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、3-メチル-1,3-ジオキソラン、2-メチル-1,3-ジオキソランが挙げられる。
【0065】
また、電解質としては、固体電解質やゲル状ポリマー電解質を用いてもよい。
固体電解質としては、Li2S-SiS(2+a)(aはLi3PO4、LiI、Li4SiO4からなる群より選ばれた少なくとも1種である。)、Li2S-P2O5、Li2S-B2S5、Li2S-P2S5-GeS2、以外にもナトリウム/アルミナ(Al2O3)、無定形、低相転移温度(Tg)のポリエーテル、無定形フッ化ビニリデンコポリマー、異種ポリマーのブレンド体、ポリエチレンオキサイドなどが挙げられる。
ゲル状ポリマー電解質としては、ポリアクリロニトリル、エチレンとアクリロニトリルとのコポリマー、または架橋されたポリマーに、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等の低分子量非水溶媒を加え、それに支持塩を添加したものが用いられる。
なお、本発明の蓄電デバイスとしては、例えば、一次電池、二次電池、電気化学キャパシタ等が挙げられる。
【実施例】
【0066】
以下、本発明の実施例を詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されない。
《実施例1》
以下に示す手順で、本発明の蓄電デバイスとして、図1に示すコイン型電池を作製した。図1は、コイン型電池の縦断面図である。
【0067】
(1)正極の作製
蓄電デバイス用電極活物質として、一般式(1)において、R1〜R4が水素原子であり、n=2である、下記の化学式(3)で表される構造を有する化合物を用いた場合を示す。なお、化学式(3)で表される構造を有する有機化合物は、非特許文献Yohji Misaki et al.,Cryst.Liq.Cryst., 1996, 284, P.337-344に記載の方法に基づいて作製した。
【0068】
【化15】

【0069】
ガス精製装置を備えた、アルゴンガス雰囲気下におけるドライボックス中では、活物質として、上記の化学式(3)で表される構造を有する化合物30mgと、電子伝導補助剤としてアセチレンブラック30mgと、を均一に混合し、この混合物に溶剤としてN−メチル−2−ピロリドン(関東化学(株)製)を1ml加えた。さらに、活物質と電子伝導補助剤とを結着させる目的で、結着剤としてポリフッ化ビニリデン5mgを加え、均一に混合させ、スラリー状の正極合剤を得た。これをアルミニウム箔からなる正極集電体12上に塗布した後、室温にて1時間真空乾燥し、正極集電体12上に正極合剤層13を形成した。乾燥後、これを径13.5mmの円盤上に打ち抜いて正極を得た。乾燥後の正極の厚さは60μm程度であった。
【0070】
(2)コイン型電池の組み立て
上記で得られた正極と、円盤状の負極とを用いて、以下のように、コイン型電池を組み立てた。負極には、負極活物質として円盤状のリチウム金属板16(直径15mm、厚み300μm)を円盤状のステンレス鋼製の負極集電体17(直径15mm)に重ね合わせて得られた積層体を用いた。
ケース11の内面に正極を、正極集電体がケース11と対向するように配置し、正極の上に多孔質ポリエチレンシートからなるセパレータ14を設置した。電解質をケース11内に注液した。電解質には、エチレンカーボネートとプロピレンカーボネートの混合溶媒(体積比1:1)に、6フッ化リン酸リチウム(LiPF6)を1mol/Lの濃度で溶解させたものを用いた。
内面に負極が圧着され、周縁部に封止リング18を装着した封口板15を準備した。負極と正極とがセパレータ14を介して対向するように、ケース11の開口部に封口板15を配した。そして、プレス機でケース11の開口端部を樹脂製の封止リング18を介して封口板15の周縁部にかしめて、ケース11を封口板15で封口した。このようにして、評価用のコイン型電池を得た。
【0071】
《比較例1》
正極活物質に有機硫黄化合物として2,5-ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾール(以下、DMcTと表す。)(Aldrich社製)を用い、正極を以下の方法で作製した。
ガス精製装置を備えたアルゴンガス雰囲気のドライボックス中において、DMcTの30mgと、電子伝導補助剤としてアセチレンブラック30mgと、結着剤としてポリフッ化ビニリデン5mgとを十分に混合した。さらに、この混合物にN−メチル−2−ピロリドン(関東化学(株)製)1mlを加えて、正極合剤を得た。この正極合剤をアルミ箔集電体上にキャストし、室温下で1時間真空乾燥を行った。乾燥後、これを直径13.5mmの円盤上に打ち抜いて正極とした。
この正極を用いて、実施例1と同様の方法によりコイン型電池を作製した。
【0072】
《比較例2》
正極活物質にTTF系の有機硫黄系化合物としてビスエチレンジチオテトラチアフルバレン(以下、BEDT−TTFと表す。)(Aldrich社製)を用い、正極を以下の方法で作製した。
ガス精製装置を備えたアルゴンガス雰囲気下のドライボックス中において、BEDT−TTF30mgと、電子伝導補助剤としてアセチレンブラック30mgと、結着剤としてポリフッ化ビニリデン5mgとを十分に混合した。この混合物にN−メチル−2−ピロリドン(関東化学(株)製)1mlを加えて、正極合剤を得た。この正極合剤をアルミ箔集電体上にキャストし、室温下1時間真空乾燥を行った。乾燥後、これを直径13.5mmの円盤上に打ち抜いて正極とした。乾燥後の正極の厚みは110μm程度であった。
上記で得られた正極を用いて、実施例1と同様の方法によりコイン型電池を作製した。
【0073】
[評価]
繰り返し特性(充放電サイクル特性)を評価するため、上記で作製した実施例1、比較例1、および比較例2のコイン電池を、電流0.133mAおよび電圧範囲3.0〜4.0Vで充放電を繰り返し実施し、1、5、および10サイクル目の放電容量を求めた。その評価結果を表1に示す。なお、表1の放電電圧は、放電電圧曲線におけるプラトーな領域の電圧を示す。
【0074】
【表1】

【0075】
実施例1の電池における1、5および10サイクル目の充放電曲線を図2に示す。図2に示すように、実施例1の電池では、3.6Vおよび3.8V付近の電圧で充電反応が進行し、3.7Vおよび3.3V付近の電圧で放電反応が進行することが確認された。化学式(3)で表される構造を有する化合物は、これまでに合成方法に関する報告例はあったが、電気化学特性に関する知見は得られていなかった。本発明により、化学式(3)で表される化合物は電気化学的に酸化還元が可能であり、蓄電デバイスとして用いることが可能であることが確かめられた。
【0076】
表1から、正極活物質にDMcTを用いた比較例1の電池では、初期容量は十分に得られるが、繰り返し特性が悪いことが確認された。これに対して、正極活物質に化学式(3)で表される化合物を用いた実施例1の電池では、50サイクルにおいても容量低下はみられず、優れた繰り返し特性が得られた。
【0077】
表1の結果から、実施例1の電池では、比較例2のTTF系化合物であるBEDT−TTF化合物を用いた比較例2の電池よりも放電電圧が高いことがわかった。このことは、一般式(1)で表される構造を有する化合物が、TTF系化合物と異なり、高電位で反応する化合物であることを示し、さらなる高電圧化、高容量化を実現することが可能であることが確かめられた。
上記のことから、実施例1の電池は、比較例1および2よりも高電圧、高容量、および優れた繰り返し特性を有することがわかった。
【0078】
《実施例2》
以下に示す手順で、本発明の蓄電デバイスとして、図1に示すコイン型電池を作製した。図1は、コイン型電池の縦断面図である。
(1)正極活物質の作製
以下の方法により、下記の化学式(2)で表される2,5-ビス(1,3-ジチオール-2-イリデン)-1,3,4,6-テトラチアペンタレン(以下、TTPまたは化合物2と表す。)を合成した。
化学式(2):
【0079】
【化16】

【0080】
化合物2の合成工程(A)を以下に示す。合成工程で得られる化合物11〜19を経て化合物2を合成した。合成に用いた化合物は特に記載の無い限り、市販品をそのまま用いた。また、合成は特に記載の無い限り、アルゴン置換したナスフラスコを用いてアルゴン雰囲気下にて実施した。
合成工程(A):
【0081】
【化17】

【0082】
(a)化合物11の合成
アルゴン置換したナスフラスコに、化合物10(Aldlich社製)の3.04g(10mmol)と、硫酸ジメチル5.68ml(60mmol)と、54%ほうフッ化水素酸水溶液2.25g(14mmol)とを投入し、80℃にて3時間攪拌し、その後0℃まで冷却した。ジエチルエーテルを用いてろ過、乾燥し、茶色オイル状の化合物11を4.05g得た。
【0083】
(b)化合物12の合成
化合物11にアセトニトリル30mlを加え、0℃まで冷却した。その後、これに、ほうフッ化ナトリウム0.6g(13mmol)を加え、30分間攪拌した。さらに、イソプロパノール4mlを加え、30分間攪拌し、塩化メチレンを用いて抽出・ろ過、真空乾燥し、橙色の固体(化合物12)を3.19g得た。収率は約95%であった。
【0084】
(c)化合物13の合成
化合物12をナスフラスコに投入し、ジクロロメタン50mlを加え、0℃まで冷却した。これに、無水酢酸20mlを加え、さらに42%ほうフッ化水素酸水溶液5.97g(28.5mmol)を除々に加え、2時間攪拌した。その後、エーテル200mlを加え、これをろ過、洗浄、乾燥し、茶色粉末(化合物13)を1.49g得た。
【0085】
(d)化合物14の合成
ナスフラスコに化合物13を投入し、アセトニトリル10mlを加え、さらにトリフェニルホスフィン1.32g(5.02mmol)加え、室温にて1時間攪拌し、沈殿物を得た。得られた沈殿物にエーテルを加え、ろ過、乾燥し、赤色オイル状の化合物14を2.60g得た。
【0086】
(e)化合物16の合成
化合物14の8.8gと、1,3−ジチオール−2−チオンとヘキサフルオロリン酸を混合して得られた化合物15の3.6gとをナスフラスコに投入し、アセトニトリル290mlを加え、さらにトリエチルアミン28.7mlを加え、2時間攪拌した。その後、ろ過、乾燥し、橙色の固体(化合物16)を4.4g得た。
【0087】
(f)化合物17の合成
化合物16の4.36gをナスフラスコに投入し、乾燥THF(テトラヒドロフラン)100mlを加え、攪拌した。そこに、水酸化セシウム水溶液7.8gおよびメタノール100mlを加え、30分間攪拌した。そこに、塩化亜鉛1.6gを加え、20分間攪拌し、さらに臭化テトラブチルアンモニウム4.2gを加え、30分間攪拌し、エバポレータを用い溶媒を除去した。これに乾燥THF(テトラヒドロフラン)110mlを加え、−70℃まで冷却した。トリホスゲン4.5gを加え、−20℃まで昇温し、さらにメタノールを少量加えた。その後、メタノール200mlを加え、ろ過、乾燥し、ヘキサンを用いて洗浄し、再度ろ過、乾燥し、赤色の化合物17を0.9g得た。
【0088】
(g)化合物19の合成
化合物17の0.9gと、ビス(1,3−ジチオール−2−チオン−4,5−ジチオレート)亜鉛とブチルクロライドをアセトン中で反応させることにより得られた化合物18の1.6gとを、ナスフラスコに投入し、さらにトルエン38mlおよび亜リン酸トリメチル38mlを加え、110℃で2時間攪拌した。これにヘキサンを適量加え、ろ過、真空乾燥し、黒色の化合物19を1.27g得た。
【0089】
(h)化合物2の合成
得られた化合物19の1.25gと、ヘキサメチルリン酸トリアミド62.5mlとを、ナスフラスコに投入し、さらに臭化リチウム水溶液2.7gを加え、70℃で1時間攪拌した。2硫化炭素で抽出し、水を用いて洗浄、ろ過、乾燥後、赤色の化合物2を0.5g得た。
【0090】
(2)正極の作製
上記で得られた化合物2を、乳鉢を用いて粉砕し、粉末状の正極活物質(粒子径約10μm)を得た。正極活物質37.5mgと、電子伝導補助剤としてアセチレンブラック100mgとを均一に混合し、さらにバインダとしてポリテトラフルオロエチエン25mgを加えて混合し、スラリー状の正極合剤を得た。正極合剤をアルミニウム金網からなる正極集電体12の上に圧着させ、真空乾燥し、正極集電体12上に正極合剤層13を形成した。これを直径13.5mmの円盤状に打ち抜き裁断し、正極を作製した。正極活物質の塗布重量は、電極単位面積あたり1.7mg/cm2であった。
【0091】
(3)負極の作製
負極活物質としてリチウム金属板16(厚み300μm)を直径15mmの円盤状に打ち抜き、これを直径15mmの円盤状のステンレス鋼製の負極集電体17に重ね合わせ、負極を作製した。
【0092】
(4)電解液の作製
エチレンカーボネートおよびジエチルカーボネートの混合溶媒(体積比1:5)に、支持塩としてほうフッ化リチウム(LiBF4)を1mol/Lの濃度で溶解させ、電解液を作製した。
【0093】
(5)コイン型電池の組み立て
ケース11の内面に正極を、正極集電体がケース11と対向するように配置し、正極の上に多孔質ポリエチレンシートからなるセパレータ14を設置した。上記で得られた電解質をケース11内に注液した。内面に負極が圧着され、周縁部に封止リング18を装着した封口板15を準備した。負極と正極とがセパレータ14を介して対向するように、ケース11の開口部に封口板15を配した。そして、プレス機でケース11の開口端部を樹脂製の封止リング18を介して封口板15の周縁部にかしめて、ケース11を封口板15で封口した。このようにして、評価用のコイン型電池を得た。
【0094】
《実施例3》
以下の方法により、正極活物質として下記の化学式(2b)で表される化合物(以下、化合物2bと表す。)を合成した。
化学式(2b):
【0095】
【化18】

【0096】
化合物2bの合成工程(B)を以下に示す。合成工程で得られる化合物22〜25を経て化合物2bを合成した。合成に用いた化合物は特に記載の無い限り、市販品をそのまま用いた。また、合成は特に記載の無い限り、アルゴン置換したナスフラスコを用いてアルゴン雰囲気下にて実施した。
合成工程(B):
【0097】
【化19】

【0098】
(a)化合物22の合成
化合物21(Aldrich社製)の10.075g(32.84mmol)と、無水水銀酢酸20.95g(65.68mmol)とをナスフラスコに投入し、さらにジクロロメタン600mlを加え、室温にて攪拌した。その後、ろ過、乾燥し、黄色の化合物22を8.14g得た。
【0099】
(b)化合物24の合成
ビス(1,3−ジチオール−2−チオン−4,5−ジチオレート)亜鉛とメチルクロライドをアセトン中で反応させることにより得られた化合物23の1.132g(5mmol)と、化合物22、1.7304g(6mmol)と、亜リン酸トリメチル25mlとをナスフラスコに投入し、110℃で2時間攪拌した。室温に戻し、ヘキサンを用いて洗浄した後、ろ過し、橙色の化合物24を1.68g得た。
【0100】
(c)化合物25の合成
化合物24の1.0g(2.15mmol)をナスフラスコに投入し、乾燥THFを35ml加え、攪拌した。これに、水酸化セシウム一水和物1.44gと、メタノール35mlとを加え、30分間攪拌した。これに、塩化亜鉛0.3gを加え、20分間攪拌し、さらに臭化テトラブチルアンモニウム0.75gを加え、30分間攪拌した後、エバポレータを用いて溶媒を除去した。そこに、乾燥THFを35ml加え、−70℃まで冷却した後、トリホスゲン0.83gを加え、−20℃まで昇温し、メタノールを少量加えた。これに、メタノールを200ml加え、ろ過、乾燥した後、ヘキサンを用いて洗浄し、再度ろ過、乾燥し、赤茶色の化合物25を0.7g得た。
【0101】
(d)化合物2bの合成
化合物25の150mg(0.38mmol)をナスフラスコに投入し、亜リン酸トリエチル5mlと、トルエン5mlとを加え、110℃まで加熱し、2時間攪拌した。その後、室温まで戻し、ヘキサンを用いて洗浄、ろ過、真空乾燥し、黄茶色粉末(化合物2b)を0.1g得た。
正極活物質に化合物2の代わりに化合物2bを用いた以外、実施例1と同様の方法によりコイン型電池を作製した。
【0102】
《実施例4》
以下の方法により、正極活物質として下記の化学式(3b)で表される化合物(以下、化合物3bと表す。)を合成した。
化学式(3b):
【0103】
【化20】

【0104】
化合物3bの合成工程(C)を以下に示す。合成工程で得られる化合物21〜22、26〜28を経由して化合物3bを合成した。合成に用いた化合物は特に記載の無い限り、市販品をそのまま用いた。また、合成は特に記載の無い限り、アルゴン置換したナスフラスコを用いてアルゴン雰囲気下にて実施した。
合成工程(C):
【0105】
【化21】

【0106】
(a)化合物22の合成
化合物21(Aldrich社製)の10.075g(32.84mmol)に、クロロホルム400mlと、酢酸200mlとを投入した後、酢酸水銀20.95g(65.68mmol)を加え、室温にて攪拌した。その後、ろ過、ジクロロメタンを用いて洗浄した後、ろ液を濃縮した。残渣を、カラムクロマトグラフ(展開溶媒:ジクロロメタン)を用いて精製し、無色の化合物22を8.14g得た。
【0107】
(b)化合物27の合成
化合物26の1.23g(10mmol)と、化合物22の1.95g(6.8mmol)と、亜リン酸トリメチル25mlとをナスフラスコに投入し、110℃で2時間攪拌した。室温に戻し、ヘキサンを加えろ過した後、カラムクロマトグラフ(展開溶媒:ジクロロメタン)を用いて精製し、橙色の化合物27を2.4g得た。
【0108】
(c)化合物28の合成
化合物27の0.99g(2.15mmol)をナスフラスコに投入し、THFを35ml加え、攪拌した。これに、水酸化セシウム一水和物1.44gと、メタノール35mlとを加え、30分間攪拌した。これに、塩化亜鉛0.3gを加え、20分間攪拌し、さらに臭化テトラブチルアンモニウム0.75gを加え、30分間攪拌した後、真空ポンプを用いて溶媒を除去した。そこに、乾燥THFを35ml加え、−70℃まで冷却した後、トリホスゲン0.83gを加え、−20℃まで昇温し、メタノールを少量加えた。これに、メタノールを200ml加え、ろ過した後、カラムクロマトグラフ(展開溶媒:二硫化炭素)を用いて精製し、褐色の化合物28を0.1g得た。
【0109】
(d)化合物3bの合成
化合物28の0.14g(0.38mmol)をナスフラスコに投入し、亜リン酸トリエチル5mlと、キシレン5mlとを加え、140℃まで加熱し、4時間攪拌した。その後、室温まで冷却し、ろ過、ヘキサンを用いて洗浄、真空乾燥し、黄茶色粉末(化合物3b)を0.025g得た。
正極活物質に化合物2の代わりに化合物3bを用いた以外、実施例1と同様の方法によりコイン型電池を作製した。
【0110】
[評価]
実施例2のコイン電池を、電流0.133mAおよび電圧範囲2.8〜3.7Vで定電流充放電を繰り返し実施し、1、5、10および50サイクル目の放電容量を求めた。実施例3のコイン電池を、電流0.133mAおよび電圧範囲2.9〜4.1Vで定電流充放電を繰り返し実施し、1、5、10および50サイクル目の放電容量を求めた。実施例4のコイン電池を、電流0.133mAおよび電圧範囲3.0〜4.0Vで定電流充放電を繰り返し実施し、1、5、10および50サイクル目の放電容量を求めた。
その評価結果を表2に示す。なお、表2の放電電圧は、放電電圧曲線におけるプラトーな領域の電圧を示す。
【0111】
【表2】

【0112】
実施例2のコイン型電池の5サイクル目の充放電電圧曲線を図3に示す。図3に示すように、実施例2の電池では、3.7V付近の電圧で充電反応が進行し、3.4V付近の電圧で放電反応が進行することが確認された。化合物2は、これまでに合成方法に関する報告例はあったが、電気化学特性に関する知見は得られていなかった。本発明により、化合物2は電気化学的に酸化還元が可能であり、蓄電デバイスとして用いることが可能であることが初めて確かめられた。
【0113】
実施例3のコイン型電池の5サイクル目の充放電電圧曲線を図4に示す。図4に示すように、実施例3の電池では、3.6Vおよび3.8V付近の電圧で充電反応が進行し、3.7Vおよび3.3V付近の電圧で放電反応が進行することが確認された。化合物2bはこれまでに合成方法に関する報告例はあったが、電気化学特性に関する知見は得られていなかった。本発明により、化合物2bは電気化学的に酸化還元が可能であり、蓄電デバイスとして用いることが可能であることが初めて確かめられた。
また、表2より、実施例2および3の電池は、高電圧、高容量、および優れた繰り返し特性を有することがわかった。
【0114】
実施例4のコイン型電池の5サイクル目の充放電電圧曲線を図5に示す。図5に示すように、実施例4の電池では、3.8V付近の電圧で充電反応が進行し、3.6V付近の電圧で放電反応が進行することが確認された。表2より、実施例4の蓄電デバイスは、高電圧、高容量、優れた繰り返し特性を有することがわかった。
さらに、実施例4のコイン型電池では、実施例1〜3のコイン型電池と比較して、充放電電圧が平坦で変化が少なく、安定した出力特性が得られた。実施例4のコイン型電池では、実施例1〜3のコイン型電池と比較して、放電電圧が高く、高電圧および高容量が得られた。
【0115】
複数個の単電池を直列に接続した組電池を蓄電デバイスとして用いる場合、単電池に、放電電圧が高く、かつ平坦で変化が少ない実施例4の電池を用いるのが好ましい。実施例4の電池を用いて組電池を構成すると、優れた出力特性および充放電特性が安定して得られる。例えば、実施例4のコイン型電池を10個直列に接続すると、36Vの設計出力を有する蓄電デバイスが得られるのに対して、3.7Vおよび3.3Vの2段の放電電圧を有する実施例3のコイン型電池を10個直列に接続すると、33Vの設計出力を有する蓄電デバイスが得られる。
【0116】
蓄電デバイスを動作(充放電)させるための機器に蓄電デバイスを接続する際、一般に、蓄電デバイスの出力電圧を安定化させるためにDC−DCコンバーター等の機器が用いられる。しかし、放電電圧が平坦で変化が少ない、安定した出力特性を有する実施例4の電池、またはそれらの複数個を備える組電池を蓄電デバイスに用いる場合、蓄電デバイスの出力電圧の安定化のための機器を用いる必要がなく、蓄電デバイスを備えた機器のコスト低減および簡素化が可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0117】
本発明の蓄電デバイスは、情報機器および携帯機器等の電源として好適に用いられる。
【符号の説明】
【0118】
11 ケース
12 正極集電体
13 正極合剤層
14 セパレータ
15 封口板
16 リチウム金属板
17 負極集電体
18 封止リング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、一般式(1):
【化1】

(式(1)中、R1〜R4は、それぞれ独立して、水素原子、フッ素原子、不飽和脂肪族基または飽和脂肪族基であり、前記不飽和脂肪族基および前記飽和脂肪族基は、ハロゲン原子、窒素原子、酸素原子、硫黄原子または珪素原子を含んでもよく、前記不飽和脂肪族基および前記飽和脂肪族基は、直鎖状でもよく、環状でもよい。R1およびR2は互いに結合して環を形成してもよい。R3およびR4は互いに結合して環を形成してもよい。また、nは1以上の整数である。)で表される構造を有する化合物を含むことを特徴とする蓄電デバイス用電極活物質。
【請求項2】
前記一般式(1)において、R1〜R4は水素原子であり、n=1であることを特徴とする請求項1記載の蓄電デバイス用電極活物質。
【請求項3】
前記一般式(1)において、R1〜R4は水素原子であり、n=2であることを特徴とする請求項1記載の蓄電デバイス用電極活物質。
【請求項4】
前記化合物は、前記一般式(1)で表される構造を複数有することを特徴とする請求項1記載の蓄電デバイス用電極活物質。
【請求項5】
前記一般式(1)で表される構造を有する化合物は、一般式(2):
【化2】

(式(2)中、R5〜R8は、それぞれ独立して、水素原子、フッ素原子、不飽和脂肪族基または飽和脂肪族基であり、前記不飽和脂肪族基および前記飽和脂肪族基は、ハロゲン原子、窒素原子、酸素原子、硫黄原子または珪素原子を含んでもよく、前記不飽和脂肪族基および前記飽和脂肪族基は、直鎖状でもよく、環状でもよい。R5およびR6は互いに結合して環を形成してもよい。R7およびR8は互いに結合して環を形成してもよい。また、nは1以上の整数である。)で表される構造を有する化合物であることを特徴とする請求項1記載の蓄電デバイス用電極活物質。
【請求項6】
前記一般式(2)において、R5〜R8はメチル基であり、n=2であることを特徴とする請求項5記載の蓄電デバイス用電極活物質。
【請求項7】
前記一般式(2)で表される構造を有する化合物は、一般式(3):
【化3】

(式(3)中、nは1以上の整数である。)で表される化合物であることを特徴とする請求項5記載の蓄電デバイス用電極活物質。
【請求項8】
前記一般式(3)において、n=2であることを特徴とする請求項5記載の蓄電デバイス用電極活物質。
【請求項9】
正極活物質を含む正極と、負極活物質を含む負極と、電解質とを含む蓄電デバイスであって、
前記正極活物質および前記負極活物質の少なくとも一方が、一般式(1):
【化4】

(式(1)中、R1〜R4は、それぞれ独立して、水素原子、フッ素原子、不飽和脂肪族基または飽和脂肪族基であり、前記不飽和脂肪族基および前記飽和脂肪族基は、ハロゲン原子、窒素原子、酸素原子、硫黄原子または珪素原子を含んでもよく、前記不飽和脂肪族基および前記飽和脂肪族基は、直鎖状でもよく、環状でもよい。R1およびR2は互いに結合して環を形成してもよい。R3およびR4は互いに結合して環を形成してもよい。また、nは1以上の整数である。)で表される構造を有する化合物であることを特徴とする蓄電デバイス。
【請求項10】
前記一般式(1)において、R1〜R4は水素原子であり、n=1であることを特徴とする請求項9記載の蓄電デバイス。
【請求項11】
前記一般式(1)において、R1〜R4は水素原子であり、n=2であることを特徴とする請求項9記載の蓄電デバイス。
【請求項12】
前記化合物は、前記一般式(1)で表される構造を複数有することを特徴とする請求項9記載の蓄電デバイス。
【請求項13】
前記一般式(1)で表される構造を有する化合物は、一般式(2):
【化5】

(式(2)中、R5〜R8は、それぞれ独立して、水素原子、フッ素原子、不飽和脂肪族基または飽和脂肪族基であり、前記不飽和脂肪族基および前記飽和脂肪族基は、ハロゲン原子、窒素原子、酸素原子、硫黄原子または珪素原子を含んでもよく、前記不飽和脂肪族基および前記飽和脂肪族基は、直鎖状でもよく、環状でもよい。R5およびR6は互いに結合して環を形成してもよい。R7およびR8は互いに結合して環を形成してもよい。また、nは1以上の整数である。)で表される構造を有する化合物であることを特徴とする請求項9記載の蓄電デバイス。
【請求項14】
前記一般式(2)において、R5〜R8はメチル基であり、n=2であることを特徴とする請求項13記載の蓄電デバイス。
【請求項15】
前記一般式(2)で表される構造を有する化合物は、一般式(3):
【化6】

(式(3)中、nは1以上の整数である。)で表される化合物であることを特徴とする請求項13記載の蓄電デバイス。
【請求項16】
前記一般式(3)において、n=2であることを特徴とする請求項15記載の蓄電デバイス。
【請求項17】
前記電解質が、非水溶媒と、前記非水溶媒中に溶解したアニオンおよびカチオンからなる塩とからなり、
前記非水溶媒が、比誘電率が10以下の溶媒と、比誘電率が30以上の溶媒との混合物からなり、
前記混合物の比誘電率が10以上30以下であることを特徴とする請求項9記載の蓄電デバイス。
【請求項18】
前記比誘電率が10以下の溶媒は、鎖状炭酸エステル、鎖状エステル、および鎖状エーテルからなる群より選ばれる少なくとも1種であり、
前記比誘電率が30以上の溶媒は、環状炭酸エステルおよび環状エーテルからなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項17記載の蓄電デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−27600(P2010−27600A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−110954(P2009−110954)
【出願日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】