電極用材料、電極、リチウムイオン電池、電気二重層キャパシタ、電極用材料の製造方法
【課題】急速充放電、可能とし、導電助剤なしで導電性を有する電極用材料であって、電池電極もしくはキャパシタ電極に使用が可能な電極用材料、電極、電極用材料の製造方法などを提供する。
【解決手段】本発明は、比表面積の大きい酸化チタン(以下、「TiO2」という)を、所定アンモニア雰囲気において所定温度で加熱して、部分的に窒化させて得られる窒化化合物を用いた電極用材料である。この電極用材料により、電池やキャパシタに使用される急速充放電に優れた電極が実現できる。
【解決手段】本発明は、比表面積の大きい酸化チタン(以下、「TiO2」という)を、所定アンモニア雰囲気において所定温度で加熱して、部分的に窒化させて得られる窒化化合物を用いた電極用材料である。この電極用材料により、電池やキャパシタに使用される急速充放電に優れた電極が実現できる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池や電気二重層キャパシタの電極に使用され、急速充放電を可能にする、電極用材料、電極、リチウムイオン電池、キャパシタ、電極用材料の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
充電可能な二次電池として、種々の電子機器などに、リチウムイオン電池、電気二重層キャパシタ、スーパーキャパシタなどが使用されている。リチウムイオン電池は、小型・軽量化が容易であるので、ノートブックパソコン、携帯端末などの電子機器に幅広く使用されている。キャパシタは、コピー機のスタートアップ電源や太陽電池付き街路灯などに利用されている。リチウムイオン電池やキャパシタ(スーパーキャパシタ、電気二重層キャパシタ、ハイブリッドキャパシタなど、電力を供給するさまざまなキャパシタを含む)の電極には、炭素材料が用いられることが多い。
【0003】
充放電が可能な二次電池は、ノートブックパソコン、カメラ、携帯端末などのモバイル機器での分散型電源に使用されるだけでなく、車載電池やUPS電源のように発電機や系統電源での電力平準化用に使用される場合もある。いずれの場合の用途においても、二次電池は、十分な容量と短時間での充放電(急速充放電)とが好まれるが、前者は大容量、後者は急速充放電特性を優先的に必要とする場合が多い。
【0004】
電池には、さまざまな種類があるが、有機系電解液を用いる場合には、水溶液系電解液を用いる場合に比べて起電力が高く、高いエネルギー密度が実現されやすい。有機系電解液を用いる二次電池の中で一般的なのは、上述のリチウムイオン電池およびキャパシタである。
【0005】
リチウムイオン電池は、充放電時に電解液を介した正極と負極との間でリチウムイオンをやり取りする酸化還元反応を、電池機能として有している。リチウムイオン電池の負極用材料としては、黒鉛などの炭素系材料が汎用であり、スズ、バナジウムの酸化物やシリコンなども検討されている。正極は、コバルトやマンガンの酸化物が使われている。
【0006】
一方、キャパシタは、電極界面での非ファラデー反応である電気二重層の形成を基本機能とし、電極上での酸化還元反応を付加的な擬似容量として併用する。キャパシタの電極用材料としては、活性炭のような多孔質炭素が汎用である。
【0007】
ここで、リチウムイオン電池の負極には、黒鉛が使われていることが多い。リチウムイオン電池は、電極へのリチウムイオンの挿入・脱離に伴う酸化還元反応によって、電流を発生させる。しかし、黒鉛を利用した電極は、イオン拡散時間を短くするための粒子の微細化が難しく、急速な充放電が難しかった。
【0008】
キャパシタの電極用材料として、容量を大きくするために比表面積の大きな活性炭が使用される。しかし、活性炭の結晶構造は非晶質であることが多いので導電性が低く、炭素粉末などの導電助剤を添加する必要があった。あるいは、電極の活物質層を薄くし、正極と負極間の抵抗を下げることも行われる。たとえば、ナノメータサイズの活物質を用いることで、活物質内部のイオン拡散の距離を短くしたり、電極の比表面積を増大させて電解液に露出する活物質の面積を大きくしたりすることなどが提案されている。
【0009】
このような観点から、炭素材料を例として、電極用材料において、種々の提案がなされている(例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3参照)。
【特許文献1】特開2003−92235号公報
【特許文献2】特開2004−103669号公報
【特許文献3】特開2008−16456号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ここで提案されている技術は、いずれも炭素材料を基礎として種々の改良を提案する。
【0011】
しかしながら、導電助剤の添加によって導電性が向上しても、飛躍的な急速充放電を実現することは困難である。加えて、導電助剤を添加するということは、コストや製造工程を増加させる問題もある。
【0012】
従来においては、リチウムイオン電池や電気二重層キャパシタを使用する電子機器の必要電流は小さいことが多かった。しかし近年、電子機器のみならず、ハイパワー機器、たとえば自動車・工具などの動力など、大きな電流を必要とする二次電池が多くなっている。提案されている種々の技術は、いずれも炭素材料を基礎とする改良提案であって、リチウムイオン電池の電極に必要とされる高速な酸化還元反応や充放電、電気二重層キャパシタの電極に要求される比表面積と導電性の両立を解決するものではない。加えて、二次電池が、車載電池やUPS電源のように発電機や系統電源での電力平準化用に使用される場合には、急速充放電が必要である。
【0013】
しかしながら、従来の技術や提案されている技術では、急速充放電の面で不十分である。
【0014】
以上のように、従来の技術では、高速な充放電、大容量を蓄積できる比表面積の確保、導電性を有すること、を実現できる電極用材料が提案されていなかった。
【0015】
本発明は、急速充放電、大容量の蓄電を可能とし、導電助剤なしで導電性を有する電極用材料であって、電池電極およびキャパシタ電極の両方に使用が可能な電極用材料、電極、リチウムイオン電池、電気二重層キャパシタ、電極用材料の製造方法を提供することを目的とする。
【0016】
なお、ここでは、電気二重層キャパシタを例としたが、ハイブリッドキャパシタやスーパーキャパシタなどの種々のキャパシタも含む。以下では、キャパシタと記載する場合には、電気二重層キャパシタ、ハイブリッドキャパシタ、スーパーキャパシタなどの種々のキャパシタを含む。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、上記目的を達成するために、比表面積の大きい酸化チタン(以下、「TiO2」という)を、所定アンモニア雰囲気において所定温度で加熱して、部分的に窒化させて得られる窒化化合物を用いた電極用材料を提案する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、酸化チタンナノ粒子のような比表面積の大きな酸化チタンの比表面積の大きさを保ったまま窒化できるので(酸化チタン粒子の構造を維持したまま窒化できるので)、リチウムイオンの挿入空間を一部残しつつ、キャパシタに必要となる大きな二重層容量を確保し、同時に高い導電性をも有する電極用材料が得られる。結果として、リチウムイオン電池の電極用材料、または、キャパシタの電極用材料として使用が可能な電極用材料が得られる。
【0019】
また、本発明の電極用材料は、炭素粉末などの導電助剤を必要とせずに、リチウムイオン電池やキャパシタの電極に使用できる。
【0020】
また、窒化する条件によって、製造される電極用材料の特性を、リチウムイオン電池の電極に最適化したり、キャパシタの電極に最適化したりできるフレキシビリティを有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明の第1の発明に係る電極用材料は、比表面積の大きい酸化チタン(以下、「TiO2」という)を、所定アンモニア雰囲気において所定温度で加熱して、部分的に窒化させて得られる窒化化合物を用いる。
【0022】
この構成により、大きな二重層容量を実現する比表面積とリチウムイオンの挿入脱離特性とを保持した、導電性を有する電極用材料が実現できる。
【0023】
本発明の第2の発明に係る電極用材料では、第1の発明に加えて、TiO2は、アナターゼ型結晶構造を有する。
【0024】
この構成により、比表面積の大きなTiO2を基礎とできるので、比表面積の大きな電極用材料を実現できる。
【0025】
本発明の第3の発明に係る電極用材料では、第1から第2のいずれかの発明に加えて、アンモニア雰囲気は、所定純度のアンモニアガスを含み、所定温度は、750℃〜1000℃である。
【0026】
この構成により、TiO2の比表面積を保持したまま、TiO2が窒化される。
【0027】
本発明の第4の発明に係る電極用材料では、第1から第3のいずれかの発明に加えて、TiO2を封入する加熱可能な加熱炉に所定量のアンモニアを流通させて、TiO2を部分的に窒化させる。
【0028】
この構成により、部分的な窒化が容易に行える。
【0029】
本発明の第5の発明に係る電極用材料では、第1から第4のいずれかの発明に加えて、窒化化合物は、アナターゼ型結晶構造を有するTiO2−xNx(Oは酸素、Nは窒素)を含む。
【0030】
本発明の第6の発明に係る電極用材料では、第1から第4のいずれかの発明に加えて、窒化化合物は、TiN型結晶構造を有するTiNyO1−yを含む。
【0031】
これらの構成により、リチウムイオン電池に最適な電極用材料、またはキャパシタに最適な電極用材料、もしくはリチウムイオン電池とキャパシタとの両者の中間的な性質の電極を実現できる。
【0032】
以下、図面を用いて実施の形態について説明する。
【0033】
(実施の形態1)
まず、発明者が酸化チタンに着目した発想について説明する。
【0034】
(着眼点)
従来の技術で述べたとおり、リチウムイオン電池やキャパシタに使用される電極用材料の開発が要請されている。より幅の広い社会的要求に答えるためには,炭素材料を基礎とする場合には、対応できない部分もあり、炭素材料以外の物質を出発点とする必要がある。前提条件として,リチウムイオン電池の電極に使用できるためには、酸化還元反応を伴ったリチウム挿入脱離反応による電池機能の発現と高速な充放電を実現できること、キャパシタの電極に使用できるためには大容量を蓄積できるように、比表面積が大きいこととが挙げられる。加えて、これらは急速充放電を実現するために内部抵抗を小さく設計できる電極用材料であることが条件である。
【0035】
「1」出発点とする物質の選択
このことから、出発点とする物質の条件としては、(1)比表面積が大きいこと、(2)導電性を有するあるいは有するようにできること、(3)リチウムイオンの挿入脱離特性を有すること、である。このような物質を出発点として、最終的には大容量、急速充放電が可能な電極用材料を得ることが目的である。
【0036】
発明者は、比表面積が大きくリチウムイオン電池の電極としての充放電特性を有する物質として、酸化チタン(TiO2)を選択した。酸化チタンは、光触媒に用いられることから分かるとおり、大きな比表面積を有しているからである。また、TiO2は、リチウムイオン電池の電極としての充放電を行えることも知られている。加えて、TiO2は、様々な用途で多く使用されているので、入手も容易であり、電極用材料としてのコスト力も有している。
【0037】
TiO2は、そのままでは導電性を有していないが、窒化されることで、導電性を生じさせることも知られている。特に窒化されたTiNは、金属に匹敵する高い導電性を有することが知られている。
【0038】
発明者は、これらの点から、上記の条件(1)〜(3)の全てを満たしつつコスト面や製造面での優位性もあると判断し、本発明の電極用材料の出発点となる物質として、TiO2を選択するに至った。
【0039】
「2」出発点となる物質から電極用材料への展開
但し、単純にTiO2を窒化したのでは、二重層容量を確保する大きな比表面積、導電性、などの性質をバランスよく有する電極用材料を作製するのは困難である。
【0040】
そこで、リチウムイオンの挿入脱離特性や大きな比表面積というTiO2の特性を残したまま部分的に窒化することを検討した。部分的に窒化することで、導電性が生じ、リチウムイオンの挿入脱離特性を保持したまま、内部抵抗の低減による高い充放電効率や高い急速充放電能力などを有する電極用材料が実現されると考えられるからである。このとき、TiO2は、比表面積の大きな粒子を作製できるので、この形態を保持したまま窒化して導電性を付与できれば、比表面積の大きなキャパシタの電極用材料を実現できる。このとき、比表面積の大きなTiO2を出発点として窒化する際に、TiO2の構造を制御したまま(比表面積を保持したまま)窒化作業を行うことが重要である。
【0041】
リチウムイオン電池とキャパシタの電極反応は、それぞれ互いの容量を補完しあえる反応として両立させることも可能である(レドックスキャパシタ電極,スーパーキャパシタ電極)。このようにTiO2の構造を制御したままTiO2を部分的に窒化することで、リチウムイオン電池電極としては、高比表面積による二重層容量の付与、キャパシタ電極としては、リチウムイオンの挿入脱離容量の付与が可能である。これらから、(A)リチウムイオンの挿入脱離特性、(B)高比表面積特性を有する出発材料の構造制御、(C)導電性付与の制御、を行いつつ出発材料であるTiO2を部分的に窒化することで、目的とする電極用材料を得られることに、発明者は着眼した。加えて、この電極用材料によって、高い充放電効率および高い急速充放電特性を実現できると考えられる。
【0042】
ここで、リチウムイオン電池やキャパシタの電極構造についても簡単に説明する。詳細には、各種学術文献などで容易に知ることができる。
【0043】
図1は、本発明の実施の形態1における電極の模式図である。図1は、電気二重層キャパシタなどのキャパシタやリチウムイオン電池の電極を中心とした構造を示している。
【0044】
電池1は、正極20a(集電極2aと電極3aとからなる)と負極20b(集電極2bと電極3bとからなる)となる対応する電極を有している。集電極2a、2bは、電子を集めて電流を発生させ、電極3a、3bは、電解液5の中で、電気二重層の形成や酸化還元反応を示す.
キャパシタの場合には、充電時には、正極20aでは、電極3aにマイナスイオンが吸着している。負極20bでは、電極3bにプラスイオンが吸着し、電子が電極3bに蓄積する。放電時には、正極20aでは、電極3aからマイナスイオンが脱着する。負極20bでは、電極3bからプラスイオンが脱着する。この結果、電子が負極20bから正極20aに流れる。
【0045】
リチウムイオン電池の場合には、充電時には、正極20aでは、電極3aからリチウムイオンが脱離して電極3aが酸化される。負極20bでは、電極3bにリチウムイオンが挿入されて電極3bが還元される。放電時には、正極20aでは、電極3aにリチウムイオンが挿入されて電極3aが還元される。負極20bでは、電極3bからリチウムイオンが脱離して電極3bが酸化される。この酸化還元により電流が流れる。
【0046】
ここで、この充放電における電極活物質と外部回路との電子のやり取りにおいて、電極自身の電気伝導率が低いとそれが内部抵抗として働いてしまうので、高い導電性を有する電極材料が望ましい。これは、リチウムイオン電池であっても、キャパシタであっても同様である。
【0047】
なお、キャパシタは、吸着するイオンによって蓄えられる電子の量が多くなるのがよいので、電極用材料の比表面積が大きいことが適当である。また、リチウムイオン電池も、リチウムイオンの電解液に露出した挿入口が多く、電極内部の拡散距離が短い方がよいので、電極用材料の比表面積が大きいことが適当である。
【0048】
リチウムイオン電池やキャパシタは、このような構造を有しているので、引き寄せる電子の量を増やす比表面積、リチウムイオンの充放電(酸化還元反応による)および電極3a、3bと集電極2a、2bとの間の導電性を必要とする。
【0049】
(概要)
次に、実施の形態1における電極用材料の概要について説明する。
【0050】
まず、TiO2を部分的に窒化させて得られる電極用材料の作製フローの全体概要を説明する。
【0051】
図2は、本発明の実施の形態1における電極用材料の作製フローチャートである。図2は、TiO2を出発点として、電極用材料を作製する概略の手順を示している。
【0052】
まず、ステップST1にて、比表面積の大きいTiO2粒子が作製される。ここで、比表面積を大きくするために、TiO2ナノ粒子が作製される。作製されたTiO2ナノ粒子は比表面積が大きい。次に、ステップST2にて、このTiO2ナノ粒子は、所定アンモニア雰囲気と所定温度で加熱される。TiO2ナノ粒子は、アンモニア雰囲気において加熱されることで、窒化を進める。アンモニア分子が有しているN(窒素)原子が、加熱によってTiO2と反応を始めるからである。窒化がある程度進むと、TiO2は、TiO2−xNxに変化し、更に窒化が進むと、TiNyO1−yに変化する。完全には窒化しておらず(すなわち、TiNにはなっていない)、TiO2が部分的に窒化した状態である。この部分的に窒化した窒化化合物は、導電性を有すると共に比表面積が十分に大きく容量を蓄積できる物質である。なお比表面積が大きいとは、結晶構造としては、アナターゼ型結晶構造を有していることを一例として、物質の態様としては、ナノ粒子であることを一例とする。
【0053】
以下、図2のフローチャートに記載の各処理について説明する。
【0054】
(TiO2の作製)
まず、ステップST1にて、比表面積の大きなTiO2材料が作製される必要がある。発明者は、比表面積の大きなTiO2材料であるTiO2粒子を得るために、TiO2のナノ粒子を実際に作製した。TiO2が、大きな比表面積を有する必要があることは、ここで説明する窒化化合物がキャパシタの電極として使用される場合に、蓄積できる容量を高めるためであり、窒化化合物がリチウムイオン電池の電極として使用される場合に、リチウムイオンの拡散距離を短くして導電性を高めるためである。
【0055】
なお、窒化化合物を得るのに用意されるTiO2は、アナターゼ型結晶構造を有していることが好適である。TiO2では、アナターゼ型結晶構造を有するものとルチル型結晶構造を有するものの大きく2つがある。低温で安定であるアナターゼ型のTiO2は、低温条件で合成することが容易であるので、比表面積の大きなTiO2粒子が得られやすい。高温で安定であるルチル型のTiO2は、比表面積の大きなTiO2粒子が得にくい。このため、実施の形態1の電極用材料としての窒化化合物を得るために用意されるTiO2は、アナターゼ型結晶構造を有していることが好適である。
【0056】
(作製例)
発明者は、次の作製例に基づいて、TiO2ナノ粒子を作製した。
【0057】
まず、石原産業(株)製のTiO2を2.5g、KOH(水酸化カリウム)を12.5g、H2O(水)を11.2gとした原材料を、内容積100mlのテフロン(登録商標)製の蓋付容器に入れる。次に、この蓋付容器がステンレス製耐圧容器に固定される。このとき、KOHの濃度は8M、K/Tiの比率は6/1である。
【0058】
次に、固定された蓋付容器が、150℃に設定した温風乾燥機に入れられて、120時間に渡って反応させられる。反応が終わると、反応物はビーカーに取り出されて精製水で洗浄される。さらに反応物は、0.1mol/Lの塩酸水溶液を加えて洗浄される。次いで、洗浄された反応物が入ったこのビーカーが静置され、上澄み液が、そのろ液が中性になるまで、取り除かれる。残った反応物は110℃で乾燥され、TiO2ナノ粒子が得られる。発明者は、この手順で得たTiO2ナノ粒子を、透過電子顕微鏡写真および走査型電子顕微鏡写真にて確認した。
【0059】
図3は、本発明の実施の形態1における、作製されたTiO2ナノ粒子の透過電子顕微鏡写真である。図4は、本発明の実施の形態1における、作製されたTiO2ナノ粒子の走査型電子顕微鏡写真である。
【0060】
電子顕微鏡写真から明らかな通り、TiO2ナノ粒子が作製されている。
【0061】
なお、この作製例で説明したTiO2ナノ粒子の作製方法は一例であり、他の作製方法によってTiO2ナノ粒子が得られても勿論よい。また、比表面積が大きいTiO2粒子であればよく、ナノ粒子であることは必須ではない。また、TiO2がアナターゼ型結晶構造を有していることも好適であるが、絶対条件ではない。要は、キャパシタの電極用材料としての条件である「比表面積が大きい」ということを満足できるTiO2が用意されれば良い。
【0062】
(TiO2の窒化)
次に、ステップST1にて作製された比表面積の大きいTiO2を、部分的に窒化するステップST2について説明する。
【0063】
ステップST2では、TiO2を、所定アンモニア雰囲気において所定温度にて加熱して、TiO2を部分的に窒化する。ここで、所定アンモニア雰囲気の一例は、純度が99.9999%以上のアンモニアガスを、加熱炉に充填することである。このとき、加熱炉に最初からアンモニアガスが充填されておいてもよく、加熱時間の経過と共に徐々にアンモニアガスが供給されても良い。
【0064】
所定温度は、750℃〜1000℃であることが好適である。後述するが、この温度範囲であれば、TiO2の比表面積を大きく保ったままで窒化が行われるからである。この所定アンモニア雰囲気および所定温度によって、加熱が可能な加熱炉に封入されたTiO2が加熱され、窒化される。
【0065】
(作製例)
発明者は、次の作製例に基づいて、TiO2を実際に窒化して、電極用材料として好適な窒化化合物を得た。
【0066】
ステップST1で得られた重量0.5gのTiO2ナノ粒子を、石英ガラスで作られた内径16mmの反応管に封入する。ついで、この反応管をアルミナで作られた内径29mmの電気炉炉心管に設置する。この反応管に、純度99.9999%のアンモニアガスを、毎分50ml(ミリリットル)流入させる。この流入により、加熱の間中、反応管内部には純度の高いアンモニアガスが充填されていることになる。この状態において、電気炉の温度を徐々に上げていく。なお、加熱炉の形状やサイズ、アンモニアガスの純度および流入ペースは一例であり、これ以外の設定でもよい。ただ、アンモニア純度が高いことで、加熱温度を非常な高温にする必要が無いメリットがある。加熱温度が高すぎると、TiO2の粒子が凝集を起こして比表面積が小さくなる問題が生じる。このため、加熱温度は一定温度以下であることが必要である。しかし、アンモニアガス純度が低い場合には、低い加熱温度では十分な窒化が進まない問題もある。
【0067】
図5は、本発明の実施の形態1における反応管内部のTiO2の重量変化を示すグラフである。
【0068】
電気炉の温度を徐々に上げていくと、図5に示されるように、TiO2の重量が変化を示す。図5から明らかな通り、室温から600℃くらいまでは、TiO2が含有する水分の脱水によりTiO2の重量が減少し、750℃〜1200℃くらいにかけては窒化によりTiO2の重量が減少していると考えられる。この窒化による重量の減少は、(化1)により表される。すなわち750℃以上の温度で加熱されることで、TiO2は、アンモニアガスと反応して窒化される。
【0069】
【化1】
【0070】
ここで、所定温度を1000℃〜1200℃にした場合には、加熱温度が高すぎて、TiO2は、完全に窒化してTiNになってしまう。特に1200℃程度の高温にて加熱した場合には、比表面積が減少したTiNとなってしまい(TiO2が凝集を起こすことも、比表面積減少の一因と考えられる)、キャパシタの電極用材料に不適である。キャパシタとして使用される電極用材料は、導電性に加えて、大きな比表面積が必須条件であるからである。
【0071】
図6は、本発明の実施の形態1における1200℃で加熱した試料のXRDパターンである。図6のXRDパターンから、1200℃で加熱した場合には、TiO2は、すべてTiNに変化していることがわかる。このため所定温度が1000℃を超えて1200℃までになってしまうと、加熱されたTiO2は、部分的な窒化ではなく完全な窒化が行われてしまう。このため、TiO2の部分的窒化における所定温度の上限は1000℃であることが好ましい。
【0072】
また、750℃未満では、図5から明らかな通り、TiO2は、脱水反応だけを示し、窒化を生じさせていないと考えられる。
【0073】
以上のことから、TiO2の窒化を生じさせる加熱における所定温度は、750℃〜1000℃であることが好適である。
【0074】
このように、所定アンモニア雰囲気と所定温度によってTiO2を加熱することで、部分的に窒化された窒化化合物が得られる。
【0075】
再度まとめると、純度99.9999%以上のアンモニアガスを封入した所定アンモニア雰囲気の反応炉の中に、ステップST1で得られた比表面積の大きなTiO2を封入する。この反応炉を、750℃〜1000℃の所定温度によって加熱して、TiO2を部分的に窒化して、窒化化合物を得る。この窒化化合物は、電極用材料として好適に使用できる。なお、比表面積の大きなTiO2は、ステップST1で得られても良く、それ以外の方法で得られても良い。また、ここで説明した所定アンモニア雰囲気と所定温度は、好適な一例であり、大きな比表面積を保ちつつ導電性を有するTiO2の窒化化合物が得られれば、他の数値による所定アンモニア雰囲気であっても所定温度であってもよい。もちろん、使用する加熱炉や反応炉なども他の形態やサイズであってもよい。
【0076】
なお、所定温度を800℃、1000℃、1200℃として加熱して得られた窒化化合物のXRD解析結果を図7に示す。図7は、本発明の実施の形態1における、加熱された試料のXRDパターンである。図7より明らかな通り、加熱温度が高くなるにつれて、TiN(窒化チタン)の結晶構造が主となってくることが分かる。このように、窒化前のTiO2の結晶構造を制御しながら、窒化を行える。このため、容量や導電性に係る比表面積に係る構造が、窒化の前後で保持できる。
【0077】
以上のような手順によって、大きな比表面積を維持したまま、導電性を有するTiO2の窒化化合物を得ることができる。
【0078】
(窒化化合物について)
次に、ステップST1およびステップST2により得られる窒化化合物について説明する。ここで、ステップST1で得られるTiO2がアナターゼ型結晶構造を有しているとする。図2より明らかな通り、ステップST2によりTiO2の窒化が進むと、まずはアナターゼ型結晶構造を有するTiO2−xNxに変化する。TiO2−xNxは、一定の窒化が進んだ状態であるので、導電性を有し始めている。このため、TiO2−xNxは、リチウムイオン電池の電極用材料に使用できる。更に窒化が進むと(加熱時間や加熱温度が進むと)、TiO2は、TiN型結晶構造を有するTiNyO1−yに変化する。
【0079】
このとき結晶構造が変わるので、リチウムイオンの挿入脱離能力は低下するが、窒化物相が増えるので導電性は向上する。
【0080】
TiO2−xNxとTiNyO1−yの組成は、リチウムイオン挿入脱離が可能で導電性が高いので、リチウムイオン電池およびキャパシタの電極用材料として利用可能であるが、TiO2−xNxは、リチウムイオンの挿入空間がより多いので、一定の電圧でリチウムイオンが挿入されるリチウムイオン電池としての利用が好ましい。一方、TiNyO1−yは、リチウムイオンの挿入空間が小さくなるので、電気二重層容量を優先的に用いたキャパシタ電極として活用されることが好ましい。組成における「x」、「y」の値と、リチウムイオンの挿入能力、導電性とは、互いに相関関係を有しているので、必要とする電池やキャパシタの要求仕様に応じて、窒化の度合いが制御されればよい。窒化の度合いが制御されることで、作製される電極用材料が、リチウムイオン電池を対象とするのか、キャパシタを対象とするのかを切り替えることができる。
【0081】
このように、実施の形態1における電極用材料は、窒化度合いの調節によって、対象となる電極のそれぞれの特性に合わせることができる。所定アンモニア雰囲気および所定温度の環境下において、比表面積の大きいTiO2を窒化することで、電極用材料を得ることにより、使用目的への最適なあわせこみが可能である。
【0082】
次に、作製された窒化化合物の電極特性について説明する。
【0083】
(導電性確認の実験)
発明者は、作製された窒化化合物(TiNyO1−y)の導電性を実験により確認した。
【0084】
発明者は、リチウムメタルを用いて参照電極と集電極を作製し、ステップST1〜ステップST2により得られた窒化化合物にポリビニルフッ化ビニリデンを20重量%加えてアルミメッシュに圧着して作用極を作製した。電解液には、1MLiBF4エチレンカーボネート/ジエチルカーボネート溶液が用いられた。
【0085】
走印範囲を1.2Vから4V(場合によっては5V)とし、走印速度をV/分として、市販のTiO2ナノ粒子とステップST2において1000℃で加熱して部分窒化させた窒化化合物(TiNyO1−y)とのそれぞれにおいて、サイクリックボルタモグラムを測定した。測定結果を図8、図9に示す。図8は、本発明の実施の形態1における市販のTiO2に関するサイクリックボルタモグラムであり、図9は、本発明の実施の形態1における1000℃で窒化して得られたTiO2の窒化化合物に関するサイクリックボルタモグラムである。
【0086】
図8、図9の縦軸は、電流密度の値であり、横軸は電位である。
【0087】
図8から明らかな通り、2V〜5Vの範囲において、酸化還元反応は生じていない。2V以下では還元電流が観察されるが、1.2Vでの還元から酸化への走引の切り替え時における立ち上がりが傾いており、TiO2の電気導電性が低く、電極の抵抗値が高いことを示している。縦軸の電流密度が低いことからもこの点は推測される。すなわち、電池の充放電に相当する可逆的な反応がほとんど起きていないことが分かる。市販のTiO2ナノ粒子は、それだけでは導電性を有していないことから、活物質の大部分が電気的に絶縁されている。導電剤である炭素粒子などを添加することで、各TiO2ナノ粒子間の電気的接続が行われ、電極全体に導電の経路を確保することができる。
【0088】
一方、図9から明らかな通り、1V〜4.5Vの範囲において、可逆的な酸化還元電流の対が観察される。酸化還元容量を有することが、本実験よりも明らかである。すなわち、TiO2を所定アンモニア雰囲気および所定温度(ここでは1000℃)で窒化して得られる窒化化合物(TiNyO1−y)は、それ自身が導電性を有することで、ほぼすべての活物質が導電助剤を加えなくても電気的に接続され、有効利用可能となっていることが実験よりも明らかである。導電性があれば、カーボン粉末などの導電助剤を必要とせずに、リチウムイオン電池やキャパシタの電極を実現できる。ここで、図8、図9のグラフにおいて、電流密度が正の領域は、酸化電流の存在を示し、負の領域は、還元電流の存在を示す。
【0089】
以上のように、安定電位窓および酸化還元反応電位の確認実験とその実験結果である図8、図9から、TiO2を窒化させた窒化化合物(TiNyO1−y)は、それ自体が導電性を有していることが確認され、リチウムイオン電池やキャパシタの電極用材料に使用可能である。このように、作製された窒化化合物は、可逆的な酸化還元電流を有し、リチウムイオン電池やキャパシタの電極用材料として使用可能であることが、実験からも証明された。
【0090】
(充放電能力の実験)
次に、発明者は作製された窒化化合物(TiNyO1−y)の充放電性能を実験により確認した。上述の導電性の確認実験により、作製された窒化化合物が電極用材料として使用可能であるという基礎的な性能を有していることが証明された。充放電能力は、電池の充電間隔における使用可能時間を示すものであり、実際の電池の1つの指標となる。
【0091】
充放電性能については、種々の見方のパラメータがあるが、ここでは、充電できる充電容量の値および充電後に放電できる放電容量の値、および充電容量と放電容量の比率を確認した。充電容量が大きいことは、リチウムイオン電池やキャパシタの電極用材料として好適であることを示す。また、充電容量と放電容量との比率が高いことも、リチウムイオン電池やキャパシタの電極用材料として好適であることを示す。
【0092】
すなわち、充電した電流をできるだけすべて放電して使用できる電池は、高いエネルギー効率を有する。このとき、電池の内部抵抗が大きいと、充電から放電に正極と負極を切り替えたときに、オーム抵抗損によって熱として電力が消費される。したがって、電池の内部抵抗はできるだけ小さいほうがよい。特に、大電流を流す急速充放電やハイパワー充放電においては、熱損失をできるだけ抑える必要がある。このように、電池の充電容量と放電容量の比(サイクル効率)は、電池の内部抵抗を評価する目安となる。
【0093】
発明者は、導電性確認の実験と同じく、リチウムメタルを用いて参照電極と対極を作製し、ステップST1〜ステップST2により得られた窒化化合物にポリビニルフッ化ビニリデンを20重量%加えてアルミメッシュに圧着して作用極を作製した。1MLiBF4エチレンカーボネート/ジエチルカーボネート溶液を用いた電解液に、参照電極、対極、作用極が浸されて、各電極に電圧が与えられる。更に、発明者は、電流密度を50mAh/gとして、電極における充放電を行った。このとき、発明者は、実施の形態1における窒化化合物(TiNyO1−y)に対する比較用として、ステップST1で得られた窒化のされていないTiO2ナノ粒子、市販されているTiN(窒化チタン)を用いた。
【0094】
加えて、窒化化合物(TiNyO1−y)においては、800℃で窒化して得られた窒化化合物と、1000℃で窒化して得られた窒化化合物が用意された。
【0095】
すなわち、発明者は、充放電能力の実験において、
(1)窒化されていないTiO2ナノ粒子
(2)800℃で窒化された窒化化合物
(3)1000℃で窒化された窒化化合物
(4)市販のTiN
の4つの電極用材料によって作用極を作製し、充放電実験を行った。
【0096】
充放電実験の結果を、図10に示す。図10は、本発明の実施の形態1における充放電実験の結果を示すグラフである。図10(a)は、上記の4つの電極用材料(1)〜(4)についての充電実験の結果を示し、図10(b)は、上記の4つの電極用材料(1)〜(4)についての放電実験の結果を示す。
【0097】
また、(表1)に、実験結果より得られる充電容量の値、放電容量の値、充放電効率(放電容量の値を充電容量の値で除算した値)を示す。表1を見ることで、電極用材料(1)〜(4)の各々での性能の違いが容易に分かる。
【0098】
【表1】
【0099】
表1より明らかな通り、電極用材料(1)の窒化されていないTiO2ナノ粒子は、47mAh/gの充電容量の値、32mAh/gの放電容量の値および68%の充放電効率を有している。
【0100】
電極用材料(2)の800℃で窒化された窒化化合物は、47mAh/gの充電容量の値、43mAh/gの放電容量の値および91%の充放電効率を有している。
【0101】
電極用材料(3)の1000℃で窒化された窒化化合物は、20mAh/gの充電容量の値、19mAh/gの放電容量の値および95%の充放電効率を有している。
【0102】
電極用材料(4)の市販のTiNは、1.4mAh/gの充電容量、1.4mAh/gの放電容量および100%の充放電効率を有している。
【0103】
表1の結果より明らかな通り、窒化されていないTiO2ナノ粒子(電極用材料(1))は、充放電効率が非常に悪い。これは、窒化されていないので導電性が乏しく、集電極のアルミメッシュ近傍に存在する粒子のみが活用されているだけで、電気的接触が不完全で挿入されたリチウムイオンが完全に脱離されないことにより効率が低くなる.従って窒化されていないTiO2ナノ粒子は、リチウムイオン電池やキャパシタの電極用材料として不適である。
【0104】
また、市販のTiN(電極用材料(4))は、充放電効率は高いが、充電容量が極めて小さい(放電容量も当然ながらきわめて小さい)。TiNは、導電性を有しているが、リチウムイオン挿入、電気二重層ともにほとんど容量を示さず、キャパシタの電極用材料としては不適である。
【0105】
これに対して、電極用材料(2)、(3)の窒化化合物は、それぞれ高い充放電効率を有している。これは窒化によってTiO2が導電性を有し、酸化還元反応を伴うリチウムイオンの挿入脱離反応がスムーズに行えるようになったことが原因と考えられる.従って、電極用材料(2)、(3)は、リチウムイオン電池およびキャパシタのいずれの電極用材料にも適している。800℃で窒化された窒化化合物も1000℃で窒化された窒化化合物も、十分な値の充電容量を有しているが、より高温、すなわち窒化がより進むとリチウムイオン挿入空間が徐々に失われるので、容量が小さくなる傾向が生じる。反対に、より高温では導電性の高い窒化物相の割合が大きくなるため、内部抵抗が小さくなり、充放電効率は大きくなる。このことから、充放電容量の大きさを優先する機器と充放電効率を優先する機器などの要求に合わせて、窒化化合物の作製条件が決められればよい。言い換えると、窒化化合物の作製条件を変える事で、使用される機器の特性や要求に合わせた電極用材料(ひいては、電極、リチウムイオン電池、キャパシタ)が実現できる。言い換えると、窒化化合物の作製条件によって、充放電容量を優先するキャパシタに適した電極用材料を得ることもできるし、急速充放電を優先するリチウムイオン電池に適した電極用材料を得ることもできる。
【0106】
(急速充放電特性の実験)
次に、発明者は急速充放電特性(ハイレート特性)の確認実験を行った。急速充放電特性の目安として、電池やキャパシタから様々な電流値で放電が行われた場合に、低電流値での放電容量に比べ、どの程度の容量を保持しているかを示す。大きな電流で維持できる容量が高いことは、急速充放電においても内部抵抗による電力ロスが小さいことを示す。
【0107】
発明者は、充放電効率の実験と同様に、リチウムメタルを用いて参照電極と対極を作製し、ステップST1〜ステップST2により得られた窒化化合物にポリビニルフッ化ビニリデンを20重量%加えてアルミメッシュに圧着して作用極を作製した。1MLiBF4エチレンカーボネート/ジエチルカーボネート溶液を用いた電解液に、参照電極、対極、作用極が浸されて、各電極に電圧が与えられる。
【0108】
ここで、発明者は、ステップST2において1000℃で窒化された窒化化合物(TiNyO1−y)による電極用材料を実験対象として、市販のキャパシタ用活性炭に10重量%のカーボンブラックを導電助剤として添加した電極用材料を比較対象として実験を行った。すなわち、作用極に使用された電極用材料は、一つにはステップST2において1000℃で窒化された窒化化合物(TiNyO1−y)であり、一つには市販のキャパシタ用活性炭に10重量%のカーボンブラックを導電助剤として添加した材料である。
【0109】
発明者は、電流密度を50mA/g、100mA/g、200mA/g、500mA/g、1000mA/g、2000mA/gとして急速充放電実験を行った。
【0110】
実験結果は、図11に示される。図11は、本発明の実施の形態1における急速充放電実験の結果を示すグラフである。図11(a)は、比較対象である市販のキャパシタ用活性炭に10重量%のカーボンブラックを導電助剤として添加した材料を電極用材料とした場合の結果を示す。図11(b)は、実験対象であるステップST2において1000℃で窒化された窒化化合物(TiNyO1−y)を電極用材料とした場合の結果を示す。図11に示されるグラフの縦軸は作用極電圧であり、横軸は、それぞれの材料の50mA/gでの放電容量を100%としたときの、各電流値での容量維持率である。
【0111】
図11に示されるグラフより明らかな通り、1000℃で窒化された窒化化合物は、1000mA/gの高速放電においても、70%近い容量を保持している。これに対して、市販のキャパシタ用活性炭にカーボンブラックを導電助剤として添加した材料の場合には、1000mA/gの高速放電においては、10%未満の容量しか保持できない。このことからも、実施の形態1による窒化化合物を用いた電極用材料が市販キャパシタ用材料である活性炭と比べても、急速充放電特性(ハイレート特性)に優れていることが分かる。
【0112】
以上のように、実施の形態1における電極用材料は、(A)窒化処理による高い導電性、(B)高効率の充放電性能、(C)高い急速充放電特性、(D)比表面積の大きな(アナターゼ型結晶構造など)TiO2を出発点として比表面積を維持している、ことにより、リチウムイオン電池およびキャパシタの電極のいずれにも適している。特に、カーボンブラックのような導電助剤を添加する必要がないので、製造も容易である上、コストも低減できる。
【0113】
なお、各実験の中で使用された窒化化合物は、実施の形態1において説明されたステップST1およびステップST2によって作製されたものであり、上記の実験の説明記載での窒化化合物は、実施の形態1で説明されたステップST1〜ST2によって作製された窒化化合物を指している。
【0114】
(実施の形態2)
次に実施の形態2について説明する。
【0115】
実施の形態2では、実施の形態1で説明した電極用材料を用いた電極、リチウムイオン電池、キャパシタについて説明する。
【0116】
実施の形態2で説明した電極用材料は、リチウムイオン電池やキャパシタの電極に用いることができる。例えば、実施の形態1で発明者が行った実験のように、リチウムメタルを用いて参照電極と対極を作製し、ステップST1〜ステップST2により得られた窒化化合物にポリビニルフッ化ビニリデンを20重量%加えてアルミメッシュに圧着して作用極を作製できる。作用極が、実施の形態1で作製された電極用材料により形成される電極である。
【0117】
この電極を用いて、リチウムイオン電池およびキャパシタを作製できる。
【0118】
図12は、本発明の実施の形態2におけるリチウムイオン電池もしくはキャパシタの模式図である。便宜上、図12とその説明では、リチウムイオン電池とキャパシタを総称して電池と呼ぶ。
【0119】
電池10は、筐体11、正極30a(集電極12aと電極13aとからなる)、負極30b(集電極12bと電極13bとからなる)、セパレータ14、電解液15を備えている。ここで、正極30aと負極30bとは対である。集電極12a、12bは、電子を集めて電流を発生させ、電極13a、13bでは、電解液15の中で、酸化還元反応あるいは電気二重層形成が起こる。
【0120】
キャパシタの場合には、充電時には、正極30aでは、電極13aにマイナスイオンが吸着している。負極30bでは、電極13bにプラスイオンが吸着し、電子が電極13bに蓄積する。放電時には、正極30aでは、電極13aからマイナスイオンが脱着する。負極30bでは、電極13bからプラスイオンが脱着する。この結果、電子が負極30bから正極30aに流れる。
【0121】
リチウムイオン電池の場合には、充電時には、正極30aでは、電極13aからリチウムイオンが脱離して電極13aが酸化される。負極30bでは、電極13bにリチウムイオンが挿入されて電極13bが還元される。放電時には、正極30aでは、電極13aにリチウムイオンが挿入されて電極13aが還元される。負極30bでは、電極13bからリチウムイオンが脱離して電極13bが酸化される。この酸化還元により電流が流れる。
【0122】
ここで、この充放電における電極活物質と外部回路との電子のやり取りにおいて、電極自身の電気伝導率が低いとそれが内部抵抗として働いてしまうので、高い導電性を有する電極材料が望ましい。これは、リチウムイオン電池であっても、キャパシタであっても同様である。
【0123】
なお、キャパシタは、吸着するイオンによって蓄えられる電子の量が多くなるのがよいので、電極用材料の比表面積が大きいことが適当である。また、リチウムイオン電池も、リチウムイオンの電極内部の拡散距離が短い方がよいので、電極用材料の比表面積が大きいことが適当である。
【0124】
ここで、電極13a、13bは、実施の形態1で説明された電極用材料によって作製されるので、容量が大きく、導電性もあるので、リチウムイオン電池およびキャパシタのいずれにも最適である。
【0125】
また、実施の形態2のリチウムイオン電池およびキャパシタは、導電性、容量の大きさ、充放電効率、急速充放電特性のいずれにも優れ(実施の形態1での実験結果より明らかな通り)、高い電流値や長い持続時間を要求する電子機器に最適に利用できる。結果として、実施の形態2のリチウムイオン電池およびキャパシタを使用した電子機器は、そのコストを低減できる。
【0126】
(実施の形態3)
電極用材料の製造方法について図2を用いて説明する。
【0127】
図2は、TiO2を出発点として、電極用材料を作製する概略の手順を示している。図2から明らかな通り、電極用材料の製造方法は、ステップST1とステップST2を含む。
【0128】
(ステップST1)
まず、ステップST1にて、比表面積の大きいTiO2粒子が作製される。ここで、比表面積の大きなTiO2粒子を必要とするため、TiO2ナノ粒子が作製される。作製されたTiO2ナノ粒子は比表面積が大きい。
【0129】
まず、石原産業(株)製のTiO2を2.5g、KOH(水酸化カリウム)を12.5g、H2O(水)を11.2gとした原材料が、内容積100mlのテフロン(登録商標)製の蓋付容器に投入される。次に、この蓋付容器がステンレス製耐圧容器に固定される。このとき、KOHの濃度は8M、K/Tiの比率は6/1である。
【0130】
次に、この固定された蓋付容器が、150℃に設定した温風乾燥機に入れられて、120時間に渡って反応させられる。反応が終わると、反応物はビーカーに取り出されて精製水で洗浄される。さらに反応物は、0.1mol/Lの塩酸水溶液を加えて洗浄される。ついで、洗浄された反応物が入ったこのビーカーを静置して、上澄み液が、そのろ液が中性になるまで、取り除かれる。残った反応物が110℃で乾燥され、TiO2ナノ粒子が得られる。
【0131】
なお、窒化化合物を得るのに用意されるTiO2は、アナターゼ型結晶構造を有していることが好適である。TiO2では、アナターゼ型結晶構造を有するものとルチル型結晶構造を有するものの大きく2つがある。ここで、アナターゼ型結晶構造を有するTiO2は、ルチル型結晶構造を有するTiO2に比較して比表面積が大きい。このため、実施の形態1の電極用材料としての窒化化合物を得るために用意されるTiO2は、アナターゼ型結晶構造を有していることが好適である。
【0132】
(ステップST2)
ステップST2では、このTiO2ナノ粒子は、所定アンモニア雰囲気と所定温度で加熱される。TiO2ナノ粒子は、アンモニア雰囲気において加熱されることで、窒化を進める。アンモニア分子が有しているN(窒素)原子が、加熱によってTiO2と反応を始めるからである。窒化がある程度進むと、TiO2は、TiO2−xNxに変化し、更に窒化が進むと、TiNyO1−yに変化する。完全には窒化しておらず(すなわち、TiNにはなっていない)、TiO2が部分的に窒化した状態である。この部分的に窒化した窒化化合物は、導電性を有すると共に比表面積が十分に大きく容量を蓄積できる物質である。
【0133】
ステップST1で得られた重量0.5gのTiO2ナノ粒子が、石英ガラスで作られた内径16mmの反応管に封入される。ついで、この反応管がアルミナで作られた内径29mmの電気炉炉心管に設置される。この反応管に、純度99.9999%のアンモニアガスが、毎分50ml(ミリリットル)ずつ流入される。この流入により、加熱の間中、反応管内部には純度の高いアンモニアガスが充填されていることになる。この状態において、電気炉の温度が徐々に上げられる。なお、アンモニアガスの純度および流入ペースは一例であり、これ以外の設定でもよい。ただ、アンモニア純度が高いことで、加熱温度を非常な高温にする必要の無いメリットがある。加熱温度が高すぎると、TiO2の粒子が凝集を起こして比表面積が小さくなる問題が生じる。このため、加熱温度は一定温度以下であることが必要である。しかし、アンモニアガス純度が低い場合には、低い加熱温度では十分な窒化が進まない問題もある。
【0134】
ここでは、750℃〜1000℃の間でTiO2が加熱されて窒化される。この温度範囲であれば、比表面積を保ったままTiO2が部分的に窒化した窒化化合物が得られる。
【0135】
このステップST1とステップST2の製造方法を経て、実施の形態1に説明される電極用材料が製造される。
【0136】
この製造方法によって、(A)窒化処理による高い導電性、(B)高効率の充放電性能、(C)高い急速充放電特性、(D)比表面積の大きな(アナターゼ型結晶構造など)TiO2を出発点としてこの比表面積を維持している、電極用材料が製造される。
【0137】
以上、実施の形態1〜3で説明された電極用材料、電極、リチウムイオン電池、キャパシタ、電極用材料の製造方法は、本発明の趣旨を説明する一例であり、本発明の趣旨を逸脱しない範囲での変形や改造を含む。
【0138】
特に、実施の形態1〜3で説明された電極用材料の製造において使用される材料についての記載や定義は一例であり、他の材料や他の供給者からの材料を使用して、同等の電極用材料を得ることを妨げない。
【図面の簡単な説明】
【0139】
【図1】本発明の実施の形態1における電極の模式図
【図2】本発明の実施の形態1における電極用材料の作製フローチャート
【図3】本発明の実施の形態1における、作製されたTiO2ナノ粒子の透過電子顕微鏡写真
【図4】本発明の実施の形態1における、作製されたTiO2ナノ粒子の走査型電子顕微鏡写真
【図5】本発明の実施の形態1における反応管内部のTiO2の重量変化を示すグラフ
【図6】本発明の実施の形態1における1200℃で加熱した試料のXRDパターン
【図7】本発明の実施の形態1における、加熱された試料のXRDパターン
【図8】本発明の実施の形態1における市販のTiO2に関するサイクリックボルタモグラム
【図9】本発明の実施の形態1における1000℃で窒化して得られたTiO2の窒化化合物に関するサイクリックボルタモグラム
【図10】本発明の実施の形態1における充放電実験の結果を示すグラフ
【図11】本発明の実施の形態1における急速充放電実験の結果を示すグラフ
【図12】本発明の実施の形態2におけるリチウムイオン電池もしくはキャパシタの模式図
【符号の説明】
【0140】
1 電池
2a、2b 集電極
3a、3b 電極
4 セパレータ
5 電解液
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池や電気二重層キャパシタの電極に使用され、急速充放電を可能にする、電極用材料、電極、リチウムイオン電池、キャパシタ、電極用材料の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
充電可能な二次電池として、種々の電子機器などに、リチウムイオン電池、電気二重層キャパシタ、スーパーキャパシタなどが使用されている。リチウムイオン電池は、小型・軽量化が容易であるので、ノートブックパソコン、携帯端末などの電子機器に幅広く使用されている。キャパシタは、コピー機のスタートアップ電源や太陽電池付き街路灯などに利用されている。リチウムイオン電池やキャパシタ(スーパーキャパシタ、電気二重層キャパシタ、ハイブリッドキャパシタなど、電力を供給するさまざまなキャパシタを含む)の電極には、炭素材料が用いられることが多い。
【0003】
充放電が可能な二次電池は、ノートブックパソコン、カメラ、携帯端末などのモバイル機器での分散型電源に使用されるだけでなく、車載電池やUPS電源のように発電機や系統電源での電力平準化用に使用される場合もある。いずれの場合の用途においても、二次電池は、十分な容量と短時間での充放電(急速充放電)とが好まれるが、前者は大容量、後者は急速充放電特性を優先的に必要とする場合が多い。
【0004】
電池には、さまざまな種類があるが、有機系電解液を用いる場合には、水溶液系電解液を用いる場合に比べて起電力が高く、高いエネルギー密度が実現されやすい。有機系電解液を用いる二次電池の中で一般的なのは、上述のリチウムイオン電池およびキャパシタである。
【0005】
リチウムイオン電池は、充放電時に電解液を介した正極と負極との間でリチウムイオンをやり取りする酸化還元反応を、電池機能として有している。リチウムイオン電池の負極用材料としては、黒鉛などの炭素系材料が汎用であり、スズ、バナジウムの酸化物やシリコンなども検討されている。正極は、コバルトやマンガンの酸化物が使われている。
【0006】
一方、キャパシタは、電極界面での非ファラデー反応である電気二重層の形成を基本機能とし、電極上での酸化還元反応を付加的な擬似容量として併用する。キャパシタの電極用材料としては、活性炭のような多孔質炭素が汎用である。
【0007】
ここで、リチウムイオン電池の負極には、黒鉛が使われていることが多い。リチウムイオン電池は、電極へのリチウムイオンの挿入・脱離に伴う酸化還元反応によって、電流を発生させる。しかし、黒鉛を利用した電極は、イオン拡散時間を短くするための粒子の微細化が難しく、急速な充放電が難しかった。
【0008】
キャパシタの電極用材料として、容量を大きくするために比表面積の大きな活性炭が使用される。しかし、活性炭の結晶構造は非晶質であることが多いので導電性が低く、炭素粉末などの導電助剤を添加する必要があった。あるいは、電極の活物質層を薄くし、正極と負極間の抵抗を下げることも行われる。たとえば、ナノメータサイズの活物質を用いることで、活物質内部のイオン拡散の距離を短くしたり、電極の比表面積を増大させて電解液に露出する活物質の面積を大きくしたりすることなどが提案されている。
【0009】
このような観点から、炭素材料を例として、電極用材料において、種々の提案がなされている(例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3参照)。
【特許文献1】特開2003−92235号公報
【特許文献2】特開2004−103669号公報
【特許文献3】特開2008−16456号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ここで提案されている技術は、いずれも炭素材料を基礎として種々の改良を提案する。
【0011】
しかしながら、導電助剤の添加によって導電性が向上しても、飛躍的な急速充放電を実現することは困難である。加えて、導電助剤を添加するということは、コストや製造工程を増加させる問題もある。
【0012】
従来においては、リチウムイオン電池や電気二重層キャパシタを使用する電子機器の必要電流は小さいことが多かった。しかし近年、電子機器のみならず、ハイパワー機器、たとえば自動車・工具などの動力など、大きな電流を必要とする二次電池が多くなっている。提案されている種々の技術は、いずれも炭素材料を基礎とする改良提案であって、リチウムイオン電池の電極に必要とされる高速な酸化還元反応や充放電、電気二重層キャパシタの電極に要求される比表面積と導電性の両立を解決するものではない。加えて、二次電池が、車載電池やUPS電源のように発電機や系統電源での電力平準化用に使用される場合には、急速充放電が必要である。
【0013】
しかしながら、従来の技術や提案されている技術では、急速充放電の面で不十分である。
【0014】
以上のように、従来の技術では、高速な充放電、大容量を蓄積できる比表面積の確保、導電性を有すること、を実現できる電極用材料が提案されていなかった。
【0015】
本発明は、急速充放電、大容量の蓄電を可能とし、導電助剤なしで導電性を有する電極用材料であって、電池電極およびキャパシタ電極の両方に使用が可能な電極用材料、電極、リチウムイオン電池、電気二重層キャパシタ、電極用材料の製造方法を提供することを目的とする。
【0016】
なお、ここでは、電気二重層キャパシタを例としたが、ハイブリッドキャパシタやスーパーキャパシタなどの種々のキャパシタも含む。以下では、キャパシタと記載する場合には、電気二重層キャパシタ、ハイブリッドキャパシタ、スーパーキャパシタなどの種々のキャパシタを含む。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、上記目的を達成するために、比表面積の大きい酸化チタン(以下、「TiO2」という)を、所定アンモニア雰囲気において所定温度で加熱して、部分的に窒化させて得られる窒化化合物を用いた電極用材料を提案する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、酸化チタンナノ粒子のような比表面積の大きな酸化チタンの比表面積の大きさを保ったまま窒化できるので(酸化チタン粒子の構造を維持したまま窒化できるので)、リチウムイオンの挿入空間を一部残しつつ、キャパシタに必要となる大きな二重層容量を確保し、同時に高い導電性をも有する電極用材料が得られる。結果として、リチウムイオン電池の電極用材料、または、キャパシタの電極用材料として使用が可能な電極用材料が得られる。
【0019】
また、本発明の電極用材料は、炭素粉末などの導電助剤を必要とせずに、リチウムイオン電池やキャパシタの電極に使用できる。
【0020】
また、窒化する条件によって、製造される電極用材料の特性を、リチウムイオン電池の電極に最適化したり、キャパシタの電極に最適化したりできるフレキシビリティを有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明の第1の発明に係る電極用材料は、比表面積の大きい酸化チタン(以下、「TiO2」という)を、所定アンモニア雰囲気において所定温度で加熱して、部分的に窒化させて得られる窒化化合物を用いる。
【0022】
この構成により、大きな二重層容量を実現する比表面積とリチウムイオンの挿入脱離特性とを保持した、導電性を有する電極用材料が実現できる。
【0023】
本発明の第2の発明に係る電極用材料では、第1の発明に加えて、TiO2は、アナターゼ型結晶構造を有する。
【0024】
この構成により、比表面積の大きなTiO2を基礎とできるので、比表面積の大きな電極用材料を実現できる。
【0025】
本発明の第3の発明に係る電極用材料では、第1から第2のいずれかの発明に加えて、アンモニア雰囲気は、所定純度のアンモニアガスを含み、所定温度は、750℃〜1000℃である。
【0026】
この構成により、TiO2の比表面積を保持したまま、TiO2が窒化される。
【0027】
本発明の第4の発明に係る電極用材料では、第1から第3のいずれかの発明に加えて、TiO2を封入する加熱可能な加熱炉に所定量のアンモニアを流通させて、TiO2を部分的に窒化させる。
【0028】
この構成により、部分的な窒化が容易に行える。
【0029】
本発明の第5の発明に係る電極用材料では、第1から第4のいずれかの発明に加えて、窒化化合物は、アナターゼ型結晶構造を有するTiO2−xNx(Oは酸素、Nは窒素)を含む。
【0030】
本発明の第6の発明に係る電極用材料では、第1から第4のいずれかの発明に加えて、窒化化合物は、TiN型結晶構造を有するTiNyO1−yを含む。
【0031】
これらの構成により、リチウムイオン電池に最適な電極用材料、またはキャパシタに最適な電極用材料、もしくはリチウムイオン電池とキャパシタとの両者の中間的な性質の電極を実現できる。
【0032】
以下、図面を用いて実施の形態について説明する。
【0033】
(実施の形態1)
まず、発明者が酸化チタンに着目した発想について説明する。
【0034】
(着眼点)
従来の技術で述べたとおり、リチウムイオン電池やキャパシタに使用される電極用材料の開発が要請されている。より幅の広い社会的要求に答えるためには,炭素材料を基礎とする場合には、対応できない部分もあり、炭素材料以外の物質を出発点とする必要がある。前提条件として,リチウムイオン電池の電極に使用できるためには、酸化還元反応を伴ったリチウム挿入脱離反応による電池機能の発現と高速な充放電を実現できること、キャパシタの電極に使用できるためには大容量を蓄積できるように、比表面積が大きいこととが挙げられる。加えて、これらは急速充放電を実現するために内部抵抗を小さく設計できる電極用材料であることが条件である。
【0035】
「1」出発点とする物質の選択
このことから、出発点とする物質の条件としては、(1)比表面積が大きいこと、(2)導電性を有するあるいは有するようにできること、(3)リチウムイオンの挿入脱離特性を有すること、である。このような物質を出発点として、最終的には大容量、急速充放電が可能な電極用材料を得ることが目的である。
【0036】
発明者は、比表面積が大きくリチウムイオン電池の電極としての充放電特性を有する物質として、酸化チタン(TiO2)を選択した。酸化チタンは、光触媒に用いられることから分かるとおり、大きな比表面積を有しているからである。また、TiO2は、リチウムイオン電池の電極としての充放電を行えることも知られている。加えて、TiO2は、様々な用途で多く使用されているので、入手も容易であり、電極用材料としてのコスト力も有している。
【0037】
TiO2は、そのままでは導電性を有していないが、窒化されることで、導電性を生じさせることも知られている。特に窒化されたTiNは、金属に匹敵する高い導電性を有することが知られている。
【0038】
発明者は、これらの点から、上記の条件(1)〜(3)の全てを満たしつつコスト面や製造面での優位性もあると判断し、本発明の電極用材料の出発点となる物質として、TiO2を選択するに至った。
【0039】
「2」出発点となる物質から電極用材料への展開
但し、単純にTiO2を窒化したのでは、二重層容量を確保する大きな比表面積、導電性、などの性質をバランスよく有する電極用材料を作製するのは困難である。
【0040】
そこで、リチウムイオンの挿入脱離特性や大きな比表面積というTiO2の特性を残したまま部分的に窒化することを検討した。部分的に窒化することで、導電性が生じ、リチウムイオンの挿入脱離特性を保持したまま、内部抵抗の低減による高い充放電効率や高い急速充放電能力などを有する電極用材料が実現されると考えられるからである。このとき、TiO2は、比表面積の大きな粒子を作製できるので、この形態を保持したまま窒化して導電性を付与できれば、比表面積の大きなキャパシタの電極用材料を実現できる。このとき、比表面積の大きなTiO2を出発点として窒化する際に、TiO2の構造を制御したまま(比表面積を保持したまま)窒化作業を行うことが重要である。
【0041】
リチウムイオン電池とキャパシタの電極反応は、それぞれ互いの容量を補完しあえる反応として両立させることも可能である(レドックスキャパシタ電極,スーパーキャパシタ電極)。このようにTiO2の構造を制御したままTiO2を部分的に窒化することで、リチウムイオン電池電極としては、高比表面積による二重層容量の付与、キャパシタ電極としては、リチウムイオンの挿入脱離容量の付与が可能である。これらから、(A)リチウムイオンの挿入脱離特性、(B)高比表面積特性を有する出発材料の構造制御、(C)導電性付与の制御、を行いつつ出発材料であるTiO2を部分的に窒化することで、目的とする電極用材料を得られることに、発明者は着眼した。加えて、この電極用材料によって、高い充放電効率および高い急速充放電特性を実現できると考えられる。
【0042】
ここで、リチウムイオン電池やキャパシタの電極構造についても簡単に説明する。詳細には、各種学術文献などで容易に知ることができる。
【0043】
図1は、本発明の実施の形態1における電極の模式図である。図1は、電気二重層キャパシタなどのキャパシタやリチウムイオン電池の電極を中心とした構造を示している。
【0044】
電池1は、正極20a(集電極2aと電極3aとからなる)と負極20b(集電極2bと電極3bとからなる)となる対応する電極を有している。集電極2a、2bは、電子を集めて電流を発生させ、電極3a、3bは、電解液5の中で、電気二重層の形成や酸化還元反応を示す.
キャパシタの場合には、充電時には、正極20aでは、電極3aにマイナスイオンが吸着している。負極20bでは、電極3bにプラスイオンが吸着し、電子が電極3bに蓄積する。放電時には、正極20aでは、電極3aからマイナスイオンが脱着する。負極20bでは、電極3bからプラスイオンが脱着する。この結果、電子が負極20bから正極20aに流れる。
【0045】
リチウムイオン電池の場合には、充電時には、正極20aでは、電極3aからリチウムイオンが脱離して電極3aが酸化される。負極20bでは、電極3bにリチウムイオンが挿入されて電極3bが還元される。放電時には、正極20aでは、電極3aにリチウムイオンが挿入されて電極3aが還元される。負極20bでは、電極3bからリチウムイオンが脱離して電極3bが酸化される。この酸化還元により電流が流れる。
【0046】
ここで、この充放電における電極活物質と外部回路との電子のやり取りにおいて、電極自身の電気伝導率が低いとそれが内部抵抗として働いてしまうので、高い導電性を有する電極材料が望ましい。これは、リチウムイオン電池であっても、キャパシタであっても同様である。
【0047】
なお、キャパシタは、吸着するイオンによって蓄えられる電子の量が多くなるのがよいので、電極用材料の比表面積が大きいことが適当である。また、リチウムイオン電池も、リチウムイオンの電解液に露出した挿入口が多く、電極内部の拡散距離が短い方がよいので、電極用材料の比表面積が大きいことが適当である。
【0048】
リチウムイオン電池やキャパシタは、このような構造を有しているので、引き寄せる電子の量を増やす比表面積、リチウムイオンの充放電(酸化還元反応による)および電極3a、3bと集電極2a、2bとの間の導電性を必要とする。
【0049】
(概要)
次に、実施の形態1における電極用材料の概要について説明する。
【0050】
まず、TiO2を部分的に窒化させて得られる電極用材料の作製フローの全体概要を説明する。
【0051】
図2は、本発明の実施の形態1における電極用材料の作製フローチャートである。図2は、TiO2を出発点として、電極用材料を作製する概略の手順を示している。
【0052】
まず、ステップST1にて、比表面積の大きいTiO2粒子が作製される。ここで、比表面積を大きくするために、TiO2ナノ粒子が作製される。作製されたTiO2ナノ粒子は比表面積が大きい。次に、ステップST2にて、このTiO2ナノ粒子は、所定アンモニア雰囲気と所定温度で加熱される。TiO2ナノ粒子は、アンモニア雰囲気において加熱されることで、窒化を進める。アンモニア分子が有しているN(窒素)原子が、加熱によってTiO2と反応を始めるからである。窒化がある程度進むと、TiO2は、TiO2−xNxに変化し、更に窒化が進むと、TiNyO1−yに変化する。完全には窒化しておらず(すなわち、TiNにはなっていない)、TiO2が部分的に窒化した状態である。この部分的に窒化した窒化化合物は、導電性を有すると共に比表面積が十分に大きく容量を蓄積できる物質である。なお比表面積が大きいとは、結晶構造としては、アナターゼ型結晶構造を有していることを一例として、物質の態様としては、ナノ粒子であることを一例とする。
【0053】
以下、図2のフローチャートに記載の各処理について説明する。
【0054】
(TiO2の作製)
まず、ステップST1にて、比表面積の大きなTiO2材料が作製される必要がある。発明者は、比表面積の大きなTiO2材料であるTiO2粒子を得るために、TiO2のナノ粒子を実際に作製した。TiO2が、大きな比表面積を有する必要があることは、ここで説明する窒化化合物がキャパシタの電極として使用される場合に、蓄積できる容量を高めるためであり、窒化化合物がリチウムイオン電池の電極として使用される場合に、リチウムイオンの拡散距離を短くして導電性を高めるためである。
【0055】
なお、窒化化合物を得るのに用意されるTiO2は、アナターゼ型結晶構造を有していることが好適である。TiO2では、アナターゼ型結晶構造を有するものとルチル型結晶構造を有するものの大きく2つがある。低温で安定であるアナターゼ型のTiO2は、低温条件で合成することが容易であるので、比表面積の大きなTiO2粒子が得られやすい。高温で安定であるルチル型のTiO2は、比表面積の大きなTiO2粒子が得にくい。このため、実施の形態1の電極用材料としての窒化化合物を得るために用意されるTiO2は、アナターゼ型結晶構造を有していることが好適である。
【0056】
(作製例)
発明者は、次の作製例に基づいて、TiO2ナノ粒子を作製した。
【0057】
まず、石原産業(株)製のTiO2を2.5g、KOH(水酸化カリウム)を12.5g、H2O(水)を11.2gとした原材料を、内容積100mlのテフロン(登録商標)製の蓋付容器に入れる。次に、この蓋付容器がステンレス製耐圧容器に固定される。このとき、KOHの濃度は8M、K/Tiの比率は6/1である。
【0058】
次に、固定された蓋付容器が、150℃に設定した温風乾燥機に入れられて、120時間に渡って反応させられる。反応が終わると、反応物はビーカーに取り出されて精製水で洗浄される。さらに反応物は、0.1mol/Lの塩酸水溶液を加えて洗浄される。次いで、洗浄された反応物が入ったこのビーカーが静置され、上澄み液が、そのろ液が中性になるまで、取り除かれる。残った反応物は110℃で乾燥され、TiO2ナノ粒子が得られる。発明者は、この手順で得たTiO2ナノ粒子を、透過電子顕微鏡写真および走査型電子顕微鏡写真にて確認した。
【0059】
図3は、本発明の実施の形態1における、作製されたTiO2ナノ粒子の透過電子顕微鏡写真である。図4は、本発明の実施の形態1における、作製されたTiO2ナノ粒子の走査型電子顕微鏡写真である。
【0060】
電子顕微鏡写真から明らかな通り、TiO2ナノ粒子が作製されている。
【0061】
なお、この作製例で説明したTiO2ナノ粒子の作製方法は一例であり、他の作製方法によってTiO2ナノ粒子が得られても勿論よい。また、比表面積が大きいTiO2粒子であればよく、ナノ粒子であることは必須ではない。また、TiO2がアナターゼ型結晶構造を有していることも好適であるが、絶対条件ではない。要は、キャパシタの電極用材料としての条件である「比表面積が大きい」ということを満足できるTiO2が用意されれば良い。
【0062】
(TiO2の窒化)
次に、ステップST1にて作製された比表面積の大きいTiO2を、部分的に窒化するステップST2について説明する。
【0063】
ステップST2では、TiO2を、所定アンモニア雰囲気において所定温度にて加熱して、TiO2を部分的に窒化する。ここで、所定アンモニア雰囲気の一例は、純度が99.9999%以上のアンモニアガスを、加熱炉に充填することである。このとき、加熱炉に最初からアンモニアガスが充填されておいてもよく、加熱時間の経過と共に徐々にアンモニアガスが供給されても良い。
【0064】
所定温度は、750℃〜1000℃であることが好適である。後述するが、この温度範囲であれば、TiO2の比表面積を大きく保ったままで窒化が行われるからである。この所定アンモニア雰囲気および所定温度によって、加熱が可能な加熱炉に封入されたTiO2が加熱され、窒化される。
【0065】
(作製例)
発明者は、次の作製例に基づいて、TiO2を実際に窒化して、電極用材料として好適な窒化化合物を得た。
【0066】
ステップST1で得られた重量0.5gのTiO2ナノ粒子を、石英ガラスで作られた内径16mmの反応管に封入する。ついで、この反応管をアルミナで作られた内径29mmの電気炉炉心管に設置する。この反応管に、純度99.9999%のアンモニアガスを、毎分50ml(ミリリットル)流入させる。この流入により、加熱の間中、反応管内部には純度の高いアンモニアガスが充填されていることになる。この状態において、電気炉の温度を徐々に上げていく。なお、加熱炉の形状やサイズ、アンモニアガスの純度および流入ペースは一例であり、これ以外の設定でもよい。ただ、アンモニア純度が高いことで、加熱温度を非常な高温にする必要が無いメリットがある。加熱温度が高すぎると、TiO2の粒子が凝集を起こして比表面積が小さくなる問題が生じる。このため、加熱温度は一定温度以下であることが必要である。しかし、アンモニアガス純度が低い場合には、低い加熱温度では十分な窒化が進まない問題もある。
【0067】
図5は、本発明の実施の形態1における反応管内部のTiO2の重量変化を示すグラフである。
【0068】
電気炉の温度を徐々に上げていくと、図5に示されるように、TiO2の重量が変化を示す。図5から明らかな通り、室温から600℃くらいまでは、TiO2が含有する水分の脱水によりTiO2の重量が減少し、750℃〜1200℃くらいにかけては窒化によりTiO2の重量が減少していると考えられる。この窒化による重量の減少は、(化1)により表される。すなわち750℃以上の温度で加熱されることで、TiO2は、アンモニアガスと反応して窒化される。
【0069】
【化1】
【0070】
ここで、所定温度を1000℃〜1200℃にした場合には、加熱温度が高すぎて、TiO2は、完全に窒化してTiNになってしまう。特に1200℃程度の高温にて加熱した場合には、比表面積が減少したTiNとなってしまい(TiO2が凝集を起こすことも、比表面積減少の一因と考えられる)、キャパシタの電極用材料に不適である。キャパシタとして使用される電極用材料は、導電性に加えて、大きな比表面積が必須条件であるからである。
【0071】
図6は、本発明の実施の形態1における1200℃で加熱した試料のXRDパターンである。図6のXRDパターンから、1200℃で加熱した場合には、TiO2は、すべてTiNに変化していることがわかる。このため所定温度が1000℃を超えて1200℃までになってしまうと、加熱されたTiO2は、部分的な窒化ではなく完全な窒化が行われてしまう。このため、TiO2の部分的窒化における所定温度の上限は1000℃であることが好ましい。
【0072】
また、750℃未満では、図5から明らかな通り、TiO2は、脱水反応だけを示し、窒化を生じさせていないと考えられる。
【0073】
以上のことから、TiO2の窒化を生じさせる加熱における所定温度は、750℃〜1000℃であることが好適である。
【0074】
このように、所定アンモニア雰囲気と所定温度によってTiO2を加熱することで、部分的に窒化された窒化化合物が得られる。
【0075】
再度まとめると、純度99.9999%以上のアンモニアガスを封入した所定アンモニア雰囲気の反応炉の中に、ステップST1で得られた比表面積の大きなTiO2を封入する。この反応炉を、750℃〜1000℃の所定温度によって加熱して、TiO2を部分的に窒化して、窒化化合物を得る。この窒化化合物は、電極用材料として好適に使用できる。なお、比表面積の大きなTiO2は、ステップST1で得られても良く、それ以外の方法で得られても良い。また、ここで説明した所定アンモニア雰囲気と所定温度は、好適な一例であり、大きな比表面積を保ちつつ導電性を有するTiO2の窒化化合物が得られれば、他の数値による所定アンモニア雰囲気であっても所定温度であってもよい。もちろん、使用する加熱炉や反応炉なども他の形態やサイズであってもよい。
【0076】
なお、所定温度を800℃、1000℃、1200℃として加熱して得られた窒化化合物のXRD解析結果を図7に示す。図7は、本発明の実施の形態1における、加熱された試料のXRDパターンである。図7より明らかな通り、加熱温度が高くなるにつれて、TiN(窒化チタン)の結晶構造が主となってくることが分かる。このように、窒化前のTiO2の結晶構造を制御しながら、窒化を行える。このため、容量や導電性に係る比表面積に係る構造が、窒化の前後で保持できる。
【0077】
以上のような手順によって、大きな比表面積を維持したまま、導電性を有するTiO2の窒化化合物を得ることができる。
【0078】
(窒化化合物について)
次に、ステップST1およびステップST2により得られる窒化化合物について説明する。ここで、ステップST1で得られるTiO2がアナターゼ型結晶構造を有しているとする。図2より明らかな通り、ステップST2によりTiO2の窒化が進むと、まずはアナターゼ型結晶構造を有するTiO2−xNxに変化する。TiO2−xNxは、一定の窒化が進んだ状態であるので、導電性を有し始めている。このため、TiO2−xNxは、リチウムイオン電池の電極用材料に使用できる。更に窒化が進むと(加熱時間や加熱温度が進むと)、TiO2は、TiN型結晶構造を有するTiNyO1−yに変化する。
【0079】
このとき結晶構造が変わるので、リチウムイオンの挿入脱離能力は低下するが、窒化物相が増えるので導電性は向上する。
【0080】
TiO2−xNxとTiNyO1−yの組成は、リチウムイオン挿入脱離が可能で導電性が高いので、リチウムイオン電池およびキャパシタの電極用材料として利用可能であるが、TiO2−xNxは、リチウムイオンの挿入空間がより多いので、一定の電圧でリチウムイオンが挿入されるリチウムイオン電池としての利用が好ましい。一方、TiNyO1−yは、リチウムイオンの挿入空間が小さくなるので、電気二重層容量を優先的に用いたキャパシタ電極として活用されることが好ましい。組成における「x」、「y」の値と、リチウムイオンの挿入能力、導電性とは、互いに相関関係を有しているので、必要とする電池やキャパシタの要求仕様に応じて、窒化の度合いが制御されればよい。窒化の度合いが制御されることで、作製される電極用材料が、リチウムイオン電池を対象とするのか、キャパシタを対象とするのかを切り替えることができる。
【0081】
このように、実施の形態1における電極用材料は、窒化度合いの調節によって、対象となる電極のそれぞれの特性に合わせることができる。所定アンモニア雰囲気および所定温度の環境下において、比表面積の大きいTiO2を窒化することで、電極用材料を得ることにより、使用目的への最適なあわせこみが可能である。
【0082】
次に、作製された窒化化合物の電極特性について説明する。
【0083】
(導電性確認の実験)
発明者は、作製された窒化化合物(TiNyO1−y)の導電性を実験により確認した。
【0084】
発明者は、リチウムメタルを用いて参照電極と集電極を作製し、ステップST1〜ステップST2により得られた窒化化合物にポリビニルフッ化ビニリデンを20重量%加えてアルミメッシュに圧着して作用極を作製した。電解液には、1MLiBF4エチレンカーボネート/ジエチルカーボネート溶液が用いられた。
【0085】
走印範囲を1.2Vから4V(場合によっては5V)とし、走印速度をV/分として、市販のTiO2ナノ粒子とステップST2において1000℃で加熱して部分窒化させた窒化化合物(TiNyO1−y)とのそれぞれにおいて、サイクリックボルタモグラムを測定した。測定結果を図8、図9に示す。図8は、本発明の実施の形態1における市販のTiO2に関するサイクリックボルタモグラムであり、図9は、本発明の実施の形態1における1000℃で窒化して得られたTiO2の窒化化合物に関するサイクリックボルタモグラムである。
【0086】
図8、図9の縦軸は、電流密度の値であり、横軸は電位である。
【0087】
図8から明らかな通り、2V〜5Vの範囲において、酸化還元反応は生じていない。2V以下では還元電流が観察されるが、1.2Vでの還元から酸化への走引の切り替え時における立ち上がりが傾いており、TiO2の電気導電性が低く、電極の抵抗値が高いことを示している。縦軸の電流密度が低いことからもこの点は推測される。すなわち、電池の充放電に相当する可逆的な反応がほとんど起きていないことが分かる。市販のTiO2ナノ粒子は、それだけでは導電性を有していないことから、活物質の大部分が電気的に絶縁されている。導電剤である炭素粒子などを添加することで、各TiO2ナノ粒子間の電気的接続が行われ、電極全体に導電の経路を確保することができる。
【0088】
一方、図9から明らかな通り、1V〜4.5Vの範囲において、可逆的な酸化還元電流の対が観察される。酸化還元容量を有することが、本実験よりも明らかである。すなわち、TiO2を所定アンモニア雰囲気および所定温度(ここでは1000℃)で窒化して得られる窒化化合物(TiNyO1−y)は、それ自身が導電性を有することで、ほぼすべての活物質が導電助剤を加えなくても電気的に接続され、有効利用可能となっていることが実験よりも明らかである。導電性があれば、カーボン粉末などの導電助剤を必要とせずに、リチウムイオン電池やキャパシタの電極を実現できる。ここで、図8、図9のグラフにおいて、電流密度が正の領域は、酸化電流の存在を示し、負の領域は、還元電流の存在を示す。
【0089】
以上のように、安定電位窓および酸化還元反応電位の確認実験とその実験結果である図8、図9から、TiO2を窒化させた窒化化合物(TiNyO1−y)は、それ自体が導電性を有していることが確認され、リチウムイオン電池やキャパシタの電極用材料に使用可能である。このように、作製された窒化化合物は、可逆的な酸化還元電流を有し、リチウムイオン電池やキャパシタの電極用材料として使用可能であることが、実験からも証明された。
【0090】
(充放電能力の実験)
次に、発明者は作製された窒化化合物(TiNyO1−y)の充放電性能を実験により確認した。上述の導電性の確認実験により、作製された窒化化合物が電極用材料として使用可能であるという基礎的な性能を有していることが証明された。充放電能力は、電池の充電間隔における使用可能時間を示すものであり、実際の電池の1つの指標となる。
【0091】
充放電性能については、種々の見方のパラメータがあるが、ここでは、充電できる充電容量の値および充電後に放電できる放電容量の値、および充電容量と放電容量の比率を確認した。充電容量が大きいことは、リチウムイオン電池やキャパシタの電極用材料として好適であることを示す。また、充電容量と放電容量との比率が高いことも、リチウムイオン電池やキャパシタの電極用材料として好適であることを示す。
【0092】
すなわち、充電した電流をできるだけすべて放電して使用できる電池は、高いエネルギー効率を有する。このとき、電池の内部抵抗が大きいと、充電から放電に正極と負極を切り替えたときに、オーム抵抗損によって熱として電力が消費される。したがって、電池の内部抵抗はできるだけ小さいほうがよい。特に、大電流を流す急速充放電やハイパワー充放電においては、熱損失をできるだけ抑える必要がある。このように、電池の充電容量と放電容量の比(サイクル効率)は、電池の内部抵抗を評価する目安となる。
【0093】
発明者は、導電性確認の実験と同じく、リチウムメタルを用いて参照電極と対極を作製し、ステップST1〜ステップST2により得られた窒化化合物にポリビニルフッ化ビニリデンを20重量%加えてアルミメッシュに圧着して作用極を作製した。1MLiBF4エチレンカーボネート/ジエチルカーボネート溶液を用いた電解液に、参照電極、対極、作用極が浸されて、各電極に電圧が与えられる。更に、発明者は、電流密度を50mAh/gとして、電極における充放電を行った。このとき、発明者は、実施の形態1における窒化化合物(TiNyO1−y)に対する比較用として、ステップST1で得られた窒化のされていないTiO2ナノ粒子、市販されているTiN(窒化チタン)を用いた。
【0094】
加えて、窒化化合物(TiNyO1−y)においては、800℃で窒化して得られた窒化化合物と、1000℃で窒化して得られた窒化化合物が用意された。
【0095】
すなわち、発明者は、充放電能力の実験において、
(1)窒化されていないTiO2ナノ粒子
(2)800℃で窒化された窒化化合物
(3)1000℃で窒化された窒化化合物
(4)市販のTiN
の4つの電極用材料によって作用極を作製し、充放電実験を行った。
【0096】
充放電実験の結果を、図10に示す。図10は、本発明の実施の形態1における充放電実験の結果を示すグラフである。図10(a)は、上記の4つの電極用材料(1)〜(4)についての充電実験の結果を示し、図10(b)は、上記の4つの電極用材料(1)〜(4)についての放電実験の結果を示す。
【0097】
また、(表1)に、実験結果より得られる充電容量の値、放電容量の値、充放電効率(放電容量の値を充電容量の値で除算した値)を示す。表1を見ることで、電極用材料(1)〜(4)の各々での性能の違いが容易に分かる。
【0098】
【表1】
【0099】
表1より明らかな通り、電極用材料(1)の窒化されていないTiO2ナノ粒子は、47mAh/gの充電容量の値、32mAh/gの放電容量の値および68%の充放電効率を有している。
【0100】
電極用材料(2)の800℃で窒化された窒化化合物は、47mAh/gの充電容量の値、43mAh/gの放電容量の値および91%の充放電効率を有している。
【0101】
電極用材料(3)の1000℃で窒化された窒化化合物は、20mAh/gの充電容量の値、19mAh/gの放電容量の値および95%の充放電効率を有している。
【0102】
電極用材料(4)の市販のTiNは、1.4mAh/gの充電容量、1.4mAh/gの放電容量および100%の充放電効率を有している。
【0103】
表1の結果より明らかな通り、窒化されていないTiO2ナノ粒子(電極用材料(1))は、充放電効率が非常に悪い。これは、窒化されていないので導電性が乏しく、集電極のアルミメッシュ近傍に存在する粒子のみが活用されているだけで、電気的接触が不完全で挿入されたリチウムイオンが完全に脱離されないことにより効率が低くなる.従って窒化されていないTiO2ナノ粒子は、リチウムイオン電池やキャパシタの電極用材料として不適である。
【0104】
また、市販のTiN(電極用材料(4))は、充放電効率は高いが、充電容量が極めて小さい(放電容量も当然ながらきわめて小さい)。TiNは、導電性を有しているが、リチウムイオン挿入、電気二重層ともにほとんど容量を示さず、キャパシタの電極用材料としては不適である。
【0105】
これに対して、電極用材料(2)、(3)の窒化化合物は、それぞれ高い充放電効率を有している。これは窒化によってTiO2が導電性を有し、酸化還元反応を伴うリチウムイオンの挿入脱離反応がスムーズに行えるようになったことが原因と考えられる.従って、電極用材料(2)、(3)は、リチウムイオン電池およびキャパシタのいずれの電極用材料にも適している。800℃で窒化された窒化化合物も1000℃で窒化された窒化化合物も、十分な値の充電容量を有しているが、より高温、すなわち窒化がより進むとリチウムイオン挿入空間が徐々に失われるので、容量が小さくなる傾向が生じる。反対に、より高温では導電性の高い窒化物相の割合が大きくなるため、内部抵抗が小さくなり、充放電効率は大きくなる。このことから、充放電容量の大きさを優先する機器と充放電効率を優先する機器などの要求に合わせて、窒化化合物の作製条件が決められればよい。言い換えると、窒化化合物の作製条件を変える事で、使用される機器の特性や要求に合わせた電極用材料(ひいては、電極、リチウムイオン電池、キャパシタ)が実現できる。言い換えると、窒化化合物の作製条件によって、充放電容量を優先するキャパシタに適した電極用材料を得ることもできるし、急速充放電を優先するリチウムイオン電池に適した電極用材料を得ることもできる。
【0106】
(急速充放電特性の実験)
次に、発明者は急速充放電特性(ハイレート特性)の確認実験を行った。急速充放電特性の目安として、電池やキャパシタから様々な電流値で放電が行われた場合に、低電流値での放電容量に比べ、どの程度の容量を保持しているかを示す。大きな電流で維持できる容量が高いことは、急速充放電においても内部抵抗による電力ロスが小さいことを示す。
【0107】
発明者は、充放電効率の実験と同様に、リチウムメタルを用いて参照電極と対極を作製し、ステップST1〜ステップST2により得られた窒化化合物にポリビニルフッ化ビニリデンを20重量%加えてアルミメッシュに圧着して作用極を作製した。1MLiBF4エチレンカーボネート/ジエチルカーボネート溶液を用いた電解液に、参照電極、対極、作用極が浸されて、各電極に電圧が与えられる。
【0108】
ここで、発明者は、ステップST2において1000℃で窒化された窒化化合物(TiNyO1−y)による電極用材料を実験対象として、市販のキャパシタ用活性炭に10重量%のカーボンブラックを導電助剤として添加した電極用材料を比較対象として実験を行った。すなわち、作用極に使用された電極用材料は、一つにはステップST2において1000℃で窒化された窒化化合物(TiNyO1−y)であり、一つには市販のキャパシタ用活性炭に10重量%のカーボンブラックを導電助剤として添加した材料である。
【0109】
発明者は、電流密度を50mA/g、100mA/g、200mA/g、500mA/g、1000mA/g、2000mA/gとして急速充放電実験を行った。
【0110】
実験結果は、図11に示される。図11は、本発明の実施の形態1における急速充放電実験の結果を示すグラフである。図11(a)は、比較対象である市販のキャパシタ用活性炭に10重量%のカーボンブラックを導電助剤として添加した材料を電極用材料とした場合の結果を示す。図11(b)は、実験対象であるステップST2において1000℃で窒化された窒化化合物(TiNyO1−y)を電極用材料とした場合の結果を示す。図11に示されるグラフの縦軸は作用極電圧であり、横軸は、それぞれの材料の50mA/gでの放電容量を100%としたときの、各電流値での容量維持率である。
【0111】
図11に示されるグラフより明らかな通り、1000℃で窒化された窒化化合物は、1000mA/gの高速放電においても、70%近い容量を保持している。これに対して、市販のキャパシタ用活性炭にカーボンブラックを導電助剤として添加した材料の場合には、1000mA/gの高速放電においては、10%未満の容量しか保持できない。このことからも、実施の形態1による窒化化合物を用いた電極用材料が市販キャパシタ用材料である活性炭と比べても、急速充放電特性(ハイレート特性)に優れていることが分かる。
【0112】
以上のように、実施の形態1における電極用材料は、(A)窒化処理による高い導電性、(B)高効率の充放電性能、(C)高い急速充放電特性、(D)比表面積の大きな(アナターゼ型結晶構造など)TiO2を出発点として比表面積を維持している、ことにより、リチウムイオン電池およびキャパシタの電極のいずれにも適している。特に、カーボンブラックのような導電助剤を添加する必要がないので、製造も容易である上、コストも低減できる。
【0113】
なお、各実験の中で使用された窒化化合物は、実施の形態1において説明されたステップST1およびステップST2によって作製されたものであり、上記の実験の説明記載での窒化化合物は、実施の形態1で説明されたステップST1〜ST2によって作製された窒化化合物を指している。
【0114】
(実施の形態2)
次に実施の形態2について説明する。
【0115】
実施の形態2では、実施の形態1で説明した電極用材料を用いた電極、リチウムイオン電池、キャパシタについて説明する。
【0116】
実施の形態2で説明した電極用材料は、リチウムイオン電池やキャパシタの電極に用いることができる。例えば、実施の形態1で発明者が行った実験のように、リチウムメタルを用いて参照電極と対極を作製し、ステップST1〜ステップST2により得られた窒化化合物にポリビニルフッ化ビニリデンを20重量%加えてアルミメッシュに圧着して作用極を作製できる。作用極が、実施の形態1で作製された電極用材料により形成される電極である。
【0117】
この電極を用いて、リチウムイオン電池およびキャパシタを作製できる。
【0118】
図12は、本発明の実施の形態2におけるリチウムイオン電池もしくはキャパシタの模式図である。便宜上、図12とその説明では、リチウムイオン電池とキャパシタを総称して電池と呼ぶ。
【0119】
電池10は、筐体11、正極30a(集電極12aと電極13aとからなる)、負極30b(集電極12bと電極13bとからなる)、セパレータ14、電解液15を備えている。ここで、正極30aと負極30bとは対である。集電極12a、12bは、電子を集めて電流を発生させ、電極13a、13bでは、電解液15の中で、酸化還元反応あるいは電気二重層形成が起こる。
【0120】
キャパシタの場合には、充電時には、正極30aでは、電極13aにマイナスイオンが吸着している。負極30bでは、電極13bにプラスイオンが吸着し、電子が電極13bに蓄積する。放電時には、正極30aでは、電極13aからマイナスイオンが脱着する。負極30bでは、電極13bからプラスイオンが脱着する。この結果、電子が負極30bから正極30aに流れる。
【0121】
リチウムイオン電池の場合には、充電時には、正極30aでは、電極13aからリチウムイオンが脱離して電極13aが酸化される。負極30bでは、電極13bにリチウムイオンが挿入されて電極13bが還元される。放電時には、正極30aでは、電極13aにリチウムイオンが挿入されて電極13aが還元される。負極30bでは、電極13bからリチウムイオンが脱離して電極13bが酸化される。この酸化還元により電流が流れる。
【0122】
ここで、この充放電における電極活物質と外部回路との電子のやり取りにおいて、電極自身の電気伝導率が低いとそれが内部抵抗として働いてしまうので、高い導電性を有する電極材料が望ましい。これは、リチウムイオン電池であっても、キャパシタであっても同様である。
【0123】
なお、キャパシタは、吸着するイオンによって蓄えられる電子の量が多くなるのがよいので、電極用材料の比表面積が大きいことが適当である。また、リチウムイオン電池も、リチウムイオンの電極内部の拡散距離が短い方がよいので、電極用材料の比表面積が大きいことが適当である。
【0124】
ここで、電極13a、13bは、実施の形態1で説明された電極用材料によって作製されるので、容量が大きく、導電性もあるので、リチウムイオン電池およびキャパシタのいずれにも最適である。
【0125】
また、実施の形態2のリチウムイオン電池およびキャパシタは、導電性、容量の大きさ、充放電効率、急速充放電特性のいずれにも優れ(実施の形態1での実験結果より明らかな通り)、高い電流値や長い持続時間を要求する電子機器に最適に利用できる。結果として、実施の形態2のリチウムイオン電池およびキャパシタを使用した電子機器は、そのコストを低減できる。
【0126】
(実施の形態3)
電極用材料の製造方法について図2を用いて説明する。
【0127】
図2は、TiO2を出発点として、電極用材料を作製する概略の手順を示している。図2から明らかな通り、電極用材料の製造方法は、ステップST1とステップST2を含む。
【0128】
(ステップST1)
まず、ステップST1にて、比表面積の大きいTiO2粒子が作製される。ここで、比表面積の大きなTiO2粒子を必要とするため、TiO2ナノ粒子が作製される。作製されたTiO2ナノ粒子は比表面積が大きい。
【0129】
まず、石原産業(株)製のTiO2を2.5g、KOH(水酸化カリウム)を12.5g、H2O(水)を11.2gとした原材料が、内容積100mlのテフロン(登録商標)製の蓋付容器に投入される。次に、この蓋付容器がステンレス製耐圧容器に固定される。このとき、KOHの濃度は8M、K/Tiの比率は6/1である。
【0130】
次に、この固定された蓋付容器が、150℃に設定した温風乾燥機に入れられて、120時間に渡って反応させられる。反応が終わると、反応物はビーカーに取り出されて精製水で洗浄される。さらに反応物は、0.1mol/Lの塩酸水溶液を加えて洗浄される。ついで、洗浄された反応物が入ったこのビーカーを静置して、上澄み液が、そのろ液が中性になるまで、取り除かれる。残った反応物が110℃で乾燥され、TiO2ナノ粒子が得られる。
【0131】
なお、窒化化合物を得るのに用意されるTiO2は、アナターゼ型結晶構造を有していることが好適である。TiO2では、アナターゼ型結晶構造を有するものとルチル型結晶構造を有するものの大きく2つがある。ここで、アナターゼ型結晶構造を有するTiO2は、ルチル型結晶構造を有するTiO2に比較して比表面積が大きい。このため、実施の形態1の電極用材料としての窒化化合物を得るために用意されるTiO2は、アナターゼ型結晶構造を有していることが好適である。
【0132】
(ステップST2)
ステップST2では、このTiO2ナノ粒子は、所定アンモニア雰囲気と所定温度で加熱される。TiO2ナノ粒子は、アンモニア雰囲気において加熱されることで、窒化を進める。アンモニア分子が有しているN(窒素)原子が、加熱によってTiO2と反応を始めるからである。窒化がある程度進むと、TiO2は、TiO2−xNxに変化し、更に窒化が進むと、TiNyO1−yに変化する。完全には窒化しておらず(すなわち、TiNにはなっていない)、TiO2が部分的に窒化した状態である。この部分的に窒化した窒化化合物は、導電性を有すると共に比表面積が十分に大きく容量を蓄積できる物質である。
【0133】
ステップST1で得られた重量0.5gのTiO2ナノ粒子が、石英ガラスで作られた内径16mmの反応管に封入される。ついで、この反応管がアルミナで作られた内径29mmの電気炉炉心管に設置される。この反応管に、純度99.9999%のアンモニアガスが、毎分50ml(ミリリットル)ずつ流入される。この流入により、加熱の間中、反応管内部には純度の高いアンモニアガスが充填されていることになる。この状態において、電気炉の温度が徐々に上げられる。なお、アンモニアガスの純度および流入ペースは一例であり、これ以外の設定でもよい。ただ、アンモニア純度が高いことで、加熱温度を非常な高温にする必要の無いメリットがある。加熱温度が高すぎると、TiO2の粒子が凝集を起こして比表面積が小さくなる問題が生じる。このため、加熱温度は一定温度以下であることが必要である。しかし、アンモニアガス純度が低い場合には、低い加熱温度では十分な窒化が進まない問題もある。
【0134】
ここでは、750℃〜1000℃の間でTiO2が加熱されて窒化される。この温度範囲であれば、比表面積を保ったままTiO2が部分的に窒化した窒化化合物が得られる。
【0135】
このステップST1とステップST2の製造方法を経て、実施の形態1に説明される電極用材料が製造される。
【0136】
この製造方法によって、(A)窒化処理による高い導電性、(B)高効率の充放電性能、(C)高い急速充放電特性、(D)比表面積の大きな(アナターゼ型結晶構造など)TiO2を出発点としてこの比表面積を維持している、電極用材料が製造される。
【0137】
以上、実施の形態1〜3で説明された電極用材料、電極、リチウムイオン電池、キャパシタ、電極用材料の製造方法は、本発明の趣旨を説明する一例であり、本発明の趣旨を逸脱しない範囲での変形や改造を含む。
【0138】
特に、実施の形態1〜3で説明された電極用材料の製造において使用される材料についての記載や定義は一例であり、他の材料や他の供給者からの材料を使用して、同等の電極用材料を得ることを妨げない。
【図面の簡単な説明】
【0139】
【図1】本発明の実施の形態1における電極の模式図
【図2】本発明の実施の形態1における電極用材料の作製フローチャート
【図3】本発明の実施の形態1における、作製されたTiO2ナノ粒子の透過電子顕微鏡写真
【図4】本発明の実施の形態1における、作製されたTiO2ナノ粒子の走査型電子顕微鏡写真
【図5】本発明の実施の形態1における反応管内部のTiO2の重量変化を示すグラフ
【図6】本発明の実施の形態1における1200℃で加熱した試料のXRDパターン
【図7】本発明の実施の形態1における、加熱された試料のXRDパターン
【図8】本発明の実施の形態1における市販のTiO2に関するサイクリックボルタモグラム
【図9】本発明の実施の形態1における1000℃で窒化して得られたTiO2の窒化化合物に関するサイクリックボルタモグラム
【図10】本発明の実施の形態1における充放電実験の結果を示すグラフ
【図11】本発明の実施の形態1における急速充放電実験の結果を示すグラフ
【図12】本発明の実施の形態2におけるリチウムイオン電池もしくはキャパシタの模式図
【符号の説明】
【0140】
1 電池
2a、2b 集電極
3a、3b 電極
4 セパレータ
5 電解液
【特許請求の範囲】
【請求項1】
比表面積の大きい酸化チタン(以下、「TiO2」という)を、所定アンモニア雰囲気において所定温度で加熱して、部分的に窒化させて得られる窒化化合物を用いる電極用材料。
【請求項2】
前記TiO2は、アナターゼ型結晶構造を有する請求項1記載の電極用材料。
【請求項3】
前記所定アンモニア雰囲気は、所定純度のアンモニアガスを含み、前記所定温度は、750℃〜1000℃である請求項1から2のいずれか記載の電極用材料。
【請求項4】
前記TiO2を封入する加熱可能な加熱炉に所定量のアンモニアガスを流通させて、前記TiO2を部分的に窒化させる請求項1から3のいずれか記載の電極用材料。
【請求項5】
前記窒化化合物は、アナターゼ型結晶構造を有するTiO2−xNx(Oは酸素、Nは窒素)を含む請求項1から4のいずれか記載の電極用材料。
【請求項6】
前記窒化化合物は、TiN型結晶構造を有するTiNyO1−yを含む請求項1から4のいずれか記載の電極用材料。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか記載の電極用材料を用いた電極。
【請求項8】
請求項7記載の電極と、前記電極と対になる集電極とを備える、リチウムイオン電池。
【請求項9】
請求項7記載の電極と、前記電極と対になる集電極とを備える、キャパシタ。
【請求項10】
比表面積の大きいTiO2を、所定アンモニア雰囲気において所定温度で加熱し、部分的に窒化させて窒化化合物を得る、電極用材料の製造方法。
【請求項11】
前記所定アンモニア雰囲気は、所定純度のアンモニアガスを含み、前記所定温度は、750℃〜1000℃である請求項10記載の電極用材料の製造方法。
【請求項12】
前記TiO2を封入する加熱可能な加熱炉に所定量のアンモニアガスを流通させて、前記TiO2を部分的に窒化させる請求項10から11のいずれか記載の電極用材料の製造方法。
【請求項1】
比表面積の大きい酸化チタン(以下、「TiO2」という)を、所定アンモニア雰囲気において所定温度で加熱して、部分的に窒化させて得られる窒化化合物を用いる電極用材料。
【請求項2】
前記TiO2は、アナターゼ型結晶構造を有する請求項1記載の電極用材料。
【請求項3】
前記所定アンモニア雰囲気は、所定純度のアンモニアガスを含み、前記所定温度は、750℃〜1000℃である請求項1から2のいずれか記載の電極用材料。
【請求項4】
前記TiO2を封入する加熱可能な加熱炉に所定量のアンモニアガスを流通させて、前記TiO2を部分的に窒化させる請求項1から3のいずれか記載の電極用材料。
【請求項5】
前記窒化化合物は、アナターゼ型結晶構造を有するTiO2−xNx(Oは酸素、Nは窒素)を含む請求項1から4のいずれか記載の電極用材料。
【請求項6】
前記窒化化合物は、TiN型結晶構造を有するTiNyO1−yを含む請求項1から4のいずれか記載の電極用材料。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか記載の電極用材料を用いた電極。
【請求項8】
請求項7記載の電極と、前記電極と対になる集電極とを備える、リチウムイオン電池。
【請求項9】
請求項7記載の電極と、前記電極と対になる集電極とを備える、キャパシタ。
【請求項10】
比表面積の大きいTiO2を、所定アンモニア雰囲気において所定温度で加熱し、部分的に窒化させて窒化化合物を得る、電極用材料の製造方法。
【請求項11】
前記所定アンモニア雰囲気は、所定純度のアンモニアガスを含み、前記所定温度は、750℃〜1000℃である請求項10記載の電極用材料の製造方法。
【請求項12】
前記TiO2を封入する加熱可能な加熱炉に所定量のアンモニアガスを流通させて、前記TiO2を部分的に窒化させる請求項10から11のいずれか記載の電極用材料の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2010−40480(P2010−40480A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−205526(P2008−205526)
【出願日】平成20年8月8日(2008.8.8)
【出願人】(304028726)国立大学法人 大分大学 (181)
【出願人】(504173471)国立大学法人 北海道大学 (971)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年8月8日(2008.8.8)
【出願人】(304028726)国立大学法人 大分大学 (181)
【出願人】(504173471)国立大学法人 北海道大学 (971)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]