説明

電極製造方法及びレーザーカット装置

【課題】通常はレーザーカットできない素材であっても、カットが可能になって量産性に優れる電極製造方法及びレーザーカット装置を提供する。
【解決手段】電極集電箔(1211)及び電極活物質層(1212)を含む電極素材シート(1210)に形成された樹脂層(1213)を切断して電極(121)を製造する方法であって、樹脂層(1213)が形成された電極活物質層(1212)にレーザーを照射して電極活物質成分を蒸発させることで発生した蒸発ガスによって樹脂層(1213)を切断する溶融切断工程を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電極製造方法及びレーザーカット装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、素材をレーザーカットしてリチウム二次電池用の電極を製造する手法を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−289180号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本件発明者らも素材をレーザーカットして電池用の電極を製造する手法を開発している。そして本件発明者らが開発を進めていくなかで、素材(被切断物)の材料によっては、何らかの工夫をしなければうまくレーザーカットできない場合があることが知見された。
【0005】
本発明は、このような従来の問題点に着目してなされたものであり、本発明の目的は、通常はレーザーカットできない素材であっても、カットが可能になって量産性に優れる電極製造方法及びレーザーカット装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は以下のような解決手段によって前記課題を解決する。
【0007】
本発明は、電極集電箔及び電極活物質層を含む電極素材シートに貼付された樹脂層を切断して電極を製造する方法である。そして、前記樹脂層が貼付された電極活物質層にレーザーを照射して電極活物質成分を蒸発させることで発生した蒸発ガスによって樹脂層を切断する溶融切断工程を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、電極活物質成分を蒸発させることで発生した蒸発ガスによって樹脂層が切断されるので、通常はレーザーカットできない素材であっても、カットが可能になって量産性に優れる。
【0009】
本発明の実施形態、本発明の利点については、添付された図面を参照しながら以下に詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、リチウムイオン二次電池を説明する図である。
【図2】図2は、量産性に優れる電極製造方法を説明する図である。
【図3】図3は、電極素材シートから電極を製造するためのカットラインを示す図である。
【図4】図4は、レーザーカット装置の概要を示す図である。
【図5】図5は、レーザーヘッドの詳細図である。
【図6】図6は、発明者らの知見を説明する図である。
【図7】図7は、レーザーパワー密度と樹脂テープの切断幅との相関を説明する図である。
【図8】図8は、電極素材シート1210のカットラインIにおける断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
最初に本発明の理解を容易にするために、発明者らの技術着想について説明する。
【0012】
図1はリチウムイオン二次電池を説明する図であり、図1(A)はリチウムイオン二次電池のセルパックの外観を示す斜視図、図1(B)はセルパックに収納される単位電池の平面図である。
【0013】
ここでは、電池としてリチウムイオン二次電池を一例に取り上げて説明する。
【0014】
リチウムイオン二次電池のセルパック10は、外装材11に、所定数積層されて電気的に接続された単位電池12が内蔵されている。なお単位電池12については図1(B)を参照して後述する。また図示を省略するが、このリチウムイオン二次電池のセルパック10が所定数積層されて、アルミニウムなどで形成されたボックス(筐体)に納められてリチウムイオン二次電池パッケージになる。
【0015】
外装材11は、積層された単位電池12を収容する。外装材11の材料は種々考えられるが、たとえば、アルミニウムをポリプロピレンフィルムで被覆した高分子−金属複合ラミネートフィルムのシート材がある。外装材11は、まずはじめに積層された単位電池12を収容した状態で、一辺が開口するように三辺が熱融着される。そして電解液が注液された後に残りの一辺も熱融着される。外装材11は、単位電池12の電力を外部に取り出すための正極タブ111a及び負極タブ111bを備える。
【0016】
正極タブ111aは、一端が外装材11の内部で正極集電部に接続され、他端が外装材11の外に出る。
【0017】
負極タブ111bは、一端が外装材11の内部で負極集電部に接続され、他端が外装材11の外に出る。
【0018】
図1(B)に示されるように、単位電池12は、正極121aと、負極121bと、セパレーター122と、を含む。
【0019】
セパレーター122は、流動性のある電解質(電解液)を保持する電解質層である。セパレーター122は、ポリアミド製不織布,ポリエチレン不織布,ポリプロピレン不織布,ポリイミド不織布,ポリエステル不織布,アラミド不織布などの不織布である。また、セパレーター122は、フィルムが延伸されて細孔が形成された微多孔膜フィルムでもよい。このようなフィルムは、既存のリチウムイオン電池用セパレーターとして使用される。またポリエチレン,ポリプロピレン,ポリイミドフィルムやあるいはこれらを積層したものであってもよい。セパレーター122の厚さは、特には限定されない。しかしながら、薄いほうが電池がコンパクトになる。そこでセパレーター122は、性能を確保できる範囲で、できるだけ薄いことが望ましい。一般的にはセパレーター122の厚さは10〜100μm程度である。ただし一定厚でなくてもよい。
【0020】
電解質(電解液)は、たとえば、ポリマー骨格中に数重量%〜99重量%程度電解液を保持させたゲル電解質である。特に高分子ゲル電解質がよい。高分子ゲル電解質は、たとえば、イオン導伝性を有する固体高分子電解質に、通常リチウムイオン電池で用いられる電解液を含んだものである。また、リチウムイオン導伝性を持たない高分子の骨格中に、通常リチウムイオン電池で用いられる電解液を保持させたものでもよい。
【0021】
高分子ゲル電解質は、高分子電解質100%でできたもの以外のものであって、電解液をポリマー骨格に含ませたものであればよい。特に、電解液とポリマーとの比率(質量比)は、20:80〜98:2程度が好ましい。このような比率であれば、電解質による流動性と、電解質としての性能と、が両立される。
【0022】
ポリマー骨格は、熱硬化性ポリマー及び熱可塑性ポリマーのいずれでもよい。具体的には、たとえば、ポリエチレンオキシドを主鎖又は側鎖に持つ高分子(PEO),ポリアクリロニトリル(PAN),ポリメタクリル酸エステル,ポリフッ化ビニリデン(PVDF),ポリフッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンの共重合体(PVDF−HFP),ポリメチルメタクリレート(PMMA)などである。ただし、これらに限られない。
【0023】
高分子ゲル電解質に含まれる電解液(電解質塩及び可塑剤)は、通常リチウムイオン電池で用いられるものである。たとえば、LiPF6,LiBF4,LiClO4,LiAsF6,LiTaF6,LiAlCl4,Li210Cl10等の無機酸陰イオン塩、LiCF3SO3,Li(CF3SO2)2N,Li(C25SO2)2N等の有機酸陰イオン塩の中から選ばれる、少なくとも1種類のリチウム塩(電解質塩)を含み、プロピレンカーボネート,エチレンカーボネート等の環状カーボネート類である。ジメチルカーボネート,メチルエチルカーボネート,ジエチルカーボネート等の鎖状カーボネート類でもよい。テトラヒドロフラン,2−メチルテトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジブトキシエタン等のエーテル類でもよい。γ−ブチロラクトン等のラクトン類でもよい。アセトニトリル等のニトリル類でもよい。プロピオン酸メチル等のエステル類でもよい。ジメチルホルムアミド等のアミド類でもよい。酢酸メチル及び蟻酸メチルの中から選ばれる少なくとも1種類以上を混合した非プロトン性溶媒等の有機溶媒(可塑剤)を用いたものでもよい。ただし、これらに限られない。
【0024】
正極121aは、正極集電箔と、その両面に形成された正極活物質層と、を有する。正極121aは、セパレーター122の一方の面(図1(B)ではセパレーター122の下面)に配置される。
【0025】
正極集電箔は、たとえば、アルミニウム、銅、チタン、ニッケル、ステンレス鋼(SUS)、これらの合金などによる箔である。正極集電箔の厚さは、特に限定されないが、通常は1〜100μm程度である。
【0026】
正極活物質層の正極活物質は、特にリチウム−遷移金属複合酸化物が好ましい。具体的には、たとえば、スピネルLiMn24などのLi・Mn系複合酸化物,LiCoO2などのLi・Co系複合酸化物,LiNiO2などのLi・Ni系複合酸化物,LiFeO2などのLi・Fe系複合酸化物などである。また、LiFePO4などの遷移金属とリチウムのリン酸化合物や硫酸化合物でもよい。さらに、V25,MnO2,TiS2,MoS2,MoO3などの遷移金属酸化物や硫化物でもよい。また、PbO2,AgO,NiOOHなどでもよい。このような正極活物質は、電池容量、出力特性に優れた電池を構成できる。
【0027】
正極活物質の粒径は、正極材料をペースト化してスプレーコートなどによって製膜できる程度であればよいが、小さいほうが電極抵抗を低減できる。具体的には、正極活物質の平均粒径が0.1〜10μmであるとよい。
【0028】
正極活物質は、この他にもイオン伝導性を高めるために、電解質,リチウム塩,導電助剤などを含んでもよい。導電助剤は、一例を挙げれば、アセチレンブラック,カーボンブラック,グラファイトなどである。
【0029】
正極活物質,電解質(好ましくは固体高分子電解質),リチウム塩,導電助剤の配合量は、電池の使用目的(出力重視,エネルギー重視など)、イオン伝導性が考慮されて設定される。たとえば、電解質、特に固体高分子電解質の配合量が過少であると、活物質層内でのイオン伝導抵抗やイオン拡散抵抗が大きくなり、電池性能が低下する。一方、電解質、特に固体高分子電解質の配合量が過多であると、電池のエネルギー密度が低下する。したがって、これらが考慮されて、具体的な配合量が設定される。正極活物質層の厚さは、特には限定されない。電池の使用目的(出力重視,エネルギー重視など)、イオン伝導性などが考慮されて設定される。一般的な正極の厚さは1〜500μm程度である。
【0030】
負極121bは、負極集電箔と、その両面に形成された負極活物質層と、を有する。負極121bは、セパレーター122のもう一方の面(図1(B)ではセパレーター122の上面)に配置される。
【0031】
負極集電箔は、正極集電箔と同じものを使用しても、別のものを使用してもよい。
【0032】
負極活物質層の負極活物質は、具体的には、金属酸化物,リチウム−金属複合酸化物金属,カーボン,チタン酸化物,リチウム−チタン複合酸化物などである。特に、カーボン,遷移金属酸化物,リチウム−遷移金属複合酸化物が好ましい。なかでもカーボン又はリチウム−遷移金属複合酸化物は、電池を高電池容量化、高出力化できる。これらが1種単独で用いられてもよいし、2種以上併用されてもよい。
【0033】
このような単位電池12が所定数積層されて各正極集電箔がひとつに集合されて電気的に並列接続される。この集合部分が正極集電部であり、この正極集電部に正極タブ111aが接続される。また各負極集電箔がひとつに集合されて電気的に並列接続される。この集合部分が負極集電部であり、この負極集電部に負極タブ111bが接続される。
【0034】
正極121a及び負極121bは、セパレーター122を挟むように配置されるが、万一、位置がズレると、正極121a及び負極121bが短絡するおそれがある。特に、正極121a及び負極121bが交差する図1(B)に一点破線円で囲んだA部で短絡するおそれがある、ということが本件発明者らによって知見された。そこで本件発明者らは、少なくとも正極121a及び負極121bのいずれか一方の電極のA部を含む領域に絶縁性の粘着テープを貼付することを着想した。なおこの絶縁性の粘着テープは、正極121a及び負極121bの短絡を防止するものなので、いずれか一方に貼付すればよいし両方に貼付してもよい。また以下の説明では、正極/負極に特定せず、電極として説明する。
【0035】
図2は、量産性に優れる電極製造方法を説明する図である。
【0036】
具体的な種々の手法を検討していくなかで、本件発明者らは、量産性を考慮して、絶縁性の粘着テープ1213を電極素材シート1210に貼付した状態でレーザーカットすることで電極を製造する手法に想到した。なお電極素材シート1210は、電極集電箔1211の所定領域に電極活物質層1212が形成されている。また絶縁性の粘着テープ1213は、たとえばポリプロピレン(polypropylene;PP)などの樹脂テープである。
【0037】
電極素材シート1210に、樹脂テープ1213を貼付した状態が図2に示されている。図2(B)から判るように、電極集電箔1211の所定領域に電極活物質層1212が形成されている。そして樹脂テープ1213は、電極集電箔1211に形成された電極活物質層1212と、電極活物質層1212が形成されていない電極集電箔1211と、を跨いで貼付されている。
【0038】
図3は、電極素材シートから電極を製造するためのカットラインを示す図である。
【0039】
樹脂テープ1213が貼付された電極素材シート1210を、一点破線で示したカットラインに沿ってレーザーカットする。このようにすれば、量産性に優れた手法で所望の電極121を製造できる。
【0040】
図4は、レーザーカット装置の概要を示す図である。
【0041】
レーザーカット装置20は、レーザー発振部21と、レーザーヘッド22と、レーザーヘッド位置決め部23と、ワーク搬送台24と、を含む。
【0042】
レーザー発振部21は、レーザーを発生させる。レーザーは、たとえば波長が1μm帯のレーザーである。このようなレーザーであれば電極素材シート1210を切断したときに発生する切り屑を少なくできる。したがって電池の内部に切り屑が残りにくくなる。また高速にカットできる。したがって量産性に優れる。なお、波長が1μm帯のレーザーとしては、YAGレーザーやファイバーレーザーがある。
【0043】
レーザーヘッド22は、ファイバーケーブル261を介してレーザー発振部21に接続される。レーザーヘッド22は、レーザーを発射する。またレーザーヘッド22は、ガスチューブ262を介してガス供給部25に接続される。ガスチューブ262の途中には、電磁弁263が設けられており、ガスの供給又は停止を切り替えることができる。レーザーヘッド22のその他の詳細については、後述する。
【0044】
レーザーヘッド位置決め部23は、レーザーヘッド22を支持するとともに、前後方向(X方向)及び左右方向(Y方向)にレーザーヘッド22を移動させる。
【0045】
ワーク搬送台24は、電極素材シート1210を所定の位置まで搬送するとともに、レーザーカット時に位置がズレないように電極素材シート1210を保持する。具体的な構造の図示は省略するが、ワーク搬送台24は、前後に並ぶ2つのベルトコンベヤーからなり、そのベルトコンベヤーで電極素材シート1210を所定の位置まで搬送する。また2つのベルトコンベヤーの間には、エア吸引部が設けられており、電極素材シート1210を吸引して位置がズレないように保持する。
【0046】
図5は、レーザーヘッドの詳細図である。
【0047】
レーザーヘッド22は、末端221にファイバーコネクターを備える。このファイバーコネクターにファイバーケーブル261が接続される。レーザーヘッド22は、ファイバーコネクターからレーザーを取り入れる。レーザーヘッド22は、先端222がノズルチップである。ノズルチップの先端口径は、一例を挙げるとφ0.8〜1.5mmである。レーザーヘッド22は、ノズルチップからレーザーを照射する。またレーザーヘッド22は、ガス取り入れ部223を備える。このガス取り入れ部223にガスチューブ262が接続される。レーザーヘッド22は、ガス供給部25から供給されたガスを、ガス取り入れ口223から取り入れる。そしてこのガスは、ノズルチップの先端口からレーザーと同軸に噴射される。さらにレーザーヘッド22は、カメラ224を備える。このカメラ224は、ノズルチップの先端口の位置確認用である。
【0048】
図6は、発明者らの知見を説明する図である。
【0049】
上述のように、本件発明者らは、量産性を考慮して、樹脂テープ1213を電極素材シート1210に貼付した状態でレーザーカットすることで電極を製造する手法に想到した。
【0050】
しかしながら、樹脂テープ1213は、レーザーを透過してしまうので、何らかの工夫をしなければ、レーザーカットできないことが本件発明者らによって知見された。
【0051】
すなわち、図6のカットラインI及びカットラインIIに存在する樹脂テープ1213はレーザーを透過してしまうので、何らかの工夫をしなければ、レーザーカットできない。なおカットラインIIIには、樹脂テープ1213が貼付されておらず、電極集電箔1211が露出している。したがってここについては通常の方法でレーザーカットできる。
【0052】
図7はレーザーパワー密度と樹脂テープの切断幅との相関を説明する図であり、図7(A)は相関図、図7(B)は樹脂テープの切断幅を説明する図である。
【0053】
発明者らは、開発を進めていく中で、カットラインIについては、樹脂テープが貼付された電極活物質層に所定のパワー密度のレーザーを照射することで、電極活物質に含有される成分が蒸発し、この蒸発ガスによって樹脂テープを切断できることを見いだした。このようにカットラインIに沿って樹脂テープを切断する工程が溶融切断工程である。
【0054】
その実験結果をプロットして得られたレーザーパワー密度と樹脂テープの切断幅との相関が図7(A)に示されている。なお樹脂テープ1213の切断幅Wとは、図7(B)に示されるように、レーザーの照射中心を挟んで広がる切断幅である。
【0055】
図7(A)に示されるように、パワー密度Aまでは、樹脂テープを切断できないが、パワー密度Aを越えると、パワー密度が大きくなるほど、テープの切断幅が大きくなる。これは、樹脂テープが貼付された電極活物質層の活物質に含有される成分が蒸発し、この蒸発ガスの熱や圧力によって樹脂テープが切断されるからである。
【0056】
なおカットラインIIについては、図6(B)に示されているように、樹脂テープ1213が電極活物質層1212ではなく電極集電箔1211に貼付されている。そのため、電極活物質層の蒸発現象が生じないため、樹脂テープ1213はカットされない。しかしながら、カットラインIIにおける樹脂テープ1213の長さは短いので、カットライン(レーザー照射軌跡)を挟んだ電極121及び余剰部材125を保持して両者を引き離すことで、カットラインIIにおける樹脂テープ1213を切断することができる。したがって量産性がよい。なおカットラインIIに沿って樹脂テープを切断する工程が引き千切り切断工程である。
【0057】
図8は、電極素材シート1210のカットラインIにおける断面図である。
【0058】
図8(A)に示されるように、電極素材シート1210は、電極集電箔1211の表裏両面に電極活物質層1212が形成されており、さらに樹脂テープ1213が貼付されている。
【0059】
樹脂テープ1213が貼付された電極素材シート1210にレーザーLが照射されると、図8(B)に示されるように、レーザーLは樹脂テープ1213を透過し、電極活物質層1212に吸収される。
【0060】
このとき、レーザーLのパワー密度が、パワー密度Aを越えていれば、図8(C)に矢印で示されるように、電極活物質層1212の電極活物質に含有される成分が蒸発する。そして、この蒸発ガスによって樹脂テープ1213が溶融し切断される。樹脂テープ1213の溶融が進み、完全に切断されると切断部位から電極活物質の蒸気が逃げるので、樹脂テープ1213に対してそれ以上は入熱しなくなって溶融が収まる。
【0061】
このとき、本実施形態のように、レーザーと同軸にガスを噴射することで、樹脂テープ1213が冷却されるので、樹脂テープ1213の過剰な溶融が防止される。
【0062】
レーザーの入射側とは反対側の樹脂テープ1213についても、図8(D)に示されるように、電極活物質層1212の電極活物質の成分が蒸発するときに生じる蒸発ガスの熱によって溶融し、切断される。
【0063】
レーザーを透過してしまう樹脂テープはレーザーカットできない。しかしながら、本実施形態では、樹脂テープが貼付された電極活物質層1212にレーザーを照射して電極活物質成分を蒸発させることで、蒸発ガスが発生させる。この蒸発ガスの熱や圧力などによって樹脂テープが切断されるのである。このように本実施形態によれば、レーザーを透過してしまう樹脂テープであっても、切断できるのである。そして樹脂テープを使用できるので、量産性に優れるのである。
【0064】
また本実施形態では、レーザーと同軸にガスを噴射するようにした。したがって、樹脂テープ1213が切断されるとすぐに冷却されることとなり、樹脂テープ1213の過剰な溶融が防止される。特に、ガスがレーザーと同軸に噴射されるので、レーザーヘッドを高速で移動させても、ガスの噴射が遅れることなく追従できて、樹脂テープ1213の過剰な溶融が確実に防止されるのである。
【0065】
さらに、樹脂テープ1213が電極活物質層1212ではなく電極集電箔1211に貼付されているカットラインIIについては、電極活物質層の蒸発現象が生じないため、樹脂テープ1213はカットされない。しかしながら、カットライン(レーザー照射軌跡)を挟んだ電極121及び余剰部材125を保持して両者を引き離すことで、カットラインIIにおける樹脂テープ1213を切断することができるのである。
【0066】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0067】
たとえば、レーザーとして波長が1μm帯のレーザー、またその具体例としてYAGレーザー及びファイバーレーザーを例示したが、それらには限定されない。他のレーザーであってもよい。
【0068】
また電極を使用する電池としてリチウムイオン二次電池を例示したが、それには限定されない。他の電池であってもよい。
【0069】
さらに、上記説明においては、樹脂テープが貼付されている側からレーサーを照射しているが、図8(D)に示されているように、樹脂テープの裏側からレーサーを照射しても電極活物質層1212の電極活物質の成分が蒸発するときに生じる蒸発ガスの熱によって樹脂テープが溶融し、切断される。したがって、たとえば樹脂テープ1213を電極素材シート1210の下面にのみ貼付しておき上方から、その電極素材シート1210が貼付された電極活物質層1212にレーザーを照射する場合であっても、同様の作用効果が得られる。
【0070】
さらにまた上記実施形態においては、特に樹脂テープを樹脂層として例示したが、樹脂シールや樹脂パッチ又は樹脂塗布材であっても同様の作用効果が得られる。
【符号の説明】
【0071】
10 リチウムイオン二次電池のセルパック
11 外装材
12 単位電池
121 電極 (121a 正極,121b 負極)
1210 電極素材シート1210
1211 電極集電箔
1212 電極活物質層
1213 絶縁性の粘着テープ(樹脂テープ)
122 セパレーター
20 レーザーカット装置
21 レーザー発振部
22 レーザーヘッド
23 レーザーヘッド位置決め部
24 ワーク搬送台
25 ガス供給部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極集電箔及び電極活物質層を含む電極素材シートに形成された樹脂層を切断して電極を製造する方法であって、
前記樹脂層が形成された電極活物質層にレーザーを照射して電極活物質成分を蒸発させることで発生した蒸発ガスによって樹脂層を切断する溶融切断工程を含む、
電極製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の電極製造方法において、
前記樹脂層が形成された電極集電箔にレーザーを照射した後、照射軌跡を挟む電極及び余剰部材を保持して両者を引き離すことで、樹脂層を切断する引き千切り切断工程を含む、
電極製造方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の電極製造方法において、
前記樹脂層は、絶縁性の粘着テープである、
電極製造方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の電極製造方法において、
レーザーを照射するときにレーザーと同軸にガスを噴射する、
電極製造方法。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の電極製造方法において、
前記レーザーは、波長が1μm帯のレーザーである、
電極製造方法。
【請求項6】
請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載の電極製造方法において、
前記レーザーは、YAGレーザー又はファイバーレーザーである、
電極製造方法。
【請求項7】
電極集電箔及び電極活物質層を含む電極素材シートに形成された樹脂層を切断するレーザーカット装置であって、
前記樹脂層が形成された電極活物質層を蒸発させることで発生した蒸発ガスによって樹脂層を切断するように、電極活物質層にレーザーを照射するレーザー照射部を含む、
レーザーカット装置。
【請求項8】
請求項7に記載のレーザーカット装置において、
前記レーザー照射部は、レーザーを照射するときにレーザーと同軸にガスも噴射する、
レーザーカット装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−221913(P2012−221913A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−89989(P2011−89989)
【出願日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】